説明

試料ホルダおよびそれを備えた斜入射蛍光X線分析装置

【課題】種々の形状の試料に対応した試料ホルダにより、試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるようにX線源からの一次X線の照射位置を自動調整し、常に短時間で高感度、高精度の分析が行える斜入射蛍光X線分析装置を提供する。
【解決手段】環状の側部11および底部13を有する本体18と、試料載置台14と、試料載置台14を支持し、その高さを調整する少なくとも3個の高さ調整具15を有する試料ホルダ1と、試料ホルダの当接面104をセラミックスボール47に押圧する押圧手段40と、検出器37が測定する試料Sより発生する蛍光X線36の強度に基づき、X線管位置調整手段55、分光素子位置調整手段57および分光素子角度調整手段58を制御する制御手段56とを備え、試料Sより発生する蛍光X線36の強度が最大になるようにX線源3からの一次X線34の試料Sへの照射位置を自動調整する斜入射蛍光X線分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に1次X線を照射するX線源と、前記1次X線が照射される試料より発生する蛍光X線を検出する検出器と、簡便で安価な試料ホルダとを備えることにより、種々の形状の試料であっても正確な試料位置を設定することができる斜入射蛍光X線分析装置および、さらにオフセット記憶手段を備えることにより試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるようにX線源からの一次X線の照射位置および照射角度を自動調整する斜入射蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
斜入射蛍光X線分析装置、特に全反射蛍光X線分析装置においては、試料に照射する1次X線の試料への照射角は全反射角度例えば、0.05°〜0.25°と極めて低い角度であり、試料位置がこのような全反射角度に設定されていないと分析感度が大幅に低下し、分析ができなかったり、分析の正確さや精度が著しく低下したりする。
【0003】
このような場合に、試料位置を正確に設定するために試料を載置する試料台を水平方向に移動させるXYステージや試料分析面へのX線の入射角を調整するためのスイベルステージを有している全反射蛍光X線分析装置がある(特許文献1参照)。また、試料からの反射X線を検出する第2のX線検出手段の出力に応じて移動テーブルの3次元位置および角度を制御する制御部を備え、試料位置を調整する全反射蛍光X線分析装置がある(特許文献2参照)。
【0004】
また、分光結晶の回転機構、X線検出器、試料ステージなどを測定最適位置にするために、それらの機構のオフセットを記憶し、記憶したオフセットを用いて、それらの機構を駆動する蛍光X線分析装置がある。そのひとつとして、分析目的に応じた適切な分光結晶を複数の結晶の中から選択使用するために、複数の分光結晶をX線分光器中心位置に交互に設置する結晶交換機構を備え、分光器中心に位置させた分光結晶をX線分光器中心まわりに回転させる手段と、X線検出器をX線分光器中心まわりに回転させる機構とをお互いに独立に設けると共に、分光結晶の回転角とX線検出器の回転位置を検知する手段を設け、既知元素の特性X線の検出出力が最大になる分光結晶及びX線検出器の位置と、分光結晶及びX線検出器の機構上のX線波長対応位置との差をオフセット量として記憶し、分光結晶を駆動する蛍光X線分析装置がある(特許文献3参照)。
【0005】
さらに、複数の励起X線の試料面での照射位置の微小な位置合わせを容易にするために、各励起X線が照射する一次X線の試料面での照射位置と試料ステージの原点との位置ずれを蛍光板を用いて求め、求めたずれ量を各励起X線源毎にオフセット量として記憶しておき、このオフセット量を用いて、照射位置と試料ステージの原点が一致するように試料ステージの位置補正を行う蛍光X線分析装置がある(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平10−185845号公報
【特許文献2】特開平10−185846号公報
【特許文献3】特開昭63−167250号公報
【特許文献4】特開2003−149182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および2などに記載されている従来の全反射蛍光X線分析装置では、シリコンウエハの表面、シリコンウエハ上の不純物、ガラス基板の被膜、ガラス基板上に試料溶液が点滴乾燥された点滴乾燥痕などの試料の厚みは極めて薄く、表面が平面状である試料にしか対応できるように設計されておらず、厚みが厚い試料、例えばOリングやパイプなどの種々の形状の試料に対応することができない。
【0007】
また、特許文献3などに記載されている従来の蛍光X線分析装置では、分光結晶の回転機構、X線検出器、試料ステージなどのオフセットを工場調整時に記憶し、記憶したオフセットを用いて、それらの機構を駆動して位置設定しており、測定時必要に応じてオフセット量を求め、求めたオフセット量を用いて位置設定をしておらず、X線源の位置や分光素子の位置と角度を制御することにより試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるようにX線源からの一次X線の照射位置および照射角度を適宜、自動調整し常時、蛍光X線分析装置を高感度および高精度に維持するものではない。蛍光X線分析装置において、装置設置室の季節による室温の変化や装置の経時変化やX線管交換時の位置ずれなどの装置機構上の歪やずれにより、X線源からの一次X線の試料への照射位置や照射角度が最適な状態からずれると感度が低下し、分析精度も低下する。
【0008】
特に全反射蛍光X線分析装置では、X線源からの一次X線を分光素子で単色化したX線を例えば、0.05°〜0.25°で試料に照射し分析しているため、試料への照射位置や照射角度が少しでもずれると大幅に感度や分析精度が低下する。そのため、ウエハや試料溶液が点滴乾燥されたガラス基板のように試料高さが同一であっても、測定試料の入れ替え毎に試料台をモータ駆動によって調整し、照射位置や照射角度を最適条件に合わせている。また、万一、試料への照射位置や照射角度がずれ、感度が大幅に低下すると光学調整に熟練した者が手動で調整を行っている。
【0009】
また特許文献4などに記載されている複数のX線源を有し、分析目的に応じたX線源を選択使用する蛍光X線分析装置では、X線源を交換する毎に試料への照射位置や照射角度がずれていないか、測定者が確認をしながら分析を行っていたため、分析開始までに余分な時間を要していた。
【0010】
そこで本発明では、厚みが厚い試料、例えばOリングやパイプなどの種々の形状の試料に対応できる蛍光X線分析用の試料ホルダ、試料ホルダの当接面に当接する試料当接部、X線源位置調整手段、分光素子位置調整手段、分光素子角度調整手段などを備え、種々の形状の試料であっても、試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるようにX線源からの一次X線の照射位置を自動調整する斜入射蛍光X線分析装置および、さらにX線源位置調整手段、分光素子位置調整手段、分光素子角度調整手段のオフセット記憶手段を備え、適宜に、例えば、1週間に1度、1ヶ月に1度、X線源からの一次X線の照射位置および照射角度を自動調整することにより、光学調整の熟練者でなくても、常に短時間で高感度、高精度の分析が行える斜入射蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成にかかる試料ホルダは、 試料を所定の高さに配置するための試料当接部を有する蛍光X線分析装置用の試料ホルダであって、水平面である上面が前記試料当接部に当接する当接面を形成する環状の側部および底部を有する本体と、前記環状の側部の内側に水平に配置され、水平面である上面に試料が載置される試料載置台と、前記底部に下端部が固定され前記試料載置台を支持し、その高さを調整する少なくとも3個の高さ調整具とを有する。
【0012】
本発明の第1構成にかかる試料ホルダによれば、当接面と同じ高さであって、平面視で当接面に囲まれた面が試料の分析面として仮想される仮想分析面となり、高さ調整具により試料載置台を調整することにより、厚みが厚い試料の分析面をこの仮想分析面と同じ高さにすることができる。斜入射蛍光X線分析装置に使用すると、厚みが厚い試料であってもシリコンウエハの表面、シリコンウエハ上の不純物、ガラス基板の被膜、ガラス基板上に試料溶液が点滴乾燥された点滴乾燥痕などの試料厚みが極めて薄い平面状である試料と同様に、X線源からの一次X線の試料への照射位置および照射角度を調整することができる。
【0013】
本発明の第2構成にかかる試料ホルダは、試料を所定の高さに配置するための試料当接部を有する蛍光X線分析装置用の試料ホルダであって、水平面である上面が前記試料当接部に当接する当接面を形成する環状の側部および底部を有する本体と、前記底部の内面に下面が付着され、上面に試料の下面が付着される付着力を有する可塑性物とを有する。
【0014】
本発明の第2構成にかかる試料ホルダによれば、形が一定でない不定形の試料や厚みが厚い試料の分析面を付着力を有する可塑性物により、厚みが厚い試料の分析面を前記仮想分析面と同じ高さにすることができる。斜入射蛍光X線分析装置に使用すると、厚みが厚い試料であってもシリコンウエハの表面、シリコンウエハ上の不純物、ガラス基板の被膜、ガラス基板上に試料溶液が点滴乾燥された点滴乾燥痕などの試料厚みが極めて薄い平面状である試料と同様に、X線源からの一次X線の試料への照射位置および照射角度を調整することができる。
【0015】
