説明

試料冷却装置、硬さ試験機及び硬さ試験方法

【課題】安定した低温環境で硬さ試験を実施することができる試料冷却装置、硬さ試験機及び硬さ試験方法を提供すること。
【解決手段】硬さ試験機が、試料の硬さを測定する硬さ試験機に設置されて試料を支持する蓄熱部材である試料台と、試料が上部に置かれた試料台の下部に冷媒を接触させることで、試料台を冷却する冷却部と、冷却部によって冷却された試料台に支持されている試料の温度を計測する温度計測部とを有する試料冷却装置を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料冷却装置、硬さ試験機及び硬さ試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電所等に設置される軽水炉の主要構造物である圧力容器は、運用中に中性子が照射されることで、圧力容器を形成する鋼材の脆化が進行することが知られている。この現象は、「照射脆化」と呼ばれ、原子炉における主要な経年事象のひとつとして取り上げられている。
【0003】
一般に、このような脆化が機械的特性の温度依存性の変化を示す指標であることに着目して、硬さの温度依存性から脆化を評価する手法が検討されている。特に、脆化を評価するための効果的な手法として、低温における硬さの温度依存性の変化から脆化を評価することが検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】野本明義、西田憲二、土肥謙次、曽根田直樹 「硬さ試験による軽水炉圧力容器鋼の照射脆化モニタリング法の基礎的検討」 電力中央研究所報告、研究報告:Q08024 平成21年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術には、安定した低温環境で硬さ試験を実施することが困難であるという問題があった。なお、この問題は圧力容器の鋼材に限って生じるものではなく、硬化にともなって脆化を生じる各種の試料に対する硬さ試験について同様に生じるものである。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、安定した低温環境で硬さ試験を実施することができる試料冷却装置、硬さ試験機及び硬さ試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る試料冷却装置は、試料の硬さを測定する硬さ試験機に設置されて前記試料を支持する蓄熱部材である試料台と、前記試料が上部に置かれた前記試料台の下部に冷媒を接触させることで、前記試料台を冷却する冷却部と、前記冷却部によって冷却された前記試料台に支持されている試料の温度を計測する温度計測部とを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る試料冷却装置は、試料の硬さを測定する硬さ試験機に設置されて前記試料を支持する蓄熱部材である試料台と、前記試料台を冷却することで該試料台に支持されている試料を冷却する冷却部と、前記試料台と該試料台に支持されている前記試料とを収納し、該試料の上面と対向する位置に該試料の上面よりも大きい孔が形成された断熱部材である収納部とを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る硬さ試験機は、試料の硬さを測定する硬さ試験機であって、前記硬さ試験機に設置されて前記試料を支持する蓄熱部材である試料台と、前記試料が上部に置かれた前記試料台の下部に冷媒を接触させることで、前記試料台を冷却する冷却部と、前記冷却部によって冷却された前記試料台に支持されている試料の温度を計測する温度計測部とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る硬さ試験方法は、試料の硬さを測定する硬さ試験機を用いた硬さ試験方法であって、前記試料が上部に置かれた蓄熱部材である試料台の下部に冷媒を接触させることで、前記試料台を冷却する冷却ステップと、前記冷却ステップにおいて冷却された前記試料台に支持されている試料の温度を計測する温度計測ステップと、前記温度計測ステップにおいて計測された前記試料の温度が所定の温度に達した後に前記試料の硬さを測定する硬さ測定ステップとを含んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る試料冷却装置、硬さ試験機及び硬さ試験方法は、安定した低温環境で硬さ試験を実施することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例に係るビッカース硬さ試験機の構成例を示す図である。
【図2】図2は、実施例における試料冷却部の構成例を示す図である。
