説明

記録媒体及び基材

【課題】水分や酸素や炭酸ガスなどによる劣化、またはアルカリ金属やアルカリ土類金属などの不純物の拡散による劣化を抑えることが可能なバリア性の高い薄膜であり、且つ、安全衛生上問題なく、透光性の高い薄膜の成膜装置およびその成膜装置で薄膜がコーティングされた製品の提供を課題とする。加えて、環境に優しい生分解性材料を使用可能な製品範囲を広げるとともに品質保持期間も延長させることも課題とする。
【解決手段】包装フィルム105の内面にAlN膜106、またはAl膜の単層またはこれらの積層を形成(コーティング)することを特徴とする。これらの単層または積層は、透光性が高く、水分や酸素や炭酸ガスのバリア性向上、耐熱性、及び機械的強度を向上させることができる。また、生分解性材料を包装フィルムとして用いた場合、使用可能な製品範囲を広げるとともに品質保持期間も延長させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基材にコーティングする成膜装置およびコーティングされた基材(包装材、建築資材、機械、装置、記録媒体、玩具、スポーツ用品、医用材料、農業資材、生活雑貨)に関する。特にコーティングする薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
スナック菓子袋を典型的な例とした一般包装材用途をはじめ、建築資材、機械、装置、記録媒体、玩具、スポーツ用品、医用材料、農業資材、生活雑貨(衣料、アクセサリ)など幅広い用途でバリア性に優れた透明な保護膜が要求されている。
【0003】
また、近年、環境問題への関心が高まり、加工品全般、特にプラスチック製品に対して、自然環境中に棄却された場合、経時的に分解、焼失する環境に悪影響を及ぼさない製品が求められている。
【0004】
通常、スナック菓子袋は、合成樹脂フィルムにアルミニウム箔をラミネートして遮光性を付与したものが用いられている。従来のスナック菓子袋は、自然環境に強い合成樹脂フィルムを使用しており、自然環境中に棄却された場合、半永久的に残るため、問題となっていた。
【0005】
そこで注目を集めているのは、生分解性プラスチック材料である。生分解性プラスチックは、土壌や水中で、加水分解や生分解により、徐々に崩壊・分解が進行し、最終的に微生物の作用により無害な分解物となることが知られている。現在、実用化が検討されている生分解性プラスチックは、脂肪族ポリエステル、変性PVA(ポリビニルアルコール)、セルロースエステル化合物、デンプン変性体、およびこれらのブレンド体に大別される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プラスチックからなるフィルムは、一般的に水分や酸素や炭酸ガスを透過しやすく、例えば油脂を含む食品はこれらのものによって劣化が促進されるので、油脂を含む食品を包装物とする場合、特に品質保証期間が短くなりやすい。
【0007】
加えて、プラスチックは一般的に熱に弱く、材料自体が変形しやすい。
【0008】
また、他の不純物、例えば人の汗(水分及びアルカリ金属含む)からの不純物がフィルムを通過して拡散し、変質や劣化が促進される恐れがある。
【0009】
特に、環境に優しい生分解性プラスチック材料は、加水分解や生分解により、徐々に崩壊・分解が進行するため、水分や酸素を透過しやすい。また、水分を含むものを包装する場合、内側からも崩壊・分解が進行することになる。従って、生分解性プラスチック材料を使用する製品範囲が限られる。
【0010】
また、ガラス材料やプラスチック材料は、熱伝導性が非常に低く、水蒸気を含む雰囲気で急激な温度変化があると、大気中の水蒸気が吸着して水滴が付きやすい。従って、ガラスレンズやプラスチックレンズを使用した窓、眼鏡(サングラスを含む)またはゴーグルは、急激な温度変化によって曇りやすくなっていた。
【0011】
また、DLC膜の薄膜形成技術が知られており、DLC膜の形成技術をビーカやフラスコ等の実験器具のコーティングに使用した特開平2−70059号公報があり、プラスチック容器の内壁面のコーティングに使用した特開平8−53116号公報がある。しかし、DLC膜は非常に硬く、柔らかいフィルムに適用することには不向きであり、また、DLC膜は、褐色であり透過性も低いものであったため、中身の色が透明であっても褐色に見え印象の悪いものとなっていた。
【0012】
本発明は上記問題に鑑み、水分や酸素や炭酸ガスなどによる劣化、またはアルカリ金属やアルカリ土類金属などの不純物の拡散による劣化を抑えることが可能なバリア性の高い薄膜であり、且つ、安全衛生上問題なく、透光性の高い薄膜の成膜装置およびその成膜装置で薄膜がコーティングされた製品の提供を課題とする。
【0013】