本発明の第3構成にかかる斜入射蛍光X線分析装置は、第1構成または第2構成の試料ホルダと、前記試料当接部と前記試料当接部を保持する保持部とを有する当接手段と、前記試料ホルダの当接面を前記試料当接部に押圧する押圧手段と、X線源と、前記X線源から発生するX線を分光して所定の波長のX線を前記試料ホルダに載置された試料に照射する分光素子と、前記試料ホルダの当接面と前記当接手段の保持部の試料対向面との間隙において前記所定の波長のX線および試料で反射する反射X線を通過させるX線通路と、前記試料より発生する蛍光X線の強度を測定する検出器と、前記X線源の位置を調整するX線源位置調整手段と、前記分光素子の位置を調整する分光素子位置調整手段と、前記分光素子の回転角度を調整する分光素子角度調整手段と、前記検出器が測定する試料より発生する蛍光X線の強度に基づき、前記X線源位置調整手段、前記分光素子位置調整手段および前記分光素子角度調整手段を制御する制御手段とを備え、試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるように前記X線源からの一次X線の試料への照射位置を自動調整する。
【0016】
本発明における斜入射蛍光X線分析装置は、試料への一次X線の照射角(視射角ともいう)が6°以下、好ましくは2°以下であり、前記照射角が全反射臨界角である全反射蛍光X線分析装置を含んでいる。
【0017】
第3構成にかかる斜入射蛍光X線分析装置によれば、形が一定でない不定形の試料や厚みが厚い試料などの種々の形状の試料の分析面を試料ホルダの当接面と同じ高さである仮想分析面の高さにほぼ調整できる試料ホルダ、試料ホルダの当接面に当接する試料当接部、X線源位置調整手段、分光素子位置調整手段、分光素子角度調整手段などを備えているので、種々の形状の試料であっても、シリコンウエハの表面、ガラス基板の被膜、ガラス基板上に試料溶液が点滴乾燥された点滴乾燥痕などの試料厚みが極めて薄い平面状である試料と同様に、試料ホルダの当接面が試料当接部に当接され、試料の分析面が検出器の受光面に対し常にほぼ一定の面間距離に設定され、試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるようにX線源からの一次X線の照射位置の自動調整を短時間に精度良く行うことができる。
【0018】
本発明の第4構成にかかる斜入射蛍光X線分析装置は、第1構成または第2構成の試料ホルダと、前記試料当接部と前記試料当接部を保持する保持部とを有する当接手段と、X線源と、前記X線源からの一次X線の試料への照射位置および照射角度を自動調整するための基準となる基準基板の分析面または前記試料ホルダの当接面を前記試料当接部に押圧する押圧手段と、前記X線源から発生するX線を分光して所定の波長のX線を前記基準基板上の試料、または前記試料ホルダに載置された試料に照射する分光素子と、前記基準基板の分析面または前記試料ホルダの当接面と前記当接手段の保持部の試料対向面との間隙において前記所定の波長のX線および試料で反射する反射X線を通過させるX線通路と、試料より発生する蛍光X線の強度を測定する検出器と、分析条件を設定する分析条件設定手段とを備える斜入射蛍光X線分析装置であって、前記X線源の位置を調整するX線源位置調整手段と、前記分光素子の位置を調整する分光素子位置調整手段と、前記分光素子の回転角度を調整する分光素子角度調整手段とを備える。
【0019】
その上に、前記検出器が測定する試料より発生する蛍光X線の強度に基づき、前記X線源位置調整手段、前記分光素子位置調整手段および前記分光素子角度調整手段を制御する制御手段と、前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記X線源位置調整手段によって調整されたX線源位置と前記X線源の機構上の対応位置との距離をX線源位置原点に対するX線源オフセット距離として記憶し、前記記憶したX線源オフセット距離を前記分析条件設定手段に付与するX線源オフセット距離記憶手段と、前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記分光素子位置調整手段によって調整された分光素子位置と分光素子の機構上の対応位置との距離を分光素子位置原点に対する分光素子オフセット距離として記憶し、前記記憶した分光素子オフセット距離を前記分析条件設定手段に付与する分光素子オフセット距離記憶手段とを備える。
【0020】
さらに、前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記分光素子位置調整手段によって調整された分光素子位置と分光素子の機構上の対応位置との距離を分光素子位置原点に対する分光素子オフセット距離として記憶し、前記記憶した分光素子オフセット距離を前記分析条件設定手段に付与する分光素子オフセット距離記憶手段と、前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記分光素子角度調整手段によって調整された分光素子角度と分光素子の機構上の対応角度との角度差を基準平面に対する分光素子オフセット角度として記憶し、前記記憶した分光素子オフセット角度を前記分析条件設定手段に付与する分光素子オフセット角度記憶手段を備え、前記基準基板上の試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるように前記X線源からの一次X線の試料への照射位置および照射角度を自動調整する、または前記試料ホルダ上の試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるように前記X線源からの一次X線の試料への照射位置を自動調整する。
【0021】
第4構成にかかる斜入射蛍光X線分析装置によれば、第3構成にかかる斜入射蛍光X線分析装置に加え、さらにX線源位置調整手段、分光素子位置調整手段および分光素子角度調整手段のオフセット記憶手段を備えているので、第3構成の斜入射蛍光X線分析装置と同様の作用効果に加え、適宜に、例えば、1週間に1度、1ヶ月に1度、X線源からの一次X線の照射位置および照射角度をオフセット記憶手段によって付与されたオフセット量に基づき自動調整することにより、光学調整の熟練者でなくても、常に短時間で高感度、高精度の分析を行うことができる。
【0022】
より精密にX線源からの一次X線の前記試料への照射位置および照射角度を適宜に自動調整することができ、より高感度、高精度の分析を行うことができるように、臨界角算出手段とX線照射角度補正手段とを、さらに備えることが好ましい。
【0023】
本発明の第5構成にかかる斜入射蛍光X線分析装置は、第1構成または第2構成の試料ホルダと、前記試料当接部と前記試料当接部を保持する保持部とを有する当接手段と、複数のX線源と、前記複数のX線源の中から1つのX線源を選択する選択手段と、前記選択手段により選択されたX線源からの一次X線の試料への照射位置および照射角度を自動調整するための基準となる基準基板の分析面または前記試料ホルダの当接面を前記試料当接部に押圧する押圧手段と、前記選択手段により選択されたX線源から発生するX線を分光して所定の波長のX線を前記基準基板上の試料、または前記試料ホルダに載置された試料に照射する分光素子と、前記基準基板の分析面または前記試料ホルダの当接面と前記当接手段の保持部の試料対向面との間隙において前記所定の波長のX線および試料で反射する反射X線を通過させるX線通路と、試料より発生する蛍光X線の強度を測定する検出器と、分析条件を設定する分析条件設定手段とを備える斜入射蛍光X線分析装置であって、前記X線源の位置を調整するX線源位置調整手段と、前記分光素子の位置を調整する分光素子位置調整手段とを備える。
【0024】
その上に、前記分光素子の回転角度を調整する分光素子角度調整手段と、前記検出器が測定する試料より発生する蛍光X線の強度に基づき、前記X線源位置調整手段、前記分光素子位置調整手段および前記分光素子角度調整手段を制御する制御手段と、前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記X線源位置調整手段によって調整されたX線源位置と前記X線源の機構上の対応位置との距離をX線源位置原点に対するX線源オフセット距離として記憶し、前記記憶したX線源オフセット距離を前記分析条件設定手段に付与するX線源オフセット距離記憶手段と、前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記分光素子位置調整手段によって調整された分光素子位置と分光素子の機構上の対応位置との距離を分光素子位置原点に対する分光素子オフセット距離として記憶し、前記記憶した分光素子オフセット距離を前記分析条件設定手段に付与する分光素子オフセット距離記憶手段とを備える。
【0025】
さらに、前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記分光素子角度調整手段によって調整された分光素子角度と分光素子の機構上の対応角度との角度差を基準平面に対する分光素子オフセット角度として記憶し、前記記憶した分光素子オフセット角度を前記分析条件設定手段に付与する分光素子オフセット角度記憶手段を備え、前記基準基板上の試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるように前記X線源からの一次X線の試料への照射位置および照射角度を自動調整する、または前記試料ホルダ上の試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるように前記X線源からの一次X線の試料への照射位置を自動調整する。
【0026】
