説明

試料ホルダ及び試料固定方法

【課題】液中SPM観察において、試料を簡便且つ強固に固定することができ、なおかつ観察用液体の種類を問わずに使用可能な試料ホルダを提供する。
【解決手段】上面に試料固定部12を有する本体11を備え、試料固定部12に接着剤によって固定された試料の上に観察用液体を載せて走査型プローブ顕微鏡による観察用液体中での試料の観察を行うための試料ホルダ10において、本体11の上面に試料固定部12を囲むように形成され、試料固定部12に固定された試料によってその上部開口が閉鎖される環状の溝であって、試料固定部12から流出した接着剤を受容するための接着剤受容溝13と、本体11上面に接着剤受容溝13の周囲を囲むように形成された環状の溝であって、試料上から流出した観察用液体を受容するための観察用液体受容溝14とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡を用いた液中での試料観察に用いられる試料ホルダ、及び該試料ホルダに試料を固定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルムに代表される薄片材料の表面性状は、該材料の湿潤性、塗工性、生体適合性、及び各種材料(金属材料やポリマー材料等)への付着性といった種々の特性に大きく影響を及ぼす。そのため、近年では、末端官能基の修飾や分子の集合状態のコントロールなどにより薄片材料の表面性状をナノスケール(単一分子スケール)で改質する技術が進歩しており、これに伴い、ナノスケールでの表面性状の評価・解析技術の重要性が増している。
【0003】
ところで、従来、試料表面の微細な表面性状を高分解能で観察するものとして走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:SPM)が広く知られている。走査型プローブ顕微鏡は、カンチレバーの先端に設けられた微小な探針(プローブ)により試料の表面を走査しながら試料との間の相互作用を検出することで、その試料表面の形状や物理量を検出して画像化することができる顕微鏡であり、前記相互作用として、探針と試料との間に流れる電流を利用する走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope:STM)や、探針と試料との間に作用する原子間力を利用する原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)などがある。
【0004】
走査型プローブ顕微鏡は、上述のように探針と試料表面の間に働く相互作用を画像化するものであるため、真空中及び大気中のみならず、液体中に配置された試料も観察することができるという特徴を有している。走査型プローブ顕微鏡を用いた液中での試料観察では、一般にシャーレ状の試料ホルダに観察に用いる液体(以下、「観察用液体」と呼ぶ)を収容し、該観察用液体の中に試料とカンチレバーを浸した状態で探針による試料表面の走査が行われる。また、試料を板状の試料ホルダに載せ、観察用液体をカンチレバーが取り付けられた台座と前記試料ホルダの間に表面張力によって保持させた状態で観察を行う場合もある。
【0005】
このような走査型プローブ顕微鏡によって上述のポリマーフィルム等の薄片材料を高分解能で液中観察することができれば、当該材料の耐薬品性などを評価する上で非常に有効な手段となる。しかしながら、走査型プローブ顕微鏡による薄片試料の液中観察を行うためには、観察中に試料が液中で浮遊しないよう該試料を試料ホルダ上に安定して固定する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"Agilent 5100 AFM/SPMマイクロスコープ データシート", [online], 平成23年5月24日, [平成23年5月24日検索],インターネット<URL:http://www.chem.agilent.com/Library/datasheets/Public/5989-6093JAJP.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような走査型プローブ顕微鏡を用いた液中での試料観察において試料を固定する方法としては、該試料を接着剤などによって試料ホルダに直接固定する方法がある。この方法は、試料を簡単に固定できるという利点を有するものの、観察用液体として接着剤を溶解させるような液体を使用した場合には観察中に試料が外れるおそれがある。そのため、この方法では有機溶媒等の一部の液体を観察用液体として使用できないという問題がある。
