説明

評価装置、評価方法

【課題】例えばジッター値などの光記録媒体の品質評価値について、複数の測定機で分担して評価値の測定を行う場合において、測定機の光学系の選別や複雑な算術演算を伴う測定値の校正を行うことなく、各測定機間の測定値差を解消する。
【解決手段】再生信号に対して短波長成分の信号レベルを集中的に変化させる等化特性により波形等化処理を施す第1の波形等化を行い、且つ、上記再生信号におけるピット部分の波形とランド部分の波形との境界を検出した結果に基づき、上記第1の波形等化の施された上記再生信号と、上記第1の波形等化の施されていない上記再生信号とを択一的に切り換えて出力するようにした上で、このように択一的に選択出力される再生信号に基づき信号エッジ位置の分布を表す評価値を生成する。これにより、測定機と光記録媒体の組み合わせによって生じる測定値のバラツキ(測定値差)を解消して、適正な品質評価が行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体の信号品質評価を行うための評価装置とその方法とに関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2009−123266号公報
【背景技術】
【0003】
例えばCD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray Disc:登録商標)などといった光ディスク記録媒体(以下、単に光ディスクとする)の品質評価は、光ディスク上に形成されたピットのエッジ位置のばらつき具合を標準偏差値で表した、いわゆるジッター(Jitter)という指標を用いて行われていた。具体的には、光ディスクからの読み出し信号のエッジ位置を複数検出した結果に基づき度数分布表を生成し、該度数分布表からエッジ位置についての標準偏差の値を計算するものである。このように計算されるジッターの値は、その値が大きいほどエッジ位置のばらつきが大きいことを表し、逆に値が小さければエッジ位置のばらつきが少ないことを表す。すなわち、ジッターの値が小さいほどエッジ位置のばらつきが少ない良好な光ディスクであると判断することができる。
【0004】
ここで、一般的に光ディスク製品についての品質評価を行うとした場合には、多数の光ディスクについて1台の評価装置(測定機とも称する)のみで品質評価を行うということはせず、時間短縮などの面から複数の測定機によりそれぞれ分担して品質評価を行うようにされる。
【0005】
但し、ここで問題となるのは、測定機ごとの光学的な特性の違いなどに起因して、評価値にバラツキが生じ、共通の基準による品質評価を行うことが困難になるという点である。
特に、上記特許文献1にも開示されているように、上述のジッター値による品質評価を行う場合においては、測定機と光ディスクの組み合わせによって複雑な測定値差が生じることが確認されている。
【0006】
各測定機間での測定値差を解消するための手法としては、各測定機の光学系としてそれぞれ特性の近いものを選別・搭載し、それによって各測定機の光学特性のバラツキを抑えるという手法を挙げることができる。すなわち、このように各測定機の光学特性のバラツキが抑制されることで、測定機と光ディスクの組み合わせによる測定値差の抑制が図られるものである。
【0007】
しかしながら、光学系の選別は非常に手間が係る作業であり、人件費の大幅な増加を招くなどの問題がある。また、特性の類似性が高い光学系を大量に選別すること自体困難性があり、従ってこれらの点より、上記光学系を選別する手法は現実的な手法とは言えないものとなる。
【0008】
光学系の選別を不要として測定値差の解消を図るために、従来においては、複数の測定機のうちから基準となる測定機(基準機)を選定しておき、他の測定機による測定結果が当該基準機の測定結果と一致するように測定結果に対して校正をかけるという手法が提案されている。
このように測定結果を校正する手法としては、例えば以下の第1の手法、第2の手法を挙げることができる。先ず、第1の手法は、測定されたジッター値をx、測定結果に与えるべき校正係数をyとしたとき、「y=ax+b」という1次式により求めた校正係数を用いる手法である。すなわち、上記基準機と他の各測定機との間に生じる測定値差の相関性をこのような一次式により近似し、当該一次式から求めた校正係数を用いて各測定機による測定結果を校正するというものである。
【0009】
また、第2の手法は、上記特許文献1に記載される手法であり、上記のような基準機と他の各測定機間に生じる測定値差の相関性をより複雑なものとして捉え、より複雑な相関関数を用いて求めた校正係数を用いて各測定機の測定結果を校正するようにされている。具体的には、各測定機にて生じるエッジ位置の度数分布の歪みに着目し、該歪みの方向(極性)や歪みの度合いに基づいて算出した校正係数を用いて、測定結果を校正するという手法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記各手法のうち、第1の手法は、一次式を用いた簡易的な校正手法であるので、校正にあたっての算術演算は容易で済むが測定結果のバラツキ抑制効果(測定値差の解消効果)は比較的低いものとなってしまう。
また、上記第2の手法は、上記第1の手法との比較では測定値差の解消効果は高まるが、校正にあたって複雑な算術演算を要するという問題がある。
【0011】
また何れにしても、これら第1,第2の手法のように校正係数を用いて評価結果(測定値)を校正するという手法は、上述のように測定機と光ディスクとの組み合わせで複雑に生じる測定値差の原因を的確に特定した上での対処法を提案しているものではなく、そのため或る程度の測定値差が生じることは避けられないものとなる。
【0012】
本発明は上記のような課題の解決を図るべく為されたものであり、測定機の光学系の選別や複雑な算術演算を伴う測定値の校正を行うことなく、各測定機間の測定値差を解消することをその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このため本発明では、評価装置として以下のように構成することとした。
すなわち、ピットの形成により信号記録が行われた光記録媒体に対して光照射を行って記録信号の読み出しを行う信号読出部を備える。
また、上記信号読出部による読出動作に基づき得られた上記記録信号についての再生信号を入力し、当該再生信号に対して短波長成分の信号レベルを集中的に変化させる等化特性により波形等化処理を施す第1の波形等化部を備える。
また、上記再生信号におけるピット部分の波形とランド部分の波形との境界を検出する境界検出部を備える。
また、上記境界検出部による境界検出結果に基づき、上記第1の波形等化部による波形等化処理の施された上記再生信号と、上記第1の波形等化部による波形等化処理の施されていない上記再生信号とを択一的に切り換えて出力する出力選択部を備える。
