説明

診断および治療適用のための異なる型の血液型抗原

【課題】被験者の血清における血液型反応性抗体の存在を決定するための方法を提供すること。
【解決手段】上記方法は、a)それぞれ異なる血液型抗原で被覆されている異なるサブタイプのマイクロビーズの集合体を用意する工程、b)該マイクロビーズの集合体に、該被験者から得られた該血清を添加する工程、c)該血清中の抗血液型抗体が該血液型抗原に結合するのに十分な時間、該血清および該マイクロビーズをインキュベートする工程、d)該血液型抗原に結合した該抗血液型抗体と特異的に結合することができる少なくとも1つの標識リガンドと共に、該マイクロビーズをインキュベートする工程;e)該抗血液型抗体に結合した標識リガンドの存在を検出して、該反応性抗体の存在または非存在を決定する工程、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、概して、抗体媒介性移植片拒絶反応を治療または予防するための組成物および方法に関し、より詳細には、抗血液型抗原抗体を除去するのに有用な血液型決定基を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
既に移植の初期の頃に、ABOバリアを越えた腎移植の結果として、全く機能しない移植臓器の発生率が高いことが判明していたので、輸血に用いられる伝統的なLandsteinerの法則を遵守することが同種移植における必須条件とみなされていた。レシピエントの事前に形成された抗A/B同種凝集素は、ABO不適合移植片の超急性拒絶反応に関与している。この超急性拒絶反応は、ドナー反応性HLA抗体を有する、同種免疫を受けた患者において見られるものと同様である。移植におけるABOバリアを越える最初の試みは1970年代初頭に開始され、血液型Aの死体腎をO型のレシピエントに移植するものであった。1980年代、Alexandreは、A型およびB型のドナーを用いて、最初の一連のABO不適合生体ドナー(LD)の腎移植を行い、ABO適合例の場合と同様の移植片生存率を得た。免疫抑制プロトコルは、抗A/B抗体を除去するための前手術的な血漿分離交換法、ドナー血小板輸血、脾臓摘出および抗リンパ球/胸腺細胞グロブリンによる導入療法、ブタの胃から抽出された血液型AまたはB物質の注入、およびシクロスポリン−アザチオプリン−プレドニゾンを包含していた。それ以来、500例を超えるABO不適合LD腎移植が、世界各地、主に日本(において検討)で報告されており、拒絶反応を回避するために、移植する前にレシピエントの抗A/B抗体レベルを低減することの重要性も十分に文書記録されている2,3。これらの系列における移植片生存率は良好である(A型およびB型ドナーの場合に約85%の1年移植片生存率)が、深刻な抗A/B型抗体媒介型拒絶反応を伴う単独例のために、ABO適合移植片の生存率より僅かに劣る4,5。抗体の除去と組み合わせた、抗CD20抗体(リツキシマブ(Rituximab))を使用するABO不適合腎移植に関する最近のデータは、移植片生存率に関してはるかに良好であることが示された6,7(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
深刻な臓器不足の時代において、ABO不適合ドナーからの移植片の使用増加によって、LD腎移植の実施増加が可能となろう。更に、本分野で得られた経験は、HLA感作患者の治療前および治療後管理にも適用可能となろう(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】CJ Sonnenday,DS Warren,M Cooper,et al Am J Transplant 2004:4;1315−1322
【非特許文献2】G Tyden,G Kumlien,H Genberg,J Sandberg,T Lundgren,I Fehrman Am J Transplant 2005;5:145−148
【非特許文献3】DS Warren,AA Zachary,CJ Sonnenday,et al Am J Transplant 2004;4:561−568
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本発明は、血漿から血液型抗原抗体を除去するための改良型組成物および方法、ならびに血液型判定方法に一部基づくものである。
【0006】
一態様において、本発明は、少なくとも2つの血液型抗原を含有する組成物であって、各血液型抗原が異なるコア糖鎖型上で発現される組成物を提供する。好ましくは、この組成物は、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、11またはそれを超える血液型A/B抗原を含有する。
【0007】
別の態様において、被験者からのサンプルにおける血液型抗体の存在は、それぞれ異なる血液型抗原で被覆されている異なるサブタイプのマイクロビーズの集合体を提供し、この被験者からのサンプルを前記マイクロビーズの集合体に添加することによって決定される(例えば、血液型判定)。サンプル中の抗血液型抗体がマイクロビーズ上の血液型抗原に結合するのに十分な時間、サンプルおよびマイクロビーズをインキュベートすることにより、抗血液型抗体−マイクロビーズ複合体を形成する。この複合体をインキュベートし、例えば、血液型抗原に結合した前記抗血液型抗体と特異的に結合することができる少なくとも1つの標識リガンドと接触させ、抗血液型抗体に結合した標識リガンドの存在を検出することにより、前記反応性抗体の存在または不在を決定する。リガンドは、例えば、抗体またはそのフラグメントである。抗体は、FabまたはFab’フラグメントなどの一価抗体フラグメントである。例えば、FabまたはFab’フラグメントは、抗Fc抗体フラグメント、抗κ軽鎖抗体フラグメント、抗λ軽鎖抗体フラグメントおよび単鎖抗体フラグメントである。標識は、例えば、蛍光標識である。標識リガンドは、フローサイトメトリーまたはLuminexなどの当技術分野において既知の方法によって検出される。
【0008】
サンプル中の血液型反応性抗体は、それぞれ異なる血液型抗原で被覆されている異なるサブタイプのマイクロビーズの集合体を用意することを含むことによって除去される。サンプルをマイクロビーズの集合体と接触させ、サンプル中の抗血液型抗体が血液型抗原に結合するのに十分な時間インキュベートする。マイクロビーズおよびサンプルを分離することによって、サンプルから血液型反応性抗体を除去する。
【0009】
血液型抗原としては、A抗原、B抗原およびH抗原が挙げられる。コア糖鎖型としては、1型、2型、3型および4型が挙げられる。血液型抗原は、遊離糖(本明細書中では、ABOオリゴ糖と呼ばれる)であるか、または、場合により、血液型抗原はムチンポリペプチド上で発現される。ムチンポリペプチドは、ムチン免疫グロブリン融合タンパク質(本明細書中では、ABO融合タンパク質またはポリペプチドと呼ばれる)の一部である。
【0010】
場合により、ABOオリゴ糖またはABO融合タンパク質は、マイクロビーズなどの固体支持体に、例えば共有結合するかまたは非共有結合される。マイクロビーズは、例えば、ラテックスである。異なるサブタイプのマイクロビーズとは、マイクロビーズが、大きさ、色またはその両方の点で互いに異なることを意味する。直径は約2μm〜約15μmの範囲である。好ましくは、マイクロビーズの直径はおよそ5μmである。最も好ましくは、マイクロビーズの直径はおよそ5μmである。
【0011】
サンプルは、例えば、全血、血清または血漿である。
【0012】
幾つかの態様において、組成物は、全血または血漿から血液型抗体を除去するための吸収体として処方される。また、本発明により、それぞれ異なる血液型抗原で被覆されている異なるサブタイプのマイクロビーズの集合体(collection)が提供される。例えば、集合体は、少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、20、25、30、40、50またはそれを超える異なるサブタイプのマイクロビーズを含む。
【0013】
特に定義されていない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の技術を有する者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験に際して、本明細書に記載されるものと同様または同等の方法および材料を使用することができるが、好適な方法および材料を以下に記載する。本明細書に記載される全ての公報、特許出願、特許および他の参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先される。更に、材料、方法および実施例は単に例示であり、制限を意図するものではない。
【0014】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
例えば、本発明は以下の項目を提供する:
(項目1)
少なくとも2つの血液型抗原を含む組成物であって、各血液型抗原が、異なるコア糖鎖型上で発現される、組成物。
(項目2)
上記血液型抗原が、A抗原、B抗原またはH抗原である、項目1に記載の組成物。
(項目3)
上記血液型抗原が、固体支持体に結合されている、項目1に記載の組成物。
(項目4)
上記コア糖鎖型が、1型、2型、3型または4型である、項目1に記載の組成物。
(項目5)
項目3に記載の組成物を含む吸着体。
(項目6)
被験者の血清における血液型反応性抗体の存在を決定するための方法であって、
a)それぞれ異なる血液型抗原で被覆されている異なるサブタイプのマイクロビーズの集合体を用意する工程、
b)該マイクロビーズの集合体に、該被験者から得られた該血清を添加する工程、
c)該血清中の抗血液型抗体が該血液型抗原に結合するのに十分な時間、該血清および該マイクロビーズをインキュベートする工程、
d)該血液型抗原に結合した該抗血液型抗体と特異的に結合することができる少なくとも1つの標識リガンドと共に、該マイクロビーズをインキュベートする工程;
e)該抗血液型抗体に結合した標識リガンドの存在を検出して、該反応性抗体の存在または非存在を決定する工程、
を含む、方法。
(項目7)
上記血液型抗原が、異なるコア糖鎖型により保有されている、項目6に記載の方法。
(項目8)
上記検出が、フローサイトメトリーまたはluminexによるものである、項目7に記載の方法。
(項目9)
上記集合体が、8つの異なる血液型A/B抗原を含む、項目7に記載の方法。
(項目10)
上記マイクロビーズがラテックスである、項目7に記載の方法。
(項目11)
少なくとも1つの血液型抗原サブタイプのマイクロビーズが、異なる直径または異なる色を有するように選択されることによって、少なくとも1つの他の血液型サブタイプのマイクロビーズと異なっている、項目7に記載の方法。
(項目12)
少なくとも1つの血液型サブタイプのマイクロビーズが、異なる標識を用いて標識されることによって、少なくとも1つの他の血液型サブタイプのマイクロビーズと異なっている、項目7に記載の方法。
(項目13)
上記標識が蛍光標識である、項目11に記載の方法。
(項目14)
上記マイクロビーズの直径がおよそ5μmである、項目7に記載の方法。
(項目15)
上記マイクロビーズの直径が約2μm〜約15μmの範囲にある、項目7に記載の方法。
(項目16)
工程(d)の前に、上記マイクロビーズ上に存在する上記血液型抗原と特異的に結合していない上記血清の成分を除去する工程を更に含む、項目7に記載の方法。
(項目17)
工程(e)の前に、上記抗血液型抗体に結合していない標識リガンドを除去する工程を更に含む、項目7に記載の方法。
(項目18)
上記リガンドが、抗体またはそのフラグメントである、項目7に記載の方法。
(項目19)
上記抗体が、一価抗体フラグメントである、項目18に記載の方法。
