説明

試料ホルダの排気方法及び装置

【課題】本発明は試料ホルダの排気方法及び装置に関し、大気暴露を確実に防止したままで鏡筒に試料を挿入することができる試料ホルダの排気方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】試料を顕微鏡の鏡筒に挿入する試料ホルダシステムにおいて、真空排気シーケンスを制御するための排気制御手段を設け、該排気制御手段により前記気密室の気圧が一定の状態で、ゴニオメータ内を真空引きしてその内部が所定の低真空状態になるまで排気し、その内部が所定の低真空状態になったら、前記排気制御手段により前記気密室の仕切り弁を開いて気密室を前記低真空状態にし、その後、前記排気制御手段により前記ゴニオメータ及び気密室を高真空状態にし、その後、試料をゴニオメータの先端部まで移送して鏡筒に試料ホルダを挿入するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料ホルダの排気方法及び装置に関し、更に詳しくはゴニオメータ内部及び試料ホルダ内部を予め不活性ガスで置換せず、真空排気状態で気密室とゴニオメータ内部を接続することを可能とし、大気暴露を確実に防止したままで顕微鏡の鏡筒に試料を挿入することを可能とする試料ホルダの排気方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料ホルダに保持された試料は、電子顕微鏡内のしかるべき位置に挿入され、電子ビームにより照射され、照射された後に試料から発生する荷電粒子やX線等を検出して試料の形状や組成を推定することができるようになっている。この場合において、主に大気中に暴露されることを嫌う電池材料のような物質を分析する場合には、試料ホルダを確実に顕微鏡鏡筒内に挿入することが必要となる。特に、大気暴露を嫌う電池材料の場合は、試料が大気中に暴露されないようにして電子顕微鏡鏡筒に挿入する必要がある。
【0003】
図6は従来の試料ホルダのゴニオメータへの取り付けシーケンスを示す図である。(a)〜(h)のシーケンスから構成されている。
【0004】
(a)
(a)において、1はグローブボックス、2はグローブボックス1内に配置された試料気密室、3はロッド9の先端部に設けられた試料、6は先端部で試料を挟む板バネである。4はシールキャップ、5はシールキャップの一端に設けられたリークバルブである。8はつまみである。9はその先端部に試料3を擁するロッド、7はシールである。試料3と板バネ6で試料保持部を形成し、該試料保持部とロッド9とで試料ホルダを形成している。グローブボックス1は、その内部が真空又は不活性ガスで満たされている。
【0005】
ロッド9は試料保持部全体を移送するためのロッドであり、付属のつまみ8で動かすことにより、試料保持部を気密室まで移送する。試料気密室2は仕切り弁11で封じることで試料を外気から隔絶した状態に保持する。仕切り弁11は、試料気密室2と外気とを遮断する。シールキャップ4は試料ホルダ先端をシールことで、試料保持部がホルダ先端に位置している状態でも大気から隔絶した状態にする。シールキャップ4はリークバルブ5を装着していて、必要に応じてシールキャップ4内部と外気とを通じることが可能である。試料保持部は、顕微鏡試料3を搭載して付属の板バネ6で挟むことで試料3を固定する。
【0006】
グローブボックス1内で試料保持部に顕微鏡試料3を板バネ6で固定することで装着する。
【0007】
(b)
シールキャップ4をホルダ先端部に付けて、シールキャップ4のリークバルブ5を閉じる。この状態では、試料気密室2の仕切り弁11は開いたままである。
【0008】
(c)
シールキャップ4ごと試料ホルダをグローブボックス1から取り出す。取り出すとは大気中に取り出すということである。そして、試料先端部を動かすつまみ8でホルダ試料気密室2へ先端部を移動させてから、仕切り弁11を閉じて試料気密室2を封じる。具体的には試料を保持するロッド15を気密性が保たれたロッド9内を図の右方向に移動させることにより、試料3を試料気密室2まで持ってくることができる。この結果、試料気密室2の内部は試料3を保持し、かつその内部を真空中或いは不活性ガス中とすることができる。
【0009】
(d)
シールキャップ4のリークバルブ5を緩めて、試料気密室2以外をベント(大気中に晒すこと)してから、シールキャップ4を外す。この結果、試料気密室2のみが真空中又は不活性ガス中に保持されることになる。
【0010】
(e)
