説明

評価方法

【課題】アルカリ剤の刺激を抑制する物質を簡便にスクリーニングすること及びアルカリ剤の刺激に対する抑制効果を簡便に評価することの少なくとも1つを達成することができる、アルカリ剤の刺激を抑制する物質の評価方法を提供する。
【解決手段】被験物質と、アルカリ剤と、TRPA1を発現する細胞とを接触させ、前記アルカリ剤によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を測定することを特徴とする、アルカリ剤の刺激を抑制する物質の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価方法に関する。詳しくは、本発明は、アルカリ剤の刺激を抑制する物質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚に対して用いられる外用剤は、当該外用剤に含まれる有効成分の特性によっては、その機能を発現させるために、当該外用剤をアルカリ性の状態(pH7を超えるpH)に維持する必要がある場合がある。前記外用剤のなかでも、石鹸、洗顔料、酸化染毛剤、体毛脱色剤、パーマ剤などに用いられる外用剤の場合、機能を十分に発現させるために、当該外用剤は、アルカリ性の状態に維持されている。特に、前記酸化染毛剤及び前記体毛脱色剤の場合、機能を十分に発現させるに適したpHは、毛髪、皮膚などのメラニンを加水分解する程の高いpH(強いアルカリ性)となっている。このような外用剤には、アルカリ性の状態を維持するために、アルカリ剤が配合されている。
【0003】
しかしながら、アルカリ剤が配合された外用剤を使用したときに、まれに、当該アルカリ剤によって、使用者が、不快感を伴う一過性の刺激感を引き起こす場合がある。また、消費者における昨今の安全性志向の高まりから、高い機能を有していても、前記刺激感などを引き起こす外用剤は、使用が避けられる傾向がある。
【0004】
そこで、前記アルカリ剤が配合された外用剤に対して、例えば、パーマ剤については、チオール化合物又はその塩を配合することにより、皮膚における前記刺激感などの発生を抑制すること(特許文献1を参照)、酸化染毛剤については、アニオン性界面活性剤(特許文献2を参照)、サンショウ抽出物(特許文献3を参照)又はフィチン酸を配合すること(特許文献4を参照)などにより、皮膚における前記刺激感などの発生を抑制することが試みられている。
【0005】
しかしながら、前記特許文献1〜4に記載の発明では、使用者によっては、アルカリ剤による皮膚に対する刺激感の発生を抑制できない場合があり、十分とはいえないのが現状である。
【0006】
一方、生体内における刺激の伝達メカニズムには、例えば、イオンチャネル型ATP受容体(P2X受容体)、温度受容体としても機能している一過性受容体電位チャネル(transient receptor potential channel)などが刺激受容体として関与することが知られている。これらの中で、TRPチャネルの1つであるTRPA1は、シナモンに含まれる成分であるシンナムアルデヒド、マスタードに含まれる成分であるアリルイソチオシアネート、ニンニクに含まれる成分であるアリシン、及びブラジキニンのそれぞれにより活性化されること及び機械刺激感受性であることが知られている(非特許文献1を参照のこと)。また、前記TRPA1は、冷刺激による痛みに関与することが報告されている(非特許文献2)
【0007】
しかしながら、前記TRPA1は、前記非特許文献2のように、冷刺激による痛みに関与することが報告されている一方で、冷刺激により活性化しないという報告もある。このように、刺激の伝達メカニズムは、未だ不明な部分が多いのが現状である。
【特許文献1】特開平5−39211号公報
【特許文献2】特開2004−339179号公報
【特許文献3】特表2006−256981号公報
【特許文献4】特開2007−39351号公報
【非特許文献1】日本薬理学雑誌(Folia Pharmacol.Jpn.)、第124巻、第219頁−第227頁、2004年、社団法人 日本薬理学会発行
【非特許文献2】ザ ジャーナル オブ クリニカル インベスティゲーション(The Journal Of Clinical Investigation)、第115巻、第2393頁−第2401頁、2005年、アメリカン ソサエティー フォア クリニカル インベスティゲーション(American Society for Clinical Investigation)発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、アルカリ剤の刺激を抑制する物質を簡便にスクリーニングすること及びアルカリ剤の刺激に対する抑制効果を簡便に評価することの少なくとも1つを達成することができる、アルカリ剤の刺激を抑制する物質の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕 被験物質と、アルカリ剤と、TRPA1を発現する細胞とを接触させ、前記アルカリ剤によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を測定することを特徴とする、アルカリ剤の刺激を抑制する物質の評価方法、