加えて、環境に優しい生分解性材料を使用可能な製品範囲を広げるとともに、品質保持期間も延長させることも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、基材表面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層を形成(コーティング)することを特徴とする。AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層の膜厚は、25nm〜500nmの範囲とする。
【0015】
上記AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層を形成することによって、基材の耐熱性、及び機械的強度を向上させることができる。また、傷がつかないように基材を保護することもできる。また、上記AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層を形成することによって、人の汗(水分及びアルカリ金属含む)からの不純物がフィルムを通過して拡散するのを防ぎ、変質や劣化を抑えることができる。
【0016】
なお、本明細書中において、基材とは、特に限定されず、プラスチック、ガラス、金属、セラミックス、紙、ゴム、木材等、いかなる組成の基材でもよい。また、基材の形状および基材の形状も特に限定されず、平面を有するもの、曲面を有するもの、可曲性を有するもの、フィルム状のものであってもよい。また、包装材料や包装容器として用いるのであれば、フィルム状のプラスチック、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのプラスチックフィルムが好ましい。
【0017】
本明細書で開示する発明の構成は、フィルムの片面または両面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層が形成されていることを特徴とするフィルムである。
【0018】
上記フィルムにおいて、AlNXYで示される層は透光性が高く、フレキシブルでありDLCに比べクラックが発生にくく、柔らかいフィルムに形成できる。例えば、ポリエチレンからなる食品包装用のごく薄い透明なフィルムにAlNXYで示される層を形成して用いることができる。酸素や水分により劣化しやすい油脂を含む食品を包装物とする場合、酸素や水分のバリア性が向上するため、品質保証期間をのばすことができる。
【0019】
上記フィルムにおいて、AlNXYで示される層に含まれる窒素は、2.5atm%〜47.5atm%含み、酸素は、2.5atm%〜47.5atm%含むことを特徴としている。
【0020】
また、上記フィルムにおいて、クラックが生じてAlNXYで示される層の一部が剥がれてしまうことを防ぐために、さらに有機物からなる薄膜を形成してもよい。また、AlNXYで示される層からなる単層を2層以上設けて、さらに該2層の間に有機物からなる薄膜(以下、応力緩和膜と呼ぶ)を設けてもよい。AlNXYで示される層と応力緩和膜の積層によって、よりフレキシブルになり、曲げられたときのクラックを防ぐことができる。
【0021】
また、上記フィルムを用いて、様々なものを包装するための一般的構造を備えた密封性の袋(パウチとも呼ぶ)や、再封可能なチャック付き密封性の袋を形成することもでき、その場合、水分や酸素や炭酸ガスのバリア性向上、耐熱性、及び機械的強度を向上させることができる。特に、酸素や水分により劣化しやすい油脂を含む食品を包装物とする場合、酸素や水分のバリア性が向上するため、品質保証期間をのばすことができる。
【0022】
また、他の発明の構成は、 プラスチック材からなる袋の外面または内面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層が形成されていることを特徴とする包装材料である。
【0023】
また、上記包装材料において、クラックが生じてAlNXYで示される層の一部が剥がれてしまうことを防ぐために、さらに有機物からなる薄膜を形成してもよい。また、AlNXYで示される層からなる単層を2層以上設けて、さらに該2層の間に有機物からなる薄膜(以下、応力緩和膜と呼ぶ)を設けてもよい。AlNXYで示される層と応力緩和膜の積層によって、よりフレキシブルになり、曲げられたときのクラックを防ぐことができる。
【0024】
また、包装材料として生分解性材料を用いてもよく、内面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層または積層をコーティングすることによって、生分解性特性を損なうことなく、酸素や水分のバリア性を向上させ、品質保持期間をのばすことができる。本明細書で開示する発明の構成は、 生分解性プラスチック材からなる袋の内面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層または積層が形成されていることを特徴とする包装材料である。
【0025】
なお、ここでは、生分解性材料として生分解性プラスチック材としたが、代表的な例であり、特に限定されないことは言うまでもない。
【0026】
