説明

記録媒体処理装置、記録媒体処理装置の制御方法、及びプログラム

【課題】磁気インク文字の認識に際し、認識率を向上する。
【解決手段】磁気ヘッド54と記憶部78と制御部71とを備えた小切手読取装置1は、小切手4に記録された磁気インク文字を磁気ヘッド54により磁気的に読み取って得られる信号波形データを解析し、信号波形データにおいて第1ピークP1を検出し、第1ピークP1の位置に基づいて1つの磁気インク文字の文字切り出し開始位置を決定して、信号波形データから1つの磁気インク文字に対応する範囲で文字波形データの切り出しを行い、切り出された文字波形データにおいて、文字切り出し開始位置から第1ピークP1の位置より手前の所定の位置までの間で波形の値が所定の値未満である場合、波形の値を所定の値に置換した後、文字波形データに対して磁気インク文字認識を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体処理装置、記録媒体処理装置の制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
小切手等の記録媒体に記録された磁気インク文字を読み取る磁気ヘッドを備え、記録媒体の磁気インク文字を読み取って、磁気インク文字を認識する記録媒体処理装置(小切手類読取装置)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような記録媒体処理装置では、磁気インク文字を読み取って得られる信号波形データから最初のピークを検出し、最初のピークの位置に基づいて1つの磁気インク文字に対応する範囲で文字波形データの切り出しを行う。そして、切り出した文字波形データの波形と規格で定められた文字種類の基準波形データとを比較して磁気インク文字認識(MICR:Magnetic Ink Character Recognition)を行い、磁気インク文字の文字種類を判別している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−206362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、市場に流通している記録媒体の中には、磁気インク文字の印刷のばらつき等により、磁気インク文字の文字間隔が規格よりも狭いものが存在する。このような文字間隔が狭い磁気インク文字を読み取って得られる信号波形データから文字波形データの切り出しを行うと、切り出した1つの磁気インク文字の文字波形データに、前後の磁気インク文字の文字波形データの一部が入り込んでしまう場合がある。このような場合に、文字波形データの波形をそのままの状態で基準波形と比較すると、両者の間の差異量が大きくなってしまい、磁気インク文字認識において認識率が低下するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例に係る記録媒体処理装置は、記録媒体に記録された磁気インク文字を磁気的に読み取る読取部と、規格で定められた複数の文字種類の基準波形データを記憶する記憶部と、前記読取部と前記記憶部とを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記記録媒体の前記磁気インク文字を前記読取部により読み取って得られる信号波形データを解析し、前記信号波形データの所定域において最初のピークを検出し、前記最初のピークの位置に基づいて1つの磁気インク文字の文字切り出し開始位置を決定して、前記信号波形データから前記1つの磁気インク文字に対応する範囲で文字波形データの切り出しを行い、切り出された前記文字波形データにおいて、前記文字切り出し開始位置から所定の位置までのデータに負のデータがある場合、前記負のデータの値を所定の基準値に置換した後、前記文字波形データに対して前記基準波形データと比較して磁気インク文字認識を実行することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、1つの磁気インク文字に対応する範囲で切り出された文字波形データにおいて、文字切り出し開始位置から所定の位置(数)までのデータに負のデータがある場合、所定の基準値にオフセットした後、文字波形データに対して磁気インク文字認識を実行する。
磁気インク文字の各文字種類の基準波形データにおいては、最初にプラス側のピークが現出し最後にマイナス側のピークが現出する。そのため、切り出した文字波形データの先頭部分に負のデータがある場合、印刷された磁気インク文字の文字間隔が狭いために、前の磁気インク文字の最後のピークの一部が文字波形データの先頭部分に入り込んでしまったことが考えられる。そこで、先頭部分の負のデータの値を所定の基準値にオフセットすることで、文字波形データに入り込んだ前の磁気インク文字の一部による波形の乱れが抑えられる。また、切り出した文字波形データの先頭部分に、ノイズ等により波形の乱れが生じた場合にも、波形の乱れが抑えられる。これにより、磁気インク文字認識を実行する際に、入り込んだ前の磁気インク文字の一部や波形の乱れの影響が抑えられるので、磁気インク文字認識における認識率を向上させることができる。
【0009】
[適用例2]上記適用例に係る記録媒体処理装置であって、前記制御部は、前記磁気インク文字認識の実行では、前記文字波形データと、前記複数の文字種類の基準波形データのそれぞれと、の差異量に基づいて前記磁気インク文字の文字種類を確定し、前記差異量を、前記複数の文字種類のそれぞれの前記信号波形データに基づいて得られた実文字幅における前記文字波形データと前記基準波形データとの差異に応じて算出することが好ましい。
【0010】
この構成によれば、複数の文字種類のそれぞれの実文字幅における文字波形データと基準波形データとの差異に応じて算出した差異量に基づいて、磁気インク文字の文字種類を確定する。
基準波形データの最初のピークより前側及び最後のピークより後側では、理想的にはデータの値がゼロとなる。一方、印刷された磁気インク文字の文字間隔が狭いために、切り出した文字波形データにおける最初のピークより前側及び最後のピークより後側に前後の磁気インク文字の一部が入り込んだ場合、文字波形データと基準波形データとの差異量が大きくなってしまう。そこで、複数の文字種類のそれぞれの実測に基づいた実文字幅において文字波形データと基準波形データとを比較することで、文字波形データに入り込んだ前後の磁気インク文字の一部の影響を抑えて差異量を算出することができる。これにより、磁気インク文字認識における認識率を向上させることができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例に係る記録媒体処理装置であって、前記制御部は、前記磁気インク文字認識を実行して文字種類が確定できた場合に、確定した前記文字種類の前記実文字幅に基づいて、前記1つの磁気インク文字の前記文字切り出し開始位置に対して次の磁気インク文字の最初のピーク検出を開始する位置を決定することが好ましい。
【0012】
この構成によれば、1つの磁気インク文字として確定した文字種類の実文字幅に基づいて、次の磁気インク文字の最初のピーク検出を開始する位置が決定される。
印刷された磁気インク文字の文字間隔が狭いために、切り出した文字波形データにおける最後のピークより後側に次の磁気インク文字の最初のピーク部分が入り込んだ場合、次の磁気インク文字の最初のピーク検出を開始する位置を最初のピークを飛び越して設定してしまうと、次の磁気インク文字の最初のピークが検出できなくなる。そこで、確定した文字種類の実文字幅に基づいて、次の磁気インク文字の最初のピーク検出を開始する位置を決定することにより、次の磁気インク文字の最初のピークを飛び越さないようにすることができる。これにより、次の磁気インク文字の最初のピークを検出して正しく文字切り出し開始位置を決定することが可能になるので、磁気インク文字認識における認識率を向上させることができる。
【0013】
[適用例4]上記適用例に係る記録媒体処理装置であって、前記所定の基準値は、ゼロであることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、先頭部分の負のデータの値をゼロに置換することで、文字波形データに入り込んだ前の磁気インク文字の一部を除去できるので、波形の乱れの影響をより効果的に抑えることができる。
【0015】
[適用例5]本適用例に係る記録媒体処理装置の制御方法は、記録媒体に記録された磁気インク文字を磁気的に読み取る読取部と、規格で定められた複数の文字種類の基準波形データを記憶する記憶部と、前記読取部と前記記憶部とを制御する制御部と、を備えた記録媒体処理装置の制御方法であって、前記記録媒体の前記磁気インク文字を前記読取部により読み取って得られる信号波形データを解析し、前記信号波形データの所定域において最初のピークを検出し、前記最初のピークの位置に基づいて1つの磁気インク文字の文字切り出し開始位置を決定して、前記信号波形データから前記1つの磁気インク文字に対応する範囲で文字波形データの切り出しを行い、切り出された前記文字波形データにおいて、前記文字切り出し開始位置から所定の位置までのデータに負のデータがある場合、前記負のデータの値を所定の基準値に置換した後、前記文字波形データに対して前記基準波形データと比較して磁気インク文字認識を実行することを特徴とする。