〔2〕 前記生理学的事象が、細胞内カルシウムイオン濃度の変化である前記〔1〕記載の評価方法、
〔3〕 前記TRPA1を発現する細胞が、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞である前記〔1〕又は〔2〕記載の評価方法、並びに
〔4〕 前記宿主細胞が、HEK293細胞、CHO細胞、COS−7細胞及びNIH3T3細胞からなる群より選ばれた細胞である前記〔3〕記載の評価方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルカリ剤の刺激を抑制する物質の評価方法によれば、アルカリ剤の刺激を抑制する物質を簡便にスクリーニングすること及びアルカリ剤の刺激に対する抑制効果を簡便に評価することの少なくとも1つを達成することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のアルカリ剤の刺激を抑制する物質の評価方法は、被験物質と、アルカリ剤と、TRPA1を発現する細胞とを接触させ、前記アルカリ剤によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を測定することを特徴とする方法である。
【0012】
本発明の評価方法では、TRPA1を発現する細胞が用いられているため、アルカリ剤による皮膚などへの刺激を、前記アルカリ剤によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象として簡便に評価することができるという優れた効果を奏する。
【0013】
また、本発明の評価方法では、被験物質と、アルカリ剤と、TRPA1を発現する細胞とを接触させるため、当該アルカリ剤によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を指標として、アルカリ剤の刺激を抑制する物質を簡便にスクリーニングすることができるとともに、アルカリ剤の刺激に対する被験物質の抑制効果を簡便に評価することができる。
【0014】
なお、前記TRPA1は、一過性受容体電位チャネル(TRPチャネル)の1つである。前記TRPA1をコードする核酸の塩基配列は、配列番号:1(GenBankアクセッション番号NM_007332)に示される。また、前記TRPA1のアミノ酸配列は、配列番号:2に示される。
【0015】
本発明の評価方法において、前記被験物質と、アルカリ剤と、TRPA1を発現する細胞との接触は、例えば、TRPA1を発現する細胞の培養物に、種々の濃度の被験物質と種々の濃度のアルカリ剤とを添加すること、TRPA1を発現する細胞を、種々の濃度の被験物質と種々の濃度のアルカリ剤とを含む培地で培養することなどにより行なわれる。
【0016】
前記被験物質としては、特に限定されないが、例えば、無機化合物、低分子有機化合物、高分子有機化合物、植物抽出物、微生物培養物、微生物抽出物、ペプチド、核酸などが挙げられる。
【0017】
本明細書において、前記アルカリ剤とは、例えば、石鹸、洗顔料、酸化染毛剤、体毛脱色剤、パーマ剤などに用いられる外用剤に通常配合することができるアルカリ性物質、アルカリ性緩衝液を含む溶液(アルカリ性溶液)などをいう。前記アルカリ剤としては、特に限定されないが、例えば、アンモニア、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、pH8〜11のトリス塩酸緩衝液を含む溶液(アルカリ性溶液)などが挙げられる。
【0018】
前記TRPA1を発現する細胞は、TRPA1を本質的に発現する野生型の細胞であってもよく、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞であってもよい。
【0019】
本発明の評価方法において、TRPA1を本質的に発現する野生型の細胞を用いる場合、アルカリ剤の刺激に対する被験物質の抑制効果をより確実に評価する観点から、被験物質非存在下において、アルカリ剤単独によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を比較対照として用いることが望ましい。前記TRPA1を本質的に発現する野生型の細胞としては、特に限定されないが、例えば、感覚神経細胞などが挙げられる。
【0020】
本明細書において、前記TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞とは、TRPA1をコードする核酸が、染色体外要素として前記核酸が複製可能となるように導入されている細胞、又は前記核酸が、染色体組み込みにより当該核酸が複製可能となるように導入されている細胞をいう。前記TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞は、前記TRPA1をコードする核酸と、用いられる宿主細胞におけるTRPA1の発現に適したベクターとを連結させることにより得られたTRPA1発現ベクターを宿主細胞に導入することにより得ることができる。宿主細胞へのTRPA1をコードする核酸の導入は、例えば、モレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)〔ザンブルーク(Sambrook)ら、コールドスプリングハーバープレス(Cold Spring Harbor Press)、1989年発行〕などに記載された形質転換、トランスフェクションなどの方法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、パーティクルガン法、ウイルスを利用した方法などに準じて行なうことができる。
