説明

記録装置および方法

【課題】濃度ムラおよび他の画像品位の良好な記録装置および方法。
【解決手段】複数のノズルからインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録媒体上に複数のドット径のインクのドットを記録可能な記録装置であって、インクドット径に関連する記録特性情報を複数のノズルの所定部分毎に取得する手段と、記録特性情報に応じて複数のノズルの所定部分に対して画像データを分配する分配比率を決定する手段と、画像データと、閾値の大きさおよび配列と、に基づいて、画像データを量子化しドット記録位置を決定するドット記録位置決定手段と、分配比率に応じて決定されたドット分配順に基づく複数のマスク手段であって、ドット記録位置決定手段によって決定されたドット記録位置に、複数のドット径のインクのドットの記録をそれぞれ分配する複数のマスク手段と、を備える記録装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のノズルの所定部分毎の記録特性の違いによる濃度ムラの補正を行う記録装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、記録ヘッドにインクを吐出する複数のノズルを設け、該ノズルから記録媒体上にインク滴を吐出させて文字や画像の記録を行う。このような記録装置では、ノズル間で記録特性、例えば記録に用いられるインク量に差があると、記録画像の濃度ムラが発生し易く、画像品位を劣化させてしまうことがある。この現象は、特に、1つの記録ヘッドが複数の記録チップで構成されているラインヘッドにおいて、隣接する記録チップ間で記録特性に差がある場合に顕著である。これに対し、特許文献1は、所定の分布に従った、液滴量の異なる複数のノズルを持ち、平均液滴量の実際の値が目標値に等しくなるように、選択したノズルを選択的に駆動することによって、平均的なインク液適量を提供する記録装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7249815号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の記録装置では、記録画像の濃度が補正される一方、ドットパターンが変化してしまう。これは、前記平均的なインク液滴量を提供するために選択したノズルとその他のノズルとでは、記録媒体上に記録できるドットの位置が異なってしまうためである。このため、一定以上の大きな補正を行おうとすると、濃度は補正されるもののドットパターンの違いが視認されてしまい、画像品質(例えば粒状感)の劣化が生じてしまう。一方、画像品質を維持しようとすると、前記記録特性の補正可能範囲が限定されてしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、所定のノズル毎の記録特性の違いによる濃度ムラを補正することに加えて補正に伴うドットパターンの相違による画像品位の劣化を回避して、画像品質を維持しつつ記録特性の補正可能範囲を大きくする記録装置および方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するための本発明の記録装置は、複数のノズルからインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録媒体上に複数のドット径のインクのドットを記録可能な記録装置であって、記録されるインクのドットのドット径に関連する記録特性情報を前記複数のノズルの所定部分毎に取得する記録特性取得手段と、前記記録特性情報に応じて前記複数のノズルの所定部分に対して画像データを分配する分配比率を決定する分配比率決定手段と、画像データと、閾値の大きさおよび配列と、に基づいて、該画像データを量子化しドット記録位置を決定するドット記録位置決定手段と、前記分配比率に応じて決定されたドット分配順に基づく複数のマスク手段であって、前記ドット記録位置決定手段によって決定された前記ドット記録位置に、前記複数のドット径のインクのドットの記録をそれぞれ分配する複数のマスク手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、上述の課題を解決するための本発明の記録方法は、複数のノズルからインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録媒体上に複数のドット径のインクのドットを記録可能な記録装置による記録方法であって、記録されるインクのドットのドット径に関連する記録特性情報を前記複数のノズルの所定部分毎に取得する記録特性取得工程と、前記記録特性情報に応じて前記複数のノズルの所定部分に対して画像データを分配する分配比率を決定する分配比率決定工程と、画像データと、閾値の大きさおよび配列と、に基づいて、該画像データを量子化しドット記録位置を決定するドット記録位置決定工程と、前記分配比率に応じて決定されたドット分配順に基づく複数のマスク工程であって、前記ドット記録位置決定手段によって決定された前記ドット記録位置に、前記複数のドット径のインクのドットの記録をそれぞれ分配する複数のマスク工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ノズル群の所定部分毎の記録特性の違いによる濃度ムラの補正を行う画像記録方法、および画像記録装置において、画像品質の劣化を改善するものである。本発明の画像記録方法および装置によれば、ノズル群の所定部分毎の記録特性のばらつきによる記録濃度および記録パターンの違いが視覚的に検知されてしまうことを原因とする画像品質劣化(例えば、粒状化)を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態の記録装置A1の概略構成を示す図である。
【図2】(a)は、記録ヘッドA7の詳細構成を示す説明図であり、(b)は、記録ヘッドA7を構成する記録チップA71を説明する図である。
【図3】第1の実施形態の画像処理の概要図である。
【図4】(a)および(b)は、第1の実施形態のフローを説明するフロー図である。
【図5】(a)は、第1の実施形態の多値ディザ閾値マトリクスの作成フローであり、(b)から(c−2)は、大小ドット分配マスク生成方法の例を説明するフローである。
【図6】(a)から(b−2)は、第1の実施形態の多値ディザ閾値マトリクス生成過程を説明する説明図である。
