説明

試料を調製するための表面被覆ハウジング

本発明は、試料調製用の固体マトリックスで内面が被覆された、ピペット・チップなどのチューブまたはカラムを使用した、新規の少量試料調製方法に関する。固体マトリックスは、ポリテトラフルオロエチレン(PTEF)などのポリマー物質と、試料の濾過、分離、または精製に適した反応材料または吸収材料などの1つまたは複数のカラム材料とで構成されている。DNA、タンパク質、またはその他の分子成分などの生体分子を含む所望の試料を、上記のチューブまたはカラム、例えばピペット・チップなどの構造を通過させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
発明者:Ashok K. Shukla、Mukta M. Shukla、およびAmita M. Shukla、10423 Popkins Court, Woodstock, MD21163. Ph. (410) 997-0010
仮特許出願第60/145559号
出願日:1999年7月26日
【0002】
発明の分野
本発明は、内面が試料調製用の固体マトリックスで被覆された、ピペット・チップなどのチューブまたはカラムを使用した、新規の少量試料調製方法に関する。固体マトリックスは、ポリテトラフルオロエチレン(PTEF)などのポリマー物質と、試料の濾過、分離、または精製に適した反応材料や吸収材料などの1つまたは複数のカラム材料とで構成されている。DNA、タンパク質、またはその他の分子成分などの生体分子を含む所望の試料を、上記のチューブまたはカラム、例えば、ピペット・チップなどの構造を通過させる。
【0003】
固体マトリックス内のカラム材料の仕様に応じて、試料の選択された分子を、固体マトリックスのカラム材料成分に結合するか、または該カラム材料成分内に留めることによって分離または精製することができる。結合分子は後に、様々な溶媒を使用することによって固体マトリックスから溶出させることができる。本発明で記載されるチューブは、試料をチューブに導入するための開口部を上部に有し、かつ試料の選択された成分が試料分離工程中に流れる開口端部を底部に有している。このチューブは、所与の1組の実験条件に適した任意の構成の任意の形状またはサイズのチューブでありうる。本発明は、ナノリットルからミリリットルまでの体積を有する試料に適している。
【0004】
発明の背景
少量試料を分離し精製するための一連の分析方法が開発されているが、分離工程の速度が遅いことや、試料体積が失われることなどの、いくつかの問題によって、現在利用可能な方法の質は制限されている。本発明では、試料精製および分離工程の速度を高めると共に試料損失の範囲を最小限に抑える少量試料調製方法について記載する。本発明は、内面に固体マトリックスが被覆されたチューブまたはカラムを使用する試料調製方法である。固体マトリックスは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのポリマー物質と、試料の濾過、サイズを基にした分離または精製に適した反応材料や吸収材料などのカラム材料とを含む。カラム材料は、ゲル濾過、イオン交換、逆相、シリカ、または改変されたシリカ媒体などのクロマトグラフィー媒体で構成することができる。
【0005】
上述のように、マイクロ体積の試料を分離し精製するための現在利用可能な方法では、望ましくない試料損失が起こることが多い。タンパク質や生体分子などの所望の分子の体積は非常に小さいことが多いので、このような試料における少量の体積の損失でも、試料全体のかなりの部分に相当する場合がある。現在利用可能な方法では、試料の損失は、分離カラム内にフィルタまたはその他の構成要素が存在するために起こることが多い。例えば、ピペット・チップの底部でフィルタまたはクロマトグラフィー材料プラグを使用する現在利用可能な方法では、フィルタ上、またはこのクロマトグラフィー材料を含むマトリックス内で、試料の損失が起こる。このようなフィルタまたはプラグの体積は微量の試料(micro sample)それ自体の体積と同程度である場合もあるので、試料の損失はかなり顕著なものであり、これに伴って分離速度が低下することが多い。また、様々な溶媒がフィルタ自体とそれぞれ異なるように相互作用し、特定の試料の分離または精製の質がさらに変動する。
【0006】
現在利用可能な1つの方法として、Milliporeによって開発されたZipTipがある。このシステムは、チップの下部開放端部にプラグとして形成された多孔性マトリックス内にカラム材料の鋳造物を含むマイクロピペット・チップを含む。しかし、この鋳造材料プラグは、試料をチップに引き込むための開口端部をふさいでいるので、このプラグを通る試料の流れおよびチップ内への試料の流れがこのプラグによって減速するか、または阻害される可能性がある。さらに、このシステムを96ウェルプレートなどのマルチ試料構成で使用すると、同じプレート上の様々なチップに吸収される試料の量および試料分離工程自体の質が均一でなくなる恐れがある。
【0007】
