説明

試料導入装置

【課題】FIA−MSの試料導入部において、多種類の組成の溶媒を連続的に自動で供給することが可能な、シンプルな流路構成で小型かつ安価な構造の試料導入装置を提供する。
【解決手段】本発明の試料導入装置は、バルブを介して接続された溶媒送液用と試料吸引用の2台のシリンジポンプを有する試料導入装置であって、試料吸引用ポンプ流路に洗浄液用の流路を備えることにより、2台のポンプを1つの駆動系で制御可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計に試料を導入する試料導入装置に関するものであり、特に試料液を送液溶媒を用いて導入するフローインジェクション法による質量分析計の試料導入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計(Mass Spectrometer,MS)は、液体あるいは気体成分中の微量化学種成分を高感度に測定できる分析装置である。生体試料(血清,尿,組織抽出液など),環境試料(河川水,工業排水など)など、様々な試料液中の微量化学種の定性および定量分析に利用されている。
【0003】
一般に溶液試料をMSを用いて測定する場合、試料導入装置に高速液体クロマトグラフ(High Performance Liquid Chromatograph,HPLC)やキャピラリー電気泳動(Capillary Electrophoresis,CE)のような分離手段とオンラインで接続する分析法が多用される。LCやCEなどの分離手段では、試料液中の目的とする化学種は、夾雑成分と分離された後にMSに導入される。MSに導入された化学種は、イオン源にてイオン化され、質量に基づいて分離検出される。またMSで目的化学種をイオン化するイオン源には、エレクトロスプレーイオン化法(Electrospray Ionization,ESI)に代表される大気圧イオン化法が用いられる。これら分離手段とオンラインで接続されたMSは、目的化学種は夾雑成分と分離されるため、高感度かつ精度の高い分析が可能である。しかし一方で、分離にかかる時間が必要なため、測定時間が長くなるという欠点が生じる。
【0004】
分離を伴わずに短時間で分析可能な分析法として、フローインジェクション分析法(Flow Injection Analysis,FIA)がある。FIAは、0.5mm程度の細管に反応試薬溶液を定常的に流し、その連続した流れの中に溶液試料を注入し、下流に設置された検出器にて反応生成物である目的の化学種やその誘導体を検出する分析法である(例えば非特許文献1,非特許文献2など)。分析装置を安価に構成できる、簡単な操作で迅速な高感度測定が可能,自動化が容易、また試料や試薬の消費量が少なく環境への負荷が少ないなどの特徴を有する。検出には吸光光度計が用いられることが多いが、高感度分析を要する環境分野や、生体成分の測定などではMSを用いたFIA−MSも用いられる。
【0005】
FIA−MSとしては、特許文献1にあるようにシリンジポンプを用いて試料溶液を連続的にMSに導入する方法が一般的である。前処理済みの試料溶液を直接MSに導入する方法として、例えば特許文献2や非特許文献3などが報告されている。試料溶液の量が少ない場合には、HPLCに用いる送液ポンプとオートサンプラを試料導入装置として使用する方法が用いられる(例えば特許文献3,非特許文献4など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−66158号公報
【特許文献2】特表2002−540385号公報
【特許文献3】特表2003−524394号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H. B. Kim et al.; Analytical Science, 16, 871-876, 2000.
【非特許文献2】K. Kameyama et al.; Biophysical Journal, 90, 2164-2169, 2006.
【非特許文献3】C. Van Pelt et al.; Journal of Biomolecular Techniques, 13, 72-84, 2002.
