説明

試料処理装置

【課題】試料及び/又は回転鋸を損傷することのない自動鋸切断装置の提供。
【解決手段】試料(15)を観察するための観察装置(2)と、処理すべき該試料を受入れるための試料ホルダ(3)と、工具ホルダ(6)とを有する、試料を処理するための装置(1)であって、該工具ホルダは、旋回アーム(22)によってその長軸方向に垂直に旋回可能であり、かつ該長軸周りに回転可能であり;及び該旋回アームの旋回を選択的に実行するための駆動システムを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を観察するための観察装置、処理対象の試料を受入れる試料ホルダ及び工具ホルダを有する試料処理装置に関し、特に該試料処理装置を備えたミクロトームに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置は、試料の調製、特にミクロトーム薄片の作成のために製造される。このため、検査対象の組織試料は例えば合成樹脂に包埋され、これらの試料はフライスカッタで頂部を切った角錐形状に処理される。形状を整えられたこれらの試料は、ミクロトームで薄片に切断され、検査可能なマイクロメートル又はナノメートル範囲の厚さの組織薄片になる。
【0003】
本出願人はすでにこのような作業に適したユニットを開発し、販売している。このユニットは、試料の処理中に試料を観察できる観察装置を追加している。
【0004】
しかしこれらのユニットは、より硬い材料で作られた試料には不適である。例えば、シリコン、ガリウム砒素等の半導体材料は加工できず、これらには特に鋸(ソーないしダイシングブレード)のような他の工具が必要となる。
【0005】
自動鋸切断装置が例えば米国特許第5456147号(特許文献1)に開示されており、この装置では処理試料は可動アームに積載され、強制的な案内システムにより回転鋸に触れるようになっている。回転鋸は、その軸まわりを回転するが、それを除けば装置のハウジングにしっかり固定されている。
【特許文献1】米国特許第5456147号
【非特許文献1】“ISO MET 1000,”“Precision Sectioning Saw,” Buehler Ltd. USA, 25M0405, FN00912 Rev.2, printing date 2005.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなシステムの不利な点は、試料を処理する間に試料が動かされ、そのため処理中に試料を観察することができないということである。この強制的な案内システムはさらに、例えば過度に送りすぎることがあり、望ましくない引張応力の発生原因となる。これは切断の品質に悪影響を与え、最悪の場合試料を破壊してしまう。従って、試料及び/又は回転鋸を保護するため、鋸と試料アームにかかる圧力負荷を測定する複合的なモニタリング装置が必要となる。
【0007】
従って本発明の目的は、これらの不利な点を解決する最初に引用した種類の装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、本発明に従って、工具ホルダが、旋回アームによって該工具ホルダの長軸方向に垂直に旋回可能であり、かつ該長軸周りに回転可能であり;及び旋回アームの旋回を選択的に実行するための駆動システムを備える、ことを特徴とする装置により達成される。本開示において、工具ホルダの長軸とは、工具ホルダに挿入される工具が回転できる、その回転軸と理解される。工具ホルダの旋回性により、試料が試料ホルダの中で動かずに、工具が試料に対して相対的に移動する。試料が静止した位置にあるため、公知技術とは対照的に、試料の処理中においても、例えば立体顕微鏡のような観察装置を介して試料を見ることができる。工具ホルダの旋回性によって、工具ホルダに挿入された例えば鋸のような工具の送りが規定される。工具ホルダの長軸まわりの回転性は、工具ホルダに挿入された工具を駆動するために必要である。
【0009】
硬い材料からできた試料、特に異なる硬度値を持つ種々の材料からなる試料を鋸切断する場合、鋸刃の管理された均一な送りないし切り込み前進(advance)が特に重要である。本発明に係る変形例の1つでは、旋回アームがガイドに沿って移動可能な錘(ウェイト)の作用を受け、錘の重量が旋回アームの旋回を発生させ、それによって工具の送り(前進)を規定する。
