試料作製装置及び試料作製方法
【課題】試料作製装置及び試料作製方法において、簡便な方法により加工対象の試料の膜厚を測定すること。
【解決手段】試料Sに第1の加速電圧の電子線EBを照射し、試料Sから発生する第1の二次信号Is1を取得するステップと、試料Sに第2の加速電圧の電子線EBを照射し、試料Sから発生する第2の二次信号Is2を取得するステップと、第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1との比Is2/Is1を算出するステップと、比Is2/Is1が試料Sの膜厚tに依存することを利用し、比Is2/Is1に基づいて膜厚tを算出するステップと、算出した試料Sの膜厚tに基づき、膜厚tが目標膜厚t0となるのに要する試料Sの加工量を算出するステップと、試料SにイオンビームIBを照射して上記加工量だけ試料Sを加工して、膜厚tを目標膜厚t0に近づけるステップとを有する試料作製方法による。
【解決手段】試料Sに第1の加速電圧の電子線EBを照射し、試料Sから発生する第1の二次信号Is1を取得するステップと、試料Sに第2の加速電圧の電子線EBを照射し、試料Sから発生する第2の二次信号Is2を取得するステップと、第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1との比Is2/Is1を算出するステップと、比Is2/Is1が試料Sの膜厚tに依存することを利用し、比Is2/Is1に基づいて膜厚tを算出するステップと、算出した試料Sの膜厚tに基づき、膜厚tが目標膜厚t0となるのに要する試料Sの加工量を算出するステップと、試料SにイオンビームIBを照射して上記加工量だけ試料Sを加工して、膜厚tを目標膜厚t0に近づけるステップとを有する試料作製方法による。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料作製装置及び試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI等の電子デバイスにおいては、その特性を調べるために、電子デバイスの一部を試料として切り出し、当該試料をTEM(Transmission Electron Microscope)装置により観察することがある。その場合、観察対象の試料は、TEM装置で生成した電子線が透過できる程度に十分に薄くしておくのが好ましい。
【0003】
このように薄い試料を作製する方法として、FIB(Focused Ion Beam)装置内における試料の加工途中でその膜厚を測定し、その測定結果に応じてFIBによる試料の加工量を定める方法が提案されている。この方法においては、試料を透過する透過電子線の強度が試料の膜厚に依存することを利用して、FIB装置内において試料に電子線を照射し、その入射電子線の強度と透過電子線の強度との比により膜厚が算出される。
【0004】
この方法では、そのように比をとることで、入射電子線の強度のばらつきが膜厚の算出結果から排除され、膜厚を正確に測定できる。
【0005】
しかしながら、この方法では、入射電子線の強度をファラデーカップで測定した後、FIB装置を大気開放してファラデーカップを取り外す必要がある。また、透過電子を測定するための透過電子検出器をFIB装置内に設置する必要があり、工程数の増加やユーザの負担増が避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−258771号公報
【特許文献2】特開2002−83849号公報
【特許文献3】特開2009−109246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
試料作製装置及び試料作製方法において、簡便な方法により加工対象の試料の膜厚を測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下の開示の一観点によれば、試料に第1の加速電圧の電子線を照射することにより、前記試料から発生する第1の二次信号を取得するステップと、前記試料に第2の加速電圧の電子線を照射することにより、前記試料から発生する第2の二次信号を取得するステップと、前記第2の二次信号と前記第1の二次信号との比を算出するステップと、前記比が前記試料の膜厚に依存することを利用して、前記比に基づいて前記膜厚を算出するステップと、算出した前記試料の前記膜厚に基づいて、前記膜厚が目標膜厚となるのに要する該試料の加工量を算出するステップと、前記試料にイオンビームを照射することにより前記加工量だけ前記試料を加工して、前記膜厚を前記目標膜厚に近づけるステップとを有する試料作製方法が提供される。
【0009】
また、その開示の他の観点によれば、試料を載せる試料台と、所定の加速電圧で前記試料に電子線を照射する電子線照射部と、イオンビームを偏向して、前記試料の所定の部位に前記イオンビームを照射するイオンビーム照射部と、前記電子線の照射により前記試料から発生する二次信号を測定する測定器と、前記加速電圧と前記イオンビームの偏向量とを制御する制御部とを有し、前記制御部は、前記試料に第1の加速電圧の前記電子線を照射することにより前記試料から発生する第1の二次信号を前記測定器から取得し、前記試料に第2の加速電圧の前記電子線を照射することにより前記試料から発生する第2の二次信号を前記測定器から取得し、前記第2の二次信号と前記第1の二次信号との比を算出し、前記比が前記試料の膜厚に依存することを利用して、前記比に基づいて前記膜厚を算出し、算出した前記試料の前記膜厚に基づいて、前記膜厚が目標膜厚となるのに要する該試料の加工量を算出し、前記イオンビームの照射によって前記加工量だけ前記試料を加工して、前記膜厚を前記目標膜厚に近づける試料作製装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
以下の開示によれば、電子線の照射により試料から発生する第1の二次信号と第2の二次信号との比が試料の膜厚に依存することを利用して、当該比に基づいて試料の膜厚を算出する。このように比をとることで、第1の二次信号と第2の二次信号におけるもとの電子線の強度の寄与分がキャンセルされるので、もとの電子線の強度を測定する手間を省くことができ、試料の膜厚を簡便に算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、第1実施形態における膜厚の算出方法の原理について説明するための模式図である。
【図2】図2は、第1実施形態において、試料の膜厚と二次信号の比との関係を示す図である。
【図3】図3は、第1実施形態に係る試料作製装置の構成図である。
【図4】図4は、第1実施形態におけるデータベースの作成方法について説明するためのフローチャートである。
【図5】図5(a)、(b)は、第1実施形態において作成されたデータベースをグラフにより模式的に表した図である。
【図6】図6は、第1実施形態に係る試料作製方法について説明するためのフローチャートである。
【図7】図7は、第1実施形態において加工途中の試料の斜視図である。
【図8】図8は、第2実施形態で使用する標準試料の斜視図である。
【図9】図9は、第3実施形態の第1例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【図10】図10は、第3実施形態の第2例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【図11】図11は、第3実施形態の第3例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【図12】図12は、第3実施形態の第4例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、添付図面を参照しながら各実施形態について説明する。
【0013】
(第1実施形態)
本実施形態では、以下のように電子線を利用して試料の膜厚を算出する。図1は、本実施形態における膜厚の算出方法の原理について説明するための模式図である。
【0014】
図1に示すように、この例では、予め薄膜状に整形された試料Sを試料台30に載せると共に、その試料Sの近傍に測定器31を設け、試料Sにその膜厚方向から電子線EBを照射する。
【0015】
電子線EBは試料Sの内部において電子の散乱を引き起こし、それにより試料Sの表面S1から二次電子EB1が放出される。また、試料Sの膜厚tが薄い場合には、電子線EBが試料Sの裏面S2に到達し、当該裏面S2からも二次電子EB2が放出される。
【0016】
本実施形態では、これらの二次電子EB1、EB2を合わせた強度を二次信号Isとして測定器31により測定する。
【0017】
ここで、裏面S2から放出される二次電子EB2の強度は、電子線EBの加速エネルギや試料Sの材料に依存する。
【0018】
また、電子線EBの加速エネルギや試料Sの材料が同一であっても、膜厚tが異なれば裏面S2に到達する電子線EBの量が変化するので、裏面S2から放出される二次電子EB2の量も変化する。
【0019】
このように二次電子EB1、EB2を合わせた二次信号Isは膜厚tに依存するため、当該強度Isは膜厚tを知る目安として使用することができる。
【0020】
