試料分析チップ及び試料分析システム
【課題】 迅速性・簡便性を備えた分析チップで、温度変化による測定精度の低下を防ぎ、
再現性のある測定値を得る。
【解決手段】 溶液系反応場とセンサの熱的に接触させた上で、溶液系反応場を微細流路として試料・試薬溶液を流動させることで、反応場、検出器そして試料・試薬溶液の温度を短時間で一定とし、迅速かつ高精度でターゲット分子を計測する。
再現性のある測定値を得る。
【解決手段】 溶液系反応場とセンサの熱的に接触させた上で、溶液系反応場を微細流路として試料・試薬溶液を流動させることで、反応場、検出器そして試料・試薬溶液の温度を短時間で一定とし、迅速かつ高精度でターゲット分子を計測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサや信号処理機能を集積化したセンサチップと試料・試薬溶液流路からなる免疫反応や遺伝子の反応を検出または測定する小型装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術としては、免疫学的反応や化学反応の検出系に呈色反応や凝集反応を利用し、検出部として光源(LED:Light Emitting DiodeあるいはLD:Laser Diode)とセンサ(PD:Photo Diode、CCD: Charge Coupled Device あるいはPMT:Photo multiplier tube)からなる光学系を用いた据え置き型の装置が知られている。
【0003】
特許文献1では、センサ、無線送受信機能を有する機能ブロックが形成されたチップ上に生体物質に対するプローブを固定し、補足されたターゲットをセンサによって検出し、センシング結果を無線送受信機能によって外部制御機器に伝達する計測装置が開示されている。
【0004】
特許文献2では、センサや信号処理機能、無線通信機能を集積化したセンサチップが開示されている。
【0005】
非特許文献1と2には、流路内の試料分子が流路内壁に固定されたプローブに捕獲される効率について流速や流路形状の影響を解析したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-333695号公報
【特許文献2】特開2004-101253号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Todd M Squires, Robert J Messinger & Scott R Manalis, “Making it stick: convection, reaction and diffusion in surface-based biosensors”, Nat. Biotechnol. 26, 417-426 (2008)
【非特許文献2】Hesam Parsa, Curtis D. Chin, Puttisarn Mongkolwisetwara, Benjamin W. Lee, Jennifer J. Wang, and Samuel K. Sia, “Effect of volume- and time-based constraints on capture of analytes in microfluidic heterogeneous immunoassays” Lab Chip, 8, 2062-2070 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
疾患マーカーとなる各種タンパク質やウィルス・細菌の検体検査では、省力化によるコスト削減のために、大規模病院や検査センタに設置された集中検査装置が利用されてきた。一方で、検体採取の現場で結果を出す迅速性が要求される緊急検査や感染症検査,あるいは簡便性・小型性が求められる自己検査(自宅で実施する血糖値など)においてPOCT(Point of Care Testing)が普及しつつある。利用拡大に伴い、迅速・簡便性・小型性に加えて高い測定感度もPOCTに求められるようになっている。これに応えるために半導体集積回路技術やMEMS技術を使ったセンサによる信号検出系と,検出信号を発生するための反応(抗原抗体反応、酵素反応、核酸ハイブリダイゼーション反応)を行う溶液系反応場を組み合わせることによって小型化を図るPOCTデバイスが提案されている。(例えば特許文献1)
ここで問題となるのが、POCTによる検出系および反応場における温度変動が原因となる測定値の変動である。まず検出系についてみると、単体のセンサ素子に加えて増幅器や制御回路を集積した集積化センサでは、電力供給によって発生するジュール熱が温度変動の原因となる。集積化センサへの電力供給手段は有線あるいは無線いずれでもよいが、無線による供給の一例を取り上げる。
【0009】
特許文献1のデバイスは外部リーダからPOCTデバイスに向けて無線によって電磁的エネルギーを供給している。リーダ側コイルとセンサチップ側コイルの誘導結合による電力の供給に伴いセンサチップ温度が上昇する。一般に、微小信号を測定する検出系の性能は温度の影響を強く受ける。集積化センサの低消費電力化技術によってジュール熱の低減は可能であるが、これをゼロにすることはできない。次に反応場由来の温度変動について検討する。目的物を検出するための各種の化学的・生物的反応を行う反応場に対して試薬溶液や試料溶液が外部から供給されることによって温度が変動する。さらに反応系によっては混合熱や化学反応などの反応熱等の影響がある。ここで述べた検出系あるいは反応場由来の温度変動は、センサ素子、増幅器、制御回路、あるいは化学・生物反応に影響を与え、測定値の変動の原因となり対策が必要である。
【0010】
以上述べた課題は、小型、安価で高感度のPOCTの実現に適した集積型センサチップと溶液反応場そして試料溶液が密着した状態にある試料分析チップに特有の問題である。すなわち、小型、安価というPOCT必須の特性を損なわずに検出系および反応場由来の温度変動要因の影響を抑制することによって測定値の変動を抑制することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、溶液系反応場とセンサを熱的に接触させた上で溶液系反応場を流路で構成し、ここに試料・試薬溶液を流動させることで、溶液反応場、センサそして試料溶液において動的な温度平衡状態を短時間で達成する。この動的温度平衡状態が達成された期間内にターゲット分子を計測することによって迅速かつ高精度の測定を実現する。
【0012】
すなわち、上記手段の一例としては、以下が挙げられる。
(1)第1の基板と、第1の基板に設けられた検出器と、第1の基板上に設けられ、試料を含む溶液の導入口及び排出口を有し、導入される前記溶液が流動するように形成した流路と、導入される溶液と、検出器とが熱的に接触するよう配置されていることを特徴とする試料分析チップ。
(2)上記の試料分析チップは、検出器として、試料溶液の反応を検出する第1の検出器と、試料溶液の温度を検出する第2の検出器とを備え、第1の検出器の信号の温度依存性データに対し、第2の検出器で取得した温度測定値を用いて、第1の検出器が取得した溶液からの信号を補正する計算手段とを備えた試料分析システム。
【発明の効果】
【0013】