【0010】
例えばビューラー(Buehler)社のISO MET 1000精密薄片切断鋸(書類「ISO MET 1000」、「精密薄片切断鋸(Precision Sectioning Saw)」Buehler社、USA, 25M0405, FN00912 Rev.2、2005年印刷等)(非特許文献1)のような重量ガイドシステムでは、鋸刃はその小さな適用錘と、鋸刃と試料の材料の違いによる摩擦抵抗の違いにより、非常に小さな送り値(0.05mm/s以下)においてしばしば停止する。
【0011】
送り又は切断速度の調節の他の可能性は、強制的な案内(Zwangsfuehrung)システムの採用である。本発明の他の変形例では、工具の送りは強制的な案内システム、例えば直線的(線形)案内システムによって行われ、旋回アームは案内要素によって駆動システムに結合され、駆動システムの動きが旋回アームの旋回を発生させる。
【0012】
円形の断面を持つ試料の場合、鋸刃と試料の摩擦面は鋸の送りに伴い変化し、及び/又は鋸の抵抗は試料中の種々の材料の異なる硬度値により変化する。より大きな錘(ウェイト)をかけると、異なる材料の性質が同様に不規則な切断速度の原因となり、今度は切断面の品質に悪影響を与える。強制的な案内では、送りが大きすぎるか、鋸が鈍い場合にしばしば問題が発生し、最悪の場合、鋸刃及び/又は試料の破壊に至る。本発明の好ましい実施形態において、錘(ウェイト)の適用と強制的案内は次のように組み合わされる。即ち、旋回アームが錘の作用を受け、かつ案内要素を介して駆動システムに結合され、該案内要素は、旋回アームをガイドに沿って移動可能な錘の作用を受けるレバーに結合する、関節を持つアーム(Gelenkarm)を備える。
【0013】
案内要素は、回転運動を併進運動に変換するのに適したリンク機構を介して駆動システムと結合されることが好ましい。錘と係脱可能(releasable)に当接するカムプレートがリンク機構として好ましく用いられる。カムプレートは、駆動システムの回転運動をレバーの併進運動に変換する。例えば、スピンドルもリンク機構として使用できる。もしレバーが駆動システムにより定められた方式の駆動システムの動きに遅れる場合、例えば鋸と試料との間の摩擦力により工具の送りが制動される(おそらく鋸は停止する)ことにより、案内要素と駆動システムの間の結合が解除される。そして旋回アームと試料とにのみ錘が作用し、強制的な案内システムによる引張応力は発生せず、試料及び/又は鋸刃に悪影響を与えない。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、カムプレートと錘の当接はボールベアリングを用いて行われる。ボールベアリングは、カムプレートに関して発生する摩擦力が小さいため、この用途に特に適している。
【0015】
駆動システムはステッピングモータが適しており、本発明の好ましい実施形態においては送りを駆動、すなわち工具ホルダの旋回をマイクロメートル規模で進ませる。
【0016】
本発明に係る装置は、鋸としての使用のみならず研削又は研磨用ホイール及びフライスカッタにも適している。例えば金属やプラスチックでできた試料を加工する場合、工具ホルダの長軸に平行な方向に送る必要がある。旋回アームはそのため工具ホルダの長軸に沿って移動可能である。
【0017】
この装置は、その後さらにミクロトーム又は超ミクロトームにより処理又は薄片切断される試料の処理(加工)のために使用されうる。すなわち、本装置はミクロトーム又は超ミクロトームと組み合わせて構成しうる。
【0018】
本装置の更なる有利な使用法は、顕微鏡によるその後の試料検査のための試料の薄片切断又は初期切断である。後者は、例えば、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡又は原子間力顕微鏡用試料切断として実施可能である。光学顕微鏡は、特に立体顕微鏡として構成でき、一実施形態としては、本発明の試料処理装置に組み合わせて構成できる。
【0019】
本発明を、以下に適切な図とともに非限定的な典型的実施形態を参照してさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
