説明

試料形成材料および該試料形成材料からなる膜を備えた吸光分析装置

【課題】 溶液を注入するのみで、測定対象成分と反応して発色させ、かつ抽出して、その測定対象成分の濃度を算出するための吸光度測定に必要とされる試料を形成することができる試料形成材料、この試料形成材料からなる膜を備え、簡単かつ迅速に濃度を測定することができる装置を提供する。
【解決手段】 本発明の試料形成材料は、金属イオンといった測定対象成分と反応して発色する発色剤と、測定対象成分と発色剤との反応により生成される反応生成物を抽出する抽出剤とを含み、吸光分析装置内で加熱されることにより、溶液中の測定対象成分と発色剤とが反応して反応生成物を生成し、抽出剤中に反応生成物を抽出して発色試料を形成させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸光度測定により特定の成分の濃度を測定する場合に、試料をセットするのみで、発色試料を形成させ、連続して吸光度測定を行うことを可能にする試料形成材料、この試料形成材料からなる膜を備えた吸光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水を供給するために銅管や鋼管等が使用されている。これら銅や鋼等の金属は、水に接触することで、これらのイオンが微量に溶出する。銅イオンは、水道水の水質基準が1ppmと規定されており、こういった水質基準を満たしているか否かを検査するためにイオン濃度を測定する装置が数多く提案されている。
【0003】
水質基準を満たしているか否かを検査するものではないが、半導体集積回路用のリードフレーム、プリント配線板、フレキシブルプリント配線板、TABテープ等の銅材をエッチングするために使用される塩化第二鉄エッチング液の銅濃度の直接測定が現場において必要とされており、簡単に測定できる方法および装置として、溶液中の金属イオン濃度を測定するためにキレート試薬を使用し、吸光分析する分析方法および装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この分析方法は、バソクプロインが銅と安定で選択性の高いキレート化合物を生成するという性質を利用し、キレート化合物を生成させることにより銅を抽出し、そのキレート化合物について吸光度測定を行うことで、高精度で銅イオン濃度を求めることができるというものである。
【0004】
吸光度を測定する装置として、プレートリーダが使用されている。このプレートリーダは、多検体の吸光分析を行うために、透明なプレートにウェルと呼ばれる多数の収容溝を備えている。このプレートリーダによる吸光度測定は、各ウェルに試料を入れ、所定波長の光を照射する光源と光を受光する受光部との間にそのプレートを配置し、光源から光を照射し、試料を透過した光を受光部で受光することによって行われる。プレートリーダには、プレートを回転する回転手段が設けられており、プレートを回転させることにより、各試料に順に光を照射し、各々について吸光度を測定することができる。試料は、発色剤を添加し、反応して発色した発色液が使用され、測定基準となる吸光度を求めるため、少なくとも1つのウェルにブランク液(発色剤が添加されていない未使用の試料溶液)が使用される。
【0005】
上記装置やプレートリーダを使用して吸光度を測定する際、前処理として、上記発色剤による発色と、液−液抽出法または固相抽出法等を使用した測定対象成分の抽出が行われる。金属イオン等の測定対象成分を含む溶液に発色剤を添加すると、時間とともに色が濃くなり、反応が平衡に達すると、一定の色となる。このように一定の色となった発色液を吸光度測定に使用するためである。また、測定妨害成分等を除去し、充分に反応させるために必要とされるものである。液―液抽出法では、分配速度が比較的速いものの、相分離が容易でない場合があり、多量の有機溶媒を必要とし、有機溶媒によって二次的汚染の恐れがあるといった問題がある。固相抽出法では、相分離が容易であり、少量の有機溶媒で良く、有機溶媒による二次的汚染を軽減でき、かつ分離に加えて濃縮が可能であるといった利点を有するものの、固相への分配速度が遅いといった問題がある。いずれの方法にしろ、溶液に発色剤を添加し、反応が平衡に達するまで待ち、また、発色成分を抽出した後に、発色液をセットし、吸光度測定を行う必要があり、これでは時間を要するといった問題があった。
【0006】