また、内面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層または積層をコーティングすることによって、水分を含む被包装物、或いは水分を含む液体状の被包装物を生分解性材料で包装することが可能となり、生分解性材料の使用範囲を広げることができる。
【0027】
上記各包装材料において、AlNXYで示される層に含まれる窒素は、2.5atm%〜47.5atm%含み、酸素は、2.5atm%〜47.5atm%含むことを特徴としている。
【0028】
また、本発明は、プラスチックからなる飲料用ボトルなどの容器にコーティングすると有効である。また、透光性が高いため、外観を損なうことがなく、中身を鮮明に見ることができる。本明細書で開示する発明の構成は、 ガラス材またはプラスチック材からなる容器の外壁面または内壁面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層が形成されていることを特徴とする容器である。
【0029】
また、上記容器において、クラックが生じてAlNXYで示される層の一部が剥がれてしまうことを防ぐために、さらに有機物からなる薄膜を形成してもよい。また、AlNXYで示される層からなる単層を2層以上設けて、さらに該2層の間に有機物からなる薄膜(以下、応力緩和膜と呼ぶ)を設けてもよい。AlNXYで示される層と応力緩和膜の積層によって、よりフレキシブルになり、曲げられたときのクラックを防ぐことができる。
【0030】
また、容器を構成する材料として生分解性材料を用いてもよく、内面にコーティングすることによって、生分解性特性を損なうことなく、酸素や水分のバリア性を向上させ、品質保持期間をのばすことができる。本明細書で開示する発明の構成は、生分解性プラスチック材からなる容器の内壁面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層が形成されていることを特徴とする容器である。
【0031】
また、容器の内面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層または積層をコーティングすることによって、水分を含む被包装物、或いは水分を含む液体状の被包装物を生分解性材料で包装することが可能となり、生分解性材料の使用範囲を広げることができる。
【0032】
上記各容器において、AlNXYで示される層に含まれる窒素は、2.5atm%〜47.5atm%含み、酸素は、2.5atm%〜47.5atm%含むことを特徴としている。
【0033】
上記各容器において、AlNXYで示される層はフレキシブルでありDLCに比べクラックが発生にくく、使用する際などで曲げられる可能性のある容器に形成できる。また、上記各容器において、水分や酸素や炭酸ガスのバリア性向上、耐熱性、及び機械的強度を向上させることができる。
【0034】
また、AlNXYで示される層は透光性が高いため、眼鏡、拡大鏡などのレンズの保護膜や窓の保護膜として用いてもよく、本明細書で開示する発明の構成は、表面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層が形成されていることを特徴とするレンズまたは窓である。
【0035】
上記各レンズまたは上記各窓において、AlNXYで示される層に含まれる窒素は、2.5atm%〜47.5atm%含み、酸素は、2.5atm%〜47.5atm%含むことを特徴としている。
【0036】
また、上記AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層は、熱伝導性が高いため、眼鏡や窓が曇ることを防ぐことができる。また、眼鏡や窓において、水分や酸素や炭酸ガスのバリア性向上、耐熱性、及び機械的強度を向上させることができる。
【0037】
また、上記各AlNXYで示される層において、用途に応じ透光性を重視するのであれば、X<Yとし、バリア性を重視するのであれば、X>Yとすればよい。なお、透光性を必要とせず、バリア性を重視するのであれば、酸素を0〜10atm%未満とすることが望ましく、本明細書では、膜中の酸素がごく微量でゼロ、若しくは酸素を不純物と見なせる場合、AlXYで示される層(AlXY膜)と呼ぶ。
【0038】
また、AlNXYで示される層は透光性が高いため、記録媒体、代表的には光ディスクの保護膜として用いてもよく、本明細書で開示する発明の構成は、表面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層が形成されていることを特徴とする記録媒体である。
【0039】
このように、上記各AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層は、さまざまな基材(包装材、建築資材、機械、装置、記録媒体、玩具、スポーツ用品、医用材料、農業資材、生活雑貨)のコーティング膜とすることができる。
【0040】
