説明

記録装置

【課題】 比較的に安価かつ簡素な構成でインクミストの発生を抑制する。
【解決手段】 キャリッジ100に着脱可能に搭載されキャリッジ100に対するヘッド着脱時に、インク吐出面201がインク吐出方向に対して着脱移動量d1だけ移動可能にされた記録ヘッドと、キャリッジ100に搭載された記録ヘッドのインク吐出面201との距離が一定の予備吐距離にされた予備吐受け機構80とを備える。また、記録ヘッドは、着脱移動量d1が予備吐距離d2よりも大きくされる。そして、予備吐受け機構80は、インク吐出方向に移動可能に設けられ、ヘッド着脱時にインク吐出面201に当接されてキャリッジ100に対して退避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば記録用紙等の被記録材に画像等を記録するための記録装置に関し、特に被記録材に沿って移動可能なキャリッジに着脱可能に搭載された記録ヘッドからインク滴を吐出して記録を行う記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータやデジタルカメラなどの普及に伴って画像情報を手軽に扱えるようになり、その出力用に手軽な記録装置の需要が高まっている。記録装置で用いられる記録方式の中では、比較的小型、安価かつ高精細な記録を可能とする記録方式としてインクジェット記録方式が知られている。
【0003】
このインクジェット記録方式を採用した記録装置では、数十個から数百個の吐出口からなるノズル部を有する記録ヘッドと、この記録ヘッドにインクを供給するインクタンクとが一体に構成されたインクジェットヘッドカートリッジが、キャリッジに着脱可能に装着されるように構成されている。このキャリッジは、キャリッジ駆動モータの駆動力を伝達する駆動ベルトの一部と連結されて、移動可能に構成されている。このキャリッジの移動により、インクジェットヘッドカートリッジは、吐出面に対向するように配置されたプラテンに沿って移動され、この移動の間にこのプラテン上に給送される被記録材の全幅にわたって往復運動(走査)し記録を行う。被記録材は、キャリッジの走査毎に用紙搬送手段により、ノズル部のピッチに応じて定められる距離を搬送される。以上のキャリッジの走査および被記録材の搬送を繰り返すことによって、被記録材の全面に記録が行われている。
【0004】
キャリッジに着脱可能に搭載された記録手段(記録ヘッド、インクジェットヘッドカートリッジ等)を用いるインクジェット記録装置では、インクタンク内のインクを使い切ったときや記録ヘッドが故障したときに、新しいインクジェットヘッドカートリッジと交換することで、記録可能状態に容易に復帰できるように構成されたものがある。
【0005】
また、近年の高機能化が図られたインクジェット記録装置では、例えばインクジェットヘッドカートリッジに一体に設けられる記録ヘッドに、インクを吐出する吐出口(ノズル)を高密度、高精細に形成することで、写真調のフォト画像等の出力(記録)を可能にしたものがある。さらにまた、記録ヘッドのノズル数を増やした長尺ヘッドとすることで、画像出力を更に高速化したインクジェット記録装置が普及してきている。
【0006】
このような従来のインクジェット記録装置では、記録ヘッドによる記録品位を保つ目的で、記録ヘッドのノズルをクリーニングする回復ユニットによる回復処理の後や記録動作中のキャリッジの走査時に、予備吐ポジションに記録ヘッドを移動させて所定の吐出回数だけインクを予備的に吐出、つまり被記録材への記録に直接関係がない吐出動作である予備吐出を行い、ノズル内の紙粉や増粘インク等の目詰まりの原因を除去している。この予備吐ポジションには、ノズル面と対向する位置に廃インク吸収体が設けられており、予備吐出によって予備吐受け口に向けて滴下されたインクを廃インク吸収体で吸収する構成が採られている。
【0007】
しかしながら、このような従来の構成では、予備吐受け口からのインクミストの噴き上がりや、予備吐受け口と廃インク吸収体との隙間から流れ広がるインクミストによって生じる装置内汚れが、記録ヘッドによって被記録材に記録する際に生じるインクミストによる装置内汚れと合わされて蓄積されていくことが大きな問題となっていた。
【0008】
この問題の対策としては、例えば、インクミストの気流を制御するような廃インク吸収体や予備吐受け機構等が設けられて、インクミストの発生を抑制する構成が開示されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002‐001997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述の特許文献1に開示されている従来の予備吐受け機構では、廃インク吸収体の材質や、廃インク吸収体の表面に対するインク滴の進入角度を鋭角にするなどによってインクミストの気流を制御する構成であるため、得られる効果のばらつきが非常に大きいといった問題がある。また、この従来の構成では、廃インク吸収体の材質が非常に制限されるなどによって、製造コストが嵩むという不都合もあった。
