説明

診断支援装置、診断支援方法およびそのプログラム

【課題】 コンピュータ内に存在する疾患に関する情報を用いて疾患の診断精度を向上させる。
【解決手段】 疾患を診断するために必要な複数の診断情報と該診断情報に基づいて診断が行われる疾患を表す疾患情報を記憶し、各疾患を診断する際に用いられる診断情報間または前記診断情報と疾患との関係に応じて、診断情報間および/または診断情報と疾患情報とをリンクしたリンク情報を記憶する。さらに、リンク情報に応じて疾患が出現する出現確率を予め記憶して、入力された診断情報に関連する疾患の出現確率をリンク情報に基づいて疾患ごとの出現確率を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医師などによる患者の疾患の診断を支援する診断支援装置、診断支援方法およびそのプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療診断において、患者の病状や病理検査結果などから疾患名を判断する際には、患者が、吐き気がする、頭が重いなどと訴えている患者の主訴や、医師が患者を診断して得た診断結果に基づいて判断が行われてきた。さらに、必要に応じて、患者を撮影したレントゲン画像を読み取って得られた画像読影結果なども勘案して、対応する疾患名を特定していた。
【0003】
しかし、手元にある結果を総合的にみて判断したとしても、対応する疾患名は必ずしも1つとは限らず複数の疾患に該当する場合が多く、異なる疾患であっても症状がほぼ同じため特定することができないことも多々ある。また、症状が似通っているものも含めれば、疑わしき疾患名がさらに増えることになる。
【0004】
一方、近年、CR装置、CT(Computed Tomography)装置、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置が普及したことに伴い医用画像は急速にディジタル化され、単純撮影写真から血管造影像に至るまで、多くの医用画像がディジタル化して保管されている。このようなディジタル化された医用画像を診断に役立つようにするために、画像の伝送及び蓄積を迅速に行なうことができるように画像情報の取り扱いを標準化して(具体的な標準化のひとつにDICOM規格がある)、種々のコンピュータシステム間で相互接続が行えるようなPACS(Picture Archiving and Communication System)が開発された。
【0005】
また、医用画像のディジタル化と平行して、多くの医療機関で医療システムの導入が進み、診療報酬処理から業務管理まで行う病院情報システム(HIS)や、PACSを意識することなく、院内・部内においてより高度な情報提供が行える診断支援環境を提供する放射線科情報システム(RIS)が普及してきつつある。さらに、カルテもディジタル化された電子カルテに置き換わり、病歴や薬歴等もディジタル化されて記憶されるようになってきた。
【0006】
このように、疾患の診断に必要な情報がディジタル化されて記憶されるようになるのにともなって、過去の所見と確定した診断内容とを保存しておき、過去の症例と対比して疾患を特定する手法が提案されている。
【0007】
まず、過去症例に対して所見と対応する確定診断(ex.脳梗塞)とを記号化してデータベースに保存する。例えば、大分類では撮影装置(例えば、エックス線画像)を表し、中分類では部位(例えば、脳)を表し、小分類では疾患名(例えば、くも膜下腔)を表し、細分類ではさらに詳細な所見(例えば、..の局所的な狭小化)を表し、亜分類では疾患名の詳細な分類(例えば、右シルヴィウス裂)を表すように記号化を行う。このようにして過去の症例を全て記号化してデータベースに記憶しておき、新規患者画像に対して読影を行い対応する分類記号を入力して、対応する過去症例をデータベースから検索し、過去に同じ所見であった全症例の全疾患名を調べて、各疾患の生じる確率(所見確率)を算出する。また、検索された各疾患名に対してその施設で発生した確率(事前確率)を算出し、さらに、所見確率と事前確率から新規画像に対する罹病確率を算出して、確率の高い順に表示するものが提案されている(特許文献1など)。
【0008】
