説明

試料分離検出用チップ

【課題】 簡便、安価、高速に試料の分離・検出を可能にする試料分離検出用チップを提供すること。
【解決手段】試料を電気泳動するための溝部と試料導入部とが形成された第1の基板と、前記溝部に対して共通に第1の電圧を印加して、前記溝部を使用して試料を電気泳動するための第1の電極対と、電気泳動の下流であって、前記溝部に対応して配置され、前記溝部に第2の電圧を印加して電気化学的に前記試料の有無を検出する第2の電極対と、を具備する試料分離検出用チップを用いた試料検出方法において、少なくとも1つ以上のダイデオキシ反応を実行して試料を作製し、前記1つ以上の試料を、前記溝部に注入し、前記複数の溝部に前記第1の電圧を印加すると共に、前記第2の電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の分離検出をおこなうための試料分離検出用チップに関する。
【背景技術】
【0002】
試料の分離・検出の代表的な手段として電気泳動を利用した方法が知られている。例えば、核酸の電気泳動では、アガロースやアクリルアミドなどの高分子ゲル中で分離した後に、光学的な手法で検出が行われる。この手法で、最もよく用いられているのはエチジウムブロマイドなどの蛍光性のインターカレーターを使って核酸等を検出する方法であって、これにより、比較的簡単に検出が可能である。しかしながら、この方法は感度が低く、時間がかかるといった問題がある。また、予め核酸を蛍光色素で標識する方法も良く用いられているが、高感度で検出するために、高価で大型のレーザー検出装置が必要になるなどの問題を有する。
【0003】
上記のような検出方法以外に、電気化学的な手法を用いた核酸検出技術が注目されている。Palcekらによって、核酸の塩基であるグアニンとアデニンがグラファイト電極上で電気化学的に酸化される事が報告されている(非特許文献1:Bioelectrochem.Bioenerg.15,275,1996)。これによれば、グアニンは約1V、アデニンは約1.2V付近で非可逆的に酸化され、酸化の際における酸化電流が観察される。また、Wangらによって、この塩基からの電気化学信号を基にしてDNAの特異的な配列を検出するためのセンサーが報告されている(非特許文献2:Anal.Chim.Acta 402,7,1999)。また、橋本らによって、電気化学的に活性なDNA結合物質を用いた遺伝子検出技術が報告されている。ここでは、電極上に固定化したDNAプローブ上でハイブリダイゼーション反応を行い、反応後電気化学的に活性なDNA結合物質を作用させると、DNA結合物質からの電気化学的な信号を基に遺伝子が検出できることが報告されている(非特許文献3:Supla.mol.Chem.2,265,1993)。
【0004】
ところで、電気化学的な手法は、核酸の検出に煩雑な標識が不要であることや、検出装置が安価な電気回路で製造できるなどの特長がある。
【0005】
そこで、その特長を活かして、キャピラリ電気泳動と電気化学測定を組み合わせた分析方法(CE−ECD)による、生体関連物質の検出が報告されている(Anal.Chem.70,2167、1998)。また、サンプルが非常に微量でよいこと、分析時間が短いことなどの理由から、最近では微細加工技術で作製したチップ上でのCE−ECDも注目を集めている。
【0006】
しかしながら、電気化学的な手法により検出は、試料の検出に電気化学測定器(ポテンショスタット)が必要なため、多サンプルの同時測定は難しいといった問題がある。
【非特許文献1】Bioelectrochem.Bioenerg.15,275,1996
【非特許文献2】Anal.Chim.Acta 402,7,1999
【非特許文献3】Supla.mol.Chem.2,265,1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、簡便、安価、高速に試料の分離・検出を可能にする試料分離検出用チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために次のような手段を講じた。
本発明の局面に係る発明は、試料を電気泳動するための溝部と試料導入部とが形成された第1の基板と、前記溝部に対して共通に第1の電圧を印加して、前記溝部を使用して試料を電気泳動するための第1の電極対と、電気泳動の下流であって、前記溝部に対応して配置され、前記溝部に第2の電圧を印加して電気化学的に前記試料の有無を検出する第2の電極対と、を具備する試料分離検出用チップを用いた試料検出方法において、少なくとも1つ以上のダイデオキシ反応を実行して試料を作製し、前記1つ以上の試料を、前記溝部に注入し、前記複数の溝部に前記第1の電圧を印加すると共に、前記第2の電圧を印加することを特徴とする。