(項目20)
上記一価抗体フラグメントが、FabまたはFab’フラグメントである、項目19に記載の方法。
(項目21)
上記FabまたはFab’フラグメントが、抗Fc抗体フラグメント、抗κ軽鎖抗体フラグメント、抗λ軽鎖抗体フラグメントおよび単鎖抗体フラグメントからなる群から選択される、項目19に記載の方法。
(項目22)
上記鎖型が、1型、2型または3型前駆体である、項目7に記載の組成物。
(項目23)
異なるサブタイプのマイクロビーズの集合体であって、各サブタイプが、異なる血液型抗原で被覆されている、集合体。
(項目24)
上記血液型抗原が異なるコア糖鎖型により保有されている、項目23に記載の集合体。
(項目25)
上記血液型抗原が組換えムチン上で発現される、項目23に記載の集合体。
(項目26)
上記血液型抗原の発現が多価である、項目25に記載の集合体。
(項目27)
上記コア糖鎖型が、1型、2型、3型または4型前駆体である、項目24に記載の組成物。
(項目28)
血清中の血液型反応性抗体を除去するための方法であって、
a)それぞれ異なる血液型抗原で被覆されている異なるサブタイプのマイクロビーズの集合体を用意する工程、
b)該マイクロビーズの集合体と該血清を接触させる工程、
c)該血清中の抗血液型抗体が該記血液型抗原に結合するのに十分な時間、該血清および該マイクロビーズをインキュベートする工程;
d)該血清から該マイクロビーズを分離することにより、該血清から該反応性抗体を除去する工程、とを含む方法。
(項目29)
上記血液型抗原が、異なるコア糖鎖型上で発現される、項目28に記載の方法。
(項目30)
上記コア糖鎖型が、1型、2型、3型または4型である、項目29に記載の方法。
(項目31)
上記血液型抗原が、組換えムチン上で発現される、項目28に記載の方法。
(項目32)
上記血液型抗原の発現が多価である、項目28に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1−1】血液型抗原を保有する融合タンパク質を産生するのに使用されるベクターの概略図である。
【図1−2】血液型抗原を保有する融合タンパク質を産生するのに使用されるベクターの概略図である。
【図1−3】血液型抗原を保有する融合タンパク質を産生するのに使用されるベクターの概略図である。
【図2】PSGL−1/mIgG2bの細胞局在が間接的免疫蛍光法によって決定されたことを示す写真である。PSGL−1/mIgG2bタンパク質は、ブロッキング緩衝液で1:200に希釈したFITC結合ヤギ抗マウスIgG Fc抗体(Sigma)を用いて検出した。細胞核は、4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で染色した。
【図3】血液型A決定基を保有する異なる外側コア鎖を示すウェスタンブロットの写真である。
【図4】異なるグリカン前駆体上でABO融合タンパク質を産生するためのABHトランスフェクションスキームの概略図である。
【図5−1】5個の異なる大きさおよび色強度を有するビーズから得られたフローサイトメトリーの結果を示すグラフであり、多くの大きさ−色の組合せのビーズを使用することが可能であることを明らかに示している。上述の大きさおよび色の組合せを用いると、それぞれ独特の血液型抗原を発現する最大25個の異なるビーズの混合物を作製することができる。
【図5−2】5個の異なる大きさおよび色強度を有するビーズから得られたフローサイトメトリーの結果を示すグラフであり、多くの大きさ−色の組合せのビーズを使用することが可能であることを明らかに示している。上述の大きさおよび色の組合せを用いると、それぞれ独特の血液型抗原を発現する最大25個の異なるビーズの混合物を作製することができる。
【図6】血液型抗原の外側コア構造の概略図である。
【図7】血液型ABH抗原の概略図である。
【図8】血清中の抗血液型抗体を同定するフローサイトメトリー結果のグラフ図である。
【図9】A型、B型およびO型の個体から得られた血清中のIgGおよびIgM血液型A抗体を示す一連の散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
本発明は、血液型エピトープが、任意の遊離糖としての、またはムチン型タンパク質骨格上の、異なるコア糖鎖(例えば、1型、2型、3型または4型)によって高密度で特異的に発現され得るという発見に一部基づくものである。異なるコア糖鎖によって保有された血液型抗原を組み合わせて用いることは、移植前に血液から抗血液型抗体を除去する上でより効果的であることが発見された。更に、本発明の組成物は、被験者における血液型反応性抗体の存在を決定する上で診断および予後診断に有用である。
【0017】
一態様において、本発明は、少なくとも2つの異なる血液型抗原を含有する組成物(すなわち、オリゴ糖)であって、各血液型抗原が異なるコア糖鎖(すなわち、グリカン前駆体)上で発現される組成物を提供する。本明細書中では、これらのオリゴ糖を「ABOオリゴ糖」と呼ぶ。血液型抗原は遊離糖である。あるいは、血液型抗原は、ムチンポリペプチド上で発現される。例えば、血液型抗原は、ムチン免疫グロブリン融合タンパク質(本明細書中では、「ABO融合タンパク質」と呼ばれる)において発現される。ABO融合タンパク質は、血液型決定基に特異的なエピトープを保有している。例えば、ABO融合タンパク質は、Aエピトープ、BエピトープまたはHエピトープのいずれかを保有している。あるいは、ABO融合タンパク質は、血液型抗原のエピトープを2つ保有している。例えば、ABO融合タンパク質は、AエピトープおよびBエピトープの両方を保有している。幾つかの態様において、ABO融合タンパク質は3つ全てのエピトープ(すなわち、A、BおよびH)を保有している。本発明のABO融合タンパク質は、異なるグリカン前駆体、例えば、1型、2型または3型前駆体鎖上でA、BまたはHエピトープを発現する。
【0018】
場合により、ABOオリゴ糖またはABO融合タンパク質は固体支持体に結合されて、血液からの血液型抗原の分離を可能にする。
【0019】
したがって、ABOオリゴ糖およびABO融合タンパク質は、例えばABO不適合臓器、骨髄移植の前に、血液または血漿からレシピエントの抗血液型ABO抗体を排除する上で、または万能ドナー血漿を作製するのに有用である。ABOオリゴ糖またはABO融合タンパク質は、レシピエントの血液または血漿からの抗血液型ABO抗体の50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%または100%を吸収する。
【0020】
ABOオリゴ糖は、単一コア糖鎖上で発現した血液型オリゴ糖と比較すると、抗血液型抗体を除去または結合する上で、糖質モル基準でより効果的である。ABOオリゴ糖は、単一コア糖鎖上で発現した当量の遊離糖と比較すると、2倍、4倍、10倍、20倍、50倍、80倍、100倍またはそれを超える数の抗血液型抗体と結合する。
【0021】
同様に、ABO融合ペプチドは、野生型AB決定基を有する遊離糖と比較すると、抗血液型抗体を除去または結合する上で、糖質モル基準でより効果的である。ABO融合ペプチドは、野生型AB決定基を有する当量の遊離糖と比較すると、2倍、4倍、10倍、20倍、50倍、80倍、100倍またはそれを超える倍数の抗血液型抗体と結合する。
【0022】
ABOオリゴ糖およびABO融合タンパク質はまた、血液型判定方法においても有用である。本発明の方法は、異なるクラスおよびサブクラスの血液型抗体の定量化を可能とするために、現在の血液型判定方法より優れている。特に、この方法は、鎖型特異的抗体の検出を可能とする。これは臨床的に関連がある。その理由は、免疫系が、異なるコア鎖上の血液型抗原に対して特異的に応答し得るからである。更に、異なるコア鎖上の血液型抗原は、細胞および組織特異的に発現される。故に、鎖特異的抗体の検出を可能とすることにより、ABO不適合臓器の同種移植片におけるドナー−レシピエントの交差適合試験がより良好に行われ、これにより超急性拒絶反応が低減される。
【0023】
ABH組織−血液型抗原
ABH抗原は、人体のほぼ全ての細胞上において検出されるが、それらの生理的役割は、もしあるとすれば、依然として未解決の問題である。それらは糖質の性質を有し、異なるグリコシルトランスフェラーゼ、すなわち、成長するオリゴ糖鎖の非還元末端に単糖単位を順次付加する酵素により構築される。オリゴ糖は、タンパク質または脂質により保有され得るか、または体液(例えば、母乳)中で遊離した状態で検出され得る
【0024】
ABH抗原は、内側コア糖鎖に応じてサブタイプに分割される。例として、A、BおよびH抗原はいずれも1型(Galβ1,3GlcNAc)、2型(Galβ1,4GlcNAc)、3型(Galβ1,3GalNAcα)および4型(Galβ1,3GalNAcβ)鎖上で発現される。4型鎖のABH抗原は、脂質に結合された状態でのみ検出される。H抗原は、末端ガラクトースを含有する異なるコア鎖に対してフコースをα1,2結合にて付加することにより産生される。A抗原およびB抗原はいずれも、N−アセチルガラクトサミン(A)またはガラクトース(B)をα1,3結合にて末端ガラクトースに付加することによって、Hのサブタイプから産生される。A抗原およびB抗原の生合成に関与するグリコシルトランスフェラーゼは、末端N−アセチルガラクトサミンおよびガラクトースのそれぞれを付加するためにα1,2−フコースの存在を必要とする。
【0025】
2つの構造的に異なるα1,2−フコシルトランスフェラーゼにより、Oriolが最初に記載したように、H抗原の生合成が可能となる10。一方はH遺伝子座(FUT−I)によりコードされ、他方は分泌型(Se)遺伝子座(FUT−II)によりコードされている。FUT−I遺伝子産物は、赤血球でのH抗原の発現に関与し、主として2型鎖に作用するが、1型鎖に対する活性も示されている。対照的に、FUT−II遺伝子産物は、唾液腺腺房細胞ならびに消化管、生殖器官および気道(pulmonary tract)の内側を覆う上皮細胞により発現され、主に1型鎖に作用するが、おそらくは3型および4型鎖上にも作用する。
【0026】
A抗原およびB抗原の発現に関与する遺伝子産物は、共通の起源を有することが示されている11。Bコード遺伝子産物と比較すると、Aコード遺伝子産物における4アミノ酸残基の置換を引き起こす突然変異により、ドナー糖ヌクレオチドの選好性が、UDP−N−アセチルガラクトサミンからUDP−ガラクトースへとシフトする。血清学的に命名されたO表現型は、元来のA対立遺伝子におけるフレームシフト突然変異に起因してこれら両遺伝子産物の発現が欠失しているので、A型決定基もB型決定基も発現しない11。血液型Aは、血清学的に別個の群に細分化されており、最もよく見られるサブグループはAおよびAである12。これらA型のサブタイプは、2つの異なるα1,3−N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼにより産生され、一方はH3型および4型抗原(A)に対する選好性を有し、他方はH1型および2型(A)抗原に対する選好性を有する。
【0027】
多価の重要性
