説明

記録物の製造方法、インクセットおよび記録物

【課題】光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を備えた記録物を提供すること、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を備えた記録物を安定的に製造することができる製造方法を提供すること、また、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を備えた記録物の製造に好適に用いることのできるインクセットを提供すること。
【解決手段】本発明の記録物の製造方法は、金属粉末および重合性化合物を含む第1のインクを、インクジェット方式により記録媒体に付与する第1のインク付与工程と、前記記録媒体の前記第1のインクが付与された領域に、比重が2.0以上の溶剤を含む第2のインクを付与する第2のインク付与工程と、前記記録媒体から前記溶剤を除去する溶剤除去工程と、紫外線を照射することにより、前記重合性化合物を重合させる重合工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録物の製造方法、インクセットおよび記録物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光沢感のある外観を呈する装飾品の製造方法として、金属めっきや、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写等が用いられてきた。
しかし、これらの方法では、微細なパターンを形成することや、曲面部への適用が困難であるといった問題があった。
他方、顔料または染料を含む組成物による記録媒体への記録方法として、インクジェット法による記録方法が用いられている。インクジェット法では、微細なパターンの形成や、曲面部への記録にも好適に適用できるという点で優れている。また、近年、インクジェット法において、耐擦性、耐水性、耐溶剤性等を特に優れたものとするため等に、紫外線を照射すると硬化する組成物(紫外線硬化型インクジェット用組成物)が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、紫外線硬化型インクジェット用組成物では、顔料や染料の代わりに、金属粉末を適用しようとした場合、当該金属が本来有している光沢感等の特性を十分に発揮させることができないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−57548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を備えた記録物を提供すること、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を備えた記録物を安定的に製造することができる製造方法を提供すること、また、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を備えた記録物の製造に好適に用いることのできるインクセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の記録物の製造方法は、金属粉末および重合性化合物を含む第1のインクを、インクジェット方式により記録媒体に付与する第1のインク付与工程と、
前記記録媒体の前記第1のインクが付与された領域に、比重が2.0以上の溶剤を含む第2のインクを付与する第2のインク付与工程と、
前記記録媒体から前記溶剤を除去する溶剤除去工程と、
紫外線を照射することにより、前記重合性化合物を重合させる重合工程とを有することを特徴とする。
これにより、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を備えた記録物を安定的に製造することができる製造方法を提供することができる。
【0006】
本発明の記録物の製造方法では、前記金属粉末を構成する粒子は、鱗片状をなすものであることが好ましい。
これにより、印刷部において、金属粉末をより好適に配置させることができ、印刷部の光沢感、耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
本発明の記録物の製造方法では、前記金属粉末を構成する粒子は、比重が1.5以上3.5以下のものであることが好ましい。
これにより、第1のインク(紫外線硬化型インクジェット用組成物)の保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとすることができ、形成される印刷部において、金属粉末をより好適に配置させることができ、印刷部の光沢感、耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0007】
本発明の記録物の製造方法では、前記第2のインクは、前記溶剤として、クロロヨードメタン、ブロモヨードメタン、および、1,1,2,2−テトラブロモエタンよりなる群から選択される1種または2種以上を含むものであることが好ましい。
これにより、形成される印刷部において、金属粉末をより好適に配置させることができ、印刷部の光沢感、耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0008】
本発明の記録物の製造方法では、前記粉末は、気相成膜法により金属材料で構成された膜を形成し、その後、当該膜を粉砕することにより得られたものであることが好ましい。
これにより、形成されるパターン(印刷部)において、金属材料が本来有している光沢感等をより効果的に表現させることができる。また、各粒子間での特性のばらつきを抑制することができる。また、当該方法を用いることにより、比較的薄い金属粉末であっても好適に製造することができる。
【0009】
本発明の記録物の製造方法では、前記粉末の平均粒径は、500nm以上2.0μm以下であることが好ましい。
これにより、形成されるパターン(印刷部)の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、第1のインクの保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0010】
本発明の記録物の製造方法では、前記第1のインクは、前記重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートを含むものであることが好ましい。
これにより、第1のインク(紫外線硬化型インクジェット用組成物)の保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の重合性化合物の反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。また、フェノキシエチルアクリレートは、一般に、第2のインクを構成する溶剤(高比重溶剤)との親和性に優れるものであるため、第1のインクがフェノキシエチルアクリレートを含むものであると、最終的に得られる印刷物において、金属粉末を印刷部の外表面付近に、より好適に配列させることができ、印刷物の光沢感をより確実に優れたものとすることができる。
【0011】
本発明の記録物の製造方法では、前記第1のインクは、前記重合性化合物として、前記フェノキシエチルアクリレートに加え、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましい。
これにより、第1のインク(紫外線硬化型インクジェット用組成物)の保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の重合性化合物の反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。また、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートは、一般に、第2のインクを構成する溶剤(高比重溶剤)との親和性に優れるものであるため、第1のインクが当該群から選択される少なくとも1種の化合物を含むものであると、最終的に得られる印刷物において、金属粉末を印刷部の外表面付近に、より好適に配列させることができ、印刷物の光沢感をより確実に優れたものとすることができる。
