試料分析チップ、これを用いた試料分析装置、試料分析方法及び遺伝子解析方法、並びに試料分析チップの製造方法
【課題】送液方法が簡易でかつ各ウェルの液量ばらつきがなく、低コストの試料分析チップを提供する。
【解決手段】基材101に複数のウェル102と、各ウェルに繋がる流路と、流路に溶液を注入するための注入口107とを有し、基材を回転させてウェルに溶液を配液する試料分析チップであって、流路は、各ウェルに送液する主流路103、および主流路とウェルとを連絡する側路105を有し、主流路はウェルより回転中心側に設けられ、隣り合うウェルの間で回転中心に対して一つの山103aを有するように形成され、側路が、回転中心方向に対して傾いて形成され、山は、山の頂点と回転中心とを通る基準線に対して、一方側で隣り合う主流路の山と連絡する幅広主流路と、他方側で隣り合う主流路の山と連絡し幅広主流路より路幅が小さい幅狭主流路とを有し、幅広主流路における回転中心から離間した端部が、側路と連絡している。
【解決手段】基材101に複数のウェル102と、各ウェルに繋がる流路と、流路に溶液を注入するための注入口107とを有し、基材を回転させてウェルに溶液を配液する試料分析チップであって、流路は、各ウェルに送液する主流路103、および主流路とウェルとを連絡する側路105を有し、主流路はウェルより回転中心側に設けられ、隣り合うウェルの間で回転中心に対して一つの山103aを有するように形成され、側路が、回転中心方向に対して傾いて形成され、山は、山の頂点と回転中心とを通る基準線に対して、一方側で隣り合う主流路の山と連絡する幅広主流路と、他方側で隣り合う主流路の山と連絡し幅広主流路より路幅が小さい幅狭主流路とを有し、幅広主流路における回転中心から離間した端部が、側路と連絡している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学反応の検出や分析等に用いる試料分析チップ、これを用いた試料分析装置、試料分析方法及び遺伝子解析方法、並びに試料分析チップの製造方法に関する。特にDNA解析に使用可能なディスポーザブルチップとその製造方法に関する。
本願は、2009年3月31日に日本に出願された特願2009−085272号、特願2009−085273号及び特願2009−085274号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばDNA反応、たんぱく質反応等の生化学反応の分野において、微量の試料溶液を処理する反応装置として、μ−TAS(Total Analysis System)やLab−on−Chipと呼ばれる技術が知られている。これは、1個のチップやカートリッジに複数の反応室(以下、ウェル)や流路を供えたものであり、複数の検体の解析、あるいは複数の反応を行うことができる。これらの技術はチップ及びカートリッジを小型化することで扱う薬品を少量にすることが出来、様々なメリットがあるとされてきた。
【0003】
そのメリットとは例えば従来使用していた強酸や強アルカリ薬品の分量が微量化することで人体への影響や環境への影響が格段に低くなること、また、生化学反応等に用いられる高額な試薬類の消費量が微量化することで分析、反応に費やすコストを低減できること、などが挙げられる。
【0004】
チップやカートリッジを用いて生化学反応を最も効率よく行うためには、複数のウェルにそれぞれ異なる種類の薬品や検体、酵素を配置し、これら薬品や検体、酵素と反応を起こす試薬を一本ないし数本の主導管からまとめてウェルに流し入れ、異なった複数の反応を生じさせる必要がある。
【0005】
この手法を用いれば、複数種の検体を同じ試薬で同時に処理をしたり、また逆に一種類の検体に同時に複数の処理を施したりすることが出来、従来かかっていた時間や手間を大幅に減らすことが可能である。
【0006】
この種の手法を用いる際、複数の反応場に等量のサンプルを送液する技術と、各ウェルの中身を混ざり合わないようにする技術が重要となる。このようなウェルへの送液を行うチップについての先行技術としては以下のものが挙げられる。
【0007】
特許文献1では、液溜めから遠心力を用いてウェルへの送液を行うチップにおいて、ウェルを独立させるために流路を変形、密封している。そのため流路を押しつぶす機構が必要であり、自動化が困難である。また、従来の遠心送液チップのように中央の液溜りから周囲のウェルに遠心送液を行うと、各ウェルへの送液量にばらつきが生じてしまう。
【0008】
特許文献2では、遠心方法を自転+公転を織り交ぜることで各ウェルへの送液量にばらつきを解決している。しかし、この手法もチップが自転+公転するための複雑な機構とスペースが必要となる。
【0009】
特許文献3では液体貯留部と遠心方向に伸びる流路を有するウェルを複数連結させた分析用媒体が公開されているが、この文献では液の配液性などには注視しておらず、逆にウェルに詰まった空気との押し合いで流体を制御するとある。この手法では液体貯留部と液体貯留部の間流路の液体は送液されない上、各ウェルに送液される液量は大きくバラつき、反応のたびに結果に差異が生じてしまう。
【0010】
従って、従来の第一の問題点は、送液方法が簡易でかつ各ウェルの液量ばらつきが少ないチップが実現されていないということである。
【0011】
また第二の問題点として、これらの手法には、サンプル物質を装置中の複数のウェルに分配する必要があるため、チャンバの相互汚染による誤った試験結果に繋がるおそれがある。
【0012】
上記問題を解決する手法としては、少なくとも一方の部材に流路などの加工が施された2つの部材を張り合わせてからなる密閉型のチップが提案されている。例えば、特許文献1には、装填チャンバ、主導管およびプロセスチャンバ(ウェル)を含む構造を提供する第1の主面部材と、第2の主面部材からなり、プロセスチャンバが装填チャンバから延びる導管に沿って配置され、装填チャンバ、導管、およびプロセスチャンバはサンプル処理装置の長さに沿って整列される密閉型のプロセスアレイ及びサンプル処理装置が開示された。
【0013】
特許文献4に記載のプロセスアレイには、1本の主導管から枝分かれしたフィード導管を介して接続された複数のプロセスチャンバが設けられている。このため、複数種の検体を同じ試薬で処理する等の操作が可能である。これらのプロセスアレイを用いて生化学反応を最も効率良く行うためには、まず、複数の反応場にそれぞれ異なる種類の薬品や検体、酵素を配置する。そして、これらと反応を起こす試薬を、1本ないし複数本の主導管からそれぞれの反応場に流し入れる。このようにして、複数の異なる反応を生じさせる必要がある。この手法を用いれば、複数種の検体を同じ試薬で同時に処理したり、逆に1種類の検体に対して複数の処理を同時に施したりすることができる。これによって、従来かかっていた時間や手間を大幅に減らすことが可能である。
【0014】
この種の手法として、例えば、液体導入口、流路、液体排出口等を備えたマイクロ流体チップを用い、反応に必要な試薬成分の一部をチップの流路内に凍結乾燥等の方法により固体状態で固定し、反応に必要な残りの試薬成分を液体状態で送液し、流路内でこれらの成分を接触させて反応を生じさせる、という技術が開示される。
【0015】
また、特許文献5には、装填チャンバ、プロセスチャンバ、及び流路が形成された樹脂基材と平板状の金属基材とを貼り合せてからなるサンプル処理装置が開示されている。また、各プロセスチャンバに異なる反応を行わせるときなどには流路を閉塞して各プロセスチャンバを密閉空間にする方法が開示されている。このサンプル処理装置では平坦な金属基材を流路内に押し込むように変形させることで流路を閉塞させている。
【0016】
しかしながら、特許文献1に記載のプロセスアレイは、第1の主面部材と第2の主面部材との間に感圧接着剤が使用されている。感圧接着剤の使用は反応中に接着剤からの溶出物が発生し、ウェル内の試薬に影響を与える可能性がある。また、接着層の耐熱性や耐水性の問題が生じやすく、特許文献1の構成では流路を外部からの影響を受けないように密閉するのは不十分である。
【0017】
また、生化学反応等を行わせる際に反応温度や温度サイクル条件を精密に制御することは極めて重要である。特許文献2に記載のサンプル処理装置には、金属基材側を平坦な板状形成されている。このため、熱ブロック等との密着性が上がり、熱サイクルを伴う反応を行うときに好適である、と記載されている。しかしながら、特許文献2に記載のサンプル処理装置を用い反応を行う際には、流路を閉塞し各プロセスチャンバを密閉空間にする必要がある。このサンプル処理装置では平坦な金属基材を流路内に押し込むように変形させることで、流路を閉塞している。このように金属基材を変形させることによって、金属基材の平坦性が損なわれ、熱ブロックとの密着性が低下し、熱応答性が不十分になり、所望の反応を確実かつ短時間に行わせることが難しいという問題がある。さらに、特許文献2の方法では、流路の閉塞が不十分になってしまう場合、チャンバの相互汚染による誤った試験結果に繋がる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特表2004−502164号公報
【特許文献2】特許第3699721号公報
【特許文献3】特開2008−83017号公報
【特許文献4】特許第4181046号公報
【特許文献5】特表2004−502164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上のような従来技術の問題点を鑑みて、本発明はウェルへの送液を行う試料分析チップにおいて、送液方法が簡易でかつ各ウェルの液量ばらつきがなく、低コストの試料分析チップを提供することを課題とする。
また、容易に作製することができ、かつチップ上のウェルでの試料汚染等の生じることのない試料分析チップ、これを用いた試料分析装置、試料分析方法及び遺伝子解析方法、並びに試料分析チップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の試料分析チップは、基材に複数のウェルと、各前記ウェルに繋がる流路と、前記流路に溶液を注入するための注入口とを有し、前記基材を回転させて前記ウェルに溶液を配液する試料分析チップであって、前記流路は、各前記ウェルに送液する主流路、および前記主流路と前記ウェルとを連絡する側路を有し、該主流路は前記ウェルより回転中心側に設けられ、隣り合う前記ウェルの間で前記回転中心に対して一つの山を有するように形成され、前記側路が、前記回転中心方向に対して傾いて形成され、前記山は、前記山の頂点と前記回転中心とを通る基準線に対して、一方側で隣り合う前記主流路の山と連絡する幅広主流路と、他方側で隣り合う前記主流路の山と連絡し前記幅広主流路より路幅が小さい幅狭主流路とを有し、前記幅広主流路における前記回転中心から離間した端部が、前記側路と連絡していることを特徴としている。
【0021】
また、上記の試料分析チップにおいて、前記基材が円盤状であり、前記ウェルは該基材と同心円状に配置されていることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記主流路が、前記回転中心方向に対して傾いて形成されていることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記側路に余剰溶液を溜める廃液部が設けられたことがより好ましい。
【0022】
また、上記の試料分析チップにおいて、前記廃液部が、廃液を溜める廃液チャンバと、前記側路を分岐し、該廃液チャンバと連絡する廃液チャンバ分岐流路とを有することがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記廃液部は、前記回転中心方向に対して前記側路の内側に設けられていることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記ウェルに連通する分岐流路は前記廃液チャンバ分岐流路より送液時の圧力損失が低いことがより好ましい。
【0023】
また、上記の試料分析チップにおいて、前記ウェルに連絡する分岐流路の断面積が、前記廃液チャンバ分岐流路の断面積よりも大きいことがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記廃液チャンバ分岐流路よりも前記ウェルに連絡する分岐流路の表面粗さが小さいことがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記廃液チャンバ分岐流路の流路内表面を撥水処理したことがより好ましい。
【0024】
また、上記の試料分析チップにおいて、前記ウェルに連絡する分岐流路の流路内表面を親水処理したことがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記試料分析チップは前記ウェル及び前記流路を形成した第一の基材と、該基材と貼り合わせた第二の基材とを有することがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記基材のいずれか一方が光透過性材料で形成されていることがより好ましい。
【0025】
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第一の基材が光透過性の樹脂材料であり、前記第二の基材が金属材料であることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第一の基材が、可視光に対して光透過性でありかつ赤外線に対して光吸収性の樹脂からなり、前記第二の基材が、少なくとも波長800nm以上の赤外線を透過する板状又はフィルム状であることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第一の基材は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂のいずれかの樹脂基材であることがより好ましい。
【0026】
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第一の基材は、800nm以上の波長領域に吸収を有する赤外線吸収剤を含むことがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第二の基材は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂のいずれかの樹脂基材であることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第二の基材の厚みが、0.05〜0.5mmの範囲にあることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第一の基材に試料分析チップを回転させるための担特部が設けられていることがより好ましい。
【0027】
また、本発明の試料分析チップの製造方法は、上記のいずれかに記載の試料分析チップの製造方法であって、前記第二の基材側から赤外線レーザを照射し、前記第一の基材と前記第二の基材とを溶融接着し、張り合わせることを特徴としている。
また、上記の試料分析チップの製造方法において、前記赤外線レーザの波長が、800〜1200nmの範囲にあることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップの製造方法において、前記第一の基材と前記第二の基材とを張り合わせる前に、前記ウェルに試薬を固定する工程を含むことがより好ましい。
【0028】
また、本発明の試料分析装置は、上記のいずれかに記載の試料分析チップを設置し、回転させる手段と、前記ウェルでの反応を検出するための検出測定手段と、を有することを特徴としている。
また、本発明の試料分析方法は、上記のいずれかに記載の試料分析チップの前記主流路に溶液を注入する工程と、該試料分析チップを回転させて溶液を前記各ウェルに配液する工程と、を有することを特徴としている。
また、上記の試料分析方法において、前記ウェルに配液する工程の後に、ミネラルオイルを前記各ウェルに配液する工程を有ることがより好ましい。
また、本発明の遺伝子解析方法は、上記のいずれかに記載の試料分析方法を用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
本発明による第一の形態の試料分析チップによれば、簡易で機能的、かつ安全安価な試料分析チップを実現することができる。さらに、1種類の検体に対して複数の処理を施すことができる。
【0030】
また、主流路が各ウェルの間で回転中心に対して一つの山を形成しているので、この主流路の山部で送液が切れ、液分配のムラを低減させることができる。さらには当該流路山部の断面積を小さくすることで、液分配時のムラをより減少させることができる。
【0031】
さらには、流路山部から隣接する流路山部までの主流路の容積を任意に設計すれば、同等の容量のサンプルを前期流路山部に挟まれた流路谷部から連通するウェルに送液することができるため、使用する溶液試料の量をウェルごとに任意に設定することができる。
【0032】
また、本発明による第二の形態の試料分析チップによれば、主流路からウェルに遠心力によって送液された際、送液のムラによって所定の分量を越えて送液されたウェルでは、余剰分を廃液チャンバに捨てることができる。そのため、全てのウェルに所望の液量よりも余分に送液すれば、全てのウェルに同じ量の溶液を送液することができることから、配液バラつきを低減することができる。
【0033】
更に、主流路とウェルとを連通する側路に廃液チャンバに連通する分岐流路を設けることで他のウェルとのサンプルの接触を失くし、コンタミネーションを抑えることができる。
【0034】
また、本発明の第三の形態に係る試料分析チップによれば、簡易な構成で小型、安価な反応チップを実現することができる。本発明の試料分析チップでは、第一の基材と第二の基材とを組み合わせて、赤外線レーザで融着することにより、チップやチップに固定されている試薬に殆ど影響を与えない密閉型のチップを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第一の形態に係る試料分析チップの一様態の平面図。
【図2】本発明の第一の形態に係る試料分析チップの一様態の平面図。
【図3】本発明の第一の形態に係る試料分析チップの一様態の平面図。
【図4】本発明の第二の形態に係る試料分析チップの一様態の平面図。
【図5】本発明の第二の形態に係る試料分析チップの側路、廃液部及びウェルの配置を示した平面図。
【図6】本発明の第二の形態に係る試料分析チップの一様態の平面図。
【図7】本発明の第二の形態に係る試料分析チップの一様態の平面図。
【図8】本発明の試料分析チップの説明のための斜視図。
【図9】本発明の試料分析チップの説明のための断面図。
【図10】本発明の第三の形態に係る試料分析チップの斜視図である。
【図11】本発明の第三の形態に係る試料分析チップを構成する第一の基材の平面図である。
【図12】本発明の第三の形態に係る試料分析チップの一実施形態における流路とウェルの断面図である。
【図13】実施例1における検出測定結果のグラフ。
【図14】実施例1におけるネガティブコントロール測定結果のグラフ。
【図15】実施例1におけるポジティブコントロール測定結果のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の第一の形態の試料分析チップを図面に基づいて説明する。
図1は本発明の試料分析チップの一様態を示した平面図である。本発明のチップは、基材101上に複数のウェル102と、ウェルに溶液、例えば液体試料(溶液)を送液するための流路を有している。流路は、各ウェルに送液するために、少なくとも各ウェルと連絡する一つの主流路103を有し、さらに主流路とウェルをつなぐ側路105を有する。流路には溶液を注入するための注入口を有する。図1の様態では、主流路の端部に注入口(INLET)及びもう一方の端部に空気の脱出口を兼ねた余剰溶液の出口(OUTLET)を有している。
【0037】
本発明の試料分析チップは当該チップを回転させることにより生じる遠心力により、各ウェル102に配液するものであることから、中央部に回転軸の貫く点(以下、中心点)のある円盤形状であることが好ましいが、チップを貫く回転軸に対して回転可能に形成されて入れば特に制限はない。円盤形状であれば、その中心が回転軸となるようにして、その円盤形状のチップに同心円状になるようにウェルを配置することができるため、スペースが効率的である。均等にウェルに配液するには遠心力を均等に掛けることが重要であるが、チップを、INLET/OUTLET107の領域を除き、中心点を軸とする回転対称性を持つように設計することで容易に実現することができる。すなわち、N個のウェルがあるとすると、N回対称となるようにすると、均等に遠心力を掛けることができる。もちろん、各ウェルの配液量を異ならせる場合には、この限りではない。また同心円状にウェルが配置されていることにより、基材を回転させることによって、一箇所の検査領域で全てのウェルの分析が可能である。
【0038】
主流路103はウェルよりも中心点側に形成されている。さらに、本発明の試料分析チップでは、この主流路が、隣り合うウェルの間で中心点方向に一つの山を有するように形成されていることを特徴とする。ここで隣り合うウェルとは、主流路からウェルへの送液流路が前後しているウェルを意味する。また、中心点方向への山を有するとは中心点方向への極大点(主流路山部103a)を持つことを意味している。このように、隣り合うウェルの間で中心点方向に一つの山を有するように形成することで、主流路に注入された液体が、チップ回転時に主流路山部で自然と途切れるため、各ウェルへの配液量のバラツキを低減することができる。
【0039】
ウェル102と主流路103との連絡箇所、即ち主流路103と側路105との接続箇所は、主流路の山部と山部の間の谷部130bであることが好ましい。谷部とは主流路の山と山との間で最も中心点から距離が遠い箇所である。この箇所でウェルと主流路を連絡することにより、配液時の主流路への溶液の残留を減らすことができる。
【0040】
また主流路103と、ウェル102との連絡口は、後述する試料分析チップを用いた処理方法に記載するように、チップを回転させる前の段階では、ウェルに溶液が浸入しない程度の幅及び断面積である必要がある。
【0041】
また、ウェル102内に空気を残留させないために、ウェルの中心点に最も距離が近い点で主流路と連結することが好ましい。つまり、側路105を形成する場合には、ウェル側の中心点に最も近い点と、主流路側の谷部を結ぶように形成することが好ましい。
【0042】
図2は本発明の試料分析チップの別の一様態を示した平面図である。図2の様態では、主流路の路幅が主流路山部103aで狭く、主流路谷部103bで広くなっている。主流路山部103aに該当する領域に存在する溶液が少ない方が、配液バラツキが少ないため、山部の主流路の断面積は、他の部分の断面積よりも小さいことが好ましい。したがって、山部の流路幅を狭くする、及び/または、深さを浅くすることが好ましい。また同様の理由で山部に近づくにつれて主流路の断面積が小さくなるようにすることが好ましい。
【0043】
さらに、主流路谷部103bの路幅を広げることで、各ウェル102への配液量を制御することができる。したがって、図3の試料分析チップのように山と山との間の流路をチャンバ様とし、主流路山部から隣接する主流路山部までの主流路の容積を任意に設計すれば、同等の容量のサンプルを両山部に挟まれた谷部から連通するウェルに送液することができるため、任意量の溶液を各ウェルに設定することが可能である。
【0044】
またウェル102の容積は1μl以上100μl以下であることが好ましい。1μlより小さいと、遠心力が十分に働かず、ウェルへの送液が行われ辛く、また100μlよりも大きいと、試薬の混合性が低下したり、ウェル内の温度の均一性が低下する、といった現象が生じる可能性がある.