また、上記出力選択部により出力される上記再生信号に基づき信号エッジ位置の分布を表す評価値を生成する評価値生成部を備えるようにした。
【0014】
ここで、後述もするように本出願人は、測定機(評価装置)と光記録媒体の組み合わせで生じる測定値差についての実験・考察を重ねた結果、測定機と光記録媒体の組み合わせが異なることによっては、再生信号における短波長成分(例えばBDの場合では2Tや3Tなど:BDはBlu-ray Discの略で登録商標)の長さにバラツキが表れ、当該短波長成分の長さのバラツキに起因して測定値差が生じるということを発見した。
このとき、短波長成分の長さのバラツキは、特にピット部分の再生信号の差異によって生じることが確認されている。
具体的な現象としては、2Tピットなどの短ピット部分の長さが長く或いは短く見える測定機と、短ピット部分の長さが長く或いは短く見える光記録媒体とが存在することになる。
【0015】
ここで、複数の光記録媒体について複数の測定機で分担して評価値の測定を行うとした場合において、基準となる測定機(基準機)として、例えば他のどの測定機よりも短ピットの長さが短く見える測定機を選定したとする。この場合には、或る光記録媒体について基準機と別の測定機とが読み出しを行ったとすると、必ず基準機での短ピットの長さが一番短く見えることになる。
このとき、基準機で短ピットの長さが適正値より長く見える光記録媒体(M_sp_long)についての測定を行ったとし、その際の基準機による当該光記録媒体M_sp_longについての測定値をα_ref-long、別の測定機による測定値をα_ms_longとする。
上記のように基準機は短ピットの長さが一番短く見えるので、別の測定機では短ピットの長さはより長く見えることになり、これに伴い、上記別の測定機による測定値α_ms_longの値は、基準機の測定値α_ref_longよりも悪化した値となる。
【0016】
一方で、逆に基準機で短ピットの長さが適正値より短く見える光記録媒体(M_sp_short)について測定を行ったとし、そのときの基準機による測定値をα_ref_short、別の測定機による測定値をα_ms_shortとする。
別の測定機では基準機よりも短ピットの長さが長く見えるので、この場合は基準機で短く見える短ピットの長さは別の測定機において適切な長さに見え、結果としてこの場合は、基準機の測定値α_ref_shortよりも、別の測定機による測定値α_ms_shortの方が良好な値を示すことになる。
【0017】
このように測定機ごと及び光記録媒体ごとに短ピットの長さが長く見えたり或いは短く見えるといった現象が生じることで、先の特許文献1の図6(或いは本願明細書の図1)に示されるような、或る光記録媒体については基準機よりも別の測定機の方が測定値が良好に見え、別の光記録媒体については基準機の方が別の測定機よりもよりも測定値が悪化して見えるといった複雑な測定値差が生じることになる。
このように複雑に生じる測定値差を補正して適正な評価値の測定が行われるようにするためには、短ピットの長さが測定機・光記録媒体ごとのバラツキに関わらず同じ長さに見えるようにすればよい。換言すれば、各測定機において、再生信号の短ピット部分の波形が、基準機にて得られる波形と同等となるように補正すればよいものである。
【0018】
このような補正を実現するにあたっては、各測定機における再生信号に関して、短ピット部分の波形が基準機の波形と同等となるように波形等化が行われるようにすればよい。
このための具体的な構成として、本発明では、上記のようにして再生信号に対して短波長成分の信号レベルを集中的に変化させる等化特性により波形等化処理を施す第1の波形等化を行い、且つ、上記再生信号におけるピット部分の波形とランド部分の波形との境界を検出した結果に基づき、上記第1の波形等化の施された上記再生信号と、上記第1の波形等化の施されていない上記再生信号とを択一的に切り換えて出力するようにした上で、このように択一的に選択出力される再生信号に基づき信号エッジ位置の分布を表す評価値を生成する、という構成を採るものとしている。
このような構成により、各測定機において得られる短ピット部分の波形が基準機にて得られる波形と同等となるように補正を行うことができ、結果、測定機と光記録媒体の組み合わせによって生じる測定値のバラツキ(測定値差)を解消して、適正な品質評価が行われるようにすることができる。
【発明の効果】
【0019】
上記のようにして本発明によれば、特に短ピット部分の波形について、基準機における波形と別の測定機における波形とが同等となるように波形等化を行うことができ、測定機と光記録媒体の組み合わせによって生じる測定値差を解消して、適正な品質評価が行われるようにすることができる。
このとき、上述のように測定値差が生じる原因は、再生信号の特に短ピット部分の長さにバラツキが生じることにあるので、上記本発明によれば、測定値に対して校正係数を与える従来例の手法と比較してより的を得た補正とすることができ、結果、従来例の場合よりも優れた測定値差の解消効果を得ることができる。
【0020】
また、言うまでもなく本発明は、測定機間に光学特性のバラツキがある場合を前提とした手法であり、従って光学系の選別を行う必要性は無いものである。
【0021】
以上より本発明によれば、測定機の光学系の選別や複雑な算術演算を伴う測定値の校正を行うことなく、各測定機間の測定値差を解消して適正な品質評価の実現化が図られるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】測定機とディスクの組み合わせにより生じる測定値差の実際の発生態様について説明するための図である。
【図2】図1に示すグループB(基準機よりも別の測定機でのジッター値が悪化する)に属する光ディスクについてのエッジ位置度数分布を示した図である。
【図3】図1に示すグループA(基準機よりも別の測定機でのジッター値が良好となる)に属する光ディスクについてのエッジ位置度数分布を示した図である。
【図4】係数rの設定値ごとのフィルタ特性(周波数特性)を例示した図である。
【図5】本実施の形態としての波形等化処理による作用について説明するための図である。
【図6】係数rの選定手法の例について説明するための図である。
【図7】実施の形態としての評価装置の内部構成を示した図である。
【図8】実施の形態としての補正を行った場合の効果を実証するための図である。
【図9】変形例としての評価装置の構成について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、発明を実施するための最良の形態(以下実施の形態とする)について説明していく。
なお、説明は以下の順序で行うものとする。

<1.測定機とディスクの組み合わせによる測定値差の発生原因>