【0021】
前記TRPA1をコードする核酸は、TRPA1をコードする核酸に対応する既知の塩基配列の情報、例えば、ヒトTRPA1をコードする核酸に対応する既知の塩基配列の情報〔ジャクマー(Jaquemar,D.)ら、ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、第274巻、第11号、第7325頁〜第7333頁、1999年発行〕などに基づき、前記塩基配列から作製した適切なプライマー対を用いたPCR法及び/又は前記塩基配列から作製した適切なプローブとcDNAライブラリーとを用いたハイブリダイゼーション法などにより得ることができる。なお、ヒトTRPA1をコードする核酸の塩基配列は、配列表の配列番号:1に示される配列である。
【0022】
前記TRPA1をコードする核酸は、細胞への導入後に、前記核酸によりコードされるポリペプチドが、刺激受容体としての機能を発現するのであれば、前記核酸に含まれるTRPA1遺伝子の構造遺伝子の塩基配列の内部又は末端の一部に、少なくとも1個、例えば、1個又は数個のヌクレオチド残基の挿入、置換又は欠失を有していてもよい。前記TRPA1をコードする核酸としては、例えば、配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸、配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸の誘導体などが挙げられる。前記配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸の誘導体としては、例えば、
(A)配列番号:1に示される塩基配列に対して、米国生物工学情報センター(NCBI)のウェブページ〔アドレスhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/〕にて利用できるNCBI BLASTにより、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 11の条件(デフォルト値)下、評価対象の配列をアライメントし、算出される値として、少なくとも60%、好ましくは、80%以上、より好ましくは、90%以上の配列相同性を有する塩基配列からなり、かつコードされるポリペプチドが、陽イオンを透過させる機能を少なくとも発現するポリペプチドである核酸、
(B)配列番号:2において、少なくとも1個、好ましくは、1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失又は付加を有するアミノ酸配列をコードし、コードされるポリペプチドが、陽イオンを透過させる機能を少なくとも発現するポリペプチドである核酸、
(C)配列番号:1に示される塩基配列に完全に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、コードされるポリペプチドが、陽イオンを透過させる機能を発現するポリペプチドである核酸、
などが挙げられる。前記核酸は、ヒト由来の核酸であってもよく、他の動物に由来する核酸であってもよい。
【0023】
前記ストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5重量% SDSと5×デンハルト溶液と100μg/ml 変性サケ精子DNAと50体積% ホルムアミドとを含む溶液中、室温、よりストリンジェントな条件では、42℃以上、一層ストリンジェントな条件では、60℃以上の温度条件で10時間インキュベーションし、つぎに、例えば、2×SSC、よりストリンジェントな条件では、0.1×SSCのイオン強度条件下で、かつ室温、42℃以上、よりストリンジェントな条件では、60℃以上の温度条件下での洗浄を行なう条件などが挙げられる。本明細書においては、前記ストリンジェントな条件は、好ましくは、配列番号:1との配列相同性が、少なくとも65%である塩基配列からなる核酸との特異的なハイブリダイゼーションが達成される条件であることが望ましい。
【0024】
前記TRPA1発現ベクターは、前記TRPA1をコードする核酸と、用いられる宿主細胞におけるTRPA1の発現に適したベクターとを連結させることにより得られる。前記ベクターは、調製が容易であり、用いられる宿主細胞に効率よく導入でき、当該宿主細胞においてTRPA1を発現させることができるベクターであればよく、好ましくは、大腸菌のプラスミド、酵母のプラスミド、レトロウイルスベクターなどの動物ウイルスベクターが望ましい。
【0025】
