説明

記録媒体

【課題】 印刷面への傷の付着を防ぎながらもカールの発生を抑制できるロール状記録媒体を提供すること。
【解決手段】 基材の両面に顔料とポリビニルアルコールとを含有するインク受容層を有し、紙管に対してロール状に巻回された記録媒体であって、両面のうち紙管から遠い側である外面のインク受容層が含有するポリビニルアルコールの粘度平均重合度(a)及びケン化度(b)と、紙管から近い側である内面のインク受容層が含有するポリビニルアルコールの粘度平均重合度(c)及びケン化度(d)とが、下記関係を満たすことを特徴とする記録媒体。
a≧c、b≧d
(ただしa=c且つb=dの場合を除く)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール状の記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
パノラマ印刷やミニラボ機による写真印刷に適した記録媒体として、ロール状に巻回された記録媒体が用いられている。このようなロール状記録媒体には、巻ぐせによりカール(記録媒体が湾曲する現象)が発生することがあり、これを抑制することが求められている。
【0003】
かかる要求に対して、特許文献1には、長尺シートのコート層(印刷面)を巻き取り内面に巻き、コート層の裏側面からカール矯正部材によってカール矯正を施す方法が記載されている。特許文献2には、塗工層が外側となるように巻き取り、かつ巻き取り矯正行程において塗工層の表面に外力付与手段を接触させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−307808号公報
【特許文献2】特開2007−190698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載されている方法は、いずれもロール状記録媒体のカールを外力付与により矯正するものである。特許文献1では、印刷面が片面であり、その裏面から外力付与を行うことでカールを矯正しているが、この方式では、両面に印刷面が存在する場合には外力付与の際に印刷面に傷等が発生し、画像品位が低下する場合があった。また、特許文献2では、印刷面への外力付与を行うことによってカールを矯正しているが、このような場合、外力付与の際に印刷面に傷等が発生し、画像品位が低下する場合があった。
【0006】
従って本発明は、印刷面への傷の付着を防ぎながらもカールの発生を抑制できるロール状記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち本発明は、基材の両面に顔料とポリビニルアルコールとを含有するインク受容層を有し、紙管に対してロール状に巻回された記録媒体であって、両面のうち紙管から遠い側である外面のインク受容層が含有するポリビニルアルコールの粘度平均重合度(a)及びケン化度(b)と、紙管から近い側である内面のインク受容層が含有するポリビニルアルコールの粘度平均重合度(c)及びケン化度(d)とが、下記関係を満たすことを特徴とする記録媒体である。
a≧c
b≧d
(ただしa=c且つb=dの場合を除く)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、印刷面への傷の付着を防ぎながらもカールの発生を抑制できるロール状記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の記録媒体を示す図である。
【図2】本発明の記録媒体の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の記録媒体を図1に示す。図1に示す通り、本発明の記録媒体は、紙管に対してロール状に巻回された記録媒体である。巻芯である紙管1に巻回された記録媒体は、基材の両面、即ち基材の外面側2及び内面側3にインク受容層を有する。基材の外面とは、両面のうち紙管から遠い側の面であり、巻回したときに外側になる面である。基材の内面とは、両面のうち紙管から近い側の面であり、巻回したときに内側になる面である。記録媒体の断面を図2に示す。図2においては、基材6上に、外面のインク受容層4と、内面のインク受容層5が配置されている。
【0011】
本発明の記録媒体は、基材の両面のインク受容層が、顔料とポリビニルアルコールとを含有する。外面のインク受容層と内面のインク受容層とが含有するポリビニルアルコールは、粘度平均重合度やケン化度が異なる。具体的には、外面のインク受容層が含有するポリビニルアルコールの粘度平均重合度(a)及びケン化度(b)と、内面のインク受容層が含有するポリビニルアルコールの粘度平均重合度(c)及びケン化度(d)とが、下記関係を満たす。
a≧c
b≧d
(ただしa=c且つb=dの場合を除く)
