試料保持用プローブ、及び、試料の製造方法
【課題】 被加工物の加工時の変形・変質を十分に抑制できる試料保持用プローブ及び試料の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の試料保持用プローブは、試料を保持する試料保持部を有するプローブ本体と、該プローブ本体を冷却する冷却部とを備える。
【解決手段】 本発明の試料保持用プローブは、試料を保持する試料保持部を有するプローブ本体と、該プローブ本体を冷却する冷却部とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料保持用プローブ、及び、試料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
観察対象物の内部状態や表面状態などを観察・解析する方法としては、観察対象物の微小部分を試料として切り出し、この試料を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、以下TEMという)などを用いて観察・解析する方法がある。観察対象物の微小部分を試料として切り出す方法は、例えば非特許文献1に開示されている。この方法では、まず観察対象物において観察したい部分を確認し、観察領域を想定する。そして、観察領域を保護する保護膜を形成した後、観察領域周辺を収束イオンビーム(Focused Ion Beam、以下FIBという)加工により除去する。続いて、プローブを保護膜上に固定し、観察対象物の観察領域を含む微小部分を前試料として取り出す。最後に、プローブを移動することにより前試料を観察用の台に移し、前試料をFIB加工によって薄膜化した後、観察領域の断面をTEMなどを用いて観察し、解析する。
【0003】
【非特許文献1】平坂雅男・朝倉健太郎共編「FIB・イオンミリング技法Q&A」アグネ承風社p32
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したFIB加工によって被加工物を加工して得られた試料を観察・解析した場合、本来の観察対象物についての的確な結果が得られない場合があった。これは、FIB加工において、加工時に試料が変形したりイオンダメージにより試料が変質したりすることにより生じていた。このFIB加工時の変形・変質は、加工される部分に蓄積される熱が主な原因とされている。そのため、従来は、FIB装置に、被加工物を載置する試料台を冷却する機能を持たせることで、このような問題の低減を図っていた。
【0005】
しかしながら、試料台を冷却できるFIB装置により得られた試料を観察・解析した場合であっても、本来の観察対象物について的確な情報が得られないことがあった。この原因について本発明者が検討を行ったところ、観察対象物が熱伝導率の低い材質である場合、試料台を冷却する方法では加工部分を十分に冷却することができずFIB加工時に試料の変形・変質が発生することを見出した。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、被加工物の加工時の変形・変質を十分に抑制できる試料保持用プローブ及び試料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の試料保持用プローブは、試料を保持する試料保持部を有するプローブ本体と、プローブ本体を冷却する冷却部とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の試料保持用プローブによれば、プローブ本体を冷却する冷却部を備えていることにより、被加工物の主面上における特定の領域にプローブの試料保持部を接触させることで、加工部分を十分に冷却することが可能となる。これにより、被加工物が熱伝導率の低い材質であっても、加工時の変形・変質を十分に抑制することが可能となる。したがって、被加工物から試料を製造する際に本発明の試料保持用プローブを用いることにより、得られた試料を観察又は解析した場合、被加工物について的確な情報を得ることができる。また、本発明の試料保持用プローブによれば、被加工物から取り出した試料を保持している状態で試料を冷却することができる。これにより、被加工物から取り出した試料を保持している状態で、FIB加工などによって薄膜化する場合であっても、形成された薄膜部分の変形や変質を十分に抑制することが可能となる。したがって、本発明の試料保持用プローブを用いることにより、薄膜化された試料を観察又は解析した場合であっても被加工物について的確な情報を得ることができる。
【0009】
また、本発明の試料保持用プローブにおいては、上記冷却部がペルチェ素子を有していることが好ましい。ペルチェ素子を使用することにより、必要な時にプローブ本体を所定温度に効率よくかつ迅速に冷却することができる。また、ペルチェ素子は軽量でコンパクトに構成でき、設置スペースが小さくてすむため、試料保持用プローブも軽量でコンパクトに構成することができる。
【0010】
また、本発明の試料の製造方法は、被加工物の主面上の特定の領域に上記本発明の試料保持用プローブの試料保持部を接触させて被加工物を冷却する工程と、被加工物を冷却しながら被加工物の特定の領域周辺を加工により除去して特定の領域を含む試料部を形成する工程と、試料部と試料保持用プローブの試料保持部とを接着させる工程と、試料保持用プローブを移動させることにより、試料部を被加工物から取り出す工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の試料の製造方法によれば、本発明の試料保持用プローブを被加工物の主面上における特定の領域に接触させることにより、被加工物の加工される部分を効率よく冷却することができる。これにより、加工部分に蓄積される熱を低減し、加工時の変形・変質を十分に抑制することができる。したがって、製造される試料を観察又は解析した場合、被加工物について的確な情報を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明よれば、被加工物の加工時の変形・変質を十分に抑制できる試料保持用プローブ及び試料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、各図面の寸法比率は、必ずしも実際の寸法比率とは一致していない。
【0014】
図1は、本発明の試料保持用プローブの一実施形態を示す模式図である。図1(a)は、本発明の試料保持用プローブの一実施形態の側面図であり、図1(b)は、図1(a)においてA方向から見た図である。図1に示す試料保持用プローブ1は、プローブ本体2と、プローブ本体2を冷却するための冷却部3とを備えている。
【0015】
プローブ本体2は、支持部2bと、支持部2bに設けられ、試料を保持するための試料保持部2aとを有している。プローブ本体2の形状は、一般のFIB装置等に使用されているものと同形状にすることができ、具体的には、プローブ本体2は、円柱状の支持部2bと、支持部2aの一端に設けられている針状の試料保持部2aとを有している。また、本実施形態の試料保持用プローブにおいては、試料保持部2aの最小径を500〜3000nmとすることが好ましい。
【0016】
図2及び図3は、プローブ本体2の構成を説明するための模式断面図である。図2に示すように、プローブ本体2は単一の部材から構成されてもよいし、図3に示すように、支持部と試料保持部とが別個の部材で構成されていてもよい。図3に示されるプローブ本体2は、支持部5に、針状の試料保持部6が差込まれている。
【0017】
プローブ本体2は、サンプルの冷却効率を向上させる観点から、熱伝導性に優れていることが好ましい。例えば、プローブ本体2が図2に示されるように単一の部材から構成されている場合、温度300Kにおける熱伝導率が100W/mK以上であることが好ましい。ここで、プローブ本体2の材質としては、例えば、Ag、Al、Au、Cu、Be等の単体金属;BeO、ダイヤモンド、及び、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0018】
また、例えば、支持部2bと試料保持部2aが図3に示されるように別の部材で構成されている場合には、支持部5の熱伝導率が、温度300Kにおいて300W/mK以上であることが好ましく、試料保持部6の熱伝導率が、温度300Kにおいて70W/mK以上であることが好ましい。上記の熱伝導率を有する支持部5と試料保持部6とを組み合わせることにより、サンプルの冷却効率を向上させることができるとともに、試料保持部の熱伝導率を70W/mK以上とすることで試料保持部の材質を選択する自由度が大きくなり、プローブ本体が強度(剛性)や被加工性等の面でより優れた試料保持部を有することができる。また、支持部5の材質としては、例えば、Ag、Al、Au、Cu、Be等の単体金属;BeO、ダイヤモンド、及び、カーボンナノチューブ等が挙げられる。また、試料保持部6の材質としては、例えば、Ag、Al、Au、Cu、Be等の単体金属;Cd、Co、Cr、Fe、In、Ir、K、Mg、Mo、Na、K、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru、Si、Zn等の単体金属;BeO、ダイヤモンド、及び、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0019】
冷却部3は、プローブ本体2を冷却できるものであればよく、例えば、ペルチェ素子を有する冷却器及び液体窒素等の冷媒を用いる冷却器が挙げられる。
【0020】
