説明

試料の予備成形方法およびそれを用いる成分定量方法

【課題】蛍光X線分析法による成分定量において分析精度を向上できる試料の予備成形方法およびそれを用いる成分定量方法を提供することを目的とする。
【解決手段】加圧して本成形した後で蛍光X線分析法に用いられる試料を予備成形する方法であって、平均粒径D50が30μm以下の金属または合金粉末を型に充填して成形し、この成形体5のX線が照射される面5aの全面を押込み率を10〜40%にして加圧することを特徴とする試料の予備成形方法である。本発明の予備成形方法は、成形体5のX線が照射される面5aの全面を押込み率を10〜40%にして加圧する際に、成形体5のX線が照射される面の全面を加圧するパンチ4と、このパンチ4を案内するガイド3とを用いるのが好ましく、金属または合金粉末として、希土類−鉄−ホウ素系合金の酸化物粉末を用いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析法に用いられる試料を予備成形する方法およびそれを用いる成分定量方法に関する。さらに詳しくは、蛍光X線分析法による成分定量において分析精度を向上できる試料の予備成形方法およびそれを用いる成分定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の含有成分を定量する方法として蛍光X線分析法がある。蛍光X線分析法による成分定量は、例えば、試料台に載置した分析用試料の一つの面にX線を照射し、この際に分析用試料から発生する蛍光X線を測定する蛍光X線分析装置を用いて行うことができる。
【0003】
分析用試料は、成分定量の対象が金属または合金の場合、例えば以下の手順により作製することができる。
(a)対象の金属または合金をスタンプミル等により粉砕して所定の粒度の粉末とし、
(b)粉末を型に充填して成形体とし、この成形体のX線が照射される面を平へらで均しつつ加圧することにより予備成形(1次成形)して試料とし、
(c)予備成形した試料をプレス機によって本成形(2次成形)して分析用試料とする。
【0004】
上記(a)〜(c)の手順による分析用試料の作製では、必要に応じて、粉砕された金属または合金の粉末にバインダーが添加される場合がある。また、粉砕された金属または合金の粉末を酸溶解した後、酸溶解液を濾紙粉末に吸着させ、焼成することにより酸化物として金属または合金を含む粉末として型に充填される場合もある。
【0005】
このような蛍光X線分析法による成分定量に関し、従来から種々の提案がなされており例えば特許文献1がある。特許文献1で提案される成分定量方法は、活性金属を有する合金を粉砕してD50=10〜40μmの粉末とした後、金型およびプレス機を用いて加圧成形(本成形)して分析用試料とする。なお、特許文献1では、前記(a)〜(c)の手順からなる分析用試料を作製のうちで(b)の予備成形については記載されていない。
【0006】
このような特許文献1で提案される成分定量方法は、粉砕してD50=10〜40μmである合金粉末から試料を作製することにより、分析精度や再現性の低下を生じさせることなく、発火が防止できるとしている。
【0007】
しかし、前記(a)〜(c)の手順により作製した分析用試料および特許文献1で提案される粒径の粉末から作製した分析用試料を用い、蛍光X線分析法により成分を定量すると、同一の金属または合金粉末から同じ手順により分析用試料を作製した場合でも分析試料ごとに分析結果にばらつきが生じる。このため、蛍光X線分析法による成分定量では、分析結果のばらつきを低減して分析精度を向上させることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−172714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の通り、従来の蛍光X線分析法による成分定量では、分析結果にばらつきが生じるので、分析結果のばらつきを低減して分析精度を向上させることが望まれていた。本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、蛍光X線分析法による成分定量において分析精度を向上できる試料の予備成形方法およびそれを用いる成分定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来の蛍光X線分析法による成分定量で分析結果がばらつく理由について検討した。ここで、前記(a)〜(c)の手順による分析用試料の作製では、手順(b)の予備成形で、金属または合金粉末からなる成形体のX線が照射される面を平へらで均しつつ加圧する。
【0011】
