説明

試料分析装置及び試料分析方法

【課題】レーザー出力が安定で、且つ、試料の連続分析を良好に行うことが可能な試料分析装置及び試料分析方法を提供する。
【解決手段】試料の表面にレーザー光を照射して試料の一部を微粒子化させる、発振出力5W以上のレーザー発振源を有するレーザーアブレーション部と、微粒子化された試料を導入し、試料に含まれる構成元素を検出する元素検出部と、を備えた試料分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料の元素分析等に用いられる試料分析装置及び試料分析方法、より具体的にはレーザーアブレーションを用いた試料分析装置及び試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、試料の元素分析等に用いられる試料分析装置は、レーザー光の照射により試料を気化又は霧化させるレーザーアブレーション部と、レーザーアブレーション部で気化又は霧化させた試料に含まれる構成元素を検出する元素検出部とを備えている。また、レーザーアブレーション部のレーザー発振源としては、例えば理化学用(最大40mJ出力で発振できるQスイッチ周波数1〜30Hz)のNd:YAGレーザーを用いている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法」,JFE技報,No.13,2006年8月,p.106−108
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のようにレーザー発振源として理化学用(最大40mJ出力で発振できるQスイッチ周波数1〜30Hz)のNd:YAGレーザーのような低出力のレーザー発振源を用いて試料分析装置を構築すると、長時間の連続分析に対してレーザー出力が安定せず、耐久性が劣り、安定した分析結果を得るのが困難となる。また、このような試料分析装置は、効率的に試料を分析する連続分析に用いることも困難である。そこで、本発明はレーザー出力が安定で、且つ、試料の連続分析を良好に行うことが可能な試料分析装置及び試料分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために研究を重ねたところ、発振出力5W以上の高出力のレーザー発振源を有するレーザーアブレーション部を用いることで、レーザー出力が安定となり、試料の連続分析を良好に行うことが可能となることを見出した。
【0006】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、試料の表面にレーザー光を照射して試料の一部を微粒子化させる、発振出力5W以上のレーザー発振源を有するレーザーアブレーション部と、微粒子化された試料を導入し、試料に含まれる構成元素を検出する元素検出部とを備えた試料分析装置である。
【0007】
本発明に係る試料分析装置は一実施形態において、試料の測定を2〜5分/回で行うことができる。
【0008】
本発明に係る試料分析装置は別の一実施形態において、レーザーアブレーション部のレーザー発振源がYVO4レーザーである。
【0009】
本発明に係る試料分析装置は更に別の一実施形態において、元素検出部における元素分析がICP質量分析又はICP発光分析である。
【0010】
本発明に係る試料分析装置は更に別の一実施形態において、試料を自動で搬入して分析し、搬出する構成を備える。
【0011】
本発明に係る試料分析装置は更に別の一実施形態において、試料を設けたホルダーを複数個配置する試料配置部と、
前記試料配置部からホルダーを順に取り出すホルダー取り出し部と、前記ホルダー取り出し部で取り出したホルダーを載せて、前記レーザーアブレーション部へホルダーを連続して搬送するホルダー搬送部と、前記レーザーアブレーション部で試料にレーザー光を照射して分析を終えた後のホルダーを前記ホルダー搬送部から試料配置部へ戻すホルダー移動部とを更に備える。
【0012】
本発明に係る試料分析装置は更に別の一実施形態において、前記ホルダー移動部が、前記ホルダー取り出し部を兼ねている。
【0013】
本発明に係る試料分析装置は更に別の一実施形態において、試料配置部が試料を設けたホルダーが複数個配置されるトレーを多段で備えている。
【0014】
本発明に係る試料分析装置は更に別の一実施形態において、前記ホルダー搬送部には前記ホルダー取り出し部によって取り出されたホルダーを載せて搬送するチャンバー下部が設けられており、前記レーザーアブレーション部には、前記チャンバー下部と組み合わせて試料を覆うチャンバーを構成するチャンバー上部が設けられている。
【0015】