さらに、過去の疾患に対して、診断所見(#+疾患名の小文字と数字)、読影結果($+疾患名の小文字と数字)、問診結果(%+疾患名の小文字と数字)、病理検査結果(&+疾患名の小文字と数字)、及び、その他の情報(@+疾患名の小文字と数字)をデータベースに保存し、疾患名に対して代表的な病状情報と画像データを関連付ける。そこで、新規患者に対して、診断所見、読影結果、問診結果、病理検査結果、及び、その他の情報を医師が入力してデータベースの検索を行い、入力された情報に対応する疾患名と画像データをリストアップして表示するものも提案されている(特許文献2など)。
【特許文献1】特開平6−292656号公報
【特許文献2】特開2002−32476公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の2つの手法とも、医師が与えた検索項目を用いて、データベースから過去症例を検索する方法であり、入力から漏れた所見は、疾患を特定する情報として使用する事が出来ない。例えば、ある患者の所見として、X線画像の所見のみを入力した場合、その患者にCT画像の所見が既にある場合でも、医師がCT画像の所見を入力しなければCT画像に対する所見は検索に使用されない。一般的な診断においても、X線単独ではなくCT画像と合わせて診断した方が疾患特定の精度が上がるが、データベースから過去の症例を検索する場合でも、単純X線画像単独ではなくCT画像と合わせて疾患を特定することによって精度が向上することが当然予測される。
【0010】
また、現在HIS、RIS、モダリティ、PACSなどを連携したシステムの構築が進められており、病院内の棟・エリア・業務区間に応じて分散して設置された各情報システムがネットワークによって相互接続されるようになったため、病院内に分散して保管された同一患者の情報をネットワーク経由で一箇所に収集することが可能になってきた。また、コンピュータによる診断支援を利用する際、医師も全項目を入力するのは大変であるので、一部の検索項目を入力すると判断するために必要な他の検索項目をコンピュータが補って、能動的に情報を収集して診断を行うことが望まれる。
【0011】
また、患者の主訴や手元にある検査結果を総合的にみて診断しても、疾患が特定できない場合には、さらに、追加の検査を行ったり、過去の病歴などを参考にするなど他の情報を追加して疾患を特定することが従来から行なわれているが、経験の浅い医師ではどのような検査を行うべきかを的確に判断できないケースも多く、経験を積み重ねることが必要である。
【0012】
そこで、本願発明では、コンピュータ内に存在する疾患に関する情報を用いて疾患の診断が的確に行えるように支援する診断支援装置、診断支援方法、およびそのプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の診断支援装置は、疾患を診断するために必要な複数の診断情報と該診断情報に基づいて診断が行われる疾患を表す疾患情報を少なくとも1以上記憶し、前記各疾患を診断する際に用いられる前記診断情報間および/または前記診断情報と該疾患との関係に応じて、前記診断情報間および/または前記診断情報と前記疾患情報とをリンクしたリンク情報を前記疾患情報ごとに記憶するリンク情報記憶手段と、
前記診断情報に応じて前記疾患が出現する出現確率、および前記診断情報を前記リンク情報に対応した組み合わせによって前記疾患が出現する出現確率を予め記憶する確率記憶手段と、
前記診断情報を少なくとも1以上入力する入力手段と、
該入力手段により入力された診断情報に関連する前記出現確率を前記確率記憶手段より検索し、前記各疾患情報のリンク情報に基づいて前記検索された前記出現確率を用いて前記疾患ごとに出現確率を取得する確率取得手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0014】
また、本願発明の診断支援方法は、疾患を診断するために必要な複数の診断情報と該診断情報に基づいて診断が行われる疾患を表す疾患情報を少なくとも1以上記憶し、前記各疾患を診断する際に用いられる前記診断情報間および/または前記診断情報と該疾患との関係に応じて、前記診断情報間および/または前記診断情報と前記疾患情報とをリンクしたリンク情報を前記疾患情報ごとに記憶するリンク情報記憶ステップと、
