説明

記録媒体の防汚性試験用スタンプ及び記録媒体の防汚性試験方法

【課題】記録媒体の防汚性を再現性良く、かつ定量的に評価する試験方法及びそれに用いられる擬似指紋転写用のスタンプを提供することを目的とする。
【解決手段】記録媒体の防汚性試験に用いられる擬似指紋付着用のスタンプであって、記録媒体に押し当てられるスタンプの押し当て面11が凹凸形状に形成されていることにより、押し当て面11を押し当てた状態で記録媒体の表面に接触しない凹部12を有していることを特徴とするスタンプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体等の記録媒体の試験方法に関する。更に詳しくは、記録媒体の防汚性試験方法及び該試験方法に用いられる擬似指紋用スタンプに関する。
【背景技術】
【0002】
CDやDVDに代表される光ディスク等の記録媒体は、ユーザーが直接手に触れて使用するものである。従って、その使用に際し、主に人間の指紋の付着によるディスク表面の汚染が発生する。これらの汚染が著しい場合は、記録媒体の情報の記録再生に悪影響を与えるため、光ディスクの表面には、指紋付着性の低減、又は指紋除去性の向上を目的とした適切な表面処理が施されることが多い。
【0003】
このような防汚性向上の目的のために、光ディスク表面には撥水、撥油機能を有する保護層を設ける等の対策が取られることが一般的である。これらの対策の効果を評価する方法としては、ディスク表面の接触角の測定等、物理特性による方法が一例として挙げられるが、実際の使用における防汚性を正確に評価するには不十分であった。
【0004】
このような状況の中、より実際の使用に近い状況を再現して防汚性の評価を行おうとする方法が提案されてきている。例えば、特許文献1には、人間の指紋により付着する油脂の成分に近い人工指紋液を作製し、シリコーンゴム等からなるゴム栓状の擬似指紋転写材を用いて、光ディスク表面に擬似指紋を転写し、転写箇所の記録再生特性を評価する方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、上記の方法では、防汚性の比較的低い光ディスクにおいてはある程度再現性良く評価が可能であるものの、最近の撥水性、撥油性が改良された光ディスクにおいてはその防汚性を再現性良く精密に評価することが困難な場合があることが判ってきた。即ち、実際の使用上の防汚性がより良好な光ディスクの評価結果が、本来の防汚性を反映せずに相対的に悪くなってしまう場合があるのである。
【0006】
この原因について、本発明者等は以下のように推測している。前述の擬似指紋転写材(以下、スタンプと記載)を光ディスク表面に押し当てて前記人工指紋液を光ディスク表面に転写する際、比較的防汚性の低い光ディスクにおいてはほぼ均一に人工指紋液が転写される。しかしながら、より撥油性を改善した防汚性の高い光ディスクにおいては、撥油性が高いが故に、強い力でスタンプを押し付けると、人工指紋液が光ディスク表面とスタンプとの間を滑り外側(ディスク端部)に押し出されて、人工指紋液が均一に転写されずに、スタンプの縁の部分に凝集してしまい、その部分での記録再生特性が劣化してしまう場合があるのである。また、人工指紋液が滑らない程度の小さな荷重でスタンプすると、スタンプ表面がディスクと均一に密着しなくなり、結果にバラつきが生じる。このような現象が生じてしまう背景には、スタンプの形状が実際の指紋形状と大きく異なることに一因があると考えられる。
【0007】
上記方法において用いられるスタンプは、シリコーンゴム製であり、図3に示すような円錐柱のゴム栓状のスタンプ30である。図中の半径12mmの上面部分が、光ディスク表面に押し当てられる押し当て面31である。本来スタンプの表面形状は、実際の指紋を再現したものが望ましいはずであるが、従来の方法で用いられるスタンプの表面形状は基本的に略平面であり、#240のサンドペーパー32で擦ることにより表面を若干粗くされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−281010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明は、上記実情を鑑み、記録媒体の防汚性を再現性良く、かつ定量的に評価する試験方法及びそれに用いられる擬似指紋転写用のスタンプを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、スタンプの押し当て面の形状を工夫することにより、記録媒体の防汚性の評価を定量的かつ再現性良く行えることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