タンパク質−糖質相互作用は、一般には、低親和性結合を特徴とする。これは不合理に見えると思われるが、細胞受容体、抗体および他の糖質結合タンパク質およびそれらのグリコシル化リガンド間に迅速で非常に変わりやすい相互作用が起こるのを許容するので、生理学的条件下で必須である迅速なオン/オフ比の根拠となる。より高い親和性は、必要であるときには、本来、多価を用いることにより達成される。1つの生物学的実体上の幾つかの受容体が、別の実体上の幾つかの糖質リガンドに結合すると、親和性は10〜10000倍に増加し得る。多価相互作用の例としては、細胞表面への微生物(ウイルス、細菌または細菌毒素)の結合、細胞−細胞結合および細胞表面への多価分子(例えば、抗体)の結合が挙げられる13。一価インヒビターによる多価相互作用の阻害は、インヒビターの結合活性が構造的に最適化されていたとしても効果がない。したがって、多数の異なる分子(例えば、ポリアクリルアミド、ペプチド、ウシ胎仔血清アルブミン、デンドリマーおよびシクロデキストリン)は、対応する受容体の多価結合を形成しようとする単糖およびオリゴ糖の多数の提示のための骨格として使用されてきた13。代替手法としては、リポソーム、膜または他の表面における頭部基とリガンドとの非共有結合が含まれる13。これら複合糖質の達成は様々であるが、一般に、親和性は、一価相互作用と比較すると10倍〜1000倍向上される。ほとんどの場合に生理的タンパク質−糖質相互作用を特徴付けるナノモル活性は、少数の例において13、リガンド提示(すなわち、リガンド構造、価数、骨格構造およびリガンド内/間の距離)を最適化することによって達成されてきた。すなわち、糖質を提示する自然の方法が、可能な限り詳細に模倣された。
【0028】
抗糖質抗体の効果的な吸収体としての、適合されたグリカン置換を伴う組換えムチン
ムチン型タンパク質は、通常は粘膜表面に見られ、豊富なO−グリカン置換(2つ〜3つのアミノ酸につき1つ)を特徴とする。それらの分子量の最大50%は糖質の置換に起因する。ムチン−Igを有する様々なグリコシルトランスフェラーゼcDNAを共発現することにより、それらは、生物学的に有意な糖質決定基の数個のコピーを保有するように、そのO−グリカン構造を決定することができる。このように、血液型A決定基を保有するムチンが作製され、抗血液型A Absと高効率で結合することが示された。実際、抗血液型A抗体のムチンをベースとする吸収体は、スペーサーを介してアガロースビーズに直接結合された血液型A三糖(これはGlucosorb(登録商標)の構成である)より、抗A抗体を結合する上で(血液型A決定基の数について計算すると)約100倍効果的であることが分かった。これは、A決定基の数個のコピーが、1つのムチン型担体タンパク質上のAb−結合に最適な間隔をもって発現されるという事実によって説明される。同様に、糖質エピトープGalα1,3Gal(α−Gal)を保有する組換えムチンは、抗Gal抗体の非常に効果的な吸収体であることが分かった。主な障害は、ブタからヒトへの異種移植の成功を妨げることである15〜17。故に、ムチンは、生物活性糖質の最適な提示のための非常に効果的な骨格である。
【0029】
血液型抗原サブタイプの重要性
上述のように、血液型ABH決定基は、異なるコア糖鎖によって保有され得る。これらは、人体において細胞特異的および組織特異的分布を有しており、抗血液型ABH抗体の標的分子としての個々のABH抗原の重要性は知られていない。同様に、抗血液型ABH抗体レパートリーが異種であるかどうか、すなわち、これら抗体の亜集団が、ABH抗原の異なるサブタイプを区別することができ、かつ、実際に末端三糖より多い数の糖質鎖を結合のために必要とするかどうかは知られていない。幾つかのデータは、血液型A抗原またはB抗原それぞれに特異的な全ての抗体を吸着するためにAまたはB三糖のみを使用することが十分であることを示唆しており、このことがこれら抗体の検出についても当てはまることを示している19〜20。しかしながら、本発明のデータは、ABH血液型抗原の異なるサブタイプ(すなわち、異なるコア糖鎖に保有されている)を用いてより効果的な抗体吸着および検出を行うことができることを示している。
【0030】
抗糖質抗体の効果的な吸収体としての、適合されたコア糖鎖を有するオリゴ糖
先の検討に続いて、(構造異質性を得るために)異なるコア糖鎖上にABH決定基を保有するムチン型融合タンパク質またはオリゴ糖の混合物は、より広範な抗A/B抗体のレパートリーを吸着する。グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子の異なる組合せを用いて、ムチン−免疫グロブリン融合タンパク質を、規定された内側および外側コア糖鎖を有するO−結合型グリカンの数個のコピーを保有するように設計することができる。これらは更に、ABH決定基を伴って伸長可能である。故に、組換え技術を使用して、構造的に様々な血液型AまたはBムチンを作製することができ、これらを使用して広範な抗A/B抗体のレパートリーを吸着することができる。
【0031】
血液型抗原オリゴ糖
様々な態様において、本発明は、血液型抗原オリゴ糖を提供する。血液型抗原にはA、BおよびO(H)が含まれる。血液型抗原は、全ての血液型サブタイプに対して特異的である。血液型サブタイプとは、血液型抗原が異なるコア糖鎖型上で発現されることを意味する。コア糖鎖型としては、1型、2型、3型および4型グリカン前駆体が挙げられる。
【0032】
例示的な血液型抗原オリゴ糖としては以下のものが挙げられる。
【0033】
1型〜4型上の血液型A抗原
【0034】
【化1】

1型〜4型上の血液型B抗原
【0035】
【化2】

ここで、Rは、血液型抗原が融合タンパク質上に保有されている際にはムチンを表し、オリゴ糖が固体支持体に結合している際には連結点を表し、または、オリゴ糖が遊離糖である際には何も表さない。
【0036】
融合ポリペプチド
様々な態様において、本発明は、糖タンパク質の少なくとも一部分を含有する第1ポリペプチド、例えば第2ポリペプチドに作用可能に結合したムチンポリペプチドを包含する融合タンパク質を提供する。本明細書中で使用するとき、「融合タンパク質」または「キメラタンパク質」は、非ムチンポリペプチドに作用可能に結合したムチンポリペプチドの少なくとも一部分を包含する。「ムチンポリペプチド」は、ムチンドメインを有するポリペプチドを指す。ムチンポリペプチドは、1つ、2つ、3つ、5つ、10、20またはそれを超えるムチンドメインを有する。ムチンポリペプチドは、O−グリカンで置換されたアミノ酸配列を特徴とする任意の糖タンパク質である。例えば、ムチンポリペプチドは、2つ〜3つのアミノ酸ごとにセリンまたはトレオニンである。ムチンポリペプチドは分泌タンパク質である。あるいは、ムチンポリペプチドは、細胞表面タンパク質である。
【0037】
ムチンドメインは、アミノ酸であるトレオニン、セリンおよびプロリンに富み、オリゴ糖がN−アセチルガラクトサミンを介してヒドロキシアミノ酸(O−グリカン)に結合している。ムチンドメインは、O−結合型グリコシル化部位を含むか、あるいはそれからなる。ムチンドメインは、1つ、2つ、3つ、5つ、10、20、50、100またはそれを超えるO−結合型グリコシル化部位を有する。あるいは、ムチンドメインは、N−結合型グリコシル化部位を含むか、あるいはそれからなる。ムチンポリペプチドは、その質量の50%、60%、80%、90%、95%または100%がグリカンに起因している。ムチンポリペプチドは、MUC遺伝子(すなわち、MUC1、MUC2、MUC3など)にコードされた任意のポリペプチドである。あるいは、ムチンポリペプチドは、P−セレクチン糖タンパク質リガンド1(PSGL−1)、CD34、CD43、CD45、CD96、GlyCAM−1、MAdCAMまたは赤血球細胞のグリコホリンである。好ましくは、ムチンはPSGL−1である。一方、「非ムチンポリペプチド」は、少なくともその質量の40%未満がグリカンに起因しているポリペプチドを指す。
【0038】
本発明のABO融合タンパク質の範囲内で、ムチンポリペプチドは、ムチンタンパク質の全てまたは一部に相当し得る。一実施形態では、ABO融合タンパク質は、ムチンタンパク質の少なくとも一部分を含む。「少なくとも一部分」とは、ムチンポリペプチドが少なくとも1つのムチンドメイン(例えば、O−結合型グリコシル化部位)を含有することを意味する。一実施形態において、ムチンタンパク質は、ポリペプチドの細胞外部分を含む。例えば、ムチンポリペプチドは、PSGL−1の細胞外部分を含む。
【0039】
第1ポリペプチドは、1つまたは複数の血液型トランスフェラーゼによってグリコシル化される。第1ポリペプチドは、2つ、3つ、5つまたはそれを超える血液型トランスフェラーゼによってグリコシル化される。グリコシル化は逐次的または連続的である。あるいは、グリコシル化は、同時的または無作為的である、つまり特定の順序はない。例えば、第1ポリペプチドは、H遺伝子またはSe遺伝子にコードされたα1,2フコシルトランスフェラーゼなどのα1,2フコシルトランスフェラーゼによりグリコシル化される。例示的なα1,2フコシルトランスフェラーゼはFUT1(Gen Bank受託番号:Q10984;O10983;O10981;AT455028およびNM00148)およびFUT2である(Gen Bank受託番号:P19526;BAA11638;D82933およびA56098)。あるいは、第1ポリペプチドは、1,3N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼまたはα1,3ガラクトサミニルトランスフェラーゼによってグリコシル化される。幾つかの態様において、第1ポリペプチドは、α1,2フコシルトランスフェラーゼおよび1,3N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼまたはα1,3ガラクトサミニルトランスフェラーゼの両方によってグリコシル化される。
【0040】
融合タンパク質の範囲内で、「作用可能に結合した」という用語は、第1および第2ポリペプチドが、第1ポリペプチドのO−結合型グリコシル化を許容するように、(最も典型的には、ペプチド結合などの共有結合を介して)化学的に結合していることを示すと意図される。融合ポリペプチドをコードする核酸を指すために使用するとき、「作用可能に結合した」という用語は、ムチンポリペプチドおよび非ムチンポリペプチドをコードする核酸が互いに枠内で融合していることを意味する。非ムチンポリペプチドは、ムチンポリペプチドのN末端またはC末端に融合され得る。
【0041】
更なる実施形態において、ABO融合タンパク質は、1つまたは複数の更なる部分に結合していてもよい。例えば、ABO融合タンパク質は更に、GST融合タンパク質に結合していてもよく、ここでは、ABO融合タンパク質配列がGST(すなわち、グルタチオンS−トランスフェラーゼ)配列のC末端に融合されている。このような融合タンパク質はABO融合タンパク質の精製を促進することができる。あるいは、ABO融合タンパク質は更に、固体支持体に結合していてもよい。様々な固体支持体が当業者に知られている。このような組成物は、抗血液型抗体の除去を促進することができる。例えば、ABO融合タンパク質は、金属化合物、シリカ、ラテックス、ポリマー材料などから作製された粒子;マイクロタイタープレート;ニトロセルロースもしくはナイロン、またはそれらの組合せに結合している。固体支持体に結合したABO融合タンパク質は、血液または血漿などの生体サンプルから抗血液型抗体を除去するための吸収体として使用される。
【0042】
別の実施形態において、融合タンパク質は、異種シグナル配列(すなわち、ムチン核酸によりコードされたポリペプチドに存在しないポリペプチド配列)をそのN末端として含む。例えば、天然のムチンシグナル配列を除去して、別のタンパク質からのシグナル配列で置換することができる。特定の宿主細胞(例えば、哺乳類の宿主細胞)では、異種シグナル配列の使用により、ポリペプチドの発現および/または分泌が増大され得る。
【0043】