本発明の記録媒体は、このような構成により、カールの発生を抑制するものである。この理由を以下に詳細に説明する。
【0012】
本発明者らの検討によれば、インク受容層が含有するポリビニルアルコールのケン化度や粘度平均重合度が高くなると、インク受容層の抗張力は高くなる。ポリビニルアルコールを含有するインク受容層は、低湿下で縮むが、抗張力が高いとより縮みやすい傾向にある。逆に高湿下では伸びるが、抗張力が低いとより伸びやすい傾向にある。そこで、本発明の記録媒体は、抗張力の高いインク受容層を外面に、抗張力の低いインク受容層を内面に配置する。このようにすることで、高湿、低湿のいずれの条件であっても、カールの発生を抑制することができる。即ち、低湿下では、インク受容層は縮みやすい傾向にあるが、抗張力の高い外面のインク受容層の方がより縮みやすい。この結果、巻回を解いた状態において、カールの発生を抑制する方向に力が働く。一方、高湿下では、インク受容層は伸びやすい傾向にあるが、抗張力の低い内面のインク受容層の方がより伸びやすい。この結果、高湿下においても、カールの発生を抑制することができる。尚、記録媒体に水性インクが付与されると、記録媒体は高湿状態となる。このため、インクを付与することによっても、カールの発生を抑制する効果が促進される。
【0013】
外面のインク受容層が含有するポリビニルアルコールの粘度平均重合度(a)は、2400以上3500以下であることが好ましい。また、ケン化度(b)は、88.0mol%以上99.0mol%以下であることが好ましい。
【0014】
内面のインク受容層が含有するポリビニルアルコールの粘度平均重合度(c)は、500以上2400以下であることが好ましい。また、ケン化度(d)は、78.0mol%以上88.0mol%以下であることが好ましい。より好ましくは、(c)は2300以下である。また、(d)は80.0mol%以上である。
【0015】
粘度平均重合度(a)は、粘度平均重合度(c)よりも1500以上高いことが好ましい。また、ケン化度(b)は、ケン化度(d)よりも5.0mol%以上高いことが好ましく、10.0mol%以上高いことがより好ましい。
【0016】
尚、本発明におけるポリビニルアルコールの粘度平均重合度及及びケン化度は、JIS K 6726に準拠した方法で測定した値である。
【0017】
以下、本発明にかかる記録媒体の各構成材料についてさらに詳細に説明する。
(基材)
本発明で用いられる基材としては、例えば、キャストコート紙、バライタ紙、レジンコート紙(両面がポリオレフィン等の樹脂で被覆された樹脂皮膜紙)等の紙類、フィルム等が挙げられる。フィルムとしては、例えば、下記の透明な熱可塑性樹脂フィルムが挙げられる。即ち、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリアセテート、ポリ塩化ビニル、酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等である。これ以外にも、適度なサイジングが施された紙である無サイズ紙やコート紙、無機物の充填若しくは微細な発泡により不透明化されたフィルムからなるシート状物質(合成紙等)を用いてもよい。さらに、これらの基材とインク受容層との接着強度を向上させるため、基材の表面にコロナ放電処理や各種アンダーコート処理を施してもよい。上述した基材の中でも、インク受容層形成後の記録媒体の光沢感等の点から、レジンコート紙を用いることが好ましい。
【0018】
(インク受容層)
本発明の記録媒体は、基材の外面及び内面に、顔料とポリビニルアルコールとを含有するインク受容層を有する。
【0019】
顔料としては、例えば以下の無機顔料や有機顔料を用いる。無機顔料としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、水酸化マグネシウム等である。有機顔料としては、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン粒子、マイクロカプセル粒子、尿素樹脂粒子、メラミン樹脂粒子等である。これらは2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、染料定着性、透明性、印字濃度、発色性、及び光沢性の点で、アルミナ水和物を主成分として含有させることが好ましい。本発明で使用されるアルミナ水和物としては、例えば、下記一般式(X)により表されるものを好適に利用できる。
一般式(X); Al3−n(OH)2n・mH
