説明

試料を質量分析するための装置、システム及び方法

質量分析器、イオン源及び検出器を備えた質量分析計が、試料を正及び負の両方のイオン化モードで分析する性能を有している。上記質量分析計は、液体クロマトグラフ、流体分流器及び複数の流体経路とともに用いられるので、大容積の分析を、迅速に、且つ高い精度と正確さで実行できる。上記装置は、共溶出試料などの複雑な混合物を分析することもできる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
有機化学は、技術を進歩させる基本的な要素であるので、多くの重要産業、例えば、プラスチック、燃料、医薬、染料及び農薬等の産業を経済的に発展させるために最も重要である。化学を絶え間なく発展させるために必要な要素は、有機化合物を合成、精製、特性決定及び評価する装置及び技術の発達である。これまで、計測技術が改良された結果、有機化学が劇的に変化したので、化学者は、分子の精巧で複雑な構造及び化学反応の研究を精密化できるようになった。これら精密化によって、各種の化合物及び分子の合成及び開発が容易になった。
【0002】
計測が、有機化学の進歩に、重要な役割を演じるので、多くの研究機関及び開発機関には、化学者が、計画の目標を、有効且つ正確に達成できるように設計された最新式の施設が設置されている。質量分析計、核磁気共鳴、ガスクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィー、並びに赤外線、紫外線及び可視光線による分光法等の装置が、上記最新式の研究所に見られる一般的なタイプの装置である。
【0003】
これらの装置のなかで、質量分析計は、分子量を測定し、化学構造を同定し、そして混合物の組成を正確に測定するのに利用されるので、化学者に対して、特に有用な手段を提供する。従って、質量分析法(MS)は、生物学の研究にとって、益々重要になっている。例えば、環境科学者は、埋立地、吸水設備及び空気の試料中の有機化学薬剤を同定するのに、質量分析計を用いている。農薬産業では、化学者が、水、土壌、農作物及び動物の研究を支えるため、痕跡量の化合物について、試料の定量試験を行なう。
【0004】
質量分析計は、一般に、3つの基本的要素、すなわちイオン化源、質量分析器及び検出システムを備えている。試料の分子又は検体が、最初に質量分析計に導入されると、上記試料の分子又は検体がイオン化源に受け入れられ、高エネルギー電子のビームで衝撃が与えられる。その結果、検体は分解されて多数のイオン化フラグメントになる。次いで、質量分析器の構成機器が、それらのイオン化フラグメントを、それらの質量/電荷の比率(m/z)によって選別する。次いで、提示されているm/zの各価に対してシグナルが生成し、検出システムによって記憶され、各シグナルの強度は、上記シグナルを生成するイオンの存在率を反映している。このシグナルのパターンから、検体の化学構造を決定することができる。
【0005】
質量分析計は、未知物質の定性的性質及び定量的性質を測定するため、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又はガスクロマトグラフィー装置と共に用いられることが多い。換言すれば、上記クロマトグラフィー装置及び質量分析計は、お互いに流体連通している。その結果、試料は、クロマトグラフィー装置に導入され、その成分又は検体に分離される。その後、上記検体は、インラインで質量分析計に運搬され、そして分析される。
【0006】
高速液体クロマトグラフィー及び質量分析法を連結することから得られるスペクトルのデータから、未知検体の同定、その構造及び試料中に存在する量を含む、試験される検体の各種の物理的特性及び化学的特性が得られる。従って、これら装置の組合せは、複雑な試料を分析する強力な分析手段として役立つ。とりわけ、農産業及び製薬産業は、この方法に依存して発展してきた。というのは、一般に試験される複雑な混合物について得られるデータのタイプのためだけはなく、これらの装置は、比較的短い分析時間で、正確なデータを得るために必要な高い感度を提供できるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先に述べたように、MSは、石油産業、製薬産業及び農薬産業を含む多くの産業を支えて進歩させるのに重要な技術であり、且つ測定の役割を演じている。化合物の分析処理量を増大したいという要求から、新しい測定システム、並びに分析データを取り込み記録し、上記データを選択された化学及び生物学のデータベースに集約するデータ管理機器の導入に拍車がかかった。