説明

試料分析方法及び装置

【課題】飛行時間型質量分析器を用いた分析の高感度化と高精度を計る。
【解決手段】1次入射粒子としてクラスター粒子を用い、1次入射粒子1パルス当り2次粒子を複数個発生させ、2次粒子を飛行時間型質量分析器18で分析する。デジタルオシロスコープ25により、1次入射粒子をパルス化するパルス化信号を基準時間信号として、2次粒子の検出信号を2次粒子の飛行時間によらず均等な確率で計数する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラスターイオンを試料に照射した際に得られる2次粒子を飛行時間型質量分析器で分析する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入射1次粒子と試料との衝突現象により発生した2次イオンの質量分析を行う2次イオン質量分析法、あるいは、スパッタされた中性粒子をイオン化させて得られた2次イオンの質量分析を行うスパッタ中性粒子質量分析法は、半導体産業、医薬品産業、材料製造産業等、広く産業界で利用されている。2次イオン質量分析及びスパッタ中性粒子質量分析法において、生成した粒子を分析する方法として、飛行時間型(Time-of-flight:TOF)質量分析器が広く使用されている。
【0003】
TOF質量分析器は、測定対象粒子に同じ運動エネルギーを与え、その運動エネルギーにより分析器中を飛行している分析対象粒子が分析器内を通過するのに要する時間を測定することで、当該粒子の質量分析を行う装置である。測定対象粒子に適切な飛行速度を持たせる必要があるため、2次イオン質量分析の場合は、1次粒子の試料への衝突により生成した2次イオンに適切なポテンシャルをかけて速度を与える。スパッタ中性粒子質量分析法では、レーザーや電子線等を照射することで、1次粒子の試料への衝突によりスパッタされた中性粒子をイオン化後、ポテンシャルをかけて速度を与える。分析対象粒子の飛行方式により、粒子がほぼ直線状に飛行する直線型、粒子をリフレクターにより反射させる反射型、静電型アナライザーと組み合わせて分解能を高めた方式等、さまざまなバリエーションがある。
【0004】
分析器内を粒子が飛行する時間(△t)を測定するためには、測定対象粒子が分析器に入った時刻(t1)と粒子が分析器を通過し終わった時刻(t2)を測定する必要がある。測定対象粒子が分析器に入った時刻に関係する信号として、試料に照射する1次粒子をパルス化する際に使用するパルスジェネレータの信号や1次入射粒子が試料に衝突する際に高い確率で放出される2次電子の検出信号等を使用する場合が多く、また、分析器を通過し終わった時刻に関係する信号としては、質量分析器出口付近に設置された粒子検出器の検出信号等を利用して、その時間差から飛行時間を求めることが多い。従来、分析器中を飛行する測定対象粒子の飛行時間を測定する際に、測定対象粒子が分析器に入った時刻と関連するパルスと、粒子が分析器を通過し終わった時刻と関連するパルスの2つの時間差に比例した波高を持つ出力パルスを発生する装置(時間波高分析器、Time to Amplitude Converter:TAC)を用いて測定している。
【0005】
【特許文献1】特許第4111270号公報
【特許文献2】特開2006−023251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、TOF質量分析器を用いた2次粒子質量分析では、2次イオンあるいはスパッタ中性粒子を生成するために照射する1次照射粒子として、数百eV〜30keV程度の入射エネルギーを持つCsイオン、Gaイオン、Oイオン、Arイオン等、一つの原子からなる単原子イオンを照射する。この場合、例えば、2次イオン質量分析の1次イオンとしてよく用いられる10keVの単原子イオン1個当りに発生する2次イオンは、せいぜい0.01程度である。このような1つの入射粒子当りに得られる2次粒子が非常に少なく、さらに、パルス化された1次ビームを用いる場合は1パルス当りの1次粒子数が非常に少ない場合、あるいは、パルス化していない1次ビームを用いる場合は入射粒子強度(単位時間当たりに試料に衝突する1次粒子数)が非常に少ない場合、検出される2次粒子は、それぞれ測定対象粒子が分析器に入った時刻と関連するパルスと粒子が分析器を通過し終わった時刻と関連するパルスを持つことになり、飛行時間を測定することができる。この場合、測定対象粒子が分析器に入った時刻と関連するパルス1つに対して、粒子が分析器を通過し終わった時刻と関連するパルスが一つしか生成しないということが測定の前提になっている。
