説明

記録装置および記録装置の制御方法

【課題】記録装置のスループットの向上。
【解決手段】記録素子が所定の方向に配列された記録ヘッドを前記所定の方向と交差する方向に記録媒体上で走査させて記録を行う記録装置であって、記録装置における記録ヘッドの走査領域に対する記録媒体の搬送路の上流側および下流側にそれぞれ配置された上流側搬送駆動手段と下流側搬送駆動手段とを備えて、記録媒体を上流側から下流側に搬送する搬送手段と、搬送される記録媒体の領域に応じて、記録素子の使用範囲および搬送手段による記録媒体の搬送量を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、上流側搬送駆動手段および下流側搬送駆動手段のうちの一方によって搬送される記録媒体の領域であって、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を低減させる制御をするように設定した記録媒体の領域に対する記録データが存在しない場合、または記録データが存在する場合であって該記録データにより記録されるべき画像の濃度が設定した閾値以下である場合は、低減させる制御を行わない記録装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置および記録装置の制御方法に関し、より詳細には、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の記録装置において、記録素子の不必要な制御を回避した、スループットの向上のための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、記録装置には、記録媒体(記録シート)を搬送する機構として、搬送ローラ、搬送ローラに記録シートを押し付け挟持することで搬送力を発生させるピンチローラ、ピンチローラに押し付けの為の付勢力を生じさせる手段等を備える機構が設けられている。この搬送機構は、給紙部から給送された記録シートを、記録ヘッドによる記録領域に対して搬送するものである。一般的には、記録ヘッドによる記録領域に関して、記録シートの搬送路の上流側には、搬送ローラとピンチローラとの対が、および下流側には、排紙ローラと拍車との対が、2対の搬送機構として設けられる。この構成により、記録ヘッドによる記録領域における記録シートの搬送を高精度に行なうことができ、また、2対の搬送機構の間の記録シートに所定の張力を付与し広範囲な部分を平坦に保つことができる。
【0003】
上述の搬送機構では、記録シートが2つのローラ対で保持された状態から、その後端が搬送ローラとピンチローラとのローラ対から離れる(開放される)状態に移行するときに、搬送量の制御に誤差が生じることがある。また、記録シートの搬送で、記録シートが搬送ローラとピンチローラとのローラ対のみに挟持される状態から、排紙ローラと拍車によっても挟持される状態に移行する際、記録シートが意図した所定の搬送量より少なく搬送される場合がある。さらには、記録媒体の縁(例えば、先端部または後端部)に余白を設けずに記録をするいわゆる縁なし記録などでは、1つのローラ対だけで搬送が行われ、搬送の精度が低下する記録領域が存在する。これらの場合は、記録シートに対する記録ヘッドの相対的な位置が意図した位置からずれてしまい、その結果として、記録ヘッドから吐出され記録シート上に形成されるインクドットの位置(画像位置)がずれて、記録画像の品位が損なわれることになる。
【0004】
このような記録装置の搬送誤差による記録品質への影響を軽減する制御方法として、記録ヘッドの複数の記録素子のうち、使用する記録素子を、記録媒体と搬送手段との位置関係に応じて設定する方法が知られている。特許文献1は、1回の走査で使用する記録素子の数が一定の第1の領域と変化する第2の領域とに記録媒体の記録対象領域を分割し、第2の領域の記録では使用する記録素子の数を少なくする制御方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-76029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、記録媒体と搬送手段との位置関係に応じて使用する記録素子を設定している。そのため、第2の領域においては、その領域に対する記録データの有無に関わらず、記録素子の使用範囲を小さくし、それに応じて記録媒体の搬送量を少なくする制御が行われる。しかしながら、記録データが無い場合は、記録を行わないため画質低下の問題が生じないので、その対策としてのこのような制御は本来不要である。特許文献1の制御方法では、第2の領域に対する記録データが無い場合に、本来不必要である搬送量を小さくする制御を行うため、これにより記録装置のスループットが低下する。本発明は、記録媒体の所定領域に対する記録データが存在しないと判定された場合に、記録素子の使用範囲を小さくしそれに応じて搬送量を少なくする制御を省略して、スループットの向上を可能にする、記録装置およびその制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の記録装置は、記録素子が所定の方向に配列された記録ヘッドを前記所定の方向と交差する方向に記録媒体上で走査させて記録を行う記録装置であって、記録装置における記録ヘッドの走査領域に対する記録媒体の搬送路の上流側および下流側にそれぞれ配置された上流側搬送駆動手段と下流側搬送駆動手段とを備えて、記録媒体を上流側から下流側に搬送する搬送手段と、搬送される記録媒体の領域に応じて、記録素子の使用範囲および搬送手段による記録媒体の搬送量を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、上流側搬送駆動手段および下流側搬送駆動手段のうちの一方によって搬送される記録媒体の領域であって、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を低減させる制御をするように設定した記録媒体の領域に対する記録データが存在しない場合、または記録データが存在する場合であって該記録データにより記録されるべき画像の濃度が設定した閾値以下である場合は、低減させる制御を行わないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、記録媒体の記録対象領域とその領域に対する記録データの有無とによって、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を変化させる制御の要・不要を判定し、不必要な制御を省略する。これによって、同一画像の記録に必要な記録素子の走査数を低減させおよび/または1回の走査当たりの記録媒体の搬送量の低減を回避することができ、記録装置のスループットを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る記録装置の内部ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る記録装置の上面図である。
【図3】図2の記録装置の横断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る、記録制御の要・不要の判定を示す流れ図である。