(1)即ち、本発明のスタンプは、記録媒体の防汚性試験に用いられる擬似指紋付着用のスタンプであって、前記記録媒体に押し当てられる前記スタンプの押し当て面が凹凸形状に形成されていることにより、前記押し当て面を押し当てた状態で前記記録媒体の表面に接触しない凹部を有していることを特徴としている。
【0012】
(2)ここで、前記押し当て面全体の面積における凸部の占める面積の割合が、10%以上90%以下であることが好ましい。
(3)また、前記押し当て面全体の面積における前記凸部の占める面積の割合が、40%以上60%以下であることが好ましい。
(4)また、前記押し当て面における前記凹凸形状が、同心円状または螺旋状の溝により形成されていることが好ましい。
(5)また、前記溝の半径方向における幅が100〜300μmであり、前記溝間の半径方向における幅が100〜500μmであることが好ましい。
(6)また、本発明の別の要旨は、上記の擬似指紋付着用のスタンプを用いることを特徴とする、記録媒体の防汚性試験の方法に存ずる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、擬似指紋付着用のスタンプにより記録ディスクに対して、均一に人工指紋液を付着させることができる。これにより、記録媒体の防汚性を再現性良く、かつ定量的に評価する試験方法及びそれに用いられる擬似指紋転写用のスタンプを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係る防汚性試験用スタンプを表わす模式図であり、(a)は本発明の一実施形態に係る防汚性試験用スタンプを押し当て面(上方)から表わした図である。(b)は本発明の一実施形態に係る防汚性試験用スタンプのA−A矢視断面図である。
【図2】(a)、(b)は、比較例の防汚性試験用スタンプを表わす模式図であり、(a)は比較例の防汚性試験用スタンプを押し当て面(上方)から表わした図である。(b)は比較例の防汚性試験用スタンプのA−A矢視断面図である。
【図3】は、従来の防汚性試験用スタンプを表わす模式図である。
【図4】(a)、(b)、(c)は、防汚性試験におけるインク転写方法を順に説明するための模式図である。
【図5】(a)、(b)は、防汚性試験におけるスピンコートを説明するための模式図である。
【図6】(a)、(b)、(c)は、従来の防汚性試験用スタンプまたは人間の指紋により人工指紋液をディスク上に転写した様子を顕微鏡観察した写真であり、(a)は従来の防汚性試験用スタンプにより転写した人工指紋液のスタンプ中央部分にあたる位置の様子を示す写真である。(b)は従来の防汚性試験用スタンプにより転写した人工指紋液のスタンプ端部部分にあたる位置の様子を示す写真である。(c)は人間の指紋により転写した人工指紋液の指紋中央部分にあたる位置の様子を示す写真である。
【図7】(a−1)〜(a−4)は、本発明の一実施形態に係る防汚性試験用スタンプの作製方法を説明する模式的な図である。(b−1)〜(b−4)は、比較例として用いた従来の押し当て面が平面状のスタンプの作製方法を説明する模式的な図である。
【図8】(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係る試験媒体の防汚性の評価方法を説明するための模式的な図である。
【図9】(a)、(b)、(c)は、実施例1及び実施例2の顕微鏡観察結果を示す図面代用写真である。
【図10】(a)、(b)、(c)、(d)は、実施例1及び実施例2の防汚性試験用スタンプの評価結果を表わすグラフである。
【図11】(a)、(b)、(c)、(d)は、比較例1及び比較例2の顕微鏡観察結果を示す図面代用写真である。
【図12】(a)、(b)、(c)、(d)は、比較例1及び比較例2の防汚性試験用スタンプの評価結果を表わすグラフである。
【図13】(a)、(b)は、実施例3及び比較例3の防汚性試験用スタンプの評価結果を表わすグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下「発明の実施の形態」という。)について、図面を参照して説明する。
但し、本発明は以下の発明の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々変形して実施することができる。
【0016】
