説明

記録物および記録装置

【課題】塩素あるいは塩素化合物を含有する被記録媒体に、銀を含有するインクを用いて光輝性画像を形成しても、優れた耐光性を有し、銀の光沢性を維持する光輝性を有する画像が記録された記録物を提供する。
【解決手段】被記録媒体の少なくとも一方の被記録面に画像が形成された記録物であって、前記被記録媒体は塩素または塩素化合物を含有し、前記画像は、前記被記録面に銀顔料層、前記銀顔料層の表面に樹脂層が形成され 、前記銀顔料層の膜厚が50nm以上、280nm以下であり、前記樹脂層の膜厚が40nm以上、450nm以下である記録物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録物および記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録面に光輝性を有する画像が形成された記録物の需要が高まっている。光輝性を有する画像を形成する方法としては、低コストで、かつオンデマンド記録が可能な、インクジェット方式で、光輝性画像を記録できる技術の提案がされている(特許文献1)。このインクジェット方式による記録は、従来の多色記録や、カラー写真方式と同様の画質と、記録の高速化とを図るため、高発色、多色化、高耐候性を目指したインクの改良とともに、記録材料についても、安定した色材の定着、耐候性の改善、優れたインク溶媒の吸収性、等を実現するため、特にインク受容層に関して多くの技術が提案されている(特許文献2、特許文献3)。
【0003】
一方、光輝性を有する画像を形成するインクとして、特許文献1ではアルミニウムを含有させた光輝性インクが提案されているが、優れた光沢性を有する金属として、例えば銀塩フィルムの感光材料として公知である、銀を含有するインクによって光輝性を有する画像形成を行うようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−174712号公報
【特許文献2】特開2006−263951号公報
【特許文献3】特公平7−121609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、銀を含有する光輝性インクを用いて光輝性を有する画像が記録される記録材料には、塩素を含有するものが多い。例えば、色材の優れた定着性を実現するため、塩化アルミニウム系カチオン定着剤を意図して添加した記録材料であったり、受容層を構成する微細なアルミナ粒子の製造過程で、塩素が添加材料として使用され、意図せずに塩素が受容層中に混入する場合であったり、更には、紙の原料となるパルプの漂白には、一般的に塩素系漂白剤が使用され、不純物としての塩素が記録材料中に含まれるなど、記録材料に塩素あるいは塩素化合物が含有される例が極めて多い。
【0006】
記録材料中の塩素濃度は、意図的に添加された場合と、意図せず混入した場合とでは、ppmオーダーから1%程度までと差はあるが、一般にインクジェット方式のインクに用いられる色材、つまりシアン、マゼンタ、イエロー、ブラック等を再現するための染料や顔料は、塩素との反応性が乏しいため、塩素に起因する色材の変色、耐光性の低下、等の品質的な課題はなかった。しかし、銀粒子を含有する水系インクを用い光輝性画像を記録すると、記録直後は非常に優れた金属光沢が得られるものの、記録物に光が当たることで、既存のカラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、等)と比較すると、著しく早く光沢が劣化する問題が判明した。さらに光沢の劣化は、着色された光輝性を有する画像部位で、より顕著に発生することも、合わせて判明した。
【0007】
この光沢の劣化は、記録材料に、銀粒子を含有する水系インクを記録した際、まずインクの溶媒として用いられる水の中に、遊離塩素が発生、溶解する。該遊離塩素は、前記塩化アルミニウム系カチオン定着剤からアニオンとして遊離する場合と、記録材料中に不純物として含有される塩素から発生する場合とがある。ここで塩素と銀は、各々が非イオン状態でもイオン状態でも直接反応し塩化銀を形成する事は、一般化学として公知であり、光輝性顔料として使用された銀粒子の一部は、塩化銀となる。光輝性画像中に形成された塩化銀は、銀塩写真フィルムにおける感光材料として好適に使用されている事からも明らかな様に、紫外線に対する感光性を持つとされている。詳細な反応過程は省略するが、光による光輝性画像の光沢劣化は、光輝性画像中に形成された塩化銀が光により感光された結果、部分的に粗大な銀の再結晶物が光輝性画像表面に形成され、可視光の表面散乱が強くなり光沢劣化として発現する。
【0008】
更に、塩化銀は約370nm以下の紫外線により感光されて銀を形成するが、カラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー)に含まれる色材と塩化銀が接することで、理由は定かではないが、塩化銀の感光性が増加する事が判明した。これによって、光輝性を有する画像記録部位での光沢劣化が、より顕著に発生していた。
【0009】
そこで、塩素あるいは塩素化合物を含有する被記録媒体(記録材料)に、光輝性を有する画像形成に銀を含有するインクを用いて光輝性画像を形成しても、優れた耐光性を有し、銀の光沢性を維持する光輝性を有する画像が記録された記録物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも上述の課題の一つを解決するように、下記の形態または適用例として実現され得る。
【0011】
〔適用例1〕本適用例の記録物は、被記録媒体の少なくとも一方の被記録面に画像が形成された記録物であって、前記被記録媒体は塩素または塩素化合物を含有し、前記画像は、前記被記録面に銀顔料層、前記銀顔料層の表面に樹脂層が形成され、前記銀顔料層の膜厚が50nm以上、280nm以下であり、前記樹脂層の膜厚が40nm以上、450nm以下であることを特徴とする。
【0012】
本適用例の記録物によれば、銀顔料層に含有する銀と被記録媒体に含まれる塩素との化合物である塩化銀を、感光させる紫外線が銀顔料層まで透過することを抑制することができるため、形成された光輝性画像の光沢を長期にわたり維持することができる。更に、樹脂層は、銀顔料層に含有する銀と被記録媒体に含まれる塩素との化合物である塩化銀の生成を促進する水分の銀顔料層への浸入を抑制することができるため、光輝性を低下させる塩化銀そのものの生成量を減少させ、形成された光輝性画像の光沢を長期にわたり維持することができる。
【0013】
〔適用例2〕上述の適用例において、前記樹脂層の表面に着色層が形成され、前記着色層の膜厚が500nm以上、5500nm以下であることを特徴とする。
【0014】
上述の適用例によれば、光輝性の低下が抑制され、色再現性に優れた記録物を得ることができる。
【0015】
〔適用例3〕上述の適用例において、前記銀顔料層は、水および銀を含む第1インク組成物により形成されることを特徴とする。
【0016】