【0007】
試料から放出される2次粒子量が少ないと、測定に時間がかかったり、ノイズに対するシグナルの比が高くなり、データの質が悪くなったり、あるいは、検出限界以下になり、測定できなくなる。これを改善し、分析の精度及び感度を高めるためには、なるべく多くの2次粒子を検出し、スペクトルに反映させる必要があり、2次粒子の生成量や生成効率を高めることが必要である。
【0008】
入射粒子を、2個以上の原子から成る原子集団や荷電原子集団として照射し、試料表面に高密度のエネルギー付与を行い、放出される2次荷電粒子数を増大させる方法がある。例えば、特許文献1の図3は、荷電粒子集団として試料に照射した際、試料表面から放出される2次粒子による電流を、入射粒子のビーム電流で規格化して、比電流として表示している。この図では、照射量が少ない時、比電流は1を大きく超えている。入射荷電粒子の電荷は1価であること、正の2次荷電粒子のほとんどは1価のイオンであること、を考慮すると、入射荷電粒子1つに対して、少なくともその数倍以上の数の正の2次荷電粒子を放出していることがわかる。また、このような荷電粒子集団を照射することでより効率的に2次粒子を生成することができるので、特許文献2のように、表面分析の感度を向上させることができる。
【0009】
上記のように、1次入射粒子として原子集団を使用する場合、集団1つから複数個の2次粒子が得られる場合がある。これは、入射粒子強度をどんなに弱くしても、複数個の2次荷電粒子が検出される場合もあることを示している。1個の原子集団や荷電原子集団で複数個の2次荷電粒子が検出器に到達する場合にTACによる飛行時間測定を行うと、計数される2次荷電粒子は検出器に1番早く到達したものに限られ、それ以降に検出器に到達した2次粒子による信号が観測されない。このため、数え落としが増加するだけでなく、測定結果がはじめに検出器に到達する2次粒子に偏るため、強度相対比が正確な2次粒子スペクトルを得ることができない。1番早くに検出器に到達した2次粒子による信号しか観測されないということは、2次粒子の飛行時間により、スペクトルに反映する確率が異なることを示している。このように1個の原子集団や荷電原子集団の入射で複数個の2次荷電粒子が生じる場合は、入射粒子強度をどんなに弱くしても、TACを用いると正確なスペクトルを得ることはできない。
【0010】
1次入射粒子を原子集団や荷電原子集団として試料に照射することで2次粒子量を増大させ分析感度を高めた飛行時間型2次粒子分析法において、正確なスペクトルを得るためには、2次粒子の計数方法を最適化させる必要がある。本発明は、原子集団照射、荷電原子集団照射と組み合わせて、2次粒子による分析の高感度化と高精度を計った試料分析方法及び分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、原子集団又は荷電粒子集団を1次入射粒子として使用した飛行時間型2次イオン質量分析における2次荷電粒子の計数に関して、2次荷電粒子の飛行時間(すなわち、2次荷電粒子の質量/電荷の比)によらず均等な確率で2次荷電粒子を検出することで、高感度かつ正確な2次粒子分析を行うことを可能とするものである。
【0012】
本発明では、2個以上の原子から成る原子集団あるいは2個以上の原子から成り電荷を持った荷電原子集団(以下、まとめてクラスター粒子という)を1次入射粒子として試料に照射し、当該1次入射粒子1個当たり2次荷電粒子が2個以上得られる場合で、2次荷電粒子の質量分析を飛行時間型分析器で分析する際、2次荷電粒子の飛行時間によらず均等な確率で2次荷電粒子の検出信号を計数することで、正確なスペクトルを得る。2次荷電粒子の検出信号を飛行時間によらず均等な確率で採取する方法としては、2次荷電粒子の検出信号を全数採取する場合と、飛行時間とは無関係なある割合で採取する場合とがある。全数採取する場合は、1次入射粒子が試料に入射する時刻と関連する信号とともに検出信号を採取すれば、2次荷電粒子の検出信号を飛行時間によらず強度の正確なスペクトルを得ることができる。また、信号の取り込みの関係で全信号を採取できない場合でも、信号の取り込みを飛行時間とは関係なく同じ割合で取り込むと、スペクトル中の2次粒子種の相対比は正しく、正確なスペクトルを得ることができる。
【0013】
