説明

試料固相負荷流路装置

【課題】水中の対象成分を測定する際に、試料液を固相に送り、濃縮する。それらの対象成分には、吸着性の高い農薬や無機物質が含まれる。これら物質は、試料液の送液装置に吸着すると、精確な分析の障害となるため、対象成分の測定には別途濃縮操作を行なう手間がかかる。これら手間を省くべく、試料液を送液部のガラスや金属部に接触させることなく、送液できるシステムが求められている。
【解決手段】流路切換部を介し、ガラスや金属等からなるシリンジにより試料液を固相へ送液する流路装置において、該シリンジと該流路切換部の間に試料液滞留部を設けることにより、試料液を該シリンジへ接することなく、送液することを特徴とする試料固相負荷流路装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、水中の対象成分を測定する際に、試料液を固相抽出装置へ送液を行ない、濃縮する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水中の対象成分を測定する際に、試料液を固相抽出カートリッジ等へ送液を行ない、これを濃縮することが行なわれている。それらの対象成分には、吸着性の高い農薬や無機物質なども含まれていることがある。それら吸着性のある物質は、試料液の送液装置部に吸着してしまう場合がある。
【0003】
従来、無機成分の分析に於いて、試料液の送液に際して、通常ぺリスタタイプの非金属送液ポンプを用いられているが、正確な送液に難点があった。又、脂溶性の高い成分は、配管に吸着してしまうことがあった。更に、テフロン(登録商標)等吸着性が低い材質は、硬すぎて配管その他に使用することができない等の問題があった。
【0004】
又、プランジャーを用いた送液システムが多用されているが、シリンジに金属、ガラス等を用いて試料液を吸引、吐出して送液するため、農薬や無機物質の吸着の問題から逃れられることが出来なかった。
【0005】
従来のプランジャー方式を使った送液システムを図1により説明する。試料液容器1をチェック弁(或いは切換弁)3を経て、固相カートリッジ4と連結してある。チェック弁3には、金属製、ガラス製等のシリンジ5を連結してある。この他、移動相送液路、洗浄液送液路を設けることは適宜実施可能である。
【0006】
この動作は、シリンジ5の吸引により、試料液6は試料液容器1から吸引され、送液路11を通り、チェック弁3を介してシリンジ5に吸引される。このため、試料液6はシリンジ5内に必要量満たされる。そこで計量後、プランジャーの押し出しにより、チェック弁3を介して固相カートリッジ4に送液される。
【0007】
従って、試料液6は、シリンジ5内に取り込まれ、シリンジ5内に目的成分、就中吸着する成分の吸着は避けられない。このため、無機分析では、ガラスからの金属イオンの溶出によるブランク影響などが出ることは予防することが出来ない。
【0008】
又、試料液6とシリンジ5との間に、バルブ3を介してシリンジ5により吸引された試料液6を溜めておき、バルブ3を切換えることにより、該試料液6を分析流路2に導入するシステム(特許文献1)は、既に公開されている。
しかし、このような従来例では切換えバルブなどで装置が大型化、複雑化することになり、高額化も避けられない。
【0009】
【特許文献1】特開昭60−142262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、現在試料液を送液しているどの装置でも、吸着性の高い物質や無機物質は、ガラスや送液ラインへ吸着してしまうため、測定対象成分から外しているのが現状である。これに対し、送液ラインへの吸着は、材質の選定や試料液へ溶媒を加えることで吸着度を低減させ行なっているのが現状である。
【0011】
しかし、物性によってはガラス等へ吸着してしまう成分も多く、その対策がない。そのため、対象成分を測定するには、マニュアル操作で別途、濃縮操作を行なう必要がある。
更に、正確な試料液の送液のためには、ガラスシリンジを用いた正確な計量送液が重要なことである。
【0012】
