説明

試料収集チャンバー

【課題】試料収集チャンバーの本体内に入りきらない大きさの生体試料であっても、簡単に本体内を気密に密閉することができるようにすることである。
【解決手段】気密な筒状の本体9と、その本体9の一端部に気密に取り付けられた、試料挿入口24を有する蓋10からなる試料収集チャンバー5であって、本体9内に入りきらない大きさの生体試料の一部を試料挿入口24を通して本体9内に入れたときに、その生体試料の外周全周にわたって気密に密着する環状の弾性パッキン29を試料挿入口24に設ける。このようにすると、試料収集チャンバーの本体内に入りきらない大きさの生体試料であっても、その生体試料の一部を試料挿入口を通して本体内に入れるだけで、試料挿入口において弾性パッキンが生体試料の外周全周にわたって密着するので、簡単に本体内を気密に密閉することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体試料から発生する生体ガスを収集する試料収集チャンバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ラットなどの小動物や鶏の有精卵などの生体試料から発生する生体ガスを収集する試料収集チャンバーを用いたガス分析システムが確立されている。このガス分析システム51としては、例えば、図9に示すように、マスフローコントローラー52と、モレキュラーシーブス53と、試料収集チャンバー54と、温度調節器55と、ガス分析装置56と、これらを接続する移送管57とで構成されたものが知られている(例えば、特許文献1 図1参照)。
【0003】
このガス分析システム51は、生体試料から発生する生体ガスを試料収集チャンバー54に収集し、その生体ガスをキャリアガス58によりガス分析装置56に移送して、ガス分析装置56により生体ガスを分析するものであり、さまざまな病気の診断に利用されることが期待されている。
【0004】
上記試料収集チャンバー54は、キャリアガス58の流入口と流出口を設けた本体59と、本体59の試料挿入口59aを閉じる蓋60とを有し、本体59内に生体試料Sを入れて本体59内を蓋60で密封し、生体試料Sから発生する生体ガスを収集するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−132879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記試料収集チャンバー54では、生体試料が大きくて本体59内に入りきらないもの、例えば、ヒトの腕などから発生する生体ガスを収集しようとすると、本体59内を蓋60で密封することができず、外部の空気などの不純物が本体59内に入り込んだり、生体ガスが外部に流出したりしてしまう。そのため、ガス分析装置56によって生体ガスを分析するときに、バックグラウンドノイズが増加したり、分析に十分な量の生体ガスを収集したりすることができず、ガス分析装置56の分析結果に基づいて生体ガスの成分を同定することが困難になるという問題が生じる。
【0007】
そこで、生体試料が大きくても本体59内を蓋60で密封できるように、試料収集チャンバー54を大型化することが考えられるが、製造コストや運搬コストが増加したり設置スペースを確保したりする必要が生じ好ましくない。また、生体試料全体を本体59内に入れる作業に時間がかかるという問題もある。
【0008】
この発明の課題は、試料収集チャンバーの本体内に入りきらない大きさの生体試料であっても、簡単に本体内を気密に密閉することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明の試料収集チャンバーは、気密な筒状の本体と、その本体の一端部に気密に取り付けられた、試料挿入口を有する蓋よりなり、前記本体内に入りきらない大きさの生体試料の一部を前記試料挿入口を通して前記本体内に入れたときに、前記生体試料の外周全周にわたって気密に密着する環状の弾性パッキンを前記試料挿入口に設けたのである。
【0010】
このようにすると、試料収集チャンバーの本体内に入りきらない大きさの生体試料であっても、その生体試料の一部を前記試料挿入口を通して前記本体内に入れるだけで、試料挿入口において弾性パッキンが生体試料の外周全周にわたって密着するので、簡単に本体内を気密に密閉することができる。生体試料としては、例えば、ヒトの腕や足、ヒト以外の動物の体の一部を挙げることができる。
【0011】
