説明

試料中の元素分析装置

【課題】 多大な手数及び時間を要することなく、COをCO2 に酸化させるCuO及びCO2 、H2 Oの除去に用いられる試薬の劣化を目視確認し、それら試薬の交換時期を適正化して廃薬品量の低減並びに分析精度の向上を実現できるようにする。
【解決手段】 加熱炉1内で試料3を加熱融解するときに発生するガス中に含まれるCOを酸化させる酸化部11及びこの酸化部11で発生するCO2 及びH2 Oを除去する脱CO2 部12及び脱水部13として、耐熱ガラス管内に、酸化銅、脱CO2 剤及び脱水剤と、CO、CO2 及びH2 Oとの反応により変色する指示薬を含浸または並存させた試薬を封入したものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄鋼や非鉄金属、セラミックスなどの素材中に微量に含まれている炭素(C)、窒素(N)、水素(H)、硫黄(S)、酸素(O)などの元素を分析する場合に用いられる試料中の元素分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の元素分析方法としては、例えば、鉄鋼中に微量に含まれているO,Nの定量分析に好適なものとして、不活性ガス中での加熱融解抽出法と赤外線吸収法および熱伝導度法とを組み合わせた方法、あるいは、Hの定量分析に好適なものとして、前記の不活性ガス中での加熱融解抽出法とカラム分離および熱伝導度法とを組み合わせた方法(以下、加熱融解抽出法というものを含む)が一般的に用いられ、また、鉄鋼中に微量に含まれるC,Sの定量分析に好適なものとして、酸素気流中での燃焼法と赤外線吸収法とを組み合わせた方法(以下、燃焼法というものを含む)が一般的に用いられている。
【0003】
前者の加熱融解抽出法は、不活性ガスを供給しながら加熱炉内で試料としての鉄鋼を加熱融解し、このときに発生するガス中に含まれる一酸化炭素(CO )は非分散型赤外線分析計(以下、NDIRという)において測定することでOを分析し、N2 ,H2 については熱伝導度分析計(以下、TCDという)で分析するものであり、また、後者の、燃焼法は、酸素気流を供給しながら加熱炉内で試料としての鉄鋼を燃焼させ、このとき発生するCO,CO2 およびSO2 を含む燃焼ガスをNDIRにおいて分析するものである。
【0004】
ところで、前者の加熱融解抽出法においてH2 を分析する場合は、加熱炉で発生したガス中のCOを除去する必要があり、また、N2 を分析する場合は、ガス中のCOおよびH2 を除去する必要があり、そのために、ガス中に含まれるCOおよびHを酸化銅(CuO)などにより一旦、二酸化炭素(CO2 )および水(H2 O)に酸化させた後、そのCO2 及びH2 Oを除去することが行われるが、このCO2 及びH2 Oの除去に用いる試薬として、従来では、シリカゲルにNaOHを含浸させたアスカライトおよび過塩素酸マグネシウムが用いられていた。
【0005】
また、後者の燃焼法においては、加熱炉に酸素気流を供給するにあたり、その酸素気流中に含まれるCO2 および水分(H2 O)を除去する必要があるとともに、加熱炉で発生した燃焼ガス中に含まれる水分(H2 O)を除去する必要があり、それらの除去に用いる試薬として、従来では、前述のアスカライトおよび過塩素酸マグネシウムが用いられていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記した加熱融解抽出法、燃焼法のいずれの場合も、COの酸化に用いられるCuOや、CO2 、H2 Oの除去に用いられる試薬の除去性能は経時的に劣化するものであり、元素分析の分析精度を高く維持するためには、それら試薬の交換時期を逸しないことが非常に重要である。しかしながら、従来の分析方法では、試薬の劣化を目視確認が困難なために、経験則等に基づいて試薬が劣化すると予測される分析(測定)回数を予め設定(推定)し、その設定回数を目安にして試薬の交換を行っていたが、この場合は、分析対象試料によってCuOおよび試薬の劣化の進行具合が異なるために、交換時期が曖昧であり、交換が早すぎてCuOや試薬を無駄に消費し廃CuOや廃薬品量が増えたり、あるいは、交換が遅れて分析精度の低下を招いたりするという問題があった。
【0007】
