説明

証明用媒体、証明方法及び証明システム

【課題】 安価に製造することができ、かつ、偽造に対する耐性が高く、真正性の判定を容易に行うことができる証明用媒体、証明方法及び証明システムを提供する。
【解決手段】
少なくとも一の特定波長の光を反射する実質的に平坦な表面を有する基板の表面にレーザー加工に基づく立体的な形状が付与された複数の変形部を形成し、或いは少なくとも一の特定波長の光を透過する材質で形成された第1の屈折率を有する部材の表面又は内部に、レーザー加工により形成された前記第1の屈折率と異なる屈折率を有する複数の屈折率変化部を形成することで証明用媒体を構成し、この証明用媒体に上記特定波長の光を含む参照光を照射したときの反射光、又は、透過光により形成される干渉パターンに基づいて、証明用媒体の真正性の判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、株券、債権、小切手、手形などの有価証券、或いは、クレジットカード、キャッシュカードなどのカード類、免許証、パスポートなどの証明書類、その他、商品券、乗車券、入場券などの券類に特に好適に使用することができる証明用媒体、或いは、その証明用媒体を用いた証明方法、並びに、証明システムに関し、更に詳細には、偽造に対する耐性が高く、安価に製造することができる証明用媒体及びその証明方法、証明システムに関する。
【背景技術】
【0002】
銀行やクレジット会社が発行しているキャッシュカードやクレジットカードには、プラスチックカードにテープ状の磁気記録媒体を貼り付けた磁気カードが使用されている場合が多い。
【0003】
この磁気カードは、磁気記録媒体に記録された情報の読み取りや、複製が容易であり、磁気カードの偽造や不正使用が大きな問題となっている。
【0004】
このため、この種のカードにおいては、磁気記録に暗証番号やICチップ、ホログラムなどを併用するなどの偽造対策が行われている。
【0005】
しかし、暗証番号は使用者の個人情報などから類推される場合があり、セキュリティに万全を期すためには、ある程度の頻度で暗証番号を変更しなければならないなど、煩雑な面がある。
【0006】
また、ICチップはそれ自体が高価であり、また、インフラ整備などの問題から、ICチップの使用に踏み出さない企業も多いのが実状であり、ホログラムカードも同様に高価である問題があり、更に、カラーコピーによる偽造への対策としては一応の効果はあるものの、その構造が簡単であるためにホログラム自体の偽造が行われ易いという問題がある。
【特許文献1】特開2004−252415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みて、安価に製造することができ、かつ、偽造に対する耐性が高い証明用媒体、証明方法及び証明システムを提供することをその目的とする。
【0008】
また本発明は、真正性の判定を容易に行うことができる証明用媒体、証明方法、証明システムを提供することをもその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記問題点を解決したものであり、少なくとも一の特定波長の光を反射する実質的に平坦な表面を有する基板から構成される証明用媒体であって、前記基板の表面にレーザー加工に基づく立体的形状が付与された複数の変形部が形成されていることを特徴とする証明用媒体、或いは、少なくとも一の特定波長の光を反射する実質的に平坦な表面を有する基板から構成され、前記基板の表面にレーザー加工に基づく立体的形状が付与された複数の変形部を有する証明用媒体に対して、所定の角度から前記特定波長の光を含む参照光を照射し、前記証明用媒体からの前記参照光の反射光により形成される干渉パターンに基づいて前記証明用媒体の真正性の判定を行うことを特徴とする証明方法、或いは、少なくとも一の特定波長の光を反射する実質的に平坦な表面を有する基板から構成され、前記基板の表面にレーザー加工に基づく立体的形状が付与された複数の変形部を有する証明用媒体を所定の位置に保持する証明用媒体保持手段と、前記証明用媒体収容部に収容された前記証明用媒体に対して、所定の角度から前記特定波長の光を含む参照光を照射する参照光照射手段と、前記証明用媒体からの前記参照光の反射光により形成される干渉パターンを撮影する撮影手段と、予め登録された基準画像と前記撮影手段により撮影された前記干渉パターンの画像とを対比することにより前記証明用媒体の真正性の判定を行う判定手段とを備えることを特徴とする証明用媒体の真正性判定システムである。
【0010】
本発明においては、レーザー加工により変形部に与える立体的形状は、レーザー加工の際のレーザーの照射条件、例えば、レーザーの照射時間、レーザーパワー、照射角度、焦点の位置などによって様々に変化させることができる。
【0011】
また、レーザー加工に基づいて立体的形状を付与された複数の変形部に参照光を照射したときの反射光が形成する干渉パターン(スペックルパターンを含む)は、各変形部の配列の態様や平面的な形態(証明用媒体の表面側から観察したときの変形部の形状や大きさ)によって変化するだけでなく、変形部の立体的形状(変形部が基板の表面から凹陥した形状を有している場合には、その凹陥部の深さや底面乃至側面の形状や大きさ、変形部が基板の表面から隆起した形状を有している場合には、その隆起部の外周面の形状や大きさ)によっても変化する。
【0012】
従って、本発明に係る証明用媒体に所定の角度から参照光を照射したときの反射光が形成する干渉パターンを観察し、或いは、予め登録された基準画像(正規の証明用媒体に上記所定の角度から参照光を照射することで得られる干渉パターンの画像であって、予め証明システムなどが備える記録媒体に記録・保管されている画像)と対比することにより、証明用媒体に形成された複数の変形部の配列、平面的な形状、及び、立体的形状が、正規の証明用媒体のものと実質的に同一であるか否かを判定し、これにより、証明用媒体の真正性を判定することが可能である。
【0013】
その一方で、証明用媒体を如何に観察、分析などしたとしても、レーザー加工に基づいて形状が付与された個々の変形部の立体的な形状を把握することは困難であり、また、仮に、その立体的形状が把握できたとしても、レーザー加工により形成された微細な立体的形状は、マイクロマシンなどを使用して再現することは不可能であり、更に、同種のレーザー装置が使用されたとしても、正規の証明用媒体の変形部を形成する際のレーザー加工の条件が分からない限り、変形部の立体的形状を再現することは不可能である。
【0014】
従って、本発明の証明用媒体、証明方法、及び、証明システムは、証明用媒体の真正性の判定を簡易かつ確実に行い得るという特質と、偽造に対する耐性が極めて高いという特質を併せ持つものということができる。
【0015】
また、本発明の証明用媒体は、レーザー加工の容易性等からその製作コストを極めて低廉なものとすることが可能であり、例えば、期日を過ぎれば価値を失うイベントのチケット類等に特に好適に使用することができる。
【0016】
