説明

試料ホルダおよび走査型透過電子顕微鏡

【課題】試料が傾斜した状態で、共焦点暗視野STEM像、3次元断層像を得られる試料ホルダおよび走査型透過電子顕微鏡を提供することを提供することを課題とする。
【解決手段】試料が載置される試料載置部21をチューブピエゾ素子39によりXYZ軸方向に駆動するXYZ駆動機構を有した試料ホルダ5に、試料載置部21の試料をY軸を中心として傾斜させる傾斜機構41、51、53と、傾斜機構41、51,53を駆動するモータと、XYZ駆動機構の動きが傾斜機構41、51、53を介してモータへ伝達するのを遮断するクラッチ51c、61aとを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料が載置される試料載置部をピエゾ素子によりXYZ軸方向に駆動するXYZ駆動機構を有した試料ホルダおよびこの試料ホルダを有する走査型透過電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型透過電子顕微鏡においては、電子ビームを走査するのではなく、試料ホルダに載置された試料をピエゾ素子を用いて、X、Y、Z軸方向に走査することにより、高分解観察を可能としている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-270056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記走査型透過電子顕微鏡に用いられる試料ホルダは、電子ビームの光軸と直交する方向の軸を中心に傾斜させることができないので、試料を傾斜した状態での共焦点暗視野STEM像、3次元断層像を得ることができない問題点がある。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、その課題は、試料が傾斜した状態で、共焦点暗視野STEM像、3次元断層像を得られる試料ホルダおよび走査型透過電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する請求項1に係る発明は、試料が載置される試料載置部をピエゾ素子によりXYZ軸方向に駆動するXYZ駆動機構を有した試料ホルダにおいて、前記試料ホルダの軸方向をX軸、電子ビームの光軸方向をZ軸、前記X軸、前記Y軸と直交する方向をY軸とした場合、前記試料載置部の試料を前記Y軸を中心として傾斜させる傾斜機構と、該傾斜機構を駆動するモータと、前記XYZ駆動機構の動きが前記傾斜機構を介して前記モータへ伝達するのを遮断するクラッチと、を有することを特徴とする試料ホルダである。
【0007】
XYZ駆動機構のピエゾ素子を駆動して、試料をX、Y、Z軸方向に走査する場合には、クラッチを切って、前記XYZ駆動機構の動きが前記モータへ伝達するのを遮断する。
傾斜機構を用いて試料を傾斜させる場合には、クラッチをつないで、前記モータの動力を前記傾斜機構へ伝達する。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記傾斜機構は、前記試料載置部に儲けられ、前記試料が載置され、Y軸を中心に回転可能に設けられた試料傾斜台と、X-Z平面上で回転可能に設けられたクランクと、前記試料傾斜台の回転端部、前記クランクの回転端部うちのどちらか一方に設けられたピンと、前記試料傾斜台の回転端部、前記クランクの回転端部うちの他方に設けられ、前記ピンが嵌合する長穴と、前記モータによって駆動され、前記クランクを回転駆動する駆動部と、からなることを特徴とする請求項1記載の試料ホルダである。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記クランクは、前記試料載置部に接続される第1アーム、X-Z平面上で前記第1アームと異なる方向へ延出する第2アームを有するベルクランクであり、前記駆動部は、前記X軸を中心として回転可能に設けられ、Y-Z平面側の端面が傾斜面となった斜面カムと、前記ベルクランクの第2アームを前記斜面カムのカム面に押し当てる付勢手段と、からなることを特徴とする請求項2記載の試料ホルダである。