電子顕微鏡のゴニオメータ15へ手動で試料ホルダをセットして予備排気を行なう。ゴニオメータ15は、図に示すように鏡筒20に取り付けられている。
【0011】
(f)
その後で、一旦ゴニオメータ15内を窒素ガスでベントする。つまりゴニオメータ15内を窒素ガスで充填する。
【0012】
(g)
仕切り弁11を開けて、試料3を先端部まで移送して、改めて予備排気して鏡筒20に試料ホルダを挿入する。この場合において、試料3はゴニオメータ15内を通過できる構成になっている。
【0013】
(h)
使用者は電子顕微鏡を用いて検鏡操作を行なう。即ち、試料3に電子ビームを照射して、試料3から放出される2次電子、反射電子を検出し、或いは試料3を透過した透過電子を検出する。
【0014】
図7は従来装置のゴニオメータ排気シーケンスを示す図である。図番としては図6に示すものを用いる。先ず全ての仕切り弁を閉じて、ゴニオメータ15の排気を開始する(S1)。次に油回転ポンプと油拡散ポンプの排気を開始する(S2)。そして、先ず油回転ポンプの仕切り弁を開いて油回転ポンプによる排気を開始する(S3)。次に、ゴニオメータ真空度が油拡散ポンプによる排気が必要な程度まで到達したかどうか判断する(S4)。到達していない場合には、油回転ポンプによる排気を続行する。
【0015】
油回転ポンプによる排気で油回転ポンプによる排気が、油拡散ポンプによる排気が必要な程度まで到達した場合、油回転ポンプの仕切り弁を閉じる(S5)。そして、次に油拡散ポンプの仕切り弁を開く(S6)。そして、ゴニオメータ15の真空度が排気完了段階まで到達したかどうか判断する(S7)。到達していない場合は油拡散ポンプによる排気を続行する。ゴニオメータ15の真空度が排気完了段階まで到達した場合には、ゴニオメータ15の排気を完了する(S8)。この段階では、全ての仕切り弁が閉じている。
【0016】
従来のこの種の装置としては、電子線を照射する試料を配置する試料室20と、該試料室20にガスを導入するための導入管12と、試料室20からガスを排出するための排出管14とのいずれか一方が、導入管と排出管ととの他方の周囲を囲むように設けられたガス導排管とを具備し、導入管及び排出管の断面大きくしてガス導入排出のためのコンダクタンスを大きくする技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0017】
また、隔膜型ガス雰囲気試料室120を有するシーリングブロック109は、Y軸上に同軸に構成された一対のY回転軸36と軸受け44により支えられ、ガスの流路となるガス供給側管18と、ガス排出側管19と、軸受け収納孔39及び隔膜型ガス雰囲気試料室120を保持するように構成された試料ホルダによりなり、シーリングブロック109はY軸を中心にして真空との気密を保ったまま傾斜動作ができる技術が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2010−61990号公報(段落0025、図4、図5)
【特許文献2】特開2009−117196号公報(段落0029、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来技術は、以下に示すような問題がある。
1)解析を行なう主な対象である電池材料は結晶質であることが多く、電子顕微鏡観察を行なう際には精密な結晶方位調整を必要とする。従来技術では、X軸の傾斜しか行なうことができないため、完全に所望の結晶方位に試料を傾斜させることが不可能である。
2)従来技術においては、試料保持部の先端の材質を、エネルギー分散X線分析を行なう際のバックグラウンド源になりうる、りん青銅にしているため、余計なX線が出てしまい、エネルギー分散X線分析を行なう際には不適である。
3)従来技術においては、ゴニオメータ内部及びホルダ先端部を排気した後、一旦不活性ガスで置換する際に、スイッチを複数回操作する必要がある。その際にミスを発生させて、試料を一時的に大気ガスに暴露させてしまうおそれがある。
【0020】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、ゴニオメータ内部及び試料ホルダ内部を予め不活性ガスで置換せず、真空排気状態で試料気密室とゴニオメータ内部を接続して大気暴露を確実に防止したままで顕微鏡鏡筒に試料を挿入することができるようにした試料ホルダの排気方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記した課題を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
