説明

試料体を形成するための形成治具及び形成方法

【課題】従来の方法では、除去することが難しかった試料体内部の空気だまりを可及的に少なくし、扁平で小さく折りたたまれた試料体を形成できる形成治具又は形成方法を提供する。
【解決手段】筒状容器Cを押圧して試料体を形成するための形成治具100であって、前記筒状容器Cが載置される載置面13と、前記載置面13に対して立設するように形成された平面視概略V字状の凹部11と、を具備する受け金型1と、前記凹部11と略合致する凸部21が形成された押し当て金型2と、を備えており、前記受け金型1と前記押し当て金型2とが、それぞれ離間している離間位置と、前記凹部及び前記凸部が略合致し、前記筒状容器が半径方向から押圧される押圧位置と、に相対移動可能に構成されており、前記押圧位置において、前記凹部11と前記凸部21とによって形成される隙間が、少なくとも前記筒状容器Cの開口端近傍を押圧する部分は、それより下側の部分よりも狭くした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象中に含まれる酸素又は窒素等を分析する際に用いられる試料体を好適な形に形成するための形成治具又は形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、酸化物に含まれる酸素や、窒化物に含まれる窒素等の分析を行うために加熱による試料分析が良く行われている。
【0003】
すなわち、気密化におかれる試料抽出炉内の一対の電極間に黒鉛るつぼをセットし、この黒鉛るつぼ内に酸化物や窒化物等を資料として投入し、アルゴンなどの不活性ガスをキャリアガスとして試料抽出炉内に供給しながら、前記電極間に大電流を流して黒鉛るつぼ内の試料を電気的に融解させ、そのとき発生するガスを分析計に導き、ガス濃度を元にして元素を定量分析している。
【0004】
このような酸素又は窒素等の含有量の分析に用いられる酸化物や窒化物の試料は、しばしば粉体状又は粒体状のものであり、従来からこのような試料をニッケル製の円筒容器に収容し、その後、この円筒容器をできる限り扁平な形に形成してから黒鉛るつぼに入れ、融解させて分析を行っている。
【0005】
具体的には、特許文献1及び図9に示されるような上部金型A1と下部金型A2とを備えた形成治具A100を用い、円筒容器Cの開口端に略嵌合する蓋体Fを乗せた後に、円筒容器Cの軸方向にプレスによって押圧することによって円筒容器Cが軸方向に潰された扁平な試料体が作成されている。
【0006】
しかしながら、このような試料体形成方法では、押圧して試料体を形成する過程で試料Pがこぼれてしまわないようにするために、押圧する前に開口端に蓋体Fを乗せる必要があり、必要な部材や作業量が多くなってしまう。また、蓋体Fにより円筒容器Cの内部が完全に密閉されてしまうので、円筒容器を軸方向に押圧し、軸方向に潰して試料体を作成すると、空気の逃げ場がなくてなってしまうため試料体の内部には小さな空気だまりができてしまう。そうすると測定対象である酸化物や窒化物以外の酸素又は窒素が試料体内に含まれることになり、測定対象に含まれる酸素又は窒素の測定が正確に行えなくなってしまう。このような問題は試料に含まれる酸素又は窒素の量が微小であるときに特に顕著となる。
【0007】
また、特許文献2に示されるように扁平に作成された試料体をプライヤ等によりさらに円筒状に小さく丸めていくことで、内部の空気を十分に抜くことも考えられるが、手作業であるため作業者の熟練度によっては内部の空気がうまく抜けていなかったり、また円筒状の細長い形状となるために黒鉛るつぼに対して試料体の一部だけが接触し、均一に溶融せず、各成分の含有量の測定精度が低下する原因となったりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−260121号公報