【0045】
また図2の様態では、側路105は中心点の方向から傾いて形成されている。このように側路を傾斜させて形成することにより、遠心力を掛けたときにウェルの空気が側路の内側に沿って主流路方向へ移動し、一方溶液は側路の外側に沿ってウェル方向へ移動するため、スムーズにウェル内へ溶液を移動させることができる。傾斜させる角度としては、中心点の方向と側路との為す角が10度から80度の間であることが好ましい。10度以下だとウェルからの排気とウェルへの溶液の浸入が干渉して溶液の浸入を阻んでしまう場合があり、80度を超えると、側路方向への遠心力が弱く、溶液がウェルへ移動しない場合がある。
【0046】
図3は本発明の試料分析チップのさらに別の一様態である。図3の試料分析チップでは、主流路103の山が中心点方向に対して傾いていることで、側路105に対して主流路の左右の基材平面での面積が不均等に設計されている。側路105に対して左右の主流路が路幅の狭い流路側と、広い流路側が存在し、広い流路側にウェルとの連絡口である側路105が形成されていることで、ウェルから側路へ移動した空気と、主流路の溶液の入れ替わり時に面積が大きい主流路側に偏って気泡と液体の入れ替わりが生じる。このため主流路への残液を減らすことができる。したがって、各ウェルに接続する側路及び主流路を上記のような構成とし、主流路が路幅の狭い流路側と、広い流路側が山部を境に交互に形成されるようにすることで、各チャンバ様主流路で同様の現象が同時に生じるために、配液のバラつきを減少する事ができる。
【0047】
本発明の第二の形態の試料分析チップを図面に基づいて説明する。
図4は本発明の試料分析チップの一様態を示した平面図である。本発明のチップは、基材101上に複数のウェル102と、ウェルに溶液、例えば液体試料(溶液)を送液するための流路を有している。流路は、各ウェルに送液するために、少なくとも各ウェルと連絡する一つの主流路103を有し、さらに主流路とウェルをつなぐ側路105を有する。流路には溶液を注入するための注入口を有する。図4の様態では、主流路の端部に注入口(INLET)及びもう一方の端部に空気の脱出口を兼ねた余剰溶液の出口(OUTLET)を有している。
【0048】
本発明の試料分析チップは当該チップを回転させることにより生じる遠心力により、各ウェル102に配液するものであることから、中央部に回転軸の貫く点(以下、中心点)のある円盤形状であることが好ましいが、チップを貫く回転軸に対して回転可能に形成されて入れば特に制限はない。円盤形状であれば、その中心が回転軸となるようにして、その円盤形状のチップに同心円状になるようにウェルを配置することができるため、スペースが効率的である。均等にウェルに配液するには遠心力を均等に掛けることが重要であるが、チップを、INLET/OUTLET107の領域を除き、中心点を軸とする回転対称性を持つように設計することで容易に実現することができる。すなわち、N個のウェルがあるとすると、N回対称となるようにすると、均等に遠心力を掛けることができる。もちろん、各ウェルの配液量を異ならせる場合には、この限りではない。また同心円状にウェルが配置されていることにより、基材を回転させることによって、一箇所の検査領域で全てのウェルの分析が可能である。
【0049】
主流路103はウェル102よりも中心点側に形成されている。主流路103と、ウェル102との連絡口は、後述する試料分析チップを用いた処理方法に記載するように、チップを回転させる前の段階では、ウェルに溶液が浸入しない程度の幅及び断面積である必要がある。表面張力が関係するため用いる溶液にも拠るが、例えば溶媒が水であるとすると、2×2mm2以下であればこの条件を満たす。
【0050】
ウェル102の容積は1μl以上100μl以下であることが好ましい。1μlより小さいと、遠心力が十分に働かず、ウェルへの送液が行われ辛く、また100μlよりも大きいと、試薬の混合性が低下したり、ウェル内の温度の均一性が低下する、といった現象が生じる可能性がある.
【0051】
また、ウェル102内に空気を残留させないために、ウェルの中心点に最も距離が近い点で主流路と連結することが好ましい。つまり、ウェル側の中心点に最も近い点で、側路105とウェルとが接続するように形成することが好ましい。
【0052】
さらに、本発明の試料分析チップでは、各ウェル102と主流路103を連絡する側路105において、側路ごとに廃液部104が設けられている。廃液部は、側路から分岐した廃液分岐流路104aと、廃液分岐流路に連結した廃液チャンバ104bにより構成することができる。廃液部がウェル102と主流路103とを連絡する側路に設けられていることにより、ウェルに余剰な溶液が送液された際に、廃液部に余剰溶液が送液されて溜められ、一定の容量の溶液がウェルとウェル分岐流路105aに残される。したがって、余剰溶液による配液バラツキを低減させることができる。
【0053】
配液の際に、廃液チャンバ104bよりもウェル102が先に溶液で満たされることで、各ウェルに確実に溶液試料を充填することができる。そのために、廃液チャンバ分岐流路よりもウェル分岐流路に送液されやすいようにすることが重要である。
【0054】
このための方法としては、廃液チャンバ分岐流路104aよりもウェル分岐流路105aの断面積を広くすることで送液時の圧力損失に差が生じ、ウェルに優先的に送液することができる。この手法により、まずウェルが溶液で満たされ、その後余剰溶液を廃液チャンバに送液することができる。したがって、廃液部を断面積の狭い廃液チャンバ分岐流路104aと容量の大きい廃液チャンバ104bからなる構成とすることで、ウェル分岐流路側に送液されやすく、かつ廃液部の容量を調整することができる。なお余剰溶液の廃液量は、ウェルの容量と、廃液チャンバの容量によって調節することができる。遠心送液時の各ウェル間のばらつきが大きいほど廃液チャンバの容量が必要となる。
【0055】
また、別の方法としては、廃液チャンバ分岐流路よりもウェル分岐流路の流路内の表面粗さを小さくすることで送液時の圧損に差が生じ、ウェルに優先的に送液することができる。
【0056】
また、別の方法としては、廃液チャンバ分岐流路の流路表面を撥水処理することにより、送液時の圧損に差が生じ、ウェルに優先的に送液することができる。また逆に、ウェル分岐流路の流路表面を親水処理することにより、送液時の圧損に差が生じ、ウェルに優先的に送液することができる。撥水処理の方法としては、フッ素系材料によるコーティング等が一般的であり、対薬品性も強く、逆に反応への影響も生じない。また、親水処理の手法としてはプラズマ処理やコロナ放電処理などが挙げられ、どちらも一般的な手法と言える。
【0057】
さらに、側路105の形状及び廃液部104の配置によってもウェル側の分岐流路に優先的に送液されやすいようにすることができる。図5(A)、(B)は、側路105とウェル102、廃液チャンバ104bおよび廃液チャンバ分岐流路104aからなる廃液部を模式的に示したものである。実線の矢印は中心点の方向(回転中心方向)を示している。
【0058】
図5の各構成では、側路105は回転中心方向から傾いて形成されている。このように側路を傾斜させて形成することにより、遠心力を掛けたときにウェル102の空気が側路の内側に沿って主流路方向へ移動し、一方溶液は側路の外側に沿ってウェル方向へ移動するため、スムーズにウェル内へ溶液を移動させることができる。傾斜させる角度としては、中心点の方向と側路との為す角が10度から80度の間であることが好ましい。10度以下だとウェルからの排気とウェルへの溶液の浸入が干渉して溶液の浸入を阻んでしまう場合があり、80度を超えると、側路方向への遠心力が弱く、溶液がウェルへ移動しない場合がある。
【0059】
図5(A)図5(B)では、傾いた側路105において、廃液チャンバ分岐流路104aにより廃液部104が側路105から中心点側で分岐している。図5(A)では側路105はウェル102に直進しているパターン、図5(B)では廃液部との分岐点でウェル側の側路(ウェル分岐流路105a)が折れ曲がっているパターンである。廃液チャンバ分岐流路104aの折れ曲がりは、分岐前の側路の傾きと同じ方向に傾いていれば任意の形状とすることができる。また、廃液量が廃液チャンバ分岐流路部分の容量で十分な場合には、廃液部の末端の廃液チャンバ104bがなくともよい。
【0060】
前述のように、溶液に掛かる遠心力により、破線の矢印で示した中心点から外側の流路、すなわちウェル側の分岐流路に先に流れ込むことになり、廃液チャンバ104bよりもウェル102が先に溶液で満たされ、各ウェルに確実に溶液試料を充填することができる。また、図5(B)のようにウェル側の流路を曲げると、ウェル分岐流路105a小さく、あるいはウェルを直接側路の分岐箇所で接続することができることから、ウェルに溶液が充填された後、余剰溶液を廃液チャンバに送液するまでの流路が短くなり、ウェルへの配液バラつきをより低減させることができる。
【0061】
一方、溶液量が所定の容量より少ない場合は、廃液部によって各ウェルの試料容量のバラつきを低減することができないが、主流路の形状を工夫することによって、元々の送液時の送液量のばらつきについても抑えることが可能である。例えば、本発明の第一の形態の試料分析チップと組み合わせた様態の試料分析チップとすることができる。図6および図7に、このような本発明の試料分析チップの別の様態を示した。
なお、下記の様態で説明していない第一の形態の試料分析チップの事項についても、第二の形態と矛盾しない限り、組み合わせて本発明の試料分析チップとすることができる。
【0062】
図6の試料分析チップでは、主流路103が、隣り合うウェルの間で中心点方向に一つの山を有するように形成されている。ここで隣り合うウェルとは、主流路からウェルへの送液流路が前後しているウェルを意味する。また、中心点方向への山を有するとは中心点方向への極大点(主流路山部103a)を持つことを意味している。このように、隣り合うウェルの間で中心点方向に一つの山を有するように形成することで、主流路に注入された液体が、チップ回転時に主流路山部で自然と途切れるため、各ウェルへの配液量のバラツキを低減することができる。
【0063】
ウェル102と主流路103との連絡箇所、即ち主流路103と側路105との接続箇所は、主流路の山部と山部の間の谷部130bであることが好ましい。谷部とは主流路の山と山との間で最も中心点から距離が遠い箇所である。この箇所でウェルと主流路を連絡することにより、配液時の主流路への溶液の残留を減らすことができる。
【0064】
また図6の試料分析チップでは、主流路103の路幅が主流路山部103aで狭く、主流路谷部103bで広くなっている。主流路山部103aに該当する領域に存在する溶液が少ない方が、配液バラツキが少ないため、山部の主流路の断面積は、他の部分の断面積よりも小さいことが好ましい。したがって、山部の流路幅を狭くする、及び/または、深さを浅くすることが好ましい。また同様の理由で山部に近づくにつれて主流路の断面積が小さくなるようにすることが好ましい。
【0065】
さらに、主流路谷部103bの路幅を広げることで、各ウェル102への配液量を制御することができる。したがって、図2bの試料分析チップのように山と山との間の流路をチャンバ様とし、主流路山部から隣接する主流路山部までの主流路の容積を任意に設計すれば、同等の容量のサンプルを両山部に挟まれた谷部から連通するウェルに送液することができるため、任意量の溶液を各ウェルに設定することが可能である。
【0066】
図7は本発明の試料分析チップの別の一様態である。図7の試料分析チップでは、主流路103の山が中心点方向に対して傾いていることで、側路105に対して主流路の左右の基材平面での面積が不均等に設計されている。側路105に対して左右の主流路が路幅の狭い流路側と、広い流路側が存在し、広い流路側にウェルとの連絡口である側路105が形成されていることで、ウェルから側路へ移動した空気と、主流路の溶液の入れ替わり時に面積が大きい主流路側に偏って気泡と液体の入れ替わりが生じる。このため主流路への残液を減らすことができる。したがって、各ウェルに接続する側路及び主流路を上記のような構成とし、主流路が路幅の狭い流路側と、広い流路側が山部を境に交互に形成されるようにすることで、各チャンバ様主流路で同様の現象が同時に生じるために、配液のバラつきを減少する事ができる。
【0067】
次に第一の実施形態及び第二の実施形態に係る本発明の試料分析チップの製造方法について説明する。
【0068】
図8は本発明の試料分析チップの構造の一様態を示した斜視図である。
本発明の試料分析チップはウェル及び流路(主流路及び側路を含む)を形成した第一の基材401に、第二の基材402を貼り合わせることで作製することができる。第一の基材及び第二の基材の少なくとも一方には試料分析装置の具備するチップ回転機構によってチップを回転させるための回転手段として、例えばチップ回転機構に固定するための担持部405を有する。また注入口及び空気の脱出口を兼ねた出口(INLET/OUTLET)のための貫通孔を第一の基材及び第二の基材の一方に、少なくとも一つ形成する。貫通孔は基材を貼り合わせたときに主流路の端部に一致する。以下では、説明の便宜上、蛍光反応等を検出、測定する際に測定する面に位置する基材側を「上側」、下側に位置する側を「下側」とする。
【0069】
基材としては、試料に影響を与えないものであれば特に制限はないが、特にポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリルのいずれかを含む樹脂材料を用いれば、良好な可視光透過性を確保することができる。ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンやポリプロピレンとポリエチレンとのランダム共重合体を使用することができる。また、アクリルとしては、ポリメタクリル酸メチル、または、メタクリル酸メチルとその他のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレンなどのモノマーとの共重合体を使用することができる。また、これらの樹脂材料を使用する場合、チップの耐熱性や強度を確保することもできる。樹脂材料以外としては、アルミニウム、銅、銀、ニッケル、真鍮、金等の金属材料を挙げることができる。金属材料を用いた場合、加えて熱伝導率及び封止性能に優れる。なお貼り合わせる基材のうち少なくとも上側基材のウェル底部を透明とすることで、蛍光等の検出・分析を外部から行うことができる。なお本発明における「透明」及び「光透過性」とは、検出光の波長領域での平均透過率が70%以上であるものとする。可視光領域(波長350〜780nm)で光透過性材料の材料を用いれば、チップ内での試料状態の視認が容易であるが、これに限られるわけではない。
【0070】
ウェル及び流路、廃液部を形成する基材の加工方法としては、樹脂材料の場合には、射出成形、真空成形等の各種樹脂成形法や、機械切削などを用いることができる。金属材料の場合には、厚手の基材を用いた研削加工やエッチング、薄手の金属シートにプレス加工や絞り加工を施すことで形成することができる。
【0071】
また、第1の基材として特にポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリルのいずれかを含む樹脂材料を用いた場合、良好な光透過性、耐熱性、強度を確保することができる。また、第1の基材の厚みが50μm〜3mmの範囲にある場合、良好な光透過性、耐熱
性、強度を確保でき、凹部の加工を確実に行うことができる。
【0072】
また、第2の基材の厚みが10μm〜300μmの範囲にある場合、第2の基材の熱伝導性及び封止性の双方を満足することができる。第2の基材の厚みが300μmよりも大きいと、熱容量が大きくなり、熱応答性が低下するおそれがある。
【0073】
図9に本発明の試料分析チップの断面図を示した。第一の基材401には、チップを貫通する溶液の注入口203と、注入液がチップに流れ込むための主流路となる溝103と、チップの外周部に延びた各ウェルと連通する側路となる溝105と、チップの外周部のウェルとなる窪み102とが成形されている。なお図5の断面図は注入口(INLET/OUTLET)からウェルまでの経路を模式的に示したものであり、主流路及び側路の形状はこれに限られない。注入される溶液をすべてのウェルに充満するためには、主流路の容積は、各ウェルの容積の合計より大きい必要がある。ただし、ウェルに試薬501が固定されている場合、その分反応ウェルに入れる液体試料の量が減るため、流れ込む流路の容積をその分減少してもよい。蛍光反応や測定のため、第一基材側で検出測定を行なう場合には、ウェルの凹部が光を散乱させない平滑な形状となっていることが好ましい。
【0074】
基材を貼り合わせる前に、ウェル102に反応用の試薬501を固定する。各ウェルで異なる試薬を用いることができる。各反応ウェルにそれぞれ異なる試薬を固定することによって、1つ検体(試料)に対して複数の処理を施すことができる。また、実際反応を行うための試薬の一部を各ウェルに固定し、残りの試薬は液体試料と一緒に導入するようにしてもよい。
【0075】
試薬501の固定方法としては、例えば第1の基材のウェル部分に液体試薬をピペット等で滴下し、第一の基材401を遠心装置で2000〜3000rpm、5分程度遠心することで適量の液体試薬が液面を平坦な状態で残存するようにして、これを乾燥させることでウェルに固定することができる。
【0076】
また、試薬をウェルに固定した後、ワックス502を滴下してもよい。具体的には、ワックスをホットプレート上に溶融させ、ピペットを用いて乾燥させた試薬を覆うように滴下する。このとき、ワックスは数秒で固化する。ワックスは、試薬をウェルの凹部に固定させる役割を有する。
【0077】
基材の貼り合わせ方法としては、一方の基材に接着層として樹脂コーティング層を設け、これを溶融させて両基材を接着する方法が挙げられる。樹脂コーティング層は、熱伝導率の高い金属材料基材に設けて溶融接着することが好ましい。樹脂コーティング層の材料としては、PETやポリアセタール、ポリエステルやポリプロピレン等の樹脂材料を用いることができる。
【0078】
この貼り合わせ方法においては、微細加工しやすく、蛍光測定に好適な光透過性の樹脂材料を第一の基材に用い、第二の材料としては熱伝導率が高く樹脂コーティング層を設けて溶融接着による貼り合わせが容易な金属材料を用いることが好ましい。また金属基材表面に樹脂コーティング層を形成することにより、材料を選定する際に金属基材自体の耐薬品性は考慮しなくて良い。
【0079】