予備成形で用いられる平へらは、通常、X線が照射される面より面積が小さいので、X線が照射される面は複数回に分けて一部の領域ごとに加圧される。また、平へらによる加圧は、通常、手作業によって行われることから、加圧する力がその都度変化する。このため、予備成形された試料は、X線照射面の表層部で場所によって粒子密度が変化してばらつく。
【0012】
さらに、予備成形の平へらによる加圧は作業者の経験に基づく作業になることから、作業者が異なれば加圧する力も変化する。これらから、予備成形された試料は、試料ごとにX線照射面の表層部の粒子密度が変化してばらつく。
【0013】
その結果、プレス機で加圧して本成形された分析用試料においても、X線が照射される面の表層部における粒子密度にばらつきが生じてしまう。このように分析用試料に生じるX線が照射される面の表層部における粒子密度のばらつきが、蛍光X線分析法による成分定量に分析用試料を用いた場合に分析値をばらつかせることを、本発明者らは見出した。ここで、「表層部」とは、蛍光X線分析法による成分定量において情報が得られる部分を意味し、通常、X線が照射される面から100μm程度の範囲となる。
【0014】
そこで、本発明者らは、種々の試験を行い、鋭意検討を重ねた結果、X線が照射される面の全面を加圧するパンチと、このパンチを案内するガイドとを用い、金属または合金粉末からなる成形体を加圧して予備成形することにより、X線が照射される面の表層部における粒子密度を均一にできることを知見した。また、この予備成形された試料を本成形した後で蛍光X線分析法により成分を定量することにより、分析精度を向上できることを知見した。
【0015】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記(1)〜(3)の試料の予備成形方法および下記(4)の試料の成分定量方法を要旨としている。
【0016】
(1)加圧して本成形した後で蛍光X線分析法に用いられる試料を予備成形する方法であって、平均粒径D50が30μm以下の金属または合金粉末を型に充填して成形し、該成形体のX線が照射される面の全面を、下記(1)式により算出される押込み率を10〜40%にして加圧することを特徴とする試料の予備成形方法。
P=100×(h1−h2)/h1 ・・・(1)
ここで、加圧前の成形体の高さをh1(mm)、加圧後の成形体の高さをh2(mm)とする。
【0017】
(2)前記成形体のX線が照射される面の全面を押込み率を10〜40%にして加圧する際に、前記成形体のX線が照射される面の全面を加圧するパンチと、該パンチを案内するガイドとを用いることを特徴とする上記(1)に記載の試料の予備成形方法。
【0018】
(3)前記金属または合金粉末として、希土類−鉄−ホウ素系合金の酸化物粉末を用いることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の試料の予備成形方法。
【0019】
(4)試料を加圧することにより本成形した後で蛍光X線分析法により成分を定量する方法であって、前記試料として、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の予備成形方法により予備成形した試料を用いることを特徴とする試料の成分定量方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の予備成形方法は、成形体のX線が照射される面の全面を加圧することにより、予備成形された試料のX線が照射される面の表層部における粒子密度を均一にすることができる。このようにX線が照射される面の表層部における粒子密度を均一な試料を本成形すれば、本成形された分析用試料もX線が照射される面の表層部における粒子密度が均一となり、蛍光X線分析法による成分定量における分析精度を向上できる。
【0021】
本発明の成分定量方法は、上述の効果を有する本発明の予備成形方法を用いることから、成分定量の分析精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の予備成形方法による試料の作製手順例を説明する模式図であり、同図(a)は型に粉末を充填して成形体とした状態、同図(b)はガイドにパンチを挿入した状態をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の予備成形方法およびそれを用いる成分定量方法について図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の予備成形方法による試料の作製手順例を説明する模式図であり、同図(a)は型に粉末を充填して成形体とした状態、同図(b)はガイドにパンチを挿入した状態をそれぞれ示す。同図には、作業台1と、作業台1とともに成形用の型を形成する環状の試料リング2と、成形用の型に充填された金属または合金粉末からなる成形体5と、成形体5を加圧するパンチ4と、パンチ4を案内するガイド3とを示す。