(上記式中、nは0、1、2または3の何れかを表し、mは0〜10、好ましくは0〜5の範囲にある値を表す。但し、mとnは同時に0にはならない。mHOは、多くの場合、結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相を表すものであるため、mは整数または整数でない値をとることができる。また、この種の材料を加熱するとmは0の値に達することがあり得る。)
アルミナ水和物の結晶構造としては、熱処理する温度に応じて、非晶質、キブサイト型、ベーマイト型の水酸化アルミニウムからγ、σ、η、θ、α型のアルミニウム酸化物に転移していくことが知られている。本発明においては、これらいずれの結晶構造のものも使用可能である。本発明において好適なアルミナ水和物としては、X線回折法による分析でベーマイト構造若しくは非晶質を示すアルミナ水和物であって、特に、特開平7−232473号公報、特開平8−132731号公報、特開平9−66664号公報、特開平9−76628号公報等に記載されているアルミナ水和物が挙げられる。市販品としてはDisperal HP14(商品名、サソール製)及びDisperal HP18(商品名、サソール製)等が挙げられる。
【0020】
アルミナ水和物は、製造過程において細孔物性の調整がなされるが、インク受容層のBET比表面積、細孔容積を良好な値とするためには、細孔容積が0.30ml/g以上1.00ml/g以下であるアルミナ水和物を用いることが好ましい。より好ましくは0.35ml/g以上0.90ml/g以下である。また、BET比表面積については、50m/g以上350m/g以下のアルミナ水和物を用いることが好ましい。より好ましくは、100m/g以上250m/g以下である。
【0021】
尚、上記BET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、試料に吸着気体を吸着させ、その吸着量を用いて吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。この際、多分子吸着の等温線を表すものとしてBET式と呼ばれる、Brunauer、Emmett、Tellerの式を用いて比表面積を決定する。上記BET法では、BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けることにより比表面積が得られる。BET法では、窒素吸着脱離法の測定において、ある相対圧力における吸着量の関係を数点測定し、最小二乗法によりそのプロットの傾き、切片を求めることで比表面積を導き出す。本発明では、相対圧力と吸着量の関係を5点測定し、比表面積を導き出す。
【0022】
本発明において好適なアルミナ水和物の形状としては、平板状で、平均アスペクト比が3以上10以下、平板面の縦横比0.6以上1.0以下であるものが好ましい。アスペクト比は、粒子の「厚さ」に対する「直径」の比で示す。ここで「直径」とは、アルミナ水和物を顕微鏡または電子顕微鏡で観察したときの粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径を示すものとする。上記平板面の縦横比は、アスペクト比と同様に、粒子を顕微鏡で観察して平板面の最小値を示す直径と最大値を示す直径の比である。平均アスペクト比が3より小さいアルミナ水和物を使用した場合は、形成したインク受容層の細孔分布範囲が狭くなることがある。また、10を超えるものを使用する場合は、アルミナ水和物の粒子径を揃えて製造するのが困難となることがある。縦横比が0.6より小さいものを使用する場合も、同様にインク受容層の細孔分布範囲が狭くなることがある。
【0023】
アルミナ水和物の中には、繊毛状とそうでない形状のものがあることが一般に知られている。本発明者らの知見によれば、同じアルミナ水和物であっても、平板状のアルミナ水和物の方が、繊毛状のものよりも分散性がよい。また、繊毛状のアルミナ水和物の場合は、塗工時に下塗り層表面に対して平行に配向する傾向がみられ、形成される細孔が小さくなる場合があり、このためにインク受容層のインク吸収性が小さくなることがある。これに対して、平板状のアルミナ水和物を用いた場合は、塗工により配向する傾向は小さく、このため形成されるインク受容層の細孔の大きさや、インク吸収性への影響は少ない。
【0024】
インク受容層のポリビニルアルコールの含有量は、顔料に対して、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。ポリビニルアルコールの含有量が5質量%未満の場合は、インク受容層にクラックが発生しやすくなり、また、インク受容層の機械的強度が不十分となり、粉落ちが生じ易くなる。一方、50質量%を超える場合は、インク吸収性の低下や、インク中の染料の吸着性低下が生じることがある。さらに、高温高湿下においても十分なインク吸収性を得るためには、ポリビニルアルコールの含有量を20質量%以下とすることが好ましい。