前記弾性パッキンは、ゴムや柔軟性のある樹脂などで形成することができるが、シリコンゴムで形成すると好ましい。シリコンゴムは、耐熱性や耐寒性に優れているだけでなく、化学的に安定しており、生体試料や生体試料から発生するガスが触れても劣化しにくいからである。
【0012】
前記弾性パッキンは、その内周縁を円形、楕円形、長円形、卵形のいずれかに形成すると好ましい。一般に、ヒトの腕や足、ヒト以外の動物の体の一部などの生体試料は、丸みを帯びた部分が多いので、弾性パッキンの内周縁が生体試料の外周全周にわたって密着しやすくなり、外部の空気などの不純物が本体内に入り込んだり、本体内の生体ガスが外部に流出したりしにくくなるからである。
【0013】
前記蓋は、その外側面に内側に凹む段差部を前記試料挿入口近辺に沿って形成し、前記弾性パッキンの外周縁を前記段差部の側壁に沿うように形成し、その弾性パッキンを前記段差部の側壁により位置決めし、環状の固定部材を前記段差部に嵌め込むことにより前記弾性パッキンを固定することができる。
【0014】
前記弾性パッキンは、前記固定部材から内側に突出する凸条で前記段差部の底面に押し付けられ、かつ、前記段差部の底面から外側に突出する凸条で前記固定部材に押し付けるようにすることができる。このようにすると、弾性パッキンは、密封性が向上し、かつ、外周部が屈曲した状態で固定されるので、外れにくくなる。
【0015】
前記弾性パッキンは、環状の固定部材で挟み込んだ状態でビスにより締付固定することにより着脱可能とし、前記弾性パッキンの内径寸法を本体内に挿入する生体試料に応じて変更できるようにすることができる。このようにすると、弾性パッキンを変更するだけで、さまざまな生体試料の外周全周にわたって弾性パッキンを気密に密着させることができるので、さまざまな生体試料から発生する生体ガスを本体内に簡単に収集することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の試料収集チャンバーによれば、本体内に入りきらない大きさの生体試料であっても、生体試料の一部を試料挿入口を通して前記本体内に入れるだけで、試料挿入口において弾性パッキンが生体試料の外周全周にわたって密着するので、簡単に本体内を気密に密閉することができる。このため、外部の空気などの不純物が本体内に入り込んだり、生体ガスが外部に流出したりすることがなく、ガス分析装置による生体ガスの分析精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施形態の試料収集チャンバーを用いたガス分析システムを示す図
【図2】試料収集チャンバーの拡大縦断面図
【図3】試料収集チャンバーの試料挿入口近傍の拡大縦断面図
【図4】試料収集チャンバーの本体内に温度センサーを差し込む方法を示す蓋近傍の拡大縦断面図
【図5】試料収集チャンバーの一方の蓋の構成要素を示す分解縦断面図
【図6】試料収集チャンバーの第2の蓋を閉じた状態を示す第2の蓋近傍の拡大縦断面図
【図7】試料収集チャンバーの本体と設置台を示す斜視図
【図8】試料収集チャンバーの本体内にヒトの腕を入れた状態を示す斜視図
【図9】従来のガス分析システムを示す線図
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施形態の試料収集チャンバーを用いたガス分析システム1を図面に基づいて説明する。図1に示すように、ガス分析システム1は、キャリアガス2の流量を制御するマスフローコントローラー3と、キャリアガス2から水分や低分子化合物などの不純物を除去するモレキュラーシーブス4と、試料収集チャンバー5と、温度調節器6と、ガス分析装置7と、これらを接続するための移送管8とで構成され、試料から発生したガスを試料収集チャンバー5に収集し、そのガスをキャリアガス2によってガス分析装置7に移送し、試料から発生するガスを分析する。
【0019】
キャリアガス2は、例えば、市販のボンベにより供給することができる。キャリアガス2の種類は、試料と反応せず、高純度でバックグラウンドノイズの少ないものであればいずれの気体であってもよい。例えば、高純度のヘリウムや高純度空気を挙げることができる。純度は、99.9995%以上のグレードとしたものが好ましい。
【0020】