この技術で生成したデータが、例え、正常であっても、正確さ及び精度を維持しながら、上記要求に歩調を合わせるには各種の問題及び課題がある。例えば、複雑な混合物の、多数の分析シグナルがオーバーラップして、生成したスペクトルデータ中の強度の低い検体をマスクすることがある。さらに、多数の分析を、高い正確さ及び精度で迅速に実施する必要がある場合に、大セットのデータを分析することは困難であり且つ時間がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、これらの要望を満たす装置及び方法に関する。
以下の装置及びシステム、並びにその態様は、例示であり、そして具体例であることを意味する方法と共に記載され、そして図解され、本発明の範囲を制限するものではない。試料を受け入れ、そしてその物理的性質を分析するように作動する装置が提供される。開示されているように、質量分析計のような質量分析器は、一般に、イオン化源と連通する入口ポートと、上記入口ポートと連通する複数の流体経路とを備えている。
【0009】
第1流体経路は、第1構造を有し、第1時間内に、試料を受け入れ、そして入口ポートに移動するように適合されている。第2流体経路は、第1構造と異なる第2構造を有し、第1時間より長い第2時間内に、試料を受け入れ、そして入口ポートに移動するように適合されている。第2流体経路は、例えば、第1流体経路より長さが長くなるように製造してもよい。あるいは、第2流体経路は、第1流体経路より直径が小さくなるようにしてもよい。これらの流体経路は、従来の管で製造できる。
【0010】
入口ポートの下流の位置に、第1流体経路及び第2流体経路と連通する第1流体分流器が設置されている。この第1流体分流器は、試料を2つの部分に分割して、第1試料部分が第1流体経路に導入されるように構成されている。そして第2試料部分は、第2流体経路に導かれる。第2流体分流器をまた用いて、そして第1流体分流器と間隔を置いてその下流に配置してもよい。第2流体分流器は、第1流体経路及び第2流体経路を相互接続し、そして分析のための入口ポートを通じて入れる前に、上記試料の部分を第3流体経路に導入する。
【0011】
用いられる流体分流器は、手動式分流器、電子分流器及びT分流器等の従来の分流器でよい。用いられるこれら分流器は、調節可能なものでもよい。例えば、第1流体分流器は、試料を、1:1〜3:1の比率で分割するように作動するものでよい。
【0012】
一度その中に受け入れられると、上記質量分析計は、第1イオン化モードにおいて、第1試料部分を分析することができる。その後、質量分析計は、切り換えられて、第2試料部分を、負のイオン化モードで分析することができる。第1イオン化モード及び第2イオン化モードは、正のイオン化モード及び負のイオン化モードから選択できる。
【0013】
ここでシステムについてさらに詳しく検討する。上記システムは、一般に、HPLC等の分離カラムを含んでおり、当該カラムは、試料を受け入れ、そして当該試料を複数の検体に分離するように適合されている。質量分析装置が、上記分離カラムにその下流で流体連通している。上記分離カラム及び質量分析計は、複数の経路及び1つの流体分流器によって相互接続されている。上記流体分流器は、分離カラムから出る検体の試験流を第1試験部分と第2試験部分とに分割してそれぞれの経路に導き、そして質量分析計に入れる。上記装置の場合と同様に、このシステムは、2つの試験部分を共通の第3流体経路を通じて導いた後に質量分析計に入れるように構成された第2流体分流器をさらに備えていてもよい。また、上記装置について上述したように、システム中の第1流体経路及び第2流体経路は、構造が異なり、第1試料部分は、第1時間内に、入口ポートに到達し、一方、第2試料部分は、第2時間内に到達する。
【0014】
上記システムは、分離カラム及び質量分析装置の両者と連結されたコンピュータと共に提供されうる。このコンピュータは、両試験部分のマススペクトルのデータを生成するように作動する。
上記装置及びシステムは、共溶出検体を含有する試料又は試験部分を分析する特定の効用を有している。このように、この質量分析装置は、両試験部分を、異なるイオン化モードで分析できる。
【0015】