【0012】
本発明の記録物の製造方法では、前記第1のインクは、前記重合性化合物として、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよび/またはアミノアクリレートを含むものであることが好ましい。
これにより、第1のインク(紫外線硬化型インクジェット用組成物)の保存安定性をより優れたものとしつつ、形成されるパターンの耐擦性等をさらに優れたものとすることができる。また、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、アミノアクリレートは、一般に、第2のインクを構成する溶剤(高比重溶剤)との親和性に優れるものであるため、第1のインクがジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよび/またはアミノアクリレートを含むものであると、最終的に得られる印刷物において、金属粉末を印刷部の外表面付近に、より好適に配列させることができ、印刷物の光沢感をより確実に優れたものとすることができる。
【0013】
本発明の記録物の製造方法では、前記溶媒除去工程は、40℃以上100℃以下で、30秒以上180秒以下の熱処理を行うものであることが好ましい。
これにより、最終的に得られる記録物中に溶剤が残属することをより確実に防止することができ、記録物の耐久性、信頼性を特に優れたものとすることができるとともに、記録物の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0014】
本発明のインクセットは、インクジェット方式により記録媒体に付与される、金属粉末および重合性化合物を含む第1のインクと、比重が2.0以上の溶剤を含む第2のインクとを備えることを特徴とする。
これにより、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を備えた記録物の製造に好適に用いることのできるインクセットを提供することができる。
本発明の記録物は、本発明の方法を用いて製造されたことを特徴とする。
これにより、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を備えた記録物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】記録物の製造に用いる液滴吐出装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《記録物の製造方法およびインクセット》
まず、本発明の記録物の製造方法およびインクセットについて説明する。
本発明のインクセットは、金属粉末および重合性化合物を含む第1のインクと、比重が2.0以上の溶剤を含む第2のインクとを備えるものである。そして、本発明の記録物の製造方法は、金属粉末および重合性化合物を含む第1のインクを、インクジェット方式により記録媒体に付与する第1のインク付与工程(1a)と、前記記録媒体の前記第1のインクが付与された領域に、比重が2.0以上の溶剤を含む第2のインクを付与する第2のインク付与工程(1b)と、前記記録媒体から前記溶剤を除去する溶剤除去工程(1c)と、紫外線を照射することにより、前記重合性化合物を重合させる重合工程(1d)とを有するものである。
【0017】
ところで、従来から、光沢感のある外観を呈する装飾品の製造方法として、金属めっきや、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写等が用いられてきた。
しかし、これらの方法では、微細なパターンを形成することや、曲面部への適用が困難であるといった問題があった。また、箔押し印刷では、グラデーションのある金属調の印刷ができないという問題があった。
【0018】
他方、顔料または染料を含む組成物による記録媒体への記録方法として、インクジェット法による記録方法が用いられている。インクジェット法では、微細なパターンの形成や、曲面部への記録にも好適に適用できるという点で優れている。また、近年、インクジェット法において、耐擦性、耐水性、耐溶剤性等を特に優れたものとするため等に、紫外線を照射すると硬化する組成物(紫外線硬化型インクジェット用組成物)が用いられている。
【0019】
しかしながら、紫外線硬化型インクジェット用組成物では、顔料や染料の代わりに、金属粉末を適用しようとした場合、当該金属が本来有している光沢感等の特性を十分に発揮させることができないという問題点がある。
そこで、発明者は、上記のような問題を解決する目的で鋭意研究を行った結果、本発明に至った。すなわち、本発明のインクセットは、金属粉末および重合性化合物を含む第1のインクと、比重が2.0以上の溶剤を含む第2のインクとを備えるものであり、本発明の記録物の製造方法は、金属粉末および重合性化合物を含む第1のインクを、インクジェット方式により記録媒体に付与する第1のインク付与工程と、前記記録媒体の前記第1のインクが付与された領域に、比重が2.0以上の溶剤を含む第2のインクを付与する第2のインク付与工程と、前記記録媒体から前記溶剤を除去する溶剤除去工程と、紫外線を照射することにより、前記重合性化合物を重合させる重合工程とを有するものであり、これにより、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を備えた記録物を効率よく製造することができる。これは、以下のような理由によるものであると考えられる。
【0020】
すなわち、一般に、金属粉末を構成する金属材料は比重が大きいため、金属粉末とを重合性化合物と含む紫外線硬化型インクジェット用組成物を記録媒体に付与すると、金属粉末は、記録媒体に付与された紫外線硬化型インクジェット用組成物中において、沈降した状態になりやすく、そのため、そのまま重合性化合物を硬化させた場合、金属粉末は、比較的厚みの大きい重合性化合物の硬化物により被覆された状態となりやすく、得られる記録物において、金属材料が本来有している光沢感等の特性を十分に発揮させることができないが、本発明においては、比重が2.0以上の溶剤(高比重溶剤)を用いることにより、金属粉末(分散質)の分散媒(重合性化合物と前記溶剤とを含む混合物)の比重を大きいものとすることができ、記録媒体上に形成されたパターンにおいて、その表面付近に好適に金属粉末を好適に配列させることができる。その結果、印刷部の耐擦性を十分に優れたものとしつつ、金属材料が本来有している光沢感等の特性を十分に発揮させることができ、印刷部の光沢感を特に優れたものとすることができる。
なお、本発明において、比重とは、4℃における標準物質としての水の密度に対する対象となる物質(金属粉末等)の密度の比率のことを言う。
図1は、記録物の製造に用いる液滴吐出装置を示す斜視図である。
【0021】
<第1のインク付与工程>
第1のインク付与工程においては、本発明のインクセットを構成する第1のインク(金属粉末および重合性化合物を含む第1のインク)を、インクジェット方式により記録媒体に付与する(1a)。
【0022】
(金属粉末)
第1のインクは、少なくとも表面付近が金属材料で構成された複数個の粒子からなる金属粉末(以下、単に「粉末」ともいう)を含むものである。
本発明では、このような金属粉末を含むことにより、金属材料に特有の光沢感、高級感を呈する印刷部を形成することができる。
【0023】
金属粉末を構成する粒子(金属粒子)は、少なくとも表面付近が金属材料で構成されたものであればよく、例えば、全体が金属材料で構成されたものであってもよいし、非金属材料で構成された基部の表面を金属材料で構成された層が被覆してなる構成のものであってもよい。
金属粉末(金属粒子)を構成する金属材料としては、単体としての金属や各種合金等を用いることができるが、金属粉末は、少なくとも表面付近が主としてAlで構成されたものであるのが好ましい。これにより、形成される印刷部の光沢感、耐擦性等を特に優れたものとすることができる。なお、本明細書において、「主として」とは、対象となる部位の全構成成分のうち含有率がもっとも高いものであればよく、対象となる部位における含有率が50質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのがより好ましく、95質量%以上であるのがさらに好ましい。