第5構成にかかる斜入射蛍光X線分析装置によれば、第4構成の斜入射蛍光X線分析装置と同様の作用効果が得られるとともに、分析目的に応じて複数のX線源の中から選択したX線源を使用するときでも、X線源を交換する毎に試料への照射位置や照射角度がずれていないか、測定者が確認することなく、試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるように、選択したX線源からの一次X線の前記試料への照射位置および照射角度を適宜に自動調整することができ、常に短時間で高感度、高精度の分析を行うことができる。
【0027】
より精密にX線源からの一次X線の前記試料への照射位置および照射角度を適宜に自動調整することができ、より高感度、高精度の分析を行うことができるように、臨界角算出手段とX線照射角度補正手段とを、さらに備えることが好ましい。
【0028】
第3〜第5構成の斜入射蛍光X線分析装置においては、X線源からの1次X線、基準基板で発生する蛍光X線および基準基板で反射する反射X線などが当接手段の当接部に照射され、その散乱X線がX線検出器に入射することがないように、当接手段の当接部が検出器の視野領域外に配置されていることが好ましい。基準基板の分析面が検出器の受光面に対し常に一定の面間距離に設定されるためには、1次X線の照射などによる雰囲気温度の変動による当接部の熱膨張の影響を最小限に抑える必要があり、そのために熱膨張の少ないセラミックス製であることが好ましい。また、試料中に含有する腐食性成分により当接部が腐食し、腐食物が基準基板や斜入射蛍光X線分析装置の測定部に付着することを防止するためにも、当接手段の当接部はセラミックス製であることが好ましく、セラミックスボールであることがより好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の第1実施形態の試料ホルダについて図1A、図1B、図1Cにしたがって説明する。図1Aに示すように、この試料ホルダ1は、水平面である上面が蛍光X線分析装置の試料当接部に当接する当接面を形成する正方環状の側部11および底部13で形成された本体18と、正方環状の側部11の内側に水平に配置され、水平面である上面に試料が載置される試料載置台14と、底部13に下端部142a(図1C参照)が固定され試料載置台14を支持し、その高さを調整する少なくとも3個の高さ調整具15とを有している。
【0030】
正方環状部101と底部13が一体のアルミニウムで形成され、正方環状部101の上部に水平な上面が当接面104を形成するステンレス製の正方環状板102が固定ねじ103によって固定されている。正方環状板102の外形寸法は、例えば横が100mm、縦が100mm、厚みが4mm、内形寸法は横が80mm、縦が80mmであり、一辺に幅40mm、深さ1mmの切欠き部105を有している。試料測定時には、この切欠き部105が一次X線の入射方向になるように試料台に配置される。正方環状部101と正方環状板102が正方環状の側部11を形成している。本体18の外形寸法は、例えば横が100mm、縦が100mm、高さが10mmである。
【0031】
正方環状板102の上面が当接面104として作用し、分析時に蛍光X線分析装置の試料当接部に当接することにより、試料ホルダ1が所定の高さに保持される。試料ホルダ1では当接面104と同じ高さであって、平面視で当接面104に囲まれた面が、前記した仮想分析面となる。試料ホルダ1の当接面104は研磨された平面度を有し、かつ、蛍光X線分析装置の試料当接部との当接を繰り返すことによって変形や磨耗を起こしにくい材質であり、また、酸などによって腐食しにくい材質のものが要求される。なお、本実施形態では正方環状部101と底部13を一体に形成したが、別体であってもよい。環状の側部を正方環状部101と正方環状板102に分けて別体に形成したが、一体であってもよい。
【0032】
図1BのI−I線断面図である図1Cが示すように、試料を載置する正方形のステンレス板である試料載置台14が4個の高さ調整具15によって支持され、4個の高さ調整具15が底部13に固定されている。4個の高さ調整具15は試料載置台14の正方形の四隅にそれぞれ設けられており、試料載置台14の正方形の四隅にそれぞれ設けられたねじ孔を貫通して底部13に下端部142aが固定された調節ねじ142、調節ねじ142が内側に挿入され、試料載置台14の下面と底部13の間に配置された圧縮コイルばね143、試料載置台14の上面で調節ねじ142に挿入された球面ワッシャ145、および球面ワッシャ145の上面に接して調節ねじ142と螺合したナット144で構成されている。ナット144を回転させることにより試料載置台14が上下に移動され、試料載置台14の高さが調整される。正方環状の側部11や調節ねじ142の長さを適宜選択することにより、種々の試料の形状に対応することができる。高さ調整具は4個に限らず、少なくとも3個あればよい。
【0033】
例えば、Oリングを試料として試料ホルダ1を使用する場合では、まず、Oリングのリング部分が試料載置台141のほぼ中心に位置するように載置し、四隅のそれぞれのナット144を回転させて、目視でOリングの上面が仮想分析面と面一になるように調節する。なお、試料が試料載置台141上で移動しないように両面粘着テープなどで保持してもよい。
【0034】
例えば同じ寸法規格のOリングを続けて分析する場合には、試料載置台141に載置されたOリングの分析面の高さは同じになるので、試料載置台141の高さを調整する必要はない。分析面の高さが異なる試料を分析する場合には、上記と同様にして試料の上面が仮想分析面と面一になるように調節する。
【0035】
第1実施形態の試料ホルダ1によれば、種々の形状の試料の分析面を仮想分析面に調整することができ、シリコンウエハの表面やガラス基板の被膜を試料とする蛍光X線分析と同様に、試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるようにX線源からの一次X線の照射位置を容易に自動調整することができる。
【0036】
本発明の第2実施形態の試料ホルダについて図2にしたがって説明する。図2に示すように、この試料ホルダ2は、水平面である上面が蛍光X線分析装置の試料当接部に当接する当接面204を形成する正方環状の側部21および底部23がアルミニウムで一体に形成された本体28と、底部23の内面23aに下面が付着され、上面に試料の下面が付着される付着力を有する可塑性物24とを有している。また、試料ホルダ1と同様に正方環状の側部21の上面の一辺に切欠き部206を有している。正方環状の側部21の上面が当接面204として作用し、分析時に蛍光X線分析装置の試料当接部に当接する。試料ホルダ2では当接面204と同じ高さであって、平面視で当接面204に囲まれた面が、前記した仮想分析面となる。
【0037】
正方環状の側部21の各面にはゲル粘土24に付着された試料を固定するための試料固定ねじ203用のねじ孔205が、例えば3箇所設けられている。ねじ孔205は1個でも複数個でもよく、試料の形状に応じて適宜選択すればよく、固定ねじ203はねじ孔205の全てに取り付ける必要はなく、試料の形状に応じて適宜選択すればよい。ゲル粘土24に付着された試料を固定するための方法として、前記固定ねじの先端に平板を備え、万力のように、この平板で試料を挟み込むようにしてもよい。正方環状の側部21の高さやゲル粘土24の量を適宜選択することにより、ガラス片や石英片などの種々の試料の形状に対応することができる。
【0038】
例えば、ガラス片を試料として試料ホルダ2を使用する場合では、まず、底部の内面23aのほぼ中心位置でゲル粘土24にガラス片の下面を付着させて目視でガラス片の上面が仮想分析面と面一になるように調節する。ゲル粘土は可塑性であるので、他の試料を分析する場合には、同じゲル粘土を使用してもよいし、前試料で使用したゲル粘土24を取除き新しいゲル粘土24に交換してもよい。どちらにしても前記と同様にして試料の上面が仮想分析面と面一になるように調節する。
【0039】
第2実施形態の試料ホルダ2によれば、分析面と付着面が平行でない試料など種々の形状の試料の分析面を仮想分析面に調整することができ、シリコンウエハの表面やガラス基板の被膜を試料とする全反射蛍光X線分析と同様に、試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるようにX線源からの一次X線の照射位置を容易に自動調整することができる。
【0040】
第1および第2実施形態の試料ホルダ1、2では、本体18、28が正方環状の側部と底部を有しているが、長方環状の側部と底部、円環状の側部と底部などを有してもよい。
【0041】
以下、本発明の第3実施形態の斜入射蛍光X線分析装置について図3および図4にしたがって説明する。図3に示すように、この斜入射蛍光X線分析装置6は銅X線管31および例えば累積多層膜で構成される分光素子33からなるX線源3と、測定部4と、制御部5とで構成されている。銅X線管31からのX線32を分光素子33でCu−Kα線に単色化した一次X線34を、試料ホルダ1に載置された試料Sに照射し、例えば半導体検出器(SSD、SDD、Si/PIN等)である検出器37が測定する試料Sより発生する蛍光X線の強度36に基づき、X線管位置調整手段55、分光素子位置調整手段57および分光素子角度調整手段58を制御する制御手段56を備える制御部5により、試料Sより発生する蛍光X線36の強度が最大になるようにX線源3からの一次X線の試料Sへの照射位置を自動調整し、試料Sに含有されている成分を定量・定性分析する。
【0042】
試料測定時には、図4の測定部4に示すように、押圧手段40が通過する押圧手段通過孔52を有する構造の試料台50に試料ホルダ1が載置されて、その試料ホルダ1の底部13が押圧手段40によって押圧され、試料ホルダ1のホルダ当接部の当接面104が、当接手段45の保持部46に保持されている試料当接部であるアルミナ製のセラミックスボール47に当接し、試料Sが所定の位置に設定される。試料ホルダ1の当接面104がセラミックスボール47に当接することにより、試料ホルダ1の当接面104と当接手段45の保持部46の試料対向面との間隙が、1次X線34および試料Sで反射する反射X線38のX線通路39となる。試料Sで反射された反射X線38は図4に示すように紙面の右側方向に進む。