【図5】記録媒体がローラ対によって保持されている状態での、記録素子と記録媒体との位置関係を示す図である。
【図6】図5に示す記録媒体がローラ対によって保持されている各状態に対応する、記録媒体の記録対象領域を説明する図である。
【図7】(a)は、記録媒体の先端部における記録制御の例を示す図であり、(b)および(c)は、該記録制御の省略を説明する図である。
【図8】(a)は、記録媒体の後端部における記録制御の例を示す図であり、(b)および(c)は、該記録制御の省略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
なお、本明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等、有意の情報を形成することをいう。また、それのみならず、「記録」とは、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体(記録シート)上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0012】
また、本明細書において、「記録媒体」(「記録シート」という場合もある)とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0013】
さらに、本明細書において、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきである。すなわち「インク」とは、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、あるいはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0014】
またさらに、本明細書において、「記録素子」とは、特にことわらない限り、吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括していうものとする。
【0015】
以下では、本発明に係る記録装置の1つの実施形態として、記録媒体の搬送方向と交差する方向に記録素子を走査させ記録素子からインクを吐出させて記録を行うシリアル型のインクジェット記録装置を例に挙げて説明する。
【0016】
本実施形態の記録装置には、自動給紙装置が装着されている。この装着された状態の記録装置の機構部の概略構成は、給紙装置、送紙部、排紙部、キャリッジ部、およびクリーニング部を含む。機構部の各構成要素およびその動作については、以下に詳述する。また、記録装置には、機構部の他、機構部の各構成要素の動作を制御し、記録データに関する処理を行なう制御部が、基板の形態で設けられている。
【0017】
図1は本実施形態の記録装置の記録制御を実施するための制御構成の例を示すブロック図である。制御部は、CPU105、ROM104、RAM103等を有して構成されることは周知の記録装置と同様であり、これらはシステムバス100を介して電気信号の形態で種々のデータを送受信する。CPU105は、ROM104内に保存されている記録装置の動作プログラムと、不揮発性メモリ109に記憶されている記録装置の設定情報とをRAM103に展開しおよび読み出して、記録装置の制御を行うことができる。インターフェース部106は、ホストコンピュータ110等から画像データを受信することができる。受信された画像データは、RAM103で展開され、次いで、必要な色補正および色変換等の処理がなされ、これにより、記録に用いる記録データが得られる。記録データ判断部108は、記録に際し、記録媒体の位置情報および記録データ等に応じて、各走査にて複数の記録素子のうちどの記録素子を使用しどの記録素子を使用しないか(すなわち記録ヘッド102における記録素子の使用範囲)を判断することができる。記録ヘッド102は、電気熱変換体(発熱素子、ヒータ)が発生する熱エネルギーを利用してインクに気泡を生じさせ、この気泡の圧力によって記録素子からインクを吐出する、いわゆるバフルジェット(BJ)方式を採用したインクジェット方式のものである。記録ヘッド102は、記録装置のキャリッジに搭載されたときに記録媒体搬送方向に並ぶ複数の記録素子を備える。モータドライバ101はキャリッジを駆動して、記録ヘッドを記録媒体搬送方向と交差する方向に走査させることができる。ユーザーは、ユーザーインターフェースとしての操作部107より、記録装置の操作を行うことができる。
【0018】
図2および図3は機構部を示す図である。図2は本実施形態の記録装置の1つの例の上面図、および図3はその横断面図をそれぞれ示す。以下では、まず、主に図3に示す本実施形態の記録装置の1つの例の横断面図を参照して、機構部の各構成要素について説明する。
【0019】
(A)給紙部(給紙装置)
図3において、給紙部2は、記録装置本体に自動給紙装置が装着されることによって構成される。自動給紙装置はベース20を有し、このベース20に、記録シートPを積載する圧板21と記録シートPを給紙する給紙ローラ28とが取り付けられている。給紙ローラ28は、その断面が円形状の一部をカットしたD型形状をしたものである。圧板21には可動サイドガイド23が移動可能に設けられて、記録シートPの積載位置を規制することができる。この圧板21は、ベース20に形成された回転軸を中心に回転可能に設けられ、圧板バネ212の付勢力によって、積載する記録シートPを給紙ローラ28に向けて付勢することができる。また、圧板21および可動サイドガイド23の、給紙ローラ28と対向する部位には、それぞれ、記録シートPの重送を防止するための、人工皮等の摩擦係数の大きい材質からなる分離パッド234が設けられている。
【0020】
また、ベース20には、記録シートPを1枚ずつ分離するための分離パッド241を設けた分離パッドホルダ24が、ベース20に設けられた回転軸を中心に回転可能に設けられている。分離パッドホルダ24は、分離パッドバネ242によって給紙ローラ28に向けて付勢されている。また、分離パッドホルダ24には、上記付勢方向とは反対方向に、回転コロ251が取り付けられた回転コロホルダ25が、回転コロバネ252の付勢力によって所定圧で付勢されている。
【0021】
自動給紙装置には、圧板21(またはそれに載置された記録シートP)と給紙ローラ28との当接を解除するためのリリースカムギア(不図示)が設けられている。このギアの回転は、それによって圧板21が所定位置まで下がったときに、給紙ローラ28のカット部285が分離パッド241と対向する位置になるように設定されている。これにより、分離パッド241と給紙ローラ28との間に所定の空間を形成することができる。このとき、回転コロ251は分離パッド241に当接し、記録シートPの重送を防いでいる。
【0022】
以上のように、給紙を待機している状態では、リリースカムギアが圧板21を所定位置まで押し下げており、これによって、圧板21と給紙ローラ28との当接、および分離パッド241と給紙ローラ28との当接は解除されている。後述する送紙部3の搬送ローラ36を駆動するための駆動力が、ギア等を介して給紙ローラ28およびリリースカムギアに伝達されると、リリースカムギアは圧板21から離れ、これにより圧板21は上昇して、給紙ローラ28と記録シートPとが当接する。給紙ローラ28の回転に伴い、記録シートPは、ピックアップされるとともに分離パッド241によって1枚ずつ分離されて、送紙部3に送られる。記録シートPを送紙部3に送り込んだ時点で、記録シートPを介してまたは介さずに実現されていた給紙ローラ28と圧板21との当接および給紙ローラ28と分離パッド241との当接は、リリースカムギアによって解除される。記録シートPに対する記録が終了し、その排紙が完了した時点で、戻しレバー26が分離パッド241上に入り込んだ記録シートPに作用し、これにより、圧板21上の積載位置まで記録シートPを戻すことができる。