また、上記構造を実現するための発明の成膜装置の構成は、図1や図4に示すように、チャンバーと、ガス導入系と、排気系と、棒状のターゲットと、該ターゲットと接続されたRF電源と、被処理体を固定するホルダーとを有し、前記チャンバー内に配置される前記被処理体は、開口部を有する袋状または容器状のものであり、前記開口部に前記棒状のターゲットを差し込んで位置決めされた後、前記被処理体の内面にスパッタ法で成膜することを特徴とする成膜装置である。
【0041】
上記成膜装置において、前記棒状のターゲットと前記被処理体の内面との間隔は一定に配置されることを特徴としている。また、チャンバーはアースまたは固定電位に接続されている。
【0042】
上記成膜装置を用いてAlNXY膜(X<Y)を形成する場合、前記棒状のターゲットは、AlNまたはAlからなるターゲットであり、前記ガス導入系から酸素または窒素または希ガスを導入して成膜することを特徴としている。
【0043】
上記成膜装置を用いてAlNXY膜(X≫Y)、もしくはAlXY膜を形成する場合、前記棒状のターゲットは、AlNまたはAlからなるターゲットであり、前記ガス導入系から窒素または希ガスを導入して成膜することを特徴としている。
【発明の効果】
【0044】
本発明により、水分や酸素や炭酸ガスによる劣化、またはアルカリ金属やアルカリ土類金属などの不純物の拡散による劣化を抑えることが可能な薄膜、即ち、バリア性が非常に高い薄膜を提供することができる。加えて、この薄膜は、安全衛生上問題なく、フレキシブルであり、透光性が非常に高い。
【0045】
また、そのような薄膜の製造装置およびその製造装置で得られる薄膜がコーティングされた製品の提供を可能とすることができる。
【0046】
加えて、本発明により、環境に優しい生分解性材料を包装材料として用いた場合、使用可能な製品範囲を広げるとともに品質保持期間も延長させることができる。
【0047】
また、本発明により、水滴が付きにくくなり、くもりにくいレンズおよびそのレンズを備えた眼鏡、サングラス、拡大鏡を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明の実施形態について、以下に説明する。
【0049】
(実施の形態1)
基材(被処理体)にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層は、スパッタ法により図1に示した成膜装置を用いて成膜する。ここでは、袋状または空箱状の包装フィルムの内側に成膜する例を示す。
【0050】
アースに接続されたチャンバー101内を真空状態とし、酸素ガス及び不活性ガス(Arガスまたは窒素ガス)を流して、RF電源104と接続されたAlNからなるターゲット電極103と、該ターゲット電極103とチャンバー101との間に包装フィルム105をホルダー107で固定し、包装フィルム105の内側面へAlNXYで示される層(AlNXY膜)106を成膜する。ただし、包装フィルム105のうち、外側面には形成されない。
【0051】
ここでは包装フィルム105として袋状または空箱状のものを図示したが、2枚のシート状のものを重ねて四辺を全て圧着したものを用いてもよい。包装フィルム105の材料としては、樹脂材料(ポリエステル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等)、代表的には熱可塑性のプラスチック、PVF(ポリビニルフルオライド)フィルム、マイラーフィルム、またはアクリル樹脂フィルムを用いればよい。
【0052】
また、包装フィルム105の材料として、生分解性プラスチック(代表的には、脂肪族ポリエステル、変性PVA(ポリビニルアルコール)、セルロースエステル化合物、デンプン変性体、およびこれらのブレンド体)を用い、内側のみにAlNXY膜を形成した場合、包装物を保護するとともに、外側からのみ分解する、即ち、土壌や水中で、加水分解や生分解により、徐々に崩壊・分解が進行し、最終的に微生物の作用により無害な分解物となる。また、包装フィルム105の材料として、生分解性プラスチックを用い、内側のみにAlNXY膜を形成した場合、使用可能な製品範囲を広げることができ、水分または水を含む包装物としても、内側から崩壊・分解が進行しないものとすることができ、品質保持期間を延長させることができる。
【0053】
また、図4は容器、代表的には飲料用のボトルの内側にAlNXY膜を成膜する例である。図4中、401はアースに接続されたチャンバー、404はRF電源、403はAlNからなるターゲット電極、405は、ターゲット電極403とチャンバー401との間にホルダー407で固定された容器、406は、容器405の内側面へAlNXYで示される層(AlNXY膜)である。AlNXY膜をプラスチックからなる飲料用ボトルなどの容器にコーティングすると、透光性が高いため、外観を損なうことがなく、中身を鮮明に見ることができる。また、炭酸水を用いた場合においても、水分や酸素や炭酸ガスのバリア性が高い容器とすることができる。
【0054】