例えば、以下の発明の実施の形態の説明では、記録媒体として適宜、DVD(Digital Versatile Disc)を例にとって説明するが、本発明は特定の記録媒体にのみ適用されるものではなく、種々の記録媒体(例えば、Blu−rayディスクや、CD(Compact Disc)等の光記録媒体等)に適用可能である。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る防汚性試験用スタンプを表わす模式図である。図2は、比較例の防汚性試験用スタンプを表わす模式図である。図3は、従来の防汚性試験用スタンプを表わす模式図である。図4(a)、(b)、(c)は、防汚性試験におけるインク転写方法を順に説明するための模式図である。図5(a)、(b)は、防汚性試験におけるスピンコートを説明するための模式図である。図6は、人工指紋液をディスク上に転写した様子を顕微鏡観察した写真である。
【0018】
本発明は、記録媒体の防汚性試験に用いられる擬似指紋付着用のスタンプの形状に特徴を有するものであり、それ以外の点については、従来の防汚性試験方法を用いることができる。以下、まずは一般的な防汚性試験方法について記載し、その後、擬似指紋付着用のスタンプの形状について詳細を説明する。
【0019】
(1)防汚性試験方法について
防汚性試験の方法の一例について、図4、5を用いて説明する。
【0020】
まず、防汚性試験用のインク転写用の原版として、ポリカーボネート製基板51を用意し、このポリカーボネート製基板51を超音波洗浄器等で表面を清浄にする。次に、スピンコート法により後述する人工指紋液(以下、インクともいう)を表面に塗布する。
【0021】
スピンコート法による人工指紋液の塗布は図5(a)に示すように、基板の中心穴近傍付近に、数十rpmでポリカーボネート製基板51を回転させながら、人工指紋液43をポリカーボネート製基板51上に数ml程度滴下する。その後、適当な回転数制御を行いながらポリカーボネート製基板51を回転させ、図5(b)に示すように、人工指紋液43を延伸していくことにより、人工指紋液が表面に塗布されたインク転写用の原版41を作製する。
【0022】
次に、図4(a)に示すように、人工指紋液が塗布されたインク転写用の原版41に、に、防汚性試験用のスタンプ42を所定の時間、所定の荷重(例えば500g、10秒間)で押し当て、スタンプ42に人工指紋液43を移行させる。その後、図4(b)に示すように、測定対象である試験ディスク44の表面に、所定の時間、所定の荷重(例えば500g、10秒間)で人工指紋液43を移行させたスタンプ42を押し当てる。これにより、図4(c)に示すように、試験ディスク44の表面に擬似指紋45を付着させることができる。
【0023】
そして、この擬似指紋の付着した付近について通常の条件で記録再生を行い、その場合のエラーレートにより防汚性を評価する。当然ながら、エラーレートの小さいディスクほど、防汚性の高いディスクと言うことができる。
本願発明に係る記録媒体の防汚性試験の方法は、後述する本発明のスタンプを用いることを特徴としている。
【0024】
(2)インク成分について
試験に用いるインクは、人工指紋液として従来公知のものを適宜用いればよい。例えば、微粒子状物質と皮脂構成成分、希釈有機溶媒を混合したものが挙げられる。
微粒子状物質の例としては、JIS Z8901に定められた試験用粉体第11種の関東ロームが挙げられる。
皮脂構成成分の例としては、トリオレインが挙げられる。
希釈有機溶媒の例としては、メトキシプロパノールが挙げられる。
【0025】
(3)インク転写用の原版について
スタンプへのインクの確実な移行を実現するため、インク転写用の原版41には、射出成形により作製された、ピットや溝が表面に形成されていないポリカーボネート製基板51を用いるのが望ましい。
【0026】
(4)擬似指紋付着用のスタンプについて
(4−1)スタンプの形状について
図1は本発明の一実施形態に係る擬似指紋付着用のスタンプの形状を示した図である。
【0027】
本発明の擬似指紋付着用のスタンプの形状(本発明のスタンプともいう)は、図1に示すように、記録媒体に押し当てられるスタンプの押し当て面11に凹凸の形状が形成されていることにより、このスタンプの押し当て面11を押し当てた状態で前記記録媒体の表面に接触しない凹部(溝)12を有していることを特徴とする。スタンプ10の押し当て面11とは、人工指紋液43が移行され、試験用ディスクに押し当てられる側の面のことであり、図1(b)のA−A断面図の上方部分のことである。この押し当て面に、凹凸形状を設け、スタンプ10を記録媒体である試験用ディスクに押し当てた際、凹凸形状の凸部13のみがディスク表面に接触し、凹凸形状の凹部12がディスク表面に接触しないような構造となっている。例えるならば、印鑑の印字部分が凸部であり、空白部分が凹部と考えれば良い。このような形状を採用する理由は以下の通りである。
【0028】