また、基材表面に樹脂コーティング層を形成する際、樹脂コーティング層の下地としてアンカー層を形成することによりレーザを用いた融着が可能である。アンカー層にはレーザ波長光を吸収するカーボンブラック(光吸収性材料)が練り込まれており、レーザ光を照射することにより発熱して樹脂コーティング層を溶融接着することができる。あるいは、アンカー層にカーボンブラックを添加することに代えて、樹脂コーティング層にカーボンブラックを添加したり、樹脂コーティング層の表面を黒色に塗装したりしても良い。例えば波長900nm程度の赤外光フォトダイオードレーザーの光を照射することによっても樹脂コーティング層を効率良く溶融することができる。レーザ溶着は、熱溶着と異なり、チップを加熱する必要がないことから、チップやチップに固定されている試薬に殆ど影響を与えずに 基材の貼り合わせをすることができる。
【0080】
本発明の第三の形態の試料分析チップ及びその製造方法を図面に基づいて説明する。
なお、説明の便宜上、蛍光反応等を検出、測定する際に測定する面の側に位置する基材側を「上側」、下側に位置する側を「下側」とする。
【0081】
図10は、本発明の第三の形態に係る試料分析チップの斜視図である。図10に示した本発明の試料分析チップの形態では、上側の第一の基材401’と、下側の第二の基材402’の2つの部材を組み合わせて形成されており、第一の基材には試薬等の溶液を送液するための流路と、溶液と試薬類とを反応させるためのウェルが形成されている。また第一の基材又は第二の基材に、形成された流路に溶液を注入するために注入口及び空気の脱出口を兼ねた出口として少なくとも一つの貫通孔403が設けられている。
【0082】
図11に、第一の基材上に形成されたウェル102及び流路(主流路又は注入部103、側路105)の例を示した。本発明のチップは、基材101上の外周部の複数のウェル102と、ウェルに溶液、例えば液体試料を送液するための流路を有している。流路は図11A又は図11Bのような形状で注入口から溶液を注入する主流路又は注入部103と、各ウェルに配液するために主流路又は注入部とウェルとを連絡する側路105を有する。
【0083】
また、本発明の第三の形態に係る試料分析チップは、矛盾しない限り、第一の形態及び第二の形態に係る本発明の事項と組み合わせて本発明の試料分析チップとすることができる。例えば、主流路103の形状を第一の形態で示した波状の形状としてもよく、あるいは側路105に廃液部を有する形状としても良い。また、第一の形態あるいは第二の形態以外の構成と組み合わせても良い。
【0084】
本発明の試料分析チップは当該チップを回転させることにより生じる遠心力により、各ウェル102に配液するものである。遠心力による送液の利点は、各ウェル102に排気のための開口部を設置する必要がなく、遠心力によって、溶液試料と各ウェルにある空気を置換してウェルに入ることができることである。このことによりウェルの密閉性を高めることができ、外部からの汚染を防ぐことができる。チップを回転させることから、チップの形状は中央部に回転軸の貫く点(以下、中心点)のある円盤形状であることが好ましいが、チップを貫く回転軸に対して回転可能に形成されて入れば特に制限はない。円盤形状であれば、その中心が回転軸となるようにして、その円盤形状のチップに同心円状になるようにウェルを配置することができるため、スペースが効率的であるまた同心円状にウェルが配置されていることにより、基材を回転させることによって、一箇所の検査領域で全てのウェルの分析が可能である。
【0085】
外部の回転機構によりチップを回転させるための回転手段として、例えば図10で示したような担持部405が第一の基材に設けられている。
【0086】
本発明の試料分析チップは、第1の樹脂基材401’が、可視光を透過する光透過性樹脂基材であり、また第2の樹脂基材402’は、赤外線透過性を有する。このような構成とすることで、赤外線レーザによって第一の基材の第二の基材との界面の部分を溶融し、接着することにより製造することが可能である。レーザ溶着は、熱溶着に比べ、チップ製造時に、チップやチップに固定されている試薬に殆ど影響を与えないことが最大の利点である。感圧接着剤の使用に比べて、接着剤によるウェル内の試薬の汚染がなく、溶着したチップの耐熱性や耐水性を十分に確保することができる。以下、さらに詳細に説明する。
【0087】
ウェルの蛍光測定を行うためには、測定する面の側に位置する第一の基材401’の少なくともウェル102部分が750nm以下の可視光を透過する光透過性を有することが必要である。少なくとも蛍光波長において50%以上の平均透過率であることが好ましく、より好ましくは70%以上の平均透過率である。このため、第一の基材としてポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリルのいずれかを含む樹脂材料を用いることが好ましい。これらの材料を用いることで、良好な可視光透過性を確保することができる。ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンやポリプロピレンとポリエチレンとのランダム共重合体を使用することができる。また、アクリルとしては、ポリメタクリル酸メチル、または、メタクリル酸メチルとその他のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレンなどのモノマーとの共重合体を使用することができる。また、これらの樹脂材料を使用する場合、チップの耐熱性や強度を確保することもできる。
【0088】
また、第一の基材401’の厚みが0.05mm〜3mmの範囲にある場合、良好な可視光透過性、耐熱性、強度を確保でき、流路とウェルの加工を確実に行うことができる。なお、第一の基材は射出成形、真空成形等の各種樹脂成形法や、機械切削などを用いることができる。第一の基材側にウェル102、流路及び担持部405を形成することによって、赤外線照射側である第二の基材を板状あるいはフィルム状の基材とすることができ、後述のように、融着ムラのない張り合わせが可能である。また第一の基材の少なくともウェルの底部は、蛍光反応等の光学測定のため、平坦な面を形成する。
【0089】
また、赤外線レーザで第一の基材401と第二の基材402’を溶着する際、レーザ溶着の効率を上げるため、第一の基材は赤外線レーザに対して光吸収性であることが好ましい。特に第一の基材の少なくとも張り合わせ面を含む一部が赤外線吸収することにより、樹脂を溶融させ、接着することが容易である。
【0090】
また第一の基材401’に赤外線吸収剤を含有することによって、赤外線レーザ光を吸収し、赤外線の光エネルギーを熱エネルギーに変換する効率を上げることができる。また赤外線吸収剤を含有させることで赤外線部分に吸収がない樹脂を用いることができる。赤外線レーザ光は、一般的に750nm以上の波長を有する半導体レーザを使用することによって得られる。したがって、赤外吸収剤としては、750nm以上の領域に最大吸収波長を有する化合物、いわゆる色素化合物を使用することができる。色素化合物は、一般的に染料と顔料の2つの種類に分けることができるが、樹脂基材との相溶性や透明性の観点から、染料タイプのものが好ましい。さらに可視光領域の透明性を確保するため、できるだけ750nm以下の可視領域に吸収の少ない赤外線吸収剤が好ましい。具体的な例としては、BASF社のLumogen(登録商標)IR765、Lumogen(登録商標)IR788などが挙げられる。
【0091】
例えば、ポリプロピレンを樹脂基材として使用される場合、ポリプロピレンは赤外線部分に吸収がないため、プロピレン樹脂に赤外線吸収剤を添加することが必要である。具体的には、一例として、予めプロピレン樹脂100重量部に対して赤外線吸収剤を0.01重量部添加し、コンパウンドし赤外線吸収剤含有のプロピレン樹脂ペレットを作製する。これを用いて射出成形によって本実施形態の試料分析チップの第一の基材が作製される。また、予めプロピレン樹脂100重量部に対して赤外線吸収剤を0.1重量部添加し、赤外線吸収剤含有のプロピレン樹脂マスターバッチを作製する。そして、射出成形を行う際、前記の赤外線吸収剤含有のプロピレン樹脂マスターバッチとプロピレン樹脂との一定の割合で混合して射出成形を行うことによって、赤外線吸収剤の含有量を調整することができる。
【0092】
第二の基材402’としては、赤外線レーザに対して透過性を有することが必要である。第二の基材に用いる材料としては、第一の基材と同じ又は近い組成を有する樹脂が好ましい。例えば、第一の基材にポリプロピレンを使う場合、第二の基材はホモポリプロピレンやポリプロピレンとポリエチレンとのランダム共重合体が好ましい。組成の同じ又は近い樹脂同士は、一般的に接着しやすい。また、組成の同じ又は近い樹脂は、普通溶融温度の差が小さい。これによって、レーザ溶着の効果を挙げることができる。
【0093】
第二の基材402’は、第一の基材と同様な方法でウェル102、流路及び担持部405を形成することが可能であるが、両面が平滑面の板状あるいはフィルム状の基材であることが好ましい。板状あるいはフィルム状の基材であれば、基材の膜厚差等に起因する融着ムラがなく第一の基材と第二の基材を密着性よく張り合わせるができる。また、第二の基材の厚みは、0.01mm〜2mm、より好ましくは、0.05〜0.5mmの範囲にあれば、第二の基材の溶着性や強度を確保することができる。さらに、第二の基材は、ヒートブロックと接するため、前記の厚みであれば、十分な熱効率を得ることができる。
【0094】
図12は、図11Bの試料分析チップの破線Sでの断面図である。注入される液体試料をすべてのウェルに充満するため、注入口と連通している主流路の容積は、各ウェルの容積の合計より大きい必要がある。ただし、ウェルに試薬が固定されている場合、その分ウェルに入れる液体試料の量が減るため、主流路の容積をその分減少してもよい。
【0095】
図12に示す本発明の試料分析チップでは、各ウェルに試薬が固定されている。各ウェルにそれぞれ異なる試薬を固定することによって、1つ検体(試料)に対して複数の処理を施すことができる。また、実際反応を行うための試薬の一部を各ウェルに固定してもよい。残りの試薬は液体試料と一緒に導入することができる。
【0096】
基材を張り合わせる前に、ウェル102に反応用の試薬501を固定する。各ウェルで異なる試薬を用いることができる。各反応ウェルにそれぞれ異なる試薬を固定することによって、1つ検体(試料)に対して複数の処理を施すことができる。また、実際反応を行うための試薬の一部を各ウェルに固定し、残りの試薬は液体試料と一緒に導入するようにしてもよい。これによって、チップの保存性が向上すると共に各ウェルに異なる反応を行うことができ、複数の検査を同時に施すことができる。
【0097】
試薬501の固定方法としては、例えば第1の基材401’のウェル部分に液体試薬をピペット等で滴下し、第一の基材を遠心装置で2000〜3000rpm、5分程度遠心することで適量の液体試薬が液面を平坦な状態で残存するようにして、これを乾燥させることでウェルに固定することができる。
【0098】
さらに、試薬をウェルに固定した後、ワックス502を滴下してもよい。具体的には、ワックスをホットプレート上に溶融させ、ピペットを用いて乾燥させた試薬を覆うように滴下する。このとき、ワックスは数秒で固化する。ワックスは、試薬をウェルの凹部に固定させる役割を有する。
【0099】
次に、本発明の試料分析チップにおいては、第一の基材側401’のウェル102の窪みに試薬を固定した後、赤外線レーザで第一の基材と第二の基材402’とを溶着させることによって、密閉型のチップが製造される。赤外線レーザとしては、第一の基材表面を溶融させることができれば特に制限はないが、赤外線の波長としては800〜1200nmがレーザ溶着に好都合で好ましい。実用的な観点から、レーザ溶着機の出力は30以上であることが好ましい。例えば、出力30〜250Wのレーザ機は一般的に市販されているので、これらのレーザ機を使えば特に問題ない。具体的には、第一の基材と第二の基材を貼り合せて、例えば波長808nm程度の赤外光フォトダイオートレーザを用いて、第二の基材側からレーザビームを一定の速度でスキャンしチップを照射することによって、第一の基材を第二の基材が溶着される。レーザの出力パワーとスキャン速度を調整することによって、レーザ溶着は効率よく行うことができる。以上の工程で、試料分析チップの製造が完了する。
【0100】
次に本発明の各実施形態の試料分析チップを用いた試料分析方法について説明する。
【0101】
本発明の試料分析チップは、例えば、DNA、たんぱく質等の試料において生化学物質の検出や分析に用いることができる。各ウェル102に試薬を固定し、液体試料を各ウェルに配液する。この場合には各ウェルで異なる試薬を用いることができる。あるいは試料を各ウェルに固定し、液体試薬を各ウェルに配液する。この場合には各ウェルで異なる試料を用いることができる。
【0102】
次に第一の基材401と第二の基材402を貼り合わせた本発明の試料分析チップに対して、まず、注入口403(107)から試薬等の溶液を主流路103に注入する。この段階では、主流路のみが溶液で満たされ、前述のように側路には浸入していない。これは、溶液の表面張力と、ウェル側には空気の抜け穴がないことによりウェル側からの空気圧があるためである。試料分析方法に用いる試料分析装置にはこのような溶液注入手段を備えていてもよい。
【0103】
次に、試料分析方法に用いる試料分析装置には試料分析チップを回転させるためのチップ回転機構を有する。チップ回転機構には、公知一般の遠心装置を用いることができる。試料分析装置に試料分析チップを設置し、回転機構によりチップの中心点でチップの垂直方向を回転軸として、チップを回転させる。回転速度としては溶液に掛かる遠心力が前述の空気圧と表面張力に打ち勝って、ウェルに流入する回転速度が必要である。チップの形態にも寄るが、約1000rpm以上であることが好ましい。チップの回転速度が約1000rpmより小さいと、ウェルに溶液が流入せず、液量が一定にならないおそれがある。
【0104】
液体試料の配液後、試料・試薬の反応を阻害しないオイルを同様の工程で各ウェルに配液してもよい。オイルの注入によって、反応中に液の蒸発を防ぐことができる。オイルには先に配液した溶液よりも比重が軽いものを用いる必要がある。チップを回転させ、遠心力によって配液した際に、側路側で各ウェルの栓の役割をするためである。オイルの種類としては、試料・試薬の反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、ミネラルオイルやシリコンオイルを好適に用いることができる。
【0105】
ワックス502を試薬の固定に用いる場合には、試料分析装置に電熱線等からなるヒータやペルチェ素子を用いた温度制御手段を備えていてもよい。ワックスの融点以上にチップを加熱することでワックスを溶融させ、ウェル内で試薬と溶液(試料)を混合させることができる。また当該温度制御手段は、例えばPCR反応等の試薬の反応制御にも用いることができる。
【0106】
その後、ウェルで試薬及び試料を混合し、反応状態を蛍光検出等の手法によって分析することができる。試料分析装置は、試料分析チップの基材上側のウェルの位置で測定を行なうための検出測定手段を有する。回転機構によりチップを回転させて、所定のウェルを測定することができる。本発明の試料分析チップでは基材の上側を透明とすることで、チップの外部から光学的測定を行なうことが可能である。
【0107】
以上のように各工程で試料分析チップに作用させる機構を備えることで、省スペースかつ試料分析の容易な試料分析装置とすることができる。
【0108】
次に本発明の試料分析方法の例を説明する。
【0109】
遺伝子解析の1例としては、例えば体細胞変異の検出や、生殖細胞変異の検出が挙げられる。遺伝子型の違いによって、発現するタンパク質の種類等が異なるため、例えば薬の代謝酵素の働きの違いを生み、結果として薬の最適投与量や副作用の出やすさ等に個人差が生じる。この事を医療現場で利用し、各患者の“遺伝子型”を調べる事で、オーダーメイド医療を行うことが出来る。
【0110】
・SNPsの検出
ヒトゲノムの中には、その約0.1%に個人特有の塩基配列の違いが存在し、SNP(Single Nucleotide Polymorphism)と呼ばれおり、生殖細胞変異のひとつである。SNPの特定方法の一つとして、例えば蛍光を用いたPCR‐PHFA(PCR−Preferential Homoduplex Formation Assay)法が利用されている。PCR‐PHFA法は検出変異部位を増幅するPCR工程と、増幅断片と対応プローブによる競合的鎖置換反応工程から成り立っている。当該方法によれば、蛍光試薬の発光差によって変異を検出するが、本発明の試料分析チップを用いることで、各ウェルの配液バラツキが少ないため、正確なSNPs検出を行うことが出来る。また上記以外のSNP検出方法としてインベーダー法(登録商標)、Taqman PCR法等についても同様に本発明の試料分析チップを用いることが可能である。
【0111】
以下に、本発明を用いてワルファリン(抗血液凝固剤。心臓病や高血圧用の薬として用いられる)に対する副作用に関与するSNPついてPCR‐PHFA法を使った解析例を説明する。
【0112】
血液などから得られる検体核酸を精製して、溶液試料とする。本発明の試料分析チップに注入前または注入後配液前に、検体核酸の増幅を行なう。なお、ワルファリンに関与するSNPの検出にはVKORC1やCYP2C9内のSNPが議論されることが多く、CYP2C9*2やCYP2C9*3などが有名である。検体からこれらのSNPを含む遺伝子断片をマルチプレックスPCRにて増幅する。
【0113】
上記の検出方法では、一つのSNPを判定するために2つの検出用のウェルが必要となるので1検体試料につき10個以上のウェルが形成された試料分析チップを使用すると良く、それぞれのウェルに競合的鎖置換反応を行うためのSNP検出用の試薬を固定する。
【0114】
上記PCRにより核酸が増幅された試料を、各ウェルに配液充填する。各ウェルを温調し、前記試薬に混入された蛍光試薬の発光差によって変異を検出する。一つのSNPに対し2つのウェルのうち一つのみ陽性反応ならばホモ、二つ陽性ならヘテロと判定することができる。
【0115】
・K‐ras遺伝子変異の検出
上がん細胞に特徴的な変異、また分子標的薬に抵抗性を示す変異はそのほとんどが体細胞変異である.生殖細胞変異(SNPなど)の場合、どの細胞でも共通の変異が見られるのに対し、体細胞変異では変異を起こした細胞でのみ変異がみられ、変異を起こしていない細胞(通常は正常細胞)では変異は見られない.
【0116】
つまり、試料のうちの多くは正常細胞で一部変異細胞が含まれる場合、多くの正常な遺伝子中に存在するわずかな変異遺伝子を検出しなければならず、この点が生殖細胞における変異検出と異なる点で、体細胞の遺伝子変異検出をより困難にしている点である.
【0117】
K‐ras遺伝子は変異ががん細胞に存在すると分子標的薬がほとんどの患者群で奏効しないことが示された遺伝子であり、この遺伝子を簡便、迅速、安価、高精度に検出することが希望されつつある。
【0118】
以下に、K‐ras遺伝子のPCR‐PHFA法での解析例を説明する.