また、酸素の分析結果を用いて試薬の劣化を予測することも行われていたが、この場合は、酸素濃度が低いと試薬の一粒一粒の表面のみが劣化することになり、試薬全体の劣化の進行状況を的確に予測することがむずかしく、交換時期が曖昧になることは避けられない。
【0008】
さらに、加熱融解抽出法において、COをCO2 に酸化させるための酸化剤として用いられるCuOについては、CuO+CO→Cu+CO2 という酸化還元反応によって銅(Cu)に還元されるために、CuOの黒褐色からCuの赤褐色への色の変化がみられ、その変色程度によりCuOの劣化具合を確認することが可能であるものの、通常、CuOは約450℃にも加熱されており、変色を確認するには定期的に加熱炉の運転を停止しCuOが冷却した後に取り出して変色を確認する以外に手立てがなく、劣化確認のために多大な手数、時間を要するという問題があった。
【0009】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、運転停止などの多大な手数及び時間を要することなく、COをCO2 に酸化させるためのCuO及びCO2 、H2 Oの除去に用いられる試薬の劣化を目視で的確に確認でき、それら試薬の交換時期を適正化して廃薬品量の低減並びに分析精度の向上を実現することができる試料中の元素分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために案出された請求項1に記載の発明(以下、第1発明という)に係る試料中の元素分析装置は、不活性ガスを供給しながら加熱炉内で試料を加熱融解するときに発生するガス中に含まれるCOを酸化させる酸化部と、この酸化部で発生するCO2 及びH2 Oを前記ガスから除去する脱二酸化炭素部(以下、脱CO2 部と称する)及び脱水部と、CO2 及びH2 Oが除去されたガス中の元素を検出する元素検出部とがガス流路中に順に配置されてなる試料中の元素分析装置において、前記酸化部、脱CO2 部及び脱水部にはそれぞれ、酸化銅、脱二酸化炭素剤(以下、脱CO2 剤と称する)及び脱水剤にCO、CO2 及びH2 Oとの反応により変色する指示薬を含浸または並存させた試薬が用いられていることを特徴としている。
この第1発明において、前記加熱炉に供給される不活性ガス中のCO2 及びH2 Oを吸着除去するために不活性ガス供給路中に設けられる脱CO2 部及び脱水部にも、脱CO2 剤及び脱水剤にCO2 及びH2 Oとの反応により変色する指示薬を含浸または並存させた試薬を用いることが好ましい。
また、この第1発明において、前記加熱炉で発生するガス中に含まれる一酸化炭素を検出する一酸化炭素検出部を前記ガス流路中で前記酸化部の上流側に直列状に配置してもよいが、その一酸化炭素検出部を配置した専用のガス流路を、前記ガス流路に対して並列的に設けることが好ましい。
【0011】
また、上記と同一の目的を達成するために案出された請求項4に記載の発明(以下、第2発明という)に係る試料中の元素分析装置は、酸素気流を供給しながら加熱炉内で試料を燃焼するときに発生する燃焼ガス中のH2 Oを除去する脱水部と、H2 Oが除去された燃焼ガス中の元素を検出する元素検出部とが燃焼ガス流路に直列状に配置してなる試料中の元素分析装置において、前記燃焼ガス流路中の脱水部並びに前記加熱炉に供給される酸素気流中に含まれる炭化水素(HC)を酸化し発生するCO2 及びH2 Oを吸着除去するために酸素気流供給路中に設けられた脱CO2 部及び脱水部にはそれぞれ、脱CO2 剤及び脱水剤にCO2 及びH2 Oとの反応により変色する指示薬を含浸または並存させた試薬が用いられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上記のような特徴構成を有する第1発明によれば、加熱炉で発生するガス中に含まれるCOをCO2 に酸化させるためにガス流路中に設けられている酸化部並びにこの酸化部で酸化されたCO2 及びH2 Oを除去するためにガス流路中に設けられている脱CO2 部及び脱水部、さらには、加熱炉に供給される不活性ガス中のCO2 及びH2 Oを吸着除去するために不活性ガス供給路中に設けられている脱CO2 部及び脱水部それぞれの試薬として、酸化銅、脱CO2 剤及び脱水剤との反応により変色する指示薬が含浸または並存された試薬を用いているので、それら各試薬な経時的な劣化を、指示薬の変色によって目視確認してそれら試薬の交換必要時期を容易かつ適切に把握することができる。