<2.実施の形態としての測定値差の補正手法>
[2-1.補正手法の概要]
[2-2.実施の形態としての評価装置の構成例]
[2-3.補正による効果]
[2-4.実施の形態のまとめ]
<3.変形例>
【0024】
<1.測定機とディスクの組み合わせによる測定値差の発生原因>

先ずは実施の形態としての測定値差の補正手法についての説明に先立ち、測定機とディスクの組み合わせによる測定値差の発生原因について図1〜図3を参照して説明する。
先ず、図1により、測定機とディスクの組み合わせにより生じる測定値差の実際の発生態様について説明しておく。
【0025】
ここで確認のために述べておくと、以下の説明において、「測定値」と言ったときは、信号エッジ位置(ピット部分の波形とランド部分の波形との境界タイミング)の分布を表す評価値についての測定値を指すものであるとする。具体的に実施の形態では、いわゆるジッター(jitter)値を指すものである。
また、上記評価値についての測定を行う装置(評価装置)については「測定機」とも称する。
【0026】
図1は、複数の光ディスクD(D01〜D27)について、基準機と別の測定機(M01〜M10)とで測定されたジッター(jitter)値の関係を示している。
なお図1において、太線による実線は基準機での測定結果を示し、別の測定機による測定結果は、細線にそれぞれ異なるマークを付して示している。
また、この図1において、各光ディスクDは、BD(Blu-ray Disc:登録商標)のROMディスク(ピット/ランドの組み合わせにより情報記録が行われたもの)である。
【0027】
先ず、この図1を参照すると、複数の光ディスクDについて各測定機で評価値(ジッター値)を測定した場合、各光ディスクDについての測定値は、測定機ごとに異なっていることが確認できる。
またこのとき、基準機に対する別の測定機の測定値差は、各光ディスクDに対して一定ではなく、光ディスクDが異なると測定値差も変化していることが確認できる。
【0028】
具体的に、図1を参照すると、基準機での測定値よりも、別の測定機での測定値の方が概ね良好な値(ジッター値が小)となる光ディスクDのグループ(図中グループA)と、逆に基準機での測定値よりも別の測定機での測定値の方が概ね悪化した値(ジッター値が大)となる光ディスクDのグループ(図中グループB)とが存在していることが確認できる。
なお確認のために述べておくと、この図1では、視覚的にこのようなグループA,Bの関係が明示できるようにして複数の光ディスクD(D01〜D27)についての番号付けを行ったものである。
【0029】
この図1の結果が示す通り、測定機と光ディスクDの組み合わせにより生じる測定値差は複雑なものであり、単一の校正係数を用いて測定値を構成する従来の手法(先に述べた第1の手法)によりバラツキの補正を行ったのでは、測定値差を適正に解消することができないことが理解できる。
【0030】
ここで、本出願人は、このように測定機と光ディスクDの組み合わせにより生じる測定値(エッジ位置のバラツキに関する測定値)のバラツキに関して実験・考察を重ねた結果、その原因を確認するに至った。
具体的に原因は、測定機と光記録媒体の組み合わせが異なることによって再生信号における短波長成分(特にBDの場合では2T)の長さにバラツキが表れることにあり、このような短波長成分の長さのバラツキによって、測定値差が生じるものである。
このとき、短波長成分の長さのバラツキは、特にピット部分の再生信号の差異によって生じることが確認されている。
【0031】
具体的な現象としては、2Tピットなどの短ピット部分の長さが長く或いは短く見える測定機と、短ピット部分の長さが長く或いは短く見える光記録媒体とが存在するというものである。
【0032】
ここで、複数の光ディスクDについて複数の測定機で分担して評価値の測定を行うとした場合において、基準となる測定機(基準機)として、例えば他のどの測定機よりも短ピットの長さが短く見える測定機を選定としたとする。この場合には、或る光ディスクDについて基準機と別の測定機とが読み出しを行ったとすると、必ず基準機での短ピットの長さが一番短く見えることになる。
このとき、基準機で測定すると短ピットの長さが適正値より長く見える光ディスクD(D_sp_long)についての測定を行ったとし、その際の基準機による当該光ディスクD_sp_longについての測定値をα_ref-long、別の測定機による測定値をα_ms_longとおく。
上記のようにこの場合の基準機は短ピットの長さが一番短く見えるので、別の測定機では短ピットの長さはより長く見えることになり、これに伴い、上記別の測定機による測定値α_ms_longの値は、基準機の測定値α_ref_longよりも悪化した値となる。
【0033】
一方で、逆に基準機で測定すると短ピットの長さが適正値より短く見える光ディスクD(D_sp_short)について測定を行ったとし、そのときの基準機による測定値をα_ref_short、別の測定機による測定値をα_ms_shortとする。
別の測定機では基準機よりも短ピットの長さが長く見えるので、この場合は短く見える短ピットの長さは別の測定機において適切な長さに見え、結果としてこの場合は、基準機の測定値α_ref_shortよりも、別の測定機による測定値α_ms_shortの方が良好な値を示すことになる。
【0034】
このような原理により、先の図1に示したような現象、すなわち或る光ディスクDについては基準機よりも別の測定機の方が測定値が良好となり、他の光ディスクDについては基準機よりも別の測定機の方が測定値が悪化するという現象が生じるものである。
【0035】
なお確認のために述べておくと、ジッター値としては、全ての波長成分(全てのピット長)のエッジ位置分布の合計を測定するものとなるが、短波長成分の発生頻度は、光ディスクの規格にも依るが概ね30%程度ある。このために、上記のような短波長成分の長さの変化により、ジッター値が比較的大きく変化するものである。
【0036】
図2、図3は、上記のような短ピットの長さのバラツキ現象と測定値のバラツキ(測定値差)との関係を視覚的に説明するための図である。
図2、図3は、或る光ディスクDについて基準機と測定機とでエッジ位置の測定を行った際のヒストグラム(度数分布)を示したものであり、図2は、図1におけるグループBに属する光ディスクD(つまり基準機よりも別の測定機でのジッター値が悪化する光ディスクD)についてのエッジ位置度数分布を、また図3はグループAに属する光ディスクD(つまり基準機よりも別の測定機でのジッター値が良好となる光ディスクD)についてのエッジ位置度数分布をそれぞれ示している。