【0023】
戻しレバー26および給紙ローラ28の駆動はそれぞれ、搬送ローラ36の駆動力が所定のギアを介して伝達されることにより行われる。駆動力の伝達の切換は、駆動切換部(不図示)によって行われる。
【0024】
(B)送紙部
記録装置本体の構造部材を構成する、曲げ起こした板金からなるシャーシ8(図2参照)に、送紙部3を構成する各要素が取り付けられている。送紙部3は、記録シートPを搬送するための構成要素である。送紙部3は、記録ヘッド7による記録領域に関し記録シートPの搬送路の上流側に設けられる搬送ローラ36とピンチローラ37との対(上流側搬送駆動手段)と下流側に設けられる排紙ローラ41と拍車42との対(下流側搬送駆動手段)とを有して構成される。
【0025】
搬送ローラ36は、金属軸の表面にセラミックの粒子などをコーティングして形成されている。搬送ローラ36の軸の両端は、シャーシ8の両側部に設けられた二つの軸受け38(図2参照、他方は不図示)によって支持されている。搬送ローラ36には、従動する複数のピンチローラ37が当接可能に設けられている。
【0026】
ピンチローラ37は、ピンチローラホルダ30に保持されている。ピンチローラホルダ30がピンチローラバネ31によって付勢されることにより、ピンチローラ37は搬送ローラ36に圧接し、これにより、記録シートPの搬送力を生じさせる。ピンチローラホルダ30の回転軸は、シャーシ8に設けた上ガイド33の軸受けに取り付けられており、ピンチローラホルダ30は、この軸を中心に回転する。
【0027】
ピンチローラホルダ30は、一体形成されて、記録シートPの搬送方向については一定以上の剛性を有しそれと垂直な方向に関する剛性は比較的小さくなるよう設定され、ピンチローラバネ31の付勢力がピンチローラ37に適切に作用するようにしている。全てのピンチローラ37は、搬送ローラ36の回転軸と略平行に構成されている(図2参照)。ピンチローラホルダ30および上ガイド33は記録シートPのガイドも兼ねている。給紙部2から記録シートPが搬送されてくる送紙部3の入口には、記録シートPをガイドするプラテン34が配設されている。上ガイド33には、記録シートPの先端および後端を検出するためのPEセンサ32を作用させるPEセンサレバー35が設けられている。プラテン34はシャーシ8に取り付けられて、位置が決定されている。本実施形態のピンチローラ37は、POM(ポリオキシメチレン)等の摺動性の良い樹脂等で形成され、また、その外径はφ3〜7mm程度に設定されている。
【0028】
また、プラテン34の、記録シートの幅方向の基準位置を規定する紙基準側には、記録シートPの端部を覆う紙押さえ(不図示)が設けられている。これによって、記録シートPの端部が変形またはカールした場合でも、その端部が浮き上がってキャリッジ50あるいは記録ヘッド7と干渉することを防止している。また、プラテン34は、プラテン34上に着弾したインクによる汚れを防ぐためのインク吸収体を備える溝を表面に有する。
【0029】
送紙部3の上方には、後述するキャリッジ部5が設けられている。キャリッジ部5には記録ヘッド7が搭載され、その走査によって、搬送ローラ36とピンチローラ37との対および排紙ローラ41と拍車42との対によって搬送される記録シートPに対して、インクを吐出し記録を行なうことができる。この記録動作では、送紙部3に送られた記録シートPは、プラテン34、ピンチローラホルダ30および上ガイド33に案内されて、搬送ローラ36とピンチローラ37とのローラ対まで送られる。このとき、PEセンサレバー35は搬送されてきた記録シートPの先端によって動作し、これによってPEセンサによる記録シートP先端の検出が行われる。その検出結果に基づき、記録シートPに対する記録位置を定めることができる。
【0030】
記録シートPは、LFモータ88の駆動により搬送ローラ36とピンチローラ37とのローラ対が回転することでプラテン34上を搬送されるが、搬送ローラ36には、その回転位置を検出するためのエンコーダーホイール361(図2参照)が取り付けられている。エンコーダーホイール361は円盤状の透明シートの上に放射状のマークが所定ピッチで形成されたものである。このマークをシャーシ8に固定された光学式のエンコーダーセンサー362(図2参照)が検出することにより、搬送ローラ36の回転位置もしくは回転量を知ることができる。
【0031】
(C)キャリッジ部
キャリッジ部5は、記録ヘッド7を取り付けるキャリッジ50を有している。キャリッジ部5には、また、記録ヘッド7にブラックおよびカラーのインクを供給するためのインクタンクが、インクの色毎に、個別にかつキャリッジ50に対し着脱可能に配置されている。キャリッジ50は、記録シートPの搬送方向に対して略垂直方向に延在するガイド軸81、およびキャリッジ50の後端を保持して記録ヘッド7と記録シートPとの隙間を維持するための、同様に延在するガイドレール82によって支持されている。また、キャリッジ50は、シャーシ8に取り付けられたキャリッジモータ80によりタイミングベルト83を介して駆動される。タイミングベルト83は、アイドルプーリ84によって張設および支持されるものである。キャリッジ50は、上述の制御部を構成する基板9から記録ヘッド7へ記録信号等を伝えるための、フレキシブル基板56を備えている。記録ヘッド7は、伝達された記録信号等に基づいてヒータによりインクに熱を与えて膜沸騰を生じさせ、膜沸騰による気泡の成長または収縮によって生じる圧力変化によって、記録ヘッド7の記録素子からインクを吐出させて、記録シートP上に画像を記録する。
【0032】
上記構成において、記録シートPに記録を行なうときは、搬送ローラ36とピンチローラ37とのローラ対が、記録シートPを、記録する行位置(記録シートPの搬送方向における位置)が記録ヘッド7の記録素子の下に来るように搬送する。それととともに、キャリッジモータ80により、キャリッジ50を、記録する列位置(記録シートPの搬送方向と垂直な方向における位置)に移動させて、記録ヘッド7の走査を行なう。この走査の間に、制御部からの記録信号に基づいて、記録ヘッド7を駆動し、対応する記録素子から記録シートPに対してインクを吐出させて、画像等の記録を行なうことができる。
【0033】
(D)排紙部
送紙部の排紙ローラと拍車との対は、排紙部を構成する。すなわち、拍車ベース341(図2参照)には、拍車42が排紙ローラ41に対応して回転可能に設けられ、および拍車42は排紙ローラ41に当接されている。排紙ローラ41の駆動は、搬送ローラ36のための駆動力が伝達ローラ40によって伝達されることにより可能となる。
【0034】