【0009】
本発明の他の局面に係る発明は、試料を電気泳動するための複数の溝部と試料導入部とが形成された第1の基板と、前記複数の溝部に対して共通に第1の電圧を印加して、前記複数の溝部を使用して試料を電気泳動するための第1の電極対と、電気泳動の下流であって、前記溝部のそれぞれに対応して配置され、前記溝部に第2の電圧を印加して電気化学的に前記試料の有無を検出する複数の第2の電極対と、を具備する試料分離検出用チップを用いた試料検出方法において、少なくとも2つ以上のダイデオキシ反応を異なる容器で実行して少なくとも2つの試料を作製し、前記少なくとも2つ以上の試料を、それぞれ異なる前記溝部に注入し、前記複数の溝部に前記第1の電圧を印加すると共に、前記第2の電圧を印加することを特徴とする。ここで、前記試料は、第1から第4の試料を含み、前記第1の試料は、鋳型DNAと、プライマーと、ポリメラーゼと、dNTPと、ddAとをチューブ内で混合して一定時間放置するA反応により作製し、前記第2の試料は、鋳型DNAと、プライマーと、ポリメラーゼと、dNTPと、ddCとをチューブ内で混合して一定時間放置するC反応により作製し、前記第3の試料は、鋳型DNAと、プライマーと、ポリメラーゼと、dNTPと、ddGとをチューブ内で混合して一定時間放置するG反応により作製し、前記第4の試料は、鋳型DNAと、プライマーと、ポリメラーゼと、dNTPと、ddTとをチューブ内で混合して一定時間放置するT反応により作製することが好ましい。
【0010】
上記の各局面において、
(1)前記第1の電圧は、100Vであり、前記第2の電圧は、1.3Vであること。
(2)前記第1の電圧と前記第2の電圧の位相あるいは電圧を印可するタイミングをずらすこと。
【0011】
(3)前記第2の電極対によって電気化学的に前記試料の有無を検出する際に、前記第1の電圧を所定の電圧以下に設定すること。
【0012】
が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、煩雑な標識工程を省くことができると共に、高価な試薬も不要になる。また、検出装置も安価な電気回路で作製できるので、従来よりも短時間で安く高感度に塩基配列を決定できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る試料分離検出用チップの概略構成を示す図である。図1において、図1(a)は、試料分離検出用チップの全体的な構成を示している。図1(b)は上面図であり、図1(c)は断面図である。
【0016】
図1において、チップは、2枚の基板1(すなわち、第1の基板1aと第2の基板1b)とを積層して構成されている。チップの両端部には、電気泳動用電極2(2a、2b、以下、便宜上「第1の電極」と称することもある)が配置されている。また、基板1aには電気泳動路となる複数の溝部3が形成されており、溝部3の電極2b側には、溝部3を挟むようにして、試料検出用電極4(以下、「第2の電極」と称することもある)が配置されている。また、溝部3の電極3a側には、溝部3の数に応じた試料導入部5が形成されている。
【0017】
上記のような構成において、第1の実施形態においては、複数の溝部3と第1及び第2の電極2、4は、第2の基板1b上に配置されており、図1(c)中下部から配線が取り出されて、電源2c及び4aに、それぞれ接続されている。従って、第1の基板1aには、試料導入部5のみが形成されている。
【0018】
上記のように構成された試料分離検出用チップにおいて、試料を試料導入部5から導入した後に、第1の電極2a−2b間に電圧を印加して、電気泳動を開始する。そして、その電気泳動による結果を第2の電極4で検出する。
【0019】
上記のように、第1の実施形態では、複数の溝部3を形成して、電気泳動を行うようにしたので、複数の試料の電気泳動を簡単に行うことができる。
【0020】
なお、第1の実施形態においては、第1の電極2を1対としたが、これに限らず、複数対(例えば、溝部3と同じ数)の第1の電極2を配置しても良い。これにより、電解の不均一性を避けることができるので、各溝部3における試料の比較を定量的に行うことができる。また、第1の電極において、電極2aと電極2bとの数は、1対1に対応していることが好ましいが、これに限らず、電極2aの数を電極2bより多くしても良いし、その逆としても良い。このようにすると、溝部3の数に応じた電極配置よりも、電解特性は多少悪くなるが、製作が容易になり、構造も簡単になる。なお、このような電極構成は、以下の実施形態においても、同様に適用可能である。
