説明

試料ホルダ及びマルチビームシステム

【課題】本発明は試料ホルダ及びマルチビームシステムに関し、プリティルトホルダを用いて薄膜加工とSTEM観察を試料の乗せ替え無しに行なうことができる試料ホルダを提供することを目的としている。
【解決手段】透過電子検出器25を電子光学系の電子ビームが試料23を透過する延長線上に備え、加工状況を2次電子像と走査透過電子像を少なくとも2種類以上同時或いは交互に観察可能になるように試料配置する試料ホルダを有するマルチビームシステムに用いる試料ホルダであって、所定の厚みまで加工した試料を固定するメッシュ23bと、該メッシュに加工した試料をセットするチップオンカートリッジ30と、該チップオンカートリッジが取り付けられる試料ホルダ部40とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料ホルダ及びマルチビームシステムに関し、更に詳しくは薄膜加工とSTEM観察を試料の乗せ替えなしに行なえるようにした試料ホルダ及びマルチビームシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(TEM)においては、電子銃からの電子線が試料に照射され、試料を透過した電子線によって形成された透過型電子顕微鏡像(TEM像)や回折像は、電子線光軸上に配置された蛍光板等によってTEM像観察される。
【0003】
このような透過型電子顕微鏡で観察される試料は、照射電子線が透過するように薄く作製される。その試料作製装置として集束イオンビーム(FIB)加工装置が用いられており、図3は集束イオンビーム加工装置を用いた試料作製手順を示した図である。
【0004】
この場合、先ず(a)に示すように、試料素材(例えば半導体基板)からL字状に切り出された試料ブロック1は、C字状に形成された半切りの単孔メッシュ2に貼り付けられる。試料ブロック1は、2mm程度と小さいため、試料作製者はピンセットで試料ブロック1を摘んで単孔メッシュ2に貼り付ける。こうして、試料ブロック1と単孔メッシュ2によって試料3が形成される。
【0005】
次に(b)に示すように、試料3はチップオンカートリッジ4にセットされる。この際、試料3は板バネ5によって押しつけられてチップオンカートリッジ4に固定される。単孔メッシュ2は3mm程度と小さく、このため試料3は小さいので、試料作製者はピンセットで試料3を摘んでチップオンカートリッジ4にセットする。
【0006】
次に(c)に示すように、チップオンカートリッジ4はFIB加工装置用試料ホルダ6にセットされる。チップオンカートリッジ4の長さは5cmほどあるので、試料作製者はFIB加工装置用試料ホルダ6はチップオンカートリッジ4を4個セットできるように構成されている。
【0007】
次に、加工装置用試料ホルダ6はFIB加工装置(図示せず)に装着される。そして、集束イオンビームが試料3の試料ブロック1上で走査され、試料ブロック1に対してFIB加工(薄膜加工)が行われる。この薄膜加工により、(d)に示すように薄膜部分1aが試料ブロック1に形成される。
【0008】
全ての試料ブロック(この場合は4個の試料ブロック)に対するFIB加工が終了すると、試料作製者は、FIB加工装置からFIB加工装置用試料ホルダ6を取り出す。そして試料作製者は、FIB加工装置用試料ホルダ6から1個のチップオンカートリッジ4を手で摘んで取り外し、そのチップオンカートリッジ4を図4の(a)に示すようにTEM用試料ホルダ導入部7の先端にセットする。TEM用試料ホルダ導入部7は棒状に形成されており、チップオンカートリッジ4は導入部7の先端に着脱可能に取り付けられる。
【0009】
従来のこの種の装置としては、試料観察装置又はイオンビーム照射装置に装着される試料ホルダであって、棒状の導入部と、一端と他端とを有する取付部であって、その一端が前記導入部の先端に着脱可能に取り付けられる取付部と、前記取付部の他端に着脱可能に取り付けられる試料保持部であって、試料を固定するための板バネを有する試料ホルダが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0010】
また、仕上げ加工に使用するイオンビームのエネルギーを低くすると共に、試料への入射角度を試料形状に合わせて最適化し、STEM像の着目要素の変化をモニタして加工の終了時点を検出する荷電ビーム装置が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4351103号公報(段落0008〜0011、図4)
【特許文献2】特開2007−193977号公報(段落0011〜0016、図1,図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の装置では、薄膜加工終了後にSTEM観察専用ホルダに載せ替えを行なうようになっている。そのため、薄膜加工終了した試料は、一旦真空外に取り出し、STEM用ホルダに載せ替えた後に、再度チャンバ内にセットし、STEM観察を行うようになっている。この場合において、試料は直径3mm以下であり、煩雑な操作となる。煩雑な操作のため、試料を落下させたり、試料を破損したりする誤操作が頻繁に発生する。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、試料取り付けの煩雑さを回避し、試料を落下させたり、破損したりすることのない試料ホルダ及びマルチビームシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した課題を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