上述の適用例によれば、銀顔料層に含まれる銀粒子等の分散安定性等を優れたものとすることができ、記録装置として液滴吐出装置を用いた場合に、ズル付近でのインクの分散媒の蒸発などによる乾燥を防止しつつ、インクが付与される被記録媒体上での乾燥を速やかに行うことができるため、所望の画像の高速記録を、長期間にわたって好適に行うことができる。
【0017】
〔適用例4〕上述の適用例において、前記樹脂層は、樹脂を0.1質量%以上含み、色材を実質的に含まない第2インク組成物により形成されることを特徴とする。
【0018】
上述の適用例によれば、光輝性画像に優れた耐光性を付与することができる。
【0019】
〔適用例5〕上述の適用例において、前記第2インク組成物の前記樹脂は、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フルオレン樹脂、パラフィンワックスのいずれか1種以上であることを特徴とする。
【0020】
上述の適用例によれば、光輝性画像に優れた耐光性と光沢感を付与することができる。
【0021】
〔適用例6〕上述の適用例において、前記着色層は、色材として少なくともキナクリドン系色材または銅フタロシアニン系色材を含有することを特徴とする。
【0022】
上述の適用例によれば、銀顔料層に生成される塩化銀の感光性が抑制され、光輝性劣化の少ない記録物を得ることができる。
【0023】
〔適用例7〕上述の適用例において、前記銀顔料層と前記樹脂層との膜厚比は1:9〜7:1であることを特徴とする。
【0024】
上述の適用例によれば、光輝性を低下させる塩化銀そのものの生成量を減少させ、形成された光輝性画像の光沢を長期にわたり維持することができる。
【0025】
〔適用例8〕本適用例の記録装置は、上述の適用例に記載の記録物を形成する。
【0026】
上述の適用例によれば、光輝性に優れた記録物を得ることができる。
【0027】
〔適用例9〕上述の適用例によれば、インクジェット記録手段を備えることを特徴とする。
【0028】
上述の適用例によれば、銀顔料層、樹脂層および着色層の層厚を正確に制御することが可能であり、さらに各層の画像形成位置を正確に実現し、光輝性に優れた記録物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1実施形態に係る記録物の概略断面図。
【図2】着色層インクに含まれる組成物の一部である、(a)はキナクリドン系色材が持つ構造骨格図、(b)は銅フタロシアニン系色材が持つ構造骨格図。
【図3】第2実施形態に係る記録装置の概略斜視図。
【図4】銀顔料層インクおよび樹脂層インクの組成を示す表。
【図5】着色層インクの一例の組成を示す表。
【図6】実施例1〜4、比較例1〜8、参考例1,2を示す表。
【図7】実施例5〜7を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。
【0031】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態として、光輝性を有する記録物の画像形成部の断面を模式図的に示す拡大図である。図1(a)に示すように記録物100は、被記録媒体10と、被記録媒体10の被記録面10aの表面に形成された銀もしくは銀化合物を含む光輝性を有する銀顔料層20と、銀顔料層20の表面に形成された樹脂層30と、により構成される。また、図1(b)に示す記録物200は、被記録媒体10と、被記録媒体10の被記録面10aの表面に形成された銀もしくは銀化合物を含む光輝性を有する銀顔料層20と、銀顔料層20の表面に形成された樹脂層30と、樹脂層30の表面に形成された着色層40と、により構成される。すなわち記録物200は記録物100の樹脂層30の表面に着色層40が形成された構成となっている。
【0032】
〔被記録媒体〕
被記録媒体10としては、普通紙、インク受容層を有する専用紙、画像記録面がプラスチック、セラミックス、金属、およびこれらの複合材で構成された基材、などが上げられるが、これらの中でも、インク受容層が形成された被記録媒体が好ましい。インク受容層としては空隙層と膨潤層とが挙げられる。空隙層とは、樹脂の割合が3割未満であり、シリカ、アルミナ等の無機粒子で主に構成され、無機粒子間または無機粒子に設けられた孔の空隙に溶媒が浸透するよう構成された層のことを示す。また、膨潤層とは、層を構成する成分のうち7割以上樹脂であり、樹脂層がインクの溶媒により膨潤し、それによって開いた孔に溶媒が浸透するよう構成されている層のことを示す。なお、インク受容層を有する被記録媒体には、数%以下の塩素(Cl)を含有しているものが存在している。
【0033】
〔光輝性インク〕
本実施形態に係る記録物100,200では光沢度(光輝性)の高さと、溶媒に用いる水や各種有機溶剤との反応性が低い、銀粒子を含有した光輝性顔料を用いて銀顔料層20を形成する。以下、銀顔料層20を形成する銀顔料を含有する第1インク組成物としての光輝性インクを説明する。
【0034】
[1]銀粒子
本実施形態に係る記録物100,200には、銀粒子を含む光輝性インクを用いて形成される。光輝性インクが、銀粒子を含むことにより、優れた金属光沢を有する画像を形成することができる。特に、所定の条件を満足するワックスとともに銀粒子を含むことにより、優れた金属光沢を有する画像を形成することができる。また、銀は、各種金属の中でも、可視光の反射率がもっとも高い金属であるため、他色のインクと重ね合わせることにより、金色、銅色等の様々な金属色を表現することができる。光輝性インクに含有される銀粒子の平均粒子径は、3nm以上100nm以下であるのが好ましく、15nm以上65nm以下であるのがより好ましい。これにより、銀インクを用いて形成される画像の光沢感(光輝性)および耐擦性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインクの吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。なお、本明細書では、「平均粒子径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒子径のことを指すものとする。平均粒子径は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置として、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)を用いることができる。
【0035】
光輝性インク中における銀粒子の含有率は、0.5質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以上15質量%以下であるのがより好ましい。これにより、インクのインクジェット方式による吐出安定性、インクの保存安定性を特に優れたものとすることができる。また、記録物とされたときの被記録媒体上での銀粒子の密度(単位面積当たりの含有量)が低い場合から高い場合までの広い範囲であっても、良好な画質、耐擦過性を実現することができる。銀粒子は、いかなる方法で調製されたものであってもよく、例えば、銀イオンを含む溶液を用意し、この銀イオンを分散剤の存在下で還元することにより、好適に形成することができる。