【0025】
本発明の予備成形方法は、加圧して本成形した後で蛍光X線分析法に用いられる試料を予備成形する方法であって、平均粒径D50が30μm以下の金属または合金粉末を型に充填して成形し、この成形体5のX線が照射される面5aの全面を、前記(1)式で算出される押込み率を10〜40%にして加圧することを特徴とする。
【0026】
金属または合金粉末の平均粒径D50を30μm以下と規定するのは、平均粒径D50が30μmを超えると粒径が大きい粒子の割合が増加し、予備成形および本成形で成形性が悪化することから、分析用試料でX線が照射される面の平坦性が悪化する。その結果、蛍光X線分析による成分定量で乱反射が多くなり、分析精度が低下する。一方、平均粒径D50を小さくし過ぎると、パンチおよびガイドを用いて予備成形する場合にパンチとガイドとの隙間に一部の粒子が入り込み、かじり等の不具合を生じさせることから、1μm以上とするのが好ましい。
【0027】
ここで、本発明において平均粒径D50とは、体積基準の粒度分布における累積頻度50%の粒径を意味し、粒度分布はレーザー回折散乱法による測定機を用いるものとする。
【0028】
本発明の予備成形方法では、平均粒径D50が上記範囲である金属または合金粉末を型に充填して成形し、この成形体5のX線が照射される面5aの全面を押込み率を10〜40%にして加圧する。従来の従来の蛍光X線分析法による成分定量では、前述のとおり、X線が照射される面5aより面積が小さい平へらを用いて手作業により予備成形を行うことから、予備成形された試料は、X線照射面の表層部で場所によって粒子密度が変化してばらつく。
【0029】
一方、本発明の予備成形方法では、成形体5のX線が照射される面5aの全面を加圧する。これにより、成形体5のX線が照射される面5aの全面が同じ力で加圧されるので、X線が照射される面の表層部における粒子密度が場所によって変化することなく、均一になる。このように予備成形された試料を本成形とすれば、本成形した分析用試料においてもX線が照射される面の表層部における粒子密度が均一となり、蛍光X線分析法による成分定量における分析精度を向上できる。
【0030】
また、成形体5のX線が照射される面5aの全面を加圧する際、前記(1)式で算出される押込み率を10〜40%とする。この前記(1)式で算出される押込み率Pは、加圧前後における成形体の高さの変化量(h1−h2、単位:mm)を加圧前の成形体の高さ(h2、単位:mm)で除して百分率として表したものである。
【0031】
このような押込み率が10%未満であると、成形体のX線が照射される面の全面を加圧することにより表層部の粒子密度が均一となる効果がほとんど発揮されず、予備成形された試料でX線が照射される面の表層部の粒子密度にばらつきが生じる。このため、本成形された分析用試料も粒子密度がばらつき、割れが生じる。分析用試料に割れが生じた場合、蛍光X線分析による成分定量において分析結果が大きくばらつき、有効な分析結果を得ることができない。
【0032】
一方、押込み率が40%を超えると、粉末の粒子が成形体の外縁に偏ってしまい、予備成形された試料でX線が照射される面の表層部の粒子密度にばらつきが生じる。このため、本成形された分析用試料も粒子密度がばらつき、割れが生じる。
【0033】
このように本発明の予備成形方法は、成形体のX線が照射される面の全面を加圧することから、予備成形された試料でX線が照射される面の表層部における粒子密度を均一にすることができる。この成形体を本成形すれば、分析用試料もX線が照射される面の表層部における粒子密度が均一となり、蛍光X線分析法による成分定量における分析精度を向上できる。
【0034】
また、本発明の予備成形方法は、成形体のX線が照射される面の全面を加圧する際に、押込み率を上述の範囲内である一定の値に管理すれば、作業者により加圧条件が変化するのを防ぐことができ、予備成形された試料ごとにX線照射面の表層部の粒子密度が変化してばらつくのを抑制することができる。その結果、蛍光X線分析法による成分定量において分析試料ごとに測定値がばらつくのを低減し、分析精度を向上できる。
【0035】
本発明の予備成形方法は、成形体5のX線が照射される面の全面を押込み率を10〜40%にして加圧する際に、成形体5のX線が照射される面5aの全面を加圧するパンチ4と、このパンチ4を案内するガイド3とを用いるのが好ましい。以下では、本発明の予備成形方法による処理手順の一例であって、パンチ4およびガイド3を用いる場合の処理手順について前記図1を参照しながら詳細に説明する。
【0036】