前記診断情報に応じて前記疾患が出現する出現確率、および前記診断情報を前記リンク情報に対応した組み合わせによって前記疾患が出現する出現確率を予め記憶する確率記憶ステップと、
前記診断情報を少なくとも1以上入力する入力ステップと、
該入力手段により入力された診断情報に関連する前記出現確率を前記確率記憶手段より検索し、前記各疾患情報のリンク情報に基づいて前記検索された前記出現確率を用いて前記疾患ごとに出現確率を取得する確率取得ステップとを備えたことを特徴とするものである。
【0015】
また、本願発明のプログラムは、
疾患を診断するために必要な複数の診断情報と該診断情報に基づいて診断が行われる疾患を表す疾患情報を少なくとも1以上記憶し、前記各疾患を診断する際に用いられる前記診断情報間および/または前記診断情報と該疾患との関係に応じて、前記診断情報間および/または前記診断情報と前記疾患情報とをリンクしたリンク情報を前記疾患情報ごとに記憶するリンク情報記憶手段とを備えたコンピュータを、
前記診断情報に応じて前記疾患が出現する出現確率、および前記診断情報を前記リンク情報に対応した組み合わせによって前記疾患が出現する出現確率を予め記憶する確率記憶手段と、
前記診断情報を少なくとも1以上入力する入力手段と、
該入力手段により入力された診断情報に関連する前記出現確率を前記確率記憶手段より検索し、前記各疾患情報のリンク情報に基づいて前記検索された前記出現確率を用いて前記疾患ごとに出現確率を取得する確率取得手段として機能させることを特徴とするものである。
【0016】
「診断情報」とは、種々の疾患を診断するため用いられる情報であって、例えば、医師が患者を診察した所見を入力装置からコード化し入力したデータや、検査結果の数値を入力したデータ、あるいは、CADによって得られた処理結果のデータなどである。
【0017】
「各疾患情報のリンク情報に基づいて前記検索された前記出現確率を用いて前記疾患ごとに出現確率を取得する」は、入力された診断情報がリンクされている各疾患情報の疾患の出現確率を取得することをいう。例えば、診断情報が肺癌と結核の両方のリンク情報にリンクされているのであれば、肺癌の出現確率と結核の出現確率の両方を取得してもよいし、肺癌の出現確率か結核の出現確率かのどちらかを取得してもよい。
【0018】
また、前記診断支援装置は、前記確率取得手段によって取得した各疾患の出現確率が高い順に前記疾患情報を表示する表示手段をさらに備えるようにしてもよい。
【0019】
さらに、前記診断支援装置は、前記リンク情報にリンクされた所定の疾患を診断する際に用いられる前記診断情報の中から前記入力手段から入力された診断情報を除いた前記診断情報の1つを前記入力された診断情報に加えることによって、前記確率取得定手段から得た前記所定の疾患の出現確率が前記入力手段から入力された診断情報を用いて前記確率取得定手段から得た前記所定の疾患の出現確率より高い診断情報を選択する選択手段とをさらに備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば、疾患を診断するために必要な複数の診断情報と疾患との関係に応じて、診断情報と疾患情報とをリンクしたリンク情報を記憶し、リンク情報に対応した診断情報の組み合わせによって各疾患が出現する出現確率を取得することにより、入力された診断情報から、その疾患である可能性を求めることができる。また、入力された診断情報がリンクしている疾患に全ての疾患の出現確率、つまり、1つ疾患のみならず複数の疾患の出現確率を得ることができるので、医師が考えていた疾患以外の疾患についても可能性があることを喚起することができる。
【0021】
また、各疾患の出現確率が高い順に前記疾患情報を表示することにより、いずれの疾患である可能性が高いかを判断することが可能になる。
【0022】
さらに、所定の疾患を診断する際に用いられる前記診断情報の中から入力された診断情報を除いた診断情報の1つを加えて求めた疾患の出現確率が、診断情報を加える前の疾患の出現確率より高い診断情報を選択するようにすれば、疾患の診断に必要な診断情報のうち未入力の診断情報を抽出して、確実性が高くなる診断項目を医師等に知らせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の診断支援装置の形態について、図に基づいて説明する。本実施の形態では、図1に示すように、本願発明の診断支援装置1がHIS2、RIS3などの情報システムにネットワークで接続されている場合について説明する。これらの情報システムでは、各病院内の棟・エリア・業務区間に応じてHIS端末22やRIS端末32やレポート端末33が分散して設置され、これらの端末はネットワーク36で相互接続される。さらに、RIS3には患者を撮影するモダリティ34や患者の画像を保管するDICOMサーバ31が設けられ、HIS2には電子カルテ200用の保管サーバ21が設けられているものとする。