【0043】
押圧手段40は、図4に示すように、押し付けブロック42の上に固定された弾性体である例えば、ゴムリング41と、押し付けブロック42およびピボット43とで構成されており、押し付けブロック42とピボット43とは嵌合している。押圧手段40は、試料ホルダ1の当接面104をセラミックスボール47に当接させるために上下に駆動し、試料ホルダ1の底部13の外面を押圧する。押圧手段40の上下駆動は図示しないステッピングモータ、歯車機構、駆動制御部などにより所定の位置に駆動制御される。
【0044】
ゴムリング41は試料ホルダ1の底部13の外面を押圧するときに、押圧手段40が当たるときの衝撃を緩和するとともに、試料ホルダ1の横すべりを防止し、試料ホルダ1を所定の位置に設定できるようにしている。弾性体であるゴムリング41は、板状ゴムや弾力性のある樹脂などで形成されたリング状や板状であってよい。ピボット43は、試料ホルダ1に横すべり方向の押圧力の負荷を防止するために押し付けブロック42と嵌合する構成にしているが、このような嵌め合い構造でなくとも、試料ホルダ1の横すべりを防止できる構造であればよい。
【0045】
図5の測定部4に示すように、当接手段45は、試料当接部であるセラミックスボール47と、セラミックスボール47を試料Sに対向する面46aから突出するように保持する保持部46とを有する。ステンレス製の保持部46に、例えばセラミックスボールである直径7mmのアルミナ製ボールが保持部46の試料対向面46aより2mm突出するように接着剤で固定されている。セラミックスボールの直径は2〜10mmが好ましく、保持部46の試料対向面46aよりの突出寸法は1〜2mmが好ましい。試料当接部はボール形状に限ったものではなく、円板形状、リング形状、円弧形状、矩形状などであってもよい。
【0046】
試料当接部は試料ホルダ1の当接面104と当接し、試料Sの分析面を検出器の受光素子37aの受光面に対し常に一定の平面高さに精度よく設定する必要があるが、アルミナは試料ホルダの当接面104との当接を繰り返すことによって変形や磨耗を起こさないので、試料当接部としては好ましい材質である。また、アルミナは腐食されにくいので、好ましい材質である。当接部のセラミックスはアルミナに限ったものではなく、他のセラミックスであってもよい。
【0047】
第3実施形態では、試料当接部47にセラミックスボールを用いたが、人工ダイヤモンドを用いるなど適宜構成することができる。
【0048】
検出器37は、受光素子37aの受光面が試料Sに対向するように、当接手段45の中心部を貫通して配置され、当接手段45の保持部46の上部で検出器保持具48により保持されている(図4参照)。当接手段45は図示しない保持機構によって保持されている。本実施形態では、検出器37を当接手段の保持部46で保持しているが、別体の保持具で保持してもよい。
【0049】
図5に示すように、検出器37は、受光部に入射X線を検知する受光素子37a、X線の入射開口である受光開口37cを有するコリメータ37b、受光素子37aやコリメータ37bを保持する胴部37dおよび受光開口37cに張られたベリリウム窓(図示なし)を備えている。検出器の受光素子37aの構造寸法、受光開口37cなどのコリメータ37bの構造寸法、受光開口37cの試料対向面と試料ホルダ1の仮想分析面との距離および受光素子37aの受光面と試料ホルダ1の仮想分析面との距離から、図5に示すように、視野線Aおよび視野線Bで囲まれた検出器37の視野領域Rを求めることができ、本実施形態では、受光素子37aの受光面は円形であり、受光開口37cは円柱型空間であり、視野領域Rは直径9mmの円形となる。
【0050】
また、試料ホルダ1の当接面104および試料Sの分析面と当接手段の保持部46の試料対向面との間隙は、X線源3(図3)からの1次X線34(図4)および当接面104と試料Sの分析面で反射する反射X線38(図4)を通過させるX線通路Lとなり、検出器37の試料Sへの対向面37eも当接手段の保持部46の試料対向面46aとほぼ同じ高さにあり、前記X線通路Lの一部を形成する。本実施形態では、X線通路Lは約2mmの極めて狭い間隙であり、検出器37の視野は試料ホルダ1の仮想分析面上の直径9mmの円(視野領域R)を底面とし視野線A、Bを稜線とする高さ約2mmの円錐台内であるので、散乱X線が検出器37に入射することはない。
【0051】
試料ホルダ1の試料Sに照射される1次X線34、試料Sおよび試料ホルダ1で反射される反射X線38および試料S上から発生する蛍光X線36などがセラミックスボール47に照射されるとセラミックスボール47からの散乱X線が発生する。このとき、試料当接部であるセラミックスボール47が視野領域内にあると、この散乱X線が検出器37に入射し、分析誤差を発生させる。そのため、本発明では当接部であるセラミックスボール47は図6(検出器保持具48より下部の平面を図示)に示すように検出器の視野領域Rの外に配置している。
【0052】
セラミックスボール47a〜47cは試料ホルダ1を安定に精度よく当接させるために、図6に示すように入射X線側に2個、反射X線側に1個を二等辺三角形の頂点位置に配置し3点支持している。また、後記する基準基板を3点支持するためのセラミックスボール47d〜47fをセラミックスボール47a〜47cの内側に、同様の二等辺三角形の配置にして、さらに備えている。このようにセラミックスボール47を配置すると入射X線はセラミックスボール47a、47b、47d、47eに当たらないが、反射X線38はセラミックスボール47fに当たる。しかし、セラミックスボール47a〜47fが検出器の視野領域Rの外に配置されているので、反射X線38による散乱X線は検出器に入射することはない。本実施形態では、3個のセラミックスボールを二等辺三角形の頂点位置に配置したが、正三角形や不等辺三角形の頂点位置に配置してもよい。また、セラミックスボール47a〜47fのいずれもが入射X線および反射X線に当たらない配置にしてもよい。
【0053】
次に、図3に示す制御部5について説明する。X線源位置調整手段であるX線管位置調整手段55は制御手段56からの電気信号により、例えばパルスモータ、パルスモータ駆動回路、ボールねじ機構(ラックアンドピニオン機構でもよい)などで銅X線管31をX線源位置原点から直線移動させる位置調整手段である。分光素子位置調整手段57は制御手段56からの電気信号により、例えばパルスモータ、パルスモータ駆動回路、ボールねじ機構などで分光素子33を分光素子位置原点から直線移動させる位置調整手段である。分光素子33は、分光素子の反射面上にあって分光素子への入射X線軸と直角に交わる回転軸138を中心として回転する。分光素子角度調整手段58は制御手段56からの電気信号により、例えばパルスモータ、パルスモータ駆動回路、ギヤ機構などで分光素子33を基準平面から回転させる回転調整手段である。
【0054】
制御手段56は、例えばコンピュータで構成され、検出器37が測定する蛍光X線強度に基づき、各調整手段55、57、58のパルスモータ駆動回路に銅X線管31の制御位置および分光素子33の制御位置と制御角度に応じた制御パルス信号を送り、銅X線管31の制御位置および分光素子33の制御位置と制御角度を制御する。
【0055】
次に、第3実施形態の斜入射蛍光X線分析装置6における各部の幾何学的な位置関係について説明する。
【0056】
図7に示すように、基準平面160は試料ホルダ1の当接面104および仮想分析面を含む平面である。銅X線管31からの一次X線32を分光素子33でCu−Kα線に単色化した一次X線34の試料へのX線照射位置162は、銅X線管31が基準平面160に垂直に移動するX線管移動直線軸111と基準平面160との第1交点112と、分光素子33が基準平面160に垂直に移動する分光素子移動直線軸131と基準平面160との第2交点132とを結ぶ直線161上になるように構成されている。第1交点112はX線源位置原点112であり、第2交点132は分光素子位置原点132である。
【0057】
試料Sへの照射位置162と分光素子位置原点132との距離をL1、X線発生点113から分光素子移動直線軸131へ下ろした垂線の足(以下、第3交点)134とX線発生点113との距離をL2、入射点133(分光素子位置)と分光素子位置原点132との距離をS、分光素子位置原点132と第3交点134との距離をTとし、一次X線34が試料の照射面に照射する照射角である直線161と一次X線34との角度をφ、分光素子33の反射面136と基準平面160とのなす角度を分光素子33の回転角度Ωとする。銅X線管31からの一次X線32の分光素子33への視射角、すなわち分光素子で単色化される回折X線34の回折角をθとする。
【0058】
分光素子位置原点132と第3交点134との距離Tは、銅X線管11のX線発生点(銅X線管位置)113とX線源位置原点112との距離と同一距離であり、X線管位置調整手段55によって調整された銅X線管位置113とX線源位置原点112との距離である。
【0059】
図7において、式1〜3の関係が成立する。
【0060】
T=L2tan(2θ−φ)−L1tanφ ・・・(1)
【0061】
S=L1tanφ ・・・(2)
【0062】
Ω=θ−φ ・・・(3)
【0063】