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記クランクは、前記試料載置部に接続される第1アーム、X-Z平面上で前記第1アームと異なる方向へ延出する第2アームとを有するベルクランクであり、前記駆動部は、外周面におねじが形成され、前記モータによって、X軸を中心として回転駆動されるねじ部材と、内周面にめねじが形成され、前記ねじ部材が螺合し、回転が禁止されたナット部材からなり、前記ベルクランクの第2アームを前記ねじ部材の端面に押し当てる付勢手段とからなることを特徴とする請求項2記載の試料ホルダである。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記クラッチは、前記モータ側の出力軸、前記傾斜機構側の入力軸のうちのどちらか一方の軸の端面に形成されたすり割り溝と、前記モータ側の出力軸、前記傾斜機構側の入力軸のうちの他方の軸に形成され、前記すり割り溝に対して周方向に遊びをもって嵌合する接続部とからなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の試料ホルダである。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれかの試料ホルダを有することを特徴とする走査型透過電子顕微鏡である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1−6に係る発明によれば、前記試料載置部の試料を前記Y軸を中心として傾斜させる傾斜機構と、該傾斜機構を駆動するモータと、前記XYZ駆動機構の動きが前記傾斜機構を介して前記モータへ伝達するのを遮断するクラッチとを有することにより、クラッチを切って、前記XYZ駆動機構の動きが前記傾斜機構を介して前記モータへ伝達するのを遮断することにより、XYZ駆動機構のピエゾ素子を駆動して、試料をX、Y、Z軸方向に走査できる。
【0014】
また、クラッチをつないで、前記モータの動力を前記傾斜機構へ伝達することにより、傾斜機構を用いて試料を傾斜できる。よって、試料が傾斜した状態で、共焦点暗視野STEM像、3次元断層像が得られる。
【0015】
請求項2、請求項6に係る発明によれば、前記傾斜機構は、前記試料載置部に儲けられ、前記試料が載置され、Y軸を中心に回転可能に設けられた試料傾斜台と、X-Z平面上で回転可能に設けられたクランクと、前記試料傾斜台の回転端部、前記クランクの回転端部うちのどちらか一方に設けられたピンと、前記試料傾斜台の回転端部、前記クランクの回転端部うちの他方に設けられ、前記ピンが嵌合する長穴と、前記モータによって駆動され、前記クランクを回転駆動する駆動部とからなることにより、クランクのクランク長を長く設定することで、傾斜機構の傾斜角の微調整が容易となる。逆に、クランクのクランク長を短く設定することで、傾斜機構の傾斜速度を上げることができ、短時間で試料を傾斜させることができる。
【0016】
請求項3、請求項6に係る発明によれば、前記クランクは、前記試料載置部に接続される第1アーム、X-Z平面上で前記第1アームと異なる方向へ延出する第2アームを有するベルクランクであり、前記駆動部は、前記X軸を中心として回転可能に設けられ、Y-Z平面側の端面が傾斜面となった斜面カムと、前記ベルクランクの第2アームを前記斜面カムのカム面に押し当てる付勢手段とからなることにより、スムーズな傾斜機構の作動を得ることができる。
【0017】
請求項4、請求項6に係る発明によれば、前記クランクは、前記試料載置部に接続される第1アーム、X-Z平面上で前記第1アームと異なる方向へ延出する第2アームとを有するベルクランクであり、前記駆動部は、外周面におねじが形成されたねじ部材と、内周面にめねじが形成され、前記ねじ部材が螺合するナット部材からなり、前記ねじ部材、前記ナット部材のうちのどちらか一方の部材は、前記モータによって、X軸を中心として回転駆動され、前記ねじ部材、前記ナット部材のうちの他方の部材は、回転が禁止され、前記ベルクランクの第2アームを前記ねじ部材、前記ナット部材のうちの前記モータによって回転駆動される部材の端面に押し当てる付勢手段とからなることにより、スムーズな傾斜機構の作動を得ることができる。