【特許文献2】特開平8−128932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述したような問題を鑑みてなされたものであり、試料が収容される筒状容器に蓋体を乗せることなく、試料を密閉した試料体を形成することができ、必要な作業量や部材の量を低減するとともに、従来の蓋体を使用して筒状容器を軸方向に圧縮することにより試料体を形成する方法では、除去することが難しかった試料体内部の空気だまりを可及的に少なくし、黒鉛るつぼ内で試料体の一部だけが接触して立て懸かるような不具合を防げるように扁平で小さく折りたたまれた試料体を形成できる形成治具又は形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の形成治具は、内部に粉体状又は粒体状の試料を収容しており、一端が開口し、もう一端が閉口した筒状容器を押圧して試料体を形成するための形成治具であって、前記筒状容器が載置される載置面と、前記載置面に対して立設するように形成された平面視概略V字状の凹部と、を具備する受け金型と、前記凹部と略合致する凸部が形成された押し当て金型と、を備えており、前記受け金型と前記押し当て金型とが、それぞれ離間している離間位置と、前記凹部及び前記凸部が略合致し、前記筒状容器が半径方向から押圧される押圧位置と、に相対移動可能に構成されており、前記押圧位置において、前記凹部と前記凸部とによって形成される隙間が、少なくとも前記筒状容器の開口端近傍を押圧する部分は、それより下側の部分よりも狭くなっていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の形成方法は、内部に粉体状又は粒体状の試料を収容しており、一端が開口し、もう一端が閉口した筒状容器を押圧して試料体を形成するための形成方法であって、前記筒状容器の開口端を先にかしめながら、当該筒状容器を軸方向に延びるV字状に折り曲げるかしめ折り曲げステップを備えたことを特徴とする。
【0012】
このようなものであれば、前記筒状容器をV字状の前記凹部とその凹部と合致する凸部によって半径方向から筒状容器の軸を含むように押圧して、筒状容器を軸方向にV字状に延びる状態へと折り曲げる過程において、前記押圧位置において、前記凹部と前記凸部とによって形成される隙間が、少なくとも前記筒状体の開口端近傍を押圧する部分は、それより下側の部分よりも狭くなっていることから、筒状容器の開口端を先にかしめつつ、V字状に折り曲げていくことができる。つまり、筒状容器はV字状に大きく折り曲げられる前に予め開口端がかしめられるので、内部の試料が押圧している間にこぼれてしまうことを防ぐことができる。さらに、開口端を押し潰してかしめてあるだけなので、試料は外へこぼれないようにしつつ、内部の空気は外側へと出ることができる隙間を形成することができる。従って、筒状容器はV字状になるにつれて、内部の空気を開口端から逃がしていくことができるので、試料体になったときに内部に空気だまりができるのを防ぐことができる。
【0013】
そして、このように軸方向にV字状に延びた状態に押し潰されて十分に内部の空気が抜かれた筒状容器を前記凹部及び前記凸部により筒状容器の軸を中央で横断するように押圧して、軸方向に延びるV字をそれぞれ引っ付けるとともに、開口端と閉口端が近くづくようにV字状に折り曲げることにより2つ折りにして、内部の空気が抜けた状態のままさらに小さく折りたたんでいき小さく扁平な試料体にしていくことができる。
【0014】
このように、形成治具により試料体を小さく扁平に折りたたんでいくことができるので、試料体を溶融させる黒鉛るつぼ内において、試料体が一部だけで接触することを防ぎ、試料体を均一に溶融させることができる。つまり、試料体を理想的な状態で溶融させることができるので、酸素又は窒素の含有量測定の精度をより高めることができる。
【0015】
前述したように、筒状容器の開口端を先にかしめながら、軸方向にV字状に折り曲げていくのに適した凹部及び凸部の具体的な実施の態様としては、前記凸部が、下側凸部と、前記下側凸部よりも少なくとも一部が突出するように形成された上側凸部と、を備えるものであればよい。
【0016】