【0010】
さらに、上述した従来のインクジェット記録装置では、プラテンに設けられた予備吐受け口によってインクミストを吸収する構成が採られており、記録ヘッドとプラテンとの間隙が比較大きいので、ノズル部から予備吐受け口までのインク滴の飛翔距離が長くなり、インクミストが発生し易いという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、比較的に安価かつ簡素な構成でインクミストの発生を低減することができる記録装置、予備吐受け機構、記録ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成するため、本発明に係る記録装置は、被記録材に対して往復移動可能に設けられたキャリッジと、このキャリッジに着脱可能に搭載されキャリッジに対するヘッド着脱時にインク吐出面がインク吐出方向に対して着脱移動量だけ移動可能にされた記録ヘッドとを備える。また、この記録装置は、キャリッジに搭載された記録ヘッドが予備吐出を行う予備吐ポジションに移動されたときに記録ヘッドのインク吐出面に対向する位置に配設され、キャリッジに搭載された記録ヘッドのインク吐出面との距離が一定の予備吐距離にされた予備吐受け機構を備える。また、記録ヘッドは、着脱移動量が予備吐距離よりも大きくされる。そして、予備吐受け機構は、インク吐出方向に移動可能に設けられ、ヘッド着脱時にインク吐出面に当接されてキャリッジに対して退避される。
【発明の効果】
【0013】
上述したように、本発明によれば、比較的に簡素かつ安価な構成でインクミストの発生を抑制することが可能になり、インクミストによる装置内汚れや被記録材へのインクミストの付着を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1〜図3、図4(a),(b)に、記録部を構成するインクジェットヘッドカートリッジおよびインクジェットヘッドカートリッジが装着されるキャリッジを備える記録装置の構成であり、記録部によってインクを吐出して被記録材に記録を行うインクジェット記録装置を示す。
【0016】
図1にインクジェット記録装置全体を模式的に示す斜視図を示す。図1に示すように、本実施形態のインクジェット記録装置は、大きく分けて、被記録材として記録シートを給送する給送部37と、記録シートを搬送する搬送部20と、この搬送部20によって搬送される記録シートに記録を行う記録部1と、インクジェットヘッドカートリッジと、このインクジェットヘッドカートリッジが有する記録ヘッドの吐出特性を回復させるためのメンテナンスユニット300とを備えて構成されている。このインクジェット記録装置は、図示しないが、ホスト装置等から記録データが入力され、制御基板上の制御部に記録データが格納され、この制御部から記録動作の開始指令が出されて、記録動作が開始される。
【0017】
記録動作が開始した際、先ず給送動作が行われる。給送部37は、メインASF(Automatic Sheet Feeder)であり、圧板41上に複数枚積載された記録シート(不図示)から記録動作ごとに1枚ずつの記録シートを引き出して、搬送部20に給送する自動給紙部を構成している。
【0018】
給送部37から給送された記録シートは、搬送部20を構成する搬送ローラ21とピンチローラ22とのニップ部に向けて搬送される。その後、給送ローラ39は、駆動力の伝達が切断され、記録シートと連れ回りするようになる。この時点で、記録シートは搬送ローラ21とピンチローラ22のみで搬送される。記録シートは、所定改行量毎に正方向に前進し、プラテン29上に設けられたリブに沿って進行する。記録シートの搬送方向の先端は、漸次第1排紙ローラ30と第1拍車列32とのニップ部に掛かる。第1排紙ローラ30の周速は、搬送ローラ21の周速とほぼ等しく設定され、かつ搬送ローラ21から第1排紙ローラ30はギア列で接続されており、第1排紙ローラ30は搬送ローラ21と同期して回転される。このため、記録シートは、弛んだり引っ張られたりすることなく良好に搬送される。
【0019】
記録部1は、主に記録手段として記録ヘッドとインクタンクとが一体に構成された黒インク用のインクジェットヘッドカートリッジ200Aおよび3色カラーインク用のインクジェットヘッドカートリッジ200B(以下、単にカートリッジ200A,200Bと称する。)と、このカートリッジ200A,200Bを搭載して記録シートの搬送方向と交差(通常直交)する方向に走査するキャリッジ100とを有して構成されている。キャリッジ100は、シャーシ10に固定されたガイドレール14と、シャーシ10の一部であるサポートレール15とによって案内支持されている。キャリッジ100は、キャリッジモータ17とアイドラプーリ18との間に張架されたキャリッジベルト16を介してキャリッジモータ17の駆動力が伝達されることで、往復移動される。