(1)請求項1記載の発明は、電子光学系とイオン光学系を同一チャンバに備えるマルチビームシステムにおいて、TEM或いはSTEM観察用の試料として薄膜加工を行なう場合に、透過電子検出器を電子光学系の電子ビームが試料を透過する延長線上に備え、加工状況を2次電子像と走査透過電子像を少なくとも2種類以上同時或いは交互に観察可能になるように試料配置する試料ホルダ部を有するマルチビームシステムに用いる試料ホルダであって、
所定の厚みまで加工した試料を固定するメッシュと、
該メッシュに固定された試料をセットするチップオンカートリッジと、
該チップオンカートリッジが取り付けられる試料ホルダ部とから構成され、
前記試料ホルダ部に対して前記チップオンカートリッジが所定角度傾斜していることを特徴とする。
【0015】
(2)請求項2記載の発明は、電子光学系とイオン光学系を同一チャンバに備えるマルチビームシステムにおいて、該マルチビームシステムは、電子光学系とイオン光学系とは一定の角度αでチャンバに固定され、相互の光軸はコインシデントで交差し、そのコインシデントポイントに請求項1記載の試料ホルダが配置されて、この配置された試料にイオンビーム加工とSTEM像観察を行なうように構成されたことを特徴とする。
【0016】
(3)請求項3記載の発明は、前記透過電子検出器はステージを介して電子線光軸の延長線上に配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以下に示すような効果を有する。
(1)請求項1記載の発明によれば、所定の厚みまで加工した試料を固定するメッシュと、該メッシュに加工した試料をセットするチップオンカートリッジと、該チップオンカートリッジが取り付けられる試料ホルダと、該チップオンカートリッジを取り付けた試料ホルダをセットするステージとから構成され、前記試料ホルダに対して前記チップオンカートリッジが所定角度傾斜して取り付けられているので、試料の加工と加工された試料の観察を同時に行なうことができ、試料取り付けの煩雑さを回避し、試料を落下させたり、破損したりすることのない試料ホルダを提供することができる。
【0018】
(2)請求項2記載の発明によれば、請求項1に記載した試料ホルダを用いることで、試料取り付けの煩雑さを回避し、試料を落下させたり、破損したりすることのないマルチビームシステムを提供することができる。
【0019】
(3)請求項3記載の発明によれば、FIBで加工された試料をSTEMを用いて直接観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の要部の構成例を示す図である。
【図2】試料の取り付け手順を示す図である。
【図3】集束イオンビーム装置を用いた従来の試料作製手順を示す図である。
【図4】図3に示す試料を透過型電子顕微鏡にセットする手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明の要部の構成例を示す図である。図において、20はEOS(電子光学系)、21はIOS(イオン光学系)である。EOSとしては、例えば走査透過型電子顕微鏡(STEM)が用いられ、IOSとしては、例えば集束イオンビーム装置(FIB)が用いられる。これらEOS20とIOS21は同一チャンバ(図示せず)内に備えられ、マルチビームシステムを構成している。
【0022】
23はEOS20の光軸上に配置された試料である。該試料23の構成は、図3に示すものと同様である。そして、該試料23は幅数10μm以下に事前に加工されたものである。この試料23に対してEOS20から入射電子が照射され、IOS21からイオンビームが照射されるようになっている。23aは、IOS21で形成された薄膜部分である。
【0023】
22は試料23から放射される2次電子を検出する2次電子検出器である。24は試料23を保持するステージである。該ステージ24の真ん中には、透過電子線が通過するための透過電子線通路24aが穿たれている。25は試料23を透過した透過電子を検出するSTEM検出器である。該STEM検出器25としては、例えば電子線を電気信号に変換する変換器、例えば光電子像倍管(PMT)が用いられる。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0024】
EOSとIOSを同一チャンバに備えるマルチビームシステムにおいて、TEM或いはSTEM観察用の試料として、薄膜加工を行なう場合に透過電子検出器25をEOS20の電子ビームが試料23を透過する延長線上に備え、加工状況を2次電子像(反射電子像)と走査透過像を少なくとも2種類以上同時あるいは交互観察可能になるように試料配置するための試料ホルダを提供するようになっている。
【0025】
マルチビームシステムにおいては、EOS20とIOS21は一定の角度αとなるようにチャンバに固定されており、相互の光軸はコインシデントポイントで交差するようになている。ここで、コインシデントポイントとは、違う角度で同じポイントを見ることができるポイントのことである。そのコインシデントポイントに試料23を配置し、イオンビーム加工、SEM観察を行なう構成となっている。
【0026】
透過電子検出器25は、ステージ24を介して電子線光軸の延長線上に配置されるため、例えば厚み50μm程度以下に事前加工された試料23を予めEOS20とIOS21のなす角αで傾斜した試料ホルダがあれば薄膜加工時に同時に透過電子像観察が可能となる
図2は試料の取り付け手順を示す図である。本発明は、マルチビームのステージ42(後述)と試料固定部41(後述)から構成されている。ステージ42は試料ホルダ部40と噛み合っている(詳細後述)。この場合において、試料固定部41は、光軸垂線より角αだけ傾いている。
【0027】
S0はメッシュに事前加工された試料と、その試料を保持するメッシュを示す図である。図において、23は事前加工された試料で、この試料部分はメッシュ23bにエポキシ等で固定されている。この場合において、試料23は事前に機械研磨などで厚み数10μm以下に加工しておく。メッシュ23bには真鍮やモリブデンなどのメッシュに事前加工された試料23が貼り付けられている。23aは予め試料23に形成された薄膜部分である。