なお、図1および図4では、AlNXY膜の単層で説明を行ったが、組成の異なるAlNXY膜との積層、AlXYで示される層、またはこれらの積層としてもよい。
【0055】
また、図1および図4では、ターゲット電極は棒状(円柱状または角柱状)のものを図示したが、特に限定されないことは言うまでもない。ターゲットと被処理体の内面との間隔は一定に配置されることが好ましいので、被処理物の形状に合わせたターゲット形状とすればよい。
【0056】
(実施の形態2)
図2(A)および図2(B)は、本発明の有機材料からなるフィルムの一例を簡略に示した図である。
【0057】
また、一方の面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層を有する有機フィルムも本発明の一つであり、図2(A)では、AlNXY膜202の単層が一方の面に設けられた有機フィルム201を示す図である。
【0058】
また、双方の面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層を有する有機フィルムも本発明の一つであり、図2(B)では、単層のAlNXY膜204a、204bが双方の面に設けられた有機フィルム203を示す図である。
【0059】
ここでの有機フィルムとは、具体的にはポリマーフィルムの単層または積層を指している。本発明に用いられる有機フィルムとしては、ポリビニルアルコール系フィルム、エチレンビニルアルコール系フィルム、セルロース系フィルム、ポリカーボネート系フィルムなどが挙げられる。
【0060】
有機フィルムの一方の面または双方の面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層を設けることによって、アルカリ金属やアルカリ土類金属などの不純物の混入を効果的に防ぐ機能を備えたフィルムとすることができる。加えて、AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層は、発熱を拡散させる効果とともに、有機フィルムの変形や変質を保護する効果を有する。
【0061】
ここで、膜厚100nmにおけるAlNXY膜(X<Y)の透過率を図5に示す。AlNXY膜は、図5に示したように、可視光領域で透過率80%〜90%と透光性が非常に高い。
【0062】
本発明において、AlNXY膜は、スパッタ法を用い、例えば、窒化アルミニウム(AlN)ターゲットを用い、アルゴンガスと窒素ガスと酸素ガスを混合した雰囲気下にて成膜する。アルゴンガスで代表される希ガスを用いた場合、膜中に希ガスを含む。AlNXY膜(X<Y)は、膜中に窒素を数atm%以上、好ましくは2.5atm%〜47.5atm%含む範囲であればよく、酸素を好ましくは2.5atm%〜47.5atm%含む範囲であればよく、スパッタ条件(基板温度、導入ガスおよびその流量、成膜圧力など)を適宜調節することによって窒素濃度や酸素濃度を調節することができる。なお、シリコン基板上に形成して得られたAlNXY膜のESCA(Electron Spectroscopy for Analysis)での分析データに基づく組成を図6に示す。また、アルミニウム(Al)ターゲットを用い、窒素ガス及び酸素ガスを含む雰囲気下にて成膜してもよい。
【0063】
また、導入するガス流量などのスパッタ条件を変化させて、AlNXY膜(X≧Y)を形成してもよいし、膜の膜厚方向に窒素または酸素の濃度勾配を有するAlNXY膜(X<Y)またはAlNXY膜(X≧Y)を形成してもよい。
【0064】
また、ここで、膜厚100nmにおけるAlXY膜の透過率を図7に示す。図5に示したAlNXY膜(X<Y)に比べて透光率の平均が低いものの、可視光領域で透過率80%〜91.3%と高い。
【0065】
本発明において、AlXY膜は、スパッタ法を用い、例えば、窒化アルミニウム(AlN)ターゲットを用い、アルゴンガスと窒素ガスを混合した雰囲気下にて成膜する。アルゴンガスで代表される希ガスを用いた場合、膜中に希ガスを含む。AlXY膜に含まれる不純物、特に酸素は0〜10atm%未満であればよく、スパッタ条件(基板温度、導入ガスおよびその流量、成膜圧力など)を適宜調節することによって酸素濃度を調節することができる。AlXY膜は、膜中に窒素を数atm%以上、好ましくは2.5atm%〜47.5atm%含む範囲であればよく、酸素を47.5atm%以下、好ましくは、0〜10atm%未満であればよい。
なお、シリコン基板上に形成して得られたAlXY膜のESCAでの分析データに基づく組成を図8に示す。また、アルミニウム(Al)ターゲットを用い、窒素ガスを含む雰囲気下にて成膜してもよい。
【0066】
また、導入するガス流量などのスパッタ条件を変化させて、膜の膜厚方向に窒素または酸素の濃度勾配を有するAlXY膜を形成してもよい。
【0067】
また、上記AlNXY膜、または上記AlXY膜の上にAl23で示される層を形成してもよい。Al23で示される層を形成する場合、スパッタ法を用い、例えば、酸化アルミニウム(Al23)ターゲットを用い、アルゴン雰囲気下にて成膜する。また、アルミニウム(Al)ターゲットを用い、酸素ガスを含む雰囲気下にて成膜してもよい。