なお、これら図2、図3において、(a)図、(b)図、(c)図は、それぞれ基準機側で得られた各ピット長ごと(2T〜8T)のリーティングエッジLEのヒストグラム、同ピット長ごとのトレイリングエッジTEのヒストグラム、全ピット長についての(つまりピット長別の区分をしない)リーティングエッジLEとトレイリングエッジTEのヒストグラムをそれぞれ示している。また、(e)図、(f)図、(g)図は、それぞれ別の測定機側で得られた各ピット長ごと(2T〜8T)のリーティングエッジLEのヒストグラム、同ピット長ごとのトレイリングエッジTEのヒストグラム、全ピット長についてのリーティングエッジLEとトレイリングエッジTEのヒストグラムをそれぞれ示している。
なお、上記リーティングエッジLEは、ランド部からピット部に遷移するエッジ部分を指し、上記トレイリングエッジTEは逆にピット部からランド部に遷移するエッジ部分を指すものである。
また、(a)〜(f)の各図において、横軸の「Edge position」に示される数値は、1T(Tはチャネルクロック)分の区間を1024等分したときの数値を表しており、また図中の点線Cは、適正なエッジ位置(理想的なエッジ位置)を表している。
【0037】
なお確認のために述べておくと、上述のようにこの場合の基準機としては他のどの測定機よりも短ピットの長さが短く見える測定機を選定しているので、別の測定機では、基準機よりも短ピットの長さがより長く見えることになる。
【0038】
先ず、図2及び図3における(a)(b)(d)(e)図に示される短ピット(特に2T)の度数分布のピーク位置(平均エッジ位置)について着目してみると、グループBの光ディスクDについて測定を行った場合(図2)は、グループAの光ディスクDについて測定を行った場合(図3)よりも、短ピットの長さ(リーティングエッジLE〜トレイリングエッジTEの区間)が長くなっていることが確認できる。このことからも理解されるように、グループBの光ディスクDは、短ピットの長さがより長く見えるディスクであり、逆にグループAの光ディスクDは短ピットの長さがより短く見えるディスクとなる。
【0039】
そして、図2における(a)(b)(d)(e)図を参照すると、短ピットの長さは、基準機よりも、別の測定機の方がより長く見えていることが分かる。
このことで、短ピットの長さがより長く見えるグループBの光ディスクDに関して基準機と別の測定機とで測定を行った場合は、長く見える短ピットの長さが、別の測定機においてより長く見えるものとなる。
この結果、図2における(c)図と(f)図との対比として示されるように、この場合は基準機に比較して別の測定機でのジッター値が悪化する傾向となる。すなわち先に述べた通り、グループBの光ディスクDについては、基準機よりも別の測定機での方がジッター値が悪化する傾向となるものである。
図によると、この場合は特にトレイリングエッジTEについてのジッター値が悪化する傾向となっている。
【0040】
また、図3における(a)(d)(b)(e)図を参照すると、同様に短ピットの長さは基準機よりも別の測定機の方がより長く見えることが表されている。
前述のようにグループAの光ディスクDは短ピットの長さがより短く見えるディスクであるので、このことによっては、基準機において短く見えていた短ピットの長さが、別の測定機においてはより適切な長さに見えることとなり、結果、図3における(c)図と(f)図との対比として示されるように、この場合は基準機と比較して別の測定機でのジッター値が改善する傾向となる。
このことより、先に述べた通りグループAの光ディスクDについては、基準機よりも別の測定機での方がジッター値が改善する傾向となる。
図示するようにこの場合は特にトレイリングエッジTEについてのジッター値が改善する傾向となる。
【0041】
<2.実施の形態としての測定値差の補正手法>
[2-1.補正手法の概要]

上記のようにして測定機ごと、光ディスクDごとに短ピットの長さが長く或いは短く見えるという現象が生じることで、先の図1に示したような複雑な測定値差、すなわち或るディスク群については基準機よりも別の測定機の方が測定値が良好に見え、別のディスク群については基準機の方が別の測定機よりもよりも測定値が悪化して見えるといった現象が生じることになる。
このように複雑に生じる測定値差を補正して適正な評価値の測定が行われるようにするためには、短ピットの長さが測定機・光記録媒体ごとの特性バラツキに関わらず同じ長さに見えるようにすればよい。換言すれば、各測定機において、再生信号の短ピット部分の波形が、基準機にて得られる波形と同等となるように補正すればよいものである。
【0042】
この点に鑑み本実施の形態では、各測定機における再生信号に関して、短ピット部分の波形が基準機の波形と同等となるように波形等化を行うという手法を採る。
【0043】
以下、このような実施の形態としての補正の概要について、図4〜図6を参照して説明する。
上記の説明からも理解されるように、本実施の形態としての補正手法を実現するにあたって重要なポイントは、再生信号中の短波長成分を集中的に波形等化するという点と、波形等化を主にピット部分を対象として行うという点である。
ここで、短波長成分の長さの変化は、光ディスクDに形成されたピットの深さによる影響が大きく、ランド部分による影響はほぼ無いものと見なすことができる。このため波形等化は、主にピット部分を対象として行う。本実施の形態では、ランド部分には波形等化を一切作用させず、ピット部分のみを対象として波形等化を行う場合を例示する。
【0044】
ここで、本実施の形態において、短波長成分を対象とした集中的な波形等化には、例えば以下に示すような5TAPのFIR(Finite Impulse Response)フィルタを用いる。

-(1/8)*r*Z0-(1/2)*r*Z1+(1+1.25*r)*Z2-(1/2)*r*Z3-(1/8)*r*Z4 ・・・[式1]

このようなフィルタ関数により表されるFIRフィルタは、係数「r」の値の設定によって等化特性(周波数特性)を任意に設定できる。
【0045】
上述のように本実施の形態においては、短ピットの長さが一番短く見える測定機を基準機として選定したので、別の測定機においては、短ピットの長さは全て「より長く」見えることになる。
従ってこれを補正すべく、この場合の等化特性としては、短波長成分のレベルを集中的に低下(減衰)させて、その長さを短くするような特性を設定する。
【0046】
図4は、上記フィルタ関数により表されるFIRフィルタを用いた場合のフィルタ特性の例を示している。
この図4においては、係数rの設定値ごと(r=0,−4,−8,−12,−16,−20)のフィルタ特性(周波数特性)を示している。
目安として、図中ではBDの場合における2T信号の周波数(およそ16MHz)を示している。なおBDの場合、3T信号はおよそ11MHz程度となる。
【0047】
実施の形態では、このように再生信号の短波長成分のレベルを集中的に減衰させる特性による波形等化を、ピット部分のみに作用させ、ランド部分には作用させないようにする。
