説明

記録用シートおよび記録物

【目的】インクの吸収性が良好で、かつ、色素の定着性の良好な記録用シートであって、印字後の長期保存でも退色のない記録用シートを得る。
【構成】基材上に、ジチオカルバミン酸塩、チウラム塩、チオシアン酸エステル類、チオシアン酸塩およびヒンダードアミンからなる群より選ばれた1種以上の化合物を含有する擬ベーマイト多孔質インク受理層を有するインクジェットプリンター記録用シート。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、記録用シートおよび記録物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】インクジェット方式、静電転写方式、昇華型熱転写方式等の各種プリンターを用いて画像を形成することが多くなっている。この場合、普通の紙では十分な吸収性や解像度が得られず、また透明なものも得られないので、例えば、特開平2−276670号等のように、基材上に無機の多孔質層を形成した記録用シートが提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記のような無機の多孔質層を有する記録用シートは、インクの吸収性が良好であり、かつ、色素の定着性も良好である。しかし、この無機の多孔質層を有する記録用シートにあっては、印字後、保存中に退色する場合があった。
【0004】したがって、本発明は、インクの吸収性が良好であり、かつ、色素の定着性が良好な記録用シートであって、印字後の長期の保存でも退色のない記録用シートを得ることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、基材上に、ジチオカルバミン酸塩、チウラム塩、チオシアン酸エステル類、チオシアン酸塩およびヒンダードアミンからなる群より選ばれた1種以上の化合物を含有する多孔質インク受理層を有する記録用シートが提供される。
【0006】また、本発明によれば、基材上に、ジチオカルバミン酸塩、チウラム塩、チオシアン酸エステル類、チオシアン酸塩およびヒンダードアミンからなる群より選ばれた1種以上の化合物を含有する多孔質インク受理層を有し、この多孔質インク受理層に色素が担持された記録物が提供される。
【0007】ジチオカルバミン酸塩、チウラム塩、チオシアン酸エステル類、チオシアン酸塩、ヒンダードアミンは退色防止剤として機能し、印字後における保存中のインクの退色が防止される。この退色防止剤の機能はまだ明確ではないが、他の添加剤を安定化したり、大気中の微量ガスによる退色を防いでいるものと考えられる。
【0008】これらのジチオカルバミン酸塩、チウラム塩、チオシアン酸エステル類、チオシアン酸塩、ヒンダードアミンは、それぞれ単独で用いても優れた退色防止効果を有するが、これらの化合物を複数用いれば、より一層優れた効果を得ることができる。さらに、これらの化合物をヨウ化物またはヨウ素からなる消光剤と併用することにより、より大きい退色防止効果を得ることができるとともに、消光剤のヨウ素により記録用シートが着色されてしまうことも防止できる。なお、消光剤とは、酸素存在下で生成する活性な一重項酸素と作用してそれを失活させる物質である。
【0009】本発明の記録用シートは、インクジェットプリンター用の記録媒体として特に好ましく用いられる。本発明の記録用シートは、インクの吸収性、定着性が特に優れるため、鮮明な色、高い色濃度を表現でき、かつ、シャープなドットを形成できるからである。
【0010】退色防止剤として使用するジチオカルバミン酸塩としては、好ましくは、ジメチルジチオカルバミン酸カリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム等が用いられ、チウラム塩としては、好ましくは、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等が用いられ、チオシアン酸エステル類としては、好ましくは、チオシアン酸メチル、チオシアン酸エチル等が用いられ、チオシアン酸塩としては、好ましくは、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム等が用いられる。
【0011】消光剤として用いられるヨウ化物としては、好ましくは、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどのヨウ化金属類が用いられる。
【0012】また、ヒンダードアミンは、ヨウ化物またはヨウ素からなる消光剤と併用する場合に、特に有効である。
【0013】多孔質インク受理層に、ジチオカルバミン酸塩、チウラム塩、チオシアン酸エステル類、チオシアン酸塩およびヒンダードアミンからなる群より選ばれた1種以上の化合物(以下、本退色防止剤という)または、ヨウ素またはヨウ化物からなる消光剤(以下、本消光剤という)および本退色防止剤を付与する方法としては、あらかじめ形成した多孔質インク受理層に、本退色防止剤または本退色防止剤および本消光剤を適当な溶媒に溶解した溶液を浸漬法またはスプレー法などで付与する方法が好ましく採用される。あるいは、多孔質インク受理層を形成する原料に本退色防止剤または本退色防止剤および本消光剤をあらかじめ混合しておく方法なども採用できる。
【0014】本退色防止剤の含有量としては、多孔質インク受理層の重量を基準として0.01〜10重量%であることが好ましい。本退色防止剤の含有量が0.01重量%に満たない場合は、本発明の効果が十分発現せず、インクの退色が起こるおそれがあるので好ましくない。本退色防止剤の含有量が10重量%を超える場合は、多孔質層の吸収性を阻害するおそれがあるので好ましくない。より好ましい本退色防止剤の含有量は0.1〜1重量%である。