本発明のキメラタンパク質または融合タンパク質は、標準的な組換えDNA技法により産生することができる。例えば、異なるポリペプチド配列をコードするDNAフラグメントは、従来技法に従って、例えば、ライゲーションのために平滑末端またはスタガー末端を採用することによって、適切な末端を提供するための制限酵素消化によって、必要に応じて行う付着端の充填(filling−in)によって、望ましくない結合を回避するためのアルカリ性ホスファターゼ処理によって、および酵素的ライゲーションによって、枠内で共にライゲーションされている。別の実施形態において、自動DNAシンセタイザーなどの従来技法により、融合遺伝子を合成することができる。あるいは、遺伝子フラグメントのPCR増幅は、2つの連続する遺伝子フラグメント間に相補的なオーバーハングを生じさせるアンカープライマーを用いて行うことができ、その後、これら遺伝子フラグメントをアニーリングおよび再増幅してキメラ遺伝子配列を生成することができる(例えば、Ausubelら編、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、Jon Wiley & Sons、1992年を参照)。更に、融合部分(例えば、免疫グロブリン重鎖のFc領域)をコードする多くの発現ベクターが市販されている。糖タンパク質Ibαをコードする核酸を、融合部分が免疫グロブリンタンパク質に枠内で結合されるように、このような発現ベクターにクローニングすることができる。
【0044】
ABO融合ポリペプチドは、ダイマー、トリマーまたはペンタマーなどのオリゴマーとして存在してもよい。好ましくは、ABO融合ポリペプチドはダイマーである。
【0045】
第1ポリペプチドおよび/または第1ポリペプチドをコードする核酸は、ムチンをコードする配列を用いて構築することができ、当技術分野において知られている。ムチンポリペプチドおよびムチンポリペプチドをコードする核酸の好適な供給源としては、GenBank受託番号:NP663625およびNM145650、CAD10625およびAJ417815、XP140694およびXM140694、XP006867およびXM006867およびNP00331777およびNM009151のそれぞれが挙げられ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0046】
幾つかの実施形態では、ムチンポリペプチド部分は、天然に生じるムチン配列(野生型)に突然変異を有する変異型ムチンポリペプチドとして提供され、この突然変異が(非変異型配列と比較して)糖質含有量の増加をもたらす。例えば、変異型ムチンポリペプチドは、野生型ムチンと比較して、更なるO−結合型グリコシル化部位を含んでいた。あるいは、変異型ムチンポリペプチドは、野生型ムチンポリペプチドと比較すると、セリン、トレオニンまたはプロリン残基の数の増加をもたらすアミノ酸配列突然変異を含む。この糖質含有量の増加は、当業者に知られている方法により、ムチンのタンパク質対糖質比を決定することにより評価することができる。
【0047】
幾つかの実施形態では、ムチンポリペプチド部分は、天然に生じるムチン配列(野生型)に突然変異を有する変異型ムチンポリペプチドとして提供され、この突然変異が(非変異型配列と比較して)ムチン配列のタンパク質分解耐性を高くする。
【0048】
幾つかの実施形態では、第1ポリペプチドとしては全長PSGL−1が含まれる。あるいは、第1ポリペプチドは、PSGL−1の細胞外部分などの、全長より短いPSGL−1ポリペプチドを含む。例えば、第1ポリペプチドは、400未満のアミノ酸長、例えば、300、250、150、100、50または25以下のアミノ酸長を有する。例示的なPSGL−1ポリペプチドおよび核酸配列としては、GenBank受託番号:XP006867;XM006867;XP140694およびXM140694が挙げられる。
【0049】
第2ポリペプチドは、好ましくは溶解性である。幾つかの実施形態では、第2ポリペプチドは、第2ムチンポリペプチドとABO融合ポリペプチドとの連結を促進する配列を包含する。好ましい実施形態では、第2ポリペプチドは、少なくとも免疫グロブリンポリペプチドの領域を包含する。「少なくともある領域」とは、軽鎖、重鎖、FC領域、Fab領域、Fv領域またはその任意のフラグメントなどの免疫グロブリン分子の任意部分を包含することを意味する。免疫グロブリン融合ポリペプチドは、当技術分野において知られており、例えば、米国特許第5,516,964号、第5,225,538号、第5,428,130号、第5,514,582号、第5,714,147号および第5,455,165号に記載されている。
【0050】
幾つかの実施形態では、第2ポリペプチドは、全長免疫グロブリンポリペプチドを含む。あるいは、第2ポリペプチドは、全長未満の免疫グロブリンポリペプチド、例えば、重鎖、軽鎖、Fab、Fab、FvまたはFcを含む。好ましくは、第2ポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドの重鎖を包含する。より好ましくは、第2ポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドのFc領域を包含する。
【0051】
本発明の別の態様では、第2ポリペプチドは、野生型免疫グロブリン重鎖のFc領域のエフェクター機能より劣るエフェクター機能を有する。Fcエフェクター機能としては、例えば、Fc受容体結合、補体結合およびT細胞除去活性が挙げられる(例えば、米国特許第6,136,310号を参照)。T細胞除去活性、Fcエフェクター機能および抗体安定性を分析する方法は、当技術分野において知られている。一実施形態では、第2ポリペプチドは、Fc受容体に対する親和性が低いか、またはない。代替実施形態では、第2ポリペプチドは、補体タンパク質Clqに対する親和性が低いか、またはない。
【0052】
本発明の別の態様は、ムチンポリペプチドをコードする核酸、またはその誘導体、フラグメント、類似体もしくは相同体を含有するベクター、好ましくは発現ベクターに属する。様々な態様では、ベクターは、免疫グロブリンポリペプチドをコードする核酸、またはその誘導体、フラグメント、類似体もしくは相同体に作用可能に結合したムチンペプチドをコードする核酸を含有する。更に、ベクターは、α1,2フコシルトランスフェラーゼ、α1,3Nアセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ、α1,3ガラクトシルトランスフェラーゼまたはその任意の組合せなどの血液型トランスフェラーゼをコードする核酸を含む。血液型トランスフェラーゼは、ABO融合タンパク質のムチン部分のペプチド骨格上への血液型決定基の付加を促進する。本明細書中で使用するとき、「ベクター」という用語は、結合している別の核酸を輸送できる核酸分子を指す。1つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは、更なるDNAセグメントがライゲーションされ得る環状二重鎖DNAループを指す。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、更なるDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲーションされ得る。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞内で自己複製することができる(例えば、細菌由来の複製を有する細菌ベクターおよび哺乳類のエピソームベクター)。他のベクター(例えば、哺乳類の非エピソームベクター)は、宿主細胞内に導入されると、宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それにより宿主ゲノムと共に複製される。更に、特定のベクターは、作用可能に結合した遺伝子の発現を導くことができる。このようなベクターは、本明細書中では「発現ベクター」と呼ばれる。一般に、組換えDNA技法において有用な発現ベクターは、プラスミド形態であることが多い。本明細書中では、プラスミドがベクターの最も一般的に使用される形態であるので、「プラスミド」および「ベクター」を互換的に使用することができる。しかしながら、本発明は、ウイルスベクター(例えば、複製欠失レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ関連ウイルス)などの他の形態の発現ベクターを包含することを意図し、これらのベクターも同等の機能を果たす。
【0053】
本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞内での核酸の発現に適した形態をなす本発明の核酸を含み、これは、組換え発現ベクターが、発現に使用されるべき宿主細胞に基づいて選択され、発現されるべき核酸配列に作用可能に結合している1つまたは複数の調節配列を含むことを意味する。組換え発現ベクターの範囲内では、「作用可能に結合した」とは、目的のヌクレオチド配列が、ヌクレオチド配列の発現(例えば、インビトロ転写/翻訳系内、または、ベクターが宿主細胞に導入される際には宿主細胞内)を許容するように1つまたは複数の調節配列に結合していることを意味することを意図する。
【0054】
「調節配列」という用語は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現調節要素(例えば、ポリアデニル化シグナル)を包含することが意図される。このような調節配列は、例えば、Goeddel、GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY 185、Academic Press、San Diego、Calif.、1990年に記載されている。調節配列としては、多くのタイプの宿主細胞におけるヌクレオチド配列の構成的発現を導くもの、および特定の宿主細胞内のみでのヌクレオチド配列の発現を導くものが挙げられる(例えば、組織特異的調節配列)。当業者であれば、発現ベクターの設計は、形質転換されるべき宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどの要因に依存できることを認識されよう。本発明の発現ベクターは、宿主細胞に導入されることにより、本明細書に記載されるような、核酸にコードされる融合タンパク質またはペプチド(例えば、ABO融合ポリペプチド、ABO融合ポリペプチドの変異形態)などのタンパク質またはペプチドを産生することができる。
【0055】
本発明の組換え発現ベクターは、原核細胞または真核細胞におけるABO融合ポリペプチドの発現用に設計することができる。例えば、ABO融合ポリペプチドは、大腸菌、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを使用)、酵母細胞または哺乳類細胞などの細菌細胞で発現し得る。好適な宿主細胞は、Goeddel、GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY 185、Academic Press、San Diego、Calif.、1990年で更に検討されている。あるいは、組換え発現ベクターは、例えばT7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを用いてインビトロで転写および翻訳され得る。
【0056】
原核生物におけるタンパク質の発現は、ほとんどの場合、融合タンパク質または非融合タンパク質の発現を導く構成プロモーターまたは誘導プロモーターを含有するベクターを有する大腸菌内で行われる。融合ベクターは、多数のアミノ酸を、そこにコードされたタンパク質、通常は組換えタンパク質のアミノ末端、に付加する。このような融合ベクターは、典型的には3つの目的を果たす:(i)組換えタンパク質の発現を増大させること;(ii)組換えタンパク質の溶解性を増大させること;および(iii)アフィニティー精製においてリガンドとして作用することにより、組換えタンパク質の精製を支援すること。多くの場合、融合発現ベクターでは、タンパク質分解的切断部位が、融合部分と組換えタンパク質との接合部に導入され、それにより、融合タンパク質の精製の後で、融合部分から組換えタンパク質を分離することができる。このような酵素およびそれらの同族(cognate)認識配列には、因子Xa、トロンビンおよびエンテロキナーゼが含まれる。典型的な融合発現ベクターとしては、pGEX(Pharmacia Biotech Inc; SmithおよびJohnson、1988年、Gene 67、31〜40頁)、pMAL(New England Biolabs、Beverly、Mass.)およびpRIT5(Pharmacia、Piscataway、N.J.)が挙げられ、これらはグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質またはプロテインAのそれぞれを標的組換えタンパク質に融合させる。