【図7】(a−1)から(b)は、第1の実施形態の大小ドット分配マスク生成過程のドット分配順決定方法を説明するグラフである。
【図8】(a)から(b−2)は、第1の実施形態の大小ドット分配マスク生成過程を説明する説明図である。
【図9】(a−1)から(c−2)は、第1の実施形態の多値ディザ閾値マトリクス生成用に用いる斥力ポテンシャルを説明する図である。
【図10】第1の実施形態の多値ディザ閾値マトリクスを用いた量子化処理およびドット記録位置決定処理例を説明する図である。
【図11】第1の実施形態の大小ドット分配マスクを用いた大小ドット記録データ生成方法の例を説明する図である。
【図12】第1の実施形態の各記録チップに対して異なる大小ドット分配比率を設定した例を説明する図である。
【図13】(a)から(d)は、第2の実施形態の分配マスク切り替えを説明する説明図である。
【図14】第3の実施形態の多値ディザ閾値マトリクス生成方法例を説明するフローである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
<ラインプリンタ概要>
図1は、本発明の実施形態の記録装置A1の概略構成を示す説明図である。記録装置A1はインクジェット式のラインプリンタであり、図示するように制御ユニットA2、インクカートリッジA61〜A64、記録ヘッドA7、記録媒体搬送機構A8などを備えている。インクカートリッジA61〜A64は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの色を表す各インクに対応している。
【0011】
記録ヘッドA7はラインヘッドタイプの記録ヘッドであり、記録媒体と対向する面に搬送方向と直交する方向に配置されたサーマル方式のノズルを複数備えている。インクカートリッジA61〜A64内の各インクは、インク導入管A61a〜A64aを通じて記録ヘッドの記録媒体と対向する面に設けられたノズルに供給され、これらのノズルからインクが吐出されて、記録媒体A100に記録が行われる。記録ヘッドA7の詳細については、図2を用いて説明する。
【0012】
記録媒体搬送機構A8は、紙送りモーターA81と紙送りローラーA82とを備えている。紙送りモーターA81は紙送りローラーA82を回転させることで、記録媒体A100を記録ヘッドA7の位置まで紙送りローラーA82と直交する方向に搬送する。
【0013】
制御ユニットA2は、CPU(A3)とRAM(A41)とROM(A42)とによって構成されており、上述した記録ヘッドA7や紙送りローラーA81の動作を制御する。CPU(A3)はROM(A42)内に記憶された制御プログラムをRAM(A41)に展開して実行することで、後述する画像に対するさまざまな処理を行い、記録ヘッドA7で記録する画像データの生成や、前記記録媒体搬送機構A8の制御などを行う。
【0014】
図2(a)は、記録ヘッドA7の詳細構成を示す説明図である。図2(a)に示すように、本実施形態の記録ヘッドA7は記録特性の異なる複数のノズル列からなる。ノズル列A71aおよびA71cのノズルはより大きいドット径のドットを、ノズル列A71bおよびA71dのノズルはより小さいドット径のドットを、それぞれ記録する。このような複数のノズル列を持つ記録チップA71〜A74を千鳥状に並べて記録ヘッドA7は形成される。これらの記録チップから吐出されるインク滴は、紙送りとインクの吐出タイミングとを調整することにより、記録媒体上の同一のカラム上に記録ドットを形成する。なお、本実施形態の記録チップA71〜A74は千鳥状に配置されているが、一直線上に形成されていても良い。
【0015】
図2(b)は記録ヘッドA7を構成する記録チップA71を説明する図である。記録チップA71は、少なくとも2種類以上のドット径を記録できるよう、ノズル列A71a、A71b、A71c、A71dから形成される。本実施形態では、異なる記録特性を持つ単位をノズル列単位とし、ドット径の相対的に大きいノズル列A71aとA71cおよびドット径のより小さいノズル列A71bとA71dのように、記録特性の異なるノズル列を2列ずつ持つ構成とした。しかし、記録特性の異なるノズル列の列数はこれに限られず、例えばそれぞれ1列としてもよい。また、異なる記録特性を持つ単位は、ノズル列に限られず、千鳥配置など2次元的な配置のノズル群単位としてもよく、ノズル毎の単位としてもよい。また、本実施形態の記録装置A1はサーマル式の記録ヘッドとしたが、これに限定されず、複数の記録チップを搬送方向に直交する方向に配列し、さらに複数の記録特性を持つ記録ドットを同一のラスターに形成して画像データの記録を行うラインヘッドであればよい。例えばピエゾ式など他のインク吐出方式のインクジェット式記録ヘッドであってもよい。さらに、異なる記録特性を持つ記録ドットが記録可能な記録ヘッドであれば、1つのノズルから複数の異なる記録特性を持つ記録ドットを記録可能な記録ヘッドでもよい。ここで、本実施形態における「記録特性」はインクの吐出量としたが、これに限るものではなく、例えば、インク滴の吐出速度(運動エネルギー)等の、記録されるインクのドットのドット径に関連する記録特性とすることができる。さらに、インク色についても、前述したCMYK以外のインクでもよい。
【0016】
以下、本明細書において、ノズル列のノズルから吐出されるインクによって記録媒体上に記録されるドット径を相対的に大小の2種類に分類し、記録されるドット径が相対的に大きいノズル列を「大ノズル列」、相対的に小さいノズル列を「小ノズル列」という。また、ドット径が相対的に大きいドットを「大ドット」、相対的に小さいドットを「小ドット」といい、これらを総括して「大小ドット」という。
【0017】
<画像処理部概要>
図3は本実施形態の画像処理の概要図であり、図4(a)および(b)は処理フローを説明するフロー図である。本実施形態では、記録特性を表す値として、記録ヘッドA7の各記録チップ(A71、A72、A73、A74)により吐出されるインク量(以下、吐出量ともいう)を用いる。
【0018】
図3および図4を用いて、本実施形態の動作フローを説明する。
【0019】
まず、図4(a)のフローに基づいて説明を行う。図4(a)のステップD01で、記録装置A1は図3の記録特性取得部A51を用いて記録チップA71〜A74それぞれの大ノズル列(記録チップA71でのA71aおよびA71c)および小ノズル列(同A71bおよびA71d)の吐出量情報を得る。
【0020】