【0015】本退色防止剤はそれ単独で用いても効果があるが、本消光剤と併用することにより、より一層効果を高めることができる。この際の本退色防止剤および本消光剤の合計の含有量は、多孔質インク受理層の重量を基準として0.01〜10重量%であることが好ましい。本退色防止剤および本消光剤の合計の含有量が0.01重量%に満たない場合は、本発明の効果が十分発現せず、インクの退色が起こるおそれがあるので好ましくない。本退色防止剤および本消光剤の合計の含有量が10重量%を超える場合は、本消光剤自体による着色が問題になるばかりか、多孔質層の吸収性を阻害するおそれがあるので好ましくない。本退色防止剤および本消光剤の合計の含有量は、より好ましくは、0.1〜1重量%である。
【0016】本発明において、多孔質インク受理層は、記録の際にインクを吸収し定着し得る無機の多孔質層である。多孔質インク受理層の厚さは、薄すぎると色素を十分担持できず、色濃度の低い印刷物しか得られないおそれがあるので好ましくなく、逆に厚すぎると多孔質インク受理層の強度が低下したり、あるいは透明性が減少して印刷物の透明性あるいは質感が損なわれるおそれがあるので好ましくない。多孔質インク受理層の好ましい厚さは、1〜50μmである。
【0017】多孔質インク受理層は、無機粒子を好ましくはバインダーで結合した構成であることが好ましい。無機粒子の材質としては、シリカもしくはアルミナまたはこれらの水和物が好ましい。これらの材質の中でも、特に、擬ベーマイトが好ましい。擬ベーマイトからなる多孔質層は、吸収性が良好であるとともに、色素を選択的によく吸着するため、各種の記録方式を用いて、色濃度が高く鮮明な記録物が得られるからである。ここで、擬ベーマイトは、AlOOHの組成式で表されるアルミナ水和物であり、擬ベーマイトからなる多孔質層は、細孔構造を有する凝集体である。
【0018】多孔質インク受理層が擬ベーマイトからなっている場合には、本退色防止剤または本退色防止剤および本消光剤の合計の含有量は、擬ベーマイト1gあたり、0.05〜50mgであることが好ましい。より好ましい範囲は、0.1〜20mgである。
【0019】擬ベーマイト多孔質インク受理層としては、その細孔構造が実質的に半径が1〜10nmの細孔からなり、細孔容積が0.3〜1.0cc/gであることが、十分な吸収性を有しかつ透明性もあるので好ましい。この範囲の細孔構造を有する擬ベーマイト多孔質インク受理層を用いれば、基材が透明である場合には、記録用シートも透明なものが得られる。基材が不透明である場合には、基材の質感を損なわずにインクの吸収性等の必要とされる物性を記録用シートに付与することが可能である。また、擬ベーマイト多孔質インク受理層の平均細孔半径が3〜7nmの範囲であればさらに好ましい。なお、細孔径分布の測定は、窒素吸脱着法による。
【0020】上記のような細孔構造を有する擬ベーマイト多孔質インク受理層を製造するには、アルミニウムのアルコキシドを加水分解して得たベーマイトゾルを用いるのが好ましい。擬ベーマイト多孔質インク受理層を基材上に塗布する手段としては、ベーマイトゾルに、好ましくはバインダーを加えてスラリー状とし、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、バーコーターなどを用いて基材上に塗布し、乾燥する方法を好ましく採用できる。
【0021】多孔質インク受理層に用いられるバインダーとしては、でんぷんやその変性物、ポリビニルアルコールおよびその変性物、SBR(ブタジエンスチレンゴム)ラテックス、NBR(ブタジエンアクリロニトリルゴム)ラテックス、ヒドロキシセルロース、ポリビニルピロリドン等の有機物を用いることができる。バインダーの使用量は、少ないと多孔質インク受理層の強度が不十分になるおそれがあり、逆に多すぎるとインクの吸収量や色素の担持量が低くなるおそれがあるので、無機粒子の5〜50重量%程度が好ましい。
【0022】本発明において、基材としては種々のものを使用することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ETFE等のフッ素系樹脂等のプラスチック、あるいは紙を好適に使用することができる。これらの基材には、多孔質インク受理層の接着強度を向上させる目的で、コロナ放電処理やアンダーコート等を行うこともできる。
【0023】
【実施例】
実施例1容量2リットルのガラス製反応器に、水540gとイソプロピルアルコール676gを仕込み、マントルヒーターにより液温を75℃に加熱した。撹拌しながらアルミニウムイソプロポキシド306gを添加し、液温を75〜78℃に保持しながら5時間加水分解を行った。その後95℃に昇温し、酢酸9gを添加して48時間、75〜78℃に保持して解膠した。さらにこの液を900gになるまで濃縮して、白色のゾルを得た。このゾルの乾燥物は擬ベーマイトであった。
【0024】このアルミナゾル5重量部にポリビニールアルコール1重量部を加えて、さらに水を加えて、固形分約10%のスラリーを調製した。このスラリーを、コロナ放電処理を施したポリエチレンテレフタレート(厚さ100μm)からなる基材の上に、バーコーターを用いて乾燥時の層厚が30μmになるように塗布、乾燥しベーマイト質の多孔質インク受理層を形成した。
【0025】上記のようにして得られた記録用シートの塗工面を、表1に示す処理薬剤の種々の濃度の水溶液またはエタノール溶液に浸漬し、均一に溶液を塗布した。これを垂直に吊して風乾した後、ドラム乾燥器にて140℃、4分間加熱焼成した。本実施例においては、処理薬剤として、ジチオカルバミン酸塩を使用した。
【0026】このようにして得られた記録用シートの一部を切り出し、塩酸水溶液に12時間浸漬した後の溶液を紫外・可視スペクトルによる吸光分析法、またはイオンクロマトグラフィーで定量して、記録用シートの多孔質インク受理層中の本退色防止剤または本退色防止剤および本消光剤からなる処理薬剤の量(担持量)を求めた。
【0027】上記のような薬剤処理を行った本実施例の記録用シートに、インクジェットプリンターを用いて記録を行ったところ、インクの吸収性および色素の定着性は優れていた。
【0028】また、記録用シートにフードブラック2を含む黒色インクを塗布し30日間室内暴露し黒色の退色の具合を調べた。結果を表1に示す。比較のために、薬剤処理を行わない記録用シートについても同じ方法で退色の具合を調べた。その結果も表1に「未処理」として示す。
【0029】
【表1】


