説明

試料作製方法

【課題】アトムプローブ観察用の試料を容易に作製すること。
【解決手段】観察対象となるモデル合金1から、透過型電子顕微鏡で観察可能な厚さまで薄膜化された薄膜試料2が作製され、薄膜試料2にマーク3の作製が行なわれる。そして、マーク3近傍を照射部位として、超高圧電子線の照射が行なわれ、マーク3の近傍に位置する薄膜試料2の上面にて、保護膜4の形成が行なわれる。そして、保護膜4および保護膜4の下面にある薄膜試料2は、三次元アトムプローブを用いた解析を行なうために採取される対象である採取対象試料5とされ、アトムプローブ観察用の試料が作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アトムプローブ観察用の試料を作製するための試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電所などに設置される軽水炉の主要構造物である原子炉圧力容器(RPV:Reactor Pressure Vessel)は、運用中に中性子が照射されることで、原子炉圧力容器を形成する鋼材(以下、RPV鋼と記す)の脆化が進行することが知られている。この現象は、「中性子照射脆化」と呼ばれ、原子炉における主要な経年事象のひとつとして挙げられている。そして、軽水炉の健全な長期運用を実現するためには、中性子照射脆化が起こる脆化メカニズムをミクロレベルで解析し、脆化メカニズムに基づいてRPV鋼における脆化の進行状況を予測する脆化予測方法を確立することが非常に重要となる。
【0003】
これまでの研究により、中性子照射脆化は、転位ループなどによる「マトリックス損傷」、および、RPV鋼中に含まれる銅やニッケルなどの原子がナノメートルスケールのクラスターを形成する「溶質原子クラスター」により発生することが知られている。そこで、脆化メカニズムを解析するために、RPV鋼やRPV鋼のモデル合金に対して、照射温度を変化させるなどの種々の条件下で中性子を照射して、溶質原子クラスターや転位ループが形成される過程を実験的に調べることが行なわれている。
【0004】
しかし、中性子照射実験を行なうことが可能な施設が限られていることから、現状では、超高圧電子線や鉄イオンの模擬照射による実験が主に行なわれている。例えば、模擬照射では、中性子と同等のエネルギーを有する超高圧電子線が、超高圧電子顕微鏡にて1MV以上の加速電圧を印加することで発生され、試料に対して照射される。なお、超高圧電子顕微鏡は、1MV以上の加速電圧を印加して透過性の高い超高圧電子線を照射することができる透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)である。
【0005】
そして、照射実験により得られた試料を解析するため、透過型電子顕微鏡による撮影が行なわれる(例えば、特許文献1参照)。透過型電子顕微鏡により撮影される画像(以下、TEM画像と記す)には、試料内で形成された転位ループが、例えば、粒子状に描出される。したがって、TEM画像を解析することで転位ループ形成時における照射量や、照射速度、温度などの影響を調べることができる。
【0006】
しかし、ナノメートルスケールで形成される溶質原子クラスターは、TEM画像にて鮮明に描出されない。そこで、溶質原子クラスターの形成状態を解析するために、三次元アトムプローブを用いた観察が行なわれている。
【0007】
三次元アトムプローブは、試料内を構成する原子の三次元位置をサブナノメートルの空間分解能で測定可能な装置である。具体的には、三次元アトムプローブは、先鋭な針状に加工した試料に正電圧をパルスとして連続的に印加して、試料最先端部に電界蒸発現象を順次発生させる。これにより、試料内の中性原子は、表面から一原子層ずつ正イオン化して順次脱離する。そして、三次元アトムプローブは、正イオン化された原子が二次元検出器に到達した位置および到達するまでの飛行時間を測定したデータを集積して再構成することで、試料中の原子の分布を三次元的に再構成する。かかる再構成データは、試料内を構成する原子の三次元位置が、飛行時間から特定される原子の種類とともにマッピングされたデータとなる。
【0008】
したがって、照射実験により得られた試料を三次元アトムプローブにより解析することで、ナノメートルスケールで形成される溶質原子クラスターの状態を観察することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−337012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述した模擬照射にて用いられる電子線の照射範囲は、例えば、直径約7μmと狭く、また、電子線の透過可能な厚さは、数百nmのオーダーである。このため、現状では、電子線が透過した領域のみを試料から取り出してアトムプローブ観察用の試料を作製することが困難であるという課題があった。