【0013】
また、第2発明によれば、加熱炉で発生する燃焼ガス中に含まれるH2 Oを除去する脱水部並びに加熱炉に供給される酸素気流中に含まれるCO2 及びH2 Oを吸着除去するために酸素気流供給路中に設けられた脱CO2 部及び脱水部それぞれの試薬として、脱CO2 剤及び脱水剤との反応により変色する指示薬が含浸または並存された試薬を用いているので、それら各試薬な経時的な劣化を変色によって目視確認してそれら試薬の交換必要時期を容易かつ適切に把握することができる。
【0014】
したがって、第1発明、第2発明のいずれにおいても、運転停止などの多大な手数及び時間を要することなく、各試薬の交換時期を適正化することが可能となり、廃CuO量、廃棄品量を低減できるとともに、常に高い分析精度を維持することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、加熱融解抽出法を採用した第1発明に係る試料中の元素分析装置の第1実施例を示す概略構成図であり、同図において、1は加熱炉としてのインパルス炉であって、このインパルス炉1内には、例えば黒鉛るつぼ2がセットされ、そのるつぼ2内に秤量された鉄鋼などの試料3が収容される。また、このインパルス炉1には、その内部にキャリアガスとしてのヘリウム(He)、アルゴン(Ar)などの不活性ガスを供給する不活性ガス供給路4が接続されている。8は前記インパルス炉1内において不活性ガス雰囲気下で試料3が加熱融解されるときに発生するガスGが流れるガス流路である。
【0016】
前記不活性ガス供給路4には、不活性ガス中のO2 、CO2 及びH2 Oを吸着除去するための脱O2 部5、脱CO2 部6及び脱水部7が設けられている。また、前記ガス流路8には、発生ガス中に含まれるダストを除去するダストフィルタ9、発生ガスG中に含まれるCOを検出するためのNDIR10、そのCOをCO2 に酸化させる酸化部11、この酸化部11で酸化されたCO2 及びH2 OをガスGから除去する脱CO2 部12及び脱水部13が直列状に配置され、かつ、脱水部13の下流側にはN2 ,H2 などの元素を熱伝導度法で検出するTCD14が設けられている。
【0017】
上記構成からなる第1実施例の加熱融解抽出法による試料中の元素分析装置において、前記酸化部11は、図2の(A)に明示するように、耐熱透明ガラス管15内に、発生ガスG中に含まれるCOのCO2 への酸化剤として用いられるCuO16aに、COとの化学反応により変色する指示薬、例えば亜硫酸パラジウムナトリウム{Na2 Pd(SO32 }もしくはそれを主成分とする指示薬を含浸させた試薬16、あるいは、図2の(B)や(C)に明示するように、CuO16aと前記指示薬16bとを耐熱透明ガラス管15内に並存させてなる試薬16を封入してなる。この試薬16は、
CO+Na2 Pd(SO32 →Pd+CO2 +SO2 +Na2 SO3
なる化学反応式からも明らかなように、COによりNa2 Pd(SO32 が還元されて金属パラジウムを析出することになり、指示薬が黄色から黒褐色に変色するものである。
【0018】
また、前記脱CO2 部6,12は、上記した酸化部11と同様に、耐熱透明ガラス管内に、シリカゲルやアルミナなどの脱CO2 剤にCO2 と化学反応をするヒドラジン(N24 )と指示薬を含浸させた脱CO2 剤を耐熱透明ガラス管内に並存させてなる試薬を封入してなる。この試薬は、
CO2 +N24 →NH2 NHCOOH
なる化学反応式からも明らかなように、CO2 によってN24 が酸化されることになり、指示薬が橙色から黄色に変色するものである。
【0019】
さらに、前記脱水部7,13は、耐熱透明ガラス管内に、過塩素酸マグネシウムなどの脱水剤にH2 Oとの反応により変色する気体指示薬、例えばクリスタルバイオレットもしくはそれを主成分とする気体指示薬を含浸させた試薬、あるいは、過塩素酸マグネシウムなどの脱水剤と前記気体指示薬とを並存させてなる試薬を封入してなる。この試薬は、
2 O+Mg(ClO42 →Mg(ClO42 ・H2
なる化学反応式からも明らかなように、塩基性であるMg(ClO42 ・H2 Oが生成されることにより、クリスタルバイオレット(指示薬)が黄色から紫色に変色するものである。