【0018】
請求項5、請求項6に係る発明によれば、前記クラッチは、前記モータ側の出力軸、前記傾斜機構側の入力軸のうちのどちらか一方の軸の端面に形成されたすり割り溝と、前記モータ側の出力軸、前記傾斜機構側の入力軸のうちの他方の軸に形成され、前記すり割り溝に対して周方向に遊びをもって嵌合する接続部とからなることにより、傾斜機構を駆動するモータを用いて、クラッチの駆動、すなわち、クラッチをつないだり、切ったりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の試料ホルダの斜視図である図3のB部分の拡大図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】本実施形態の試料ホルダの斜視図である。
【図4】図3のA方向からみた断面図である。
【図5】傾斜機構の作動を説明する図である。
【図6】図1のC方向部分断面矢視図である。
【図7】図2のクラッチを説明する斜視図である。
【図8】実施形態の走査型透過電子顕微鏡の構成図である。
【図9】傾斜機構を駆動する駆動部の他の形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1−図8を用いて本発明の実施の形態を説明する。
(走査型透過電子顕微鏡)
図8を用いて、本実施形態の走査型透過電子顕微鏡の構成を説明する。図8は本実施形態の走査型透過電子顕微鏡の構成図である。図において、電子銃1から出た電子ビームは、収束レンズ3によって、試料ホルダ5の試料載置部に載置された試料上に最小プローブ径となるようにフォーカスされる。
【0021】
ピエゾ素子を用いたXYZ駆動機構7により、試料載置部に載置された試料がX軸、Y軸、Z軸方向走査される。試料を透過した電子ビームは、結像レンズ9によって透過電子検出器11上の絞り13に再びフォーカスする。
【0022】
なお、本実施形態では、図に示すように、試料ホルダ5の軸方向がX軸、電子ビームの光軸方向をZ軸方向、X軸、Y軸と直交する方向をY軸としている。
透過電子検出器11上の絞り13にフォーカスされた電子ビームは、絞り13で中央部の一部のみが透過し、透過電子検出器11で検出される。
【0023】
試料は、XYZ駆動機構7により、試料面平行方向(XY軸方向)に走査される。XY各点における透過電子の強度を読み込み、コンピュータによってXY位置情報と透過電子の強度から画像として出力することにより、共焦点暗視野STEM像を得る。
【0024】
また、1枚画像を取得するごとに、XYZ駆動機構7により試料をZ軸に移動し、各Z位置における走査像を取得することにより、三次元画像を得る。
(試料ホルダの全体構成)
図3、図4を用いて、試料ホルダ5の全体構成を説明する。図3は本実施形態の試料ホルダの斜視図、図4は図3のA方向からみた断面図である。これらの図において、試料ホルダ5の一方の端部側には、試料が載置される試料載置部21と、試料載置部21の試料をY軸を中心として傾斜させる傾斜機構23と、試料載置部21の試料をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に駆動するXYZ駆動機構24とが設けられている。試料ホルダ5の他方の端部側には、傾斜機構23を駆動するモータ25が設けられている。
【0025】
さらに、傾斜機構23と、XYZ駆動機構24との間には、XYZ駆動機構24の動きが傾斜機構23を介してモータ25へ伝達するのを遮断するクラッチ27が設けられている。
(XYZ駆動機構)
図1、図2を用いてXYZ駆動機構24の説明を行う。図1は本実施形態の試料ホルダの斜視図である図3のB部分の拡大図、図2は図1の断面図である。
【0026】
これらの図において、試料載置部21は、XY平面上に開口31aを有する枠体31と、枠体31の開口内に設けられ、枠体31に対してY軸を中心に回転可能に設けられ、後述する傾斜機構によって駆動される試料傾斜台33とからなっている。
【0027】
