説明

試料の分解方法および試料の分解装置

【課題】試料の分解中に、試料がオーバーヒートしそうになった時に、即座に試料へのエネルギー供給を停止して、試料の変質を抑制することを可能とする、試料の分解方法および試料の分解装置を提供する。
【解決手段】試料に薬液を加えて密閉しマイクロ波を照射することを特徴とする試料の分解方法。反応容器を収容する空所を有するマイクロ波シールドと、該マイクロ波シールドの前記空所内に収容された反応容器内の温度を測定するための非接触式温度測定手段と、前記マイクロ波シールドの空所内に収容された反応容器内の圧力を測定するための圧力測定手段と、前記マイクロ波シールド内にマイクロ波を発生させるためのマイクロ波発生手段と、前記非接触式温度測定手段と前記圧力測定手段の情報を取得して前記マイクロ波発生手段の出力を制御するフィードバック手段とを備えていることを特徴とする試料の分解装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量分析のための前処理である試料の分解方法および試料の分解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる元素の簡易的分析方法としては、蛍光X線分析法が汎用されている。
しかし、蛍光X線分析法は、感度が低く、mg/kgオーダー以下の微量分析はできない。
【0003】
試料を分解するという前処理を必要とし複雑となるが、蛍光X線分析法より感度の高い微量分析方法として、誘導結合プラズマ発光分析法、原子吸光分析法、誘導結合プラズママススペクトル分析法などが汎用されている。
【0004】
誘導結合プラズマ発光分析法、原子吸光分析法、誘導結合プラズママススペクトル分析法の試料の分解方法としては、ガラスまたはフッ素樹脂製の反応容器などに、試料を薬液とともに入れて密封した後、オーブンにより加熱、加圧して、試料を分解する方法が用いられている。(特許文献1参照)
【0005】
上記の試料の分解は、試料と薬液の反応温度、圧力を制御して行う必要がある。
試料と薬液の反応温度、圧力が低すぎると、試料が分解しない。
また、試料と薬液の反応温度、圧力が高すぎると、試料が意に反して変色、発泡、固化、蒸発や酸化してしまい分解がうまくできない。
【0006】
試料と薬液が反応した時に発生する反応熱を、分解前に正確に把握することは極めて困難である。
このため、オーブンの温度、圧力を概算で設定して分解を行うことになるが、試料と薬液の反応により発生する反応熱が予想を上回ってオーバーヒートとなり、試料が変色、発泡、固化、蒸発や酸化してしまい、うまく分解できないという問題が生じていた。
【0007】
これに対して、反応容器内の温度、圧力を、センサーで確認して、オーバーヒートが起きそうになった時には、オーブンの出力を下げてオーバーヒートを回避するという手法が取られるようになった。
【0008】
しかし、オーブンの出力を下げても急にはオーブン内の温度は下がらないので、試料にエネルギーが供給され続けてオーバーヒートとなり、試料が変色、発泡、固化、蒸発や酸化してしまい、やはり、うまく分解できないという問題が生じていた。
【0009】
【特許文献1】特許第2924140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、試料の分解中に、試料がオーバーヒートしそうになった時に、即座に試料へのエネルギー供給を停止して、試料の変色、発泡、固化、蒸発や酸化を抑制することを可能とする、試料の分解方法および試料の分解装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、試料に薬液を加えて密閉しマイクロ波を照射することを特徴とする試料の分解方法。
である。
【0012】
加熱にマイクロ波を使用しているため、微量分析のための前処理中に試料のオーバーヒートが起こりそうになった時に、マイクロ波発生手段を停止することによって、即座に試料へのエネルギー供給を停止し、オーバーヒートによる試料の変色、発泡、固化、蒸発や酸化を抑制して前処理を可能とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記薬液が、酸、アルカリ、溶剤であることを特徴とする請求項1に記載の試料の分解方法である。
【0014】