排紙ローラ41は、金属あるいは樹脂からなる軸にゴム等の摩擦抵抗の高い高摩擦材からなるローラ部が複数配置されて構成されている(図2参照)。拍車42は、0.1mm程度の厚みを有し、その外周には突起が設けられ、SUS(ステンレススチール)等の金属板と、回転軸受けを形成するPOM(ポリオキシメチレン)からなる樹脂部とから構成されている。
【0035】
排紙ローラ41に駆動を伝達する伝達ローラ40は、POM等でできた円盤状のローラの外周に、スチレン系エラストマー等の低硬度で摩擦抵抗の高い材料を取付けたものである。伝達ローラ40は、搬送ローラ36および排紙ローラ41の双方に所定圧力で当接されており、これによって駆動力の伝達を行なうことができる。
【0036】
以上の構成によって、キャリッジ部5の記録ヘッド7の走査によって記録がなされた記録シートPは、排紙ローラ41と拍車42とのニップに挟まれて搬送され、排紙トレー等に排出される。その搬送において、記録シートPは、その後端が搬送ローラ36とピンチローラ37とのニップから外れてからは、排紙部の排紙ローラ41と拍車42とのニップのみに挟持されて搬送され、記録あるいは排紙が行なわれる。また、拍車42に拍車クリーナー43が当接することで、拍車42に付着したインク等を除去することができる。
【0037】
(E)クリ−ニング部
クリーニング部6(図2参照)は、キャリッジが非記録時に戻るホームポジション近辺に位置付けられており、ポンプ(不図示)およびキャップ(不図示)を有して構成されている。ポンプは、記録ヘッド7のインク吐出面付近の増粘したインクやごみ等を吸引する吐出回復処理を行なうために用いられる。また、キャップは、記録ヘッド7のインク吐出面を覆って各記録素子内のインクの乾燥を抑えるために用いられる。
【0038】
<記録制御>
以上説明した本実施形態の記録装置での、記録媒体の先端部および後端部の記録における記録素子の制御について、図4から図8(a)〜(c)を参照して説明する。
【0039】
まず、図5は、記録媒体がローラ対によって保持されている状態での、記録素子と記録媒体との位置関係を示す図である。図6は、図5に示す位置関係と、その位置関係での記録の対象となる記録媒体の領域(記録対象領域)との関係を説明する図である。図中、既に説明した符号と同一の符号は、同一の構成要素を表す。
【0040】
図5を参照して、記録媒体(記録シート)Pは、図中右側から記録媒体搬送方向Xに向かって搬送される。記録媒体の先端および後端は、位置センサとしてのPEセンサ32によって検出される。ただし、本実施形態の記録制御にあたって、記録媒体後端部の位置情報としては、PEセンサ32の検出結果に基づく物理的な位置情報を用いるが、先端部の位置情報としては、搬送モータに対する駆動命令に基づく論理的な位置情報を用いる。すなわち、記録媒体後端部では、記録媒体サイズが想定範囲を超えた場合に異なる制御を行う必要が生じるため、後端位置を実際に検出する。しかしながら、記録媒体先端部については、記録媒体の大きさ、搬送誤差による記録媒体の位置の変動要因が少ないため、論理的な位置情報を用いた制御が可能である。したがって、先端部の位置情報としては、記録制御での処理が容易な論理値を用いることができる。
【0041】
記録媒体Pは、搬送ローラ36とピンチローラ37との対(以下、搬送ローラ対ともいう)および排紙ローラ41と拍車42との対(以下、排紙ローラ対ともいう)のいずれか一方または両方によって挟持されてローラの駆動力が伝達されることによって搬送される。
【0042】
図5に示す状態AおよびBはいずれも、記録媒体Pが、搬送ローラ対のみによって挟持されている状態である。状態Wは、記録媒体Pが、搬送ローラ対および排紙ローラ対の両方によって挟持されている状態である。状態CおよびDはいずれも、記録媒体Pが、排紙ローラ対のみに挟持されている状態である。以下、状態A、B、C、Dのように一方のローラ対のみによって記録媒体が挟持されている状態を「片グリップ状態」、状態Wのように両方のローラ対によって記録媒体が挟持されている状態を「両グリップ状態」という。また、片グリップ状態のうち、状態AおよびBは、記録媒体の搬送方向Xにおける先端部が挟持されているので「先端片グリップ状態」、および状態CおよびDは、記録媒体の搬送方向Xにおける後端部が挟持されているので「後端片グリップ状態」ともいう。
【0043】
図5に示す片グリップ状態A、B、CおよびDでは、記録媒体Pが一方のローラ対のみによって狭持されて搬送されるので、両グリップ状態である状態Wと比べて搬送精度が低く、また、記録素子と記録媒体Pとの間隔が安定せず、記録精度が低い。また、片グリップ状態AおよびDでは、搬送方向Xにおける記録媒体Pの先端部または後端部は、記録装置への搭載時に記録媒体搬送方向Xに配列するように記録ヘッド7に設けられた複数の記録素子の下方にあるが、複数の記録素子の全体に対応する位置にない。この状態で、記録ヘッド7に設けられた複数の記録素子の全体を記録素子の使用範囲として記録を行うと、記録媒体Pに着弾しないインクがプラテン34を汚してしまう。
【0044】
以上説明した図5に示す先端片グリップ状態AおよびB、ならびに後端片グリップ状態CおよびDに対応する記録媒体の記録対象領域が、それぞれ、図6に示す先端片グリップ領域601および602、ならびに後端片グリップ領域604および605である。これらの領域に対して記録を行う際は、記録精度の低下を防止するように、両グリップ状態Wに対応する記録媒体の記録対象領域である両グリップ領域603への記録と比べて、記録素子の使用範囲、および記録媒体の搬送量を低減させた細かい記録制御を行う。また片グリップ領域601および605に対して記録を行う際は、プラテン34を汚さないために、記録媒体の先後端を外れたインクがプラテン34の溝に存在する吸収体に着弾するように記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を低減させる記録制御を行う。したがって、記録媒体の領域601、602、604、605に対して、すなわち片グリップ状態である状態A、B、C、Dにおいては、いずれも、記録を行う際に、両グリップ状態である状態Wと比べて記録素子の使用範囲を低減させた記録制御を行う。先端片グリップ領域601および602に対する記録制御の方法は、同様であっても異なっていてもよい。また、後端片グリップ領域604および605に対する記録制御の方法は、同様であっても異なっていてもよい。
【0045】
図7(a)から(c)および図8(a)から(c)を参照して、本実施形態に係る記録制御方法について説明する。
【0046】
まず、図7(a)から(c)は、記録媒体搬送方向における記録媒体の先端部における記録制御の例を説明する図である。本例においては、記録に用いるマルチパス記録として、記録媒体の記録対象領域の各単位領域の記録を4回の走査で完成する4パス記録を採用するものとする。記録媒体搬送方向に並ぶ複数の記録素子を備える記録ヘッドは、記録媒体搬送方向と交差(ここでは直交)する方向に走査される。図中の符号mからm+9は、それぞれ、走査mから走査m+9における、記録媒体搬送方向に並ぶ複数の記録素子(図中、列の形態で表されている)の記録媒体に対する相対的な位置関係を示す。
【0047】
図7(a)は、本実施形態に係る、記録媒体の搬送方向長さH1にわたる領域に対する記録データに基づき記録を行う記録制御の例を示す。記録媒体の搬送方向長さH1にわたる領域は、先端片グリップ領域602と、両グリップ領域603とにまたがる。