ジエチルジチオカルバミン酸(DDTC)ナトリウムと反応して生じる黄金褐色のキレート化合物を酢酸ブチルで抽出し、吸光度を測定する場合、DDTCが多くの他の金属イオンと反応するため、マスキング剤を必要とし、測定のための操作が複雑となり、上記プレートリーダによる多検体測定が困難となっている。これらのことから、プレートリーダによる多検体測定を可能にし、簡便かつ迅速に吸光度を測定して特定成分の濃度を得ることを可能にする材料および装置等の提供が望まれている。
【特許文献1】特開平10−227742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、測定対象成分を含む溶液を注入するのみで、装置内で測定対象成分と選択的に反応して発色させ、抽出して、その測定対象成分の濃度を得るための吸光度測定に必要とされる発色試料を形成させ、簡単かつ迅速に濃度を測定することを可能にする試料形成材料を提供し、さらに、この試料形成材料からなる膜を備え、装置内で吸光度測定に必要とされる発色試料を形成させ、連続して吸光度測定を行うことができ、多検体の測定も可能な吸光分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討を加えてきたところ、上述したプレートリーダのプレートの各ウェルに、膜の主成分であるPVC、発色剤、抽出溶媒を、有機溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)に溶解した溶液を注入し、THFを揮発させることによって各ウェル内に膜を形成させ、その膜が形成された各ウェルに測定対象の金属イオンを含む溶液を注入し、加熱することで、膜にその測定対象の金属イオンを選択的に抽出させ、膜を発色させて、プレートリーダにおいて吸光度測定に使用する発色試料を簡単かつ迅速に形成させることができ、多検体の測定も可能であることを見出し、また、この発色試料を用いて吸光度を測定したところ、高い精度で測定することができることを見出した。上記課題は本発明の試料形成材料および吸光分析装置を提供することにより達成される。
【0009】
すなわち、本発明の試料形成材料は、金属イオンといった測定対象成分と反応して発色する発色剤と、測定対象成分と発色剤との反応により生成される反応生成物を抽出する抽出剤とを含み、吸光分析装置内で加熱されることにより、溶液中の測定対象成分と発色剤とが反応して反応生成物を生成し、抽出剤中に反応生成物を抽出して発色試料を形成させるものである。
【0010】
吸光分析装置は、少なくとも1つの収容溝を備える透明なプレートの収容溝に、発色試料を収容し、そのプレートを光源と受光部との間に配置して吸光度を測定するものであり、試料形成材料は、少なくとも1つの収容溝内に膜として形成される。
【0011】
上記膜は、PVC、酢酸セルロース、ニトロセルロースから選択されるポリマー、発色剤、抽出剤を、有機溶媒に加えて溶解し、収容溝に注入し、有機溶媒を揮発させることにより形成することができる。
【0012】
上記測定対象成分は、銅イオン、水銀イオン、鉄イオン、コバルトイオンで、上記発色剤は、銅イオンに対してバソクプロイン、水銀イオンに対してTAN、鉄イオンに対してバソフェナントロリン、コバルトイオンに対してPANとすることが好ましく、また、抽出剤は、o−NPOEとすることができる。
【0013】
本発明では、試料中の測定対象成分の濃度を測定する装置も提供する。この装置は、(A)光源と、(B)光源の下部に配置される受光部と、(C)光源と受光部との間に配置され、発色試料を収容する少なくとも1つの収容溝を備えるプレートと、(D)測定対象成分と反応して発色する発色剤と、測定対象成分と発色剤との反応により生成される反応生成物を抽出する抽出剤とを含み、測定対象成分を抽出して発色試料を形成させる試料形成材料からなり、プレートの収容溝内に形成される膜と、(E)収容溝内に注入された溶液および収容溝内に形成された膜を加熱する加熱手段と、(F)発色試料に照射する光の強度と受光部で受光した光の強度とから、発色試料を透過する光の透過率を計算し、吸光度を算出する計算手段とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の試料形成材料および吸光分析装置を提供することにより、測定対象成分を含む溶液を注入するのみで、測定対象成分を選択的に反応および抽出して濃縮することができるため、効率的で、簡単かつ迅速に吸光度測定を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の試料形成材料は、特に、上述したプレートリーダで簡単かつ迅速に吸光度を測定することを可能にする好適な材料である。すなわち、プレートリーダのプレートの収容溝内に膜として形成することにより、測定対象成分を含む溶液を注入するのみで、吸光度測定に良好な、測定対象成分が抽出され濃縮された発色試料を形成させ、それに連続して吸光度測定を行うことができ、これにより、事前の上記溶液と発色剤との充分な撹拌混合を必要とせず、また、選択的に抽出されるため、他の金属イオン等の妨害を受けることなく、簡単かつ迅速に吸光度測定を行うことができる。