そこで本発明に於いては、正確な計量送液の出来るガラス、金属等のシリンジを用いて、試料液の送液を行ない、尚且、送液システムのガラスや金属部分に接触することなく、試料液を送液できるシステムであり、装置も小型で極めて簡単、操作も極めて容易なシステムを提案せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本願発明に於いては下記を提案する。まず第一に、流路切換部を介し、ガラスや金属等からなるシリンジにより試料液を固相へ送液する流路装置において、該シリンジと該流路切換部の間に試料液等滞留部を設けることにより、試料液を該シリンジへ接することなく、送液することを特徴とする試料固相負荷流路装置を提案する。
【0014】
又、第二に、前記試料液等滞留部は、試料液の1回の吸引及び/或いは吐出量の1〜1.5倍程度の容量であることを特徴とする試料固相負荷流路装置を提案する。
【0015】
又、第三に、前記吸引及び/或いは吐出の際に生じる該シリンジ内の減圧/加圧状態が解消するまで停止時間を置くように制御されるシリンジ駆動部を設けたことを特徴とする試料固相負荷流路装置。を提案する。
【0016】
又、第四に、前記シリンジ内の圧力を計測する圧力計をシリンジに設け、該圧力計をデータ解析部に連結したことを特徴とする試料固相負荷流路装置を提案する。
【0017】
又、第五に、前記データ解析部に送られた圧力データに基づいて、補正された送液量の表示部を設けることを特徴とする試料固相負荷流路装置を提案する。
【0018】
又、第六に、前記試料液滞留部に液体が供給されていることを特徴とする試料固相負荷流路装置を提案する。
【0019】
又、第七に、前記シリンジの駆動部と連係させた位置センサーを設け、前記吸引及び/或いは吐出の際に生じる該試料液等滞留部内の液面の移動を感知することを特徴とする試料固相負荷流路装置を提案する。
【0020】
又、第八に、前記液体が、水或いはエチレングリコールであることを特徴とする試料固相負荷流路装置を提案する。
【0021】
又、第九に、試料液が農薬或いは無機成分であることを特徴とする試料固相負荷流路装置を提案する。
【0022】
又、第十に、前記農薬が、イミダゾリノン系、オキシン銅或いはジクワットであることを特徴とする試料固相負荷流路装置を提案する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、送液流路に設けたバルブとシリンジ間に、試料液等滞留部を連結し、液体試料はシリンジに接液することなく、液体試料を送液できるので、プランジャー方式の送液システムを使用する故に、正確な送液が出来ると共に、送液試料はシリンジに接触することはなく、金属、ガラスに接触せず送液することが出来、無機分析に於ける金属イオンの溶出によるブランク影響や吸着影響が低減される。
又、試料液が農薬ではイミダゾリノン系農薬が金属に吸着する傾向があり、それらの吸着が防がれる。
又、試料液等滞留部は、小型で簡単な構成であり、装置が簡易、小型化でき設備及び操作が極めて簡略化できる。
【0024】
本発明によれば、シリンジ内の減圧、加圧状態が解消するまでシリンジ駆動を停止させ、減圧状態が解消するのを待って、再度駆動することにより正確な送液量の確保が出来る。
【0025】
本発明によれば、シリンジにシリンジ内圧力を計測する圧力計を設け、該圧力計とデータ解析部を連結したことを特徴とするので、シリンジ内の圧力が簡単に計測でき、且つ送液時の圧力データがデータ解析部に送られ、送液量が圧力にて補正した数値結果が得られ、送液量が正確に確保される。
【0026】
本発明によれば、試料液等滞留部に、液体就中、水、エチレングリコールを供給したことを特徴とするので、試料液等滞留部が空気だけである場合、空気の圧縮などで正確な送液が出来ない不便を解消し、正確な送液を期待できる。
【0027】
本発明によれば、前記シリンジの駆動部と連係させた位置センサーを設けたことを特徴とするので、試料液等滞留部を設けた本装置では、本装置で空気の吸引、吐出の際に生じるシリンジ内の液面の移動及び空気の圧縮等の状態により、シリンジ内の減圧、加圧状態が把握できる。
【0028】
本発明によれば、試料液が農薬や無機成分であっても、試料液のガラス、金属を含むシリンジ等に対する接触が防がれ、ブランク影響や吸着影響が低減される。
【実施例1】
【0029】
本発明は図2に示すように、従来のプランジャー方式を使った送液システムに於いて、流路切換部たるチェック弁(或いは切換弁)3とシリンジ5との間に、試料液等滞留部7を設けることが特徴である。試料液、空気、液体等の試料液等を滞留させる試料液等滞留部は、吸着の起こり難いテフロン(登録商標)、PEEK、ポリプロピレン等で、ループ、直筒状等適宜的に形成し、シリンジ5の吸引ボリュームと同等若しくは大きい容量、例えば1.5倍程度に形成する。その他の構成は、試料液容器1を送液路2によりチェック弁3を経て、固相としての固相カートリッジ4に連結すること、この他移動相送液路、洗浄液送液路を設けることが出来ること、図1にて説明した従来例と同じである。