共溶出検体を含有する試料を分析する方法をさらに詳しく検討する。一般に、この方法は、試料を、第1試験部分と第2試験部分とに分割し、次いで、上記第1試験部分及び第2試験部分を、2つの異なる流体経路を通じて、入口ポートの方へ、質量分析装置まで導くステップを含んでいる。この質量分析装置は、第1試験部分を第1イオン化モードで分析して、第1ピークプロファイルを生成する。一方、第2試験部分は、第2流体経路を通じて質量分析装置の入口ポートに導かれ、そして第2イオン化モードで分析されて第2ピークプロファイルを生成する。詳しく述べると、質量分析装置は、一方の試験部分を正のイオン化モードで分析し、他方の試験部分を負のイオン化モードで分析する。
【0016】
上記の方法は、さらに、質量分析装置の上流の位置に分離カラムを設置するステップを有している。従って、試料は、第一に、HPLC等の分離カラムを通じて導かれ、それにより、上記資料が複数の検体に分離される。その後、上記検体は、下流に、質量分析装置の方へ流れる。
【0017】
この方法は、第1試験部分及び第2試験部分を同時にそれぞれの経路に導くステップを含んでいてもよい。しかし、これらの試験部分は、異なる時間内に入口ポートに到達しなければならない。例えば、第1試験部分は、第1時間内に、入口ポートにより受け入れられ、一方、第2試験部分は、第1時間より長い第2時間内に、入口ポートを通じて到達する。
【0018】
代表的な実施形態を、図面の参照図に例示してある。本願に開示されている実施形態と図は、限定するためではなく例示することを目的としている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、分離カラム及び流体連通している質量分析器を備えた、試料を分析する従来技術のシステムを示す摸式図である。
【図2】図2は、複数の流体経路で相互接続された質量分析器及び分離カラムを備えた分析システムの例示的な実施形態を示す摸式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
農業関連の法人や農薬の会社は、環境的に、そして社会に許容され、同時に採算が合う持続可能な農業向けの農薬や遺伝子組換え製品を開発し、製造することによって、農業の要求を支えている。この目的の一環として、多くの農薬の会社は、環境の保護に積極的に参画している。例えば、多くの農薬の会社は、水塊と地域社会の給水とを監視して、特定の農薬及びそれらの濃度を検査している。
【0021】
例えば、水の試料を、選択された水塊から収集して、質量分析計を高速液体クロマトグラフィーと共に利用して分析することが多い。これらの分析結果から、化学汚染物質が、存在する場合、同定され且つそれらの汚染物の濃度が確認される。水試料の従来の分析法の全体を図1に示してある。図1において、システム10は、従来の質量分析計でもよい質量分析器30と流体連通している、従来の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の形状でもよい分離カラム20を備えている。HPLC20及び質量分析計30は、それぞれ、コンピュータ40に連結されており、当該コンピュータが、化学者により評価されるマススペクトルのデータを生成する。
【0022】
HPLC20は、試料を受け入れる入口22と、分離された検体が分離カラムから出る出口24とを有している。出口24は、質量分析計30の入口ポート32と流体連通しており、入口ポート32は、イオン化源と連通している。この構造を考えると、分析試料は矢印の方向に沿って流れ、まず入口22を通じて、その検体に分離されるHPLC20に入ることが分かるであろう。これらの検体は検体流62を形成し、出口24から入口ポート32を通って流れ、質量分析計30に入る。適当なサイズ及び長さの従来の管が、HPLC20と質量分析計30とを相互接続して、検体流62を出口24から入口ポート32まで移動させる。この管は、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製管等のポリマー製管、ステンレス鋼製管又はその他の適切な管でもよい。次いで、コンピュータ40が、検体流の中の検体のスペクトルデータを生成する。
【0023】
検体は、HPLCから共溶出することが多い。換言すれば、試料中の2つの異なる成分は、カラムの出口端から、ほぼ同時に共溶出する。これらの共溶出物の極性が異なる場合、すなわち一方の共溶出検体が正電荷を有し、他方の共溶出検体が負電荷を有している場合に、両検体を検出するために、質量分析計の極性を切り換えることが必要になる。従って、質量分析計は、正のイオン化モードで作動している場合に、正電荷の共溶出検体を検出する。同様に、質量分析計は、負のイオン化モードで作動している場合に、負電荷の共溶出検体を検出する。