同図(a)に示すように、環状の試料リング2の内面および作業台1の平面状の上面によって成形用の型を形成する。試料リング2上にガイド3を配置し、成形用の型に金属または合金粉末を充填し、円盤状の成形体5を成形する。
【0037】
次に、同図(b)に示すように、ガイド3の中空部に円柱状のパンチ4を挿入する。ガイド3の案内によりパンチ4を移動(下降)させると、成形体5とパンチ4とが接触し、パンチ4は試料リング2の空洞部(型の断面形状)に対応する断面形状を有することから、パンチ4によって成形体5のX線が照射される面5aの全面が加圧される。パンチ4をさらに移動(下降)させて、押込み率が10〜40%となるまで移動(下降)させる。
【0038】
このように、成形体5のX線が照射される面5aの全面を加圧するパンチ4と、このパンチ4を案内するガイド3とを用いることにより、成形体5のX線が照射される面5aの全面を容易に均一に加圧することができる。また、試料リング2上にガイド3を配置した状態で成形用の型に金属または合金粉末を充填すれば、金属または合金粉末の飛散を防止することができる。
【0039】
同図に示すように環状の試料リング2を用いて円盤状の成形体5を成形する場合、ガイド3の内径D2(mm)は、円柱状のパンチ4の外径をD1(mm)として下記(2)式を満足するように設計するのが好ましい。これにより、ガイド3に沿ってパンチ4を平滑に移動させることができるとともに、加圧する際にガイド3とパンチ4との隙間に金属または合金粉末が入り込むのを防止できる。
D1+0.01≦D2≦D1+0.05 ・・・(2)
【0040】
また、円柱状のパンチ4の外径をD1(mm)は、試料リング2の内径をD3(mm)として下記(3)式を満足するように設計するのが好ましい。これにより、成形体のX線が照射される面5aの全面を加圧することができるとともに、パンチ4およびガイド3の大型化による作業性の悪化および製作コストの上昇を防止できる。
D3≦D1≦D3+0.01 ・・・(3)
【0041】
パンチ4およびガイド3は、金属または合金粉末を加圧することから、高強度の鋼または合金を用いるのが好ましく、例えばステンレス鋼(SUS系)や炭素工具鋼(SK系)を採用できる。超硬合金(例えばWC−Co系やWC−TiC−Co系)を採用するのがより好ましい。
【0042】
本発明の予備成形方法は、金属または合金粉末にバインダーを添加して混練してから型に充填してもよい。これにより、予備成形された試料および成形体を本成形した分析用試料の一部が振動等によって粉化するのを防止できる。バインダーとしては、例えば、ステアリン酸、スチレン−マレイン酸共重合物を用いることができる。
【0043】
本発明の予備成形方法は、金属または合金粉末を酸化物としてから型に充填してもよい。酸化物は、例えば、金属または合金粉末を酸溶解した後、酸溶解液を濾紙粉末に吸着させ、焼成することにより得ることができる。
【0044】
金属または合金については、特に限定はなく、純金属、合金などを粉末にして用いることができる。金属または合金粉末が加圧した際にスプリングバックが少ない高硬度(高ヤング率)である粉末であれば、本発明による予備成形された試料でX線が照射される面の表層部における粒子密度を均一にする効果が大きくなる。このため、本発明の予備成形方法は、希土類−鉄−ホウ素系合金の酸化物粉末から分析用試料を作製する際に好適である。
【0045】
本発明の成分定量方法は、試料を加圧することにより本成形した後で蛍光X線分析法により成分を定量する方法であって、試料として上述の本発明の予備成形方法により予備成形した試料を用いることを特徴とする。前述のとおり、本発明の予備成形方法により予備成形した試料はX線が照射される面の表層部において粒子密度が均一となることから、本成形された分析用試料でもX線が照射される面の表層部において粒子密度が均一となる。このため、本発明の成分定量方法は、蛍光X線分析法による成分定量において分析精度を向上できる。
【0046】
本発明の成分定量方法では、試料を加圧することによる本成形を、例えば1軸プレス機といった装置により行うことができる。
【実施例】
【0047】
本発明の予備成形方法およびそれを用いる成分定量方法による効果を検証するため、下記の試験を行った。
【0048】
1.成分定量試験
[試験方法]
本試験では、合金の酸化物からなる粉末Aと、合金の粉末Bとを準備し、粉末Aの準備手順は以下のとおりとした。ストリップキャスト法により鋳造された希土類−鉄−ホウ素系合金(Nd:32.3質量%およびB:1.0質量%を含有し残部がFeからなる合金)の鋳片を水素粉砕した後で篩い目が0.5mmである篩により分級した。その篩下の合金粉末から質量4.2gを採取して硝酸(HNO3)に加熱溶解し、その溶解液を濾紙粉末に吸着させた後で加熱された鋼板状で灰化した。この灰化物をスタンプミルにより粉砕して粉末状とした後で、電気炉にて一定の条件で加熱することにより焼成し、希土類−鉄−ホウ素系合金の酸化物からなる質量4.5gの粉末Aを得た。