この他、固相としてはディスク型固相等各種の型のものを使用しうる。
【0030】
次いで、その作動について説明する。シリンジ5の駆動部(眞空ポンプ等を使用するが図示せず)、例えばシリンジポンプによりシリンジ5が吸引されると、試料液等滞留部7、チェック弁3を介して試料液容器1から試料液6が吸引され、試料液等滞留部7に吸入される。従って、試料液6は、シリンジ5内に入り、又は接触することはない。このため、試料液6に混入しているSS(浮遊固形物質)成分も入り込むことがなく、プランジャーシールの劣化の問題も解決し、従来のプランジャー送液システムに比し、寿命が長く、長期使用に堪える効果も派生している。
【0031】
シリンジ5内の圧力を計測するために、シリンジ5に圧力計10を設けてある。該圧力計としては、眞空計、弾性圧力計、電気抵抗圧力計等各種の小型のものが使用される。この圧力計により計測されたデータは、別途設置されるPC等のデータ解析部に伝達され、送液コントロールの試料とされる。
又、該PCにより、計算される送液コントロールにより適正な送液量が算出され、PC表示部に表示されることは推奨される。
【0032】
位置センサーは、試料液等滞留部7に於ける空気と液との位置関係を計測するセンサーであり、赤外線を利用した液面センサーを一例とし、試料液等滞留部7内の適宜箇所に設けられ、充填された試料液6及び/或いは液体8の一端に当る際に、接触感知するセンサー或いは圧力感知センサーにより試料液等滞留部7内に充填された試料6及び/或いは液体8の面の動きを感知し、或いは空気の上下端の位置を感知し、シリンジ5駆動部を制御するように構成してある。
試料液6の粘性によっては、位置センサーの計測結果を基に、シリンジ駆動部の作動停止時間を決定する制御も考えられる。
【実施例2】
【0033】
実施例1のシステムに於いて、試料液6を速い流速で流すためには、試料液等滞留部7は内径が小さいと、内部が減圧になり、吸引速度が稼ぐことが出来ない。そのため、送液プログラムによる送液の場合、プログラム的に補正するか、試料液等滞留部7の内径の大きいものを用い、内部抵抗を減らす必要がある。内径が大きい場合、その取付方法によってシリンジ5内に試料液が混入する虞が生じる。そのため、試料液等滞留部7の径を大きくする際には図3の如く、試料液等滞留部7とシリンジ5の連結の際に、試料液等滞留部7の下端部とシリンジ5の上端を連結する構造とするのが良い。
【実施例3】
【0034】
又、全く同様に試料液等滞留部7下端と、上向きに設置したシリンジ5の下端とを連結する構造とすることも出来る(図4)。
このように、試料液等滞留部7の内径を大きくする時は試料液等滞留部7配管の下側から試料液を取り入れる取付構造が有効である。
【実施例4】
【0035】
図2によるプランジャー方式による送液システムに於いて、粘性が高いサンプルを送液する場合、プランジャー吸引によりシリンジ5内が減圧になるため、正確な送液が困難である。かかる場合、シリンジ5を吸引又は吐出が終了したところで、シリンジ駆動部の作動を数秒一時停止することで、続く吸引、排出により、正確な送液が出来る。
【0036】
この一時停止は、試料液6の粘性を考慮し、所望量、吸引、吐出が出来る程及び試料液6内の気泡(空気空間)が混入しない程度の時間、約2〜20秒停止させるのが良い。
【実施例5】
【0037】
図2によるシステム実施例により、100ml送液に於ける送液速度の違いによる実送液量と空間との関係を示す実験により送液誤差を図5に示す表により表示する。これによれば、送液速度が速くなるに従い、誤差が拡大することが示される。
但し、空間Vol(試料液等滞留部7に供給されている液体8(水、エチレングリコール等)と試料液6との空気空間9)が大きくない時(〜1或いは1.5ml)は、送液速度が多少速くても、誤差はあまり大きくない。1割程度の誤差であれば、60ml/minの場合は、空間Vol:1ml、40ml/minの場合は空間Vol:1.5mlでの送液が可能であることが分かる。
【0038】
本実験に於いて使用された液体は、水道水であり、精製水でも同様のデータが得られている。又、試料液等滞留部7は内径2mmのものを使用した。