また、前記宿主細胞としては、前記TRPA1をコードする核酸が効率よく発現され、かつ培養が容易なものであればよく、特に限定されないが、例えば、細菌の細胞、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞などが挙げられ、より具体的には、大腸菌細胞、酵母細胞、HEK293細胞、CHO細胞、COS−7細胞、NIH3T3細胞などが挙げられる。なかでも、ヒトの組織などにおいて、アルカリ剤の刺激に対する抑制効果を十分に発現する物質を効率よくスクリーニングする観点及びよりヒトへの適用を反映させて、被験物質によるアルカリ剤の刺激に対する抑制効果を簡便に評価する観点から、HEK293細胞、CHO細胞、COS−7細胞及びNIH3T3細胞が好ましく、HEK293細胞がより好ましい。
【0026】
本発明の評価方法に用いることができる前記TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞は、例えば、当該細胞におけるTRPA1の機能の発現、タンパク質レベルでの発現、蛍光物質の導入などを指標として、選択することができる。前記TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞の選択には、適切な選択培地などを用いることができる。
【0027】
前記TRPA1を発現する細胞の培養に用いられる培地としては、当該TRPA1を発現する細胞が生育するのに適した成分、例えば、グルコース、アミノ酸、ペプトン、ビタミン、細胞増殖促進因子(例えば、細胞成長因子、ホルモン、結合タンパク質、細胞接着因子、脂質)、血清(例えば、FBS、FCSなど)、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどを成分とする培地であればよい。前記培地は、市販されている培地であってもよい。前記TRPA1を発現する細胞の培養に用いられる培地としては、かかる細胞に適した培地であればよく、特に限定されないが、MEM培地、DMEM培地、RPMI 1640培地などが挙げられる。例えば、用いられる宿主細胞がHEK293細胞である場合、10質量%FBS含有DMEM培地などが用いられる。
【0028】
本発明の評価方法において、用いられる細胞が、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞であって、TRPA1の一過性発現を行なう細胞である場合には、アルカリ剤により引き起こされるTRPA1を介する生理学的事象を十分に評価する観点から、好ましくは、TRPA1をコードする核酸を導入した後24時間〜48時間に、当該生理学的事象を測定することが望ましい。
【0029】
また、本発明の評価方法では、前記TRPA1は、前記(A)〜(C)の核酸によりコードされるポリペプチドであってもよい。前記ポリペプチドは、PCR法などによる部位特異的変異導入法などにより人為的に配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸に変異を導入することにより作製された核酸によりコードされるポリペプチドであってもよく、天然に存在するポリペプチドであってもよい。
【0030】
前記アルカリ剤によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象としては、特に限定されないが、例えば、細胞内カルシウムイオン濃度の変化、TRPA1を介する電位の変化、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0031】
本発明の評価方法では、生理学的事象を、より簡便に、定量的に測定できる観点から、前記アルカリ剤によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象は、細胞内カルシウムイオン濃度の変化であることが好ましい。TRPA1を発現する細胞に対してアルカリ剤を接触させると、TRPA1を介して細胞内へのカルシウムイオンの流入が発生する。本発明の評価方法では、TRPA1を発現する細胞とアルカリ剤とを接触させることにより発生する細胞内へのカルシウムイオンの流入を、細胞内カルシウムイオン濃度又はその変化を指標として、アルカリ剤の刺激を抑制する物質をスクリーニングすること及び被験物質によるアルカリ剤の刺激に対する抑制効果を評価することができる。ここで、前記細胞内カルシウムイオン濃度の変化は、アルカリ剤非存在下でのTRPA1を発現する細胞における細胞内カルシウムイオン濃度と、アルカリ剤存在下でのTRPA1を発現する細胞における細胞内カルシウムイオン濃度との間における細胞内カルシウムイオン濃度の差異としても求められる。
【0032】
TRPA1を発現する細胞とアルカリ剤と被験物質との接触に際して、アルカリ剤は、必要に応じて、例えば、エタノール、生理的食塩水、水などに溶解させて、TRPA1を発現する細胞の培養物又は前記TRPA1を発現する細胞の培養に用いる培地に添加してもよく、そのまま添加してもよい。また、TRPA1を発現する細胞とアルカリ剤と被験物質との接触に際して、被験物質は、必要に応じて、例えば、エタノール、生理的食塩水、水などに溶解させて、TRPA1を発現する細胞の培養物又は前記TRPA1を発現する細胞の培養に用いる培地に添加してもよく、そのまま添加してもよい。
【0033】