本発明の証明用媒体を構成する基板は、少なくとも一の特定波長の光を反射し、変形部が形成される部分において実質的に平坦な表面を有していることが必要である。
【0017】
また、本発明の証明用媒体は、複数の変形部が形成された部分以外の部分に、氏名、住所、本人の写真画像等、或いは、口座番号、発行日、有効期限等、或いは、イベントなどの期日、場所、入場料金など、それぞれ必要とされる情報を印刷その他の方法により施すことで、本発明の証明用媒体を単体でクレジットカードやキャッシュカードなどのカード類、免許証などの証明書類、商品券や入場券などの他の券類として使用することも可能であり、また、薄膜状の素材に複数の変形部を形成した本発明の証明用媒体を、貼り付けなどの任意の方法により、これらのカード類、証明書類、その他の券類と一体化し、これらの真正性の証明をするものとして使用することも可能である。
【0018】
また、本発明の証明方法、証明システムにおいて使用する参照光としては、位相が揃った光、特に単色のレーザー光を使用することが好ましく、これにより、複数の変形部からの反射光により形成される干渉パターンをより明瞭なものとすることが可能であり、パターンマッチングなどのコンピュータ処理による真正性の判定をより確実なものとすることが可能となる。
【0019】
また、本発明では、複数の変形部のうちの少なくとも一の変形部の立体的形状が、他の一の変形部の立体的形状とは相違するように構成することも可能であり、これにより、各変形部の立体的形状の把握をより困難なものとし、偽造に対する耐性を一層高めることが可能である。
【0020】
なお、複数の変形部のうちの少なくとも一の変形部の立体的形状が、他の一の変形部の立体的形状と相違するとは、複数の変形部の全てが同一の立体的形状を有しているのではないことを意味するが、それぞれの変形部についてのレーザー加工の条件を予め定めておくことで、容易に変形部毎の立体的形状を変化させることが可能である。
【0021】
本発明における変形部は、基板の表面にレーザー光を照射することにより形成された凹陥部とすることが可能であり、例えば基板としてアルミニウム、ステンレス、或いは、銅などの金属の板状体、薄膜体を使用し、この基板の表面にレーザー光を適切な条件で照射することにより上記凹陥部を形成することができる。
【0022】
また、本発明における変形部は、基板の表面にレーザー光を照射することにより形成された隆起部とすることも可能である。
【0023】
このような隆起部は、例えばガラス基材及びこのガラス基材上に積層された金属薄膜から構成される基板の金属薄膜側の表面にレーザー光を適切な条件で照射することにより形成することが可能である。
【0024】
この加工法は、上記凹陥部の加工法と比較して、高い加工再現性を有しており、また個々の隆起部の立体的形状を端正で滑らかなものとできる。従って、証明用媒体に参照光を照射したときに得られる干渉パターンをより鮮明で規則性の高いものとすることができ、証明用媒体の真正性の判定の容易性、確実性を一層高めることが可能である。
【0025】
上記の方法における隆起部形成のメカニズムは必ずしも明かとされている訳ではないが、一般的にはガラス基材と金属薄膜の間における気体膨張により上記隆起部が形成されると考えられており、実験によれば、金属薄膜としてCr、Mo、W、Fe、Au、Agなどの遷移金属を用いることで隆起部の形成を容易化できることが判っている。また、この金属薄膜の特に好ましい膜厚範囲は20〜500nmであり、ガラス基板上への金属薄膜の積層は、蒸着や接着剤を用いた接着等により行うことができる。
【0026】
本発明における変形部は、シリコン又は石英ガラスよりなる基材の表面にレーザー光を適切な条件で照射することにより複数の隆起を形成し、この複数の隆起が形成された基材表面に金属薄膜を積層することで形成される隆起部とすることも可能である。
【0027】
この加工法は、上記凹陥部の加工法と比較して、高い再現性を有しており、また個々の隆起部の立体的形状を端正で滑らかなものとできる。従って、証明用媒体に参照光を照射したときに得られる干渉パターンをより鮮明で規則性の高いものとすることができ、証明用媒体の真正性の判定の容易性、確実性を一層高めることが可能である。
【0028】
この場合における基材上の隆起は、一般にはレーザー照射部におけるシリコン又は石英ガラスの変質(主に酸化)により生じるものと考えられているが、シリコン又は石英ガラスよりなる基材の表面に例えば1〜3μm程度の樹脂(例えばPMMA樹脂)を塗布した状態でレーザー光を照射することによってデブリの付着を防止し、比較的大きいサイズの隆起を容易に形成することが可能になる。シリコン又は石英ガラスよりなる基材上への金属薄膜の積層は、蒸着や接着などの方法により行うことが可能である。
【0029】
本発明における変形部は、シリコン又は石英ガラスよりなる基材の表面にレーザー光を適切な条件で照射することにより複数の隆起を形成し、この隆起を金属薄膜よりなる基板に転写することにより得られる隆起部とすることも可能である。
【0030】
この場合における基材上の隆起は、上記と同様シリコン又は石英ガラスの変質(主に酸化)により生じるものと考えられており、シリコン又は石英ガラスよりなる基材の表面に例えば1〜3μm程度の樹脂(例えばPMMA樹脂)を塗布した状態でレーザー光を照射することにより、デブリの付着を防止し、比較的大きいサイズの隆起を容易に形成することが可能になる。基材上の隆起の金属薄膜への転写は、隆起が形成された基材上に蒸着や接着などの方法により金属薄膜を積層した後に、この金属薄膜を剥離することにより行うことが可能である。
【0031】
この加工法においても、上記凹陥部の加工法と比較して、高い再現性を得ることができ、また個々の隆起部の立体的形状を端正で滑らかなものとできる。従って、証明用媒体に参照光を照射したときに得られる干渉パターンをより鮮明で規則性の高いものとすることができ、証明用媒体の真正性の判定の容易性、確実性を一層高めることが可能である。
【0032】
また本発明は、少なくとも一の特定波長の光を透過し、第1の屈折率を有する部材から構成される証明用媒体であって、前記部材の表面又は内部に、レーザー加工により形成された前記第1の屈折率と異なる屈折率を有する複数の屈折率変化部を有することを特徴とする証明用媒体、或いは、少なくとも一の特定波長の光を透過し、第1の屈折率を有する部材から構成され、前記部材の内部に、レーザー加工により形成された前記第1の屈折率と異なる屈折率を有する複数の屈折率変化部を有する証明用媒体に対して、所定の角度から前記特定波長の光を含む参照光を照射し、前記証明用媒体からの前記参照光の透過光により形成される干渉パターンに基づいて前記証明用媒体の真正性の判定を行うことを特徴とする証明方法、或いは、少なくとも一の特定波長の光を透過し、第1の屈折率を有する部材から構成され、前記部材の内部に、レーザー加工により形成された前記第1の屈折率と異なる屈折率を有する複数の屈折率変化部を有する証明用媒体を収容する証明用媒体収容部と、前記証明用媒体収容部に収容された前記証明用媒体に対して、所定の角度から前記特定波長の光を含む参照光を照射する参照光照射手段と、前記証明用媒体からの前記参照光の透過光により形成される干渉パターンを撮影する撮影手段と、予め登録された基準画像と前記撮影手段により撮影された前記干渉パターンの画像とを対比することにより前記証明用媒体の真正性の判定を行う判定手段とを備えることを特徴とする証明用媒体の真正性判定システムである。