【0119】
上記遺伝子変異の検出用のウェルにはプローブ核酸を含む試薬が固定される。K‐ras遺伝子の検出は野生型と13種類の変異があるので少なくとも14のウェルが形成された本発明の試料分析チップを使用し、当該ウェルのそれぞれに対応した試薬が固定化されていることが好ましい。
【0120】
大腸癌などのがん細胞を採取し、検体核酸を精製して、溶液試料とする。本発明の試料分析チップに注入前または注入後配液前に、検体核酸の増幅を行なう。
【0121】
上記PCRにより核酸が増幅された試料を、各ウェルに配液充填する。ウェルを温調し、前記試薬に混入された蛍光試薬の発光差によって変異を検出することができる。
【0122】
(実施例)
以下に本発明における実施例を示すが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0123】
<実施例1>
実施例1では、本発明の試料分析チップをSNPs解析チップとして用いた例を示す。
SNPsチップ基材として、ポリプロピレン樹脂を用いて、図2に示すような円盤状の外形を持ち、同心円上に波状の主流路103と、主流路谷部103bに連絡口を持つ側路105と、側路の末端にウェル102を有するチップを射出成形により形成した。この基材(ポリプロピレン基材)にはそれぞれ23個のウェル及び側路が形成されている。また主流路は周期的に面積を変え、隣接する主流路山部103aの間の主流路の容積は12μlとなるように設計した。
【0124】
上記ポリプロピレン基材と貼り合わせる第二の基材として、樹脂コーティング層としてポリプロピレン樹脂がコーティングされたアルミシート基材を用いた。樹脂コーティング層には、厚みが約0.07mmのものを使用した。樹脂コーティング層は融点が120度前後であり、アルミニウム側に熱を与えれば溶融するように該アルミ基材にコーティングされている。
【0125】
さらに、アルミニウム層と樹脂コーティング層の間にカーボンを練りこんだアンカー層が設けられ、レーザ光照射による発熱でも樹脂コーティング層が溶融する構成となっている。
【0126】
該ポリプロピレン基材上のウェルにはインベーダー反応用プローブ試薬とDNAポリメラーゼ、クリベースといった酵素類をピペットで滴下し乾燥固定させた。
【0127】
該ポリプロピレン基材と該アルミ基材を重ね合わせ、アルミ基材側に130度以上の熱を加えることで、該樹脂コーティング層を溶融させて該ポリプロピレン基材とアルミ基材を溶着した。
【0128】
上記の工程で作製したチップに、精製されたゲノムを加えたバッファ溶液を溶液試料としてピペットにて送液し、主流路103に充填した。この段階ではウェル及び側路には試料は浸入していなかった。
【0129】
なお上記各試薬類は下記表1に記載した分量で用いた。
【0130】
【表1】
【0131】
送液後、5000rpmにてチップ中心を軸としてチップを回転させたところ、各ウェルには11μlの試料が送液された。チップに遠心力を与える手段として、化学、生物反応における試薬の分離などに用いられる卓上小型遠心機を利用した簡易な遠心装置を作成し、これを用いた。遠心時の回転数は回転数測定器にて測定して調整した。
【0132】
なお、遠心時のチップの回転方向に関しては、側路の傾き方向に対していずれの方向に回転させた場合でも回転数の増加中はチップ内の液挙動に影響を及ぼすが、ウェルの配液のばらつきに影響しない事が確認できた。
【0133】
続いて、反応に阻害の無いミネラルオイルを同様の手法で送液したところ、試料はウェルを満たし、残った溶液で側路の半分程度を満たし、オイルは側路の残り半分と流路谷の8割を満たした。
【0134】
なお、本実施例はウェル22箇所に反応用試薬としてインベーダー反応用プローブを固定した。また、反応結果の成否を判定するために、コンタミネーションの有無の確認としてネガティブコントロールを1箇所に設定し、1枚のチップ上で反応試験を行った。
【0135】
該反応容器がオイルによって独立した状態の試料分析チップに95℃と68℃を交互に35サイクルかけ、PCR反応によってサンプルのゲノムを増幅する。続いて、63℃で30min温調することにより、酵素反応によりウェル内で蛍光検出反応を生じる。
【0136】
また、このときチップのポリプロピレン基材側は透明であることから、蛍光検出をポリプロピレン基材を通して外部から行った。本実施例では光電子増倍管と光ファイバを組み合わせた蛍光検出装置によって上記蛍光反応を測定した。
【0137】
図13及び14は本実施例によって検出された蛍光反応によるSNPsの解析結果のグラフである。各グラフの縦軸は検出された光の強度であり、蛍光の強度を示す。横軸は時間軸である。
【0138】
図13は反応を行った1つのウェルの結果であり、所定の時間内に混合した試薬類による蛍光検出反応が生じていることが確認された。
【0139】
図14は試薬類をあらかじめ固定していないウェルのため、蛍光反応は検出されなかった。これにより両隣からのコンタミネーションは生じていないことが確認された。
【0140】
また、図15はポリプロピレン製のチューブにて一般的な手法で最適の分量比で試薬類とサンプルを混合して得られた検出データである(ポジティブコントロール)。図6と図8を比較すると、図15が示す本実施例によるチップ内の反応は図8の反応と一致していることから、本実施例では最適な分量比による反応であることが確認できる。これにより、所望した量のサンプルを配液できていることが分かる。
【0141】
本実施例1のように本発明では貼り合わせる基材を反応に合った材質で選定することで、より簡易に、かつ短時間で効率よく反応工程を行うことが可能となった。
【0142】
<実施例2>
実施例2として、別の流路の形状の本発明試料分析チップの検討を行なった。
【0143】
本実施例では、図3に示した形状の試料分析チップを作製した。実施例1では生化学反応の阻害物質の混合を防ぐために耐薬品性の高いポリプロピレン樹脂を射出成形することによりチップを製作したが、流路形状の検討を行うために今回はアクリル樹脂をφ6mmからφ0.4mmまでのエンドミルによって機械切削加工し、流路形状を形成した。
【0144】
実施例1で使用した図2の形状の試料分析チップ(チップ1)及び上記図3の形状の試料分析チップ(チップ2)にブロモフェノールブルー色素で色付けをした純水を主流路に送液し、実施例1同様に5000rpmで円形状のチップの中心を軸に回転させ、10回の試行でばらつきを計測した。なお、いずれの試料分析チップも各ウェルに均等に送液されたと想定した場合の液量は12μlである。
【0145】
チップ1では、送液量は最小値で9.5μl、最大値で14.0μlであった。これに対し、チップ2でのばらつきは最小値で11.0μl、最大値で12.5μlとなり、配液量のばらつきをさらに大きく抑制できる事が示された。
【0146】
<実施例3>
実施例3における本発明に係る試料分析チップの第一の基材401として、ポリプロピレン樹脂を用いて、図7に示すような円盤状の外形を持ち、同心円上に波状の主流路103と、主流路谷部103bに連絡口を持つ側路105と、側路の末端にウェル102を有し、さらに側路から分岐したウェル分岐流路105aと廃液チャンバ分岐流路104a、及び廃液チャンバ105bを有するチップを射出成型により形成した。この基材(ポリプロピレン基材)にはそれぞれ23個のウェル及び側路が形成されている。主流路は周期的に面積を変え、主流路の山と山の間の谷部103bの容積は15μlとなるように設計し、また、ウェル分岐流路の容積が、2μl、ウェルの内容積が11μl、廃液チャンバの容積が5μlとなるように設計した。
【0147】
上記ポリプロピレン基材と貼り合わせる第二の基材402として、樹脂コーティング層としてポリプロピレン樹脂がコーティングされたアルミシート基材を用いた。樹脂コーティング層には、厚みが約0.07mmのものを使用した。樹脂コーティング層は融点が120度前後であり、アルミニウム側に熱を与えれば溶融するように該アルミ基材にコーティングされている。
【0148】
さらに、アルミニウム層と樹脂コーティング層の間にカーボンを練りこんだアンカー層が設けられ、レーザ光照射による発熱でも樹脂コーティング層が溶融する構成となっている。
【0149】
該ポリプロピレン基材上のウェルにはインベーダー反応用プローブ試薬とDNAポリメラーゼ、クリベースといった酵素類をピペットで滴下し乾燥固定させた。
【0150】
該ポリプロピレン基材と該アルミ基材を重ね合わせ、アルミ基材側に130度以上の熱を加えることで、該樹脂コーティング層が溶融させて該ポリプロピレン基材とアルミ基材を溶着した。
【0151】
上記の工程で作製したチップに、精製されたゲノムを加えたバッファ溶液を溶液試料としてピペットにて送液し、主流路103に充填した。この段階ではウェル及び側路には試料は浸入していなかった。
【0152】
なお上記各試薬類は実施例1の表1に記載した分量と同様の分量で用いた。
【0153】
送液後、5000rpmにてチップ中心を軸としてチップを回転させたところ、各ウェルとウェル分岐流路が満たされ、廃液チャンバには0.5μl〜3μlの溶液が溜められた。各ウェルには11μlの試料が送液された。チップに遠心力を与える手段として、化学、生物反応における試薬の分離などに用いられる卓上小型遠心機を利用した簡易な遠心装置を作成し、これを用いた。遠心時の回転数は回転数測定器にて測定して調整した。
【0154】
なお、遠心時のチップの回転方向に関しては、側路の傾き方向に対していずれの方向に回転させた場合でも回転数の増加中はチップ内の液挙動に影響を及ぼすが、ウェルの配液のばらつきに影響しない事が確認できた。
【0155】
続いて、反応に阻害の無い試薬類表(表1)記載のミネラルオイルを同様の手法で送液したところ、試料はウェルを満たし、残った溶液で側路の半分程度を満たし、ミネラルオイルはウェル分岐流路と廃液チャンバ分岐流路及び側路を完全に満たし、主流路の一部を満たした。
【0156】
なお、本実施例はウェル22箇所に反応用試薬としてインベーダー反応用プローブを固定した。また、反応結果の成否を判定するために、コンタミネーションの有無の確認としてネガティブコントロールを1箇所に設定し、1枚のチップ上で反応試験を行った。
【0157】
該反応容器がオイルによって独立した状態の試料分析チップに95℃と68℃を交互に35サイクルかけ、PCR反応によってサンプルのゲノムを増幅する。続いて、63℃で30min温調することにより、酵素反応によりウェル内で蛍光検出反応を生じる。
【0158】
また、このときチップのポリプロピレン基材側は透明であることから、蛍光検出をポリプロピレン基材を通して外部から行った。本実施例では光電子増倍管と光ファイバを組み合わせた蛍光検出装置によって上記蛍光反応を測定した。
【0159】
測定の結果、実施例1と同様に、各ウェルに配液された試薬により、所定の時間内に混合した試薬類による蛍光検出反応が生じていることが確認され、一般的な手法で最適の分量比で試薬類とサンプルを混合して得られた検出データと同様の結果が得られた。また、ネガティブコントロールのウェルでは、蛍光反応は検出されなかった。これにより両隣からのコンタミネーションは生じていないことが確認された。
【0160】
<実施例4>
本発明の試料分析チップの実施例として、図11(B)及び図3に記載された試料分析チップを作製した。第一の基材401’は、ポリプロピレン樹脂を用いて射出成形により加工した。側路105の幅は約1mmであり、ウェル102は上部が平坦な台形になっており、ウェル底部の直径は約3mmで、容積約7μlである。
【0161】
ポリプロピレンは赤外線部分に吸収がないため、プロピレン樹脂に赤外線吸収剤を添加することが必要である。本実施例では、予めプロピレン樹脂100重量部に対して赤外線吸収剤としてBASF社のLumogen(登録商標)IR765を0.01重量部添加し、混合して赤外線吸収剤含有のプロピレン樹脂ペレットを用意し、これを用いて射出成形により上記試料分析チップの第一の基材を作製した。
【0162】
また第二の基材402’として、厚み約0.15mmのプロピレンフィルムを使用した。
【0163】
第一の基材401’上のウェルにはインベーダー反応用プローブ試薬とDNAポリメラーゼ、クリベースといった酵素類をピペットで滴下し乾燥固定させた。
【0164】
第一の基材401’と第二の基材402’を重ね合わせ、波長808nm、出力140Wの赤外光フォトダイオートレーザを用いて、第二の基材側からレーザビームを一定の速度でスキャンしチップを照射することによって、第一の基材を第二の基材を溶着した。
【0165】
上記の工程で作製したチップに、バッファ溶液と精製されたゲノムを加えたバッファ溶液を溶液試料としてピペットにて送液し、主流路103に充填した。この段階ではウェル及び側路には試料は浸入していなかった。
【0166】
なお上記各試薬類は実施例1の表1に記載した分量と同様の分量で用いた。
【0167】
送液後、5000rpmにてチップ中心を軸としてチップを回転させたところ、各ウェルに11μlの試料が送液された。チップに遠心力を与える手段として、化学、生物反応における試薬の分離などに用いられる卓上小型遠心機を利用した簡易な遠心装置を作成し、これを用いた。遠心時の回転数は回転数測定器にて測定して調整した。
【0168】
続いて、反応に阻害の無い試薬類表(表1)記載のミネラルオイルを同様の手法で送液したところ、試料はウェルを満たし、残った溶液で側路の半分程度を満たした。
【0169】
なお、本実施例はウェル22箇所に反応用試薬としてインベーダー反応用プローブを固定した。また、反応結果の成否を判定するために、コンタミネーションの有無の確認としてネガティブコントロールを1箇所に設定し、1枚のチップ上で反応試験を行った。
【0170】
該反応容器がオイルによって独立した状態の試料分析チップに95℃と68℃を交互に35サイクルかけ、PCR反応によってサンプルのゲノムを増幅する。続いて、63℃で30min温調することにより、酵素反応によりウェル内で蛍光検出反応を生じる。
【0171】
また、このとき蛍光検出をチップの第一の基材401’側の外部から行った。本実施例では光電子増倍管と光ファイバを組み合わせた蛍光検出装置によって上記蛍光反応を測定した。
【0172】
測定の結果、実施例1と同様に、各ウェルに配液された試薬により、所定の時間内に混合した試薬類による蛍光検出反応が生じていることが確認され、一般的な手法で最適の分量比で試薬類とサンプルを混合して得られた検出データと同様の結果が得られた。また、ネガティブコントロールのウェルでは、蛍光反応は検出されなかった。これにより両隣からのコンタミネーションは生じていないことが確認された。
【0173】
(産業上の利用可能性)
本発明の反応チップは、例えば核酸等の試料において生化学物質の検出や分析に用いることができる。特にSNPの変異を検出できることから、がんなどの遺伝子、生殖細胞や体細胞遺伝子の変異を検出する手法へ利用することができる。また、複数の溶液を混合する容器、反応容器として利用することが可能である。
【0174】
(産業上の利用可能性)
本発明の反応チップは、例えば核酸等の試料において生化学物質の検出や分析に用いることができる。特にSNPの変異を検出できることから、がんなどの遺伝子、生殖細胞や体細胞遺伝子の変異を検出する手法へ利用することができる。また、複数の溶液を混合する容器、反応容器として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0175】
101・・・基材
102・・・ウェル
103・・・主流路
103a・・主流路山部
103b・・主流路谷部
104・・・廃液部
104a・・・廃液チャンバ分岐流路
104b・・・廃液チャンバ
105a・・・ウェル分岐流路
105・・・側路
107・・・INLET/OUTLET
401・・・第一の基材
401’・・・第一の基材(光透過性樹脂)
402・・・第二の基材
402’・・・第二の基材(赤外線透過性樹脂)
403・・・INLET/OUTLET(貫通孔)
405・・・担持部
501・・・固定試薬類
502・・・ワックス
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学反応の検出や分析等に用いる試料分析チップ、これを用いた試料分析装置、試料分析方法及び遺伝子解析方法、並びに試料分析チップの製造方法に関する。特にDNA解析に使用可能なディスポーザブルチップとその製造方法に関する。
本願は、2009年3月31日に日本に出願された特願2009−085272号、特願2009−085273号及び特願2009−085274号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばDNA反応、たんぱく質反応等の生化学反応の分野において、微量の試料溶液を処理する反応装置として、μ−TAS(Total Analysis System)やLab−on−Chipと呼ばれる技術が知られている。これは、1個のチップやカートリッジに複数の反応室(以下、ウェル)や流路を供えたものであり、複数の検体の解析、あるいは複数の反応を行うことができる。これらの技術はチップ及びカートリッジを小型化することで扱う薬品を少量にすることが出来、様々なメリットがあるとされてきた。
【0003】
そのメリットとは例えば従来使用していた強酸や強アルカリ薬品の分量が微量化することで人体への影響や環境への影響が格段に低くなること、また、生化学反応等に用いられる高額な試薬類の消費量が微量化することで分析、反応に費やすコストを低減できること、などが挙げられる。
【0004】
チップやカートリッジを用いて生化学反応を最も効率よく行うためには、複数のウェルにそれぞれ異なる種類の薬品や検体、酵素を配置し、これら薬品や検体、酵素と反応を起こす試薬を一本ないし数本の主導管からまとめてウェルに流し入れ、異なった複数の反応を生じさせる必要がある。
【0005】
この手法を用いれば、複数種の検体を同じ試薬で同時に処理をしたり、また逆に一種類の検体に同時に複数の処理を施したりすることが出来、従来かかっていた時間や手間を大幅に減らすことが可能である。
【0006】
この種の手法を用いる際、複数の反応場に等量のサンプルを送液する技術と、各ウェルの中身を混ざり合わないようにする技術が重要となる。このようなウェルへの送液を行うチップについての先行技術としては以下のものが挙げられる。
【0007】
特許文献1では、液溜めから遠心力を用いてウェルへの送液を行うチップにおいて、ウェルを独立させるために流路を変形、密封している。そのため流路を押しつぶす機構が必要であり、自動化が困難である。また、従来の遠心送液チップのように中央の液溜りから周囲のウェルに遠心送液を行うと、各ウェルへの送液量にばらつきが生じてしまう。
【0008】
特許文献2では、遠心方法を自転+公転を織り交ぜることで各ウェルへの送液量にばらつきを解決している。しかし、この手法もチップが自転+公転するための複雑な機構とスペースが必要となる。
【0009】
特許文献3では液体貯留部と遠心方向に伸びる流路を有するウェルを複数連結させた分析用媒体が公開されているが、この文献では液の配液性などには注視しておらず、逆にウェルに詰まった空気との押し合いで流体を制御するとある。この手法では液体貯留部と液体貯留部の間流路の液体は送液されない上、各ウェルに送液される液量は大きくバラつき、反応のたびに結果に差異が生じてしまう。
【0010】
従って、従来の第一の問題点は、送液方法が簡易でかつ各ウェルの液量ばらつきが少ないチップが実現されていないということである。
【0011】
また第二の問題点として、これらの手法には、サンプル物質を装置中の複数のウェルに分配する必要があるため、チャンバの相互汚染による誤った試験結果に繋がるおそれがある。
【0012】
上記問題を解決する手法としては、少なくとも一方の部材に流路などの加工が施された2つの部材を張り合わせてからなる密閉型のチップが提案されている。例えば、特許文献1には、装填チャンバ、主導管およびプロセスチャンバ(ウェル)を含む構造を提供する第1の主面部材と、第2の主面部材からなり、プロセスチャンバが装填チャンバから延びる導管に沿って配置され、装填チャンバ、導管、およびプロセスチャンバはサンプル処理装置の長さに沿って整列される密閉型のプロセスアレイ及びサンプル処理装置が開示された。
【0013】
特許文献4に記載のプロセスアレイには、1本の主導管から枝分かれしたフィード導管を介して接続された複数のプロセスチャンバが設けられている。このため、複数種の検体を同じ試薬で処理する等の操作が可能である。これらのプロセスアレイを用いて生化学反応を最も効率良く行うためには、まず、複数の反応場にそれぞれ異なる種類の薬品や検体、酵素を配置する。そして、これらと反応を起こす試薬を、1本ないし複数本の主導管からそれぞれの反応場に流し入れる。このようにして、複数の異なる反応を生じさせる必要がある。この手法を用いれば、複数種の検体を同じ試薬で同時に処理したり、逆に1種類の検体に対して複数の処理を同時に施したりすることができる。これによって、従来かかっていた時間や手間を大幅に減らすことが可能である。