【0011】
なお、この課題は中性子照射脆化における溶質原子クラスターの状態をアトムプローブにより観察する場合に限って生じるものではない。例えば、耐食性向上のために、ショットピーニングやプラズマCVD(plasma-enhanced chemical vapor deposition)などにより表面改質を行なった試料表面の劣化をアトムプローブにより観察する場合でも、表面改質を行なった領域を試料から取り出してアトムプローブ観察用の試料を作製することが困難であるという同様の課題があった。
【0012】
そこで、この発明は、上述した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、アトムプローブ観察用の試料を容易に作製することが可能となる試料作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この方法は、観察対象となる試料を薄膜化した薄膜試料を作製する薄膜試料作製ステップと、前記薄膜試料作製ステップによって作製された前記薄膜試料に目印となる部位を作製する目印作製ステップと、前記目印作製ステップによって作製された前記目印の近傍に位置する薄膜試料を採取対象試料として、アトムプローブ観察用試料を作製する試料作製ステップとを含んだことを要件とする。
【発明の効果】
【0014】
開示の方法によれば、アトムプローブ観察用の試料を容易に作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本実施例における試料作製方法の処理を説明するためのフローチャートである。
【図2】図2は、図1に示すステップS101の処理を説明するための図である。
【図3】図3は、図1に示すステップS102〜ステップS104の処理を説明するための図である。
【図4】図4は、図1に示すステップS105〜ステップS107の処理を説明するための図である。
【図5】図5は、図1に示すステップS108の処理を説明するための図である。
【図6】図6は、図1に示すステップS109およびステップS110の処理を説明するための図である。
【図7】図7は、図1に示すステップS111の処理を説明するための図である。
【図8】図8は、本実施例における試料作製方法により作製されたアトムプローブ観察用試料を用いた実験結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る試料作製方法の実施例を詳細に説明する。なお、以下では、三次元アトムプローブを用いて中性子照射脆化が起こる脆化メカニズムをミクロレベルで解析するために、観察対象となる試料からアトムプローブ観察用試料を作製する場合を実施例として説明する。また、以下では、中性子と同等のエネルギーを有する超高圧電子線を、原子炉圧力容器(RPV:Reactor Pressure Vessel)を形成する鋼材(RPV鋼)のモデル合金に対して模擬照射を行なってアトムプローブ観察用試料を作製する場合を実施例として説明する。しかし、本実施例によって本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
まず、図1などを用いて本実施例における試料作製方法の処理の流れについて説明する。図1は、本実施例における試料作製方法の処理を説明するためのフローチャートである。
【0018】
図1に示すように、本実施例における試料作製方法(以下、本方法と記載する)では、観察対象となる試料を薄膜化することで、薄膜試料の作製が行なわれる(ステップS101)。図2は、図1に示すステップS101の処理を説明するための図である。具体的には、観察対象となる試料は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)で観察可能な厚さまで、すなわち、電子線が透過可能な厚さまで薄膜化される。例えば、図2の(A)に示すように、ステップS101において、超高圧電子線の照射対象となるRPV鋼のモデル合金1は、直径約3mmの円盤状に成型されており、約0.1〜0.2mの厚さを有する。例えば、モデル合金1は、重量比で約1.4%のマンガンを含む鉄(Fe−1.4%Mn)で構成される合金である。ただし、観察対象となる試料は、鉄を主成分とする合金である場合であってもよいし、100%の鉄である場合であってもよい。
【0019】