【0057】
好適な誘導性非融合大腸菌発現ベクターの例としては、pTrc(Amrannら、1988年、Gene 69、301〜315頁)およびpET11d(Studierら、GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY 185、Academic Press、San Diego, Calif.、1990年、60〜89頁)が挙げられる。
【0058】
大腸菌での組換えタンパク質の発現を最大にする1つの方策は、組換えタンパク質をタンパク質分解的に切断する能力が低下した宿主細菌においてタンパク質を発現することである。例えば、Gottesman、GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY 185、Academic Press、San Diego, Calif.、1990年、119〜128頁を参照されたい。別の方策は、発現ベクターに挿入されるべき核酸の核酸配列を、各アミノ酸に対する個々のコドンが大腸菌内で好ましく利用されるように改変することである(例えば、Wadaら、1992年、Nucl. Acids Res. 20、2111〜2118頁を参照)。本発明の核酸配列のこのような改変は、標準のDNA合成技法により行うことが可能である。
【0059】
別の実施形態では、ABO融合ポリペプチド発現ベクターは、酵母発現ベクターである。酵母Saccharomyces cerivisaeにおける発現のためのベクターの例としては、pYepSecl(Baldariら、1987年、EMBO J. 6、229〜234頁)、pMFa(KurjanおよびHerskowitz、1982年、Cell 30、933〜943頁)、pJRY88(Schultzら、1987年、Gene 54、113〜123頁)、pYES2(Invitrogen Corporation、San Diego、Calif.)およびpicZ(In Vitrogen Corp、San Diego、Calif.)が挙げられる。
【0060】
あるいは、ABO融合ポリペプチドは、バキュロウイルス発現ベクターを用いて昆虫細胞で発現され得る。培養された昆虫細胞(例えば、SF9細胞)でのタンパク質の発現に使用できるバキュロウイルスベクターとしては、pAc系(Smithら、1983年、Mol. Cell. Biol. 3、2156〜2165頁)およびpVL系(LucklowおよびSummers、1989年、Virology 170、31〜39頁)が挙げられる。
【0061】
更に別の実施形態では、本発明の核酸は、哺乳類発現ベクターを用いて哺乳類細胞で発現される。哺乳類発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed、1987年、Nature 329、840頁)およびpMT2PC(Kaufmanら、1987年、EMBO J. 6、187〜195頁)が挙げられる。哺乳類細胞で使用するとき、発現ベクターの制御機能は、ウイルス調節要素によって提供される場合が多い。例えば、一般に使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスおよびシミアンウイルス40由来のものである。原核細胞および真核細胞についての他の好適な発現系に関しては、例えば、Sambrookらの16章および17章、MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989年を参照されたい。
【0062】
本発明の別の態様は、本発明の組換え発現ベクターが導入された宿主細胞に属する。「宿主細胞」および「組換え宿主細胞」という用語は、本明細書中では互換可能に使用される。このような用語は、特定の対象細胞だけでなく、このような細胞の子孫または潜在的子孫も指すと理解される。突然変異または環境の影響に起因して特定の修飾が後代で起こり得るので、このような子孫は実際には親細胞と同一ではない可能性があるが、やはり本明細書中で使用される用語の範囲内に包含される。
【0063】
宿主細胞は、任意の原核細胞でも真核細胞でもよい。例えば、糖タンパク質Ibα融合ポリペプチドは、大腸菌などの細菌細胞、昆虫細胞、酵母または哺乳類細胞(例えば、ヒト、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞)で発現され得る。他の好適な宿主細胞は、当業者に知られている。
【0064】
ベクターDNAを、従来の形質転換技法またはトランスフェクション技法により、原核細胞または真核細胞内へ導入することができる。本明細書中で使用されるとき、「形質転換」および「トランスフェクション」という用語は、外来核酸(例えば、DNA)を宿主細胞内へ導入するための当技術分野で認められている様々な技法を指すものと意図されており、これには、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈殿、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクションまたはエレクトロポレーションなどが含まれる。宿主細胞を形質転換するため、またはトランスフェクトするための好適な方法は、Sambrookら(MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989年を参照)および他の研究所マニュアルに見出すことができる。
【0065】
哺乳類細胞の好適なトランスフェクションに関して、使用する発現ベクターおよびトランスフェクション技法に応じて、僅かな細胞のみがそれらのゲノム内に外来DNAを組み込み得ることが知られている。これらのインテグラントを同定し、かつ選択するために、一般には、選択マーカー(例えば、抗生物質耐性)をコードする遺伝子が、目的遺伝子と共に宿主細胞内に導入される。様々な選択マーカーには、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を付与するものが含まれる。選択マーカーをコードする核酸は、宿主細胞内の、糖タンパク質Ibα融合ポリペプチドをコードするものと同じベクター上に導入することができ、または、別個のベクター上に導入することもできる。導入された核酸を安定にトランスフェクトされた細胞は、薬物選択により同定することができる(例えば、選択マーカー遺伝子を組み込んだ細胞は生存し、他の細胞は死滅する)。
【0066】
本発明の宿主細胞、例えば培養した原核または真核宿主細胞を使用してABO融合ポリペプチドを産生(すなわち、発現)することができる。したがって、本発明は更に、本発明の宿主細胞を用いてABO融合ポリペプチドを産生するための方法を提供する。一実施形態において、本方法は、好適な培地内で本発明の宿主細胞(ABO融合ポリペプチドをコードする組換え発現ベクターが導入されたもの)を培養することにより、ABO融合ポリペプチドを産生することを含む。別の実施形態では、本方法は更に、培地または宿主細胞からABOポリペプチドを単離することを含む。
【0067】
抽出、沈殿、クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動などの従来条件に従って、ABO融合ポリペプチドを単離し、精製してもよい。例えば、免疫グロブリン融合タンパク質は、融合タンパク質のFc部分と選択的に結合する固定化プロテインAまたはプロテインGを含有するカラムに溶液を通すことによって精製してもよい。例えば、Reis, K.J.ら、J. Immunol.132巻、3098〜3102頁、1984年;PCT国際公開第WO87/00329号を参照されたい。カオトロピック塩による処理によって、または含水酢酸(1M)による溶出によって融合ポリペプチドを溶出させてもよい。
【0068】
あるいは、本発明によるABO融合ポリペプチドは、当技術分野において知られている方法を用いて化学的に合成することができる。ポリペプチドの化学合成は、例えば、記載されている。ぺプチドシンセサイザーを使用した合成を含めた様々なタンパク質合成方法が当技術分野において一般的である。例えば、Peptide Chemistry、A Practical Textbook、Bodasnsky編、Springer−Verlag、1988年;Merrifield、Science 232、241〜247頁、1986年;Baranyら、Intl. J. Peptide Protein Res. 30、705〜739頁、1987年;Kent、Ann. Rev. Biochem. 57、957〜989頁、1988年;およびKaiserら、Science 243、187〜198頁、1989年を参照されたい。ポリペプチドは、化学前駆体や他の化学物質を実質的に含まないように、標準のペプチド精製技法を用いて精製される。「化学前駆体や他の化学物質を実質的に含まない」という語句は、ペプチド合成に関与する化学前駆体または他の化学物質から分離されているペプチドの調製を包含する。一実施形態では、「化学前駆体や他の化学物質を実質的に含まない」という語句は、約30%(乾燥重量による)未満の化学前駆体または非ペプチド化学物質、より好ましくは約20%未満の化学前駆体または非ペプチド化学物質、更に好ましくは約10%未満の化学前駆体または非ペプチド化学物質、および最も好ましくは約5%未満の化学前駆体または非ペプチド化学物質を有するペプチドの調製を包含する。
【0069】
ポリペプチドの化学合成は、D−アミノ酸および他の有機小分子などの修飾アミノ酸または非天然アミノ酸の組込みを促進する。ペプチド中の1つまたは複数のL−アミノ酸を、対応するD−アミノ酸のアイソフォームで置換することにより、酵素加水分解に対するペプチドの耐性が増大し、かつ、生物学的に活性なペプチドの1つまたは複数の特性、すなわち、受容体結合、機能的能力または作用の持続時間などが向上し得る。例えば、Dohertyら、1993年、J. Med. Chem. 36、2585〜2594頁;Kirbyら、1993年、J. Med. Chem. 36、3802〜3808頁;Moritaら、1994年、FEBS Lett. 353、84〜88頁;Wangら、1993年、Int. J. Pept. Protein Res. 42、392〜399頁;FauchereおよびThiunieau、1992年、Adv. Drug Res. 23、127〜159頁を参照されたい。
【0070】