ガス分析装置7は、例えば、ガスクロマトグラフィー装置や質量分析装置、あるいは、これらを組み合わせたものを用いることができる。質量分析装置としては、例えば、大気圧イオン化質量分析装置(APIMS)を挙げることができる。この大気圧イオン化質量分析装置は、近年使用されるようになり、超高感度分析が可能となっている(例えば、栗山克巳、蓮見啓二、小池譲治 著、クリーンテクノロジー、p51−52、9月号、1997年に記載のUG‐410型大気圧イオン化質量分析装置)。
【0021】
移送管8は、試料や試料からのガスあるいはキャリアガス2と化学反応を起こしにくく、かつ素材そのものからの遊離化合物が少ないものであればいずれであってもよい。例えば、ステンレスSUS316等の光輝焼鈍管やテフロンパイプを挙げることができる。
【0022】
試料収集チャンバー5は、図2に示すように、気密な筒状本体9と、その本体9の軸方向両端部に装着される蓋10、11からなり、例えば、設置台12に保持されて用いられる。以下、試料収集チャンバー5についてさらに具体的に説明する。
【0023】
本体9は、その全体が耐熱ガラスで形成されている。耐熱ガラスは、例えば、コーニング社のパイレックス(登録商標)ガラスを挙げることができる。パイレックスガラスは、温度変化による寸法変化が生じにくく、急加熱、急冷却に耐えることができるだけでなく、試料や試料からのガスあるいはキャリアガス2が付着しにくく、素材そのものからの遊離化合物も少なく好ましい。
【0024】
本体9の外周面には、温度調節器6に接続されたシート状のシリコンラバーヒータ13が巻かれている。シリコンラバーヒータ13は、その巻き方向の両端部にU字状の留金具(図示せず)が設けられており、その両留金具に引っ掛けられたコイルばね(図示せず)の弾性によって本体9の外周面に固定されている。シリコンラバーヒータ13の外面には、温度調節器6に接続された温度センサー14が貼り付けられており、測定された温度情報が温度調節器6に送られるようになっている。これにより、温度センサー14からの温度情報に基づいて、ヒータ13の発熱量を制御可能となっている。
【0025】
また、シリコンラバーヒータ13の外面は、シート状の断熱材15で覆われており、ヒータ13から発生した熱が外部に容易に放出されないようにしている。断熱材15は、その外面に巻かれたバンド16により本体9の外周面に固定されている。断熱材15の種類としては、繊維系断熱材や発泡系断熱材などいずれのものであってもよい。
【0026】
蓋10、11は、本体9の端部に嵌め合される円形カップ状に形成されており、その内側面に本体9の外径よりも僅かに径の大きい断面円形の嵌合穴17が形成されている。
【0027】
嵌合穴17の内面には、図3に示すように、円周方向に連続する断面コ字状のシール溝18が形成されており、このシール溝18にシリコンゴムで形成されたOリング19が装着されている。Oリング19の内径寸法は、本体9の外径寸法よりも僅かに小さくしてある。これにより、蓋10、11は、その嵌合穴17を本体9の端部に外嵌したときに、Oリング19が本体9の外面に密着し、本体9内を気密に保持する。また、Oリング19は、シリコンゴムで形成されているので、温度変化による寸法変化が生じにくく、本体9内の気密性を確保しやすい。
【0028】
また、蓋10、11の外側面には、嵌合穴17に連通する連通孔20が円周方向に一定の間隔をおいて複数形成されている。各連通孔20には、図3、図7に示すように、貫通孔21aを形成したジョイント21がねじ係合されている。各蓋10、11のジョイント21の1つには、キャリアガス2の流入口と、本体9内を還流したガス(キャリアガス2および生体試料から発せられた生体ガス)の流出口として使用するため、移送管8が接続される。移送管8は、図2に示すように、流入口として蓋10の上部に接続し、流出口として蓋11の下部に接続すると、本体9内に流入したキャリアガス2が本体9内で暖められたキャリアガス2や生体ガスと攪拌されながら本体9から流出するので、キャリアガス2が本体9内全体に行き渡りやすくなり、本体9内の生体ガスをキャリアガス2により効率的に移送することができ好ましい。
【0029】
また、ジョイント21のうちの少なくとも1つには、図2、図4に示すように、温度センサー22が通され、本体9内の温度を測定できるようになっている。残りのジョイント21も、必要に応じて使用することができ、温度センサー22を本体9内の任意の箇所に複数設置するために利用してもよい。なお、ジョイント21を利用しない場合は、図2、図3に示すように、ジョイント21の貫通孔21aにメクラ栓23を差し込んで密封しておく。
【0030】
