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試料ターゲット
説明

試料ターゲット

【課題】マトリックスを用いることなく高い効率で分析対象試料のレーザー脱離イオン化を実現することのできる試料ターゲットを提供する。
【解決手段】レーザー光照射による試料のイオン化に用いられ、少なくともレーザー被照射面が多孔質構造を有する基体と、該レーザー被照射面を被覆する金属若しくは半導体から成る薄膜とを有する試料ターゲットにおいて、前記基体のレーザー光によるイオン化反応に関与する表層部と該表層部以外のバルク部の熱伝導率が同等、又は表層部よりもバルク部の熱伝導率が低いものとする。例えば、試料ターゲット10を二重細孔構造を有するシリカモノリスプレートから成る基体20と該基体のレーザー被照射面を被覆するPt薄膜30とで構成する。これにより、ターゲット基体20の表層部からバルク部への熱伝導によるエネルギーのロスを抑え、イオン化効率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析法において分析対象試料を保持するための試料ターゲットに関し、特に、マトリックスを用いることなくレーザー光照射による分析対象試料のイオン化を可能とする試料ターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質・糖鎖・DNAなどの生体試料や合成ポリマーなどの高分子を対象とした定性・定量分析手法として質量分析法が広く利用されている。これは分析対象試料をイオン化し、エネルギーを与えることによって生じるイオンの質量/電荷数比(m/z)を利用して物理的なフィルタリングを行い、得られた質量スペクトルから分析を行うものである。質量分析装置には様々な種類があるが、例えば、イオン発生部で生成したイオンを所定の強さの電場によって引き出して電場及び磁場を有さない飛行空間内に導入し、イオン検出器に到達するまでの飛行時間に応じて、各種イオンを質量/電荷数比毎に分離・検出する飛行時間型質量分析装置(Time Of Flight Mass Spectrometry: TOFMS)等が知られている。
【0003】
TOFMSにおけるサンプルのイオン化法としてはマトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization: MALDI)が一般的に用いられている。MALDIは、分析対象試料をマトリックスと呼ばれる化合物と混合して試料ターゲットと呼ばれる金属板の上に塗布し、これにイオン化室内でパルスレーザー光を照射することでイオン化する方法であり、レーザー光を吸収したマトリックスが急速に加熱され気化するのに伴って、サンプル分子が脱離及びイオン化される。すなわち、MALDI法はマトリックスの吸収したエネルギーをサンプルが間接的に受け取ることによるソフトなイオン化法であり、そのため巨大分子を断片化させることなくイオン化することが可能となる。しかし、MALDIによる測定に際しては、適当なマトリックスを選定して試料と混合する手間を要し、また、低分子量領域においてマトリックス由来のバックグランドイオンが生じるため、マススペクトルの解析が困難になる場合がある。
【0004】
このため、上記試料ターゲット自体にイオン化能を付加することでマトリックスを用いることなくレーザー脱離/イオン化による試料のイオン化を達成する手法として、シリコン上脱離イオン化(Desorption/Ionization On (porous) Silicon: DIOS)法と呼ばれる手法が開発されている。これはSi基板の表面に電気化学的酸化処理を施すことによりサブミクロンオーダーの多孔質層を設けたポーラスシリカプレート上に分析対象試料を塗布し、レーザー光の照射により該試料をイオン化するものである。また、Si以外の材料を基材とする表面支援レーザー脱離イオン化(Surface Assisted Laser Desorption/Ionization:SALDI)法と呼ばれる手法も開発されており、これらDIOSやSALDI等のマトリックス・フリーな(マトリックスを用いない)レーザー脱離/イオン化法がMALDIを補完する形で実用化されつつある。
【0005】
更に、このようなマトリックス・フリーなイオン化法における試料ターゲットを改良するものとして、Alの表面を電気化学的な酸化により多孔質化したポーラスアルミナを基材とし、これを貴金属や半導体から成る薄膜で被覆したものも考案されており、これにより、試料ターゲットのイオン化能を長期に亘って安定化させることができると共に、分子量10,000程度の試料のイオン化が可能となることが報告されている(非特許文献1)。
【0006】
【非特許文献1】アナリティカル・ケミストリー(Analytical Chemistry)、米国、 2005年、第77巻、第16号、pp.5364-5369
