説明

試料収納容器及び赤外吸収スペクトル測定用治具

【課題】測定後の治具洗浄を不要にできると共に試料の保管を可能とした試料収納容器及び赤外吸収スペクトル測定用治具を提供する。
【解決手段】赤外吸収スペクトル測定に用いられる試料収納容器であって、赤外線を透過可能な材料により形成されると共に変形可能な袋形状とされており、内部に試料15が収納される容器本体11を有する。また、赤外吸収スペクトル測定用治具20を構成する第1の保持部材22と第2の保持部材23との間に前記容器本体11を挟持させ、この状態で赤外吸収スペクトルの測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料収納容器及び赤外吸収スペクトル測定用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、赤外吸収スペクトル測定装置を用いて試料の定量や分析が行われている。この赤外吸収スペクトル測定装置の原理は、次の通りである。即ち、物質に赤外線を照射すると、物質を構成する分子の振動或いは回転の状態が変化し赤外光のエネルギーを吸収する。よって、物質を透過した赤外線は、照射した赤外線よりも吸収されたエネルギー分だけ弱いものとなる。
【0003】
分子は固有の振動,回転を有しており、よって照射した赤外線のエネルギーと吸収された後の赤外線のエネルギーとの差も分子固有の値となる。そこで、照射した赤外線のエネルギーと吸収された後の赤外線のエネルギーの比から当該分子の赤外線吸収スペクトルを得ることができ、この赤外線吸収スペクトルに基づき当該物質の定性及び定量分析を行うことが可能となる。
【0004】
この赤外吸収スペクトル測定を行うためには、試料に赤外線を照射する必要がある。このため、試料を赤外吸収スペクトル測定用治具を用いて赤外吸収スペクトル測定の所定測定位置に装着することが行われている。
【0005】
従来、赤外吸収スペクトル測定用治具としては、試料を金属支持体と赤外線透過材料からなる結晶板との間に挟持する構成とした治具(特許文献1参照)、及び支持台に保持された赤外線を透過しうる窓材に形成された凹部内に試料を装着した構成の治具(特許文献2参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−052744号公報
【特許文献2】特開2007−010351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の赤外吸収スペクトル測定用治具(以下、単に治具という)は、試料を直接治具内に装着する構成であったため、測定終了後に治具から試料を除去する洗浄処理を行う必要があり、この処理が面倒であるという問題点があった。
【0008】
また、試料によっては後に再測定するために保管を必要とするものがあるが、従来の治具は大型で複雑であるため、試料を治具に装着したままで保管することができないという問題点もあった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、測定後の治具洗浄を不要にできると共に試料の保管を可能とした試料収納容器及び赤外吸収スペクトル測定用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、第1の観点からは、
赤外吸収スペクトル測定に用いられる試料収納容器であって、
赤外線を透過可能な材料により形成されると共に変形可能な袋形状とされており、内部に測定試料が収納される容器本体を有することを特徴とする試料収納容器により解決することができる。
【0011】
また上記の課題は、第2の観点からは、
測定試料を保持した状態で赤外吸収スペクトル測定装置に装着される赤外吸収スペクトル測定用治具であって、
赤外線が通過する第1の穴部を有すると共に該第1の穴部を覆う第1の透光板を有する第1の保持部材と、
赤外線が通過する第2の穴部を有すると共に該第2の穴部を覆う第2の透光板を有する第2の保持部材と、
前記第1の保持部材と前記第2の保持部材とを相対的に移動させる移動機構とを有し、
前記第1の保持部材と前記第2の保持部材との間で前記測定試料を保持することを特徴とする赤外吸収スペクトル測定用治具により解決することができる。
【発明の効果】
【0012】
開示の発明によれば、測定後の治具洗浄を不要にできると共に試料の保管が可能となるという効果を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である試料収納容器及び赤外吸収スペクトル測定用治具を示す正面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態である試料収納容器に試料を収納する状態を示す図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態である試料収納容器に試料が収納された状態を示す図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態である試料収納容器及び赤外吸収スペクトル測定用治具が装着される赤外吸収スペクトル測定装置を示す構成図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態である赤外吸収スペクトル測定用治具の正面図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態である赤外吸収スペクトル測定用治具の側面図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態である赤外吸収スペクトル測定用治具の斜視図である。