POCTデバイスにおける小型・低コスト化に伴う制限の中で、集積化検出器からの発熱、あるいは溶液反応場における反応熱にともなう測定系全体の温度変動の影響を抑制して測定値の変動を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】光センサ搭載の試料分析チップの構造の例を示す図
【図2】電位センサ搭載の試料分析チップの構造の例を示す図
【図3】光センサを内蔵した集積化センサの適用例を示す図
【図4】光センサと無線機能を内蔵した集積化センサの適用例を示す図
【図5】電位センサ搭載の試料分析チップにおける温度とセンサ出力の変動を示す図
【図6】光センサと無線機能を内蔵した集積化センサを免疫計測に適用した例を示す図
【図7】光センサと無線機能を内蔵した集積化センサを遺伝子計測に適用した例を示す図
【図8】電位センサと無線機能を内蔵した集積化センサを遺伝子計測に適用した例を示す図
【図9】試料分析チップの構造の例を示す図
【図10】試料分析チップにおける流路構造の例を示す図
【図11】流速制御構造を具備する試料分析チップの構造の例を示す図
【図12】並列型の流速制御構造を具備する試料分析チップの構造の例を示す図
【図13】並列型の流速制御構造を具備する試料分析チップの構造の例を示す図
【図14】流路内溶液の流速と固定化抗体に捕捉されるanalyte(抗原)の量の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1と図2により本発明の基本的部分を説明する。図1では溶液反応場10を構成する流路16と光検出器11および流動する試料・試薬溶液12が熱的、そして光学的に接触している。反応場とは、流路の一部であって検出される物質の反応する場所を指し、試料を検出するための抗原・抗体反応や酵素反応に寄与する分子を保持している。図1−4においては10で示す領域に対応する。ここで、溶液反応場を構成する流路中の溶液は流動している。そして、溶液反応場と検出器そして試料・試薬溶液が熱的に接触している。したがって、図1のように光検出器11と溶液12は必ずしも直接に接触している必要はない。このように、検出器と溶液との間に基板を挟む場合であっても、基板が熱伝導材料などで形成されていればよい。この場合の流路を構成する材料としては、ガラスやシリコン等の無機材料や、エポキシやアクリル等の樹脂材料が挙げられる。熱伝導材料の熱伝導率としては、0.1 W/mK以上あることが望ましい。光検出器の場合、流路内の光信号が観測できるように溶液反応場10を構成する流路の材料が信号光に対して透明となるようにすれば、流路材を挟む形で光検出器を配置することができる。光検出器と流路材の間に透明充填剤やマッチングオイルを挟むことにより熱的および光学的な接触をより理想的な状態することができる。
【0016】
図2は検出器として電位検出器13を用いた場合を示す。電位検出器では検出器表面を試料・試薬溶液に接触させる必要がある。電位検出器を溶液反応場10に熱的に接触させておく。
【0017】
上記のように、溶液反応場10、試料分析チップ基板51、検出器11,13、そして試料・試薬溶液12を互いに熱的に接触させた上で、試料・試薬溶液12を流動させることにより、短時間で、液反応場10、検出器11,13そして試料・試薬溶液12の間で動的に温度の平衡状態が達成することができる。
【0018】
この平衡状態が保たれた状態で検出器による計測を実施することによって精度の高い計測が可能になる。
【実施例1】
【0019】
図3(a)により、集積型の光検出器を用いた場合の試料分析チップの構成例について述べる。樹脂あるいはガラスを素材とする試料分析チップ基板51と流路の上部形状を規定する構造60によって流路16を形成し、試料分析チップ基板51の一部に光センサを内蔵した集積型検出器11を取付けることによって流路16の検出器近傍を溶液反応場10として、ここで発生する光信号を検出する。集積型検出器の構成を図3(b)に示す。
【0020】
光センサで検出した信号をアナログ回路ブロック17で増幅、AD(Analog-to-digital)変換し、制御論理回路ブロック18でディジタル信号伝送できるように符号化し、インターフェースブロック19を経てケーブル26を通して制御器14に送り、データの解析、表示、収納を行う。伝送距離が短く、振幅の大きな信号の場合であればアナログ回路ブロックのアンプの出力信号を直接ケーブル26にのせて制御器14に送ることも可能である。こうした集積型検出器は、光センサで検出した信号をその場で増幅、AD変換するために、信号伝送中でのノイズ混入を最小限にすることができる。
【0021】
しかし、アナログ回路、制御論理回路ブロック、インターフェースブロックを駆動するための電力によりこれらのブロックが形成されたチップあるいはモジュール基板からの発熱が問題となる。ここで、試料・試薬溶液12を流動させることにより、流動させない場合より短時間で、互いに熱的に接触する溶液反応場10、検出器11、試料・試薬溶液12の温度はそれぞれ一定の動的平衡温度に達する。室温は常に一定、試料・試薬溶液の温度は室温と同じ、集積化検出器の消費電力は常に一定、と仮定すれば上記動的平衡温度は異なる測定であっても等しいとすることできる。測定にあたってはこの動的平衡温度に達したことを確認して、検出器の信号を読み取ることにより、精度の高い計測値を得ることができる。
【実施例2】
【0022】
センサと信号処理回路の集積型
光センサと無線機能を内蔵した集積化検出器の適用例を図4に示す。図4(a)のように、検出器への制御信号送信や検出器からのデータ受信は無線によって行う。無線通信の一般的分類として、検出器に電池と発振器を搭載して検出器自体が通信搬送波を発生する能動型と、外部リーダから無線で電力供給を受けて通信する受動型があるが、ここではいずれの方法を適用してもよい。
【0023】
以下、安価に無線機能付きの検出器を構成できる受動型の場合について説明する。受動型無線の機能を備えた集積型検出器については、特許文献2を参照することができる。図4(b)は受無線の機能を備えた集積型検出器の構成を示す。検出器21に含まれる各回路ブロックは、リーダ23からリーダコイル22を介して送られる電力によって駆動される。試料分析チップ基板51を介することによって、計測値の精度にかかわる3つの構成要素である溶液反応場10、検出器21、試料・試薬溶液12を互いに熱的に接触させた上で、溶液12を流動させる点は実施例1と同様である。とする。たとえば、流路の厚さ20μm、流路幅5mm、流路長6mmとすれば、内部が溶液で満たされていない場合、毛細管現象で溶液を流動させることができる。ここでは、流量を制御し、連続的に試料・試薬溶液を流動させるために後述の実施例7に示す流量制御構造を導入する。
【0024】
この構造の試料分析チップを動作させたときの検出器の場所における温度と光検出器の暗状態出力の時間変化を図5に示す。計測ごとばらつきを検討するために3回の計測結果について重ねて示している。最初、溶液反応場10に溶液が満たされていない状態で、集積化検出器にリーダから電力が供給されると(t=0s)、温度は20℃以上急速に上昇する。温度上昇に伴って光検出器の計測値(暗状態の計測なので暗電流に対応する)は増加する。次にt=380sにおいて溶液流動を始めると温度は低下し、対応して光検出器の出力は減少する。溶液流動の状態で約200s経過すると温度そして光検出器の出力が安定することが分かる。t=800sで溶液流動を停止すると再び温度、光検出器出力は増加し始める。以上のことから、溶液反応場10、検出器21そして試料・試薬溶液12を互いに熱的に接触させた上で、試料・試薬溶液12を流動させることの効果を確認できる。