【0024】
また、金属粉末は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、気相成膜法により金属材料で構成された膜を形成し、その後、当該膜を粉砕することにより得られたものであるのが好ましい。これにより、形成されるパターン(印刷部)において、金属材料が本来有している光沢感等をより効果的に表現させることができる。また、各粒子間での特性のばらつきを抑制することができる。また、当該方法を用いることにより、比較的薄い金属粉末であっても好適に製造することができる。
【0025】
このような方法を用いて金属粉末を製造する場合、例えば、基材上に、金属材料で構成された膜の形成(成膜)を行うことにより、金属粉末を好適に製造することができる。前記基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルム等を用いることができる。また、基材は、成膜面に離型剤層(例えば、高分子離型剤で構成された離型剤層)を有するものであってもよい。
【0026】
また、前記粉砕は、液体中において、前記膜に超音波振動を付与することにより行われるものであるのが好ましい。これにより、後述するような粒径の金属粉末を容易かつ確実に得ることができるとともに、各粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきの発生を抑制することができる。
また、上記のような方法で、粉砕を行う場合、前記液体としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテルおよびジエチレングリコールジエチルエーテルよりなる群から選択される1種または2種以上を含むものを用いるのが好ましい。これにより、金属粉末の不本意な酸化等を防止しつつ、金属粉末の生産性を特に優れたものとし、また、各粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきを特に小さいものとすることができる。
【0027】
金属粒子は、球状、紡錘形状、針状等、いかなる形状のものであってもよいが、鱗片形状をなすものであるのが好ましい。これにより、記録媒体上で、当該金属粒子の主面が記録媒体の表面形状に沿うように、金属粉末を配置することができ、金属粉末を構成する金属材料が本来有している光沢感等を、得られる記録物においてもより効果的に発揮させることができ、形成されるパターン(印刷部)の光沢感、高級感を特に優れたものとすることができるとともに、印刷物の耐擦性を特に優れたものとすることができる。
【0028】
本発明において、鱗片状とは、平板状、湾曲板状等のように、所定の角度から観察した際(平面視した際)の面積が、当該観察方向と直交する角度から観察した際の面積よりも大きい形状のことをいい、特に、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S[μm]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S[μm]に対する比率(S/S)が、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは8以上である。この値としては、例えば、任意の10個の粒子について観察を行い、これらの粒子についての算出される値の平均値を採用することができる。
【0029】
金属粒子の比重は、1.5以上3.5以下であるのが好ましく、2.0以上3.0以下であるのがより好ましい。これにより、第1のインク(紫外線硬化型インクジェット用組成物)中における金属粉末の分散安定性を特に優れたものとし、第1のインク(紫外線硬化型インクジェット用組成物)の保存安定性を特に優れたものとすることができるとともに、第1のインク(紫外線硬化型インクジェット用組成物)の吐出安定性を特に優れたものとすることができる。また、形成される印刷部において、金属粉末をより好適に配列させることができ、不本意な光の乱反射をより効果的に防止・抑制することができ、印刷部の光沢感・高級感を特に優れたものとすることができる。
【0030】
金属粉末の平均粒径は、500nm以上2.0μm以下であるのが好ましく、800nm以上1.8μm以下であるのがより好ましい。これにより、形成されるパターン(印刷部)の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、第1のインクの保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。なお、本発明において、平均粒径とは、個数基準の平均粒径のことを指し、投影面積が最大となる方向から観察した際の面積Sと同一の面積を有する真円の直径の平均値のことを指す。
【0031】
また、金属粉末を構成する粒子(金属粒子)は、表面処理が施されたものであってもよい。これにより、第1のインクのゲル化等を効果的に防止することができ、第1のインクの保存安定性、第1のインクの吐出安定性等を特に優れたものとすることができる。また、表面処理が施された金属粒子を含むことにより、第1のインクの保存安定性等を優れたものとしつつ、後に上述する第2のインク工程における金属粉末(分散質)の分散媒(重合性化合物と前記溶剤とを含む混合物)との親和性を好適に調整することができ、最終的に得られる記録物の印刷部において、その表面付近に、より効果的に金属粉末を配列させることができ、印刷部の光沢感を特に優れたものとすることができる。
【0032】
このような表面処理としては、例えば、下記式(1)で表されるフッ素系シラン化合物、下記式(2)で表されるフッ素系リン酸エステル、下記式(3)で表される長鎖アルキル系リン酸エステル等を用いた処理が挙げられる。
SiX(3−a) (1)
(式(1)中、Rは、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された炭化水素基を表し、Xは、加水分解基、エーテル基、クロロ基または水酸基を表し、Rは、炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、aは、1以上3以下の整数である。)
【0033】
POR(OH)3−n (2)
(式(2)中、Rは、CF(CF−、CF(CF(CH−、CF(CF(CHO)−、CF(CFO−、または、CF(CF(CHO−であり、nは1以上3以下の整数であり、mは5以上19以下の整数であり、lは1以上20以下の整数である。)
【0034】
POR(OH)3−n (3)
(式(3)中、Rは、CH(CH−、CH(CH(CHO)−、または、CH(CHO−であり、nは1以上3以下の整数であり、mは5以上19以下の整数であり、lは2以上20以下の整数である。)
【0035】
第1のインク中における前記金属粉末の含有率は、0.1質量%以上10質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましく、1.0質量%以上2.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0036】
(重合性化合物)
第1のインクは、紫外線の照射により重合し、硬化する成分である重合性化合物を含むものである。このような成分を含むことにより、形成される印刷部の記録媒体(メディア)に対する密着性を優れたものとすることができ、製造される記録物の耐擦性、耐水性、耐溶剤性等を優れたものとすることができる。重合性化合物は、室温(25℃)において液状をなすものであり、第1のインクにおいて、金属粉末を分散する分散媒として機能するものであるのが好ましい。
【0037】
重合性化合物としては、紫外線の照射により重合する成分であればよく、例えば、各種モノマー、各種オリゴマー(ダイマー、トリマー等を含む)等を用いることができるが、第1のインクは、重合性化合物として、少なくともモノマー成分を含むものであるのが好ましい。モノマーは、オリゴマー成分等に比べて、一般に、低粘度の成分であるため、第1のインクの吐出安定性を特に優れたものとする上で有利である。