このための具体的な手法として、本実施の形態では、先ず、再生信号を入力する波形等化フィルタとして第1のフィルタと第2のフィルタとを並列に設け、第1のフィルタにおいて係数r≠0とした所要の減衰特性による波形等化処理を行い、一方の第2のフィルタでは係数r=0に設定して短波長成分の減衰が行われないようにする。その上で、再生信号におけるピット部分とランド部分との境界を検出する境界検出部を設け、当該境界検出部による境界検出結果に基づき、上記第1のフィルタを介した再生信号と上記第2のフィルタを介した再生信号とを択一的に切り換えて出力する。
このようにすることで、結果的にピット部分のみを対象として短波長成分のレベルを集中的に減衰させた再生信号を得ることができる。つまりこれにより、再生信号の短ピット部分のレベルを集中的に減衰させる構成が実現される。
【0048】
なお、一般的な評価装置に設けられる波形等化器は、このような選択的な波形等化を行わず、ピット部分とランド部分とに同一の係数rを設定したいわば線形な等化器とされる。
一般的に、光ディスクの評価装置において波形等化器の係数変更によってうまくジッター測定値が補正できないのは、このような線形な波形等化器を用いているためであると考えられる。
【0049】
図5は、上記のような本実施の形態としての波形等化処理による作用について説明するための図である。
この図5では、先の[式1]によるフィルタ関数が設定される場合において、上述の第1のフィルタ側(つまりピット側)の係数rを「−16」、第2のフィルタ側(ランド側)の係数rを「0」とした場合における等化前の再生信号波形(図中破線)、等化後の再生信号波形(図中実線)のシミュレーション結果を示している。
【0050】
この図5を参照して分かるように、上記により説明した選択的な波形等化を行う実施の形態としての波形等化器によれば、ランド部分のレベルは変化しないものとなる。
一方、ピット部分については、図中に示される3Tピット、2Tピットのような短ピット部分のレベルが集中的に低下していることが分かる。先の[式1]によるフィルタ関数の設定によると、このような短ピット成分の集中的なレベル低下に伴っては、主に2Tピットの長さが短くなるようにされていることが確認できる(図中、等化前における2Tピットの長さBFと等化後の2Tピットの長さAFとを参照)
【0051】
ここで、測定機間の測定値差を解消するにあたっては、各測定機で得られる短ピットの長さが、基準機で得られる短ピットの長さと一致するようにして、係数rの値を設定することになる。
先の図1において基準機による測定値と他の各測定機で得られる測定値とがばらついていることからも理解されるように、各測定機で得られる短ピットの長さは、基準機で得られる短ピットの長さに対してばらつきを有するものである。このため、個々の測定機での短ピットの長さを基準機での短ピットの長さと一致させるにあたっては、個々の測定機ごとに、そのための係数rを割り出しておくことになる。
【0052】
図6は、このような測定機ごとの係数rの割り出し手法の一例について説明するための図である。
先ず、係数rの割り出しにあたっては、複数の光ディスクD(図1におけるD01〜D27)のうちから、グループAの代表ディスクとグループBの代表ディスクとを選出しておくことになる。
そして、係数rの割り出し対象とする測定機により、選出した各代表ディスクについて、係数rの値を変化させてジッター値の測定をそれぞれ行う。
その上で、グループA代表ディスクについて得られた係数rの各設定値ごとのジッター測定値について、それらの値と基準機で得られた上記グループA代表ディスクについてのジッター測定値との比率(基準機/対象測定機)を求める。
同様に、グループB代表ディスクについても、係数rの各設定値ごとに得られた各ジッター測定値に関して、それらの値と基準機で得られたジッター測定値との比率(基準機/対象測定機)を求める。
【0053】
図6においては、このようにしてグループA代表ディスクとグループB代表ディスクとについてそれぞれ求めた係数rの値ごとの「基準機/対象測定機」による比率値をプロットして示している。
図中にも表記されているように、破線がグループA代表ディスクについての比率値の係数rの変化に応じた遷移を示し、また実線がグループB代表ディスクについての比率値の係数rの変化に応じた遷移を示している。
この場合、図中の横軸に示す係数rの値は、上段が前述した第1のフィルタ側の設定値を表し、下段が第2のフィルタ側の設定値を表す。
【0054】
図示するようにして第1のフィルタ側の係数rの値が「0」(つまり補正無し)の状態においては、グループA代表ディスクについての「基準機/対象測定値」によるジッター比率の値は、グループB代表ディスクについての「基準機/対象測定値」によるジッター比率の値よりも大となる。これは、グループAは基準機よりも別の測定機での方がジッター値が小となるディスク群であり、またグループBは基準機よりも別の測定機での方がジッター値が大となるディスク群であることによる(図1を参照)。
【0055】
そして、第1のフィルタ側の係数rの絶対値が大となるに従って、図のようにグループA代表ディスクについての「基準機/対象測定値」ジッター比率値と、グループB代表ディスクについての「基準機/対象測定値」ジッター比率値とが徐々に近づいていくことになる。
両者が一致する点が、異なる特性を有するそれぞれの光ディスクDについて、基準機と対象測定機での測定値が同じ傾向を示す点となるので、そのときの係数rの値を、対象測定機に設定する係数rの値として選定する。
例えば図の例では、r=−18が対象測定機に対して設定されるべきピット側の係数rの値となる。
【0056】
例えばこのような手法によって、予め各測定機ごとに設定すべき係数rの値を割り出しておく。
このように予め割り出しておいた係数rをそれぞれの測定機に設定した上で、実際のジッター測定を行う。これにより、各測定機において短ピットの長さを基準機における短ピットの長さと一致させるようにして波形等化が行われるようにすることができ、その結果、測定機間の測定値差が補正されて、適正な評価結果が得られるようにできる。
【0057】
[2-2.実施の形態としての評価装置の構成例]

続いて、上記により説明した補正手法を実現するための実施の形態としての評価装置(評価装置1)の構成について、図7を参照して説明する。
先ず図7において、光ディスクDは、評価装置1に装填されると図示しないターンテーブルに積載され、スピンドルモータ(SPM)2によって例えば一定線速度(CLV)で回転駆動される。
【0058】
そして、このように回転駆動される光ディスクDに対し、光ピックアップ(OP)3による信号の読み出しが行われる。
図示は省略するが、光ピックアップ3内には、レーザ光源となるレーザダイオードや、反射光を検出するためのフォトディテクタ、レーザ光の出力端となる対物レンズ、レーザ光を対物レンズを介してディスク記録面に照射し、またその反射光をフォトディテクタに導く光学系等が形成される。