次に図4(a)のステップD02で、補正目標値設定部A52を用いて各記録チップA71〜A74で記録したい目標吐出量(以下、補正目標吐出量という)を設定する。
【0021】
次に図4(a)のステップD03およびD04で、大小ドット分配比率決定部A53を用いて、記録チップ毎に読み取った吐出量と設定した補正目標吐出量とを比較し、異なる吐出量を持つ大小ドットを記録する分配比率を決定する。本実施形態では、ステップD01によって取得された吐出量情報は、ノズル列A71aおよびA71cの各ノズルの平均吐出量が3ng、A71bおよびA71dの各ノズルの平均吐出量が2ngであるとする。また、ステップD02によって設定された補正目標吐出量は2.5ngであるとする。さらに、ステップD03およびD04によって決定された、記録チップA71の記録ドットの分配比率は大ドット(3ng):小ドット(2ng)=1:1とする。この分配比率1:1により、大ドットと小ドットとは同数だけ記録されることとなる。
【0022】
次に図4(b)のフローについて説明を行う。図4(b)は記録装置A1がメモリーカードA91に保存された画像データに所定の画像処理を加えることにより、画像データをドットの有無によって表現されたドットデータに変換して記録を行う処理の流れを示すフローチャートである。画像記録処理が開始されると、図4(b)のステップD11で制御ユニットA2は画像入力部A31を用いてメモリーカードA91より記録すべき画像データを読み込む。ここでは画像データは解像度600dpiでR、G、B各色8bit、256階調のカラー画像であるとして説明する。しかし、カラー画像のみならずモノクロ画像にも同様に適用することができる。
【0023】
次に図4(b)のステップD12で、色変換処理部A32は色変換処理を行い600dpiでC、M、Y、K各色8bit、256階調へと変換する。色変換処理とは、R、G、Bの各階調値の組み合わせによって表現されているRGBカラー画像を、記録のために使用される各色の階調値によって表現されたデータに変換する処理である。前述したように、記録装置A1はC、M、Y、Kの4色のインクを用いて画像を記録している。そこで本実施形態の色変換処理部ではRGBで表された画像データをC、M、Y、Kの各色の階調値によって表現されたデータに変換する処理を行う。
【0024】
次に、図4(b)のステップD13で、量子化処理・ドット記録位置決定部A33を用いて量子化処理およびドット記録位置の決定を行う。ここで「量子化処理」とは、8bit、256階調と多い階調数を持つ画像データを記録装置A1で記録可能な少ない階調へ適切に階調数を低減させる処理をいう。また、「ドット記録位置決定処理」とは、記録画素単位で低階調に量子化された画像データから該記録画素内の記録ドット配置を決定する処理である。量子化処理・ドット記録位置決定部A33は、多値ディザ閾値配列記憶部A43から多値ディザ閾値マトリクスを読み出し、該閾値マトリクスと前記画像データとにより、量子化処理およびドット記録位置決定処理を行う。
【0025】
次に、図4(b)のステップD14で、記録ドット分配処理部A34を用いて記録データの大小ドット分配処理を行う。ここで「記録ドット分配処理」とは、以下に説明する一連の処理である。すなわち、記録ドット分配処理部A34は、まず、図3の大小ドット分配比率決定部A53に対して、記録ドットを記録するノズル位置に関する情報(本実施形態ではどの記録チップで記録されるか)を伝達する。記録ドット分配処理部A34は、また、大小ドット分配比率決定部A53から、先に説明したように記録チップの記録特性情報に応じて決定された分配比率情報を受け取る。記録ドット分配処理部A34は、さらに、該分配比率情報を図3の大小ドット分配マスク記憶部A44に伝達して、大小ドット分配マスク記憶部A44から大小ドット分配マスクを得る。記録ドット分配処理部A34は、得られた大小ドット分配マスクを用いて、記録ドットの位置毎に異なる記録特性(本実施形態では吐出量)を持つ記録ドットを割り振って、それぞれの記録データを生成する。本実施形態では、上記の記録ドット分配処理により、吐出量がそれぞれ3ngおよび2ngの2種類の記録ドットのドット数が1:1になるよう分配された大小ドットそれぞれについての1200dpiで2値の記録データ(以下、大小分配記録データという)を得る。
【0026】
次に、図4(b)のステップD15で、図3の使用ノズル列決定部A35は、以下のようにして、使用ノズル列を決定する。すなわち、使用ノズル列決定部A35は、まず、大小分配記録データをどのノズル列で記録するかのノズル列情報を図3のノズル列分配パターン記憶部A45に伝達する。使用ノズル列決定部A35は、ノズル列分配パターン記憶部A45から該当ノズル列への分配パターンを入手する。使用ノズル列決定部A35は、該分配パターンと前記大小分配記録データとから、異なる記録特性を持つ各ノズル列(図2(b)のA71a〜A71d)のそれぞれで記録する記録データ(以下、ノズル列別記録データという)(1200dpi、2値)を生成する。本実施形態では大小ノズル列ともノズル列が2列ずつあるため、ノズル列分配パターンを用いて大小分配記録データを2分割してノズル別記録データとする。
【0027】
次に図4(b)のステップD16で、前記ノズル列毎に生成されたノズル列別記録データを各記録チップの各記録特性を持つノズル列(図2(b)のA71a〜A71d)に転送し、記録媒体上に異なる記録特性を持つ複数の記録ドットを形成して、画像を記録する。なお、前述のとおり異なる記録特性を持つ単位はノズル列毎としたが、これに限られずに、例えば千鳥状その他の配列のノズル群あるいはノズルなど、複数のノズルの所定部分毎の記録特性の違いに着目して前記単位を設定してもよい。
【0028】
<多値ディザ閾値マトリクス生成方法>
上記ステップD13で説明した量子化処理およびドット記録位置決定に使用される多値ディザ閾値マトリクスの生成方法について、図5(a)および図6(a)から(b−2)を用いて詳細に述べる。図5(a)は多値ディザ閾値マトリクスの作成フロー、図6(a)から(b−2)は多値ディザ閾値マトリクス作成過程の例を示す。
【0029】