【0036】
[2]分散剤
銀の比重は10.49g/cm3と高いため、銀粒子の粒径が100nm以上になると、インク中での銀粒子の沈降が顕著になる。一方、銀粒子を100nm以下の粒径とすると、ブラウン運動の増加により、インク中での沈降は低減されるが、表面の活性度が上がるため、粒子の接触によって容易に凝集体を形成するため、形成された凝集体としての沈降が発生する。従って、凝集体の形成を抑制するために銀粒子の表面に分散剤が付与されている事が好ましい。
【0037】
分散剤としては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなど銀に配位可能な高分子化合物、クエン酸、りんご酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウム、タンニン酸、ガロタンニン酸、五倍子タンニン等の、銀に配位可能なヒドロキシ酸またはその塩、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、メルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸二ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸二カリウムなどの、銀に配位可能なチオール基とヒドロキシ基を有するメルカプト酸またはその塩などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミン、ポリビニルピロリドン等の銀に多点配位可能な高分子化合物が、凝集抑制の観点でより好ましく、ポリビニルピロリドンが、インクの保存安定性の観点で、最も好ましい。
【0038】
[3]樹脂
本実施形態に係る光輝性インクは、樹脂を含有していても良く、これを含有することで定着性や耐擦過性が向上する。樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリメタアクリル酸エステル、ポリエチルアクリル酸、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、クロロプレン共重合体、フッ素樹脂、フッ化ビニリデン、ポリオレフィン樹脂、セルロース、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、ポリスチレン、スチレン−アクリルアミド共重合体、ポリイソブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ロジン系樹脂、フルオレン系樹脂、ポリエチレン、ポリカーボネート、塩化ビニリデン樹脂、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン、ロジンエステル等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0039】
[4]水
本発明にかかる光輝性インクは、水を50質量%以上含む水系インクであっても、水の含有量が50質量%未満である非水系インクであってもよい。被記録媒体上で溶媒が速やかに減少することで銀顔料の定着性が向上することから、水を50質量%以上含む水系インクが、より好ましい。インク中に含有される水は、主に銀粒子および樹脂エマルジョンを分散させる分散媒として機能する。インクに水を含有させることにより、銀粒子等の分散安定性等を優れたものとすることができ、また、後述するような記録装置としての液滴吐出装置のノズル付近でのインクの分散媒の蒸発などによる乾燥を防止しつつ、インクが付与される被記録媒体上での乾燥を速やかに行うことができるため、所望の画像の高速記録を、長期間にわたって好適に行うことができる。インク中に水を含有させる場合には、その水の含有率は、特に限定されないが、20質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、50質量%以上70質量%以下であるのがより好ましい。
【0040】
[5]多価アルコール
本実施形態に係る光輝性インクは、多価アルコールを含有することが好ましい。多価アルコールは、本実施形態に係るインクをインクジェット式記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を抑制し、インクジェット式記録ヘッド部分におけるインクによる目詰まりを防止することができる。
【0041】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールなどが挙げられる。中でも、炭素数が4〜8アルカンジオールが好ましく、炭素数が6〜8のアルカンジオールがより好ましい。
【0042】
これにより、被記録媒体への浸透性を特に高いものとすることができる。インク中における多価アルコールの含有率は、特に限定されないが、0.1質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。上記の多価アルコールの中でも、1,2−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンを含むインクであるのが好ましい。これにより、インク中における銀粒子の分散安定性と、インクの保存安定性を特に優れたものとすることができ、また、インクの吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0043】
[6]グリコールエーテル
本実施形態に係る光輝性インクは、グリコールエーテルを含有することが好ましい。グリコールエーテルを含有することにより、被記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。
【0044】
グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテルを挙げることができる。この中でも、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを用いると良好な記録品質を得ることができる。インク中におけるグリコールエーテルの含有率は、特に限定されないが、0.2質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
【0045】
[7]界面活性剤
本実施形態に係る光輝性インクは、界面活性剤を含有していても良い。界面活性剤の種類としては特に限定されないが、アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤は、被記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。
【0046】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学社製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【0047】