【0020】
なお、脱CO2 部6,12及び脱水部7,13の具体的な構造は、図2の(A)〜(C)で示すとおり、耐熱透明ガラス管内に所定の試薬を封入するものと同一であるため、それらの詳細図については省略する。
【0021】
次に、上記のように構成された第1実施例の加熱融解抽出法による試料中の元素分析装置における元素分析動作について簡単に列記説明する。
(1)キャリアガスとして不活性ガス供給路4に供給されたHe,Arなどの不活性ガスは、該不活性ガス中のO2 、CO2 及びH2 Oが脱O2 部5、脱CO2 部6及び脱水部7の通過時に除去された後、インパルス炉1内に供給され、その不活性ガス雰囲気下において試料3が加熱融解される。
(2)この加熱融解に伴い発生してガス流路8に流れるガスG中に含まれるダストはダストフィルタ9により除去されたのち、ガスG中に含まれているCOがNDIR10で検出(測定)される。
(3)次いで、ガスGは酸化部11に至り、ここでCO及びH2 はCuO16aによりCO2 及びH2 Oに酸化される。
(4)そして、酸化されたCO2 及びH2 Oは脱CO2 部12及び脱水部13の通過時にガスGから除去される一方、このガスG中に残存しているN2 ,H2 などの元素がTCD14において熱伝導度法で検出(測定)される。
【0022】
以上の(1)〜(4)の工程動作によって、鉄鋼などの試料3中に含まれている各種の元素が検出され分析されるが、この分析動作時において前記酸化部11のCuO16aの劣化に伴い、該CuO16aに含浸または並存させた指示薬が既述した化学反応により黄色から黒褐色に変色する。また、前記各脱CO2 部6,12のシリカゲルやアルミナにアルカリ(NaOH,KOH)を含浸させた脱CO2 剤の劣化に伴い、該脱CO2 剤に含浸または並存させた指示薬が既述した化学中和反応により橙色から黄色に変色する。さらに、前記各脱水部7,13の過塩素酸マグネシウムなどの脱水剤の劣化に伴い、該脱水剤に含浸または並存させた気体指示薬が既述した化学反応により黄色から紫色に変色する。
【0023】
したがって、前記酸化部11のCuO16a、脱CO2 部6,12のシリカゲルやアルミナにアルカリ(NaOH,KOH)を含浸させた脱CO2 剤、及び、脱水部7,13の過塩素酸マグネシウムなどの脱水剤の経時的な劣化をそれぞれ変色によって目視確認してそれら試薬の交換必要時期を容易かつ適切に把握することが可能であり、運転停止(分析動作の中断)などの多大な手数及び時間を要することなく、各試薬の交換時期を適正化して廃CuO量、廃薬品量を低減できるとともに、常に高い分析精度を維持することができる。
【0024】
図3は、加熱融解抽出法を採用した第1発明に係る試料中の元素分析装置の第2実施例を示す概略構成図であり、この第2実施例では、発生ガスG中に含まれるCOを検出するためのNDIR10を配置したCO検出専用のガス流路8Aを、前記ダストフィルタ9、酸化部11、脱CO2 部12及び脱水部13並びにTCD14が直列状に配置されたガス流路8Bに対して並列的に設けたものであり、その他の構成並びに脱CO2 部6,12、酸化部11及び脱水部7,13における試薬封入構造等は第1実施例と同様であるため、それらの詳しい説明を省略する。
【0025】
上記のように構成された第2実施例の加熱融解抽出法による試料中の元素分析装置においては、インパルス炉1内における不活性ガス雰囲気下での試料3の加熱融解に伴い発生されてガス流路8に流れるガスG中に含まれるダストがダストフィルタ9により除去されたのち、そのガスGは二つのガス流路8A,8Bに分岐されて並列的に流れる。そして、一方のガス流路8Aを流れるガスG中に含まれているCOはNDIR10で検出(測定)されるとともに、他方のガス流路8Bを流れるガスGは酸化部11に至り、ここでCO及びH2 はCuO16aによりCO2 及びH2 Oに酸化されたのち、その酸化されたCO2 及びH2 Oは脱CO2 部12及び脱水部13の通過時にガスGから除去され、次いで、このガスG中に残存しているN2 ,H2 などの元素がTCD14において熱伝導度法で検出(測定)されるといった元素分析動作が行われる。
【0026】