但し、もとの電子線EBの強度が変われば同一の膜厚tであっても二次電子EB1、EB2の強度が変わるため、二次信号Isそのものを利用して膜厚tを測定しようとしたのでは、ファラデーカップ等によりもとの電子線EBの強度を測定する必要が生じ、手間がかかる。
【0021】
そこで、本実施形態では、まず、ある加速エネルギの電子線EBを照射することにより測定器31で第1の二次信号Is1を測定する。次いで、電子線EBの強度を変えずに加速エネルギのみを変更して、測定器31で第2の二次信号Is2を測定する。
【0022】
そして、第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1の比(Is2/Is1)に基づいて試料Sの膜厚tを算出する。図2は、比(Is2/Is1)と膜厚tとの関係を示す図である。
【0023】
図2に示すように、第2の加速エネルギが第1の加速エネルギより小さい場合、膜厚tが厚くなるほど比(Is2/Is1)は小さくなる。これは、膜厚tが厚くなると、一回目と二回目とで裏面S2に到達する電子線EBの量の差が大きくなるからである。そして、その比(Is2/Is1)と膜厚tとは一対一に対応するので、比(Is2/Is1)が分かれば膜厚tを求めることができる。
【0024】
更に、この方法では、各二次信号Is1、Is2の比を取ることにより、これらの二次信号Is1、Is2におけるもとの電子線EBの強度の寄与分がキャンセルされるため、もとの電子線EBの強度を測定する手間を省くことができ、ユーザの便宜に資することが可能となる。
【0025】
また、試料Sの表面S1のうち膜厚tを測定したい部位に前述の電子線EBを照射することにより、試料Sの任意の部位の膜厚を測定することができる。試料SのSEM像から膜厚tを測定することも考えられるが、SEM像では試料Sの輪郭しか分からないため、試料Sに歪みが生じている場合等においては、本例のように試料Sの任意の部位における膜厚tを正確に測定するのは困難である。
【0026】
以下に、このような原理を用いた試料作製装置について説明する。
【0027】
図3は、本実施形態に係る試料作製装置の構成図である。
【0028】
この試料作製装置1は、筐体2、電子線照射部3、イオンビーム照射部4、試料台30、測定器31、及び制御部40を有する。
【0029】
このうち、筐体2はその内部が真空に維持されており、真空雰囲気下において電子線照射部3とイオンビーム照射部4とを駆動することができる。
【0030】
電子線照射部3は、SEM(Scanning Electron Microscope)装置を流用したものであって、電子銃7、陽極8、集束レンズ9、絞り10、偏向コイル11、及び対物レンズ12を有する。
【0031】
このような構成においては、電子銃7から水平方向に放出された電子線EBが、電子銃7と陽極8との間の電位差に相当する加速電圧で加速された後、集束レンズ9でコリメートされる。
【0032】
そして、絞り10において不要な電子線EBがカットされた後、偏向コイル11によって所定の方向に電子線EBが偏向され、対物レンズ12によって電子線EBが試料Sの表面に結像する。
【0033】
一方、イオンビーム照射部4は、FIB(Focused Ion Beam)装置を流用したものであり、イオン銃16、陰極17、集束レンズ18、絞り19、対物レンズ21、及び偏向電極22を有する。
【0034】
このうち、イオン銃16は、試料Sを加工するためのガリウムイオン(Ga+)のイオンビームIBを鉛直下向きに放出する。そのイオンビームIBは、イオン銃16と陰極17との電位差に相当する加速電圧で加速され、集束レンズ18においてコリメートされる。
【0035】
そして、絞り19において不要なイオンビームIBがカットされた後、対物レンズ21においてイオンビームIBの焦点が試料Sの表面に合わせられる。その後、イオンビームIBは、偏向電極22によって所定の偏向量だけ偏向され、試料Sの所定の部位に照射される。
【0036】
また、試料Sは、試料台30の上に載置されており、この試料作製装置1において後述のように膜厚tが薄くされた後、TEMによる観察対象となる。
【0037】
一方、制御部40は、データ作成部40a、記憶部40b、データ解析部40c、及びコラム制御部40dを備える。
【0038】
このうち、データ作成部40aは、測定器31から前述の第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1とを取得してこれらの比(Is2/Is1)を算出する。
【0039】
また、記憶部40bは、例えばハードディスクであって、図2に示したような膜厚tと比(Is2/Is1)との関係を示すデータをデータベースDBとして記憶する。
【0040】
そして、データ解析部40cは、データベースDBを参照することにより、データ作成部40aで算出された比(Is2/Is1)に対応する膜厚tを読み取る。
【0041】
一方、コラム制御部40dは、電子線照射部3とイオンビーム照射部4の各々に第1の制御信号ST1と第2の制御信号ST2とを出力し、これら電子線照射部3とイオンビーム照射部4とを制御する。
【0042】
これにより、電子線照射部3は、コラム制御部40dの制御下において、所定の加速電圧で試料Sの所定の部位に電子線EBを照射することになる。また、イオンビーム照射部4は、コラム制御部40dの制御下において、所定の加速電圧で試料Sの所定の部位にイオンビームIBを照射する。
【0043】
このような機能を備えた制御部40は、パーソナルコンピュータ等の計算機により実現することができ、前述のデータ作成部40a、データ解析部40c、及びコラム制御部40dの各機能は計算機のCPU(Central Processing Unit)に担わせることができる。
【0044】
次に、この試料作製装置1を用いた試料作製方法について説明する。
【0045】
前述のように、本実施形態では記憶部40bに格納されたデータベースDBを利用して試料Sの膜厚tを測定する。そこで、まずそのデータベースDBの作成方法について説明する。
【0046】
図4は、データベースDBの作成方法について説明するためのフローチャートである。
【0047】
最初のステップP1では、まず、ユーザが試料台30(図3参照)の上に膜厚が既知の標準試料S0をセットした後、筐体2内を真空雰囲気とする。なお、これ以降のステップP2〜P6は全て真空雰囲気中で行われ、筐体2に収容された標準試料S0が大気に曝されることはない。
【0048】
また、標準試料S0の材料は特に限定されないが、本実施形態では電子デバイスの材料として使用されることが多いシリコンを標準試料S0の材料として使用する。
【0049】
次いで、ステップP2に移り、コラム制御部40dの制御下において、標準試料S0に第1の加速電圧V1の電子線EBを照射する。そして、これにより発生した各二次電子EB1、EB2(図1参照)を合わせた強度Is1を第1の二次信号として測定器31により測定し、データ作成部40aがその第1の二次信号Is1を取得する。
【0050】
次に、ステップP3に移り、コラム制御部40dの制御下において、標準試料S0に第2の加速電圧V2の電子線EBを照射する。そして、これにより発生した各二次電子EB1、EB2を合わせた強度Is2を第2の二次信号として測定器31により測定し、データ作成部40aがその第2の二次信号Is2を取得する。
【0051】
続いて、ステップP4に移り、データ作成部40aが第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1の比(Is2/Is1)を算出する。
【0052】
そして、ステップP5に移り、ユーザ又はデータ作成部40aが、膜厚が異なる所定個数nの標準試料S0について比(Is2/Is1)が得られたか否かを判断する。
【0053】
ここで、得られていない(NO)と判断された場合には、ステップP1に戻り、前回とは膜厚が異なる別の標準試料S0に対してステップP1〜P4を行う。
【0054】
一方、得られた(YES)と判断された場合にはステップP6に移る。
【0055】
そのステップP6では、複数の標準試料S0の各々の膜厚と、その標準試料S0において測定された比(Is2/Is1)とを対応付けることにより、データ作成部40aがデータベースDBを作成してそのデータベースDBを記憶部40bに格納する。
【0056】
なお、比(Is2/Is1)と膜厚tとの関係は標準試料S0の材料によって変わるので、上記したデータベースDBの作成作業を種々の材料の標準試料S0について行い、そのデータベースDBを記憶部40bに格納してもよい。
【0057】
以上により、データベースDBが作成されたことになる。
【0058】
図5(a)、(b)は、前述のステップP1〜P5に従って実際に作成したデータベースDBをグラフにより模式的に表した図である。
【0059】
このグラフの横軸は標準試料S0の膜厚tであり、縦軸は、第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1の比(Is2/Is1)である。
【0060】
この例では、標準試料S0としてシリコンの薄膜を使用した。また、第1の加速エネルギV1を30kVにし、第2の加速エネルギV2を2kV、5kV、10kV、及び15kVと変えることにより4つのグラフを取得した。