【0024】
例えば、HIS端末22で受付入力をすると、保管サーバ21の電子カルテ200に登録され、各診療科で診察した内容や検査結果が電子カルテ200に記録される。また、RIS端末32からオーダ情報が入力され、RIS端末32はオーダ情報に応じた撮影を各モダリティ34に指示する。撮影された医用画像300は各モダリティ34からDICOMサーバ31に送信されて記憶保管される。
【0025】
RIS端末32は、検査・診断業務に必要とする医用画像300をDICOMサーバ31から取り出して表示する機能を備え、レポート端末33では検査や実施した診療の状況をレポート表示する機能を備えている。また、必要に応じてRIS端末32からCAD装置35に指示すれば、DICOMサーバ31に記憶保管されている画像に対して各種の画像処理を施し、その結果をRIS端末32やレポート端末33から確認することができる。さらに、検査結果の情報や実施状況に関する情報は電子カルテ200にも登録される。
【0026】
本願発明の診断支援装置1は、図2に示すように、過去診察したカルテなどに基づいて、その疾患を診断するために行なわれた診断所見や問診などの診断に必要な診断情報を登録した診断情報記憶手段(以下、診断情報データベースという)11と、診断情報データベース11に記憶された過去の診断情報に応じて、疾患を表す疾患情報と各疾患を診断する際に用いられる診断情報間あるいは診断情報と該疾患との関係に応じて、診断情報間あるいは診断情報と疾患情報とをリンクしたリンク情報を疾患情報ごとに記憶するリンク情報記憶手段12と、診断情報に応じて疾患が出現する出現確率あるいは診断情報をリンク情報に対応した組み合わせによって疾患が出現する出現確率を記憶する確率記憶手段13と、診断情報を入力する入力手段14と、入力された診断情報に関連する出現確率を確率記憶手段13より検索し、各疾患情報のリンク情報に基づいて検索された出現確率を用いて疾患ごとに出現確率を取得する確率取得手段15と、確率取得手段15によって取得した各疾患の出現確率が高い順に前記疾患情報を表示装置18などに表示する表示手段16と、リンク情報にリンクされた所定の疾患を診断する際に用いられる診断情報の中から入力手段14から入力された診断情報を除いた診断情報の1つを診断情報に加えると、疾患の出現確率が高くなる診断情報を選択する選択手段17を備える。
【0027】
1)診断情報データベースの作成
まず、診断情報データベース11の作成手法について説明する。過去のカルテなどに基づいて、疾患を診断するために行なわれた診断所見や問診などの診断に必要な診断情報を登録する。例えば、図3に示すように、大文字の英字(以下単に大文字という)で疾患名を登録し、その疾患名に対応する診断情報を登録する。診断情報として、疾患に一般的に現れる診断所見、各種モダリティによって撮影された医用画像300を読影して得られる読影所見、患者に対して問診して得られた問診結果、病理検査結果、その他の情報などがあり、これらを記号化して登録する。具体的には、#とそれに続く疾患名を表す英字の小文字(以下単に小文字という)と数字によって診断所見、$とそれに続く小文字と数字は読影所見、%とそれに続く小文字と数字は問診結果、&とそれに続く小文字と数字は病理検査結果、@とそれに続く小文字と数字はその他の情報を表すように記号化する。つまり、#、$、%、&、@は診断情報の種類を示し、また各診断情報における末尾の数字はその診断情報の大まかな分類を示すように決める。
【0028】
これにより、疾患名が異なっても、診断情報における末尾の数字が同じときには似通った情報(例えば似通った診断所見や病理検査結果)が得られることを示し、診断情報の微妙な違いは疾患名に関連した小文字で区別される。
【0029】