図2に示すように、枠体31の基部側には、第1ピエゾ素子取り付け部材35が取り付けられている。また、第1ピエゾ素子取り付け部材35とX軸方向に間隔を介して配置された第2ピエゾ素子取り付け部材37が試料ホルダ5に取り付けられている。
【0028】
第1ピエゾ素子取り付け部材35と、第2ピエゾ素子取り付け部材37との間には、一端側が第1ピエゾ素子取り付け部材35に取り付けられ、他端側が第2ピエゾ素子取り付け部材37に取り付けられ、X軸方向に延出する円筒状のチューブピエゾ素子39が設けられている。
【0029】
このチューブピエゾ素子39は、駆動電圧の印加による収縮動作作用により、第1ピエゾ素子取り付け部材35を介して試料載置部21をX軸方向に駆動するようになっている。また、駆動電圧の印加による首振り作用により、第1ピエゾ素子取り付け部材35を介して試料載置部21をY軸、Z軸方向に駆動するようになっている。
(傾斜機構)
図1、図2、図5、図6を用いて傾斜機構23の説明を行う。図5は傾斜機構の作動を説明する図、図6は図1のC方向部分断面矢視図である。
【0030】
これらの図において、試料傾斜台33には、下方に行くほど径が小さくなる穴33aが形成され、この穴33aに試料が載置される。
また、図6に示すように、試料傾斜台33は、枠体31に取り付けられるピン32を用いて、Y軸を中心に回転可能となっている。また、ピン32は、穴33aの中心軸と交差するように設けられている。試料傾斜台33の回転端部には、長穴33bが形成されている。
【0031】
図2、図5に示すように、枠体31には、X-Z平面上で、ピン40を用いて回転可能に設けられたベルクランク41が回転可能に設けられている。このベルクランク41は、試料載置部21側に延びるる第1アーム部41aと、X-Z平面上で第1アーム部41aと異なる方向へ延出する第2アーム部41bとを有している。
【0032】
ベルクランク41の第1アーム部41aには、試料傾斜台33の長穴33bに嵌合するピン43が設けられている。よって、後述する駆動部によって、ベルクランク41が回転されると、試料傾斜台33は、ピン32を中心に上下方向に傾動することとなる。
【0033】
図2に示すように、第1ピエゾ素子取り付け部材35、第2ピエゾ素子取り付け部材37の中央部には、X軸方向に延びる穴35a、37aが形成されている。
ここで、傾斜機構のベルクランク41を回転駆動する駆動部を説明する。枠体31には、第1ピエゾ素子取り付け部材35の穴35aに対向する穴31bが形成されている。第1ピエゾ素子取り付け部材35の穴35aには、カム部材51がX軸を中心に回転可能に設けられている。このカム部材51は、第1ピエゾ素子取り付け部材35の穴35aに回転可能に嵌合する嵌合部51aと、嵌合部51aに連接され、枠体31の穴31bを挿通し、端面が外部に露出する斜切り円柱状のカム本体部51bと、嵌合部51aに連接され、モータ25方向に延出し、断面形状が略小判形の接続部51cとからなっている。カム本体部51bの外部に露出した端面51dは、YZ平面に対して傾斜した面となっている。
【0034】
ベルクランク41の第2アーム部41bは、後述する付勢手段により、カム部材51の端面51dに押し当てられている。よって、カム部材51が回転すると、ベルクランク41が回転し、試料傾斜台33は、ピン32を中心に上下方向に傾動する。すなわち、カム部材51のカム本体部51bは、端面51dがカム面となった傾斜カムとして機能する。
【0035】
本実施形態例の付勢手段は、中間部がベルクランク41のピン40に巻回され、一方の端部側が枠体31に係止され、他方の端部側が試料傾斜台33に係止されたスプリング53である。このスプリング53の付勢力により、試料傾斜台33が長穴33bが形成された側の端部が下降し、ベルクランク41の第2アーム部41bがカム本体部(斜面カム)51bの端面(カム面)51dに押し当てられる。なお、本実施形態例では、ベルクランク41の第2アーム部41bには、ルビー球45が設けられ、このルビー球45が、カム本体部(斜面カム)51bの端面(カム面)51dに押接するようになっている。
【0036】