【0024】
現在、共溶出検体を分析するのに採用されている方法は、先に図1に記載したように、検体流を、正又は負のイオン化モードの第1モードで作動している質量分析計に供給する方法である。上記質量分析計は、検体流を第1モードで分析した後、その極性を第2モードに切り換えることができる。検体流は、第2時点に、質量分析計に注入して分析できる。このようにして、コンピュータは、正電荷及び負電荷の検体のスペクトルデータを生成できる。
【0025】
検体流を、2つの異なる時点で、質量分析計を通じて放出することは、特に、分析すべき試料の容積が大きい場合に時間がかかる。例えば、典型的なHPLC装置は、分析試料を100個保持できる。1試料をHPLCから溶出させて質量分析計で1回分析するのに通常、約10分間かかる。従って、質量分析計が第1モード(正又は負のイオン化モード)にある場合に、1セット100個の試料を分析するのに要する時間は、約17時間である。化学者は、一般に上記100個の試料をHPLCに入れ、そして第2時点で、質量分析計を第2イオン化モードに切り換えた後、同じ分析手順を実行する。この第2の分析にさらに17時間かかり、分析時間は合計、約34時間になる。
【0026】
理解できるであろうが、図2に記載した質量分析装置、システム及び方法は、上記約34時間よりはるかに短い時間で、同じ100個の試料を分析できる。図1で先に説明したシステム10と同様に、図2に示すシステム110は、コンピュータ140と連結された、従来の質量分析計であることができる質量分析器130と流体連通しているHPLC等の分離カラム120を備えている。同様に、試料150が、矢印の方向にそって、入口122を通じてHPLC120に導入され、そのHPLCでその検体に分離される。検体流162は、HPLC120から質量分析計130に流れて分析されるが、質量分析計に到達する前に、2つの部分、すなわち第1試験部分と第2試験部分とに分割される。各試験部分は、入口ポート132に、別々に到達して、例えば、第1試験部分を、質量分析装置で分析した後に、第2試験部分を質量分析装置に導入できる。
【0027】
続けて図2について、より詳しく述べると、検体流162は、出口124を通じてHPLC120から出て、第1流体分流器170まで下流に移動する。第1流体分流器170は、検体流162を、第1試験部分と第2試験部分とに分割する。第1試験部分は、第1構造を有する第1流体経路164に導かれ、一方、第2試験部分は、第1構造とは異なる第2構造を有する第2流体経路166に導かれる。第1流体経路164及び第2流体経路166は、第2流体分流器172によって、第3流体経路168に相互接続されている。図2に示すように、第2流体分流器172は、第1流体分流器170の下流の、入口ポート132に直近の位置に配置されている。第2流体分流器172がそれぞれの試験部分を受け入れると、第3流体経路168が、それら試験部分を、入口ポート132を通じて、質量分析計132まで移動させる。
【0028】
第1流体経路164、第2流体経路166及び第3流体経路168は、それぞれ、上述のような従来の配管で形成されていてもよい。第1流体経路164及び第2流体経路166は、構造が異なるので、これら経路が受け入れたそれぞれの試験部分は、最終的に、異なる時点に、入口ポート132を通過して流れる。意図する通りに、第1試験部分は、第1時間内に、質量分析計に入って第1イオン化モードで分析される。次いで、十分な時間が経過して、第1試験部分の分析が完了し、そして質量分析計が第2イオン化モードに切り換えられた後に、第2試験部分が、第2時間内に、質量分析計に入る。
【0029】
システム110の有効性をさらに例示するために、共溶出検体を含有する仮の試料を、最初に、分離カラム120に導入する。約3分間経過後、検体が共溶出して検体流162を生成し、次に検体流162は、第1流体分流器170によって分割される。第1試験部分が第1流体経路164に導かれて、約3分10秒後に質量分析計130に到達する。一方、第2試験部分は、第2流体経路166に流れ、約3分11秒後に質量分析計に到着する。標準の質量分析装置のイオン化モードの必要とする時間は1秒未満にすることができる。従って、質量分析計を、第1モードと第2モードとの間の切換えを行なうのに約3/4秒(750ms)かかるならば、第1試験部分の約1秒後である限り、第2試験部分のスペクトルデータは分析することができる。