【0033】
本発明において、レーザー加工により形成される屈折率変化部は、レーザー加工の際のレーザーの照射条件、例えば、レーザーの照射時間、レーザーパワー、照射角度、焦点の位置などにより、任意にその立体的形状を変化させることが可能である。
【0034】
また、レーザー加工により形成された複数の屈折率変化部に参照光を照射したときの透過光が形成する干渉パターン(スペックルパターンを含む)は、複数の屈折率変化部の配列の態様や大きさによって変化するだけでなく、屈折率変化部の立体的な形状、或いは、部材中の深さ方向における位置によっても変化する。
【0035】
従って、本発明に係る証明用媒体に所定の角度から参照光を照射したときの透過光が形成する干渉パターンを観察し、或いは、予め登録された基準画像(正規の証明用媒体に上記所定の角度から参照光を照射することで得られる干渉パターンの画像であって、予め証明システムなどが備える記録媒体に記録・保管されている画像)と対比することにより、証明用媒体に形成された複数の屈折率変化部の配列、平面的な形状、立体的形状、及び、深さ方向における位置が、正規の証明用媒体のものと実質的に同一であるか否かを判定し、これにより、証明用媒体の真正性を判定することが可能である。
【0036】
その一方で、証明用媒体を如何に観察、分析などしたとしても、レーザー加工により形成された個々の屈折率変化部の立体的な形状や深さ方向における位置などを把握することは困難であり、また、仮に、その立体的形状や深さ方向における位置が把握できたとしても、マイクロマシンなどを使用して媒体内部に屈折率変化部を形成することは不可能であり、更に、同種のレーザー装置が使用されたとしても、正規の証明用媒体の屈折率変化部の形成の際のレーザー加工の条件が分からない限り、屈折率変化部の立体的形状を再現することは不可能である。
【0037】
従って、本発明の証明用媒体、証明方法、及び、証明システムは、証明用媒体の真正性の判定を簡易かつ確実に行い得るという特質と、偽造に対する耐性が極めて高いという特質を併せ持つものということができる。
【0038】
また、本発明の証明用媒体は、レーザー加工の容易性等からその製作コストを極めて低廉なものとすることが可能であり、例えば、期日を過ぎれば価値を失うイベントのチケット類等に特に好適に使用することができる。
【0039】
本発明の証明用媒体に使用する素材は、少なくとも一の特定波長の光を透過させる特性を有していることが必要であり、例えば、当該特定波長の光に対して十分な透明性を有するアクリルやガラスなどの板状体、ロッド、フィルムなどを使用することができる。
【0040】
また、本発明の証明用媒体は、複数の屈折率変化部が形成された部分以外の部分に、氏名、住所、本人の写真画像等、或いは、口座番号、発行日、有効期限等、或いは、イベントなどの期日、場所、入場料金など、それぞれ必要とされる情報を印刷その他の方法により施すことで、本発明の証明用媒体を単体でクレジットカードやキャッシュカードなどのカード類、免許証などの証明書類、商品券や入場券などの他の券類として使用することも可能であり、また、フィルム状の素材に複数の屈折率変化部を形成した本発明の証明用媒体を、貼り付けなどの任意の方法により、これらのカード類、証明書類、その他の券類と一体化し、これらの真正性を証明するものとして使用することも可能である。
【0041】
また、本発明の証明方法、証明システムにおいて使用する参照光としては、位相が揃った光、特に単色のレーザー光を使用することが好ましく、これにより、複数の屈折率変化部からの透過光により形成される干渉パターンをより明瞭なものとすることが可能であり、パターンマッチングなどのコンピュータ処理による真正性の判定をより確実なものとすることが可能となる。
【0042】
また、本発明では、複数の屈折率変化部のうちの少なくとも一の屈折率変化部の立体的形状を、他の一の屈折率変化部の立体的形状とは相違するようにレーザー加工を行うことも可能であり、これにより、各屈折率変化部の立体的形状の把握をより困難なものとし、偽造に対する耐性を一層高めることが可能である。
【0043】
なお、複数の屈折率変化部のうちの少なくとも一の屈折率変化部の立体的形状が、他の一の屈折率変化部の立体的形状と相違するとは、複数の屈折率変化部の全てが同一の立体的形状を有しているのではないことを意味するが、本発明における個々の屈折率変化部は、レーザー加工により形成されるものであるため、それぞれの屈折率変化部についてのレーザー加工の条件を予め定めておくことで、容易に屈折率変化部毎に立体的形状を変化させることが可能である。
【0044】
また本発明では、証明用媒体を構成する部材をシリコン又は石英ガラスから形成し、この部材の表面にレーザー光を照射することにより、部材の表面に隆起する屈折率変化部を形成することが可能であり、この場合には、屈折率変化部の立体的形状を端正で滑らかなものとできるために、照明媒体に参照光を照射したときの透過光により得られる干渉パターンをより鮮明で規則性の高いものとすることができ、照明媒体の真正性の判定の容易性、確実性を一層高めることが可能である。
【0045】
この場合における屈折率変化部は、上記の通り、一般にはレーザー照射部におけるシリコン又は石英ガラスの変質(主に酸化)により隆起を生じると考えられており、同時に、この変質(参加)によって隆起部分の屈折率に変化を生じると考えられている。なお、上記と同様に、シリコン又は石英ガラスよりなる基材の表面に例えば1〜3μm程度の樹脂(例えばPMMA樹脂)を塗布した状態でレーザー光を照射することによってデブリの付着を防止し、比較的大きいサイズの隆起を容易に形成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0047】
図1(a)は、金属など、少なくとも一の特定波長の光を反射するワーク2上にレーザー光1を照射することにより凹陥部が形成される様子を模式的に示す説明図であり、図1(b)は、照射するレーザー光1のレーザーパワーを変化させたときに形成される凹陥部4の断面形状の変化を模式的に示す説明図であり、図1(c)、(d)は、形成された凹陥部4の断面形状により異なる態様の干渉パターン6a、6bが形成されることを示す概念説明図である。
【0048】
図1(a)に示されるように、レーザー光1をワーク2の表面2aの法線方向から照射することで、表面2aに凹陥部を形成することができる。図中3は、レーザー光1の焦点1aを調整するためのレンズ系であり、図示の例では、焦点1aは、表面2a上に位置するように調整されている。
【0049】