【0025】
インク受容層は、クラック発生の抑制のために、ホウ酸及びホウ酸塩からなる群より選ばれた1種以上を含有させてもよい。この際に用いるホウ酸としては、オルトホウ酸(HBO)だけでなく、メタホウ酸や次ホウ酸等が挙げられる。ホウ酸塩としては、上記ホウ酸の水溶性の塩であることが好ましい。具体的には、例えば、ホウ酸のナトリウム塩(Na・10HO、NaBO・4HO等)や、カリウム塩(K・5HO、KBO等)等のアルカリ金属塩、ホウ酸のアンモニウム塩(NH・3HO、NHBO等)、ホウ酸のマグネシウム塩やカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等を挙げることができる。塗工液の経時安定性と、クラック発生の抑制効果の点からオルトホウ酸を用いることが好ましい。また、その使用量としては、インク受容層中のポリビニルアルコールに対して、ホウ酸固形分1.0質量%以上15.0質量%以下とすることが好ましい。1.0質量%以上15.0質量%以下でも、製造条件等によってはクラックが発生する場合があり、選択を必要とする。また、15.0質量%を超える場合は、塗工液の経時安定性が低下するため好ましくない。即ち、生産する場合においては、塗工液を長時間に渡って使用するので、ホウ酸の含有量が多いと、その間に塗工液の粘度の上昇やゲル化物の発生が起こり、塗工液の交換やコーターヘッドの清掃等が頻繁に必要となり、生産性が著しく低下してしまう。さらに、15.0質量%を超える場合、均質で良好な光沢面が得られない場合がある。
【0026】
本発明のインク受容層は、例えば基材上にインク受容層用塗工液を塗工することで形成する。インク受容層用塗工液は、アルミナ水和物とポリビニルアルコールとを含有する。必要に応じて架橋剤を含有してもよい。インク受容層用塗工液の調製には、アルミナ水和物分散液とポリビニルアルコール水溶液とを塗工の直前で混合して塗工液とするミキシング装置を使用することが好ましい。このようにすれば、製造工程中に生じる塗工液の粘度の経時的上昇やゲル化を低減することができるので、生産効率の向上を図ることができる。アルミナ水和物分散液中のアルミナ水和物の固形分濃度は、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。30質量%を超える場合は、アルミナ水和物分散液の粘度が高くなり、インク受容層用塗工液の粘度も高くなるので、塗工性が低下する場合がある。
【0027】
本発明の記録媒体には、色材劣化防止剤を添加してもよい。色材劣化防止材とは、インク受容層中に色材とともに存在した際に、ガス及び光等の色材を劣化させる要因より染料を守り、色材の耐候性を向上させる化合物のことである。例えば、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、チオウレア系化合物、チウラム系化合物、ホスファイト系化合物等が挙げられる。
【0028】
本発明において色材劣化防止剤は、溶媒に溶解した調製液を、インク受容層にオーバーコートすることにより、インク受容層内に添加することが好ましい。色剤劣化防止剤を溶解する溶剤は、前記色剤劣化防止剤が溶解可能であればよい。例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル等のエーテル類、イソプロパノール、メタノール、エタノール等のアルコール類が挙げられる。インク受容層面に塗工部材が接触する方式でのオーバーコートを行なう場合には、オーバーコート工程における受容層面の傷つき等が懸念されるため、光沢処理工程の前にオーバーコートするのが好ましい。
【0029】
インク受容層用塗工液には、pH調整剤として、例えば蟻酸、酢酸、グリコール酸、シュウ酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グルタル酸、グルコン酸、乳酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、ピメリン酸、スベリン酸等の有機酸や、塩酸、硝酸、燐酸等の無機酸、及びこれらの塩等を含有させてもよい。また、インク受容層用塗工液には、以下の添加剤を含有させてもよい。例えば、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、浸透剤、着色顔料、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、染料定着剤、硬化剤、耐候材料等である。
【0030】