【0016】
この方法によれば、1つの磁気インク文字に対応する範囲で切り出された文字波形データにおいて、文字切り出し開始位置から所定の位置(数)までのデータに負のデータがある場合、そのデータの値を所定の値に置換した後、文字波形データに対して磁気インク文字認識を実行する。
磁気インク文字の各文字種類の基準波形データにおいては、最初にプラス側のピークが現出し最後にマイナス側のピークが現出する。そのため、切り出した文字波形データの先頭部分に負のデータがある場合、印刷された磁気インク文字の文字間隔が狭いために、前の磁気インク文字の最後のピークの一部が文字波形データの先頭部分に入り込んでしまったことが考えられる。そこで、先頭部分の負のデータの値をゼロに置換する等、所定の基準値にオフセットすることで、文字波形データに入り込んだ前の磁気インク文字の一部を除去できる。また、切り出した文字波形データの先頭部分に、ノイズ等により波形の乱れが生じた場合にも、波形の乱れが抑えられる。これにより、磁気インク文字認識を実行する際に、入り込んだ前の磁気インク文字の一部や波形の乱れの影響が抑えられるので、磁気インク文字認識における認識率を向上させることができる。
【0017】
[適用例6]本適用例に係るプログラムは、記録媒体に記録された磁気インク文字を磁気的に読み取る読取部と、規格で定められた複数の文字種類の基準波形データを記憶する記憶部と、を備えた記録媒体処理装置の各部を制御する制御部により実行されるプログラムであって、前記制御部を、前記記録媒体の前記磁気インク文字を前記読取部により読み取って得られる信号波形データを解析し、前記信号波形データの所定域において最初のピークを検出し、前記最初のピークの位置に基づいて1つの磁気インク文字の文字切り出し開始位置を決定して、前記信号波形データから前記1つの磁気インク文字に対応する範囲で文字波形データの切り出しを行い、切り出された前記文字波形データにおいて、前記文字切り出し開始位置から所定の位置までのデータに負のデータがある場合、前記負のデータの値を所定の基準値に置換した後、前記文字波形データに対して前記基準波形データと比較して磁気インク文字認識を実行する手段として機能させることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、1つの磁気インク文字に対応する範囲で切り出された文字波形データにおいて、文字切り出し開始位置から所定の位置(数)までのデータに負のデータがある場合、そのデータの値を所定の値に置換した後、文字波形データに対して磁気インク文字認識を実行する。
磁気インク文字の各文字種類の基準波形データにおいては、最初にプラス側のピークが現出し最後にマイナス側のピークが現出する。そのため、切り出した文字波形データの先頭部分に負のデータがある場合、印刷された磁気インク文字の文字間隔が狭いために、前の磁気インク文字の最後のピークの一部が文字波形データの先頭部分に入り込んでしまったことが考えられる。そこで、先頭部分の負のデータの値をゼロに置換する等、所定の基準値にオフセットすることで、文字波形データに入り込んだ前の磁気インク文字の一部を除去できる。また、切り出した文字波形データの先頭部分に、ノイズ等により波形の乱れが生じた場合にも、波形の乱れが抑えられる。これにより、磁気インク文字認識を実行する際に、入り込んだ前の磁気インク文字の一部や波形の乱れの影響が抑えられるので、磁気インク文字認識における認識率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る小切手読取装置の外観斜視図である。
【図2】小切手読取装置の内部構造を示す図である。
【図3】小切手読取装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図4】(A)は小切手の表面側の概略図であり、(B),(C)は磁気インク文字列の一例を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る文字認識部の動作を示すフローチャートである。
【図6】検出信号波形データの一例を示す図である。
【図7】文字波形データの一例を示す図である。
【図8】差異量を説明する図である。
【図9】波形補正処理の実行時における文字認識部の動作を示すフローチャートである。
【図10】文字間隔が狭い場合の文字波形データの一例を示す図である。
【図11】第2の実施形態に係る文字認識部の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態である記録媒体処理装置、記録媒体処理装置の制御方法、及び、プログラムについて図面を参照して説明する。なお、参照する各図面において、構成をわかりやすく示すため、各構成要素の寸法の比率、角度等が異なる場合がある。
【0021】
(第1の実施形態)
<記録媒体処理装置>
本実施形態に係る記録媒体処理装置を説明する。本実施形態に係る記録媒体処理装置は、小切手読取装置1とホストコンピューター70とで構成される。
【0022】
まず、本実施形態に係る小切手読取装置1の概略構成を説明する。図1は、本実施形態に係る小切手読取装置1の外観斜視図である。
小切手読取装置1は、シート状の記録媒体である小切手4に対し、小切手4に記録された磁気インク文字(MICR文字)の読み取りや、小切手4の両面の画像の読み取り、小切手4に対する裏書きに係る所定の画像の記録等の処理を行う装置である。
【0023】
小切手読取装置1は、本体ケース2と、本体ケース2の上側に被せた蓋ケース3とを備えており、この内部に各部品が組み込まれた構成となっている。
蓋ケース3には、上から見た場合にU形状をした細幅の垂直溝からなる小切手4の搬送路5が形成されており、搬送路5の一方の端は広幅の垂直溝からなる小切手供給部6に連通しており、搬送路5の他方の端は左右に分岐して、それぞれ広幅の垂直溝からなる第1小切手排出部7及び第2小切手排出部8に繋がっている。
【0024】
小切手4の表面4aには、所定の模様が形成された背景に、金額、振出人、番号、サインなどが記載されており、その下端部分には、図1に示すように、長辺方向に延びる磁気インク文字列4Aが記録されている。磁気インク文字列4Aは、複数の磁気インク文字が横方向に並んで形成されている。
また、小切手4の裏面4bには、裏書き欄が形成されている。この裏書き欄には、後述する記録装置56によって、裏書きに係る所定の画像が記録される。
【0025】
小切手4は、上端4eが上方に位置し下端4fが下方に位置するように上下方向が揃えられ、かつ、表面4aがU形状の搬送路5の外側を向くように表裏が揃えられた状態(図1に示す状態)で、小切手供給部6に挿入される。小切手供給部6に挿入された小切手4は、後端4dを最初として搬送路5に送り出される。
【0026】
小切手供給部6から送り出された小切手4は、搬送路5に沿って搬送されながら、表面4aの画像である表面画像、及び、裏面4bの画像である裏面画像が読み取られ、さらに、表面4aに記録されている磁気インク文字列4Aが磁気的に読み取られる。そして、磁気インク文字列4Aの読み取りが成功した小切手4については、裏書きに係る所定の画像の記録が行われた後に、第1小切手排出部7に排出される。
【0027】
一方、読み取りが失敗した小切手4については、裏書きに係る所定の画像が記録されることなく、第2小切手排出部8に排出される。第2小切手排出部8に排出された小切手4は、読み取りが失敗した原因の究明や、再読み取り等の処理が行われる。
【0028】
図2は小切手読取装置1の内部構造を示す図である。
小切手供給部6には、小切手4を搬送路5に送り出すための小切手送り出し機構10が配置されている。小切手送り出し機構10は、繰り出しローラー11、送り出しローラー12、送り出しローラー12に押し付けられているリタードローラー13、送り出し用モーター14、及び小切手押し付け用のホッパー15を備えている。
【0029】
送り出し用モーター14が駆動すると、小切手供給部6に入れた小切手4がホッパー15によって繰り出しローラー11の側に押し付けられ、この状態で、繰り出しローラー11及び送り出しローラー12が同期回転する。
【0030】
繰り出しローラー11によって小切手4は送り出しローラー12とリタードローラー13の間に送り込まれる。リタードローラー13には所定の回転負荷が与えられており、送り出しローラー12に直接に接触している一枚の小切手4のみが他の小切手4から分離されて搬送路5に送り出される。
【0031】
搬送路5は上述したようにU形状をしており、小切手供給部6に繋がっている直線状の上流側搬送路部分21と、第1小切手排出部7、第2小切手排出部8に繋がっており、僅かに折れ曲がった状態で延びている下流側搬送路部分23と、これらの間を繋ぐ湾曲搬送路部分22とを備えている。
【0032】