図4は、試料保持用プローブを示す断面図である。冷却部3は、ペルチェ素子7と、吸熱部8と、放熱部9とを備えている。吸熱部8は、リング状の形状を有し、プローブ本体2の支持部2aの表面に接触して設けられている。さらに、吸熱部8のプローブ本体2と反対側の面には、ペルチェ素子7の吸熱側面が接触している。そして、放熱部9は、ペルチェ素子7の発熱側面に接触して設けられており、さらに放熱部9は放熱フィン9aを有している。また、ペルチェ素子7は、電力が供給されるように外部の電源供給部(図示せず)に接続されている。このような冷却部3においては、ペルチェ素子7に電力が供給されることにより、ペルチェ素子7の吸熱側面に接している吸熱部8が冷却され、この吸熱部8によってプローブ本体2が冷却される。また、プローブ本体2の熱は、吸熱部8、ペルチェ素子7、放熱部9へと順に移動し、放熱部9の放熱フィン9aから外部へと放出される。このようにしてプローブ本体2が効率よく冷却される。なお、放熱部を通して熱が放出される外部とは、例えば、プローブを設置する装置内の内壁であってもよく、装置の外(大気)であってもよい。
【0021】
また、図5及び6は、冷却部として冷媒を用いる冷却器を備える試料保持用プローブを示す断面図である。図5に示される冷却部3は、吸熱部10と、吸熱部10に冷媒を供給するための冷媒供給路11とを有している。吸熱部10は、プローブ本体2の支持部2aを取り囲む形状を有し、この支持部2aの表面に接触して設けられている。また、冷媒供給路11の一部は、吸熱部10の内部を通っており、更に冷媒供給路11は外部の熱交換器(図示せず)及び循環器(図示せず)に接続されている。このような冷却部3においては、循環器によって冷媒が冷媒供給路11に供給されることにより、吸熱部10が冷却され、この吸熱部10によってプローブ本体2が冷却される。また、プローブ本体2の熱は、冷媒を介して熱交換器で外部に放出される。冷媒としては、例えば、水、ハイドロフルオロカーボン(HFC)等が挙げられる。
【0022】
また、図6に示される冷却部3は、冷媒を収容する冷媒収容部14を有する吸熱部10と、冷媒収容部14を密閉できる蓋体12とを有している。吸熱部10は、プローブ本体2の支持部2aを取り囲む形状を有し、この支持部2aの表面に接触して設けられている。この冷却部3の冷媒収容部14に充填する冷媒としては、液体窒素、液体ヘリウム等が挙げられる。このような冷却部3においては、液体窒素、液体ヘリウム等の冷媒によって、吸熱部10が冷却され、冷却された吸熱部10によってプローブ本体2が冷却される。
【0023】
次に、本発明による試料の製造方法の第1の実施形態について説明する。
【0024】
まず、本発明による試料の製造方法の第1の実施形態を説明する前に、本実施形態において用いられるFIB装置について説明する。図7は、本実施形態に用いられるFIB装置200を示す図である。
【0025】
FIB装置200は、加工対象である被加工物202から微小サンプルを切り出して観察・解析するための装置である。図7を参照すると、FIB装置200は、被加工物202を載置するステージ209が設けられている試料室203、及び、この試料室203の上方に設けられ被加工物202にイオンビームIを照射するためのイオン光学系205を備えている。また、FIB装置200には、ノズル213がその出射口を被加工物202へ向けて設けられ、検出器215がその入射口を被加工物202に向けて設けられている。さらに、FIB装置200は、イオン源207、ノズル213、及び検出器215を制御するための制御装置217と、制御装置217に接続された表示装置219とをさらに備えている。また、試料室203には、被加工物202から試料を移動するための、本実施形態の試料保持用プローブ1を備えるマニピュレータ15が設けられ、さらに真空排気系211が接続されている。
【0026】
試料室203は、被加工物202の周囲を真空状態とするためのものである。試料室203の内部は密閉されており、真空排気系211によって内部の空気が排出されて真空状態となる。
【0027】
イオン光学系205は、被加工物202にイオンビームIを照射するために設けられている。イオンビームIは、微小サンプルを保護するデポジション膜の形成、並びに微小サンプルの切り出し(スパッタエッチング)及び観察に用いられる。図8は、イオン光学系205を詳細に示す図である。図8を参照すると、イオン光学系205は、イオン源207、サプレッサー223、引出し電極225、第1のレンズ227、絞り229、非点補正電極231、第2のレンズ233、及び偏向電極235を備えている。
【0028】
イオン源207は、イオンを発生するための装置である。イオンとしては、例えばGaイオンが用いられる。イオン源207には、電源237の正電極が接続されており、電位が付与されるようになっている。なお、電源237の負電極は接地されている。また、サプレッサー223には電源241の正電極が接続され、引出し電極225には電源239の負電極が接続されている。電源241の負電極及び電源239の正電極は、電源237の正電極に接続されている。こうしてサプレッサー223及び引出し電極225間に印加された電圧によって、イオン源207からイオンが引き出される。
【0029】
イオン源207から引き出されたイオンは、第1のレンズ227、絞り229、非点補正電極231、及び第2のレンズ233によってビーム状に収束され、イオンビームIとなる。イオンビームIは、偏向電極235によって向きを変えられて、試料室203にセットされた被加工物202の主面202aに照射される。
【0030】
ノズル213は、被加工物202の観察領域をイオンビームIから保護するためのデポジション膜を被加工物202の観察領域上に形成するためのものである。ノズル213は、出射口からデポジションガスGを噴射する。
【0031】
検出器215は、被加工物202の主面202aにイオンビームIを照射することにより発生する2次電子を検出するための装置である。FIB装置200では、被加工物202の表面をイオンビームIにより走査し、発生した2次電子を検出器215により検出することによって被加工物202の主面202aの表面形状を観察することができる(Scanning Ion Microscope、SIMと呼ばれる)。検出器215により検出された2次電子は制御装置217によって解析されて、被加工物202の主面202aの表面形状が求められ、表示装置219に表示される。
【0032】
試料保持用プローブ1は、プローブ本体2と、ペルチェ素子を有する冷却部3とを備えている。また、試料保持用プローブ1においては、プローブ本体2に接続されているマニピュレータ15によって、プローブ本体2の試料保持部2aを被加工物202に接触させることができ、更に微小サンプルを保持して移動させることができる。
【0033】
次に、本実施形態における被加工物について説明する。本実施形態では、情報処理装置などに用いられるハードディスク装置が有するスライダを被加工物とし、このスライダに付着した微小な異物を含む領域を観察領域とする。図10は、スライダの斜視拡大図である。スライダ107は、AlTiCからなり、略直方体形状を呈している。なお、スライダ107はジンバル111に搭載され、スライダ107の基台107aの先端面上に薄膜磁気ヘッド105が形成される。図10における手前側の面は、ハードディスクの記録面に対向する面であり、エアベアリング面(ABS:Air Bearing Surface)109と称されるものである。このエアベアリング面109に微小な異物、例えば最大径が0.5μm以下の異物が付着すると、ハードディスクの動作に支障をきたす。従って、このような微小な異物をTEM、FIB、SEMなどによって観察・解析することが必要となる。本実施形態では、このようにスライダ107のエアベアリング面109に付着した微小な異物を含む領域を所定の観察領域として想定する。
【0034】
次に、上述したFIB装置200を用いた試料の製造方法について説明する。
【0035】
図11〜図15は、上記したFIB装置200を用いて、スライダ107から微小な異物が付着した部分を取り出して、試料を製造する方法を説明するための図である。
【0036】
図11(a)は、スライダ107のエアベアリング面109の一部を拡大した図である。また、図11(b)は、図11(a)に示されたスライダ107のI−I断面を示す端面図である。FIB装置200にスライダ107をセットした後、検出器215によりエアベアリング面109を観察しながら異物Dを探し当てる。以下において、異物Dを含む領域を被加工物の主面上における特定の領域、ここでは観察領域117として説明する。なお、異物Dの断面を観察したいときは、図11(a)に示されるように観察領域117の幅を異物Dの径より細く想定するとよい。そして、後の工程において切り出した微小サンプルを観察領域117の幅に基づいて薄膜化することにより、異物Dの断面を観察することができる。
【0037】
次に、図11(c)及び(d)に示されるように、観察領域117の位置を示すための目印119を観察領域117の近傍に形成する。目印119の形成方法としては、例えばFIB装置200のイオン光学系205からイオンビームI(図9参照)を照射して、観察領域117近傍の所望の位置に溝状の目印119を形成するとよい。あるいは、デポジションガスGを噴射しながらイオンビームIを観察領域117近傍の所望の位置に照射してデポジション膜を形成し、このデポジション膜を目印119としてもよい。
【0038】