例えば、診断所見#の後ろにある数字は、1が喉の腫れ、2が発熱を示し、読影所見$の後ろにある数字は、1が磨りガラス状陰影パターン、2がツブツブ状陰影パターンを示し、問診結果%の後ろにある数字は、1は手足のしびれ、2は気怠さを示し、病理検査結果&の後ろにある数字は、1が血糖値が標準値よりも高い、2が血尿をそれぞれ示すように決める。
【0030】
この取り決めに従って、図3に示すように、疾患名(大文字の英字)などの疾患情報と、診断所見(#+小文字と数字)、読影所見($+小文字と数字)、問診結果(%+小文字と数字)、病理検査結果(&+小文字と数字)、およびその他の情報(@+小文字と数字)などからなる診断情報と前記疾患名を対応付けた診断情報データベース11を作成する。さらに、読影に用いられた医用画像300(DICOMサーバ31内に記憶されている画像など)と対応付けて記録するようにしてもよい。
【0031】
また、読影所見とともに、読影した腫瘤陰影の位置も一緒に記録するが、CAD装置35の機能を用いて、図4(a)に示すように医師がマウスなどを用いて黒矢印部分を入力すると対応する位置の解剖学的な位置情報等が自動的に記号化されて入力するようにすることも可能である。具体的には、例えば、同図(a)のような患者を撮影した胸部画像から同図(b)に示すような心胸郭の領域を抽出し(本願の出願人が出願の特開2002-109550など参照)、同図(c)に示すような肋骨のモデル形状と比較して黒矢印部分が右肺の第7肋骨と第8肋骨の間の位置であることを自動的に求めて、この情報を記号化する。あるいは、CAD装置35の機能を用いて自動検出した異常陰影の位置や癌らしさの値なども読影所見として記号化して記録するようにしてもよい。
【0032】
2)リンク情報の生成と出現確率
次にリンク情報の生成方法について説明する。所定の疾患の診断には、ある程度決められた診断情報が用いられ、例えば、肺の疾患場合には、以下のような診断情報に基づいて診断が行なわれる。
・患者の年齢
・喫煙年数
・血液検査の結果異常
・喀痰細胞診検査の結果異常
・単純X線検査の読影結果異常(CADの結果でも良い)
・CT検査の結果異常(CADの結果でも良い)
・ 過去の病歴(結核、気管支炎、他のガン)有無
【0033】
例えば、一般に喫煙年数が長くなるに従って癌の出現確率は高くなるが、胸部レントゲン写真や読影結果やCADの結果に肺癌を疑わせる所見があった場合にも、喫煙年数が長ければさらに癌の出現確率は高くなる。また、胸部レントゲン写真や読影結果やCADの結果が肺癌を疑わせるものであった場合には、合わせてCT検査や喀痰細胞診検査などが行なわれる。このように、各診断情報と癌の出現確率には関連性が認められ、癌であるか否かの診断には複数の診断情報から断定される。また、複数の所見が肺癌を肯定するものである場合には、肺癌の出現確率は高くなっていく。このような出現確率は、過去の診断情報と肺癌と診断されたケース、あるいは、肺癌ではないと診断されたケースから統計的に求めることができる。
【0034】
上述の肺の疾患を診断する診断情報のうちのいくつかは、肺癌の疑いがある場合にのみ適用されるのではなく、肺結核や気管支炎を診断する場合にも参考にされる診断情報もある。また、上述のように各疾患の診断を確定する際には複数の診断情報に基づいて行われるものが多く、ある疾患の出現率は、出現確率が高い診断情報と組み合わされればその疾患である確率が一段と高くなるが、出現確率が低い診断情報と組み合わされても、その疾患である確率はあまり変わらない場合もある。
【0035】
そこで、診断情報データベース11に記憶されている過去症例に基づいて、すべての疾患に対して診断を行う際に用いられる診断情報と疾患情報、あるいは、関連のある診断情報間にリンクを貼り、全診断情報の組み合わせから各疾患の出現確率を計算することが可能なようにるリンク情報を作成する。また、各診断情報から診断の対処となる全疾患の出現確率と、診断情報間に張られたリンクの条件付確率を過去症例から求める。
【0036】