【0016】
本発明の試料形成材料は、試料中の測定対象成分の濃度を簡単かつ迅速に測定することを可能にするため、測定対象成分と反応して発色する発色剤と、その測定対象成分と発色剤とが反応することにより生成される反応生成物を抽出する抽出剤とを含む。
【0017】
ここで、金属イオンとしては、いかなるイオンであってもよいが、銅イオン、水銀イオン、コバルトイオン、鉄イオンを挙げることができる。発色剤は、これらイオンと反応して発色するものであればいかなるものであってもよく、特に選択性が高い、銅イオンに対してはバソクプロイン(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)、水銀イオンに対してはTAN、鉄イオンに対してはバソフェナントロリン、コバルトイオンに対してはPANといったキレート剤が好ましい。また、抽出剤は、これら金属イオンと発色剤とが反応して生成される反応生成物を良好に抽出することができるものであればいかなるものであってもよく、例えば、o−NPOE等のエーテルやフタル酸エステル等のエステルとすることができる。
【0018】
試料形成材料を膜として形成する場合、膜の主成分であるポリマーは、PVC、酢酸セルロース、ニトロセルロースから選択されるポリマーとすることができる。なお、本発明では、フィルムや膜を形成することができるポリマーであれば、その他いかなるポリマーでも用いることができる。有機溶媒は、これらポリマーを溶解することができればいかなる溶媒であってもよいが、プレートの収容溝に注入し、揮発させて膜を形成する場合、揮発性が高い溶媒が好ましく、PVCに対してはTHF、酢酸セルロース、ニトロセルロースに対してはアセトンが好ましい。
【0019】
ポリマー、発色剤、抽出剤の配合割合は、測定対象成分、発色剤、抽出剤の種類にもよるが、銅イオンを測定する場合、例えば、バソクプロインを約1質量%、PVCを約34質量%、o−NPOEを約65質量%とすることができる。
【0020】
測定対象成分を含む溶液が加えられた場合、膜として形成された試料形成材料中の発色剤と測定対象成分とを反応させるため、膜は加熱される。これは、加熱により、膜に含まれる発色剤の分子を、膜内を移動可能にさせ、膜表面に移動した発色剤の分子と測定対象成分の分子とを反応させるためである。また、この加熱により、抽出剤の分子も移動可能にされ、測定対象成分と発色剤とが反応して生成された反応生成物を抽出剤中に抽出する。この抽出によって、抽出剤中に測定対象成分が濃縮され、効率的に発色試料が形成される。加熱する温度は、高いほうが好ましいが、還元剤を含む場合のその還元剤として使用される塩化ヒドロキシアンモニウムが分解し、アンモニアが膜に付着して反応を低下させたり、表面に気泡を生じて反応を低下させたり、異なる色に変色したり等するため、約30℃〜約60℃が好ましい。
【0021】
形成される試料は、pHによって発色が異なり、良好な発色が得られるようにpHを調整することが好ましい。また、金属イオン等の測定対象成分は、酸化によって発色剤との反応が低下し、他の金属イオンの妨害を受けやすくなる。このため、測定対象成分を含む溶液に、緩衝液、還元剤を添加することができる。これにより、pHを所定範囲に維持することができ、また、還元状態を維持することができる。
【0022】
ここに、測定対象成分を銅イオンとし、この銅イオンを含む溶液を、膜に添加した場合に起こる反応を以下に示す。銅イオンを含む溶液には、緩衝液、還元剤、対イオン溶液が添加され、pHが約7に保持され、溶液中では銅イオンは次式のように還元されている。
【0023】
【化1】

【0024】
還元された銅イオンを含む溶液を膜に添加すると、バソクプロイン(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)と銅イオンとが反応し、バソクプロインが配位子(リガンド)として銅(I)イオンに配位し、対イオンとともに選択的に錯体を形成する。次式に示すように、銅イオンに配位したバソクプロインは正電荷をもっており、これとイオンペアを形成するために負電荷をもつ対イオンが添加される。なお、この場合の対イオンとしては、ピクリン酸を挙げることができる。