そして、この第2実施例の場合も、第1実施例と同様に、酸化部11のCuO16a、脱CO2 部6,12のシリカゲルやアルミナにアルカリ(NaOH,KOH)に含浸させた脱CO2 剤、及び、脱水部7,13の過塩素酸マグネシウムなどの脱水剤の経時的な劣化をそれぞれ変色によって目視確認してそれら試薬の交換必要時期を容易かつ適切に把握することが可能である。
【0027】
図4は、加熱融解抽出法を採用した第1発明に係る試料中の元素分析装置のうち、水素分析装置に適用した第3実施例を示す概略構成図であり、同図において、1は加熱炉としての電力制御方式抽出炉であって、この抽出炉1内には、例えば黒鉛るつぼ2がセットされ、そのるつぼ2内に秤量された鉄鋼などの試料3が収容される。また、この抽出炉1には、その内部にキャリアガスとしてのアルゴン(Ar)やヘリウム(He)などの不活性ガスを供給する不活性ガス供給路4が接続されている。
【0028】
前記不活性ガス供給路4には、不活性ガス中のO2 、CO2 及びH2 Oを吸着除去するための脱O2 部5、脱CO2 部6及び脱水部7が設けられているとともに、前記抽出炉1内において不活性ガス雰囲気下で試料3が加熱融解されるときに抽出される水素ガスGaが流れるガス流路8には、発生ガス中に含まれるダストを除去するダストフィルタ9、抽出水素ガスGa中に含まれるCOをCO2 に酸化させる酸化部11、この酸化部11で酸化されたCO2 及びH2 Oを水素ガスGaから除去する脱CO2 部12及び脱水部13が直列状に配置され、かつ、脱水部13の下流側には残存ガス(H2 ,N2 )からH2 を分離する分離カラム25及びそこで分離されたH2 を熱伝導度法で検出するTCD14が設けられている。
【0029】
なお、前記酸化部11は、常温酸化部11Aの他に、水素ガス(H2 )以外の共存ガス、特に窒素ガス(N2 )を補償する機構としてCuOを用いた高温酸化部11Bが切換部27を介してガス流路8に対してバイパス的に設けられているとともに、前記分離カラム25に対してカラムバイパス機構26が切換部28を介してパイパス的に設けられており、その他の構成並びに脱CO2 部6,12、酸化部11(11A,11B)及び脱水部7,13における試薬封入構造等は第1,第2実施例と同様であるため、それらの詳しい説明を省略する。
【0030】
上記のように構成された第3実施例の加熱融解抽出法による試料中の水素分析装置においては、抽出炉1内における不活性ガス雰囲気下での試料3の加熱融解に伴い抽出されてガス流路8に流れる水素ガスGa中に含まれるダストがダストフィルタ9により除去されたのち、そのガスGaは直接、常温酸化部11Aに至る、もしくは、切換部27を通り高温酸化部11Bを経たのち常温酸化部11Aに至り、ここで水素ガスGa中に含まれているCOはCO2 及びH2 Oに酸化されたのち、その酸化されたCO2 及びH2 Oは脱CO2 部12及び脱水部13の通過時に水素ガスGaから除去され、次いで、分離カラム25、もしくは、切換部28を経てカラムバイパス機構26に導かれ、ここで残存ガス(H2 ,N2 )からH2 が分離され、その分離されたH2 がTCD14において熱伝導度法で検出(測定)されるといった水素分析動作が行われる。
【0031】
そして、この第3実施例の場合も、第1,第2実施例と同様に、高温酸化部11BのCuO16a、脱CO2 部6,12のシリカゲルやアルミナにアルカリ(NaOH,KOH)に含浸させた脱CO2 剤、及び、脱水部7,13の過塩素酸マグネシウムなどの脱水剤の経時的な劣化をそれぞれ変色によって目視確認してそれら試薬の交換必要時期を容易かつ適切に把握することが可能である。
【0032】
図5は、燃焼法を採用した第2発明に係る試料中の元素分析装置の第4実施例を示す概略構成図を示し、同図において、1は加熱炉としての高周波加熱炉または電気炉であって、この加熱炉1内には、例えば磁製のるつぼ2がセットされ、そのるつぼ2内に秤量された鉄鋼などの試料3が収容される。また、この加熱炉1には、その内部にキャリアガスとしての酸素O2 気流を供給する酸素気流供給路17が接続されている。18は前記加熱炉1内において酸素気流雰囲気下で試料3を燃焼するときに発生する燃焼ガスGbが流れる燃焼ガス流路である。
【0033】