【非特許文献4】H. J. Henderickx et al.; Analytical Biochemistry, 394, 159-163, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ESIに代表される大気圧イオン化法を用いるMSの場合、目的化学種のイオン化効率は溶液の種類や組成に影響されることが知られている。またイオン化効率を最大とする溶液組成は、化学種ごとに異なる。即ち、目的化学種を効率良くイオン化し検出するためには、あらかじめ溶液組成を目的化学種に合わせて変更する必要がある。特許文献1,特許文献2および非特許文献3の装置では、溶液試料はその組成を変化すること無くそのままESI−MSに導入される。そのためこれら文献に記載された装置の場合、溶液試料を準備する段階で、目的化学種のイオン化に適した組成に溶液を変更しておかなければならない。このような操作を試料毎に行うことは、大変な労力を要する。
【0009】
MSに導入される溶液組成を変化させる手段として、特許文献3や非特許文献4のように、LCに用いられるグラジエント機能付送液ポンプを送液手段に用いる方法がある。送液ポンプとMSの間にサンプルループを有した試料導入手段を設け、溶液試料を送液ポンプから送られた溶媒で挟み込んでMSに導入する。流路を移動する間の流路内拡散により溶媒が置換され、目的化学種のイオン化に適した溶媒に変更することができる。この場合、試料ごとに自動で溶媒組成の変更が可能であるが、送液部の流路が複雑になるため装置が大型かつ高価になる。
【0010】
本発明の目的は、FIA−MSの試料導入部において、多種類の組成の溶媒を連続的に自動で供給することが可能な、シンプルな流路構成で小型かつ安価な構造の試料導入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、バルブを介して接続された溶媒送液用と試料吸引用の2台のシリンジを有する試料導入装置であって、試料吸引用ポンプ流路に洗浄液用の流路を備えることで2台のシリンジを1つの駆動系で制御するシリンジポンプを用いて実現したものである。かかる構成により、異なる組成の溶媒を連続的に自動で供給可能となり、かつ試料導入装置の小型化および低コスト化が可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、異なる組成の溶媒を連続的に自動で供給可能となり、かつ試料導入装置の小型化および低コスト化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による実施例を示す自動分析装置の構成図。
【図2】本発明による実施例を示す試料導入部の流路図。
【図3】本発明による実施例を示す試料導入部の流路図(工程一(1))。
【図4】本発明による実施例を示す試料導入部の流路図(工程一(2))。
【図5】本発明による実施例を示す試料導入部の流路図(工程二)。
【図6】本発明による実施例を示す試料導入部の流路図(工程三)。
【図7】本発明による実施例を示す試料導入部の流路図(工程四(1))。
【図8】本発明による実施例を示す試料導入部の流路図(工程四(2))。
【図9】本発明による実施例を示す試料導入部の流路図。
【図10】試料導入工程における試料導入部の動作を示すチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施例を、以下に詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
本発明の一実施例に係る自動分析装置について図1を用いて説明する。具体的には、血清,尿などの生体試料中に含まれる微量成分を自動で連続的に分析するために、固相抽出による前処理を行う固相抽出機構,抽出試料を送液する試料導入装置,ESIイオン源を備えたMS、からなる自動分析装置について説明する。
【0016】
図1に示す自動分析装置は、固相抽出処理を受ける生体試料が分注された試料容器101が配置される試料設置部102、固相抽出カートリッジ103を用いて順次固相抽出処理を行う処理部104、抽出処理に使用する洗浄液や溶出液等の各種試薬容器105を配置する試薬配置部106、これら試料,試薬を固相抽出カートリッジ103に分注する試料分注機構107,試薬分注機構108、固相抽出処理を行う固相抽出処理部109、抽出容器110が配置される抽出容器設置部111、固相抽出カートリッジ103および抽出容器110などの消耗品の設置部112、抽出試料の分注とイオン源114への送液を行う試料導入部113、イオン源114でイオン化された成分を質量分析する質量分析部115、により構成される。
【0017】