【0025】
【化2】

【0026】
この錯体は、濃度に応じて薄黄色から赤色に発色し、抽出溶媒であるo−NPOEに選択的に抽出される。
【0027】
図1に、測定対象成分の濃度を測定するために用いられる吸光分析装置を例示する。図1に示す吸光分析装置は、光源10と、光源10の下部に配置される受光部11と、光源10と受光部11との間に配置され、発色試料を収容する少なくとも1つの収容溝を備えるプレート12と、測定対象成分と反応して発色する発色剤と、測定対象成分と発色剤との反応により生成される反応生成物を抽出する抽出剤とを含み、測定対象成分を抽出して発色試料を形成させる試料形成材料からなり、プレート12の収容溝内に形成される膜13と、溶液および膜13を加熱する加熱手段14と、発色試料に照射する光の強度と受光部11で受光した光の強度とから、発色試料を透過する光の透過率を計算し、透過率から測定対象成分の濃度に比例する吸光度を算出する計算手段15とを含んで構成されている。なお、光源10、受光部11、膜13が形成されたプレート12は、容器16内に配置されており、加熱手段14は、容器16内を加熱するように構成されている。
【0028】
光源10は、所定波長の光を照射することができるハロゲンランプ等の光源ランプとすることができる。受光部11は、試料を透過した光を検出し、例えば、電圧信号に変換して計算手段15に送ることができるものとすることができる。プレート12は、図2に示すような、プレートリーダで使用される多数のウェル20を備えるものとすることができる。このプレートは、光を透過させるため、ガラス等の透明な材料から作製される。図2に示すプレートは、断面が円形の溝とされた収容溝であるウェル20が96個形成されており、この96個のウェル20内に発色試料が注入される。
【0029】
図1に示す膜13は、上記ポリマー、発色剤、抽出剤を有機溶媒に溶解させた溶液を、図2に示すプレートの各ウェル20に注入することにより形成される。その溶液は、プレート12の各ウェル内にピペット等の注入器21により注入することで同心円状に広がり、これを放置し、有機溶媒を揮発させることで、図3に示すように、プレート12の各ウェル20内に所定厚さの膜13を形成することができる。膜13の厚さは、ウェル20に、測定対象成分を含む溶液を注入することができればいかなる厚さであってもよい。例えば、8連分注ピペッターやオート注入器等を使用して短時間に注入することができる。
【0030】
吸光度の測定では、測定対象成分を含む溶液を、図3に示す膜12が形成されたウェル20内に注入し、図1に示す加熱手段14により加熱して、測定対象成分と発色剤とを反応させ、抽出剤中に、測定対象成分と発色剤との反応により生成した反応生成物を抽出して発色試料を形成させる。この発色試料に光源10から所定波長の光を照射し、この発色試料を透過した光を受光部11で受光する。受光した光は、受光部11で電圧信号等に変換され、計算手段15に送られ、透過率が計算され、その透過率から吸光度が算出される。
【0031】
計算手段15としては、プロセッサおよびメモリ等の記憶手段を備えるコンピュータを挙げることができ、受け取った電圧信号等から透過率を計算し、透過率から吸光度を算出するプログラムを保持し、実行することができるものとされる。また、検量線データを保持し、算出した吸光度から濃度を算出することができるようにされていてもよい。透過率および吸光度を計算するために、計算式はこれまで知られたいかなる式であってもよく、この式をプログラムとして保持することができる。また、計算手段15は、表示手段を備え、プレート12の各ウェルの吸光度や濃度のデータを、プレートのイメージ図とともに表示させ、また、検量線を表示させるプログラムを保持していてもよい。
【0032】
図4に、本発明の試料形成材料からなる膜を使用した場合の、時間と吸光度との関係を示す。ポリマーとしてPVCを使用し、発色剤にバソクプロイン、抽出剤にo−NPOE、有機溶媒にTHFを使用して溶液を作製し、2〜3時間撹拌して溶解し、プレートの各ウェル内に溶液を注入し、放置してTHFを揮発させた。なお、プレートには、96検体測定可能な96個の断面が円形のウェルを有するガラスプレートを使用した。硝酸銅(II)三水和物溶液に純水を加えて銅イオン溶液を作製し、その銅イオン溶液に、緩衝液として酢酸アンモニウム、還元剤として硫酸ヒドロキシルアミン((NHOH)SO)、対イオン溶液としてピクリン酸溶液を加えて試料溶液を調製した。緩衝液、還元剤、対イオン溶液はそれぞれ、銅イオン溶液の約1/10の体積容量を添加した。銅イオン濃度は、0.75×10−5、1.57×10−5、3×10−5、4.72×10−5、7.5×10−5、10×10−5mol/dmに調整したものを用いた。膜が形成されたプレートの各ウェルに調製した溶液を注入し、50℃に加熱し、各時間における吸光度を測定した。