まず、図5(a)のステップQ01で、生成するパターンサイズ内に打たれる、大小ドットの合計必要ドット数Nをカウントする。ここでは、解像度1200dpiの8×8=64画素のパターンサイズ内に、大小ドットを合わせて64ドット(N=64)配置する例を示す。次に、ステップQ02で、大小ドットを合わせた必要ドット数Nに応じて多値ディザ閾値Dを準備する。本実施形態では、量子化処理を施す対象の画像データは256階調である。大小ドットを合わせて64ドット(N=64)配置するために、0から255までの階調を64に分割する。これにより、多値ディザ閾値は、3を初項として均等に4ずつ増加する全部で64項の等差数列{3、7、11、15、・・・、255}となる。この多値ディザ閾値を、以下のようにして順番に割り振って、多値ディザ閾値マトリクスを作成する。このとき、多値ディザ閾値を割り振っていく順番をMとすると、Mは、1≦M≦N(ここではN=64)の整数となる。
【0030】
まず、ステップQ03からQ08の間のフローを、MがNになる直前まで、すなわち1≦M<Nである間、繰り返す。ステップQ04で、64画素を示す8×8のマス目の中で「斥力ポテンシャル_積算値」が最小の位置を選択する。1つ目の位置については、それまでに位置の選択はなされておらず「斥力ポテンシャル」が発生していないので、斥力ポテンシャルを積算した値である「斥力ポテンシャル_積算値」はいずれの位置であっても「0」であるため、任意の位置を選択する。ここでは、図6(a)に示した☆の位置が選択されたものとする。ステップQ05で、多値ディザ閾値マトリクスの選択された位置(☆)に、ステップQ02で準備した閾値を設定する(図6(b−1))。次に、ステップQ06で、「斥力ポテンシャル_積算値」に、選択された位置の斥力ポテンシャルを加算する。次に、ステップQ07で、Mに1を加算してステップQ08からQ03に戻る。
【0031】
ここで、本実施形態において、マトリクスに閾値を配置する際に用いる斥力ポテンシャルについて、図9(a−1)から(c−2)を参照して説明する。本実施形態では、閾値を配置した位置を中心により傾きの大きい斥力ポテンシャルを得るため、配置した位置の中心が「50000」、それ以外の点では「10000÷距離の4乗」の等方的な斥力ポテンシャルを用いた。図9(a−1)は斥力ポテンシャルをグラフ化した図であり、図9(a−2)は横軸X座標0〜7、縦軸Y座標0〜7の各座標の斥力ポテンシャルを表した表である。図9(a−1)および(a−2)より明らかなように、座標位置(4,4)に閾値を配置すると、その点を中心に急激な傾きをもったポテンシャルが得られる。この図9(a−1)および(a−2)のポテンシャルの中心を座標位置(0,0)に移したのが、図9(b−1)および(b−2)である。この時の斥力ポテンシャルをPot_aloneとすると、座標位置(x,y)における斥力ポテンシャルは、
Pot_alone= 50000 (x=0、y=0の場合),
10000÷(x^2+y^2)^2 (x≠0、y≠0の場合)
となる。
【0032】
境界条件を満たすために、斜め方向も含む上下左右にも同じパターンが連続するとして、閾値が座標位置(0,0)に配置されたときの座標位置(x,y)における斥力ポテンシャルPot_0(x,y)は、
Pot_0(x,y)= Pot_alone(x+array_X 、y+array_Y)
+Pot_alone(x 、y+array_Y)
+Pot_alone(x−array_X、y+array_Y)
+Pot_alone(x+array_X、y)
+Pot_alone(x 、y)
+Pot_alone(x−array_X、y)
+Pot_alone(x+array_X、y−array_Y)
+Pot_alone(x 、y−array_Y)
+Pot_alone(x−array_X、y−array_Y)
となり、ここで、
array_Xは、X×Yの記録ドットパターンのXのサイズ(本実施形態では8)、
array_Yは、X×Yの記録ドットパターンのYのサイズ(本実施形態では8)
である。この時の斥力ポテンシャルの状態を図9(c−1)および(c−2)に示す。任意の座標位置(a,b)に閾値が配置された場合の座標位置(x,y)における斥力ポテンシャルPot_ab(x,y)は、座標位置(a,b)からの相対位置を前記Pot_0(x,y)に代入すればよい。したがって、その斥力ポテンシャルは、
Pot_ab(x,y)= Pot_0(Pos_x, Pos_y)
となり、ここで、
Pos_x= x−a (x≧aの場合), a−x (x<aの場合)、
Pos_y= y−b (y≧bの場合), b−y (y<bの場合)
となる。
【0033】
引き続き2つ目の閾値の配置について説明する。図5(a)ステップQ03で、M=2(<N)であると判断し、ステップQ04で、8×8のマス目の中で「斥力ポテンシャル_積算値」が最小の位置を選択する。ここでは、図6(a)に示した★の位置が選択されたものとする。次に、ステップQ05で、多値ディザ閾値マトリクスの選択された位置(★)に、ステップQ02で準備した閾値を設定する(図6(b−2))。次に、ステップQ06で、「斥力ポテンシャル_積算値」に選択された位置の斥力ポテンシャルを加算する。次に、ステップQ07で、Mに1を加算してステップQ08からQ03に戻る。その後、M<Nである間、Q03からQ08を繰り返す。最後に、N=Mとなったら、ステップQ09で、多値ディザ閾値マトリクスのブランク部分に全て「255」を設定することで、記録ドットを出力しないようにする。以上のフローにより、多値ディザ閾値マトリクスが生成される。
【0034】
なお、ここで説明した多値ディザ閾値マトリクスは、分配比率情報に応じて大小ドット分配マスクと共に生成してもよいし、予め保持しておいて設定してもよい。
【0035】
<大小ドット分配マスク生成方法>
本実施形態では、大小各ドットに対する記録データを生成するために用いる大小ドット分配マスクは、前記多値ディザ閾値マトリクスと互いに対応しており、同じサイズである。この大小ドット分配マスクの生成方法について、図5(b)、(c−1)、(c−2)、図7および図8を用いて詳細に述べる。図5(b)、(c−1)および(c−2)は大小ドット分配マスクの作成フロー、図7は大小ドット分配順の決定方法を示すグラフ、図8は大小ドット分配マスク作成過程の例を示す。
【0036】
まず、図5(b)のステップP01で、生成するパターンサイズ内に打たれる、大小ドットの合計必要ドット数Nをカウントする。ここでは、解像度1200dpiの8×8=64画素のパターンサイズ内に、大小ドットを合わせて64ドット(N=64)配置する例を示す。
【0037】