また、一方の蓋10の外径側には、円周方向に一定の間隔をおいて4箇所、試料収集チャンバー5を設置台12に固定するためのビス取付穴10aが設けられている(図7参照)。
【0031】
温度センサー22は、温度調節器6に接続されており、測定された温度情報が温度調節器6に送られるようになっている。これにより、温度調節器6は、ヒータ13の発熱量を制御することにより、本体9内を目的の温度(例えば、50℃)に設定可能となっており、本体9内の温度の外気温による影響を小さくしている。なお、温度調節器6は、ヒータ13のセンサー14からの温度情報に基づいて、本体9内を目的の温度に設定するようにしてもよい。
【0032】
また、温度調節器6は、本体9内面に付着した脂質や有機化合物などを加熱により脱離できるようにヒータ13で本体9内を加熱(例えば、約170℃まで)できるようにしてもよい。このとき、上記と同様にセンサー14とセンサー22の温度情報に基づいて、温度調節器6で制御が行なわれる。
【0033】
両蓋10、11のうちの一方の蓋10は、図3に示すように、その外側面に嵌合穴17の径よりも径の小さい断面円形の試料挿入口24が嵌合穴17と連通するように形成されている。また、一方の蓋10の外側面には、内側に凹む段差部25が試料挿入口24の外周近辺に沿って全周にわたって形成されている。この段差部25には、その底面26の内径側から外側に突出する環状の凸条27が設けられている。この凸条27の突出寸法は、段差部25の側壁28の寸法よりも短くなっている。これらの段差部25の側壁28、その底面26及び凸条27によって断面四角形状の周溝が形成されている。
【0034】
上記の両蓋10、11は、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)で形成されており、生体試料や生体試料からの生体ガスあるいはキャリアガス2が蓋10、11に付着しにくく、素材からの遊離化合物も少なくしている。
【0035】
また、一方の蓋10には、試料挿入口24に環状の弾性パッキン29が取り付けられている。弾性パッキン29は、ゴムなどの弾性のある材料で形成することができ、例えば、シリコンゴムで形成すると好ましい。シリコンゴムは、耐熱性や耐寒性に優れており、温度変化による寸法変化が生じにくいだけでなく、化学的に安定しており、試料や試料からのガスあるいはキャリアガス2が触れても劣化しにくいからである。
【0036】
弾性パッキン29は、図3、図5に示すように、その外周部29aが段差部25の側壁28の全周に沿うように形成されており、蓋10の段差部25の側壁28によって位置決めされるようになっている。弾性パッキン29の内周縁29bは、試料挿入口24の径よりも径の小さいほぼ円形に形成されており、全周にわたって試料挿入口24から内径側に突出している。また、弾性パッキン29の内周縁29bの形状は、本体9内に挿入する生体試料に応じて決定することができ、例えば、生体試料がヒトの前腕である場合は、ヒトの前腕に合った形状、例えば、楕円形、長円形、卵形としてもよい。このようにすると、ヒトの前腕の断面形状と弾性パッキン29の内周縁29bの形状がほぼ同じになるので、弾性パッキン29の弾性力がヒトの前腕の外周全周にわたって均等に作用した状態となり、弾性パッキン29がヒトの前腕になじみやすくなる。
【0037】
弾性パッキン29の厚さは、例えば、1mmとすることができるが、2mm、3mmと厚くしたり、複数枚重ねたりしてもよい。これにより、弾性パッキン29の弾性力や柔軟性を調節することができる。また、弾性パッキン29は、材料を変更することで弾性力や柔軟性を調節してもよい。この弾性パッキン29は、段差部25の側壁28により位置決めされた状態で環状の固定部材30を段差部25に嵌め込んで挟み込むことにより固定される。この固定部材30は、その内側面に段差部25にすきまなく嵌り込む環状の嵌合部31が形成されており、その嵌合部31の外径側に内側に突出する凸条32が全周に形成されている。凸条32の幅は、段差部25の底面26よりも狭くしておく。これにより、弾性パッキン29は、固定部材30を段差部25に嵌め込んだときに、固定部材30の凸条32で段差部25の底面26に押し付けられるとともに、段差部25の凸条27で固定部材30の内面に押し付けられるので、密封性を向上させると同時に、外周部29aが屈曲した状態となり外れにくくなっている(図6参照)。
【0038】