【実施例3】
【0025】
本発明の試料分析チップを使って免疫計測を実施する例を図6に示す。溶液反応場を構成する流路の内側で、光検出器の上部にあたる場所に計測対象の抗原に特異的な抗体31を固定化する。次に試料溶液を流して抗原33を固定化抗体31に結合し、標識抗体32を抗原33に結合してサンドイッチ構造を形成する。最後に標識とした酵素、たとえばアルカリフォスファターゼで触媒される発光基質たとえばAMPPD:3-(2'-spiroadamantane)-4-methoxy-4-(3”-phosphoryloxy)phenyl-1,2-dioxetane disodium salt溶液を流動させ、温度が動的平衡に達した時点で計測を実行する。
【実施例4】
【0026】
本発明の試料分析チップを使って遺伝子計測を実施する例を図7に示す。溶液反応場を構成する流路の内側で、光検出器の上部にあたる場所に計測対象のDNAに相補的なDNAプローブ41を固定化する。次に試料溶液を流して測定対象とするDNA42をプローブにハイブリダイズさせる。このとき図7の差し込み図に示すようにあらかじめ、試料溶液中のDNAをすべて酵素標識しておき、ハイブリダイゼーションして洗浄を行った後に、発光基質を流動させて検出器21によって発光を観測する。
【実施例5】
【0027】
本発明の試料分析チップを使って遺伝子計測を実施する他の例を図8に示す。検出器として電位センサを内蔵する電位検出器25を用いる。電位センサとしては、たとえばMOSトランジスタのゲートをフローティングにしてこれを検出器チップの表面に露出したIon Sensitive Field Effective Transistor (ISFET)を利用することができる。
【0028】
このフローティングゲート上にDNAプローブ41を固定し、試料溶液を流動させてターゲットするDNA 42をプローブにハイブリダイズさせる。DNAは負に電荷を余分にもっているのでターゲットDNAがプローブにハイブリダイズすると、電位センサを構成するMOSトランジスタのチャネル抵抗が変化するため、これを読み取ることによってターゲットDNAを検出する。
【実施例6】
【0029】
図9および10に試料分析チップの構成例を示す。図9はガラスあるいは樹脂からなる試料分析基板51の上に流路16を形成した例である。試料分析基板51を樹脂で構成する場合、ポリカーボネート、アクリル、COC(Cyclic Olefin Copolymer)、PDMS(polydimethylsiloxane)等を用いることができる。試料分析基板51には集積化検出器54、55が固定される。集積化検出器に搭載するセンサは実施例3から5に示したセンサを用いることができる。たとえば、54は信号光検出用光センサを搭載した集積化検出器、55として参照用光センサを搭載した集積化検出器とし、54の上方にターゲットを補足するプローブ56を固定して、チップ流路16は集積化検出器54、55の上方に形成する。
【0030】
ここで54と55はともに光センサを搭載した集積化検出器とし、2個の出力の差をとることによりプローブ56に捕捉された試料に対応する光信号だけを抽出することができる。プローブは上記実施例に記載したように抗体あるいはDNA等によって構成するこができる。試料あるいは試薬溶液は供給用溶液溜め57から滴下・供給され、ドレイン用溶液溜め58において排出される。これらの溶液溜め57,58は、吸収性のメンブレンを用いる(図9(a))、あるいは溶液溜め周囲を凸状にするか、溶液溜め部を凹状にすることによって溶液を保持する(図9(a)(b))。流路中の溶液流動を駆動する他の力としては、外部ポンプ、電気浸透流、エレクトロウェエッティング効果等を用いることもできる。
2個の集積化センサ54と55について他の組み合わせ例として、54は信号光検出用光センサを搭載した集積化検出器、55は温度センサを搭載した集積化検出器とすることで測定精度を向上することができる。温度変動による暗電流の変動は図5に示したように計測中も流路を流れる溶液に有無に応じて変動し、微細信号検出の場合にはこの温度変動を補償することが必須となる。予め取得しておいた光センサに固有の暗電流の温度依存性と54の温度センサによって得た温度計測値を用いて補正する補正手段とを備えた計測システムとすることで、測定系の温度変動が大きい場合でも暗電流変動分を除いた光信号に忠実な光センサ出力値が得ることができる。
【0031】
図10は流路の形成法を具体的に示した例である。(a)は上面図、(b)(c)は(a)におけるA-A’およびB-B’における断面図を示す。流路16は試料分析チップ基板51とその上に設置する流路形状規定構造60によって形成される。基板51と流路形状規定構造60は互いに接触面52によって接触している。接触面52には溶液が浸透することがないように接着剤、充填財、高密着性のシート等が挿入されていることが望ましい。また、図10(b-2)のようなセンサが設けられている基板に凹部によって流路が設けられている場合、上部に流路形状規定構造60を設けなくても流路を形成できる場合もある。
【実施例7】
【0032】
図11-13に流路内の流速を制御する構造の構成例を示す。一定の流速を与えることが計測系と反応系の温度の均一化に有効であることは上記で述べたが、流路内で分子がプローブ固定部に拡散して反応するには一定の時間が必要であり、流速が大きすぎると反応効率が低下し、試料・試薬消費量が増加してしまう。反応効率の低下を回避するために、流速は大きくても10μL/minに抑制する必要があり、そのための構造が必要となる。図11(a)は検出器54とドレイン用液溜め58の間に、流動速度制御手段として、流速の制限構造59を設けたものである。ここで流速制限構造59は溶液浸透性のメンブレンあるいは反応場付近の流路に比較して断面積小さくした流路で構成してもよい。メンブレンの材料としてはニトロセルロース、ナイロン、ポリエーテルスルフォン、ガラスファイバなどを用いることができる。
【0033】
流速制限構造59の配置場所は図11(a)のように検出器54の下流側でもよいし、図11(b)のように検出器54の上流側でもよい。流速は流速制限構造59の長さと幅によって任意に設定することができる。
【0034】
図12、13は複数ターゲットを複数プローブによって同時計測する場合の構造である。溶液の濃度を各プローブ上において均一にするために流速方向に対して直角方向にプローブを配置することが望ましく流路の幅は拡大する。このとき流速制限構造59を図12(a)の様に並列に設けることにより、流路内において流速を一定にするができる。図12(b)は流速制限構造の構成法の実施例を示すものである。メンブレンの一部61を疎水化することにより流速制限構造を並列化している。
流量制限構造59を設けた場合、例えば図13の63で示す部分に大気への開放口を設けておくことにより、流路内への気泡の滞留を防止することができる。