【0030】表1において、処理液の処理薬剤の濃度の単位は重量百分率、記録用シート中の処理薬剤の担持量の単位は擬ベーマイト(AlOOH)1g当たりのmg数である。退色度は退色度大(×)、退色度中(△)、退色度小(○)の三段階で表した。なお未処理のシートの退色度は大(×)である。なお、処理液濃度および担持量の単位ならびに退色度の評価基準については、以下の表2および表3においても同じである。
【0031】実施例2実施例1と同様にして得た擬ベーマイト多孔質インク受理層を有する記録用シートに、表2に示す処理薬剤の種々の濃度の処理液を実施例1と同様にして塗布した。本実施例においては、処理薬剤として、チウラム塩を使用した。実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。また、本実施例の記録用シートに、インクジェットプリンターを用いて記録を行ったところ、インクの吸収性および色素の定着性は優れていた。
【0032】
【表2】


【0033】実施例3実施例1と同様にして得た擬ベーマイト多孔質インク受理層を有する記録用シートに、表3に示す処理薬剤の種々の濃度の処理液を実施例1と同様にして塗布した。本実施例においては、処理薬剤として、チオシアン酸エステル類またはチオシアン酸塩を使用した。実施例1と同様の評価を行った結果を表3に示す。また、本実施例の記録用シートに、インクジェットプリンターを用いて記録を行ったところ、インクの吸収性および色素の定着性は優れていた。
【0034】
【表3】


【0035】実施例4紙の基材上に多孔質シリカを実施例1と同様の方法で塗布して得られたコート紙を、表4に示す処理薬剤の種々の濃度の水溶液またはエタノール溶液に浸漬して、均一に塗布した。これを垂直に吊して風乾した後、ドラム乾燥機にて140℃、4分間加熱焼成した。本実施例においては、処理薬剤として、ジチオカルバミン酸塩を使用した。
【0036】このようにして得られたシリカコート紙について、実施例1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。表4において、処理液の処理薬剤の濃度の単位は重量百分率、記録用シート中の処理薬剤の担持量の単位はシリカ(SiO2 )1g当たりのmg数である。退色度は退色度大(×)、退色度中(△)、退色度小(○)の三段階で表した。なお未処理のシートの退色度は大(×)である。処理液濃度および担持量の単位ならびに退色度の評価基準については、以下の表5および表6においても同じである。また、本実施例のシリカコート紙に、インクジェットプリンターを用いて記録を行ったところ、インクの吸収性および色素の定着性は優れていた。
【0037】
【表4】


