説明

評価装置及び評価方法

【課題】繊維内及びその表面で起こる反応や、その速度を評価することができる評価装置及び評価方法を提供すること。
【解決手段】人又は動植物の繊維、及び処理液を収容する収容部3と、前記収容部3内に存在するラジカル種を、ESR測定装置5を用いて継続的に測定する測定手段と、を備えることを特徴とする評価装置1。前記人又は動植物の繊維としては、人の毛髪が挙げられ、前記処理液としては、ブリーチ剤、染毛剤等の毛髪化粧料が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、毛髪等の繊維内及びその表面の反応を評価する評価装置、及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維の脱色や染色の効果は、繊維の処理後に、外観を視覚的に評価する方法、測色計等で色を数値化する方法で評価していた(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−198398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
脱色剤や染毛剤を正しく評価するには、脱色や染毛の反応が進行しているときに、繊維内及びその表面でどのような反応が生じているかを把握することが必要である。しかしながら、従来の評価方法は、処理後の結果のみを評価する方法であるため、脱色や染色が進行しているときに、繊維内及びその表面でどのような反応が生じ、その反応がどのように変化するかを把握することが困難であった。
【0004】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、繊維内及びその表面で起こる反応や、その速度を評価することができる評価装置及び評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)請求項1の発明は、
人又は動植物の繊維、及び処理液を収容する収容部と、前記収容部内に存在するラジカル種を継続的に測定するESR測定手段と、を備えることを特徴とする評価装置を要旨とする。
【0006】
本発明の評価装置を用いれば、処理液によって繊維内及びその表面でどのような反応が生じ、その反応がどのように変化するかを継続的に評価することができる。
前記繊維としては、例えば、人の毛髪、動植物の各種毛髪、植物の繊維等が挙げられる。
【0007】
前記ラジカル種としては、例えば、人の毛髪内に存在するメラニン、金属類等が挙げられる。また、他のラジカル種としては、外部刺激(電磁波、熱、切断等)によって、毛髪にて生成する過酸化成分、タンパク切断部等が挙げられる。また、他のラジカル種としては、処理液と繊維との化学反応により生じるヘアカラー色素、過酸化水素分解物等が挙げられる。
【0008】
前記メラニンは、ヘアカラーの成分であるアルカリや酸化剤と反応して変化する成分であるため、例えば、処理液をヘアカラーとし、メラニンをESR測定手段を用いて継続的に測定すれば、アルカリや酸化剤の浸透時間、反応効率を測定することができる。すなわち、本発明は、ヘアカラーについて、最適な濃度、種類、基剤等を選定する用途に利用することができる。
【0009】
前記処理液としては、例えば、ブリーチ剤、染毛剤等の毛髪化粧料が挙げられる。
本発明の評価装置は、例えば、収容部に収容された繊維及び処理液に、外部刺激(例えば、電磁波、熱、切断等)を加える手段を備えていてもよい。この場合、外部刺激により生じる反応、あるいは外部刺激により促進される反応を評価することができる。
(2)請求項2の発明は、
前記繊維が毛髪であるとともに、前記処理液が毛髪化粧料であることを特徴とする請求項1記載の評価装置を要旨とする。
【0010】
本発明の評価装置を用いれば、毛髪化粧料によって毛髪内でどのような反応が生じ、その反応がどのように変化するかを継続的に評価することができる。よって、本発明を用いれば、毛髪化粧料の評価を容易に行うことができる。
【0011】
前記毛髪化粧料としては、例えば、ブリーチ剤、染毛剤等が挙げられる。
(3)請求項3の発明は、
人又は動植物の繊維と、処理液とを接触させ、前記繊維又は前記処理液に存在するラジカル種を、ESR測定装置を用いて継続的に測定することを特徴とする評価方法を要旨とする。
【0012】
本発明の評価方法を用いれば、処理液によって繊維内及びその表面でどのような反応が生じ、その反応がどのように変化するかを継続的に評価することができる。
本発明の評価方法は、例えば、繊維及び処理液に、外部刺激(例えば、電磁波、熱、切断等)を加えてもよい。この場合、外部刺激により生じる反応、あるいは外部刺激により促進される反応を評価することができる。
(4)請求項4の発明は、
前記繊維が毛髪であるとともに、前記処理液が毛髪化粧料であることを特徴とする請求項3記載の評価方法を要旨とする。
【0013】
本発明の評価方法を用いれば、毛髪化粧料によって毛髪内でどのような反応が生じ、その反応がどのように変化するかを継続的に評価することができる。よって、本発明を用いれば、毛髪化粧料の評価を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0015】
1.評価装置1の構成
評価装置1の構成を図1に基づいて説明する。評価装置1は、石英セル3と、その石英セル3内のラジカル種を検出可能なESR分析装置5とから構成される。石英セル3は、長さ13cm、内径0.4mmの、両端が開口した石英キャピラリー(Wilmad製)である。石英セル3の片方の端部は試料が漏れないように粘土で封じられ、反対側の端部から試料を挿入することができる。ESR分析装置5は、日本電子製のTE−300である。
【0016】
2.評価装置1を用いた評価(その1)
評価装置1を用いて毛髪及びブリーチ剤を評価する方法を説明する。黒髪5本を、石英セル3の開口部から、その内部に挿入した。この黒髪は、外径がほぼ揃った(0.1mm)、同一日本人毛(未処理・女性)である。次に、1000μLピペットを用い、石英セル3内をブリーチ剤Aで満たした。このブリーチ剤Aの組成は、表1に示す通りである。
【0017】
【表1】