また、図1(b)に示されるように、図1(a)におけるレーザー光1のレーザーパワーを変化させることにより、凹陥部4の立体的形状(断面形状)を変化させることが可能であり、レーザーパワーを強くする程、凹陥部4はより深くなるとともに、底面4aが表面2aと成す角θは大きくなる。
【0050】
なお、レーザー光1のレーザーパワーが一定の場合でも、例えば、レーザー光1の照射時間を長くし、或いは、レーザー光1の照射回数を増加させることにより、図1(b)においてレーザー光1のレーザーパワーを強くした場合と同様の態様で、底面4aが表面2aと成す角θを変化させることができる。
【0051】
また、例えば、レーザー光1の照射によって凹陥部4が深くなっていくのに伴って、焦点1aの位置をワーク2の深さ方向(図1(a)の右方向)に移動させていくことで、深さが深く、底面4aが表面2aと成す角θが小さい凹陥部4を形成することができ、レーザー光1の光軸を表面2aの法線方向から傾斜させて加工を行うことで、底面4aの形状が表面2aの法線に対して非対称とされた凹陥部4を形成することができるなど、レーザー加工の条件によって、様々な立体的形状を有する凹陥部4を形成することが可能である。
【0052】
また、例えば、レンズ系3により焦点1aの径を調整し、或いは、マスクを使用するなどにより、凹陥部4の平面的な形態(表面2a側から観察したときの凹陥部4の開口部の形状や大きさ)を様々に変化させることが可能である。
【0053】
このような凹陥部4が複数形成されたワーク2に対して、上記特定波長の光を含む参照光5を照射すると、表面2aからの反射光5aと凹陥部4からの反射光5bとの干渉により干渉パターン6a、6bが形成される。
【0054】
この場合、複数の凹陥部4の配列が異なれば、得られる干渉パターンも異なったものとなるが、複数の凹陥部4の配列が同一であっても、同一の立体的形状を有する凹陥部4が配列されている場合(図1(c))と、異なる立体的形状を有する凹陥部4が配列されている場合(図1(d))とでは、個々の凹陥部4からの反射光5bの方向や強度が相違することとなる結果、それぞれ異なる態様の干渉パターン6a、6bが形成されることになる。
【0055】
図2(a)は、ワーク2上にレーザー光1を照射することにより隆起部4が形成される様子を示す説明図であり、図2(b)は、レーザー光1の照射条件を変化させたときの隆起部4の立体的形状の変化を模式的に示す説明図である。
【0056】
図2(a)におけるワーク2は、ガラス基材2sと、このガラス基材2s上に蒸着や接着などの方法により積層された金属薄膜2mとから構成されている。
【0057】
このワーク2の表面2aに対して、レンズ系3により絞られたレーザ光1を照射することで端正で滑らかな立体的形状を有する隆起部4を形成することができ、このような隆起部4が複数形成されたワーク2を、証明用媒体を構成する基板9aとして使用することができる。
【0058】
この隆起部は、一般には、照射されたレーザ光1のエネルギーによりガラス基材2sと金属薄膜2m間において気体膨張7aが発生して金属薄膜2mがガラス基板2sから剥離することで生じるものと考えられている。
【0059】
この加工法では、図2(b)に示すように、レーザーパワーを大きく、かつビーム径を小さくすることで、平面的な面積(表面2a側から観察したときの面積)が小さく、かつ高さ寸法(表面2aの法線方向の寸法)が大きい隆起部4aを形成することができ、レーザーパワーを大きく、かつビーム径を大きくすることで、平面的な面積が大きく、かつ高さ寸法が大きい隆起部4bを形成することができ、レーザーパワーを小さく、かつビーム径を大きくすることで、平面的な面積が大きく、かつ高さ寸法が小さい隆起部4cを形成することができるなど、レーザー照射の条件によって、隆起部4a〜4cの立体的形状を様々に変化させることができる。
【0060】
なお、レーザー光のパワーが一定の場合でも、例えば、レーザー光の照射時間を長くし、或いは、レーザー光の照射回数を増加させることにより、レーザーパワーを大きくする場合と同様の効果を得ることが可能であり、レーザーパワーやビーム径だけでなく、例えば、レーザー光のワーク2に対する照射角度を調整し、加工中におけるビーム焦点の位置を変化させ、或いはマスクを用いてビーム形状に変化を与えることによっても、隆起部の立体的形状を様々に変化させることが可能である。
【0061】
図3(a)は、ワーク2上にレーザー光1を照射することにより隆起4′が形成される様子を示す説明図であり、図3(b)は、レーザー光1の照射条件を変化させたときの隆起4′の立体的形状の変化を模式的に示す説明図である。
【0062】
図3(a)におけるワーク2は、シリコン又は石英ガラスから構成されており、このワーク2の表面2aに対して、レンズ系3により絞られたレーザ光1を照射することで端正で滑らかな立体的形状を有する隆起4′を形成することができる。
【0063】
この隆起4′は、レーザー光1の照射部においてシリコン又は石英ガラスが変質(主に酸化)することにより体積の増大領域7bを生じることで形成されるものと考えられている。
【0064】
図3(a)に示す加工法における隆起4′は可視光領域の参照光に対して比較的高い透明度を有するが、図3(b)に示すように、少なくとも一の特定波長を反射する金属薄膜8を蒸着や接着などの方法によりワーク2の表面2aに積層することで金属薄膜8に隆起部4を形成し、このワーク(基材)2及び金属薄膜8からなる基板9bを本発明に係る証明用媒体として使用することができる。
【0065】
また、図3(b)の方法により得られるワーク(基材)2と金属薄膜8の積層体から金属薄膜8を剥離し(図3(c))、この剥離した金属薄膜8を本発明に係る証明用媒体を構成する基板9cとすることも可能であり、この場合には、複数の隆起4′が形成された単一のワーク(基材)2を用いて多数の基板9cを製作することが可能であるため、基板9cの大量生産化を図ることができる。
【0066】
ワーク(基材)2上における隆起4′の形成に際しては、図3(d)に示すように、レーザーパワーを大きく、かつビーム径を小さくすることで、平面的な面積が小さく、かつ高さ寸法が大きい隆起4a′を形成することができ、レーザーパワーを大きく、かつビーム径を大きくすることで、平面的な面積が大きく、かつ高さ寸法が大きい隆起4b′を形成することができ、レーザーパワーを小さく、かつビーム径を大きくすることで、平面的な面積が大きく、かつ高さ寸法が小さい隆起4c′を形成することができるなど、レーザー照射の条件によって、隆起4a′〜4c′の立体的形状を様々に変化させることができ、これにより、様々に立体的形状を変化させた隆起部が形成された基板9b、9cを得ることができる。
【0067】
また、レーザー光のレーザーパワーが一定の場合でも、例えば、レーザー光の照射時間を長くし、或いは、レーザー光の照射回数を増加させることにより、レーザーパワーを大きくする場合と同様の効果を得ることが可能であり、レーザーパワーやビーム径だけでなく、例えば、レーザー光のワーク2に対する照射角度を調整し、加工中におけるビーム焦点の位置を変化させ、或いはマスクを用いてビーム形状に変化を与えることによっても、隆起の立体的形状を様々に変化させることが可能である。