本発明に係る試料分析装置は更に別の一実施形態において、レーザーアブレーション部へ搬送する前のホルダー搬送部上のホルダーに設けられた試料にレーザー光を照射することで試料の位置測定を行う位置測定部を更に備えている。
【0016】
本発明は別の一側面において、本発明の試料分析装置を用いた試料分析方法である。
【0017】
本発明に係る試料分析方法は一実施形態において、試料の測定を2〜5分/回で行う。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る試料分析装置及び試料分析方法によれば、試料の連続分析を良好に行うことが可能な試料分析装置及び試料分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る試料分析装置の模式図を示す。
【図2】本発明の実施形態に係る搬送部及び試料配置部の模式図を示す。
【図3】本発明の実施形態に係る試料を設けたチャンバー(チャンバー上部及びチャンバー下部)の模式図を示す。
【図4】実施例と比較例との回帰分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(試料分析装置の構成)
図1に、本発明の実施形態に係る試料分析装置の模式図を示す。試料分析装置は、試料配置部、ホルダー搬送部、位置測定部、レーザーアブレーション部、元素検出部及びホルダー移動部を備えている。
【0021】
本実施形態において、試料の種類に限定されるものではないが、例えば、金属中に微量に含まれる貴金属の定量分析において、分析対象となるサンプル物質と酸化鉛をアルカリ系の融解剤と混合したものと共にルツボ等で融解させて生ずる鉛ボタンに成形された試料が用いる。また、試料分析装置内において、試料はアルミニウム製等のホルダー内に設けられており、当該ホルダー単位で装置内を搬送され、また、分析される。
【0022】
図2に、本発明の実施形態に係る搬送部及び試料配置部の模式図を示す。試料配置部は、試料を設けたホルダーが複数個配置されるトレーを多段で備えている。本実施形態では、図2に示すように、1つのトレーに試料を設けたホルダーが縦4個×横5個で合計20個配置され、さらにこのトレーが5段構成となっているため、20個×5段で合計100個設けられている。このような構成により、多数の試料を設けたホルダーを小さなスペースで配置することができる。
【0023】
ホルダー搬送部には、ホルダー取り出し部(本実施形態では後述のようにホルダー移動部が兼ねている)によって試料配置部から順に取り出されたホルダーが載せられる。本実施形態では、ホルダー搬送部は回転テーブルを構成しており、回転することによって順に載せられた分析前の試料が設けられたホルダーを後述の位置測定部、レーザーアブレーション部へと搬送し、さらに分析後の試料が設けられたホルダーを元の位置(ホルダー取り出し部によって取り出されたホルダーを初めに載せる位置)へ戻すことができる。このような構成により、搬送経路を短くすることができ、スペースを効率的に使用することができる。ホルダー搬送部の構成は特に限定されず、ホルダーの搬送経路が直線上に伸びるようにライン状に形成されていてもよい。
【0024】
ホルダー搬送部は、ホルダー取り出し部によって試料配置部から順に取り出されたホルダーが直接載せられてもよいが、本実施形態では、チャンバー下部を複数設けて、チャンバー下部に各ホルダーを載せており、ホルダー搬送部が回転することで、チャンバー下部ごとホルダーが搬送される構成となっている。
【0025】
位置測定部は、ホルダー搬送部で搬送されたホルダーに設けられた試料にレーザー光を照射して、試料の高さを測定する。このように、位置測定部であらかじめ試料の高さを測定して当該測定結果を利用することで、後段のレーザーアブレーション部によるレーザー光の照射の精度が良好となる。
【0026】
レーザーアブレーション部は、レーザー光を照射する発振出力5W以上のレーザー発振源を有する。レーザーアブレーション部は、位置測定部で高さが測定された試料の表面に、当該測定結果を利用してレーザー発振源から精度良くレーザー光照射を行い、試料の一部を微粒子化させる。レーザーアブレーション部は、このように発振出力5W以上の高出力のレーザー発振源を用いるため、レーザー出力が安定となり、試料の連続分析を良好に行うことが可能となる。レーザー発振源としては、例えば、5〜13Wの出力で発振できるQスイッチ周波数1〜400kHzのNd:YVO4レーザー等のYVO4レーザーを用いることができる。
【0027】