また、光ピックアップ3内において、上記対物レンズは2軸機構によってトラッキング方向及びフォーカス方向に移動可能に保持されている。また光ピックアップ3はスレッド機構により光ディスクDの半径方向に移動可能とされている。
【0059】
光ディスクDからの反射光情報は上記フォトディテクタによって検出され、受光光量に応じた電気信号とされて図中のマトリクス回路4に供給される。
マトリクス回路4には、フォトディテクタとしての複数の受光素子からの出力電流に対応して電流電圧変換回路、マトリクス演算/増幅回路等を備え、マトリクス演算処理により必要な信号を生成する。
例えば、光ディスクDに記録された信号の再生信号に相当する高周波信号(再生信号RFとする)、及びサーボ制御のためのフォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号などを生成する。
図示は省略したが、上記フォーカスエラー信号やトラッキングエラー信号は、図示されないサーボ回路に供給され、サーボ回路がこれらエラー信号などに基づき上述した光ピックアップ3内の2軸機構を駆動制御することで、フォーカスサーボ制御やトラッキングサーボ制御などの各種サーボ制御が実現される。
【0060】
マトリクス回路4から出力される再生信号RFは、第1ローパスフィルタ(LPF)5を介して、A/D変換器6にてデジタルサンプリングされた後、ハイパスフィルタ(HPF)7に供給される。
このハイパスフィルタ7による低域除去処理により、再生信号RFのピットとランドの境界レベルがほぼ0レベルとなるように調整が行われる。
【0061】
上記ハイパスフィルタ7を介した再生信号RFは、イコライザ(EQ)8に供給される。このイコライザ8は、符号間干渉除去用のイコライザであり、いわゆるコンベンショナルEQとして広く知られるものである。
【0062】
上記イコライザ8により符号間干渉除去のための等化処理の施された再生信号RFは、短ピット集中補正部9により短ピット成分のレベルを集中的に減衰させる波形等化処理が施された後、D/A変換器10によりアナログ信号に変換される。
そして、このようにアナログ変換された再生信号RFが、第2ローパスフィルタ11を介して、ジッター測定部12に対して供給される。
【0063】
ジッター測定部12は、上記第2ローパスフィルタ11を介して入力された再生信号RFに基づき、リーティングエッジLEについてのジッター値(LE Jitterとする)、及びトレイリングエッジTEについてのジッター値(TE Jitterとする)を測定(計算)する。
【0064】
ここで、図7において、短ピット集中補正部9内には、図示するように第1フィルタ9A、第2フィルタ9B、セレクタ9C、及び境界検出部9Dが設けられている。
上記第1フィルタ9A、及び第2フィルタ9Bに対しては、図示するようにイコライザ8より出力される再生信号RFがそれぞれ入力される。
【0065】
第1フィルタ9Aは、先に説明した第1のフィルタに該当するものであり、この場合は先の[式1]による5TAPのFIRフィルタとされ、先の図6で説明したようにして予め求められた係数rが設定されて、再生信号RFの短波長成分のレベルを集中的に減衰するようにして波形等化を行う。
【0066】
また、第2フィルタ9Bは、先に説明した第2のフィルタに該当するもので、この場合は例えば上記第1フィルタ9Aと同様に5TAPのFIRフィルタとされる。先に述べたように本例においてはランド側のレベルは変化させないようにするので、当該第2フィルタ9Bに設定する係数rについては、r=0とする。
なお波形等化をランド側にも作用させるとした場合は、レベル低減効果が第1フィルタ9Aよりも小となる範囲で、r≠0に設定すればよい。
【0067】
これら第1フィルタ9A、第2フィルタ9Bをそれぞれ経た再生信号RFは、セレクタ9Cに対して供給される。
またこの場合、第1フィルタ9Aを介した再生信号RFは、境界検出部9Dに対しても分岐して供給される。
【0068】
境界検出部9Dは、上記第1フィルタ9Aから入力される再生信号RFに基づき、当該再生信号RFにおけるピット部分とランド部分との境界位置を検出する。具体的にこの場合の境界検出は、上述のようにハイパスフィルタ7により境界レベルが0レベルに調整されることに対応させて、上記第1フィルタ9Aを介して入力される再生信号RFの値の極性変化点を検出することで行う。
【0069】
セレクタ9Cは、上記境界検出部9Dによる境界検出結果に基づき、第1フィルタ9Aの出力、第2フィルタ9Bの出力のうち何れか一方を択一的に選択出力する。
具体的にセレクタ9Cは、上記境界検出部9Dによる境界検出結果によってランド→ピットの境界位置の到来が示されたことに応じて、自らの出力を上記第1フィルタ9Aを介した再生信号RFに切り換える。また、上記境界検出部9Dによる境界検出結果によってピット→ランドの境界位置の到来が示されたことに応じては、自らの出力を上記第2フィルタ9Bを介した再生信号RFに切り換える。
【0070】
上記のような短ピット集中補正部9の構成により、再生信号RF中における短ピット部分のレベルを集中的に補正(この場合は減衰)することができる。
【0071】
[2-3.補正による効果]

図8は、本実施の形態としての補正を行った場合の効果について実証するための図であり、図8(a)は比較として補正なしの場合(実施の形態としての補正を行わない場合)における基準機での測定値と別の測定機での測定値との相関を、また図8(b)は補正ありの場合(実施の形態としての補正を行った場合)における基準機での測定値と別の測定機での測定値との相関をそれぞれ示している。
これら図8(a)(b)のそれぞれにおいては、複数の光ディスクDについて基準機と別の測定機とでそれぞれリーティングエッジLEのジッター値、トレイリングエッジTEのジッター値を測定したときの基準機と別の測定機との相関を示している。
図中では縦軸に基準機による測定値を、横軸に別の測定機による測定値をとり、それぞれの光ディスクDについての基準機と別の測定機のリーティングエッジLEの測定値を菱形マークでプロットし、トレイリングエッジTEの測定値を四角マークによりプロットして示している。
これら図8(a)(b)においては、図中に示すY=Xのラインにプロット点が近いほど基準機と別の測定機との相関が高い(つまり測定値差が小さい)ことを表す。
【0072】
これら図8(a)(b)を対比すると、図8(a)に示す補正なしの場合にはトレイリングエッジTEの測定値に比較的大きな測定値差が生じているのに対し、図8(b)に示す本実施の形態の場合にはこれが補正されており、特にトレイリングエッジTEのジッター値についての測定値差が解消されていることが確認できる。