【0020】
カートリッジ200A,200Bの内部には、複数のインク流路(不図示)が形成されている。インク流路は、図4(a),(b)に示すように、プラテン29に対向されるインク吐出面201に配されたノズル部(吐出口)210まで連通されている。ノズル列を形成する複数のノズル部210のそれぞれの内部には、インク吐出用のアクチュエータ(エネルギー発生手段)が配されている。このアクチュエータとしては、例えば、電気熱変換体(発熱素子)による液体の膜沸騰圧力を利用したものや、ピエゾ素子等の電気機械変換体(電気−圧力変換素子)などが用いられる。
【0021】
カートリッジ200A,200Bと記録装置本体との電気的な接続を行うために、カートリッジ200A,200B側には、レジストが行われていない導体露出部206aを有するフレキシブルプリント配線板(FPC)206が設けられている。また、図3に示すように、カートリッジ200A,200Bが搭載されるキャリッジ100には、金属材にメッキを施し、この金属材の弾性変形を用いてカートリッジ200A,200Bの導体露出部206aに圧接されて、これら導体露出部206aに電気的に接続される圧接コネクタ120が設けられている。さらに、圧接コネクタ120は、キャリッジ100上に搭載されたキャリッジ基板(不図示)に半田付けされている。さらに、キャリッジ基板は、フレキシブルフラットケーブル(FFC)12を介して記録装置本体側の回路基板(制御回路)と電気的に接続されている。
【0022】
以上のようなインクジェット記録装置では、カートリッジ200A,200Bに、FFC12を介してヘッドドライバ(不図示)の駆動信号が入力されることで、記録データに応じてカートリッジ200A,200Bの記録ヘッドからインク滴をそれぞれ吐出する。
【0023】
また、図1に示すように、シャーシ10に張架されたコードストリップ19をキャリッジ100に搭載されたキャリッジエンコーダ(不図示)によって読み取ることで、記録シートに向けてインク滴を適切なタイミングで吐出する。このようにして、記録シートに1ライン分の記録が終了すると、搬送部20によって必要量だけ記録シートが搬送される。この動作を繰り返して行うことによって、記録シート全面にわたる記録動作が可能にされている。以上がインクジェット記録装置の構成の概略である。
【0024】
図2は、図1に示したキャリッジ100に、カートリッジ200A,200Bがそれぞれ装着された状態を模式的に示す斜視図である。また、図3は、キャリッジ100のみを模式的に示す斜視図である。
【0025】
図2および図3に示すように、このキャリッジ100には、走査方向の両側の側壁103L,103Rと、各カートリッジ200A,200Bを仕切る中壁104とがそれぞれ形成されている。キャリッジ100の側壁103Lと中壁104との間には、カートリッジ200Aが装着される第1のカートリッジ装着部100Aが形成され、側壁103Rと中壁104との間にも、カートリッジ200Bが装着される第2のカートリッジ装着部100Bがそれぞれ形成されている。なお、図1および図3には、キャリッジ100に、常備ヘッドとしてのカートリッジ200A,200Bが装着された状態が示されている。
【0026】
さらに、キャリッジ100の中壁104の両面の下部と両側壁103L、103Rの内面の下部とのそれぞれには肉厚部が設けられている。これらの肉厚部には、各カートリッジ200A,200Bの位置決め溝202が係合される位置決め突起101が設けられている。
【0027】
また、キャリッジ100には、各カートリッジ200A,200Bに設けられたFPC206の導体露出部206aと接触して電気的な接続を取るための圧接コネクタ120が設けられている。また、キャリッジ100には、各インクヘッドカートリッジ200A,200Bの導入および固定を容易に行うための固定部材として、圧縮コイルバネであるヘッドセットバネ111の付勢力で下方へ押圧されるヘッドセットカム110が設けられている。
【0028】