次に、ステップP02で、大小ドット分配比率から大小ドット分配順Lを決定する。例えば大小ドット分配比率が1:1の場合、小ドットの数をSD、大ドットの数をLDとすると、図7(a−1)〜(a−2)に示すような目標分配比率SD=LDの直線を引くことができる。目標とする分配比率を示すこの直線からの、画像データの実際の分配比率の誤差が最小となるように、二乗近似等を用いて大小ドットの分配順を示すグラフを導く。大小ドット分配比率が1:1の場合、大小ドット分配順Lは、図7(a−1)の小→大→小→大→・・・、(a−2)の大→小→大→小→・・・、(a−3)の小→大→大→小→・・・、(a−4)の大→小→小→大→・・・の4通りのうちのいずれかに決定される。例えば「小→大→小→大→・・・」は、1番目のドットに小ドットを分配し、その後大ドット、小ドット、大ドットの順でドットを分配し、以下これらのセットの繰り返しで分配を行うことを示す。以降、図7(a−1)を例にとって説明する。
【0038】
図5(b)ステップP03からP09の間のフローを、1≦M<Nの条件を満たす間、繰り返す。まず、ステップP04で、Mの値とステップP02で決定した大小ドット分配順L(ここではLは小→大→小→大→・・・)とから、大小ドット情報J(分配順LのM番目のドット)を決定する。今はM=1、Lは小→大→小→大→・・・であるため、大小ドット情報Jは「小ドット」となる(以下、J=小と記す)。次に、ステップP05でJ=小か否かを判断する。今はJ=小であるため、ステップP06に移る。ステップP06は、別で定義済みの小ドット分配マスク生成処理であり、詳細を図5(c−1)に示す。
【0039】
まず、図5(c−1)のステップS01で、Mの値から対応する多値ディザ閾値Dを決定する。多値ディザ閾値Dは図5(a)のステップQ02で準備した閾値である。多値ディザ閾値Dを閾値の大きさの順番に選択することにより多値ディザ閾値マトリクスに応じて大ドットおよび小ドットの発生位置を分散させることが可能となるため、多値ディザ閾値Dを昇順か降順で順番に選択する。第1の実施形態では、多値ディザ閾値を昇順に選択していく場合を例に挙げて説明する。M=1より、対応する多値ディザ閾値はD=3となる。次に、ステップS02で、上述の必要ドット数Nが設定されて生成された多値ディザ閾値マトリクスから、ステップS01で決定した多値ディザ閾値Dに対応する位置を選択する。ここでは、図8(a)に示した必要ドット数N=64の多値ディザ閾値マトリクスからD=3の位置を選択する。次に、ステップS03で、小ドット用分配マスクの、ステップS02で選択された位置を、ドットを記録する「ドットON」に設定する(図8(b−1))。小ドット分配マスク生成処理がステップS03まで終わったら、図5(b)のステップP08に戻り、Mに1を加算してステップP09からP03に戻る。
【0040】
引き続き2ドット目について説明する。まず、図5(b)のステップP04で、Mの値とステップP01で決定した大小ドット分配順L(ここではL=小→大→小→大→・・・)とから、大小ドット情報J(分配順LのM番目のドット)を決定する。今はM=2、L=小→大→小→大→・・・であるため、大小ドット情報Jは「大ドット」となる(以下、J=大と記す)。次に、ステップP05でJ=小か否かを判断する。今はJ=大であるため、ステップP07に移る。ステップP07は、別で定義済みの大ドット分配マスク生成処理であり、詳細を図5(c−2)に示す。
【0041】
まず、図5(c−2)のステップL01で、Mの値から対応する多値ディザ閾値Dを決定する。今は、M=2であるため、対応する多値ディザ閾値はD=7となる。次に、ステップL02で、多値ディザ閾値マトリクスから、ステップL01で決定した多値ディザ閾値Dに対応する位置を選択する。ここでは、図8(a)に示した多値ディザ閾値マトリクスからD=7の位置を選択する。次に、ステップL03で、大ドット用分配マスクの、ステップL02で選択された位置をドットONに設定する(図8(b−2))。大ドット分配マスク生成処理がステップL03まで終わったら、図5(b)のステップP08に戻り、Mに1を加算してステップP09からP03に戻る。
【0042】
その後、M<Nである間はP03からP09を繰り返す。最後に、M=Nとなったら、ステップP10で、大小ドット分配マスクの前記ステップでドットONに設定されていないブランク部分を全て、ドットを記録しない「ドットOFF」に設定する。以上のフローにより、大小ドット用分配マスクがそれぞれ生成される。
【0043】
ここまで、大小ドット分配比率が1:1の場合を例に挙げて説明してきたが、大小ドット分配比率が整数でない場合、例えば、1:1.2などの場合も、同様に分配マスクを生成する。
【0044】
まず、図5(b)のステップP01で、生成するパターンサイズ内に打たれる、大小ドットの合計必要ドット数Nをカウントする。ここでも、解像度1200dpiの8×8=64画素のパターンサイズ内に、大小ドットを合わせて64ドット(N=64)配置する例を示す。次に、ステップP02で、大小ドット分配比率から大小ドット分配順Lを決定する。大小ドット分配比率が1:1.2の場合、小ドット数をSD、大ドット数をLDとすると、図7(b)に示すような目標分配比率SD=1.2LDの直線を引くことができる。目標とする分配比率を示すこの直線からの、画像データの実際の分配比率の誤差が最小となるように、二乗近似等を用いて大小ドットの分配順Lを示すグラフを導く。大小ドット分配比率が1:1.2の場合、図7(b)に示すように小→大→小→大→小→大→小→大→小→大→小の、6つの小ドットおよび5つの大ドットを小ドットから交互に分配するセットを繰り返す順番に決定される。次に、図5(b)のステップP03からP09の間のフローを、1≦M<Nの条件を満たす間、繰り返す。まず、ステップP04で、Mの値とステップP02で決定した大小ドット分配順Lとから、大小ドット情報J(分配順LのM番目のドット)を決定する。今はM=1、L=小→大→小→大→小→大→小→大→小→大→小であるため、J=小となる。次に、ステップP05でJ=小か否かを判断する。今はJ=小であるため、ステップP06に移る。以降、上述の大小ドット分配比率が整数(例えば1:1)の場合と同様にして、大小ドットを分配する。
【0045】
なお、ここで説明した大小ドット分配マスクは、分配比率情報に応じて生成してもよいし、予め保持しておき、分配比率情報に応じて選択して設定してもよい。
【0046】
<量子化処理・ドット記録位置決定処理の説明>