【0028】
このように形成された試料及びメッシュは、S1に示すチップオンカートリッジ30に取り付けられるようになっている。このチップオンカートリッジ30には試料23が取り付けられるようになっており、S2に示すように試料23がこのチップオンカートリッジ30に取り付けられるようになっている。試料23及びメッシュ23bは、チップオンカートリッジ30の予定の位置に載置される。
【0029】
ここで、チップオンカートリッジ30には試料23を押さえるための板バネ31が取り付けられており、この板バネ31をS3に示す固定ネジ33で固定すれば、試料23はチップオンカートリッジ30に固定されることになる。S4は試料ホルダを示している。40は試料23を保持する試料ホルダ部、41は該試料ホルダ40に取り付けられたチップオンカートリッジ30を取り付ける取付部である。該取付部41は、前記した試料固定部41を構成する。
【0030】
42は試料ホルダ部40が嵌合されたステージである。該ステージ42を駆動することで、試料ホルダ部40は2次元又は3次元で移動することができる。30は試料がセットされたチップオンカートリッジである。43は試料23を透過した透過電子線が通過するための電子線通路である。
【0031】
S5はチップオンカートリッジ30が取付部41に取り付けられた状態を示している。図に示すようにチップオンカートリッジ30が試料ホルダ40の取付部41に取り付けられた状態で、電子線光軸Zに対して角度αでFIBからのイオンビームが試料23に照射されるようになっている。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0032】
先ず、メッシュ23bに試料23を貼り付けてS0に示す状態にする。この試料23をチップオンカートリッジ30の装着部分に装着し、この試料23を押さえている板バネ31を固定ネジ33で固定する。これで、試料23はチップオンカートリッジ30に確実に固定された状態となる。
【0033】
次に、このチップオンカートリッジ30を試料ホルダ部40の取付部41に装着する。具体的には、チップオンカートリッジ30を取付部41に挿入することで、チップオンカートリッジ30は取付部41に固定される。この状態で、光軸Zから角度αだけ傾斜したFIBからイオンビームを試料23に照射して試料23をエッチングし、薄膜加工し、図3の1aに示すような薄膜を形成する。該薄膜は薄膜部分23aをエッチングして更に薄くした膜である。
【0034】
この薄膜に対してSTEMから電子線を照射し、薄膜を透過させる。透過された電子は、図示しない透過電子検出器により検出され、画像処理がなされる。画像処理がなされた試料の透過像は、図示しない表示装置に表示され、STEM像を得ることができる。なお、FIBで試料表面をエッチングしている時の画像も、試料近傍に配置された2次電子検出器22(図1参照)で検出され、表示装置に表示させて見ることができる。
【0035】
このように、本発明によれば、試料ホルダ40に取り付けられている試料にFIBでエッチングしたものをそのまま透過像として見ることができるので、試料取り付けの煩雑さを回避し、試料を落下させたり、破損したりすることのない試料ホルダ及びマルチビームシステムを提供することができる。
【0036】
以上、詳細に説明したように、本発明によればマルチビームシステムにおいて、プリティルトホルダを用いて薄膜加工とSTEM観察を試料の乗せ替え無しに行なうことができ、実用上の効果が極めて大きい。
【符号の説明】
【0037】
20 電子光学系
21 イオン光学系
22 2次電子検出器
23 試料
23a 薄膜部分
24 ステージ
25 STEM検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子光学系とイオン光学系を同一チャンバに備えるマルチビームシステムにおいて、TEM或いはSTEM観察用の試料として薄膜加工を行なう場合に、透過電子検出器を電子光学系の電子ビームが試料を透過する延長線上に備え、加工状況を2次電子像と走査透過電子像を少なくとも2種類以上同時或いは交互に観察可能になるように試料配置する試料ホルダ部を有するマルチビームシステムに用いる試料ホルダであって、
所定の厚みまで加工した試料を固定するメッシュと、
該メッシュに固定された試料をセットするチップオンカートリッジと、
該チップオンカートリッジが取り付けられる試料ホルダ部とから構成され、
前記試料ホルダ部に対して前記チップオンカートリッジが所定角度傾斜していることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項2】
電子光学系とイオン光学系を同一チャンバに備えるマルチビームシステムにおいて、該マルチビームシステムは、電子光学系とイオン光学系とは一定の角度αでチャンバに固定され、相互の光軸はコインシデントポイントで交差し、そのコインシデントポイントに請求項1記載の試料ホルダが配置されて、この配置された試料にイオンビーム加工とSTEM像観察を行なうように構成されたマルチビームシステム。
【請求項3】
前記透過電子検出器はステージを介して電子線光軸の延長線上に配置されたことを特徴とする請求項2記載のマルチビームシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−187267(P2011−187267A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50185(P2010−50185)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】