レーザーアブレーション部には、チャンバー上部が設けられている。チャンバー上部は、ホルダー搬送部で搬送されたホルダーを載せたチャンバー下部と組み合わせて試料を覆うチャンバーを構成する。図3に、試料を設けたチャンバー(チャンバー上部及びチャンバー下部)の模式図を示す。図3に示すように、チャンバー下部はホルダー搬送部にチャンバー下部固定具で固定されている。また、レーザーアブレーション部から下降するチャンバー上部と組み合わされて密閉空間を作り、これによって試料を設けたホルダーを覆うチャンバーを構成している。レーザーアブレーション部では、このようにチャンバーで試料を設けたホルダーを覆った状態でレーザー光の照射を行っている。
【0028】
元素検出部は、レーザーアブレーション部のレーザー光照射によって微粒子化された試料を導入し、試料に含まれる構成元素を検出する。元素検出部における元素分析は、例えば、ICP質量分析又はICP発光分析とすることができる。
【0029】
ホルダー移動部は、レーザーアブレーション部で試料にレーザー光を照射して分析を終えた後のホルダーをホルダー搬送部から試料配置部へ戻す。ホルダー移動部の形態は特に限定されず、例えばアーム状に形成されていてもよい。また、本実施形態では、ホルダー移動部は、試料配置部から順にホルダーを取り出してホルダー搬送部へ載せるホルダー取り出し部を兼ねている。このような構成により、搬送効率が良好となる。
【0030】
(試料分析方法)
次に、本発明に係る試料分析装置を用いた試料分析方法について説明する。
まず、分析対象となるサンプル物質と酸化鉛をアルカリ系の融解剤と混合したものと共にルツボ等で融解させて生ずる鉛ボタンを成形して試料を作製する。
次に、試料をホルダー内へ設け、このホルダーを試料配置部の多段に設けられたトレー上に配置する。
次に、ホルダー取り出し部(本実施形態ではホルダー移動部が兼ねている)によって1つずつ順に試料配置部のホルダーをホルダー搬送部上に取り出していく。取り出されたホルダーは、図1及び2に便宜的に記したポジション(pos.1〜4)におけるpos.1に設けられたチャンバー下部上に載置する。なお、このポジションの数は特に限定されない。
次に、ホルダー搬送部が回転することにより、pos.1のチャンバー下部上に載置されたホルダーがpos.2へ搬送される。pos.2では、位置測定部のレーザー照射による試料高さの測定が行われる。また、このとき、pos.1では、試料配置部から新たなホルダーが取り出されて載置される。
次に、ホルダー搬送部が回転することにより、pos.2のチャンバー下部上に載置されたホルダーがpos.3へ搬送される。pos.3では、レーザーアブレーション部のレーザー照射が行われる。このとき、まずpos.3のチャンバー下部が不図示の上昇手段によって上昇し、レーザーアブレーション部に設けられたチャンバー上部と組み合わせられてチャンバーとされ、ホルダーを覆う密閉空間を構成する。続いて、このチャンバー内を例えばヘリウムガス等でパージした後、発振出力5W以上のレーザー発振源によるレーザー光照射を行い、試料の一部を微粒子化させる。このとき、前段で位置測定部により測定されて得られた結果がレーザーアブレーション部の精度の良いレーザー光照射に利用される。
次に、レーザーアブレーション部のレーザー光照射によって微粒子化された試料が元素検出部へ導入され、試料に含まれる構成元素が検出される。
レーザー光照射が完了したら、ホルダーを載置したチャンバー下部を不図示の下降手段により下降させて、ホルダー搬送部のpos.3へ戻す。また、この間に、pos.1のチャンバー下部上に載置されたホルダーがpos.2へ搬送されて位置測定部のレーザー照射による試料高さの測定が行われ、さらにpos.1では、試料配置部から新たなホルダーが取り出されて載置される。
次に、ホルダー搬送部が回転することにより、pos.3のチャンバー下部上に載置されたホルダーがpos.4へ搬送される。pos.4では、特に操作は行わず、ただホルダーを待機させている。この間、pos.3ではホルダー上の試料がレーザーアブレーション部でレーザー光照射され、pos.2では位置測定部のレーザー照射による試料高さの測定が行われ、pos.1では新たなホルダーが試料配置部から取り出されている。
次に、ホルダー搬送部が回転することにより、pos.4のチャンバー下部上に載置されたホルダーがpos.1へ搬送される。pos.1へ搬送されたホルダーは、ホルダー移動部によって試料配置部へ戻され、続いて新たなホルダーが試料配置部からpos.1へ取り出される。この間、上記と同様に、pos.4ではホルダーが待機しており、pos.3ではホルダー上の試料がレーザーアブレーション部でレーザー光照射され、pos.2では位置測定部のレーザー照射による試料高さの測定が行われている。