前述の通り、従来の試験方法に用いられるスタンプは、押し当て面が若干粗くなっているものの、基本的には略平面であり、試験ディスクへスタンプ10を押し当てた際には、押し当て面のほぼ全面がディスク表面に接触することになる。このような状況の場合、特に試験ディスクの表面の撥水、撥油性がある程度良好な場合、人工指紋液がスタンプ10の接触した部分全体に均一に付着せず、スタンプの縁の部分に押し出された形で凝集してしまうことがある。この場合、全体としては指紋液が付着しにくい表面を有する試験ディスクであっても、人工指紋液が縁部分に凝集してしまうことにより、この部分での記録再生特性の劣化が著しく、防汚性の評価結果としては悪い結果がえられてしまうことがある。なお、スタンプの押し当て面の表面粗さの程度を変更して検討してみたところ、結果に大差はなく、同様に人工指紋液が縁部分に凝集した。
【0029】
本発明者等は、スタンプがあくまで擬似指紋であり、実際の人間の指の指紋と表面形状が異なることがこの原因ではないかと考えた。そこで、実際に人間の指により指紋をディスク上に転写し、その際の指紋の付着の様子を観察し、従来のスタンプにより人工指紋液を転写した場合と比較した。これらの様子を顕微鏡観察した結果を図6に示す。従来のスタンプを使用して人工指紋液を転写した場合の、スタンプの中央部分にあたる位置の人工指紋液の付着の様子を図6(a)に、スタンプの端部部分にあたる位置の人工指紋液の付着の様子を図6(b)に示した。また、人間の指により指紋をディスク上に転写した場合の、スタンプの中央部分にあたる位置の人工指紋液の付着を図6(c)に示した。
【0030】
従来のスタンプの場合、微視的に見るとほぼ均一に人工指紋液が付着しているように見えるが、スタンプの中央部分(図6(a))と端部部分(図6(b))では明らかに端部部分の方が多く付着している様子が伺える。
【0031】
これに対して、実際の指紋の場合は、微視的に見ると指紋の模様に沿って筋状に指紋が付着しているが、指紋の中央部分(図6(c))と端部部分(図示せず)でほぼ均一に付着していることが判った。このことから、本発明者等は、スタンプの表面形状を、押し当て面の全面がディスク表面に接触しないように表面に凹凸を設ける、即ち、実際の人間の指紋の模様に近い筋状の構造にすることにより、より均一な擬似指紋が実現出来るのではないかと考えた。
【0032】
以上が、本発明において、スタンプの押し当て面に凹凸が形成されていることにより、スタンプを押し当てた状態で前記記録媒体の表面に接触しない凹部を有するスタンプを採用する理由である。
【0033】
ここで、前記押し当て面全体の面積における凸部の占める面積の割合は、好ましくは10%以上、更に好ましくは30%以上、特に好ましくは40%以上であり、好ましくは90%以下、更に好ましくは70%以下、特に好ましくは60%以下である。ここで、押し当て面全体の面積とは、スタンプの押し当て面近傍における、スタンプを押し当てた場合に試験ディスク表面に平行な断面における面積を指す。また、凸部の占める面積とは、押し当て面の内、実際に試験ディスク表面に接触している部分の、試験ディスク表面に平行な断面における面積を指す。凸部の占める面積の割合を前記のようにすることにより、人工指紋液が試験ディスク表面と押し当て面との間で押し出され、外周の縁付近に指紋の濃い部分が出来ること無く、人工指紋液を試験ディスク表面に均一に付着させることが可能である。
【0034】
ここで、押し当て面11における凹部12が、同心円状もしくは螺旋状の溝により形成されていることが好ましい。このようなスタンプの押し当て面の形状の例を、図1に示す。図1は、押し当て面11側から見たスタンプの押し当て面の形状と、押し当て面に垂直な断面での形状を示す。このような形状にすることにより、スタンプの押し当て面全体に渡って、人工指紋液を試験ディスク表面に均一に付着させることが可能である。ここで、図1に示す溝の深さ18は、スタンプを押し当てた際に溝部が試験ディスク表面に接触しない程度の深さがあればよい。スタンプを押し当てる際の荷重の大きさにも左右されるが、通常少なくとも100μm程度あれば良い。また、溝の断面形状は矩形が好ましいが、台形状でもよく、曲線状でも構わない。
【0035】
また、押し当て面から見た溝の形状は、格子状や水玉状でも構わない。押し当て面の一部が、試験ディスク表面に接触しない構造であれば、任意に選択できる。ただし、実際の作製上の容易さと効果を考慮すると、同心円状もしくは螺旋状が好ましい。
【0036】
押し当て面の凹凸が同心円状もしくは螺旋状の溝により形成されている場合、図1に示す凹部(溝)の半径方向における幅15は、好ましくは50μm以上、更に好ましくは100μm以上であり、好ましくは500μm以下、更に好ましくは300μm以下である。このような形状にすることにより、スタンプの押し当て面全体に渡って、人工指紋液を試験ディスク表面に均一に付着させることが可能である。
【0037】