ポリシロキサン系界面活性剤としては、市販品を利用することができる。例えば、BYK−347、BYK−348(ビックケミー・ジャパン社製)などが挙げられる。さらに、本実施形態に係る光輝性インクは、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などのその他の界面活性剤を含有することもできる。光輝性インク中における上述の界面活性剤の含有率は、特に限定されないが、0.01質量%以上、5.0質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上、0.5質量%以下であるのがより好ましい。
【0048】
[8]その他の成分
本実施形態に係る光輝性インクは、上記以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、pH調整剤、浸透剤、有機バインダー、尿素系化合物、糖類、アルカノールアミン(トリエタノールアミン等)等の乾燥抑制剤、パラフィン等の光輝層スリップ性付与剤等が挙げられる。
【0049】
[9]インク物性
上述の[1]〜[8]で示した成分を適宜含有する光輝性インクの、表面張力をS(mN/m)、粘度をV(Pa・s)とした場合、表面張力は、20≦S≦40であり、かつ粘度が、1.5≦V≦10で有ることが好ましい。また、表面張力が、25≦S≦35であり、かつ粘度が、2.5≦V≦8で有ることがさらに好ましい。これにより、光輝性インクを用いて形成される画像の光輝性(光沢感)および耐擦過性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインクの吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質が維持できる画像をより確実に形成することができる。
【0050】
なお本明細書では、「表面張力」と「粘度」は、特に断りのない限り、インクの温度が23℃の状態における測定値を示すものとする。なお表面張力はWilhelmy法(プレート法)により測定する事ができる。Wilhelmy法表面張力測定計として、例えば、「全自動表面張力計 CBVP−Z(協和界面科学株式会社製)」等を用いることができる。また粘度は振動式粘度計により測定することができる。振動式粘度計は、振動子を液体中に浸した際に、振動を一定に保つためのトルク量から粘度を算出することができる。振動式粘度計としては、例えば「振動式粘度計 VM−100A」等を用いることができる。
【0051】
〔樹脂層インク〕
本実施形態に係る樹脂層30を形成する第2インク組成物としての樹脂層インクは、色材を実質的に含有せず、樹脂を含有するインクである。樹脂層インクは水系のインク(水分含有量が50%以上)、非水系(水分含有量が50%未満)のインクのいずれであってもよい。なお、「色材を実質的に含有せず」とは、例えばインク中の色材の含有量が0.5質量%未満であること、より好ましくは0.1質量%未満であること、一層好ましくは0.01質量%未満、最も好ましくは0.005質量%未満であることをいう。また、「色材」とは着色を目的として用いられる顔料および染料のことをいう。
【0052】
[1]樹脂
本実施形態に係る樹脂層インクは、上述の光輝性インクに含有される樹脂と同様の樹脂を含有していてもよい。なかでも、ポリウレタン、およびフルオレン系樹脂は、耐光性の観点でより好ましく、ポリウレタンは、保護用インク付着後の光沢感の観点で最も好ましい。樹脂層インクに樹脂成分を含有させることで、光輝性画像に優れた耐光性を付与することができる。樹脂は、樹脂層インク中に、固形分換算で0.1質量%以上30質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、0.5質量%以上15質量%以下の範囲で含まれることがより好ましい。
【0053】
[3]多価アルコール
本実施形態に係る樹脂層インクは、上述の光輝性インクに含有される多価アルコールと同様の多価アルコールを含有していてもよい。多価アルコールは、本実施形態に係る樹脂層インクをインクジェット式記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を抑制し、インクジェット式記録ヘッド部分におけるインクによる目詰まりを防止することができるため、多価アルコールを含有することが好ましい。
【0054】
[4]グリコールエーテル
本実施形態に係る樹脂層インクは、上述の光輝性インクに含有されるグリコールエーテルと同様のグリコールエーテルを含有していてもよい。グリコールエーテルを含有することにより、被記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。インク中におけるグリコールエーテルの含有率は、特に限定されないが、0.2質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
【0055】
[4]界面活性剤
本実施形態に係る樹脂層インクは、特に種類は限定されないが、アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤等の界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤、ポリシロキサン系界面活性剤の代表例は、光輝性インクに含有される界面活性剤と同様である。アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤は、被記録媒体の被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。インク中における上記界面活性剤の含有率は、特に限定されないが、0.01質量%以上5.0質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であるのがより好ましい。
【0056】
[5]その他の成分
本実施形態に係る樹脂層インクは、上述以外の成分として、その他の成分を含むものであってもよい。その他の成分としては、例えば、pH調整剤、浸透剤、有機バインダー、尿素系化合物、糖類、アルカノールアミン(トリエタノールアミン等)等の乾燥抑制剤、パラフィン等のスリップ性付与剤等が挙げられる。
【0057】
〔着色層インク〕
本実施形態に係る記録物200における着色層40を形成する着色層インクは、色材が含有されたインクである。着色層インクは、水分含有量が50質量%以上の水系のインクで、または水分含有量が50質量%未満の非水系のインクであってもよい。
【0058】
[1]樹脂
本実施形態に係る着色層インクは、上述の光輝性インクに含有される樹脂と同様の樹脂を含有していてもよい。樹脂成分が含有されたカラーインクを用いることで、強固な耐擦過性を得ることができる。樹脂は、カラーインク中に、固形分換算で4質量%以上50質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、6質量%以上25質量%以下の範囲で含まれることがより好ましい。
【0059】
[2]色材