次に、自動分析装置による生体試料分析の手順について説明する。試料容器101に分注された状態で試料設置部102に設置された生体試料のうち、あらかじめ設定された一定量を試料分注機構107により固相抽出カートリッジ103に分注する。試料が分注された固相抽出カートリッジ103は、処理部104の回転により固相抽出処理部109の位置に移動する。固相抽出処理部109では、試料が分注された固相抽出カートリッジ103に対して試料の通液を行い、測定対象成分が抽出される。抽出後、試薬分注機構108により試薬容器105に準備された洗浄液を分注し、通液処理を行うことで固相抽出カートリッジ103を洗浄する。洗浄後、同様に試薬分注機構108により溶出液を試料が分注された固相抽出カートリッジ103に分注し、通液処理を行うことで固相抽出カートリッジ103から測定対象成分を溶出させた抽出試料液を抽出容器110に回収する。
【0018】
抽出試料液を回収した抽出容器110を、抽出容器設置部111の回転により試料導入部113の位置に移動する。抽出試料液は試料導入部113によりイオン源114に導入される。イオン源114で測定対象成分がイオン化され、質量分析部115にて成分が検出される。
【0019】
試料導入部113の詳細について、図2〜図10を用いて説明する。試料導入部は、第一溶媒201と第二溶媒202と、これら溶媒と流路が接続された1−4ポートのロータリーバルブ203と、ロータリーバルブ203を介して第一溶媒201と第二溶媒202を吸引・吐出するシリンジポンプ204およびプランジャ205と、抽出容器110に回収された抽出試料液あるいは洗浄液211を吸引するためのシリンジポンプ206およびプランジャ207、抽出試料液あるいは洗浄液211を吸引するときに液中に送られるニードル210と、吸引された抽出試料液を蓄えるサンプルループ212と、ロータリーバルブ203とニードル210とサンプルループ212とシリンジポンプ206とイオン源114を接続し、サンプルループ212に蓄えた抽出試料液をイオン源114に送液するために流路を切り替えることが可能な六方バルブ209と、シリンジポンプ206と六方バルブ209の流路の間に設置され洗浄液216を吸引するときに液中に送られるニードル217が接続された三方バルブ215、プランジャ205とプランジャ207が接続され2つのプランジャを同時に吸引または吐出方向に駆動させることが可能な駆動部208、から構成される。図2には、抽出試料液中の測定対象成分をイオン化するイオン源114およびイオン化された成分を検出する質量分析部115も記載してある。
【0020】
ロータリーバルブ203は、シリンジポンプ204と接続された中央ポートCと、第一溶媒201と接続されたP1あるいは第二溶媒202と接続されたP2あるいは六方バルブ209と接続されたP3あるいは廃液受け213と接続されたP4のいずれかを接続するように任意のタイミングで流路を切り替えることができる。図2はC−P1が接続されている状態である。六方バルブ209は、6箇所の流路接続部を有し、隣接する2箇所のいずれかと接続するように流路を切り替えることができる。六方バルブ209には2種類の流路切り替え位置がある。図2で実線で示す流路がLoadであり、ニードル210とサンプルループ212、サンプルループ212とシリンジポンプ206、ロータリーバルブ203とイオン源114をそれぞれ接続する。同様に図2に点線で示す流路がInjectである。ニードル210は、抽出容器110に回収された抽出試料液あるいは洗浄液211のいずれかの液中に先端部を移動して浸し、液をニードル内部に吸引させる。あるいは廃液受け214の位置に移動して、ニードルおよび流路内の液を吐出させる。三方バルブ215は、3箇所の流路接続部を有し、シリンジポンプ206と六方バルブ209を接続する流路P1あるいはシリンジポンプ206と洗浄液216を接続する流路P2のいずれかを切り替える。ニードル217は、洗浄液216の液中に先端部を移動して浸し、液をニードル内部に吸引させる。あるいは廃液受け218の位置に移動して、ニードルおよび流路内の液を吐出させる。
【0021】
ここで、本実施例における構成要素の動作について図2および図3を用いて説明する。第一工程では、駆動部208がプランジャ205およびプランジャ207を引く。この間、ロータリーバルブ203が一定の間隔で第一溶媒201と接続されるP1と第二溶媒202と接続されるP2にポジションを切り替えることで、シリンジポンプ204内には切り替えの周期により設定された混合比の均一な混合溶媒が充填される。この時六方バルブ209はLoadポジションにある。ニードル210は抽出試料液の液中にあらかじめ移動されており、シリンジポンプ206は、抽出試料液を吸引してサンプルループ212内に充填する(図3)。サンプルループ212内に抽出試料液が充填された時点で、三方バルブ215が洗浄液216に通じるポジションに切り替わり、シリンジポンプ抽出試料液6は洗浄液216を吸引する(図4)。これら吸引動作は、シリンジポンプ204が十分量の混合溶媒を吸引するまで継続される。
【0022】
シリンジポンプ204が十分量の混合溶媒を吸引し終えると、駆動部208はプランジャ205および207を押す動作に切り替わる(図5)。ロータリーバルブ203は六方バルブ209と接続するP3にポジションを切り替える。六方バルブ209はLoadポジションのままであり、シリンジポンプ204から吐出される混合溶媒は、検出器へと送液される。同時に、ニードル217は廃液受け218へと移動し、シリンジポンプ206は洗浄液を吐出している。これら動作は、シリンジポンプ204から送液される混合溶媒がイオン源114までの流路を十分置換するまで継続される。