【0061】
なお、図5(a)と図5(b)では横軸のスケールのみが異なり、4つのグラフの各々は図5(a)と図5(b)で同一である。
【0062】
図5(a)、(b)に示すように、比(Is2/Is1)は膜厚tが大きくなるほど減少する傾向にある。
【0063】
また、これらのグラフを利用して比(Is2/Is1)に対応する膜厚tを読み取るには、グラフの傾きが大きい方が読み取りが容易となる。図5(a)、(b)によれば、第2の加速エネルギV2が2kVと5kVの場合のグラフが他のグラフよりも傾きが大きく、膜厚tの読み取りに適していることが明らかとなった。
【0064】
次に、データベースDBを利用した試料作製方法について説明する。
【0065】
図6は、本実施形態に係る試料作製方法について説明するためのフローチャートである。本方法では、以下のように試料Sの膜厚tを測定し、その測定結果に応じた量だけ試料Sを加工することにより試料Sの膜厚を目標膜厚t0に近づける。
【0066】
その目標膜厚t0の設定方法は特に限定されない。本実施形態では、TEM装置による観察対象として試料Sを作製するため、十分なコントラストのTEM像が得られるように試料Sの目標膜厚t0は十分に薄く、例えば100nm以下とする。
【0067】
まず、ステップP10において、ユーザが試料台30(図3参照)の上に加工対象の試料Sをセットした後、筐体2内を真空雰囲気とする。なお、これ以降のステップP11〜P16は全て真空雰囲気中で行われ、筐体2に収容された試料Sが大気に曝されることはない。
【0068】
次に、ステップP11に移り、コラム制御部40dの制御下において、ステップP2(図4参照)におけるのと同じ電圧の第1の加速電圧V1で加速された電子線EBを、試料Sにおいて膜厚を測定したい部位に照射する。
【0069】
そして、これにより発生した各二次電子EB1、EB2(図1参照)を合わせた強度Is1を第1の二次信号として測定器31により測定し、データ作成部40aがその第1の二次信号Is1を取得する。
【0070】
続いて、ステップP12に移り、コラム制御部40dの制御下において、ステップP3(図4参照)におけるのと同じ電圧の第2の加速電圧V2で加速された電子線EBを試料Sに照射する。なお、試料Sにおいて電子線EBを照射する部位は、ステップP11におけるのと同一部位である。
【0071】
そして、これにより発生した各二次電子EB1、EB2(図1参照)を合わせた強度Is2を第2の二次信号として測定器31により測定し、データ作成部40aがその第2の二次信号Is2を取得する。
【0072】
次いで、ステップP13に移り、データ作成部40aが、第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1の比(Is2/Is1)を算出する。
【0073】
そして、ステップP14に移り、データ解析部40cが、試料Sと同じ材料に対応したデータベースDBを参照することにより、ステップP13で算出した比(Is2/Is1)に対応する膜厚tを読み取る。
【0074】
なお、図5(a)、(b)に示したように、データベースDBには、第1の加速電圧V1と第2の加速電圧V2との組み合わせが異なる複数のデータが含まれていることがある。その場合は、ステップP11、P12の各々で使用した第1の加速電圧V1と第2の加速電圧V2と同一の組み合わせのデータを参照し、膜厚tを読み取ればよい。
【0075】
その後、ステップP15に移り、データ解析部40cがステップP13で算出した膜厚tと目標膜厚t0との差Δt(=t−t0)を算出する。その差Δtは、試料Sの膜厚tが目標膜厚t0となるのに要する該試料Sの加工量である。
【0076】
そこで、次のステップS16では、コラム制御部40dの制御下において試料SにイオンビームIBを照射することにより前述の加工量Δtだけ試料Sを加工して、試料Sの膜厚を目標膜厚t0に近づける。
【0077】
図7は、ステップP16における加工途中の試料Sの斜視図である。
【0078】
図7に示すように、加工に際しては、試料Sの上面の縁Seに沿う方向DにイオンビームIBを走査することにより、縁Seにおける試料Sを物理的にエッチングする。そして、そのエッチングが試料Sの下面に至って加工が終了すると、試料Sが前述の加工量Δtだけ薄くなる。その加工量Δtに相当するイオンビームIBの偏向量や、方向DへのイオンビームIBの偏向量は、前述のコラム制御部40dにより制御される。
【0079】
この後は、必要に応じてステップP11〜P14を再び行って加工後の試料Sの膜厚を測定し、その測定値が目標膜厚t0から離れている場合には再度ステップS16を行って試料Sを更に薄くしてもよい。
【0080】
以上により、本実施形態に係る試料作製方法の基本ステップを終了する。
【0081】
本実施形態によれば、ステップP14において、第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1との比(Is2/Is1)を用いて試料Sの膜厚tを算出する。
【0082】
これらの二次信号Is1、Is2の強度の各々は、試料Sに照射する前のもとの電子線EBの強度に依存するが、このように比を取ることで前述のように各二次信号Is1、Is2における電子線EBの強度の寄与分がキャンセルされる。そのため、本実施形態ではもとの電子線EBの強度を測定する必要がなく、試料Sの膜厚tを簡便に測定することができる。
【0083】
更に、このように電子線EBの強度を測定する必要がないため、筐体2を大気開放してその電子線EBの強度を測定するためのファラデーカップを筐体2内に設ける必要がなくなり、工程の簡略化も実現することができる。
【0084】
(第2実施形態)
第1実施形態では、図4のステップP5において説明したように、膜厚の異なる複数の標準試料S0について比(Is2/Is1)を算出することによりデータベースDBを作成した。
【0085】
これに対し、本実施形態では、一つの標準試料のみを使用することによりデータベースDBを作成する方法について説明する。
【0086】
図8は、本実施形態で使用する標準試料STの斜視図である。
【0087】
図8に示すように、この標準試料STは寸法が既知の三角柱状であり、その底面を下にして試料台30に載置される。そして、その標準試料STの一つの側面Pに走査線Lを設定し、その走査線Lの任意の部位に電子線EBを照射する。
【0088】
このような形状の標準試料STにおいては、互いに対向する二つの側面P、Q同士の間隔が膜厚tに相当するが、その膜厚tは、走査線Lのどの部位に電子線EBを照射するかによって変わる。
【0089】
そのため、走査線L上の複数の部位L1、L2、・・・Lmに電子線EBを照射すれば、膜厚が異なる複数の部位について比(Is2/Is1)を算出することが可能となる。なお、比(Is2/Is1)は、第1実施形態と同様に、各部位L1、L2、・・・Lmの各々に第1の加速電圧V1と第2の加速電圧V2の各々の電子線EBを照射し、各回の照射で得られた第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1の比を取ることで算出され得る。
【0090】
また、標準試料STの寸法は既知であるから、各部位L1、L2、・・・Lmの各々における膜厚tも既知である。
【0091】
よって、複数の部位L1、L2、・・・Lmの各々における膜厚tとこれらの部位における比(Is2/Is1)とを対応付けることにより、図2に例示したのと同様のデータベースDBを作成することができる。
【0092】
なお、標準試料STの寸法が既知ではない場合には、イオンビームIBを走査イオン顕微鏡(SIM: Scanning Ion Microscope)のイオンビームとして流用して標準試料STの顕微鏡像を取得し、当該顕微鏡像から複数の部位L1、L2、・・・Lmの各膜厚tを読み取ってもよい。
【0093】
更に、そのような走査イオン顕微鏡の顕微鏡像に代えて、電子線EBを走査電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)の電子線として流用することにより、走査電子顕微鏡による標準試料STの顕微鏡像を取得し、その顕微鏡像から膜厚tを読み取ってもよい。
【0094】
以上説明した本実施形態によれば、一つの標準試料STのみからデータベースDBを作成することができるので、第1実施形態のように複数の標準試料S0を使用する場合と比較してデータベースDBの作成に要する手間が簡略化される。
【0095】
(第3実施形態)
第1実施形態では、図1に示したように、測定器31により測定される二次信号Isは試料Sから出る二次電子EB1、EB2の強度である。
【0096】
二次信号はこれに限定されず、試料Sの膜厚tと相関がある任意の信号を二次信号Isとして採用し得る。本実施形態では、そのような二次信号Isの例について説明する。
【0097】
(第1例)
図9は、本例に係る試料作製装置の要部構成図である。なお、図9において第1実施形態と同じ要素には第1実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。これについては後述の図10〜図12においても同じである。