ここで、デポジション膜を形成する過程について説明する。図9は、デポジション膜を形成する過程を示す図である。なお、以下に説明するデポジション膜の形成方法は、イオンビームアシステッド法、あるいはFIB−CVD法と呼ばれる。図9を参照すると、被加工物202の主面202aに、ノズル213からデポジションガスGが噴射されている。そこへ、イオン光学系205によりイオンビームIを照射する。すると、主面202a上においてイオンビームIによりデポジションガスGが分解され、主面202a上に分解された成分が到達する。ここで、イオンビームIは、イオン光学系205の偏向電極235(図8を参照)により徐々に偏向され、被加工物202の主面202a上を走査(スキャン)する。こうして、デポジション膜243が形成される。なお、デポジション膜243としては様々な材料を用いることが可能である。デポジション膜の材料としては、W、C、Pt、Auなどが挙げられる。また、例えばCからなるデポジション膜243を形成する場合には、デポジションガスGとしてピレン等が用いられる。
【0039】
続いて、図11(e)及び(f)に示されるように、スライダ107のエアベアリング面109における観察領域117を覆う領域に、デポジションガスGを噴射するとともにイオンビームIを照射してデポジション膜からなる保護膜121を形成する。この保護膜121は、試料部の一部をなし、試料部を切り出す際にイオンビームIによって試料部が損傷しないように試料部を保護するものとして機能する。次に、目印119に基づいて、試料部形成予定とする領域の所望の位置に新たな目印119bを形成する。目印119bの形成方法としては、例えばFIB装置200のイオン光学系205からイオンビームI(図9参照)を照射して、試料部形成予定とする領域の所望の位置に溝状の目印119bを形成するとよい。あるいは、デポジションガスGを噴射しながらイオンビームIを試料部形成予定とする領域の所望の位置に照射してデポジション膜を形成し、このデポジション膜を目印119bとしてもよい。このように、新たな目印119bを形成することにより、観察対象物である異物Dを含む試料部をより容易に形成することができる。
【0040】
続いて図12(a)及び(b)に示されるように、本実施形態の試料保持用プローブ1のプローブ本体2の試料保持部2aを、保護膜121の上面に接触させる。図12(a)は、観察領域117を含むスライダ107のエアベアリング面109を示す図である。また、図12(b)は、図12(a)に示されたスライダ107のI’−I’断面を示す端面図である。このとき、プローブ本体2の試料保持部2aを接触させる位置は、保護膜121の表面上であればどこでも可能である。
【0041】
続いて、試料保持用プローブ1のペルチェ素子7に通電することにより、プローブ本体2の冷却を始める。本実施形態においては、プローブ本体2の試料保持部2aを保護膜121の上面に接触させる前に、冷却を始めていてもよい。
【0042】
続いて、図13(a)及び(b)に示されるように、観察領域117の遠方から観察領域117に近づく方向に向かって階段状に深くなるようにスライダ107のエアベアリング面109をイオンビームIにより除去して、階段状の溝125aを形成する。このとき、目印119bに基づいて観察領域117の位置を認識しながら溝125aを形成する。階段状の溝125aは、後の工程においてイオンビームIが微小サンプルの底面を斜め方向から切ることができるようにするためである。溝125aは階段状である必要はないが、階段状にすることで、加工時間を約半分に節約できる。
【0043】
続いて、図13(c)及び(d)に示されるように、観察領域117の周囲をイオンビームIにより除去して、溝125bを形成する。こうして、試料部127の背面及び両側面が形成される。このとき、試料部127の周囲の一部を連結部分128として残す。なお、溝125bを形成する際には、プローブ本体2を適宜移動し、プローブの試料保持部2aが切断されない位置で試料保持部2aを保護膜121の上面に接触させておく。続いて、図13(e)及び(f)に示されるように、試料部127の底部をイオンビームIにより斜め方向から除去する。こうして、試料部127の底面が形成される。なお、プローブの試料保持部2aを、保護膜121の上面に接触させてから試料部127の底面が形成されるまでの間、プローブ本体2の冷却を続ける。
【0044】
続いて、図14(a)及び(b)に示されるように、試料部127の保護膜121の上面に試料保持部2a接触させる。図14(a)は、観察領域117を含むスライダ107のエアベアリング面109を示す図である。また、図14(b)は、図14(a)に示されたスライダ107のII−II断面を示す端面図である。このとき、プローブ本体2の試料保持部2aを接触させる位置は、試料部127の表面上であればどこでも可能である。後の工程で微小サンプル127を観察領域117の厚さまで薄膜化することを考慮して、プローブ本体2の試料保持部2aを試料部127の端部に接触させればより好適である。
【0045】
続いて、図14(c)〜(d)に示されるように、デポジション膜131をプローブ本体2の試料保持部2aと保護膜121上の一部とを覆うように形成する。このデポジション膜131によって、プローブ129と試料部127とが互いに固定される。
【0046】
続いて、図15(a)〜(c)に示されるように、図14(c)に示された連結部分128をイオンビームIにより除去して、前試料127bを取り出す。このとき、前試料127bに固定されたプローブ本体2を操作することにより、前試料127bを移動させる。なお、図15(b)は、図15(a)に示されたスライダ107のII−II断面を示す端面図である。
【0047】
続いて、図15(d)及び(e)に示されるように、前試料127bを支持台21上に固定する。なお、図15(e)は、図15(d)に示された前試料127bのIV−IV断面を示す端面図である。このとき、前試料127bが支持台21に接するように前試料127bを移動し、デポジション膜135を前試料127bの一側面上から支持台21上にわたって形成する。加えて、デポジション膜133を前試料127bの背面上から支持台21上にわたって形成する。このデポジション膜133及び135により、前試料127bが支持台21上に固定される。
【0048】
続いて、図15(f)及び(g)に示されるように、前試料127bの前面129a及び背面129bの近傍部分をイオンビームIにより除去して、前試料127bを観察領域117の幅まで薄膜化する。そして、プローブ129をイオンビームIにより切断する。本実施形態では、プローブ129が前試料127bから切り離されるまで冷却を続けることが、前試料127bの変形・変質をより確実に抑制する点から好ましい。こうして、スライダ107及び異物Dの断面をTEMにより観察するための薄膜部分127aが形成される。なお、この薄膜化は、前試料127bの前面及び背面のいずれか一方の近傍部分を除去することにより行ってもよい。
【0049】
上述したように、本実施形態の試料の製造方法によれば、本実施形態の試料保持用プローブ1用いることにより、FIB加工時に試料部127の冷却を効率よく行うことができ、変形・変質が十分に抑制された前試料127bを得ることができる。また、本実施形態の試料保持用プローブ1用いることにより、前試料127bを薄膜化する際に、前試料127bの冷却を効率よく行うことができ、変形・変質が十分に抑制された薄膜部分127aを有する試料127cを得ることができる。
【0050】
次に、上記で得られた試料127cのTEM観察を行う例を説明する。
【0051】
図16は、試料127cの薄膜部分127aを観察するためのTEM50を示す図である。TEM50は、電子発生装置51及び検出装置53を備えている。微小サンプル127の薄膜部分127aは、電子発生装置51と検出装置53との間にセットされる。電子発生装置51は電子銃及び集束レンズから構成されており、薄膜部分127aに電子ビームE1を照射する。そして、電子ビームE1のうち薄膜部分127aを透過することができた電子が、電子ビームE2として検出装置53に入射する。検出装置53は、対物レンズ、投影レンズ、及び蛍光スクリーンなどから構成されており、電子ビームE2に基づいて蛍光スクリーン上に像を形成する。こうして、薄膜部分127aの像が得られ、例えば異物Dの組成などを観察・解析することができる。このとき、本実施形態の試料の製造方法で製造された試料127cの薄膜部分127aは、変形・変質が十分に抑制されているので、上記TEM観察において的確な分析結果を得ることができる。
【0052】
次に、本発明の試料の製造方法の第2の実施形態について説明する。
【0053】
本発明の試料の製造方法の第2の実施形態では、前試料127bの薄膜化を支持台21上に固定せずに、試料保持用プローブ1で前試料127bを保持した状態で行う。この場合、上述の、試料部127の保護膜121の上面にプローブ試料保持2aを接触させる工程(図14(a))において、プローブ本体2の回転軸Cが、矩形状の観察領域117の長手方向に略平行になるようにして試料部127の上面にプローブ試料保持2aを接触させる(図17(a)参照)。そして、図17(a)及び(b)に示すように、デポジション膜131をプローブ本体2の試料保持部2aと保護膜121上の一部とを覆うように形成する。ここで、本実施形態においては、デポジション膜131を熱伝導率が高い材料で形成することが好ましい。例えば、W、Pt、C、Au、Ag等が挙げられる。
【0054】
続いて、図18(a)及び(b)に示されるように、図17(a)に示された連結部分128をイオンビームIにより除去して、前試料127bを取り出す。このとき、前試料127bに固定されたプローブ本体2を操作することにより、前試料127bを移動させる。
【0055】