また、固定部材30は、その内周面30aが試料挿入口24の径と同径の円形に形成され、内周面30aの径を試料挿入口24の径に一致させた状態でビス33により締付固定されている。これにより、弾性パッキン29が着脱可能となり、弾性パッキン29の内周縁29bの内径寸法は、本体9内に挿入する生体試料の外周全周にわたって圧接して密着し、本体9内を気密に密封できるように適宜変更することができる。生体試料がヒトの前腕である場合は、弾性パッキン29は、太い腕や細い腕の断面寸法よりも内周縁29bの内径寸法を若干小さくしたものを揃えておくとよい。このようにすると、弾性パッキン29を変更するだけで、太い腕や細い腕の外周全周にわたって気密に密着させることができるので、多くのヒトの前腕から発生する生体ガスを本体9内に簡単に収集することができるからである。なお、固定部材30は、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)により形成されている。
【0039】
ビス33は、生体試料を本体9内から抜き出すときに、弾性パッキン29が容易に外れないようにできるだけ多く設けることが好ましい。この実施形態では、図7に示すように、ビス33は、蓋10の連通孔20に嵌め込んだジョイント21と円周方向に交互に位置するように一定の間隔をおいて4箇所設けている。なお、ビス33は、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)やポリエーテルエーテルケトン(PEEK樹脂)などの樹脂で形成したものを用いることができる。
【0040】
図5、図6に示すように、固定部材30の内周面30aには、第2の蓋34を嵌め込むことができるようになっている。第2の蓋34は、内周面30aの径よりも径の大きい大径部34aと、内周面30aの径よりも僅かに径の小さい小径部34bとからなり、小径部34bにシリコンゴムで形成されたOリング35が装着されている。これにより、第2の蓋34は、その小径部34bを固定部材30の内周面30aに挿入したときに、Oリング35が内周面30a全周にわたって密着し、本体9内を気密に密封することができるようになっている。また、Oリング35は、シリコンゴムで形成されているので、温度変化による寸法変化が生じにくく、本体9内の気密性を確保しやすい。
【0041】
設置台12は、図7に示すように、長方形状に形成された底板36と、底板36の長手方向両端部に設けたガラス受37、37とからなる。底板36には、その長手方向一端部に断面円形の穴38が複数形成されており、ジョイント21から外したメクラ栓23を穴38に差し込んでおくことができる。
【0042】
両ガラス受37、37は、互いに平行に対向しながら上方に突出しており、その突出端部が本体9の外周に沿うような断面U字状に形成された支持部37aとなっている。これにより、設置台12は、図7、図8に示すように、本体9の両端部外周を支持部37aに載せた状態で、本体9を横向きに保持するようにしている。また、一方のガラス受37の外側面には、支持部37aに沿ってビス取付穴39が等間隔に3箇所形成されている。これにより、一方の蓋10のビス取付穴10aを支持部37aのビス取付穴39に一致させた状態でビス40をビス取付穴10a、39に差し込んで締付固定することにより、試料収集チャンバー5をガラス受37に固定できるようになっている。
【0043】
上記のように構成された試料収集チャンバー5は、例えば、次のようにして使用する。
【0044】
まず、試料収集チャンバー5の本体9内を温度調節器6により約50℃に設定しておく。その後、試料収集チャンバー5から第2の蓋34を外し、図3、図8に示すように、ヒトの前腕Aを蓋10の試料挿入口24に通して本体9内に入れる。このとき、試料挿入口24において弾性パッキン29の内周縁29bがヒトの前腕Aの外周全周にわたって弾性により気密に密着した状態となり本体9内が気密に密閉され、ヒトの前腕Aから発生した生体ガスが本体9内に収集される。
【0045】
また、このとき、図2に示すように、U字状の載置部が形成された腕枕41を本体9内の底面に設置しておくと、ヒトの前腕Aの手首部分を腕枕41に載せておくことができるので、ヒトの前腕Aを本体9内に入れた状態で固定しやすくなり、本体9内の気密性を向上させることができる。この場合、腕枕41は、ヒトの前腕Aの長さに応じて設置場所を変更できるようにしておくと好ましい。なお、腕枕41は、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)で形成することにより、ヒトの前腕Aや生体ガスあるいはキャリアガス2を付着しにくくするとともに、素材からの遊離化合物も少なくしておく。