前記筒状容器を押圧する際に、V字状に折り曲げた時に筒状容器の底部に貯まっている試料が閉口端側へと移動して、開口端側へ移動するのを防ぎ、試料がよりこぼれることがないようにするには、前記凹部のV字の合流点近傍の前記載置面に縦溝が形成されているものであればよい。また、前記載置面が前記筒状容器を弾性的に支持するものであってもよい。
【0017】
筒状容器を軸方向に延びるV字状に折り曲げて、さらに2つ折りにした後において扁平な試料体へと押し潰すのに好適な実施の形態としては、前記押圧位置において、前記受け金型に形成された前記載置面に立設するように設けられた第1平面と、前記押し当て金型に形成された第2平面とが、略隙間なく合致するように構成されたものであればよい。
【0018】
筒状容器を折り曲げたり押し潰したりして、扁平な試料体を形成する過程においてさび等の酸化物や窒化物等の不純物が試料体に付着し、試料中の酸素又は窒素の含有量の測定結果に誤差が生じるのを防ぐには、前記受け金型及び前記押し当て金型が前記筒状容器と接触する部分は耐食性の金属が用いられているものであればよい。
【発明の効果】
【0019】
このように本発明によれば、筒状容器をV字状の凹部とそれに合致する凸部を用いて挟みこみ、筒状容器を上下方向にV字状に延びる形に折り曲げていく場合において、前記凸部について下側凸部よりも上側凸部を突出させてあるので、先に筒状容器の開口端をかしめながら、筒状容器を縦にV字状におりまげていくことができる。従って、筒状容器に蓋体等を載置することなく、開口を閉じて試料が外に出ないようにするとともに、かしめられた開口端にあるごくわずかな隙間から内部の空気を抜きながら小さく折りたたんでいくことができる。つまり、試料をこぼさないようにするための工程を従来に比べて大幅に省略できるとともに、試料体の内部にはほとんど空気だまりが存在しないように圧縮して、試料中に含まれる酸素又は窒素の含有量を測定する際に、誤差が発生してしまうのを好適に防ぐことができる。さらに、軸方向にV字状に延びた状態から前記凹部と前記凸部により軸を横断するように押圧することにより、最初につけたV字状の折り目を側面同士がくっつくようにしつつ、さらに開口端と閉口端が近くづくように2つ折りにして小さな試料体を形成することができる。その結果、黒鉛るつぼ内に試料体を好適に収容させて、試料体を均一に溶融させ酸素又は窒素の測定に誤差が発生するのを防ぐことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る形成治具の模式適斜視図。
【図2】同実施形態における形成治具の模式的上面図及び側面図。
【図3】同実施形態における形成治具の模式的動作図。
【図4】同実施形態における受け金型と押し当て金型近傍を拡大した模式的斜視図。
【図5】同実施形態における形成治具により円筒用容器を押圧する第1の手順を示す模式的斜視図。
【図6】同実施形態における形成治具により円筒用容器を押圧する第2の手順を示す模式的斜視図。
【図7】同実施形態における形成治具により円筒用容器を押圧する第3の手順を示す模式的斜視図。
【図8】本発明の別の実施形態における受け金型の内部構造を示す模式的断面図。
【図9】従来の形成治具の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態の試料体Sを形成するための形成治具100は、粉体状又は粒体状の試料を収容した、一端が開口し、もう一端が閉口した筒状容器を押圧して押しつぶし、扁平な正方形状の試料体Sを作成するために用いられるものである。この形成治具100により作成された試料体Sは、図示しない黒鉛るつぼ内で電気的に加熱され、溶融して発生したガスから試料に含まれる酸素又は窒素の含有量を測定するために用いられる。
【0023】
ここで、試料及び筒状容器について詳述する。試料は例えばセラミックス等であり酸化イットリウム等の酸化物や窒化ケイ素等の窒化物であり、粉体状又は粒体状のものである。筒状容器は、本実施形態では円筒容器Cであり、材質はニッケルである。これは、黒鉛るつぼにおいて試料を溶融させるときに、助燃材として働かせるためである。
【0024】
このような試料を内部に収容した円筒容器Cを押圧し、黒鉛るつぼに投入するのに好適な扁平な形をした試料体Sに形成するために形成治具100が用いられる。