インク受容層は、インクの高速吸収性、高発色性、高解像性等の目的及び効果を達成する上で、細孔物性が、下記の条件を満足するものであることが好ましい。まず、インク受容層の細孔径分布において、細孔半径5nm以上20nm以下にピークを有することが好ましい。5nmに満たない場合は、インクの高速吸収性に劣る場合があり、20nmを超える場合には、発色性や解像性が低下する場合がある。インク受容層の細孔容積は、0.1cm/g以上1.0cm/g以下であることが好ましい。細孔容積が0.1cm/gに満たない場合は、インク吸収性が低下する傾向にある。一方、1.0cm/gを超える場合は、インク受容層に、クラックや粉落ちが生じる場合がある。インク受容層のBET比表面積は、20m/g以上450m/g以下であることが好ましい。20m/gに満たない場合は、十分な光沢性が得られないことがあり、また、画像に白いモヤがかかったようになることがある。さらに、インクが染料を含有している場合は、染料の発色性が低下するだけでなく、染料の吸着性が低下することもある。一方、450m/gを超えると、インク受容層にクラックが生じ易くなる。尚、細孔容積、BET比表面積の値は、窒素吸着脱離法により求められた値である。
【0031】
インク受容層の乾燥塗工量は、片面当たり30g/m以上50g/m以下とすることが好ましい。30g/mに満たない場合は、十分なインク吸収性が得られず、ブリーディングが発生する場合や、基材にまでインク中の色材が拡散し、印字濃度が低下する場合がある。一方、50g/mを超える場合には、クラックの発生を抑えきれないことがある。また、30g/m以上であると、高温高湿環境下においても十分なインク吸収性を示すインク受容層が得られるので好ましい。50g/m以下とすると、インク受容層の塗工ムラが生じにくくなり、安定した厚みのインク受容層を製造できるため好ましい。
【0032】
インク受容層用塗工液の塗工は、適正な塗工量が得られるように、例えば、各種カーテンコーター、エクストルージョン方式を用いたコーターやスライドホッパー方式を用いたコーターを使用し、オンマシン、オフマシンで塗工する。尚、塗工時に、塗工液の粘度調製等を目的として塗工液を加温してもよく、コーターヘッドを加温してもよい。
【0033】
また、塗工後の塗工液の乾燥には、例えば、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤー等の熱風乾燥機を用いる。また、赤外線、加熱ドライヤー、マイクロ波等を利用した乾燥機等を、適宜、選択して用いてもよい。
【0034】
(紙管、及び巻き取り方法)
本発明の記録媒体は、紙管に対してロール状に巻回されている。紙管は、例えば硬質紙や紙管原紙を巻回し円筒状に加工した後、所望の長さに切断した紙管が挙げられる。必要に応じて表面を研磨仕上げ、あるいはウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂等で吹き付け塗装後、研磨仕上げした紙管を用いてもよい。また、全体がプラスチックでできた管状の紙管を用いてもよい。さらに、紙管にゴム、スポンジ等のクッション効果のあるものを巻き付けたものを用いてもよい。紙管原紙の巻回・成形方法は特に限定されるものではない。例えば、原紙を所望の大きさに切断後、樹脂等を含浸させて数回平巻きにし、熱プレス等の方法により表面を硬化させる方法がある。また、断面を台形状、平行四辺形状に加工した帯状の紙管原紙に樹脂等を含浸させた後、切断加工面を重ね合わせながら螺旋状に巻き上げ、熱プレス等の表面を硬化させる方法がある。
【0035】
紙管の外径は4inch以上であることが好ましく、5inch以上であることがさらに好ましい。4inch未満では選択可能な記録媒体の剛度の数値が小さくなりすぎ、写真や、アルバムといった用途に用いた場合には品位が低下する場合がある。
【0036】
本発明において、記録媒体を巻回する巻き取り機の方式は、特に限定されるものではないが、ゴムロール等のタッチロールを記録媒体に押しあてながら巻き取りドラムを駆動させる方式が、蛇行等を防止する観点から好ましい。巻き取り時の記録媒体にかかる張力は、2kgf/m以上20kgf/m以下であることが好ましい。2kgf/m未満の場合には、記録媒体の運搬中に巻ズレ等が発生する場合がある。20kgf/mを超える場合には、記録媒体のインク受容層が変形し印刷特性が低下する場合がある。また、20kgf/mを超える場合には、巻き取り時に記録媒体の面にかかる圧力が大きくなりすぎ、圧力によって大きな巻癖がつくことで、カールを制御しにくくなる場合がある。巻き取り時の張力は、紙管に近い内周部から外周部にかけて均一にしても良いが、徐々に強くすることも巻ずれ防止とインク受容層の変形防止とを両立するのに有効である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。但し、実施例中で「部」とあるのは、質量基準である。また、ポリビニルアルコールの粘度平均重合度及及びケン化度は、JIS K 6726に準拠した方法で測定した値である。