【0046】
次に、この状態で、キャリアガス2の滴量や本体9内の容積に依存した所要時間、キャリアガス2を流し続けて本体9内の生体ガスをガス分析装置7に移送する。これにより、生体ガスがガス分析装置7により分析される。
【0047】
試料収集チャンバー5は、ヒトの前腕Aを蓋10の試料挿入口24を通して本体9内に入れるだけで、弾性パッキン29の内周縁29bが外周全周にわたってヒトの前腕Aに密着するので、簡単に本体9内を気密に密封することができる。このため、外部の空気などの不純物が本体9内に入り込んだり、生体ガスが外部に流出したりすることがなく、ガス分析装置7による生体ガスの成分の同定を容易にすることができる。
【0048】
上記実施形態では、生体試料としてヒトの前腕Aを用いたが、これに限定されず、本体9内に入りきらない生体試料であればいずれでも用いることができる。例えば、ヒトの足やヒト以外の動物の体の一部であってもよい。この場合、弾性パッキン29の内周縁29bは、ヒトの足やヒト以外の動物の体の一部を試料挿入口24を通して本体9内に入れたときに、そのヒトの足やヒト以外の動物の体の一部に全周にわたって密着できる形状にしておく必要がある。いずれの場合も、キャリアガス2は、試料挿入口24側から流入させるのが好ましい。
【0049】
また、試料収集チャンバー5は、従来例のような本体9内に入りきる生体試料、例えば、ラットなどの小動物や鶏の有精卵から発生する生体ガスを収集するために用いてもよい。この場合は、図6に示すように、第2の蓋34で試料挿入口24を閉じ、本体9内を密閉した状態で生体ガスを収集することができる。
【符号の説明】
【0050】
5 試料収集チャンバー
9 本体
10 蓋
24 試料挿入口
25 段差部
26 底面
27 凸条
28 側壁
29 弾性パッキン
29a 外周部
29b 内周縁
30 固定部材
32 凸条
33 ビス
A ヒトの前腕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密な筒状の本体(9)と、その本体(9)の一端部に気密に取り付けられた、試料挿入口(24)を有する蓋(10)からなり、前記本体(9)内に入りきらない大きさの生体試料の一部を前記試料挿入口(24)を通して前記本体(9)内に入れたときに、その生体試料の外周全周にわたって気密に密着する環状の弾性パッキン(29)を前記試料挿入口(24)に設けた試料収集チャンバー。
【請求項2】
前記弾性パッキン(29)がシリコンゴムからなる請求項1に記載の試料収集チャンバー。
【請求項3】
前記弾性パッキン(29)の内周縁(29b)が円形、楕円形、長円形、卵形のいずれかに形成される請求項1又は2に記載の試料収集チャンバー。
【請求項4】
前記蓋(10)は、その外側面に内側に凹む段差部(25)を前記試料挿入口(24)近辺に沿って形成し、前記弾性パッキン(29)の外周縁(29a)を前記段差部(25)の側壁(28)に沿うように形成し、その弾性パッキン(29)を前記段差部(25)の側壁(28)により位置決めし、環状の固定部材(30)を前記段差部(25)に嵌め込んで挟み込むことにより前記弾性パッキン(29)を固定した請求項1〜3のいずれか1つに記載の試料収集チャンバー。
【請求項5】
前記弾性パッキン(29)は、前記固定部材(30)から内側に突出する凸条(32)で前記段差部(25)の底面(26)に押し付けられ、かつ前記段差部(25)の底面(26)から外側に突出する凸条(27)で前記固定部材(30)に押し付けられるようにした請求項4に記載の試料収集チャンバー。
【請求項6】
前記弾性パッキン(29)は、環状の固定部材(30)で挟み込んだ状態でビス(33)により締付固定することにより着脱可能とし、前記弾性パッキン(29)の内径寸法を本体(9)内に挿入する前記生体試料に応じて変更できるようにした請求項1〜5のいずれかに記載の試料収集チャンバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−2520(P2012−2520A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134836(P2010−134836)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(502371738)
【Fターム(参考)】