1次クラスター粒子の入射エネルギーが高くなると、2次粒子の放出量が多くなり、1つの入射粒子に対して複数個の2次粒子が放出される確率がより高くなる。特に、入射エネルギーが30keV以上で、原子集団あるいは荷電原子集団当り2個以上の2次荷電粒子が得られる頻度が高くなり、本発明の有用性が増す。また、1次クラスター粒子のサイズが大きくなると、2次粒子の放出量が多くなり、1つの入射粒子に対して複数個の2次粒子が放出される確率がより高くなる。クラスター粒子を構成する原子の数を4以上とすると、1クラスター粒子当り2個以上の2次荷電粒子が得られる頻度が高くなり、本発明の有用性が増す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明による試料分析装置の一実施例を示す模式図である。イオン源10で発生され、分析マグネット11を通って分離された特定の質量/電荷比を有する一次イオンは、加速管12で加速され、コリメータ13を通って細いビームとなり、ホルダー15に保持された試料16に照射される。一次イオン14の入射によって試料16の表面から放出された2次イオン17は、試料表面に形成された電界の中で加速されてTOF管18に入射する。TOF管内を飛行した二次イオンは、マルチチャネルプレート19に入射して検出される。検出信号は、プレアンプ20で増幅され、CFD(コンスタントフラクションディスクリミネータ)21で信号波形を調整されて、デジタルオシロスコープ25に入力される。パルス発生器22から発生したパルスは、高電圧源23とデジタルオシロスコープ25に同時に供給される。高電圧源23は、パルス発生器22から発生したパルスに同期して偏向プレート24に印加する偏向電圧を制御し、一次イオンをパルス化して試料16に入射させる。なお、図1には、飛行時間型質量分析器として直線型の質量分析器を示したが、質量分析器の種類はこれに限られない。また、CFDはデジタルオシロスコープへの信号取り込み設定を容易にするために設置したが、その役割をデジタルオシロスコープ内で行うことも可能であり、必ずしも必要ではない。
【0015】
本実施例では、一次イオンとして荷電原子集団(クラスターイオン)を用いるが、クラスターイオンの代わりに2個以上の原子から成る原子集団を用いてもよい。また入射イオンのエネルギーは30keV以上とする。クラスターイオンを試料に照射する場合、入射条件(入射イオン、エネルギー、試料の種類等)によっては、入射クラスターイオン当り1個を超える確率で2次イオンが発生する場合がある。この場合、2次荷電粒子の質量分析を飛行時間型分析器で分析する際、シングルストップ形式(はじめに検出器に到達した2次イオンしか検出しない方式で、一般的に用いられている)で検出を行うと、はじめに検出された2次イオン、すなわち放出された2次イオンの中で質量/電荷比が一番小さいものしか検出されず、正確な2次イオンスペクトルを採取することができない。これは、クラスターイオン当り1個を超える確率で2次イオンを検出することになる場合、入射粒子の照射強度をどんなに弱めても必ず起こってしまう現象で、シングルストップ形式を使っている限り防ぎようがない。
【0016】
そのため、クラスターイオンを1次イオンとして用いた飛行時間型分析装置では、飛行時間(あるいは質量/電荷比)によらず、均等な確率で2次イオンを検出する計数方法を用いることが必要である。本発明の計数方法は、このような要請に応えることができるものである。
【0017】
図2は、デジタルオシロスコープ25に入力されるパルス発生器22からの信号と、CFD21からの2次粒子検出信号を摸式的に示した説明図である。図2(a)はパルス発生器22から発生された信号(パルス化タイミング信号)31を表し、図2(b)はCFD21から出力される2次粒子検出信号32,33を表す。1次イオン照射によって試料から放出された2次イオンの質量をm、電荷をzとするとき、質量電荷比(m/z)の小さな2次粒子は飛行速度が速いため早く検出器に到達し、質量電荷比(m/z)の大きな2次粒子は飛行速度が遅いため遅れて検出器に到達する。
【0018】
デジタルオシロスコープ25では、図2(c)に示すように、パルス化タイミング信号と2次粒子検出信号を取り込み、各2次粒子検出信号とそれに対応するパルス化タイミング信号との時間差を測定して、時間差をプロットすることで、TOFスペクトルを得る。デジタルオシロスコープ25に蓄積されたデータは、コンピューター26に送信さる。