[2−1]顔料
本実施形態に係る着色層インクに使用可能な顔料としては、特に限定はないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。た、有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。以下、顔料の一例を挙げる。
【0060】
ブラック用として使用される無機顔料としては、以下のカーボンブラック、例えば、三菱化学製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、又はNo2200B等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、又はRaven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、またはMonarch 1400等;あるいは、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、またはSpecial Black 4等が挙げられる。
【0061】
イエロー有機顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180等が挙げられる。
【0062】
マゼンタ有機顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、192、202、207、209、219、224、245、またはC.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、42、43、50等が挙げられる。
【0063】
シアン有機顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15:34、16、18、22、25、60、65、66、75、C.I.バットブルー4、60、C.I.ピグメントグリーン7、36、37等が挙げられる。
【0064】
[2−2]染料
染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料等の通常インクジェット記録に使用する各種染料を使用することができる。以下、染料の一例を挙げる。
【0065】
イエロー系染料としては、C.I.アシッドイエロー1、3、11、17、19、23、25、29、36、38、40、42、44、49、59、61、70、72、75、76、78、79、98、99、110、111、127、131、135、142、162、164、165、C.I.ダイレクトイエロー1、8、11、12、24、26、27、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、110、132、142、144、C.I.リアクティブイエロー1、2、3、4、6、7、11、12、13、14、15、16、17、18、22、23、24、25、26、27、37、42、C.I.フードイエロー3、4、C.I.ソルベントイエロー15、19、21、30、109等が挙げられる。
【0066】
マゼンタ系染料としては、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、37、42、51、52、57、75、77、80、82、85、87、88、89、92、94、97、106、111、114、115、117、118、119、129、130、131、133、134、138、143、145、154、155、158、168、180、183、184、186、194、198、209、211、215、219、249、252、254、262、265、274、282、289、303、317、320、321、322、C.I.ダイレクトレッド1、2、4、9、11、13、17、20、23、24、28、31、33、37、39、44、46、62、63、75、79、80、81、83、84、89、95、99、113、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230、231、C.I.リアクティブレッド1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、15、16、17、19、20、21、22、23、24、28、29、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、45、46、49、50、58、59、63、64、C.I.ソルビライズレッド1、C.I.フードレッド7、9、14等が挙げられる。
【0067】
シアン系染料としては、C.I.アシッドブルー1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、41、43、45、54、59、60、62、72、74、78、80、82、83、90、92、93、100、102、103、104、112、113、117、120、126、127、129、130、131、138、140、142、143、151、154、158、161、166、167、168、170、171、182、183、184、187、192、199、203、204、205、229、234、236、249、C.I.ダイレクトブルー1、2、6、15、22、25、41、71、76、77、78、80、86、87、90、98、106、108、120、123、158、160、163、165、168、192、193、194、195、196、199、200、201、202、203、207、225、226、236、237、246、248、249、C.I.リアクティブブルー1、2、3、4、5、7、8、9、13、14、15、17、18、19、20、21、25、26、27、28、29、31、32、33、34、37、38、39、40、41、43、44、46、C.I.ソルビライズバットブルー1、5、41、C.I.バットブルー4、29、60、C.I.フードブルー1、2、C.I.ベイシックブルー9、25、28、29、44等が挙げられる。
【0068】
本実施形態に係る着色層インクにおける色材の含有量は、特に限定されないが、インク全質量に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0069】
[3]多価アルコール
本発明のカラーインクは、上述の光輝性インクに含有される多価アルコールと同様の多価アルコールを含有していてもよい。本実施形態に係る着色層インクに多価アルコールを含有させることにより、インクジェット式記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を抑制し、インクジェット式記録ヘッド部分におけるインクによる目詰まりを防止することができるので、多価アルコールを含有することが好ましい。
【0070】
[4]グリコールエーテル