計算によると、リーティングエッジLEについてのジッター値の標準偏差LEσ、及びトレイリングエッジTEについてのジッター値の標準偏差TEσは、それぞれ補正なしの場合がLEσ=0.13、TEσ=0.30であるのに対し、本実施の形態の場合にはLEσ=0.12、TEσ=0.11となり、リーティングエッジLE、トレイリングエッジTEの双方について測定値差が改善されるものとなる。
【0073】
[2-4.実施の形態のまとめ]

以上の説明からも理解されるように、本実施の形態によれば、基準機での再生信号の短ピットのレベル(長さ)と別の測定機での再生信号の短ピットのレベルとが同等となるように波形等化を行うことができ、それにより、測定機と光ディスクDの組み合わせによって生じる測定値差を解消して、適正な品質評価が行われるようにすることができる。
【0074】
このように再生信号のレベル補正によって測定値差の解消を図る本実施の形態によれば、測定値に対して校正係数を与える従来例の手法と比較して、実際の測定値差の発生原因に従ったより的を得た補正を行うことができ、結果、従来例の場合よりも優れた測定値差の解消効果を得ることができる。
【0075】
また、言うまでもなく本実施の形態は、測定機間に光学特性のバラツキがあることを前提とした手法であり、従って光学系の選別を行う必要性は無いものである。
【0076】
これらの点より本実施の形態によれば、測定機の光学系の選別や複雑な算術演算を伴う測定値の校正を行うことなく、各測定機間の測定値差を解消して適正な品質評価の実現化を図ることができる。
【0077】
<3.変形例>

以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明としてはこれまでに説明した具体例に限定されるべきものではない。
例えば、これまでの説明では特に言及しなかったが、先の図1に示したような基準機に対する別の測定機の測定値差は、例えば光ディスクDが記録層を複数有する多層ディスクである場合には、再生対象とする記録層の別で異なる場合がある。また基準機に対する測定値差は、再生速度(読出速度:×1,×2,×4,×8など)の別によっても異なる場合がある。
すなわち、これらの点を考慮すると、各測定機に設定されるべき係数rの値としては、このような記録層の別や再生速度の別など所定の測定条件ごとに応じた値をそれぞれ割り出しておき、それらの値を測定条件ごとに適宜切り換えて設定するという構成を採ることが考えられる。
【0078】
図9は、このように測定条件の別に応じて係数rの値を切り換えて設定する変形例としての評価装置の構成について説明するための図である。
なおこの図9においては変形例としての評価装置の内部構成のうち、主に短ピットの集中補正に係る構成のみを抽出して示しており、他の部分の構成については図7に示したものと同様となることから図示は省略している。
図9において、既に図7にて説明したものと同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0079】
この図9を参照して分かるように、この場合の評価装置には、図7に示した評価装置1が備えていた短ピット集中補正部9に代えて、短ピット集中補正部15が設けられる。
短ピット集中補正部15には、図7に示した第1フィルタ9A、第2フィルタ9B、セレクタ9C、境界検出部9Dに加えて、係数設定部9E、及び係数格納メモリ9Fが備えられる。
【0080】
係数格納メモリ9Fには、上述のような記録層の別や再生速度の別などの所定の測定条件ごとに予め割り出された係数rの値が格納される。
係数設定部9Eは、上記係数格納メモリ9F内に格納された複数の係数rのうちから、図中のコントローラ16からの指示に応じた係数rを選択し、該選択した係数rの値を第1フィルタ9Aに設定する。
【0081】
ここで、上記コントローラ16は、評価装置の全体制御を行う例えばマイクロコンピュータとされ、再生対象とする記録層の別や設定される再生速度の別など、予め定められた所定の測定条件の別に応じて、上記係数格納メモリ9F内に格納された係数rのうち何れの係数rを選択すべきかを係数設定部9Eに指示する。
【0082】
このような変形例としての評価装置により、記録層の別や再生速度の別などの測定条件の違いにより基準機との測定値差が変化する場合にも、適正な品質評価が行われるようにすることができる。
【0083】
なお、図9においては測定条件に応じて第1フィルタ9A側の係数rのみを変更する構成を例示したが、測定条件に応じて第2フィルタ9B側の係数rも変更するように構成することもできる。
【0084】
またこれまでの説明では、ピット側の信号に対して選択的に波形等化を行うにあたり、第1フィルタ9Aと第2フィルタ9Bの2つのフィルタを設けて、境界検出結果に応じてそれらの出力を切り換えるものとしたが、実施の形態のようにランド側には波形等化を全く作用させないとする場合には、第2フィルタ9Bは省略するものとし、第1フィルタ9Aに入力される再生信号RF(図7,図9の場合はイコライザ8の出力信号)を分岐させてセレクタ9Cに入力することで、ピット側のみの選択的な波形等化を実現することもできる。
なおその場合、セレクタ9Cの出力に時間的な整合がとられるようにすべく、第1フィルタ9Aを経ずにセレクタ9Cに入力される再生信号RF(イコライザ8からセレクタ9Cに直接入力される再生信号RF)側には、第1フィルタ9Aの等化処理時間分の遅延を与えるようにすることは言うまでもない。
【0085】
また、係数rの割り出し手法についても、先に例示した手法に限定されるべきものではない。
例えば先の説明では、グループA、グループBの代表ディスクはそれぞれ1つずつ選定するものとしたが、代表ディスクをそれぞれ複数選定しておき、それぞれの代表ディスクの組ごとに「基準機/対象測定機」の比率の一致する係数rを求め、それらの係数rの平均値を設定すべき係数rの値として決定するといった手法も採ることができ、係数rの割り出し手法は、例示したもの以外にも多様に考えられるものである。
【0086】
また、係数rの割り出しに関して確認のために述べておくと、実施の形態では、基準機として他のどの測定機よりも短ピットの長さが短く見える測定機を選定したので、基準機以外の別の各測定機には、短ピット部分のレベルを減衰させる等化特性が設定される(つまり係数rとして負の値が設定される)ものとなったが、基準機としては逆に短ピットの長さが一番長く見える測定機やちょうど中間の長さに見える測定機などの任意の測定機を選定することもでき、係数rの値(符号も含めて)は、基準機として選定した測定機の特性に応じて適宜異なる値が割り出され、設定され得るものである。
【0087】
また、フィルタ関数についても[式1]に示したものに限らず、実際の実施形態に応じて適宜最適とされるフィルタ関数が設定されればよい。
【0088】