【0025】
前記形成治具100は、図1の斜視図、図2の上面図及び側面図に示すようにベース4と、ベース4上に固定され、前記円筒容器Cが載置される受け金型1と、前記受け金型1と略合致する形状を有し、前記受け金型1と対向して前後に摺動可能に設けられた押し当て金型2と、前記前記押し当て金型2を手動で前後移動させるためのリンク機構3と、を備えるものである。ここで、前記受け金型1と前記御足当て金型は、ステンレスなどの耐食性の金属が用いて形成してあるものである。
【0026】
前記受け金型1は、図1及び図4に示すように略立方体状のブロック体からなるものであり、前記円筒容器Cが載置される載置面13と、前記載置面13に対して立設するように形成された平面視概略V字状の凹部11と、凹部11の下側に形成され、前記載置面13と立設するように設けられている第1平面12と、を備えるものである。具体的には、前記受け金型1は、前記押し当て金型2側に段が2つ形成してあるものであり、上部の段の平面が載置面13に相当する。その載置面13に対して凹部11に相当する鉛直方向に延びるV字溝が形成してある。
【0027】
前記凹部11の下側は前記載置面13に面しており、上側は開口させてある。この水平面上に前記円筒容器Cが載置され、円筒容器Cの側面がV字溝の各立設面と接触するようにして置かれる。すなわち、V字の合流点の近傍に円筒容器Cが載置することになる。
【0028】
前記載置面13において、V字の合流点の近傍には、前記円筒容器Cの閉口端よりも若干径が小さい円筒形状の縦溝14が設けてある。
【0029】
前記第2凹部12は、鉛直方向に延びる概略コの字状の溝であり、円筒容器Cを最終的に正方形状の扁平な試料体Sへと押し潰すために用いられるものである。
【0030】
前記押し当て金型2は、図1、図2、図4に示すように略立方体状のブロック体状のものであり、ブロック体の上側に形成してあり、前記凹部11と略合致するV字状の凸部21と、前記凸部21の下側に設けてあり、前記第1平面12と略合致する第2平面22とを備えたものである。
【0031】
前記凸部21は、上面から見て二等辺三角形柱と、その底辺に接続される直方体からなる形状でブロック体から突出させてあるものであり、下側凸部212と、下側凸部212よりも少なくとも一部が突出するように形成された上側凸部211と、からなるものである。前記上側凸部211は、円筒容器Cを押し潰す際において円筒容器Cの開口端近傍の側面と接触するものであり、前記下側凸部212はその他の部分の側面と接触するものである。前記上側凸部211は前記下側凸部212よりもわずかに突出させてあり、上側凸部211の方が下側凸部212よりも先に円筒容器Cと接触するように構成してある。本実施形態では、前記上側凸部211と前記下側凸部212との間にわずかな段差が形成されるようにして上側凸部211の全体を突出させるようにしてある。
【0032】
前記第2平面22は、後述する押圧位置において、前記第1平面12と合致するように形成してあるものであり、試料体Sを形成する際の仕上げに使用されるものである。
【0033】
前記リンク機構3は、前記受け金型1と前記押し当て金型2とを相対移動させるためのものであり、少なくとも、前記受け金型1と前記押し当て金型2とが互いに離間している離間位置と、前記受け金型1と前記押し当て金型2とが略合致し、前記円筒部材Cを押圧する押圧位置とに移動可能に構成してある。すなわち、図3の動作図に示すように作業者がハンドル34を上下動させることにより、前記押し当て金型2を前後に移動させて、前記受け金型1と合致又は離間させるように構成してある。より具体的には、前記押し当て金型2において、前記凸部21及び第2凸部22が設けてある面の対面に接続される接続ロッド31と、前記ベース4に固定され、前記接続ロッド31の中央部が摺動可能に挿通されるロッド支持部32と、前記接続ロッド31と前記ハンドル34とを回動可能に接続するリンク部33と、前記接続ロッド31の後端に接続されるハンドル34と、を備えたものである。
【0034】