本発明のカラーインクは、上述の光輝性インクに含有されるグリコールエーテルと同様のグリコールエーテルを含有していてもよい。グリコールエーテルを含有することにより、被記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めて着色層インクの浸透性を高めることができる。着色層インク中におけるグリコールエーテルの含有率は、特に限定されないが、0.2質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
【0071】
[5]界面活性剤
本実施形態に係る着色層インクに含有される界面活性剤は、特に種類は限定されないが、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリシロキサン系界面活性剤等の界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤、ポリシロキサン系界面活性剤の代表例は光輝性インクに含有される界面活性剤と同様である。アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤は、被記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。着色層インク中における上記界面活性剤の含有率は、特に限定されないが、0.01質量%以上5.0質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であるのがより好ましい。
【0072】
[6]その他の成分
本発明に係るカラーインクは、上記以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、pH調整剤、浸透剤、有機バインダー、尿素系化合物、糖類、アルカノールアミン(トリエタノールアミン等)等の乾燥抑制剤等が上げられる。
【0073】
上述したインクにより、本実施形態に係る記録物100および200を形成することにより、光輝性を有する銀顔料層20に含有される銀が、被記録媒体10に含まれる塩素と反応して生成される化合物である塩化銀と、塩化銀の紫外線に対する感光性を促進する着色層40に含まれる色材と、を樹脂層30によって接触することを阻止する。このことにより、銀顔料層20に生成された塩化銀の感光を抑制することができ、形成された光輝性画像の光沢を長期にわたり維持することができる記録物を得ることができる。
【0074】
また、銀顔料層20表面上に樹脂層30を形成することによって、銀顔料層20に含有する銀と被記録媒体に含まれる塩素との化合物である塩化銀を、感光させる紫外線が銀顔料層20まで透過することを抑制することができるため、形成された光輝性画像の光沢を長期にわたり維持することができる記録物を得ることができる。更に、樹脂層30は、銀顔料層20に含有する銀と被記録媒体に含まれる塩素との化合物である塩化銀の生成を促進する水分の銀顔料層20への浸入を抑制することができるため、光輝性を低下させる塩化銀そのものの生成量を減少させ、形成された光輝性画像の光沢を長期にわたり維持することができる記録物を得ることができる。
【0075】
銀顔料層20の光輝性(光沢)の劣化を抑制するには、記録物100および記録物200を次のような条件で形成することが望ましい。図1に示す銀顔料層20の層厚tA、樹脂層30の層厚tP、着色層40の層厚tC、とすると、
50nm≦tA≦280nm
40nm≦tP≦450nm
500nm≦tC≦5500nm
であることが好ましい。
【0076】
銀顔料層20の層厚tAが50nm未満の場合、光輝性を示す光沢度が低下すると共に、銀顔料層20に含有される銀が可視光を吸収、透過し銀顔料層20が黄色味を帯びる変色に至る場合がある。また層厚tAが280nmを超えると、銀顔料層20にクラックが発生しやすくなり記録画像の品質低下を招いてしまう。さらに、必要以上の銀を消費してしまい印刷コストを高くしてしまう。
【0077】
樹脂層30の層厚tPが40nm未満の場合、銀顔料層20を保護する機能、例えば耐擦過性、耐水性など、が低下してしまう。また層厚tPが450nmを超えると、可視光の吸収が多くなったり、樹脂層30の表面の凸凹やうねりが多くなったりし、光沢度を低下させてしまう。
【0078】
着色層40の層厚tCが500nm未満の場合、良好な彩度を得ることができず、良好なカラーメタリック画像を得ることができない。また層厚tCが5500nmを超えると、良好な彩度のカラーメタリック画像を得ることができるが、樹脂層30上に多くのカラーインクを塗布させるため、所定の記録画像形成領域からのインクの溢れが発生するとともに、銀顔料層で正反射する入射光が着色層で吸収される。つまり、メタリック感の低下が発生し、良好な記録画像を得ることができなくなる。
【0079】
したがって、層厚tA,tP,tCは、
80nm≦tA≦220nm
80nm≦tP≦400nm
600nm≦tC≦5000nm
の条件で記録画像が形成されることがなお好ましい。
【0080】
また、各層の層厚tA,tP,tCは次の関係にあることが好ましい。
A:tP=1:9〜tA:tP=7:1
A:tC=1:11〜tA:tC=7:12
A+tP+tC≦5500nm
【0081】
PがtAに対し、9倍よりも大きい場合は、銀顔料層20を保護する機能は充分確保できるものの、樹脂層30による光の吸収により良好なメタリック間が得られない。またtPがtAに対し、1/7未満の場合は、銀顔料層20の保護機能の低下、ならびにtAが必要以上に厚いため、銀顔料層20にクラックが発生しやすくなり、画像品質の低下を招いてしまう。更に使用する銀の量が多いため、印刷コストを高くしてしまう。またtCがtAに対し、11倍よりも大きい場合は、充分なカラーの彩度が得られるものの、銀顔料層で正反射する入射光が着色層40で吸収される、つまりメタリック感の低下が発生する。一方、tCがtAに対し、12/7よりも小さい場合は、メタリック感は優れるものの、色味の薄い、つまり彩度の低いカラーメタリックしか表現できなくなる。また、tAと、tPと、tCとの膜厚の和は、所定の記録画像形成領域からのインクの溢れを防止する意味で、5500nm以下が好ましい。
【0082】
上述のように、銀顔料層20に生成される塩化銀が着色層40に含有される色材によって感光性が促進され、光沢が低下することから、実施形態に係る記録物200の構成は、図2(a)の構造骨格を持つキナクリドン系色材、および図2(b)の構造骨格を持つ銅フタロシアニン系色材に対しては光輝性劣化に対して効果が大きい。よって、少なくともこれらの色材によって形成された着色層40に対して、本願発明を適用すると効果的である。なお、樹脂層30が、銅フタロシアニン系色材又はキナクリドン系色材によって形成された着色層40に対してのみ形成された記録物に、本願発明が限定されるわけではない。
【0083】
キナクリドン系色材としては、顔料であっても染料であってもよいが、好ましくは顔料である。キナクリドン顔料として限定はされないが、C.I.ピグメントバイオレット19、42、C.I.ピグメントレッド122、192、202、207、209が挙げられ、好ましくは、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントレッド122、202、ド209である。