【図8】図8は、本発明の一実施形態である試料収納容器及び赤外吸収スペクトル測定用治具が赤外吸収スペクトル測定装置に装着された状態を示す図である。
【図9】図9は、第1及び第2の保持部材間の距離を変化させたときの赤外スペクトルの変化を示す特性図である。
【図10】図10は、第1及び第2の保持部材間の距離を一定距離に固定した上で複数回にわたり同一試料を測定したときの赤外スペクトルを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施形態である試料収納容器10及び赤外吸収スペクトル測定用治具20(以下、単に測定用治具20という)を示している。測定試料15(以下、単に試料15という)は、試料収納容器10に収納された上で測定用治具20に装着される。
【0016】
そして、この測定用治具20を赤外吸収スペクトル測定装置40(以下、単に測定装置40という)に装着し、試料15に対し赤外線(本実施形態では、近赤外線を使用している)を照射することにより試料15の分析処理を行う。
【0017】
なお以下の説明においては、試料収納容器10及び測定用治具20を赤外吸収スペクトル測定に適用した例について説明するが、本発明は試料に対して光等を透過させて試料特性を調べる各種測定に対しても適用が可能なものである。
【0018】
先ず、図2及び図3を参照し、試料収納容器10について説明する。
【0019】
試料収納容器10は、図2に示すように、上部に開口部12を有した袋形状の容器本体11を有している。この試料収納容器10は、赤外線(近赤外線)を透光する透光性を有すると共に、後述する測定用治具20に押圧された再に変形する変形可能性を有した材料により形成されている。
【0020】
試料収納容器10の具体的な材質としては、例えばポリビニルアルコール、ナイロン(登録商標)、アラミド、ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、塩化ビニリデン、ポリエチレン又はポリプロピレン等の樹脂材を用いることができる。また、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、天然ゴムラテックス等のゴム材を用いることもできる。
【0021】
ポリエチレン又はポリプロピレンは、透明性が高く、強い強度を有し、また安価である。また天然ゴムラテックスは高い弾性を有しており、容易に変形させることができる。
【0022】
なお、いずれの材料を用いるにしても、試料収納容器10の材質の固有の赤外吸収スペクトルが、試料15の赤外吸収スペクトルに対して大きく離れていることが望ましい。
【0023】
試料収納容器10に試料15を装着するには、図2に示すように開口部12から試料15を容器本体11内に挿入する。容器本体11は袋形状を有しているため、容易に試料15を容器本体11内に挿入することができる。また、試料15の形態が液体、半固体、或いは固体のいずれであっても、容易に試料15を容器本体11に挿入することができる。
【0024】
試料15が容器本体11内に挿入されると、続いて容器本体11を封止する。図3に示す例では、容器本体11に対して熱シール処理を行い、シール部13を形成することにより試料15を容器本体11内に封止している。
【0025】
しかしながら、開口部12を封止する方法はこれに限定されるものではない。例えば、容器本体11としてチャックを有するポリ袋を用い、試料15の挿入時にはチャックを広げ、試料15を装着した後にチャックを閉じて試料15を封止する方法を用いてもよい。
【0026】
上記のように本実施形態に係る試料収納容器10は、容器本体11に試料15を封止したのみの簡単な構成である。このため、従来のように多数の部品を必要とする試料収納容器に比べてコスト低減を図ることができる。
【0027】
また、容器本体11は変形可能な構成とされている。このため、試料15が装着された後であっても、試料収納容器10の形状を変形させることが可能である。具体的には、図3(B)に矢印で示す方向に試料収納容器10を押すことにより、容器本体11の変形に伴い試料収納容器10の幅(図中、矢印Wで示す)は小さくなり、逆に押圧を解除することにより試料収納容器10の幅Wは大きくなる。
【0028】
特に、容器本体11の材質として上記の天然ゴムラテックスを用いた場合、容器本体11は弾性変形する。このため試料収納容器10の変形量が大きくなり、これに伴い試料収納容器10の幅Wを広い範囲で設定することが可能となる。
【0029】