ステップS101において、モデル合金1は、図2の(A)に示すように、透過型電子顕微鏡観察用の試料を作製する一般的な方法である「ツインジェット電解研磨法」により、その中央部に孔が生じるまで両側面から研磨される。かかる研磨処理により、モデル合金1に生じた孔の近傍領域は、図2の(A)に示すように、約200nmの厚さまで薄膜化された薄膜試料2となる。かかるステップS101の処理により、薄膜試料2は、図2の(B)に示すように、モデル合金1の中央部において作製される。
【0020】
そして、本方法では、ステップS101ののち、図1に示すように、薄膜試料2にマーク(目印)の作製が行なわれる(ステップS102)。図3は、図1に示すステップS102〜ステップS104の処理を説明するための図である。具体的には、本方法では、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)による加工処理により、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観察可能なマークが薄膜試料2に作製される。
【0021】
例えば、図3の(A)に示すように、FIBとしてガリウムイオンビームを発生するイオン銃を備えるFIB装置を用いた加工処理により、薄膜試料2の一部が切削されることで、マーク3が作製される。
【0022】
ここで、作製されたマーク3の薄膜試料2における位置は、SEM観察により確認することができ、マーク3を標的とする後段の処理を実行するうえで重要となる。例えば、イオン銃とともに電子銃を併せ持ち、かつ、SEM機能を有するFIB装置を用いることで、マーク3の薄膜試料2における位置は、容易に確認することができる。
【0023】
なお、マーク3の形状は、図3の(A)に示す形状に限定されるものではなく、形状が孔である場合であってもよい。また、マーク3は、イオンビームではなく、電子ビームにより作製される場合であってもよい。例えば、マーク3は、極微小電子ビーム電界放出銃型TEMなどの装置により、直径1nm以下の極微小電子ビームを薄膜試料2に照射することで孔として作製される場合であってもよい。
【0024】
また、マーク3は、薄膜試料2を切削して作製される場合に限定されるものでなく、TEM内にて電子ビームを十分に集束し薄膜試料2へ連続照射することにより、照射面にハイドロカーボンなどを付着させることで作製される場合であってもよい。なお、マーク3は、薄膜試料2の複数箇所に作製される場合であってもよい。
【0025】
そして、本方法では、ステップS102ののち、図1に示すように、マーク3近傍を照射部位として、超高圧電子線の照射が行なわれる(ステップS103)。具体的には、薄膜試料2が作製されたモデル合金1は、超高圧電子顕微鏡に設置される。なお、超高圧電子顕微鏡は、1MV以上の加速電圧を印加して透過性の高い超高圧電子線を照射することができる透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)である。そして、超高圧電子顕微鏡は、図3の(A)に示すように、マーク3の近傍にある照射部位に超高圧電子線を照射する。例えば、ステップS103では、1250kVの加速電圧を印加することが可能な超高圧電子顕微鏡を用いて、「加速電圧:1MV、損傷量:0.1dpa、損傷速度:2.1×10-5dpa/sec、室温」の条件下で、超高圧電子線が照射部位に照射される。
【0026】
そして、本方法では、ステップS103ののち、図1に示すように、マーク3の近傍に位置する薄膜試料2の上面にて、保護膜(デポ膜)の形成が行なわれる(ステップS104)。なお、ステップS104の処理は、超高圧電子線が照射された薄膜試料2を後段の処理から保護するために行なわれる処理である。
【0027】
具体的には、ステップS104では、電子ビームデポ膜形成法により、図3の(A)に示すように、薄膜試料2の上面にて保護膜4が形成される。例えば、イオン銃とともに電子銃を併せ持ち、かつ、SEM機能を有するFIB装置(上述)に再度、薄膜試料2を設置し、電子銃から放出される電子線とともにデポ用のタングステン(あるいは白金)ガスを吹き付けることで、保護膜4を形成する。電子ビームデポ膜形成法を用いることで、ガリウムイオンとともにデポ用ガスを吹き付けるデポ膜形成法と比較して、薄膜試料2の損傷導入やタングステン(あるいは白金)の試料移行の発生を低減することができる。
【0028】
ステップS104の処理によって形成された保護膜4および保護膜4の下面にある薄膜試料2とは、図3の(B)に示すように、三次元アトムプローブを用いた解析を行なうために採取される対象である採取対象試料5とされる。
【0029】