【0019】
データ量が多い場合には、デジタルオシロスコープ25内のメモリがいっぱいになったタイミングで、データは外部記憶装置に転送され、その間は計数が止まる。しかし、ある飛行時間の2次粒子がきたら転送を行うという訳ではなく、データ転送のタイミングは2次粒子の飛行時間とは無関係なので、得られる2次粒子信号に飛行時間によるかたよりは生じない。すなわち、データ転送時間以外は全ての信号データを保存しているので、飛行時間に拠らず均等な確率で得られた2次粒子の飛行時間データに基づくスペクトルが得られ、正確な相対強度を有するスペクトルが得られる。
【0020】
また、本発明では、パルス化タイミング信号及び2次粒子検出信号を含む全ての信号を時系列的にメモリに保存しておく。具体的には、検出パルス波形信号と、そのパルス信号が観測された時間と基準時間との時間差を、記憶媒体に取り込み、測定中及び測定後に解析を行う。そのため、後から信号データから解析し直す(バックグランドの設定、ノイズ信号の除去、等)ことや、新たな解析(一つのタイミングパルスに対して2次粒子がいくつでているか、放出された2次粒子の組み合わせ、相関関係、等)を行うことも可能である。
【0021】
このように、本発明では、2次荷電粒子を飛行時間型分析器で質量分析する際、試料から放出された2次荷電粒子の検出信号を、検出粒子の飛行時間によらず均等な確率で計数する方法で分析できる。
【0022】
図3は、比較のために、従来多く用いられているシングルストップ形式の計測方法を模式的に示した説明図である。図3(a)はパルス化タイミング信号35を表し、図3(b)は2次粒子検出信号36を表す。図3(c)は、TOFスペクトルを得るために、各2次粒子検出信号とパルス化タイミング信号との時間差を測定する様子を示す図である。図3(b)に示すように、従来のシングルストップ形式の計測法では、パルス化タイミング信号のあと最初に検出器に到達した2次イオン、すなわち放出された2次イオンの中で質量/電荷比が一番小さいものだけが検出され、2番目以降に検出器に到達した2次イオンは破線で示すように検出されない。従って、粒子集団(中性クラスター)やクラスターイオンを試料に照射して、多くの2次粒子が同時に放出された場合にも、最初に検出器に到達した2次粒子の検出信号しか計数されず、計測されるスペクトルに偏りが生じるため、正確なスペクトルが得られない。
【0023】
図4は、本発明による試料分析装置の他の実施例を示す模式図である。図1に示した試料分析装置との違いは、パルス発生器と高圧電源がなく、代わりに二次電子検出器27を備える点である。二次電子検出器27の出力は、プレアンプ28、CFD29を介してデジタルオシロスコープ25に入力される。図1に示した装置の場合には1次ビームが連続的なビームであり、それをパルス化するために偏向プレートをパルス駆動して強制的にパルス化したが、本実施例の場合には1次イオンであるクラスターイオンがパルス的に放出される。そのため、クラスターイオンが試料に入射したとき試料から発生される2次電子を2次電子検出器27で検出し、この2次電子検出信号を2次イオンの飛行時間計測のための基準信号として使う。すなわち、図2(a)に示したパルス化タイミング信号31の代わりに、2次電子検出器27の出力を用いる。その他の装置構成及び信号処理の手順は、前記実施例と同様である。
【0024】
入射1次粒子として炭素原子が60個集まったC60というクラスターイオン(入射エネルギー:540keV)をパルス化して、有機系高分子(PMMA)試料に照射した。図5に、計測された負2次イオンスペクトルを示す。図の横軸はm/z、縦軸はカウント数であるが、図には100以上のm/zのカウント数を実際の5倍にして表示してある。図5(a)は、従来の方法によって計測された、1番早くに検出器に到達した2次粒子だけで構成されたスペクトルである。この場合、飛行時間の短い2次粒子が優先的に計数されるため、計数される確率は、飛行時間により均等ではない。図5(b)は、図1に示した装置を用いて、放出された2次荷電粒子の検出信号を検出粒子の飛行時間によらず均等な確率で検出する方法で計数して得られたスペクトルである。
【0025】