例えば、肺癌の診断は、喫煙年数、肺癌の既往歴の有無、喀痰細胞診検査の結果が異常か正常か、単純X線撮影画像の読影結果、CT画像の読影結果などの診断情報から総合的にみて診断されるが、いくつかの診断情報を合わせて診断することによって出現確率が変化するものがある。そこで、図5に示すように、これらの関連のある診断情報間にリンクを張る。さらに、これらの診断情報は肺癌のみでなく結核である場合にも参考にされるものや、肺癌であるか結核であるかを判別する場合に用いられるものもあるので、これらの診断情報が疾患を診断するときに参照される疾患情報とリンクするようにリンク情報を生成してリンク情報記憶手段12に記憶する。
【0037】
例えば、喀痰細胞診検査の結果が異常であれば肺癌である確率は高くなり、正常である場合には肺癌である確率は低くなる。そこで、診断情報データベース11に記憶されている過去の診断結果に基づいて、診断情報「喀痰細胞診検査」から疾患情報が出現する出現確率や、診断情報「喀痰細胞診検査」と他の診断情報とのリンクに対応する条件付確率をそれぞれ求めて確率記憶手段13に記憶する。
【0038】
また、複数の診断情報を組み合わせて総合的に判断した場合の各疾患の出現確率は、各リンク間の条件付確率をベイズの定理などに従って算出することができる。ベイズの定理は、2つの事象 A,B があるとき,各事象の確率をPr{ A }、Pr{ B }とすると、以下の式で表される。
【数1】

【0039】
また、一般的には,B が r 個の排反事象に分かれるとき,排反事象の各確率をPr{ B }・・・Pr{ Bi }・・・Pr{ B }とすると、観察された事象 A の原因が Bi である確率Pr{ Bi|A}は以下の式で表される。
【数2】

【0040】
上式で表されるベイズの定理を用いて、図5に示すようなリンク情報に従って、各疾患の出現確率を算出する。また、このようにして得られた出現確率が、過去の診断情報から得られた疾患の出現確率と一致するように条件付確率を決める必要がある。
【0041】
このようなリンク情報の生成や確率(出現確率、条件付確率)の算出は、データマイニングツールなどを利用して診断情報データベース11に記憶されている診断情報から取得することが可能である。例えば、診断情報間の関係、あるいは、診断情報疾患との関係を、WAKE(Waikato Environment for Knowledge Analysis)などのデータマイニングツールを用いて決定木を自動的に生成して、それをリンク情報とする。また、診断情報から得られる所定の疾患の出現確率や条件付確率もこのようなデータマイニングツールを用いて取得する。
【0042】
3)患者の診断
次に、前述のリンク情報を用いて患者を診断する方法について具体的に説明する。
【0043】
新規患者に対して医師が診察を行い、入力手段14より診断情報を入力する。例えば、肺の疾患を診断する場合、喫煙年数、年齢(60歳)、過去の病歴(結核)、単純X線画像の結果(異常あり)を入力する(図6(A)参照)。そこで、この入力された診断情報とリンク情報を用いて、確率取得手段15により診断情報から診断される疾患の出現確率を全て算出する。出現確率は上記のベイズの定理を用いて、リンク情報に従って算出する。具体的には、ベイジアンネットなどのソフトウェアを利用することが可能である。
【0044】
疾患の出現確率は、入力された診断情報にリンクされている疾患情報全てについて計算されるが、図6(B)に示すように出現確率の高いものから順番に表示手段16に表示するようにしてもよい。
【0045】
また、診断支援装置1は、候補として検索された疾患の各疾患情報にリンクされている診断情報をリンク情報を辿って調べ、それぞれ疾患情報にリンクされている疾患情報のうち、手動で入力されなかった診断情報を診断支援装置1が自動的に自コンピュータ内や病院に設置されているシステムのコンピュータ内に存在するかを探索して、入力手段14から自動入力するようにしてもよい。
【0046】
例えば、診断支援装置1にDICOMサーバ31や電子カルテ200の保管サーバ21、あるいは各診療科におかれるRIS端末32、HIS端末22などの診断情報が記憶されていると考えられるコンピュータを予め登録しておき、自コンピュータ内に必要な診断情報が存在しない場合には、ネットワーク経由で登録されたコンピュータ(DICOMサーバ31、保管サーバ21、RIS端末32、HIS端末22など)に診断情報が記憶されていないかを順次探索する。
【0047】