また、これまでの説明では、短ピット集中補正部(ピット側に対する選択的な短波長成分の集中波形等化を行う部分)を設ける位置は、符号間干渉除去用のイコライザ8の直後となる位置としたが、短ピット集中補正部の挿入位置は、再生信号RFのA/D変換後であれば任意の位置とすることができる。
但し、短ピットのレベルができるだけ大となる部分から再生信号を入力することが望ましく、この点を考慮すると短ピット集中補正部の挿入位置は、少なくとも符号間干渉除去用のイコライザ8よりも後段となる位置とすればよい。
【0089】
また、境界検出については、短波長成分のレベルを集中的に変化させる第1のフィルタによる波形等化後の再生信号RFに基づいて行うものとしたが、このような集中的な波形等化が行われる前の再生信号RFに基づき行うようにすることもできる。
但しその場合は、境界検出部に入力する再生信号RFに対して、波形等化処理に要する時間分の遅延を与えることが必須となる。
ここで、このように短波長成分の集中的な波形等化を行う前の再生信号RFに基づいて境界検出を行い、境界検出部への入力信号に遅延を与える必要がある場合には、第1のフィルタとして、FIRフィルタを用いることが望ましい。すなわち仮に、第1のフィルタとしてIIR(Infinite Impulse Response)フィルタを用いた場合には、入力信号(再生信号)の周波数によって等化処理に要する時間が変化し、これに応じて遅延時間も入力信号の周波数に応じて変化させなければならくなるが、FIRフィルタとして対称型(固定遅延タイプ)のものを用いれば、そのような遅延時間の変更は不要とすることができ、構成の簡略化が図られる。
【0090】
また、これまでの説明では、再生信号RFのピット/ランドの境界レベルが0レベルに調整されることに対応して、境界検出は再生信号RFの極性変化点の検出で行う場合を例示したが、再生信号RFのピークレベルとボトムレベルとを検出した結果から中点レベルを求め、この中点レベルを閾値として境界検出を行うように構成することもできる。
或いは、境界レベルが0レベルとなるように調整される場合であっても、例えば最短波長のピーク−ボトムの中間レベルを閾値とした境界検出を行うようにすることで、境界検出精度の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0091】
1 評価装置、2 スピンドルモータ(SPM)、3 光ピックアップ(OP)、4 マトリクス回路、5 第1ローパスフィルタ、6 A/D変換器、7 ハイパスフィルタ、8 イコライザ、9,15 短ピット集中補正部、9A 第1フィルタ、9B 第2フィルタ、9C セレクタ、9D 境界検出部、9E 係数設定部、9F 係数格納メモリ、10 D/A変換器、11 第2ローパスフィルタ、12 ジッター測定部、16 コントローラ、D 光ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピットの形成により信号記録が行われた光記録媒体に対して光照射を行って記録信号の読み出しを行う信号読出部と、
上記信号読出部による読出動作に基づき得られた上記記録信号についての再生信号を入力し、当該再生信号に対して短波長成分の信号レベルを集中的に変化させる等化特性により波形等化処理を施す第1の波形等化部と、
上記再生信号におけるピット部分の波形とランド部分の波形との境界を検出する境界検出部と、
上記境界検出部による境界検出結果に基づき、上記第1の波形等化部による波形等化処理の施された上記再生信号と、上記第1の波形等化部による波形等化処理の施されていない上記再生信号とを択一的に切り換えて出力する出力選択部と、
上記出力選択部により出力される上記再生信号に基づき信号エッジ位置の分布を表す評価値を生成する評価値生成部と
を備える評価装置。
【請求項2】
上記信号読出部による読出動作に基づき得られた上記再生信号を入力し、当該再生信号に対して波形等化処理を施す第2の波形等化部をさらに備える共に、
上記選択出力部に対しては、上記第1の波形等化部による波形等化処理の施されていない上記再生信号として、上記第2の波形等化部を介した上記再生信号が入力される
請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
上記第2の波形等化部は、
信号レベルの変化が上記第1の波形等化部よりも小さくなるように設定された等化特性又は信号レベルを変化させないように設定された等化特性により上記再生信号についての波形等化処理を行う
請求項2に記載の評価装置。
【請求項4】
上記選択出力部に対しては、上記第1の波形等化部による波形等化処理の施されていない上記再生信号として、上記第1の波形等化部に入力される上記再生信号が分岐して入力される
請求項1に記載の評価装置。
【請求項5】
上記境界検出部は、上記第1の波形等化部の出力信号に基づき上記境界の検出を行う請求項1に記載の評価装置。
【請求項6】
上記境界検出部は、上記第1の波形等化部への入力前の上記再生信号に基づき上記境界の検出を行う請求項1に記載の評価装置。
【請求項7】
上記第1の波形等化部、上記2の波形等化部はFIR(Finite Impulse Response)フィルタで構成される
請求項1又は請求項2に記載の評価装置。
【請求項8】
上記評価値生成部は、
上記ランド部分から上記ピット部分に遷移するエッジ位置についての分布を表す評価値と、上記ピット部分から上記ランド部分に遷移するエッジ位置についての分布を表す評価値とを個別に生成する
請求項1に記載の評価装置。
【請求項9】
ピットの形成により信号記録が行われた光記録媒体に対して光照射を行って記録信号の読み出しを行う信号読出手順と、
上記信号読出手順による読出動作に基づき得られた上記記録信号についての再生信号を入力し、当該再生信号に対して短波長成分の信号レベルを集中的に変化させる等化特性により波形等化処理を施す第1の波形等化手順と、
上記再生信号におけるピット部分の波形とランド部分の波形との境界を検出した結果に基づき、上記第1の波形等化部による波形等化処理の施された上記再生信号と、上記第1の波形等化部による波形等化処理の施されていない上記再生信号とを択一的に切り換えて出力する出力選択手順と、
上記出力選択手順により出力した上記再生信号に基づき信号エッジ位置の分布を表す評価値を生成する評価値生成手順と
を有する評価方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−96297(P2011−96297A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246555(P2009−246555)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(594064529)株式会社ソニーDADC (88)
【Fターム(参考)】