【0008】
また、他の固定方法としては、押さえバネ等を備えた治具によって試料を試料ホルダ上に機械的に固定する方法がある(例えば、非特許文献1を参照)。この方法では、まず、試料ホルダ上に載置した試料の上にOリングを載せ、更に、抑えバネを備えた治具等によって該Oリングを上方から押圧することで試料を試料ホルダに固定する。しかしながら、この方法では試料に機械的応力が加わるために試料の変形を引き起こしやすいという問題がある。また、この方法では前記Oリングの穴の中に観察用液体を収容した状態で観察が行われるが、該観察用液体として有機溶媒を使用した場合にはOリングが溶解するおそれがある。また、複数の小型部品を使用するため、試料の固定作業が繁雑になるという問題もある。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、走査型プローブ顕微鏡を用いた液中での試料観察において、試料を簡便且つ強固に固定することができ、なおかつ観察用液体の種類を問わずに使用することのできる試料ホルダ、及び該試料ホルダへの試料の固定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る試料ホルダの第1の態様のものは、試料固定部を上面に有する本体を備え、該試料固定部に接着剤によって固定された試料の上に観察用液体を載せて走査型プローブ顕微鏡による前記観察用液体中での前記試料の観察を行うための試料ホルダであって、
前記本体の上面に前記試料固定部を囲むように形成され、該試料固定部に固定された試料によってその上部開口が閉鎖される環状の溝であって、前記試料固定部から流出した接着剤を受容するための接着剤受容溝、
を有することを特徴としている。
【0011】
なお、前記試料は接着剤によって試料固定部に直接固定してもよいが、試料ホルダとは別に用意した支持部材(例えば平板状の基板)の上に試料を固定し、該支持部材を接着剤によって試料固定部に固定するようにしてもよい。従って、本発明において「試料によってその上部開口が閉鎖される」とは、試料自体によって該上部開口が閉鎖される場合のほかに、試料を固定した支持部材によって該上部開口が閉鎖される場合も含まれる。
【0012】
上記構成から成る試料ホルダによれば、前記試料固定部に接着剤を載せて、その上に試料を載置した際に、前記試料固定部から流出した余剰な接着剤が前記の接着剤受容溝で受容されると共に、該溝の上部開口が試料によって閉鎖されて接着剤受容溝が外部空間から隔離される。このため、試料固定部上の試料に観察用液体を載せた際に、該試料の周縁部から観察用液体が落下した場合でも、該観察用液体が接着剤と接触するのを防止することができる。従って、観察用液体として接着剤を溶解させる液体を使用した場合でも、観察中に試料が試料ホルダから外れるおそれがない。
【0013】
本発明に係る試料ホルダは、更に、前記本体上面に前記接着剤受容溝の周囲を囲むように形成された環状の溝であって、前記試料上から流出した前記観察用液体を受容するための観察用液体受容溝を有するものとすることが望ましい。
【0014】
このような構成によれば、試料固定部上の試料に観察用液体を載せた際に、該試料から落下した余剰な観察用液体を前記の観察用液体受容溝で受容することができる。このように、余剰な接着剤と観察用液体をそれぞれ接着剤受容溝と観察用液体受容溝に分離して受容することにより、接着剤と観察用液体との接触をより確実に防止することができる。
【0015】
また、本発明に係る試料ホルダの第2の態様のものは、試料及び観察用液体を収容可能な凹部と該凹部の底に設けられた試料固定部とを有する本体を備え、該試料固定部に接着剤によって試料を固定した上で前記凹部に観察用液体を収容して走査型プローブ顕微鏡による前記観察用液体中での前記試料の観察を行うための試料ホルダであって、
前記凹部の底に前記試料固定部を囲むように形成され、該試料固定部に固定された試料によってその上部開口が閉鎖される環状の溝であって、前記試料固定部から流出した接着剤を受容するための接着剤受容溝、
を有することを特徴としている。
【0016】