【0014】
この種の手法として、例えば、液体導入口、流路、液体排出口等を備えたマイクロ流体チップを用い、反応に必要な試薬成分の一部をチップの流路内に凍結乾燥等の方法により固体状態で固定し、反応に必要な残りの試薬成分を液体状態で送液し、流路内でこれらの成分を接触させて反応を生じさせる、という技術が開示される。
【0015】
また、特許文献5には、装填チャンバ、プロセスチャンバ、及び流路が形成された樹脂基材と平板状の金属基材とを貼り合せてからなるサンプル処理装置が開示されている。また、各プロセスチャンバに異なる反応を行わせるときなどには流路を閉塞して各プロセスチャンバを密閉空間にする方法が開示されている。このサンプル処理装置では平坦な金属基材を流路内に押し込むように変形させることで流路を閉塞させている。
【0016】
しかしながら、特許文献1に記載のプロセスアレイは、第1の主面部材と第2の主面部材との間に感圧接着剤が使用されている。感圧接着剤の使用は反応中に接着剤からの溶出物が発生し、ウェル内の試薬に影響を与える可能性がある。また、接着層の耐熱性や耐水性の問題が生じやすく、特許文献1の構成では流路を外部からの影響を受けないように密閉するのは不十分である。
【0017】
また、生化学反応等を行わせる際に反応温度や温度サイクル条件を精密に制御することは極めて重要である。特許文献2に記載のサンプル処理装置には、金属基材側を平坦な板状形成されている。このため、熱ブロック等との密着性が上がり、熱サイクルを伴う反応を行うときに好適である、と記載されている。しかしながら、特許文献2に記載のサンプル処理装置を用い反応を行う際には、流路を閉塞し各プロセスチャンバを密閉空間にする必要がある。このサンプル処理装置では平坦な金属基材を流路内に押し込むように変形させることで、流路を閉塞している。このように金属基材を変形させることによって、金属基材の平坦性が損なわれ、熱ブロックとの密着性が低下し、熱応答性が不十分になり、所望の反応を確実かつ短時間に行わせることが難しいという問題がある。さらに、特許文献2の方法では、流路の閉塞が不十分になってしまう場合、チャンバの相互汚染による誤った試験結果に繋がる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特表2004−502164号公報
【特許文献2】特許第3699721号公報
【特許文献3】特開2008−83017号公報
【特許文献4】特許第4181046号公報
【特許文献5】特表2004−502164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上のような従来技術の問題点を鑑みて、本発明はウェルへの送液を行う試料分析チップにおいて、送液方法が簡易でかつ各ウェルの液量ばらつきがなく、低コストの試料分析チップを提供することを課題とする。
また、容易に作製することができ、かつチップ上のウェルでの試料汚染等の生じることのない試料分析チップ、これを用いた試料分析装置、試料分析方法及び遺伝子解析方法、並びに試料分析チップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の試料分析チップは、基材に複数のウェルと、各前記ウェルに繋がる流路と、前記流路に溶液を注入するための注入口とを有し、前記基材を回転させて前記ウェルに溶液を配液する試料分析チップであって、前記流路は、各前記ウェルに送液する主流路、および前記主流路と前記ウェルとを連絡する側路を有し、該主流路は前記ウェルより回転中心側に設けられ、隣り合う前記ウェルの間で前記回転中心に対して一つの山を有するように形成され、前記側路が、前記回転中心方向に対して傾いて形成され、前記山は、前記山の頂点と前記回転中心とを通る基準線に対して、一方側で隣り合う前記主流路の山と連絡する幅広主流路と、他方側で隣り合う前記主流路の山と連絡し前記幅広主流路より路幅が小さい幅狭主流路とを有し、前記幅広主流路における前記回転中心から離間した端部が、前記側路と連絡していることを特徴としている。
【0021】
また、上記の試料分析チップにおいて、前記基材が円盤状であり、前記ウェルは該基材と同心円状に配置されていることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記主流路が、前記回転中心方向に対して傾いて形成されていることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記側路に余剰溶液を溜める廃液部が設けられたことがより好ましい。
【0022】
また、上記の試料分析チップにおいて、前記廃液部が、廃液を溜める廃液チャンバと、前記側路を分岐し、該廃液チャンバと連絡する廃液チャンバ分岐流路とを有することがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記廃液部は、前記回転中心方向に対して前記側路の内側に設けられていることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記ウェルに連通する分岐流路は前記廃液チャンバ分岐流路より送液時の圧力損失が低いことがより好ましい。
【0023】
また、上記の試料分析チップにおいて、前記ウェルに連絡する分岐流路の断面積が、前記廃液チャンバ分岐流路の断面積よりも大きいことがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記廃液チャンバ分岐流路よりも前記ウェルに連絡する分岐流路の表面粗さが小さいことがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記廃液チャンバ分岐流路の流路内表面を撥水処理したことがより好ましい。
【0024】
また、上記の試料分析チップにおいて、前記ウェルに連絡する分岐流路の流路内表面を親水処理したことがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記試料分析チップは前記ウェル及び前記流路を形成した第一の基材と、該基材と貼り合わせた第二の基材とを有することがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記基材のいずれか一方が光透過性材料で形成されていることがより好ましい。
【0025】
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第一の基材が光透過性の樹脂材料であり、前記第二の基材が金属材料であることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第一の基材が、可視光に対して光透過性でありかつ赤外線に対して光吸収性の樹脂からなり、前記第二の基材が、少なくとも波長800nm以上の赤外線を透過する板状又はフィルム状であることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第一の基材は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂のいずれかの樹脂基材であることがより好ましい。
【0026】
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第一の基材は、800nm以上の波長領域に吸収を有する赤外線吸収剤を含むことがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第二の基材は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂のいずれかの樹脂基材であることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第二の基材の厚みが、0.05〜0.5mmの範囲にあることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップにおいて、前記第一の基材に試料分析チップを回転させるための担特部が設けられていることがより好ましい。
【0027】
また、本発明の試料分析チップの製造方法は、上記のいずれかに記載の試料分析チップの製造方法であって、前記第二の基材側から赤外線レーザを照射し、前記第一の基材と前記第二の基材とを溶融接着し、張り合わせることを特徴としている。
また、上記の試料分析チップの製造方法において、前記赤外線レーザの波長が、800〜1200nmの範囲にあることがより好ましい。
また、上記の試料分析チップの製造方法において、前記第一の基材と前記第二の基材とを張り合わせる前に、前記ウェルに試薬を固定する工程を含むことがより好ましい。
【0028】
また、本発明の試料分析装置は、上記のいずれかに記載の試料分析チップを設置し、回転させる手段と、前記ウェルでの反応を検出するための検出測定手段と、を有することを特徴としている。
また、本発明の試料分析方法は、上記のいずれかに記載の試料分析チップの前記主流路に溶液を注入する工程と、該試料分析チップを回転させて溶液を前記各ウェルに配液する工程と、を有することを特徴としている。
また、上記の試料分析方法において、前記ウェルに配液する工程の後に、ミネラルオイルを前記各ウェルに配液する工程を有ることがより好ましい。
また、本発明の遺伝子解析方法は、上記のいずれかに記載の試料分析方法を用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
本発明による第一の形態の試料分析チップによれば、簡易で機能的、かつ安全安価な試料分析チップを実現することができる。さらに、1種類の検体に対して複数の処理を施すことができる。
【0030】
また、主流路が各ウェルの間で回転中心に対して一つの山を形成しているので、この主流路の山部で送液が切れ、液分配のムラを低減させることができる。さらには当該流路山部の断面積を小さくすることで、液分配時のムラをより減少させることができる。
【0031】
さらには、流路山部から隣接する流路山部までの主流路の容積を任意に設計すれば、同等の容量のサンプルを前期流路山部に挟まれた流路谷部から連通するウェルに送液することができるため、使用する溶液試料の量をウェルごとに任意に設定することができる。
【0032】
また、本発明による第二の形態の試料分析チップによれば、主流路からウェルに遠心力によって送液された際、送液のムラによって所定の分量を越えて送液されたウェルでは、余剰分を廃液チャンバに捨てることができる。そのため、全てのウェルに所望の液量よりも余分に送液すれば、全てのウェルに同じ量の溶液を送液することができることから、配液バラつきを低減することができる。
【0033】
更に、主流路とウェルとを連通する側路に廃液チャンバに連通する分岐流路を設けることで他のウェルとのサンプルの接触を失くし、コンタミネーションを抑えることができる。
【0034】
また、本発明の第三の形態に係る試料分析チップによれば、簡易な構成で小型、安価な反応チップを実現することができる。本発明の試料分析チップでは、第一の基材と第二の基材とを組み合わせて、赤外線レーザで融着することにより、チップやチップに固定されている試薬に殆ど影響を与えない密閉型のチップを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第一の形態に係る試料分析チップの一様態の平面図。
【図2】本発明の第一の形態に係る試料分析チップの一様態の平面図。
【図3】本発明の第一の形態に係る試料分析チップの一様態の平面図。
【図4】本発明の第二の形態に係る試料分析チップの一様態の平面図。
【図5】本発明の第二の形態に係る試料分析チップの側路、廃液部及びウェルの配置を示した平面図。
【図6】本発明の第二の形態に係る試料分析チップの一様態の平面図。
【図7】本発明の第二の形態に係る試料分析チップの一様態の平面図。
【図8】本発明の試料分析チップの説明のための斜視図。
【図9】本発明の試料分析チップの説明のための断面図。
【図10】本発明の第三の形態に係る試料分析チップの斜視図である。
【図11】本発明の第三の形態に係る試料分析チップを構成する第一の基材の平面図である。
【図12】本発明の第三の形態に係る試料分析チップの一実施形態における流路とウェルの断面図である。
【図13】実施例1における検出測定結果のグラフ。
【図14】実施例1におけるネガティブコントロール測定結果のグラフ。
【図15】実施例1におけるポジティブコントロール測定結果のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の第一の形態の試料分析チップを図面に基づいて説明する。
図1は本発明の試料分析チップの一様態を示した平面図である。本発明のチップは、基材101上に複数のウェル102と、ウェルに溶液、例えば液体試料(溶液)を送液するための流路を有している。流路は、各ウェルに送液するために、少なくとも各ウェルと連絡する一つの主流路103を有し、さらに主流路とウェルをつなぐ側路105を有する。流路には溶液を注入するための注入口を有する。図1の様態では、主流路の端部に注入口(INLET)及びもう一方の端部に空気の脱出口を兼ねた余剰溶液の出口(OUTLET)を有している。
【0037】
本発明の試料分析チップは当該チップを回転させることにより生じる遠心力により、各ウェル102に配液するものであることから、中央部に回転軸の貫く点(以下、中心点)のある円盤形状であることが好ましいが、チップを貫く回転軸に対して回転可能に形成されて入れば特に制限はない。円盤形状であれば、その中心が回転軸となるようにして、その円盤形状のチップに同心円状になるようにウェルを配置することができるため、スペースが効率的である。均等にウェルに配液するには遠心力を均等に掛けることが重要であるが、チップを、INLET/OUTLET107の領域を除き、中心点を軸とする回転対称性を持つように設計することで容易に実現することができる。すなわち、N個のウェルがあるとすると、N回対称となるようにすると、均等に遠心力を掛けることができる。もちろん、各ウェルの配液量を異ならせる場合には、この限りではない。また同心円状にウェルが配置されていることにより、基材を回転させることによって、一箇所の検査領域で全てのウェルの分析が可能である。
【0038】
主流路103はウェルよりも中心点側に形成されている。さらに、本発明の試料分析チップでは、この主流路が、隣り合うウェルの間で中心点方向に一つの山を有するように形成されていることを特徴とする。ここで隣り合うウェルとは、主流路からウェルへの送液流路が前後しているウェルを意味する。また、中心点方向への山を有するとは中心点方向への極大点(主流路山部103a)を持つことを意味している。このように、隣り合うウェルの間で中心点方向に一つの山を有するように形成することで、主流路に注入された液体が、チップ回転時に主流路山部で自然と途切れるため、各ウェルへの配液量のバラツキを低減することができる。
【0039】
ウェル102と主流路103との連絡箇所、即ち主流路103と側路105との接続箇所は、主流路の山部と山部の間の谷部130bであることが好ましい。谷部とは主流路の山と山との間で最も中心点から距離が遠い箇所である。この箇所でウェルと主流路を連絡することにより、配液時の主流路への溶液の残留を減らすことができる。
【0040】
また主流路103と、ウェル102との連絡口は、後述する試料分析チップを用いた処理方法に記載するように、チップを回転させる前の段階では、ウェルに溶液が浸入しない程度の幅及び断面積である必要がある。
【0041】
また、ウェル102内に空気を残留させないために、ウェルの中心点に最も距離が近い点で主流路と連結することが好ましい。つまり、側路105を形成する場合には、ウェル側の中心点に最も近い点と、主流路側の谷部を結ぶように形成することが好ましい。
【0042】
図2は本発明の試料分析チップの別の一様態を示した平面図である。図2の様態では、主流路の路幅が主流路山部103aで狭く、主流路谷部103bで広くなっている。主流路山部103aに該当する領域に存在する溶液が少ない方が、配液バラツキが少ないため、山部の主流路の断面積は、他の部分の断面積よりも小さいことが好ましい。したがって、山部の流路幅を狭くする、及び/または、深さを浅くすることが好ましい。また同様の理由で山部に近づくにつれて主流路の断面積が小さくなるようにすることが好ましい。
【0043】
さらに、主流路谷部103bの路幅を広げることで、各ウェル102への配液量を制御することができる。したがって、図3の試料分析チップのように山と山との間の流路をチャンバ様とし、主流路山部から隣接する主流路山部までの主流路の容積を任意に設計すれば、同等の容量のサンプルを両山部に挟まれた谷部から連通するウェルに送液することができるため、任意量の溶液を各ウェルに設定することが可能である。
【0044】
またウェル102の容積は1μl以上100μl以下であることが好ましい。1μlより小さいと、遠心力が十分に働かず、ウェルへの送液が行われ辛く、また100μlよりも大きいと、試薬の混合性が低下したり、ウェル内の温度の均一性が低下する、といった現象が生じる可能性がある.
【0045】
また図2の様態では、側路105は中心点の方向から傾いて形成されている。このように側路を傾斜させて形成することにより、遠心力を掛けたときにウェルの空気が側路の内側に沿って主流路方向へ移動し、一方溶液は側路の外側に沿ってウェル方向へ移動するため、スムーズにウェル内へ溶液を移動させることができる。傾斜させる角度としては、中心点の方向と側路との為す角が10度から80度の間であることが好ましい。10度以下だとウェルからの排気とウェルへの溶液の浸入が干渉して溶液の浸入を阻んでしまう場合があり、80度を超えると、側路方向への遠心力が弱く、溶液がウェルへ移動しない場合がある。
【0046】
図3は本発明の試料分析チップのさらに別の一様態である。図3の試料分析チップでは、主流路103の山が中心点方向に対して傾いていることで、側路105に対して主流路の左右の基材平面での面積が不均等に設計されている。側路105に対して左右の主流路が路幅の狭い流路側と、広い流路側が存在し、広い流路側にウェルとの連絡口である側路105が形成されていることで、ウェルから側路へ移動した空気と、主流路の溶液の入れ替わり時に面積が大きい主流路側に偏って気泡と液体の入れ替わりが生じる。このため主流路への残液を減らすことができる。したがって、各ウェルに接続する側路及び主流路を上記のような構成とし、主流路が路幅の狭い流路側と、広い流路側が山部を境に交互に形成されるようにすることで、各チャンバ様主流路で同様の現象が同時に生じるために、配液のバラつきを減少する事ができる。
【0047】
本発明の第二の形態の試料分析チップを図面に基づいて説明する。
図4は本発明の試料分析チップの一様態を示した平面図である。本発明のチップは、基材101上に複数のウェル102と、ウェルに溶液、例えば液体試料(溶液)を送液するための流路を有している。流路は、各ウェルに送液するために、少なくとも各ウェルと連絡する一つの主流路103を有し、さらに主流路とウェルをつなぐ側路105を有する。流路には溶液を注入するための注入口を有する。図4の様態では、主流路の端部に注入口(INLET)及びもう一方の端部に空気の脱出口を兼ねた余剰溶液の出口(OUTLET)を有している。
【0048】
本発明の試料分析チップは当該チップを回転させることにより生じる遠心力により、各ウェル102に配液するものであることから、中央部に回転軸の貫く点(以下、中心点)のある円盤形状であることが好ましいが、チップを貫く回転軸に対して回転可能に形成されて入れば特に制限はない。円盤形状であれば、その中心が回転軸となるようにして、その円盤形状のチップに同心円状になるようにウェルを配置することができるため、スペースが効率的である。均等にウェルに配液するには遠心力を均等に掛けることが重要であるが、チップを、INLET/OUTLET107の領域を除き、中心点を軸とする回転対称性を持つように設計することで容易に実現することができる。すなわち、N個のウェルがあるとすると、N回対称となるようにすると、均等に遠心力を掛けることができる。もちろん、各ウェルの配液量を異ならせる場合には、この限りではない。また同心円状にウェルが配置されていることにより、基材を回転させることによって、一箇所の検査領域で全てのウェルの分析が可能である。
【0049】
主流路103はウェル102よりも中心点側に形成されている。主流路103と、ウェル102との連絡口は、後述する試料分析チップを用いた処理方法に記載するように、チップを回転させる前の段階では、ウェルに溶液が浸入しない程度の幅及び断面積である必要がある。表面張力が関係するため用いる溶液にも拠るが、例えば溶媒が水であるとすると、2×2mm2以下であればこの条件を満たす。
【0050】
ウェル102の容積は1μl以上100μl以下であることが好ましい。1μlより小さいと、遠心力が十分に働かず、ウェルへの送液が行われ辛く、また100μlよりも大きいと、試薬の混合性が低下したり、ウェル内の温度の均一性が低下する、といった現象が生じる可能性がある.