【0049】
一方、粉末Bの準備手順は以下のとおりとした。真空中で混合原料を加熱して溶融し、この溶湯を鋳型に流し込んで合金インゴットを得た。この際、混合原料は合金インゴットの組成がTi:30質量%およびNi:70質量%となるように配合した。得られた合金インゴットをスタンプミルで粉砕した後、篩い目が20μmである篩いにより分級し、その篩下を質量4.5gで採取して粉末Bとした。
【0050】
これら粉末AおよびBについて、レーザー回折散乱法による測定機(株式会社島津製作所製、SALD3000S)を用いて粒度分布を測定し、平均粒径D50は粉末Aが5μm、粉末Bが10μmであった。
【0051】
本試験の本発明例では、前記図1を用いて説明した手順により、粉末AまたはBを型に充填して成形体とした後、成形体のX線が照射される面の全面を押込み率を19%にして加圧することにより予備成形した。この際、環状の試料リングの寸法は外径が37.8mm、内径が31.0mmであり、パンチの外径は31.0mm、ガイドの内径は31.03mmであった。パンチおよびガイドにはステンレス鋼(SUS316)を用いた。この予備成形した試料をプレス機によって本成形して分析用試料とし、プレス機は1軸プレス機を用いて150kNの条件で加圧した。
【0052】
従来例では、上面が平面状の作業台に環状の試料リングを配置し、試料リングの内面と作業台の上面とで形成される型に粉末Aまたは粉末Bを充填し成形体とした。この成形体のX線が照射される面(上面)を平へらで均しつつ加圧することにより予備成形して試料とし、予備成形した試料をプレス機によって本成形して分析用試料とした。予備成形の平へらは成形体を加圧する部分が長さ10mm、幅10mmであり、本成形のプレス機は1軸プレス機を用いて150kNの条件で加圧した。
【0053】
粉末Aについて、本発明例および従来例ともにそれぞれ5個の分析用試料を作製し、それらの分析用試料について蛍光X線分析装置(株式会社リガク社製、Simultix 14)によりNd成分を定量した。また、粉末Bについても、本発明例および従来例ともにそれぞれ5個の分析用試料を作製し、それらの分析用試料について蛍光X線分析装置によりNi成分を定量した。蛍光X線分析装置による成分定量は、測定条件は管電圧を50kV、管電流を50mA、測定時間を40秒とした。
【0054】
[試験結果]
表1に、本発明例または従来例のうちで粉末Aを用いた各分析用試料で定量されたNd成分の含有量(質量%)についてそれぞれ示す。併せて表1には、本発明例または従来例におけるNd成分の含有量の平均値、標準偏差および変動係数(標準偏差/平均値)も示す。
一方、表2に、本発明例または従来例のうちで粉末Bを用いた各分析用試料で定量されたNi成分の含有量(質量%)についてそれぞれ示す。併せて表2には、本発明例または従来例におけるNi成分の含有量の平均値、標準偏差および変動係数(標準偏差/平均値)も示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表1より、粉末Aを用いた分析用試料においてNd成分の含有量の標準偏差が、従来例では0.04となったのに対し、本発明例では0.02となった。
一方、表2より、粉末Bを用いた分析用試料においてNi成分の含有量の標準偏差が、従来例では0.06となったのに対し、本発明例では0.03となった。
【0058】
これらから、合金粉末を型に充填して成形し、この成形体のX線が照射される面の全面を加圧することにより、蛍光X線分析法による成分定量において分析精度を向上できることが明らかになった。
【0059】
2.予備成形試験
[試験方法]
本試験では、前述の粉末AまたはBを成形体とし、この成形体を前記図1を用いて説明した手順により加圧して予備成形した。予備成形した試料を1軸プレス機を用いて150kNの条件で加圧して本成形することにより分析用試料を得た。
【0060】
本試験では、成形体を加圧して予備成形する際に押込み率を、粉末Aを用いた場合は8〜48%で、粉末Bを用いた場合は6〜48%で変化させた。この際、試料リング、パンチおよびガイドは、前述の「1.成分定量試験」の本発明例と同じ寸法および材質のものを用いた。
【0061】
本試験では、得られた分析用試料のX線が照射される面について割れの有無を目視により確認した。後述する表3および表4の割れ評価欄の記号の意味は次の通りである。
○:分析用試料のX線が照射される面に割れが確認されなかったことを示す。