続いて、図18(c)及び(d)に示されるように、前試料127bの前面129a及び背面129bの近傍部分をイオンビームIにより除去して、前試料127bを観察領域117の幅まで薄膜化する。こうして、スライダ107及び異物Dの断面をTEMにより観察するための薄膜部分127aが形成され、試料127cが得られる。図18(d)は、図18(c)に示された試料127cのIV’−IV’断面を示す端面図である。なお、この薄膜化は、前試料127bの前面及び背面のいずれか一方の近傍部分を除去することにより行ってもよい。
【0056】
本実施形態の試料の製造方法によれば、本実施形態の試料保持用プローブ1用いることにより、FIB加工時に試料部127の冷却を効率よく行うことができ、変形・変質が十分に抑制された前試料127bが得られる。さらには、取り出した前試料127bを保持している状態で試料127bを冷却することができる。これにより、被加工物107から取り出した前試料127bを保持している状態で、FIB加工によって薄膜化した場合であっても、変形・変質を十分に抑制された試料127cを得ることができる。以下、試料保持用プローブ1に保持された試料127cをTEM観察する実施形態について説明する。
【0057】
図7に示されるFIB装置200において、プローブ本体2はマニュピレータ15に接続されており、このマニュピレータ15は試料保持用プローブ1を備えた状態でFIB装置200から取り外すことが可能となっている。
【0058】
上記のFIB加工によって試料127cが得られた後、マニュピレータ15をFIB装置200から取り外す。このとき、マニュピレータ15には試料127cを保持したプローブ本体2が接続されている。
【0059】
次に、取り外したマニュピレータ15をTEM50に装着する。なお、マニュピレータ15はTEM50に装着できる形状を有している。更に、TEM50に装着されたマニュピレータ15を操作することにより、プローブ本体2の試料保持部2aを移動させたり、プローブ本体2を回転軸Cで回転させたりすることができ、試料保持部2aの試料に電子線を照射させることが可能となっている。このようなTEM50及びマニュピレータ15によって、FIB加工終了後の試料を直ちにTEM観察することができる。
【0060】
TEM50にマニュピレータ15を装着した後、プローブ本体2を約90度回転させて、図19に示されるように電子ビームE1が薄膜部分127aに照射されるよう薄膜部分127aの面を電子発生装置51に対向させる。
【0061】
続いて、薄膜部分127aに電子ビームE1を照射する。そして、電子ビームE1のうち薄膜部分127aを透過することができた電子が、電子ビームE2として検出装置53に入射する。検出装置53は、対物レンズ、投影レンズ、及び蛍光スクリーンなどから構成されており、電子ビームE2に基づいて蛍光スクリーン上に像を形成する。こうして、薄膜部分127aの像が得られ、例えば異物Dの組成などを観察・解析することができる。本実施形態の試料の製造方法で製造された試料127cの薄膜部分127aは、変形・変質が十分に抑制されているので、上記TEM観察において的確な分析結果を得ることができる。また、本実施形態においては、試料保持用プローブ1は試料ホルダとしても機能することができ、これによりFIB加工からTEM観察までの操作及び時間が短縮され、測定効率を向上させることができる。
【0062】
なお、本発明による試料の製造方法は、上記した第1の実施形態及び第2の実施形態に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、試料保持用プローブ1の試料保持部2aを接触させる位置を、加工部分に応じて複数設定することが可能である。さらに、プローブ本体2の冷却を必要時にのみ行ってもよい。
【0063】
また、上記した第1の実施形態及び第2の実施形態で得られる前試料127bを観察又は解析に供することも可能である。
【0064】
また、上記した実施形態では、本発明による試料の製造方法をTEMによる観察・解析において用いているが、この他にも走査型電子顕微鏡(Scanning Emission Microscope、SEM)や、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy、AES)、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope、AFM)などを用いた観察・解析においても、被加工物の観察領域周辺を除去する際に、本発明の試料保持用プローブにより加工部分を冷却することができ、試料の変形・変質を十分に抑制することができる。
【0065】
また、上記した実施形態では、本発明による試料の製造方法をFIB加工により微小サンプルを切り取る際に用いているが、この他にも例えばアルゴンエッチング法などにより観察領域を加工する際においても本発明の試料保持用プローブにより加工部分を冷却することができる。この場合も、試料の変形・変質を十分に抑制することができる。
【0066】
また、上記した実施形態では、ハードディスク装置のスライダを被加工物としているが、本発明による試料の製造方法では、これ以外にも様々な物、例えばDVD−RW等の光ディスクや高分子材料など、イオンビームに対して変形、変質しやすいものを被加工物とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、本発明の試料保持用プローブの一実施形態を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の試料保持用プローブに係るプローブ本体の構成を説明するための断面図である。
【図3】図3は、本発明の試料保持用プローブに係るプローブ本体の構成を説明するための断面図である。
【図4】図4は、本発明の試料保持用プローブに係る冷却部の構成を説明するための断面図である。
【図5】図5は、本発明の試料保持用プローブに係る冷却部の構成を説明するための断面図である。
【図6】図6は、本発明の試料保持用プローブに係る冷却部の構成を説明するための断面図である。
【図7】図7は、FIB装置を示す図である。
【図8】図8は、イオン光学系を示す図である。
【図9】図9は、デポジション膜を形成する過程を示す図である。
【図10】図10は、スライダの斜視拡大図である。
【図11】図11は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を試料として取り出して観察・解析する方法を説明するための図である。
【図12】図12は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を試料として取り出して観察・解析する方法を説明するための図である。
【図13】図13は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を取り出して、試料を製造する方法を説明するための図である。
【図14】図14は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を取り出して、試料を製造する方法を説明するための図である。
【図15】図15は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を取り出して、試料を製造する方法を説明するための図である。
【図16】図16は、試料の薄膜部分を観察するためのTEMを示す図である。
【図17】図17は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を取り出して、試料を製造する方法を説明するための図である。
【図18】図18は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を取り出して、試料を製造する方法を説明するための図である。
【図19】図19は、試料の薄膜部分を観察するためのTEMを示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1…試料保持用プローブ、2…プローブ本体、2a…試料保持部、3…冷却部、5…支持部、6…試料保持部、7…ペルチェ素子、8,10…吸熱部、9…放熱部、11…冷媒供給路、12…蓋体、14…冷媒収容部、50…TEM、51…電子発生装置、53…検出装置、107…スライダ、107a…基台、109…エアベアリング面、117…観察領域、119,119b…目印、121…保護膜、125a、125b…溝、127…試料部、127a…薄膜部分、127b…前試料、127c…試料、128…連結部分、131…デポジション膜、133、135…デポジション膜、200…FIB装置、202…被加工物、202a…主面、203…試料室、205…イオン光学系、207…イオン源、209…ステージ、211…真空排気系、213…ノズル、215…検出器、217…制御装置、219…表示装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料保持用プローブ、及び、試料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
観察対象物の内部状態や表面状態などを観察・解析する方法としては、観察対象物の微小部分を試料として切り出し、この試料を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、以下TEMという)などを用いて観察・解析する方法がある。観察対象物の微小部分を試料として切り出す方法は、例えば非特許文献1に開示されている。この方法では、まず観察対象物において観察したい部分を確認し、観察領域を想定する。そして、観察領域を保護する保護膜を形成した後、観察領域周辺を収束イオンビーム(Focused Ion Beam、以下FIBという)加工により除去する。続いて、プローブを保護膜上に固定し、観察対象物の観察領域を含む微小部分を前試料として取り出す。最後に、プローブを移動することにより前試料を観察用の台に移し、前試料をFIB加工によって薄膜化した後、観察領域の断面をTEMなどを用いて観察し、解析する。