式1〜3を用いて、一次X線34の試料Sへの照射角度φを変化させるための銅X線管31と分光素子33の動作について説明する。回折角θは分光素子33のd値と回折X線であるCu−Kα線34の波長によって定まる一定角度であり、L1とL2の距離は斜入射蛍光X線分析装置6の固定距離である、つまり、3つの式1〜3において未知数はT、S、φ、Ωの4つであるから、所望のφを既知数とすれば、T、S、Ωは一義的に求められる。したがって、銅X線管31と分光素子33とを位置調整手段55、57により直線移動させてT、Sを適切に変化させ、かつ分光素子角度調整手段58で分光素子回転角度Ωを適切に変化させることにより、照射位置を変化させずに照射角度φを所望の角度に変えることができる。
【0064】
次に、第3実施形態の斜入射蛍光X線分析装置6に、例えばOリングを試料として試料ホルダ1を使用する場合の動作について図8のフロー図を用いて説明する。ステップS1の試料ホルダ1の試料高さの仮想分析面への調整、ステップS2の試料ホルダ1の配置およびステップS3の自動調整の選択は測定者が操作し、斜入射蛍光X線分析装置6はステップS4より自動的に動作する。ステップS1では、Oリングのリング部分が試料載置台14のほぼ中心に位置するように載置し、四隅のそれぞれのナット144を回転させて、目視でOリングの上面が仮想分析面と面一になるように調節する(図1A、B参照)。ステップS2では、Oリングが載置された試料ホルダ1の切欠き部105が一次X線の入射方向になるように試料台50にセットする。ステップS3では、X線源3からの一次X線34の試料Sへの照射位置の自動調整を選択する。
【0065】
ステップS4で測定を開始すると、駆動制御部によって駆動された押圧手段40が試料台50の押圧手段通過孔52を通過し、試料台50にセットされた試料ホルダ1の底部13の下面を押圧しながら試料ホルダの当接面104をセラミックスボール47に当接すると押圧手段40を駆動しているステッピングモータが停止し、試料ホルダ1が所定の位置に配置され、その位置で保持される。試料ホルダ1が所定の位置に保持されると、試料Sの分析面が受光素子37aの受光面に対し常にほぼ一定の平面高さに設定される。
【0066】
ステップS5では、各調整手段55、57、58により、例えば一次X線34の試料Sへの照射位置は試料Sの初期設定されている中心位置近辺に、照射角度は例えば、0.05°に設定される。照射角度は、0.05°、0.10°、0.20°、2°などの任意の角度に設定することができる。ステップS6では、銅X線管31からのX線32を、Cu−Kα線に単色化する回折角度と位置に設定している分光素子33に入射させ、試料Sに単色化されたCu−Kα線34の照射を開始する。ステップS7では、照射したCu−Kα線によって試料S中に含有されるクロムが励起されて発生する蛍光X線であるCr−Kα線36を検出器である、例えばSSD37で測定を開始する。
【0067】
ステップS8では、X線管位置調整手段55と分光素子位置調整手段57を制御手段56で制御することにより銅X線管31と分光素子33とを同時に同一距離を、設定されている位置を中心に直線平行進退移動させ、SSD37で測定するCr−Kα線36の強度が最大になる位置に調整する。この銅X線管31と分光素子33との直線平行進退移動により試料SへのCu−Kα線の照射位置を調整する。
【0068】
ステップS9では、X線管位置調整手段55で銅X線管31をX線管移動直線軸111に沿ってステップS8で調整された位置を中心に進退移動させ、SSD37で測定するCr−Kα線36の強度が最大になる銅X線管31の位置に調整する。
【0069】
ステップS11では、ステップS8〜S9を二巡したか、否かを判定し、YESならばステップS12へ進み、試料Sを測定する。NOならばステップS8へ戻る。測定が終了すると押圧手段40を駆動しているステッピングモータが回転を始め、押圧手段40が下降し、試料ホルダ1が試料台50に収容される。順次、同様の操作で分析目的個数の試料の分析を行う。引き続き試料測定を行わない場合には、斜入射蛍光X線分析装置6の動作が終了し、ステップS6、S7の試料SへのX線照射と蛍光X線測定も終了する。本実施形態では、ステップS8〜S9を二巡したが、一巡でも、三巡でもよく、適切な巡回回数であればよい。
【0070】
以上のように、第3実施形態の装置によれば、図4に示す中心線C上の近傍に検出器の受光素子37aの受光面の中心、試料Sの中心および押圧手段のピボット43の軸心が位置するように配置され、試料ホルダ1が所定の位置に設定され、また押圧手段40によって押圧された試料ホルダ1の当接面104がセラミックスボール47に当接することにより、試料Sの分析面が常にほぼ一定の高さに設定される。
【0071】
このように形が一定でない不定形の試料や厚みが厚い試料などの種々の形状の試料Sの分析面を試料ホルダ1の仮想分析面とほぼ同じ高さに調整できる試料ホルダ1、試料ホルダの当接面104に当接する試料当接部47、X線源位置調整手段55、分光素子位置調整手段57、分光素子角度調整手段58などを備えているので、種々の形状の試料Sであっても、シリコンウエハ表面、ガラス基板の被膜、ガラス基板上に試料溶液が点滴乾燥された点滴乾燥痕などの試料厚みは極めて薄い平面状である試料と同様に、試料ホルダ1の当接面104が試料当接部47に当接され、試料Sの分析面が検出器37の受光面に対し常にほぼ一定の面間距離に設定され、試料Sより発生する蛍光X線36の強度が最大になるようにX線源3からの一次X線34の照射位置の自動調整を短時間に精度良く行うことができる。
【0072】
なお、X線源3としては、分析目的に応じてタングステン、銅、クロム、モリブデン、白金、ロジウム、パラジウムなどのX線管やロータターゲットX線管などを用い、分光素子33は、例えば、LiF、ゲルマニウム、グラファイトなどの結晶や累積多層膜などを用いるなど適宜構成することができる。
【0073】
第4実施形態の斜入射蛍光X線分析装置について説明する。第4実施形態の斜入射蛍光X線分析装置7は図9に示すように、第3実施形態の斜入射蛍光X線分析装置6にさらに、X線源オフセット距離記憶手段であるX線管オフセット距離記憶手段61、分光素子オフセット距離記憶手段62、分光素子オフセット角度記憶手段63、分析条件設定手段60、基準基板70および基準基板70を載置する試料ターレット80を有する。第3実施形態の斜入射蛍光X線分析装置6の試料台50の上方に、図10A、10Bに示す試料ターレット80を備えている。円板状の試料ターレット80は基板載置台83に基板載置溝81と押圧手段通過孔82を円周方向に16個有しており、基準基板70および試料基板であるガラス基板を16個載置でき、図示しない試料ターレット制御部により第1試料の測定が終了すると試料ターレット80が円周方向に回転し、第2試料を測定位置に設定し逐次、載置された試料を測定位置に設定する。基準基板70の分析面はX線源3からの一次X線34の試料Sへの照射位置および照射角度を自動調整するための基準平面160(図7参照)となる。
【0074】
図9において、X線管オフセット距離記憶手段61は、X線管位置調整手段55によって調整されたX線管位置とX線管の機構上の対応位置との距離差をX線管位置原点に対しX線管オフセット距離として記憶し、記憶したX線管オフセット距離を分析条件設定手段60に付与する。分光素子オフセット距離記憶手段62は、分光素子位置調整手段57によって調整された分光素子位置と分光素子の機構上の対応位置との距離差を分光素子位置原点に対する分光素子オフセット距離として記憶し、記憶した分光素子オフセット距離を分析条件設定手段60に付与する。分光素子オフセット角度記憶手段63は、分光素子角度調整手段58によって調整された分光素子回転角度と分光素子の機構上の対応角度との角度差を基準基板の分析面を含む平面である基準平面160に対する分光素子オフセット角度として記憶し、記憶した分光素子オフセット角度を分析条件設定手段60に付与する。X線管位置記憶手段61、分光素子オフセット距離記憶手段62および分光素子オフセット角度記憶手段63は、例えばコンピュータで構成される。
【0075】
分析条件設定手段60は各記憶手段61、62,63からに付与されたX線管オフセット距離、分光素子オフセット距離および分光素子オフセット角度に基づき、基準基板上の試料Sへの一次X線34の照射位置および照射角度を設定することにより、基準基板上の試料Sより発生する蛍光X線36の強度が最大になるように、銅X線管31からのX線32を分光素子33でCu−Kα線に単色化した一次X線34の基準基板上の試料Sへの照射位置および照射角度を自動調整する。
【0076】
第4実施形態の斜入射蛍光X線分析装置7における各部の幾何学的な位置関係は、第3実施形態の斜入射蛍光X線分析装置6と同様である。
【0077】
前記の式1〜3のT、S、Ωで表される銅X線管位置113、分光素子位置133、分光素子回転角度は、装置設計によって理論的に求められた装置機構上の位置と角度である。しかし、実際の装置においては、製作誤差もあり、また装置設置室の季節による室温の変化や装置の経時変化などのより装置機構上の歪やずれも発生する。それらが各調整手段55、57、58によって調整される位置および角度と機構上の対応位置および角度との差となる。この差が各原点位置112、132と基準平面160に対するオフセット距離とオフセット角度である。
【0078】
したがって、実際の装置では、式1〜3はオフセットt、s、ωを有する式4〜6となる。
【0079】
T=L2tan(2θ−φ)−L1tanφ+t ・・・(4)
【0080】
S=L1tanφ+s ・・・(5)
【0081】
Ω=θ−φ+ω ・・・(6)
【0082】
第4実施形態の斜入射蛍光X線分析装置7は、第3実施形態の斜入射蛍光X線分析装置6にさらに、X線管オフセット距離記憶手段61、分光素子オフセット距離記憶手段62、分光素子オフセット角度記憶手段63、分析条件設定手段60、基準基板70および試料ターレット80を有する装置であるので、図11のフロー図を用いて、この斜入射蛍光X線分析装置7の動作において、各調整手段55、56、57が各オフセットを記憶するステップを説明する。
【0083】