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、近年、生体試料や高分子試料の定性・定量分析への質量分析の適用は益々拡大しており、これに伴ってマトリックスフリーなイオン化法の更なる高性能化、特にイオン化効率の向上が強く求められている。そこで、本発明が解決しようとする課題は、マトリックスを用いることなく分析対象試料のレーザー脱離/イオン化を行うために用いられる試料ターゲットにおいて、従来よりも高いイオン化効率を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本願発明者らは上記従来の試料ターゲットにおいて基体表層の多孔質部は共有結合性の酸化物被膜であるのに対し、バルクは熱伝導度の高い金属Alのままである点に着目し、レーザー光によって試料ターゲットに与えられた熱エネルギーが、表面に被覆された金属薄膜から熱伝導率の高いバルクを介して放散されることがイオン化効率低下の一因であることに想到し、本願発明に至った。
【0009】
すなわち、上記課題を解決するために成された本発明の第1の態様のものは、レーザー光照射による試料のイオン化に用いられ、少なくともレーザー被照射面が多孔質構造を有する基体と、該レーザー被照射面を被覆する金属若しくは半導体から成る薄膜とを有する試料ターゲットであって、
前記基体のレーザー光によるイオン化反応に関与する表層部と該表層部以外のバルク部の熱伝導率が同等、又は表層部よりもバルク部の熱伝導率が低いことを特徴としている。
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明の第2の態様のものは、レーザー光照射による試料のイオン化に用いられ、少なくともレーザー被照射面が多孔質構造を有する基体と、該レーザー被照射面を被覆する金属若しくは半導体から成る薄膜とを有する試料ターゲットであって、
前記基体と薄膜の間に断熱層を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
上記構成を有する本発明の第1の態様のものによれば、試料ターゲットにおけるバルク部の熱伝導度が表層部と同等又はそれ以下であるため、表層部からバルク部への熱伝導によるエネルギーのロスを抑えることができる。その結果、より多くのイオン化エネルギーが試料へと供給されることとなり、マトリックス・フリーなレーザー脱離イオン化におけるイオン化効率を向上させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の第2の態様のものによれば、上記基体とそのレーザー被照射面を被覆する薄膜の間に断熱層を設けることにより、レーザー光によって与えられた熱エネルギーが上記薄膜から基体側へ放散されるのを抑えることができ、その結果、上記第1の態様のものと同様に、イオン化効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の試料ターゲットにおいて、表層部とはレーザー脱離/イオン化においてイオン化反応に寄与する領域を意味し、具体的にはレーザー被照射面からレーザー光の波長と同程度の深さまでの領域を指す。また、バルク部とはターゲット基体中の上記表層部以外の領域を指しており、上記従来のポーラスアルミナを用いた試料ターゲットではこのバルク部の熱伝導率が表層部(多孔質の酸化物皮膜)よりも高かったために熱エネルギーのロスを招いていた。これに対し、本発明ではバルク部の熱伝導率を表層部と同等以下とすることにより前記表層部で吸収された熱エネルギーがこのバルク部を伝って放散されるのを防止することができ、イオン化効率が向上される。
【0014】
ここで、本発明の試料ターゲットにおいては、上記基体を非金属から成るものとすることが望ましい。これにより、従来のようにバルク部がAl等の金属から成る試料ターゲットに比べ、イオン化エネルギーのロスを抑えることができる。ここで、前記非金属は、カーボンを除くいずれのものであってもよく、例えばポリマーなどを用いることもできる。但し、耐熱性の点に鑑みると無機材料を用いることが望ましく、例えば、酸化物セラミックや窒化物セラミックなどのセラミック材料を好適に用いることができる。ここで、セラミックとはガラス、ゲルを含む無機固体材料を意味し、より好ましくは後述のような二重細孔構造を有する多孔質シリカゲルを用いることが望ましい。
【0015】
また、本発明に係る試料ターゲットにおいては、上記基体を多孔質体から成るものとすることが望ましい。これにより、多孔質の構造的な断熱性によって表層部からバルク部への熱エネルギーの放散を抑えることができ、レーザー被照射面で吸収された熱エネルギーをより効率よく試料に供給することが可能となる。ここで、上記多孔質体はいかなる素材から成るものであってもよく、熱伝導率の点から非金属を用いることが望ましいが、いわゆる金属多孔質材料を用いてもよい。更に、多孔質体としては、メゾスケール〜マクロスケール(0.2〜1μm)の細孔と該細孔の内壁面に形成されたナノスケール(10〜25nm)の微細孔とから成るいわゆる二重細孔構造を有するものを用いることが望ましい。なお、前記多孔質体は全体が多孔質構造から成るものであることが望ましいが、イオン化に際して十分な断熱効果が得られるのであれば、表層部に近い領域だけが多孔質化されたものであってもよい。
【0016】