一方、図4(a),(b)はカートリッジを示す斜視図であり、上述したように本実施形態では、インクジェット記録ヘッドと、インク貯留部(インクタンク)とが一体化されて構成され交換可能なインクジェットヘッドカートリッジが用いられている。なお、カートリッジとして、通常のカラー記録を行う場合には、キャリッジ100の第1のカートリッジ装着部100Aに黒インク用のカートリッジ200Aが装着され、キャリッジ100の第2のカートリッジ装着部100Bに3色カラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー)用のカートリッジ200Bがそれぞれ装着されて使用される。また、写真調のフォトカラーで記録を行う場合には、黒インク用のカートリッジの代わりにオプションヘッドである不図示のフォトカートリッジ(黒、淡シアン、淡マゼンタ)を使用することも可能にされている。カートリッジ200A,200Bと、フォトカートリッジは、ほぼ同一の外形寸法に形成されている。
【0029】
図4(a),(b)に示すように、カートリッジ200Aの上面には、導体露出部206a側の端部に、ヘッド押圧受部204が形成されている。このヘッド押圧受部204には、導体露出部206a側に臨む面に、図3に示したヘッドセットカム110の回動をスムーズにするためのカム回動斜面204bが形成されている。なお、カートリッジ200Aの両側面の下部には、カートリッジ装着部100Aに対して所定位置に位置決めするための位置決め溝202が形成されている。また、カートリッジ200Aの両側面には、位置決め溝202よりも前方の導体露出部206a側の位置にラフガイド突起203が突出して形成されている。
【0030】
また、カートリッジ200A,200Bの記録ヘッドには、インク吐出面201に形成されたノズル部210の両脇に、ノズル部210が、上述のインクジェット記録装置における給送部37から給送された記録シートの反り等に起因して記録シートに接触することからノズル部210を保護するためのノズル保護部211が設けられている。すなわち、このノズル保護部211は、ノズル部210の位置よりもインク吐出方向に対して若干突出されているため、ノズル部210よりも搬送部20が有するプラテン29側に若干近くされている。
【0031】
したがって、記録シートの反り等によって記録シートがノズル部210に近づいた場合にも、ノズル保護部211がノズル部210よりも先に記録シートに接触し、ノズル部210には極力接触することが無いように構成されている。すなわち、このノズル保護部211によれば、ノズル部210に対して、記録シートが接触したり、後述する予備吐受け機構が当接したりすることで、ノズル部210が破損することを防ぐことができる。
【0032】
そして、上述したカートリッジ200A,200Bの記録ヘッドは、カートリッジ200A,200Bがキャリッジ100の各カートリッジ装着部100A,100Bに対して着脱される際に、図8に示すように、記録ヘッドのインク吐出面201がインク吐出方向に対して所定の着脱移動量d1だけ移動可能にされている。そして、この記録ヘッドの着脱移動量d1は、後述する予備吐受け機構80における予備吐距離d2よりも大きくされている。
【0033】
次に、記録部1が記録不良等を起こすことを防ぐために行われる記録ヘッドのメンテナンス動作について説明する。インクジェット記録装置が備えるメンテナンスユニット300は、図1中に示した記録装置の図1中右側に配置されている。メンテナンスユニット300は、カートリッジの記録ヘッドがキャリッジの走査で移動する際に記録ヘッドの吐出口形成面に付着したインク等を拭き取るブレード部材301と、待機する記録ヘッドの吐出口形成面に対して選択的に密着するキャピング部材302と、このキャッピング部材302の連通孔を通じて吸引動作を行うポンプ305と、このポンプ305によって吸引されたインクを吸収保持するメイン吸収体(不図示)とを有して構成されている。
【0034】
カートリッジ200A,200Bの記録ヘッドは、図10に示すフローチャートのように、メンテナンスユニット300によって吸引、空吸引、ワイピング、予備吐出からなる一連の回復動作(ステップ150〜ステップ155)が行われることによって、ノズルの目詰まり等の原因で記録不良が生じることが抑えられている。
【0035】
この回復動作時に、後述する予備吐ポジションに、カートリッジ200A,200Bの記録ヘッドを移動させて、所定の吐出回数だけインクを吐出、つまり記録シートに対する記録に直接関係がない吐出動作である予備吐出を行うことで、ノズル内の紙粉や増粘インク等による目詰まりの原因を解消している。
【0036】
さらにまた他の例では、記録する画像によって偏った色の記録を行う場合には、使用するインクも偏ってしまい、すなわち使用されるノズルも偏ってしまうことがある。そのような場合には、使用されていないノズル内に、その記録動作中に紙粉や増粘インク等による目詰まりが生じてしまうことがある。このため、記録動作中であっても、予備吐出ポジションに、カートリッジ200A,200Bの記録ヘッドを移動させて、予備吐出を行うことが必要な場合も生じる。したがって、このような場合を考慮し、予備吐出ポジションは、記録ヘッドによる記録動作領域の外方に配置される必要がある。