小切手供給部6から搬送路5に送り出された小切手4を当該搬送路5に沿って搬送する小切手搬送機構30は、第1搬送ローラー31〜第6搬送ローラー36と、これらに押し付けられて連れ回りする第1押圧ローラー41〜第6押圧ローラー46と、第1搬送ローラー31〜第6搬送ローラー36を回転駆動するための搬送用モーター37とを備えている。第1搬送ローラー31〜第6搬送ローラー36は同期して回転するようになっている。搬送用モーター37として、例えばステッピングモーターが用いられている。このため、ステッピングモーターを駆動するステップ数により、小切手4の搬送量を知ることができる。
【0033】
第1搬送ローラー31〜第3搬送ローラー33は、上流側搬送路部分21における上流端、その中程の位置、及び湾曲搬送路部分22との境界位置にそれぞれ配置されている。第4搬送ローラー34は湾曲搬送路部分22における下流側の位置に配置されている。第5搬送ローラー35及び第6搬送ローラー36は、下流側搬送路部分23における中程の位置及び下流端にそれぞれ配置されている。
【0034】
上流側搬送路部分21における第1搬送ローラー31及び第2搬送ローラー32の間には、その上流側から磁気インク文字着磁用の磁石51、表面側コンタクトイメージセンサー52、及び、裏面側コンタクトイメージセンサー53が配置されている。表面側コンタクトイメージセンサー52は、搬送路5を搬送される小切手4の表面4aに対向し、表面4aの画像である表面画像を読み取る。裏面側コンタクトイメージセンサー53は、搬送路5を搬送される小切手4の裏面4bに対向し、裏面4bの画像である裏面画像を読み取る。
【0035】
また、第2搬送ローラー32及び第3搬送ローラー33の間には、磁気インク文字を読み取る読取部としての磁気ヘッド54が配置されており、磁気ヘッド54には、当該ヘッドに小切手4を押し付けるための押圧ローラー55が対峙している。
下流側搬送路部分23における第5搬送ローラー35及び第6搬送ローラー36の間には、裏書きに係る所定の画像の記録用の記録装置56が配置されている。記録装置56は、搬送路5を搬送される小切手4の裏面4bの適切な位置に、適切な方向で所定の画像を記録可能な、印刷ヘッドやスタンプなどを備えている。
【0036】
搬送路5には、小切手搬送制御のための各種センサーが配置されている。磁石51の手前側の位置には、送り出される小切手4の長さを検出するための用紙長検出器61が配置されている。裏面側コンタクトイメージセンサー53と第2搬送ローラー32との間には、小切手4が重なった状態で搬送されていることを検出するための重送検出器62が配置されている。第4搬送ローラー34の手前側の位置にはジャム検出器63が配置されており、ジャム検出器63によって所定時間以上に亘って継続して小切手4が検出されている場合には、搬送路5に小切手4が詰まった紙詰まり状態になったことが分かる。
【0037】
第5搬送ローラー35の手前側の位置には、記録装置56によって裏書きされる小切手4の有無を検出するための印刷検出器64が配置されている。さらに、第6搬送ローラー36の下流側の位置、すなわち、搬送路5から第1小切手排出部7、第2小切手排出部8に分岐している分岐路9の位置には、これらに排出される小切手4を検出するための排出検出器65が配置されている。
【0038】
分岐路9には、駆動モーター67(図3参照)によって切り替え操作される切り替え板66が配置されている。切り替え板66は、第1小切手排出部7、第2小切手排出部8に対して、搬送路5の下流端を選択的に切り替え、小切手4を選択された排出部に導くための部材である。
【0039】
図3は小切手読取装置1の機能的構成を示すブロック図である。
制御部71は、後述するホストコンピューター70のホスト側制御部73の制御の下、小切手読取装置1の各部を中枢的に制御するものであり、CPUや、ROM、RAM、その他の周辺回路等を備えている。
【0040】
制御部71は、ホスト側制御部73の制御の下、送り出し用モーター14、搬送用モーター37を駆動して小切手4(図1参照)を一枚ずつ搬送路5に送り出させ、送り出された小切手4を搬送路5に沿って搬送させる。制御部71による小切手4の搬送制御は、搬送路5に配置されている用紙長検出器61、重送検出器62、ジャム検出器63、印刷検出器64及び排出検出器65からの検出信号に基づいて行われる。
【0041】
小切手4の搬送に伴って、表面側コンタクトイメージセンサー52、及び、裏面側コンタクトイメージセンサー53は、搬送路5を搬送される小切手4の表面の画像、裏面の画像をそれぞれ読み取り、読み取った画像を示す画像データを制御部71に出力する。制御部71は、これら画像データを、ホスト側制御部73に出力する。
また、磁気ヘッド54は、制御部71の制御の下、通過する磁気インク文字列4A(図1参照)によって形成される磁界の変化によって発生する起電力を検出し、検出信号として信号処理回路74に出力する。
【0042】
信号処理回路74は、増幅器や、ノイズ除去用のフィルター回路、A/D変換器等を備え、磁気ヘッド54から入力された検出信号を、増幅し、波形整形し、データとして制御部71に出力する。制御部71は、信号処理回路74から入力された検出信号を示すデータを、ホスト側制御部73に送信する。
操作部75は、本体ケース2(図1参照)に形成された電源スイッチや、操作スイッチ等の各種スイッチを備え、これらスイッチに対するユーザーの操作を検出し、制御部71に出力する。
【0043】
小切手読取装置1には、通信ケーブル72を介してホストコンピューター70が接続されている。
ホストコンピューター70は、CPUや、ROM、RAM、その他の周辺回路等を備えて構成されたホスト側制御部73を備えている。ホスト側制御部73は、後述する文字認識部80を備えている。
【0044】
ホスト側制御部73には、各種情報を表示可能な表示器76と、キーボード、マウス等の入力デバイスが接続された操作部77と、EEPROMやハードディスク等の書き換え可能に各種データを記憶する記憶部78と、が接続されている。
記憶部78は、小切手読取装置1から入力された小切手4の表面画像や、裏面画像を示すデータや、検出信号を示すデータを記憶する。
【0045】
本実施形態では、ホストコンピューター70のホスト側制御部73の制御の下、小切手読取装置1の制御部71が小切手読取装置1の各部を制御する。具体的には、ホスト側制御部73は、そのCPUがROMに記憶されたプログラムを実行して、制御部71を制御するための制御データを生成し、生成した制御データを小切手読取装置1の制御部71に対して出力することにより、小切手読取装置1の各部を制御する。すなわち、本実施形態では、ホストコンピューター70と、小切手読取装置1とが協働して、記録媒体たる小切手4に対して各種処理を実行する記録媒体処理装置として機能する。
【0046】
<文字認識部>
次いで、ホスト側制御部73が備える文字認識部80について説明する。
文字認識部80は、磁気インク文字列4Aを構成する磁気インク文字のそれぞれについて、文字の認識を行う。磁気インク文字とは、所定のフォント(例えば、E−13Bフォントや、CMC−7フォント)に準拠して、小切手4に磁気印刷された文字のことであり、1つの磁気インク文字は、予め定められた複数の文字種類のうちのいずれか1つの文字種類に対応している。そして、磁気インク文字の認識とは、読み取った磁気インク文字のそれぞれについて、各磁気インク文字の文字種類を確定し、又は、当該磁気インク文字の文字種類を確定できないことを検出することである。
【0047】
なお、本実施形態では、磁気インク文字のフォントは、E−13Bフォントであるものとする。E−13Bフォントでは、磁気インク文字の形状として、「0」〜「9」、トランジット記号(TRANSIT SYMBOL)、アマウント記号(AMOUNT SYMBOL)、オン−アス記号(ON−US SYMBOL)、及び、ダッシュ記号(DASH SYMBOL)の14個の文字種類に対応する形状が用意されている。
【0048】
図4(A)は小切手4の表面4a側の概略図であり、図4(B),(C)は磁気インク文字列4Aの一例を示す図である。図4(A)に示すように、小切手4の表面4a側の下端部分には、小切手情報を示す磁気インク文字列4Aが印刷されている。磁気ヘッド54による磁気インク文字列4Aの読み取りは、小切手4の後端4d側から前端4g側へ向かって磁束を測定することにより実行される。
【0049】
図4(B)に示すように、磁気インク文字列4Aは、横方向に略等間隔で並んで形成された複数の磁気インク文字で構成されている。各磁気インク文字は、1つの磁気インク文字の右端から次の磁気インク文字の右端までの距離である文字間隔W1が等しくなるように印刷される。文字間隔W1は、印刷規格により、例えば、0.125±0.010inchと規定されている。
【0050】
しかしながら、図4(C)に示すように、市場に流通している小切手4等の記録媒体の中には、磁気インク文字の印刷のばらつき等により隣り合う磁気インク文字同士の間隔(W2−W3)が通常よりも狭くなっているため、文字間隔W2が規定の文字間隔W1よりも狭い場合がある。なお、W3は、印刷された磁気インク文字の実質的な文字幅である。文字幅W3は文字種類によって異なり、14個の文字種類の中で、例えば、文字種類「1」や「2」の文字幅W3は最も小さく、文字種類「0」や「8」の文字幅W3は最も大きい。