TRPA1を発現する細胞に接触させるアルカリ剤の量は、アルカリ剤の種類に応じて適宜設定することができ、前記生理学的事象が測定可能な程度に変化する範囲であればよく、特に限定されないが、前記生理学的事象を測定可能な程度に発現させる観点から、TRPA1を発現する細胞とアルカリ剤と被験物質との接触により得られる混合物のpHが、好ましくは、pH7.5以上、より好ましくは、pH8以上であり、細胞を良好な状態に維持する観点から、好ましくは、pH12以下、より好ましくは、pH10以下になる量であることが望ましい。
【0034】
また、TRPA1を発現する細胞に接触させる被験物質の量は、被験物質の種類に応じて適宜設定することができ、前記生理学的事象が測定可能な程度に変化する範囲であればよく、特に限定されないが、前記生理学的事象を測定可能な程度に発現させる観点から、TRPA1を発現する細胞とアルカリ剤と被験物質との接触により得られる混合物中における濃度が、好ましくは1μM以上、より好ましくは10μM以上であり、同様の観点から、好ましくは20mM以下、より好ましくは10mM以下であることが望ましい。
【0035】
前記TRPA1を発現する細胞は、5×107細胞/mlとなるように培地に懸濁させて用いることができる。
【0036】
本発明の評価方法では、アルカリ剤により引き起こされるTRPA1を介する生理学的事象に対する被験物質の効果を簡便、かつ迅速に評価する観点から、好ましくは、前記TRPA1を発現する細胞をカバーグラス上で培養して用いることが望ましい。
【0037】
なお、TRPA1を発現する細胞とアルカリ剤と被験物質とを接触させる場合、必要に応じて、TRPA1を発現する細胞を、前記生理学的事象を測定するに適した状態に維持するために、前記生理学的事象の測定に先立ち、当該TRPA1を発現する細胞を任意の時間培養してもよい。
【0038】
前記TRPA1を発現する細胞の培養方法は、用いられる細胞の種類に応じた方法であればよく、例えば、単層静置培養法、浮遊培養法、回転培養法、三次元担体培養法などの方法が挙げられる。また、培養温度、培養時間、培養液のpH、二酸化炭素(CO2濃度)などの培養条件は、用いられる宿主細胞に応じて適宜設定される。例えば、用いられる宿主細胞がHEK293細胞である場合、培養条件としては、36℃〜38℃(細胞を良好に生育させる観点から、好ましくは、36.5℃〜37.5℃、特に好ましくは、37℃)で、5体積%COなどの条件が挙げられる。
【0039】
本発明の評価方法においては、前記細胞内カルシウムイオン濃度の測定は、例えば、カルシウムキレート化剤に基づく蛍光試薬(以下、「蛍光カルシウム指示薬」ともいう)を細胞内に取り込ませて、細胞内のカルシウムイオンに前記蛍光カルシウム指示薬を結合させ、結合した蛍光カルシウム指示薬に基づく蛍光の強度を測定することにより行なわれる。前記蛍光カルシウム指示薬としては、例えば、カルシウムイオンに対する結合量によってその蛍光特性が変化する試薬であればよく、特に限定されないが、例えば、FURA 2(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)、FURA 2−AM(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)、Fluo−3(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)などが挙げられる。
【0040】
本発明の評価方法において、細胞内カルシウムイオン濃度を測定する場合、例えば、アルカリ剤と被験物質とを接触させたTRPA1を発現する細胞内におけるカルシウムイオン濃度と、被験物質の非存在下にアルカリ剤を単独で接触させたTRPA1を発現する細胞内におけるカルシウムイオン濃度と、被験物質とアルカリ剤との非存在下でのTRPA1を発現する細胞内におけるカルシウムイオン濃度とを測定する。
【0041】
本発明の評価方法では、TRPA1を発現する細胞とアルカリ剤と被験物質とを接触させた場合の細胞内のカルシウムイオン濃度が、被験物質非存在下、アルカリ剤単独とTRPA1を発現する細胞とを接触させた場合の細胞内のカルシウムイオン濃度よりも減少していること、又は被験物質及びアルカリ剤それぞれの非存在下におけるTRPA1を発現する細胞と接触させた場合の細胞内のカルシウムイオン濃度と、TRPA1を発現する細胞とアルカリ剤と被験物質とを接触させた場合の細胞内のカルシウムイオン濃度との間における変化(例えば、カルシウムイオン濃度の上昇(カルシウムイオン濃度の増加量))が、被験物質及びアルカリ剤それぞれの非存在下におけるTRPA1を発現する細胞と接触させた場合の細胞内のカルシウムイオン濃度と、アルカリ剤単独とTRPA1を発現する細胞とを接触させた場合の細胞内のカルシウムイオン濃度との間における変化(例えば、カルシウムイオン濃度の上昇(カルシウムイオン濃度の増加量))よりも小さくなっていることが、前記被験物質にアルカリ剤の刺激に対する抑制効果があることの指標となる。