【0003】
【非特許文献1】平坂雅男・朝倉健太郎共編「FIB・イオンミリング技法Q&A」アグネ承風社p32
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したFIB加工によって被加工物を加工して得られた試料を観察・解析した場合、本来の観察対象物についての的確な結果が得られない場合があった。これは、FIB加工において、加工時に試料が変形したりイオンダメージにより試料が変質したりすることにより生じていた。このFIB加工時の変形・変質は、加工される部分に蓄積される熱が主な原因とされている。そのため、従来は、FIB装置に、被加工物を載置する試料台を冷却する機能を持たせることで、このような問題の低減を図っていた。
【0005】
しかしながら、試料台を冷却できるFIB装置により得られた試料を観察・解析した場合であっても、本来の観察対象物について的確な情報が得られないことがあった。この原因について本発明者が検討を行ったところ、観察対象物が熱伝導率の低い材質である場合、試料台を冷却する方法では加工部分を十分に冷却することができずFIB加工時に試料の変形・変質が発生することを見出した。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、被加工物の加工時の変形・変質を十分に抑制できる試料保持用プローブ及び試料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の試料保持用プローブは、試料を保持する試料保持部を有するプローブ本体と、プローブ本体を冷却する冷却部とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の試料保持用プローブによれば、プローブ本体を冷却する冷却部を備えていることにより、被加工物の主面上における特定の領域にプローブの試料保持部を接触させることで、加工部分を十分に冷却することが可能となる。これにより、被加工物が熱伝導率の低い材質であっても、加工時の変形・変質を十分に抑制することが可能となる。したがって、被加工物から試料を製造する際に本発明の試料保持用プローブを用いることにより、得られた試料を観察又は解析した場合、被加工物について的確な情報を得ることができる。また、本発明の試料保持用プローブによれば、被加工物から取り出した試料を保持している状態で試料を冷却することができる。これにより、被加工物から取り出した試料を保持している状態で、FIB加工などによって薄膜化する場合であっても、形成された薄膜部分の変形や変質を十分に抑制することが可能となる。したがって、本発明の試料保持用プローブを用いることにより、薄膜化された試料を観察又は解析した場合であっても被加工物について的確な情報を得ることができる。
【0009】
また、本発明の試料保持用プローブにおいては、上記冷却部がペルチェ素子を有していることが好ましい。ペルチェ素子を使用することにより、必要な時にプローブ本体を所定温度に効率よくかつ迅速に冷却することができる。また、ペルチェ素子は軽量でコンパクトに構成でき、設置スペースが小さくてすむため、試料保持用プローブも軽量でコンパクトに構成することができる。
【0010】
また、本発明の試料の製造方法は、被加工物の主面上の特定の領域に上記本発明の試料保持用プローブの試料保持部を接触させて被加工物を冷却する工程と、被加工物を冷却しながら被加工物の特定の領域周辺を加工により除去して特定の領域を含む試料部を形成する工程と、試料部と試料保持用プローブの試料保持部とを接着させる工程と、試料保持用プローブを移動させることにより、試料部を被加工物から取り出す工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の試料の製造方法によれば、本発明の試料保持用プローブを被加工物の主面上における特定の領域に接触させることにより、被加工物の加工される部分を効率よく冷却することができる。これにより、加工部分に蓄積される熱を低減し、加工時の変形・変質を十分に抑制することができる。したがって、製造される試料を観察又は解析した場合、被加工物について的確な情報を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明よれば、被加工物の加工時の変形・変質を十分に抑制できる試料保持用プローブ及び試料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、各図面の寸法比率は、必ずしも実際の寸法比率とは一致していない。
【0014】
図1は、本発明の試料保持用プローブの一実施形態を示す模式図である。図1(a)は、本発明の試料保持用プローブの一実施形態の側面図であり、図1(b)は、図1(a)においてA方向から見た図である。図1に示す試料保持用プローブ1は、プローブ本体2と、プローブ本体2を冷却するための冷却部3とを備えている。
【0015】
プローブ本体2は、支持部2bと、支持部2bに設けられ、試料を保持するための試料保持部2aとを有している。プローブ本体2の形状は、一般のFIB装置等に使用されているものと同形状にすることができ、具体的には、プローブ本体2は、円柱状の支持部2bと、支持部2aの一端に設けられている針状の試料保持部2aとを有している。また、本実施形態の試料保持用プローブにおいては、試料保持部2aの最小径を500〜3000nmとすることが好ましい。
【0016】
図2及び図3は、プローブ本体2の構成を説明するための模式断面図である。図2に示すように、プローブ本体2は単一の部材から構成されてもよいし、図3に示すように、支持部と試料保持部とが別個の部材で構成されていてもよい。図3に示されるプローブ本体2は、支持部5に、針状の試料保持部6が差込まれている。
【0017】
プローブ本体2は、サンプルの冷却効率を向上させる観点から、熱伝導性に優れていることが好ましい。例えば、プローブ本体2が図2に示されるように単一の部材から構成されている場合、温度300Kにおける熱伝導率が100W/mK以上であることが好ましい。ここで、プローブ本体2の材質としては、例えば、Ag、Al、Au、Cu、Be等の単体金属;BeO、ダイヤモンド、及び、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0018】
また、例えば、支持部2bと試料保持部2aが図3に示されるように別の部材で構成されている場合には、支持部5の熱伝導率が、温度300Kにおいて300W/mK以上であることが好ましく、試料保持部6の熱伝導率が、温度300Kにおいて70W/mK以上であることが好ましい。上記の熱伝導率を有する支持部5と試料保持部6とを組み合わせることにより、サンプルの冷却効率を向上させることができるとともに、試料保持部の熱伝導率を70W/mK以上とすることで試料保持部の材質を選択する自由度が大きくなり、プローブ本体が強度(剛性)や被加工性等の面でより優れた試料保持部を有することができる。また、支持部5の材質としては、例えば、Ag、Al、Au、Cu、Be等の単体金属;BeO、ダイヤモンド、及び、カーボンナノチューブ等が挙げられる。また、試料保持部6の材質としては、例えば、Ag、Al、Au、Cu、Be等の単体金属;Cd、Co、Cr、Fe、In、Ir、K、Mg、Mo、Na、K、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru、Si、Zn等の単体金属;BeO、ダイヤモンド、及び、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0019】
冷却部3は、プローブ本体2を冷却できるものであればよく、例えば、ペルチェ素子を有する冷却器及び液体窒素等の冷媒を用いる冷却器が挙げられる。
【0020】
図4は、試料保持用プローブを示す断面図である。冷却部3は、ペルチェ素子7と、吸熱部8と、放熱部9とを備えている。吸熱部8は、リング状の形状を有し、プローブ本体2の支持部2aの表面に接触して設けられている。さらに、吸熱部8のプローブ本体2と反対側の面には、ペルチェ素子7の吸熱側面が接触している。そして、放熱部9は、ペルチェ素子7の発熱側面に接触して設けられており、さらに放熱部9は放熱フィン9aを有している。また、ペルチェ素子7は、電力が供給されるように外部の電源供給部(図示せず)に接続されている。このような冷却部3においては、ペルチェ素子7に電力が供給されることにより、ペルチェ素子7の吸熱側面に接している吸熱部8が冷却され、この吸熱部8によってプローブ本体2が冷却される。また、プローブ本体2の熱は、吸熱部8、ペルチェ素子7、放熱部9へと順に移動し、放熱部9の放熱フィン9aから外部へと放出される。このようにしてプローブ本体2が効率よく冷却される。なお、放熱部を通して熱が放出される外部とは、例えば、プローブを設置する装置内の内壁であってもよく、装置の外(大気)であってもよい。
【0021】