【0021】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態に係る試料分離検出用チップの概略構成を示す図である。図2において、図1と同じ部分には、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。第2の実施形態においても、第1の基板1aと第2の基板1bとを積層して、試料分離検出用チップを構成している。図2(a)は溝部3と第1の電極との配置関係を示し、図2(b)は図2(c)の2b−2b矢視図であり、図2(c)は断面図である。
【0022】
第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、第2の電極4を第1の基板1a上にパターンニングして形成している点である。これにより、第1の電極2への配線は、基板1の側方から取り出すようになっている。なお、図2(c)では、第2の電極4への配線も基板1の側方から取り出すようになっているが、第1の実施形態と同様に下方から取り出すようにしても良い。また、図2では、穴部6が図示されているが、穴部6は内部の洗浄用等の用途に使用されるものであって、本発明の特徴とは関係が無いので、詳細な説明は省略する。
【0023】
上記のような構成にすることにより、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な効果が得られる。
【0024】
(第3の実施形態)
図3は、本発明の第3の実施形態に係る試料分離検出用チップの概略構成を示す図である。図3において、図2と同じ部分には、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。第2の実施形態においても、第1の基板1aと第2の基板1bとを積層して、試料分離検出用チップを構成している。図3(a)は第2の基板1bにおける溝部3の配置を示し、図3(b)は第1の基板1aにおける電極のパターンニングの様子を示す図であり、図3(c)は断面図である。
【0025】
第3の実施形態が第2の実施形態と異なる点は、第1と第2の電極2、4の両者とも第1の基板1aにパターンニングして形成したことである。それ以外は、第2の実施形態と同じである。従って、第3の実施形態でも、第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【0026】
上記の各実施形態において、第1及び第2の電極2、4を、基板に形成する場合には、メッキ、印刷、スパッタ、蒸着などで作製することができる。ここで、蒸着を行う場合は、抵抗加熱法、高周波加熱法、電子ビーム加熱法により電極膜を形成することができる。また、スパッタリングを行う場合は、直流2極スパッタリング、バイアススパッタリング、非対称交流スパッタリング、ゲッタスパッタリング、高周波スパッタリングで電極膜を形成することが可能である。更に、ポリピロール、ポリアニリンなどの電解重合膜や導電性高分子も用いることが可能である。
【0027】
更に、上記の各実施形態では、第2の電極4を用いた検出系は、作用極と対極からなる一般的な二電極系を示したが、例えば、作用極、対極、及び参照極からなる3電極であることが望ましい。ここで用いられる対極は特に限定されるものではなく、例えば、上記した電極材料を用いることが可能である。また、参照極も特に限定されるものではなく、例えば、銀塩化銀電極、飽和カロメロ電極等を用いることも可能である。
【0028】
上記の各実施形態で使用される基板の材料は特に限定されるものではない。例えば、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、炭化珪素、酸化珪素、窒化珪素、等の無機絶縁材料を使用できる。また、ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、シリコン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン等の有機材料を用いることができる。
【0029】