一方、アルカリ剤と被験物質とを接触させた細胞内におけるカルシウム濃度と、アルカリ剤を単独で接触させた細胞内におけるカルシウム濃度とが同程度であること、又は被験物質とアルカリ剤との非存在下におけるTRPA1を発現する細胞と接触させた場合の細胞内のカルシウムイオン濃度と、TRPA1を発現する細胞とアルカリ剤と被験物質とを接触させた場合の細胞内のカルシウムイオン濃度との間における変化(例えば、カルシウムイオン濃度の上昇(カルシウムイオン濃度の増加量))が、被験物質とアルカリ剤との非存在下におけるTRPA1を発現する細胞と接触させた場合の細胞内のカルシウムイオン濃度と、アルカリ剤単独とTRPA1を発現する細胞とを接触させた場合の細胞内のカルシウムイオン濃度との間での変化(例えば、カルシウムイオン濃度の上昇(カルシウムイオン濃度の増加量))と同程度であることが、前記被験物質にアルカリ剤の刺激に対する抑制効果がないことの指標となる。このように、本発明の評価方法において、細胞内カルシウムイオン濃度を測定する場合には、被験物質について、アルカリ剤の刺激、すなわち、アルカリ剤による細胞内カルシウムイオン濃度の変化に対する被験物質による抑制率を求めて評価してもよい。この場合、アルカリ剤の刺激に対する被験物質による抑制率(刺激抑制率)は、式(I):
【0042】
【数1】

【0043】
又は、式(II):
【0044】
【数2】

【0045】
により求められる。
【0046】
前記陰性対照としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ剤を含まない溶液などが挙げられる。
【0047】
なお、前記抑制率の算出に際しては、蛍光強度比に基づく式(I)及び蛍光強度に基づく式(II)は、用いられるカルシウムキレート化剤に基づく蛍光試薬の励起波長により適宜選択できる。例えば、カルシウムキレート化剤に基づく蛍光試薬の励起波長が1種である場合には、当該励起波長における蛍光強度が用いられ、カルシウムキレート化剤に基づく蛍光試薬の励起波長が励起波長Aと励起波長Bとの2種である場合には、励起波長Aにおける蛍光強度と励起波長Bにおける蛍光強度との蛍光強度比(例えば、励起波長Aにおける蛍光強度/励起波長Bにおける蛍光強度)が用いられる。具体的には、例えば、カルシウムキレート化剤に基づく蛍光試薬がFURA 2−AMである場合、励起波長が、340nm及び380nmであるため、式(I)においては、「蛍光強度比」として、励起波長340nmでの蛍光強度と励起波長380nmでの蛍光強度との蛍光強度比(励起波長340nmでの蛍光強度/励起波長380nmでの蛍光強度)が用いられる。
【0048】
なお、細胞内カルシウムイオン濃度を測定する評価方法は、例えば、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞と、前記細胞を良好な状態で維持できる適切な培地と、前記蛍光カルシウム指示薬とを良好な状態で保存できる容器に封入したキットにより、より容易に実施できる。前記キットにおいては、前記細胞は、使用時において、TRPA1の機能を十分に発揮できるように復帰させることができるように、例えば、液体窒素中での保存、凍結保存等の状態で、滅菌された容器に封入されていてもよい。また、前記培地は、滅菌された容器に封入されていてもよい。前記蛍光カルシウム指示薬は、使用時において、前記細胞への導入を容易に行なうことができるように、測定に用いられる量を予め分注して容器に封入されていてもよい。また、前記蛍光カルシウム指示薬は、当該蛍光カルシウム指示薬を溶解させることができ、蛍光強度を測定するに適した溶媒、例えば、エタノールなどに溶解されていてもよい。さらに、前記キットには、蛍光強度の測定に用いられる測定用セル、マトリックスが含まれていてもよい。
【0049】
本発明の評価方法において、前記アルカリ剤によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象として、TRPA1を介する電位の変化を測定する場合、パッチクランプ法により電位を測定することにより、アルカリ剤により引き起こされるTRPA1を介する電位の変化を抑制する物質として、アルカリ剤の刺激を抑制する物質をスクリーニングすること、及びアルカリ剤により引き起こされるTRPA1を介する電位の変化に対する被験物質の抑制効果として、アルカリ剤の刺激に対する被験物質の抑制効果を評価することができる。
【0050】
本発明の評価方法によれば、例えば、外用剤に用いられるアルカリ剤による刺激を抑制する物質をスクリーニングすることができる。本発明の評価方法によりスクリーニングされた前記アルカリ剤による刺激を抑制する物質を、例えば、外用剤に配合することにより、使用感に優れた外用剤を得ることができる。
【0051】
以下に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、発現ベクターの構築は、ジャケマー(Jaquemar,D.)ら〔ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(J.Biol.Chem.)、第274巻、第11号、第7325頁−第7333頁、1999年発行〕に準じて行なった。また、細胞への発現ベクターの導入は、フェルグナー(Felgner,P.L.)ら、プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第84巻、第7413頁〜第7417頁、1987年)に準じて行なった。