【0068】
なお、上記した基板9a〜9cは力学的な脆弱さを有しているため、外力による隆起部などの変形を防止するために、上記特定波長の光に対して十分な透明性を有する樹脂などにより基板9a〜9cの表面、裏面又は全体をコーティングすることが好ましい。
【0069】
図4(a)〜(c)は、複数の隆起部4を有する上記基板9a〜9cから構成される証明用媒体に上記特定波長の光を含む参照光5を照射することで干渉パターン6が形成される様子を示す説明図であり、基板9a又は9bを用いる場合には、図4(a)に示すように、その表面に参照光5を照射したときの反射光により干渉パターン6を形成させることが可能であり、この干渉パターン6は、複数の凹陥部が形成された基板からの反射光により形成される干渉パターンについての上記説明と同様のメカニズムにより、突起部4の配列、大きさ、立体的形状などにより変化する。
【0070】
また、基板9cを用いる場合には、図4(b)に示すように、基板9cの表面に参照光5を照射したときの反射光により干渉パターン6を形成させ、或いは、図4(c)に示すように、基板9cの裏面に参照光5を照射したときの反射光により干渉パターン6を形成させることが可能であり、この場合も、干渉パターン6は、複数の凹陥部が形成された基板からの反射光により形成される干渉パターンについての上記説明と同様のメカニズムにより、突起部4の配列、大きさ、立体的形状などにより変化する。
【0071】
図5(a)は、少なくとも一の特定波長の光を透過するアクリルなどの素材からなるワーク2にレーザー光1を照射することによりワーク2の内部に屈折率変化部4a〜4cが形成される様子を模式的に示す説明図であり、図5(b)は、ワーク2に参照光5を照射したときの透過光により干渉パターン6が形成される様子を模式的に示す説明図である。
【0072】
図5(a)に示されるように、レンズ系3により焦点1aをワーク2の内部に位置決めされたレーザー光1の照射により、ワーク2本来の屈折率とは異なる屈折率の屈折率変化部4a〜4cが形成される。
【0073】
この屈折率変化部4a〜4cは、レーザー光1によるワーク2の変質や気泡発生等により形成されるものであり、その立体的形状は、例えば、ワーク2がアクリル樹脂である場合には、焦点1aの位置を一定に保った状態で所定時間のレーザー照射を行うことで、屈折率変化部4aのように球に近い等方的な形状とし、焦点1aをワーク2の厚み方向、或いは、これに垂直な方向に移動させつつレーザー照射を行うことで、4b、4cのように厚み方向に長い、或いは、扁平な形状の屈折率変化部を形成することができるなど、レーザー加工の条件によって、様々な大きさ、及び、立体的形状を有する屈折率変化部を形成することができる。
【0074】
なお、図の例では、表面及び裏面が平坦なワーク2が示されているが、ワーク2の表面及び/又はを凹面又は凸面に形成することで干渉パターン6の大きさを調整するなどが可能であり、或いは、表面及び裏面に比平坦部を有する場合には、これによる屈折を補正するためのレンズを用いて干渉パターン6を得ることも可能である。
【0075】
またレーザー光1により形成される屈折率変化部の形状は、使用する素材によっても相違し、例えば、ワーク2としてガラスを使用した場合には、細長いクラック状の屈折率変化部が形成される。
【0076】
ワーク2に上記特定波長の光を含む参照光5を照射した場合には、図5(b)に示されるように、屈折率変化部を通過しない透過光と、それぞれの屈折率変化部を通過した透過光のワーク2からの出射角の違いにより干渉パターン6が形成されるが、この干渉パターンは、複数の凹陥部又は隆起部が形成された基板からの反射光により形成される干渉パターンについての上記説明と同様のメカニズムにより、屈折率変化部の配列、大きさ、立体的形状などにより変化する。
【0077】
また、図3(a)、(d)について上記した通り、少なくとも一の特定波長の光を透過する材料であるシリコン又は石英ガラスよりなるワーク2に対して、レンズ系3により絞られたレーザー光1を照射することにより、ワーク2の表面2aに複数の突起状の形状を有する屈折率変化部4´を形成することが可能であり、このような複数の屈折率変化部4´が形成されたワーク2に対して図5(b)と同様の態様で上記特定波長の光を照射した場合にも、屈折率変化部2の配列、大きさ、立体的形状などにより変化する干渉パターン6を得ることが可能である。
【0078】
なお、この場合のワーク2も上記と同様、その表面及び/又は裏面は平坦である必要はない。
【0079】
図6(a)〜(c)は、本発明における複数の凹陥部、或いは、複数の屈折率変化部の形成方法の例を示す説明図であり、図6(a)に示すように、駆動手段10によりXY面内において移動可能とされたテーブル11上に配置されたワーク2に対して、レーザーヘッド12からのレーザー光1をレンズ系3を介して照射し、また、図6(b)に示すように、固定テーブル11上に配置されたワーク2に対して、駆動手段10によりXY面内において移動可能とされたレーザーヘッド12からのレーザー光1をレンズ系3を介して照射し、或いは、図6(c)に示すように、固定テーブル11上に配置されたワーク2に対して、レーザーヘッド12からのレーザー光1を駆動手段10により揺動可能とされた可動ミラー13及びレンズ系3を介して照射するなどの方法により、本発明における複数の凹陥部、隆起部、或いは屈折率変化部を形成することができる。
【0080】
また、上記の各方法において、駆動手段によるXYテーブル、レーザーヘッド、可動ミラーの駆動、レーザーヘッド12から照射されるレーザー光1のレーザーパワー、パルス幅、パルス数、或いは、レンズ系3による焦点位置の調節などは、コンピュータによる自動制御により行うことができる。
【0081】
凹陥部加工用のレーザーとして、Nd:YAGレーザー(第3高調波、波長:355nm)を使用し、また、それぞれ平坦な光沢表面を有するアルミニウム板、ステンレス板、及び、銅板からなる基板を使用し、略10μmφの径に絞られた焦点を各基板の表面に位置させた状態のレーザー光によって、9行9列のマトリクス状(マトリクスの行間、列間の間隔は、ともに100μmとした)に配列された81個の凹陥部を形成することで、証明用媒体のサンプルを作成した。
【0082】
このとき、アルミニウム板、ステンレス板、及び、銅板のそれぞれについて、Nd:YAGレーザーのレーザーパワーを30mJとした場合と、10mJとした場合の2種類のサンプルを作成した。
【0083】
これらのサンプルの凹陥部の形成部の周辺にHe−Neレーザー(波長632.8nm)による参照光を所定の角度から照射したときの反射光により形成された干渉パターンを図7〜図9に示す。
【0084】
図7〜図9は、順に、アルミニウム板、ステンレス板、及び、銅板を用いたサンプルから得られる干渉パターンであり、各図において、(a)は、レーザーパワーが30mJの場合、(b)レーザーパワーが10mJの場合の干渉パターンを示しており、いずれの場合にも、明瞭な干渉パターンが形成されることが確認された。
【0085】