【0051】
本実施形態では、磁気インク文字列4Aに含まれる全ての磁気インク文字について、磁気インク文字の文字種類を確定できれば、磁気インク文字列4Aの読み取りが成功したものと判別され、一方、磁気インク文字の中に、1つでも磁気インク文字の文字種類が確定できないものがあれば、磁気インク文字列4Aの読み取りが失敗したものと判別される。
【0052】
上述したように、制御部71は、ホスト側制御部73の制御の下、磁気インク文字列4Aの読み取りが成功した小切手4については、当該小切手4を第1小切手排出部7に搬送し、一方、磁気インク文字列4Aの読み取りが失敗した小切手4については、所定の処理を実行した上で、当該小切手4を第2小切手排出部8に搬送する。
【0053】
図5は、文字認識部80の動作を示すフローチャートである。図5のフローチャートは、ある1つの小切手4について、当該小切手4に記録された磁気インク文字列4Aの認識を実行する際の文字認識部80の動作を示している。そして、当該小切手4に記録された磁気インク文字列4Aについて、磁気ヘッド54による読み取りが行われており、信号処理回路74によって、増幅処理や、フィルター処理、波形整形処理等の各種処理が実行されて検出信号を示すデータ(以下、「検出信号波形データ」という)が生成され、制御部71により、検出信号波形データが、ホスト側制御部73に出力される。
【0054】
さらに、表面側コンタクトイメージセンサー52により、当該小切手4の表面の画像が読み取られ、画像データとして制御部71からホスト側制御部73に出力される。文字認識部80の機能は、ホスト側制御部73のCPUがROMに記憶されたプログラムを実行する等、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される。
【0055】
<磁気インク文字の切り出し>
図5に示すように、まず、ホスト側制御部73は、制御部71から入力された検出信号波形データから、磁気インク文字列4Aに含まれる磁気インク文字のうち1つの磁気インク文字について、第1ピークP1(図7参照)とその位置を検出する(ステップSA1)。
【0056】
次いで、ステップSA1で検出した第1ピークP1の位置に基づいて、磁気インク文字列4Aに含まれる磁気インク文字のうち1つの磁気インク文字について、検出信号波形データから文字の切り出しを行う(ステップSA2)。文字の切り出しとは、検出信号波形データに基づいて、磁気インク文字列4Aに含まれる磁気インク文字のうち1つの磁気インク文字について、当該磁気インク文字の波形を示す文字波形データを生成することである。ステップSA1及びステップSA2の処理は、例えば、以下のようにして実行される。
【0057】
図6は、検出信号波形データ(一部)の内容の一例を模式的に示す図であり、図7は、ステップSA1及びステップSA2における処理により生成された文字波形データの内容の一例を模式的に示す図である。図8は、磁気インク文字認識において検出される差異量を説明する図である。詳しくは、図8(A)は後述するステップSA4の波形補正処理を行う前の差異量を示す図であり、図8(B)は波形補正処理を行った後の差異量を示す図である。図8(A),(B)において、文字波形データが示す波形は太線で示され、基準波形データが示す波形は細線で示されている。なお、図8(A),(B)に示す文字波形データは、図7に示す文字波形データとは異なる。
【0058】
上述したように、本実施形態では、搬送路5内で小切手4を搬送しつつ、当該小切手4に記録された磁気インク文字列4Aを磁気ヘッド54により読み取るが、その際、磁気ヘッド54では、搬送される小切手4の磁気インク文字列4Aを、後端4d側から前端4g側へ向かって所定のサンプリング周期で磁束を測定することにより、磁気インク文字列4Aの読み取りを実行する。以下の説明では、サンプリング周期の最小単位の間隔を1サンプリング単位といい、7サンプリング単位を1メッシュという。
なお、本実施形態では、1メッシュは0.013インチであるものとする。
【0059】
図6では、X軸(横軸)は、時間の経過(サンプリング周期の経過)が規定され(原点からX軸右方に向かうに従って、1サンプリング単位が順次経過したことを示す)、Y軸(縦軸)は、時間の経過に伴う磁荷の変化量の相対値が規定されている。Y軸においては、検出信号波形データの振幅(Y軸方向における変化量)が256段階に分割され、その128段階がゼロ(0)レベルに設定されている。
【0060】
そして、図6では、磁気インク文字列4Aにおいて、小切手4の後端4d側から前端4g側に向かって、所定のサンプリング周期毎に磁荷の変化量の相対値がどのように変化したかが示されており、磁気インク文字列4Aに含まれる各磁気インク文字の磁荷の変化量に対応してY軸方向の値が上下すると共に、磁荷の変化量がプラスであるのかマイナスであるのかに応じてY軸方向の値の正負が変化する。
【0061】
図7の例に示すように、検出信号波形データのX軸方向において1つの磁気インク文字に対応する波形が占める範囲S0は、所定の数のサンプリング単位と規定されており、この規定に準じるように、各種搬送制御が実行されると共に、1サンプリング単位の長さが規定されている。また、1つの磁気インク文字に対応する波形においては、文字切り出し開始位置から所定の間隔S1を空けて、最初のピークである第1ピークP1が位置するように規定されている。本実施形態では、波形が占める範囲S0は、例えば70サンプリング単位(10メッシュ)であり、所定の間隔S1は、例えば11サンプリング単位である。
【0062】
これを踏まえ、ステップSA1では、文字認識部80は、検出信号波形データを解析し、所定の値を超える当該波形の各ピークのうち波形の終端位置側(X軸右方)に向かって最初に現出する第1ピークP1を最初のピークとして検出する。ここで、ピークとは、検出信号波形データにおける極大値、極小値に対応する部分のことであり、これらピークはX軸方向において所定の周期で現出するよう規定されている。各ピークに対応するX軸の値をピークの位置という。
【0063】
次いで、ステップSA2では、文字認識部80は、検出した第1ピークP1の位置に基づいて、磁気インク文字列4Aに含まれる磁気インク文字のそれぞれについて、文字切り出し開始位置を決定する。そして、検出信号波形データが示す波形を、決定した文字切り出し開始位置から、1つの磁気インク文字の波形が占める範囲S0に対応する70サンプリング単位(10メッシュ)で切り出す。
その際、図7の例に示すように、文字認識部80は、切り出した波形において第1ピークP1の位置が、X軸における所定の間隔S1を空けた11サンプリング単位目となるように文字切り出し開始位置を決定して、検出信号波形データの波形の切り出しを行う。
【0064】
ステップSA2における文字の切り出しにより、磁気インク文字列4Aに含まれる1つの磁気インク文字について、当該磁気インク文字の検出信号波形データから、図7に示すような文字波形データが生成される。なお、図7に示す1つの磁気インク文字の文字波形データにおいて、X軸左方側(原点側)の端部を始端といい、X軸右方側の端部を終端という。また理想的な文字波形データでは、第1ピークP1より前側、及び最後のピーク(終端側ピーク)より後側では、データの値がゼロとなる。
【0065】
図4(B)に示すように、磁気インク文字列4Aが規定の文字間隔W1で印刷されていれば、図8(A)に細線で示すように、ステップSA2の文字の切り出しにより生成される文字波形データは、始端から第1ピークP1の立上り部分まで、データの値がほぼゼロ(0)レベルで推移する波形となる。
【0066】
ところが、図4(C)に示すように、磁気インク文字列4Aの文字間隔W2が規定の文字間隔W1よりも狭い場合、図8(A)に太線で示すように、ステップSA2の文字の切り出しにより生成される文字波形データにおいて、始端から第1ピークP1の立上り部分までの間に、前の磁気インク文字の波形の一部(終端側のピーク部分A)が入り込んでしまう場合がある。
【0067】
ステップSA1の第1ピーク検出及びステップSA2の文字の切り出しは、磁気インク文字列4Aに含まれる磁気インク文字のそれぞれについて、小切手4の後端4d側に配置された磁気インク文字から前端4g側に配置された磁気インク文字へ向かって、順番に行われ、切り出された磁気インク文字ごとにステップSA3以下の処理が実行される。以下、ステップSA2において、切り出された1つの磁気インク文字のことを「処理対象文字」という。
【0068】
次に、文字認識部80は、生成した処理対象文字の文字波形データについて、各データが示す波形のY軸方向における振幅レベルが、パターンマッチング用の基準波形データ(図8(A)に細線で示す)のY軸方向における振幅レベルと同等となるよう、データの正規化を行う(ステップSA3)。
【0069】