次に、測定用治具20について説明する。
【0030】
試料収納容器10を装着した測定用治具20は、測定装置40の試料室43に装着される。測定用治具20により、試料収納容器10内の試料15は、試料室43内の近赤外線が照射される所定照射位置に保持(位置決め)される。試料15(試料収納容器10)が所定照射位置に位置決めされると、測定装置40は試料15に対して近赤外線を照射し、試料15を透過した近赤外線を検出し、赤外吸収スペクトルの測定を行う。
【0031】
ここで測定用治具20の説明に先立ち、図4を用いて測定装置40について説明しておく。測定装置40は、光源41、マイケルソン干渉計42、試料室43、検出器44、A/D変換器45、コンピュータ46、及び出力装置47を備えている。
【0032】
光源41は、例えば12000〜4000cm-1の波数領域を含む近赤外線を発する。
【0033】
マイケルソン干渉計42は、ビームスプリッタ50、固定鏡51、及び移動鏡52等を有している。光源41からマイケルソン干渉計42内に進行した近赤外線は、ビームスプリッタ50によって透過光と反射光とに分けられる。
【0034】
透過光は、ビームスプリッタ50と固定鏡51との間を往復した後に、試料室43に向けて進行する。これに対し、反射光は、ビームスプリッタ50と移動鏡52との間を往復した後に、試料室43に向けて進行する。移動鏡52は、図示しない駆動装置によって反射光の光軸方向(図中、矢印Bで示す方向)に移動可能な構成とされている。
【0035】
マイケルソン干渉計42を上記構成とすることにより、透過光と反射光との間には光路差が発生し、各光を合成したときにこの合成光は干渉光となる。
【0036】
前記のように、第1の保持部材22に装着された試料収納容器10(試料15)は、試料室43に装着される。検出器44は、マイケルソン干渉計42から試料室43に照射され、試料15を透過した干渉光を検出する。
【0037】
この検出信号は、A/D変換器45によってAD変換されてからコンピュータ46に入力される。コンピュータ46は、その入力信号をフーリエ変換して透過スペクトルのデータを求め、その波形を出力装置47に表示させる。なお、図4中、試料室43と検出器44との間に配設されているのは、光路を変換するためのミラー48である。
【0038】
前記のように、測定用治具20は試料15を試料室43内の所定照射位置に保持(位置決め)する機能を奏する。図8は、測定装置40の試料室43内に装着された測定用治具20を示している。
【0039】
この測定用治具20は、図1に加えて図5〜図7に示すように、ベース21、第1の保持部材22、第2の保持部材23、及び移動機構24等を有している。
【0040】
ベース21は、所定の厚みを有した金属板材により形成されている。このベース21は、第1及び第2の保持部材22,23及び移動機構24等を支持する機能を奏する。第1の保持部材22及び第2の保持部材23は、ベース21上に対向するよう配設される。
【0041】
第1の保持部材22はベース21に固定されており、図1及び図5に示すように正面視でZ字形状を有している。この第1の保持部材22には、図1に矢印X1,X2で示す方向に貫通する第1の貫通穴26(図6に詳しい)が形成されている。この第1の貫通穴26は、試料15の測定時に近赤外線が通過する穴である。
【0042】
また、第1の保持部材22の第2の保持部材23と対向する面(内側の面)には、第1の貫通穴26を覆う第1の透光板28が固定されている。この第1の透光板28は、上記した近赤外線(干渉光)を透過させうる材料で形成されている。本実施形態では、第1の透光板28の材質として石英を用いている。
【0043】
第2の保持部材23は、移動台30に固定されている。この第2の保持部材23は、図1及び図5に示すように正面視でL字形状を有している。この移動台30は、後述する移動機構24の一部を構成するものである。
【0044】
第2の保持部材23には、図1に矢印X1,X2で示す方向に貫通する第2の貫通穴27(図6に詳しい)が形成されている。この第2の貫通穴27は、試料15の測定時に近赤外線が通過する穴である。
【0045】
また、第2の保持部材23の第1の保持部材22と対向する面(内側の面)には、第2の貫通穴27を覆う第2の透光板29が固定されている。この第2の透光板29は第1の透光板28と同様に近赤外線を透過させうる材料(本実施形態では石英)で形成されている。
【0046】
移動機構24は、移動台30、マイクロメータ31、ブラケット32、及びブラケット33等を有している。この移動機構24は、第1の保持部材22と第2の保持部材23とを相対的に図中矢印X1,X2方向(図1参照)に移動させるものである。本実施形態では、第1の保持部材22がベース21に固定されているため、移動機構24により第2の保持部材23が第1の保持部材22に対して移動する構成とされている。
【0047】
移動台30は、ベース21上で移動可能な構成とされている。第2の保持部材23は、このベース21の上面に固定されている。よって、第2の保持部材23は、移動台30を介してベース21上を移動可能な構成となっている。