また、基端部がねじ55を用いて枠体31に取り付けられ、先端側がカム部材51のカム本体部51bの周面に押接する板ばね57により、カム部材51のX軸を中心とする回転が規制されている。
(クラッチ)
図2、図6、図7を用いて説明する。図7は図2のクラッチを説明する斜視図である。
【0037】
これらの図において、モータ25の出力軸61は傾斜機構方向に延び、その端面にはすり割り溝61aが形成されている。このすり割り溝61aに、カム部材51の接続部51cが遊嵌している。図7に示すように、すり割り溝61aの内壁面において、周側の面は、すり割り溝61aの幅が中央部に比べて周側が広くなるように、中央部側の面に対して傾斜した面とされている。よって、接続部51cと、すり割り溝61aとの嵌合は、出力軸61の周方向に大きな遊びがある嵌合となっている。
【0038】
そして、接続部51cがすり割り溝61aの内壁面に当接していない状態では、クラッチが切れた状態であり、XYZ駆動機構の動きが傾斜機構を介してモータ25へ伝達されない。また、すり割り溝61aの内壁面が接続部51cに当接している状態では、クラッチがつながった状態であり、モータ25の回転駆動力が、傾斜機構へ伝達される。
(作動)
ここで、上記構成の作動を説明する。
【0039】
1. 試料をX、Y、Z軸方向に走査する場合は、まず、カム部材51の接続部51cがすり割り溝61aの内壁面に当接しているかいないかを確認する。カム部材51の接続部51cがすり割り溝61aの内壁面に当接している場合には、モータ25を駆動して、出力軸61を回転しカム部材51の接続部51cがすり割り溝61aの内壁面に当接していない状態(クラッチを切った状態)とする。そして、XYZ駆動機構のチューブピエゾ素子39を駆動して、試料をX、Y、Z軸方向に走査する。
【0040】
2. 試料をY軸を中心として傾斜させる場合には、モータ25を駆動する。すると、接続部51cがすり割り溝61aの内壁面に当接し(クラッチをつないだ切った状態)、モータの回転駆動力は、傾斜機構へ伝達され、試料がY軸を中心として傾斜する。
【0041】
このような構成によれば、以下のような効果が得られる。
(1) クラッチを切って、XYZ駆動機構の動きが傾斜機構を介してモータへ伝達するのを遮断することにより、XYZ駆動機構のチューブピエゾ素子39を駆動して、試料をX、Y、Z軸方向に走査できる。
【0042】
また、クラッチをつないで、モータ25の動力を傾斜機構へ伝達することにより、傾斜機構を用いて試料を傾斜できる。
よって、試料が傾斜した状態で、共焦点暗視野STEM像、3次元断層像が得られる。
【0043】
(2) ベルクランク41の第1アーム部41aの長さ(クランク長)を長く設定することで、傾斜機構の傾斜角の微調整が容易となる。逆に、ベルクランク41の第1アーム部41aの長さ(クランク長)を短く設定することで、傾斜機構の傾斜速度を上げることができ、短時間で試料を傾斜させることができる。
【0044】
(3) 第1アーム部41a、第2アーム部41bを有するベルクランク41と、傾斜カムであるカム部材51と、ベルクランク41の第2アーム部41bをカム部材51のカム面である端面51dに押し当てるスプリング(付勢手段)53とを有することにより、スムーズな傾斜機構の作動を得ることができる。
【0045】
(4) クラッチは、すり割り溝61aと、すり割り溝61aに対して周方向に遊びをもって嵌合する接続部51cとからなることにより、傾斜機構を駆動するモータ25を用いて、クラッチの駆動、すなわち、クラッチをつないだり、切ったりすることができる。
【0046】
なお、本発明は、上記実施形態に限定するものではない。上記実施形態では、以下のような変形が可能である。
(1) 上記実施形態例では、試料傾斜台33に長穴33b、ベルクランク41に長穴33bに係合するピン43を設けたが、逆に、ベルクランク41に長穴、試料傾斜台33に長穴に係合するピンを設けてもよい。
【0047】
(2) 上記実施形態例では、モータ25の出力軸61にすり割り溝61a、カム部材51にすり割り溝61aに遊嵌する接続部51cを設けたが、逆に、カム部材51にすり割り溝、モータ25の出力軸61にすり割り溝に遊嵌する接続部を設けてもよい。