【0037】
ここで、図5は、予備吐出ポジションに設けられた予備吐受け機構近傍を模式的に示す斜視図である。図6は、予備吐受け機構を示す斜視図である。
【0038】
図5および図6に示すように、予備吐出ポジションは、記録ヘッドの記録動作領域の外方に設けられた着脱ポジションである記録ヘッド交換位置と同一位置にされている。
【0039】
予備吐受け機構80は、記録部1による吐出方向に対して対向する位置に配置されている。この予備吐受け機構80は、記録ヘッドから予備吐出されたインク滴を吸収する廃インク吸収体81と、この廃インク吸収体81が保持され予備吐出されたインク滴を受ける予備吐受け口84が形成された吸収体保持部材82と、この吸収体保持部材82を記録ヘッドのノズル側に近接させる方向に付勢する弾性部材としての圧縮コイルバネ83とを有して構成されている。
【0040】
また、この予備吐受け機構80近傍には、図5に示すように、記録ヘッド交換位置において、記録ヘッドをキャリッジ100に装着するための装着ガイド部材として機能するヘッド支持台13が配置されている。
【0041】
図6に示すように、ヘッド支持台13には、吸収体保持部材82に保持された廃インク吸収体81を、キャリッジ100側に搭載されたカートリッジ200A,200Bの記録ヘッドに臨ませるための開口13aが設けられている。また、このヘッド支持台13には、吸収体保持部材82を回動可能に支持するボス部13bが一体に突出形成されている。
【0042】
図6、図7および図8に示すように、吸収体保持部材82には、廃インク吸収体81が設けられ、この廃インク吸収体81をキャリッジ100側に臨ませる予備吐受け口84が形成されている。この予備吐受け口84の開口縁部には、一組の直線状のガイド突当部82aが突出して形成されている。これらガイド突当部82aは、予備吐受け口84を挟んで対向する位置にそれぞれ形成されている。
【0043】
吸収体保持部材82には、記録シートの搬送方向に対して上流側の位置に、ヘッド支持台13に形成されたボス部13bが係合される軸受け部82bが形成されている。このため、吸収体保持部材82は、軸受け部82bに形成されたボス部13b回りに回動可能に支持されることによって、キャリッジ100に対して近接離間する方向に移動可能にされている。
【0044】
また、吸収体保持部材82の外周部には、下流側の位置に、吸収体保持部材82のボス部13b回りの回動位置を規制するための位置規制面85aを有する係合片85が形成されている。この係合片85は、ヘッド支持台13に形成された係合溝(不図示)内に移動可能に係合されており、位置規制面85aが、係合溝の内壁面に係合することで、圧縮コイルバネ83による付勢力で回動された吸収体保持部材82の回動位置が規制されている。
【0045】
したがって、カートリッジ交換の動作中以外の通常状態では、予備吐受け機構80が、ヘッド支持台13の開口13a内で、キャリッジ100に近接する方向に付勢されて保持されている。すなわち、予備吐受け機構80は、キャリッジ100に搭載されたカートリッジ200A,200Bの記録ヘッドに当接することがないものの、ノズル部210に可能な限り近い位置に配置されている。そして、この予備吐受け機構80は、キャリッジ100に搭載されたカートリッジ200A,200Bの記録ヘッドのインク吐出面201との間の距離が、図9に示すように、一定の予備吐距離d2に保たれている。また、図8および図9に示すように、この予備吐距離d2は、上述の記録ヘッドの着脱移動量d1よりも小さくされている。
【0046】
以上の構成によって、カートリッジ200A,200Bが搭載されたキャリッジ100を予備吐出ポジションに移動させて予備吐出を行う際には、キャリッジ100およびカートリッジ200A,200Bの記録ヘッドには障害物がなく、スムーズな移動を行うことができる。また、予備吐出ポジションでは、予備吐受け機構80の予備吐受け口84が非常にノズル部210近傍に配置されることになる。
【0047】
一般的に、予備吐出時に発生するインクミストは、インクの飛翔距離が短ければ短いほど発生量が少ないことが確認されている。したがって、ノズル部210と廃インク吸収体81との距離が近いほどインクミストの発生を低減させることが可能となる。すなわち、本実施形態によれば、予備吐出が行われる際に、インクの飛翔距離を非常に短くすることが可能であり、インクミストを低減することができる。
【0048】