【0022】
(1)請求項1記載の方法の発明は、試料を顕微鏡の鏡筒に挿入する試料ホルダシステムにおいて、試料をその内部に保持する気密室と、該気密室とロッドを介して接続されたシールキャップをグローブボックス内に設け、前記気密室とシールキャップがグローブボックスに入った状態でシールキャップごと試料ホルダをグローブボックスから取り出し、前記気密室に試料を格納して、気密室以外は大気状態にし、前記試料ホルダからシールキャップを外して電子顕微鏡ゴニオメータにホルダをセットし、真空排気シーケンスを制御するための排気制御手段を設け、該排気制御手段により前記気密室の気圧が一定の状態で、ゴニオメータ内を真空引きしてその内部が所定の低真空状態になるまで排気し、その内部が所定の低真空状態になったら、前記排気制御手段により前記気密室の仕切り弁を開いて気密室を前記低真空状態にし、その後、前記排気制御手段により前記ゴニオメータ及び気密室を高真空状態にし、その後、試料をゴニオメータの先端部まで移送して鏡筒に試料ホルダを挿入する、ようにしたことを特徴とする。
【0023】
(2)請求項2記載の方法の発明は、前記排気制御手段としてスイッチを用い、該スイッチはオン状態では試料及び試料ホルダが低真空状態になるように前記試料及び試料ホルダの排気を制御し、前記試料及び試料ホルダが低真空状態になったら、前記気密室の仕切り弁が開き、前記スイッチがオフになったら、前記試料及び試料ホルダを高真空状態になるように排気することを特徴とする。
【0024】
(3)請求項3記載の方法の発明は、前記試料及び試料ホルダを低真空状態になるまで排気するのに、油回転ポンプを用い、前記スイッチがオフになったら、前記試料及び試料ホルダを高真空になるまで排気するのに、油拡散ポンプを用いることを特徴とする。
【0025】
(4)請求項4記載の装置の発明は、試料を顕微鏡の鏡筒に挿入する試料ホルダシステムにおいて、試料をその内部に保持する気密室と、該気密室とロッドを介して接続されたシールキャップが配置されたグローブボックスと、前記気密室とシールキャップが前記グローブボックスに入った状態で前記シールキャップごと試料ホルダをグローブボックスから取り出す取り出し手段と、前記気密室に試料を格納して、気密室以外は大気状態にし、前記ホルダからシールキャップを外して電子顕微鏡ゴニオメータにホルダをセットし、真空排気シーケンスを制御するための排気制御手段と、を設け、該排気制御手段により前記気密室の気圧が一定の状態で、ゴニオメータを真空引きしてその内部が所定の低真空状態になるまで排気する第1の排気手段と、その内部が所定の低真空状態になったら、前記排気制御手段により前記気密室の仕切り弁を開いて気密室を前記低真空状態にし、その後、前記排気制御手段によりゴニオメータ及び気密室を高真空状態にする第2の排気手段と、その後、試料をゴニオメータ先端部まで移送して鏡筒にホルダを挿入する挿入手段と、を有することを特徴とする。
【0026】
(5)請求項5記載の装置の発明は、前記試料ホルダにX軸傾斜機構に加えてY軸傾斜機構を設けたことを特徴とする。
【0027】
(6)請求項6記載の装置の発明は、前記試料ホルダの材質としてベリリウムを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明は以下に示すような効果を有する。
【0029】
(1)請求項1記載の発明によれば、ゴニオメータ内部及び試料ホルダ内部を予め不活性ガスで置換せず、真空排気状態で試料気密室とゴニオメータ内部を接続して大気暴露を確実に防止したままで顕微鏡鏡筒に試料を挿入することができるようにした試料ホルダの排気方法を提供することができる。
【0030】
(2)請求項2記載の発明によれば、排気制御手段としてスイッチを用い、スイッチがオンの時には試料及び試料ホルダが低真空状態になるまで排気し、試料及び試料ホルダが低真空状態になったら、今度は前記スイッチをオフにし、試料及び試料ホルダが高真空になるように排気する行程をとることで、気密室内のガス等が排気ポンプに入り込み、排気ポンプが破壊されるのを防止することができる。
【0031】
(3)請求項3記載の発明によれば、低真空状態になるまで排気するのに油回転ポンプを用い、低真空状態から高真空状態になるまで排気するのに油拡散ポンプを用いることで、試料雰囲気中を徐々に高真空状態にもっていくことができる。
【0032】
(4)請求項4記載の発明によれば、試料が入った気密室を大気に晒すことなく、試料ホルダを鏡筒に挿入することができる。