【0038】
(基材の作成)
軽質炭酸カルシウム20.0部を、広葉樹晒クラフトパルプ100.0部のスラリー中に添加し、さらにカチオン澱粉2.0部、無水アルケニルコハク酸系中性サイズ剤0.3部を添加し、十分に混合して抄紙原料とした。これを、長網多筒式抄紙機を用いて水分が10質量%になるまで乾燥させ、サイズプレスで酸化澱粉の7質量%溶液を、両面で4.0g/m塗布し、水分が7質量%になるまで乾燥させて、坪量140g/mの基紙を作成した。作成した基紙の表裏両方の面に、高密度ポリエチレン70.0部と低密度ポリエチレン20.0部からなる樹脂組成物を30g/m塗工し、坪量200g/mの基材を作成した。
【0039】
(インク受容層用塗工液1の作成)
イオン交換水中314.7部に、無水酢酸2.0部を添加し、十分攪拌したのち、アルミナ水和物(商品名;Disperal HP14、SASOL製)を100.0部添加した。さらに十分攪拌し、コロイダルゾルを得た。得られたコロイダルゾルをアルミナ水和物が22質量%となるように適宜、希釈してコロイダルゾルAを得た。
【0040】
一方、ポリビニルアルコール(商品名;PVA124、クラレ製、粘度平均重合度:2400、ケン化度:98.5mol%)をイオン交換水中に溶解させて、固形分8.0質量%のポリビニルアルコール溶液を得た。そして、得られたポリビニルアルコール溶液を、上記で調製したコロイダルゾルAに、アルミナ水和物の固形分に対してポリビニルアルコール固形分換算量が9.0質量%となるように混合した。次に、3.0質量%ホウ酸水溶液を、アルミナ水和物の固形分に対してホウ酸固形分換算で1.7質量%となるように混合して、インク受容層用塗工液1を作成した。
【0041】
(インク受容層用塗工液2の作成)
ポリビニルアルコール(商品名;PVA124)をポリビニルアルコール(商品名;PVA405、クラレ製、粘度平均重合度:500、ケン化度:81.5mol%)に変更した以外はインク受容層用塗工液1と同様にしてインク受容層用塗工液2を作成した。
【0042】
(インク受容層用塗工液3の作成)
ポリビニルアルコール(商品名;PVA124)をポリビニルアルコール(商品名;PVA424、クラレ製、粘度平均重合度:2400、ケン化度:79.5mol%)に変更した以外はインク受容層用塗工液1と同様にしてインク受容層用塗工液3を作成した。
【0043】
(インク受容層用塗工液4の作成)
ポリビニルアルコール(商品名;PVA124)をポリビニルアルコール(商品名;PVA205、クラレ製、粘度平均重合度:500、ケン化度:88.0mol%)に変更した以外はインク受容層用塗工液1と同様にしてインク受容層用塗工液4を作成した。
【0044】
(インク受容層用塗工液5の作成)
ポリビニルアルコール(商品名;PVA124)をポリビニルアルコール(商品名;PVA235、クラレ製、粘度平均重合度:3500、ケン化度:88.0mol%)に変更した以外はインク受容層用塗工液1と同様にしてインク受容層用塗工液5を作成した。
【0045】
(インク受容層用塗工液6の作成)
ポリビニルアルコール(商品名;PVA124)をポリビニルアルコール(商品名;PVA224、クラレ製、粘度平均重合度:2400、ケン化度:88.0mol%)に変更した以外はインク受容層用塗工液1と同様にしてインク受容層用塗工液6を作成した。
【0046】
<実施例1>
基材の一方の面に、インク受容層用塗工液1を乾燥塗工量が30g/mとなるようにスライドダイを用いて40℃で塗工し、60℃で乾燥してインク受容層Aを形成した。次いで、インク受容層Aを形成した面と反対側の面に、インク受容層用塗工液2を乾燥塗工量が30g/mとなるように同様に塗工し、60℃で乾燥してインク受容層Bを形成した。このようにして、基材の両面にインク受容層を有する記録媒体を作成した。
【0047】
作成した記録媒体を、縦152.4mm×横2000.0mmに断裁し、外径127.0mm(5inch)、幅152.4mmの紙管に巻回した。巻回は、記録媒体の152.4mmの端部と紙管(152.4mm)とを、インク受容層Aが外面となるようにテープで固定し、記録媒体を20kgf/mの張力で引っ張りながら行った。このようにして、ロール状記録媒体を作成した。
【0048】
<実施例2>
インク受容層用塗工液2の代わりにインク受容層用塗工液3を用いた以外は、実施例1と同様にしてロール状記録媒体を作成した。
【0049】
<実施例3>
インク受容層用塗工液2の代わりにインク受容層用塗工液4を用いた以外は、実施例1と同様にしてロール状記録媒体を作成した。
【0050】
<実施例4>
インク受容層用塗工液1の代わりにインク受容層用塗工液5を用いた以外は、実施例1と同様にしてロール状記録媒体を作成した。