【0048】
(3) 上記実施形態例では、傾斜機構のベルクランク41を駆動する駆動部として、傾斜カムを用いたが、図9に示すような構造でもよい。図9は傾斜機構を駆動する駆動部の他の形態を説明する図である。
【0049】
カム部材51の嵌合部51aの周面には、おねじが形成されている。一方、回転が禁止された第1ピエゾ素子取り付け部材35の穴35aの内壁面には、嵌合部51aに形成されたおねじが螺合するめねじが形成されている。
【0050】
よって、モータ25によりカム部材51が回転駆動されると、カム部材51はX軸に沿って移動し、ベルクランク41を回転させる。
【符号の説明】
【0051】
21 試料載置部
23 傾斜機構
24 XYZ駆動機構
25 モータ
41 ベルクランク
51 カム部材
51c 接続部
53 スプリング
61 出力軸
61a すり割り溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が載置される試料載置部をピエゾ素子によりXYZ軸方向に駆動するXYZ駆動機構を有した試料ホルダにおいて、
前記試料ホルダの軸方向をX軸、
電子ビームの光軸方向をZ軸、
前記X軸、前記Y軸と直交する方向をY軸とした場合、
前記試料載置部の試料を前記Y軸を中心として傾斜させる傾斜機構と、
該傾斜機構を駆動するモータと、
前記XYZ駆動機構の動きが前記傾斜機構を介して前記モータへ伝達するのを遮断するクラッチと、
を有することを特徴とする試料ホルダ。
【請求項2】
前記傾斜機構は、
前記試料載置部に儲けられ、前記試料が載置され、Y軸を中心に回転可能に設けられた試料傾斜台と、
X-Z平面上で回転可能に設けられたクランクと、
前記試料傾斜台の回転端部、前記クランクの回転端部うちのどちらか一方に設けられたピンと、
前記試料傾斜台の回転端部、前記クランクの回転端部うちの他方に設けられ、前記ピンが嵌合する長穴と、
前記モータによって駆動され、前記クランクを回転駆動する駆動部と、
からなることを特徴とする請求項1記載の試料ホルダ。
【請求項3】
前記クランクは、前記試料載置部に接続される第1アーム、X-Z平面上で前記第1アームと異なる方向へ延出する第2アームを有するベルクランクであり、
前記駆動部は、
前記X軸を中心として回転可能に設けられ、Y-Z平面側の端面が傾斜面となった斜面カムと、
前記ベルクランクの第2アームを前記斜面カムのカム面に押し当てる付勢手段と、
からなることを特徴とする請求項2記載の試料ホルダ。
【請求項4】
前記クランクは、前記試料載置部に接続される第1アーム、X-Z平面上で前記第1アームと異なる方向へ延出する第2アームとを有するベルクランクであり、
前記駆動部は、
外周面におねじが形成され、前記モータによって、X軸を中心として回転駆動されるねじ部材と、
内周面にめねじが形成され、前記ねじ部材が螺合し、回転が禁止されたナット部材からなり、
前記ベルクランクの第2アームを前記ねじ部材の端面に押し当てる付勢手段と、
からなることを特徴とする請求項2記載の試料ホルダ。
【請求項5】
前記クラッチは、
前記モータ側の出力軸、前記傾斜機構側の入力軸のうちのどちらか一方の軸の端面に形成されたすり割り溝と、
前記モータ側の出力軸、前記傾斜機構側の入力軸のうちの他方の軸に形成され、前記すり割り溝に対して周方向に遊びをもって嵌合する接続部とからなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の試料ホルダ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの試料ホルダを有することを特徴とする走査型透過電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−175908(P2011−175908A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39978(P2010−39978)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】