【0030】
流体経路164、166の構造は、試験部分を異なる時間枠で送達するのに適切ないかなる方法でも構成できる。例えば、図に示すように、第2流体経路166は、それ自体2回ループしているので、長さが第1流体経路164より長い。従って、経路166の長さのため、入口ポートが第2試験部分を受け入れる時間は、第1試験部分より長くなる。あるいは、第2流体経路166の直径を第1流体経路164より大きくして、第2流体経路を流れる第2試験部分の速度を、第1試験部分の速度より遅くしてもよい。
【0031】
上記システムで用いられる流体分流器は、分析装置に用いられることが多い従来の分流器でよい。例えば、上記分流器は、小数の例を挙げると、手動式分流器、電子分流器又はT−分流器であることができる。さらに、これら分流器は、必要に応じて、調節可能であるか、又は調節不可であることができる。例えば、第1流体分流器170は、検体流162を、例えば、1:1の比率で分流することができ、又は3:1の比率で分流できる。より詳しく述べると、第1流体分流器は、会社が米国ワシントン州98277オークハーバーオークストリート619にあるUpchurch Scientific Inc.が製造しているUpchurch P−450でよく、そして第2流体分流器は、会社が米国イリノイ州60015ディアフィールドウオーキーゲンロード2051にあるW.R.Grace&Co.が提供しているASI Model 60206でよい。適切な場合、1つ又はいくつかの組合せの流体分流器を用いて、検体流を経路によって導いて、試験部分を、質量分析計に異なる時間内に入れることができる。
【0032】
当業者には容易に分かることであるが、図2に示して先に説明したシステム110とそれらの態様の効用は農薬産業以外の産業の共溶出検体を試験するのに用いることができる。従って、上記システム及びそれらの態様は、多くの産業に有用であり、農薬産業に限定するものではない。例えば、共溶出検体を分析する製薬産業等の産業は、このシステムを採用して、試料を試験する場合の効率及び時間を改善できる。
【0033】
さらに、上記システム110としては、分離カラム、具体的にはHPLCと共に質量分析器を備えたものを提示し、そして説明した。質量分析計及びその利点は、適切な場合、例えば、HPLC以外の超圧(ultra pressure)液体クロマトグラフィー(UPLC)と共に用いると、容易に分かる。あるいは、質量分析器及びその中に試料を導入する複数の流体経路を独立して用いることができる。換言すれば、試験すべき試料は、流体経路に直接導入し、次に、第1試験部分と第2試験部分とに分割し、そしてそれら試験部分は、試料を異なるイオン化モードで試験できる十分な異なる時間内に質量分析器に導入される。
【0034】
共溶出検体を含む試料を分析する方法をさらに検討する。この方法は、上記装置及びシステムの上記実施形態に固有のいずれかのステップであるどのステップも含むと解すべきであろう。しかし、一般に、この方法は、試料を、第1試験部分と第2試験部分とに分割し、そして第1試験部分と第2試験部分とを、2つの異なる流体経路によって、質量分析計に向けて、入口ポートの方に導くステップを含んでいる。上記質量分析装置は、第1試験部分を、第1イオン化モードで分析して、第1ピークプロファイルを生成する。一方、第2試験部分は、第2流体経路によって、質量分析器の入口ポートに導かれ、そして第2イオン化モードで分析され、第2ピークプロファイルを生成する。詳述すると、上記質量分析装置は、一方の試験部分を、正のイオン化モードで分析し、もう一つの試験部分を、負のイオン化モードで分析する。
【0035】
この方法は、さらに、質量分析装置の上流の位置に、分離カラムを設けるステップを含んでいてもよい。従って、試料を、最初に、HPLC等の分離カラムを通過させて導き、試料を複数の検体に分離することができる。その後、これら検体を、下流の質量分析装置に移動する。
【0036】
上述したように、上記方法は、上記システム又は装置に固有のどのステップを含んでいてもよい。詳述すると、上記方法は、第1試験部分と第2試験部分とを、同時にそれぞれの経路に導くステップを有していてもよい。しかし、これらの試験部分は、入口ポートに、異なる時間内に到達しなければならない。例えば、第1試験部分は、第1時間内に、入口ポートに受け入れられ、一方、第2試験部分は、第1時間より長い第2時間内に、入口ポートを通過して到達する。
【0037】