また、廃インク吸収体81は、予備吐出によって生じる廃インクを一旦吸収するだけの体積量にされている。このため、吸収体保持部材82には、廃インク吸収体81の重量方向に対して溝やインクホール等が形成されて、廃インク吸収体81に吸収された廃インクを下方のメイン吸収体(不図示)に導く構成にされている。なお、本実施形態の予備吐受け機構は、廃インク吸収体81が、予備吐出によって生じる廃インクを十分に吸収することが可能な比較的大きな体積量に構成された場合にも、同様に適用することが可能である。
【0049】
次に、以上のように予備吐受け機構80を記録ヘッドのノズル部210に可能な限り近づけた構成における、カートリッジ交換動作について説明する。以下に、カートリッジ200A(200Bでも同様の動作である)をキャリッジ100に着脱する際の動作について、図3〜図9を参照して説明する。なお、図7は装着開始時の状態を模式的に示す縦断面図、図8は装着途中の状態を模式的に示す縦断面図、図9はカートリッジ200Aのロック固定状態を模式的に示す縦断面図である。
【0050】
先ず、ユーザーは、図7に示すように、カートリッジ200Aを保持して、カートリッジ200Aをキャリッジ100の第1のカートリッジ装着部100A内に挿入したときに、特に操作を意識することが無くとも、ラフガイド突起203が、キャリッジ100側のガイド溝105に当接するようになる。
【0051】
また、この状態では、ユーザーが手をカートリッジ200Aから離し、カートリッジ200Aが、ラフガイド突起203を回動中心として回動しようとしても、カートリッジ200Aが所定の姿勢に保持されるように構成されている。すなわち、カートリッジ200Aの着脱動作時の姿勢を保つために、記録ヘッドのノズル部210が形成されたインク吐出面201の当接部分から比較的離間されたカートリッジ後方部が、ヘッド支持台13上に当接するように構成されている。
【0052】
続いて、カートリッジ200Aを図7中矢印A方向に押し込むことで、図8に示すように、カートリッジ200Aは、吸収体保持部材82のガイド突当部82aに当接する。このとき、吸収体保持部材82のガイド突当部82aと、カートリッジ200Aのノズル保護部211とが当接するよう構成されている。
【0053】
したがって、記録ヘッドのノズル部210は、廃インク吸収体81や吸収体保持部材82に当接することが無い。吸収体保持部材82には、上述したようにヘッド支持台13に形成されたボス13bに軸受け部82bが係合されており、圧縮コイルバネ83による付勢力でキャリッジ100側に近接する方向に付勢されて保持されている。
【0054】
このため、吸収体保持部材82は、図8に示すように、カートリッジ装着部100Aにカートリッジ200Aが挿入されていくのにつれて、吸収体保持部材82のガイド突当部82aと、カートリッジ200Aのノズル保護部211とが当接されると共に、吸収体保持部材82が軸受け部82bを回動中心として回動されて押し下げられて、キャリッジ100側から離間する方向に退避可能に構成されている。このとき、吸収体保持部材82は、圧縮コイルバネ83による付勢力によってカートリッジ200Aの記録ヘッド側に向かって付勢されている状態となる。しかし、圧縮コイルバネ83は、吸収体保持部部材82および廃インク吸収体81のみをキャリッジ100側に近づけるために必要な比較的小さな付勢力にされているので、付勢力がカートリッジ交換時の着脱操作の妨げとなることが抑えられている。
【0055】
図8に示した状態からカートリッジ200Aを更に図8中矢印A方向に押し込むことで、カートリッジ200Aの上部のヘッド押圧受部204が、ヘッドセットバネ111の付勢力とヘッドセットカム110によって発生するヘッド押圧上死点を乗り越え、カートリッジ200Aを第1のカートリッジ装着部100A内に引き込んでいく。ヘッドセットカム110によってカートリッジ200Aが完全に引き込まれた位置まで回動されたとき、図9に示すように、位置決め溝202が、図3に示した位置決め突起101に当接すると共に、カートリッジ200Aの上突き当て部205がキャリッジ100の係合凹部121に当接することによって、カートリッジ200Aはキャリッジ100に対して安定した状態で装着される。この装着状態では、カートリッジ200Aと圧接コネクタ120との電気的な接続も完了する。
【0056】
以上の構成により、ユーザーは特別意識することもなく、カートリッジ200Aが回動されることによって、カートリッジ200Aが図9に示したヘッドセット状態に位置決め固定されるように構成されている。なお、図9に示したように、カートリッジ200Aが固定された状態では、予備吐受け機構80は、圧縮コイルバネ83によって押圧された吸収体保持部材82が、位置規制面85aによってヘッド支持台13に対して所定の位置に保たれている。このため、予備吐受機構80は、カートリッジ200A(200B)を所定位置に固定する動作、およびキャリッジ100の走査時の移動動作を妨げることはない。