【0068】
こうして得られる有機フィルムは、包装材料に用いることができ、食品包装用のごく薄い透明なフィルムとしてもよい。また、上記有機フィルムを用いて、様々なものを包装するための一般的構造を備えた密封性の袋(パウチとも呼ぶ)や、再封可能なチャック付き密封性の袋を形成することもでき、その場合、水分や酸素や炭酸ガスのバリア性向上、耐熱性、及び機械的強度を向上させることができる。
【0069】
また、上記有機フィルムにおいて、クラックが生じてAlNXYで示される層の一部が剥がれてしまうことを防ぐために、さらに有機物からなる薄膜を形成してもよい。また、AlNXYで示される層からなる単層を2層以上設けて、さらに該2層の間に有機物からなる薄膜(以下、応力緩和膜と呼ぶ)を設けてもよい。AlNXYで示される層と応力緩和膜の積層によって、よりフレキシブルになり、曲げられたときのクラックを防ぐことができる。
【0070】
また、上記有機フィルムは、片方の面に接着材をつければテープとして用いることができる。
【0071】
また、上記有機フィルムは、電子卓上計算機、電子時計、携帯情報端末、ワープロ、自動車や機械類の計器類等の表示装置、サングラス、ゴーグル、防目メガネ、立体メガネ、表示素子(CRT、LCD等)の保護フィルムとして用いることができる。なお、上記有機フィルムの表面には熱伝導性が高いAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層が形成されるため、水滴が付きにくくなり、くもりにくいものとすることができる点でこれらの保護フィルムとしては最適である。
【0072】
また、プラスチックからなる自動二輪車のスクリーンや、自動車のフロントガラスなどの窓、車両用のサイドバイザー、船舶の窓、航空機の窓、建築物の窓などにAlNXYで示される層の単層または積層をコーティングして保護してもよい。窓の表面に熱伝導性が高いAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層を形成すれば、水滴が付きにくくなり、くもりにくい窓とすることができる。
【0073】
図2(C)は、本発明のカバー材の一例を簡略に示した図である。ここでは、凹部を有しているカバー材205を示したが特に形状は限定されない。また、一方の面にAlNXY膜を形成した例を示したが、双方の面にAlNXY膜を形成してもよい。
【0074】
図2(C)に示したように、ガラスやプラスチックからなるカバー材205にAlNXYで示される層206の単層または積層をコーティングして電子卓上計算機、電子時計、携帯情報端末、ワープロ、自動車や機械類の計器類等の表示装置、代表的には液晶表示装置や有機発光素子(OLED:Organic Light Emitting Device)を有する発光装置や電気泳動ディスプレイのカバー材としてもよい。
【0075】
なお、電気泳動ディスプレイ(電気泳動表示装置)とは、電子ペーパーとも呼ばれており、紙と同じ読みやすさ、他の表示装置に比べ低消費電力、薄くて軽い形状とすることが可能という利点を有している。電気泳動ディスプレイは、様々な形態が考えられ得るが、プラスの電荷を有する第1の粒子と、マイナスの電荷を有する第2の粒子とを含むマイクロカプセルが溶媒または溶質に複数分散されたものであり、マイクロカプセルに電界を印加することによって、マイクロカプセル中の粒子を互いに反対方向に移動させて一方側に集合した粒子の色のみを表示するものである。なお、第1の粒子または第2の粒子は染料を含み、電界がない場合において移動しないものである。また、第1の粒子の色と第2の粒子の色は異なるもの(無色を含む)とする。上記マイクロカプセルを溶媒中に分散させたものが電子インクと呼ばれるものであり、この電子インクはガラス、プラスチック、布、紙などの表面に印刷することができる。また、カラーフィルタや色素を有する粒子を用いることによってカラー表示も可能である。なお、マイクロカプセル中の第1の粒子および第2の粒子は、導電体材料、絶縁体材料、半導体材料、磁性材料、液晶材料、強誘電性材料、エレクトロルミネセント材料、エレクトロクロミック材料、磁気泳動材料から選ばれた一種の材料、またはこれらの複合材料を用いればよい。
【0076】
中でも、プラスチックからなるカバー材を用いたOLEDを有する発光装置においては、水分や酸素を透過しやすく、有機発光層はこれらのものによって劣化が促進されるので、特に発光装置の寿命が短くなりやすいという欠点があったが、AlNXYで示される層をカバー材表面に設けることによって、水分や酸素の有機発光層への混入を十分防止することができる。
【0077】