本明細書で記載される発明では、固体マトリックスが、チップの下部開口部を通る試料の流れをそれほど妨害せずにチューブの内側を被覆するようにチューブまたはピペット・チップに取り付けられる。この固体マトリックスは、付着、熱、圧力、およびエッチングを含むがこれらに限定されることはない任意の物理的方法または化学的方法を使用してチューブの内壁に取り付けることができる。試料の分離を最適に行うには、所望の生体分子と固体マトリックス内のカラム材料との結合が最適になるように試料を前後に複数回吸引することができる。次いで、様々な溶媒を使用して生体分子を固体マトリックスから溶出させることができる。
【0008】
固体マトリックス被覆は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの1つまたは複数の不活性材料と、所望のカラム材料とで構成されている。この所望のカラム材料は、不活性材料と組み合わせて使用されるとチューブの内面に付着し、試料の分離に有効な固体マトリックスが得られる。固体マトリックスのこのような内部被覆を備える試料分離および精製チューブは、試料が、チューブ、カラム、またはピペット・チップ・チャンバ内をより容易に流れることができ、かつカラム材料を含む被覆された固体マトリックスのより大きな表面積に接触するので極めて有効である。単一チップ・フレームワークであるか、それとも同時マルチチップ・フレームワークであるかにかかわらず、同じ手順を実施するうえで一貫性が向上するため、試料分離の質も高められる。
【0009】
本発明の特徴である様々な新規の特徴は、特に、本開示に添付され本開示の一部を形成している特許請求の範囲で指摘されている。本発明をよりよく理解するために、本発明の好ましい態様が例示された添付の図面および説明を参照する。
【0010】
本発明の上記およびその他の目的は、以下の図面を検討することにより、本発明の態様に存在する様々な利点および新規の特徴と共に明らかになると思われる。
【0011】
好ましい態様の説明
図面を参照すると、図1は、下端部(2)と、上端部(3)と、下端部の開口部(4)とを有するチューブ(1)、この例においてはピペット・チップを示している。チューブ(1)は、図1のチューブの下端部付近に示されているように、内側に固体マトリックス(5)が被覆されている。固体マトリックス(5)は、不活性材料とクロマトグラフィー材料の両方で構成されている。この不活性材料粒子は、1つまたは複数の異なる不活性材料の組合せで構成することができ、凝集し、凝集時にクロマトグラフィー材料粒子が不活性材料内に留められ/埋め込まれ、それによって固体マトリックスが得られる。
【0012】
チューブは、図1ではピペット・チップとして示されており、所与の実験の仕様に応じて任意の材料および任意の構成で製造することができる。チューブ(1)は、0.0001ミリリットルから100ミリリットルまでの体積を密閉することができる。チューブは、いかなる形状またはサイズであってもよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、酢酸セルロース、ポリスチレン、ポリスチレン/アクリロニトリル・コポリマー、およびPVDFからなる群より選択されるが、これらに限定されることはない1つまたは複数の異なるポリマー材料の組合せで構成することができる。チューブの一方または両方の端部はテーパ付けされており、チューブは、下端部(2)の内径が上端部(3)の内径よりも小さい構成とすることができる。被覆(5)は、チューブ(5)の内面上のいかなる場所に位置してもよい。
【0013】
クロマトグラフィー材料は、ポリマーを基にしたシリカまたは非シリカ、活性炭、ジルコニウム、チタン、またはその他の材料であってもよい。固体マトリックスは、粉末の形でも、織物シートまたは不織布シートの形でもよく、(陽イオン交換材料と陰イオン交換材料の混合物など)1つまたは複数のクロマトグラフィー材料で構成することができる。カラム材料は、その他のクロマトグラフィー媒体、ゲル、細菌、生体細胞、または固体粉末で構成することもできる。
【0014】
クロマトグラフィー材料粒子は、化学的または物理的に改変することができ、多孔性でも非多孔性でもよい。不活性材料粒子またはクロマトグラフィー材料粒子のサイズは、ナノメートルからマイクロメートルまででありうる。
【0015】
チューブは、単体フォーマットでも、8ウェルマイクロピペット・プレート、12ウェルマイクロピペット・プレート、96ウェルマイクロピペット・プレート、384ウェルマイクロピペット・プレート、1536ウェルマイクロピペット・プレートなどの複数チューブ・フォーマットの一部であってもよい。例えば、内側を固体マトリックスで被覆された96個のチップを使用して最高で96個の試料を同時に調製することができる。このようなマルチチップ構成は、マルチチップ・システムを形成する様々な数のチップを備えることができる。
【0016】
チューブ(1)は、この保持装置の一端または両端を密閉するキャップまたはその他の機構を有することができる。このようなキャップまたは同様な装置は、保持装置に取り付けても、取り付けなくてもよい。
【0017】
本発明のより広範囲な用途を以下の実施例によって例示することができる。
【0018】
実施例1.チトクロームcの精製