【図3】図3は、実施例における試料冷却部を示す分解図である。
【図4】図4は、実施例における試料台を示す斜視図である。
【図5】図5は、実施例における試料冷却部を示す上面視野図である。
【図6】図6は、本実施例に係るビッカース硬さ試験機によって実施されるビッカース硬さ試験の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は、試料台の底面を冷却する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る試料冷却装置、硬さ試験機及び硬さ試験方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に示す実施例では、試料のビッカース硬さを測定する例について説明するが、本発明に係る試料冷却装置、硬さ試験機及び硬さ試験方法は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
[本実施例に係るビッカース硬さ試験機の構成]
まず、図1を用いて、本実施例に係るビッカース硬さ試験機の構成について説明する。図1は、本実施例に係るビッカース硬さ試験機の構成例を示す図である。図1に例示するように、本実施例に係るビッカース硬さ試験機10は、試験機支持台20に載置され、環境フード30により覆われる。かかる環境フード30については、後に説明する。
【0015】
また、図1に例示するように、ビッカース硬さ試験機10は、本体部11と、撮像部12と、ターレット13と、ステージ14と、操作受付部15と、制御部16と、試料冷却部100とを有する。
【0016】
本体部11は、概略C字状をなし、ビッカース硬さ試験機10が有する各部を支持する。具体的には、本体部11は、上部上側に撮像部12を支持し、上部下側にターレット13を支持する。また、本体部11は、下部上側にステージ14を支持する。
【0017】
撮像部12は、後述する試料冷却部100に載置された試料Sに形成されるくぼみを撮像する。この撮像部12は、後述するターレット13に設けられた対物レンズ13bを介して、試料Sの上面を撮像する。例えば、撮像部12は、CCD(Charge-Coupled Device)カメラなどである。
【0018】
ターレット13は、本体部11の上部に垂直な軸Aを中心に回転可能に設けられており、下側に圧子部13aおよび対物レンズ13bがそれぞれ設けられている。ここで、圧子部13aは、ターレット13から下方に突出するように設けられており、先端に四角錘形状のダイヤモンドが設けられている。そして、ターレット13は、軸Aを中心に回転することで、後述するステージ14上で圧子部13aの位置と対物レンズ13bの位置とを入れ替える。
【0019】
試料冷却部100は、ステージ14上に設置され、試料Sを下方から支持する。また、試料冷却部100は、ビッカース試験が実施される際に試料Sを冷却する。本実施例では、この試料冷却部100が試料Sを冷却することによって、低温におけるビッカース硬さを測定することができるようにしている。なお、かかる試料冷却部100の構成については後に具体的に説明する。
【0020】
ステージ14は、本体部11の下部上側にターレット13と対向するように設けられている。このステージ14上に設置された試料冷却部100によって試料Sが支持された状態で、上記の圧子部13aを試料Sに向かって下降させることにより、試料Sに圧子部13aの先端を押し込むことができる。なお、ステージ14は、本体部11内に設けられた駆動部によって上下方向へ移動可能に設けられてもよい。かかる場合には、このステージ14を上昇させることで、試料冷却部100に載置された試料Sに圧子部13aの先端を押し込むことができる。
【0021】
操作受付部15は、ビッカース硬さ試験機10に対する各種の動作指示を操作者から受け付け、受け付けた動作指示に応じてビッカース硬さ試験機10の各部を動作させる。例えば、操作受付部15は、操作者からビッカース硬さ試験の実施指示を受け付けた場合には、あらかじめ設定された試験荷重で圧子部13aの先端が試料Sに押し込まれるように、本体部11内に設けられた駆動部を動作させてステージ14を上昇させる。また、操作受付部15は、操作者から撮像指示を受け付けた場合には、撮像部12を駆動することで試料Sの表面を撮像する。なお、この操作受付部15は、例えば、ボタンやタッチパネルなどである。なお、図1では、操作受付部15が本体部11に設けられる例を示したが、操作受付部15は、制御部16によって実現されてもよい。
【0022】