また、上記の各実施形態において、電極の形成などにおいて、絶縁材料(例えば、レジストとして)が使用されるが、絶縁材料についても特に限定されるものではないが、フォトポリマー、フォトレジスト材料であることが好ましい。レジスト材料としては、光露光用フォトレジスト、遠紫外用フォトレジスト、X線用フォトレジスト、電子線用フォトレジストが用いられる。光露光用フォトレジストには、主原料が環化ゴム、ポリけい皮酸、ノボラック樹脂があげられる。遠紫外用フォトレジストには、環化ゴム、フェノール樹脂、ポリメチルイソプロペニルケトン(PMIPK),ポリメチルメタクリレート(PMMA)等が用いられる。また、X線用レジストには、COP、メタルアクリレートほか、薄膜ハンドブック(オーム社)に記載の物質を用いることができる、更に電子線用レジストには、PMMA等上記文献に記載の物質を用いることが可能である。ここで用いるレジストは100Å以上1mm以下であることが望ましい。フォトレジストで電極を被覆し、リソグラフィーを行うことで、面積を一定にすることが可能になる。これにより、生体関連物質捕捉物質固定化量がそれぞれの電極間で均一になり、再現性に優れた測定を可能にする。従来、レジスト材料は最終的には除去するのが一般的であるが、本発明ではレジスト材料は除去することなく電極の一部として用いることも可能である。この場合は、用いるレジスト材料に耐水性の高い物質を使用する必要がある。電極上部に形成する絶縁層にはフォトレジスト材料以外でも用いることが可能である。例えば、Si、Ti、Al、Zn、Pb、Cd、W、Mo、Cr、Ta、Ni等の酸化物、窒化物、炭化物、その他合金を用いることも可能である。これらの材料をスパッタ、蒸着あるいはCVD等を用いて薄膜を形成した後、フォトリソグラフィーで電極露出部のパターニングを行い、面積を一定に制御する。
【0030】
上記のように、第1の実施形態から第3の実施形態においては、複数の試料の分離検出を同時に行うことができる。上記のような構成に対して、複数の試料を同時に検出するための回路例を図4に示す。図4(a)は、回路の概略構成を示す図であって、図4(b)は図4(a)に示す回路を基板上に配置した例を示す図である。
【0031】
図4に示すように、検出回路は、パルス発生器41と、カウンタ42と、デコーダ43と、スイッチング素子44と、増幅器45と、A/D変換器46とを備えている。このような構成において、パルス発生器41からタイミングパルス(サンプリングクロック)が発生される。このパルスによって、サンプリング間隔が決定される。なお、このサンプリング間隔は、可変であることが好ましい。パルス発生器41で生成されたタイミングパルスはカウンタ42に入力し、所定の計数毎に例えば1パルス発生する。カウンタ42からのパルスは、デコーダ43に入力して、入力パルスに応じて、スイッチング素子44のうちいずれのスイッチング素子をオンにするかを決定する。
【0032】
そして、例えば、順次スイッチング素子がオンになると、オン状態のスイッチング素子に接続された第2の電極4からの信号が増幅器45に出力されて、所定の増幅率で増幅される。そして、この増幅されたアナログデータは、A/D変換器46でデジタル信号に変換されて図示しない処理回路に出力される。
【0033】
上記のようにして、順次スイッチング素子がオンになることによって、第2の電極4からの信号を順次取り出すことができる。なお、この検出回路は、図4に示したような回路に限らず、複数の電極からの信号を順次取り出すことができるのであればどのような回路を適用しても良い。例えば、カウンタ42とデコーダ43の代わりに、シフトレジスタを採用して、シフトレジスタからの出力により、スイッチング素子が順次オンになるような構成としても良い。
【0034】
また、図4(b)に示すように、上記のような検出回路の一部或いは、全てを基板上に配置することが好ましい。一般に、第2電極からの検出信号は、微弱であるが、このようにすることによって、配線の影響をなるべくする少なくすることができる。
【0035】
また、図4(b)では、基板上に配置するのは、スイッチング素子44とパルス生成関係の回路(41から43)のみとしたが、増幅器45も基板上に形成することが好ましい。これにより、微弱信号を増幅してから外部へ出力できるので、雑音などの影響が減少する。
【0036】
第2の電極4として、試料が核酸の場合には、グラファイトが好ましいが、図5を参照して、この理由を説明する。
図5は、グラファイト電極上に吸着固定化した牛胸腺DNAのサイクリックボルタモグラムである。図5において、1V付近と1.2V付近に酸化ピークが観察される。この酸化ピークのうち、前者はグアニン、後者はアデニンの酸化反応に由来する酸化ピークである。なお、図5中の反応式は、Palcekらによって報告されている塩基の酸化反応を示しており、Aはグアニンの酸化反応、Bはアデニンの酸化反応を示す。
上記のように、第2の電極材料として、グラファイトを使用することが好ましいがことから、ベーサルプレーンパイロリティックグラファイト(BPPG)、グラシシ−カーボン等の炭素電極であることが好ましいが、他の電極を用いることも可能である。例えば、エッチングに有利な金を用いても良いし、その他、金の合金、銀、プラチナ、水銀、ニッケル、パラジウム、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム、タングステン等の金属単体及びそれらの合金、あるいはグラシーカーボン等の炭素等、ITO等の透明電極、またはこれらの酸化物、化合物を用いることができる。