×:分析用試料のX線が照射される面に割れが確認されたことを示す。
【0062】
[試験結果]
表3に、粉末Aを用いた試験における試験番号、区分、加圧前の成形体の高さ(h2)、加圧前の成形体の高さと加圧後の成形体の高さとの差(h1−h2)、押込み率および本成形された分析用試料の割れ評価の結果を示す。
一方、表4に、粉末Bを用いた試験における試験番号、区分、加圧前の成形体の高さ(h2)、加圧前の成形体の高さと加圧後の成形体の高さとの差(h1−h2)、押込み率および本成形された分析用試料の割れ評価の結果を示す。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
表3より、粉末Aを用いた場合、押込み率が10%未満の試験番号3−1と、40%を超えた試験番号3−8および3−9とで、本成形した分析用試料のX線が照射される面に割れが確認された。一方、押込み率が10〜40%であった試験番号3−2〜3−7では、本成形した分析用試料のX線が照射される面に割れが確認されなかった。
【0066】
表4より、粉末Bを用いた場合、押込み率が10%未満の試験番号4−1と、40%を超えた試験番号4−8および4−9とで、本成形した分析用試料のX線が照射される面に割れが確認された。一方、押込み率が10〜40%であった試験番号4−2〜4−7では、本成形した分析用試料のX線が照射される面に割れが確認されなかった。
【0067】
これらから、成形体のX線が照射される面の全面を押込み率を10〜40%にして加圧することにより、本成形した分析用試料に割れが生じることがなく、その結果、蛍光X線分析法による成分定量において分析精度を向上できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の予備成形方法は、成形体のX線が照射される面の全面を加圧することにより、予備成形された試料のX線が照射される面の表層部における粒子密度を均一にすることができる。このようにX線が照射される面の表層部における粒子密度を均一な試料を本成形すれば、本成形された分析用試料もX線が照射される面の表層部における粒子密度が均一となり、蛍光X線分析法による成分定量における分析精度を向上できる。また、本発明の成分定量方法は、上述の効果を有する本発明の予備成形方法を用いることから、成分定量の分析精度を向上できる。
【0069】
したがって、本発明の予備成形方法およびそれを用いた成分定量方法を、希土類磁石の原料となる希土類−鉄−ホウ素系合金の製造に適用すれば、希土類−鉄−ホウ素系合金の品質向上に大きく寄与することができる。
【符号の説明】
【0070】
1:作業台、 2:試料リング、 3:ガイド、 4:パンチ、
5:成形体(試料)、 5a:X線が照射される面、 D1:パンチの外径、
D2:ガイドの内径、 D3:試料リングの内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧して本成形した後で蛍光X線分析法に用いられる試料を予備成形する方法であって、
平均粒径D50が30μm以下の金属または合金粉末を型に充填して成形し、該成形体のX線が照射される面の全面を、下記(1)式により算出される押込み率を10〜40%にして加圧することを特徴とする試料の予備成形方法。
P=100×(h1−h2)/h1 ・・・(1)
ここで、加圧前の成形体の高さをh1(mm)、加圧後の成形体の高さをh2(mm)とする。
【請求項2】
前記成形体のX線が照射される面の全面を押込み率を10〜40%にして加圧する際に、前記成形体のX線が照射される面の全面を加圧するパンチと、該パンチを案内するガイドとを用いることを特徴とする請求項1に記載の試料の予備成形方法。
【請求項3】
前記金属または合金粉末として、希土類−鉄−ホウ素系合金の酸化物粉末を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の試料の予備成形方法。
【請求項4】
試料を加圧することにより本成形した後で蛍光X線分析法により成分を定量する方法であって、
前記試料として、請求項1〜3のいずれかに記載の予備成形方法により予備成形した試料を用いることを特徴とする試料の成分定量方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−108778(P2013−108778A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252255(P2011−252255)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(394014593)中電レアアース株式会社 (5)
【Fターム(参考)】