上記構成から成る試料ホルダによれば、前記試料固定部に接着剤を載せ、その上に試料を載置した際に、前記試料固定部から流出した余剰な接着剤が前記の溝で受容され、更に該溝が試料によって覆われる。そのため、前記凹部に観察用液体が収容された際にも、該観察用液体が接着剤と接触するのを防止することができる。従って、観察用液体として接着剤を溶解させる液体を使用した場合でも、観察中に試料が試料ホルダから外れるおそれがない。
【0017】
なお、上記本発明に係る試料ホルダは、前記本体がフッ素樹脂から成るものとすることが望ましい。
【0018】
フッ素樹脂は、殆どの物質に対して不活性であるため、観察用液体として有機溶媒を使用した場合でも試料ホルダが溶解されるのを防ぐことができる。また、フッ素樹脂は一般に接着剤との親和性が低いため、試料ホルダをフッ素樹脂で構成すれば、試料載置部に載せた接着剤(及び試料)をピンセット等を用いて容易に取り除くことが可能となる。これにより、使用後の後始末や試料ホルダの再利用が容易となる。なお、フッ素樹脂の種類は特に限定されるものではないが、加工性を考慮すると、ダイフロン(登録商標)を用いることが望ましい。
【0019】
また、本発明に係る試料固定方法は、薄片状の試料を前記試料ホルダに固定する方法であって、
a) 前記試料を平板状の基板の上に静電的に付着させるステップと、
b) 前記基板を加熱することにより前記試料を前記基板に融着させるステップと、
c) 前記基板を接着剤によって前記試料固定部に固定するステップと、
を有することを特徴としている。
【0020】
このような方法によれば、試料を静電相互作用によって基板上に平坦に付着させた上で該試料を基板に熱融着することにより、薄片状試料の平坦性と固定安定性の両方を確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上で説明した通り、本発明に係る試料ホルダによれば、試料を簡単に固定することができ、且つ観察用液体として有機溶媒等を使用した場合でも、使用中に試料が試料ホルダから外れるのを防止することができる。また、本発明に係る試料固定方法によれば、ポリマーフィルム等の薄片状試料を試料ホルダの上に平坦に固定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る試料ホルダの一実施例を示す図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図2】上記試料ホルダに接着剤を載せた状態を示す模式図。
【図3】上記試料ホルダに試料を載せた状態を示す模式図。
【図4】上記試料ホルダ上の試料に観察用液体を載せた状態を示す模式図。
【図5】上記試料ホルダ上への試料の固定方法の他の例を示す模式図。
【図6】上記試料ホルダを用いた液中での試料観察方法を説明する図。
【図7】本発明に係る試料ホルダの別の実施例を示す図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図8】上記試料ホルダを用いた液中での試料観察方法を説明する図。
【図9】本発明に係る試料ホルダの更に別の実施例を示す図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施例による試料ホルダの構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【0024】
本実施例に係る試料ホルダ10の本体11は、ダイフロン(三フッ化塩化エチレン樹脂)から成る直径18mm、高さ5mmの円盤状の部材であり、その上面の中央部には二つの環状の溝が同心状に形成されている。このうち、内側の溝(以下「内溝13」と呼ぶ)は、溝の幅が1.5mm、深さが3mmの円環状の溝であって、該円環は内周が直径5mm、外周が直径8mmとなっている。一方、外側の溝(以下「外溝14」と呼ぶ)は、溝の幅が2.5mm、深さが3mmでの円環状の溝であって、該円環は内周が直径10mm、外周が直径15mmとなっている。
【0025】