このように構成された形成治具100により、試料が収容された円筒容器Cを押圧して正方形状の扁平な試料体Sを形成するための動作について説明する。
【0035】
まず、図5(a)に示すように、円筒容器Cを前記受け金型1の載置面13に載置し、前記V字溝の根元部分で円筒容器Cの側面がV字溝の各立ち壁に沿うように配置する。
【0036】
その後、図3(b)に示すように作業者がハンドル34を上にあげることにより前記押し当て金型2を前記受け金型1に近づけていき、前記凸部21と前記凹部11とにより円筒容器Cを挟みこんでいき、円筒容器Cを半径方向から押圧していく。前記凹部11であるV字溝に円筒容器Cを押しつけていくことにより、図5(b)に示すように円筒容器Cを自身の軸方向である上下方向に延びるV字状の状態へと2つ折りにしていく。このとき、前記凸部21の一部である前記上側凸部211の方が前記下側凸部212よりも突出させてあるので、円筒容器Cの開口端の近傍から先に押し潰されていくことになる。従って、円筒容器Cは、先に開口端をかしめられながら、軸方向にV字状となるように折り曲げられていくことになる。このとき、開口端は完全に密閉されるのではなく、粉体状又は粒体状の試料は通り抜けられないものの、空気は通り抜けられる程度の微小な隙間が存在するため、押し潰していく過程において円筒容器Cの内部の空気は抜かれていくことになる。
【0037】
また、円筒容器Cが載置されている載置面13において、円筒容器Cの底面がある部分には、縦溝14が形成されているので、円筒容器Cを押し潰していく過程において試料の入っている円筒容器Cの底面は下側へ向かって、縦溝14内へと逃げていく。従って、押し潰していく過程で試料が上側へと昇っていくことを防ぐことができるので、試料が外へとこぼれてしまうことを防ぐことができる。
【0038】
次に、図6(a)に示すようにV字状に2つ折りにされた円筒容器CをV字の頂点が上側へと向くように、載置面13上において前記V字溝の手前の箇所に横向きにして載置する。この状態から作業者がハンドル34を上側へと引き上げて、再び前記凸部21を前記凹部11へと近づけていき、円筒容器Cの開口端と閉口端が近づくように4つ折りの状態へと近づけていく。このとき、円筒容器Cに接触するのは下側凸部212のみとなるように前記上側凸部211と前記下側凸部212の高さの比率を設定してある。
【0039】
図6(b)に示すように、円筒容器Cを2つ折りにした時には離れていた側面同士がくっつけられるとともに、中央部で2つに折り曲げられるためより小さくなった4つ折りV字状の状態となる。
【0040】
最後に、図7(a)に示すよう4つ折りのV字状になった円筒容器Cを第1平面12の手前にV字の頂点が立つように載置して、第2平面22を前記第1平面12に近づけていき、図7(b)に示すように完全に正方形状の扁平な試料体Sへと仕上げる。
【0041】
このように形成された試料体Sにより成分分析を行った場合の測定精度及び所要時間の結果について、従来の手作業により試料体Sを形成していた場合と比較することにより説明する。
【0042】
表1には、あらかじめ酸素及び窒素の含有量が分かった試料を所定量だけ円筒容器に収容して、それぞれの方法で試料体Sを形成し、成分分析を行った場合の真の値からのばらつきを標準偏差により示してある。
【0043】
表1に示すように、本実施形態の形成治具を使用して試料体Sを形成した場合には、短時間で試料体Sを形成することができるとともに熟練者によって形成された試料体よりも測定結果のばらつきが小さいもしくは同等の精度が出ていることが分かる。また、非熟練者の場合には、本実施形態の形成治具を使用するだけで、熟練者並みもしくはそれ以上の測定精度を出せる試料体Sを形成する事が出来ることが分かる。

【0044】
【表1】

【0045】