【0051】
また、ウェル102内に空気を残留させないために、ウェルの中心点に最も距離が近い点で主流路と連結することが好ましい。つまり、ウェル側の中心点に最も近い点で、側路105とウェルとが接続するように形成することが好ましい。
【0052】
さらに、本発明の試料分析チップでは、各ウェル102と主流路103を連絡する側路105において、側路ごとに廃液部104が設けられている。廃液部は、側路から分岐した廃液分岐流路104aと、廃液分岐流路に連結した廃液チャンバ104bにより構成することができる。廃液部がウェル102と主流路103とを連絡する側路に設けられていることにより、ウェルに余剰な溶液が送液された際に、廃液部に余剰溶液が送液されて溜められ、一定の容量の溶液がウェルとウェル分岐流路105aに残される。したがって、余剰溶液による配液バラツキを低減させることができる。
【0053】
配液の際に、廃液チャンバ104bよりもウェル102が先に溶液で満たされることで、各ウェルに確実に溶液試料を充填することができる。そのために、廃液チャンバ分岐流路よりもウェル分岐流路に送液されやすいようにすることが重要である。
【0054】
このための方法としては、廃液チャンバ分岐流路104aよりもウェル分岐流路105aの断面積を広くすることで送液時の圧力損失に差が生じ、ウェルに優先的に送液することができる。この手法により、まずウェルが溶液で満たされ、その後余剰溶液を廃液チャンバに送液することができる。したがって、廃液部を断面積の狭い廃液チャンバ分岐流路104aと容量の大きい廃液チャンバ104bからなる構成とすることで、ウェル分岐流路側に送液されやすく、かつ廃液部の容量を調整することができる。なお余剰溶液の廃液量は、ウェルの容量と、廃液チャンバの容量によって調節することができる。遠心送液時の各ウェル間のばらつきが大きいほど廃液チャンバの容量が必要となる。
【0055】
また、別の方法としては、廃液チャンバ分岐流路よりもウェル分岐流路の流路内の表面粗さを小さくすることで送液時の圧損に差が生じ、ウェルに優先的に送液することができる。
【0056】
また、別の方法としては、廃液チャンバ分岐流路の流路表面を撥水処理することにより、送液時の圧損に差が生じ、ウェルに優先的に送液することができる。また逆に、ウェル分岐流路の流路表面を親水処理することにより、送液時の圧損に差が生じ、ウェルに優先的に送液することができる。撥水処理の方法としては、フッ素系材料によるコーティング等が一般的であり、対薬品性も強く、逆に反応への影響も生じない。また、親水処理の手法としてはプラズマ処理やコロナ放電処理などが挙げられ、どちらも一般的な手法と言える。
【0057】
さらに、側路105の形状及び廃液部104の配置によってもウェル側の分岐流路に優先的に送液されやすいようにすることができる。図5(A)、(B)は、側路105とウェル102、廃液チャンバ104bおよび廃液チャンバ分岐流路104aからなる廃液部を模式的に示したものである。実線の矢印は中心点の方向(回転中心方向)を示している。
【0058】
図5の各構成では、側路105は回転中心方向から傾いて形成されている。このように側路を傾斜させて形成することにより、遠心力を掛けたときにウェル102の空気が側路の内側に沿って主流路方向へ移動し、一方溶液は側路の外側に沿ってウェル方向へ移動するため、スムーズにウェル内へ溶液を移動させることができる。傾斜させる角度としては、中心点の方向と側路との為す角が10度から80度の間であることが好ましい。10度以下だとウェルからの排気とウェルへの溶液の浸入が干渉して溶液の浸入を阻んでしまう場合があり、80度を超えると、側路方向への遠心力が弱く、溶液がウェルへ移動しない場合がある。
【0059】
図5(A)図5(B)では、傾いた側路105において、廃液チャンバ分岐流路104aにより廃液部104が側路105から中心点側で分岐している。図5(A)では側路105はウェル102に直進しているパターン、図5(B)では廃液部との分岐点でウェル側の側路(ウェル分岐流路105a)が折れ曲がっているパターンである。廃液チャンバ分岐流路104aの折れ曲がりは、分岐前の側路の傾きと同じ方向に傾いていれば任意の形状とすることができる。また、廃液量が廃液チャンバ分岐流路部分の容量で十分な場合には、廃液部の末端の廃液チャンバ104bがなくともよい。
【0060】
前述のように、溶液に掛かる遠心力により、破線の矢印で示した中心点から外側の流路、すなわちウェル側の分岐流路に先に流れ込むことになり、廃液チャンバ104bよりもウェル102が先に溶液で満たされ、各ウェルに確実に溶液試料を充填することができる。また、図5(B)のようにウェル側の流路を曲げると、ウェル分岐流路105a小さく、あるいはウェルを直接側路の分岐箇所で接続することができることから、ウェルに溶液が充填された後、余剰溶液を廃液チャンバに送液するまでの流路が短くなり、ウェルへの配液バラつきをより低減させることができる。
【0061】
一方、溶液量が所定の容量より少ない場合は、廃液部によって各ウェルの試料容量のバラつきを低減することができないが、主流路の形状を工夫することによって、元々の送液時の送液量のばらつきについても抑えることが可能である。例えば、本発明の第一の形態の試料分析チップと組み合わせた様態の試料分析チップとすることができる。図6および図7に、このような本発明の試料分析チップの別の様態を示した。
なお、下記の様態で説明していない第一の形態の試料分析チップの事項についても、第二の形態と矛盾しない限り、組み合わせて本発明の試料分析チップとすることができる。
【0062】
図6の試料分析チップでは、主流路103が、隣り合うウェルの間で中心点方向に一つの山を有するように形成されている。ここで隣り合うウェルとは、主流路からウェルへの送液流路が前後しているウェルを意味する。また、中心点方向への山を有するとは中心点方向への極大点(主流路山部103a)を持つことを意味している。このように、隣り合うウェルの間で中心点方向に一つの山を有するように形成することで、主流路に注入された液体が、チップ回転時に主流路山部で自然と途切れるため、各ウェルへの配液量のバラツキを低減することができる。
【0063】
ウェル102と主流路103との連絡箇所、即ち主流路103と側路105との接続箇所は、主流路の山部と山部の間の谷部130bであることが好ましい。谷部とは主流路の山と山との間で最も中心点から距離が遠い箇所である。この箇所でウェルと主流路を連絡することにより、配液時の主流路への溶液の残留を減らすことができる。
【0064】
また図6の試料分析チップでは、主流路103の路幅が主流路山部103aで狭く、主流路谷部103bで広くなっている。主流路山部103aに該当する領域に存在する溶液が少ない方が、配液バラツキが少ないため、山部の主流路の断面積は、他の部分の断面積よりも小さいことが好ましい。したがって、山部の流路幅を狭くする、及び/または、深さを浅くすることが好ましい。また同様の理由で山部に近づくにつれて主流路の断面積が小さくなるようにすることが好ましい。
【0065】
さらに、主流路谷部103bの路幅を広げることで、各ウェル102への配液量を制御することができる。したがって、図2bの試料分析チップのように山と山との間の流路をチャンバ様とし、主流路山部から隣接する主流路山部までの主流路の容積を任意に設計すれば、同等の容量のサンプルを両山部に挟まれた谷部から連通するウェルに送液することができるため、任意量の溶液を各ウェルに設定することが可能である。
【0066】
図7は本発明の試料分析チップの別の一様態である。図7の試料分析チップでは、主流路103の山が中心点方向に対して傾いていることで、側路105に対して主流路の左右の基材平面での面積が不均等に設計されている。側路105に対して左右の主流路が路幅の狭い流路側と、広い流路側が存在し、広い流路側にウェルとの連絡口である側路105が形成されていることで、ウェルから側路へ移動した空気と、主流路の溶液の入れ替わり時に面積が大きい主流路側に偏って気泡と液体の入れ替わりが生じる。このため主流路への残液を減らすことができる。したがって、各ウェルに接続する側路及び主流路を上記のような構成とし、主流路が路幅の狭い流路側と、広い流路側が山部を境に交互に形成されるようにすることで、各チャンバ様主流路で同様の現象が同時に生じるために、配液のバラつきを減少する事ができる。
【0067】
次に第一の実施形態及び第二の実施形態に係る本発明の試料分析チップの製造方法について説明する。
【0068】
図8は本発明の試料分析チップの構造の一様態を示した斜視図である。
本発明の試料分析チップはウェル及び流路(主流路及び側路を含む)を形成した第一の基材401に、第二の基材402を貼り合わせることで作製することができる。第一の基材及び第二の基材の少なくとも一方には試料分析装置の具備するチップ回転機構によってチップを回転させるための回転手段として、例えばチップ回転機構に固定するための担持部405を有する。また注入口及び空気の脱出口を兼ねた出口(INLET/OUTLET)のための貫通孔を第一の基材及び第二の基材の一方に、少なくとも一つ形成する。貫通孔は基材を貼り合わせたときに主流路の端部に一致する。以下では、説明の便宜上、蛍光反応等を検出、測定する際に測定する面に位置する基材側を「上側」、下側に位置する側を「下側」とする。
【0069】
基材としては、試料に影響を与えないものであれば特に制限はないが、特にポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリルのいずれかを含む樹脂材料を用いれば、良好な可視光透過性を確保することができる。ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンやポリプロピレンとポリエチレンとのランダム共重合体を使用することができる。また、アクリルとしては、ポリメタクリル酸メチル、または、メタクリル酸メチルとその他のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレンなどのモノマーとの共重合体を使用することができる。また、これらの樹脂材料を使用する場合、チップの耐熱性や強度を確保することもできる。樹脂材料以外としては、アルミニウム、銅、銀、ニッケル、真鍮、金等の金属材料を挙げることができる。金属材料を用いた場合、加えて熱伝導率及び封止性能に優れる。なお貼り合わせる基材のうち少なくとも上側基材のウェル底部を透明とすることで、蛍光等の検出・分析を外部から行うことができる。なお本発明における「透明」及び「光透過性」とは、検出光の波長領域での平均透過率が70%以上であるものとする。可視光領域(波長350〜780nm)で光透過性材料の材料を用いれば、チップ内での試料状態の視認が容易であるが、これに限られるわけではない。
【0070】
ウェル及び流路、廃液部を形成する基材の加工方法としては、樹脂材料の場合には、射出成形、真空成形等の各種樹脂成形法や、機械切削などを用いることができる。金属材料の場合には、厚手の基材を用いた研削加工やエッチング、薄手の金属シートにプレス加工や絞り加工を施すことで形成することができる。
【0071】
また、第1の基材として特にポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリルのいずれかを含む樹脂材料を用いた場合、良好な光透過性、耐熱性、強度を確保することができる。また、第1の基材の厚みが50μm〜3mmの範囲にある場合、良好な光透過性、耐熱
性、強度を確保でき、凹部の加工を確実に行うことができる。
【0072】
また、第2の基材の厚みが10μm〜300μmの範囲にある場合、第2の基材の熱伝導性及び封止性の双方を満足することができる。第2の基材の厚みが300μmよりも大きいと、熱容量が大きくなり、熱応答性が低下するおそれがある。
【0073】
図9に本発明の試料分析チップの断面図を示した。第一の基材401には、チップを貫通する溶液の注入口203と、注入液がチップに流れ込むための主流路となる溝103と、チップの外周部に延びた各ウェルと連通する側路となる溝105と、チップの外周部のウェルとなる窪み102とが成形されている。なお図5の断面図は注入口(INLET/OUTLET)からウェルまでの経路を模式的に示したものであり、主流路及び側路の形状はこれに限られない。注入される溶液をすべてのウェルに充満するためには、主流路の容積は、各ウェルの容積の合計より大きい必要がある。ただし、ウェルに試薬501が固定されている場合、その分反応ウェルに入れる液体試料の量が減るため、流れ込む流路の容積をその分減少してもよい。蛍光反応や測定のため、第一基材側で検出測定を行なう場合には、ウェルの凹部が光を散乱させない平滑な形状となっていることが好ましい。
【0074】
基材を貼り合わせる前に、ウェル102に反応用の試薬501を固定する。各ウェルで異なる試薬を用いることができる。各反応ウェルにそれぞれ異なる試薬を固定することによって、1つ検体(試料)に対して複数の処理を施すことができる。また、実際反応を行うための試薬の一部を各ウェルに固定し、残りの試薬は液体試料と一緒に導入するようにしてもよい。
【0075】
試薬501の固定方法としては、例えば第1の基材のウェル部分に液体試薬をピペット等で滴下し、第一の基材401を遠心装置で2000〜3000rpm、5分程度遠心することで適量の液体試薬が液面を平坦な状態で残存するようにして、これを乾燥させることでウェルに固定することができる。
【0076】
また、試薬をウェルに固定した後、ワックス502を滴下してもよい。具体的には、ワックスをホットプレート上に溶融させ、ピペットを用いて乾燥させた試薬を覆うように滴下する。このとき、ワックスは数秒で固化する。ワックスは、試薬をウェルの凹部に固定させる役割を有する。
【0077】
基材の貼り合わせ方法としては、一方の基材に接着層として樹脂コーティング層を設け、これを溶融させて両基材を接着する方法が挙げられる。樹脂コーティング層は、熱伝導率の高い金属材料基材に設けて溶融接着することが好ましい。樹脂コーティング層の材料としては、PETやポリアセタール、ポリエステルやポリプロピレン等の樹脂材料を用いることができる。
【0078】
この貼り合わせ方法においては、微細加工しやすく、蛍光測定に好適な光透過性の樹脂材料を第一の基材に用い、第二の材料としては熱伝導率が高く樹脂コーティング層を設けて溶融接着による貼り合わせが容易な金属材料を用いることが好ましい。また金属基材表面に樹脂コーティング層を形成することにより、材料を選定する際に金属基材自体の耐薬品性は考慮しなくて良い。
【0079】
また、基材表面に樹脂コーティング層を形成する際、樹脂コーティング層の下地としてアンカー層を形成することによりレーザを用いた融着が可能である。アンカー層にはレーザ波長光を吸収するカーボンブラック(光吸収性材料)が練り込まれており、レーザ光を照射することにより発熱して樹脂コーティング層を溶融接着することができる。あるいは、アンカー層にカーボンブラックを添加することに代えて、樹脂コーティング層にカーボンブラックを添加したり、樹脂コーティング層の表面を黒色に塗装したりしても良い。例えば波長900nm程度の赤外光フォトダイオードレーザーの光を照射することによっても樹脂コーティング層を効率良く溶融することができる。レーザ溶着は、熱溶着と異なり、チップを加熱する必要がないことから、チップやチップに固定されている試薬に殆ど影響を与えずに 基材の貼り合わせをすることができる。
【0080】
本発明の第三の形態の試料分析チップ及びその製造方法を図面に基づいて説明する。
なお、説明の便宜上、蛍光反応等を検出、測定する際に測定する面の側に位置する基材側を「上側」、下側に位置する側を「下側」とする。
【0081】
図10は、本発明の第三の形態に係る試料分析チップの斜視図である。図10に示した本発明の試料分析チップの形態では、上側の第一の基材401’と、下側の第二の基材402’の2つの部材を組み合わせて形成されており、第一の基材には試薬等の溶液を送液するための流路と、溶液と試薬類とを反応させるためのウェルが形成されている。また第一の基材又は第二の基材に、形成された流路に溶液を注入するために注入口及び空気の脱出口を兼ねた出口として少なくとも一つの貫通孔403が設けられている。
【0082】
図11に、第一の基材上に形成されたウェル102及び流路(主流路又は注入部103、側路105)の例を示した。本発明のチップは、基材101上の外周部の複数のウェル102と、ウェルに溶液、例えば液体試料を送液するための流路を有している。流路は図11A又は図11Bのような形状で注入口から溶液を注入する主流路又は注入部103と、各ウェルに配液するために主流路又は注入部とウェルとを連絡する側路105を有する。
【0083】
また、本発明の第三の形態に係る試料分析チップは、矛盾しない限り、第一の形態及び第二の形態に係る本発明の事項と組み合わせて本発明の試料分析チップとすることができる。例えば、主流路103の形状を第一の形態で示した波状の形状としてもよく、あるいは側路105に廃液部を有する形状としても良い。また、第一の形態あるいは第二の形態以外の構成と組み合わせても良い。
【0084】
本発明の試料分析チップは当該チップを回転させることにより生じる遠心力により、各ウェル102に配液するものである。遠心力による送液の利点は、各ウェル102に排気のための開口部を設置する必要がなく、遠心力によって、溶液試料と各ウェルにある空気を置換してウェルに入ることができることである。このことによりウェルの密閉性を高めることができ、外部からの汚染を防ぐことができる。チップを回転させることから、チップの形状は中央部に回転軸の貫く点(以下、中心点)のある円盤形状であることが好ましいが、チップを貫く回転軸に対して回転可能に形成されて入れば特に制限はない。円盤形状であれば、その中心が回転軸となるようにして、その円盤形状のチップに同心円状になるようにウェルを配置することができるため、スペースが効率的であるまた同心円状にウェルが配置されていることにより、基材を回転させることによって、一箇所の検査領域で全てのウェルの分析が可能である。
【0085】
外部の回転機構によりチップを回転させるための回転手段として、例えば図10で示したような担持部405が第一の基材に設けられている。
【0086】
本発明の試料分析チップは、第1の樹脂基材401’が、可視光を透過する光透過性樹脂基材であり、また第2の樹脂基材402’は、赤外線透過性を有する。このような構成とすることで、赤外線レーザによって第一の基材の第二の基材との界面の部分を溶融し、接着することにより製造することが可能である。レーザ溶着は、熱溶着に比べ、チップ製造時に、チップやチップに固定されている試薬に殆ど影響を与えないことが最大の利点である。感圧接着剤の使用に比べて、接着剤によるウェル内の試薬の汚染がなく、溶着したチップの耐熱性や耐水性を十分に確保することができる。以下、さらに詳細に説明する。
【0087】
ウェルの蛍光測定を行うためには、測定する面の側に位置する第一の基材401’の少なくともウェル102部分が750nm以下の可視光を透過する光透過性を有することが必要である。少なくとも蛍光波長において50%以上の平均透過率であることが好ましく、より好ましくは70%以上の平均透過率である。このため、第一の基材としてポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリルのいずれかを含む樹脂材料を用いることが好ましい。これらの材料を用いることで、良好な可視光透過性を確保することができる。ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンやポリプロピレンとポリエチレンとのランダム共重合体を使用することができる。また、アクリルとしては、ポリメタクリル酸メチル、または、メタクリル酸メチルとその他のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレンなどのモノマーとの共重合体を使用することができる。また、これらの樹脂材料を使用する場合、チップの耐熱性や強度を確保することもできる。
【0088】
また、第一の基材401’の厚みが0.05mm〜3mmの範囲にある場合、良好な可視光透過性、耐熱性、強度を確保でき、流路とウェルの加工を確実に行うことができる。なお、第一の基材は射出成形、真空成形等の各種樹脂成形法や、機械切削などを用いることができる。第一の基材側にウェル102、流路及び担持部405を形成することによって、赤外線照射側である第二の基材を板状あるいはフィルム状の基材とすることができ、後述のように、融着ムラのない張り合わせが可能である。また第一の基材の少なくともウェルの底部は、蛍光反応等の光学測定のため、平坦な面を形成する。
【0089】
また、赤外線レーザで第一の基材401と第二の基材402’を溶着する際、レーザ溶着の効率を上げるため、第一の基材は赤外線レーザに対して光吸収性であることが好ましい。特に第一の基材の少なくとも張り合わせ面を含む一部が赤外線吸収することにより、樹脂を溶融させ、接着することが容易である。