【実施例】
【0052】
(製造例1)
TRPA1を発現する細胞の作製
ヒトTRPA1をコードするcDNA〔配列番号:1(GenBankアクセッション番号:NM_007332)の63位〜3888位のポリヌクレオチド〕を、哺乳動物細胞用ベクターである商品名:pcDNA3.1(+)(インビトロジェン社製)のKpnI/XbaIサイトに挿入し、ヒトTRPA1発現ベクターを得た。
【0053】
得られたヒトTRPA1発現ベクター(1μg相当量)とプラスリージェント(商品名、カタログ番号:11514−015、インビトロジェン社製)6μlとを混合し、混合物Iを得た。また、リポフェクタミン(登録商標、カタログ番号:18324−012、インビトロジェン社製)4μlとOPTI−MEM(登録商標)I Reduced−Serum Medium(カタログ番号:11058021、インビトロジェン社製)200μlとを混合し、混合物IIを得た。
【0054】
一方、HEK293細胞(5×10個/直径35mmシャーレ)を10質量%FBS含有DMEM培地にて、5体積%CO下、37℃で70%のコンフルエンシーまで培養した。
【0055】
その後、得られた細胞に、前記混合物Iと混合物IIとの混合物を添加した。これにより、HEK293細胞に前記ヒトTRPA1発現ベクターを導入し、TRPA1発現細胞を得た。
【0056】
(実施例1)
被験物質を、アルカリ剤としての溶液A〔組成:140mM NaCl、5mM KCl、2mM MgCl、2mM CaCl、10mM グルコース、10mMトリス塩酸緩衝液(pH9.0)〕に添加し、試験液を作製した。また、前記溶液Aを標準試験液として用いた。
【0057】
前記被験物質として、TRPA1の既知のアンタゴニストであるカンファー(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製、実験番号1)、ルテニウムレッド(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製、実験番号2)及びガドリニウムクロライド(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製、実験番号3)、並びにグリセリン(和光純薬工業株式会社製、実験番号4)、1,3−ブタンジオール(和光純薬工業株式会社製、実験番号5)及びポリオキシエチレン(2)オレイルエーテル(和光純薬工業株式会社製、実験番号6)を用いた。各試験液中における被験物質の濃度は、それぞれ、カンファー(実験番号1)が5mM、ルテニウムレッド(実験番号2)が10μM、ガドリニウムクロライド(実験番号3)が100μM、グリセリン(実験番号4)が5mM、1,3−ブタンジオール(実験番号5)が5mM、ポリオキシエチレン(2)オレイルエーテル(実験番号6)が500μMとした。
【0058】
前記製造例1で得られたTRPA1発現細胞を、室温下、1〜20μg/mlのFURA 2−AMを含む10質量%FBS含有DMEM培地中で20〜40分間インキュベーションして、TRPA1発現細胞にFURA 2−AMを導入した。
【0059】
FURA 2−AM導入後のTRPA1発現細胞を、循環定温チャンバー付蛍光測定装置(商品名:ARGUS−50、浜松ホトニクス株式会社製)のチャンバーに入れ、溶液B〔組成:140mM NaCl、5mM KCl、2mM MgCl、2mM CaCl、10mM グルコース、10mM HEPES、(pH7.4)〕にて洗浄した。つぎに、前記試験液をチャンバーに入れて循環させながら、励起波長340nmでの蛍光強度と励起波長380nmでの蛍光強度とを測定した。その後、前記試験液を用いた場合の励起波長340nmでの蛍光強度と励起波長380nmでの蛍光強度との蛍光強度比(340nmでの蛍光強度/380nmでの蛍光強度)を算出した。
【0060】
また、前記試験液の代わりに、標準試験液を用いたことを除き、同様に、励起波長340nmでの蛍光強度と励起波長380nmでの蛍光強度との蛍光強度比を算出した。さらに、また、前記試験液の代わりに、陰性対照として、溶液Bを用いたことを除き、同様に、励起波長340nmでの蛍光強度と励起波長380nmでの蛍光強度との蛍光強度比を算出した。
【0061】
細胞内カルシウムイオン濃度の変化(カルシウムイオン濃度の増加)に対する被験物質による抑制率を、式(I):
【0062】
【数3】

【0063】
に基づき算出した。ここで、抑制率が5%以上である場合、被験物質が、アルカリ剤の刺激に対する抑制効果を発揮する物質であると判断した。さらに、前記抑制率が20%以上である場合、被験物質が、細胞内カルシウムイオン濃度の変化(カルシウムイオン濃度の増加)に対して、高い抑制効果を発揮する物質であると判断した。各被験物質とアルカリ剤の刺激の抑制率(刺激抑制率)との関係を示すグラフを図1に示す。
【0064】