このように本実施形態における試料体Sの形成治具100及びそれを用いた形成方法によれば、前記上側凸部211が前記下側凸部212よりも突出させてあるので、前記押し当て金型2を前記受け金型1へと水平方向に移動させて円筒容器Cを軸方向にV字状に押し潰していく際、まず、円筒容器Cの開口端をかしめながらV字状に2つ折りにしていくことができる。このため、円筒容器Cの開口端に略合致する蓋体等を用いなくても、開口を閉じて内部に収容されている試料をこぼすことなく、V字状に2つ折りにしていくことができる。しかも、開口端をかしめているだけなので、試料は通り抜けられないものの、空気は通り抜けられる程度のごくわずかな隙間は存在しているので、V字状に2つ折りにしていく過程において内部の空気を外側へと逃がしつつ円筒容器Cを圧縮していくことができる。従って、試料体Sの内部に空気だまりが形成されてしまうことを防ぐことができるので、特にごく少量の酸素、窒素しか含まれない酸化物、窒化物の成分分析を行う場合でも、空気の誤差が含まれるのを防ぎ、より正確な成分分析を行うことが可能となる。
【0046】
さらに、円筒容器Cを載置面13において縦溝14が形成してある箇所の上に載置するようにしてあるので、V字状に2つ折りする際には、圧縮される試料は円筒容器Cの底面方向へと逃げることができる。つまり、押し潰しの際に開口のある上側に試料が昇っていくことを防ぐことができるので、試料が外側へとこぼれてしまうのをさらに好適に防止することができる。
【0047】
また、第1平面12と第2平面22を用いて、4つ折りのV字形状となった円筒容器CをV字に開いている状態から閉じている状態に押し潰すことにより正方形状の扁平な試料体Sにすることができる。このとき、作業者はV字状に折り曲げる時と同じようにハンドル34を引き上げるだけでよく、このような扁平で内部に空気だまりのない試料体Sを作るために適宜円筒容器Cを載置して3回押し潰す操作を繰り返すだけでよい。
【0048】
加えて、上述したように作業者は適宜、円筒容器Cを置く場所を変更しつつ、ハンドル34を引き上げて前記受け金型1に前記押し当て金型2を押し当てるという非常に簡単な動作だけで正方形状の扁平な試料体Sを形成することができるので、熟練度に関わりなくほぼ一定の品質の試料体Sを形成することができる。
【0049】
また、形成された試料体Sは、円筒容器Cを軸方向に2つ折りにした後に、軸を横断するようにさらに4つ折りにして扁平な形状にすることができるので、黒鉛るつぼの底面に収まりやすく、均一に溶融させやすい。従って、試料の分析において測定誤差が発生するのを防ぐことができる。
【0050】
その他の実施形態について説明する。
【0051】
前記実施形態では、前記凹部は鉛直方向にまっすぐに延びるV字溝に形成し、前記押し当て金型に形成してある凸部において上側凸部の全体を下側凸部よりも突出させることにより、筒状容器の開口を先にかしめながら、V字状に折り曲げることができるようにしてあったが、その他の形状であっても構わない。例えば、前記上側凸部において、筒状容器の開口端の近傍と接触する部分のみが下側凸部に比べて突出してあるものであっても構わない。逆に前記凸部は、鉛直方向にまっすぐに延びる面一のV字凸であって、前記凹部において、下側凹部よりも上側凹部の少なくとも一部が前記凸部側へと突出するように形成されていてもよい。
【0052】
要するに、前記押圧位置において、前記凹部と前記凸部とによって形成される隙間が、少なくとも前記筒状体の開口端近傍を押圧する部分は、それより下側の部分よりも狭くなっているものであればよい。
【0053】
前記実施形態では、作業者が手動によって試料を収容した円筒容器から扁平な試料体を形成していたが、押圧する力はモータ等の動力を用いて行ってもよい。
【0054】
前記凸部において上側凸部と下側凸部との間には段差が形成してあったが、例えば、テーパが形成してあるものであってもよい。要するに、上側凸部を下側凸部よりも先に円筒容器と接触するようにしておき、円筒容器の開口端をかしめることができるようにしてあるものであればよい。
【0055】
前記受け金型、前記押し当て金型はステンレスで形成されていたが、その他の耐食性の素材を用いても構わない。少なくとも、円筒容器と接触する部分の部材には耐食性の素材又は酸素又は窒素を含んだ不純物が円筒容器に付着しないようなものであればよい。
【0056】