押し当て面全体の形状は、略円形であることが好ましいが、特に形状に制限は無い。押し当て面の大きさは、指紋を想定していることから、直径14が10〜30mm程度であることが好ましい。
【0038】
本発明のスタンプは、押し当て面の接触部の形状にその特徴を有する。従って、押し当て面の接触部以外のスタンプ全体の形状に関して特に制限はなく、種々の形状を適宜用いることができるが、取り扱いのしやすさから、通常は図3に示すスタンプ30と同様にゴム栓状(円錐柱状)であることが好ましい。
【0039】
スタンプの材質についても、本発明の効果が得られる限りにおいて適宜選択することが可能であるが、通常は耐薬品性、耐摩耗性、加工性、素材の入手のしやすさからシリコーンゴムが好ましい。
【0040】
(4−2)スタンプの作製方法について
本発明のスタンプの作製方法については、本願発明の構成を達成するものであれば特に限定されるものでは無いが、以下に一例として製造方法を示す。
【0041】
・同心円溝状スタンプの作製方法
本発明の押し当て面に同心円状の溝を有するスタンプは以下のように作成を行った。図7(a−1)〜(a−4)を参照して説明する。
【0042】
(a−1)円筒状の穴111を有し、穴の底に同心円状の凹凸加工112を施したステンレス金型(下型)110を作成する。
(a−2)主剤と硬化剤を混ぜて攪拌を行いシリコンゴム液101を調製する。シリコンゴム液101の脱泡を行った後、型に流し込む。
(a−3)ステンレス金型の蓋(上型)113を締結して、24時間放置する。
(a−4)蓋を外し、ステンレス金型から抜き出すことで、押し当て面に同心円状の溝を有するスタンプ100が完成する。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0044】
<スタンプの作製>
(実施例用同心円溝状スタンプ)
(a)同心円溝状スタンプの作製方法
本発明に係る、押し当て面に同心円状の溝を有するスタンプは以下の方法により作成を行った
【0045】
(1)円筒状の穴を有し、穴の底に同心円状の凹凸加工を施したステンレス金型を作成した。ステンレス金型として、直径12mm、深さ7mmの穴を有するものを作成した。穴の底部の中心部に直径0.24mmの凹部を配し、中心部の凹部の周りには同心円状に山と谷(凹部と凸部)を交互に14個設けた。山と谷(凹部と凸部)の幅は0.21mmであり、溝の深さが0.1mmであった。
(2)信越シリコーン社製シリコンゴムKE−17と、CAT−RM0.5%ゴム硬度50°とを混ぜて攪拌を行い、シリコンゴム液を調製した。シリコンゴム液の脱泡を行ったものを型に流し込んだ。
(3)ステンレス金型の蓋を締結して、24時間放置した。
(4)蓋を外し、ステンレス金型から抜き出すことで、押し当て面に同心円状の溝を有するスタンプが完成した。
【0046】
図1に示すように、直径14が12mm、高さ17が7mmの、押し当て面に同心円状の溝を有するスタンプ作成された。スタンプの溝幅(凹部の幅)15は0.21mm、凸部の幅16は0.21mm、溝の深さ18が0.1mmであり、ピッチ0.42mmの山と谷を14個有しており、中心部分の山の直径が0.24mmであった。これらの寸法から、押し当て面における凸部分の占める面積は58.5mmであり、凹部分の占める面積は54.6mmと算出された。すなわち、押し当て面全体の面積における凸部の占める面積の割合は、51.7%であった。
【0047】
(比較例用平面スタンプ)
(b)平面スタンプの作製方法
比較例として用いた、従来の押し当て面が平面状のスタンプは以下のように作成を行った。図7(b−1)〜(b−4)を参照して説明する。
【0048】
(b−1)円筒状の穴211を有し、穴の底に面を粗くする粗面加工212を施したステンレス金型(下型)210を作成した。ステンレス金型として、直径12mm、深さ7mmの穴を有するものを使用した。穴の底の粗面加工212は、表面粗さRa=1.5〜1.6um程度に粗くしたものを使用した
【0049】
(b−2)信越シリコーン社製シリコンゴムKE−17と、CAT−RM0.5%ゴム硬度50°とを混ぜて攪拌を行い、シリコンゴム液を調製した。シリコンゴム液の脱泡を行ったもの201を、型に流し込んだ。
(b−3)ステンレス金型の蓋(上型)213を締めて、24時間放置した。
(b−4)蓋を外して、ステンレス金型210から抜き出して、押し当て面が平面状のスタンプ200が完成した。
図2に示すように、直径22が12mm、高さ23が7mmの、押し当て面の表面粗さがRa=1.5〜1.6umの平面状であるスタンプが作成された。
【0050】