【0057】
上述したように、本実施形態のインクジェット記録装置および予備吐受け機構80によれば、廃インク吸収体81を保持する吸収体保持部材82がキャリッジ100に対して近接離間する方向に回動可能に設けられ、記録ヘッドのキャリッジ100への着脱時に予備吐受け機構80が記録ヘッドのノズル部210以外に当接するように構成されたことで、ノズル部210を汚損したり損傷したりすることなく、予備吐受け口84および廃インク吸収体81を、記録ヘッドのノズル部210に非常に近づけて配置することが可能になり、予備吐出時に生じるインクミストを低減することができる。
【0058】
また、本実施形態のインクジェット記録装置によれば、キャリッジ100に対して記録ヘッドを着脱する着脱ポジション(記録ヘッド交換位置)が、記録ヘッドによる記録動作領域の外方に設けられ、着脱ポジションと予備吐ポジションとが、キャリッジ100の移動方向に対して略同一位置にされていることで、キャリッジ100の走査範囲を新たに作ることなく予備吐出ポジションを確保することが可能になり、記録装置全体の小型化を図ることができる。
【0059】
また、本実施形態の予備吐受け機構は、吸収体保持部材82が、プラテン29と別体にされた部材として構成されたが、プラテンと一体化される構成や、さらには、廃インク吸収体をいわゆるフチ無し記録用廃インク吸収体と一体化した構成、または廃インク吸収体をメイン吸収体と一体にした構成などの場合にも同様に適用することができ、同様の効果を得ることができる。
【0060】
なお、本実施形態では、キャリッジ100に対して、2つのカートリッジ200A,200Bを装着する構成を一例に挙げて説明したが、カートリッジの個数に拘わらずに自由に実施できるものであり、1個以上のカートリッジを用いるインクジェット記録装置の他、異なるカラーインクを使用する複数種のカートリッジを用いるカラー記録用のインクジェット記録装置、あるいは同一色彩で濃度が異なるインクを使用する複数種のカートリッジを用いる階調記録用のインクジェット記録装置、さらに、これらを組み合わせたインクジェット記録装置の場合にも、同様に適用することができ、同様の効果を得ることができるのは勿論である。
【0061】
さらに、本発明は、記録ヘッドとインク貯留部(インクタンク)とが一体化されて構成された交換可能なインクジェットヘッドカートリッジを用いる構成、記録ヘッドとインクタンクとが別体で構成し、これらの間をインク供給用のチューブ等を介して接続する構成など、記録ヘッドとインクタンクの配置構成がどのような場合にも同様に適用することができ、同様の効果が得られる。なお、本発明は、インクジェット記録装置の場合、例えば、ピエゾ素子等の電気機械変換体等を用いるインクジェットヘッドカートリッジを使用するものにも適用できるが、中でも、熱エネルギーを利用してインクを吐出する方式のインクジェットヘッドカートリッジを使用するインクジェット記録装置において優れた効果が得られる。すなわち、この方式によれば、記録の高密度化、高精細化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】キャリッジにインクジェットヘッドカートリッジが搭載された状態を模式的に示す斜視図である。
【図3】キャリッジにインクジェットヘッドカートリッジが装着される前の状態を模式的に示す斜視図である。
【図4】インクジェットヘッドカートリッジを模式的に示す斜視図である。
【図5】実施形態に係るインクジェット記録装置の予備吐受け機構近傍を模式的に示す斜視図である。
【図6】予備吐受け機構を示す斜視図である。
【図7】インクジェットヘッドカートリッジ装着動作中の第1の状態を模式的に示す断面図である。
【図8】インクジェットヘッドカートリッジ装着動作中の第2の状態を模式的に示す断面図である。
【図9】インクジェットヘッドカートリッジ装着完了の状態を模式的に示す断面図である。
【図10】メンテナンスユニットによる回復動作の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0063】
13 ヘッド支持台
80 予備吐受け機構
81 廃インク吸収体
82 吸収体保持部材
82a ガイド突当部
82b 軸受け部
83 圧縮コイルバネ
84 予備吐受け口
85 係合片
85a 位置規制面
100 キャリッジ
100A 第1のカートリッジ装着部
100B 第2のカートリッジ装着部
200A 黒インク用のインクジェットヘッドカートリッジ
200B カラーインク用のインクジェットヘッドカートリッジ
201 インク吐出面
210 ノズル部
211 ノズル保護部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録材に対して往復移動可能に設けられたキャリッジと、