【0090】
また第一の基材401’に赤外線吸収剤を含有することによって、赤外線レーザ光を吸収し、赤外線の光エネルギーを熱エネルギーに変換する効率を上げることができる。また赤外線吸収剤を含有させることで赤外線部分に吸収がない樹脂を用いることができる。赤外線レーザ光は、一般的に750nm以上の波長を有する半導体レーザを使用することによって得られる。したがって、赤外吸収剤としては、750nm以上の領域に最大吸収波長を有する化合物、いわゆる色素化合物を使用することができる。色素化合物は、一般的に染料と顔料の2つの種類に分けることができるが、樹脂基材との相溶性や透明性の観点から、染料タイプのものが好ましい。さらに可視光領域の透明性を確保するため、できるだけ750nm以下の可視領域に吸収の少ない赤外線吸収剤が好ましい。具体的な例としては、BASF社のLumogen(登録商標)IR765、Lumogen(登録商標)IR788などが挙げられる。
【0091】
例えば、ポリプロピレンを樹脂基材として使用される場合、ポリプロピレンは赤外線部分に吸収がないため、プロピレン樹脂に赤外線吸収剤を添加することが必要である。具体的には、一例として、予めプロピレン樹脂100重量部に対して赤外線吸収剤を0.01重量部添加し、コンパウンドし赤外線吸収剤含有のプロピレン樹脂ペレットを作製する。これを用いて射出成形によって本実施形態の試料分析チップの第一の基材が作製される。また、予めプロピレン樹脂100重量部に対して赤外線吸収剤を0.1重量部添加し、赤外線吸収剤含有のプロピレン樹脂マスターバッチを作製する。そして、射出成形を行う際、前記の赤外線吸収剤含有のプロピレン樹脂マスターバッチとプロピレン樹脂との一定の割合で混合して射出成形を行うことによって、赤外線吸収剤の含有量を調整することができる。
【0092】
第二の基材402’としては、赤外線レーザに対して透過性を有することが必要である。第二の基材に用いる材料としては、第一の基材と同じ又は近い組成を有する樹脂が好ましい。例えば、第一の基材にポリプロピレンを使う場合、第二の基材はホモポリプロピレンやポリプロピレンとポリエチレンとのランダム共重合体が好ましい。組成の同じ又は近い樹脂同士は、一般的に接着しやすい。また、組成の同じ又は近い樹脂は、普通溶融温度の差が小さい。これによって、レーザ溶着の効果を挙げることができる。
【0093】
第二の基材402’は、第一の基材と同様な方法でウェル102、流路及び担持部405を形成することが可能であるが、両面が平滑面の板状あるいはフィルム状の基材であることが好ましい。板状あるいはフィルム状の基材であれば、基材の膜厚差等に起因する融着ムラがなく第一の基材と第二の基材を密着性よく張り合わせるができる。また、第二の基材の厚みは、0.01mm〜2mm、より好ましくは、0.05〜0.5mmの範囲にあれば、第二の基材の溶着性や強度を確保することができる。さらに、第二の基材は、ヒートブロックと接するため、前記の厚みであれば、十分な熱効率を得ることができる。
【0094】
図12は、図11Bの試料分析チップの破線Sでの断面図である。注入される液体試料をすべてのウェルに充満するため、注入口と連通している主流路の容積は、各ウェルの容積の合計より大きい必要がある。ただし、ウェルに試薬が固定されている場合、その分ウェルに入れる液体試料の量が減るため、主流路の容積をその分減少してもよい。
【0095】
図12に示す本発明の試料分析チップでは、各ウェルに試薬が固定されている。各ウェルにそれぞれ異なる試薬を固定することによって、1つ検体(試料)に対して複数の処理を施すことができる。また、実際反応を行うための試薬の一部を各ウェルに固定してもよい。残りの試薬は液体試料と一緒に導入することができる。
【0096】
基材を張り合わせる前に、ウェル102に反応用の試薬501を固定する。各ウェルで異なる試薬を用いることができる。各反応ウェルにそれぞれ異なる試薬を固定することによって、1つ検体(試料)に対して複数の処理を施すことができる。また、実際反応を行うための試薬の一部を各ウェルに固定し、残りの試薬は液体試料と一緒に導入するようにしてもよい。これによって、チップの保存性が向上すると共に各ウェルに異なる反応を行うことができ、複数の検査を同時に施すことができる。
【0097】
試薬501の固定方法としては、例えば第1の基材401’のウェル部分に液体試薬をピペット等で滴下し、第一の基材を遠心装置で2000〜3000rpm、5分程度遠心することで適量の液体試薬が液面を平坦な状態で残存するようにして、これを乾燥させることでウェルに固定することができる。
【0098】
さらに、試薬をウェルに固定した後、ワックス502を滴下してもよい。具体的には、ワックスをホットプレート上に溶融させ、ピペットを用いて乾燥させた試薬を覆うように滴下する。このとき、ワックスは数秒で固化する。ワックスは、試薬をウェルの凹部に固定させる役割を有する。
【0099】
次に、本発明の試料分析チップにおいては、第一の基材側401’のウェル102の窪みに試薬を固定した後、赤外線レーザで第一の基材と第二の基材402’とを溶着させることによって、密閉型のチップが製造される。赤外線レーザとしては、第一の基材表面を溶融させることができれば特に制限はないが、赤外線の波長としては800〜1200nmがレーザ溶着に好都合で好ましい。実用的な観点から、レーザ溶着機の出力は30以上であることが好ましい。例えば、出力30〜250Wのレーザ機は一般的に市販されているので、これらのレーザ機を使えば特に問題ない。具体的には、第一の基材と第二の基材を貼り合せて、例えば波長808nm程度の赤外光フォトダイオートレーザを用いて、第二の基材側からレーザビームを一定の速度でスキャンしチップを照射することによって、第一の基材を第二の基材が溶着される。レーザの出力パワーとスキャン速度を調整することによって、レーザ溶着は効率よく行うことができる。以上の工程で、試料分析チップの製造が完了する。
【0100】
次に本発明の各実施形態の試料分析チップを用いた試料分析方法について説明する。
【0101】
本発明の試料分析チップは、例えば、DNA、たんぱく質等の試料において生化学物質の検出や分析に用いることができる。各ウェル102に試薬を固定し、液体試料を各ウェルに配液する。この場合には各ウェルで異なる試薬を用いることができる。あるいは試料を各ウェルに固定し、液体試薬を各ウェルに配液する。この場合には各ウェルで異なる試料を用いることができる。
【0102】
次に第一の基材401と第二の基材402を貼り合わせた本発明の試料分析チップに対して、まず、注入口403(107)から試薬等の溶液を主流路103に注入する。この段階では、主流路のみが溶液で満たされ、前述のように側路には浸入していない。これは、溶液の表面張力と、ウェル側には空気の抜け穴がないことによりウェル側からの空気圧があるためである。試料分析方法に用いる試料分析装置にはこのような溶液注入手段を備えていてもよい。
【0103】
次に、試料分析方法に用いる試料分析装置には試料分析チップを回転させるためのチップ回転機構を有する。チップ回転機構には、公知一般の遠心装置を用いることができる。試料分析装置に試料分析チップを設置し、回転機構によりチップの中心点でチップの垂直方向を回転軸として、チップを回転させる。回転速度としては溶液に掛かる遠心力が前述の空気圧と表面張力に打ち勝って、ウェルに流入する回転速度が必要である。チップの形態にも寄るが、約1000rpm以上であることが好ましい。チップの回転速度が約1000rpmより小さいと、ウェルに溶液が流入せず、液量が一定にならないおそれがある。
【0104】
液体試料の配液後、試料・試薬の反応を阻害しないオイルを同様の工程で各ウェルに配液してもよい。オイルの注入によって、反応中に液の蒸発を防ぐことができる。オイルには先に配液した溶液よりも比重が軽いものを用いる必要がある。チップを回転させ、遠心力によって配液した際に、側路側で各ウェルの栓の役割をするためである。オイルの種類としては、試料・試薬の反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、ミネラルオイルやシリコンオイルを好適に用いることができる。
【0105】
ワックス502を試薬の固定に用いる場合には、試料分析装置に電熱線等からなるヒータやペルチェ素子を用いた温度制御手段を備えていてもよい。ワックスの融点以上にチップを加熱することでワックスを溶融させ、ウェル内で試薬と溶液(試料)を混合させることができる。また当該温度制御手段は、例えばPCR反応等の試薬の反応制御にも用いることができる。
【0106】
その後、ウェルで試薬及び試料を混合し、反応状態を蛍光検出等の手法によって分析することができる。試料分析装置は、試料分析チップの基材上側のウェルの位置で測定を行なうための検出測定手段を有する。回転機構によりチップを回転させて、所定のウェルを測定することができる。本発明の試料分析チップでは基材の上側を透明とすることで、チップの外部から光学的測定を行なうことが可能である。
【0107】
以上のように各工程で試料分析チップに作用させる機構を備えることで、省スペースかつ試料分析の容易な試料分析装置とすることができる。
【0108】
次に本発明の試料分析方法の例を説明する。
【0109】
遺伝子解析の1例としては、例えば体細胞変異の検出や、生殖細胞変異の検出が挙げられる。遺伝子型の違いによって、発現するタンパク質の種類等が異なるため、例えば薬の代謝酵素の働きの違いを生み、結果として薬の最適投与量や副作用の出やすさ等に個人差が生じる。この事を医療現場で利用し、各患者の“遺伝子型”を調べる事で、オーダーメイド医療を行うことが出来る。
【0110】
・SNPsの検出
ヒトゲノムの中には、その約0.1%に個人特有の塩基配列の違いが存在し、SNP(Single Nucleotide Polymorphism)と呼ばれおり、生殖細胞変異のひとつである。SNPの特定方法の一つとして、例えば蛍光を用いたPCR‐PHFA(PCR−Preferential Homoduplex Formation Assay)法が利用されている。PCR‐PHFA法は検出変異部位を増幅するPCR工程と、増幅断片と対応プローブによる競合的鎖置換反応工程から成り立っている。当該方法によれば、蛍光試薬の発光差によって変異を検出するが、本発明の試料分析チップを用いることで、各ウェルの配液バラツキが少ないため、正確なSNPs検出を行うことが出来る。また上記以外のSNP検出方法としてインベーダー法(登録商標)、Taqman PCR法等についても同様に本発明の試料分析チップを用いることが可能である。
【0111】
以下に、本発明を用いてワルファリン(抗血液凝固剤。心臓病や高血圧用の薬として用いられる)に対する副作用に関与するSNPついてPCR‐PHFA法を使った解析例を説明する。
【0112】
血液などから得られる検体核酸を精製して、溶液試料とする。本発明の試料分析チップに注入前または注入後配液前に、検体核酸の増幅を行なう。なお、ワルファリンに関与するSNPの検出にはVKORC1やCYP2C9内のSNPが議論されることが多く、CYP2C9*2やCYP2C9*3などが有名である。検体からこれらのSNPを含む遺伝子断片をマルチプレックスPCRにて増幅する。
【0113】
上記の検出方法では、一つのSNPを判定するために2つの検出用のウェルが必要となるので1検体試料につき10個以上のウェルが形成された試料分析チップを使用すると良く、それぞれのウェルに競合的鎖置換反応を行うためのSNP検出用の試薬を固定する。
【0114】
上記PCRにより核酸が増幅された試料を、各ウェルに配液充填する。各ウェルを温調し、前記試薬に混入された蛍光試薬の発光差によって変異を検出する。一つのSNPに対し2つのウェルのうち一つのみ陽性反応ならばホモ、二つ陽性ならヘテロと判定することができる。
【0115】
・K‐ras遺伝子変異の検出
上がん細胞に特徴的な変異、また分子標的薬に抵抗性を示す変異はそのほとんどが体細胞変異である.生殖細胞変異(SNPなど)の場合、どの細胞でも共通の変異が見られるのに対し、体細胞変異では変異を起こした細胞でのみ変異がみられ、変異を起こしていない細胞(通常は正常細胞)では変異は見られない.
【0116】
つまり、試料のうちの多くは正常細胞で一部変異細胞が含まれる場合、多くの正常な遺伝子中に存在するわずかな変異遺伝子を検出しなければならず、この点が生殖細胞における変異検出と異なる点で、体細胞の遺伝子変異検出をより困難にしている点である.
【0117】
K‐ras遺伝子は変異ががん細胞に存在すると分子標的薬がほとんどの患者群で奏効しないことが示された遺伝子であり、この遺伝子を簡便、迅速、安価、高精度に検出することが希望されつつある。
【0118】
以下に、K‐ras遺伝子のPCR‐PHFA法での解析例を説明する.
【0119】
上記遺伝子変異の検出用のウェルにはプローブ核酸を含む試薬が固定される。K‐ras遺伝子の検出は野生型と13種類の変異があるので少なくとも14のウェルが形成された本発明の試料分析チップを使用し、当該ウェルのそれぞれに対応した試薬が固定化されていることが好ましい。
【0120】
大腸癌などのがん細胞を採取し、検体核酸を精製して、溶液試料とする。本発明の試料分析チップに注入前または注入後配液前に、検体核酸の増幅を行なう。
【0121】
上記PCRにより核酸が増幅された試料を、各ウェルに配液充填する。ウェルを温調し、前記試薬に混入された蛍光試薬の発光差によって変異を検出することができる。
【0122】
(実施例)
以下に本発明における実施例を示すが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0123】
<実施例1>
実施例1では、本発明の試料分析チップをSNPs解析チップとして用いた例を示す。
SNPsチップ基材として、ポリプロピレン樹脂を用いて、図2に示すような円盤状の外形を持ち、同心円上に波状の主流路103と、主流路谷部103bに連絡口を持つ側路105と、側路の末端にウェル102を有するチップを射出成形により形成した。この基材(ポリプロピレン基材)にはそれぞれ23個のウェル及び側路が形成されている。また主流路は周期的に面積を変え、隣接する主流路山部103aの間の主流路の容積は12μlとなるように設計した。
【0124】
上記ポリプロピレン基材と貼り合わせる第二の基材として、樹脂コーティング層としてポリプロピレン樹脂がコーティングされたアルミシート基材を用いた。樹脂コーティング層には、厚みが約0.07mmのものを使用した。樹脂コーティング層は融点が120度前後であり、アルミニウム側に熱を与えれば溶融するように該アルミ基材にコーティングされている。
【0125】
さらに、アルミニウム層と樹脂コーティング層の間にカーボンを練りこんだアンカー層が設けられ、レーザ光照射による発熱でも樹脂コーティング層が溶融する構成となっている。
【0126】
該ポリプロピレン基材上のウェルにはインベーダー反応用プローブ試薬とDNAポリメラーゼ、クリベースといった酵素類をピペットで滴下し乾燥固定させた。
【0127】
該ポリプロピレン基材と該アルミ基材を重ね合わせ、アルミ基材側に130度以上の熱を加えることで、該樹脂コーティング層を溶融させて該ポリプロピレン基材とアルミ基材を溶着した。
【0128】
上記の工程で作製したチップに、精製されたゲノムを加えたバッファ溶液を溶液試料としてピペットにて送液し、主流路103に充填した。この段階ではウェル及び側路には試料は浸入していなかった。
【0129】
なお上記各試薬類は下記表1に記載した分量で用いた。
【0130】
【表1】
【0131】
送液後、5000rpmにてチップ中心を軸としてチップを回転させたところ、各ウェルには11μlの試料が送液された。チップに遠心力を与える手段として、化学、生物反応における試薬の分離などに用いられる卓上小型遠心機を利用した簡易な遠心装置を作成し、これを用いた。遠心時の回転数は回転数測定器にて測定して調整した。
【0132】
なお、遠心時のチップの回転方向に関しては、側路の傾き方向に対していずれの方向に回転させた場合でも回転数の増加中はチップ内の液挙動に影響を及ぼすが、ウェルの配液のばらつきに影響しない事が確認できた。
【0133】
続いて、反応に阻害の無いミネラルオイルを同様の手法で送液したところ、試料はウェルを満たし、残った溶液で側路の半分程度を満たし、オイルは側路の残り半分と流路谷の8割を満たした。
【0134】
なお、本実施例はウェル22箇所に反応用試薬としてインベーダー反応用プローブを固定した。また、反応結果の成否を判定するために、コンタミネーションの有無の確認としてネガティブコントロールを1箇所に設定し、1枚のチップ上で反応試験を行った。
【0135】
該反応容器がオイルによって独立した状態の試料分析チップに95℃と68℃を交互に35サイクルかけ、PCR反応によってサンプルのゲノムを増幅する。続いて、63℃で30min温調することにより、酵素反応によりウェル内で蛍光検出反応を生じる。
【0136】
また、このときチップのポリプロピレン基材側は透明であることから、蛍光検出をポリプロピレン基材を通して外部から行った。本実施例では光電子増倍管と光ファイバを組み合わせた蛍光検出装置によって上記蛍光反応を測定した。
【0137】
図13及び14は本実施例によって検出された蛍光反応によるSNPsの解析結果のグラフである。各グラフの縦軸は検出された光の強度であり、蛍光の強度を示す。横軸は時間軸である。
【0138】
図13は反応を行った1つのウェルの結果であり、所定の時間内に混合した試薬類による蛍光検出反応が生じていることが確認された。
【0139】
図14は試薬類をあらかじめ固定していないウェルのため、蛍光反応は検出されなかった。これにより両隣からのコンタミネーションは生じていないことが確認された。
【0140】
また、図15はポリプロピレン製のチューブにて一般的な手法で最適の分量比で試薬類とサンプルを混合して得られた検出データである(ポジティブコントロール)。図6と図8を比較すると、図15が示す本実施例によるチップ内の反応は図8の反応と一致していることから、本実施例では最適な分量比による反応であることが確認できる。これにより、所望した量のサンプルを配液できていることが分かる。
【0141】
本実施例1のように本発明では貼り合わせる基材を反応に合った材質で選定することで、より簡易に、かつ短時間で効率よく反応工程を行うことが可能となった。
【0142】
<実施例2>
実施例2として、別の流路の形状の本発明試料分析チップの検討を行なった。
【0143】
本実施例では、図3に示した形状の試料分析チップを作製した。実施例1では生化学反応の阻害物質の混合を防ぐために耐薬品性の高いポリプロピレン樹脂を射出成形することによりチップを製作したが、流路形状の検討を行うために今回はアクリル樹脂をφ6mmからφ0.4mmまでのエンドミルによって機械切削加工し、流路形状を形成した。
【0144】
実施例1で使用した図2の形状の試料分析チップ(チップ1)及び上記図3の形状の試料分析チップ(チップ2)にブロモフェノールブルー色素で色付けをした純水を主流路に送液し、実施例1同様に5000rpmで円形状のチップの中心を軸に回転させ、10回の試行でばらつきを計測した。なお、いずれの試料分析チップも各ウェルに均等に送液されたと想定した場合の液量は12μlである。
【0145】
チップ1では、送液量は最小値で9.5μl、最大値で14.0μlであった。これに対し、チップ2でのばらつきは最小値で11.0μl、最大値で12.5μlとなり、配液量のばらつきをさらに大きく抑制できる事が示された。
【0146】
<実施例3>
実施例3における本発明に係る試料分析チップの第一の基材401として、ポリプロピレン樹脂を用いて、図7に示すような円盤状の外形を持ち、同心円上に波状の主流路103と、主流路谷部103bに連絡口を持つ側路105と、側路の末端にウェル102を有し、さらに側路から分岐したウェル分岐流路105aと廃液チャンバ分岐流路104a、及び廃液チャンバ105bを有するチップを射出成型により形成した。この基材(ポリプロピレン基材)にはそれぞれ23個のウェル及び側路が形成されている。主流路は周期的に面積を変え、主流路の山と山の間の谷部103bの容積は15μlとなるように設計し、また、ウェル分岐流路の容積が、2μl、ウェルの内容積が11μl、廃液チャンバの容積が5μlとなるように設計した。
【0147】
上記ポリプロピレン基材と貼り合わせる第二の基材402として、樹脂コーティング層としてポリプロピレン樹脂がコーティングされたアルミシート基材を用いた。樹脂コーティング層には、厚みが約0.07mmのものを使用した。樹脂コーティング層は融点が120度前後であり、アルミニウム側に熱を与えれば溶融するように該アルミ基材にコーティングされている。
【0148】