【0037】
また、電気化学的な信号の検出は、上記のように、第2の電極4に接続された検出回路で複数の電極を順次(又は任意に)切り替えることが可能であるので、1台のポテンショスタットで複数電極からの信号を同時に計測可能である。また、チップ(或いは基板)上には、所定の電圧を第2の電極間に印加する電源回路と、各第2の電極4それぞれ所定の電位を印加し、電気信号を得るスイッチング回路と、第2の電極からの電気信号を外部機器に出力する為の検出回路を備えることが望ましい。なお、この検出回路には、電気信号を増幅するための増幅器が含まれていることが好ましい。また、電源、ポテンショスタット、波形発生装置を備えることが更に好ましい。また、チップにはマトリックス上に配置された特定の位置のMOSFETスイッチング素子および第2の電極に電気信号を出力するためのデコーダ回路、スイッチング回路、タイミング回路、パルス発生回路、メモリー、A/D変換器、波形発生装置、電源、ポテンショスタット、電気信号検出回路、等の回路を一つのチップ上に集積することが望ましい。
【0038】
また、上記の各実施の形態の場合において、核酸検出用の第2の電極4は1つの溝部3当り1つ以上配置することが望ましい。予め第2の電極に電位を印加しておくと、電気泳動によって分離された核酸が電極上を通過する際に電気化学的に酸化され酸化電流が流れる。この電流を測定することで、核酸の有無を検出することができる。核酸検出用の第2の電極を1つの溝部3当り2つ以上設置する場合には、それぞれ異なる電位を設定しておくことで、より精度の高い検出が可能になる。
【0039】
上記のように、核酸抽出機構、核酸精製機構、核酸増幅機構などを集積化して核酸検出用システムを構成することが可能である。これらの機構を備えた核酸検出用システムを用いれば、核酸の抽出、増幅、検出などの一連の操作を全て自動的に行うことができる。
【0040】
図6は、電気化学手法による検出感度の一例を示した図である。グアニン由来の信号を指標として検出感度を評価した結果、fmolオーダーの検出が可能であった。
このように、第2の電極4をグラファイトとすることで、核酸を効果的に検出できる。
また、図7は、ダイデオキシ反応を模式的に示した図である。鋳型DNA12と、プライマー10と、ポリメラーゼ13と、四種類のdNTP14と、ddA16とをチューブ15内で混合して一定時間放置し、A反応を行った。同様にC反応にはddC、G反応にはddG、T反応にはddTをそれぞれ添加してダイデオキシ反応を行った。これらのサンプルは別々のレーン(すなわち、図1における溝部3)で電気泳動を行った。
【0041】
第1の実施形態から第3の実施形態に係る試料分離検出用チップを用いて、電気化学的塩基配列を決定する方法について説明する。ここでは、第1の実施形態に係る試料分離検出用チップを用いたものとして説明する。なお、検出回路は図4に示すものと等価回路であるものとする。なお、第2の電極4は、グラファイトであるものとする。
【0042】
2枚のガラス板の間にアクリルアミドのゲルを作製し、ダイデオキシ反応後のサンプルを溝部3にロードし、第1の電極2a−2b間に電源2cから100Vの電圧をかけて電気泳動する。第2の電極4間には1.3Vの電位が電源4aから印加されている。これにより、第2の電極4上を核酸が通過する際に、核酸中のグアニンが酸化されて電流が流れる。
【0043】
図8は、上記のようにして測定して得られた電気信号の一例を示した図である。この信号からは、配列はCTGACAGCAと解読できる。
【0044】
なお、核酸結合物質の電気信号を指標にしても、電気化学的に塩基配列を決定することができる。例えば、図5に示すような系で電気泳動の緩衝液としてコバルトビピリジル錯体100μmol/Lを添加しておき、第2の電極4間には0.8Vの電位を電源4aから印加する。電位印加中は錯体の酸化反応に伴う定常電流が観察されるが、電極上を核酸9が通過する際に、錯体に由来する酸化電流値が減少する。図9は、その際の電流応答曲線の一例を示している。
【0045】