例えば、形成治具が第1平面、第2平面を備えないものであってもよい。4つ折りのV字形状となった円筒容器をプライヤ等の器具を用いて押しつぶし、扁平な形状へとしてもかまわない。
【0057】
前記受け金型に前記押し当て金型を押しつける際に作業者が指等をはさまないようにするための安全カバー等を備えても構わない。
【0058】
前記実施形態では、筒状容器を最初にV字状に折り曲げていく際に、円筒容器の内部の試料が下側へと逃げることができるように縦溝14を設けていたが、例えば、縦溝14内に円筒部材を隙間嵌めで嵌合させておき、円筒部材を弾性的に支持するように構成しても構わない。より具体的には、縦溝14は、図8の断面図に示すように当該水平面上には鉛直方向に延びるように形成してある縦溝14と、その縦溝14にゆるやかに嵌合し、その上面が前記載置面13の一部をなす円筒部材141と、縦穴の内部から前記円筒部材141をその上面が略水平面と同じ高さとなるように弾性的に支持する支持ばね142とからなるものである。この弾性支持力は、円筒容器Cと試料の重さではほとんど変化せず、円筒容器Cが押しつぶされる過程で大きな力がかかり、円筒容器Cの閉口端が下側へ逃げようとする場合には、円筒部材141が下方へ移動する程度に設定してあるものであればよい。
【0059】
前記凹部の上側には、水平方向に前後に移動できるようにしてあるプッシュピンを設けてもよい。このようなものであれば、V字溝に押しつけられて、V字溝から離れない円筒容器を押しだして取り出しやすくすることもできる。
【0060】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な変形や実施形態の組み合わせを行ってもかまわない。
【符号の説明】
【0061】
100・・・形成治具
1・・・受け金型
11・・・凹部(V字溝)
13・・・載置面
14・・・縦溝
2・・・押し当て金型
21・・・凸部
211・・・上側凸部
212・・・下側凸部
C・・・円筒容器(筒状容器)
S・・・試料体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に粉体状又は粒体状の試料を収容しており、一端が開口し、もう一端が閉口した筒状容器を押圧して試料体を形成するための形成治具であって、
前記筒状容器が載置される載置面と、前記載置面に対して立設するように形成された平面視概略V字状の凹部と、を具備する受け金型と、
前記凹部と略合致する凸部が形成された押し当て金型と、を備えており、
前記受け金型と前記押し当て金型とが、それぞれ離間している離間位置と、前記凹部及び前記凸部が略合致し、前記筒状容器が半径方向から押圧される押圧位置と、に相対移動可能に構成されており、
前記押圧位置において、前記凹部と前記凸部とによって形成される隙間が、少なくとも前記筒状容器の開口端近傍を押圧する部分は、それより下側の部分よりも狭くなっていることを特徴とする形成治具。
【請求項2】
前記凸部が、下側凸部と、前記下側凸部よりも少なくとも一部が突出するように形成された上側凸部と、を備えるものである請求項1記載の形成治具。
【請求項3】
前記凹部のV字の合流点近傍の前記載置面に縦溝が形成されている請求項1又は2記載の形成治具。
【請求項4】
前記受け金型及び前記押し当て金型が前記筒状容器と接触する部分は耐食性の金属が用いられている請求項1、2又は3記載の形成治具。
【請求項5】
内部に粉体状又は粒体状の試料を収容しており、一端が開口し、もう一端が閉口した筒状容器を押圧して試料体を形成するための形成方法であって、
前記筒状容器の開口端を先にかしめながら、当該筒状容器を軸方向に延びるV字状に折り曲げる折り曲げステップを備えたことを特徴とする形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−53001(P2011−53001A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200044(P2009−200044)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】