図5(a)のスペクトルは、図5(b)のスペクトルに比べて、2次粒子のm/zが大きくなると、急激にカウント数が低下している。飛行時間質量分析を行う場合、m/zがより小さい方が先に検出器に到達する。したがって、m/zが大きくなると急激にカウントが低下しているということは、検出器に到達するまでの時間が長い2次粒子の計数率が急激に低下していることを示している。例えば、図5(a)のm/z=185のピーク強度は図5(b)の数%程度であり、従来の計測法では、m/z=185の多くの2次荷電粒子はスペクトルに貢献していない。このように、図5(a)では、検出粒子の飛行時間によらず均等な確率で検出しておらず、飛行時間の長い2次粒子の計数率が低下するため、図5(b)との差が生じる。このため、観測された2次イオンの相対強度が実際と異なるスペクトルになってしまう。一方、図5(b)では、放出された2次荷電粒子の検出信号を検出粒子の飛行時間によらず均等な確率で計数しているので、m/zが大きくなってもカウント数の急激な低下がみられない。本発明のように飛行時間によらず均等な確率で2次粒子を計数することで、図5(b)に示した正確なスペクトルを得ることができる。
【0026】
図6から図8に、クラスターイオンの入射条件や試料の種類を変えて、試料から放出された2次粒子の質量スペクトルを従来法と本発明の方法で計測し、得られたスペクトルを比較して示した。図6は試料を生体系高分子(ポリチロシン)試料とした場合のスペクトルである。図7は、試料をPMMAとし、クラスターイオンの入射エネルギーを30keVとしたときの質量スペクトルである。図8は、試料をPMMAとし、クラスターイオンの入射エネルギーを120keVとしたときの質量スペクトルである。いずれの図においても、(a)が従来法で得られたスペクトル、(b)が本発明の方法で得られたスペクトルである。いずれの場合にも、本発明の方法で計測したスペクトルは、従来法で計測したスペクトルと比較して、m/zが大きい領域でカウント数が高く、発明の効果が見られる。なお、図5から図8に示したスペクトル測定では、1次入射粒子としてC60を用いたが、1次入射粒子として用いることのできるクラスター粒子はC60に限られない。
【0027】
本発明の試料分析方法は、高分子試料、生体高分子試料、生体材料、及びこれらの薄膜試料に対して特に有用である。すなわち、有機系試料は2次イオンの放出量が比較的多く、1つの一次粒子から2個以上の2次粒子が得られる頻度が高くなり、本分析法の有用性がより強く発揮できる。
【0028】
図1あるいは図4に示した試料分析装置において、偏向プレート24への印加電圧を制御して一次イオン14によって試料表面上を走査すると、試料表面面内分布測定(2次元測定)を行うことができる。また、別の入射粒子で試料表面を削りながら深さ方向分布を測定する試料の深さ方向分布測定(1次元測定)を行うことができる。更に、深さ方向と面内分布を組み合わせた3次元測定を行うこともできる。本発明の計数法と、このような入射のビーム走査を組み合わせることにより、より詳細、かつ高精度な情報を高速に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による試料分析装置の一実施例を示す模式図。
【図2】デジタルオシロスコープに入力される信号の説明図。
【図3】従来のシングルストップ形式の計測方法の説明図。
【図4】本発明による試料分析装置の他の実施例を示す模式図。
【図5】C60イオン(540keV)をPMMAに照射した時の負2次イオンスペクトル((a)従来法、(b)本発明)。
【図6】C60イオン(540keV)をポリチロシンに照射した時の正2次イオンスペクトル((a)従来法、(b)本発明)。
【図7】C60イオン(30keV)をPMMAに照射した時の負2次イオンスペクトル((a)従来法、(b)本発明)。
【図8】C60イオン(120keV)をPMMAに照射した時の負2次イオンスペクトル((a)従来法、(b)本発明)。
【符号の説明】
【0030】
10 イオン源
11 分析マグネット
12 加速管
13 コリメータ
14 一次イオン
15 ホルダー
16 試料
17 2次イオン
18 TOF
19 マルチチャネルプレート
20 プレアンプ
21 CFD
22 パルス発生器
23 高電圧源
24 偏向プレート
25 デジタルオシロスコープ
26 コンピューター
27 二次電子検出器
28 プレアンプ
29 CFD
31 パルス化タイミング信号
32,33 2次粒子検出信号
35 パルス化タイミング信号
36 2次粒子検出信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の原子から成るクラスター粒子をパルス化して1次入射粒子として試料に照射する工程と、