被験物質を含まず、アルカリ剤としての、トリス塩酸緩衝液(pH9.0)を含む溶液である前記標準試験液を用いた場合(アルカリ性条件)の蛍光強度比は、1.06であり、被験物質と前記アルカリ剤とを含まない溶液である溶液B(陰性対照)を用いた場合の蛍光強度比は、0.78であった。このように、被験物質を含まず、前記アルカリ剤を含む溶液である標準試験液を用いた場合の蛍光強度比は、被験物質と前記アルカリ剤とを含まない溶液である溶液B(陰性対照)を用いた場合の蛍光強度比よりも高くなっていた。したがって、アルカリ剤により、細胞内カルシウムイオン濃度が増加することが示唆される。
【0065】
また、図1に示される結果から、TRPA1のアンタゴニストではないグリセリン(実験番号4)、1,3−ブタンジオール(実験番号5)及びポリオキシエチレン(2)オレイルエーテル(実験番号6)を用いた場合、細胞内カルシウムイオン濃度が上昇しているが、TRPA1のアンタゴニストであるカンファー(実験番号1)、ガドリニウム(実験番号2)及びルテニウムレッド(実験番号3)を用いた場合、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が、それぞれ、46.9%、21.7%及び67.3%の抑制率で抑制されていることがわかる。
【0066】
これらの結果から、TRPA1のアンタゴニストの存在により、TRPA1のアンタゴニスト非存在下の場合に比べ、細胞内カルシウムイオン濃度の増加量が減少しているため、前記アルカリ剤による細胞内カルシウムイオン濃度の増加は、TRPA1を介して引き起こされることがわかる。
【0067】
このように、アルカリ剤により、TRPA1を介する細胞内カルシウムイオン濃度の増加が引き起こされるため、アルカリ剤による刺激を、TRPA1を介する生理学的事象を指標として評価できることが示唆される。
【0068】
また、図1に示される結果から、TRPA1のアンタゴニストであるカンファー(実験番号1)、ガドリニウム(実験番号2)及びルテニウムレッド(実験番号3)により、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が抑制されているが、TRPA1のアンタゴニストではないグリセリン(実験番号4)、1,3−ブタンジオール(実験番号5)又はポリオキシエチレン(2)オレイルエーテル(実験番号6)では、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇の抑制効果を発揮しないことが判断できることがわかる。
【0069】
このように、アルカリ剤による刺激を、TRPA1を介する生理学的事象を指標とすることにより、アルカリ剤の刺激を抑制する物質をスクリーニングすることができることがわかる。
【0070】
さらに、図1に示される結果から、前記TRPA1のアンタゴニストであるカンファー(実験番号1)、ガドリニウム(実験番号2)及びルテニウムレッド(実験番号3)は、抑制率が、それぞれ、46.9%、21.7%及び67.3%であるため、いずれも、アルカリ剤の刺激に対して、高い抑制効果を有する物質であると判断できる。また、図1に示される結果から、被験物質として、ガドリニウム(実験番号2)を用いた場合、他のアンタゴニストであるカンファー(実験番号1)又はルテニウムレッド(実験番号3)を用いた場合に比べ、前記抑制率が低くなっているため、アルカリ剤の刺激に対するガドリニウム(実験番号2)の抑制効果は、アルカリ剤の刺激に対するカンファー(実験番号1)又はルテニウムレッド(実験番号3)の抑制効果に比べ、低いことがわかる。
【0071】
このように、被験物質及びアルカリ剤の存在下に、前記製造例1で得られたTRPA1発現細胞内におけるTRPA1を介する挙動の指標として細胞内におけるカルシウムイオン濃度を測定することにより、アルカリ剤の刺激に対する被験物質による抑制効果が容易に評価できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】各被験物質とアルカリ剤の刺激の抑制率(刺激抑制率)との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質と、アルカリ剤と、TRPA1を発現する細胞とを接触させ、前記アルカリ剤によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を測定することを特徴とする、アルカリ剤の刺激を抑制する物質の評価方法。
【請求項2】
前記生理学的事象が、細胞内カルシウムイオン濃度の変化である請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
前記TRPA1を発現する細胞が、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞である請求項1又は請求項2記載の評価方法。
【請求項4】
前記宿主細胞が、HEK293細胞、CHO細胞、COS−7細胞及びNIH3T3細胞からなる群より選ばれた細胞である請求項3記載の評価方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−82053(P2009−82053A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254938(P2007−254938)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】