図1は、装置1の第一の図である。装置1は、処理すべき試料(以下「試料」という。)を見るための、例えば立体顕微鏡といった観察装置2を含む。観察装置には、もし適用可能であれば試料を計測できる計測装置を備えることができる。本発明の好ましい変形例では例えば、立体顕微鏡の中に計測用接眼鏡を挿入し、これにより試料そのものをその処理中においても正確に計測することができる。観察装置2として、例えばビデオカメラ等のような他のシステムも用いられる。
【0021】
装置1には、処理対象である試料を挿入する試料ホルダ3を備える。好ましくは、試料は例えばシリコンやガリウム砒素等といった半導体材料のように高硬度材料を含む。しかし本装置は、好ましくは合成樹脂中に包埋された生物学的材料の処理に対しても同様に適している。
【0022】
試料ホルダ3は実質的に長い円錐形をしており、試料ホルダ3の長軸Lの周りに試料を回転させる手段を有する。試料は回転ノブ4を用いて、試料の全範囲を立体顕微鏡2を通して観察でき、及び/又は試料の端部(複数)を処理できるように、回転させることができる。
【0023】
例えばフライスカッタである工具5は、工具ホルダ、好ましくはクランプ装置6の中に挿入される。本発明の好ましい実施形態において、クランプ装置6はスピンドルを介して駆動される。スピンドルの回転速度は、例えば毎分300から20000回転の範囲に亘り調節できる。試料を処理するのに適した回転速度範囲は、試料材料の性質特に硬度による。例えば、フライス加工のためには約20000rpmの回転速度が通常必要となるが、切断又は研磨のためには、試料の破損を避け、所望の表面品質を得るために回転速度はしばしば300から500rpmを超えてはならない。
【0024】
試料を処理中に冷却又は潤滑できるようにするため、冷却剤又は潤滑剤が(図示しない貯蔵容器から)第一ポート(入口)7を通じてポンプ8に輸送され、ポンプ8から第二ポート9を通じて試料に供給されるシステムを備える。吸引装置10が、さらに好ましくは工具又は試料の領域に、冷却剤又は潤滑剤及び試料表面及び工具5から処理中に除去された材料物質を回収するために備えられる。
【0025】
本発明の好ましい変形例において、試料ホルダ3は旋回軸Sのまわりに旋回可能である。試料ホルダ3のこの旋回性により、試料を計測位置、処理位置又は検査位置に持ってくることができる。図1では処理位置を示しており、試料ホルダ3とクランプ装置6の長軸とが互いに実質的に平行になっている。
【0026】
図2は、通常選択される試料ホルダ3の3つの位置を示す。この図では、図1で示された処理位置Aが点線で示されている。処理位置Aより約20度上方に位置する計測位置Bにおいては、観察装置2内の適切な計測器具により、例えば試料端部の正確な計測が可能である。例えば、もしも試料の相境界(界面)が欠陥分析のための処理(準備)により露出されていた場合、例えば最初に試料の小領域がフライス(切削)加工され、次いで試料を計測位置Bに旋回させて、例えば顕微鏡2の接眼鏡の計測装置により、必要な材料除去(量)が決定される。そして試料は処理位置Aに再び旋回され、試料が確認された方法で処理される。処理中に顕微鏡2を用いて試料を観察することも可能であるが、正確な計測を行うことはできない。
【0027】
第3の位置(検査位置C)では、試料ホルダ3は処理位置Aより下方に約45度旋回される。ここで試料表面は正確に立体顕微鏡2の光路内にある。この位置Cでは、例えば処理された試料の表面品質が適切かどうかチェックされる。例えば赤外又は蛍光検出器といった適切な検出器を用いた試料表面分析が考えられる。このためには観察装置2に適切な励起源があらかじめ必要である。
【0028】
この観察能力のため、処理中のいつでも処理を中断することなく、また試料を試料ホルダ3から取外すことなく、試料処理の進展をチェックすることができる。
【0029】
図3は装置1の正面図である。こちら側からは、使用者は立体顕微鏡2を通して試料を見ることができ、例えばディスプレイ付きのキーボード又はタッチスクリーンを実施形態とする入力パネル11を介して、工具5の回転速度のような試料処理のための全てのパラメータを規定(設定)することができる。図示の本発明の実施形態において、工具5の送りは回転ノブ12を介してセットされる。他の本発明の変形例において、送りは同様に入力パネル11を介して規定される。
【0030】