そして、本方法では、ステップS104ののち、図1に示すように、採取対象試料5を採取するために用いられるマイクロプローブが近接可能となるように、採取対象試料5の周辺領域に対して切断加工が行なわれ(ステップS105)、そののち、マイクロプローブと採取対象試料5との固定が行なわれる(ステップS106)。図4は、図1に示すステップS105〜ステップS107の処理を説明するための図である。具体的には、FIB装置は、図4の(A)の左図に示すように、タイル状に形成された保護膜4の辺に沿って設定された2つの切断部位に対してガリウムイオンビームを照射することで切断加工を行なう。
【0030】
これにより、FIB装置が備えるマイクロプローブ6は、採取対象試料5に近接されたのち、図4の(A)の右図に示すように、その先端部が採取対象試料5と固定される。例えば、ステップS106の固定処理は、デポ用のタングステン(あるいは白金)ガスを吹き付けることで行なわれる。なお、図4の(A)の右図は、図4の(A)の左図にて切断加工が行なわれたのちの試料を半時計回りに90度回転させた状態を示すものである。
【0031】
そして、本方法では、ステップS106ののち、図1に示すように、ステップS105にて切断加工が行なわれていない周辺領域に対し、マイクロプローブ6の先端部と固定された採取対象試料5を薄膜試料2から切り離すための切断加工が行なわれる(ステップS107)。具体的には、FIB装置は、図4の(B)の左図に示す切断部位に対してガリウムイオンビームを照射することで、図4の(B)の右図に示すように、採取対象試料5を薄膜試料2から切り離す。
【0032】
そして、本方法では、ステップS107ののち、採取対象試料5とアトムプローブ観察用試料を作製するための土台となる支持針(例えば、タングステンを材質とする支持針)との接合が行なわれる(ステップS108)。図5は、図1に示すステップS108の処理を説明するための図である。
【0033】
ここで、FIB装置の構成上、図5の(A)に示すように、マイクロプローブ6と固定された採取対象試料5を鉛直方向に設置した状態では、採取対象試料5に対して、支持針7を鉛直方向から近接することが不可となる。
【0034】
そこで、ステップS108では、図5の(B)に示すように、マイクロプローブ6と固定された採取対象試料5を水平方向に保持した状態で、支持針7を水平方向に近接させて接合処理を行なう。
【0035】
具体的には、ステップS108の接合処理は、デポ用のタングステンガスを吹き付けることで行なわれ、これにより、図5の(C)に示すように、マイクロプローブ6と固定された採取対象試料5は、支持針7と接合される。
【0036】
そして、本方法では、ステップS108ののち、支持針7と接合された採取対象試料5を、マイクロプローブ6から切り離すための切断加工が行なわれる(ステップS109)。具体的には、FIB装置は、図6の(A)に示す点線に沿ってガリウムイオンビームを照射することで、採取対象試料5をマイクロプローブ6から切り離す。図6は、図1に示すステップS109およびステップS110の処理を説明するための図である。なお、図6の(A)において、FIB装置による切断後、マイクロプローブ6に固定されたままの採取対象試料5は、再度、支持針7との接合処理を行なって、後段の処理対象とすることができる。
【0037】
そして、本方法では、ステップS109ののち、マイクロプローブ6から切り離された採取対象試料5と支持針7との接合部分に補強用保護膜の形成が行なわれる(ステップS110)。なお、ステップS110の処理は、後段の処理により、採取対象試料5が支持針7から剥離したり損傷したりすることを回避するための処理である。
【0038】
具体的には、ステップS110では、図6の(B)の左図に示すように、支持針7に接合された採取対象試料5が、FIB装置のイオン銃と対面するように鉛直方向に設置される。そして、ステップS110では、図6の(B)の右図に示すように、電子ビームデポ膜形成法により、接合部分の周囲に補強用保護膜8が形成される。なお、本手法では、ステップS110の前、または、ステップS110の後において、図6の(B)の右図に示すように、採取対象試料5に対して、支持針7の先端部と同じ幅となるようにガリウムイオンビームによる成型処理が実行される場合であってもよい。
【0039】
そして、本方法では、ステップS110ののち、補強用保護膜8が支持針7との接合部分に形成された採取対象試料5を針状に先鋭化する円環加工が行なわれ(ステップS111)、アトムプローブ観察用試料が完成される。図7は、図1に示すステップS111の処理を説明するための図である。具体的には、FIB装置は、図7の(A)に示すように、支持針7に接合された採取対象試料5の上部から、鉛直方向に円環加工を行なう。