【0098】
本例では、試料Sを透過した透過電子EBTの強度を測定器31で測定する。その測定器31は、電子線EBから見て試料Sの後方に設けられる。
【0099】
電子線EBの照射により発生する透過電子ETの強度は試料Sの膜厚tが薄いほど強くなる。このように透過電子強度と膜厚tとには相関があるので、透過電子強度は二次信号Isとして採用し得る。
【0100】
(第2例)
図10は、本例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【0101】
本例では、試料Sで反射した反射電子EBRの強度を測定器31で測定する。その測定器31は、試料Sにおいて電子線EBが照射される表面S1に対向する位置に設けられる。
【0102】
反射電子EBRは、試料Sの表面S1だけでなく試料Sの内部からも発生し、試料Sの膜厚tが厚いほど電子線EBが試料Sの奥深くに侵入してより多くの反射電子EBRを生成する。
【0103】
このように反射電子強度と膜厚tとには相関があるので、反射電子強度は二次信号Isとして採用し得る。
【0104】
(第3例)
図11は、本例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【0105】
本例では、電子線EBの照射によって試料Sで発生した励起X線Rの強度を測定器31で測定する。その測定器31は、例えばEDX(Energy Dispersion X-ray Spectroscopy)であり、第1実施形態と同様に試料Sの近傍に設けられる。
【0106】
膜厚tが厚いほど試料S内に進入した電子線EBにより励起される原子が増えて励起X線の強度は強くなる。このように、励起X線強度は、膜厚tと相関があるため、二次信号Isとして採用し得る。
【0107】
(第4例)
図12は、本例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【0108】
本例では、電子線EBの照射によって試料Sから試料台30に流れる吸収電流Iを測定器31で測定する。この場合は、吸収電流Iがアースに向かって流れるように試料台30の材料として金属を使用すると共に、その試料台30に測定器31として一端が接地された電流計を接続する。
【0109】
膜厚tが厚いほど多くの電子線EBは試料Sに吸収され、より多くの吸収電流Iが流れる。このように吸収電流Iと膜厚tとには相関があるので、吸収電流Iは二次信号Isとして採用し得る。
【0110】
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0111】
(付記1) 試料に第1の加速電圧の電子線を照射することにより、前記試料から発生する第1の二次信号を取得するステップと、
前記試料に第2の加速電圧の電子線を照射することにより、前記試料から発生する第2の二次信号を取得するステップと、
前記第2の二次信号と前記第1の二次信号との比を算出するステップと、
前記比が前記試料の膜厚に依存することを利用して、前記比に基づいて前記膜厚を算出するステップと、
算出した前記試料の前記膜厚に基づいて、前記膜厚が目標膜厚となるのに要する該試料の加工量を算出するステップと、
前記試料にイオンビームを照射することにより前記加工量だけ前記試料を加工して、前記膜厚を前記目標膜厚に近づけるステップと、
を有することを特徴とする試料作製方法。
【0112】
(付記2) 前記第1の二次信号を取得するステップ、前記第2の二次信号を取得するステップ、及び前記試料を加工するステップは、同一の筐体内に前記試料を収容し、該試料を大気に曝すことなしに行われることを特徴とする付記1に記載の試料作製方法。
【0113】
(付記3) 前記比と前記膜厚との関係を示すデータを作成するステップを更に有し、
前記膜厚を算出するステップは、算出した前記比に対応する前記膜厚を前記データから読み取ることにより行われることを特徴とする付記1又は付記2に記載の試料作製方法。
【0114】
(付記4) 前記データを作成するステップは、複数の部位の各々において異なる既知の膜厚を有する標準試料を用い、該標準試料の前記部位の各々における前記比を算出し、該比を前記部位における前記膜厚に対応付けることにより行われることを特徴とする付記3に記載の試料作製方法。
【0115】
(付記5) 前記第1の二次信号を取得するステップと前記第2の二次信号を取得するステップの各々において、前記試料の膜厚方向から該試料に前記電子線を照射することを特徴とする付記1乃至付記4のいずれかに記載の試料作製方法。
【0116】
(付記6) 前記試料を加工するステップは、前記試料の上面の縁に沿って前記イオンビームを走査することにより、前記縁における前記試料を物理的にエッチングすることにより行われることを特徴とする付記1乃至付記5のいずれかに記載の試料作製方法。
【0117】
(付記7) 前記第1の二次信号及び前記第2の二次信号は、二次電子強度、透過電子強度、反射電子強度、励起X線強度、及び吸収電流のいずれか一であることを特徴とする付記1乃至付記6のいずれかに記載の試料作製方法。
【0118】
(付記8) 試料を載せる試料台と、
所定の加速電圧で前記試料に電子線を照射する電子線照射部と、
イオンビームを偏向して、前記試料の所定の部位に前記イオンビームを照射するイオンビーム照射部と、
前記電子線の照射により前記試料から発生する二次信号を測定する測定器と、
前記加速電圧と前記イオンビームの偏向量とを制御する制御部とを有し、
前記制御部は、
前記試料に第1の加速電圧の前記電子線を照射することにより前記試料から発生する第1の二次信号を前記測定器から取得し、
前記試料に第2の加速電圧の前記電子線を照射することにより前記試料から発生する第2の二次信号を前記測定器から取得し、
前記第2の二次信号と前記第1の二次信号との比を算出し、
前記比が前記試料の膜厚に依存することを利用して、前記比に基づいて前記膜厚を算出し、
算出した前記試料の前記膜厚に基づいて、前記膜厚が目標膜厚となるのに要する該試料の加工量を算出し、
前記イオンビームの照射によって前記加工量だけ前記試料を加工して、前記膜厚を前記目標膜厚に近づけることを特徴とする試料作製装置。
【0119】
(付記9) 前記比と前記膜厚との関係を示すデータが格納された記憶部を更に有することを特徴とする付記8に記載の試料作製装置。
【0120】
(付記10) 前記第1の二次信号及び前記第2の二次信号は、二次電子強度、透過電子強度、反射電子強度、励起X線強度、及び吸収電流のいずれか一であることを特徴とする付記8又は付記9に記載の試料作製装置。
【符号の説明】
【0121】
1…試料作製装置、2…筐体、3…電子線照射部、4…イオンビーム照射部、7…電子銃、8…陽極、9、18…集束レンズ、10、19…絞り、11…偏向コイル、12、21…対物レンズ、16…イオン銃、17…陰極、22…偏向電極、30…試料台、31…測定器、40…制御部、40a…データ作成部、40b…記憶部、40c…データ解析部、40d…コラム制御部、EB…電子線、EB1、EB2…二次電子、EBT…透過電子、EBR…反射電子、R…励起X線、I…吸収電流、S…試料、S1…表面、S2…裏面、S0、ST…標準試料、IB…イオンビーム、Is…二次信号、ST1…第1の制御信号、ST2…第2の制御信号。
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料作製装置及び試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI等の電子デバイスにおいては、その特性を調べるために、電子デバイスの一部を試料として切り出し、当該試料をTEM(Transmission Electron Microscope)装置により観察することがある。その場合、観察対象の試料は、TEM装置で生成した電子線が透過できる程度に十分に薄くしておくのが好ましい。
【0003】
このように薄い試料を作製する方法として、FIB(Focused Ion Beam)装置内における試料の加工途中でその膜厚を測定し、その測定結果に応じてFIBによる試料の加工量を定める方法が提案されている。この方法においては、試料を透過する透過電子線の強度が試料の膜厚に依存することを利用して、FIB装置内において試料に電子線を照射し、その入射電子線の強度と透過電子線の強度との比により膜厚が算出される。
【0004】
この方法では、そのように比をとることで、入射電子線の強度のばらつきが膜厚の算出結果から排除され、膜厚を正確に測定できる。
【0005】
しかしながら、この方法では、入射電子線の強度をファラデーカップで測定した後、FIB装置を大気開放してファラデーカップを取り外す必要がある。また、透過電子を測定するための透過電子検出器をFIB装置内に設置する必要があり、工程数の増加やユーザの負担増が避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−258771号公報
【特許文献2】特開2002−83849号公報
【特許文献3】特開2009−109246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