試料ホルダ10上面の内溝13で囲まれた領域には、エポキシ樹脂から成る接着剤によって試料が固定される(以下、この領域を「試料固定部12」と呼ぶ)。なお、試料は、内溝13全体を覆うことができ、且つ外溝14全体を覆ってしまうことのない寸法及び形状とし、試料の中央部を試料固定部12に載せた際に、本体11上面の内溝13と外溝14の間の間隙部が前記試料の下面に当接するようにする。試料を試料ホルダ10に接着する際には、まず、図2に示すように、試料ホルダ10の試料固定部12に接着剤21を載せて、その上に試料Sを載置する。その後、試料Sが水平となるように該試料Sを試料ホルダ10に軽く押し付けると試料固定部12と試料Sの間から余剰な接着剤21がはみ出してくるが、この余剰な接着剤21は図3に示すように内溝13に収容される。その後、試料ホルダ10上に固定された試料Sの上に観察用液体22を滴下する(図3)。このとき、有機溶媒等の表面張力の小さい試料を使用した場合には、試料Sの表面で観察用液体22が広がって試料Sの端からこぼれ落ちる場合があるが、この余剰な観察用液体22は図4に示すように外溝14に収容される。
【0026】
このように本実施例に係る試料ホルダ10によれば、余剰な接着剤21と余剰な観察用液体22がそれぞれ試料ホルダ10の内溝13と外溝14に分離して収容されるため、観察用液体22が接着剤21に接触することがない。このため、観察用液体22として接着剤21を溶かすような液体(例えば有機溶媒)を使用した場合でも、接着剤21が溶解して観察用液体に混入したり、観察中に試料Sが試料ホルダ10から外れたりするのを防止することができる。また、上記のように余剰の観察用液体22が外溝14に収容される構成としたことにより、観察用液体22が走査型プローブ顕微鏡の上に落下するのを防止することができるため、走査型プローブ顕微鏡を構成する電子部品を観察用液体22から保護することもできる。
【0027】
なお、試料が板状や塊状である場合には、上記のように該試料を試料ホルダ10に接着剤で直接固定することができるが、試料がポリマーフィルムのような薄片状のものである場合には、該試料を試料ホルダ10に接着剤で直接固定するのは困難である。そこで、こうした薄片状(フィルム状)の試料を用いる場合には、図5に示すように、予め試料Sを板状の基板30の上に平坦に貼りつけた上で該基板30を接着剤21によって試料ホルダ10上に固定することが望ましい。この場合、試料Sとしては熱可塑性樹脂から成るフィルムを使用し、基板30としては該フィルムを静電的に付着させることのできるものを使用する。このような素材としては例えばマイカ(雲母)から成るものを用いることができる。以下、このような基板30への試料Sの固定方法について説明する。
【0028】
まず薄片状の試料Sを、該試料Sと基板30の間の静電相互作用によって基板30上に付着させる。このとき試料Sをその端縁からゆっくりと基板30の上面に乗せていくことにより、該試料Sを基板30上に平坦に付着させることができる。続いて、試料Sを付着させた基板30をホットプレート等に載せて加熱したのち空冷することで、試料Sを基板30に融着させる。このとき、試料Sが完全に融解することのないよう、加熱温度は試料Sを構成する素材の融点よりもやや低い温度とする。以上のように、薄片状の試料Sをまず静電相互作用によって基板30に付着させた後、熱融着させるという二段階の工程を行うことにより、薄片状の試料Sを基板30上に平坦且つ強固に固定することが可能となる。以上のようにして薄片状の試料Sが固定された基板30は、図5で示したように接着剤21によって試料ホルダ10に固定される。
【0029】
図6に、原子間力顕微鏡を用いて試料ホルダ10上の試料Sを観察する際の要部構成を模式的に示す。原子間力顕微鏡は、試料SをX−Y−Z軸方向に移動させるための3次元スキャナ41と、カンチレバー42のZ軸方向の変位を検出する変位検出系を備えている。3次元スキャナ41の上面(すなわち試料台)には試料ホルダ10が載置され、顕微鏡本体の3次元スキャナ41と対応する位置にはカンチレバー42を固定した台座44が取り付けられる。3次元スキャナ41はピエゾ素子を含む略円筒形状体であり、外部から印加される電圧によってX軸、Y軸、及びZ軸方向にそれぞれ所定範囲で自在に変位する。変位検出系は、カンチレバー42の先端付近にレーザー光を照射するためのレーザー光源45と、カンチレバー42で反射した該レーザー光を検出するための光検出器46等を有し、光てこの原理を利用してカンチレバー42の撓み角を検出することにより、カンチレバー42の上下動を検出することができるものである。
【0030】