試料ホルダ3は、上述のように試料を計測位置B又は主要な処理位置A(図2)に持ってくるために、設定つまみ13を介して旋回される。主要な処理位置Aは、試料が通常処理される位置であり、試料ホルダ3の長軸とクランプ装置6の長軸が互いに平行に配列されている位置である。試料ホルダ3は位置Bと主要な処理位置Aとの間に持ってくることもできる。この場合、試料ホルダ3の長軸はクランプ装置6の長軸に対して傾くことになる。従って、試料ホルダ3の長軸とクランプ装置6の長軸とがなす傾斜角に対応する角度で、試料の端部を処理することができる。
【0031】
装置1の処理領域14の拡大図を図4に示す。試料15は回転ノブ4によって回転可能な試料ホルダ3に搭載(セット)されている。図示の例では、フライスカッタ(切削刃)16はクランプ装置6にクランプされている。試料処理の間に周囲と装置1との汚染が発生することを避けるため、処理領域14は、試料15の処理中に除去された材料を回収する吸引開口10を含む、少なくとも一部が透明なハウジング17の内部に配置されている。これにより、立体顕微鏡2の光学系の汚染も避けることができ、処理中に試料15を(透明ハウジング部を通して)観察することができる。
【0032】
図5は、図4のフライスカッタ16を回転鋸18に交換した、処理領域14を示す。この回転鋸は例えばダイヤモンド鋸(ソーないしダイシングブレード)であり、半導体材料等の特に硬い材料を切断することができる。
【0033】
図6は、図5の回転鋸18のかわりに研削ないし研磨ホイール19をクランプ装置6に挿入したものである。
【0034】
特にスピンドルの回転速度が大きい場合、試料の処理中に高温となり、試料の表面を損傷し、最悪の場合試料を破壊する可能性がある。そこで本発明の好ましい実施形態において、冷却剤及び/又は潤滑剤を供給するシステムを備える。図7は再度鋸18をクランプ装置6に固定した処理領域14を示したものである。図1のポンプ8の入口9につながった計量供給管20は、冷却剤又は潤滑剤を試料15に直接供給する。
【0035】
この種の供給システムはフライス加工や研磨の際にも必要となりうる。例えば試料表面の研磨の場合、通常研磨剤を用いるので、再度計量供給管20により試料表面に供給される。
【0036】
例えば、もし欠陥を同定するために半導体の相境界(界面ないし特定の結晶面)を検査する場合、試料15がまず試料ホルダ3に挿入セットされる。ノブ4を回転させることにより、試料ホルダ3内の試料15は処理のための位置に持ってこられる。例えば鋸18を(クランプ装置6に)挿入セットした後、試料は試料ホルダ3を旋回して、試料端部の観察ができる計測位置Bに最初に配置される。ここで例えば立体顕微鏡の中の計測装置のような観察システム2により、露出させるべき目的の相境界のためにどの程度の材料を除去すべきかが決定できる。試料ホルダ3は次いで処理位置Aに旋回され、例えば鋸切断(ないしスライシング)のような処理が開始される。
【0037】
本発明に係る装置1の実質的な利点は、例えば必要な処理(加工)深さの決定といった計測時、及びフライスカッタ16、鋸18又は研磨ホイール19といった処理工具の交換時においても、試料15が試料ホルダ3に入った(セットされた)ままであることである。その結果、試料15は試料ホルダ3に対するその位置を変えず、試料15の処理について再現性のある結果が保証される。これに対して、試料15を例えば別の観察装置での計測のために取外し、そして再び試料ホルダ3に試料15を挿入することは、試料ホルダ3内の試料15の位置が当初の位置と一致せず、試料ホルダ3内の試料15の位置調整という追加の労力が必要となる。特に顕微鏡規模の仕事の場合、上記の例において試料の位置のずれは除去すべき材料の量が多すぎる(或いは過少)結果となり、所望の相境界(の設定位置)が調製中に失われることとなる。従って、試料15を試料ホルダ3から取外し、再度挿入することにより位置の不一致が生じ、処理結果は満足のいかないものとなる。工具交換時に試料15を試料ホルダ3から取外さなければならない場合にも同様の問題が生じる。
【0038】
かくて本発明は試料の取外しを不要とし、高い精度と再現性を保証するものである。
【0039】