ここで、AlNXY膜による水分や酸素のブロッキング効果を確認するため、膜厚200nmのAlNXY膜が設けられたフィルム基板でOLEDを封止したサンプルと、膜厚200nmのSiN膜が設けられたフィルム基板でOLEDを封止したサンプルとを用意して、85度に加熱した水蒸気雰囲気中での経時変化を調べる実験を行ったところ、SiN膜のサンプルに比べ、AlNXY膜のサンプルのほうがOLEDの寿命が長く、長時間の発光が可能であった。この実験結果から、AlNXY膜は、SiN膜よりも装置外から水分や酸素などの不純物といった有機化合物層の劣化を促す物質が侵入することを防げる材料膜であることが読み取れる。
【0078】
加えて、他の不純物、例えば人の汗や接続部品からの不純物が拡散し、有機発光層やTFTの活性層に混入すると、変質や劣化が促進される恐れがあるが、AlNXY膜は、これらの不純物の拡散をブロックする効果をも有している。
【0079】
ここで、AlNXY膜によるアルカリ金属のブロッキング効果を確認するため、シリコン基板上に膜厚50nmの熱酸化膜を設け、その上に膜厚40nmのAlNXY膜を設け、その上にLiを含むアルミニウム電極を設け、これらの膜が設けられた面とは反対側のシリコン基板面にSiを含むアルミニウム電極を設けて300℃、1時間の熱処理を行った後、BTストレス試験(±1.7MV/cm、150℃、1時間)を行いMOS特性(C−V特性)を測定した。得られたC―V特性は、プラスの電圧を印加した時、即ち+BTの時、プラス側にシフトしていることから、シフトした原因はLiではなく、AlNXY膜によるアルカリ金属のブロッキング効果が有ることが確認できた。比較のため、MOSの上方に絶縁膜(膜厚100nmの窒化シリコン膜)を介してAlLi合金を形成し、同様にそのMOSの特性変動を調べた。プラスの電圧を印加した時、即ち+BTの時、C−V特性変動は大きくマイナス側にシフトしており、その原因は、主にLiが活性層へ混入したことであると考えられる。AlNXYで示される層をカバー材に設けることによって、アルカリ金属などの不純物の有機発光層への混入を十分防止することができる。
【0080】
また、フィルタの表面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングし、例えば、電子卓上計算機、電子時計、携帯情報端末、ワープロ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置に設けるカラーフィルタに実施してもよい。こうすることでフィルタ自体の変質を防ぐことができ、発熱も発散することができる。
【0081】
また、金属やセラミックスからなる刃物の表面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングして、包丁、カッター、電気カミソリの機械的強度を向上させてもよい。AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層は、バリア性が高いため、錆を防止することができる。
【0082】
また、記録媒体、例えば、CD(コンパクトディスク)やDVD(Digtial Versatile Disc)などの光ディスクの表面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングして保護し、耐熱性、及び機械的強度を向上させることができる。また、AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層は、人の汗などに含まれる不純物の混入を防ぎ、プラスチックの変質および劣化を防ぐため光ディスクとしての寿命を延ばすことができる。
【0083】
また、光源の表面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングして、例えば、電球、蛍光灯、LED(発光ダイオード)の保護膜としてもよい。AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層は、透光性が高いため光源としての機能を低下させることがなく、さらに熱伝導性が高いため、発熱も発散することができる。また、AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層は、不純物の混入を防ぎ、光源としての寿命を延ばすことができる。
【0084】
以上の構成でなる本発明について、以下に示す実施例でもってさらに詳細な説明を行うこととする。
【実施例1】
【0085】
本発明を実施することによって、図3に一例を示した全ての製品が完成される。図3にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングした製品例を示す。
【0086】
図3(A)は、スナック菓子袋を典型的な例とした包装袋2001である。この包装袋の内面に図1に示す成膜装置を用いて、AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングしたコーティング面2002を形成する。なお、ここでは説明上、封の空いた袋を示したが、密封した場合、スナック菓子などの包装物はコーティング面で完全に覆われる。