請求項3に記載の発明は、反応容器を収容する空所を有するマイクロ波シールドと、該マイクロ波シールドの前記空所内に収容された反応容器内の温度を測定するための非接触式温度測定手段と、前記マイクロ波シールドの空所内に収容された反応容器内の圧力を測定するための圧力測定手段と、前記マイクロ波シールド内にマイクロ波を発生させるためのマイクロ波発生手段と、前記非接触式温度測定手段と前記圧力測定手段の情報を取得して前記マイクロ波発生手段の出力を制御するフィードバック手段とを備えていることを特徴とする試料の分解装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、加熱にマイクロ波を使用しているため、微量分析のための前処理となる試料の分解中に、試料のオーバーヒートが起こりそうになっても、マイクロ波発生手段を停止することによって、即座に試料へのエネルギー供給を停止し、オーバーヒートによる試料の変色、発泡、固化、蒸発や酸化を抑制し、試料の分解を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
試料の分解方法および試料の分解装置の例を図1を基にして説明する。
【0017】
まず、反応容器1の中に、試料2と薬液3を入れ反応容器の蓋9で密封する。
【0018】
反応容器1の材料としては、ガラスまたはフッ素樹脂などを用いることができる。
【0019】
薬液3としては、酸、アルカリ、溶剤などを用いることができる。
【0020】
反応容器の蓋9の材料としては、ガラスまたはフッ素樹脂などを用いることができる。
【0021】
次に、試料2と薬液3の入った反応容器の蓋9で密封された反応容器1を、マイクロ波シールド8内に収容する。
【0022】
マイクロ波シールド8内は、マイクロ波発生手段4によってマイクロ波を発生することができる。
【0023】
次に、マイクロ波発生手段4を用いて、マイクロ波シールド8内にマイクロ波を発生させ、反応容器1内の試料2と薬液3を加熱して、試料2の分解を行う。
【0024】
この時、反応容器1内の温度および圧力を、非接触式温度測定手段5および圧力測定手段6により監視し、温度および圧力が過度に上昇した時に、フィードバック手段7を用いて、即座にマイクロ波発生手段4を停止する。
【0025】
試料2の分解物は、誘導結合プラズマ発光分析装置、原子吸光分析装置、誘導結合プラズママススペクトル分析装置など任意の元素分析方法にて試験分析を行うことができる。
【0026】
試料2としては、金属、プラスチックを採択することができる。
【0027】
試料2が金属の時は、金属がマイクロ波でスパークしないように、大量の薬液に少量の金属を投入する必要がある。
【0028】
また、試料2が金属の時は、薬液は酸、アルカリまたは溶剤を使用して、温度60℃以上120℃以下、圧力2×10Pa以上3×10Pa以下で加熱、加圧するのが好ましい。
【0029】
また、試料2がプラスチックの時は、薬液は酸、アルカリまたは溶剤を使用して、温度100℃以上220℃以下、圧力2×10Pa以上6×10Pa以下で加熱、加圧するのが好ましい。
【0030】
また、試料2が耐熱性プラスチックの時は、薬液は酸、アルカリまたは溶剤を使用して、温度150℃以上250℃以下、圧力2×10Pa以上6×10Pa以下で加熱、加圧するのが好ましい。
【0031】
また、試料2が金属とプラスチック複合材料の時は、薬液は酸、アルカリまたは溶剤を使用して、温度60℃以上120℃以下、圧力2×10Pa以上3×10Pa以下で30分以上加熱した後、さらに、温度120℃以上250℃以下、圧力2×10Pa以上6×10Pa以下で加熱、加圧するのが好ましい。
【実施例1】
【0032】
まず、容量100mlのフッ素樹脂製容器の中に、試料としてステンレス(SUS304)0.3gと硝酸10mlを入れ密封した。
【0033】
次に、その容量100mlのフッ素樹脂製容器を、試料の分解装置内に収容した。
【0034】
最後に、温度が60℃以上100℃以下また、圧力が2×10Pa以上3×10Pa以下になるようマイクロ波出力を調整しながら1時間加熱処理を行った。
【0035】
ステンレスは変色、酸化せず分解できた。
【実施例2】
【0036】
まず、容量100mlのフッ素樹脂製容器の中に、試料としてポリエチレン0.3gと硝酸10mlを入れ密封した。
【0037】