【0038】
重合性化合物としてのモノマーとしては、例えば、イソボニルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、PO変性ノニルフェノールアクリレート、EO変性ノニルフェノールアクリレート、EO変性2エチルヘキシルアクリレート、EO変性ノニルフェノールアクリレート、フェニルグリシジルエーテルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、EO変性フェノールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、EO変性フェノールアクリレート、EO変性クレゾールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、1.9−ノナンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、1.6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコール200ジアクリレート、ポリエチレングリコール300ジアクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピパレートジアクリレート、2−エチル−2−ブチル−プロパンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコール400ジアクリレート、ポリエチレングリコール600ジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1.9−ノナンジオールジアクリレート、1.6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、PO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性水添ビスフェノールAジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、グリセリンPO付加トリアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル等が挙げられる。中でも、4−ヒドロキシブチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルが好ましい。
【0039】
特に、第1のインクは、重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートを含むものであるのが好ましい。これにより、第1のインク(紫外線硬化型インクジェット用組成物)の保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の重合性化合物の反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。また、フェノキシエチルアクリレートは、一般に、第2のインクを構成する溶剤(高比重溶剤)との親和性に優れるものであるため、第1のインクがフェノキシエチルアクリレートを含むものであると、最終的に得られる印刷物において、金属粉末を印刷部の外表面付近に、より好適に配列させることができ、印刷物の光沢感をより確実に優れたものとすることができる。
【0040】
また、第1のインクは、重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートに加え、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。これにより、第1のインク(紫外線硬化型インクジェット用組成物)の保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の重合性化合物の反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。また、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートは、一般に、第2のインクを構成する溶剤(高比重溶剤)との親和性に優れるものであるため、第1のインクが当該群から選択される少なくとも1種の化合物を含むものであると、最終的に得られる印刷物において、金属粉末を印刷部の外表面付近に、より好適に配列させることができ、印刷物の光沢感をより確実に優れたものとすることができる。
【0041】
また、第1のインクは、重合性化合物として、モノマー以外に、オリゴマーを含むものとしてもよい。特に多官能のオリゴマーを含むものであるのが好ましい。これにより、第1のインクの保存安定性を優れたものとしつつ、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。なお、本発明では、重合性化合物の中でも、分子の骨格中に繰り返し構造を有し、分子量が600以上のものをオリゴマーと呼ぶ。オリゴマーとしては、繰り返し構造がウレタンであるウレタンオリゴマー、繰り返し構造がエポキシであるエポキシオリゴマー等が好ましく用いられる。
【0042】
また、第1のインクは、前記重合性化合物として、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよび/またはアミノアクリレートを含むのが好ましい。これにより、第1のインク(紫外線硬化型インクジェット用組成物)の保存安定性をより優れたものとしつつ、形成されるパターンの耐擦性等をさらに優れたものとすることができる。また、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、アミノアクリレートは、一般に、第2のインクを構成する溶剤(高比重溶剤)との親和性に優れるものであるため、第1のインクがジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよび/またはアミノアクリレートを含むものであると、最終的に得られる印刷物において、金属粉末を印刷部の外表面付近に、より好適に配列させることができ、印刷物の光沢感をより確実に優れたものとすることができる。
第1のインク中における前記重合性化合物の含有率は、80質量%以上99質量%以下であるのが好ましく、85質量%以上97質量%以下であるのがより好ましく、90質量%以上95質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0043】
(その他の成分)
第1のインクは、上述した以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、光重合開始剤、スリップ剤(レベリング剤)、分散剤、重合促進剤、重合禁止剤、浸透促進剤、湿潤剤(保湿剤)、着色剤、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、増粘剤、増感剤(増感色素)等が挙げられる。
【0044】
光重合開始剤は、紫外線照射によってラジカルやカチオン等の活性種を発生し、上記重合性化合物の重合反応を開始させるものであれば特に制限されない。光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を使用することができるが、光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。光重合開始剤を用いる場合、当該光重合開始剤は、紫外線領域に吸収ピークを有していることが好ましい。
【0045】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物等)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、アルキルアミン化合物等が挙げられる。
これらの中でも、重合性化合物への溶解性および硬化性の観点から、アシルホスフィンオキサイド化合物およびチオキサントン化合物から選択される少なくとも1種が好ましく、アシルホスフィンオキサイド化合物およびチオキサントン化合物を併用することがより好ましい。