なお、同じ素材に同じ配列パターンの凹陥部を形成したにも関わらず、アルミニウム板、ステンレス板、及び、銅板のいずれの素材の場合も、(a)の干渉パターンと(b)の干渉パターンとは大幅に異なる態様を呈しているが、これは、レーザーパワーを強くした場合((a)の場合)には、凹陥部の平面的な大きさ(表面側から見たときの開口の大きさ)が大きく、また、底面が表面に対して成す角が大きく、深い凹陥部となるなど、レーザーパワーの相違によって、形成される凹陥部の立体的形状が異なっていることによるものである。
【0086】
同様に、隆起部加工用のレーザーとして、Nd:YAGレーザー(第2高調波、波長:532nm、パルス幅:8nS、パルスエネルギー4μJ/パルス)を使用し、また、平坦な表面を有する厚さ1mmのガラス基材上に約200nmの金(Au)薄膜を蒸着により積層させた基板を使用し、略20μmφの径に絞られた焦点を基板の表面に位置させた状態のレーザー光によって、3行3列のマトリクス状(マトリクスの行間、列間の間隔は、ともに100μmとした)に配列された9個の隆起部を形成することで、証明用媒体のサンプルを作成し、このサンプルの隆起部が形成された部分にHe−Neレーザー(波長632.8nm)による参照光を所定の角度から照射したときの反射光により形成された干渉パターンを図10に示す。
【0087】
図示されるように、隆起部が形成された証明用媒体のサンプルから得られる干渉パターンは、凹陥部が形成された証明用媒体のサンプルから得られる干渉パターン(図7〜図9)と比較して、サンプル上に形成された隆起部の個数が少ないにも拘わらず輝度変化が明瞭であり周期的で中心の判断し易い干渉パターンが得られている。
【0088】
明瞭で周期性や中心の判断の行いやすい干渉パターンが得られるのは、レーザー光により形成される個々の隆起部が、凹陥部の場合と比較してより端正乃至滑らかな立体的形状を有しているためであると考えられるが、このような明瞭で周期性や中心の判断の行いやすい干渉パターンが得られるがために、証明用媒体の真正性の判定の容易性、確実性を高めることが可能となる。
【0089】
また、レーザー光により隆起部を形成する場合には、凹陥部を形成する場合と比較して、その隆起部の周辺における加工の影響が及ぶ範囲が狭く、そのために、より高い密度で隆起部を形成することが可能であり、従って、干渉パターンを得るために必要となる隆起部の形成面積(上記におけるマトリクスの面積)を狭くすることができ、その分、証明用媒体上における所有者の写真、氏名、住所その他の情報の印刷などに使用できる領域をより大きく取ることが可能となる。
【0090】
なお、シリコン又は石英ガラスよりなる基材にレーザー光を照射することで複数の隆起を形成し、この複数の隆起が形成された基材に金属薄膜を形成した基板(9b)に参照光を照射した場合も、上記と同様に明瞭で周期性や中心の判断の行いやすい干渉パターンを得ることができ、或いは、シリコン又は石英ガラスよりなる基材にレーザー光を照射することにより形成された隆起を転写することで複数の隆起部が形成された金属薄膜よりなる基板(9c)の表面又は裏面に、図4(b)或いは(c)に示す態様で参照光を照射した場合も、上記と同様に明瞭で周期性や中心の判断の行いやすい干渉パターンを得ることができる。
【0091】
また、Nd:YAGレーザー(第3高調波、波長:355nm)を使用し、素材として、厚さ5mmのアクリル樹脂板を使用し、略10μmφの径に絞られた焦点をアクリル樹脂板の厚さ方向中央付近に位置させた状態のレーザー光によって、レーザーパワーを30mJ、又は、10mJとして、9行9列のマトリクス状(マトリクスの行間、列間の間隔は、ともに100μmとした)に配列された81個の屈折率変化部を形成することで、2種類の証明用媒体のサンプルを作成した。
【0092】
図11(a)、(b)は、それぞれ、レーザーパワー30mJで屈折率変化部を形成したサンプル、及び、レーザーパワー10mJで屈折率変化部を形成したサンプルに対して、He−Neレーザー(波長632.8nm)による参照光を照射したときの、透過光により形成された干渉パターンである。
【0093】
この場合も、いずれのサンプルからも、明瞭な干渉パターンが観察されるとともに、レーザーパワーが30mJの場合(a)と10mJの場合(b)とでは、異なる形状、及び、大きさの屈折率変化部が形成されているために、それぞれ、異なる態様の干渉パターンが観察された。
【0094】
図12(a)は、キャッシュカードなどの磁気記録媒体を備える磁気カード22と一体化された本発明の証明用媒体23、即ち、少なくとも波長632.8nmの光を反射する材質で形成され、実質的に平坦な表面を有する媒体であって、当該表面に、レーザー加工により形成された複数の凹陥部又は隆起部を有する証明用媒体23の真正性を証明するための証明システム21を示す概念説明図である。
【0095】
上記証明システム21は、上記磁気記録媒体に記録された情報を読み取るための、不図示の磁気情報読み取り装置に加え、磁気カード22の投入口24a、及び、磁気カード22を予め定められた位置に保持することで、証明用媒体23の位置決めを行うための保持手段24b、24cが設けられた証明用媒体保持室24と、当該証明用媒体保持室24の天井部に配置され、前記保持手段24b、24cにより位置決めされた証明用媒体23(の凹陥部又は隆起部が形成されている部分)に向けて、所定の角度から波長632.8nmの参照光25aを放射するHe−Neレーザー25、及び、上記参照光25aによる証明用媒体23からの反射光26aを受光する位置に配置されたCCDカメラ26と、上記磁気情報読み取り装置、He−Neレーザー25、CCDカメラ26などと不図示の回路により接続され、そのメモリ(ハードディスク、RAMなど)に真正な証明用媒体23に上記所定の角度から参照光25aが照射されたときに、その反射光26aにより形成される干渉パターンの画像(基準画像)を記録するコンピュータ27とを備えている。
【0096】
この証明システム21では、磁気カード22が投入口24aから投入されて保持手段24b、24cにより所定の位置に保持されると、コンピュータ27の制御によってHe−Neレーザー25から参照光25aが照射され、その反射光26aにより形成される干渉パターンがCCDカメラ26により撮影され、その画像がコンピュータ27に取り込まれるようになっている。
【0097】
コンピュータ27には、2つの画像間の同一性をパターンマッチングにより判定するための照合プログラムがインストールされており、CCDカメラ26から受信した干渉パターンの画像と、メモリに記録されている基準画像を照合し、一定の基準値を越える同一性が認められた場合には、磁気カード22を真正であると判定し、磁気記録媒体に記録された情報や別途設けられた操作手段からの入力に従って、現金の払い出し、振り込みなどの処理を実行する一方、この基準値が満たされない場合には、磁気カード22が真正ではないものと判定し、操作手段からの入力などを受け付けることなく、磁気カード22を投入口24aから返却するようになっている。
【0098】