制御部16は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置であり、操作者から各種の指示を受け付け、受け付けた指示に応じてビッカース硬さ試験に関する各種処理を行う。例えば、制御部16は、撮像部12によって撮像された試料Sの画像を表示する。また、制御部16は、撮像部12によって撮像された試料Sの画像を解析することで、試料Sに形成されたくぼみの対角線の長さを計測し、計測した対角線の長さと試料Sに加えられた荷重の大きさとからビッカース硬さを算出する。
【0023】
[本実施例における試料冷却部の構成]
次に、図2及び図3を用いて、試料冷却部100について説明する。図2は、本実施例における試料冷却部100の構成例を示す図である。また、図3は、本実施例における試料冷却部100の分解図である。
【0024】
図2に例示するように、試料冷却部100は、試料台110と、ヒータ120と、シャーレ130と、冷媒注入管140と、フード150と、フレーム160とを有する。また、試料Sには温度計測部170が接続され、ヒータ120には温度調整部180が接続される。なお、かかる試料冷却部100が有する各部は、それぞれ、ビッカース硬さ試験に耐えうる強度を有している。また、この試料冷却部100は、高さ方向が約30[mm]〜40[mm]であり、横方向が約100[mm]〜150[mm]の大きさである。
【0025】
試料台110は、熱を蓄えることができる蓄熱部材であり、例えば、アルミニウム等である。かかる試料台110は、ヒータ120を介して、試料Sを支持する。具体的には、試料台110は、上面に試料Sが置かれたヒータ120を支持する。
【0026】
また、本実施例における試料台110は、図2及び図3に例示するように、ヒータ120を介して試料Sが置かれる上部よりも下部の方が大きい凸状に形成される。図4に、本実施例における試料台110の斜視図を示す。図4に例示するように、本実施例における試料台110は、直方体111の上面中央に、かかる直方体111よりも縦及び横の長さが短い直方体112が配置された形状(凸状)の部材である。ここでは、直方体111と直方体112とに分けて、試料台110の形状を説明したが、実際には、試料台110は、アルミニウム等で形成される一つの塊(ブロック)である。
【0027】
なお、以下では、図4に例示するように、試料台110のうち、ヒータ120が載置される試料台110の上面近傍の領域を試料台110の上部110aとし、また、試料台110のうち、上部110a以外の領域を試料台110の下部110bとする。
【0028】
ヒータ120は、熱伝導性の高い部材であり、試料台110の上部に置かれるとともに試料Sを支持する。このヒータ120は、試料台110の熱を試料Sに伝えることもできるし、自らが熱を発して試料Sを加熱することもできる。例えば、ヒータ120は、試料台110が冷却された場合には、試料台110の温度と略同一の温度となることで、試料Sを冷却する。また、ヒータ120は、後述する温度調整部180によって制御されることで、試料Sを加熱する温度を変更する。なお、本実施例におけるヒータ120には、後述する冷媒注入管140が貫通する貫通孔が形成される。
【0029】
シャーレ130は、熱の伝導を抑制する断熱部材であり、例えば、セラミックス等である。かかるシャーレ130は、凹状に形成され、試料台110を収納する収納部としての役割を担う。図2及び図3に示した例では、シャーレ130は、試料台110の底面がほぼ隙間なくシャーレ130に収納されるように、凹状に形成されている。
【0030】
冷媒注入管140は、試料台110の下部110bに冷媒を接触させることで、かかる試料台110を冷却する。すなわち、冷媒注入管140は、試料台110を冷却する冷却部としての役割を担う。例えば、冷媒注入管140は、冷媒として、液体窒素を試料台110の下部110bに接触させる。
【0031】
本実施例における冷媒注入管140は、かかる冷媒注入管140の先端が、ヒータ120に形成された貫通孔を貫通することで、シャーレ130に収納された試料台110の下部110bと、シャーレ130の内壁との間に形成される空間U11に到達する。そして、冷媒注入管140は、かかる先端から空間U11に液体窒素等の冷媒を注入することにより、試料台110の下部110bを冷却する。
【0032】
なお、図2に示した例では、冷媒注入管140がヒータ120を貫通し、空間U11に冷媒を注入する例を示したが、冷媒注入管140は、ヒータ120を貫通する必要はなく、例えば、図2に示した空間U12に冷媒を注入してもよい。
【0033】
フード150は、凹状に形成された透明部材であり、例えば、アクリル等である。かかるフード150は、中空状の空間を形成するようにシャーレ130に載置され、試料台110、ヒータ120及び試料Sを収納する収納部としての役割を担う。具体的には、図2及び図3に例示するように、凹状のシャーレ130と凹状のフード150との内壁が向き合う状態で、シャーレ130における側壁の上面と、フード150における側壁の上面とを接触させてシャーレ130上にフード150が置かれることにより、シャーレ130及びフード150は、試料台110、ヒータ120及び試料Sを収納する。