この実験では、150mgのC-4シリカ粉末を含むT-30(Dupont社から市販されているテフロン分散剤)が被覆された10〜200マイクロリットル・ピペット・チップを使用した。50マイクロリットルの溶液をピペット・チップに引き込み排出した。ピペット・チップの壁の上に残っている溶液を空気乾燥させ、蒸留水およびイソプロパノール溶液で数回洗浄した。乾燥後、チップを使用して、チトクロームCおよびトリス/SDS緩衝液を含む試料を精製した。チトクロームc溶液をピペット・チップに少なくとも10回から20回引き込み、次いでピペット・チップを水で洗浄して塩およびSDSを除去した。チップ上の被覆に結合されたチトクロームCを70%イソプロパノールおよび水を用いて溶出させた。溶出した溶液をHPLCによって分析した。
【0019】
実施例2.アルブミンの精製
この実験は、実施例1と同様のものである。チトクロームCの代わりにウシアルブミンを使用し、HPLCによって分析した。
【0020】
本発明の用途および原則を例示するために本発明の特定の態様を詳しく図示し説明したが、他の点でこのような原則から逸脱することなしに本発明を実施することができ、かつ当業者には、添付の特許請求の範囲で定義される、本開示の恩典および本明細書で説明した態様が与えられた場合に、様々な修正態様、代替構成、および均等物が構想されることが理解されると思われる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る、内側に固体マトリックスが被覆されたチューブ、すなわち、ピペット・チップの拡大図である。
【図2】本発明に係る、内側に固体マトリックスが被覆されたチューブ、すなわち、ピペット・チップの下部開口部の拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーで製造され、一端または両端が開放されており、且つ内面が少量試料体積の精製方法や分離方法などに用いる固体マトリックスで被覆される、ある体積を密閉するチューブ。
【請求項2】
第1の開放端部または閉鎖端部と第2の開放端部または閉鎖端部とを有する任意の形状または構成でありうる、請求項1記載のチューブ。
【請求項3】
ピペット・チップ、容器、カラム、バイアル、およびクロマトグラフィー・カラムからなる群より選択される、請求項1記載のチューブ。
【請求項4】
第1の開放端部または閉鎖端部の内径が第2の開放端部または閉鎖端部の直径よりも大きい、請求項1に記載のチューブ。
【請求項5】
一端または両端をテーパ付けすることができる、請求項1記載のチューブ。
【請求項6】
ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、酢酸セルロース、ポリスチレン、ポリスチレン/アクリロニトリル・コポリマー、およびPVDFからなる群より選択されるが、これらに限定されることはない1つまたは複数のポリマーを含む、請求項1記載のチューブ。
【請求項7】
チューブの内側に固体マトリックスが被覆された後に第2の開放端部が開放する、請求項1記載のチューブ。
【請求項8】
密閉されたチューブ体積が0.0001mlから100mlの間である、請求項1記載のチューブ。
【請求項9】
タンパク質、DNA、およびその他の生体分子の精製である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
1つまたは複数の不活性材料と1つまたは複数のカラム材料とを含む、請求項1記載の固体マトリックス。
【請求項11】
固体マトリックス中の不活性材料が任意の不活性材料を含む、請求項1または10記載の固体マトリックス。
【請求項12】
不活性材料が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、酢酸セルロース、ポリスチレン、ポリスチレン/アクリロニトリル・コポリマー、およびPVDFで構成される、請求項1または10記載の固体マトリックス。
【請求項13】
固体マトリックス中のカラム材料が、シリカ、ポリスチレン、炭素、およびポリマーからなる群より選択されるが、これらに限定されることはない粒子で構成される、請求項1または10記載の固体マトリックス。
【請求項14】
カラム材料粒子を、分離の質を高めるように化学的または物理的に修正することができる、請求項1または10記載の固体マトリックス。
【請求項15】
試料をチューブ中に引き込むか、または試料をチューブから押し出すように設計されたピストルまたは同様な装置を含む、請求項1記載のチューブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2006−509994(P2006−509994A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−512034(P2001−512034)
【出願日】平成12年7月24日(2000.7.24)
【国際出願番号】PCT/US2000/040462
【国際公開番号】WO2001/007162
【国際公開日】平成13年2月1日(2001.2.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(502032448)ハーバード アパラタス インコーポレーティッド (1)
【出願人】(305062000)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
【Fターム(参考)】