【実施例8】
【0035】
溶液反応場、センサそして試料溶液において動的な温度平衡状態を短時間で達成するには、流速を大きくすることが有利である。しかし一般に、流速の増加に伴って試料溶液中のanalyte(抗原)の利用効率は低下することが知られている。実際の使用においては利用できる試料溶液量が限られるため、流速を制限して試薬中analyte(抗原)の利用効率を確保しなければならない。
【0036】
図14は流路内溶液の流速と固定化抗体に捕捉されるanalyte(抗原)の量の関係をシミュレーションによって求めたものである(非特許文献2)。この関係は抗原・抗体の種類や流路形状によって異なるが、一般的な傾向としては図14(b)のように流速が一定の大きさ以上になると、固定化抗体へのanalyteの捕捉量は減少する。捕捉量を損なわずに温度平衡到達時間を短縮するには流速に対して捕捉量が変化しない範囲で、最大の流速に設定することが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明が対象とする生体試料の計測を目的とする計測装置では、例えばセンサ・信号処理回路・無線通信回路をシリコンのチップ上に集積した集積化検出器と流路を組み合わせることによって小型化・低コスト化が可能になる。同時に検体を採取する現場において高精度の計測が可能になる。感染症の病原あるいは食品中の病原、農薬などを計測対象とするPOCTデバイスが有力な応用分野である。
【符号の説明】
【0038】
10: 溶液反応場
11: 光検出器
12: 試料・試薬溶液
13: 電位検出器
14: 光検出器の制御器
15: 光検出器に内蔵される光センサ
16: 流路
17: 光検出器に内蔵されるアナログ回路ブロック
18: 光検出器に内蔵される制御論理回路ブロック
19: 光検出器に内蔵されるインターフェース回路ブロック
21: 無線機能内蔵の光検出器
22: リーダコイル
23: リーダ
24: 制御器
25: 無線機能内蔵の電位検出器
26: ケーブル
31: 固定化抗体
32: 標識抗体
33: 抗原
41: プローブDNA
42: ターゲットDNA
43: 修飾酵素
51: 試料分析チップ基板
52: 流路形状規定構造と試料分析チップの接触面
54: 集積化検出器
55: 集積化検出器
56: プローブ固定領域
57: 検出器上流側の供給用溶液溜め
58: 検出器下流側のドレイン用溶液溜め
59: 流速制限構造
60: 流路の上部形状を規定する構造
61: 部分的に疎水化されたメンブレン
62: 検出器上流側の供給用溶液溜めを構成する凸部
63: 大気開放口
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサや信号処理機能を集積化したセンサチップと試料・試薬溶液流路からなる免疫反応や遺伝子の反応を検出または測定する小型装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術としては、免疫学的反応や化学反応の検出系に呈色反応や凝集反応を利用し、検出部として光源(LED:Light Emitting DiodeあるいはLD:Laser Diode)とセンサ(PD:Photo Diode、CCD: Charge Coupled Device あるいはPMT:Photo multiplier tube)からなる光学系を用いた据え置き型の装置が知られている。
【0003】
特許文献1では、センサ、無線送受信機能を有する機能ブロックが形成されたチップ上に生体物質に対するプローブを固定し、補足されたターゲットをセンサによって検出し、センシング結果を無線送受信機能によって外部制御機器に伝達する計測装置が開示されている。
【0004】
特許文献2では、センサや信号処理機能、無線通信機能を集積化したセンサチップが開示されている。
【0005】
非特許文献1と2には、流路内の試料分子が流路内壁に固定されたプローブに捕獲される効率について流速や流路形状の影響を解析したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-333695号公報
【特許文献2】特開2004-101253号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Todd M Squires, Robert J Messinger & Scott R Manalis, “Making it stick: convection, reaction and diffusion in surface-based biosensors”, Nat. Biotechnol. 26, 417-426 (2008)
【非特許文献2】Hesam Parsa, Curtis D. Chin, Puttisarn Mongkolwisetwara, Benjamin W. Lee, Jennifer J. Wang, and Samuel K. Sia, “Effect of volume- and time-based constraints on capture of analytes in microfluidic heterogeneous immunoassays” Lab Chip, 8, 2062-2070 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
疾患マーカーとなる各種タンパク質やウィルス・細菌の検体検査では、省力化によるコスト削減のために、大規模病院や検査センタに設置された集中検査装置が利用されてきた。一方で、検体採取の現場で結果を出す迅速性が要求される緊急検査や感染症検査,あるいは簡便性・小型性が求められる自己検査(自宅で実施する血糖値など)においてPOCT(Point of Care Testing)が普及しつつある。利用拡大に伴い、迅速・簡便性・小型性に加えて高い測定感度もPOCTに求められるようになっている。これに応えるために半導体集積回路技術やMEMS技術を使ったセンサによる信号検出系と,検出信号を発生するための反応(抗原抗体反応、酵素反応、核酸ハイブリダイゼーション反応)を行う溶液系反応場を組み合わせることによって小型化を図るPOCTデバイスが提案されている。(例えば特許文献1)
ここで問題となるのが、POCTによる検出系および反応場における温度変動が原因となる測定値の変動である。まず検出系についてみると、単体のセンサ素子に加えて増幅器や制御回路を集積した集積化センサでは、電力供給によって発生するジュール熱が温度変動の原因となる。集積化センサへの電力供給手段は有線あるいは無線いずれでもよいが、無線による供給の一例を取り上げる。
【0009】
特許文献1のデバイスは外部リーダからPOCTデバイスに向けて無線によって電磁的エネルギーを供給している。リーダ側コイルとセンサチップ側コイルの誘導結合による電力の供給に伴いセンサチップ温度が上昇する。一般に、微小信号を測定する検出系の性能は温度の影響を強く受ける。集積化センサの低消費電力化技術によってジュール熱の低減は可能であるが、これをゼロにすることはできない。次に反応場由来の温度変動について検討する。目的物を検出するための各種の化学的・生物的反応を行う反応場に対して試薬溶液や試料溶液が外部から供給されることによって温度が変動する。さらに反応系によっては混合熱や化学反応などの反応熱等の影響がある。ここで述べた検出系あるいは反応場由来の温度変動は、センサ素子、増幅器、制御回路、あるいは化学・生物反応に影響を与え、測定値の変動の原因となり対策が必要である。