ペプチド配列への共有結合架橋の導入は、配座的かつトポグラフィー的にペプチド骨格を制限することができる。この方策を採用して、能力、選択性および安定性が増大した融合ポリペプチドのペプチド類似体を開発することができる。環状ペプチドの配座エントロピーは直鎖ペプチドより低いので、非環状類似体に関するエントロピーの低下より環状類似体に関するエントロピーの低下の方が少ない特定の立体配座が採用され、それにより、結合のための自由エネルギーがより好ましいものになり得る。大環状化は、ペプチドのN−末端およびC−末端間、側鎖およびN−またはC−末端間[例えば、pH8.5のKFe(CN)により](Samsonら、Endocrinology 137巻、5182〜5185頁、1996年)または2つのアミノ酸側鎖間にアミド結合を形成することによって達成される場合が多い。例えば、DeGrado、Adv Protein Chem 39、51〜124頁、1988年を参照されたい。ジスルフィド架橋も直鎖配列内に導入され、それらの柔軟性を低下させる。例えば、Roseら、Adv Protein Chem 37、1〜109頁、1985年;Mosbergら、Biochem Biophys Res Commun 106巻、505〜512頁、1982年を参照されたい。更に、システイン残基をペニシラミン(Pen、3−メルカプト−(D)バリン)で置換することにより、幾つかのオピオイド−受容体相互作用の選択性が増大された。LipkowskiおよびCarr、「Peptides:Synthesis, Structures, and Applications」、Gutte編、Academic Press、287〜320頁、1995年。
【0071】
組成物およびキット
また、それぞれ異なるコア糖鎖型上で発現される少なくとも2つの血液型抗原を含有する組成物(例えば、ABOオリゴ糖)も本発明に包含される。血液型抗原は、A抗原、B抗原またはH抗原である。コア糖鎖型は、1型、2型、3型または4型である。組成物は、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つまたはそれを超える異なる血液型抗原を含有する。
【0072】
例示的な血液型抗原には、上述のものが含まれる。
【0073】
場合により、ABOオリゴ糖またはABO融合タンパク質は、固体支持体に結合されている。この結合は共有結合である。あるいは、結合は非共有結合である。
【0074】
固体支持体は、例えば、ビーズ、樹脂、膜もしくはディスク、または本発明の方法に適する任意の固体支持体材料でもよい。好ましくは、固体支持体は、ビーズ、例えばマイクロビーズである。ビーズの大きさは重要ではない。典型的には、ビーズの直径は少なくとも1μm〜50μmであり、1μm〜10μmの粒子径が好ましい。最も好ましくは、ビーズの直径は約4μm〜10μmである。例えば、2μm、3μm、4μm、5μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、40μmまたは50μmの直径である。
【0075】
ビーズは、金属化合物、シリカ、ラテックス、ポリマー材料、または金属もしくは金属化合物で被覆されたシリカ、ラテックスもしくはポリマー核で作製されていてもよい。
【0076】
固体支持体は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルデヒド基またはアミノ基などの官能基を保有していてもよい。支持体は、正に帯電しているか、負に帯電しているか、または疎水性でもよい。本発明で使用するための官能化された被覆支持体は、支持体の修飾によって調製されてもよい。例えば、被覆されていない支持体を、ポリウレタンなどの1つの官能基またはこのような複数の官能基を保有するポリマーでもって、ヒドロキシル基を与えるポリグリコール、もしくはヒドロキシル基を与えるセルロース誘導体、カルボキシル基を与えるためのアクリル酸もしくはメタクリル酸のポリマーもしくはコポリマー、またはアミノ基を与えるアミノアルキル化ポリマーと共に処理してもよい。米国特許第4,654,267号には、多くの表面コーティングの導入について記載されている。
【0077】
好ましくは、異なるABOオリゴ糖またはABO融合タンパク質の各々は、異なるサブタイプのマイクロビーズ上にある。サブタイプとは、各マイクロビーズが、例えば、大きさの違いによってまたは識別可能な標識によって検出可能に識別できることを意味する。このような大きさが異なるマイクロビーズ、または蛍光体などで標識されたマイクロビーズを使用することにより、例えば、フローサイトメトリーなどによって様々なビーズを同定および/または分離することができる。
【0078】
本発明は更に、本発明の方法により、血液型反応性抗体をサンプルから分離するためまたは同定するためのキットを提供する。このキットは、異なるサブタイプのマイクロビーズの集合体を含有し、各サブタイプは異なるABOオリゴ糖またはABO融合タンパク質で被覆されている。場合により、キットは、抗血液型抗原抗体と特異的に結合することができる少なくともオープンな標識リガンドを含有する。例えば、リガンドは、抗体またはそのフラグメントである。抗体またはそのフラグメントはモノクローナル抗体である。あるいは、抗体またはそのフラグメントはポリクローナル抗体である。場合により、抗体は組換え抗体である。抗体は、Fab、FabおよびF(ab)2フラグメントなどの抗体フラグメントである。「特異的に結合」または「と免疫反応する」は、抗体が、所望する抗原の1つまたは複数の抗原決定基とは反応するが、他のポリペプチドとは反応(すなわち、結合)しないか、または他のポリペプチドと非常に低い親和性(K>10−6)で結合することを意味する。
【0079】
抗体は一価である。
【0080】
標識は、標的の同定および/または定量化を促進するために使用される任意の物質である。標識は、直接的に観察もしくは測定されるか、または間接的に観察もしくは測定される。標識としては、例えば、放射線計測装置で測定することができる放射性標識、分光光度計で視覚的に観察または測定することができる顔料、染料または他の色原体、スピン標識分析器で測定することができるスピン標識、および、好適な分子付加物の励起により出力シグナルが生成される場合、染料に吸収される光による励起によって視覚化することができるか、または標準的な蛍光光度計または撮像システムを用いて測定することができる蛍光部分が挙げられるが、これらに限定されない。標識は、蛍光体または蛍光色素(fluorogen)などの発光物質、生物発光物質、シグナル化合物の化学的修飾により出力シグナルが生成される場合には化学発光物質、金属含有物質、または、無色物質からの着色生成物の形成などの、シグナルの酵素依存型二次生成が生じる場合には酵素でもよい。標識はまた、化学物質もしくは生化学物質、または不活性粒子の形態を取り得るものであり、これにはコロイド金、微小球、量子ドット、またはナノ結晶もしくは蛍光体などの無機結晶が含まれるが、これらに限定されない(例えば、Beverlooら、Anal. Biochem. 203、326〜34頁、1992年を参照)。標識という用語は、後に付加されると、検出可能なシグナルを生成するために使用されるような標識分子に対して特異的に結合し得る「タグ」またはハプテンを指すこともできる。例えば、ビオチン、イミノビオチンまたはデスチオビオチンをタグとして使用し、次いでセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)のアビチンまたはストレプトアビジン結合体を使用して前記タグに結合させ、次いで発色基質(例えば、テトラメチルベンジジン)またはAmplex RedまたはAmplex Gold(Molecular Probes,Inc.)などの蛍光発生基質を使用してHRPの存在を検出することができる。同様に、タグは、ハプテンまたは抗原(例えば、ジゴキシゲニン)でもよく、酵素的に、蛍光的にまたは放射活性物質で標識した抗体を使用してこのタグに結合させることができる。多数の標識は、当業者に知られており、粒子、蛍光染料、ハプテン、酵素およびそれらの発色性基質、蛍光発生基質および化学発光基質、ならびに、「Molecular Probes Handbook Of Fluorescent Probes And Research Chemicals」、Richard P. Haugland著、第6版、1996年、および1999年11月および2001年5月にそれぞれCD−ROMで発行された後続の第7版および第8版の最新版(これらの内容は、参照により組み込まれる)、ならびに他の出版された情報源に記載される他の標識が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
蛍光体は、280nmを超える最大吸収量を示し、標識試薬に共有結合するとそのスペクトル特性を保持する任意の化学的部分である。蛍光体には、ピレン(米国特許第5,132,432号に開示された対応するあらゆる誘導体化合物を含む)、アントラセン、ナフタレン、アクリジン、スチルベン、インドールまたはベンズインドール、オキサゾールまたはベンズオキサゾール、チアゾールまたはベンズチアゾール、4−アミノ−7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール(NBD)、シアニン(米国特許出願第09/968,401号および第09/969,853号に記載の対応するあらゆる化合物を含む)、カルボシアニン(米国特許出願第09/557,275号;第09/969,853号および第09/968,401号;米国特許第4,981,977号;第5,268,486号;第5,569,587号;第5,569,766号;第5,486,616号;第5,627,027号;第5,808,044号;第5,877,310号;第6,002,003号;第6,004,536号;第6,008,373号;第6,043,025号;第6,127,134号;第6,130,094号;第6,133,445号およびPCT国際公開WO02/26891、WO97/40104、WO99/51702、WO01/21624、欧州特許出願公開第1065250(A1)号における対応するあらゆる化合物を含む)、カルボスチリル、ポルフィリン、サリチレート、アントラニレート、アズレン、ペリレン、ピリジン、キノリン、ボラポリアザインダセン(米国特許第4,774,339号;第5,187,288号;第5,248,782号;第5,274,113号および第5,433,896号に開示された対応するあらゆる化合物を含む)、キサンテン(米国特許第6,162,931号;第6,130,101号;第6,229,055号;第6,339,392号;第5,451,343号および米国特許出願第09/922,333号に開示された対応するあらゆる化合物を含む)、オキサジン(米国特許第4,714,763号に開示された対応するあらゆる化合物を含む)またはベンズオキサジン、カルバジン(米国特許第4,810,636号に開示された対応するあらゆる化合物を含む)、フェナレノン、クマリン(米国特許第5,696,157号;第5,459,276号;第5,501,980号および第5,830,912号に開示された対応するあらゆる化合物を含む)、ベンゾフラン(米国特許第4,603,209号および第4,849,362号に開示された対応するあらゆる化合物を含む)およびベンズフェナレノン(米国特許第4,812,409号に開示された対応するあらゆる化合物を含む)ならびにそれらの誘導体が制限なく含まれる。本明細書中で使用するとき、オキサジンは、レゾルフィン(特許第5,242,805号に開示された対応するあらゆる化合物を含む)、アミノオキサジノン、ジアミノオキサジンおよびそれらのベンゾ置換類似体を含む。
【0082】
場合により、キットは、陽性対照もしくは陰性対照またはその両方、キット使用説明書(書面、テープ、VCR、CD−ROMなど)、サンプル収集手段を含む。サンプル収集手段は、当業者に周知である。例えば、サンプル収集手段はCPTバキュテイナー(vacutainer)管である。
【0083】
試薬は、別個の容器に包装されており、例えば、ABOオリゴ糖またはABO融合タンパク質(固体マトリックスに結合されているか、または、それらをマトリックスに結合するための試薬と共に別個に包装されている)、対照試薬(陽性および/または陰性)、および/または標識リガンドである。
【0084】
抗体媒介性移植片拒絶反応を治療または予防するための方法