このように、本証明システム21は、正規の証明用媒体23を備える磁気カード22での操作のみを受け付けるようにされているため、スキミングなどの不正な手段による磁気記録媒体の複製などに対する高い安全性を提供することができる。
【0099】
図12(b)は、図12(a)と同様に、キャッシュカードなどの磁気記録媒体を備える磁気カード22と一体化された本発明の証明用媒体23の真正性を証明するための証明システム21を示す概念説明図であり、図12(a)とは、証明用媒体23として、少なくとも波長632.8nmの光を透過する材質で形成された媒体であって、その内部にレーザー加工により形成された複数の屈折率変化部を有する証明用媒体23が使用されている点において相違しており、そのために、He−Neレーザー25からの参照光25aが、証明用媒体23から透過光26aとして出射し、その透過光26aにより形成される干渉パターンが、磁気カード22の下方に配置されたCCDカメラ26により撮影されるようになっている。
【0100】
図12(b)の証明システム21は、図12(a)の証明システム21について上記したと同様の動作を行い、図12(a)の証明システム21と同様に、スキミングなどの不正な手段による磁気記録媒体の複製などに対する高い安全性を提供することができる。
【0101】
なお、本発明の証明用媒体、或いは、その凹陥部、隆起部又は屈折率変化部の環境温度による寸法変化が干渉パターンに影響を与えることを防止するために、本発明の証明システム21は、保持手段により位置決めされた証明用媒体を一定の温度に調製するための温度調製手段を備えることが好ましい。
【0102】
以上、本発明を一実施形態に係る証明用媒体、証明方法、証明システムを例に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲において、種々の改変が可能である。
【0103】
例えば、凹陥部、隆起部又は屈折率変化部を形成するためのレーザー、乃至、参照光を照射するためのレーザーの種類や波長、或いは、その照射条件などは例として記載したものであり、例示した以外の種類、波長のレーザーを使用し、例示した以外の照射条件での加工、照射を行うことが可能である。
【0104】
また、本発明の証明用媒体に使用する素材、凹陥部や隆起部、或いは屈折率変化部の形状、大きさ、配列なども、上記した実施形態以外の素材、或いは、形状、大きさ、配列に変更することが可能である。
【0105】
また、図12に示した例では、本発明の証明用媒体をキャッシュカードに利用した場合について説明したが、クレジットカードなど他のカード類や、株券、債権、小切手、手形などの有価証券、或いは、免許証、パスポートなどの証明書類、その他、商品券、乗車券、入場券などの券類にも同様に利用することができ、また、図12に示した例では、本発明の証明用媒体を他の基材(図12の例では磁気カード22)と一体化させた状態で使用される場合について説明したが、本発明の証明用媒体を単体で、キャッシュカードその他のカード類、有価証券類、証明書類、その他の券類として使用することも可能である。
【0106】
また、本発明の証明用媒体は、本発明に係る凹陥部、隆起部又は屈折率変化部に加えて、これらの凹陥部、隆起部又は屈折率変化部が形成される部分以外の部分に、印刷などによる色彩、文字、模様、図柄などを施したものとすることが可能である他、これらに代えて、レーザー加工による色彩、文字、模様、図柄などを施したものとすることが可能である。
【0107】
この場合のレーザー加工法として、本発明の証明用媒体に好適に使用できるものとして、SPD法、及び、LPC法がある。
【0108】
SPD法は、アクリル樹脂などのプラスチック素材により形成される証明用媒体の表面への階調、及び、視覚効果を付加した画像の描画に好適に使用される方法であり、素材表面を所定面積(例えば、2×2mm)の小片に分割し、各小片内のレーザーによる加工面積、及び、ドット密度により階調、及び、視覚効果を独立に変化させながら描画を行うものであり、その詳細は、櫻田典世等による「スラブ型COレーザーを用いた小片分割加工法の芸術的プラスチック加工」(レーザー研究、2002年、30巻、7号)に記載されている。
【0109】
図13(a)は、このSPD法により使用される各種パレットを示したものであり、それぞれのパレットは、正方配列された16個の小片により構成され、各小片内における加工面積が大きいほど(図13(a)における右側のパレットほど)明階調が表現されるようになっており、各小片内における加工ドット数が多くなるほど(図13(b)における上段のパレットほど)滑らかな視覚効果が表現されるようになっている。
【0110】
図13(b)は、図13(c)の絵画を元にSPD法により描画された図形であり、その拡大図である図13(d)に示されるように、階調及び視覚効果がドット照射の集合により表現されている。
【0111】
またLPC法は、アクリル樹脂などのプラスチック素材により形成される証明用媒体の表面への染料による着色、描画に好適に使用される方法であり、その詳細は、櫻田典世等による「スラブ型COレーザーを用いたレーザープラスチック着色法」(レーザー研究、2004年、32巻、3号)に記載されている。
【0112】
図14は、このLPC法による着色原理を示した説明図であり、アクリル樹脂板などで形成されるワーク31上に分散染料を含侵させたセルロースなどの繊維質シート32を配置し、レーザー光33の照射による局所的な温度上昇により着色領域34を形成するものであり、異なる色彩の染料を含侵させた他の繊維質シート32を用いた着色との組み合わせにより、多色描画を行うことが可能となる。なお、多色描画を行う場合には、マスク35を繊維質シート32とワーク31の間に介在させることにより、既にワーク31上に定着した染料との混色を防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】(a)は、レーザー光により凹陥部が形成される態様を模式的に示す説明図。(b)は、レーザー光のレーザーパワーを変化させたときに形成される凹陥部の断面形状の変化を模式的に示す説明図。(c)、(d)は、凹陥部の断面形状により異なる態様の干渉パターンが形成されることを示す概念説明図。
【図2】(a)は、レーザー光により隆起部が形成される態様を模式的に示す説明図。(b)は、レーザー照射条件と隆起部の立体的形状の関係を示す説明図。
【図3】(a)は、レーザー光により隆起が形成される態様を模式的に示す説明図。(b)、(c)は、証明用媒体を構成する基板の形成方法を示す説明図。(d)は、レーザー照射条件と隆起の立体的形状の関係を示す説明図。
【図4】(a)〜(c)は、複数の隆起部を有する証明用媒体に参照光を照射することで干渉パターンが形成される様子を概念的に示す説明図。
【図5】(a)は、レーザー光により屈折率変化部が形成される態様を模式的に示す説明図。(b)は、証明用媒体からの透過光により干渉パターンが形成される様子を模式的に示す説明図。
【図6】(a)〜(c)は、本発明における複数の凹陥部、或いは複数の屈折率変化部の形成方法の例を示す説明図。