【0048】
マイクロメータ31は、ブラケット32,33により固定されている。ブラケット32はマイクロメータ31の本体部31aを保持している。このブラケット32は、ベース21に固定されている。また、ブラケット33はマイクロメータ31のスピンドル31bに接続されている。このブラケット33は、移動台30に固定されている。
【0049】
よって、マイクロメータ31を操作し、スピンドル31bを本体部31aに対して伸張させることにより、移動台30を介してブラケット33はブラケット32に近接する方向(図1におけるX1方向)に移動する。
【0050】
また、マイクロメータ31を操作し、スピンドル31bを本体部31aに対して収縮させることにより、移動台30を介してブラケット33はブラケット32から離間する方向(図1におけるX2方向)に移動する。このように、第1の保持部材22と第2の保持部材23との離間距離は、移動機構24により可変することができる。また、第1の保持部材22と第2の保持部材23との離間距離は、マイクロメータ31により直接測定することができる。
【0051】
なお、本実施形態ではマイクロメータ31を用いることにより第1及び第2の保持部材22,23の移動処理と離間距離の測定処理を一括的に行える構成としたが、これを別個に行う構成としてもよい。また、マイクロメータ31に代えて、段階的に幅(W)を変化させるノッチ式などの他の測定装置を用いた構成としてもよい。
【0052】
次に、上記構成とされた測定用治具20に試料収納容器10を装着する操作について説明する。なお、以下の説明においては、予め試料収納容器10内に試料15が装着されているものとして説明する。
【0053】
先ず、マイクロメータ31を操作することにより、第1の保持部材22と第2の保持部材23との離間距離を試料収納容器10を容易に装着できる距離まで広げる。続いて、第1の保持部材22と第2の保持部材23との間に試料収納容器10を装着する。これにより、試料収納容器10は第1の保持部材22と第2の保持部材23との間に挟持された構成となる。
【0054】
この際、試料収納容器10は、第1の保持部材22に形成された第1の貫通穴26、及び第2の保持部材23に形成された第2の貫通穴27と対向するよう配置される。前記のように、第1及び第2の貫通穴26,27は、測定用治具20を試料室43に装着した際に近赤外線(干渉光)が通過する穴である。よって、第1及び第2の貫通穴26,27と対向するよう試料収納容器10を配置することにより、試料収納容器10(試料15)に対し測定時に近赤外線(干渉光)を確実に照射することができる。
【0055】
試料収納容器10が第1の保持部材22と第2の保持部材23との間に配置されると、移動機構24のマイクロメータ31を操作することにより、第1の保持部材22と第2の保持部材23との離間距離(以下の説明では、この離間距離をセル幅ということもある)を所望の離間距離に設定する。
【0056】
ここで、セル幅を調整可能とすることによる利益について説明する。なお、以下の説明において、第1の保持部材22と第2の保持部材23との離間距離、即ち試料15の幅W(図3(B)参照)を適宜セル幅というものとする。
【0057】
赤外吸収スペクトル測定の場合、試料により最も赤外吸収スペクトルのピークが明瞭に現れるセル幅が異なることが知られている。これについて、図9を用いて説明する。図9は、試料として「水」を用いると共に、セル幅を0,1,2,4.5,8,9mmの夫々の幅としたときの赤外吸収スペクトル測定の結果を示している。
【0058】
なお、図9において横軸は波数であり縦軸は吸光度である。また、矢印Aはセル幅0mmの特性を示し、矢印Bはセル幅1mmの特性を示し、矢印Cはセル幅2mmの特性を示し、矢印Dはセル幅4.5mmの特性を示し、矢印Eはセル幅8mmの特性を示し、矢印Fはセル幅9mmの特性を示している。
【0059】
図9から明らかなように、矢印A〜Dで示すセル幅(0mm〜4.5mm)では明確なピークが現れていない。これに対して、矢印E,Fで示すセル幅(8mm,9mm)では、明確なピークが現れている。よって、試料が「水」である場合、セル幅を8mm又は9mmに設定することにより、明確な赤外吸収スペクトルのピークが現れることが期待でき、測定精度の向上を図ることができる。
【0060】
本実施形態に係る測定用治具20は、移動機構24によりセル幅を任意に設定できる構成とされている。よって、セル幅を試料15に適合したセル幅に設定することが可能であり、よって赤外吸収スペクトル測定の測定精度を向上させることができる。
【0061】
また本実施形態では、第2の保持部材23を移動させるのに、マイクロメータ31を用いている。このため、セル幅を段階的ではなく、アナログ的に変化させることができ、よって第1の保持部材22と第2の保持部材23との離間距離をピークが明瞭に現れるセル幅に精度よく設定することができる。
【0062】
ところで、ピークが明瞭に現れるセル幅が比較的小さい距離であった場合、第1の保持部材22と第2の保持部材23との離間距離も小さくなる。よって、第1及び第2の保持部材22,23間に挟持される試料15は各保持部材22,23に押圧されてその幅W(図3(B)参照)も小さくなる。