【0010】
以上述べた課題は、小型、安価で高感度のPOCTの実現に適した集積型センサチップと溶液反応場そして試料溶液が密着した状態にある試料分析チップに特有の問題である。すなわち、小型、安価というPOCT必須の特性を損なわずに検出系および反応場由来の温度変動要因の影響を抑制することによって測定値の変動を抑制することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、溶液系反応場とセンサを熱的に接触させた上で溶液系反応場を流路で構成し、ここに試料・試薬溶液を流動させることで、溶液反応場、センサそして試料溶液において動的な温度平衡状態を短時間で達成する。この動的温度平衡状態が達成された期間内にターゲット分子を計測することによって迅速かつ高精度の測定を実現する。
【0012】
すなわち、上記手段の一例としては、以下が挙げられる。
(1)第1の基板と、第1の基板に設けられた検出器と、第1の基板上に設けられ、試料を含む溶液の導入口及び排出口を有し、導入される前記溶液が流動するように形成した流路と、導入される溶液と、検出器とが熱的に接触するよう配置されていることを特徴とする試料分析チップ。
(2)上記の試料分析チップは、検出器として、試料溶液の反応を検出する第1の検出器と、試料溶液の温度を検出する第2の検出器とを備え、第1の検出器の信号の温度依存性データに対し、第2の検出器で取得した温度測定値を用いて、第1の検出器が取得した溶液からの信号を補正する計算手段とを備えた試料分析システム。
【発明の効果】
【0013】
POCTデバイスにおける小型・低コスト化に伴う制限の中で、集積化検出器からの発熱、あるいは溶液反応場における反応熱にともなう測定系全体の温度変動の影響を抑制して測定値の変動を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】光センサ搭載の試料分析チップの構造の例を示す図
【図2】電位センサ搭載の試料分析チップの構造の例を示す図
【図3】光センサを内蔵した集積化センサの適用例を示す図
【図4】光センサと無線機能を内蔵した集積化センサの適用例を示す図
【図5】電位センサ搭載の試料分析チップにおける温度とセンサ出力の変動を示す図
【図6】光センサと無線機能を内蔵した集積化センサを免疫計測に適用した例を示す図
【図7】光センサと無線機能を内蔵した集積化センサを遺伝子計測に適用した例を示す図
【図8】電位センサと無線機能を内蔵した集積化センサを遺伝子計測に適用した例を示す図
【図9】試料分析チップの構造の例を示す図
【図10】試料分析チップにおける流路構造の例を示す図
【図11】流速制御構造を具備する試料分析チップの構造の例を示す図
【図12】並列型の流速制御構造を具備する試料分析チップの構造の例を示す図
【図13】並列型の流速制御構造を具備する試料分析チップの構造の例を示す図
【図14】流路内溶液の流速と固定化抗体に捕捉されるanalyte(抗原)の量の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1と図2により本発明の基本的部分を説明する。図1では溶液反応場10を構成する流路16と光検出器11および流動する試料・試薬溶液12が熱的、そして光学的に接触している。反応場とは、流路の一部であって検出される物質の反応する場所を指し、試料を検出するための抗原・抗体反応や酵素反応に寄与する分子を保持している。図1−4においては10で示す領域に対応する。ここで、溶液反応場を構成する流路中の溶液は流動している。そして、溶液反応場と検出器そして試料・試薬溶液が熱的に接触している。したがって、図1のように光検出器11と溶液12は必ずしも直接に接触している必要はない。このように、検出器と溶液との間に基板を挟む場合であっても、基板が熱伝導材料などで形成されていればよい。この場合の流路を構成する材料としては、ガラスやシリコン等の無機材料や、エポキシやアクリル等の樹脂材料が挙げられる。熱伝導材料の熱伝導率としては、0.1 W/mK以上あることが望ましい。光検出器の場合、流路内の光信号が観測できるように溶液反応場10を構成する流路の材料が信号光に対して透明となるようにすれば、流路材を挟む形で光検出器を配置することができる。光検出器と流路材の間に透明充填剤やマッチングオイルを挟むことにより熱的および光学的な接触をより理想的な状態することができる。
【0016】
図2は検出器として電位検出器13を用いた場合を示す。電位検出器では検出器表面を試料・試薬溶液に接触させる必要がある。電位検出器を溶液反応場10に熱的に接触させておく。
【0017】
上記のように、溶液反応場10、試料分析チップ基板51、検出器11,13、そして試料・試薬溶液12を互いに熱的に接触させた上で、試料・試薬溶液12を流動させることにより、短時間で、液反応場10、検出器11,13そして試料・試薬溶液12の間で動的に温度の平衡状態が達成することができる。
【0018】
この平衡状態が保たれた状態で検出器による計測を実施することによって精度の高い計測が可能になる。
【実施例1】
【0019】
図3(a)により、集積型の光検出器を用いた場合の試料分析チップの構成例について述べる。樹脂あるいはガラスを素材とする試料分析チップ基板51と流路の上部形状を規定する構造60によって流路16を形成し、試料分析チップ基板51の一部に光センサを内蔵した集積型検出器11を取付けることによって流路16の検出器近傍を溶液反応場10として、ここで発生する光信号を検出する。集積型検出器の構成を図3(b)に示す。
【0020】
光センサで検出した信号をアナログ回路ブロック17で増幅、AD(Analog-to-digital)変換し、制御論理回路ブロック18でディジタル信号伝送できるように符号化し、インターフェースブロック19を経てケーブル26を通して制御器14に送り、データの解析、表示、収納を行う。伝送距離が短く、振幅の大きな信号の場合であればアナログ回路ブロックのアンプの出力信号を直接ケーブル26にのせて制御器14に送ることも可能である。こうした集積型検出器は、光センサで検出した信号をその場で増幅、AD変換するために、信号伝送中でのノイズ混入を最小限にすることができる。
【0021】
しかし、アナログ回路、制御論理回路ブロック、インターフェースブロックを駆動するための電力によりこれらのブロックが形成されたチップあるいはモジュール基板からの発熱が問題となる。ここで、試料・試薬溶液12を流動させることにより、流動させない場合より短時間で、互いに熱的に接触する溶液反応場10、検出器11、試料・試薬溶液12の温度はそれぞれ一定の動的平衡温度に達する。室温は常に一定、試料・試薬溶液の温度は室温と同じ、集積化検出器の消費電力は常に一定、と仮定すれば上記動的平衡温度は異なる測定であっても等しいとすることできる。測定にあたってはこの動的平衡温度に達したことを確認して、検出器の信号を読み取ることにより、精度の高い計測値を得ることができる。