【0034】
また、フード150は、シャーレ130に載置された際に試料Sの上面と対向する位置に、試料Sの上面の面積よりも大きい孔151が形成される。そして、図2に示した例では、試料Sの上面近傍のみが、フード150に形成された孔151から上側に露出する。図5に、本実施例における試料冷却部100を上面から見た上面視野図を示す。図5に示すように、フード150には、試料Sの上面面積よりも大きい孔151が形成されており、試料Sは、孔151からシャーレ130及びフード150に囲まれた領域外に露出する。これにより、圧子部13aを試料Sに押し込むことができる。
【0035】
フレーム160は、シャーレ130を支持し、ステージ14に載置される。かかるフレーム160は、図2及び図3に示すように、突起状の脚を有し、かかる脚がステージ14に載置される。これにより、フレーム160とステージ14との間に断熱層となる空気層が形成される。なお、フレーム160は、金属部材であってもよいし、断熱部材であってもよい。
【0036】
このように、試料冷却部100は、試料台110の下部110bに冷媒を接触させて試料台110を冷却することで、かかる試料台110に支持されている試料Sを冷却する。これにより、試料冷却部100は、試料台110を安定した目的の試験温度に冷却することができ、その結果、試料Sを安定した目的の試験温度に冷却することができる。
【0037】
この点について、冷媒が液体窒素である場合を例に挙げて説明する。例えば、試料Sが支持されている試料台の内部に液体窒素を循環させる手法の場合には、大量の液体窒素を循環させることで、試料台を「−196℃」まで冷却し、試料台に支持されている試料Sを「−196℃」に冷却することはできる。しかし、液体窒素による冷却は、蒸発時に外部から蒸発潜熱を奪うことによって行われる。かかる蒸発潜熱が大きいため、冷却対象物に液体窒素が接触して沸騰すると、液体窒素が接触した接触部位の近傍では冷却対象物が窒素の沸点「−196℃」近傍まで急激に冷却される。
【0038】
このため、上記の手法を用いた場合には、液体窒素の量を調整することで試料台の温度を「−196℃」〜「室温」の間にある目的の試験温度に冷却することが困難である。例えば、上記の液体窒素を循環させる手法を用いて試料台を目的の試験温度「−100℃」に冷却する場合に、少量の液体窒素を試料台に循環させたとしても、液体窒素が接触した試料台の一部分が「−196℃」になり、試料Sも「−196℃」まで冷却される場合がある。このような場合には、「−196℃」まで冷却された試料Sが目的温度「−100℃」に達するまで待機することを要する。
【0039】
また、上記の液体窒素を循環させる手法の場合には、液体窒素が接触した試料台の一部分が「−196℃」になるものの、液体窒素が接触していない試料台の他の部分については如何なる温度になるかが予測困難であることも考えられる。このような場合には、試料台に瞬間的に温度ムラが発生し、試料Sが如何なる温度に冷却されるかが予測困難である。このようなことから、上記手法を用いたとしても、試料Sを安定した目的の試験温度に冷却することが困難である。
【0040】
一方、本実施例における試料冷却部100は、試料台110の下部110bを冷却することで、試料台110の上部110aを冷却する。すなわち、本実施例では、蓄熱部材である試料台110の下部110bから上部110aまでの間に緩やかな温度勾配が設けられることにより、試料台110の下部110bを部分的に冷却した場合であっても、試料台110の上部110aを安定した温度に冷却することができる。例えば、試料台110の下部110bが液体窒素の沸騰現象により急峻に冷却された場合であっても、下部110bから離れた上部110aでは、急峻な冷却の影響は少なくなるので、上部110aを安定した温度に冷却することができる。すなわち、本実施例における試料冷却部100は、試料台110の下部110bに注入する液体窒素の量を調整することで、試料台110の上部110aを目的の試験温度に冷却制御することができる。
【0041】
そして、本実施例における試料冷却部100は、図2に示した温度計測部170が、試料Sの温度を計測し、温度調整部180が、温度計測部170によって計測された試料Sの温度が目的温度よりも低い場合に、ヒータ120を制御して試料Sを加熱する。すなわち、本実施例における試料冷却部100は、ヒータ120によって試料Sを加熱することにより、試料Sの温度が目的の試験温度となるように微調整を行う。これにより、温度計測部170及び温度調整部180は、試料Sを安定した目的の試験温度に保つことができる。