【0038】実施例5実施例4と同様にして得たシリカコート紙に、表5に示す処理薬剤の種々の濃度の処理液を実施例1と同様にして塗布した。本実施例においては、処理薬剤として、チウラム塩を使用した。このようにして得られたシリカコート紙について実施例4と同様の評価を行った。結果を表5に示す。なお、未処理のシリカコート紙の退色度は大(×)である。また、本実施例のシリカコート紙に、インクジェットプリンターを用いて記録を行ったところ、インクの吸収性および色素の定着性は優れていた。
【0039】
【表5】


【0040】実施例6実施例4と同様にして得たシリカコート紙に、表6に示す処理薬剤の種々の濃度の処理液を実施例1と同様にして塗布した。本実施例においては、処理薬剤として、チオシアン酸エステル類またはチオシアン酸塩を使用した。このようにして得られたシリカコート紙について実施例4と同様の評価を行った。結果を表6に示す。なお、未処理のシリカコート紙の退色度は大(×)である。また、本実施例のシリカコート紙に、インクジェットプリンターを用いて記録を行ったところ、インクの吸収性および色素の定着性は優れていた。
【0041】
【表6】


【0042】実施例7実施例1と同様にして得た擬ベーマイト多孔質インク受理層を有する記録用シートの塗工面を、表7に示す処理薬剤の種々の濃度の水溶液またはエタノール溶液に浸漬し、均一に溶液を塗布した。これを垂直に吊して風乾した後、ドラム乾燥機にて140℃、4分間加熱焼成した。上記実施例1〜6においては、処理薬剤として、ジチオカルバミン酸塩、チウラム塩、チオシアン酸エステル類またはチオシアン酸塩のうちの1つの化合物のみを使用したが、本実施例においては、処理薬剤として、ジチオカルバミン酸塩、チウラム塩またはチオシアン酸塩のうちのいずれか1つの化合物とヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウムからなる消光剤との混合物を使用した。ヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウムからなる消光剤とジチオカルバミン酸塩、チウラム塩またはチオシアン酸塩のうちのいずれか1つの化合物との重量比は1:2であった。処理液濃度は、ジチオカルバミン酸塩、チウラム塩またはチオシアン酸塩のうちのいずれか1つの化合物とヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウムからなる消光剤との混合物の合計の重量百分率である。
【0043】このようにして得られた記録用シートの多孔質インク受理層中のジチオカルバミン酸塩、チウラム塩またはチオシアン酸塩のうちのいずれか1つの化合物とヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウムからなる消光剤との混合物の合計量の定量と退色度の評価を実施例1と同様にして行った。結果を表7に示す。なお、担持量の単位ならびに退色度の評価基準については、表1と同じである。
【0044】さらに、記録用シートの着色を、シートを室内に10日間放置しその着色の有無を目視で観察することにより調べた。その結果も表7に示す。
【0045】また、比較のために、薬剤処理を行わない記録用シートについても同じ方法で退色の具合および記録用シートの着色を調べた。この結果を表7に「未処理」として示す。
【0046】さらに、比較のために、処理薬剤として、消光剤であるヨウ化ナトリウムのみを用いた場合についても同じ方法で退色の具合および記録用シートの着色を調べた。この結果も表7に示す。
【0047】さらに、処理薬剤として、消光剤としてのヨウ化カリウムとチマソーブ944LDとの混合物を用いた場合についても同じ方法で退色の具合および記録用シートの着色を調べた。この結果も表7に示す。ヨウ化カリウムとチマソーブ944LDとの重量比は1:2であり、処理液濃度および担持量はヨウ化カリウムとチマソーブ944LDとの混合物の合計の濃度および担持量を示している。ここで、チマソーブ944LDとは、チバ・ガイギー(CIBA−GEIGY)社の商品名であり、チマソーブ(CHIMASSORB)は同社の登録商標である。この化合物は、ヒンダードアミン系の化合物であり、ポリ〔{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕で表される。
【0048】
【表7】