「量子化処理・ドット記録位置決定部A33」において実施される、大ドットおよび小ドットの両方の記録データを併せた記録データ(以下、大小ドット併せた記録データと記す)を生成する処理について説明する。本実施形態では、量子化処理として多値ディザ法を用いる。多値ディザ法は2値ディザ法を多値に拡張した擬似中間調処理方法であり、1画素あたり複数の閾値を有し、その処理結果の画素が取りうる値が複数存在する。本実施形態においては、600dpiの1画素あたり、Level0〜4の5値のINDEXパターンを持つことで多階調記録を実現する。
【0047】
図5(a)のフローで作成した多値ディザ閾値マトリクスDを用いて、大小ドット併せた記録データを生成する方法について、図10を用いて説明する。
【0048】
まず、色変換処理部A32から転送されてきた画像データInと、多値ディザ閾値マトリクスDとを比較する。図10の左上の画素に着目すると、600dpiの画像データInの入力値「128」に対し、多値ディザ閾値マトリクスDにおける1200dpiの4つのマスのうち左上のマスの閾値「31」および右上のマスの閾値「91」が画像データInより小さい。したがって、1200dpiの前記左上および前記右上のマスがドットONに設定される。同様に、他の画素についても画像データInの入力値と多値ディザ閾値マトリクスDとを比較し、In>Dの場合のみドットONに設定することで、大小ドット併せた記録データOutが生成される。図中、ドットONに設定されたマスは黒、ドットOFFに設定されたマスは白で示される。このように、図5(a)のフローで生成された多値ディザ閾値マトリクスを用いることで、量子化処理およびドット記録位置決定処理を行う。
【0049】
なお、画像データInのサイズが多値ディザ閾値マトリクスDより大きい場合は、多値ディザ閾値マトリクスDを繰り返し並べて使用する。
【0050】
<記録ドット分配処理の説明>
図11は、大ドットに分配される記録データL_Out、および、小ドットに分配される記録データS_Outを生成する方法を示す。まず、大ドットに分配される記録データL_Outの生成方法について説明する。
【0051】
量子化処理・ドット記録位置決定部A33から転送されてきた大小ドット併せた記録データOutと、図5(b)および(c−2)に示したフローで作成した大ドット分配マスクLMとの論理積をとる。図11の1200dpiのマスの左上の画素に着目すると、大小ドット併せた記録データOutがドットONに設定されているのに対し、大ドット用分配マスクLMもドットONに設定されている。したがって、1200dpiの左上の画素はドットONに設定される。同様に、他の画素についても大小ドット併せた記録データOutと大ドット分配マスクLMとの論理積をとり、ともにドットONに設定されている場合のみドットONに設定することで、大ドットに分配される記録データL_Outが生成される。
【0052】
小ドットに関しても大ドットと同様にして、小ドットに分配される記録データS_Outを生成する。すなわち、大小ドット併せた記録データOutと、図5(b)および(c−1)に示したフローで作成した小ドット用分配マスクSMとの論理積をとる。ともにドットONに設定されている場合のみドットONに設定することで、小ドットに分配される記録データS_Outが生成される(図11)。
【0053】
なお、大小ドット併せた記録データOutのサイズが大小ドット分配マスクLM、SMより大きい場合は、ドット分配マスクLM、SMを繰り返し並べて使用する。
【0054】
図10に示したように入力値が全て「128」の均一な画像データの場合、大ドット、小ドットとも16ドットずつがドットONに設定されて、大小ドット分配比率決定部A53で決定された分配比率1:1になるように画像データが分配される(図11)。これにより、それぞれ1200dpiで2値の大ドット用記録データL_Outおよび小ドット用記録データS_Outが得られる。
【0055】
<記録チップに対する分配比率の設定>
図12に、各記録チップ(A71、A72、A73、A74)に対してそれぞれ異なる分配比率が設定された場合の記録ドットイメージを示す。本実施形態の記録装置A1は、図4(a)ステップD01で、記録特性取得部A51を用いて記録チップA71〜A74のそれぞれの大ノズル列(記録チップA71でのA71a、A71c)および小ノズル列(同A71b、A71d)の吐出量情報を取得する。補正目標吐出量の値(補正目標値)は一定であるため、各記録チップの吐出量情報に応じて大小ドット分配比率が決定され、それぞれの分配比率に応じて大小ドット分配マスクが生成、設定される。図11は、大ドットと小ドットとの分配比率(以下、大:小と記す)が、記録チップA71では大:小=1:1、記録チップA72では大:小=3:1、記録チップA73では大:小=1:1、記録チップA74では大:小=1:3に決定された例を示している。
【0056】
本実施形態の多値ディザ閾値マトリクス作成方法によれば、大小ドット分配比率に関わらず記録媒体上に記録されるドットの配置は一定とすることができる。そのため、平均吐出量が異なる複数の記録チップそれぞれに対し異なる分配比率が設定されても、記録チップ間でドット配置は変化せず、ドット配置パターンの変化によって視認される画像弊害を回避できる。
【0057】
本実施形態によれば、多値の画像データの各入力値に対して記録ドットの配置を決めることができる。そのため、多値の画像データの入力値によらず、記録画像の粒状性を良好に保つことが可能となる。
【0058】
(第2の実施形態)
大小ドット分配マスクを生成する際、図5(b)のステップP02で大小ドット分配順Lを決定する。このとき、画像データInの入力値が最小の多値ディザ閾値より大きいがその次に小さい多値ディザ閾値以下である場合は、最初に分配されるドットのみ、すなわち小ドットあるいは大ドットのみが記録されることとなり、吐出量を補正目標吐出量に補正できない。そこで、この場合は、記録画像全体で目標の大小ドット分配比率に近づくよう、大小ドット分配比率に応じて最初に分配されるドットを変更した分配マスクに切り替えを行う。
【0059】
図13(a)(i)は、大小ドット分配比率1:1.2で決定した大小ドット分配順Lのグラフ、(ii)は、(i)の最初に分配するドットと2番目に分配するドットとの順番を入れ替えたグラフである。また、図13(b)は、(a)(i)および(ii)の各分配順から生成した、大小ドット分配マスクおよびそれらのセットの例である。
【0060】