パターンマッチング用の基準波形データとは、上述した14の文字種類のうち1つの文字種類に対応する磁気インク文字を磁気ヘッド54によって繰り返し読み取ったときの検出信号の平均的な波形を示すデータであり、いわゆる磁気インク文字認識におけるパターンマッチング処理で供されるテンプレートデータに該当するデータである。この基準波形データと処理対象文字の文字波形データとの間の差異量の大小に基づいて、後述する磁気インク文字認識が行われる。
【0070】
<波形補正処理>
次に、文字認識部80は、正規化を行った処理対象文字の文字波形データについて、波形の始端側部分を補正する波形補正処理を行う(ステップSA4)。ステップSA4の波形補正処理は、ステップSA2で切り出された処理対象文字の文字波形データにおいて、図8(A)に示すように、第1ピークP1よりも始端側に、処理対象文字の前の文字の終端側のピーク部分Aが入り込んでしまった場合に、入り込んだ前の文字のピーク部分Aを文字波形データから除去するための処理である。
【0071】
ステップSA4の波形補正処理の動作について説明する。図9は、ステップSA4の波形補正処理の実行時における文字認識部80の動作を示すフローチャートである。波形補正処理において、まず、文字認識部80は、処理対象文字の文字波形データの始端におけるデータを入力データとして、入力データの値が負の値であるか否かを判別する(ステップSB1)。
【0072】
入力データの値が負の値である場合(ステップSB1:YES)、文字認識部80は、入力データの値を所定の基準値に置換し(ステップSB2)、処理手順をステップSB3へ移行する。一方、入力データの値がゼロ(0)又は正の値である場合(ステップSB1:NO)、文字認識部80は、ステップSB2を行うことなく、処理手順をステップSB3へ移行する。本実施形態では、所定の基準値をゼロ(0)とする。
【0073】
ステップSB3では、文字認識部80は、処理対象となった入力データの数が所定の数以上であるか否かを判別する。所定の数とは、図8(A)における始端から第1ピークP1の立上り部分の手前までのデータの数として適宜設定され、例えば、8である。処理対象となった入力データの数が8未満である場合(ステップSB3:NO)、文字認識部80は、処理をステップSB1に戻し、次の入力データについて処理を実行する。
一方、処理対象となった入力データの数が8に到達した場合(ステップSB3:YES)、文字認識部80は、波形補正処理を終了する。
【0074】
このように、ステップSA4の波形補正処理では、処理対象文字の文字波形データの始端から第1ピークP1の立上り部分の手前の位置までの間で波形がマイナス側に落ち込んでいる場合に、その部分のデータの値をゼロに置換することにより、処理対象文字の文字波形データからマイナス側への落ち込みがなくなるように補正する。
【0075】
したがって、図8(A)に太線で示すように、始端から第1ピークP1の立上り部分までの間に前の磁気インク文字の終端側のピーク部分Aが入り込んでしまった場合、ステップSA4の波形補正処理により、図8(B)に太線で示すように、前の磁気インク文字のピーク部分Aを文字波形データから除去することができる。
【0076】
ステップSB1において、入力データの値が負の値である場合のみ、入力データの値をゼロ(0)に置換するのは、次の理由による。すなわち、磁気的に取得した1つの磁気インク文字に対応する波形において、最初(始端側)のピークはプラス側となり、最後(終端側)のピークはマイナス側となる。したがって、ステップSA2で切り出した文字波形データに前の磁気インク文字の最後のピークであるピーク部分Aが入り込んでしまった場合、ピーク部分Aのデータの値は負の値となる。
【0077】
一方、文字波形データにおいて、最初のピークである第1ピークP1が文字切り出し開始位置(始端)から所定の間隔S1を空けた位置よりも前側にずれ込んでしまった場合、ずれ込んだ部分のデータの値は正の値となる。これらのデータの値をゼロ(0)に置換してしまうと、第1ピークP1部分の波形の一部が文字波形データから除去されてしまい、後述する磁気インク文字認識において、処理対象文字の文字波形データと基準波形データとの間の差異量が大きくなり、認識率の低下を招くこととなる。
具体的には、文字波形データが変形して、例えば、文字「3」や文字「8」の2つ目のプラスピークを第1ピークとみなしてしまい、1番目のピークを消してしまうと文字「3」や文字「8」の特徴が消え、誤認識を誘発するおそれがある。
【0078】
そこで、入力データの値が負の値である場合のみ入力データの値をゼロ(0)に置換することにより、第1ピークP1部分の波形を乱さないようにして、前の磁気インク文字のピーク部分Aを文字波形データから除去することができる。また、ステップSA4の波形補正処理は、第1ピークP1よりも始端側でノイズ等の要因により波形がマイナス側に落ち込む乱れが生じた場合にも、この波形の乱れ部分を文字波形データから除去することができる。
【0079】
なお、本実施形態では、パターンマッチング用の基準波形データについても、予めステップSA4の波形補正処理を行い、前の磁気インク文字のピーク部分Aの入り込みやノイズ等による波形の乱れを抑えておくものとする。
【0080】
<磁気インク文字認識処理>
ステップSA5の磁気インク文字認識に係る処理は、ステップSA4の波形補正処理までを行った磁気インク文字(処理対象文字)に対して、順次実行され、これにより、磁気インク文字列4Aに含まれる磁気インク文字のそれぞれに対して1回ずつ実行される。
【0081】
詳細な図示は省略するが、ステップSA5の磁気インク文字認識には、例えば、第1認識フェーズ〜第4認識フェーズ等の、複数の認識フェーズが含まれている。これら複数の認識フェーズは、それぞれ異なる方法により処理対象文字の磁気インク文字認識を行い、当該処理対象文字の文字種類を確定し、又は、確定できないことを検出するフェーズである。磁気インク文字認識の各認識フェーズにおける処理例の概略を、以下に説明する。
【0082】
第1認識フェーズでは、文字認識部80は、処理対象文字の文字波形データのそれぞれと、14の文字種類に対応する基準波形データのそれぞれとの間の差異量を検出する。第1認識フェーズにおける波形データの差異量の検出は、例えば、処理対象文字の文字波形データが示す波形と比較対象文字種類に対応する基準波形データの波形とを単純に比較した場合と、処理対象文字の文字波形データが示す波形と比較対象文字種類に対応する基準波形データの波形とを所定の範囲内で所定の距離だけスライドさせて比較した場合とで行う。
【0083】
処理対象文字の文字波形データと基準波形データとの間の差異量の検出について説明する。差異量とは、図8(A),(B)中、斜線で示す領域の大きさのことであり、より具体的には、X軸上に規定された各サンプリング単位における、文字波形データが示す波形のY軸方向の値と、基準波形データが示す波形のY軸方向の値との差の絶対値の総和のことである。1つの文字波形データが示す波形と、1つの基準波形データが示す波形との間の差異量が小さければ小さいほど、当該1つの文字波形データが示す波形と、当該1つの基準波形データが示す波形とが近似しているということであり、当該1つの文字波形データに対応する磁気インク文字の文字種別が、当該1つの基準波形データに対応する文字種類である蓋然性が高いということである。
【0084】
差異量の検出結果に基づいて、文字認識部80は、差異量が最も小さかった基準波形データに対応する文字種類を第1候補とし、次に差異量が小さかった基準波形データに対応する文字種類を第2候補とする。
そして、文字認識部80は、第1候補及び第2候補とされた文字種類に対応する基準波形データと処理対象文字の文字波形データとの差異量を所定の閾値と比較する。その結果、第1候補に対応する基準波形データと処理対象文字の文字波形データとの差異量が閾値以下となり、かつ、第2候補に対応する基準波形データと処理対象文字の文字波形データとの差異量が閾値を上回る場合に、第1候補とされた文字種類を処理対象文字の文字種類として確定する。なお、第1候補との差異量が閾値を上回る場合は、処理対象文字の文字種類を確定することなく、第1認識フェーズを終了する。
【0085】
一方、第1候補とされた文字種類に対応する基準波形データと処理対象文字の文字波形データとの差異量が閾値以下であり、かつ、第2候補とされた文字種類に対応する基準波形データと処理対象文字の文字波形データとの差異量が閾値以下である場合は、文字認識部80は、処理対象文字の文字種類を確定しない。
【0086】
ここで、上述の閾値は、処理対象文字の文字波形データと当該処理対象文字の正しい文字種類に対応する基準波形データとの間の差異量のみが閾値以下となり、かつ、当該文字波形データと他の文字種類に対応する基準波形データとの間の差異量が閾値を上回るように適宜設定される。このように閾値を設定することで、正常に小切手4が搬送され磁気ヘッド54により正常に磁気インク文字列4Aが読み取られれば閾値以下となる差異量に係る文字種類は1つに限定される。
【0087】