【0040】
より具体的には、FIB装置は、図7の(B)に示すように、採取対象試料5に対し、鉛直方向からガリウムイオンビームを円環状に照射するとともに、照射する円環状のガリウムイオンビームの内径を順次狭めることで、採取対象試料5を先鋭化する。かかる円環加工により、採取対象試料5の保護膜4は、除去され、図7の(C)に示すように、超高圧電子線を照射した薄膜試料2のアトムプローブ観察用試料が作製される。
【0041】
図1〜図7を用いて説明した処理により、超高圧電子線を照射したモデル合金1からアトムプローブ観察用試料が作製され、作製されたアトムプローブ観察用試料は、三次元アトムプローブに設置される。三次元アトムプローブは、アトムプローブ観察用試料に対して正電圧をパルスとして連続的に印加する。これにより、アトムプローブ観察用試料の最先端部に電界蒸発現象が順次発生し、試料内の中性原子は、表面から一原子層ずつ正イオン化して順次脱離する。
【0042】
そして、三次元アトムプローブは、正イオン化された原子が二次元検出器に到達した位置および到達するまでの飛行時間を測定したデータを集積して再構成することで、試料内を構成する原子の三次元位置が原子の種類とともにマッピングされたデータを生成する。そして、例えば、マンガン原子のみの分布を抽出することで、図8の(A)に示すようなマンガン原子の分布データが得られる。図8は、本実施例における試料作製方法により作製されたアトムプローブ観察用試料を用いた実験結果を説明するための図である。
【0043】
そして、マンガン原子の分布データに対して、再帰的探索アルゴリズム法や空間分布関数法などを用いたクラスタリングを行なうことで、図8の(B)に示すように、電子線を用いた模擬照射により、薄膜試料2に形成されたマンガン原子の溶質原子クラスターを抽出することができる。したがって、図1〜図7を用いて説明した処理を、種々の超高圧電子線の照射条件にて行なってアトムプローブ観察用試料を作製することで、中性子照射脆化が起こる脆化メカニズムをミクロレベルで解析することができる。
【0044】
上述してきたように、本実施例においては、観察対象となるモデル合金1から、透過型電子顕微鏡で観察可能な厚さまで薄膜化された薄膜試料2が作製され、薄膜試料2にマーク3の作製が行なわれる。そして、マーク3近傍を照射部位として、超高圧電子線の照射が行なわれ、マーク3の近傍に位置する薄膜試料2の上面にて、保護膜4の形成が行なわれる。そして、保護膜4および保護膜4の下面にある薄膜試料2は、三次元アトムプローブを用いた解析を行なうために採取される対象である採取対象試料5とされる。
【0045】
したがって、本実施例では、薄膜化された薄膜試料2に対する模擬照射を、マーク3を標的にして行なうことができ、さらに、マーク3を標的にして採取対象試料5の位置を確認することができるので、アトムプローブ観察用の試料を容易に作製することが可能となる。
【0046】
また、本実施例では、SEM観察可能なマーク3を作製するので、模擬照射部位および採取対象試料5の位置を容易に確認することが可能となる。また、本実施例では、マーク3を標的にして保護膜4を形成することができ、模擬照射された薄膜試料2を容易に保護することが可能となる。さらに、本実施例では、保護膜4を電子ビームデポ膜形成法により形成するので、模擬照射された薄膜試料2を確実に保護することが可能となる。
【0047】
また、本実施例では、マイクロプローブ6が近接可能となる切断加工から円環加工に至る処理において、補強用保護膜8を電子ビームデポ膜形成法により形成するので、円環加工を確実に行なうことが可能となる。
【0048】
また、本実施例では、FIB装置における操作性の制約を考慮して、マイクロプローブ6と固定された採取対象試料5を水平方向に保持した状態で、支持針7を水平方向に近接させて接合処理を行なうので、アトムプローブ観察用の試料をより容易に作製することが可能となる。
【0049】
なお、上述した本実施例では、観察対象となる試料の材質が金属である場合について説明したが、本発明は、観察対象となる試料の材質が半導体やセラミックスなど、TEM観察が可能な固体材料であるならば適用可能である。
【0050】
また、上述した本実施例では、マーク近傍に模擬照射された試料からアトムプローブ観察用の試料を作製する場合について説明した。しかし、本発明は、表面改質を行なった試料表面の劣化をアトムプローブにより観察する際に、表面改質を行なった試料を薄膜化したうえでマークを作製し、上述した電子線照射を行なわずに、採取対象試料を取り出すことにより、アトムプローブ観察用の試料を作製する場合であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明に係る試料作製方法は、アトムプローブ観察用の試料を作製する場合に有用であり、特に、アトムプローブ観察用の試料を容易に作製することに適する。