マスクセットA(第1のマスクセット)は、図13(a)(i)の大小ドット分配順に対応する、大小ドット分配マスク(i)−1および(i)−1.2の組み合わせを示す。また、マスクセットB(第2のマスクセット)は、図13(a)(ii)の大小ドット分配順に対応する、大小ドット分配マスク(ii)−1および(ii)−1.2の組み合わせを示す。マスクセットBの分配マスクにおいて斜線で示したマス目が、分配順を入れ替えたことによってドットONに設定されたマス目であり、セット内の対応する分配マスクにおいて、対応するマス目はドットOFFに設定されている。
【0061】
画像データの入力値が最小の多値ディザ閾値より大きいがその次に小さい多値ディザ閾値以下であるベタ画像であった場合、第1の実施形態で説明した方法で生成した分配マスク(マスクセットA)のみを使用すると、小ドットしか記録されない(図13(c))。そこで、図5(b)に示した分配マスク生成フローのステップP02において大小ドット分配比率から分配順を決定する際に、以下のような変更をする。すなわち、図13(a)に示した目標分配比率の直線からの誤差が最小となるよう導出された大小ドット分配順(i)に対し、最初のドットを他方のドットに変更し、それ以降は目標分配比率の直線からの誤差が最小となるよう分配順(ii)を決定する。そして、それぞれの分配順に対して分配マスクを生成する。
【0062】
分配順(i)から生成した分配マスクのセットであるマスクセットAと、分配順(ii)から生成した分配マスクのセットであるマスクセットBとは、最初に発生するドットと2番目に発生するドットとが入れ替わっただけのマスクとなる。これらのマスクセットAおよびBを、大小ドット分配比率に応じた使用比率で切り替えて使用する。図13(d)に示すように、最初に大ドットを発生させるマスクセットBと最初に小ドットを発生させるマスクセットAとを1:1.2の使用比率で切り替えて使用することで、最初に発生する大小ドットの発生比率に関しても1:1.2となる。この方法により、目標吐出量を実現することが可能となる。
【0063】
このように、本実施形態によれば、多値の画像データの入力値によらず、記録画像の粒状性を良好に保つことが可能となる。
【0064】
(第3の実施形態)
大小ドットを合わせたドット配置の分散性がよくても、大ドットのみ、小ドットのみのドット配置の分散性がよくない場合、大小ドットのドットサイズの違いにより、記録された画像の粒状性が劣ってしまう(粒状感が大きくなる)ことがある。そこで本実施形態では、第1の実施形態の構成に加えて、多値ディザ閾値マトリクス生成の際の斥力ポテンシャルを、大ドットのみの配置の分散性および小ドットのみの配置の分散性も考慮して計算を行う。
【0065】
図14は、大小ドットを合わせたドット配置の分散性に加えて、大ドットのみの配置、小ドットのみの配置の分散性を考慮して多値ディザ閾値マトリクスを生成する方法を説明したフローである。まず、ステップQQ01で、生成するパターンサイズ内に打たれる、大小ドットの合計必要ドット数Nをカウントする。ここでは、解像度1200dpiの8×8=64画素のパターンサイズ内に、大小ドットを合わせて64ドット(N=64)配置する例を示す。次に、ステップQQ02で、大小ドットを合わせた必要ドット数Nに応じて多値ディザ閾値Dを準備する。本実施形態では、量子化処理する対象の画像データは256階調である。大小ドットを合わせて64ドット(N=64)配置するため、0から255までの階調を64に分割する。多値ディザ閾値は、3を初項として均等に4ずつ増加する全部で64項の等差数列{3、7、11、15、・・・、255}となる。次に、ステップQQ03で、大小ドット分配比率から大小ドット分配順Lを決定する。例えば大小ドット分配比率が1:1の場合、図7(a−1)〜(a−4)に示すような目標分配比率SD=LDの直線を引くことができる。この直線からの誤差が最小となるように、二乗近似等を用いて大小ドットの分配順Lを示すグラフを導く。大小ドット分配比率が1:1の場合、分配順Lは、図7(a−1)の小→大→小→大→・・・、(a−2)の大→小→大→小→・・・、(a−3)の小→大→大→小→・・・、(a−4)の大→小→小→大→・・・の4通りのうちのいずれかに決定される。以降、図7(a−1)を例にとって説明する。ステップQQ04からQQ13の間のフローを、1≦M<Nの条件を満たす間、繰り返す。まず、ステップQQ05で、Mの値とステップQQ03で決定した大小ドット分配順L(ここではL=小→大→小→大→・・・)とから、大小ドット情報J(分配順LのM番目のドット)を決定する。今はM=1、L=小→大→小→大→・・・であるため、大小ドット情報JはJ=小となる。次に、ステップQQ06でJ=小か否かを判断する。今はJ=小であるため、ステップQQ07に移る。ステップQQ07では、大小ドットを合わせたドット配置の分散性と、小ドットのみの配置の分散性とを考慮した、斥力ポテンシャル_積算値が最小になる位置を選択する。
【0066】
ここで、本実施形態において、マトリクスに閾値を配置する際に用いる斥力ポテンシャルについて説明する。本実施形態では、大小ドットを合わせたドット配置の分散性に加え、大ドットのみ、小ドットのみの分散性を向上させることを目的とする。そのため、大ドットを配置する際には、大小ドットを合わせたドット配置の斥力ポテンシャルPot_ORと、大ドットのみのドット配置の斥力ポテンシャルPot_大との和をとり、総合的な斥力ポテンシャルPot_sumを導出する。同様に、小ドットを配置する際には、大小ドットを合わせたドット配置の斥力ポテンシャルPot_ORと、小ドットのみのドット配置の斥力ポテンシャルPot_小との和をとり、総合的な斥力ポテンシャルPot_sumを導出する。そして、いずれの際も、Pot_sumが最小の値をとる位置にドットを配置する。下式に示すように、Pot_sumの導出にあたっては、各斥力ポテンシャルに適宜重み付けがなされる。重み付けには、数字を振って分散性のよい重み付け係数を選択する。
Pot_sum=αPot_大+βPot_OR (大ドットを配置する場合)
Pot_sum= αPot_小+βPot_OR (小ドットを配置する場合)
(α、β:重み付け係数)
【0067】
引き続き、多値ディザ閾値マトリクス生成フローについて説明する。ステップQQ07で8×8のマス目の中で「大小ドット+小ドット斥力ポテンシャル_積算値」が最小の位置を選択する。1ドット目の配置については、「大小ドット+小ドット斥力ポテンシャル_積算値」はいずれの位置も「0」であるため、任意の記録位置を選択する。ここでは、図6(a)に示した☆の位置が選択されたものとする。ステップQQ08で、選択された位置の斥力ポテンシャルを「大小ドット+小ドット斥力ポテンシャル_積算値」に加算する。次いで、ステップQQ11で、マトリクスの選択された位置にステップQQ02で準備した閾値Dを設定する(図6(b−1))。次に、ステップQQ12でMに1を加算して、ステップQQ13からQQ04に戻る。