試料15は鋸切断された場合、相境界を覆う材料の多くが除去される。これに関して、クランプ装置6は、設定された送り(速度)に従って、工具ホルダ6の回転軸と直角方向に移動し、鋸18はそれによって試料15を横切るようにガイドされる。試料15の性質により、試料15及び/又は鋸18の過熱を防止するため、冷却材がポンプ8及び計量供給管20を介して、鋸切断領域の試料表面(加工面)に供給される。鋸切断操作の間、試料15はいつでも立体顕微鏡2により観察できる。切断時に発生する材料物質(切削屑)は、処理領域14及び特に試料15の汚染を減らすため、適用可能であれば冷却剤又は潤滑剤とともに連続的に吸引される。
【0040】
工具交換の前に、本発明に係る装置1の試料15はまず検査位置Cに旋回され、試料15の表面をチェックすることができる。もし試料15の検査が不要であれば、試料ホルダ3は処理位置Aのままである。工具(この場合は鋸18)がクランプ装置6から取外されて研磨ホイール19に交換され、除去した試料の深さ(切削深さ)は装置1の制御ユニットに記録される。工具5は通常その形状が異なるので、スピンドル21は工具5を交換するため、通常長軸方向に移動される。次いで研磨ホイール19は、長軸L’に沿って試料15に接するまで注意深く移動され、更なる処理がスタートする。先に切断された試料15の表面がこの工具を用いて研磨される。研磨に必要な送り値が、切断時に除去された数値として制御ユニットに記録された数値に、再度制御ユニットによって加えられる。試料15の処理が完了すると、試料15から除去された量はこうして読み取ることができる。このようにして調製された試料15は、今度は例えば欠陥について検査することができる。
【0041】
図8,9はハウジングを取った装置1の正面図である。クランプ装置6の回転運動はスピンドル21を介して行われる。スピンドル21は旋回アーム22に結合され、旋回アーム22は、スピンドル21の回転軸に直角方向に旋回運動(矢印で表示)を行う。
【0042】
硬い材料からなる試料、特に異なる硬度値を持つ種々の材料からなる試料を切断するには、鋸刃を均一に、制御して送ることが特に重要である。送りを調節するために錘(ウェイト)を適用することは有用であるが、それ自体では均一な送りを達成できない。なぜなら、例えば鋸刃と試料との摩擦面は、円形の断面を持つ試料の切断が進行するに伴い変化するし、或いは切断抵抗は試料中の種々の材料の異なる硬度により変化するからである。適用錘が小さいこと、及び異なる材料による鋸刃と試料との間の摩擦変化により、ほんのわずかの(0.05mm/s以下)送り値で、鋸刃はしばしば停止する。適用する錘を大きくすると、異なる材料特性により不規則な切断速度を生じ、やはり切断表面の品質に悪影響を与える。しかも、切断速度を変えるには、異なる(複数の)錘を適用する以外に方法がない。送り又は切断速度を調節する他の方法は、強制的な案内システムを用いることである。しかしここでも同様に、送り速度が大きすぎたり鋸が鈍い場合にはしばしば問題が生じ、最悪の場合、鋸刃及び/又は試料の破壊に至る。
【0043】
図示の装置では、鋸18の均一な切断速度を達成するために強制的(ないし能動的)な案内(ガイド)及び錘の連携が用いられている。旋回アーム22及びそれに伴ってクランプ装置6の工具が、スピンドル21の長軸L’に直角な方向にレバー23を介して移動可能である。旋回アーム22のこの旋回運動は鋸18の切断速度を規定し、本発明の好ましい実施形態において、送りが特にマイクロメートル範囲で調節可能なようにステッピングモータを介して制御される。
【0044】
例えばステッピングモータである駆動システムは、カムプレート24を介してレバー23と結合されている。一方旋回アーム22は、リンクロッド(棒)25(旋回アーム22の強制的な案内手段)を介してレバー23と結合している。レバー23はさらに錘(ウェイト)26に作用され、錘26はレバー23に結合したガイド27の上に静止している。レバー23すなわち旋回アーム22にかかる錘26の重量は、錘26の位置により変化する。錘の効果は、錘26がスライダ28の移動によってガイド27の最先端にあるときが最も大きい。
【0045】