【符号の説明】
【0052】
1 モデル合金
2 薄膜試料
3 マーク
4 保護膜
5 採取対象試料
6 マイクロプローブ
7 支持針
8 補強用保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象となる試料を薄膜化した薄膜試料を作製する薄膜試料作製ステップと、
前記薄膜試料作製ステップによって作製された前記薄膜試料に目印となる部位を作製する目印作製ステップと、
前記目印作製ステップによって作製された前記目印の近傍に位置する薄膜試料を採取対象試料として、アトムプローブ観察用試料を作製する試料作製ステップと、
を含んだことを特徴とする試料作製方法。
【請求項2】
前記試料作製ステップは、
前記目印作製ステップによって作製された前記目印の近傍に位置する薄膜試料の上面に保護膜を形成する保護膜形成ステップと、
前記保護膜形成ステップによって形成された前記保護膜と当該保護膜の下面にある薄膜試料とを前記採取対象試料とし、当該採取対象試料を採取するプローブが近接可能となるための第一の切断加工を、当該採取対象試料の周辺領域に対して行なう第一の切断加工ステップと、
前記第一の切断加工ステップによって前記第一の切断加工が行なわれた前記採取対象試料に前記プローブを近接させて、当該プローブの先端部と前記採取対象試料とを固定する固定ステップと、
前記固定ステップによって前記プローブの先端部と固定された前記採取対象試料を前記薄膜試料から切り離すための第二の切断加工を、前記第一の切断加工が行なわれていない周辺領域に対して行なう第二の切断加工ステップと、
前記第二の切断加工ステップによって前記薄膜試料から切り離された前記採取対象試料とアトムプローブ観察用試料を作製するための土台とを接合する接合ステップと、
前記接合ステップによって前記土台と接合された前記採取対象試料を、前記プローブから切り離すための第三の切断加工を行なう第三の切断加工ステップと、
前記第三の切断加工ステップによって前記プローブから切り離された前記土台に接合された前記採取対象試料を針状に先鋭化する先鋭化加工ステップと、
を含んだことを特徴とする請求項1に記載の試料作製方法。
【請求項3】
前記薄膜試料作製ステップは、前記観察対象となる試料を透過型電子顕微鏡で観察可能な厚さに薄膜化した薄膜試料を作製することを特徴とする請求項2に記載の試料作製方法。
【請求項4】
前記目印作製ステップによって作製された前記目印の近傍に電子線を照射する照射ステップをさらに含み、
前記保護膜形成ステップは、前記照射ステップによって前記電子線が照射された前記目印の近傍に位置する薄膜試料の上面に保護膜を形成することを特徴とする請求項3に記載の試料作製方法。
【請求項5】
前記第三の切断加工ステップによって前記プローブから切り離された前記採取対象試料と前記土台との接合部分に第二の保護膜を形成する第二の保護膜形成ステップをさらに含み、
前記先鋭化加工ステップは、前記第二の保護膜形成ステップによって前記第二の保護膜が前記土台との接合部分に形成された前記採取対象試料に対し先鋭化する加工処理を行なうことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一つに記載の試料作製方法。
【請求項6】
前記目印作製ステップは、電子ビーム、または、集束イオンビームによって、走査型電子顕微鏡で観察可能な目印を作製することを特徴とする請求項2〜5のいずれか一つに記載の試料作製方法。
【請求項7】
前記保護膜形成ステップおよび前記第二の保護膜形成ステップは、電子ビームデポ膜形成法により、前記保護膜および前記第二の保護膜を形成することを特徴とする請求項5または6に記載の試料作製方法。
【請求項8】
前記接合ステップは、前記プローブによって水平方向に保持された前記採取対象試料に対して、前記土台を水平方向に近接させて接合処理を行なうことを特徴とする請求項2〜7いずれか一つに記載の試料作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−59002(P2011−59002A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210567(P2009−210567)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】