第1流体経路及び第2流体経路は、流体分流器によって相互接続されてもよく、なおこの流体分流器は、試料の流れを、第1試験部分と第2試験部分とに分割するように作動する。これら流体経路の構造は異なっていてもよい。例えば、第1流体経路は、長さが第2流体経路より長くてもよい。
【0038】
本発明の上述の記載及び具体的な実施形態について詳細に説明した。しかし、本発明の上記記載は、単に例示するのみであり、本発明の範囲は、従来技術に照らして解釈された特許請求の範囲に限定されると解すべきである。さらに本明細書に具体的に開示される本発明は、本明細書に具体的に開示されていない要素が無くても実施可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を受け入れ、そして当該試料の物理的性質を分析するように作動する質量分析計であって、
下記、
(A)分析するために、試料が導入されるイオン化源と連通している入口ポート、
(B)前記入口ポートと連通し且つ第1構造を有する第1流体経路であって、第1時間内に、前記試料を受け入れ、そして前記入口ポートに移動させるように適合された第1流体経路、及び
(C)前記入口ポートと連通し且つ第1構造と異なる第2構造を有する第2流体経路であって、第1時間より長い第2時間内に、前記試料を受け入れ、そして前記入口ポートに移動させるように適合された第2流体経路、
を含む、イオン化源、質量分析器及び検出器を有する、
前記質量分析計。
【請求項2】
第1流体経路が第1長さを有するように構成され、そして第2流体経路が、第1長さより長い第2長さを有するように構成されている、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
第1流体経路が第1直径を有するように構成され、そして第2流体経路が、第1直径より短い第2直径を有するように構成されている、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項4】
第1流体経路及び第2の流体経路と連通し、そして前記入口ポートの上流に配置された第1流体分流器であって、第1試料部分を第1流体経路により前記入口ポートに移動し、そして第2試料部分を第2流体経路により前記入口ポートに移動するように、前記試料を第1試料部分と第2試料部分とに分割するように構成されている第1流体分流器を含む、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項5】
第1試料部分と第2試料部分とが、1:1又は3:1の比率に分割される、請求項4に記載の質量分析計。
【請求項6】
第1試料部分及び第2試料部分が共通の流体経路を経由して前記入口ポートによって受け入れられるように、第1流体分流器の下流に配置され且つ第1流体経路及び第2流体経路を相互接続する第2流体分流器を含む、請求項4に記載の質量分析計。
【請求項7】
第1流体分流器及び第2流体分流器が調節可能である、請求項6に記載の質量分析計。
【請求項8】
第1流体分流器及び第2流体分流器が、手動式分流器、電子分流器及びT−分流器から選択される、請求項6に記載の質量分析計。
【請求項9】
第1試料部分を第1イオン化モードで分析し、そして第2試料部分を第1イオン化モードと異なる第2イオン化モードで分析する、請求項6に記載の質量分析計。
【請求項10】
第1イオン化モード及び第2イオン化モードが、正のイオン化モード及び負のイオン化モードから選択される、請求項9に記載の質量分析計。
【請求項11】
液体試料を分析するシステムであって、
(A)前記液体試料を受け入れ、そして前記液体試料を複数の検体に分離するように適合された分離カラム、それにより、前記検体の、試験すべき前記検体の選択されたものが、検体の試験流を形成する、
(B)前記検体の試験流を、第1試験部分と第2試験部分とに分割するように適合された第1流体分流器、
(C)第1試験部分及び第2試験部分内の前記検体の物理的性質を測定するように作動する質量分析装置、
(D)下記を含む、前記質量分析装置と連通している、複数の流体経路、
(1)第1構造を有し且つ前記第1試験部分を、第1時間内に前記質量分析装置に移動させるように適合された第1流体経路、及び
(2)第1構造と異なる第2構造を有し且つ第2試験部分を、第1時間より長い第2時間内に前記質量分析装置に移動させるように適合された第2流体経路、
を含む、前記システム。
【請求項12】