また、図5及び6は、冷却部として冷媒を用いる冷却器を備える試料保持用プローブを示す断面図である。図5に示される冷却部3は、吸熱部10と、吸熱部10に冷媒を供給するための冷媒供給路11とを有している。吸熱部10は、プローブ本体2の支持部2aを取り囲む形状を有し、この支持部2aの表面に接触して設けられている。また、冷媒供給路11の一部は、吸熱部10の内部を通っており、更に冷媒供給路11は外部の熱交換器(図示せず)及び循環器(図示せず)に接続されている。このような冷却部3においては、循環器によって冷媒が冷媒供給路11に供給されることにより、吸熱部10が冷却され、この吸熱部10によってプローブ本体2が冷却される。また、プローブ本体2の熱は、冷媒を介して熱交換器で外部に放出される。冷媒としては、例えば、水、ハイドロフルオロカーボン(HFC)等が挙げられる。
【0022】
また、図6に示される冷却部3は、冷媒を収容する冷媒収容部14を有する吸熱部10と、冷媒収容部14を密閉できる蓋体12とを有している。吸熱部10は、プローブ本体2の支持部2aを取り囲む形状を有し、この支持部2aの表面に接触して設けられている。この冷却部3の冷媒収容部14に充填する冷媒としては、液体窒素、液体ヘリウム等が挙げられる。このような冷却部3においては、液体窒素、液体ヘリウム等の冷媒によって、吸熱部10が冷却され、冷却された吸熱部10によってプローブ本体2が冷却される。
【0023】
次に、本発明による試料の製造方法の第1の実施形態について説明する。
【0024】
まず、本発明による試料の製造方法の第1の実施形態を説明する前に、本実施形態において用いられるFIB装置について説明する。図7は、本実施形態に用いられるFIB装置200を示す図である。
【0025】
FIB装置200は、加工対象である被加工物202から微小サンプルを切り出して観察・解析するための装置である。図7を参照すると、FIB装置200は、被加工物202を載置するステージ209が設けられている試料室203、及び、この試料室203の上方に設けられ被加工物202にイオンビームIを照射するためのイオン光学系205を備えている。また、FIB装置200には、ノズル213がその出射口を被加工物202へ向けて設けられ、検出器215がその入射口を被加工物202に向けて設けられている。さらに、FIB装置200は、イオン源207、ノズル213、及び検出器215を制御するための制御装置217と、制御装置217に接続された表示装置219とをさらに備えている。また、試料室203には、被加工物202から試料を移動するための、本実施形態の試料保持用プローブ1を備えるマニピュレータ15が設けられ、さらに真空排気系211が接続されている。
【0026】
試料室203は、被加工物202の周囲を真空状態とするためのものである。試料室203の内部は密閉されており、真空排気系211によって内部の空気が排出されて真空状態となる。
【0027】
イオン光学系205は、被加工物202にイオンビームIを照射するために設けられている。イオンビームIは、微小サンプルを保護するデポジション膜の形成、並びに微小サンプルの切り出し(スパッタエッチング)及び観察に用いられる。図8は、イオン光学系205を詳細に示す図である。図8を参照すると、イオン光学系205は、イオン源207、サプレッサー223、引出し電極225、第1のレンズ227、絞り229、非点補正電極231、第2のレンズ233、及び偏向電極235を備えている。
【0028】
イオン源207は、イオンを発生するための装置である。イオンとしては、例えばGaイオンが用いられる。イオン源207には、電源237の正電極が接続されており、電位が付与されるようになっている。なお、電源237の負電極は接地されている。また、サプレッサー223には電源241の正電極が接続され、引出し電極225には電源239の負電極が接続されている。電源241の負電極及び電源239の正電極は、電源237の正電極に接続されている。こうしてサプレッサー223及び引出し電極225間に印加された電圧によって、イオン源207からイオンが引き出される。
【0029】
イオン源207から引き出されたイオンは、第1のレンズ227、絞り229、非点補正電極231、及び第2のレンズ233によってビーム状に収束され、イオンビームIとなる。イオンビームIは、偏向電極235によって向きを変えられて、試料室203にセットされた被加工物202の主面202aに照射される。
【0030】
ノズル213は、被加工物202の観察領域をイオンビームIから保護するためのデポジション膜を被加工物202の観察領域上に形成するためのものである。ノズル213は、出射口からデポジションガスGを噴射する。
【0031】
検出器215は、被加工物202の主面202aにイオンビームIを照射することにより発生する2次電子を検出するための装置である。FIB装置200では、被加工物202の表面をイオンビームIにより走査し、発生した2次電子を検出器215により検出することによって被加工物202の主面202aの表面形状を観察することができる(Scanning Ion Microscope、SIMと呼ばれる)。検出器215により検出された2次電子は制御装置217によって解析されて、被加工物202の主面202aの表面形状が求められ、表示装置219に表示される。
【0032】
試料保持用プローブ1は、プローブ本体2と、ペルチェ素子を有する冷却部3とを備えている。また、試料保持用プローブ1においては、プローブ本体2に接続されているマニピュレータ15によって、プローブ本体2の試料保持部2aを被加工物202に接触させることができ、更に微小サンプルを保持して移動させることができる。
【0033】
次に、本実施形態における被加工物について説明する。本実施形態では、情報処理装置などに用いられるハードディスク装置が有するスライダを被加工物とし、このスライダに付着した微小な異物を含む領域を観察領域とする。図10は、スライダの斜視拡大図である。スライダ107は、AlTiCからなり、略直方体形状を呈している。なお、スライダ107はジンバル111に搭載され、スライダ107の基台107aの先端面上に薄膜磁気ヘッド105が形成される。図10における手前側の面は、ハードディスクの記録面に対向する面であり、エアベアリング面(ABS:Air Bearing Surface)109と称されるものである。このエアベアリング面109に微小な異物、例えば最大径が0.5μm以下の異物が付着すると、ハードディスクの動作に支障をきたす。従って、このような微小な異物をTEM、FIB、SEMなどによって観察・解析することが必要となる。本実施形態では、このようにスライダ107のエアベアリング面109に付着した微小な異物を含む領域を所定の観察領域として想定する。
【0034】
次に、上述したFIB装置200を用いた試料の製造方法について説明する。
【0035】
図11〜図15は、上記したFIB装置200を用いて、スライダ107から微小な異物が付着した部分を取り出して、試料を製造する方法を説明するための図である。
【0036】
図11(a)は、スライダ107のエアベアリング面109の一部を拡大した図である。また、図11(b)は、図11(a)に示されたスライダ107のI−I断面を示す端面図である。FIB装置200にスライダ107をセットした後、検出器215によりエアベアリング面109を観察しながら異物Dを探し当てる。以下において、異物Dを含む領域を被加工物の主面上における特定の領域、ここでは観察領域117として説明する。なお、異物Dの断面を観察したいときは、図11(a)に示されるように観察領域117の幅を異物Dの径より細く想定するとよい。そして、後の工程において切り出した微小サンプルを観察領域117の幅に基づいて薄膜化することにより、異物Dの断面を観察することができる。
【0037】
次に、図11(c)及び(d)に示されるように、観察領域117の位置を示すための目印119を観察領域117の近傍に形成する。目印119の形成方法としては、例えばFIB装置200のイオン光学系205からイオンビームI(図9参照)を照射して、観察領域117近傍の所望の位置に溝状の目印119を形成するとよい。あるいは、デポジションガスGを噴射しながらイオンビームIを観察領域117近傍の所望の位置に照射してデポジション膜を形成し、このデポジション膜を目印119としてもよい。
【0038】
ここで、デポジション膜を形成する過程について説明する。図9は、デポジション膜を形成する過程を示す図である。なお、以下に説明するデポジション膜の形成方法は、イオンビームアシステッド法、あるいはFIB−CVD法と呼ばれる。図9を参照すると、被加工物202の主面202aに、ノズル213からデポジションガスGが噴射されている。そこへ、イオン光学系205によりイオンビームIを照射する。すると、主面202a上においてイオンビームIによりデポジションガスGが分解され、主面202a上に分解された成分が到達する。ここで、イオンビームIは、イオン光学系205の偏向電極235(図8を参照)により徐々に偏向され、被加工物202の主面202a上を走査(スキャン)する。こうして、デポジション膜243が形成される。なお、デポジション膜243としては様々な材料を用いることが可能である。デポジション膜の材料としては、W、C、Pt、Auなどが挙げられる。また、例えばCからなるデポジション膜243を形成する場合には、デポジションガスGとしてピレン等が用いられる。
【0039】