【0033】
(5)請求項5記載の発明によれば、X軸傾斜機構に加えて、Y軸傾斜機構を備えたことにより、結晶性試料の方位合わせを行なうことが可能になる。
【0034】
(6)請求項6記載の発明によれば、試料ホルダの材質としてベリリウムを用いることで、電子線が照射された場合でも、試料ホルダからX線が発生することはなくなり、正確なエネルギー分散X線分析を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の試料ホルダのゴニオメータへの取り付けシーケンスを示す図である。
【図2】従来装置の構成例を示す図である。
【図3】本発明装置の構成例を示す図である。
【図4】本発明の全体構成例を示す図である。
【図5】本発明のゴニオメータ排気シーケンスを示す図である。
【図6】従来の試料ホルダのゴニオメータへの取り付けシーケンスを示す図である。
【図7】従来装置のゴニオメータ排気シーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明の試料ホルダのゴニオメータへの取付けシーケンスを示す図である。図6と同一のものは同一の符号を付して示す。本発明シーケンスは(a)〜(h)のシーケンスから構成されている。なお、(a)〜(h)までの動作の連続が本発明方法に該当し、この発明方法を実施するためのハードウェアの構成が装置の発明に該当している。
【0037】
(a)
(a)において、1はグローブボックス、2はグローブボックス1内に配置された試料気密室、3はロッド9の先端部に設けられた試料、6は先端部で試料を挟む板バネである。4はシールキャップ、5はシールキャップの一端に設けられたリークバルブである。8はつまみである。9はその先端部に試料3を擁するロッド、7はシールキャップ4内を所定の真空圧に保持するシールである。試料3と板バネ6で試料保持部を形成し、該試料保持部とロッド9とで試料ホルダを形成している。グローブボックス1は、その内部が真空又は不活性ガスで満たされている。
【0038】
ロッド9は試料保持部全体を移送するためのロッドであり、付属のつまみ8で動かすことにより、試料保持部を水平方向に移動させる。試料気密室2は仕切り弁11で封じることで試料3を外気から隔絶した状態に保持する。仕切り弁11は、試料気密室2と外気とを遮断する。シールキャップ4は試料ホルダ先端をシールすることで、試料保持部がホルダ先端に位置している状態でも大気から隔絶した状態にする。シールキャップ4はリークバルブ5を装着していて、必要に応じてシールキャップ4内部と外気とを通じることが可能である。試料保持部は、顕微鏡試料3を搭載して付属の板バネ6で挟むことで試料3を固定する。
【0039】
グローブボックス1内で試料保持部に顕微鏡試料3を板バネ6で固定することで装着する。本発明によれば、ゴニオメータとしてX軸方向のみならず、Y軸方向にも傾斜できるものを用いている。
【0040】
(b)
シールキャップ4をホルダ先端部に付けて、シールキャップ4のリークバルブ5を閉じる。この状態では、試料気密室2の仕切り弁11は開いたままである。
【0041】
(c)
シールキャップ4ごと試料ホルダをグローブボックス1から取り出す。取り出すとは大気中に取り出すということである。そして、試料先端部を動かすつまみ8でホルダ試料気密室2へ先端部を移動させてから、仕切り弁11を閉じて試料気密室2を封じる。具体的には試料を保持するロッド15を気密性が保たれたロッド9内を図の右方向に移動させることにより、試料3を試料気密室2まで持ってくることができる。この結果、試料気密室2の内部は試料3を保持し、かつその内部を真空中或いは不活性ガス中とすることができる。
【0042】
(d)
シールキャップ4のリークバルブ5を緩めて、試料気密室2以外をベント(大気中に晒すこと)してから、シールキャップ4を外す。この結果、試料気密室2のみが真空中又は不活性ガス中に保持されることになる。
【0043】
(e)
電子顕微鏡のゴニオメータ15へ手動で試料ホルダをセットして予備排気を行なう。ゴニオメータ15は、図に示すように鏡筒20に取り付けられている。
【0044】
(f)
鏡筒20にはスイッチ25が取り付けられている。このスイッチ25はオンの時にゴニオメータ15内を所定の低真空になるまで排気し、オフの時には高真空になるまで排気するようにするものである。スイッチ25がオンの場合、排気ポンプ(図示せず)によりゴニオメータ15内を所定の低真空になるまで排気する。この時、試料気密室2の仕切り弁11は開いている。この結果、ゴニオメータ15と試料気密室2内は同じ低真空になるように排気されることになる。