第1流体分流器の下流且つ前記質量分析装置に隣接する位置に、第1流体経路及び第2流体経路を相互接続する第2流体分流器を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記分離カラム及び前記第1流体分流器と流体連通し、且つ第1試験部分及び第2試験部分を、それぞれ、第1流体経路及び第2流体経路から受け入れ、そして前記質量分析装置に移動するように適合された第3流体経路を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記質量分析装置が、前記検体の試験流の第1試験部分及び第2試験部分を、正のイオン化モード又は負のイオン化モードのどちらかで分析するように作動する、請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
前記分離カラム及び前記質量分析装置と連結され、そしてマススペクトルデータを生成するように作動するコンピュータを含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項16】
前記検体の試験流が、共溶出検体を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項17】
前記分離カラムが液体クロマトグラフである、請求項11に記載のシステム。
【請求項18】
前記複数の流体経路が管の形状である、請求項11に記載のシステム。
【請求項19】
前記管の直径が、前記流体経路のそれぞれの直径と共通の直径を有する、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
分析のための試料を受け入れるように連通している入口ポートを有する質量分析装置を用いて、共溶出検体を含む試料を分析する方法であって、
(A)前記試料を、第1試験部分と第2試験部分とに分割するステップ、
(B)第1試験部分を、前記質量分析装置の入口ポートと連通している第1流体経路を通じて導き、そして前記質量分析装置を第1イオン化モードで作動させ、それにより、第1ピークプロファイルを生成するステップ、そして
(C)第2試験部分を、前記質量分析装置の入口ポートと連通している第2流体経路を通じて導き、そして前記質量分析装置を第2イオン化モードで作動させ、それにより、第2ピークプロファイルを生成するステップ、
を含む、前記方法。
【請求項21】
第1試験部分及び第2試験部分を、それぞれ、第1流路及び第2流路を通じて同時に導くステップを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
(A)第1試験部分が、第1時間内に、前記入口ポートにより受け入れられ、そして
(B)第2試験部分が、第1時間より長い第2時間内に、前記入口ポートにより受け入れられる、
請求項21に記載の方法。
【請求項23】
分離カラムを前記質量分析装置の上流の位置のところに供給し、そして前記試料を、前記分離カラムに通し、それにより前記試料を複数の検体に分離するステップを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
第1流体経路及び第2流体経路を相互接続する流体分流器が、前記試料を第1試験部分及び第2試験部分に分割するように供給されている、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
第1流体経路が、第1長さを有し、そして第2流体経路が、第1長さより長い第2長さを有する、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
第2試験部分が、前記入口ポートにより受け入れられる前に、前記質量分析装置を、第1イオン化モードから第2イオン化モードに変更するステップを含む、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−510302(P2011−510302A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543272(P2010−543272)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/031226
【国際公開番号】WO2009/091961
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(500584309)シンジェンタ パーティシペーションズ アクチェンゲゼルシャフト (352)
【Fターム(参考)】