このようにして、安定したレーザー出力による試料の分析を行うことができ、さらに試料を設けた多数のホルダーを自動で次々に効率よく分析することができる。このような構成により、本発明に係る試料分析装置を用いた試料分析方法では、試料の測定を2〜5分/回という短時間で行うことができる。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
(実施例)
上述の図1〜3に記載した本発明に係る試料分析装置及び分析方法を用いて、合計100個の試料(鉛ボタン)を分析した。レーザーアブレーション部のレーザー発振源としては、5〜13Wの出力で発振できるQスイッチ周波数1〜400kHzのNd:YVO4レーザーを用いた。
実施例では、100個の試料を分析している間のレーザー出力は安定しており、安定した分析結果を得ることができた。また、試料の搬入、分析及び搬出までが自動化されているため、従来の装置及び方法では3〜4日程度要していた分析を1日で行うことができた。
【0033】
(比較例)
従来の一般的な試料分析装置として、理化学用(最大40mJ出力で発振できるQスイッチ周波数1〜30Hz)のNd:YAGレーザーをレーザーアブレーション部のレーザー発振源に用いた試料分析装置を準備した。続いて、実施例と同様な試料(鉛ボタン)を100個作製し、分析を行った。
比較例では、レーザー出力が安定せず、安定した分析結果が得られなかった。
【0034】
また、図4に、実施例と比較例との回帰分析結果のグラフを示す。縦軸の「イオン強度比」は金と内標準元素として用いる鉛とのイオン強度比である。図4によれば、実施例(本発明に係る分析装置・方法)と比較例(従来の分析装置・方法)との分析の相関性が十分あることを示している(R2=0.9861)。すなわち、本発明に係る分析装置・方法によれば、従来と同様な分析結果を、安定的に且つ自動的に行うことができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の表面にレーザー光を照射して試料の一部を微粒子化させる、発振出力5W以上のレーザー発振源を有するレーザーアブレーション部と、
微粒子化された試料を導入し、試料に含まれる構成元素を検出する元素検出部と、
を備えた試料分析装置。
【請求項2】
試料の測定を2〜5分/回で行うことができる請求項1に記載の試料分析装置。
【請求項3】
前記レーザーアブレーション部のレーザー発振源がYVO4レーザーである請求項1又は2に記載の試料分析装置。
【請求項4】
前記元素検出部における元素分析がICP質量分析又はICP発光分析である請求項1〜3のいずれかに記載の試料分析装置。
【請求項5】
前記試料を自動で搬入して分析し、搬出する構成を備えた請求項1〜4に記載の試料分析装置。
【請求項6】
試料を設けたホルダーを複数個配置する試料配置部と、
前記試料配置部からホルダーを順に取り出すホルダー取り出し部と、
前記ホルダー取り出し部で取り出したホルダーを載せて、前記レーザーアブレーション部へホルダーを連続して搬送するホルダー搬送部と、
前記レーザーアブレーション部で試料にレーザー光を照射して分析を終えた後のホルダーを前記ホルダー搬送部から前記試料配置部へ戻すホルダー移動部と、
を更に備えた請求項5に記載の試料分析装置。
【請求項7】
前記ホルダー移動部が、前記ホルダー取り出し部を兼ねている請求項6に記載の試料分析装置。
【請求項8】
前記試料配置部は、試料を設けたホルダーが複数個配置されるトレーを多段で備えている請求項6又は7に記載の試料分析装置。
【請求項9】
前記ホルダー搬送部には前記ホルダー取り出し部によって取り出されたホルダーを載せて搬送するチャンバー下部が設けられており、
前記レーザーアブレーション部には、前記チャンバー下部と組み合わせて試料を覆うチャンバーを構成するチャンバー上部が設けられている請求項6〜8のいずれかに記載の試料分析装置。
【請求項10】
前記レーザーアブレーション部へ搬送する前の前記ホルダー搬送部上のホルダーに設けられた試料にレーザー光を照射することで試料の位置測定を行う位置測定部を更に備えた請求項6〜9のいずれかに記載の試料分析装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の試料分析装置を用いた試料分析方法。
【請求項12】
試料の測定を2〜5分/回で行う請求項11に記載の試料分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−211837(P2012−211837A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77820(P2011−77820)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】