【0087】
図3(B)は、飲料用のボトルを典型的な例とした容器2102である。この容器の内面に図4に示す成膜装置を用いて、AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングする。また、容器2102を密閉するためのキャップ2101の内面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングしてもよい。
【0088】
図3(C)は、ゴルフのピン2202を典型的な例としたスポーツ用品である。このピンの表面の一部にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングする。ピンは消耗品であり、環境上、生分解性プラスチック材料を用いることが好ましい。また、ゴルフボール2201の表面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングしてもよい。
【0089】
図3(D)は、ガラスレンズやプラスチックレンズを使用した眼鏡(サングラスを含む)またはゴーグルの外観図である。このレンズ2302にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングする。また、アーム部2303や本体2301の表面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングしてもよい。
【0090】
図3(E)は、キャンデー(飴)2401の包装フィルム2402を典型的な例とした包装フィルムである。包装フィルムの一方の面または双方の面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングする。
【0091】
図3(F)は、CD(コンパクトディスク)やDVD(Digtial Versatile Disc)などの光ディスク2501を典型的な例とした記録媒体である。光ディスクの一方の面または双方の面にAlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層をコーティングする。こうすることによって、耐熱性、及び機械的強度を向上させることができる。AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層は、透光性が非常に高いのでデータの読み取りや書き込みにおいて妨げとならない。また、AlNXYで示される層、またはAlXYで示される層の単層またはこれらの積層は、人の汗などに含まれる不純物の混入を防ぎ、光ディスクに用いられている樹脂の変質および劣化を防ぐため光ディスク2501としての寿命を延ばすことができる。
【0092】
以上の様に、本発明の適用範囲は極めて広く、あらゆる分野の製品、およびその作製方法に実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の成膜装置を示す図。
【図2】本発明の有機フィルムを示す断面図。
【図3】製品の一例を示す図。
【図4】本発明の成膜装置を示す図。
【図5】本発明のAlNXY膜(X<Y)の透過率を示すグラフである。
【図6】本発明のAlNXY膜(X<Y)のESCA分析データに基づく組成を示す図である。
【図7】本発明のAlXY膜の透過率を示すグラフである。
【図8】本発明のAlXY膜のESCA分析データに基づく組成を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にAlNで示される層の単層または積層が形成されていることを特徴とする記録媒体。
【請求項2】
請求項1において、
前記AlNで示される層の透過率は、可視光領域において80%〜90%となることを特徴とする記録媒体。
【請求項3】
表面にAlNで示される層の単層または積層が形成されていることを特徴とする基材。
【請求項4】
請求項3において、
前記AlNで示される層の透過率は、可視光領域において80%〜90%となることを特徴とする基材。
【請求項5】
請求項3又は4において、
前記基材は、包装材、建築資材、機械、装置、玩具、スポーツ用品、医用材料、農業資材、生活雑貨、有機フィルム、又は容器であることを特徴とする基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−269024(P2007−269024A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84651(P2007−84651)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【分割の表示】特願2001−313128(P2001−313128)の分割
【原出願日】平成13年10月10日(2001.10.10)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】