【0063】
しかしながら、試料収納容器10を測定用治具20に装着する際、図1に示すように、試料収納容器10の一部(以下、この部分を余剰部10Aという)が第1及び第2の保持部材22,23の上端から延出するよう装着されている。
【0064】
このため、各保持部材22,23に押圧された試料15は、各保持部材22,23に挟持されていない余剰部10A内に流れ込む。よって、セル幅が小さい幅であっても、試料15が容器本体11を破って外部に漏洩するようなことはない。
【0065】
また、本実施形態に係る測定用治具20は、容器本体11に試料15を封止した構成の試料収納容器10を装着する構成であるため、試料15が直接測定用治具20に触れることはない。このため,赤外吸収スペクトル測定が終了した後は、単に試料収納容器10を測定用治具20から取り外すだけでよく、洗浄処理を行う必要はない。このため、洗浄処理を必要とした従来の測定用治具に比べ、測定終了後の処理の容易化を図ることができる。
【0066】
更に、本実施形態に係る試料収納容器10は、試料15が容器本体11内に封止された構成となっている。よって、試料収納容器10を保管することにより、試料15を保管することが可能となる。これにより、試料15に対して経時的な変化を測定したいような場合でも、これに容易に対応することが可能となる。
【0067】
なお、同一の試料15に対して複数の測定を行う場合、その再現性が問題となる。そこで、本発明者は同一の試料収納容器10に対し、同一のセル幅で6回の赤外吸収スペクトル測定を実施した。図10は、その結果を示している。なお、図10において横軸は波数であり縦軸は吸光度である。また、試料15として「水」を用いた。
【0068】
図10から明らかなように、同一の試料15に対して複数の測定を行っても、出力される赤外吸収スペクトルは略同一の特性であった。このため、本実施形態に係る試料収納容器10及び測定用治具20を用いることにより、同一の試料収納容器10に対して複数回の赤外吸収スペクトル測定を行っても、その再現性が高いため、試料収納容器10及び測定用治具20に起因して測定精度が低下することはなく、これによっても測定精度の向上を図ることができる。
【0069】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0070】
10 試料収納容器
11 容器本体
15 試料
20 測定用治具
21 ベース
22 第1の保持部材
23 第2の保持部材
24 移動機構
26 第1の貫通穴
27 第2の貫通穴
28 第1の透光板
29 第2の透光板
30 移動台
31 マイクロメータ
40 測定装置
41 光源
42 マイケルソン干渉計
43 試料室
44 検出器
45 A/D変換器
46 コンピュータ
47 出力装置
50 ビームスプリッタ
51 固定鏡
52 移動鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外吸収スペクトル測定に用いられる試料収納容器であって、
赤外線を透過可能な材料により形成されると共に変形可能な袋形状とされており、内部に測定試料が収納される容器本体を有することを特徴とする試料収納容器。
【請求項2】
前記容器本体は、前記測定試料を封止してなることを特徴とする請求項1記載の試料収納容器。
【請求項3】
前記容器本体の材料をポリエチレン又はポリプロピレンとしたことを特徴とする請求項1又は2記載の試料収納容器。
【請求項4】
前記容器本体の材料を天然ゴムラテックスとしたことを特徴とする請求項1又は2記載の試料収納容器。
【請求項5】
測定試料を保持した状態で赤外吸収スペクトル測定装置に装着される赤外吸収スペクトル測定用治具であって、
赤外線が通過する第1の穴部を有すると共に該第1の穴部を覆う第1の透光板を有する第1の保持部材と、
赤外線が通過する第2の穴部を有すると共に該第2の穴部を覆う第2の透光板を有する第2の保持部材と、
前記第1の保持部材と前記第2の保持部材とを相対的に移動させる移動機構とを有し、
前記第1の保持部材と前記第2の保持部材との間で前記測定試料を保持することを特徴とする赤外吸収スペクトル測定用治具。
【請求項6】
前記測定試料を請求項1乃至4のいずれか一項に記載の試料収納容器に収納し、
該試料収納容器を前記第1の保持部材と前記第2の保持部材との間で挟持する構成としたことを特徴とする請求項5記載の赤外吸収スペクトル測定用治具。
【請求項7】
前記移動機構は、マイクロメータを有することを特徴とする請求項5又は6記載の赤外吸収スペクトル測定用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−96919(P2013−96919A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241627(P2011−241627)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】