続いて、図11(e)及び(f)に示されるように、スライダ107のエアベアリング面109における観察領域117を覆う領域に、デポジションガスGを噴射するとともにイオンビームIを照射してデポジション膜からなる保護膜121を形成する。この保護膜121は、試料部の一部をなし、試料部を切り出す際にイオンビームIによって試料部が損傷しないように試料部を保護するものとして機能する。次に、目印119に基づいて、試料部形成予定とする領域の所望の位置に新たな目印119bを形成する。目印119bの形成方法としては、例えばFIB装置200のイオン光学系205からイオンビームI(図9参照)を照射して、試料部形成予定とする領域の所望の位置に溝状の目印119bを形成するとよい。あるいは、デポジションガスGを噴射しながらイオンビームIを試料部形成予定とする領域の所望の位置に照射してデポジション膜を形成し、このデポジション膜を目印119bとしてもよい。このように、新たな目印119bを形成することにより、観察対象物である異物Dを含む試料部をより容易に形成することができる。
【0040】
続いて図12(a)及び(b)に示されるように、本実施形態の試料保持用プローブ1のプローブ本体2の試料保持部2aを、保護膜121の上面に接触させる。図12(a)は、観察領域117を含むスライダ107のエアベアリング面109を示す図である。また、図12(b)は、図12(a)に示されたスライダ107のI’−I’断面を示す端面図である。このとき、プローブ本体2の試料保持部2aを接触させる位置は、保護膜121の表面上であればどこでも可能である。
【0041】
続いて、試料保持用プローブ1のペルチェ素子7に通電することにより、プローブ本体2の冷却を始める。本実施形態においては、プローブ本体2の試料保持部2aを保護膜121の上面に接触させる前に、冷却を始めていてもよい。
【0042】
続いて、図13(a)及び(b)に示されるように、観察領域117の遠方から観察領域117に近づく方向に向かって階段状に深くなるようにスライダ107のエアベアリング面109をイオンビームIにより除去して、階段状の溝125aを形成する。このとき、目印119bに基づいて観察領域117の位置を認識しながら溝125aを形成する。階段状の溝125aは、後の工程においてイオンビームIが微小サンプルの底面を斜め方向から切ることができるようにするためである。溝125aは階段状である必要はないが、階段状にすることで、加工時間を約半分に節約できる。
【0043】
続いて、図13(c)及び(d)に示されるように、観察領域117の周囲をイオンビームIにより除去して、溝125bを形成する。こうして、試料部127の背面及び両側面が形成される。このとき、試料部127の周囲の一部を連結部分128として残す。なお、溝125bを形成する際には、プローブ本体2を適宜移動し、プローブの試料保持部2aが切断されない位置で試料保持部2aを保護膜121の上面に接触させておく。続いて、図13(e)及び(f)に示されるように、試料部127の底部をイオンビームIにより斜め方向から除去する。こうして、試料部127の底面が形成される。なお、プローブの試料保持部2aを、保護膜121の上面に接触させてから試料部127の底面が形成されるまでの間、プローブ本体2の冷却を続ける。
【0044】
続いて、図14(a)及び(b)に示されるように、試料部127の保護膜121の上面に試料保持部2a接触させる。図14(a)は、観察領域117を含むスライダ107のエアベアリング面109を示す図である。また、図14(b)は、図14(a)に示されたスライダ107のII−II断面を示す端面図である。このとき、プローブ本体2の試料保持部2aを接触させる位置は、試料部127の表面上であればどこでも可能である。後の工程で微小サンプル127を観察領域117の厚さまで薄膜化することを考慮して、プローブ本体2の試料保持部2aを試料部127の端部に接触させればより好適である。
【0045】
続いて、図14(c)〜(d)に示されるように、デポジション膜131をプローブ本体2の試料保持部2aと保護膜121上の一部とを覆うように形成する。このデポジション膜131によって、プローブ129と試料部127とが互いに固定される。
【0046】
続いて、図15(a)〜(c)に示されるように、図14(c)に示された連結部分128をイオンビームIにより除去して、前試料127bを取り出す。このとき、前試料127bに固定されたプローブ本体2を操作することにより、前試料127bを移動させる。なお、図15(b)は、図15(a)に示されたスライダ107のII−II断面を示す端面図である。
【0047】
続いて、図15(d)及び(e)に示されるように、前試料127bを支持台21上に固定する。なお、図15(e)は、図15(d)に示された前試料127bのIV−IV断面を示す端面図である。このとき、前試料127bが支持台21に接するように前試料127bを移動し、デポジション膜135を前試料127bの一側面上から支持台21上にわたって形成する。加えて、デポジション膜133を前試料127bの背面上から支持台21上にわたって形成する。このデポジション膜133及び135により、前試料127bが支持台21上に固定される。
【0048】
続いて、図15(f)及び(g)に示されるように、前試料127bの前面129a及び背面129bの近傍部分をイオンビームIにより除去して、前試料127bを観察領域117の幅まで薄膜化する。そして、プローブ129をイオンビームIにより切断する。本実施形態では、プローブ129が前試料127bから切り離されるまで冷却を続けることが、前試料127bの変形・変質をより確実に抑制する点から好ましい。こうして、スライダ107及び異物Dの断面をTEMにより観察するための薄膜部分127aが形成される。なお、この薄膜化は、前試料127bの前面及び背面のいずれか一方の近傍部分を除去することにより行ってもよい。
【0049】
上述したように、本実施形態の試料の製造方法によれば、本実施形態の試料保持用プローブ1用いることにより、FIB加工時に試料部127の冷却を効率よく行うことができ、変形・変質が十分に抑制された前試料127bを得ることができる。また、本実施形態の試料保持用プローブ1用いることにより、前試料127bを薄膜化する際に、前試料127bの冷却を効率よく行うことができ、変形・変質が十分に抑制された薄膜部分127aを有する試料127cを得ることができる。
【0050】
次に、上記で得られた試料127cのTEM観察を行う例を説明する。
【0051】
図16は、試料127cの薄膜部分127aを観察するためのTEM50を示す図である。TEM50は、電子発生装置51及び検出装置53を備えている。微小サンプル127の薄膜部分127aは、電子発生装置51と検出装置53との間にセットされる。電子発生装置51は電子銃及び集束レンズから構成されており、薄膜部分127aに電子ビームE1を照射する。そして、電子ビームE1のうち薄膜部分127aを透過することができた電子が、電子ビームE2として検出装置53に入射する。検出装置53は、対物レンズ、投影レンズ、及び蛍光スクリーンなどから構成されており、電子ビームE2に基づいて蛍光スクリーン上に像を形成する。こうして、薄膜部分127aの像が得られ、例えば異物Dの組成などを観察・解析することができる。このとき、本実施形態の試料の製造方法で製造された試料127cの薄膜部分127aは、変形・変質が十分に抑制されているので、上記TEM観察において的確な分析結果を得ることができる。
【0052】
次に、本発明の試料の製造方法の第2の実施形態について説明する。
【0053】
本発明の試料の製造方法の第2の実施形態では、前試料127bの薄膜化を支持台21上に固定せずに、試料保持用プローブ1で前試料127bを保持した状態で行う。この場合、上述の、試料部127の保護膜121の上面にプローブ試料保持2aを接触させる工程(図14(a))において、プローブ本体2の回転軸Cが、矩形状の観察領域117の長手方向に略平行になるようにして試料部127の上面にプローブ試料保持2aを接触させる(図17(a)参照)。そして、図17(a)及び(b)に示すように、デポジション膜131をプローブ本体2の試料保持部2aと保護膜121上の一部とを覆うように形成する。ここで、本実施形態においては、デポジション膜131を熱伝導率が高い材料で形成することが好ましい。例えば、W、Pt、C、Au、Ag等が挙げられる。
【0054】
続いて、図18(a)及び(b)に示されるように、図17(a)に示された連結部分128をイオンビームIにより除去して、前試料127bを取り出す。このとき、前試料127bに固定されたプローブ本体2を操作することにより、前試料127bを移動させる。
【0055】
続いて、図18(c)及び(d)に示されるように、前試料127bの前面129a及び背面129bの近傍部分をイオンビームIにより除去して、前試料127bを観察領域117の幅まで薄膜化する。こうして、スライダ107及び異物Dの断面をTEMにより観察するための薄膜部分127aが形成され、試料127cが得られる。図18(d)は、図18(c)に示された試料127cのIV’−IV’断面を示す端面図である。なお、この薄膜化は、前試料127bの前面及び背面のいずれか一方の近傍部分を除去することにより行ってもよい。
【0056】
本実施形態の試料の製造方法によれば、本実施形態の試料保持用プローブ1用いることにより、FIB加工時に試料部127の冷却を効率よく行うことができ、変形・変質が十分に抑制された前試料127bが得られる。さらには、取り出した前試料127bを保持している状態で試料127bを冷却することができる。これにより、被加工物107から取り出した前試料127bを保持している状態で、FIB加工によって薄膜化した場合であっても、変形・変質を十分に抑制された試料127cを得ることができる。以下、試料保持用プローブ1に保持された試料127cをTEM観察する実施形態について説明する。
【0057】
図7に示されるFIB装置200において、プローブ本体2はマニュピレータ15に接続されており、このマニュピレータ15は試料保持用プローブ1を備えた状態でFIB装置200から取り外すことが可能となっている。