カムプレート24は、錘26とピン、もしくは実施形態に示すようにボールベアリング29を介して接触(当接)している。ボールベアリング29は抵抗力が小さいので特に適している。ステッピングモータに結合されたカムプレート24は、装置1の図示した実施形態において時計回りに回転する。カムプレート24はカム半径が減少するように構成されているので、カムプレート24が回転すると、錘26即ちレバー23が駆動システムによりあらかじめ定められた速度で降下する。その結果、旋回アーム22は図8の右側に移動する。カムプレート24が自身の回転軸のまわりを完全に周回すると、ボールベアリング29はカムプレート24の凹端部30にはまり、動きの最終地点に到達し、試料15は完全に切断される。そこで旋回アーム22はその初期位置(図8の左方向)に旋回復帰する。
【0046】
例えばもし鋸刃18が試料の中で停止した場合、旋回アーム22はそれ以上移動できず、従ってレバー23はその位置にとどまる。しかしカムプレート24は回転し続け、カム半径は減少するので錘26と離れるに至る。旋回アーム22の強制的な案内はこうして中断され、旋回アーム22の上に載っている錘26のみが試料15に作用する。強制的な案内システムにより発生する引張応力による試料15及び/又は鋸刃18の破壊はこうして回避される。カムプレート24が終点まで到達すると、旋回アーム22は初期位置に旋回復帰し、停止していた鋸18は試料15から引き出される。
【0047】
本発明の他の変形例においては、終点はボールベアリング29が凹端部30に入り込むカムプレート24の位置への到達により規定されるのではなく、駆動システムとして機能するステッピングモータのステップ数により規定される。ステップ数は、例えば入力パネル11を介して入力できる。
【0048】
図9に示すように、もしカムプレート24が錘26に接しない場合、旋回アーム22には荷重が作用せず、後者はカムプレート24の駆動システムに結合されない。従ってそれは(手動で)あらかじめ設定された位置にとどまる。工具5はスピンドル21の動きの結果として回転するが、送りは生じない。この旋回アーム22の重量ゼロ設定は、試料15をフライスカッタ16或いは研削もしくは研磨ホイール19により処理するために装置1を用いるときに選択される。
【0049】
試料15がフライスカッタ16で処理されるとき、或いは研削もしくは研磨を行うとき、工具5を工具ホルダ6の長軸L’に平行方向に送ることがしばしば好ましい。この動きは駆動システム31のスピンドル(図示せず)によって発生され、このスピンドルは旋回アーム22のシャフト32を直接又は間接的に介して作用する。この送りスピンドルは例えばピッチ0.5mmであり、1回転あたり400ステップのステッピングモータで駆動される。
【0050】
本発明の他の実施形態(図示せず)は、旋回アーム22の強制的な案内システムは、制御された速度で移動可能な要素(部材)に対して、錘(ウェイト)により作用を受ける(押されないしは引っ張られる)線形(直線的)案内により行うものである。先に示したような円形走路の一部に沿ってではなく、直線ラインに沿って案内されるように、クランプ装置6を備えたスピンドル21のための装備も可能である。さらにカムプレート24は、例えばその先端が旋回アーム22のサポートとして機能する別のスピンドルに置き換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施例に係る装置背面の右上方から見た鳥瞰図である。
【図2】図1の装置の側面図である。
【図3】図1の装置の左上方から見た正面図である。
【図4】図1の装置のクランプ装置と試料受容部の領域の、フライスカッタを含む拡大詳細図である。
【図5】図3において切断用回転鋸を備えた図である。
【図6】図3において研磨用ホイールを備えた図である。
【図7】図4において、鋸切断処理中の潤滑装置を備えた図である。
【図8】図2に係る装置において、ハウジングを除去してカムプレートの位置を示した図である。
【図9】図2に係る装置において、ハウジングを除去して図8とは異なるカムプレートの位置を示した図である。
【符号の説明】
【0052】
1 装置
2 観察装置
3 試料ホルダ
4 回転ノブ
5 工具
6 クランプ装置(工具ホルダ)
7 第一ポート
8 ポンプ
9 第二ポート
10 吸引装置
11 入力パネル
12 回転ノブ
13 設定つまみ
14 処理領域
15 試料
16 フライスカッタ
17 ハウジング
18 鋸(ソーないしダイシングブレード)
19 研磨ホイール
20 計量供給管
21 スピンドル
22 旋回アーム
23 レバー
24 カムプレート
25 リンクロッド(棒)
26 錘(ウェイト)