【0023】
シリンジポンプ204から送液される混合溶媒が検出器までの流路を十分置換された時点で、六方バルブ209がInjectポジションに切り替わる(図6)。これにより抽出試料液が充填されたサンプルループ212が、イオン源114へつながる流路に組み込まれる。引き続きシリンジポンプ204からの送液により、混合溶媒−試料液−混合溶媒のサンドイッチ状態が形成され、サンプルループ212内の抽出試料液はイオン源114へ導入される。イオン源に導入された抽出試料液中の測定対象成分はイオン化され、質量分析部115で検出される。六方バルブ209のポジションが切り替わると同時に、ニードル210は廃液受け214に移動する。同じ駆動部208で制御されているシリンジポンプ206は、ニードル210および流路内に残留する抽出試料液を廃液受け214に排出している。
【0024】
質量分析部115で測定対象成分の測定が終了すると、流路洗浄のため第四工程に移行する。第四工程は洗浄液を吸引・吐出することで実施される。ロータリーバルブ203は、次測定で使用する組成の混合溶媒を作製するため、一定の間隔で第一溶媒201と接続されるP1と第二溶媒202に接続されるP2ポジションに切り替わる。三方バルブ215はシリンジポンプ206と六方バルブ209を接続するポジションに、六方バルブ209はLoadポジションに、ニードル210は洗浄液211の位置にそれぞれ切り替わる。この状態で駆動部208がプランジャ205および207を引くことで、シリンジポンプ204および206はそれぞれ混合溶媒および洗浄液を吸引する(図7)。混合溶媒および洗浄液を吸引した後、吐出動作が開始される。吐出動作開始時に、ロータリーバルブ203は廃液受け213と接続されるP4に切り替わり、ニードル210は廃液受け214に移動する(図8)。その後駆動部208がプランジャ205および207を押すことで、流路内の洗浄が行われる(図9)。
【0025】
本実施例では、ロータリーバルブ203に1−4ポートのバルブを使用したが、1−6ポートや1−8ポートなど本実施例より多くのポートを有するバルブを使用することで、さらに多種の送液溶媒を選択することができる。
【符号の説明】
【0026】
101 試料容器
102 試料設置部
103 固相抽出カートリッジ
104 処理部
105 試薬容器
106 試薬配置部
107 試料分注機構
108 試薬分注機構
109 固相抽出処理部
110 抽出容器
111 抽出容器設置部
112 設置部
113 試料導入部
114 イオン源
115 質量分析部
201 第一溶媒
202 第二溶媒
203 ロータリーバルブ
204,206 シリンジポンプ
205,207 プランジャ
208 駆動部
209 六方バルブ
210,217 ニードル
211,216 洗浄液
212 サンプルループ
213,214,218 廃液受け
215 三方バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒を用いて試料を検出器へ導入する試料導入装置であり、溶媒吸引吐出用シリンジポンプと試料吸引吐出用シリンジポンプを同一駆動系で制御する駆動部と、
溶媒及び試料を保持する流路と、
溶媒側,試料側,溶媒吸引吐出用シリンジポンプ,試料吸引吐出用シリンジポンプ、及び検出器に接続可能であり、少なくとも2通りの流路を形成するバルブを有することを特徴とする、試料導入装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試料導入装置において、
試料吸引用シリンジポンプと試料容器とを繋ぐ流路に、洗浄液を収容する容器へ切り替え可能なバルブを有する試料導入装置。
【請求項3】
請求項1に記載の試料導入装置において、
送液用シリンジポンプを用いて複数の溶媒を切り替えて吸引するロータリーバルブを備えていることを特徴とする試料導入装置。
【請求項4】
溶媒吸引吐出用シリンジポンプの径は、試料吸引吐出用シリンジポンプの径よりも大きいことを特徴とする試料導入装置。
【請求項5】
(a)溶媒を用いて試料を検出器へ導入する試料導入装置であり、溶媒吸引吐出用シリンジポンプと試料吸引吐出用シリンジポンプを同一駆動系で制御する駆動部と、(b)溶媒及び試料を保持する流路と、(c)溶媒側,試料側,溶媒吸引吐出用シリンジポンプ,試料吸引吐出用シリンジポンプ、及び検出器に接続可能であり、少なくとも2通りの流路を形成するバルブとを有する、試料導入部と、
上記検出器として質量分析計を備えたことを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−24621(P2013−24621A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157398(P2011−157398)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】