具体的に、肺癌を診断する際のリンク情報に単純X線検査、CT検査、喀痰細胞診検査、肺癌の既往歴、患者の年齢などが診断情報としてリンクされていた場合を例に説明する。医師によって手動で、診断情報として「血液検査の結果:異常あり」と「患者の年齢:60歳」とが入力され、他の診断情報が入力されなかった場合、他の診断情報(単純X線検査、CT検査結果、喀痰細胞診検査結果、肺癌の既往歴など)は自コンピュータ内を探索したり、病院に設置されているコンピュータ内に存在するかをネットワーク経由で自動的に探索する。CT検査結果を探索した結果、DICOMサーバ31にも他のコンピュータにも記憶されていない場合にはCT検査の診断情報は未入力のままとなる。喀痰細胞診検査の結果を探索した結果、保管サーバ21内の電子カルテ200に「喀痰細胞診検査の結果異常あり」と記憶されている場合には、入力手段14から喀痰細胞診検査に関する診断情報に「異常有」として自動入力する。
【0048】
リンク情報にリンクされている全て診断情報の探索が終了すると、入力された診断情報に従って確率取得手段15で肺癌の出現確率を算出する。
【0049】
また、選択手段17は、自コンピュータ内やネットワーク経由で他のコンピュータを探索しても見つからず診断情報が未入力のままの診断情報を、癌のリンク情報にリンクされている診断情報の中から抽出して、未入力の診断情報の中の1つを加えた癌の出現確率を確率取得手段15により算出する。この未入力の診断情報の中の1つの診断情報を加えることによって、この診断情報を加える前より出現確率が高くなる診断情報を未入力の診断情報の中から選択し、出現確率が高くなる順番にソートして、1番目にソートされた診断情報の入力を促すように表示装置に表示する。
【0050】
例えば、確率取得手段15により、医師などが入力した診断情報と、自動探索した診断情報とに基づいて求めた肺癌の出現確率が「50%」で、さらに、選択手段17により肺癌のリンク情報にリンクされている診断情報の中から肺癌の出現確率が最も高くなる診断情報がCT検査である場合には、CT装置による撮影を促すように図7のような表示を行なう。
【0051】
上述では、肺癌の疾患情報にリンクされている診断情報のうち、手動で入力された診断情報と各コンピュータ内を探索して見つかった診断情報とを用いて出現確率を計算する場合について説明したが、まず、医師が手動で入力した診断情報のみを用いて確率取得手段15で出現確率を算出し、選択手段17によりリンク情報にリンクされた診断情報の中から未入力の診断情報を選択して、自コンピュータ内や病院に設置されている情報システムのコンピュータ内に存在するかを探索するようにしてもよい。
【0052】
また、例えば、探索する診断情報がCT検査の結果であった場合、診断支援装置1からDICOMサーバ31に接続して該当する患者のCT画像が見つかった場合には、CAD装置35にCTの断層画像を送信して画像解析処理を行い、その解析結果を記号化して診断情報として入力手段14から入力するようにしてもよい。あるいは、該当する患者のCT画像を診断支援装置1に送信して、診断支援装置1の画面上に表示したCT画像を医師が読影した結果を診断情報として入力手段14から入力するようにしてもよい。
【0053】
以上詳細に説明したように、コンピュータが能動的に足りない情報を探して、診断の精度を上げることができる、医師の手間を省くことができる。
【0054】
また、入力された診断情報から可能性のある疾患の出現確率を全て算出するので、医師が想定していた疾患以外の疾患についても候補として認識することができる。
【0055】
また、足りない診断情報を表示して医師に検査などの指針を示すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】システムの概略構成図。
【図2】診断支援装置の概略構成図
【図3】診断情報を記号化する方法を説明するための図
【図4】胸部画像から自動的にCAD装置の機能を用いて位置情報を記憶する方法を説明するための図
【図5】診断情報と疾患情報をリンクしたリンク情報の一例
【図6】各疾患の出現確率を表示した一例
【図7】診断情報の入力を促す表示の一例
【符号の説明】
【0057】
1 診断支援装置
2 HIS
3 RIS
11 診断情報データベース
12 リンク情報記憶手段
13 確率記憶手段
14 入力手段
15 確率取得手段
16 表示手段
17 選択手段
18 表示装置
21 保管サーバ
22 HIS端末