【0049】表7によれば、処理薬剤としてジチオカルバミン酸塩、チウラム塩またはチオシアン酸塩のうちのいずれか1つの化合物とヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウムからなる消光剤との混合物を使用した本実施例の場合は、退色防止性に優れ、しかもシート着色も観測されなかったのに対して、処理薬剤として消光剤であるヨウ化ナトリウムのみを使用した場合は、退色防止性には優れていたが、記録用シートが着色されてしまうことがわかる。また、処理薬剤として、消光剤であるヨウ化カリウムとチマソーブ944LDとの混合物を使用した場合にあっては、担持量が少ない場合でも優れた効果を示す。
【0050】なお、本実施例の記録用シートに、インクジェットプリンターを用いて記録を行ったところ、インクの吸収性および色素の定着性は優れていた。
【0051】実施例8実施例1と同様にして得た擬ベーマイト多孔質インク受理層を有する記録用シートの塗工面を、表8に示す処理薬剤の種々の濃度の水溶液またはエタノール溶液に浸漬し、均一に溶液を塗布した。これを垂直に吊して風乾した後、ドラム乾燥機にて140℃、4分間加熱焼成した。上記実施例1〜6においては、処理薬剤として、ジチオカルバミン酸塩、チウラム塩、チオシアン酸エステル類またはチオシアン酸塩のうちの1つの化合物のみを使用したが、本実施例においては、処理薬剤として、チウラム塩とチオシアン酸塩との混合物、またはチオシアン酸塩とヒンダードアミン系化合物との混合物を使用した。チウラム塩とチオシアン酸塩との重量比は1:2であり、チオシアン酸塩とヒンダードアミン系化合物との重量比は2:1であった。処理液濃度は、チウラム塩とチオシアン酸塩との混合物、またはチオシアン酸塩とヒンダードアミン系化合物との混合物の合計の重量百分率である。
【0052】このようにして得られた記録用シートの多孔質インク受理層中のチウラム塩とチオシアン酸塩との混合物、またはチオシアン酸塩とヒンダードアミン系化合物との混合物の合計量の定量と退色度の評価を実施例1と同様にして行った。結果を表8に示す。なお、担持量の単位ならびに退色度の評価基準については、表1と同じである。
【0053】また、比較のために、薬剤処理を行わない記録用シートについても同じ方法で退色の具合を調べた。この結果を表8に「未処理」として示す。
【0054】ここで、チヌビン622LDとは、チバ・ガイギー(CIBA−GEIGY)社の商品名であり、チヌビン(TINUVIN)は同社の登録商標である。この化合物は、ヒンダードアミン系の化合物であり、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物である。
【0055】
【表8】


【0056】表8によれば、処理薬剤としてチウラム塩とチオシアン酸塩との混合物を使用した場合のみならず、チオシアン酸塩とヒンダードアミン系化合物との混合物を使用した場合においても、優れた退色防止性を示すことがわかる。
【0057】なお、本実施例の記録用シートに、インクジェットプリンターを用いて記録を行ったところ、インクの吸収性および色素の定着性は優れていた。
【0058】
【発明の効果】本発明の記録用シートは、インクの吸収性が良好で、かつ、色素の定着性が良好である。しかも、長期の保存でも退色が生じない。本発明の記録用シートは、種々の記録方式に有効であるが、特にインクジェットプリンター用の記録媒体に適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】基材上に、ジチオカルバミン酸塩、チウラム塩、チオシアン酸エステル類、チオシアン酸塩およびヒンダードアミンからなる群より選ばれた1種以上の化合物を含有する多孔質インク受理層を有する記録用シート。
【請求項2】前記多孔質インク受理層がヨウ素またはヨウ化物からなる消光剤をさらに含有する請求項1記載の記録用シート。
【請求項3】前記多孔質インク受理層が擬ベーマイトからなる層である請求項1または2記載の記録用シート。
【請求項4】前記記録用シートがインクジェットプリンター用の記録媒体である請求項1〜3のいずれかに記載の記録用シート。
【請求項5】基材上に、ジチオカルバミン酸塩、チウラム塩、チオシアン酸エステル類、チオシアン酸塩およびヒンダードアミンからなる群より選ばれた1種以上の化合物を含有する多孔質インク受理層を有し、この多孔質インク受理層に色素が担持された記録物。
【請求項6】前記多孔質インク受理層がヨウ素またはヨウ化物からなる消光剤をさらに含有する請求項5記載の記録物。
【請求項7】前記多孔質インク受理層が擬ベーマイトからなる層である請求項5または6記載の記録物。

【公開番号】特開平7−314882
【公開日】平成7年(1995)12月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−111278
【出願日】平成6年(1994)5月25日
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)