【0033】
図4に示すように、時間の経過とともに吸光度は上昇するものの、加熱を始めて90分経過以後は、いずれの濃度においてもほぼ一定の吸光度となることが見出された。したがって、色を確認しなくても、90分経過した後であれば吸光度を測定することができる。
【0034】
次に、上記6つの溶液を使用し、50℃に加熱し、25分経過したときの吸光度を測定した結果から作成した検量線を図5に示す。ちなみに、銅イオンの水質基準濃度は上記1.57×10−5mol/dmであり、排水基準濃度は上記4.72×10−5mol/dmである。図5に示すように、上記水質基準濃度および排水基準濃度における吸光度の測定が可能であることが見出された。
【0035】
実際の環境水(河川水)を用いて標準添加法で調製した銅イオンを含む溶液を、本発明の試料形成材料からなる膜に注入し、吸光度を測定し、図5に示す検量線から濃度を算出する。標準添加法は、未知試料に一定量の既知濃度の標準物質を添加して検量線の系列を作成し、この関係線から未知試料の濃度を定量する方法である。環境水には他の金属イオンも含まれており、吸光度測定において、他の金属イオンによる妨害等の影響を受けるか否かについて検討する。縦軸に環境水を用いて標準添加法で調製した溶液の吸光度を測定し、図5に示す検量線から算出された濃度を、横軸に上記硫酸銅三水和物に純水を加えて調製した銅イオン溶液の吸光度を測定し、図5に示す検量線から算出された濃度を示し、これら濃度の関係を図6に示す。この関係から求められる関係式は次式で表された。
【0036】
【数1】

【0037】
式1中のyは環境水を用いて測定された銅イオンの濃度(mol/dm)を、xは上記硫酸銅三水和物に純水を加えて調製した銅イオン溶液を用いて測定された銅イオンの濃度(mol/dm)を示す。式1の傾きで表される相関係数が1に近い値を示すことから、他の金属イオンの妨害を受けることなく、吸光度を測定することができることが見出された。
【0038】
また、上記環境水を用いて測定された銅イオンの濃度と、それと同じ環境水を用いて原子吸光光度法により測定した吸光度から図5に示す検量線を用いて算出した銅イオンの濃度との関係を図7に示す。原子吸光光度法は、溶液中における水分子や配位子との化学結合をすべて切断し、生成する中性原子蒸気による光の吸収を利用するものである。原子吸光光度計を用いて測定することができ、その構成は、目的の元素を陰極に用い、不活性ガスとともに封入されたホローカソードランプ等を使用する光源と、霧状にした試料、燃料ガスと助燃ガスを混合し、燃焼して原子化するバーナー等の原子化部と、光をスペクトルに分ける分光器と、透過する光を測定する測光部とを備える。
【0039】
図7の縦軸は本発明の装置により測定された濃度を、横軸は原子吸光光度計を用いて測定された濃度をそれぞれ示す。図7に示す関係から算出される式は、式1と同様の式で表すことができ、その傾き、すなわち相関係数が1.04と1に近い値であった。このことから、定量値は高い相関にあり、この結果、本発明の装置が、高い精度で測定できることが見出された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の試料形成材料および吸光分析装置は、有害物質の汚染状況を複雑な分析操作は必要とせず、スクリーニングして迅速に分析することができるため、環境水分析、食品分析、産業試料、研究用の分析において、広く応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の吸光分析装置を例示した図。
【図2】本発明の吸光分析装置に用いられるプレートを例示した図。
【図3】本発明の試料形成材料からなる膜をプレート上に形成したところを示した図。
【図4】吸光度と時間との関係を示した図。
【図5】検量線を示した図。
【図6】環境水を用いて測定した濃度と、硫酸銅三水和物に純水を加えて調製した銅イオン溶液を用いて測定した濃度との関係を示した図。
【図7】本発明の装置により測定した濃度と、原子吸光光度法により測定した濃度との関係を示した図。
【符号の説明】