なお、ステンレス金型の穴の底部の表面粗さは、ゴム栓の小さい円面の研磨剤である#240の紙ヤスリで実際にシリコンゴム表面を削り、そのシリコンゴム表面の表面粗さを測定したところ、Ra=1.5〜1.6umであったことからRa=1.5〜1.6とした。これにより、比較例用スタンプと実施例スタンプの全体形状を同一として、表面形状だけが異なるものとなり、さらに比較例用スタンプの押し当て面は従来の防汚性試験用のスタンプの表面粗さと同様のものとなった。
【0051】
<試験方法>
防汚性の試験は、実施例と比較例でスタンプを変更したこと以外は、以下の方法により行った。
【0052】
(試験用インクの作製)
試験に用いるインクは、以下の3種類の成分よりなるものを使用した。
A:メトキシプロパノール(1−メトキシ−2−プロパノール)
B:トリオレイン(純度60%以上)
C:微粒子状物質
【0053】
Cの微粒子状物質としては、JIS Z8901に定められた試験用粉体第11種の関東ロームを用いた。上記成分を重量比がA:B:C=240:20:8となるように混合してインクを作製した。インクは15秒以上プラスチック棒で攪拌した。
【0054】
(インク転写用の原版の準備)
インク転写用の原版は、射出成形により作製された、ピットや溝が表面に形成されていないポリカーボネート製基板を用いた。この基板を超音波洗浄器等で表面を清浄にし、その後、スピンコート法により前記インクを表面に塗布した。
【0055】
まず、基板の半径12mm付近に、60rpmで基板を回転させながら、前記インクを2ml程度滴下した。その後、最大5000rpm程度まで基板を回転させ、インクを基板の半径30mm程度の範囲まで延伸することにより、インク転写用の原版を作製した。
【0056】
(転写方法)
上述のインク転写用の原版に、スタンプを500gの荷重で10秒間押し当て、スタンプに人工指紋液を移行させた。その後、測定対象である試験ディスク表面に、500gの荷重で10秒間スタンプを押し当てることにより、試験ディスク表面に擬似指紋を付着させた。
【0057】
(評価に用いた試験ディスクの構成)
記録再生光の入射側の最表面に、防汚機能を有するハードコート層を付与した追記型のブルーレイディスクを用い、ハードコート層のみが異なる材料からなるディスクA、Bの2種類を準備した。ハードコート層以外の構成については、市販の追記型ブルーレイディスクと同様である。ディスクAには、ハードコート層表面におけるトリオレインの接触角が50°程度の材料を用い、ディスクBには、ハードコート層表面におけるトリオレインの接触角が70°程度の材料を用いた。実際の指紋を用いた発明者等の検討の結果、ディスクBはディスクAよりも優れた防汚性を有していることが判っている。
【0058】
(評価方法1)
試験ディスクの防汚性の評価は、以下の通りディスク表面への人工指紋付着前後のエラーレートの変動幅を測定することにより行った。
【0059】
評価方法1では、まず、試験ディスクを市販のブルーレイディスクドライブ(パイオニア社製BDR−205)に装着し、SER(symbol error rate)を測定した。手順としては、試験ディスクの中心から半径38mm付近(半径37.5mm~38.5mm)に、幅1mmに渡って任意の情報を記録し、SERを測定した。
次に、図8(a)に示すように、試験ディスク300の記録部分311上に上記転写方法により人工指紋321を付着させた。さらに、人工指紋321付着後の試験ディスクの、中心から半径37.5mm〜38.5mmの範囲において、既に記録されていた情報を再生することにより、64トラック分のSERを測定した。記録再生はいずれも2倍速で一定とした。人工指紋付着前のSERをイニシャルSER、付着後のSERをアーカイバルSERと呼び、これらの差が小さいほど、防汚特性が優れた光記録媒体と言える。
【0060】
(評価方法2)
評価方法2では、評価方法1と同様にして、試験ディスクに任意の情報を記録し、SERを測定した。
【0061】
その後、図8(b)に示すように、試験ディスク300の記録部分311上に上記転写方法により人工指紋331を付着させた。人工指紋331付着後の試験ディスクの、中心から半径37.5mm〜38.5mmの範囲において、64点のSERを測定した。記録再生はいずれも2倍速で一定とした。SER測定後に、人工指紋付着箇所に対し、クリーンルーム用ワイパー(旭化成製ベンコット)により、薬品は用いずに半径方向に3、4回程度摺動させて、試験ディスクの人工指紋331の拭き取りを行った。さらに、同一の試験ディスク300の記録部分311上であって、人工指紋331を転写位置から円周方向にずらした位置に、上記転写方法により人工指紋332を付着させた。このようにして、人工指紋の付着と、SERの測定と、人工指紋の拭き取りとを、位置をずらしながら人工指紋331〜335まで5回行った。
なお、複数個の人工指紋の付着位置は図8(b)の位置に限定されず、互いに被ることの無い記録部分311上の位置であれば任意にとることができる。