前記1次入射粒子1パルス当り2個以上生成する2次粒子を飛行時間型質量分析器で分析する分析工程とを有し、
前記分析工程では、前記1次入射粒子をパルス化するパルス化信号を基準時間信号として、前記2次粒子の検出信号を飛行時間によらず均等な確率で計数することを特徴とする試料分析方法。
【請求項2】
複数個の原子から成るクラスター粒子を1次入射粒子として試料に照射する工程と、
前記1次入射粒子1つ当り2個以上生成する2次粒子を飛行時間型質量分析器で分析する工程とを有し、
前記分析工程では、前記1次入射粒子が試料に入射した際に試料から放出される2次電子の検出信号を基準時間信号として、前記2次粒子の検出信号を飛行時間によらず均等な確率で計数することを特徴とする試料分析方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の試料分析方法において、前記1次入射粒子のエネルギーが30keVより大きいことを特徴とする試料分析方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の試料分析方法において、前記クラスター粒子を構成する原子の数が4以上であることを特徴とする試料分析方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の試料分析方法において、前記2次粒子の検出信号波形と、その2次粒子が検出された時間と前記基準時間信号との時間差と、を記録することを特徴とする試料分析方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の試料分析方法において、前記基準時間信号及び検出信号を、デジタルオシロスコープを用いて取り込むことを特徴とする試料分析方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の試料分析方法において、前記試料は高分子試料、生体高分子試料、生体材料、あるいはそれらの薄膜試料であることを特徴とする試料分析方法。
【請求項8】
4個以上の原子からなるクラスター粒子を発生するクラスター粒子発生部と、
前記クラスター粒子を30keV以上に加速し、パルス化して試料に照射する1次粒子入射部と、
前記クラスター粒子の照射によって試料から発生された2次粒子を分析する飛行時間型質量分析器と、
前記飛行時間型質量分析器中を飛行した前記2次粒子を検出する2次粒子検出器と、
前記パルス化のための信号と前記2次粒子検出器で検出された2次粒子検出信号が入力されるデジタルオシロスコープとを有し、
前記デジタルオシロスコープは、前記パルス化のための信号を基準時間信号とし、1つの基準時間信号に対して検出された複数の2次粒子検出信号を前記2次粒子の飛行時間によらず均等な確率で計数することを特徴とする試料分析装置。
【請求項9】
4個以上の原子からなるクラスター粒子を発生するクラスター粒子発生部と、
前記クラスター粒子を30keV以上に加速し、試料に照射する1次粒子入射部と、
前記クラスター粒子の照射によって試料から発生された2次粒子を分析する飛行時間型質量分析器と、
前記クラスター粒子の照射によって試料から発生された2次電子を検出する2次電子検出器と、
前記飛行時間型質量分析器中を飛行した前記2次粒子を検出する2次粒子検出器と、
前記2次電子検出器の検出信号と前記2次粒子検出器で検出された2次粒子検出信号が入力されるデジタルオシロスコープとを有し、
前記デジタルオシロスコープは、前記2次電子検出器の検出信号を基準時間信号とし、1つの基準時間信号に対して検出された複数の2次粒子検出信号を前記2次粒子の飛行時間によらず均等な確率で計数することを特徴とする試料分析装置。
【請求項10】
請求項8又は9記載の試料分析装置において、前記デジタルオシロスコープは、前記2次粒子検出器からの検出信号波形と、その2次粒子が検出された時間と前記基準時間信号との時間差と、を記録することを特徴とする試料分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−91292(P2010−91292A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258802(P2008−258802)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】