前記酸素気流供給路17には、炭化水素(HC) を酸化させる白金(Pt)触媒19とここで酸化されたCO2 及びH2 Oを吸着除去するための脱CO2 部20及び脱水部21が設けられている。また、前記燃焼ガス流路18には、燃焼ガスGb中に含まれる酸化鉄などの酸化ダストを除去するダストフィルタ22、脱水部23及び燃焼ガスGb中に含まれるCO,CO2 を検出するためのNDIR24などが直列状に配置されている。
【0034】
上記構成の燃焼法による試料中の元素分析装置において、前記脱水部21,23は、過塩素酸マグネシウムなどの脱水剤にH2 Oとの反応により変色する気体指示薬、例えばクリスタルバイオレットもしくはそれを主成分とする気体指示薬を含浸させた試薬、あるいは、過塩素酸マグネシウムなどの脱水剤と前記気体指示薬とを並存させてなる試薬を封入してなる。この試薬は、
2 O+Mg(ClO42 →Mg(ClO42 ・H2
なる化学反応式からも明らかなように、塩基性であるMg(ClO42 ・H2 Oが生成されることにより、クリスタルバイオレット(指示薬)が黄色から紫色に変色するものである。
【0035】
また、前記脱CO2 部20は、上記した第1実施例の加熱融解抽出法による試料中の元素分析装置における酸化部11と同様に、耐熱透明ガラス管内に、シリカゲルやアルミナにアルカリ(NaOH,KOH)を含浸させた脱CO2 剤にCO2 と化学反応するヒドラジン(N24 )と指示薬を含浸させた脱CO2 剤を耐熱透明ガラス管内に並存させてなる試薬を封入してなる。この試薬は、
CO2 +N24 →NH2 NHCOOH
なる化学反応式からも明らかなように、CO2 によってN24 が酸化されることになり、指示薬が橙色から黄色に変色するものである。
【0036】
なお、脱CO2 部20及び脱水部21,23の具体的な構造は、第1実施例の加熱融解抽出法による試料中の元素分析装置における酸化部11の説明で用いた図2の(A)〜(C)と同様に、耐熱透明ガラス管内に所定の試薬を封入してなるものであるため、それらの詳細図については省略する。
【0037】
次に、上記のように構成された燃焼法による試料中の元素分析装置における元素分析動作について簡単に列記説明する。
(1)キャリアガスとして酸素気流供給路17に供給されたO2 気流は、Pt触媒19により不純物として含まれているHCが酸化された後、脱CO2 部20及び脱水部21を通過し、それらの通過時に酸素気流中に含まれているCO2及びH2 Oが除去された後、高周波加熱炉1内に供給され、その酸素気流雰囲気下において試料3が燃焼される。
(2)この燃焼に伴い発生して燃焼ガス流路18に流れる燃焼ガスGb中に含まれる酸化鉄などの酸化ダストはダストフィルタ22により除去されたのち、燃焼ガスGb中に含まれているH2 Oは脱水部23の通過時に燃焼ガスGbから除去される一方、この燃焼ガスGb中に残存しているCO,CO2 などの元素がNDIR24において赤外線吸収法で検出(測定)される。
【0038】
以上の(1),(2)の工程動作によって、鉄鋼などの試料3中に含まれている各種の元素が検出され分析されるが、この分析動作時において前記脱CO2 部20のシリカゲルやアルミナにアルカリ(NaOH,KOH)を含浸させた脱CO2 剤の劣化に伴い、該脱CO2 剤に含浸または並存させた指示薬が既述した化学反応により橙色から黄色に変色する。また、前記各脱水部21,23の過塩素酸マグネシウムなどの脱水剤の劣化に伴い、該脱水剤に含浸または並存させた気体指示薬が既述した化学反応により黄色から紫色に変色する。
【0039】
したがって、前記脱CO2 部20のシリカゲルやアルミナにアルカリ(NaOH,KOH)を含浸させた脱CO2 剤、及び、脱水部21,23の過塩素酸マグネシウムなどの脱水剤の経時的な劣化をそれぞれ変色によって目視確認してそれら試薬の交換必要時期を容易かつ適切に把握することが可能であり、運転停止(分析動作の中断)などの多大な手数及び時間を要することなく、各試薬の交換時期を適正化して廃薬品量を低減できるとともに、常に高い分析精度を維持することができる。
【0040】
なお、前記酸化部11における試薬として、上記実施の形態では、亜硫酸パラジウムナトリウム{Na2 Pd(SO32 }もしくはそれを主成分とする指示薬をCuOに含浸または並存させたもので示したが、これ以外に、例えば五酸化ヨウ素、亜硫酸パラジウムカリウムなどCOとの化学反応により変色するpH指示薬であればよい。