抗体媒介性移植片拒絶反応(AMR)、例えば臓器移植の拒絶反応を治療または予防する方法も本発明に包含される。このような移植には、腎臓、肝臓、皮膚、膵臓、角膜または心臓が含まれるが、これらに限定されない。AMRは、レシピエントによる抗体媒介性移植片拒絶反応を包含することを意味する。この方法は、被験者からの生体サンプルを本発明のABOオリゴ糖またはABO融合ペプチドと接触させることを含む。生体サンプルは、例えば、血液、すなわち、全血または血漿である。サンプルは、抗体、例えば抗血液型抗体を含むことが知られているか、またはそのように考えられている。幾つかの態様では、生体サンプルは、このサンプルをABOオリゴ糖またはABO融合ポリペプチドと接触させる前に、被験者から抽出される。生体サンプルを、ABOオリゴ糖またはABO融合ペプチド−抗血液型抗体複合体の形成を許容するような条件下で、ABOオリゴ糖またはABO融合ペプチドと接触させる。ABOオリゴ糖またはABO融合ペプチド複合体は、存在する場合、抗血液型抗体を排除するために生体サンプルから分離され、生体サンプルは被験者に再び注入される。
【0085】
AMRはまた、本発明のABO融合ポリペプチドを被験者に投与することによって治療または予防される。
【0086】
被験者は、例えば任意の哺乳類であり、例えばヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタである。治療薬は、被験者がABO不適合性移植を受ける前に投与される。あるいは、治療薬は、被験者がABO不適合性移植を受けた後に投与される。
【0087】
当業者に知られている方法によって、生体サンプルをABOオリゴ糖またはABO融合タンパク質と接触させる。例えば、血漿分離交換法または体外免疫吸収法である。
【0088】
本質的には、抗体媒介性反応に病因学的に関連するいかなる疾患も予防または治療できる可能性があるものと考えられている。AMRは、移植臓器の生存率が、本発明の方法によって治療されていない移植臓器より大きいときに治療または予防される。移植臓器の生存率とは、移植臓器がレシピエントに拒絶されるまでの時間を意味する。例えば、AMRは、移植臓器が移植後少なくとも1週間、2週間、4週間、または8週間生存するときに、治療または予防される。移植臓器が3カ月、6カ月、13カ月生存するのが好ましい。移植臓器が2年間、3年間、5年間またはそれを超える年数生存するのがより好ましい。
【0089】
サンプルから抗血液型抗体を除去する方法
サンプルから抗血液型抗体を除去するまたは枯渇させる方法も本発明に包含される。サンプルは、血液または血漿などの生体液である。あるいは、サンプルは、心臓組織、肝臓組織、皮膚または腎臓組織などの生体組織である。本方法は、本発明のABOオリゴ糖またはABO融合ペプチドとサンプルとを接触させることを含む。ABOオリゴ糖またはABO融合ペプチド−抗血液型抗体複合体の形成を許容するような条件下で、サンプルをABO融合ペプチドと接触させる。ABO融合ペプチド−抗体複合体は、存在する場合、抗血液型抗体を除去するまたは枯渇させるために生体サンプルから分離される。
【0090】
本方法は、万能ドナー血漿を産生するのに有用である。
【0091】
血液型判定方法
被験者の血液型を判定する方法も本発明に包含される。被験者から採取した血漿または全血などのサンプルを、異なるサブタイプのマイクロビーズの集合体と接触させることによって被験者の血液型を判定する。各サブタイプは、異なる血液型抗原を含有する。血液型抗原は、異なるコア糖鎖型上で発現される。サンプル中に存在する抗血液型抗体が、マイクロビーズ上の血液型抗原に結合する、例えば、血液型抗原−抗体複合体を形成するのに十分な時間、マイクロビーズおよびサンプルを接触させる、例えば、インキュベートする。
【0092】
複合体が形成されたら、場合によりサンプルを1回または複数回洗浄して未結合の血漿成分を除去する。あるいは、マイクロビーズをサンプルから除去する分離工程を行うことによって、未結合の血漿成分をマイクロビーズから分離する。分離は、遠心分離などの当技術分野で知られている方法によって行われる。更に、マイクロビーズに結合されている抗血液型抗体と特異的に結合する標識試薬とマイクロビーズを接触させる。場合によりマイクロビーズを1回または複数回洗浄して未結合の標識試薬を除去する。次いで、標識試薬を検出することにより、サンプル中の抗血液型抗体の存在または不在を決定する。検出は、フローサイトメトリーまたはLuminexなどの当技術分野で知られている方法によって行われる。
【0093】
本発明はまた、サンプル中の複数の抗血液型抗体の検出を提供する。複数の抗血液型抗体とは、各血液型(すなわち、ABH)に対して特異的な抗体だけでなく、異なるオリゴ糖コア鎖型の血液型抗原に対して特異的な抗体も意味する。上述の方法を用いて、生体サンプルを更なる検出試薬と接触させ、次いで、更なる検出試薬に特異的な更なる標識試薬と接触させることによって複数の標的を同定する。例えば、例えばコアオリゴ糖鎖型によって区別される血液型抗原などの別個の血液型抗原を用いて、マイクロビーズのサブセットを調製する。次いで、制御した比率で含有する生体サンプルにマイクロビーズのサブセットを付加する。
【0094】
代替方法では、発光スペクトルによって区別される蛍光体(例えば、緑色のスペクトルで発光するものや赤色のスペクトルで発光するもの)などの別個の標識を用いて標識試薬のサブセットを調製する。次いで、検出試薬−標的複合体を制御された比率で含有する生体サンプルに標識試薬のサブセットを付加する。その比率は、例えば、標的結合抗体ごとに、一方の標識試薬(例えば、緑色発光)2量であり、他方の標識試薬(例えば、赤色発光)1量である。このように、免疫標識された複合体を使用して標的を検出することができる。別の免疫標識された複合体をサンプルに付加する場合、元来の標的は、その後に検出された標的と区別可能である。
【0095】
場合により、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10またはそれを超える血液型抗原がサンプル中で検出される。
【0096】
サンプルは、血液型抗原を含有し得るあらゆる材料を包含するものと定義される。典型的には、サンプルは、全血、血清または血漿である。
【0097】
本発明の方法は、既存の血液型判定技術より著しい利点を奏する。特定的には、本方法により、血液型抗原のサブタイプの検出が可能になる。更に、本方法により、決定されるべきサンプル中の異なる血液型抗原のサブタイプの認定が可能になる。
【0098】
検出試薬は、マイクロビーズに結合された血液型抗体と特異的に結合することができる化合物である。検出試薬は、所望の標的に応じて選択される。検出試薬は、例えば、標的特異的抗体またはそのフラグメントなどのポリペプチドである。本明細書中で使用するとき、「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン(Ig)分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、抗原と特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を含有する分子を指す。このような抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、Fab、FabおよびF(ab)2フラグメント、ならびにFab発現ライブラリーが挙げられる。「特異的に結合する」または「〜と免疫反応する」は、抗体が、所望する抗原の1つまたは複数の抗原決定基とは反応するが、他のポリペプチドとは反応(すなわち、結合)しないか、または他のポリペプチドと非常に低い親和性(K>10−6)で結合することを意味する。
【0099】
モノクローナル抗体は、本発明の方法を実施する上で特に有利である。一般に、モノクローナル抗体は、ポリクローナル抗体より感受性が高く、かつより特異的である。更に、抗体を産生する動物の寿命に左右されるポリクローナル抗体とは異なり、モノクローナル抗体の供給は無限である。しかしながら、モノクローナル抗体のほぼ大半がIgG1サブクラスであるので、ポリクローナル抗体は、複数のアイソタイプを有する抗体を使用することが必要であるときに有用である。
【0100】
本明細書中で使用されるとき、「免疫学的結合」および「免疫学的結合特性」という用語は、免疫グロブリン分子と、この免疫グロブリンが特異的である抗原との間に生じるタイプの非共有結合な相互作用を指す。免疫学的結合相互作用の強度または親和性は、相互作用の解離定数(K)によって表すことができ、より小さいKは、より大きな親和性を示す。選択されたポリペプチドの免疫学的結合特性は、当技術分野において周知の方法を用いて定量化される。1つのこのような方法は、抗原結合部位/抗原複合体の形成および解離の速度を測定することを伴い、それらの比率は、複合する相手方の濃度、相互作用の親和性、および前記速度に対して両方向に等しく影響を与える幾何学的パラメーターに左右される。したがって、「オン速度定数」(Kon)および「オフ速度定数」(Koff)はいずれも、濃度ならびに会合および解離の実際速度を算出することによって決定することができる。(Nature 361、186〜87頁、1993年を参照されたい。)Koff/Kon比により、親和性に関係しない全てのパラメーターを破棄することができ、この比は解離定数Kに等しい。(概して、Daviesら、1990年、Annual Rev Biochem 59、439〜473頁を参照されたい)。
【0101】
本発明は、以下の非限定的な実施例において更に説明される。
【実施例】
【0102】
(実施例1)
発現ベクターの構築
P−セレクチン糖タンパク質リガンド−1/マウスIgG2b(PSGL−1/mIgG2b)cDNAを保有する発現ベクターを、エンテロキナーゼ(EK)開裂部位を含有するように改変した。この部位は、マウスIgG2b部分の下流放出のために使用することができる。
【0103】
ヒト血液型A遺伝子は、MKN−45細胞系から単離した全RNAから作製したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅cDNAであり、血液型B遺伝子は、HuTu80細胞系から単離した全RNAから作製したPCR増幅cDNAであった。
【0104】
安定なトランスフェクタントを生成するために使用される発現ベクターは二方向性である。概略図を参照されたい。PSGL−1/mIgG2b発現ベクターは、ポリリンカーの上流にEF1αプロモーターと、スプライス供与および受容部位と、SV40の二方向性ポリ(A)付加シグナルとを有する。反対方向からのポリ(A)付加シグナルを使用して、この転写ユニットと配向が反対であるのは、HSV TKプロモーターと、それに続くピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ(PAC)のコード配列とからなる第2転写ユニットである。同様に、β1,6GlcNAcT(コア2酵素)発現ベクターは、EF1αプロモーターと、ネオマイシン耐性遺伝子(Neo)のコード配列とを含有する。FUT2(Se遺伝子)発現ベクターは同じベクター骨格を含有するが、CMVプロモーターとネオマイシン耐性遺伝子とを有する。GalNAcT(A遺伝子)およびGalT(B遺伝子)発現ベクターは、CMVプロモーターと、ブラシクチジン(blasictidin)耐性遺伝子(Bsd)と、FUT1(H遺伝子)とを含有し、β1,3GlcNAcT6(コア3酵素)は、CMVプロモーターと、ゼオシン耐性遺伝子とを含有し、GalT5発現ベクターは、CMVプロモーターと、グアノシンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(GPT)とを含有する。
【0105】
これら発現ベクターのDNA配列を自動配列分析によって検証した。
【0106】
(実施例2)
ウェスタンブロット法および間接的免疫蛍光法を用いたPSGL−1/mIgG2B発現の決定