27 ガイド
28 スライダ
29 ボールベアリング
30 凹端部
31 駆動システム
32 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料(15)を観察するための観察装置(2)と、処理すべき該試料(15)を受入れるための試料ホルダ(3)と、工具ホルダ(6)とを有する、試料(15)を処理するための装置であって、
該工具ホルダ(6)は、旋回アーム(22)によって該工具ホルダの長軸(L’)方向に垂直に旋回可能であり、かつ該長軸(L’)周りに回転可能であり;及び
該旋回アーム(22)の旋回を選択的に実行するための駆動システムを備える、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記旋回アーム(22)は、ガイド(27)に沿って移動可能な錘(26)による作用を受けるよう構成され、該錘の重量が前記旋回アーム(22)の前記旋回を発生させることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記旋回アーム(22)は、駆動動作が前記旋回アーム(22)の前記旋回を発生させる駆動システムに案内要素を介して結合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記旋回アーム(22)は、錘(26)の作用を受けると共に案内要素を介して駆動システムに結合され、該案内要素は、前記旋回アーム(22)をガイド(27)に沿って移動可能な該錘(26)の作用を受けるレバー(23)に結合するリンクロッド(25)を有することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記案内要素は、回転運動を併進運動に変換することに適したリンク機構を介して前記駆動システムに結合されていることを特徴とする、請求項3又は4に記載の装置。
【請求項6】
前記リンク機構は、前記錘(26)と係脱可能に当接するカムプレート(24)であることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記レバー(23)が前記駆動システムによる所定の動きから取り残された場合に、前記案内要素と前記駆動システムとの前記結合が解除され、前記錘(26)が前記旋回アーム(22)に作用し続けることを特徴とする、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記錘(26)は、ボールベアリング(29)を介して前記カムプレート(24)に当接することを特徴とする、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記駆動システムは、ステッピングモータであることを特徴とする、請求項3から7のいずれか一に記載の装置。
【請求項10】
前記工具ホルダ(6)の前記旋回は、マイクロメートル規模のステップで調節可能なことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一に記載の装置。
【請求項11】
前記旋回アーム(22)は、前記工具ホルダ(6)の長軸(L’)に沿ってさらに移動可能なことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一に記載の装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一に記載の装置を含むミクロトーム又は超ミクロトーム。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一に記載の装置を含む顕微鏡(光学式−、走査型電子式−又は原子間力式−顕微鏡を含む)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−129008(P2008−129008A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275079(P2007−275079)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(501129941)ライカ ミクロジュステーメ ゲーエムベーハー (8)
【Fターム(参考)】