【実施例2】
【0022】
センサと信号処理回路の集積型
光センサと無線機能を内蔵した集積化検出器の適用例を図4に示す。図4(a)のように、検出器への制御信号送信や検出器からのデータ受信は無線によって行う。無線通信の一般的分類として、検出器に電池と発振器を搭載して検出器自体が通信搬送波を発生する能動型と、外部リーダから無線で電力供給を受けて通信する受動型があるが、ここではいずれの方法を適用してもよい。
【0023】
以下、安価に無線機能付きの検出器を構成できる受動型の場合について説明する。受動型無線の機能を備えた集積型検出器については、特許文献2を参照することができる。図4(b)は受無線の機能を備えた集積型検出器の構成を示す。検出器21に含まれる各回路ブロックは、リーダ23からリーダコイル22を介して送られる電力によって駆動される。試料分析チップ基板51を介することによって、計測値の精度にかかわる3つの構成要素である溶液反応場10、検出器21、試料・試薬溶液12を互いに熱的に接触させた上で、溶液12を流動させる点は実施例1と同様である。とする。たとえば、流路の厚さ20μm、流路幅5mm、流路長6mmとすれば、内部が溶液で満たされていない場合、毛細管現象で溶液を流動させることができる。ここでは、流量を制御し、連続的に試料・試薬溶液を流動させるために後述の実施例7に示す流量制御構造を導入する。
【0024】
この構造の試料分析チップを動作させたときの検出器の場所における温度と光検出器の暗状態出力の時間変化を図5に示す。計測ごとばらつきを検討するために3回の計測結果について重ねて示している。最初、溶液反応場10に溶液が満たされていない状態で、集積化検出器にリーダから電力が供給されると(t=0s)、温度は20℃以上急速に上昇する。温度上昇に伴って光検出器の計測値(暗状態の計測なので暗電流に対応する)は増加する。次にt=380sにおいて溶液流動を始めると温度は低下し、対応して光検出器の出力は減少する。溶液流動の状態で約200s経過すると温度そして光検出器の出力が安定することが分かる。t=800sで溶液流動を停止すると再び温度、光検出器出力は増加し始める。以上のことから、溶液反応場10、検出器21そして試料・試薬溶液12を互いに熱的に接触させた上で、試料・試薬溶液12を流動させることの効果を確認できる。
【実施例3】
【0025】
本発明の試料分析チップを使って免疫計測を実施する例を図6に示す。溶液反応場を構成する流路の内側で、光検出器の上部にあたる場所に計測対象の抗原に特異的な抗体31を固定化する。次に試料溶液を流して抗原33を固定化抗体31に結合し、標識抗体32を抗原33に結合してサンドイッチ構造を形成する。最後に標識とした酵素、たとえばアルカリフォスファターゼで触媒される発光基質たとえばAMPPD:3-(2'-spiroadamantane)-4-methoxy-4-(3”-phosphoryloxy)phenyl-1,2-dioxetane disodium salt溶液を流動させ、温度が動的平衡に達した時点で計測を実行する。
【実施例4】
【0026】
本発明の試料分析チップを使って遺伝子計測を実施する例を図7に示す。溶液反応場を構成する流路の内側で、光検出器の上部にあたる場所に計測対象のDNAに相補的なDNAプローブ41を固定化する。次に試料溶液を流して測定対象とするDNA42をプローブにハイブリダイズさせる。このとき図7の差し込み図に示すようにあらかじめ、試料溶液中のDNAをすべて酵素標識しておき、ハイブリダイゼーションして洗浄を行った後に、発光基質を流動させて検出器21によって発光を観測する。
【実施例5】
【0027】
本発明の試料分析チップを使って遺伝子計測を実施する他の例を図8に示す。検出器として電位センサを内蔵する電位検出器25を用いる。電位センサとしては、たとえばMOSトランジスタのゲートをフローティングにしてこれを検出器チップの表面に露出したIon Sensitive Field Effective Transistor (ISFET)を利用することができる。
【0028】
このフローティングゲート上にDNAプローブ41を固定し、試料溶液を流動させてターゲットするDNA 42をプローブにハイブリダイズさせる。DNAは負に電荷を余分にもっているのでターゲットDNAがプローブにハイブリダイズすると、電位センサを構成するMOSトランジスタのチャネル抵抗が変化するため、これを読み取ることによってターゲットDNAを検出する。
【実施例6】
【0029】
図9および10に試料分析チップの構成例を示す。図9はガラスあるいは樹脂からなる試料分析基板51の上に流路16を形成した例である。試料分析基板51を樹脂で構成する場合、ポリカーボネート、アクリル、COC(Cyclic Olefin Copolymer)、PDMS(polydimethylsiloxane)等を用いることができる。試料分析基板51には集積化検出器54、55が固定される。集積化検出器に搭載するセンサは実施例3から5に示したセンサを用いることができる。たとえば、54は信号光検出用光センサを搭載した集積化検出器、55として参照用光センサを搭載した集積化検出器とし、54の上方にターゲットを補足するプローブ56を固定して、チップ流路16は集積化検出器54、55の上方に形成する。
【0030】
ここで54と55はともに光センサを搭載した集積化検出器とし、2個の出力の差をとることによりプローブ56に捕捉された試料に対応する光信号だけを抽出することができる。プローブは上記実施例に記載したように抗体あるいはDNA等によって構成するこができる。試料あるいは試薬溶液は供給用溶液溜め57から滴下・供給され、ドレイン用溶液溜め58において排出される。これらの溶液溜め57,58は、吸収性のメンブレンを用いる(図9(a))、あるいは溶液溜め周囲を凸状にするか、溶液溜め部を凹状にすることによって溶液を保持する(図9(a)(b))。流路中の溶液流動を駆動する他の力としては、外部ポンプ、電気浸透流、エレクトロウェエッティング効果等を用いることもできる。
2個の集積化センサ54と55について他の組み合わせ例として、54は信号光検出用光センサを搭載した集積化検出器、55は温度センサを搭載した集積化検出器とすることで測定精度を向上することができる。温度変動による暗電流の変動は図5に示したように計測中も流路を流れる溶液に有無に応じて変動し、微細信号検出の場合にはこの温度変動を補償することが必須となる。予め取得しておいた光センサに固有の暗電流の温度依存性と54の温度センサによって得た温度計測値を用いて補正する補正手段とを備えた計測システムとすることで、測定系の温度変動が大きい場合でも暗電流変動分を除いた光信号に忠実な光センサ出力値が得ることができる。
【0031】
図10は流路の形成法を具体的に示した例である。(a)は上面図、(b)(c)は(a)におけるA-A’およびB-B’における断面図を示す。流路16は試料分析チップ基板51とその上に設置する流路形状規定構造60によって形成される。基板51と流路形状規定構造60は互いに接触面52によって接触している。接触面52には溶液が浸透することがないように接着剤、充填財、高密着性のシート等が挿入されていることが望ましい。また、図10(b-2)のようなセンサが設けられている基板に凹部によって流路が設けられている場合、上部に流路形状規定構造60を設けなくても流路を形成できる場合もある。