試料作製装置及び試料作製方法において、簡便な方法により加工対象の試料の膜厚を測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下の開示の一観点によれば、試料に第1の加速電圧の電子線を照射することにより、前記試料から発生する第1の二次信号を取得するステップと、前記試料に第2の加速電圧の電子線を照射することにより、前記試料から発生する第2の二次信号を取得するステップと、前記第2の二次信号と前記第1の二次信号との比を算出するステップと、前記比が前記試料の膜厚に依存することを利用して、前記比に基づいて前記膜厚を算出するステップと、算出した前記試料の前記膜厚に基づいて、前記膜厚が目標膜厚となるのに要する該試料の加工量を算出するステップと、前記試料にイオンビームを照射することにより前記加工量だけ前記試料を加工して、前記膜厚を前記目標膜厚に近づけるステップとを有する試料作製方法が提供される。
【0009】
また、その開示の他の観点によれば、試料を載せる試料台と、所定の加速電圧で前記試料に電子線を照射する電子線照射部と、イオンビームを偏向して、前記試料の所定の部位に前記イオンビームを照射するイオンビーム照射部と、前記電子線の照射により前記試料から発生する二次信号を測定する測定器と、前記加速電圧と前記イオンビームの偏向量とを制御する制御部とを有し、前記制御部は、前記試料に第1の加速電圧の前記電子線を照射することにより前記試料から発生する第1の二次信号を前記測定器から取得し、前記試料に第2の加速電圧の前記電子線を照射することにより前記試料から発生する第2の二次信号を前記測定器から取得し、前記第2の二次信号と前記第1の二次信号との比を算出し、前記比が前記試料の膜厚に依存することを利用して、前記比に基づいて前記膜厚を算出し、算出した前記試料の前記膜厚に基づいて、前記膜厚が目標膜厚となるのに要する該試料の加工量を算出し、前記イオンビームの照射によって前記加工量だけ前記試料を加工して、前記膜厚を前記目標膜厚に近づける試料作製装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
以下の開示によれば、電子線の照射により試料から発生する第1の二次信号と第2の二次信号との比が試料の膜厚に依存することを利用して、当該比に基づいて試料の膜厚を算出する。このように比をとることで、第1の二次信号と第2の二次信号におけるもとの電子線の強度の寄与分がキャンセルされるので、もとの電子線の強度を測定する手間を省くことができ、試料の膜厚を簡便に算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、第1実施形態における膜厚の算出方法の原理について説明するための模式図である。
【図2】図2は、第1実施形態において、試料の膜厚と二次信号の比との関係を示す図である。
【図3】図3は、第1実施形態に係る試料作製装置の構成図である。
【図4】図4は、第1実施形態におけるデータベースの作成方法について説明するためのフローチャートである。
【図5】図5(a)、(b)は、第1実施形態において作成されたデータベースをグラフにより模式的に表した図である。
【図6】図6は、第1実施形態に係る試料作製方法について説明するためのフローチャートである。
【図7】図7は、第1実施形態において加工途中の試料の斜視図である。
【図8】図8は、第2実施形態で使用する標準試料の斜視図である。
【図9】図9は、第3実施形態の第1例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【図10】図10は、第3実施形態の第2例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【図11】図11は、第3実施形態の第3例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【図12】図12は、第3実施形態の第4例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、添付図面を参照しながら各実施形態について説明する。
【0013】
(第1実施形態)
本実施形態では、以下のように電子線を利用して試料の膜厚を算出する。図1は、本実施形態における膜厚の算出方法の原理について説明するための模式図である。
【0014】
図1に示すように、この例では、予め薄膜状に整形された試料Sを試料台30に載せると共に、その試料Sの近傍に測定器31を設け、試料Sにその膜厚方向から電子線EBを照射する。
【0015】
電子線EBは試料Sの内部において電子の散乱を引き起こし、それにより試料Sの表面S1から二次電子EB1が放出される。また、試料Sの膜厚tが薄い場合には、電子線EBが試料Sの裏面S2に到達し、当該裏面S2からも二次電子EB2が放出される。
【0016】
本実施形態では、これらの二次電子EB1、EB2を合わせた強度を二次信号Isとして測定器31により測定する。
【0017】
ここで、裏面S2から放出される二次電子EB2の強度は、電子線EBの加速エネルギや試料Sの材料に依存する。
【0018】
また、電子線EBの加速エネルギや試料Sの材料が同一であっても、膜厚tが異なれば裏面S2に到達する電子線EBの量が変化するので、裏面S2から放出される二次電子EB2の量も変化する。
【0019】
このように二次電子EB1、EB2を合わせた二次信号Isは膜厚tに依存するため、当該強度Isは膜厚tを知る目安として使用することができる。
【0020】
但し、もとの電子線EBの強度が変われば同一の膜厚tであっても二次電子EB1、EB2の強度が変わるため、二次信号Isそのものを利用して膜厚tを測定しようとしたのでは、ファラデーカップ等によりもとの電子線EBの強度を測定する必要が生じ、手間がかかる。
【0021】
そこで、本実施形態では、まず、ある加速エネルギの電子線EBを照射することにより測定器31で第1の二次信号Is1を測定する。次いで、電子線EBの強度を変えずに加速エネルギのみを変更して、測定器31で第2の二次信号Is2を測定する。
【0022】
そして、第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1の比(Is2/Is1)に基づいて試料Sの膜厚tを算出する。図2は、比(Is2/Is1)と膜厚tとの関係を示す図である。
【0023】
図2に示すように、第2の加速エネルギが第1の加速エネルギより小さい場合、膜厚tが厚くなるほど比(Is2/Is1)は小さくなる。これは、膜厚tが厚くなると、一回目と二回目とで裏面S2に到達する電子線EBの量の差が大きくなるからである。そして、その比(Is2/Is1)と膜厚tとは一対一に対応するので、比(Is2/Is1)が分かれば膜厚tを求めることができる。
【0024】
更に、この方法では、各二次信号Is1、Is2の比を取ることにより、これらの二次信号Is1、Is2におけるもとの電子線EBの強度の寄与分がキャンセルされるため、もとの電子線EBの強度を測定する手間を省くことができ、ユーザの便宜に資することが可能となる。
【0025】
また、試料Sの表面S1のうち膜厚tを測定したい部位に前述の電子線EBを照射することにより、試料Sの任意の部位の膜厚を測定することができる。試料SのSEM像から膜厚tを測定することも考えられるが、SEM像では試料Sの輪郭しか分からないため、試料Sに歪みが生じている場合等においては、本例のように試料Sの任意の部位における膜厚tを正確に測定するのは困難である。
【0026】
以下に、このような原理を用いた試料作製装置について説明する。
【0027】
図3は、本実施形態に係る試料作製装置の構成図である。
【0028】
この試料作製装置1は、筐体2、電子線照射部3、イオンビーム照射部4、試料台30、測定器31、及び制御部40を有する。
【0029】
このうち、筐体2はその内部が真空に維持されており、真空雰囲気下において電子線照射部3とイオンビーム照射部4とを駆動することができる。
【0030】
電子線照射部3は、SEM(Scanning Electron Microscope)装置を流用したものであって、電子銃7、陽極8、集束レンズ9、絞り10、偏向コイル11、及び対物レンズ12を有する。
【0031】
このような構成においては、電子銃7から水平方向に放出された電子線EBが、電子銃7と陽極8との間の電位差に相当する加速電圧で加速された後、集束レンズ9でコリメートされる。
【0032】
そして、絞り10において不要な電子線EBがカットされた後、偏向コイル11によって所定の方向に電子線EBが偏向され、対物レンズ12によって電子線EBが試料Sの表面に結像する。
【0033】
一方、イオンビーム照射部4は、FIB(Focused Ion Beam)装置を流用したものであり、イオン銃16、陰極17、集束レンズ18、絞り19、対物レンズ21、及び偏向電極22を有する。
【0034】
このうち、イオン銃16は、試料Sを加工するためのガリウムイオン(Ga+)のイオンビームIBを鉛直下向きに放出する。そのイオンビームIBは、イオン銃16と陰極17との電位差に相当する加速電圧で加速され、集束レンズ18においてコリメートされる。
【0035】