【0046】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン、およびビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等が挙げられ、これらのうちから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
第1のインク中における光重合開始剤の含有量は、0.5質量%以上10質量%以下であるのが好ましい。光重合開始剤の含有量が前記範囲であると、紫外線硬化速度が十分大
第1のインクがスリップ剤を含むものであると、レベリング作用により記録物の表面が平滑になり、耐擦性が向上する。
スリップ剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーン等のシリコーン系界面活性剤を用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンまたはポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが好ましい。
【0048】
第1のインクが分散剤を含むものであると、金属粉末の分散性を優れたものとすることができ、第1のインクの保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとすることができる。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマーおよびコポリマー、アクリル系ポリマーおよびコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0049】
第1のインクの室温(20℃)での粘度は、20mPa・s以下であるのが好ましく、3mPa・s以上15mPa・s以下であるのがより好ましい。これにより、インクジェット法による液滴吐出を好適に行うことができる。
本発明のインクセットは、第1のインクとして、少なくとも1種のインクを備えるものであればよいが、複数種の第1のインクを備えるものであってもよい。
インクジェット法の方式(液滴吐出方式)としては、例えば、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式等を用いることができるが、第1のインク2の変質のし難さ等の観点から、ピエゾ方式が好ましい。
【0050】
以下の説明では、第1のインクの吐出は、図1に示すような液滴吐出装置を用いて行うものとして説明する。
図1に示すように、本工程で用いる液滴吐出装置100は、第1のインク2を保持するタンク101と、チューブ110と、チューブ110を介してタンク101から第1のインク2が供給される吐出走査部102とを備える。吐出走査部102は、複数の液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)をキャリッジに搭載してなる液滴吐出手段103と、液滴吐出手段103の位置を制御する第1位置制御装置104(移動手段)と、記録媒体(基材)11を保持するステージ106と、ステージ106の位置を制御する第2位置制御装置108(移動手段)と、制御手段112とを備えている。タンク101と、液滴吐出手段103における複数の液滴吐出ヘッドとは、チューブ110で連結されており、タンク101から複数の液滴吐出ヘッドのそれぞれに第1のインク2が圧縮空気によって供給される。
【0051】
第1位置制御装置104は、制御手段112からの信号に応じて、液滴吐出手段103をX軸方向、およびX軸方向に直交するZ軸方向に沿って移動させる。さらに、第1位置制御装置104は、Z軸に平行な軸の回りで液滴吐出手段103を回転させる機能も有する。本実施形態では、Z軸方向は、鉛直方向(つまり重力加速度の方向)に平行な方向である。第2位置制御装置108は、制御手段112からの信号に応じて、X軸方向およびZ軸方向の双方に直交するY軸方向に沿ってステージ106を移動させる。さらに、第2位置制御装置108は、Z軸に平行な軸の回りでステージ106を回転させる機能も有する。
【0052】
ステージ106は、X軸方向とY軸方向との双方に平行な平面を有する。また、ステージ106は、第1のインク2を付与すべき記録媒体11をその平面上に固定、または保持できるように構成されている。
上述のように、液滴吐出手段103は、第1位置制御装置104によってX軸方向に移動させられる。一方、ステージ106は、第2位置制御装置108によってY軸方向に移動させられる。つまり、第1位置制御装置104および第2位置制御装置108によって、ステージ106に対する液滴吐出ヘッドの相対位置が変わる(ステージ106に保持された記録媒体11と、液滴吐出手段103とが相対的に移動する)。
【0053】
制御手段112は、第1のインク2を吐出すべき相対位置を表す吐出データを外部情報処理装置から受け取るように構成されている。
上記のような液滴吐出装置100を用いて、第1のインク2を記録媒体11に付与する。上記のような装置を用いることにより、記録媒体11の所望の部位に、効率よくかつ選択的に第1のインク2を付与することができる。なお、図示の構成では、液滴吐出装置100は、タンク101、チューブ110等を、1種の第1のインク2に対応する1組分しか有していないが、これらの部材を、複数種の第1のインク2の分だけ有するものであってもよい。また、記録物の製造においては、複数種の第1のインク2に対応する複数の液滴吐出装置100を用いてもよい。
なお、本発明では、液滴吐出ヘッドは、駆動素子として、ピエゾ素子を用いるものであっても、静電アクチュエータを用いるものであってもよい。また、液滴吐出ヘッドは、駆動素子として電気熱変換素子を用い、この電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用して第1のインクを吐出する構成であってもよい。
【0054】
<第2のインク付与工程>
次に、記録媒体11の前記第1のインク2が付与された領域に、比重が2.0以上の溶剤(高比重溶剤)を含む第2のインクを付与する(1b)。これにより、記録媒体11上に形成されたパターンにおいて、その表面付近に好適に金属粉末を好適に配列させることができる。その結果、印刷部の耐擦性を十分に優れたものとしつつ、金属材料が本来有している光沢感等の特性を十分に発揮させることができ、印刷部の光沢感を特に優れたものとすることができる。
【0055】
溶剤は、室温(25℃)においてそれ単独で液状をなすものであり、記録媒体上において、前記重合性化合物と相溶し、金属粉末を分散する分散媒として機能するものである。そして、当該溶剤(高比重溶剤)は、通常、印刷物の製造過程(印刷部の形成過程)において、記録媒体上からそのほとんど(例えば、第2のインク中に含まれる溶剤の90質量%以上)が除去されるものであり、直接重合反応に寄与するものではない。
【0056】
前記溶剤の比重は、2.0以上であればよいが、2.3以上であるのが好ましく、2.4以上3.5以下であるのがより好ましい。これにより、上述したような本発明の効果がより顕著に発揮される。
前記溶剤としては、例えば、クロロヨードメタン、ジブロモクロロメタン、1,2−ジブロモエタン、ブロモホルム、ブロモヨードメタン、1,1,2,2−テトラブロモエタン、および、ジヨードメタンよりなる群から選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
中でも、クロロヨードメタン、ブロモヨードメタン、および1,1,2,2−テトラブロモエタンよりなる群から選択される1種または2種以上を含むものであるのが好ましい。これにより、形成される印刷部において、金属粉末をより好適に配置させることができ、印刷部の光沢感、耐擦性等を特に優れたものとすることができる。また、第2のインクの吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0058】
なお、第2のインクを構成する前記溶剤は、単一の成分(化合物)で構成されるものであってもよいし、複数種の成分(化合物)で構成されるものであってもよい。また、前記溶剤が複数種の成分からなるものである場合、これらの混合物としての比重が上記条件を満たせばよい。