【0042】
ここで、大気中の空気には水分が含まれるため、試料Sを冷却すると、試料Sに結露、凍結、霜付きが発生するとも考えられる。そして、試料Sに結露、凍結、霜付きが発生した場合には、正確なビッカース硬さ試験を行えないとも考えられる。しかし、本実施例に係るビッカース硬さ試験機10は、試料Sに結露、凍結、霜付きが発生することを防止することができる。
【0043】
この点について、図1及び図2を用いて具体的に説明する。図1に例示するように、本実施例に係るビッカース硬さ試験機10は、試験機支持台20に載置され、環境フード30により覆われる。試験機支持台20は、例えば、木製や金属製の台である。環境フード30は、アクリル等の透明部材である。これらの試験機支持台20又は環境フード30の少なくも一方には、環境フード30内の空気が外部に排出される排出口が形成される。図1に示した例では、試験機支持台20に排出口21aが形成されている。
【0044】
そして、本実施例に係るビッカース硬さ試験機10を用いてビッカース硬さ試験を行う場合には、ビッカース硬さ試験機10が環境フード30に覆われた状態で、環境フード30の内部に乾燥ガスを注入する。乾燥ガスの例としては、液体窒素が蒸発した窒素ガス等が挙げられる。このように、環境フード30の内部に窒素ガス等の乾燥ガスを注入することで、環境フード30内の空気は、排出口21aから外部に排出される。すなわち、ビッカース硬さ試験機10が収納された環境フード30の内部は乾燥ガスで満たされるので、試料Sを冷却した場合であっても、かかる試料Sに結露、凍結、霜付きが発生することを防止することができる。
【0045】
さらに、本実施例における試料冷却部100は、図2に示した例のように、試料Sの上面近傍のみが、フード150に形成された孔151から上側に露出するので、孔151から試料Sの上方に向かって流れる窒素ガスによって、試料S近傍に滞留する空気を試料Sから離すことができる。
【0046】
具体的には、本実施例に係るビッカース硬さ試験機10を用いてビッカース硬さ試験が行われる場合には、冷媒注入管140によって液体窒素が空間U11等に注入される。空間U11等に注入された液体窒素は、蒸発することで乾燥した窒素ガスとなり、フード150に形成された孔151から排出される。すなわち、ビッカース硬さ試験機10を用いてビッカース硬さ試験が行われる場合には、試料Sと孔151との間に形成される隙間から窒素ガスが排出される。このため、試料Sの近傍では、上方に向かって窒素ガスが吹き出すことになるので、試料S近傍には水分を含む空気が滞留しない。この結果、本実施例における試料冷却部100は、試料Sに結露、凍結、霜付きが発生することを防止することができる。
【0047】
[本実施例におけるビッカース硬さ試験の流れ]
次に、図6を用いて、本実施例に係るビッカース硬さ試験機10によって実施されるビッカース硬さ試験の流れについて説明する。図6は、本実施例に係るビッカース硬さ試験機10によって実施されるビッカース硬さ試験の流れを示すフローチャートである。
【0048】
図6に示すように、本実施例に係るビッカース硬さ試験機10によるビッカース硬さ試験では、まず、環境フード30の内部に乾燥ガスを注入することで、環境フード30内の空気を外部に放出する(ステップS101)。
【0049】
続いて、冷媒注入管140が、試料台110の下部110bと、シャーレ130の内壁との間に形成される空間U11に冷媒を注入することにより、試料台110の下部110bに冷媒を接触させる(ステップS102)。このとき、冷媒注入管140から注入される冷媒の量は、試料台110の上部110aを所定の目的温度にするための量となる。このような冷媒の量と試料台110の上部110aの温度との関係は、実験結果等から予め得ることができる。すなわち、試料Sは、冷媒により冷却された試料台110の上部110aによって、目的温度近傍の温度まで冷却される。
【0050】
続いて、温度計測部170が、試料Sの温度を計測する(ステップS103)。そして、温度調整部180が、温度計測部170によって計測された温度に基づいてヒータ120の温度を制御することで、試料台110によって冷却された試料Sの温度を調整する(ステップS104)。
【0051】
その後、温度計測部170によって計測された試料Sの温度が目的の試験温度に達した後に(ステップS105,Yes)、操作者からの指示に応じて、ビッカース硬さ試験機10の各部が試料Sのビッカース硬さを測定する。
【0052】
具体的には、操作受付部15が、操作者から圧子押し込み指示を受け付けた場合に、あらかじめ設定された試験荷重で圧子部13aの先端が試料Sに押し込まれるように、圧子部13aを下降させる(ステップS106)。続いて、操作受付部15は、操作者から撮像指示を受け付けた場合に、撮像部12を動作させることで試料Sに形成されたくぼみを撮像する(ステップS107)。