そして、絞り19において不要なイオンビームIBがカットされた後、対物レンズ21においてイオンビームIBの焦点が試料Sの表面に合わせられる。その後、イオンビームIBは、偏向電極22によって所定の偏向量だけ偏向され、試料Sの所定の部位に照射される。
【0036】
また、試料Sは、試料台30の上に載置されており、この試料作製装置1において後述のように膜厚tが薄くされた後、TEMによる観察対象となる。
【0037】
一方、制御部40は、データ作成部40a、記憶部40b、データ解析部40c、及びコラム制御部40dを備える。
【0038】
このうち、データ作成部40aは、測定器31から前述の第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1とを取得してこれらの比(Is2/Is1)を算出する。
【0039】
また、記憶部40bは、例えばハードディスクであって、図2に示したような膜厚tと比(Is2/Is1)との関係を示すデータをデータベースDBとして記憶する。
【0040】
そして、データ解析部40cは、データベースDBを参照することにより、データ作成部40aで算出された比(Is2/Is1)に対応する膜厚tを読み取る。
【0041】
一方、コラム制御部40dは、電子線照射部3とイオンビーム照射部4の各々に第1の制御信号ST1と第2の制御信号ST2とを出力し、これら電子線照射部3とイオンビーム照射部4とを制御する。
【0042】
これにより、電子線照射部3は、コラム制御部40dの制御下において、所定の加速電圧で試料Sの所定の部位に電子線EBを照射することになる。また、イオンビーム照射部4は、コラム制御部40dの制御下において、所定の加速電圧で試料Sの所定の部位にイオンビームIBを照射する。
【0043】
このような機能を備えた制御部40は、パーソナルコンピュータ等の計算機により実現することができ、前述のデータ作成部40a、データ解析部40c、及びコラム制御部40dの各機能は計算機のCPU(Central Processing Unit)に担わせることができる。
【0044】
次に、この試料作製装置1を用いた試料作製方法について説明する。
【0045】
前述のように、本実施形態では記憶部40bに格納されたデータベースDBを利用して試料Sの膜厚tを測定する。そこで、まずそのデータベースDBの作成方法について説明する。
【0046】
図4は、データベースDBの作成方法について説明するためのフローチャートである。
【0047】
最初のステップP1では、まず、ユーザが試料台30(図3参照)の上に膜厚が既知の標準試料S0をセットした後、筐体2内を真空雰囲気とする。なお、これ以降のステップP2〜P6は全て真空雰囲気中で行われ、筐体2に収容された標準試料S0が大気に曝されることはない。
【0048】
また、標準試料S0の材料は特に限定されないが、本実施形態では電子デバイスの材料として使用されることが多いシリコンを標準試料S0の材料として使用する。
【0049】
次いで、ステップP2に移り、コラム制御部40dの制御下において、標準試料S0に第1の加速電圧V1の電子線EBを照射する。そして、これにより発生した各二次電子EB1、EB2(図1参照)を合わせた強度Is1を第1の二次信号として測定器31により測定し、データ作成部40aがその第1の二次信号Is1を取得する。
【0050】
次に、ステップP3に移り、コラム制御部40dの制御下において、標準試料S0に第2の加速電圧V2の電子線EBを照射する。そして、これにより発生した各二次電子EB1、EB2を合わせた強度Is2を第2の二次信号として測定器31により測定し、データ作成部40aがその第2の二次信号Is2を取得する。
【0051】
続いて、ステップP4に移り、データ作成部40aが第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1の比(Is2/Is1)を算出する。
【0052】
そして、ステップP5に移り、ユーザ又はデータ作成部40aが、膜厚が異なる所定個数nの標準試料S0について比(Is2/Is1)が得られたか否かを判断する。
【0053】
ここで、得られていない(NO)と判断された場合には、ステップP1に戻り、前回とは膜厚が異なる別の標準試料S0に対してステップP1〜P4を行う。
【0054】
一方、得られた(YES)と判断された場合にはステップP6に移る。
【0055】
そのステップP6では、複数の標準試料S0の各々の膜厚と、その標準試料S0において測定された比(Is2/Is1)とを対応付けることにより、データ作成部40aがデータベースDBを作成してそのデータベースDBを記憶部40bに格納する。
【0056】
なお、比(Is2/Is1)と膜厚tとの関係は標準試料S0の材料によって変わるので、上記したデータベースDBの作成作業を種々の材料の標準試料S0について行い、そのデータベースDBを記憶部40bに格納してもよい。
【0057】
以上により、データベースDBが作成されたことになる。
【0058】
図5(a)、(b)は、前述のステップP1〜P5に従って実際に作成したデータベースDBをグラフにより模式的に表した図である。
【0059】
このグラフの横軸は標準試料S0の膜厚tであり、縦軸は、第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1の比(Is2/Is1)である。
【0060】
この例では、標準試料S0としてシリコンの薄膜を使用した。また、第1の加速エネルギV1を30kVにし、第2の加速エネルギV2を2kV、5kV、10kV、及び15kVと変えることにより4つのグラフを取得した。
【0061】
なお、図5(a)と図5(b)では横軸のスケールのみが異なり、4つのグラフの各々は図5(a)と図5(b)で同一である。
【0062】
図5(a)、(b)に示すように、比(Is2/Is1)は膜厚tが大きくなるほど減少する傾向にある。
【0063】
また、これらのグラフを利用して比(Is2/Is1)に対応する膜厚tを読み取るには、グラフの傾きが大きい方が読み取りが容易となる。図5(a)、(b)によれば、第2の加速エネルギV2が2kVと5kVの場合のグラフが他のグラフよりも傾きが大きく、膜厚tの読み取りに適していることが明らかとなった。
【0064】
次に、データベースDBを利用した試料作製方法について説明する。
【0065】
図6は、本実施形態に係る試料作製方法について説明するためのフローチャートである。本方法では、以下のように試料Sの膜厚tを測定し、その測定結果に応じた量だけ試料Sを加工することにより試料Sの膜厚を目標膜厚t0に近づける。
【0066】
その目標膜厚t0の設定方法は特に限定されない。本実施形態では、TEM装置による観察対象として試料Sを作製するため、十分なコントラストのTEM像が得られるように試料Sの目標膜厚t0は十分に薄く、例えば100nm以下とする。
【0067】
まず、ステップP10において、ユーザが試料台30(図3参照)の上に加工対象の試料Sをセットした後、筐体2内を真空雰囲気とする。なお、これ以降のステップP11〜P16は全て真空雰囲気中で行われ、筐体2に収容された試料Sが大気に曝されることはない。
【0068】
次に、ステップP11に移り、コラム制御部40dの制御下において、ステップP2(図4参照)におけるのと同じ電圧の第1の加速電圧V1で加速された電子線EBを、試料Sにおいて膜厚を測定したい部位に照射する。
【0069】
そして、これにより発生した各二次電子EB1、EB2(図1参照)を合わせた強度Is1を第1の二次信号として測定器31により測定し、データ作成部40aがその第1の二次信号Is1を取得する。
【0070】
続いて、ステップP12に移り、コラム制御部40dの制御下において、ステップP3(図4参照)におけるのと同じ電圧の第2の加速電圧V2で加速された電子線EBを試料Sに照射する。なお、試料Sにおいて電子線EBを照射する部位は、ステップP11におけるのと同一部位である。
【0071】
そして、これにより発生した各二次電子EB1、EB2(図1参照)を合わせた強度Is2を第2の二次信号として測定器31により測定し、データ作成部40aがその第2の二次信号Is2を取得する。
【0072】
次いで、ステップP13に移り、データ作成部40aが、第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1の比(Is2/Is1)を算出する。
【0073】
そして、ステップP14に移り、データ解析部40cが、試料Sと同じ材料に対応したデータベースDBを参照することにより、ステップP13で算出した比(Is2/Is1)に対応する膜厚tを読み取る。
【0074】
なお、図5(a)、(b)に示したように、データベースDBには、第1の加速電圧V1と第2の加速電圧V2との組み合わせが異なる複数のデータが含まれていることがある。その場合は、ステップP11、P12の各々で使用した第1の加速電圧V1と第2の加速電圧V2と同一の組み合わせのデータを参照し、膜厚tを読み取ればよい。
【0075】
その後、ステップP15に移り、データ解析部40cがステップP13で算出した膜厚tと目標膜厚t0との差Δt(=t−t0)を算出する。その差Δtは、試料Sの膜厚tが目標膜厚t0となるのに要する該試料Sの加工量である。