【0062】
(顕微鏡写真観察)
防汚性評価を行った試験ディスク表面を、顕微鏡(ニコン製MM−22)により人工指紋の付着状態の観察を行い、写真撮影を行った。
写真撮影は、図8に示すように、記録部311に付着させた人工指紋321において、スタンプの中央部分に当たる位置(図8(a)の322部分)と、スタンプの端部部分に当たる位置(図8(a)の323部分)で行った。
【0063】
<実施例1>
上記の同心円溝状スタンプの作製方法に従って、同心円状の溝を有するスタンプを作成した。
作成された同心円溝状スタンプを用いて、上記の評価方法1によりディスクAの防汚性の評価を行った。
【0064】
人工指紋の付着状態を顕微鏡写真で観察を行った。中央部分を撮影したものを図9(a)に、端部部分を撮影したものを図9(b)に示す。防汚性の評価のSERの各トラックにおける測定結果を図10(a)に示す。測定した全トラックのSERの平均値は、イニシャルSER(initial)の平均値が5.8×10−6、アーカイバルSER(archival)の平均値が3.68×10−4であった。この結果を図10(b)に示す。
【0065】
<実施例2>
実施例1と同様にして、同心円状の溝を有するスタンプを作成した。
作成された同心円溝状スタンプを用いて、上記の評価方法1によりディスクBの防汚性の評価を行った。
【0066】
人工指紋の付着状態を顕微鏡写真で観察を行った。中央部分を撮影したものを図9(c)に、端部部分を撮影したものを図9(d)に示す。防汚性の評価のSERの各トラックにおける測定結果を図10(c)に示す。測定した全トラックのSERの平均値は、イニシャルSER(initial)の平均値が6.99×10−6、アーカイバルSER(archival)の平均値が9.02×10−5であった。この結果を図10(d)に示す。
【0067】
<評価結果(実施例1、2)>
実施例1と実施例2のイニシャルSERとアーカイバルSERとのそれぞれの平均値を比較すると、同心円状の溝を有するスタンプを用いた場合には、ディスクAを用いた実施例1においてはイニシャルSERからアーカイバルSERへ100倍程度劣化しているのに対し、ディスクBを用いた実施例2では10倍程度の劣化であり、両ディスクの接触角に対応して、防汚性を正しく評価できていることが判る。また、人工指紋の付着状態を示した顕微鏡写真からは、本願の同心円溝状スタンプでは全面に渡ってほぼ均一に人工指紋液が付着している様子が判る。
【0068】
<比較例1>
上記平面スタンプの作製方法に従って、押し当て面が平面状のスタンプを作成した。
作成された平面スタンプを用いて、実施例1と同様に評価方法1によりディスクAの防汚性の評価を行った。
【0069】
人工指紋の付着状態を顕微鏡写真で観察を行った。中央部分を撮影したものを図11(a)に、端部部分を撮影したものを図11(b)に示す。防汚性の評価のSERの各トラックにおける測定結果を図12(a)に示す。測定した全トラックのSERの平均値は、イニシャルSER(initial)の平均値が5.28×10−6、アーカイバルSER(archival)の平均値が1.34×10−5であった。この結果を図12(b)に示す。
【0070】
<比較例2>
比較例1と同様にして、押し当て面が平面状のスタンプを作成した。
作成された平面スタンプを用いて、実施例2と同様に評価方法1によりディスクBの防汚性の評価を行った。
【0071】
人工指紋の付着状態を顕微鏡写真で観察を行った。中央部分を撮影したものを図11(c)に、端部部分を撮影したものを図11(d)に示す。防汚性の評価のSERの各トラックにおける測定結果を図12(c)に示す。測定した全トラックのSERの平均値は、イニシャルSER(initial)の平均値が6.99×10−6、アーカイバルSER(archival)の平均値が8.97×10−5であった。この結果を図12(d)に示す。
【0072】
<評価結果(比較例1、2)>
比較例1と比較例2のイニシャルSERとアーカイバルSERとのそれぞれの平均値を比較すると、押し当て面が平面状のスタンプを用いた場合には、接触角が大きく本来防汚性の良好なディスクBを用いた比較例2において、ディスクAを用いた比較例1よりも、イニシャルSERからアーカイバルSERへの劣化幅が大きくなっており、防汚性の評価が正しく行われていないことが判る。人工指紋の付着状態を示した顕微鏡写真からは、スタンプの中央部分(図11(a)、(c))に比べ、端部(図11(b)、(d))に人工指紋液が多く付着している様子が明らかである。
【0073】