ステップS2Aの基準基板70の配置とステップS3の光軸自動調整の選択は測定者が操作し、斜入射蛍光X線分析装置7はステップS4Aより自動的に動作する。ステップS2Aでは、例えば、クロムを含有する溶液試料をマイクロピペットで50μl採取し、ガラス基板上に点滴乾燥して試料とし、光軸自動調整用の基準基板70として試料ターレット80の試料載置溝81に配置する。ステップS3では、X線源3からの一次X線34の基準基板70上の試料Sへの照射位置および照射角度の自動調整を選択する。
【0084】
ステップS4Aで測定を開始すると、駆動制御部によって駆動された押圧手段40が試料台50の押圧手段通過孔52を通過し、試料ターレット80の試料載置溝81にセットされた基準基板70の下面を押圧しながら基準基板70の分析面をセラミックスボール47に当接すると押圧手段40を駆動しているステッピングモータが停止し、基準基板70が所定の位置に配置され、その位置で保持される。基準基板70が所定の位置に保持されると、基準基板70の分析面が受光素子37aの受光面(図5参照)に対し常に一定の平面高さに設定される。ステップS5〜S9は、第3実施形態の装置の図8のフロー図と同じステップで進行する。
【0085】
ステップS10では、ステップS5で0.05°に設定された照射角度を調整する。前記したように、式1〜3の関係により銅X線管31と分光素子33とを位置調整手段55、57により直線移動させてT、Sを変化させ、分光素子角度調整手段58で分光素子回転角度Ωを変化させることにより、照射位置を変化させずに所望の照射角度φに設定することができる。そこで、設定された0.05°を中心に0.005°ステップで照射角度φが変化するように、位置調整手段55、57および分光素子角度調整手段58によりT、S、Ωを変化させ、Cr−Kα線36の強度が最大になる照射角度φに調整する。照射角度φは0.01°ステップで変化させてもよい。
【0086】
ステップS11Aでは、ステップS8〜S10を二巡したか、否かを判定し、YESならばステップS13へ進み、試料Sを測定する。NOならばステップS8へ戻る。測定が終了すると押圧手段40を駆動しているステッピングモータが回転を始め、押圧手段40が下降し、試料ホルダ1が試料台50に収容される。順次、同様の操作で分析目的個数の試料の分析を行う。引き続き試料測定を行わない場合には、斜入射蛍光X線分析装置6の動作が終了し、ステップS6、S7の試料SへのX線照射と蛍光X線測定も終了する。本実施形態では、ステップS8〜S10を二巡したが、一巡でも、三巡でもよく、適切な巡回回数であればよい。
【0087】
ステップS13では、ステップS11AのYES判定までで調整された銅X線管位置113と機構上の対応位置との距離をX線管位置原点に対するX線管オフセット距離tとしてX線管オフセット距離記憶手段61に記憶する。また、ステップS11AのYES判定までで、調整された分光素子位置133と機構上の対応位置との距離を分光素子位置原点に対する分光素子オフセット距離sとして分光素子位置記憶手段62に記憶する。さらに、ステップS11AのYES判定までで、調整された分光素子回転角度Ωと分光素子の機構上の対応角度との角度差を基準平面160に対する分光素子オフセット角度ωとして分光素子角度記憶手段63に記憶する。
【0088】
次に、第4実施形態の斜入射蛍光X線分析装置7の動作における未知試料測定時の試料へのX線照射位置と照射角度の自動調整について、図12のフロー図を用いて説明する。ステップS1〜S4は、図8と同様のステップであり、試料が載置された試料ホルダ1が測定位置に配置される。ステップS14では、分析条件設定手段60で分析目的の分析条件を選択する。ステップS15では、各記憶手段61、62、63がステップS13で記憶した各オフセット量t、s、ωを分析条件設定手段60に付与する。ステップS16では、分析条件設定手段60に付与された各オフセット量に基づき、各調整手段55、57、58のパルスモータ駆動回路、パルスモータ、ボールねじなどの機構部が制御され、銅X線管31の位置ならびに分光素子33の位置および回転角度が設定される。ステップS17、18、19では、図8のステップS8、9、11と同様にして銅X線管31および分光素子33を進退移動させてCr−Kα線36の強度が最大になる位置に調整する。
【0089】
その他の分析条件もステップS14で分析条件設定手段60により設定されている。ステップS17では、ステップS4で配置された試料ホルダ1の試料Sを測定する。試料Sの測定が終了すると斜入射蛍光X線分析装置7の動作も終了し、ステップS6、S7の試料SへのX線照射と蛍光X線測定も終了する。引き続き未知試料測定を行わない場合には、斜入射蛍光X線分析装置7の動作が終了し、ステップS6、S7の試料SへのX線照射と蛍光X線測定も終了する。
【0090】
第4実施形態の装置によれば、第3の実施形態の装置の作用効果に加え、装置設置室の温度変化や装置の経時変化などによる装置機構上の歪やずれが発生していても、試料Sより発生する蛍光X線36の強度が最大になるように装置の機構上のずれを補正するオフセット量が自動的に求められ、そのオフセット量に基づき、X線源3からの一次X線34の試料Sへの照射位置および照射角度が自動設定されるので、光学調整の熟練者がいなくても光軸自動調整を適宜に行えばよく、例えば、1週間に1度、1ヶ月に1度行えば、常に短時間で高感度、高精度の分析を行うことができる。
【0091】
第4の実施形態では、基準基板70に26mm×76mm×1.5mmの矩形状のガラス基板を用いたが、幅10〜30mm、長さ40〜80mm、厚み0.5〜5mmの矩形状のものや直径20〜50mmの円板状のものであってもよい。また、ガラス基板に限らず、シリコン基板を用いてもよいし、点滴量も50μlに限らず、10〜100μl程度の量であればよい。照射角度の設定は0.05°に限らず、照射する特性X線のエネルギにより適宜選択すればよく、Mo−Kα線の場合には、0.10°が好ましい。分析条件設定手段60のパルスモータ駆動回路、パルスモータ、ボールねじなどの機構部に各調整手段55、57、58の機構部を用いたが、それぞれ独立していてもよい。
【0092】
第5実施形態の斜入射蛍光X線分析装置について、以下に説明する。図13に示すように、第5実施形態の斜入射蛍光X線分析装置8は第4実施形態の斜入射蛍光X線分析装置7に、さらに基準基板70へのX線照射角度と基準基板70より発生する蛍光X線36の強度とを演算することにより、X線照射角度の臨界角を算出する臨界角算出手段65と、臨界角算出手段65により算出する臨界角に基づき、試料SへのX線照射角度を補正するX線照射角度補正手段66とを備えている。
【0093】
臨界角算出手段65は、各X線照射角度において基準基板70から発生する蛍光X線36の強度を検出器37で測定し、X線照射角度に対する蛍光X線強度変化の勾配が最大になるX線照射角度を演算することによりX線照射角度の臨界角を算出する。より具体的には、X線管位置調整手段55、分光素子位置調整手段57および分光素子角度調整手段58を駆動し、基準基板70へのX線照射角度を、0°から例えば0.005°ステップで順次変化させながら各X線照射角度に対応するガラス基板である基準基板70から発生する蛍光X線Si―Kα線36の強度を検出器37で測定し、X線照射角度に対するSi―Kα線の強度変化の勾配が最大になるX線照射角度を演算することによりX線照射角度の臨界角を算出する。
【0094】
X線照射角度補正手段66は、臨界角算出手段65によって算出する臨界角と、ガラス基板である基準基板70の屈折率および一次X線34のエネルギに基づき計算される理論臨界角との差を基準平面160(図7参照)に対する照射角オフセット角度として、X線照射角度φ(図7参照)を補正する。
【0095】
第5実施形態の斜入射蛍光X線分析装置8の動作について説明する。斜入射蛍光X線分析装置8は、まず図14に示すフロー図のステップの順に動作する。ステップS10とS11Bの間にあるステップSA1およびSA2が前記の図11のフロー図と異なっているので、この2つのステップSA1およびSA2について説明する。
【0096】
ステップSA1では、前記した第4実施形態のステップS8と同様に基準基板70へのX線照射角度を変えながら臨界角算出手段65を用いて基準基板70へのX線照射角度の臨界角を算出する。X線管位置調整手段55、分光素子位置調整手段57および分光素子角度調整手段58を駆動し、基準基板70へのX線照射角度を、0°から例えば0.005°ステップで順次変化させながら各X線照射角度に対応する基準基板70から発生する蛍光X線Si―Kα線36の強度を検出器37で測定し、X線照射角度に対するSi―Kα線36の強度変化の勾配が最大になるX線照射角度を演算することによりX線照射角度の臨界角を算出する。X線照射角度を変化させると、基準基板70から発生するSi―Kα線36の強度が変化し、図15に示すような曲線になるので、Si―Kα線の強度変化の勾配が最大になるX線照射角度を臨界角算出手段65で算出する。算出されるX線照射角度は例えば0.22°であり、このX線照射角度が臨界角である。
【0097】
ステップSA2では、ステップSA1で算出された臨界角に基づき、X線照射角度補正手段66により、試料SへのX線照射角度φを補正する。X線照射角度補正手段66は、例えば第5実施形態で使用する基準基板70であるガラス基板の屈折率や基準基板70へ照射する特性X線であるCu−Kα線36のエネルギより演算された理論臨界角を記憶しており、この記憶している理論臨界角と臨界角算出手段65によって算出した臨界角との角度差を基準平面160(図7参照)に対する照射角オフセット角度として記憶し、この記憶した照射角オフセット角度に基づいて、自動調整時に設定されたX線照射角度である0.05°に再設定し、X線照射角度を補正する。X線照射角度補正手段66には、シリコン基板やCr−Kα線、Mo−Kα線などの他の特性X線により演算された理論臨界角も記憶されており、これらの基板や特性X線を用いた場合も同様にX線照射角度を補正する。
【0098】
第5実施形態の斜入射蛍光X線分析装置8の動作において、未知試料測定時の試料へのX線照射位置と照射角度の自動調整は、前記の第4実施形態の図12のステップと同一である。
【0099】
第5実施形態の斜入射蛍光X線分析装置8によれば、第4実施形態の斜入射蛍光X線分析装置7に加え臨界角算出手段65とX線照射角度補正手段66とを備えているので、第4実施形態の作用効果に加え、臨界角算出手段65によって算出した臨界角を用いてX線照射角度をX線照射角度補正手段66によって補正し再設定して、より精密に銅X線管31からの照射X線34の試料Sへの照射位置および照射角度を自動調整することができ、より高感度、高精度の分析を行うことができる。
【0100】
次に、第6実施形態である斜入射蛍光X線分析装置について説明する。図16に示すように、この斜入射蛍光X線分析装置9は、前記の第4実施形態の斜入射蛍光X線分析装置7に加え、さらに、銅X線管31と、モリブデンX線管91のどちらかのX線管を選択する選択手段92とを備える。
【0101】
複数のX線管である銅X線管31とモリブデンX線管91は、選択手段92のX線管交換部である取り付け板に取り付けられている。測定者の選択によって銅X線管31が選択され選択手段が作動すると、パルスモータ駆動回路、パルスモータ、ボールねじなどが駆動制御され、X線管取り付け板が移動し、選択された銅X線管31が測定位置に設定される。選択手段のパルスモータ駆動回路、パルスモータ、ボールねじなどの駆動部はX線管位置調整手段の駆動部と同じものを用いるのが好ましい。
【0102】
第6実施形態の斜入射蛍光X線分析装置9の動作について説明する。斜入射蛍光X線分析装置9は、まず図17に示すフロー図のステップの順に動作する。ステップS2AとS4Aの間にあるステップSB1およびSB2が前記の図11のフロー図と異なっているので、この2つのステップSB1およびSB2について説明する。
【0103】
ステップSB1では、使用する銅X線管31が選択手段92によって選択されると、選択手段92の選択制御部によってX線管交換部である取り付け板がパルスモータ駆動回路、パルスモータ、ボールねじなどによって駆動制御され、X線管取り付け板が移動し、選択された銅X線管31が測定位置に設定され、選択手段の制御部が分光素子位置調整手段57と分光素子角度調整手段58のパルスモータ駆動回路、パルスモータ、ボールねじなどの機構部を駆動制御し、分光素子33をCr−Kα線の測定角度に設定し、自動的に次のステップSB2に進行する。ステップSB2では、X線源3からの一次X線34の試料Sへの照射位置および照射角度の自動調整が自動的に選択される。
【0104】
モリブデンX線管91に交換する場合、図17に示すフロー図のステップSB1でモリブデンX線管91を選択すると、前記の銅X線管31と同様にしてモリブデンX線管91の測定位置および測定角度に設定され、自動的にステップSB2に進行する。ステップSB2では、X線源3からの一次X線34の試料Sへの照射位置および照射角度の自動調整が自動的に選択される。
【0105】
前記では、ステップSB1が終了するとステップSB2に自動的に進行し、ステップSB2で自動的にX線照射位置および照射角度の自動調整を選択したが、ステップSB2は、オペレータのマニュアル操作にしてもよい。ステップSB2をマニュアル操作にすることによって、ステップSB1の終了後すぐにステップS17(図12参照)で試料測定を開始することもできる。
【0106】
第6実施形態の斜入射蛍光X線分析装置9の動作において、未知試料測定時の試料へのX線照射位置と照射角度の自動調整は、前記の第4実施形態の図12のステップと同一である。
【0107】
第6実施形態の斜入射蛍光X線分析装置9によれば、第4実施形態の斜入射蛍光X線分析装置と同様の作用効果が得られるとともに、分析目的に応じて複数のX線管31、91の中から選択したX線管31または91を使用するときでも、X線管31または91を交換する毎に試料SへのX線照射位置や照射角度がずれていないか、測定者が確認することなく、試料Sより発生する蛍光X線36の強度が最大になるように、選択したX線管31または91を含むX線源3からの一次X線34の試料SへのX線照射位置および照射角度が自動設定されるので、常に短時間で高感度、高精度の分析を行うことができる。
【0108】
第6実施形態の斜入射蛍光X線分析装置9おいては、銅X線管31とモリブデンX線管91のどちらかのX線管を選択する選択手段92を備えているが、例えば、これらのX線管に加え、さらにタングステンX線管やクロムX線管を備え、その中から使用するX線管を選択するようにしてもよい。
【0109】
次に、第7実施形態である斜入射蛍光X線分析装置について説明する。図18に示すように、斜入射蛍光X線分析装置10は、前記の第6実施形態の斜入射蛍光X線分析装置9に加え、さらに、基準基板70へのX線照射角度と基準基板70より発生する蛍光X線36の強度とを演算することにより、X線照射角度φの臨界角を算出する臨界角算出手段65と、臨界角算出手段65により算出する臨界角に基づき、試料SへのX線照射角度を補正するX線照射角度補正手段66とを備えている。
【0110】
第7実施形態の斜入射蛍光X線分析装置10の動作について説明する。斜入射蛍光X線分析装置10は、まず図19に示すフロー図のステップの順に動作する。ステップS2A〜S10は前記の図17と同じステップであり、ステップSA1〜S13は前記の図14と同じステップである。
【0111】
第7実施形態の斜入射蛍光X線分析装置10の動作において、未知試料測定時の試料へのX線照射位置と照射角度の自動調整は、前記の第4実施形態の図12のステップと同一である。
【0112】
第7実施形態の斜入射蛍光X線分析装置10によれば、第6実施形態の斜入射蛍光X線分析装置9に加え臨界角算出手段65とX線照射角度補正手段66とを備えているので、第6実施形態の作用効果に加え、複数のX線管31、91から選択したX線管31または91を使用するときでもX線管31または91を交換する毎に、臨界角算出手段65によって算出した臨界角を用いてX線照射角度をX線照射角度補正手段66によって補正し再設定することにより、より精密に選択したX線管31または91からの照射X線34の試料Sへの照射位置および照射角度を自動調整することができ、より高感度、高精度の分析を行うことができる。
【0113】
前記した第3〜第7実施形態の斜入射蛍光X線分析装置では試料ホルダ1を備えているが、試料ホルダ1に替えて試料ホルダ2を備えてもよく、同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1A】本発明の第1実施形態の試料ホルダの斜視図である。
【図1B】同試料ホルダの上面図である。
【図1C】図1BのI−I線断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態の試料ホルダの概略斜視図である。
【図3】本発明の第3実施形態の斜入射蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【図4】同上の分析装置の測定部を示す概略図である。
【図5】同上の分析装置の測定部の正面断面図である。
【図6】同上の分析装置の測定部の検出器保持部から下部の平面図である。
【図7】同上の分析装置のX線源位置、分光素子位置および角度調整の基本動作説明図である。
【図8】同上の分析装置の一次X線の試料への照射位置および照射角度を自動調整するステップ動作フロー図である。
【図9】本発明の第4実施形態の斜入射蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【図10A】同上の分析装置の試料ターレットの平面図である。
【図10B】同上の分析装置の図10AのII−II線断面図である。
【図11】同上の分析装置のオフセット量を記憶するステップ動作フロー図である。
【図12】同上の分析装置の未知試料測定時の動作フロー図である。
【図13】本発明の第5実施形態の斜入射蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【図14】同上の分析装置のオフセット量を記憶するステップ動作フロー図である。
【図15】同上の分析装置での臨界角の説明図である。
【図16】本発明の第6実施形態の斜入射蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【図17】同上の分析装置のオフセット量を記憶するステップ動作フロー図である。
【図18】本発明の第7実施形態の斜入射蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【図19】同上の分析装置のオフセット量を記憶するステップ動作フロー図である。
【符号の説明】
【0115】
1、2 試料ホルダ
3 X線源
4 測定部
6、7、8、9、10 斜入射蛍光X線分析装置
11、21 環状の側部
13、23 底部
14 試料載置台
15 高さ調整具
18、28 本体
24 ゲル粘土(付着力を有する可塑性物)
33 分光素子
32 X線
34 1次X線
36 蛍光X線
37 検出器
38 反射X線
40 押圧手段
45 当接手段
46 保持部
47 試料当接部(セラミックスボール)
55 X線管位置調整手段
56 制御手段
57 分光素子位置調整手段
58 分光素子角度調整手段
60 分析条件設定手段
61 X線管オフセット距離記憶手段
62 分光素子オフセット距離記憶手段
63 分光素子オフセット角度記憶手段
65 臨界角算出手段
70 基準基板
92 選択手段
104、204 当接面
L X線通路
R 検出器の視野領域
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を所定の高さに配置するための試料当接部を有する蛍光X線分析装置用の試料ホルダであって、
水平面である上面が前記試料当接部に当接する当接面を形成する環状の側部および底部を有する本体と、
前記環状の側部の内側に水平に配置され、水平面である上面に試料が載置される試料載置台と、
前記底部に下端部が固定され前記試料載置台を支持し、その高さを調整する少なくとも3個の高さ調整具と、
を有する試料ホルダ。
【請求項2】
試料を所定の高さに配置するための試料当接部を有する蛍光X線分析装置用の試料ホルダであって、
水平面である上面が前記試料当接部に当接する当接面を形成する環状の側部および底部を有する本体と、
前記底部の内面に下面が付着され、上面に試料の下面が付着される付着力を有する可塑性物と、
を有する試料ホルダ。
【請求項3】
請求項1または2に記載された試料ホルダと、
前記試料当接部と前記試料当接部を保持する保持部とを有する当接手段と、
前記試料ホルダの当接面を前記試料当接部に押圧する押圧手段と、
X線源と、
前記X線源から発生するX線を分光して所定の波長のX線を前記試料ホルダに載置された試料に照射する分光素子と、
前記試料ホルダの当接面と前記当接手段の保持部の試料対向面との間隙において前記所定の波長のX線および試料で反射する反射X線を通過させるX線通路と、
前記試料より発生する蛍光X線の強度を測定する検出器と、
前記X線源の位置を調整するX線源位置調整手段と、
前記分光素子の位置を調整する分光素子位置調整手段と、
前記分光素子の回転角度を調整する分光素子角度調整手段と、
前記検出器が測定する試料より発生する蛍光X線の強度に基づき、前記X線源位置調整手段、前記分光素子位置調整手段および前記分光素子角度調整手段を制御する制御手段とを備え、
試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるように前記X線源からの一次X線の試料への照射位置を自動調整する斜入射蛍光X線分析装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載された試料ホルダと、
前記試料当接部と前記試料当接部を保持する保持部とを有する当接手段と、
X線源と、
前記X線源からの一次X線の試料への照射位置および照射角度を自動調整するための基準となる基準基板の分析面または前記試料ホルダの当接面を前記試料当接部に押圧する押圧手段と、
前記X線源から発生するX線を分光して所定の波長のX線を前記基準基板上の試料、または前記試料ホルダに載置された試料に照射する分光素子と、
前記基準基板の分析面または前記試料ホルダの当接面と前記当接手段の保持部の試料対向面との間隙において前記所定の波長のX線および試料で反射する反射X線を通過させるX線通路と、
試料より発生する蛍光X線の強度を測定する検出器と、
分析条件を設定する分析条件設定手段とを備える斜入射蛍光X線分析装置であって、
前記X線源の位置を調整するX線源位置調整手段と、
前記分光素子の位置を調整する分光素子位置調整手段と、
前記分光素子の回転角度を調整する分光素子角度調整手段と、
前記検出器が測定する試料より発生する蛍光X線の強度に基づき、前記X線源位置調整手段、前記分光素子位置調整手段および前記分光素子角度調整手段を制御する制御手段と、
前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記X線源位置調整手段によって調整されたX線源位置と前記X線源の機構上の対応位置との距離をX線源位置原点に対するX線源オフセット距離として記憶し、前記記憶したX線源オフセット距離を前記分析条件設定手段に付与するX線源オフセット距離記憶手段と、
前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記分光素子位置調整手段によって調整された分光素子位置と分光素子の機構上の対応位置との距離を分光素子位置原点に対する分光素子オフセット距離として記憶し、前記記憶した分光素子オフセット距離を前記分析条件設定手段に付与する分光素子オフセット距離記憶手段と、
前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記分光素子角度調整手段によって調整された分光素子角度と分光素子の機構上の対応角度との角度差を基準平面に対する分光素子オフセット角度として記憶し、前記記憶した分光素子オフセット角度を前記分析条件設定手段に付与する分光素子オフセット角度記憶手段とを備え、
前記基準基板上の試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるように前記X線源からの一次X線の試料への照射位置および照射角度を自動調整する、または前記試料ホルダ上の試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるように前記X線源からの一次X線の試料への照射位置を自動調整する斜入射蛍光X線分析装置。
【請求項5】
請求項4において、さらに
前記基準基板へのX線照射角度と前記基準基板より発生する蛍光X線の強度とに基づき、前記X線照射角度の臨界角を算出する臨界角算出手段と、
前記臨界角算出手段により算出される臨界角に基づき、前記基準基板へのX線照射角度を補正するX線照射角度補正手段とを備える斜入射蛍光X線分析装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載された試料ホルダと、
前記試料当接部と前記試料当接部を保持する保持部とを有する当接手段と、
複数のX線源と、
前記複数のX線源の中から1つのX線源を選択する選択手段と、
前記選択手段により選択されたX線源からの一次X線の試料への照射位置および照射角度を自動調整するための基準となる基準基板の分析面または前記試料ホルダの当接面を前記試料当接部に押圧する押圧手段と、
前記選択手段により選択されたX線源から発生するX線を分光して所定の波長のX線を前記基準基板上の試料、または前記試料ホルダに載置された試料に照射する分光素子と、
前記基準基板の分析面または前記試料ホルダの当接面と前記当接手段の保持部の試料対向面との間隙において前記所定の波長のX線および試料で反射する反射X線を通過させるX線通路と、
試料より発生する蛍光X線の強度を測定する検出器と、
分析条件を設定する分析条件設定手段とを備える斜入射蛍光X線分析装置であって、
前記X線源の位置を調整するX線源位置調整手段と、
前記分光素子の位置を調整する分光素子位置調整手段と、
前記分光素子の回転角度を調整する分光素子角度調整手段と、
前記検出器が測定する試料より発生する蛍光X線の強度に基づき、前記X線源位置調整手段、前記分光素子位置調整手段および前記分光素子角度調整手段を制御する制御手段と、
前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記X線源位置調整手段によって調整されたX線源位置と前記X線源の機構上の対応位置との距離をX線源位置原点に対するX線源オフセット距離として記憶し、前記記憶したX線源オフセット距離を前記分析条件設定手段に付与するX線源オフセット距離記憶手段と、
前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記分光素子位置調整手段によって調整された分光素子位置と分光素子の機構上の対応位置との距離を分光素子位置原点に対する分光素子オフセット距離として記憶し、前記記憶した分光素子オフセット距離を前記分析条件設定手段に付与する分光素子オフセット距離記憶手段と、
前記基準基板上の試料に所定の波長のX線が照射されることにより、前記分光素子角度調整手段によって調整された分光素子角度と分光素子の機構上の対応角度との角度差を基準平面に対する分光素子オフセット角度として記憶し、前記記憶した分光素子オフセット角度を前記分析条件設定手段に付与する分光素子オフセット角度記憶手段とを備え、
前記基準基板上の試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるように前記X線源からの一次X線の試料への照射位置および照射角度を自動調整する、または前記試料ホルダ上の試料より発生する蛍光X線の強度が最大になるように前記X線源からの一次X線の試料への照射位置を自動調整する斜入射蛍光X線分析装置。
【請求項7】
請求項6において、さらに
前記基準基板へのX線照射角度と前記基準基板より発生する蛍光X線の強度とに基づき、前記X線照射角度の臨界角を算出する臨界角算出手段と、
前記臨界角算出手段により算出される臨界角に基づき、前記基準基板へのX線照射角度を補正するX線照射角度補正手段とを備える斜入射蛍光X線分析装置。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか一項において、
前記試料当接部が前記検出器の視野領域外に配置されている斜入射蛍光X線分析装置。
【請求項9】
請求項3〜8のいずれか一項において、
前記試料当接部がセラミックス製である斜入射蛍光X線分析装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−58300(P2008−58300A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175767(P2007−175767)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000250351)理学電機工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】