【0076】
そこで、次のステップS16では、コラム制御部40dの制御下において試料SにイオンビームIBを照射することにより前述の加工量Δtだけ試料Sを加工して、試料Sの膜厚を目標膜厚t0に近づける。
【0077】
図7は、ステップP16における加工途中の試料Sの斜視図である。
【0078】
図7に示すように、加工に際しては、試料Sの上面の縁Seに沿う方向DにイオンビームIBを走査することにより、縁Seにおける試料Sを物理的にエッチングする。そして、そのエッチングが試料Sの下面に至って加工が終了すると、試料Sが前述の加工量Δtだけ薄くなる。その加工量Δtに相当するイオンビームIBの偏向量や、方向DへのイオンビームIBの偏向量は、前述のコラム制御部40dにより制御される。
【0079】
この後は、必要に応じてステップP11〜P14を再び行って加工後の試料Sの膜厚を測定し、その測定値が目標膜厚t0から離れている場合には再度ステップS16を行って試料Sを更に薄くしてもよい。
【0080】
以上により、本実施形態に係る試料作製方法の基本ステップを終了する。
【0081】
本実施形態によれば、ステップP14において、第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1との比(Is2/Is1)を用いて試料Sの膜厚tを算出する。
【0082】
これらの二次信号Is1、Is2の強度の各々は、試料Sに照射する前のもとの電子線EBの強度に依存するが、このように比を取ることで前述のように各二次信号Is1、Is2における電子線EBの強度の寄与分がキャンセルされる。そのため、本実施形態ではもとの電子線EBの強度を測定する必要がなく、試料Sの膜厚tを簡便に測定することができる。
【0083】
更に、このように電子線EBの強度を測定する必要がないため、筐体2を大気開放してその電子線EBの強度を測定するためのファラデーカップを筐体2内に設ける必要がなくなり、工程の簡略化も実現することができる。
【0084】
(第2実施形態)
第1実施形態では、図4のステップP5において説明したように、膜厚の異なる複数の標準試料S0について比(Is2/Is1)を算出することによりデータベースDBを作成した。
【0085】
これに対し、本実施形態では、一つの標準試料のみを使用することによりデータベースDBを作成する方法について説明する。
【0086】
図8は、本実施形態で使用する標準試料STの斜視図である。
【0087】
図8に示すように、この標準試料STは寸法が既知の三角柱状であり、その底面を下にして試料台30に載置される。そして、その標準試料STの一つの側面Pに走査線Lを設定し、その走査線Lの任意の部位に電子線EBを照射する。
【0088】
このような形状の標準試料STにおいては、互いに対向する二つの側面P、Q同士の間隔が膜厚tに相当するが、その膜厚tは、走査線Lのどの部位に電子線EBを照射するかによって変わる。
【0089】
そのため、走査線L上の複数の部位L1、L2、・・・Lmに電子線EBを照射すれば、膜厚が異なる複数の部位について比(Is2/Is1)を算出することが可能となる。なお、比(Is2/Is1)は、第1実施形態と同様に、各部位L1、L2、・・・Lmの各々に第1の加速電圧V1と第2の加速電圧V2の各々の電子線EBを照射し、各回の照射で得られた第2の二次信号Is2と第1の二次信号Is1の比を取ることで算出され得る。
【0090】
また、標準試料STの寸法は既知であるから、各部位L1、L2、・・・Lmの各々における膜厚tも既知である。
【0091】
よって、複数の部位L1、L2、・・・Lmの各々における膜厚tとこれらの部位における比(Is2/Is1)とを対応付けることにより、図2に例示したのと同様のデータベースDBを作成することができる。
【0092】
なお、標準試料STの寸法が既知ではない場合には、イオンビームIBを走査イオン顕微鏡(SIM: Scanning Ion Microscope)のイオンビームとして流用して標準試料STの顕微鏡像を取得し、当該顕微鏡像から複数の部位L1、L2、・・・Lmの各膜厚tを読み取ってもよい。
【0093】
更に、そのような走査イオン顕微鏡の顕微鏡像に代えて、電子線EBを走査電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)の電子線として流用することにより、走査電子顕微鏡による標準試料STの顕微鏡像を取得し、その顕微鏡像から膜厚tを読み取ってもよい。
【0094】
以上説明した本実施形態によれば、一つの標準試料STのみからデータベースDBを作成することができるので、第1実施形態のように複数の標準試料S0を使用する場合と比較してデータベースDBの作成に要する手間が簡略化される。
【0095】
(第3実施形態)
第1実施形態では、図1に示したように、測定器31により測定される二次信号Isは試料Sから出る二次電子EB1、EB2の強度である。
【0096】
二次信号はこれに限定されず、試料Sの膜厚tと相関がある任意の信号を二次信号Isとして採用し得る。本実施形態では、そのような二次信号Isの例について説明する。
【0097】
(第1例)
図9は、本例に係る試料作製装置の要部構成図である。なお、図9において第1実施形態と同じ要素には第1実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。これについては後述の図10〜図12においても同じである。
【0098】
本例では、試料Sを透過した透過電子EBTの強度を測定器31で測定する。その測定器31は、電子線EBから見て試料Sの後方に設けられる。
【0099】
電子線EBの照射により発生する透過電子ETの強度は試料Sの膜厚tが薄いほど強くなる。このように透過電子強度と膜厚tとには相関があるので、透過電子強度は二次信号Isとして採用し得る。
【0100】
(第2例)
図10は、本例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【0101】
本例では、試料Sで反射した反射電子EBRの強度を測定器31で測定する。その測定器31は、試料Sにおいて電子線EBが照射される表面S1に対向する位置に設けられる。
【0102】
反射電子EBRは、試料Sの表面S1だけでなく試料Sの内部からも発生し、試料Sの膜厚tが厚いほど電子線EBが試料Sの奥深くに侵入してより多くの反射電子EBRを生成する。
【0103】
このように反射電子強度と膜厚tとには相関があるので、反射電子強度は二次信号Isとして採用し得る。
【0104】
(第3例)
図11は、本例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【0105】
本例では、電子線EBの照射によって試料Sで発生した励起X線Rの強度を測定器31で測定する。その測定器31は、例えばEDX(Energy Dispersion X-ray Spectroscopy)であり、第1実施形態と同様に試料Sの近傍に設けられる。
【0106】
膜厚tが厚いほど試料S内に進入した電子線EBにより励起される原子が増えて励起X線の強度は強くなる。このように、励起X線強度は、膜厚tと相関があるため、二次信号Isとして採用し得る。
【0107】
(第4例)
図12は、本例に係る試料作製装置の要部構成図である。
【0108】
本例では、電子線EBの照射によって試料Sから試料台30に流れる吸収電流Iを測定器31で測定する。この場合は、吸収電流Iがアースに向かって流れるように試料台30の材料として金属を使用すると共に、その試料台30に測定器31として一端が接地された電流計を接続する。
【0109】
膜厚tが厚いほど多くの電子線EBは試料Sに吸収され、より多くの吸収電流Iが流れる。このように吸収電流Iと膜厚tとには相関があるので、吸収電流Iは二次信号Isとして採用し得る。
【0110】
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0111】
(付記1) 試料に第1の加速電圧の電子線を照射することにより、前記試料から発生する第1の二次信号を取得するステップと、
前記試料に第2の加速電圧の電子線を照射することにより、前記試料から発生する第2の二次信号を取得するステップと、
前記第2の二次信号と前記第1の二次信号との比を算出するステップと、
前記比が前記試料の膜厚に依存することを利用して、前記比に基づいて前記膜厚を算出するステップと、
算出した前記試料の前記膜厚に基づいて、前記膜厚が目標膜厚となるのに要する該試料の加工量を算出するステップと、
前記試料にイオンビームを照射することにより前記加工量だけ前記試料を加工して、前記膜厚を前記目標膜厚に近づけるステップと、
を有することを特徴とする試料作製方法。
【0112】
(付記2) 前記第1の二次信号を取得するステップ、前記第2の二次信号を取得するステップ、及び前記試料を加工するステップは、同一の筐体内に前記試料を収容し、該試料を大気に曝すことなしに行われることを特徴とする付記1に記載の試料作製方法。
【0113】
(付記3) 前記比と前記膜厚との関係を示すデータを作成するステップを更に有し、