核酸を検出するための電気化学的な手法は上記の方法に特に限定されるものではないが、クロノクーロメトリーが最も簡単に行うことができる。その他、DCテクニックとしては、リニアスイープボルタンメトリー、サイクリックボルタンメトリー、パルスボルタンメトリー、微分パルスボルタンメトリー、矩形波ボルタンメトリー、ストリッピングボルタンメトリー、アンペロメトリー、電流一定クロノポテンショメトリー等の手法が、またACテクニックとしては三角波ボルタンメトリー、微分三角波ボルタンメトリー、デジタルACボルタンメトリー、デジタルフェーズ選択ボルタンメトリー、デジタルセコンドハーモニックフェーズ選択ボルタンメトリー等も用いることができる。
【0046】
また、上記のように電気化学的に核酸を検出するためには、塩基の酸化還元反応を利用することが可能である。例えば、前述したように核酸検出用の第2の電極にBPPG電極を用いると、塩基のグアニン、アデニンはそれぞれ約1V、1.2V(vs.Ag/AgCl)で酸化され、それに伴う酸化電流が流れる。この酸化電流をクロノクーロメトリーなどの手法で検出することで、核酸の有無を検出することが可能である。
【0047】
また、核酸の検出に電気化学的に活性な核酸結合物質を用いることも可能である。本発明の実施形態で用いられる電気化学的に活性な核酸結合性物質はビオローゲン、ヘキスト33258、ヘキスト33342、ビスベンズイミダゾール、エチジュウム、エチジュウムブロマイド、アクリジン、アミノアクリジン、アクリジンオレンジ、プロフラビン、エリブチシン、アクチノマイシンD、ドーノマイシンマイトマイシン等が、また、トリス(フェナントロリン)亜鉛錯体、トリス(フェナントロリン)ルテニュウム錯体、トリス(フェナントロリン)コバルト錯体、ジ(フェナントロリン)亜鉛錯体、ジ(フェナントロリン)ルテニュウム錯体、ジ(フェナントロリン)コバルト錯体、ビピリジンプラチナ錯体、ターピリジンプラチナ錯体、フェナントロリンプラチナ錯体、トリス(ビピリジル)亜鉛錯体、トリス(ビピリジル)ルテニュウム錯体、トリス(ビピリジル)コバルト錯体、ジ(ビピリジル)亜鉛錯体、ジ(ビピリジル)ルテニュウム錯体、ジ(ビピリジル)コバルト錯体、フェロセンカルボン酸、フェロセンアルデヒド等のフェロセン誘導体、フェリ/フェロシアン化カリウム、ハイドロキノン等をあげることができる。これらの物質は溶液中で核酸と相互作用するので、電気泳動の際に核酸と共存させるだけで、電気化学的に核酸の有無を検出できる。この場合は、核酸結合物質の電気化学反応を指標にして核酸の有無を検出する。検出の為に予め核酸を標識する必要がないので、高価な試薬が不要であると共に、簡便な操作で塩基配列を決定することができる。
【0048】
また、電気化学的に活性な核酸結合物質を用いる場合には、電気化学発光を指標にした検出も可能である。この場合には、第2の電極に一定電位を印加しておき、核酸結合物質が電極と接触すると、発光が観察される。この光を捉えることで、核酸の有無を検出することができる。電気化学発光を生じる核酸結合物質としては上述した核酸結合物質を用いることが可能である。この場合は、電気化学発光を捉える発光検出装置を付加する必要があるが、電気化学発光を測定する際は、トリプロピルアミンやジプロピルアミンなどのアミン類を共に添加しておくと非常に感度良く検出が可能になる。
【0049】
なお、上記の各実施形態において、第1の電極2で電気泳動を行わせ、第2の電極4で試料(核酸)を検出するようにしているが、常時電圧を印加した状態では、第1の電極2に印加する電圧に比べて第2の電極4に印加する電圧が、非常に小さい(数百から数キロVに対して数V)ので、検出値に雑音が混入する可能性がある。これを避けるために、測定中は、第1の電極2への電圧の印加を行わないように位相をずらすことが好ましい。この場合の、タイミングを図10に示す。図10では、その上段に電気泳動のパルス波形、下段に電気化学的測定のパルス波形の例を示している。
【0050】
また、パルス状に電圧を印加するのではなく、核酸を電気化学的に検出する際に、電気泳動で印加している電位を、変化させることも有効である。例えば、通常の電気泳動の際には300Vの電位を印加しておき、電気化学的に測定を行う際に、電気化学的測定に必要な電位以下、例えば1V以下にしても良い。このようにすることで、電気泳動用に印加された電圧の影響を測定時に受けることがほとんどなくなり、電気化学的な核酸測定の際の精度を向上させることができる。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る試料分離検出用チップの概略構成を示す図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る試料分離検出用チップの概略構成を示す図。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る試料分離検出用チップの概略構成を示す図。