次に、石英セル3の開口部を粘土で封じ、ESR分析装置5にセットした。ブリーチ剤Aの充填から、ESR分析装置5へのセットまでに要した時間は40秒であった。
【0018】
その後30分間、石英セル3内に存在するラジカル種を、ESR測定装置を用いて継続的に測定した。このとき、ESRの測定条件は以下のようにした。また、測定部位は、図1に示すように、石英セル3の中央部であって、長さ4cmの領域とした。
(ESR測定条件)
power:3mW
MF:338.2±2mT
ST:10sec
MW:0.79mT
TC:0.1sec
Gain:400
Mn2+:600
温度:25℃
測定結果を図2に示す。なお、図2では、レファレンスとして、黒髪を充填した石英セル3内を超純水のみで満たした場合についても示す。
【0019】
ブリーチ剤Aを用いた場合、主としてESRで検出されるものは、毛髪内に存在するメラニンである。このことは、白髪を試料とすると、信号強度がほとんど0になることにより裏付けられる。図2に示すように、ESRの信号強度は、一旦増加し、その後、減少している。このことから、毛髪内のメラニンは、ブリーチ剤Aの成分が毛髪に浸透すると、一旦活性化され、その後分解反応を起こし、脱色が完了することが分かる。すなわち、評価装置1を用いて行った測定により、ブリーチ剤Aにより生じるメラニンの変化を、連続的且つリアルタイムに把握し、そこから、毛髪内で起こる反応の様子を推測することができる。よって、評価装置1を用いて行った測定によれば、ブリーチ剤の性能評価を容易に行うことができる。
【0020】
3.評価装置1を用いた評価(その2)
基本的には上述した測定方法と同じであるが、ブリーチ剤Aの代わりに、ブリーチ剤B〜Eを用いて、測定を行った。ブリーチ剤B〜Eの組成は、上記表1に示すとおりである。その結果を図3及び図4に示す。なお、図3及び図4には、ブリーチ剤Aを用いた場合も併せて示す。
【0021】
図3及び図4から明らかなように、用いるブリーチ剤の組成に応じて、ESRの信号強度やその変化の様子(すなわちメラニンの状態及びその変化)は相違する。よって、評価装置1を用いた測定によれば、ブリーチ剤の組成と、毛髪に対するブリーチ剤の作用との関係を把握することができる。
【実施例2】
【0022】
前記実施例1と同様の評価装置1を用いた。ただし、石英セル3の代わりに、内径1.0mmのガラス管を用いた。このガラス管に、白髪を数十本挿入し、さらに、染毛剤を充填した。この染毛剤として、染毛剤F、染毛剤Gを用いた。染毛剤F、染毛剤Gの組成は以下のとおりである。
(染毛剤Fの組成)
パラフェニレンジアミン(pPD)の0.5質量%水溶液と、過酸化水素の6質量%水溶液とを、質量比1:1で混合
(染毛剤Gの組成)
パラフェニレンジアミン(pPD)の0.25質量%水溶液と、過酸化水素の6質量%水溶液とを、質量比1:1で混合
次に、白髪及び染毛剤(染毛剤Fまたは染毛剤G)を充填したガラス管をESR分析装置5にセットした。染毛剤の充填から、ガラス管をESR分析装置5へセットするまでに要した時間は40秒であった。その後10分間、ガラス管内に存在するラジカル種を、ESR測定装置5を用いて継続的に測定した。このとき、ESRの測定条件は、前記実施例1の場合と同様とした。また、レファレンスとして、染毛剤Fのみをガラス管へ充填し、白髪を入れないものについても、同様に測定した。
【0023】
測定結果を図5に示す。なお、図5における「pPD radical/Mn ESR Signal Intensity」(パラフェニレンジアミンラジカル強度)とは、ESRの信号強度に基づき、標準試料のMn2+に対するパラフェニレンジアミンESRシグナルの強度比として算出された値である。
【0024】
ESRで検出されるものは、酸化条件の下、毛髪表層で生成する染料活性種である。図5に示すように、ガラス管に白髪及び染毛剤を充填した場合において、「pPD radical/Mn ESR Signal Intensity」は、時間の経過とともに増加している。一方、ガラス管に染毛剤Fのみを充填した場合において、「pPD radical/Mn ESR Signal Intensity」に変化はない。
【0025】
このことから、毛髪表層で、染料活性種の生成が、時間の経過とともに進行していることが分かる。すなわち、評価装置1を用いて行った測定により、染毛剤により毛髪表層で生じる染料活性化反応を、連続的且つリアルタイムに把握することができる。よって、評価装置1を用いて行った測定によれば、染毛剤の性能評価を容易に行うことができる。
【0026】
尚、本発明は前記実施の形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】評価装置1の構成を表す説明図である。
【図2】実施例1における測定結果を表すグラフである。
【図3】実施例1における測定結果を表すグラフである。
【図4】実施例1における測定結果を表すグラフである。
【図5】実施例2における測定結果を表すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1・・・評価装置、3・・・石英セル、5・・・ESR分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人又は動植物の繊維、及び処理液を収容する収容部と、
前記収容部内に存在するラジカル種を継続的に測定するESR測定手段と、を備えることを特徴とする評価装置。
【請求項2】
前記繊維が毛髪であるとともに、前記処理液が毛髪化粧料であることを特徴とする請求項1記載の評価装置。
【請求項3】
人又は動植物の繊維と、処理液とを接触させ、
前記繊維又は前記処理液に存在するラジカル種を、ESR測定装置を用いて継続的に測定することを特徴とする評価方法。
【請求項4】
前記繊維が毛髪であるとともに、前記処理液が毛髪化粧料であることを特徴とする請求項3記載の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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