【実施例6】
【0039】
図2によるシステム実施例により、100ml送液に於ける送液速度の違いによる実送液量と送液速度と関係を示す実験による送液誤差を図6の表により表示する。送液誤差は空間Volが大きくなるに従い、誤差は拡大する。
但し、送液速度があまり速くない場合(〜40ml/min)は、空間Volが多少大きくても、誤差はあまり大きくない。1割程度の誤差であれば、空間Vol:2mlの場合は40ml/min、空間Vol:1mlの場合は60ml/minでの送液が可能である。
【0040】
本実験に使用された液体は、水道水である。又、精製水でも同様の結果が得られた。又、試料液等滞留部7の内径は2mmを使用した。
【実施例7】
【0041】
試料液滞留部7に、液体を充填させるシステムについて説明する。これは試料液等滞留部7内が空気のみの場合、空気の圧縮などで正確な送液が出来ない場合に備えるものである。この液体としては、水又はエチレングリコールが用いられる。
【0042】
予め、試料液等滞留部7に水、エチレングリコール等の液体8を充填させておく。そして、シリンジ5の駆動により吸引操作を行なう。その際の動作を拡大分解説明図7により示す。試料液等滞留部7内は、水、エチレングリコール等の試料液等滞留部内の液体8と試料液6が空間9を介在させて吸引されている。従って、試料液6のシリンジ5への吸引は阻止される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】従来のプランジャー方式の送液システム図
【図2】本発明のプランジャー方式の送液システム図
【図3】本発明のプランジャー方式の他実施例送液システム図
【図4】本発明のプランジャー方式の他実施例送液システム図
【図5】本発明による送液誤差の実施例表
【図6】本発明による送液誤差の実施例表
【図7】本発明実施例作動解説説明図
【符号の説明】
【0044】
1 試料容器
2 送液路
3 チェック弁/切換バルブ
4 固相(カートリッジ)
5 シリンジ
6 試料液
7 試料液等滞留部(プレボリューム)
8 試料液等滞留部内液体(エチレングリコール等)
9 空間
10 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路切換部を介し、ガラスや金属等からなるシリンジにより試料液を固相へ送液する流路装置において、該シリンジと該流路切換部の間に試料液等滞留部を設けることにより、試料液を該シリンジへ接することなく、送液することを特徴とする試料固相負荷流路装置。
【請求項2】
前記試料液等滞留部は、試料液の1回の吸引及び/或いは吐出量の1〜1.5倍程度の容量であることを特徴とする請求項1に記載の試料固相負荷流路装置。
【請求項3】
前記吸引及び/或いは吐出の際に生じる該シリンジ内の減圧/加圧状態が解消するまで停止時間を置くように制御されるシリンジ駆動部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の試料固相負荷流路装置。
【請求項4】
前記シリンジ内の圧力を計測する圧力計をシリンジに設け、該圧力計をデータ解析部に連結したことを特徴とする請求項1に記載の試料固相負荷流路装置。
【請求項5】
前記データ解析部に送られた圧力データに基づいて、補正された送液量の表示部を設けることを特徴とする請求項4に記載の試料固相負荷流路装置。
【請求項6】
前記試料液滞留部に液体が供給されていることを特徴とする請求項1に記載の試料固相負荷流路装置。
【請求項7】
前記シリンジの駆動部と連係させた位置センサーを設け、前記吸引及び/或いは吐出の際に生じる試料液等滞留部内の液面の移動を感知することを特徴とする請求項1に記載の試料固相負荷流路装置。
【請求項8】
前記液体が、水或いはエチレングリコールであることを特徴とする請求項6に記載の試料固相負荷流路装置。
【請求項9】
前記試料液が農薬或いは無機成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の試料固相負荷流路装置。
【請求項10】
前記農薬が、イミダゾリノン系、オキシン銅或いはジクワットであることを特徴とする請求項9に記載の試料固相負荷流路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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