前記キャリッジに着脱可能に搭載され、前記キャリッジに対するヘッド着脱時にインク吐出面がインク吐出方向に対して着脱移動量だけ移動可能にされた記録ヘッドと、
前記キャリッジに搭載された前記記録ヘッドが予備吐出を行う予備吐ポジションに移動されたときに前記記録ヘッドの前記インク吐出面に対向する位置に配設され、前記キャリッジに搭載された前記記録ヘッドの前記インク吐出面との距離が一定の予備吐距離にされた予備吐受け機構とを備え、
前記記録ヘッドは、前記着脱移動量が前記予備吐距離よりも大きくされ、
前記予備吐受け機構は、前記インク吐出方向に移動可能に設けられ、前記ヘッド着脱時に前記インク吐出面に当接されて前記キャリッジに対して退避される記録装置。
【請求項2】
前記キャリッジに対して前記記録ヘッドを着脱する着脱ポジションと、前記予備吐ポジションとが、前記キャリッジの移動方向に対して略同一位置にされている請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記記録ヘッドには、前記インク吐出面から前記インク吐出方向に突出されて、前記ヘッド着脱時に前記予備吐受け機構と当接するノズル保護部が形成されている請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記予備吐受け機構は、前記記録ヘッドから吐出されたインク滴を吸収保持する廃インク吸収体と、前記廃インク吸収体を保持する吸収体保持部材と、前記吸収体保持部材を前記記録ヘッドの前記インク吐出面に近接させる方向に付勢する付勢手段とを有し、
前記吸収体保持部材には、前記記録ヘッドの前記インク吐出面と前記吸収体保持部材とを前記予備吐距離に保つために前記付勢手段による付勢力で前記記録ヘッドに突き当てられる突当部が設けられている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
被記録材に対して往復移動するキャリッジに着脱可能に搭載された記録ヘッドが予備吐出を行うための予備吐受け機構において、
前記キャリッジに対するヘッド着脱時にインク吐出面がインク吐出方向に対して着脱移動量だけ移動可能にされた前記記録ヘッドが、予備吐出を行う予備吐出ポジションに移動されたときに前記記録ヘッドの前記インク吐出面に対向する位置に配設され、前記キャリッジに搭載された前記記録ヘッドの前記インク吐出面との距離が、前記着脱移動量よりも小さい一定の予備吐距離にされ、
前記インク吐出方向に移動可能に設けられ、前記ヘッド着脱時に前記インク吐出面に当接されて前記キャリッジに対して退避される予備吐受け機構。
【請求項6】
前記予備吐ポジションが、前記キャリッジに対して前記記録ヘッドを着脱する着脱ポジションと、前記キャリッジの移動方向に対して略同一位置にされている請求項5に記載の予備吐受け機構。
【請求項7】
前記記録ヘッドから吐出されたインク滴を吸収保持する廃インク吸収体と、前記廃インク吸収体を保持する吸収体保持部材と、前記吸収体保持部材を前記記録ヘッドの前記インク吐出面に近接させる方向に付勢する付勢手段とを有し、
前記吸収体保持部材には、前記記録ヘッドの前記インク吐出面と前記吸収体保持部材とを前記予備吐距離に保つために前記付勢手段による付勢力で前記記録ヘッドに突き当てられる突当部が設けられている請求項5または6に記載の予備吐受け機構。
【請求項8】
被記録材に対して往復移動するキャリッジに着脱可能に搭載された記録ヘッドにおいて、
前記キャリッジに対するヘッド着脱時にインク吐出面がインク吐出方向に対して着脱移動量だけ移動可能にされ、
前記記録ヘッドが予備吐出を行う際に、前記キャリッジに搭載された状態で、前記インク吐出面と前記予備吐受け機構との距離が一定の予備吐距離にされ、
前記着脱移動量が前記予備吐距離よりも大きくされている記録ヘッド。
【請求項9】
前記キャリッジに対して前記記録ヘッドを着脱する着脱ポジションが、前記記録ヘッドが予備吐受け機構に予備吐出を行う予備吐ポジションと、前記キャリッジの移動方向に対して略同一位置にされている請求項8に記載の記録ヘッド。
【請求項10】
前記インク吐出面には、前記インク吐出方向に突出されて前記ヘッド着脱時に前記予備吐受け機構と当接するノズル保護部が形成されている請求項8または9に記載の記録ヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−305761(P2006−305761A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127929(P2005−127929)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】