31 DICOMサーバ
32 RIS端末
33 レポート端末
34 モダリティ
200 電子カルテ
300 医用画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患を診断するために必要な複数の診断情報と該診断情報に基づいて診断が行われる疾患を表す疾患情報を少なくとも1以上記憶し、前記各疾患を診断する際に用いられる前記診断情報間および/または前記診断情報と該疾患との関係に応じて、前記診断情報間および/または前記診断情報と前記疾患情報とをリンクしたリンク情報を前記疾患情報ごとに記憶するリンク情報記憶手段と、
前記診断情報に応じて前記疾患が出現する出現確率、および前記診断情報を前記リンク情報に対応した組み合わせによって前記疾患が出現する出現確率を予め記憶する確率記憶手段と、
前記診断情報を少なくとも1以上入力する入力手段と、
該入力手段により入力された診断情報に関連する前記出現確率を前記確率記憶手段より検索し、前記各疾患情報のリンク情報に基づいて前記検索された前記出現確率を用いて前記疾患ごとに出現確率を取得する確率取得手段とを備えたことを特徴とする診断支援装置。
【請求項2】
前記確率取得手段によって取得した各疾患の出現確率が高い順に前記疾患情報を表示する表示手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の診断支援装置。
【請求項3】
前記リンク情報にリンクされた所定の疾患を診断する際に用いられる前記診断情報の中から前記入力手段から入力された診断情報を除いた前記診断情報の1つを前記入力された診断情報に加えることによって、前記確率取得定手段から得た前記所定の疾患の出現確率が前記入力手段から入力された診断情報を用いて前記確率取得定手段から得た前記所定の疾患の出現確率より高い診断情報を選択する選択手段とをさらに備えたことを特徴とする請求項1または2記載の診断支援装置。
【請求項4】
疾患を診断するために必要な複数の診断情報と該診断情報に基づいて診断が行われる疾患を表す疾患情報を少なくとも1以上記憶し、前記各疾患を診断する際に用いられる前記診断情報間および/または前記診断情報と該疾患との関係に応じて、前記診断情報間および/または前記診断情報と前記疾患情報とをリンクしたリンク情報を前記疾患情報ごとに記憶するリンク情報記憶ステップと、
前記診断情報に応じて前記疾患が出現する出現確率、および前記診断情報を前記リンク情報に対応した組み合わせによって前記疾患が出現する出現確率を予め記憶する確率記憶ステップと、
前記診断情報を少なくとも1以上入力する入力ステップと、
該入力手段により入力された診断情報に関連する前記出現確率を前記確率記憶手段より検索し、前記各疾患情報のリンク情報に基づいて前記検索された前記出現確率を用いて前記疾患ごとに出現確率を取得する確率取得ステップとを備えたことを特徴とする診断支援方法。
【請求項5】
疾患を診断するために必要な複数の診断情報と該診断情報に基づいて診断が行われる疾患を表す疾患情報を少なくとも1以上記憶し、前記各疾患を診断する際に用いられる前記診断情報間および/または前記診断情報と該疾患との関係に応じて、前記診断情報間および/または前記診断情報と前記疾患情報とをリンクしたリンク情報を前記疾患情報ごとに記憶するリンク情報記憶手段と、
前記診断情報に応じて前記疾患が出現する出現確率、および前記診断情報を前記リンク情報に対応した組み合わせによって前記疾患が出現する出現確率を予め記憶する確率記憶手段とを備えたコンピュータを、
前記診断情報を少なくとも1以上入力する入力手段と、
該入力手段により入力された診断情報に関連する前記出現確率を前記確率記憶手段より検索し、前記各疾患情報のリンク情報に基づいて前記検索された前記出現確率を用いて前記疾患ごとに出現確率を取得する確率取得手段として機能させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−181037(P2006−181037A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376605(P2004−376605)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】