【0048】
1回の走査当たりの記録ヘッドの走査領域に先端片グリップ領域を含み、かつ、先端片グリップ領域に対する記録データが存在するときは、記録精度の低下防止のために、両グリップ領域のみに対する記録時よりも記録素子の使用範囲を狭くした記録を行う。本例では、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において16分割した部分を記録素子の使用範囲の最小単位として用いて、4パス記録を行い、画像を完成させる。このとき、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量を、記録素子の使用範囲に応じて、短く制御する。ここでは、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量として、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において8分割した長さを採用している。(走査mから走査m+6参照。)
【0049】
また、1回の走査当たりの記録ヘッドの走査領域が両グリップ領域603のみであるとき、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した部分を記録素子の使用範囲の最小単位として用いて、4パス記録を行い、画像を完成させる。このとき、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量として、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した長さを採用する。(走査m+7から走査m+9参照。)すなわち、記録媒体の先端部に対する一連の記録動作において、1回の走査当たりの記録ヘッドの走査領域が、先端片グリップ領域602を含む領域から両グリップ領域603のみに移行するとき、狭くしていた記録素子の使用範囲を拡張する。このとき、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量を、記録素子の使用範囲の変化に応じて、長くする。
【0050】
このように記録素子の使用範囲を変化させそれに応じて記録媒体の搬送量を変化させる制御によって、前端片グリップ状態での記録における記録精度の低下を効果的に防止することができる。このような制御は、例えば、ふちなし記録に好適に用いることができる。
【0051】
一方、片グリップ領域に対する記録データが無い場合には、片グリップ状態での記録は行われないので、上述のような記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を変化させる制御は、本来必要ではない。したがって、本実施形態においては、この場合、上述のような制御を行わない。
【0052】
図7(c)は、本実施形態に係る、記録媒体の搬送方向長さH2にわたる領域に対する記録データに基づき記録を行う例を示す。すなわち、片グリップ領域に対する記録データが無く、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を変化させる制御を行わない記録制御の例である。図7(c)においては、図7(a)に示す各走査に対応する走査を同一の符号で示しており、そのため走査はm+4から始まるものとする。記録媒体の搬送方向長さH2にわたる領域の全体は、両グリップ領域603に包含される。先端片グリップ領域に対する記録データが存在しないので、記録媒体の先端部に対する一連の記録動作において、上述の制御を行わず、一般的な4パス記録を行う。具体的には、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した部分を記録素子の使用範囲の最小単位として用いて、4パス記録を行い、画像を完成させる。このとき、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量として、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した長さを採用している。記録素子の使用範囲を変化させないため、一連の記録動作において、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量も変化させない。(走査m+4から走査m+9参照。)
【0053】
ここで、先端片グリップ領域に対する記録データが存在しない場合に記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を変化させる制御を行わない本発明の効果を説明する。
【0054】
図7(c)に示す本発明の実施形態では、記録媒体の搬送方向長さH2にわたる領域に対する記録において、上述の制御を行わないことにより、記録媒体は走査m+4から走査m+9にわたって一定の搬送量で搬送される。このときの一定の搬送量は、上述のように、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した長さである。これに対して、図7(b)に示す参考例のように、記録媒体の搬送方向長さH2にわたる領域に対する記録において、上述の制御を行う場合は、走査m+4から走査m+6と走査m+7から走査m+9とで、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量が変化する。具体的には、走査m+4から走査m+6についての搬送量は、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において8分割した長さである。また、走査m+7から走査m+9についての搬送量は、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した長さである。
【0055】
したがって、走査m+4から走査m+9までの一連の記録動作における記録媒体の搬送量の合計は、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を変化させる制御を行わない場合に、行う場合よりも大きくなる。すなわち、所定領域に対する記録データが存在しない場合に上述の制御を行わない本発明の実施形態によれば、同一の画像を同一の走査数で記録する場合に、記録媒体の搬送量を相対的に大きく設定することができ、これにより、記録装置のスループットが向上する。
【0056】
また、一連の記録動作において記録媒体の搬送量を変更しないため、記録媒体を安定的に搬送することが可能となる。これにより、一連の記録動作において記録媒体の位置情報の誤差が生じにくくなり、結果的に、記録画像の品位が向上する。
【0057】
続いて、図8(a)から(c)は、記録媒体搬送方向における記録媒体の後端部における記録制御の例を説明する図である。本例においても、記録に用いるマルチパス記録として、記録媒体の記録対象領域の各単位領域の記録を4回の走査で完成する4パス記録を採用するものとする。記録媒体搬送方向に並ぶ複数の記録素子を備える記録ヘッドは、記録媒体搬送方向と交差(ここでは直交)する方向に走査される。図中の符号nからn+8は、それぞれ、走査nから走査n+8における、記録媒体搬送方向に並ぶ複数の記録素子(図中、列の形態で表されている)の記録媒体に対する相対的な位置関係を示す。