これらの結果から、押し当て面が平面状のスタンプを、発油性が高い材料に用いた場合には、強い力でスタンプを押し付けると、人工指紋液がディスク表面とスタンプの間を滑り外側(ディスク端部)に押し出されて、外周の縁付近に指紋の濃い部分が出来てしまい、その部分のSER悪化の影響で全体の平均SERも悪くなってしまう。一方、防汚性が低いと言われる材料は、人工指紋液がディスク表面を滑ることなく留まるので、結果的に、スタンプ全面に均一に付着し、平均SERが良い結果に見えてしまうことがあるものと考えられる。このため、正しい評価結果が得られていないものと考えられる。
【0074】
<実施例3>
実施例1と同様にして、同心円状の溝を有するスタンプを作成した。
作成された同心円溝状スタンプを用いて、上記の評価方法2によりディスクBの防汚性の評価を行った。
【0075】
防汚性の評価において測定した全トラックのSERの平均値は、イニシャルSER(initial)の平均値が7.29×10−6、アーカイバルSER(archival)の平均値は1回目が6.43×10−5、2回目が8.13×10−5、3回目が6.24×10−5、4回目が6.99×10−5、5回目が7.93×10−5であった
。この結果を図13(a)に示す。
【0076】
<比較例3>
比較例1と同様にして、押し当て面が平面状のスタンプを作成した。
作成された平面スタンプを用い、実施例3と同様にして評価方法2によりディスクBの防汚性の評価を行った。
【0077】
防汚性の評価において測定した全トラックのSERの平均値は、イニシャルSER(initial)の平均値が7.29×10−6、アーカイバルSER(archival)の平均値は1回目が1.41×10−4、2回目が3.44×10−5、3回目が1.34×10−5、4回目が8.58×10−5、5回目が1.22×10−4であった。この結果を図13(b)に示す。
【0078】
<評価結果(実施例3、比較例3)>
従来の平面スタンプを用いた比較例3のアーカイバルSERが大きく変動しているのに対し、本願発明に係る同心円状溝スタンプを用いた実施例3では、各々のアーカイバルSER平均値のばらつきが小さく、再現性に優れた安定な評価方法であることが判る。
【符号の説明】
【0079】
10 スタンプ
11,21,31 押し当て面(上面部分)
12 凹部(溝)
13 凸部
14,22 スタンプの直径
15 凹部(溝)の半径方向における幅
16 凸部の半径方向における幅
17,23 スタンプの高さ
18 溝の深さ
20 押し当て面が平面状のスタンプ
30 円錐柱のゴム栓状のスタンプ
32 サンドペーパー
41 人工指紋液(インク)転写用の原版
42 スタンプ
43 人工指紋液(インク)
44 試験ディスク
45 擬似指紋
51 ポリカーボネート製基板
100 押し当て面に同心円状の溝を有するスタンプ
101,201 シリコンゴム液
110,210 ステンレス金型(下型)
111,211 円筒状の穴
112 同心円状の凹凸加工
113,213 ステンレス金型の蓋(上型)
200 押し当て面が平面状のスタンプ
212 粗面加工
300 試験ディスク
311 記録部分
321,331〜335 人工指紋
322 スタンプの中央部分に当たる位置
323 スタンプの端部部分に当たる位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の防汚性試験に用いられる擬似指紋付着用のスタンプであって、
前記記録媒体に押し当てられる前記スタンプの押し当て面が凹凸形状に形成されていることにより、前記押し当て面を押し当てた状態で前記記録媒体の表面に接触しない凹部を有している
ことを特徴とする、スタンプ。
【請求項2】
前記押し当て面全体の面積における凸部の占める面積の割合が、10%以上90%以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載のスタンプ。
【請求項3】
前記押し当て面全体の面積における前記凸部の占める面積の割合が、40%以上60%以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載のスタンプ。
【請求項4】
前記押し当て面における前記凹凸形状が、同心円状または螺旋状の溝により形成されている
ことを特徴とする、請求項1乃至3項の何れか1項に記載のスタンプ。
【請求項5】
前記溝の半径方向における幅が100〜300μmであり、前記溝間の半径方向における幅が100〜500μmである
ことを特徴とする、請求項4に記載のスタンプ。
【請求項6】
請求項1乃至5項の何れか1項に記載の擬似指紋付着用のスタンプを用いる
ことを特徴とする、記録媒体の防汚性試験の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図6】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate