説明

試料保持方法及び試料保持体

【課題】 試料片を保持している試料支持体からの反射電子や散乱電子が試料片に当たり難くする試料保持方法を提供する。
【解決手段】 試料素材1に集束イオンビーム2を照射して試料片4を切り出す工程と、切り出された試料片4をマニピュレータの先端部に取付けられたプローブ5の先端部に付着させ、ピックアップする工程と、試料素材1に換えて電子顕微鏡用試料ホルダーにセットされる試料支持部材7を集束イオンビーム装置の試料載置台にセットする工程と、プローブ5の先端部に付着された試料片4が試料支持部材7から離れた空間部に位置して、プローブ5の一部が試料支持部材7に接触する様にプローブ5を移動させる工程と、その接触部でプローブ5の一部を試料支持部材7に付着させる工程と、及び、その接触部よりプローブ5の根元側の部分を切断する工程から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡で観察及び/若しくは分析するための試料の保持方法及び試料の保持体に関する。
【背景技術】
【0002】
集束イオンビーム装置は任意の箇所を微細加工する事が出来ることから、電子顕微鏡で観察及び/若しくは分析される試料作製等にも用いられている。
【0003】
図1及び図2は集束イオンビームを用いて電子顕微鏡で観察及び/若しくは分析される試料作製の主要工程(バルク試料から作製された試料片を試料支持部材に固定する工程)を示したものである。
【0004】
尚、図示していないが、集束イオンビーム装置は、周知の様に、イオン源からのイオンビームを細く集束し、該集束したイオンビームを試料上で二次元的に走査する機能、該走査によって試料から発生した二次イオンを検出して、該二次イオンに基づく試料像(SIM像)を表示する機能、試料載置台を二次元方向に移動及び傾斜させることが出来る機能、前記試料載置台周辺で三次元方向に駆動可能なピックアップ用プローブを先端部に有するマニピュレータ、該試料載置台近傍にデポジション用ガスを噴出することが出来るノズルを有するガス源等が備えられている。
【0005】
先ず、図1の(a)に示す様に、集束イオンビーム装置の試料載置台上に置かれた試料素材1(以後、バルク試料と称す)上の目的とする領域をイオンビーム2で二次元方向に走査し、該領域を直方体状に削ってL字状段差部3を形成しつつ、該L字状段差部の中央部に直方体状の柱状部4を作製する。そして、集束イオンビーム装置の試料載置台を例えば60°傾斜させ、該柱状部の底辺にイオンビーム加工によりスリット状の切込みを入れ、該柱状部(以後、試料片と称す)を切り出す。
【0006】
次に、図1の(b)に示す様に、ピックアッププローブ5の先端を前記試料片4に接触させ、この部分にガス源からのデポジション用ガスを吹き掛け、該接触部分にイオンビームを照射して、図1の(c)に示す様に、該デポジションガスによるデポジション膜6を形成することにより前記プローブ5と前記試料片4を接続する。そして、一旦、該プローブを上方にピックアップしておく。
【0007】
次に、前記集束イオンビーム装置の試料載置台に置かれたバルク試料1を電子顕微鏡の試料ホルダーにセットされる試料支持部材に交換する。該試料支持部材は、例えば、図2の(a)に示す如き大略半月板状で段差を有するメッシュ(以後、段差付き半月板状メッシュと称す)であるが、説明の便宜上、図2を使用しての説明においては、該段差付き半月板状メッシュの一部(メッシュにおける上段面の角部分における直方体状の部分A)を試料支持部材7と見立てて説明する。
この様にバルク試料1を試料支持部材7に置き換えた状態において、前記プローブ5を降下させて、図2の(b)に示す様に、前記試料片4を該試料支持部材の上面Uに載せる。
次に、図2の(c)に示す様に、前記試料片4と試料支持部材7の境界部を含む面一面部分にガス源からのデポジション用ガスを吹き掛け、該部分にイオンビームを照射して、該デポジションガスによるデポジション膜8を形成することにより前記試料片4を試料支持部材7に固定する。
次に、図2の(d)に示す様に、前記プローブ5を覆うデポジション膜にイオンビームを照射して、該デポジション膜を除去し、プローブを後退させて試料片4から離す。
この様にして試料片4を保持した試料支持部材7を電子顕微鏡の試料ホルダーにセットし、該試料片の任意の部分に電子ビームを照射して、透過電子像(TEM像)や走査透過電子像(STEM像)を観察したり、X線元素分析を行う。
この際、像観察に基づいて前記試料片4の欠陥部位の位置が確認された場合、前記試料片4を保持した試料支持部材7を、再び、集束イオンビーム装置の試料載置台にセットし、イオンビーム照射により欠陥部位を含む位置を断面加工する。そして、この様にして作製された断面観察用薄膜を有する試料片を保持した試料支持部材7を、再び、電子顕微鏡の試料ホルダーにセットし、前記欠陥部分の透過電子像(TEM像)や走査透過電子像(STEM像)を観察したり、X線元素分析を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−146781号公報 (図9,図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、前述の様に、試料片4を試料支持部材7に直接保持させた状態で電子顕微鏡の試料ホルダーにセットし、該試料片の任意の部分(或いは所定の部分)に電子ビームを照射してX線元素分析を行う場合、前記試料片4の電子ビーム照射部からの反射電子や該試料片を透過して広角度に散乱した電子が前記試料支持部材7に当たってしまい、該試料支持部材からのX線に基づく元素情報が、前記試料片4の電子ビーム照射部からのX線に基づく元素情報に混入してしまい、該試料片の元素分析に支障を来たしてしまう。
又、前述の様に、前記試料片4を直接保持した試料支持部材7を、再び、集束イオンビーム装置の試料載置台にセットし、イオンビーム照射により欠陥部位を含む位置を断面加工する場合、イオンビームが前記試料片4の所定部分だけではなく、前記試料支持部材7の一部にも照射されてしまい、該イオンビーム照射により該試料支持部材の一部から飛び散った粒子が前記試料片4の断面観察用薄膜にも付着してしまい、該断面観察用薄膜部分の像観察やX線元素分析に支障を来たしてしまう。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、新規な試料保持体及び試料保持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の試料保持方法は、イオン源、該イオン源からのイオンビームを集束するレンズ、該イオンビームを二次元方向に偏向する偏向器、試料載置台、該試料載置台にセットされた試料からの二次粒子を検出する検出器、前記試料載置台の位置を駆動する駆動機構、及び、先端部にプローブを取付けたマニピュレータを備えた集束イオンビーム装置の集束イオンビームにて前記試料載置台にセットされた試料素材を加工して電子顕微鏡用試料を作製する際の試料保持方法であって、
前記試料素材に集束イオンビームを照射して試料片を切り出す工程と、
該切り出された試料片を前記プローブの先端部に付着させ、ピックアップする工程と、
前記試料素材に換えて電子顕微鏡用試料ホルダーにセットされる試料支持部材を前記試料載置台にセットする工程と、
前記プローブの先端部に付着された試料片が該試料支持部材から離れた空間部に位置して、該プローブの一部が前記試料支持部材に接触する様に該プローブを移動させる工程と、
前記接触部で前記プローブの一部を前記試料支持部材に付着させる工程と、
前記接触部より前記プローブの根元側の部分を切断する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
又、本発明の試料保持体は、試料素材に集束イオンビームを照射することにより切り出した試料片と、該切り出された試料片を先端部に付着させ、該付着部より根元側の部分が電子顕微鏡用ホルダーにセットされる試料支持部材の一部に付着され、該後者の付着部分より根元側で切断された試料移動用プローブとから成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料支持部材からのX線に基づく元素情報が試料片の電子照射部からのX線に基づく元素情報に混入することがなく、試料片のX線元素分析に支障を来たすことはない。
又、試料支持部材からの粒子が試料片の断面観察用薄膜に付着することがなく、該断面観察用薄膜部分の像観察やX線元素分析に支障を来たすことはない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】特開2000−146781にて提案されている、集束イオンビームを用いて電子顕微鏡で観察及び/若しくは分析される試料作製の主要工程(バルク試料から作製された試料片を試料支持部材に固定する工程)の前半を示したものである。
【図2】特開2000−146781にて提案されている、集束イオンビームを用いて電子顕微鏡で観察及び/若しくは分析される試料作製の主要工程(バルク試料から作製された試料片を試料支持部材に固定する工程)の後半を示したものである。
【図3】本発明の一実施例を示すものであり、集束イオンビームを用いて電子顕微鏡で観察及び/若しくは分析される試料作製の主要工程(バルク試料から作製された試料片を試料支持部材に固定する工程)の一概略例を示したものである。
【図4】本発明の試料保持体の他の例を示したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を使用して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
図3は本発明の一実施例を示すものであり、集束イオンビームを用いて電子顕微鏡で観察及び/若しくは分析される試料作製の主要工程(バルク試料から作製された試料片を試料支持部材に固定する工程)の一概略例を示したものである。尚、図中、前記図1及び図2にて使用された記号と同一記号を付したものは同一構成要素である。
【0017】
又、この実施例で使用される集束イオンビーム装置は、背景技術で述べた如き構成を有するものである。
【0018】
背景技術で述べた様に、先ず、図1の(a)に示す様に、集束イオンビーム装置の試料載置台上に置かれた試料素材1(以後、バルク試料と称す)上の目的とする領域をイオンビーム2で二次元方向に走査し、該領域を直方体状に削ってL字状段差部3を形成しつつ、該L字状段差部の中央部に直方体状の柱状部4を作製する。そして、集束イオンビーム装置の試料載置台を例えば60°傾斜させ、該柱状部の底辺にイオンビーム加工によりスリット状の切込みを入れ、該柱状部(試料片)を切り出す。
【0019】
次に、図1の(b)に示す様に、ピックアッププローブ5の先端を前記試料片4に接触させ、この部分にガス源からのデポジション用ガスを吹き掛け、該接触部分にイオンビームを照射して、図1の(c)に示す様に、該デポジションガスによるデポジション膜6を形成することにより前記プローブ5と前記試料片4を接続する。そして、一旦、該プローブを上方にピックアップしておく。
【0020】
次に、前記集束イオンビーム装置の試料載置台に置かれたバルク試料1を電子顕微鏡の試料ホルダーにセットされる試料支持部材(段差付き半月板状メッシュ)に交換する。
この様にバルク試料1を試料支持部材7に置き換えた状態において、前記プローブ5を降下させる時、該プローブの先端に接続された試料片4が前記試料支持部材7から離れた空間部に位置する様に、該プローブを図面上の右方向に移動させてから降下させ、図3の(a)に示す様に、該プローブの先端より少し根元側の部分Bを前記試料支持部材の上段面Uの角部Cに接触させる。
次に、図3の(b)に示す様に、該接触部分にガス源からのデポジション用ガスを吹き掛け、該部分にイオンビームを照射して、該デポジションガスによるデポジション膜9を形成することにより前記プローブ5と試料支持部材7とを接続する。この結果、前記試料片4はプローブ5を介して前記試料支持部材7に固定されることに成る。
次に、図3の(c)に示す様に、前記プローブ5の、該プローブと試料支持部材7の接続部より少し根元側部分にイオンビームを照射して、該部分を切断し、プローブ5の一部を介して前記試料片4を前記試料支持部材7に固定した部分を該プローブの根元側部分から切り離す。
この様にして試料片4を保持した試料支持部材7を電子顕微鏡の試料ホルダーにセットし、該試料片の任意の部分に電子ビームを照射して、透過電子像(TEM像)や走査透過電子像(STEM像)を観察したり、X線元素分析を行う。
この際、前記試料片4は、直接、前記試料支持部材7に固定されておらず、前記プローブ5の一部を介して前記試料支持部材7に接触することなく離れて保持されているので、電子ビームを該試料片の任意の部分に照射しても、該電子ビーム照射部からの反射電子や散乱電子が前記試料支持部材7に当たってしまうことが殆どない。従って、該試料支持部材からのX線に基づく元素情報が前記試料片4の電子照射部からのX線に基づく元素情報に混入することがなく、試料片のX線元素分析に支障を来たすことはない。