前記膜厚を算出するステップは、算出した前記比に対応する前記膜厚を前記データから読み取ることにより行われることを特徴とする付記1又は付記2に記載の試料作製方法。
【0114】
(付記4) 前記データを作成するステップは、複数の部位の各々において異なる既知の膜厚を有する標準試料を用い、該標準試料の前記部位の各々における前記比を算出し、該比を前記部位における前記膜厚に対応付けることにより行われることを特徴とする付記3に記載の試料作製方法。
【0115】
(付記5) 前記第1の二次信号を取得するステップと前記第2の二次信号を取得するステップの各々において、前記試料の膜厚方向から該試料に前記電子線を照射することを特徴とする付記1乃至付記4のいずれかに記載の試料作製方法。
【0116】
(付記6) 前記試料を加工するステップは、前記試料の上面の縁に沿って前記イオンビームを走査することにより、前記縁における前記試料を物理的にエッチングすることにより行われることを特徴とする付記1乃至付記5のいずれかに記載の試料作製方法。
【0117】
(付記7) 前記第1の二次信号及び前記第2の二次信号は、二次電子強度、透過電子強度、反射電子強度、励起X線強度、及び吸収電流のいずれか一であることを特徴とする付記1乃至付記6のいずれかに記載の試料作製方法。
【0118】
(付記8) 試料を載せる試料台と、
所定の加速電圧で前記試料に電子線を照射する電子線照射部と、
イオンビームを偏向して、前記試料の所定の部位に前記イオンビームを照射するイオンビーム照射部と、
前記電子線の照射により前記試料から発生する二次信号を測定する測定器と、
前記加速電圧と前記イオンビームの偏向量とを制御する制御部とを有し、
前記制御部は、
前記試料に第1の加速電圧の前記電子線を照射することにより前記試料から発生する第1の二次信号を前記測定器から取得し、
前記試料に第2の加速電圧の前記電子線を照射することにより前記試料から発生する第2の二次信号を前記測定器から取得し、
前記第2の二次信号と前記第1の二次信号との比を算出し、
前記比が前記試料の膜厚に依存することを利用して、前記比に基づいて前記膜厚を算出し、
算出した前記試料の前記膜厚に基づいて、前記膜厚が目標膜厚となるのに要する該試料の加工量を算出し、
前記イオンビームの照射によって前記加工量だけ前記試料を加工して、前記膜厚を前記目標膜厚に近づけることを特徴とする試料作製装置。
【0119】
(付記9) 前記比と前記膜厚との関係を示すデータが格納された記憶部を更に有することを特徴とする付記8に記載の試料作製装置。
【0120】
(付記10) 前記第1の二次信号及び前記第2の二次信号は、二次電子強度、透過電子強度、反射電子強度、励起X線強度、及び吸収電流のいずれか一であることを特徴とする付記8又は付記9に記載の試料作製装置。
【符号の説明】
【0121】
1…試料作製装置、2…筐体、3…電子線照射部、4…イオンビーム照射部、7…電子銃、8…陽極、9、18…集束レンズ、10、19…絞り、11…偏向コイル、12、21…対物レンズ、16…イオン銃、17…陰極、22…偏向電極、30…試料台、31…測定器、40…制御部、40a…データ作成部、40b…記憶部、40c…データ解析部、40d…コラム制御部、EB…電子線、EB1、EB2…二次電子、EBT…透過電子、EBR…反射電子、R…励起X線、I…吸収電流、S…試料、S1…表面、S2…裏面、S0、ST…標準試料、IB…イオンビーム、Is…二次信号、ST1…第1の制御信号、ST2…第2の制御信号。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に第1の加速電圧の電子線を照射することにより、前記試料から発生する第1の二次信号を取得するステップと、
前記試料に第2の加速電圧の電子線を照射することにより、前記試料から発生する第2の二次信号を取得するステップと、
前記第2の二次信号と前記第1の二次信号との比を算出するステップと、
前記比が前記試料の膜厚に依存することを利用して、前記比に基づいて前記膜厚を算出するステップと、
算出した前記試料の前記膜厚に基づいて、前記膜厚が目標膜厚となるのに要する該試料の加工量を算出するステップと、
前記試料にイオンビームを照射することにより前記加工量だけ前記試料を加工して、前記膜厚を前記目標膜厚に近づけるステップと、
を有することを特徴とする試料作製方法。
【請求項2】
前記比と前記膜厚との関係を示すデータを作成するステップを更に有し、
前記膜厚を算出するステップは、算出した前記比に対応する前記膜厚を前記データから読み取ることにより行われることを特徴とする請求項1に記載の試料作製方法。
【請求項3】
前記データを作成するステップは、複数の部位の各々において異なる既知の膜厚を有する標準試料を用い、該標準試料の前記部位の各々における前記比を算出し、該比を前記部位における前記膜厚に対応付けることにより行われることを特徴とする請求項2に記載の試料作製方法。
【請求項4】
試料を載せる試料台と、
所定の加速電圧で前記試料に電子線を照射する電子線照射部と、
イオンビームを偏向して、前記試料の所定の部位に前記イオンビームを照射するイオンビーム照射部と、
前記電子線の照射により前記試料から発生する二次信号を測定する測定器と、
前記加速電圧と前記イオンビームの偏向量とを制御する制御部とを有し、
前記制御部は、
前記試料に第1の加速電圧の前記電子線を照射することにより前記試料から発生する第1の二次信号を前記測定器から取得し、
前記試料に第2の加速電圧の前記電子線を照射することにより前記試料から発生する第2の二次信号を前記測定器から取得し、
前記第2の二次信号と前記第1の二次信号との比を算出し、
前記比が前記試料の膜厚に依存することを利用して、前記比に基づいて前記膜厚を算出し、
算出した前記試料の前記膜厚に基づいて、前記膜厚が目標膜厚となるのに要する該試料の加工量を算出し、
前記イオンビームの照射によって前記加工量だけ前記試料を加工して、前記膜厚を前記目標膜厚に近づけることを特徴とする試料作製装置。
【請求項5】
前記比と前記膜厚との関係を示すデータが格納された記憶部を更に有することを特徴とする請求項4に記載の試料作製装置。
【請求項1】
試料に第1の加速電圧の電子線を照射することにより、前記試料から発生する第1の二次信号を取得するステップと、
前記試料に第2の加速電圧の電子線を照射することにより、前記試料から発生する第2の二次信号を取得するステップと、
前記第2の二次信号と前記第1の二次信号との比を算出するステップと、
前記比が前記試料の膜厚に依存することを利用して、前記比に基づいて前記膜厚を算出するステップと、
算出した前記試料の前記膜厚に基づいて、前記膜厚が目標膜厚となるのに要する該試料の加工量を算出するステップと、
前記試料にイオンビームを照射することにより前記加工量だけ前記試料を加工して、前記膜厚を前記目標膜厚に近づけるステップと、
を有することを特徴とする試料作製方法。
【請求項2】
前記比と前記膜厚との関係を示すデータを作成するステップを更に有し、
前記膜厚を算出するステップは、算出した前記比に対応する前記膜厚を前記データから読み取ることにより行われることを特徴とする請求項1に記載の試料作製方法。
【請求項3】
前記データを作成するステップは、複数の部位の各々において異なる既知の膜厚を有する標準試料を用い、該標準試料の前記部位の各々における前記比を算出し、該比を前記部位における前記膜厚に対応付けることにより行われることを特徴とする請求項2に記載の試料作製方法。
【請求項4】
試料を載せる試料台と、
所定の加速電圧で前記試料に電子線を照射する電子線照射部と、
イオンビームを偏向して、前記試料の所定の部位に前記イオンビームを照射するイオンビーム照射部と、
前記電子線の照射により前記試料から発生する二次信号を測定する測定器と、
前記加速電圧と前記イオンビームの偏向量とを制御する制御部とを有し、
前記制御部は、
前記試料に第1の加速電圧の前記電子線を照射することにより前記試料から発生する第1の二次信号を前記測定器から取得し、
前記試料に第2の加速電圧の前記電子線を照射することにより前記試料から発生する第2の二次信号を前記測定器から取得し、
前記第2の二次信号と前記第1の二次信号との比を算出し、
前記比が前記試料の膜厚に依存することを利用して、前記比に基づいて前記膜厚を算出し、
算出した前記試料の前記膜厚に基づいて、前記膜厚が目標膜厚となるのに要する該試料の加工量を算出し、
前記イオンビームの照射によって前記加工量だけ前記試料を加工して、前記膜厚を前記目標膜厚に近づけることを特徴とする試料作製装置。
【請求項5】
前記比と前記膜厚との関係を示すデータが格納された記憶部を更に有することを特徴とする請求項4に記載の試料作製装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−104671(P2013−104671A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246340(P2011−246340)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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