【0084】
銅フタロシアニン系色材とは、染料であっても顔料であっても良いが、好ましくは顔料である。銅フタロシアニン染料としては特に限定されないが、C.I.アシッドブルー249、C.I.ダイレクトブルー86、87、199等が挙げられる。中でも、C.I.ダイレクトブルー199が好ましい。銅フタロシアニン顔料としては特に限定されないが、C.I.ピグメントグリーン7、36、37、C.I.ピグメントブルー16、75、15:1、15:2、15:3、15:4、15:5、15:6等が挙げられ、好ましくは、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブルー15:1、15:2、15:3、15:4、15:5、15:6であり、最も好ましくはC.I.ピグメントブルー15:1、15:2、15:3、15:4、15:5、15:6である。
【0085】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態として第1実施形態に係る記録物100および記録物200を形成する記録装置の一例として、インクジェット式プリンターの概略構成を示す斜視図である。
【0086】
図3に示すように、記録装置としてのインクジェット式プリンター1000(以下、プリンター1000という)は、フレーム1100を有している。フレーム1100には、プラテン1200が設けられ、プラテン1200上には、被記録媒体送りモーター1300の駆動により被記録媒体10が給送されるようになっている。また、フレーム1100には、プラテン1200の長手方向と平行に、棒状のガイド部材1400が設けられている。ガイド部材1400には、キャリッジ1500がガイド部材1400の軸線方向に往復移動可能に支持されている。キャリッジ1500は、フレーム1100内に設けられたタイミングベルト1600を介して、キャリッジモーター1700に連結されている。そして、キャリッジ1500は、キャリッジモーター1700の駆動により、ガイド部材1400に沿って往復移動されるようになっている。
【0087】
キャリッジ1500には、ヘッド1800が設けられるとともに、ヘッド1800に液体としてのインクを供給するためのインクカートリッジ1900が着脱可能に配置されている。インクカートリッジ1900内のインクは、ヘッド1800に備えられた図示しない圧電素子の駆動により、インクカートリッジ1900からヘッド1800へと供給され、ヘッド1800のノズル形成面に形成された複数のノズルから、プラテン1200上に給送された被記録媒体10に対して吐出されるようになっている。これにより記録物を製造することが可能となる。吐出方法としては、サーマルジェット(バブルジェット(登録商標))方式でもよい。また、従来公知の方法はいずれも使用できる。
【実施例】
【0088】
[1]光輝性インク
ポリビニルピロリドン(PVP、重量平均分子量10000)を70℃の条件下で15時間加熱して、その後室温で冷却をした。そのPVP1000gを、エチレングリコール溶液500mlに添加してPVP溶液を調整した。別の容器にエチレングリコールを500ml入れ、硝酸銀128gを加えて電磁攪拌器で十分に攪拌をして硝酸銀溶液を調整した。PVP溶液を120℃の条件下でオーバーヘッドミキサーを用いて攪拌しつつ、硝酸銀溶液を添加して約80分間加熱して反応を進行させた。そして、その後室温で冷却をさせた。得られた溶液を遠心分離機で2200rpmの条件下で10分間遠心分離を行った。その後、分離が出来た銀粒子を取り出して、余分なPVPを除去するためエタノール溶液500mlに添加した。そして、さらに遠心分離を行い、銀粒子を取り出した。さらに、取り出した銀粒子を真空乾燥機で35℃、1.3Paの条件下で乾燥させ所定の銀粒子を得た。なお、銀顔料を含む光輝性インク組成物の調整にあたって、銀粒子を予め水で分散させた銀粒子分散液を用いた。具体的には、上述の方法によって得られた銀粒子を純水に3時間攪拌して再分散させ、固形分率20%に調整した銀粒子水分散液とした。
【0089】
図4の光輝性インク配合に示すように、上記によって製造された銀粒子8質量%に、1,6−ヘキサンジオールを3質量%、トリエタノールアミンを1.0質量%、トリメチロールプロパンを5質量%、ポリビニルピロリドン(PVP、k−15)を5質量%、非イオン性界面活性剤(日信化学工業株式会社製オルフィン(R)E1010)0.5質量%、パラフィン系ワックス(ビックケミージャパン社製AQUACER(R)539)を0.1質量%、さらに濃度調整用のイオン交換水を添加することにより、光輝性インクとした。なお、銀粒子の平均粒子径は「マイクロトラックUPA」(日機装株式会社製)を用い、測定条件は、屈折率を0.2−3.9i、溶媒(水)の屈折率を1.333、測定粒子形状を球形、としたところ、20nmであった。
【0090】
[2]樹脂層インクの調整
図4の樹脂層インク配合に示すように、1,2−ヘキサンジオールが8質量%、トリメチロールプロパンが25質量%、非イオン性界面活性剤(日信化学工業株式会社製オルフィン(R)E1010)が0.5質量%、pH調整剤(トリエタノールアミン)が0.3質量%、パラフィン系ワックス(ビックケミージャパン社製AQUACER(R)539)を0.1質量%、ウレタン樹脂エマルジョン(三井化学社製 W6061)が1.5質量%、水が残分となるように調整をした。
【0091】
[3]着色層インクの調整
着色層インクとして、マゼンダインク1(セイコーエプソン株式会社製 ICM37)と、図5の配合表に示すように調整した以下の着色層インクを用いた。
【0092】
マゼンダインク2:
1,2−ヘキサンジオールが6.0質量%、トリメチロールプロパンが25質量%、非イオン性界面活性剤(日信化学工業株式会社製オルフィン(R)E1010)が1.0質量%、pH調整剤(トリエタノールアミン)が1.0質量%、C.I.ピグメントヴァイオレット19が4.0質量%、ウレタン樹脂エマルジョン(三井化学社製 W6061)が3.0質量%、水が残分となるように調整をした。
【0093】
シアンインク:
1,2−ヘキサンジオールが6.0質量%、トリメチロールプロパンが25質量%、非イオン性界面活性剤(日信化学工業株式会社製オルフィン(R)E1010)が1.0質量%、pH調整剤(トリエタノールアミン)が1.0質量%、C.I.ピグメントブルー15:3が4.0質量%、ウレタン樹脂エマルジョン(三井化学社製 W6061)が3.0質量%、水が残分となるように調整をした。
【0094】
イエローインク:
1,2−ヘキサンジオールが6.0質量%、トリメチロールプロパンが25質量%、非イオン性界面活性剤(日信化学工業株式会社製オルフィン(R)E1010)が1.0質量%、pH調整剤(トリエタノールアミン)が1.0質量%、C.I.ピグメントイエロー74が4.0質量%、ウレタン樹脂エマルジョン(三井化学社製 W6061)が3.0質量%、水が残分となるように調整をした。
【0095】
[4]記録物の作成