【0041】
また、前記脱CO2 部6,12,20における試薬として、上記各実施の形態では、ヒドラジン(N24 )もしくはそれを主成分とする指示薬をシリカゲルやアルミナなどに含浸させたもので示したが、これ以外に、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどとCO2との化学反応により変色する指示薬であればよい。
【0042】
さらに、前記脱水部7,13,21,23における試薬として、上記各実施の形態では、クリスタルバイオレッサト指示薬を過塩素酸マグネシウムなどの脱水剤に含浸または並存させたもので示したが、これ以外に、例えば塩化コバルトなどH2 Oとの反応により変色する気体指示薬であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】第1発明に係る加熱融解抽出法を採用した試料中の元素分析装置の第1実施例を示す概略構成図である。
【図2】(A)〜(C)は、酸化部の具体的構成を示す拡大断面図である。
【図3】第1発明に係る加熱融解抽出法を採用した試料中の元素分析装置の第2実施例を示す概略構成図である。
【図4】第1発明に係る加熱融解抽出法を採用した試料中の元素分析装置のうち、水素分析装置に適用した第3実施例を示す概略構成図である。
【図5】第2発明に係る燃焼法を採用した試料中の元素分析装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0044】
1 加熱炉
3 試料
4 不活性ガス供給路
6,12,20 脱CO2
7,13,21,23 脱水部
8 ガス流路
10,24 NDIR(CO検出部)
11 酸化部
14 TCD(元素検出部)
17 O2 気流供給路
18 燃焼ガス流路
G 発生ガス
Ga 抽出水素ガス
Gb 燃焼ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスを供給しながら加熱炉内で試料を加熱融解するときに発生するガス中に含まれる一酸化炭素を酸化させる酸化部と、この酸化部で発生する二酸化炭素及び水分を前記ガスから除去する脱二酸化炭素部及び脱水部と、二酸化炭素及び水分が除去されたガス中の元素を検出する元素検出部とがガス流路中に順に配置されてなる試料中の元素分析装置において、
前記酸化部、脱二酸化炭素部及び脱水部にはそれぞれ、酸化銅、脱二酸化炭素剤及び脱水剤に一酸化炭素、二酸化炭素及び水分との反応により変色する指示薬を含浸または並存させた試薬が用いられていることを特徴とする試料中の元素分析装置。
【請求項2】
前記加熱炉に供給される不活性ガス中の二酸化炭素及び水分を吸着除去するために不活性ガス供給路中に設けられる脱二酸化炭素部及び脱水部にも、脱二酸化炭素剤及び脱水剤に、二酸化炭素及び水分との反応により変色する指示薬を含浸または並存させた試薬が用いられている請求項1に記載の試料中の元素分析装置。
【請求項3】
前記加熱炉で発生するガス中に含まれる一酸化炭素を検出する一酸化炭素検出部を配置した専用のガス流路が、前記ガス流路に対して並列的に設けられている請求項1または2に記載の試料中の元素分析装置。
【請求項4】
酸素気流を供給しながら加熱炉内で試料を燃焼するときに発生する燃焼ガス中の水分を除去する脱水部と、水分が除去された燃焼ガス中の元素を検出する元素検出部とが燃焼ガス流路に直列状に配置されてなる試料中の元素分析装置において、
前記燃焼ガス流路中の脱水部並びに前記加熱炉に供給される酸素気流中に含まれる二酸化炭素及び水分を吸着除去するために酸素気流供給路中に設けられた脱二酸化炭素部及び脱水部にはそれぞれ、脱二酸化炭素剤及び脱水剤に二酸化炭素及び水分との反応により変色する指示薬を含浸または並存させた試薬が用いられていることを特徴とする試料中の元素分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−187579(P2007−187579A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6539(P2006−6539)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】