【0045】
(g)
仕切り弁11を開けて、試料3を先端部まで移送する。次に、スイッチ25をオフにする。この結果、ゴニオメータ15と試料気密室2内を高真空になるまで排気する。このように、本発明によれば、試料気密室2内が所定の低真空になってから試料気密室2とゴニオメータ15を高真空になるまで排気するので、試料気密室2からガスが真空中に排出されて、排気ポンプ(図示せず)を破損することはなくなる。なお、この場合において、試料3はゴニオメータ15内を通過できる構成になっている。
【0046】
(h)
使用者は鏡筒20内に試料ホルダを挿入する。そして、電子顕微鏡を用いて検鏡操作を行なう。即ち、試料3に電子ビームを照射して、試料3から放出される2次電子、反射電子を検出し、或いは試料3を透過した透過電子を検出する。この場合において、必要に応じて、試料3をゴニオメータ15でX,Y2次元方向に傾斜できるようにすれば、試料3を必要な方向に傾斜して使用できるので、試料結晶の方位を任意の方向に合わせることができ都合がよい。
【0047】
図2は従来装置の構成例を示す図であり、スライドカバーホルダの構成を示している。図6と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、2は試料気密室、3は試料、4はシールキャップ、8はつまみ、9はロッド、11は試料気密室2内に設けられた仕切り弁である。30は試料保持部(試料ホルダ)である。
【0048】
図3は本発明装置の構成例を示す図であり、試料2軸傾斜トランスファーベリリウムホルダの構成を示している。図1、図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。本発明では、試料ホルダ30の材質としてベリリウムを用いている。材質としてベリリウムを用いると、電子線が照射された場合でも、試料ホルダ30からX線が発生することはなくなる。
【0049】
図において、2は試料気密室、3は試料、4はシールキャップ、8はつまみ、9はロッド、11は試料気密室2内に設けられた仕切り弁である。30は試料保持部(試料ホルダ)、35は2軸傾斜機構であり、Y軸方向への傾斜機構を示している。2軸傾斜機構を具備している点が図2の従来構成と異なるものである。
【0050】
図4は本発明の全体構成例を示す図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、20は鏡筒、15は該鏡筒20に取り付けられたゴニオメータ、2は試料気密室、3は試料、8はつまみ、9はロッドである。41は低真空用の油回転ポンプ、42は高真空用の油拡散ポンプ、43は油回転ポンプ41に取り付けられた調節弁(仕切り弁)、44は油拡散ポンプ42に取り付けられた調節弁(仕切り弁)である。このように構成されたシステムを用いて本発明の排気シーケンスを説明する。
【0051】
図5は本発明のゴニオメータ排気シーケンスを示す図である。構成は図4に示すものを用いる。先ず、ゴニオメータ排気を開始する(S1)。この時、全ての仕切り弁は閉じている。そして油回転ポンプ41と油拡散ポンプ42の排気を開始する(S2)。次に、油回転ポンプの仕切り弁43を開いて油回転ポンプ41による排気を開始する(S3)。
【0052】
次に、ゴニオメータ真空度が油拡散ポンプ42による排気が必要な程度まで到達したかどうか判断する(S4)。到達していない場合には、油回転ポンプによる排気を続行する。
【0053】
油回転ポンプによる排気で油回転ポンプによる排気が、油拡散ポンプによる排気が必要な程度まで到達した場合、シーケンス中断スイッチ25(図1参照)がオンしているかどうかチェックする(S5)。このステップS5が本発明で追加した部分である。スイッチ25がオンしている場合には、油回転ポンプ41による低真空排気を続行する。
【0054】
ここでスイッチ25がオフになると、油回転ポンプ21の仕切り弁43を閉じて(S6)、油拡散ポンプ42の仕切り弁44を開く(S7)。そして、ゴニオメータ15の真空度が排気完了段階まで到達したかどうか判断する(S8)。到達していない場合は油拡散ポンプ42による排気を続行する。ゴニオメータ15の真空度が排気完了段階まで到達した場合には、ゴニオメータ15の排気を完了する(S9)。この段階では、全ての仕切り弁が閉じている。
【0055】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば以下の効果が発生する。