【図4】複数の試料を同時に検出するための回路例を示す図。
【図5】グラファイト電極上に吸着固定化した牛胸腺DNAのサイクリックボルタモグラム。
【図6】電気化学手法による検出感度の一例を示した図。
【図7】ダイデオキシ反応を模式的に示した図。
【図8】本発明の実施形態を適用して測定して得られた電気信号の一例を示した図。
【図9】電流応答曲線の一例。
【図10】電気泳動のパルス波形と、電気化学的測定のパルス波形のタイミング例を示す図。
【符号の説明】
【0053】
1…基板
1b…第2の基板
1a…第1の基板
2、2a、2b…電気泳動用電極(第1の電極)
2c…電源
3…溝部
3a…電極
4…試料検出用電極(第2の電極)
4a…電源
5…試料導入部
6…穴部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を電気泳動するための溝部と試料導入部とが形成された第1の基板と、前記溝部に対して共通に第1の電圧を印加して、前記溝部を使用して試料を電気泳動するための第1の電極対と、電気泳動の下流であって、前記溝部に対応して配置され、前記溝部に第2の電圧を印加して電気化学的に前記試料の有無を検出する第2の電極対と、を具備する試料分離検出用チップを用いた試料検出方法において、
少なくとも1つ以上のダイデオキシ反応を実行して試料を作製し、
前記1つ以上の試料を、前記溝部に注入し、
前記複数の溝部に前記第1の電圧を印加すると共に、前記第2の電圧を印加することを特徴とする試料検出方法。
【請求項2】
試料を電気泳動するための複数の溝部と試料導入部とが形成された第1の基板と、前記複数の溝部に対して共通に第1の電圧を印加して、前記複数の溝部を使用して試料を電気泳動するための第1の電極対と、電気泳動の下流であって、前記溝部のそれぞれに対応して配置され、前記溝部に第2の電圧を印加して電気化学的に前記試料の有無を検出する複数の第2の電極対と、を具備する試料分離検出用チップを用いた試料検出方法において、
少なくとも2つ以上のダイデオキシ反応を異なる容器で実行して少なくとも2つの試料を作製し、
前記少なくとも2つ以上の試料を、それぞれ異なる前記溝部に注入し、
前記複数の溝部に前記第1の電圧を印加すると共に、前記第2の電圧を印加することを特徴とする試料検出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の試料検出方法において、
前記試料は、第1から第4の試料を含み、
前記第1の試料は、鋳型DNAと、プライマーと、ポリメラーゼと、dNTPと、ddAとをチューブ内で混合して一定時間放置するA反応により作製し、
前記第2の試料は、鋳型DNAと、プライマーと、ポリメラーゼと、dNTPと、ddCとをチューブ内で混合して一定時間放置するC反応により作製し、
前記第3の試料は、鋳型DNAと、プライマーと、ポリメラーゼと、dNTPと、ddGとをチューブ内で混合して一定時間放置するG反応により作製し、
前記第4の試料は、鋳型DNAと、プライマーと、ポリメラーゼと、dNTPと、ddTとをチューブ内で混合して一定時間放置するT反応により作製することを特徴とする試料検出方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の試料検出方法において、
前記第1の電圧は、100Vであり、
前記第2の電圧は、1.3Vであることを特徴とする試料検出方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の試料検出方法において、前記第1の電圧と前記第2の電圧の位相あるいは電圧を印可するタイミングをずらすことを特徴とする試料検出方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の試料検出方法において、前記第2の電極対によって電気化学的に前記試料の有無を検出する際に、前記第1の電圧を所定の電圧以下に設定することを特徴とする試料検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−292772(P2006−292772A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189704(P2006−189704)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【分割の表示】特願2002−93234(P2002−93234)の分割
【原出願日】平成14年3月28日(2002.3.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】