なお、上記金属若しくは半導体から成る薄膜によるコーティングは、レーザー被照射面のみに施してもよく、基体全体に施すようにしてもよい。また、該金属若しくは半導体によるコーティングにはスパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、化学気層蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)等の乾式コーティング法や、電解メッキ、非電解メッキなどの湿式コーティング法などいかなる手法を利用してもよい。
【0017】
上記本発明の第2の態様において、断熱層は、少なくとも上記薄膜よりも熱伝導率が低いものであればよく、例えば、上記のような非金属や多孔質体を用いることができる。また、該断熱層は、いかなる方法により形成してもよいが、例えば、上記薄膜と同様の手法によって形成することができる。
【実施例1】
【0018】
直径500nm程度のメゾスケールの細孔22と直径12nm程度のナノスケールの微細孔(図示略)を有する30×20×1.2mmのシリカモノリスプレート(株式会社京都モノテック製)を基体20とし、その表面にイオンビームスパッタ法によってPtを5〜50nm、好ましくは20〜50nmの膜厚でコーティングして薄膜30を形成することにより、TOFMS用試料ターゲット10を作製する(図1及び図2)。このようにして得られる本実施例の試料ターゲット10においては、シリカモノリスプレートから成る基体20のレーザー被照射面21に近い領域が上記表層部に相当し、その下の領域が上記バルク部に相当する。なお、Ptのコーティング方法としては、上記のようにコーティング剤の強固な付着が期待できるイオンビームスパッタ法を用いることが好ましいが、その他、いかなる方法を用いてもよい。また、このとき適当なマスクを用いて部分的なコーティングを施すことにより、レーザー被照射面21に図3に示すような試料保持部(ウェル)31を形成するようにしてもよい。
【実施例2】
【0019】
直径500nm程度のメゾスケールの細孔を有する30×20×1.2mmのAg多孔質体を基体20とし、その表面にSiO2(熱伝導率:0.07〜0.12kcal/m・hr・℃)をRF-ダイオードスパッタ、又はオフアクシススパッタにより50〜300nmの膜厚でコーティングすることで断熱層40を形成する。その後、更にDC-スパッタによってPtを20〜50nmの膜厚でコーティングして薄膜30を形成することにより試料ターゲット10を作製する(図4)。基体20としてAgのような金属を用いた場合、試料ターゲット10の強度を高めることができる一方で、高い熱伝導率によりイオン化効率が低下するという欠点がある。しかし、本実施例では基体20を構成する金属材料として多孔質性のものを用いることで構造的な断熱性が得られることに加え、レーザー被照射面21を被覆する薄膜30の下に上記のような断熱層40を設けたことにより、上記欠点を回避してイオン化能の高い試料ターゲットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施例に係る試料ターゲットを示す断面図。
【図2】同実施例に係る試料ターゲットのレーザー被照射面近傍を示す拡大断面図。
【図3】同実施例に係る試料ターゲットにおいて試料保持部を設けた場合を示す図であり、(a)は上面図、(b)は長手方向断面図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る試料ターゲットを示す断面図。
【符号の説明】
【0021】
10…試料ターゲット
20…基体
21…レーザー被照射面
22…細孔
30…薄膜
40…断熱層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光照射による試料のイオン化に用いられ、少なくともレーザー被照射面が多孔質構造を有する基体と、該レーザー被照射面を被覆する金属若しくは半導体から成る薄膜とを有する試料ターゲットであって、
前記基体のレーザー光によるイオン化反応に関与する表層部と該表層部以外のバルク部の熱伝導率が同等、又は表層部よりもバルク部の熱伝導率が低いことを特徴とする試料ターゲット。
【請求項2】
前記基体が非金属から成ることを特徴とする請求項に1に記載の試料ターゲット。
【請求項3】
上記基体が多孔質体から成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の試料ターゲット。
【請求項4】
上記基体が二重細孔構造を有する多孔質シリカゲルから成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の試料ターゲット。
【請求項5】
レーザー光照射による試料のイオン化に用いられ、少なくともレーザー被照射面が多孔質構造を有する基体と、該レーザー被照射面を被覆する金属若しくは半導体から成る薄膜とを有する試料ターゲットであって、
前記基体と薄膜の間に断熱層を設けたことを特徴とする試料ターゲット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−263600(P2007−263600A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85763(P2006−85763)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】