【実施例7】
【0032】
図11-13に流路内の流速を制御する構造の構成例を示す。一定の流速を与えることが計測系と反応系の温度の均一化に有効であることは上記で述べたが、流路内で分子がプローブ固定部に拡散して反応するには一定の時間が必要であり、流速が大きすぎると反応効率が低下し、試料・試薬消費量が増加してしまう。反応効率の低下を回避するために、流速は大きくても10μL/minに抑制する必要があり、そのための構造が必要となる。図11(a)は検出器54とドレイン用液溜め58の間に、流動速度制御手段として、流速の制限構造59を設けたものである。ここで流速制限構造59は溶液浸透性のメンブレンあるいは反応場付近の流路に比較して断面積小さくした流路で構成してもよい。メンブレンの材料としてはニトロセルロース、ナイロン、ポリエーテルスルフォン、ガラスファイバなどを用いることができる。
【0033】
流速制限構造59の配置場所は図11(a)のように検出器54の下流側でもよいし、図11(b)のように検出器54の上流側でもよい。流速は流速制限構造59の長さと幅によって任意に設定することができる。
【0034】
図12、13は複数ターゲットを複数プローブによって同時計測する場合の構造である。溶液の濃度を各プローブ上において均一にするために流速方向に対して直角方向にプローブを配置することが望ましく流路の幅は拡大する。このとき流速制限構造59を図12(a)の様に並列に設けることにより、流路内において流速を一定にするができる。図12(b)は流速制限構造の構成法の実施例を示すものである。メンブレンの一部61を疎水化することにより流速制限構造を並列化している。
流量制限構造59を設けた場合、例えば図13の63で示す部分に大気への開放口を設けておくことにより、流路内への気泡の滞留を防止することができる。
【実施例8】
【0035】
溶液反応場、センサそして試料溶液において動的な温度平衡状態を短時間で達成するには、流速を大きくすることが有利である。しかし一般に、流速の増加に伴って試料溶液中のanalyte(抗原)の利用効率は低下することが知られている。実際の使用においては利用できる試料溶液量が限られるため、流速を制限して試薬中analyte(抗原)の利用効率を確保しなければならない。
【0036】
図14は流路内溶液の流速と固定化抗体に捕捉されるanalyte(抗原)の量の関係をシミュレーションによって求めたものである(非特許文献2)。この関係は抗原・抗体の種類や流路形状によって異なるが、一般的な傾向としては図14(b)のように流速が一定の大きさ以上になると、固定化抗体へのanalyteの捕捉量は減少する。捕捉量を損なわずに温度平衡到達時間を短縮するには流速に対して捕捉量が変化しない範囲で、最大の流速に設定することが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明が対象とする生体試料の計測を目的とする計測装置では、例えばセンサ・信号処理回路・無線通信回路をシリコンのチップ上に集積した集積化検出器と流路を組み合わせることによって小型化・低コスト化が可能になる。同時に検体を採取する現場において高精度の計測が可能になる。感染症の病原あるいは食品中の病原、農薬などを計測対象とするPOCTデバイスが有力な応用分野である。
【符号の説明】
【0038】
10: 溶液反応場
11: 光検出器
12: 試料・試薬溶液
13: 電位検出器
14: 光検出器の制御器
15: 光検出器に内蔵される光センサ
16: 流路
17: 光検出器に内蔵されるアナログ回路ブロック
18: 光検出器に内蔵される制御論理回路ブロック
19: 光検出器に内蔵されるインターフェース回路ブロック
21: 無線機能内蔵の光検出器
22: リーダコイル
23: リーダ
24: 制御器
25: 無線機能内蔵の電位検出器
26: ケーブル
31: 固定化抗体
32: 標識抗体
33: 抗原
41: プローブDNA
42: ターゲットDNA
43: 修飾酵素
51: 試料分析チップ基板
52: 流路形状規定構造と試料分析チップの接触面
54: 集積化検出器
55: 集積化検出器
56: プローブ固定領域
57: 検出器上流側の供給用溶液溜め
58: 検出器下流側のドレイン用溶液溜め
59: 流速制限構造
60: 流路の上部形状を規定する構造
61: 部分的に疎水化されたメンブレン
62: 検出器上流側の供給用溶液溜めを構成する凸部
63: 大気開放口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、
前記第1の基板に設けられた検出器と、
前記第1の基板上に設けられ、試料を含む溶液の導入口及び排出口を有し、導入される前記溶液が流動するように形成した流路と、
導入される前記溶液と、前記検出器とが熱的に接触するよう配置されていることを特徴とする試料分析チップ。
【請求項2】
前記検出器は、前記試料を含む溶液が反応して発せられる光を検出する光検出器であることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項3】
前記第1の基板は、前記光検出器への光に対して透明であることを特徴とする請求項2記載の試料分析チップ。
【請求項4】
前記検出器は、前記試料を含む溶液が反応して変化する電位を検出する電位検出器であることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項5】
前記電位検出器は、前記溶液と接触するように前記第1の基板に設けられていることを特徴とする請求項4記載の試料分析チップ。
【請求項6】
前記検出器は、信号検出部と信号処理部を有する集積化検出器であることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項7】
前記検出器は、無線通信部を有する集積化検出器であることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項8】
前記第1の基板の前記検出器上には、測定対象の抗原に対応する抗体が設けられ、導入される前記試料に含まれる前記抗原を測定することを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項9】
前記第1の基板の前記検出器上には、測定対象の核酸をハイブリさせる核酸プローブが設けられ、導入される前記試料に含まれる核酸を測定することを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項10】
前記検出器は光検出器であって、ハイブリした前記核酸に標識された酵素からの発光を検出することを特徴とする請求項9記載の試料分析チップ。
【請求項11】
前記検出器は電位検出器であって、前記核酸のハイブリによる電位変化を測定することを特徴とする請求項9記載の試料分析チップ。
【請求項12】
前記導入口及び前記排出口には、前記溶液の溶液溜めが備えられていることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項13】