さらに、アルミニウム層と樹脂コーティング層の間にカーボンを練りこんだアンカー層が設けられ、レーザ光照射による発熱でも樹脂コーティング層が溶融する構成となっている。
【0149】
該ポリプロピレン基材上のウェルにはインベーダー反応用プローブ試薬とDNAポリメラーゼ、クリベースといった酵素類をピペットで滴下し乾燥固定させた。
【0150】
該ポリプロピレン基材と該アルミ基材を重ね合わせ、アルミ基材側に130度以上の熱を加えることで、該樹脂コーティング層が溶融させて該ポリプロピレン基材とアルミ基材を溶着した。
【0151】
上記の工程で作製したチップに、精製されたゲノムを加えたバッファ溶液を溶液試料としてピペットにて送液し、主流路103に充填した。この段階ではウェル及び側路には試料は浸入していなかった。
【0152】
なお上記各試薬類は実施例1の表1に記載した分量と同様の分量で用いた。
【0153】
送液後、5000rpmにてチップ中心を軸としてチップを回転させたところ、各ウェルとウェル分岐流路が満たされ、廃液チャンバには0.5μl〜3μlの溶液が溜められた。各ウェルには11μlの試料が送液された。チップに遠心力を与える手段として、化学、生物反応における試薬の分離などに用いられる卓上小型遠心機を利用した簡易な遠心装置を作成し、これを用いた。遠心時の回転数は回転数測定器にて測定して調整した。
【0154】
なお、遠心時のチップの回転方向に関しては、側路の傾き方向に対していずれの方向に回転させた場合でも回転数の増加中はチップ内の液挙動に影響を及ぼすが、ウェルの配液のばらつきに影響しない事が確認できた。
【0155】
続いて、反応に阻害の無い試薬類表(表1)記載のミネラルオイルを同様の手法で送液したところ、試料はウェルを満たし、残った溶液で側路の半分程度を満たし、ミネラルオイルはウェル分岐流路と廃液チャンバ分岐流路及び側路を完全に満たし、主流路の一部を満たした。
【0156】
なお、本実施例はウェル22箇所に反応用試薬としてインベーダー反応用プローブを固定した。また、反応結果の成否を判定するために、コンタミネーションの有無の確認としてネガティブコントロールを1箇所に設定し、1枚のチップ上で反応試験を行った。
【0157】
該反応容器がオイルによって独立した状態の試料分析チップに95℃と68℃を交互に35サイクルかけ、PCR反応によってサンプルのゲノムを増幅する。続いて、63℃で30min温調することにより、酵素反応によりウェル内で蛍光検出反応を生じる。
【0158】
また、このときチップのポリプロピレン基材側は透明であることから、蛍光検出をポリプロピレン基材を通して外部から行った。本実施例では光電子増倍管と光ファイバを組み合わせた蛍光検出装置によって上記蛍光反応を測定した。
【0159】
測定の結果、実施例1と同様に、各ウェルに配液された試薬により、所定の時間内に混合した試薬類による蛍光検出反応が生じていることが確認され、一般的な手法で最適の分量比で試薬類とサンプルを混合して得られた検出データと同様の結果が得られた。また、ネガティブコントロールのウェルでは、蛍光反応は検出されなかった。これにより両隣からのコンタミネーションは生じていないことが確認された。
【0160】
<実施例4>
本発明の試料分析チップの実施例として、図11(B)及び図3に記載された試料分析チップを作製した。第一の基材401’は、ポリプロピレン樹脂を用いて射出成形により加工した。側路105の幅は約1mmであり、ウェル102は上部が平坦な台形になっており、ウェル底部の直径は約3mmで、容積約7μlである。
【0161】
ポリプロピレンは赤外線部分に吸収がないため、プロピレン樹脂に赤外線吸収剤を添加することが必要である。本実施例では、予めプロピレン樹脂100重量部に対して赤外線吸収剤としてBASF社のLumogen(登録商標)IR765を0.01重量部添加し、混合して赤外線吸収剤含有のプロピレン樹脂ペレットを用意し、これを用いて射出成形により上記試料分析チップの第一の基材を作製した。
【0162】
また第二の基材402’として、厚み約0.15mmのプロピレンフィルムを使用した。
【0163】
第一の基材401’上のウェルにはインベーダー反応用プローブ試薬とDNAポリメラーゼ、クリベースといった酵素類をピペットで滴下し乾燥固定させた。
【0164】
第一の基材401’と第二の基材402’を重ね合わせ、波長808nm、出力140Wの赤外光フォトダイオートレーザを用いて、第二の基材側からレーザビームを一定の速度でスキャンしチップを照射することによって、第一の基材を第二の基材を溶着した。
【0165】
上記の工程で作製したチップに、バッファ溶液と精製されたゲノムを加えたバッファ溶液を溶液試料としてピペットにて送液し、主流路103に充填した。この段階ではウェル及び側路には試料は浸入していなかった。
【0166】
なお上記各試薬類は実施例1の表1に記載した分量と同様の分量で用いた。
【0167】
送液後、5000rpmにてチップ中心を軸としてチップを回転させたところ、各ウェルに11μlの試料が送液された。チップに遠心力を与える手段として、化学、生物反応における試薬の分離などに用いられる卓上小型遠心機を利用した簡易な遠心装置を作成し、これを用いた。遠心時の回転数は回転数測定器にて測定して調整した。
【0168】
続いて、反応に阻害の無い試薬類表(表1)記載のミネラルオイルを同様の手法で送液したところ、試料はウェルを満たし、残った溶液で側路の半分程度を満たした。
【0169】
なお、本実施例はウェル22箇所に反応用試薬としてインベーダー反応用プローブを固定した。また、反応結果の成否を判定するために、コンタミネーションの有無の確認としてネガティブコントロールを1箇所に設定し、1枚のチップ上で反応試験を行った。
【0170】
該反応容器がオイルによって独立した状態の試料分析チップに95℃と68℃を交互に35サイクルかけ、PCR反応によってサンプルのゲノムを増幅する。続いて、63℃で30min温調することにより、酵素反応によりウェル内で蛍光検出反応を生じる。
【0171】
また、このとき蛍光検出をチップの第一の基材401’側の外部から行った。本実施例では光電子増倍管と光ファイバを組み合わせた蛍光検出装置によって上記蛍光反応を測定した。
【0172】
測定の結果、実施例1と同様に、各ウェルに配液された試薬により、所定の時間内に混合した試薬類による蛍光検出反応が生じていることが確認され、一般的な手法で最適の分量比で試薬類とサンプルを混合して得られた検出データと同様の結果が得られた。また、ネガティブコントロールのウェルでは、蛍光反応は検出されなかった。これにより両隣からのコンタミネーションは生じていないことが確認された。
【0173】
(産業上の利用可能性)
本発明の反応チップは、例えば核酸等の試料において生化学物質の検出や分析に用いることができる。特にSNPの変異を検出できることから、がんなどの遺伝子、生殖細胞や体細胞遺伝子の変異を検出する手法へ利用することができる。また、複数の溶液を混合する容器、反応容器として利用することが可能である。
【0174】
(産業上の利用可能性)
本発明の反応チップは、例えば核酸等の試料において生化学物質の検出や分析に用いることができる。特にSNPの変異を検出できることから、がんなどの遺伝子、生殖細胞や体細胞遺伝子の変異を検出する手法へ利用することができる。また、複数の溶液を混合する容器、反応容器として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0175】
101・・・基材
102・・・ウェル
103・・・主流路
103a・・主流路山部
103b・・主流路谷部
104・・・廃液部
104a・・・廃液チャンバ分岐流路
104b・・・廃液チャンバ
105a・・・ウェル分岐流路
105・・・側路
107・・・INLET/OUTLET
401・・・第一の基材
401’・・・第一の基材(光透過性樹脂)
402・・・第二の基材
402’・・・第二の基材(赤外線透過性樹脂)
403・・・INLET/OUTLET(貫通孔)
405・・・担持部
501・・・固定試薬類
502・・・ワックス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に複数のウェルと、各前記ウェルに繋がる流路と、前記流路に溶液を注入するための注入口とを有し、前記基材を回転させて前記ウェルに溶液を配液する試料分析チップであって、
前記流路は、各前記ウェルに送液する主流路、および前記主流路と前記ウェルとを連絡する側路を有し、
該主流路は前記ウェルより回転中心側に設けられ、隣り合う前記ウェルの間で前記回転中心に対して一つの山を有するように形成され、
前記側路が、前記回転中心方向に対して傾いて形成され、
前記山は、前記山の頂点と前記回転中心とを通る基準線に対して、一方側で隣り合う前記主流路の山と連絡する幅広主流路と、他方側で隣り合う前記主流路の山と連絡し前記幅広主流路より路幅が小さい幅狭主流路とを有し、
前記幅広主流路における前記回転中心から離間した端部が、前記側路と連絡していることを特徴とする試料分析チップ。
【請求項2】
前記基材が円盤状であり、前記ウェルは該基材と同心円状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の試料分析チップ。
【請求項3】
前記主流路が、前記回転中心方向に対して傾いて形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の試料分析チップ。
【請求項4】
前記側路に余剰溶液を溜める廃液部が設けられたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の試料分析チップ。
【請求項5】
前記廃液部が、廃液を溜める廃液チャンバと、
前記側路を分岐し、該廃液チャンバと連絡する廃液チャンバ分岐流路と
を有することを特徴とする請求項4記載の試料分析チップ。
【請求項6】
前記廃液部は、前記回転中心方向に対して前記側路の内側に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の試料分析チップ。
【請求項7】
前記ウェルに連通する分岐流路は前記廃液チャンバ分岐流路より送液時の圧力損失が低いことを特徴とする請求項5または6に記載の試料分析チップ。
【請求項8】
前記ウェルに連絡する分岐流路の断面積が、前記廃液チャンバ分岐流路の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項7に記載の試料分析チップ。
【請求項9】
前記廃液チャンバ分岐流路よりも前記ウェルに連絡する分岐流路の表面粗さが小さいことを特徴とする請求項7に記載の試料分析チップ。
【請求項10】
前記廃液チャンバ分岐流路の流路内表面を撥水処理したことを特徴とする請求項7に記載の試料分析チップ。
【請求項11】
前記ウェルに連絡する分岐流路の流路内表面を親水処理したことを特徴とする請求項7に記載の試料分析チップ。
【請求項12】
前記試料分析チップは前記ウェル及び前記流路を形成した第一の基材と、該基材と貼り合わせた第二の基材とを有する請求項1ないし11のいずれかに記載の試料分析チップ。
【請求項13】
前記基材のいずれか一方が光透過性材料で形成されていることを特徴とする請求項12に記載の試料分析チップ。
【請求項14】
前記第一の基材が光透過性の樹脂材料であり、前記第二の基材が金属材料であることを特徴とする請求項13に記載の試料分析チップ。
【請求項15】
前記第一の基材が、可視光に対して光透過性でありかつ赤外線に対して光吸収性の樹脂からなり、
前記第二の基材が、少なくとも波長800nm以上の赤外線を透過する板状又はフィルム状であることを特徴とする請求項13に記載の試料分析チップ。
【請求項16】
前記第一の基材は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂のいずれかの樹脂基材であることを特徴とする請求項15に記載の試料分析チップ。
【請求項17】
前記第一の基材は、800nm以上の波長領域に吸収を有する赤外線吸収剤を含むことを特徴とする請求項15又は16に記載の試料分析チップ。
【請求項18】
前記第二の基材は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂のいずれかの樹脂基材であることを特徴とする請求項15に記載の試料分析チップ。
【請求項19】
前記第二の基材の厚みが、0.05〜0.5mmの範囲にあることを特徴とする請求項12ないし18のいずれか1項に記載の試料分析チップ。
【請求項20】
前記第一の基材に試料分析チップを回転させるための担特部が設けられていることを特徴とする請求項12ないし19のいずれかに記載の試料分析チップ。
【請求項21】
請求項15〜19のいずれかに記載の試料分析チップの製造方法であって、
前記第二の基材側から赤外線レーザを照射し、
前記第一の基材と前記第二の基材とを溶融接着し、張り合わせることを特徴とする試料分析チップの製造方法。
【請求項22】
前記赤外線レーザの波長が、800〜1200nmの範囲にあることを特徴とする請求項21に記載の試料分析チップの製造方法。
【請求項23】
前記第一の基材と前記第二の基材とを張り合わせる前に、前記ウェルに試薬を固定する工程を含むことを特徴とする請求項21又は22に記載の試料分析チップの製造方法。
【請求項24】
請求項1ないし20のいずれかに記載の試料分析チップを設置し、回転させる手段と、
前記ウェルでの反応を検出するための検出測定手段と、を有する試料分析装置。
【請求項25】
請求項1ないし20のいずれかに記載の試料分析チップの前記主流路に溶液を注入する工程と、
該試料分析チップを回転させて溶液を前記各ウェルに配液する工程と、
を有する試料分析方法。
【請求項26】
請求項25に記載の試料分析方法において、
前記ウェルに配液する工程の後に、ミネラルオイルを前記各ウェルに配液する工程を有することを特徴とする試料分析方法。
【請求項27】
請求項25又は26に記載の試料分析方法を用いたことを特徴とする遺伝子解析方法。
【請求項1】
基材に複数のウェルと、各前記ウェルに繋がる流路と、前記流路に溶液を注入するための注入口とを有し、前記基材を回転させて前記ウェルに溶液を配液する試料分析チップであって、
前記流路は、各前記ウェルに送液する主流路、および前記主流路と前記ウェルとを連絡する側路を有し、
該主流路は前記ウェルより回転中心側に設けられ、隣り合う前記ウェルの間で前記回転中心に対して一つの山を有するように形成され、
前記側路が、前記回転中心方向に対して傾いて形成され、
前記山は、前記山の頂点と前記回転中心とを通る基準線に対して、一方側で隣り合う前記主流路の山と連絡する幅広主流路と、他方側で隣り合う前記主流路の山と連絡し前記幅広主流路より路幅が小さい幅狭主流路とを有し、
前記幅広主流路における前記回転中心から離間した端部が、前記側路と連絡していることを特徴とする試料分析チップ。
【請求項2】
前記基材が円盤状であり、前記ウェルは該基材と同心円状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の試料分析チップ。
【請求項3】
前記主流路が、前記回転中心方向に対して傾いて形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の試料分析チップ。
【請求項4】
前記側路に余剰溶液を溜める廃液部が設けられたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の試料分析チップ。
【請求項5】
前記廃液部が、廃液を溜める廃液チャンバと、
前記側路を分岐し、該廃液チャンバと連絡する廃液チャンバ分岐流路と
を有することを特徴とする請求項4記載の試料分析チップ。
【請求項6】
前記廃液部は、前記回転中心方向に対して前記側路の内側に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の試料分析チップ。
【請求項7】
前記ウェルに連通する分岐流路は前記廃液チャンバ分岐流路より送液時の圧力損失が低いことを特徴とする請求項5または6に記載の試料分析チップ。
【請求項8】
前記ウェルに連絡する分岐流路の断面積が、前記廃液チャンバ分岐流路の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項7に記載の試料分析チップ。
【請求項9】
前記廃液チャンバ分岐流路よりも前記ウェルに連絡する分岐流路の表面粗さが小さいことを特徴とする請求項7に記載の試料分析チップ。
【請求項10】
前記廃液チャンバ分岐流路の流路内表面を撥水処理したことを特徴とする請求項7に記載の試料分析チップ。
【請求項11】
前記ウェルに連絡する分岐流路の流路内表面を親水処理したことを特徴とする請求項7に記載の試料分析チップ。
【請求項12】
前記試料分析チップは前記ウェル及び前記流路を形成した第一の基材と、該基材と貼り合わせた第二の基材とを有する請求項1ないし11のいずれかに記載の試料分析チップ。
【請求項13】
前記基材のいずれか一方が光透過性材料で形成されていることを特徴とする請求項12に記載の試料分析チップ。
【請求項14】
前記第一の基材が光透過性の樹脂材料であり、前記第二の基材が金属材料であることを特徴とする請求項13に記載の試料分析チップ。
【請求項15】
前記第一の基材が、可視光に対して光透過性でありかつ赤外線に対して光吸収性の樹脂からなり、
前記第二の基材が、少なくとも波長800nm以上の赤外線を透過する板状又はフィルム状であることを特徴とする請求項13に記載の試料分析チップ。
【請求項16】
前記第一の基材は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂のいずれかの樹脂基材であることを特徴とする請求項15に記載の試料分析チップ。
【請求項17】
前記第一の基材は、800nm以上の波長領域に吸収を有する赤外線吸収剤を含むことを特徴とする請求項15又は16に記載の試料分析チップ。
【請求項18】
前記第二の基材は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂のいずれかの樹脂基材であることを特徴とする請求項15に記載の試料分析チップ。
【請求項19】
前記第二の基材の厚みが、0.05〜0.5mmの範囲にあることを特徴とする請求項12ないし18のいずれか1項に記載の試料分析チップ。
【請求項20】
前記第一の基材に試料分析チップを回転させるための担特部が設けられていることを特徴とする請求項12ないし19のいずれかに記載の試料分析チップ。
【請求項21】
請求項15〜19のいずれかに記載の試料分析チップの製造方法であって、
前記第二の基材側から赤外線レーザを照射し、
前記第一の基材と前記第二の基材とを溶融接着し、張り合わせることを特徴とする試料分析チップの製造方法。
【請求項22】
前記赤外線レーザの波長が、800〜1200nmの範囲にあることを特徴とする請求項21に記載の試料分析チップの製造方法。
【請求項23】
前記第一の基材と前記第二の基材とを張り合わせる前に、前記ウェルに試薬を固定する工程を含むことを特徴とする請求項21又は22に記載の試料分析チップの製造方法。
【請求項24】
請求項1ないし20のいずれかに記載の試料分析チップを設置し、回転させる手段と、
前記ウェルでの反応を検出するための検出測定手段と、を有する試料分析装置。
【請求項25】
請求項1ないし20のいずれかに記載の試料分析チップの前記主流路に溶液を注入する工程と、
該試料分析チップを回転させて溶液を前記各ウェルに配液する工程と、
を有する試料分析方法。
【請求項26】
請求項25に記載の試料分析方法において、
前記ウェルに配液する工程の後に、ミネラルオイルを前記各ウェルに配液する工程を有することを特徴とする試料分析方法。
【請求項27】
請求項25又は26に記載の試料分析方法を用いたことを特徴とする遺伝子解析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−132935(P2012−132935A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−73344(P2012−73344)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【分割の表示】特願2011−507222(P2011−507222)の分割
【原出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【分割の表示】特願2011−507222(P2011−507222)の分割
【原出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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