【図7】証明用媒体からの反射光により形成される干渉パターンの例を示す説明図。
【図8】証明用媒体からの反射光により形成される干渉パターンの例を示す説明図。
【図9】証明用媒体からの反射光により形成される干渉パターンの例を示す説明図。
【図10】証明用媒体からの反射光により形成される干渉パターンの例を示す説明図。
【図11】証明用媒体からの透過光により形成される干渉パターンの例を示す説明図。
【図12】(a)、(b)は、本発明の一実施態様に係る証明システムの例示的な構成を示す説明図。
【図13】(a)は、SPD法において使用されるパレットの説明図。(b)は、原画を示す説明図。(c)は、(b)の原画を元にSPD法により描画された図形。(d)は、(c)に示す図形の拡大図。
【図14】LPC法による着色原理を示す説明図である。
【符号の説明】
【0114】
1 レーザー光
2 ワーク
3 レンズ系
4 凹陥部、隆起部、隆起、屈折率変化部
5 参照光
6 干渉パターン
7a 気体膨張
7b 変質領域
8 金属薄膜
9 基板
10 駆動手段
11 テーブル
12 レーザーヘッド
13 可動ミラー
21 証明システム
22 磁気カード
23 証明用媒体
24 証明用媒体保持室
25 レーザー
26 CCDカメラ
27 コンピュータ
31 ワーク
32 繊維質シート
33 レーザー光
34 着色領域
35 マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一の特定波長の光を反射する実質的に平坦な表面を有する基板から構成される証明用媒体であって、前記基板の表面にレーザー加工に基づく立体的形状が付与された複数の変形部が形成されていることを特徴とする証明用媒体。
【請求項2】
前記複数の変形部のうちの少なくとも一の変形部の立体的形状が、他の一の変形部の立体的形状とは相違していることを特徴とする請求項1に記載の証明用媒体。
【請求項3】
前記変形部が前記基板の表面に対するレーザー光の照射により形成された凹陥部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の証明用媒体。
【請求項4】
前記変形部が前記基板の表面に対するレーザー光の照射により形成された隆起部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の証明用媒体。
【請求項5】
前記基板がガラス基材及び前記ガラス基材上に積層された金属薄膜からなることを特徴とする請求項4に記載の証明用媒体。
【請求項6】
前記基板がガラス基材及び前記ガラス基材上に形成された遷移金属薄膜からなることを特徴とする請求項4に記載の証明用媒体。
【請求項7】
前記基板がシリコン又は石英ガラスよりなる基材及び前記基材上に積層された金属薄膜から形成されており、
前記基材の表面には、レーザー光の照射により複数の隆起が形成されており、
前記変形部が、前記複数の隆起が形成された前記基材上に前記金属薄膜を積層することにより形成された隆起部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の証明用媒体。
【請求項8】
前記基板が金属薄膜であり、
前記変形部が、実質的に平坦な表面を有するシリコン又は石英ガラスからなる基材にレーザー光を照射することにより形成された隆起を前記金属薄膜に転写することにより形成された隆起部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の証明用媒体。
【請求項9】
少なくとも一の特定波長の光を反射する実質的に平坦な表面を有する基板から構成され、前記基板の表面にレーザー加工に基づく立体的形状が付与された複数の変形部を有する証明用媒体に対して、所定の角度から前記特定波長の光を含む参照光を照射し、前記証明用媒体からの前記参照光の反射光により形成される干渉パターンに基づいて前記証明用媒体の真正性の判定を行うことを特徴とする証明方法。
【請求項10】
少なくとも一の特定波長の光を反射する実質的に平坦な表面を有する基板から構成され、前記基板の表面にレーザー加工に基づく立体的形状が付与された複数の変形部を有する証明用媒体を所定の位置に保持する証明用媒体保持手段と、
前記証明用媒体収容部に収容された前記証明用媒体に対して、所定の角度から前記特定波長の光を含む参照光を照射する参照光照射手段と、
前記証明用媒体からの前記参照光の反射光により形成される干渉パターンを撮影する撮影手段と、
予め登録された基準画像と前記撮影手段により撮影された前記干渉パターンの画像とを対比することにより前記証明用媒体の真正性の判定を行う判定手段とを備えることを特徴とする証明用媒体の真正性判定システム。
【請求項11】
少なくとも一の特定波長の光を透過し、第1の屈折率を有する部材から構成される証明用媒体であって、前記部材の表面又は内部に、レーザー加工により形成された前記第1の屈折率と異なる屈折率を有する複数の屈折率変化部を有することを特徴とする証明用媒体。
【請求項12】
前記複数の屈折率変化部のうちの少なくとも一の屈折率変化部の立体的形状が、他の一の屈折率変化部の立体的形状とは相違していることを特徴とする請求項11に証明用媒体。
【請求項13】
前記部材がシリコン又は石英ガラスから形成されており、
前記屈折率変化部が前記部材の表面に対するレーザー光の照射により形成された隆起部であることを特徴とする請求項11又は12に記載の証明用媒体。
【請求項14】
少なくとも一の特定波長の光を透過し、第1の屈折率を有する部材から構成され、前記部材の内部に、レーザー加工により形成された前記第1の屈折率と異なる屈折率を有する複数の屈折率変化部を有する証明用媒体に対して、所定の角度から前記特定波長の光を含む参照光を照射し、前記証明用媒体からの前記参照光の透過光により形成される干渉パターンに基づいて前記証明用媒体の真正性の判定を行うことを特徴とする証明方法。
【請求項15】
少なくとも一の特定波長の光を透過し、第1の屈折率を有する部材から構成され、前記部材の内部に、レーザー加工により形成された前記第1の屈折率と異なる屈折率を有する複数の屈折率変化部を有する証明用媒体を収容する証明用媒体収容部と、
前記証明用媒体収容部に収容された前記証明用媒体に対して、所定の角度から前記特定波長の光を含む参照光を照射する参照光照射手段と、
前記証明用媒体からの前記参照光の透過光により形成される干渉パターンを撮影する撮影手段と、
予め登録された基準画像と前記撮影手段により撮影された前記干渉パターンの画像とを対比することにより前記証明用媒体の真正性の判定を行う判定手段とを備えることを特徴とする証明用媒体の真正性判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−150932(P2006−150932A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215400(P2005−215400)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】