一方、閾値以下となる差異量に係る文字種類が複数存在している状況のときは、磁気ヘッド54による読み取りエラーや、小切手4の搬送エラー、その他の何らかの原因により、当該状況が現出している可能性がある。したがって、このような状況のときに処理対象文字の文字種類を確定すると、誤認識を招くおそれがある。
【0088】
なお、磁気インク文字列4Aの各磁気インク文字は、小切手4にオフセット印刷により印刷される場合と、レーザー印刷により印刷される場合とがある。そして、それぞれの印刷によって印刷される磁気インク文字は、その形状が互いに相違している。これを踏まえ、第1認識フェーズではオフセット印刷用の基準波形データが利用されて各種処理が実行され、第3認識フェーズではレーザー印刷用の基準波形データが利用されて各種処理が実行される。
【0089】
第1認識フェーズの実行後、文字認識部80は、第1認識フェーズにおいて、処理対象文字の文字種類が確定できたか否かを判別し、処理対象文字の文字種類が確定できた場合、第2認識フェーズを行うことなく、処理手順をステップSA6へ移行する。一方、第1認識フェーズで処理対象文字の文字種類が確定できなかったと判別した場合、文字認識部80は、第2認識フェーズを実行する。
【0090】
第2認識フェーズは、磁気インク文字の印刷状態や小切手4の搬送状況等により文字波形データの波形がX軸方向に伸び、又は、縮んだ場合に対応する認識フェーズである。第2認識フェーズでは、検出信号波形データにおける処理対象文字の文字間隔に基づいて磁気インク文字の伸びや縮みを検出し、検出された伸びや縮みを反映して、比較対象文字種類に対応する基準波形データの波形を、例えば、文字間隔の両側又は片側に伸縮させて補正する。そして、補正された基準波形データ(補正波形データ)のそれぞれと、処理対象文字に対応する文字波形データの波形との間の差異量を検出する。
【0091】
第2認識フェーズにおいても、文字認識部80は、検出された差異量が小さかった順に文字種類の第1候補及び第2候補を選別し、第1候補に対応する基準波形データと処理対象文字の文字波形データとの差異量が閾値以下となり、かつ、第2候補に対応する基準波形データと処理対象文字の文字波形データとの差異量が閾値を上回る場合に、第1候補とされた文字種類を処理対象文字の文字種類として確定する。
【0092】
また、第1候補とされた文字種類に対応する基準波形データと処理対象文字の文字波形データとの差異量が閾値以下であり、かつ、第2候補とされた文字種類に対応する基準波形データと処理対象文字の文字波形データとの差異量が閾値以下であっても、その差異量が上述の第1候補との差異量に所定の係数を乗じたもの以上である場合は、第1候補とされた文字種類を処理対象文字の文字種類として確定する。これら以外の場合は、処理対象文字の文字種類を確定しない。
【0093】
この第2認識フェーズでは、上述のように、文字波形データの波形の伸びや縮みを反映した上で、第1候補、及び、第2候補となる文字種類を選別する。そのため、第2認識フェーズで選別された第1候補及び第2候補は、本実施形態における他の認識フェーズにおいて選別された第1候補や第2候補と比較し、最も信頼性が高いといえる。
【0094】
第2認識フェーズの実行後、文字認識部80は、第2認識フェーズにおいて処理対象文字の文字種類が確定したか否かを判別し、確定できた場合は処理手順をステップSA6へ移行し、確定できなかった場合は、第3認識フェーズを実行する。
【0095】
第3認識フェーズでは、レーザー印刷用の基準波形データが利用されて、第1認識フェーズと同様の各種処理が実行される。第3認識フェーズの実行後、文字認識部80は、第3認識フェーズにおいて処理対象文字の文字種類が確定したか否かを判別し、確定できた場合は、処理手順をステップSA6へ移行し、確定できなかった場合は、第4認識フェーズを実行する。
【0096】
第4認識フェーズでは、全てのサンプリング単位ではなく、基準波形データのピークの位置やその前後の特定のサンプリング単位目における基準波形データの波形と処理対象文字の文字波形データの波形とを比較した比較値を用いて、磁気インク文字の認識を行う。これにより、処理対象文字の文字波形データの波形において、乱れがあった場合にその影響を排し、部分的な伸びや、縮み、ずれ、が生じた場合にこれらを反映して、適切に処理対象文字の文字認識を実行する。
【0097】
第4認識フェーズにおける処理対象文字の文字種類の確定については「仮確定」と表現する。これは、特定のサンプリング単位目における比較値を用いる第4認識フェーズでの基準波形データの波形と文字波形データの波形との間の近似度における相関の強さが、波形間の差異量を用いる第2認識フェーズよりも劣るからである。そこで、第4認識フェーズにおいて処理対象文字の文字種類として仮確定した文字種類が、他の認識フェーズに比べて信頼性が高い第2認識フェーズで第1候補とされた文字種類、及び、第2候補とされた文字種類のいずれかと一致する場合にのみ、当該仮確定した文字種類を、処理対象文字の文字種類として確定することにより、誤認識を抑制している。
【0098】
第4認識フェーズの終了後、文字認識部80は、第4認識フェーズにおいて処理対象文字の文字種類を仮確定でき、仮確定した文字種類が第2認識フェーズにおいて第1候補とされた文字種類、及び、第2候補とされた文字種類のいずれかと一致するか否かを判別する。一致する場合、文字認識部80は、第4認識フェーズにおいて仮確定した文字を処理対象文字の文字種類として確定し、処理手順をステップSA6へ移行する。
【0099】
一方、一致しない場合、及び、処理対象文字の文字種類を仮確定できなかった場合、換言すれば、第1認識フェーズ〜第4認識フェーズのいずれにおいても処理対象文字の文字種類を確定できなかった場合、文字認識部80は、磁気インク文字認識では処理対象文字の文字種類を確定できないものと判別し、処理手順をステップSA6へ移行する。
【0100】
上述のように、本実施形態では、第1認識フェーズ〜第4認識フェーズのいずれの認識フェーズにおいても、処理対象文字の文字波形データの波形と基準波形データの波形とを比較し、両者の間の差異量や比較値に基づいて磁気インク文字の認識を行っている。したがって、磁気インク文字列4Aにおける文字間隔が狭いこと等により、図8(A)に示すように、ステップSA2で切り出した処理対象文字の文字波形データに前の磁気インク文字の終端側のピーク部分Aが入り込んでしまった場合、このピーク部分Aにより処理対象文字の文字波形データの波形と基準波形データの波形との間の差異量や比較値が大きくなってしまう。そのため、このままの状態で磁気インク文字認識処理を実行すると、認識率は著しく低下することとなる。
【0101】
これに対して、本実施形態では、ステップSA4の波形補正処理により、図8(B)に示すように前の磁気インク文字のピーク部分Aが入り込んでいる場合や、ノイズ等により波形に乱れが生じている場合に、これらを文字波形データから除去することができるので、処理対象文字の文字波形データの波形と基準波形データの波形との間の差異量や比較値を小さくすることができる。この結果、処理対象文字の磁気インク文字認識処理を実行する際に、前の磁気インク文字のピーク部分Aや波形の乱れの影響が抑えられるので、認識率を向上させることができる。
【0102】
次に、図5に示すステップSA6では、文字認識部80は、次の磁気インク文字の第1ピークP1の検出開始位置の更新処理を行う。次の磁気インク文字の第1ピークP1の検出開始位置は、検出信号波形データにおいて、処理対象文字の文字切り出し開始位置から所定の更新幅だけ後方(X軸右方)に移動した位置とする。所定の更新幅は、例えば、69サンプリング単位である。
【0103】
次いで、ステップSA7では、磁気インク文字列4Aに含まれる全ての磁気インク文字が処理対象文字となったか否か、換言すれば、磁気インク文字列4Aに含まれる磁気インク文字の全てについて、文字の切り出しが行われて、文字認識に係る処理が実行されたか否かが判別される。
【0104】
磁気インク文字列4Aに含まれる全ての磁気インク文字が処理対象文字となっていない場合(ステップSA7:NO)、文字認識部80は、処理手順をステップSA1へ戻して、次の磁気インク文字について第1ピークP1を検出する。このとき、文字認識部80は、次の磁気インク文字の第1ピークP1の検出を、ステップSA6で更新した次の磁気インク文字の第1ピークP1の検出開始位置から開始する。そして、文字認識部80は、次の磁気インク文字の文字波形データを切り出して、磁気インク文字認識を実行する。
【0105】
一方、磁気インク文字列4Aに含まれる全ての磁気インク文字が処理対象文字となった場合(ステップSA7:YES)、処理手順をステップSA8へ移行する。ステップSA8では、文字認識部80は、磁気インク文字列4Aに含まれる磁気インク文字の文字数を検出する(ステップSA8)。
【0106】
次いで、文字認識部80は、磁気インク文字列4Aに含まれる全ての磁気インク文字について、認識が成功した否か、すなわち文字種類が確定したか否かを判別する(ステップSA9)。
【0107】