次に、その容量100mlのフッ素樹脂製容器を、試料の分解装置内に収容した。
【0038】
最後に、温度が130℃以上200℃以下また、圧力が2×10Pa以上6×10Pa以下になるようマイクロ波出力を調整しながら1時間加熱処理を行った。
【0039】
ポリエチレンは、変色、発泡、固化、蒸発や酸化せず分解できた。
【実施例3】
【0040】
まず、容量100mlのフッ素樹脂製容器の中に、試料としてポリエチレン0.3gと硝酸10mlを入れ密封した。
【0041】
次に、その容量100mlのフッ素樹脂製容器を、試料の分解装置内に収容した。
【0042】
最後に、温度が130℃以上200℃以下また、圧力が2×10Pa以上6×10Pa以下になるようマイクロ波出力を調整しながら1時間加熱処理を行った。
【0043】
ポリエチレンは、変色、発泡、固化、蒸発や酸化せず分解できた。
【実施例4】
【0044】
まず、容量100mlのフッ素樹脂製容器の中に、試料として耐熱性ポリイミド0.3gと硝酸10mlを入れ密封した。
【0045】
次に、その容量100mlのフッ素樹脂製容器を、試料の分解装置内に収容した。
【0046】
最後に、温度が200℃以上250℃以下また、圧力が2×10Pa以上6×10Pa以下になるようマイクロ波出力を調整しながら2時間加熱処理を行った。
【0047】
耐熱性ポリイミドは、変色、発泡、固化、蒸発や酸化せず分解できた。
【実施例5】
【0048】
まず、容量100mlのフッ素樹脂製容器の中に、試料としてアルミ箔0.15gとポリエチレン0.15gが貼り合わされた材料と硝酸10mlを入れ密封した。
【0049】
次に、その容量100mlのフッ素樹脂製容器を、試料の分解装置内に収容した。
【0050】
次に、温度が60℃以上100℃以下、また圧力が2×10Pa以上3×10Pa以下になるようマイクロ波出力を調整しながら45分間加熱処理を行った。
【0051】
最後に、温度が150℃以上200℃以下また、圧力が2×10Pa以上6×10Pa以下になるようマイクロ波出力を調整しながら1時間加熱処理を行った。
【0052】
アルミ箔およびポリエチレンは、変色、発泡、固化、蒸発や酸化せず分解できた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の試料の分解方法および試料の分解装置は、試料を変質させることなく分解することができるので、誘導結合プラズマ発光分析法、原子吸光分析法、誘導結合プラズママススペクトル分析法などの微量分析の前処理に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】試料の分解方法および試料の分解装置を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1・・・反応容器
2・・・試料
3・・・薬液
4・・・マイクロ波発生手段
5・・・非接触式温度測定手段
6・・・圧力測定手段
7・・・フィードバック手段
8・・・マイクロ波シールド
9・・・反応容器の蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に薬液を加えて密閉しマイクロ波を照射することを特徴とする試料の分解方法。
【請求項2】
前記薬液が、酸、アルカリ、溶剤であることを特徴とする請求項1に記載の試料の分解方法。
【請求項3】
反応容器を収容する空所を有するマイクロ波シールドと、該マイクロ波シールドの前記空所内に収容された反応容器内の温度を測定するための非接触式温度測定手段と、前記マイクロ波シールドの空所内に収容された反応容器内の圧力を測定するための圧力測定手段と、前記マイクロ波シールド内にマイクロ波を発生させるためのマイクロ波発生手段と、前記非接触式温度測定手段と前記圧力測定手段の情報を取得して前記マイクロ波発生手段の出力を制御するフィードバック手段とを備えていることを特徴とする試料の分解装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−71567(P2007−71567A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256121(P2005−256121)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】