【0058】
図8(a)は、本実施形態に係る、記録媒体の搬送方向長さH3にわたる領域に対する記録データに基づき記録を行う記録制御の例を示す。記録媒体の搬送方向長さH3にわたる領域は、両グリップ領域603と後端片グリップ領域604とにまたがる。
【0059】
1回の走査当たりの記録ヘッドの走査領域が両グリップ領域603のみであるとき、原則として、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した領域を記録素子の使用範囲の最小単位として用い、4パス記録を行い、画像を完成させる。このとき、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量として、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した長さを採用する。(走査n参照。)
【0060】
また、1回の走査当たりの記録ヘッドの走査領域に後端片グリップ領域を含み、かつ、後端片グリップ領域に対する記録データが存在するときは、記録精度の低下防止のために、両グリップ領域のみに対する記録時よりも記録素子の使用範囲を狭くした記録を行う。具体的には、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において8分割した領域を記録素子の使用範囲の最小単位として用いて、4パス記録を行い、画像を完成させる。このとき、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量を、記録素子の使用範囲に応じて、短く制御する。具体的には、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量として、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において8分割した長さを採用する。(走査n+4から走査n+8参照。)
【0061】
ここで、走査n+1から走査n+4までの間の記録制御について説明する。走査nについての1回の走査当たりの記録媒体の搬送量は、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した長さであるのに対し、走査n+4についての搬送量は、8分割した長さである。本例では、記録ヘッドの走査領域が、両グリップ領域のみである段階であっても、後端片グリップ領域を含む領域に移る直前から、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を適宜低減させる制御を行う。このような制御を行うのは、両グリップ状態から後端片グリップ状態に移行するときに記録媒体の搬送量の設定が相対的に小さいと、大きい場合と比べて記録媒体の位置ずれが生じたとしてもこれを小さく抑えることができ、記録品位の低減が防止できるためである。本例で採用する記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量は、後端片グリップ領域を含む領域に対する記録と同様である。(走査n+1から走査n+3参照。)
【0062】
このように、記録媒体の後端部に対する一連の記録動作において、1回の走査当たりの記録ヘッドの走査領域が両グリップ領域603から後端片グリップ領域604を含む領域に移行する過程で、記録素子の使用範囲を狭くする。このとき、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量を、記録素子の使用範囲の変化に応じて、短くする。このような制御によって、後端片グリップ状態での記録における記録精度の低下を効果的に防止することができる。なお、移行する過程であるか否かは、上述のようにして求めた記録シートの先端部および後端部の位置情報により判断することができる。
【0063】
一方、片グリップ領域に対する記録データが無い場合には、片グリップ状態での記録は行われないので、上述のような記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を低減させる制御は、本来必要ではない。したがって、本発明の実施形態においては、この場合、上述のような制御を行わない。
【0064】
図8(c)は、本実施形態に係る、記録媒体の搬送方向長さH4にわたる領域に対する記録データに基づき記録を行う例を示す。すなわち、片グリップ領域604に対する記録データが無く、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を低減させる制御を行わない記録制御の例である。記録媒体の搬送方向長さH4にわたる領域の全体は、両グリップ領域603に包含される。後端片グリップ領域に対する記録データが存在しないので、記録媒体の後端部に対する一連の記録動作において、上述の制御を行わず、一般的な4パス記録を行う。具体的には、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した領域を記録素子の使用範囲の最小単位として用いて、4パス記録を行い、画像を完成させる。このとき、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量として、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した長さを採用している。記録素子の使用範囲を低減させる制御を行わないため、一連の記録動作において、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量は変化させない。(走査nから走査n+5参照。)
ここで、後端片グリップ領域に対する記録データが存在しない場合に記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を低減させる制御を行わない本発明の効果を説明する。
【0065】
図8(c)は、所定領域に対する記録データが無い場合に上述の制御を行わない本発明の実施形態の例であり、記録媒体の搬送方向長さH4にわたる領域に対する記録における、走査nから走査n+5までの5回の走査を示している。記録媒体は、走査nから走査n+5までの記録動作において一定の搬送量で搬送される。このときの一定の搬送量は、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した長さである。
【0066】
一方図8(b)は、所定領域に対する記録データが無い場合でも記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を低減させる制御を行う参考例である。図8(c)の場合と同一の記録画像を得るための、記録媒体の搬送方向長さH4にわたる領域に対する記録における走査nから走査n+6までの6回の走査を示している。走査nと走査n+1から走査n+6とで、1回の走査当たりの記録媒体の搬送量が変化する。すなわち、走査nについての搬送量は、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において4分割した長さである。また、走査n+1から走査n+6についての搬送量は、記録ヘッドが備える複数の記録素子を記録媒体搬送方向において8分割した長さである。