全ての磁気インク文字について文字種類が確定した場合(ステップSA9:YES)、ホスト側制御部73は、磁気インク文字列4Aの読み取りが成功したものとして、磁気インク文字列4Aの読み取りが成功した場合に行うべき処理を行う(ステップSA10)。磁気インク文字列4Aの読み取りが成功した場合に行うべき処理には、例えば、磁気インク文字列4Aが示す情報を記憶部78に記憶し、また、制御部71に記録装置56を制御させて、小切手4の裏面に裏書きに係る所定の画像を記録し、また、第1小切手排出部7に小切手4を排出する等の処理が含まれる。
【0108】
一方、磁気インク文字列4Aに含まれる磁気インク文字について、1つでも文字種類が確定しなかったものが存在した場合(ステップSA9:NO)、文字認識部80は、文字種類が確定しなかった磁気インク文字に対して光学的な文字の認識を行う光学認識処理(ステップSA11)を実行する。
【0109】
<光学認識処理>
ステップSA11の光学認識処理における文字認識部80の動作について説明する。詳細な図示は省略するが、光学認識処理では、文字認識部80は、まず、表面側コンタクトイメージセンサー52の読み取り結果に基づいて生成された小切手4の表面の画像を示すデータにおいて、磁気インク文字列4Aの画像に対応するデータの範囲を特定すると共に、特定した範囲のデータについて、磁気インク文字ごとに画像データを切り出す。
【0110】
次いで、文字認識部80は、14種類の文字種類のそれぞれに対応するビットマップパターンと切り出した磁気インク文字の画像データとを比較することにより、光学文字認識を実行し、磁気インク文字のそれぞれの文字種類を仮確定する。なお、光学文字認識で確定された文字種類は、最終的な文字種類の確定ではないため、「仮確定」と表現する。
【0111】
次いで、文字認識部80は、光学文字認識の結果に基づいて、磁気インク文字列4Aに含まれる磁気インク文字の文字数を検出し、ステップSA8で検出した文字数、すなわち、磁気ヘッド54により読み取られた検出信号波形データに基づいて検出された文字数と、光学文字認識で検出された文字数とが一致するか否かを判別する。
【0112】
文字数が一致しない場合、文字認識部80は、磁気インク文字列4Aの読み取りに失敗したと判別し、ステップSA11の光学認識処理を終了する。これは、以下の理由による。すなわち、文字数が異なっている場合は、磁気的な読み取り及び光学的な読み取りのうち少なくとも一方が失敗していることが考えられる。そのため、磁気インク文字認識により検出信号波形データに基づいて切り出した磁気インク文字のそれぞれと、光学文字認識により切り出した磁気インク文字のそれぞれとの対応関係について確実性が担保できず、光学文字認識処理の結果を利用した文字種類の確定を実行できないからである。
【0113】
文字数が一致する場合、文字認識部80は、ステップSA9において文字種類を確定できないと判別された磁気インク文字ついて、1文字ずつ順番に処理対象文字として、光学文字認識で仮確定された文字種類と、ステップSA5(第2認識フェーズ)において第1候補とされた文字種類、及び、第2候補とされた文字種類のいずれかと、が一致するか否かを判別する。
【0114】
判別の結果、一致する場合、文字認識部80は、仮確定した文字を、処理対象文字の文字種類として確定する。一方、一致しない場合、文字認識部80は、処理対象文字について、光学文字認識を利用した文字認識によっても文字種類を確定できないと判別する。これらの処理を、ステップSA9において文字種類を確定できないと判別された全ての磁気インク文字が処理対象文字となるまで行う。
【0115】
ステップSA9において文字種類を確定できないと判別された磁気インク文字の全てが処理対象文字となった後、文字認識部80は、文字種類が確定していなかった全ての磁気インク文字について、認識が成功した否か、すなわち光学認識処理により文字種類が確定したか否かを判別する(ステップSA12)。全ての磁気インク文字について、文字種類が確定した場合は(ステップSA12:YES)、処理手順をステップSA10へ移行する。
【0116】
一方、1つでも文字種類が確定しなかった磁気インク文字が存在する場合(ステップSA12:NO)、ホスト側制御部73は、磁気インク文字列4Aの読み取りが失敗した場合に行うべき処理を行う(ステップSA13)。磁気インク文字列4Aの読み取りが失敗した場合に行うべき処理として、ホスト側制御部73は、制御部71を制御して、裏書きに係る画像の印刷等を行うことなく、第2小切手排出部8に小切手4を搬送する処理を行う。第2小切手排出部8に排出された小切手4は、読み取りが失敗した原因の究明や、再読み取り等の処理が行われる。
【0117】
このように、本実施形態では、ステップSA11の光学文字認識処理において仮確定した文字種類が、ステップSA5の磁気インク文字認識処理で第1候補とされた文字種類、及び、第2候補とされた文字種類のいずれかと一致する場合にのみ、当該仮確定した文字種類を、処理対象文字の文字種類として確定する。これは、以下の理由による。
すなわち、光学文字認識処理は、小切手4の表面を示す画像データに基づいて実行されるため、小切手4の表面にペン等で記入されたサインや汚れ等が、磁気インク文字列4Aの誤認識の原因となる場合があり得る。これを踏まえ、本実施形態では、光学文字認識により仮確定した文字種類が、第2認識フェーズにおいて正しい文字種類である蓋然性が最も高いとされた第1候補に係る文字種類、及び、正しい文字種類である蓋然性が2番目に高いとされた第2候補に係る文字種類のいずれかと一致する場合にのみ、仮確定した文字種類を、処理対象文字の文字種類として確定する。これにより、誤認識を効果的に抑制している。
【0118】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る記録媒体処理装置、記録媒体処理装置の制御方法、及び、プログラムを説明する。
【0119】
第2の実施形態に係る記録媒体処理装置、記録媒体処理装置の制御方法、及び、プログラムは、第1の実施形態に対して、磁気インク文字認識における文字波形データと基準波形データとの比較を実文字幅分とする点と、次の磁気インク文字の第1ピークの検出開始位置の更新処理における更新幅を実文字幅に応じて設定する点とが異なっているが、その他の構成はほぼ同じである。ここでは、第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0120】
磁気インク文字列4Aにおける文字間隔が狭いこと等により、第1の実施形態のように処理対象文字の文字波形データに前の磁気インク文字の波形の一部が入り込んでしまう場合、処理対象文字の文字波形データに次の磁気インク文字の波形の一部も入り込んでしまう場合があり得る。第2の実施形態においては、処理対象文字の文字波形データに次の磁気インク文字の波形の一部が入り込んでしまった場合でも、その影響による認識率低下を抑えて、磁気インク文字認識を行うことを目的とする。
【0121】
図10は、文字間隔が狭い場合の処理対象文字の文字波形データの一例を示す図である。図10において、文字間隔W2が規定の文字間隔W1よりも狭い場合(図4(C)参照)の文字波形データを太線で示し、規定の文字間隔W1の場合(図4(B)参照)の文字波形データを細線で示す。図10に示す最初のピークである第1ピークP1と、最後のピークP2との間隔S2が、図4(B),(C)に示す実質的な文字幅W3に対応する。以下では、間隔S2を、実文字幅S2ともいう。
【0122】
太線で示す文字間隔が規定よりも狭い場合の文字波形データと、細線で示す文字間隔が規定の場合の文字波形データとを比較すると、第1ピークP1の立ち上がりでデータの値がゼロレベルから増加する位置から、実文字幅S2の範囲内、及び最後のピークP2の立ち下りでデータの値がゼロレベルに戻る位置までの間においては、両者の波形はほぼ一致する。
【0123】
しかしながら、第1ピークP1より前の部分A、及び最後のピークP2よりも後の部分Bは、両者で大きく異なっている。部分Aは前の磁気インク文字の波形の一部であり、部分Bは次の磁気インク文字の波形の一部であると考えられる。したがって、このままの状態で処理対象文字の磁気インク文字認識を実行すると、文字波形データと基準波形データとの差異量が大きくなってしまい、認識率が著しく低下することとなる。
【0124】
また、処理対象文字の磁気インク文字認識を実行した後、次の磁気インク文字の第1ピークP1の検出開始位置を処理対象文字の文字切り出し開始位置から所定の更新幅だけ後方に移動した位置とすると、次の磁気インク文字の第1ピークP1を飛び越した位置となる。そうすると、更新後の検出開始位置では、次の磁気インク文字の第1ピークP1を検出することができなくなってしまう。
【0125】
図11は、第2の実施形態に係る文字認識部80の動作を示すフローチャートである。第2の実施形態におけるステップSA5の磁気インク文字認識処理では、各認識フェーズにおいて、文字認識部80は、処理対象文字の文字波形データのそれぞれと、14の文字種類に対応する基準波形データのそれぞれとの間の差異量を検出する際に、切り出した文字波形データの幅S0全体を対象とせず、図10に示す実文字幅S2の範囲を対象とする。
【0126】