【0058】
上記のFIB加工によって試料127cが得られた後、マニュピレータ15をFIB装置200から取り外す。このとき、マニュピレータ15には試料127cを保持したプローブ本体2が接続されている。
【0059】
次に、取り外したマニュピレータ15をTEM50に装着する。なお、マニュピレータ15はTEM50に装着できる形状を有している。更に、TEM50に装着されたマニュピレータ15を操作することにより、プローブ本体2の試料保持部2aを移動させたり、プローブ本体2を回転軸Cで回転させたりすることができ、試料保持部2aの試料に電子線を照射させることが可能となっている。このようなTEM50及びマニュピレータ15によって、FIB加工終了後の試料を直ちにTEM観察することができる。
【0060】
TEM50にマニュピレータ15を装着した後、プローブ本体2を約90度回転させて、図19に示されるように電子ビームE1が薄膜部分127aに照射されるよう薄膜部分127aの面を電子発生装置51に対向させる。
【0061】
続いて、薄膜部分127aに電子ビームE1を照射する。そして、電子ビームE1のうち薄膜部分127aを透過することができた電子が、電子ビームE2として検出装置53に入射する。検出装置53は、対物レンズ、投影レンズ、及び蛍光スクリーンなどから構成されており、電子ビームE2に基づいて蛍光スクリーン上に像を形成する。こうして、薄膜部分127aの像が得られ、例えば異物Dの組成などを観察・解析することができる。本実施形態の試料の製造方法で製造された試料127cの薄膜部分127aは、変形・変質が十分に抑制されているので、上記TEM観察において的確な分析結果を得ることができる。また、本実施形態においては、試料保持用プローブ1は試料ホルダとしても機能することができ、これによりFIB加工からTEM観察までの操作及び時間が短縮され、測定効率を向上させることができる。
【0062】
なお、本発明による試料の製造方法は、上記した第1の実施形態及び第2の実施形態に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、試料保持用プローブ1の試料保持部2aを接触させる位置を、加工部分に応じて複数設定することが可能である。さらに、プローブ本体2の冷却を必要時にのみ行ってもよい。
【0063】
また、上記した第1の実施形態及び第2の実施形態で得られる前試料127bを観察又は解析に供することも可能である。
【0064】
また、上記した実施形態では、本発明による試料の製造方法をTEMによる観察・解析において用いているが、この他にも走査型電子顕微鏡(Scanning Emission Microscope、SEM)や、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy、AES)、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope、AFM)などを用いた観察・解析においても、被加工物の観察領域周辺を除去する際に、本発明の試料保持用プローブにより加工部分を冷却することができ、試料の変形・変質を十分に抑制することができる。
【0065】
また、上記した実施形態では、本発明による試料の製造方法をFIB加工により微小サンプルを切り取る際に用いているが、この他にも例えばアルゴンエッチング法などにより観察領域を加工する際においても本発明の試料保持用プローブにより加工部分を冷却することができる。この場合も、試料の変形・変質を十分に抑制することができる。
【0066】
また、上記した実施形態では、ハードディスク装置のスライダを被加工物としているが、本発明による試料の製造方法では、これ以外にも様々な物、例えばDVD−RW等の光ディスクや高分子材料など、イオンビームに対して変形、変質しやすいものを被加工物とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、本発明の試料保持用プローブの一実施形態を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の試料保持用プローブに係るプローブ本体の構成を説明するための断面図である。
【図3】図3は、本発明の試料保持用プローブに係るプローブ本体の構成を説明するための断面図である。
【図4】図4は、本発明の試料保持用プローブに係る冷却部の構成を説明するための断面図である。
【図5】図5は、本発明の試料保持用プローブに係る冷却部の構成を説明するための断面図である。
【図6】図6は、本発明の試料保持用プローブに係る冷却部の構成を説明するための断面図である。
【図7】図7は、FIB装置を示す図である。
【図8】図8は、イオン光学系を示す図である。
【図9】図9は、デポジション膜を形成する過程を示す図である。
【図10】図10は、スライダの斜視拡大図である。
【図11】図11は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を試料として取り出して観察・解析する方法を説明するための図である。
【図12】図12は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を試料として取り出して観察・解析する方法を説明するための図である。
【図13】図13は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を取り出して、試料を製造する方法を説明するための図である。
【図14】図14は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を取り出して、試料を製造する方法を説明するための図である。
【図15】図15は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を取り出して、試料を製造する方法を説明するための図である。
【図16】図16は、試料の薄膜部分を観察するためのTEMを示す図である。
【図17】図17は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を取り出して、試料を製造する方法を説明するための図である。
【図18】図18は、FIB装置を用いて、スライダから微小な異物が付着した部分を取り出して、試料を製造する方法を説明するための図である。
【図19】図19は、試料の薄膜部分を観察するためのTEMを示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1…試料保持用プローブ、2…プローブ本体、2a…試料保持部、3…冷却部、5…支持部、6…試料保持部、7…ペルチェ素子、8,10…吸熱部、9…放熱部、11…冷媒供給路、12…蓋体、14…冷媒収容部、50…TEM、51…電子発生装置、53…検出装置、107…スライダ、107a…基台、109…エアベアリング面、117…観察領域、119,119b…目印、121…保護膜、125a、125b…溝、127…試料部、127a…薄膜部分、127b…前試料、127c…試料、128…連結部分、131…デポジション膜、133、135…デポジション膜、200…FIB装置、202…被加工物、202a…主面、203…試料室、205…イオン光学系、207…イオン源、209…ステージ、211…真空排気系、213…ノズル、215…検出器、217…制御装置、219…表示装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を保持する試料保持部を有するプローブ本体と、該プローブ本体を冷却する冷却部と、
を備える、試料保持用プローブ。
【請求項2】
前記冷却部がペルチェ素子を有している、請求項1に記載の試料保持用プローブ。
【請求項3】
被加工物の主面上における特定の領域に請求項1又は2に記載の試料保持用プローブの前記試料保持部を接触させて前記被加工物を冷却する工程と、
前記被加工物を冷却しながら前記被加工物の前記特定の領域周辺を加工により除去して前記特定の領域を含む試料部を形成する工程と、
前記試料部と前記試料保持用プローブの前記試料保持部とを接着させる工程と、
前記試料保持用プローブを移動させることにより、前記試料部を前記被加工物から取り出す工程と、
を備える、試料の製造方法。
【請求項1】
試料を保持する試料保持部を有するプローブ本体と、該プローブ本体を冷却する冷却部と、
を備える、試料保持用プローブ。
【請求項2】
前記冷却部がペルチェ素子を有している、請求項1に記載の試料保持用プローブ。
【請求項3】
被加工物の主面上における特定の領域に請求項1又は2に記載の試料保持用プローブの前記試料保持部を接触させて前記被加工物を冷却する工程と、
前記被加工物を冷却しながら前記被加工物の前記特定の領域周辺を加工により除去して前記特定の領域を含む試料部を形成する工程と、
前記試料部と前記試料保持用プローブの前記試料保持部とを接着させる工程と、
前記試料保持用プローブを移動させることにより、前記試料部を前記被加工物から取り出す工程と、
を備える、試料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2006−73270(P2006−73270A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253127(P2004−253127)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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