上記のような原子間力顕微鏡を用いた液中での試料観察においては、観察開始前に予め上述の手順によって試料ホルダ10に試料S(又は試料Sを固定した基板30)が固定され、該試料ホルダ10が3次元スキャナ41上に取り付けられる。なお、観察中に試料ホルダ10が3次元スキャナ41上で動くことがないよう、試料ホルダ10の底面に鉄等の磁性体から成る板などを取り付けておき、該板を3次元スキャナ41の上面に埋め込まれた磁石(図示略)に吸着させて固定できるようにすることが望ましい。また、このような磁力による固定の代わりに、着脱可能な粘着剤や両面テープ等によって試料ホルダ10を3次元スキャナ41に固定するようにしてもよい。
【0031】
試料ホルダ10を3次元スキャナ41に固定した後は、試料Sと台座44の間に表面張力によって観察用液体22を保持させ、観察用液体22の中で、カンチレバー42の先端に設けられた探針43によって試料Sの表面を走査することで試料表面の観察を行う。探針43の先端を試料Sのごく近傍(数nm以下の間隙)に近づけると、探針43の先端と試料Sの原子との間に原子間力(引力又は反発力)が作用する。この状態で、試料表面に沿って探針43と試料SとがX−Y平面内で相対移動するようにスキャナ41による走査を行いつつ、上記原子間力を一定に保つように探針43の試料Sからの距離(Z軸方向高さ)をフィードバック制御する。このときのZ軸方向のフィードバック量は試料Sの表面の凹凸に応じたものとなるから、これに基づいて試料S表面の3次元画像を得ることができる。
【0032】
以上のように、本実施例に係る試料ホルダによれば、接着剤によって試料、又は薄片状試料を固定した基板(以下、「試料等」と呼ぶ)を試料ホルダに固定できるため、機械的固定を行うものに比べて試料の固定操作を簡略化することができ、且つ試料の変形も防止することができる。また、接着剤と観察用液体が接触することがなく、観察用液体による接着剤の溶解を防止することができるため、従来は困難であった有機溶媒中での試料の高分解能観察を行うことが可能となる。
【0033】
また、試料ホルダを構成するダイフロンは接着剤との親和性が低いため、原子間力顕微鏡による試料観察を行うには十分な固定安定性を確保できる一方で、試料観察の終了後はピンセット等を用いて試料等を引っ張ることにより試料等及び接着剤を容易に試料ホルダから取り除くことができる。従って、使用後の後始末が容易であると共に、試料ホルダの再利用が可能となる。また、ダイフロンは耐薬品性が高いため、観察用液体として有機溶媒を使用した場合でも有機溶媒によって試料ホルダが溶解されることがない。そのため、本実施例に係る試料ホルダは多数回に亘って繰り返し使用することができる。
【0034】
また、上述のように薄片状の試料を基板上に静電的及び熱的に固定した上で接着剤によって試料ホルダ上に固定する方法によれば、従来困難であった薄片状試料の平坦性確保が可能となる。そのため、このような固定方法を用いることにより、原子間力顕微鏡による薄片状試料の観察を従来よりも高分解能化することが可能となる。なお、こうした静電相互作用及び熱融着による薄片試料の基板への固定方法は、液中での試料観察に限らず、真空中又は大気中での試料観察においても有効である。なお、真空中や大気中での観察を行う場合には、必ずしも上記のような溝を備えた試料ホルダを使用する必要はなく、溝を有しない一般的な試料ホルダ上に該基板を接着して原子間力顕微鏡による観察を行うこともできる。
【0035】
なお、本発明に係る試料ホルダは、図7、8に示すようなシャーレ型のものとすることもできる。図7は前記シャーレ型の試料ホルダ50の構成例を示す図であり、図8はこの試料ホルダ50の使用状態を模式的に示した断面図である。なお、図8において上述した図6と同一の構成要素には同一符号を付して、特に必要がない限り説明を省略する。
【0036】
この例において、試料ホルダ50はダイフロンで構成された本体51の上面に試料S及び観察用液体22を収容可能な凹部54を備えており、該凹部54の底の上面には環状の溝53が形成されている。この溝53は上記図1で示した例における内溝13に相当するものであり、この溝53で囲まれた領域(試料固定部52)に試料S又は試料Sを固定した基板30(以下、「試料等」と呼ぶ)が固定される。なお、試料等は溝53全体を覆うことのできる寸法及び形状とする。
【0037】