第2のインク中における前記溶剤の含有率は、85質量%以上100質量%以下であるのが好ましく、90質量%以上99.5質量%以下であるのがより好ましく、95質量%以上99質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、第2のインクの保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとすることができる。また、印刷部において、金属粉末をより好適に配置させることができ、印刷部の光沢感、耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0059】
第2のインクは、実質的に前記溶剤(高比重溶剤)のみで構成されるものであってもよいし、前記溶剤(高比重溶剤)以外の成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、第1のインクの構成成分としての「その他の成分」で説明したもの等が挙げられる。
第2のインクは、いかなる方法で付与されるものであってもよいが、前述した第1のインクと同様に、インクジェット方式による付与されるものであるのが好ましい。これにより、上述したようなインクジェット方式を採用することによる利益が得られるとともに、記録物の製造装置の簡略化を図ることができる。
【0060】
第2のインクの室温(20℃)での粘度は、20mPa・s以下であるのが好ましく、3mPa・s以上15mPa・s以下であるのがより好ましい。これにより、インクジェット法による液滴吐出を好適に行うことができる。
本発明のインクセットは、第2のインクとして、少なくとも1種のインクを備えるものであればよいが、複数種の第2のインクを備えるものであってもよい。
【0061】
<溶剤除去工程(加熱工程)>
次に、加熱により、記録媒体11から前記溶剤を除去する(1b)。これにより、紫外線の照射により硬化する重合性化合物の重合反応を十分に防止・抑制しつつ、前記溶剤を効率よく除去することができるとともに、前記溶剤が除去された後の組成物(第1のインクと第2のインクとの混合物)の流動性を十分に確保することができ、記録媒体上において、金属粉末を好適に配列させることができる。
【0062】
本工程における加熱温度は、40℃以上100℃以下であるのが好ましく、60℃以上80℃以下であるのがより好ましい。これにより、最終的に得られる記録物中に溶剤が残属することをより確実に防止することができ、記録物の耐久性、信頼性を特に優れたものとすることができるとともに、記録物の生産性を特に優れたものとすることができる。
本工程における加熱時間は、30秒以上180秒以下であるのが好ましく、60秒以上120秒以下であるのがより好ましい。これにより、最終的に得られる記録物中に溶剤が残属することをより確実に防止することができ、記録物の耐久性、信頼性を特に優れたものとすることができるとともに、記録物の生産性を特に優れたものとすることができる。
また、本工程においては、加熱とともに、第1のインク2および第2のインクが付与された記録媒体11に対して、減圧処理を施してもよい。これにより、加熱温度を比較的低いものとすることができ、重合性化合物の不本意な重合反応をより確実に防止することができる。
【0063】
<重合工程>
その後、紫外線を照射することにより、記録媒体11に付与された第1のインク2を構成する重合性化合物を硬化させる(1c)。これにより、記録物が得られる。
紫外線源としては、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線発光ダイオード(UV−LED)、紫外線レーザダイオード(UV−LD)等を用いることができる。中でも、小型、高寿命、高効率、低コストの観点から、紫外線発光ダイオード(UV−LED)および紫外線レーザダイオード(UV−LD)が好ましい。
【0064】
《記録物》
次に、本発明の記録物について説明する。
本発明の記録物は、上述したような方法を用いて製造されたものである。このような記録物は、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を有するものである。
上述したように、本発明に係るインクセットを構成する第1のインクは、重合性化合物を含むものであり、本発明に係るインクセットを用いて形成される印刷部は、記録媒体に対する密着性に優れるものである。このため、記録媒体は、いかなるものであってもよく、吸収性または非吸収性のいずれを用いてもよく、例えば、紙(普通紙、インクジェット用専用紙等)、プラスチック材料、金属、セラミックス、木材、貝殻、綿、ポリエステル、ウール等の天然繊維・合成繊維、不織布等を用いることができる。
【0065】
本発明の記録物は、いかなる用途のものであってもよく、例えば、装飾品やそれ以外に適用されるものであってもよい。本発明の記録物の具体例としては、コンソールリッド、スイッチベース、センタークラスタ、インテリアパネル、エンブレム、センターコンソール、メーター銘板等の車両用内装品、各種電子機器の操作部(キースイッチ類)、装飾性を発揮する装飾部、指標、ロゴ等の表示物等が挙げられる。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
例えば、前述した実施形態では、第1のインクを構成する粉末は、その全体(表面の酸化膜を除く)が均一な組成を有するものとして説明したが、本発明において、粉末は、各部位で組成の異なるものであってもよい。例えば、金属材料で構成された被膜が非金属材料で構成された基部を覆うような構成のものであってもよい。このように、粉末はその表面付近が金属材料で構成されたものであればよく、このような構成であっても、上述したような本発明の効果を確実に発揮することができる。
【実施例】
【0067】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]インクセットの製造
(実施例1)
まず、表面が平滑なポリエチレンテレフタレート製のフィルム(三菱樹脂社製、ダイアホイルG440E)を用意した。次に、このフィルムの一方の面の全体にシリコーンオイルを塗布した。次に、シリコーンオイルを塗布した面側に、蒸着法により、Alで構成された膜を順次形成した。次に、Al膜が形成されたポリエチレンテレフタレート製のフィルム(基材)を、ジエチレングリコールジエチルエーテルで構成された液体中に入れ、超音波振動を付与した。これにより、Alで構成された多数個の鱗片状の粒子からなる粉末が得られた。当該粒子に対し、オクタデシルトリメトキシシランによる表面処理を施し、多数個の粒子からなる金属粉末を得た。金属粉末の平均粒径(D50)は0.8μmであった。また、金属粉末の平均厚さは、35nmであった。
【0068】
次に、鱗片化した金属粉末を分離し、その後、フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、光重合開始剤としてのIrgacure819(チバ・ジャパン社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure TPO(ACETO社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure DETX(Lambson社製)、レベリング剤としてのUV−3500(ビックケミー社製)、および、重合禁止剤としてのヒドロキノンモノメチルエーテル(関東化学社製)と混合することにより、第1のインクを得た。
一方、溶剤としてのクロロヨードメタン(比重:2.42)からなる第2のインクを用意した。
以上のようにして、第1のインクおよび第2のインクからなるインクセットを得た。
(実施例2〜10)
第1のインク・第2のインクの調製に用いる原料の種類・比率を変更することにより、表1に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクセットを製造した。
【0069】
(比較例1)
本比較例では、第2のインクを用意せず、第1のインクのみを製造した。
(比較例2)
第2のインクとして、クロロヨードメタン(比重:2.42)の代わりに、ジエチレングリコールジエチルエーテル(比重:0.91)からなるものを用意した以外は、前記実施例1と同様にしてインクセットを製造した。
【0070】
(比較例3)
前記実施例1で述べたのと同様にして製造した金属粉末を、溶剤としてのクロロヨードメタン(比重:2.42)、フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、光重合開始剤としてのIrgacure819(チバ・ジャパン社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure TPO(ACETO社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure DETX(Lambson社製)、レベリング剤としてのUV−3500(ビックケミー社製)、および、重合禁止剤としてのヒドロキノンモノメチルエーテル(関東化学社製)と混合することにより、インク(第1のインク)を得た。すなわち、本比較例では、1種のインクのみを製造し、当該インクは、金属粉末、重合性化合物および高比重溶剤を含むものである。
【0071】
前記各実施例および比較例について、第1のインクおよび第2のインクの組成を、表1にまとめて示した。なお、表中、Alからなる組成を「C1」、Al:90.65質量%、Mg:2.54質量%、Cu:1.60質量%、Zn:5.19質量%、Mn:0.02質量%の組成を「C2」、Al:89.96質量%、Mg:2.54質量%、Cu:1.60質量%、Zn:5.19質量%、Mn:0.02質量%、Cr:0.23質量%、Si0.22質量%、Fe:0.21質量%、Ti:0.03の組成を「C3」、Al:94.60質量%、Mg:0.30質量%、Cu:5.10質量%の組成を「C4」、
Al:90.59質量%、Mg:2.59質量%、Cu:1.98質量%、Zn:4.82質量%、Mn:0.02質量%の組成を「C5」、Pdからなる組成を「C6」、SUS316Lを「C7」、オクタデシルトリメトキシシランによる表面処理を「S1」、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシランによる表面処理を「S2」、2−(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸による表面処理を「S3」、ラウリル酸エステルによる表面処理を「S4」、クロロヨードメタン(比重:2.42)をCIM、ジブロモクロロメタン(比重:2.45)をDBCM、1,2−ジブロモエタン(比重:2.20)をDBE、ブロモホルム(比重:2.9)をBF、ブロモヨードメタン(比重:2.93)をBIM、1,1,2,2−テトラブロモエタン(比重:2.97)をTBE、ジヨードメタン(比重:3.33)をDIM、ジエチレングリコールジエチルエーテル(比重:0.91)をDEGDEE、フェノキシエチルアクリレートを「PEA」、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルを「VEEA」、トリプロピレングリコールジアクリレートを「TPGDA」、ジプロピレングリコールジアクリレートを「DPGDA」、N−ビニルカプロラクタムを「VC」、ベンジルメタクリレートを「BM」、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートを「DMTCDDA」、アミノアクリレートを「AA」、ウレタンアクリレートを「UA」、Irgacure 819(チバ・ジャパン社製)を「ic819」、Speedcure TPO(ACETO社製)を「scTPO」、Speedcure DETX(Lambson社製)を「scDETX」、UV−3500(ビックケミー社製)を「UV3500」、ヒドロキノンモノメチルエーテルを「MEHQ」、4−ヒドロキシブチルアクリレートを「HBA」で示した。また、表中、粉末の合金組成については、各成分(元素)の含有率を質量%の単位で示した。また、各第1のインク(紫外線硬化型インクジェット用組成物)中に含まれるそれぞれ任意の10個の金属粒子について観察を行い、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S[μm]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S[μm]に対する比率(S/S)を求め、これらの平均値を、表1にあわせて示した。また、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された前記各実施例のインク(第1のインク及び第2のインク)の20℃における粘度は、いずれも、3mPa・s以上15mPa・s以下の範囲内の値であった。
【0072】
【表1】

【0073】
[2]液滴吐出の安定性評価(吐出安定性評価)
前記各実施例および比較例のインクセット(比較例1および3については、1種のインク。以下同様。)を用いて、下記に示すような試験による評価を行った。
まず、チャンバー(サーマルチャンバー)内に設置した液滴吐出装置および前記各実施例および各比較例のインクセットを用意し、ピエゾ素子の駆動波形を最適化した状態で、25℃、55%RHの環境下で、各インクについて、液滴吐出ヘッドの各ノズルから、4000000発(4000000滴)の液滴の連続吐出を行った。その後、液滴吐出装置の運転を停止し、液滴吐出装置の流路に各インクが充填された状態で、25℃、55%RHの環境下に、240時間放置した。
【0074】
その後、液滴吐出ヘッドの各ノズルから、25℃、55%RHの環境下で、3000000発(3000000滴)の液滴の連続吐出を行った。上記240時間放置した後の、液滴吐出ヘッドの中央部付近の指定したノズルから吐出された3000000発の液滴について、着弾した各液滴の中心位置の中心狙い位置からのズレ量dの平均値を求め、以下の5段階の基準に従い、評価した。この値が小さいほど飛行曲がりの発生が効果的に防止されていると言える。
【0075】
A:ズレ量dの平均値が0.09μm未満。
B:ズレ量dの平均値が0.09μm以上0.15μm未満。
C:ズレ量dの平均値が0.15μm以上0.18μm未満。
D:ズレ量dの平均値が0.18μm以上0.22μm未満。
E:ズレ量dの平均値が0.22μm以上。
【0076】
[3]インクの保存安定性評価(長期安定性評価)
前記各実施例および各比較例のインクセットを構成する各インクについて、40℃の環境下に、40日間放置した後、目視による観察を行い、以下の5段階の基準に従い、評価した。
A:粘度の上昇率が3.0%未満。
B:粘度の上昇率が3.0%以上6.0%未満。
C:粘度の上昇率が6.0%以上10.0%未満。
D:粘度の上昇率が10.0%以上15.0%未満。
E:粘度の上昇率が15.0%以上。
【0077】
[4]硬化性
前記各実施例および比較例2について、インクセットを構成する第1のインクを、エプソン製インクジェットプリンター;PM800Cへ導入し、基材として三菱樹脂(株)製、ダイアホイル G440E(厚さ38μm)を用いて、インク量wet 9g/mにて、ベタ印刷を行い、さらに、第2のインクを、インク量wet 9g/mにて、ベタ印刷を行った。その後、70℃×120秒間の熱処理を施した。次に、LED−UVランプ;フォセオン社製 RX firefly(ギャップ6mm 1000mW/cm)を用いて紫外線の照射を行い、重合性化合物が硬化したか否かを確認し、以下の5段階の基準に従い、評価した。硬化したか否かは、綿棒にて表面をこすって、未硬化のインクが付着しないか否かで判断した。
【0078】
また、比較例1および比較例3については、第2のインクのベタ印刷を行わなかった以外は、上記と同様にして硬化性の評価を行った。
なお、下記A〜Eの照射量に該当するかどうかは、ランプを何秒照射したかによって算出できる。
A:100mJ/cm未満の紫外線照射量にて硬化した。
B:100mJ/cm以上200mJ/cm未満の紫外線照射量にて硬化した。
C:200mJ/cm以上500mJ/cm未満の紫外線照射量にて硬化した。
D:500mJ/cm以上1000mJ/cm未満の紫外線照射量にて硬化した。
E:1000mJ/cm以上の紫外線照射量にて硬化する。もしくはまったく硬化 しない。
【0079】
[5]記録物の製造