【0051】
<実施例5>
インク受容層用塗工液1の代わりにインク受容層用塗工液5を用いた以外は、実施例2と同様にしてロール状記録媒体を作成した。
【0052】
<実施例6>
インク受容層用塗工液1の代わりにインク受容層用塗工液5を用いた以外は、実施例3と同様にしてロール状記録媒体を作成した。
【0053】
<実施例7>
インク受容層用塗工液1の代わりにインク受容層用塗工液6を用いた以外は、実施例1と同様にしてロール状記録媒体を作成した。
【0054】
<比較例1>
インク受容層用塗工液2の代わりにインク受容層用塗工液1を用いた以外は、実施例1と同様にしてロール状記録媒体を作成した。
【0055】
<比較例2>
インク受容層用塗工液2の代わりにインク受容層用塗工液5を用いた以外は、実施例4と同様にしてロール状記録媒体を作成した。
【0056】
<比較例3>
インク受容層用塗工液2の代わりにインク受容層用塗工液1を用いた以外は、実施例4と同様にしてロール状記録媒体を作成した。
【0057】
<比較例4>
インク受容層用塗工液1の代わりにインク受容層用塗工液3を用い、且つインク受容層用塗工液2の代わりにインク受容層用塗工液5を用いた以外は、実施例1と同様にしてロール状記録媒体を作成した。
【0058】
<比較例5>
インク受容層用塗工液3の代わりにインク受容層用塗工液2を用いた以外は、比較例4と同様にしてロール状記録媒体を作成した。
【0059】
<評価>
上記実施例及び比較例に記載の方法を2回ずつ別々に行うことにより、ロール状記録媒体を2つ作成した。各ロール状記録媒体を紙管から外し、テープで固定していた端部(巻回し始めの部分)から横方向に101.6mmの部分で断裁し、テープで固定していた側の記録媒体からテープを外し、この記録媒体を評価用の記録媒体とした。このようにして用意した2枚の記録媒体を、それぞれ高湿下(気温30℃、湿度80%)及び低湿下(気温15℃、湿度10%)の環境にて、台上に30分間載置した。載置後、各記録媒体の四隅の台からの高さを定規(ステンレス直定規TZ−RS15、KOKUYO製)で測定した。四隅の高さの平均値をカール量とし、下記の基準で評価した。
【0060】
(評価基準)
A:カール量は5mm未満であった。
B:カール量は5mm以上10mm未満であった。
C:カール量は10mm以上15mm以下未満であった。
D:カール量は15mm以上であった。
【0061】
結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示す通り、インク受容層中のポリビニルアルコールの関係が、a≧c且つb≧d(ただしa=c且つb=dの場合を除く)となっている実施例1〜6のロール状記録媒体は、高湿下と低湿下のいずれの条件においてもカールを良好に抑制できている。
【0064】
一方、a=c且つb=dとなっている比較例1、2のロール状記録媒体は、高湿下と低湿下のいずれの条件においてもカールが発生している。また、a<c或いはb<dとなっている比較例3〜5のロール状記録媒体も、高湿下と低湿下のいずれの条件においてもカールが発生している。
【符号の説明】
【0065】
1 紙管
2 外面側
3 内面側
4 外面のインク受容層
5 内面のインク受容層
6 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の両面に顔料とポリビニルアルコールとを含有するインク受容層を有し、紙管に対してロール状に巻回された記録媒体であって、
両面のうち紙管から遠い側である外面のインク受容層が含有するポリビニルアルコールの粘度平均重合度(a)及びケン化度(b)と、紙管から近い側である内面のインク受容層が含有するポリビニルアルコールの粘度平均重合度(c)及びケン化度(d)とが、下記関係を満たすことを特徴とする記録媒体。
a≧c
b≧d
(ただしa=c且つb=dの場合を除く)
【請求項2】
前記外面のインク受容層が含有するポリビニルアルコールは、粘度平均重合度(a)が2400以上3500以下、ケン化度(b)が88.0mol%以上99.0mol%以下であり、前記内面のインク受容層が含有するポリビニルアルコールは、粘度平均重合度(c)が500以上2400以下、ケン化度(d)が78.0mol%以上88.0mol%以下である請求項1に記載の記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−40832(P2012−40832A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186066(P2010−186066)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】