1)Y軸傾斜機構を備えたことによって、結晶性試料の方位合わせを行なうことが可能になった。
2)試料保持部をベリリウム製にしたので、エネルギー分散X線分析を行なっても、試料以外からのX線によるバックグラウンドが低減した。
3)ゴニオメータ内部及びホルダ内部を予め不活性ガスで置換せず、真空排気状態で試料気密室とゴニオメータ内部を接続することが可能になったので、大気暴露を確実に防止したままで顕微鏡鏡筒に試料を挿入することが可能になった。
【符号の説明】
【0056】
1 グローブボックス
2 試料気密室試料
3 試料
4 シールキャップ
5 リークバルブ
6 板バネ
7 シール
8 つまみ
9 ロッド
11 仕切り弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を顕微鏡の鏡筒に挿入する試料ホルダシステムにおいて、
試料をその内部に保持する気密室と、該気密室とロッドを介して接続されたシールキャップをグローブボックス内に設け、
前記気密室とシールキャップがグローブボックスに入った状態でシールキャップごと試料ホルダをグローブボックスから取り出し、
前記気密室に試料を格納して、気密室以外は大気状態にし、
前記試料ホルダからシールキャップを外して電子顕微鏡ゴニオメータにホルダをセットし、
真空排気シーケンスを制御するための排気制御手段を設け、
該排気制御手段により前記気密室の気圧が一定の状態で、ゴニオメータ内を真空引きしてその内部が所定の低真空状態になるまで排気し、
その内部が所定の低真空状態になったら、前記排気制御手段により前記気密室の仕切り弁を開いて気密室を前記低真空状態にし、
その後、前記排気制御手段により前記ゴニオメータ及び気密室を高真空状態にし、
その後、試料をゴニオメータの先端部まで移送して鏡筒に試料ホルダを挿入する、
ようにしたことを特徴とする試料ホルダの排気方法。
【請求項2】
前記排気制御手段としてスイッチを用い、該スイッチはオン状態では試料及び試料ホルダが低真空状態になるように前記試料及び試料ホルダの排気を制御し、前記試料及び試料ホルダが低真空状態になったら、前記気密室の仕切り弁が開き、前記スイッチがオフになったら、前記試料及び試料ホルダを高真空状態になるように排気することを特徴とする請求項1記載の試料ホルダの排気方法。
【請求項3】
前記試料及び試料ホルダを低真空状態になるまで排気するのに、油回転ポンプを用い、前記スイッチがオフになったら、前記試料及び試料ホルダを高真空になるまで排気するのに、油拡散ポンプを用いることを特徴とする請求項2記載の試料ホルダの排気方法。
【請求項4】
試料を顕微鏡の鏡筒に挿入する試料ホルダシステムにおいて、
試料をその内部に保持する気密室と、該気密室とロッドを介して接続されたシールキャップが配置されたグローブボックスと、
前記気密室とシールキャップが前記グローブボックスに入った状態で前記シールキャップごと試料ホルダをグローブボックスから取り出す取り出し手段と、
前記気密室に試料を格納して、気密室以外は大気状態にし、前記ホルダからシールキャップを外して電子顕微鏡ゴニオメータにホルダをセットし、真空排気シーケンスを制御するための排気制御手段と、
を設け、
該排気制御手段により前記気密室の気圧が一定の状態で、ゴニオメータを真空引きしてその内部が所定の低真空状態になるまで排気する第1の排気手段と、
その内部が所定の低真空状態になったら、前記排気制御手段により前記気密室の仕切り弁を開いて気密室を前記低真空状態にし、
その後、前記排気制御手段によりゴニオメータ及び気密室を高真空状態にする第2の排気手段と、
その後、試料をゴニオメータ先端部まで移送して鏡筒にホルダを挿入する挿入手段と、
を有することを特徴とする試料ホルダの排気装置。
【請求項5】
前記試料ホルダにX軸傾斜機構に加えてY軸傾斜機構を設けたことを特徴とする請求項4記載の試料ホルダの排気装置。
【請求項6】
前記試料ホルダの材質としてベリリウムを用いることを特徴とする請求項4又は5記載の試料ホルダの排気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−138233(P2012−138233A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289250(P2010−289250)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】