細胞培養上澄み液中でのPSGL−1/mIgG2bの発現を、SDS−PAGEおよびウェスタンブロット法を用いて測定した。MES緩衝液(Invitrogen)中4%〜12%の勾配ゲル(Invitrogen)上にサンプルを載せ、分離したタンパク質をニトロセルロース膜(Invitrogen)上へ電気泳動的にブロットした。0.2%のTween 20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の3%ウシ胎仔血清アルブミン(BSA)において1時間ブロックした後、ブロッキング緩衝液で1:4000に希釈したペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG Fc抗体(Sigma)を用いて室温で1時間膜をプローブ処理した。0.2%のTween 20を含有するPBSで膜を3回洗浄し、製造業者の指示に従ってECLキット(Amerham Biosciences)を用いて化学発光法により結合抗体を視覚化した。
【0107】
間接的免疫蛍光法によりPSGL−1/mIgG2bの細胞局在を決定した。6ウェルプレートのカバースリップ上に播種したCHO−K1細胞に、製造業者の指示に従ってLipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、PSGL−1/mIgG2b発現ベクターを一時的にトランスフェクトした。トランスフェクトしてから48時間後、細胞をPBSで洗浄し、30%アセトン/MeOH中に固定した。PBS中1%BSAにおいて30分間ブロックした後、ブロッキング緩衝液で1:200に希釈したFITC結合ヤギ抗マウスIgG Fc抗体(sigma)を用いてPSGL−1/mIgG2bタンパク質を検出した。4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で細胞核を染色した。Vectashield Mounting Medium(Vector Laboratories)を伴うカバースリップをスライドの上に載せた。DMRXA顕微鏡(Leica Corp.)を用いてスライドを検査し、Hamamatsu C4880−40 CCDカメラ(Hamamatsu Photonics Norden AB)、Openlabソフトウェアパッケージ(Improvision)およびAdobe Photoshopソフトウェアを用いてデジタル撮影した(図面を参照)。
【0108】
(実施例3)
無血清培地へのCHO−K1細胞の適合
製造業者の指示に従って、無血清培地Ex−cell 302(JHR Bioscience,Inc.)に対してCHO−K1細胞系(ATCC CCL−61)を適合させた。
【0109】
(実施例4)
DNAトランスフェクションおよびクローン選択
無血清培地に適合させたCHO−K1細胞を75cmのフラスコに播種し、製造業者の指示に従って、Lipofectamine 200 CD(Invitrogen)、動物由来でない処方物を用いて、PSGL−1/mIgG2b発現ベクターを前記細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトしてから48時間後、ピューロマイシン含有選択培地(6μg/mL)において細胞をインキュベートした。選択培地は3日ごとに交換した。およそ2週間後、製造業者の指示に従って、Dead Cell Removal MicroBeads(Miltenyi Biotech)を用いて、死細胞を除去した。生細胞を96ウェルプレートにおいて単細胞クローニングし、およそ2週間、選択培地内で増殖させた。細胞培養上澄み液を採取し、酵素結合免疫測定法(ELISA)によって(下記のプロトコルを参照)、ヤギ抗マウスIgG Fc抗体(Sigma)を用いてhPSGL−1/mIgG2bの濃度を評価した。hPSGL−1/mIgG2bが最も高く発現した細胞クローンを選択して増殖させた。
【0110】
(実施例5)
上澄み液中のPSGL−1/mIgG2B濃度の、ELISAを用いた定量化
細胞を25cmのフラスコに播種した(〜1×10細胞/mL)。細胞培養上澄み液を4日後に採取した。細胞クローンにより産生されたPSGL−1/mIgG2bの濃度を、酵素結合免疫測定法(ELISA)によって評価した。96ウェルのELISAプレート(Coster 3590、Corning)を、アフィニティー精製したヤギ抗mIgG Fc抗体(Sigma)で10μg/mLの濃度にて2時間被覆した。PBS中1%BSAで2時間、プレートをブロックした。PSGL−1/mIgG2bを含有する上澄み液をブロッキング緩衝液で連続希釈し、2時間インキュベートした。洗浄した後、ブロッキング緩衝液で1:4000に希釈したペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG Fc抗体(Sigma)を用いてプレートを2時間インキュベートした。3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンジヒドロクロリド(Sigma)により、結合したペルオキシダーゼ結合抗体を視覚化した。2M HSOで反応を停止し、自動マイクロプレートリーダー(Bio−Tek Instruments)において450nmでプレートを読み取った。精製したmIgG Fcフラグメント(Sigma)の希釈系を標準として使用して、PSGL−1/mIgG2b濃度を評価した。下記のように、最も多く産生している細胞クローン(〜25μg/mL)を選択し、更なるトランスフェクションを行った。
【0111】
(実施例6)
血液型A/B3型抗原で置換したPSGL−1/mIgG2Bの生成
上述のように、PSGL−1/mIgG2bが最も高く発現した安定なCHO−K1細胞系にFUT2(Se遺伝子)発現ベクターをトランスフェクトし、G418含有培地内で選択した(400μg/mL)。PSGL−1/mIgG2b上での血液型H3型抗原の相対数が最も高い細胞クローンに、GalNAcT(A遺伝子)またはGalT(B遺伝子)発現ベクターのいずれかをトランスフェクトし、ブラスチシジン含有培地内で選択することにより、PSGL−1/mIgG2b上に血液型AおよびBそれぞれの3型抗原を産生する細胞系が生成された(トランスフェクションスキームを参照)。
【0112】
(実施例7)
血液型A/B2型抗原で置換したPSGL−1/mIgG2Bの生成
PSGL−1/mIgG2bが最も高く発現した安定なCHO−K1細胞系にβ1,6GlcNAcT1(コア2酵素)およびFUT1(H遺伝子)発現ベクターをトランスフェクトし、G418含有培地内で選択した(400μg/mL)。PSGL−1/mIgG2b上でのH2型抗原の相対数が最も高い細胞クローンに、α1,3GalNAcT(A遺伝子)またはα1,3GalT(B遺伝子)発現ベクターのいずれかをトランスフェクトし、ブラスチシジン含有培地内で選択することにより、PSGL−1/mIgG2b上に血液型AおよびBそれぞれの2型抗原を産生する細胞系が生成された(トランスフェクションスキームを参照)。
【0113】
(実施例8)
血液型A/B1型抗原で置換したPSGL−1/mIgG2Bの生成
PSGL−1/mIgG2b上での血液型H3型抗原の相対数が最も高い細胞クローンに、β1,3GalNAcT(コア3酵素)およびGalT5発現ベクターをトランスフェクトし、ゼオシン含有培地内で選択した。PSGL−1/mIgG2b上での血液型H1型抗原の相対数が最も高いクローンに、α1,3GalNAcT(A遺伝子)またはα1,3GalT(B遺伝子)発現ベクターのいずれかをトランスフェクトし、ブラスチシジン含有培地内で選択することにより、PSGL−1/mIgG2b上に血液型AおよびBそれぞれの1型抗原を産生する細胞系が生成された(トランスフェクションスキームを参照)。
【0114】
(実施例9)
組換えhPSGL−1/EK/mIgG2Bの精製
遠心分離によって細胞培養上澄み液をデブリから回収し、ヤギ抗マウスIgG(全分子)アガロース(Sigma)を含有するカラムに通す。PBSでの洗浄後、結合したhPSGL−1/EK/mIgG2bを3M NaSCNで溶出し、蒸留水で透析分離する。低分子量の汚染物質を除去するために、HiPrep 16/60 Sephacryl S−200 HRカラム(Amersham Bioscience)上にてゲル濾過によりhPSGL−1/EK/mIgG2bを更に精製してもよい。
【0115】
セファロースへの共有結合およびカラム充填
標準的なバイオコンジュゲーション化学を用いて、精製した血液型AおよびBムチンをセファロース高速流動(fast flow)ビーズに共有結合する。結合後、実際のカラムを構成するプラスチック容器にセファロースを充填する。
【0116】
原型カラムの吸着効率および生体適合性試験
プールしていた血液型O血漿の吸着前後の抗血液型ABO抗体の力価を、赤血球凝集を含む標準的な血液貯蔵技法および間接的な抗グロブリンテストによって評価する。免疫グロブリン(IgG、IgMおよびIgA)、補体因子/フラグメント(C3、C3a、C3d、C4およびsC5b−9)、免疫複合体および凝固因子(FVIII、プロトロンビン、フィブリノーゲン、フィブリン分解産物)を含む血漿タンパク質全てを標準の技法により測定する。規定のコア糖鎖上に血液型A/B抗原を保有する組換えムチンを用いるELISAによって、または、精製され、かつ構造的に規定された血液型AおよびB糖脂質を使用する薄層クロマトグラフィーに基づくオーバーレイアッセイによって、吸着されかつ溶出したABO抗体と、吸着されていないABO抗体との特異性を決定する。
【0117】
(実施例10)
抗体力価を決定するための、大きさおよび色が異なるビーズの生成
大きさおよび色が異なるビーズを生成し(micromod Partikeltechnologie GmbH、Rostock、Germary)、異なる型の血液型抗原に結合させた。フローサイトメトリーによってビーズを分析すると、大きさおよび色のいずれに関しても良好な分解能を示した(表5を参照)。この方法を用いると、多数の結合ビーズの混合物を使用することが可能であり、各々の大きさ−色強度の組合せは、特定のコア構造上で発現された特定の血液型抗原を表している。
【0118】
(実施例11)
血液型抗体の検出
血清サンプルを、0.5%ヒトアルブミンを含むPBSで1:10に希釈し、血液型抗原オリゴ糖を保有するラテックスマイクロビーズ(4.6μm;18μg乾燥重量)と混合する。血清およびマイクロビーズを室温で30分間インキュベートし、次いで、0.5%HAS/PBSで洗浄する。FITC標識抗ヒトIgMおよびPE標識IgGを、洗浄したマイクロビーズに付加し、フローサイトメトリーによって分析する。
【0119】
(参考文献)
【0120】
【表1】

【0121】
【表2】

(他の実施形態)
詳細な説明と関連して本発明を説明してきたが、前記説明は、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を例証するものであって、制限することを意図するものではない。他の態様、利点および変更も、添付の特許請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−11626(P2013−11626A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−226703(P2012−226703)
【出願日】平成24年10月12日(2012.10.12)
【分割の表示】特願2009−500966(P2009−500966)の分割
【原出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(506304990)アブソルバー, アーベー (4)
【Fターム(参考)】