【0053】
そして、制御部16が、操作者からの指示に応じて、撮像部12によって撮像された画像を解析することで、試料Sに形成されたくぼみの対角線の長さを計測し、計測した対角線の長さと試料Sに加えられた荷重の大きさとからビッカース硬さを算出する(ステップS108)。
【0054】
上述してきたように、本実施例では、試料台110の下部110bから上部110aまでの間に緩やかな温度勾配が設けられており、かかる試料台110の下部110bに冷媒を接触させる。これにより、本実施例における試料冷却部100は、試料台110の上部110aを安定した温度に冷却することができ、その結果、試料台110に載置された試料Sを安定した温度に冷却することができる。
【0055】
また、本実施例では、温度計測部170が、試料Sの温度を計測し、温度調整部180が、温度計測部170によって計測された試料Sの温度が目的温度よりも低い場合に、ヒータ120を制御して試料Sを加熱する。これにより、本実施例における試料冷却部100は、試料Sを安定した目的の試験温度に保つことができる。
【0056】
また、本実施例では、ビッカース硬さ試験機10が試験機支持台20に載置され、環境フード30により覆われており、試験機支持台20又は環境フード30の少なくも一方には、環境フード30内の空気が外部に排出される排出口が形成される。これにより、本実施例におけるビッカース硬さ試験機10は、環境フード30の内部に乾燥ガスが注入され、環境フード30内の空気が排出口21aから外部に排出されることで、試料Sに結露、凍結、霜付きが発生することを防止することができる。
【0057】
また、本実施例では、フード150が、シャーレ130に載置された際に試料Sの上面と対向する位置に、試料Sの上面の面積よりも大きい孔151が形成される。これにより、本実施例における試料冷却部100では、空間U11等に注入された液体窒素が窒素ガスとなり、フード150に形成された孔151から排出されることで、試料Sの近傍では、上方に向かって窒素ガスが吹き出すことになる。この結果、試料冷却部100は、試料Sに結露、凍結、霜付きが発生することを防止することができる。
【0058】
また、上記実施例で説明した試料冷却部100は、小型に構成することができるので、既存のビッカース硬さ試験機に改造を加えることなく実装することができる。したがって、低いコストで、低温における試料の硬さの温度依存性を測定することが可能である。
【0059】
なお、上記実施例では、図2に例示したように、試料冷却部100が、シャーレ130に収納された試料台110の下部110bと、シャーレ130の内壁との間に形成される空間U11に冷媒を注入することにより、試料台110の下部110bを冷却する例を示した。しかし、試料冷却部100は、試料台110の底面を冷却してもよい。
【0060】
図7を用いて具体的に説明する。図7は、試料台110の底面を冷却する例を示す図である。図7に示した例では、シャーレ131及び冷媒注入管141の構造が図2に例示したシャーレ130の構造と異なる。具体的には、シャーレ131は、内壁から内部方向に突起した突起部131a及び131bを有する。かかるシャーレ131には、試料台110が収納される場合に、シャーレ131の突起部131a及び131bに試料台110が載置される。これにより、試料台110とシャーレ131との間に空間U13が形成される。
【0061】
そして、冷媒注入管141は、試料台110とシャーレ131との間に形成された空間U13に液体窒素等の冷媒を注入する。これにより、冷媒によって空間U13が冷却され、試料台110の底面が冷却される。そして、試料台110の底面が冷却されることにより、試料台110の上部110aが冷却される。図7に示した例についても、試料台110の下部110bである試料台110の底面が冷却されることで、試料台110の上部110aが冷却されるので、試料台110の上部110aを安定した温度に冷却することができ、その結果、試料台110に載置された試料Sを安定した温度に冷却することができる。
【0062】
また、上記実施例では、操作受付部15が操作者からの指示に応じてビッカース硬さ試験機10の各部を動作させる場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、制御部16がビッカース硬さ試験機10の各部を自動的に動作させるようにしてもよい。
【0063】