【0068】
引き続き2つ目の閾値の配置について説明する。図14のステップQQ04で、M=2(<N)であると判断し、ステップQQ05で、Mの値とステップQQ03で決定した大小ドット分配順L(ここではL=小→大→小→大→・・・)とから、大小ドット情報J(分配順LのM番目のドット)を決定する。今はM=2、L=小→大→小→大→・・・であるため、J=大となる。次に、ステップQQ06でJ=小か否かを判断する。今はJ=大であるため、ステップQQ09に移る。ステップQQ09で、8×8のマス目の中で「大小ドット+大ドット斥力ポテンシャル_積算値」が最小の位置を選択する。ここでは、図6(a)に示した★の位置が選択されたものとする。ステップQQ10で、選択された位置の斥力ポテンシャルを「大小ドット+大ドット斥力ポテンシャル_積算値」に加算する。次いで、ステップQQ11で、マトリクスの選択された位置にステップQQ02で準備した閾値を設定する(図6(b−2))。次に、ステップQQ12でMに1を加算して、ステップQQ13からQQ04に戻る。
【0069】
その後、M<Nである間はQQ04からQQ13を繰り返す。最後に、N=Mとなったら、ステップQQ14で、多値ディザ閾値マトリクスのブランク部分の全てに「255」を配置し、ドットOFFに設定することで、ドットを記録しないようにする。以上のフローにより、大小ドットを合わせたドット配置の分散性に加えて、大ドットのみ、小ドットのみのドット配置の分散性を考慮した多値ディザ閾値マトリクスが生成される。
【0070】
なお、ここで説明した多値ディザ閾値マトリクスは、分配比率情報に応じて大小ドット分配マスクと共に生成してもよいし、予め保持しておいて設定してもよい。
【0071】
本実施形態の方法によれば、多値の画像データの各入力値に対して大小ドットの配置を分散性良く決めることができるため、多値の画像データの入力値によらず記録画像の粒状性を良好に保つことが可能となる。
【符号の説明】
【0072】
A31 画像入力部
A32 色変換処理部
A33 量子化処理部・ドット記録位置決定部
A34 記録ドット分配処理部
A35 使用ノズル列決定部
A43 多値ディザ閾値配列記憶部
A44 大小ドット分配マスク記憶部
A45 ノズル列分配パターン記憶部
A51 記録特性取得部
A52 補正目標値設定部
A53 大小ドット分配比率決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルからインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録媒体上に複数のドット径のインクのドットを記録可能な記録装置であって、
記録されるインクのドットのドット径に関連する記録特性情報を前記複数のノズルの所定部分毎に取得する記録特性取得手段と、
前記記録特性情報に応じて前記複数のノズルの所定部分に対して画像データを分配する分配比率を決定する分配比率決定手段と、
画像データと、閾値の大きさおよび配列と、に基づいて、該画像データを量子化しドット記録位置を決定するドット記録位置決定手段と、
前記分配比率に応じて決定されたドット分配順に基づく複数のマスク手段であって、前記ドット記録位置決定手段によって決定された前記ドット記録位置に、前記複数のドット径のインクのドットの記録をそれぞれ分配する複数のマスク手段と、
を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記ドット分配順は、前記分配比率決定手段により決定される分配比率と、画像データの実際の分配比率との誤差が最小となるように決定されることを特徴とする、請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記複数のマスク手段は、前記複数のノズルの所定部分毎に決定されることを特徴とする、請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
第1のマスクセットと第2のマスクセットとを有し、
前記第1のマスクセットは、前記複数のマスク手段であり、
前記第2のマスクセットは、 前記ドット記録位置決定手段によって決定された前記ドット記録位置と、前記ドット分配順の1番目と2番目とを入れ替えたドット分配順と、に基づいて生成された複数のマスク手段であり、
前記第1のマスクセットと第2のマスクセットとを、前記分配比率に応じて切り替えて使用することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記閾値の配列は、前記分配比率に応じて決定されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項6】
複数のノズルからインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録媒体上に複数のドット径のインクのドットを記録可能な記録装置による記録方法であって、
記録されるインクのドットのドット径に関連する記録特性情報を前記複数のノズルの所定部分毎に取得する記録特性取得工程と、
前記記録特性情報に応じて前記複数のノズルの所定部分に対して画像データを分配する分配比率を決定する分配比率決定工程と、
画像データと、閾値の大きさおよび配列と、に基づいて、該画像データを量子化しドット記録位置を決定するドット記録位置決定工程と、
前記分配比率に応じて決定されたドット分配順に基づく複数のマスク工程であって、前記ドット記録位置決定工程によって決定された前記ドット記録位置に、前記複数のドット径のインクのドットの記録をそれぞれ分配する複数のマスク工程と、
を含むことを特徴とする記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−232551(P2012−232551A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104220(P2011−104220)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】