各実施例および比較例2について製造直後のインクセットを用いて、それぞれ、以下のようにして、記録物としてのインテリアパネルを製造した。
まず、製造直後のインクセットをインクジェット装置に投入した。
その後、ポリカーボネート(旭硝子社製、カーボグラス ポリッシュ 2mm厚)を用いて成形した曲面部を有する記録媒体上に、所定のパターンで、第1のインクを吐出した(第1のインク付与工程)。
【0080】
その後、第1のインクの付与パターンと同一のパターンで、第2のインクを吐出した(第2のインク付与工程)。
その後、第1のインクおよび第2のインクが付与された記録媒体に対し、70℃×120秒間の熱処理を施した(溶剤除去工程)。
その後、記録媒体の第1のインクおよび第2のインクが付与された面側に、365nm、380nm、395nmの波長に極大値を有するスペクトルの紫外線を、照射強度180mW/cmを20秒間照射し、記録媒体上の重合性化合物を硬化させ、記録物としてのインテリアパネルを得た。
上記のような方法を用いて、10個のインテリアパネル(記録物)を製造した。
【0081】
また、記録媒体として、ポリエチレンテレフタレート(三菱樹脂社製 ダイアホイル G440E 38μm厚)を用いて成形したもの、低密度ポリエチレン(三井化学東セロ社製 T.U.X(L−LDPE) HC−E #80)を用いて成形したもの、2軸延伸ポリプロピレン(三井化学東セロ社製 OP U−1 #60)を用いて成形したもの、硬質塩化ビニル(アクリサンデー社製 サンデーシート(透明)0.5mm厚)を用いて成形したものを用いた以外は、上記と同様にして、それぞれ、10個ずつのインテリアパネル(記録物)を製造した。
また、各比較例1および3についても、第2のインク付与工程を省略した以外は上記と同様にして、製造直後のインクを用いて、インテリアパネル(記録物)を製造した。
【0082】
[6]記録物の評価
上記のようにして得られた各記録物について、以下のような評価を行った。
[6.1]記録物の外観評価
前記各実施例および比較例で製造した各記録物を目視により観察し、以下の7段階の基準に従い、評価した。
【0083】
A:高級感に溢れる光沢感を有し、極めて優れた外観を有している。
B:高級感に溢れる光沢感を有し、非常に優れた外観を有している。
C:高級感のある光沢感を有し、優れた外観を有している。
D:高級感のある光沢感を有し、良好な外観を有している。
E:光沢感に劣り、外観がやや不良。
F:光沢感に劣り、外観が不良。
G:光沢感に劣り、外観が極めて不良。
【0084】
[6.2]光沢度
前記各実施例および比較例で製造した各記録物のパターン形成部について、光沢度計(MINOLTA MULTI GLOSS 268)を用い、煽り角度60°での光沢度を測定し、以下の基準に従い評価した。
A:光沢度が330以上。
B:光沢度が220以上330未満。
C:光沢度が110以上220未満。
D:光沢度が110未満。
【0085】
[6.3]耐擦性
前記各実施例および比較例に係る記録物について、記録物の製造から72時間経過した時点で、サウザーランドラブテスターを用い、JIS K5701に準じて耐擦性試験を行い、上記[6.2]で述べたのと同様の方法により、耐擦性試験後の記録物についても光沢度(煽り角度60°)を測定し、耐擦性試験前後での光沢度の低下率を求め、以下の基準に従い評価した。
【0086】
A:光沢度の低下率が7%未満。
B:光沢度の低下率が7%以上16%未満。
C:光沢度の低下率が16%以上27%未満。
D:光沢度の低下率が27%以上30%未満。
E:光沢度の低下率が30%以上。
【0087】
これらの結果を表2に示す。なお、表2中、ポリカーボネート製の記録媒体を用いて製造された記録物を「M1」、ポリエチレンテレフタレート製の記録媒体を用いて製造された記録物を「M2」、低密度ポリエチレン製の記録媒体を用いて製造された記録物を「M3」、2軸延伸ポリプロピレン製の記録媒体を用いて製造された記録物を「M4」、硬質塩化ビニル製の記録媒体を用いて製造された記録物を「M5」で示した。
【0088】
【表2】

【0089】
表2から明らかなように、本発明のインクセットは、液滴の吐出安定性、保存安定性および硬化性に優れていた。また、本発明の記録物は、優れた光沢感、外観を有しており、パターン形成部の耐擦性にも優れていた。これに対して、比較例では、満足な結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0090】
11…記録媒体(基材) 2…第1のインク 100…液滴吐出装置 101…タンク 102…吐出走査部 103…液滴吐出手段 104…第1位置制御装置(移動手段) 106…ステージ 108…第2位置制御装置(移動手段) 110…チューブ 112…制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末および重合性化合物を含む第1のインクを、インクジェット方式により記録媒体に付与する第1のインク付与工程と、
前記記録媒体の前記第1のインクが付与された領域に、比重が2.0以上の溶剤を含む第2のインクを付与する第2のインク付与工程と、
前記記録媒体から前記溶剤を除去する溶剤除去工程と、
紫外線を照射することにより、前記重合性化合物を重合させる重合工程とを有することを特徴とする記録物の製造方法。
【請求項2】
前記金属粉末を構成する粒子は、鱗片状をなすものである請求項1に記載の記録物の製造方法。
【請求項3】
前記金属粉末を構成する粒子は、比重が1.5以上3.5以下のものである請求項1または2に記載の記録物の製造方法。
【請求項4】
前記第2のインクは、前記溶剤として、クロロヨードメタン、ブロモヨードメタン、および、1,1,2,2−テトラブロモエタンよりなる群から選択される1種または2種以上を含むものである請求項1ないし3のいずれか一項に記載の記録物の製造方法。
【請求項5】
前記粉末は、気相成膜法により金属材料で構成された膜を形成し、その後、当該膜を粉砕することにより得られたものである請求項1ないし4のいずれか一項に記載の記録物の製造方法。
【請求項6】
前記粉末の平均粒径は、500nm以上2.0μm以下である請求項1ないし5のいずれか一項に記載の記録物の製造方法。
【請求項7】
前記第1のインクは、前記重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートを含むものである請求項1ないし6のいずれか一項に記載の記録物の製造方法。
【請求項8】
前記第1のインクは、前記重合性化合物として、前記フェノキシエチルアクリレートに加え、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである請求項7に記載の記録物の製造方法。
【請求項9】
前記第1のインクは、前記重合性化合物として、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよび/またはアミノアクリレートを含むものである請求項1ないし8のいずれか一項に記載の記録物の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒除去工程は、40℃以上100℃以下で、30秒以上180秒以下の熱処理を行うものである請求項1ないし9のいずれか一項に記載の記録物の製造方法。
【請求項11】
インクジェット方式により記録媒体に付与される、金属粉末および重合性化合物を含む第1のインクと、比重が2.0以上の溶剤を含む第2のインクとを備えることを特徴とするインクセット。
【請求項12】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の方法を用いて製造されたことを特徴とする記録物。

【図1】
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【公開番号】特開2013−18182(P2013−18182A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152892(P2011−152892)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】