前記溶液溜めの導入口側は、溶液が溜まるように凸上のガイドを有することを特徴とする請求項12記載の試料分析チップ。
【請求項14】
前記導入口側又は/及び前記排出口側の前記溶液溜めと、前記流路との間に、前記溶液の流動速度を制御する流動速度制御手段を備えたことを特徴とする請求項12記載の試料分析チップ。
【請求項15】
前記流動速度制御手段は、狭窄した流路、多孔室材料、又は疎水性加工部分の並列配置のいずれかであることを特徴とする請求項14記載の試料分析チップ。
【請求項16】
前記排出口側に前記流動速度制御手段を有し、前記流動速度制御手段と前記流露との間に大気への開放口を備えたことを特徴とする請求項14記載の試料分析チップ。
【請求項17】
前記検出器は、前記試料溶液の反応を検出する第1の検出器と、前記試料溶液の温度を検出する第2の検出器であることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項18】
前記第1の基板に対向して配置され、前記流路の上部を構成する第2の基板とを備えたことを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項19】
前記第2の基板は、前記検出器と対向する面が、前記流路を形成するように凹状に形成されていることを特徴とする請求項14記載の試料分析チップ。
【請求項20】
前記第1の基板は、前記検出器と対向する面が、前記流路を形成するように凹状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項21】
請求項1記載の試料分析チップと、
前記試料分析チップは、前記検出器として、前記試料溶液の反応を検出する第1の検出器と、前記試料溶液の温度を検出する第2の検出器とを備え、
前記第1の検出器の信号の温度依存性データに対し、前記第2の検出器で取得した温度測定値を用いて、前記第1の検出器が取得した前記溶液からの信号を補正する計算手段とを備えた試料分析システム。
【請求項1】
第1の基板と、
前記第1の基板に設けられた検出器と、
前記第1の基板上に設けられ、試料を含む溶液の導入口及び排出口を有し、導入される前記溶液が流動するように形成した流路と、
導入される前記溶液と、前記検出器とが熱的に接触するよう配置されていることを特徴とする試料分析チップ。
【請求項2】
前記検出器は、前記試料を含む溶液が反応して発せられる光を検出する光検出器であることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項3】
前記第1の基板は、前記光検出器への光に対して透明であることを特徴とする請求項2記載の試料分析チップ。
【請求項4】
前記検出器は、前記試料を含む溶液が反応して変化する電位を検出する電位検出器であることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項5】
前記電位検出器は、前記溶液と接触するように前記第1の基板に設けられていることを特徴とする請求項4記載の試料分析チップ。
【請求項6】
前記検出器は、信号検出部と信号処理部を有する集積化検出器であることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項7】
前記検出器は、無線通信部を有する集積化検出器であることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項8】
前記第1の基板の前記検出器上には、測定対象の抗原に対応する抗体が設けられ、導入される前記試料に含まれる前記抗原を測定することを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項9】
前記第1の基板の前記検出器上には、測定対象の核酸をハイブリさせる核酸プローブが設けられ、導入される前記試料に含まれる核酸を測定することを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項10】
前記検出器は光検出器であって、ハイブリした前記核酸に標識された酵素からの発光を検出することを特徴とする請求項9記載の試料分析チップ。
【請求項11】
前記検出器は電位検出器であって、前記核酸のハイブリによる電位変化を測定することを特徴とする請求項9記載の試料分析チップ。
【請求項12】
前記導入口及び前記排出口には、前記溶液の溶液溜めが備えられていることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項13】
前記溶液溜めの導入口側は、溶液が溜まるように凸上のガイドを有することを特徴とする請求項12記載の試料分析チップ。
【請求項14】
前記導入口側又は/及び前記排出口側の前記溶液溜めと、前記流路との間に、前記溶液の流動速度を制御する流動速度制御手段を備えたことを特徴とする請求項12記載の試料分析チップ。
【請求項15】
前記流動速度制御手段は、狭窄した流路、多孔室材料、又は疎水性加工部分の並列配置のいずれかであることを特徴とする請求項14記載の試料分析チップ。
【請求項16】
前記排出口側に前記流動速度制御手段を有し、前記流動速度制御手段と前記流露との間に大気への開放口を備えたことを特徴とする請求項14記載の試料分析チップ。
【請求項17】
前記検出器は、前記試料溶液の反応を検出する第1の検出器と、前記試料溶液の温度を検出する第2の検出器であることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項18】
前記第1の基板に対向して配置され、前記流路の上部を構成する第2の基板とを備えたことを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項19】
前記第2の基板は、前記検出器と対向する面が、前記流路を形成するように凹状に形成されていることを特徴とする請求項14記載の試料分析チップ。
【請求項20】
前記第1の基板は、前記検出器と対向する面が、前記流路を形成するように凹状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の試料分析チップ。
【請求項21】
請求項1記載の試料分析チップと、
前記試料分析チップは、前記検出器として、前記試料溶液の反応を検出する第1の検出器と、前記試料溶液の温度を検出する第2の検出器とを備え、
前記第1の検出器の信号の温度依存性データに対し、前記第2の検出器で取得した温度測定値を用いて、前記第1の検出器が取得した前記溶液からの信号を補正する計算手段とを備えた試料分析システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−163993(P2011−163993A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28392(P2010−28392)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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