【0042】
10…光源、11…受光部、12…プレート、13…膜、14…加熱手段、15…計算手段、16…容器、20…ウェル、21…注入器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中の測定対象成分の濃度を測定するために用いられる吸光分析装置に使用される発色試料を、前記溶液の注入により形成させる試料形成材料であって、
前記測定対象成分と反応して発色する発色剤と、前記測定対象成分と前記発色剤との反応により生成される反応生成物を抽出する抽出剤とを含み、
前記吸光分析装置内で加熱されることにより、前記溶液中の前記測定対象成分と前記発色剤とが反応して反応生成物を生成し、前記抽出剤中に前記反応生成物を抽出して前記発色試料を形成させる、試料形成材料。
【請求項2】
前記吸光分析装置は、少なくとも1つの収容溝を備える透明なプレートの該収容溝に前記発色試料を収容し、前記プレートを光源と受光部との間に配置して吸光度を測定するものであり、前記試料形成材料は、前記少なくとも1つの収容溝内に膜として形成される、請求項1に記載の試料形成材料。
【請求項3】
前記膜は、ポリ塩化ビニル(PVC)、酢酸セルロース、ニトロセルロースから選択されるポリマー、前記発色剤、前記抽出剤を、有機溶媒に加えて溶解し、前記収容溝に注入し、前記有機溶媒を揮発させることにより形成される、請求項2に記載の試料形成材料。
【請求項4】
前記測定対象成分は、銅イオン、水銀イオン、鉄イオン、コバルトイオンであり、前記発色剤は、前記銅イオンに対してバソクプロイン、前記水銀イオンに対して1−(2−チアゾリルアゾ)−2−ナフトール(TAN)、前記鉄イオンに対してバソフェナントロリン、前記コバルトイオンに対して1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール(PAN)であり、前記抽出剤は、o−ニトロフェニルオクチルエーテル(o−NPOE)である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の試料形成材料。
【請求項5】
溶液中の測定対象成分の濃度を測定するために用いられる吸光分析装置であって、
光源と、
前記光源の下部に配置される受光部と、
前記光源と前記受光部との間に配置され、発色試料を収容する少なくとも1つの収容溝を備える透明なプレートと、
前記測定対象成分と反応して発色する発色剤と、前記測定対象成分と前記発色剤との反応により生成される反応生成物を抽出する抽出剤とを含み、前記測定対象成分を抽出して前記発色試料を形成させる試料形成材料からなり、前記プレートの前記収容溝内に形成される膜と、
前記収容溝内に注入された溶液および前記収容溝内に形成された前記膜を加熱する加熱手段と、
前記発色試料に照射する光の強度と前記受光部で受光した光の強度とから、前記発色試料を透過する光の透過率を計算し、吸光度を算出する計算手段とを備え、
前記溶液および前記膜を、前記加熱手段により加熱して前記測定対象成分と前記発色剤とを反応させ、前記抽出剤中に、前記測定対象成分と前記発色剤との反応により生成した反応生成物を抽出して前記発色試料を形成させる、装置。
【請求項6】
前記膜は、PVC、酢酸セルロース、ニトロセルロースから選択されるポリマー、前記発色剤、前記抽出剤を、有機溶媒に加えて溶解し、前記収容溝に注入し、前記有機溶媒を揮発させることにより形成される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記測定対象成分は、銅イオン、水銀イオン、鉄イオン、コバルトイオンであり、前記発色剤は、前記銅イオンに対してバソクプロイン、前記水銀イオンに対して1−(2−チアゾリルアゾ)−2−ナフトール(TAN)、前記鉄イオンに対してバソフェナントロリン、前記コバルトイオンに対して1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール(PAN)であり、前記抽出剤は、o−ニトロフェニルオクチルエーテル(o−NPOE)である、請求項5または6に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−108064(P2007−108064A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300363(P2005−300363)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】