インクジェットプリンター(「PX−G930」セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジに上述の光輝性インク、樹脂層インク、着色層インクを充填し、塩素を含有する市販の光沢紙(セイコーエプソン株式会社製 写真用紙<光沢>)をインクジェットプリンターにセットし、以下の実施例および比較例、さらに参考例の記録物を形成した。
【0096】
(実施例1〜3、比較例1〜6)
図6に示すように、光沢紙上に上述の光輝性インク、樹脂層インク、およびマゼンダ1インクを用いて着色層インクの順に所定の記録画像を形成させるようにインクを吐出させた。記録画像における光輝性インクによって形成される銀顔料層の厚さ、樹脂層の厚さ、着色層の厚さは、図4に示す実施例1〜3、比較例1〜6の通りの記録物を作成した。
【0097】
(実施例4、比較例8)
図6に示すように、光沢紙上に光輝性インク、樹脂層インクの順に所定画像を形成させるようにインクを吐出させた。記録画像における光輝性インクによって形成される銀顔料層の厚さ、樹脂層の厚さは、図4に示す実施例4、比較例8の通りの記録物を作成した。
【0098】
(実施例5〜7)
図7に示すように、光沢紙上に光輝性インク、樹脂層インク、着色層インクの順に所定画像を形成させるようにインクを吐出させた。着色層は、図5に示すマゼンダ2インク、シアンインク、イエローインクを用いた。記録画像における光輝性インクによって形成される銀顔料層の厚さ、樹脂層の厚さ、着色層の厚さは、図7に示す実施例5〜7の通りの記録物を作成した。
【0099】
(参考例1,2)
図6に示すように、光沢紙上に上述の光輝性インク、樹脂層インク、およびマゼンダ1インクを用いて着色層インクの順に所定画像を形成させるようにインクを吐出させた。記録画像における光輝性インクによって形成される銀顔料層の厚さ、樹脂層の厚さ、着色層の厚さは、図4に示す参考例1,2の通りの記録物を作成した。
【0100】
[5]初期光沢評価
記録物の初期光沢は、「MULTI GLOSS 268型光沢計」(商品名、コニカミノルタ社製)を用い、煽り角度60°での光沢度を測定し、以下の基準に従い評価した。
A :光沢値が200以上
B :光沢値が150以上200%未満
C :光沢値が100以上150%未満
D :光沢値が100未満
これらの結果を、図6に示した。
【0101】
[6]彩度
色度計「SPECTROLINO」(Gretag Macbeth社製)を用い、以下のように判定した。
判定A:彩度 C*7以上(色鮮やか)
判定B:彩度 C*3.5以上7未満(色味がある)
判定C:彩度 C*1以上3.5未満(色味がほとんど無い)
【0102】
[7]メタリック感
銀顔料層によるメタリック感(金属光沢感)の判定は以下の通りとした。
判定A:明らかな金属光沢感有り
判定B:金属光沢有り
判定C:わずかに金属光沢有り
判定D:金属光沢無し
【0103】
[8]耐光性評価
耐光性試験は、JEITA CP−3901法によるキセノン耐光性試験機を用いて行った。20年相当の曝露を行った後、以下の判定を行った。
判定A:変色無し
判定B:わずかな変色有り
判定C:変色有り
【0104】
[9]印刷後の溢れ
「印刷後の溢れ」とは、インクが所定画像の形成領域からはみ出てしまう状態をいう。したがって、溢れの無い記録物は「○」、溢れの認められる記録物は「×」と判定した。
【0105】
[10]記録物の総合判定
図6および図7の示す表における総合判定は、上述の評価項目において何れも下記の評価結果である場合に「○」とし、評価項目のいずれかが下記評価結果で無い場合を「×」とした。
初期光沢評価:AまたはB
彩度:AまたはB
メタリック感:AまたはB
耐光性:A
印刷後の溢れ:溢れ無し「○」
【0106】
図6から明らかなように、上述の実施形態に係る記録物によれば、光沢性および耐光性に優れた記録画像を得ることができる。これに対して、比較例で示す記録物では満足な結果を得ることができなかった。また、図7でも明らかなように、耐光性を劣化させるキナクリドン顔料のC.I.ピグメントバイオレット19、銅フタロシアニン顔料のC.I.ピグメントブルー15:3、アゾ顔料のC.I.ピグメントイエロー72等を着色層インクとして用いても良好な耐光性を有する記録画像が形成された記録物を得ることができる。
【符号の説明】
【0107】
10…被記録媒体、20…銀顔料層、30…樹脂層、40…着色層、100…記録物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体の少なくとも一方の被記録面に画像が形成された記録物であって、
前記被記録媒体は塩素または塩素化合物を含有し、
前記画像は、前記被記録面に銀顔料層、前記銀顔料層の表面に樹脂層が形成され 、
前記銀顔料層の膜厚が50nm以上、280nm以下であり、
前記樹脂層の膜厚が40nm以上、450nm以下である、
ことを特徴とする記録物。
【請求項2】
前記樹脂層の表面に着色層が形成され、
前記着色層の膜厚が500nm以上、5500nm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の記録物。
【請求項3】
前記銀顔料層は、水および銀を含む第1インク組成物により形成される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の記録物。
【請求項4】
前記樹脂層は、樹脂を0.1質量%以上含み、色材を実質的に含まない第2インク組成物により形成される、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の記録物。
【請求項5】
前記第2インク組成物の前記樹脂は 、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フルオレン樹脂、パラフィンワックスのいずれか1種以上である、
ことを特徴とする請求項4に記載の記録物。
【請求項6】
前記着色層は、色材として少なくともキナクリドン系色材または銅フタロシアニン系色材を含有する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の記録物。
【請求項7】
前記銀顔料層と前記樹脂層との膜厚比は1:9〜7:1 である、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の記録物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の記録物を形成する記録装置。
【請求項9】
インクジェット記録手段を備える、ことを特徴とする請求項8に記載の記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−95081(P2013−95081A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240924(P2011−240924)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】