【0067】
したがって、まず、同一の記録画像を得るための記録ヘッドの走査回数が、上述の制御を行わない場合に、行う場合よりも少なくなる。また、同一の記録画像を得るための記録動作における記録媒体の搬送量の合計が、遷移記録を行わない場合に、行う場合よりも大きくなる。すなわち、上述の制御を行わない本発明の実施形態によれば、同一の画像を記録する場合に、記録ヘッドの走査回数を低減させることができ、また、記録媒体の搬送量を相対的に大きく設定することができ、これにより、記録装置のスループットが向上する。また、一連の記録動作において記録媒体の搬送量を変更しないため、記録媒体を安定的に搬送することが可能となる。
【0068】
ここで、図4は、記録に際し、図1に示す記録データ判断部108が、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を低減させる制御を行うか否かを決定するフローを示す図である。
【0069】
ステップS101にて、記録媒体の先/後端部の位置情報に基づいて、記録媒体の記録対象領域が、上述の制御を行う対象に予め設定した所定の領域であるか否かを判断する。記録媒体の記録対象領域が、上述の制御を行う対象領域ではないと判断した場合は、ステップS104に進み、上述の制御を行わない。一方、記録媒体の記録対象領域が、上述の制御を行う対象領域であると判断した場合は、ステップS102に進む。ステップS102では、記録媒体の記録対象領域に対する記録データが存在するか否かを判断する。記録データが存在する場合には、ステップS103に進み、上述の制御を行う。また、記録データが存在しない場合には、ステップS104に進み、上述の制御を行わない。
【0070】
このようなフローに従って記録制御をする本発明の実施形態によれば、記録装置のスループットを向上させることができ、また、記録媒体の安定した搬送が可能となる。
【0071】
<他の実施形態>
図7(a)および図8(a)を参照して説明した上述の実施形態で用いた制御は、本発明に用いることのできる制御の例であり、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、記録方式は4パス記録に限定されるものではなく、また、使用する記録素子の領域の最小単位も、上述の4、8、16分割以外の領域であってもよい。
【0072】
本発明の制御は、記録素子の使用範囲を縮減する場合と拡張する場合のどちらにも適用することができる。
【0073】
本発明の制御は、ふちなし印刷の場合のような記録媒体の先後端部に限らず、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を変更させる制御を行う対象となり得るすべての領域について適用することができる。記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を変更させる制御を行う対象となり得る記録媒体の領域には、例えば以下のような領域がある。
【0074】
(1)記録媒体の先端が排紙ローラ対に突入する際に生じ得る記録ムラ(いわゆる拍車突入ムラ)を軽減するために記録素子の使用範囲を縮減した状態で記録を行う場合の記録対象領域である、拍車突入領域。
【0075】
(2)記録媒体の先端が排紙ローラ対に突入した後に記録素子の使用範囲を拡張していく場合の記録対象領域。
【0076】
(3)記録媒体の後端が搬送ローラ対から抜ける際に生じ得る記録ムラ(いわゆる蹴飛ばしムラ)を軽減するために記録素子の使用範囲を縮減していく場合の記録対象領域である、蹴飛ばし領域。
【0077】
再度図4のフローを参照して、具体的な適用例を説明する。まず、記録媒体の拍車突入領域および蹴飛ばし領域を、原則として、低減させた記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を用いた記録を行うべき「制御の対象領域」であると予め設定しておく。ステップS101にて、記録媒体の位置情報に基づき、記録媒体の記録対象領域が拍車突入領域または蹴飛ばし領域であるか否かを判定する。拍車突入領域または蹴飛ばし領域であれば、記録媒体の記録対象領域は制御の対象領域であると判断し、ステップS102に進む。ステップS102にて、記録媒体の記録対象領域に対する記録データの有無を判定する。記録データが存在する場合は、ステップS103に進み、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を低減させる制御を行う。一方、記録データが存在しない場合は、記録を行わないので、ステップS104に進み、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を低減させる制御を行わない。この制御の省略により、記録媒体は、相対的に大きい一定の搬送量で搬送されるので、記録装置のスループットが向上するとともに、記録媒体の安定した搬送が可能になる。
【0078】
図4のステップS101で判定に用いる「制御の対象領域」は、上述の例では予め設定していたが、これに限定されず、記録データと共に取得されて設定されてもよい。
【0079】
上述の例では、図4のフローに示す制御を行うか否かの決定は、図1に示すように記録装置の内部に設けられた記録データ判断部108にて行われるものとしたが、記録データ判断部は、記録装置の外部に設けられたものであってもよい。
【0080】
以下のような場合に、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を変更する制御を省略することができる。これにより、記録装置のスループットの向上効果が得られ、また、記録媒体の安定した搬送が可能になる。
【0081】
(1)図6に示す後端片グリップ領域604に対する記録データが存在せず、両グリップ領域603に対してのみ記録データが存在する場合。この場合には、両グリップ領域603での記録を終了した後に記録を行わないので、両グリップ領域603に対する記録に用いる記録制御方法(相対的に大きい記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量)から設定を変更する必要がない。したがって、記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量を低減させる制御を行わず、記録装置のスループットの向上効果が得られる。
【0082】
(2)図6に示す両グリップ領域603に対する記録データが存在せず、後端片グリップ領域604に対する記録データのみが存在する場合。この場合は、両グリップ領域603に対して記録を行わないので、当初から後端片グリップ領域604に対する記録に用いる記録制御方法(低減させた記録素子の使用範囲および記録媒体の搬送量)で記録を行うことができる。したがって、記録媒体は一定の搬送量で搬送されるので、安定した搬送が可能となる。
【0083】
上述の実施形態では、記録データの有無により、制御を行うか否か判断した(図4、ステップS102〜S104参照)。しかし、本発明に用いることのできる制御の有無の判断方法は、これに限定されない。
【0084】