また、上記実施例では、ビッカース硬さ試験機に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、ブリネル硬さ試験機やロックウェル硬さ試験機など、他の硬さ試験機にも同様に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 ビッカース硬さ試験機
11 本体部
12 撮像部
13 ターレット
13a 圧子部
13b 対物レンズ
14 ステージ
15 操作受付部
16 制御部
20 試験機支持台
21a 排出口
30 環境フード
100 試料冷却部
110 試料台
120 ヒータ
130 シャーレ
131 シャーレ
131a 突起部
140 冷媒注入管
141 冷媒注入管
150 フード
151 孔
160 フレーム
170 温度計測部
180 温度調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の硬さを測定する硬さ試験機に設置されて前記試料を支持する蓄熱部材である試料台と、
前記試料が上部に置かれた前記試料台の下部に冷媒を接触させることで、前記試料台を冷却する冷却部と、
前記冷却部によって冷却された前記試料台に支持されている試料の温度を計測する温度計測部と
を有することを特徴とする試料冷却装置。
【請求項2】
前記冷却部によって冷却された前記試料台に支持されている試料を加熱することで該試料の温度を調整する温度調整部
をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の試料冷却装置。
【請求項3】
前記試料台を収納する断熱部材である収納部
をさらに有し、
前記試料台は、
上部に対して下部が大きい凸状に形成され、
前記冷却部は、
前記収納部に収納された試料台の下部と該収納部の内壁との間に形成される空間に前記冷媒を注入することで、前記試料台を冷却する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の試料冷却装置。
【請求項4】
前記収納部は、
前記試料台と該試料台に支持されている前記試料とを収納し、該試料の上面と対向する位置に該試料の上面よりも大きい孔が形成される
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の試料冷却装置。
【請求項5】
前記硬さ試験機を支持する試験機支持台と
前記試験機支持台に設置された前記硬さ試験機を収納する試験機収納部と、
をさらに有し、
前記試験機支持台又は前記試験機収納部の少なくも一方に、前記試験機収納部内の大気が外部に排出される排出口が形成される
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の試料冷却装置。
【請求項6】
試料の硬さを測定する硬さ試験機に設置されて前記試料を支持する蓄熱部材である試料台と、
前記試料台を冷却することで該試料台に支持されている試料を冷却する冷却部と、
前記試料台と該試料台に支持されている前記試料とを収納し、該試料の上面と対向する位置に該試料の上面よりも大きい孔が形成された断熱部材である収納部と
を有することを特徴とする試料冷却装置。
【請求項7】
前記硬さ試験機を支持する試験機支持台と
前記試験機支持台に設置された前記硬さ試験機を収納する試験機収納部と、
をさらに有し、
前記試験機支持台又は前記試験機収納部の少なくも一方に、前記試験機収納部内の大気が外部に排出される排出口が形成される
ことを特徴とする請求項6に記載の試料冷却装置。
【請求項8】
試料の硬さを測定する硬さ試験機であって、
前記硬さ試験機に設置されて前記試料を支持する蓄熱部材である試料台と、
前記試料が上部に置かれた前記試料台の下部に冷媒を接触させることで、前記試料台を冷却する冷却部と、
前記冷却部によって冷却された前記試料台に支持されている試料の温度を計測する温度計測部と
を有することを特徴とする硬さ試験機。
【請求項9】
試料の硬さを測定する硬さ試験機を用いた硬さ試験方法であって、
前記試料が上部に置かれた蓄熱部材である試料台の下部に冷媒を接触させることで、前記試料台を冷却する冷却ステップと、
前記冷却ステップにおいて冷却された前記試料台に支持されている試料の温度を計測する温度計測ステップと、
前記温度計測ステップにおいて計測された前記試料の温度が所定の温度に達した後に前記試料の硬さを測定する硬さ測定ステップと
を含んだことを特徴とする硬さ試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−194141(P2012−194141A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60181(P2011−60181)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)