より詳細には、文字波形データと基準波形データとの差異量を検出する際に、波形データの始端(文字切り出し開始位置)から、最後のピークP2の位置から所定の間隔後方に離れた位置までとする。所定の間隔は、最後のピークP2がゼロレベルに戻る位置となるように適宜設定され、例えば、1メッシュ(7サンプリング単位)程度とする。これにより、処理対象文字の文字波形データに入り込んだ次の磁気インク文字の波形の部分Bの影響を抑えて、磁気インク文字認識を実行することができる。
【0127】
また、処理対象文字の文字波形データに入り込んだ前の磁気インク文字の波形の部分Aについては、第1の実施形態と同様に、ステップSA4の波形補正処理により、その影響を抑えることができる。この結果、処理対象文字の磁気インク文字認識処理を実行する際に、前の磁気インク文字の部分A及び次の磁気インク文字の波形の部分Bの影響が抑えられる。
【0128】
次に、図11に示すように、ステップSA5の磁気インク文字認識処理を実行した後、文字認識部80は、処理対象文字の文字種類が確定できたか否かを判別する(ステップSA14)。
【0129】
文字種類が確定できた場合(ステップSA14:YES)、文字認識部80は、次の磁気インク文字の第1ピークP1の検出開始位置の更新処理における更新幅を、実文字幅に応じて設定する(ステップSA15)。ステップSA15において設定する更新幅は、例えば、処理対象文字として確定された文字種類の実文字幅に、所定の幅を加えたものとする。所定の幅は、例えば、11サンプリング単位程度の幅である。そして、次のステップSA6において、文字認識部80は、ステップSA15で設定された更新幅に基づいて、次の磁気インク文字の第1ピークP1の検出開始位置の更新処理を行う。これにより、更新後の検出開始位置が次の磁気インク文字の第1ピークP1を飛び越さないようにすることができる。
【0130】
文字種類が確定できなかった場合(ステップSA14:NO)、文字認識部80は、次の磁気インク文字の第1ピークP1の検出開始位置の更新処理における更新幅を、第1の実施形態と同様の所定の更新幅とする(ステップSA16)。そして、次のステップSA6において、文字認識部80は、ステップSA16で設定された更新幅に基づいて、次の磁気インク文字の第1ピークP1の検出開始位置の更新処理を行う。
【0131】
以上により、第2の実施形態に係る記録媒体処理装置、記録媒体処理装置の制御方法、及び、プログラムでは、第1の実施形態に比べて、前の磁気インク文字の波形の部分Aの影響だけでなく、次の磁気インク文字の波形の部分Bの影響も抑えて磁気インク文字認識を実行するので、認識率をより向上させることができる。
【0132】
なお、上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形及び応用が可能である。変形例を以下に述べる。なお、上述した実施形態と同一の構成については、同一の符号を使用し、重複する説明は省略する。
【0133】
(変形例)
例えば、上述した実施形態では、ステップSA4の波形補正処理を、ステップSA3の正規化の後に行う構成であったが、このような構成に限定されない。ステップSA4の波形補正処理を、ステップSA3の正規化の前に行う構成としてもよい。このような構成であっても、上述した実施形態と同等の効果が得られる。
【0134】
また、第2の実施形態では、ステップSA14で文字種類が確定できなかった場合、次の磁気インク文字の第1ピークの検出開始位置の更新処理における更新幅を所定の更新幅とする構成であったが、このような構成に限定されない。文字種類が確定できなかった場合に、磁気インク文字認識で第1候補と選別された文字種類の実文字幅に応じて、次の磁気インク文字の第1ピークの検出開始位置の更新処理における更新幅を設定する構成としてもよい。
【0135】
また、上述した実施形態では、ホストコンピューター70が文字認識部80を備え、磁気インク文字の認識を実行する構成であったが、この文字認識部80の機能を、小切手読取装置1に持たせるようにし、小切手読取装置1が単独で、磁気インク文字の認識に係る各種処理を実行する構成としてもよい。この場合、小切手読取装置1が、記録媒体処理装置として機能する。
【符号の説明】
【0136】
1…小切手読取装置(記録媒体処理装置)、4…小切手(記録媒体)、4A…磁気インク文字列、30…小切手搬送機構(搬送部)、54…磁気ヘッド(読取部)、70…ホストコンピューター(記録媒体処理装置)、71…制御部、73…ホスト側制御部、78…記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に記録された磁気インク文字を磁気的に読み取る読取部と、
規格で定められた複数の文字種類の基準波形データを記憶する記憶部と、
前記読取部と前記記憶部とを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記記録媒体の前記磁気インク文字を前記読取部により読み取って得られる信号波形データを解析し、前記信号波形データの所定域において最初のピークを検出し、前記最初のピークの位置に基づいて1つの磁気インク文字の文字切り出し開始位置を決定して、前記信号波形データから前記1つの磁気インク文字に対応する範囲で文字波形データの切り出しを行い、
切り出された前記文字波形データにおいて、前記文字切り出し開始位置から所定の位置までのデータに負のデータがある場合、前記負のデータの値を所定の基準値に置換した後、
前記文字波形データに対して前記基準波形データと比較して磁気インク文字認識を実行することを特徴とする記録媒体処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記磁気インク文字認識の実行では、前記文字波形データと、前記複数の文字種類の基準波形データのそれぞれと、の差異量に基づいて前記磁気インク文字の文字種類を確定し、
前記差異量を、前記複数の文字種類のそれぞれの前記信号波形データに基づいて得られた実文字幅における前記文字波形データと前記基準波形データとの差異に応じて算出することを特徴とする請求項1に記載の記録媒体処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記磁気インク文字認識を実行して文字種類が確定できた場合に、確定した前記文字種類の前記実文字幅に基づいて、前記1つの磁気インク文字の前記文字切り出し開始位置に対して次の磁気インク文字の最初のピーク検出を開始する位置を決定することを特徴とする請求項2に記載の記録媒体処理装置。
【請求項4】
前記所定の基準値は、ゼロであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の記録媒体処理装置。
【請求項5】
記録媒体に記録された磁気インク文字を磁気的に読み取る読取部と、規格で定められた複数の文字種類の基準波形データを記憶する記憶部と、前記読取部と前記記憶部とを制御する制御部と、を備えた記録媒体処理装置の制御方法であって、
前記記録媒体の前記磁気インク文字を前記読取部により読み取って得られる信号波形データを解析し、前記信号波形データの所定域において最初のピークを検出し、前記最初のピークの位置に基づいて1つの磁気インク文字の文字切り出し開始位置を決定して、前記信号波形データから前記1つの磁気インク文字に対応する範囲で文字波形データの切り出しを行い、
切り出された前記文字波形データにおいて、前記文字切り出し開始位置から所定の位置までのデータに負のデータがある場合、前記負のデータの値を所定の基準値に置換した後、
前記文字波形データに対して前記基準波形データと比較して磁気インク文字認識を実行することを特徴とする記録媒体処理装置の制御方法。
【請求項6】
記録媒体に記録された磁気インク文字を磁気的に読み取る読取部と、規格で定められた複数の文字種類の基準波形データを記憶する記憶部と、を備えた記録媒体処理装置の各部を制御する制御部により実行されるプログラムであって、
前記制御部を、
前記記録媒体の前記磁気インク文字を前記読取部により読み取って得られる信号波形データを解析し、前記信号波形データの所定域において最初のピークを検出し、前記最初のピークの位置に基づいて1つの磁気インク文字の文字切り出し開始位置を決定して、前記信号波形データから前記1つの磁気インク文字に対応する範囲で文字波形データの切り出しを行い、
切り出された前記文字波形データにおいて、前記文字切り出し開始位置から所定の位置までのデータに負のデータがある場合、前記負のデータの値を所定の基準値に置換した後、
前記文字波形データに対して前記基準波形データと比較して磁気インク文字認識を実行する手段として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−252560(P2012−252560A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125109(P2011−125109)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】