例えば、記録データが存在する場合であっても記録画像の濃度が薄い場合には、画像品位が目立たないので、画像品位の低下を防止するための制御を必ずしも行わなくてもよい。したがって、ステップS102における制御の有無の判断基準として、記録データの有無の代わりに、記録されるべき画像の濃度、例えば、記録データに基づくインク打ち込み量(記録媒体の単位面積当たりに付与するインクの量)を用いてもよい。すなわち、記録データに基づいて記録されるべき画像の濃度が、予め設定した所定の閾値を超える場合に制御を行い(ステップS103)、所定の閾値以下である場合に制御を行わない(ステップS104)とする記録制御方法であってもよい。
【0085】
また、記録データに拠らずに、どの記録素子をどのように使用するか、搬送量をどのように変更させるか等についての特定の識別子を用いて、制御の有無を決定してもよい。
【0086】
上述の実施形態では、記録装置が、ホストコンピュータからインターフェース部を介して画像データを受信する例を示した(図1参照)。しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、画像データは、スキャナ等の読取手段(不図示)によって画像を読み取ることにより、読み取り情報の形態で記録装置に入力されてもよい。
【0087】
複数枚の記録媒体に対して同一の画像を記録する場合は、1枚目の記録媒体について受信しまたは入力された画像データまたは読み取り情報に基づいて、記録データを取得し、これを2枚目以降の記録媒体について同様に用いてもよい。
【0088】
本発明は、上述の記録装置に対応した機器を含む複数の機器から構成されるシステムに適用してもよく、または、1つの機器からなる記録装置に適用してもよい。
【0089】
本発明は、上述の実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムを、システムまたは装置に直接または遠隔から供給し、供給されたプログラムコードをそのシステムまたは装置のコンピュータが読み出して実行することによって達成される場合を含む。
【0090】
本発明の機能処理をコンピュータで実現するために該コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も、本発明を実現するものである。すなわち、本発明の機能処理を実現するためのコンピュータプログラム自体も、本発明の範囲に含まれる。
【0091】
また、本発明の機能処理を実現するプログラムの機能を有していれば、形態は、ソフトウウェアのプログラム、コンピュータプログラムである必要はない。例えば、形態は、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等であってもよい。
【0092】
プログラムを供給するための記録媒体には、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、CD−RW、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM、DVD(DVD−ROM、DVD−R)等がある。
【0093】
上述の実施形態は、インクジェット方式の記録装置を用いて説明した。しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、記録領域に対して記録媒体の搬送路の上流側および下流側に2つの搬送手段を有する記録方式の記録装置に広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録素子が所定の方向に配列された記録ヘッドを前記所定の方向と交差する方向に記録媒体上で走査させて記録を行う記録装置であって、
前記記録装置における前記記録ヘッドの走査領域に対する記録媒体の搬送路の上流側および下流側にそれぞれ配置された上流側搬送駆動手段と下流側搬送駆動手段とを備えて、記録媒体を上流側から下流側に搬送する搬送手段と、
搬送される記録媒体の領域に応じて、前記記録素子の使用範囲および前記搬送手段による記録媒体の搬送量を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記上流側搬送駆動手段および前記下流側搬送駆動手段のうちの一方によって搬送される記録媒体の領域であって、前記記録素子の使用範囲および前記記録媒体の搬送量を低減させる制御をするように設定した記録媒体の領域に対する記録データが存在しない場合、または前記記録データが存在する場合であって該記録データにより記録されるべき画像の濃度が設定した閾値以下である場合は、前記低減させる制御を行わないことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記記録装置に入力された画像データまたは画像の読み取り情報を記憶する記憶手段を備え、
前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された前記画像データまたは前記画像の読み取り情報から、前記記録媒体の領域に対する記録データを取得することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記記憶手段は、前記制御手段により制御される、搬送される記録媒体の領域に応じた前記記録素子の使用範囲および前記搬送手段による記録媒体の搬送量を記憶することができることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記記録素子の使用範囲および前記記録媒体の搬送量を低減させる制御をするように設定した記録媒体の領域を、画像データまたは画像の読み取り情報と共に取得しおよび設定できる設定手段を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項5】
記録素子が所定の方向に配列された記録ヘッドを前記所定の方向と交差する方向に記録媒体上で走査させて記録を行う記録装置の制御方法であって、
前記記録装置における前記記録ヘッドの走査領域に対する記録媒体の搬送路の上流側および下流側にそれぞれ配置された上流側搬送駆動手段と下流側搬送駆動手段とを備えて、記録媒体を上流側から下流側に搬送する搬送工程と、
搬送される記録媒体の領域に応じて、前記記録素子の使用範囲および前記搬送工程による記録媒体の搬送量を制御する制御工程と、
を含み、
前記制御工程において、前記上流側搬送駆動手段および前記下流側搬送駆動手段のうちの一方によって搬送される記録媒体の領域であって、前記記録素子の使用範囲および前記記録媒体の搬送量を低減させる制御をするように設定した記録媒体の領域に対する記録データが存在しない場合、または前記記録データが存在する場合であって該記録データにより記録されるべき画像の濃度が設定した閾値以下である場合は、前記低減させる制御を行わないことを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−103345(P2013−103345A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246437(P2011−246437)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】