又、前記試料片4を保持した試料支持部材7を、再び、集束イオンビーム装置の試料載置台にセットし、イオンビーム照射により欠陥部位を含む位置を断面加工しても、前記試料片4は試料支持部材7に直接保持されておらず、プローブ5の一部を介して前記試料支持部材7に接触することなく離れて保持されているので、電子ビームを該試料片の所定の部分に照射しても、前記試料支持部材7の一部にも照射されることは殆どない。従って、該試料支持部材からの粒子が前記試料片の断面観察用薄膜に付着することがなく、該断面観察用薄膜部分の像観察やX線元素分析に支障を来たすことはない。
尚、前記例では、試料支持部材として段差付き半月板状メッシュを使用し、該段差付き半月板状メッシュの上段面Uの角部Cにプローブ5の一部を介して試料片4を固定するものを示したが、図4の(a)に示す様に、同じ段差付き半月板状メッシュの段差面Dに垂直な面Eにプローブ5の一部を介して試料片4を固定する様にしても良いし、図4の(b)に示す様に、L字状切り欠き部付きメッシュ70の段差面Fに垂直な面Gにプローブ5の一部を介して試料片4を固定する様にしても良いし、又、図4の(c)に示す様に、C字状メッシュ700の上面Hの角部にプローブ5Aの一部を介して試料片4Aを固定し、前記上面Hに垂直な面Iにプローブ5Bの一部を介して試料片4Bを固定する様にしても良い。
【符号の説明】
【0021】
1:バルク試料
2:イオンビーム
3:L字状段差部
4:試料片
5:プローブ
6,8,9:デポジション膜
7,70,700:試料支持部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源、該イオン源からのイオンビームを集束するレンズ、該イオンビームを二次元方向に偏向する偏向器、試料載置台、該試料載置台にセットされた試料からの二次粒子を検出する検出器、前記試料載置台の位置を駆動する駆動機構、及び、先端部にプローブを取付けたマニピュレータを備えた集束イオンビーム装置の集束イオンビームにて前記試料載置台にセットされた試料素材を加工して電子顕微鏡用試料を作製する際の試料保持方法であって、
前記試料素材に集束イオンビームを照射して試料片を切り出す工程と、
該切り出された試料片を前記プローブの先端部に付着させ、ピックアップする工程と、
前記試料素材に換えて電子顕微鏡用試料ホルダーにセットされる試料支持部材を前記試料載置台にセットする工程と、
前記プローブの先端部に付着された試料片が該試料支持部材から離れた空間部に位置して、該プローブの一部が前記試料支持部材に接触する様に該プローブを移動させる工程と、
前記接触部で前記プローブの一部を前記試料支持部材に付着させる工程と、
前記接触部より前記プローブの根元側の部分を切断する工程と、
を備えた試料保持方法。
【請求項2】
前記集束イオンビーム装置はデポジション用ガス供給源を備えており、前記試料片のプローブへの付着及び前記プローブの試料支持部材への付着を、イオンビームとデポジションガスとによるデポジション膜形成により行う様にした前記請求項1に記載の試料保持方法。
【請求項3】
試料素材に集束イオンビームを照射することにより切り出した試料片と、該切り出された試料片を先端部に付着させ、該付着部より根元側の部分が電子顕微鏡用ホルダーにセットされる試料支持部材の一部に付着され、該後者の付着部分より根元側で切断された試料移動用プローブとから成る試料保持体。
【請求項4】
前記各付着は、デポジション膜の形成によって行われている前記請求項3に記載の試料保持体。
【請求項5】
前記プローブは集束イオンビーム装置のマニピュレータの先端部に取付けられたプローブである前記請求項3に記載の試料保持体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−112770(P2012−112770A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261300(P2010−261300)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】