この試料ホルダ50を使用する際には、まず、上記の例と同様に試料固定部52にエポキシ樹脂等から成る接着剤21を載せ、その上に試料等を載置する。このとき、試料等と試料固定部52の間からはみ出した接着剤は溝53に流れ込む。続いて、試料ホルダ50が原子間力顕微鏡の3次元スキャナ41上にセットされると共に凹部54が観察用液体22で満たされ、試料等及びカンチレバー42を観察用液体22に浸した状態で探針43による走査が行われる。なお、このとき溝53の上面は試料等の下面によって閉鎖されるため、溝53の内部には観察用液体22は殆ど進入しない。仮に少量の観察用液体22が進入したとしても、溝53の全体が観察用液体22で満たされない限りは試料固定部52まで観察用液体22が到達することはないため、観察中に試料等と試料固定部52の間の接着剤が溶解して試料等が試料ホルダ50から外れてしまうことはない。
【0038】
また、本発明に係る試料ホルダは、図9に示すような構成とすることもできる。これは、図1〜6で説明した試料ホルダ10から外溝14を除いたものに相当する。この試料ホルダ50も図1〜6で示した試料ホルダ10と同様に、本体61の上面に設けられた試料固定部62に接着剤によって試料等が固定され、試料とカンチレバーが固定された台座の間に表面張力によって観察用液体を保持させた状態で該試料の液中観察を行うためのものである。このような構成においても、試料固定部からはみ出した余剰な接着剤が溝63によって受容され、且つ該溝63が試料によって閉鎖されるため、試料上から落下した余剰な観察用液体が接着剤に接触するのを防ぐことができる。
【0039】
以上、実施例を用いて本発明を実施するための形態について説明を行ったが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で適宜変更が許容される。例えば、内溝13、外溝14、及び溝53、63の形状は、環状であればよく、上記のような円環状に限らず、例えば、多角形の環状としてもよい。また、上記実施例では本発明を原子間力顕微鏡に適用する例を示したが、それ以外の走査型プローブ顕微鏡にも適用し得ることは当然である。
【符号の説明】
【0040】
10、50、60…試料ホルダ
11、51、61…本体
12、52、62…試料固定部
13…内溝
14…外溝
53、63…溝
54…凹部
21…接着剤
22…観察用液体
30…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料固定部を上面に有する本体を備え、該試料固定部に接着剤によって固定された試料の上に観察用液体を載せて走査型プローブ顕微鏡による前記観察用液体中での前記試料の観察を行うための試料ホルダであって、
前記本体の上面に前記試料固定部を囲むように形成され、該試料固定部に固定された試料によってその上部開口が閉鎖される環状の溝であって、前記試料固定部から流出した接着剤を受容するための接着剤受容溝、
を有することを特徴とする試料ホルダ。
【請求項2】
更に、前記本体上面に前記接着剤受容溝の周囲を囲むように形成された環状の溝であって、前記試料上から流出した前記観察用液体を受容するための観察用液体受容溝、
を有することを特徴とする請求項1に記載の試料ホルダ。
【請求項3】
試料及び観察用液体を収容可能な凹部と該凹部の底に設けられた試料固定部とを有する本体を備え、該試料固定部に接着剤によって試料を固定した上で前記凹部に観察用液体を収容して走査型プローブ顕微鏡による前記観察用液体中での前記試料の観察を行うための試料ホルダであって、
前記凹部の底に前記試料固定部を囲むように形成され、該試料固定部に固定された試料によってその上部開口が閉鎖される環状の溝であって、前記試料固定部から流出した接着剤を受容するための接着剤受容溝、
を有することを特徴とする試料ホルダ。
【請求項4】
前記本体がフッ素樹脂から成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の試料ホルダ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の試料ホルダに薄片状の試料を固定する方法であって、
a) 前記試料を平板状の基板の上に静電的に付着させるステップと、
b) 前記基板を加熱することにより前記試料を前記基板に融着させるステップと、
c) 前記基板を接着剤によって前記試料固定部に固定するステップと、
を有することを特徴とする試料固定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate