説明

試料採取用シート、試料採取用シートの製造方法及び危険物探知システム

【課題】
危険物探知技術において危険物探知用検査試料を検査対象体から効率良く採取可能な技術の提供。
【解決手段】
検査対象体から試料を採取する試料採取用シートを、シート平面内に複数の切込みが設けられた部分を有する構成とし、該部分を上記検査対象体の試料採取対象部に接触させた状態で相対移動させることにより、該試料採取対象部に付着している検査試料を該切込みの部分に転移させて保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆発物や禁制薬物などの危険物を探知する技術に係り、特に、検査対象体の表面から危険物探知用の検査試料を採取するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
先般の米国における同時多発テロを大きな契機として、空港など各種の重要施設におけるセキュリティ強化が図られている。手荷物等に付着した爆発物や禁制薬物などの危険物の痕跡に基づき危険物を探知する技術についても、例えば、手荷物等をシートでこすって(または拭いて)該シートに分析用試料を付着させ、その後該分析用試料を該シートとともに試料分析装置に投入して分析を行う技術が実施されている。
本発明に関連した技術であって特許文献に記載されたものとしては、特開2004−212073号公報(特許文献1)、米国特許第5,859,375号明細書(特許文献2)及び同米国特許第5,988,002号明細書(特許文献3)に記載されたものがある。特開2004−212073号公報には、操作性が優れた危険物探知装置として、危険物に由来する試料が付着する拭き取り部材を収納して試料を加熱し、気化した試料をイオン化して質量分析し、分析結果の出力信号から危険物の有無判定を行うとする構成が記載され、米国特許第5,859,375号明細書及び米国特許第5,988,002号明細書には、検査対象物の表面から危険物探知用の検査試料をこすって採取するための試料採取用シートとして、該試料採取用シートの平面形状を、中央部が周辺部よりも盛り上がった突出部を有するように変形させ、該突出部の先端部で該検査対象物の表面をこするとする構成が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−212073号公報
【特許文献2】米国特許第5,859,375号明細書
【特許文献3】米国特許第5,988,002号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シート材を用いて、危険物探知用の検査試料を検査対象体の表面から採取する危険物探知方式においては、探知性能を向上させるために、検査試料を効率良く検査対象体の表面から該シート材側に移動(転移)させ、該シート材上に付着させる必要がある。この点において上記従来技術はいずれも不十分であると考えられる。
本発明の課題点は、上記従来技術の状況に鑑み、危険物探知技術において、簡易な構成下で、検査試料をより効率良く検査対象体の表面から試料採取用シート材側に移動(転移)させることができるようにすることである。
本発明の目的は、上記課題点を解決し、危険物探知用の検査試料を検査対象体から効率良く採取し、正確な危険物探知を迅速に行える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題点を解決するために、本発明では、試料採取用シートとして、シート平面内に複数の切込みが設けられた部分を有し、該部分を上記検査対象体の試料採取対象部に接触させた状態で相対移動させることにより、該試料採取対象部に付着している検査試料を該切込みの部分に転移させて保持する構成とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、危険物探知技術において、試料採取用シートへの試料の付着量を、簡易な構成により増大させることができ、その結果、正確かつ迅速な危険物探知が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態につき図面を用いて説明する。
図1〜図5は本発明の実施形態の説明図である。図1は、本発明の危険物探知システムの説明図、図2は、試料分析部の構成例図、図3は、本発明の試料採取用シートの構成例図、図4は、本発明の試料採取用シートによる試料採取の説明図、図5は、本発明の試料採取用シートを製造する工具の構成例図である。
【0008】
図1において、101は、危険物探知の試料採取の作業を行う作業者(以下、スクリーナという)、102は試料採取用シート、103は、危険物を探知する検査対象体としての手荷物等(以下、検査対象体という)、104は、手荷物等の取っ手など検査対象体103中で人が手で触れる部分であって、危険物探知の試料採取の対象となる部分(以下、試料採取対象部という)、105は、採取した試料の分析、判別を行う試料分析部としての危険物探知ユニットである。本図1に示す危険物探知システムは、爆発物や禁制薬物などの危険物を扱った人物が手で触れた部分にはその痕跡が付着することを前提とし、危険物探知用の検査試料を検査対象体103の試料採取対象部104から採取して分析し危険物を探知するもので、試料採取用シート102と危険物探知ユニット105を備えて成る。試料採取用シート102は、そのシート平面内に複数の切込みが設けられた特徴的構成を有し、例えばスクリーナ101が該シート平面で検査対象体103の試料採取対象部104の表面をこする(拭くことも含むとする)と、該切込みの部分に該試料採取対象部104の表面に付着していた検査試料を移動させて保持し該検査試料の効率的な採取を可能にする。試料分析部105は、上記検査試料が付着した上記試料採取用シート102が投入されると、これを加熱し該検査試料をガス化させ、該ガスをイオン化させた後、これを質量分析して、該分析結果を表示または出力する。該表示または出力により、スクリーナ101または他の検査者は危険物の探知が可能となる。
以下の説明中で用いる上記図1の構成要素には、上記図1の場合と同じ符号を付して用いるとする。
【0009】
図2は、危険物探知ユニット105の構成例を示す図である。
図2において、201は、投入された試料採取用シート102を例えば200℃前後の温度で加熱し、試料採取用シート102に保持されて(付着して)いる検査試料をガス化させる試料導入部、202は、該ガス化した検査試料をイオン化させるイオン室、203は、イオン化された検査試料の質量分析を行う質量分析部、204は、危険物探知ユニット105全体を制御する制御部、205は、質量分析の結果を表示するディスプレイ、206は警報を行うスピーカである。検査試料が保持されて(付着して)いる試料採取用シート102が、例えばスクリーナ101により、危険物探知ユニット105に投入されると、試料導入部201で加熱されて検査試料がガス化され、該ガス化された検査試料がイオン室に送られイオン化される。イオン化された検査試料はさらに質量分析部203に送られ、該質量分析部203で質量数を測定されて質量分析される。該質量分析結果は制御部204により、対応する電気信号として出力され、ディスプレイ205に表示される。該制御部204はまた、該質量分析結果を、該制御部204内に予め登録されている質量パターン値などの基準値と比較することで判別し、該判別結果に基づく信号を形成して出力しディスプレイ205に該判別結果を表示させる。特に、該判別結果として、検査試料中の危険物(爆発物や禁制薬物など)の量が所定の基準値を超えて多いとされる場合には、該制御部204は、ディスプレイ205においてその表示を行わせるとともに、警報用信号を形成して出力し、該警報用信号によってスピーカ206を駆動し警報を行う。該警報によって、スクリーナ101は注意をディスプレイ205の表示に向けることになる。
【0010】
例えば、上記スピーカ206による警報が行われた場合、または、該警報が行われかつ上記ディスプレイ205によっても該判別結果が確認された場合には、検査試料中に危険物が基準値を超えて含まれているすなわち検査対象体103の試料採取対象部104には危険物の痕跡が認められるとして、危険物を扱ったものとする調査や捜査、または、該試料採取対象部104に触れた人物が該危険物の近くにいたものとする調査や捜査が開始される。これによって、該危険物の所在などを究明することができ、事故を未然に防ぐことができる。なお、質量分析による危険物の分析では、危険物が、例えばニトログリセリンやトリニトロトルエンなどの場合は、検査試料中に、該危険物が約20〜30×10―9g以上含まれていれば該危険物の検知が可能である。
【0011】
図3及び図4は試料採取用シート102の説明図で、図3は試料採取用シートの構成例図、図4は試料採取の説明図である。
図3(a)は、シート平面内にミシン目状の複数の切込みが設けられた試料採取用シート102の構成例、図3(b)は、シート平面内に円形状の複数の切込みが設けられた試料採取用シート102の構成例である。試料採取用シート102としては、耐熱性に優れ、柔らかで強度のある材質のものが望ましく、例えばアラミド繊維の布が適する。アラミド繊維は、数十ミクロンの太さの繊維で、柔軟で扱い易く、また、革製品などの表面をこすった場合にも該表面を傷付けない。図3は、試料採取用シート102の外形を円形状とした例であるが、試料採取用シート102の外形形状は円形状以外であってもよい。図3において、301はミシン目状の切込み、302は円形状の切込み(以下、切込み孔という)である。ミシン目状の切込み301の場合は、一例として、各切込みの長さが約3〜5×10−3m、各切込み相互間の間隔も約3〜5×10−3m、ミシン目数は数個以上であれば、検査試料の効率的な採取が可能である。また、ミシン目状の複数の切込み301の場合、該ミシン目状の切込みのラインの方向に対し交差する方向に、検査対象体103の試料採取対象部104をこする(拭く)と、検査試料の採取量を増大させることができる。ミシン目状の複数の切込みのラインの方向を、互いに交差する方向とすることで、検査対象体103の試料採取対象部104をこする(拭く)方向に対し、該試料採取用シート102の方向を限定する必要がなくなる。図3(a)では、ミシン目状の複数の切込みの2本のラインを略直交させているが、これ以外の交差状態となるようにしてもよい。切込みのラインの方向をこのように互いに交差させる場合には、該交差位置を試料採取用シート102の中央部に設けると使い勝手が良い。また、円形状の切込み孔302の場合は、一例として、各切込み孔302の直径が約3〜5×10−3m、切込み孔間の間隔が約3〜10×10−3m、孔数は数個以上であれば、検査試料の効率的な採取が可能である。切込み孔302は、試料採取用シート102の中央部に設けると使い勝手が良い。また、切込み孔の形状は円形状でなくともよいが、方向性の低い形状である方が望ましい。試料採取用シート102で検査対象体103の試料採取対象部104をこする(拭く)ときには、上記ミシン目状の複数の切込み301や切込み孔302が該試料採取対象部104に接するようにすることで、図4に示すように効率的な検査試料の採取が可能となる。試料採取用シート102の外形寸法は、円形の場合は直径が約50×10−3m以上、他の形状の場合も、これと同等以上の平面積が確保可能な外形寸法であれば実用上支障ない。
【0012】
図4は、試料採取用シート102内の拡大モデル図であり、(a)は、ミシン目状の複数の切込み301が設けられていない場合、(b)は、ミシン目状の複数の切込み301が設けられている場合であり、それぞれにおいて、401は検査試料の粒子、402は、試料採取用シート102を構成する繊維である。検査対象体103の試料採取対象部104の表面を、試料採取用シート102で、そのミシン目状の切込み301を該試料採取対象部104に接触させてこする(拭く)と、試料採取対象部104の表面の検査試料の粒子401が、(b)のように、該切込み301の部分にはさまった状態で、該試料採取対象部104側から該試料採取用シート102側に移動して保持される。一部の検査試料の粒子401は、該切込み301の部分以外の繊維402の表面部分に付着する。このように、上記切込み301を設けることにより、検査試料を検査対象体103の試料採取対象部104の表面から効率的に試料採取用シート102側に移動させて採取することが可能となる。アラミド繊維から成る直径約50×10−3mの試料採取用シート102で、ミシン目状の切込み301の各切込みの長さが約5×10−3m、各切込み相互間の間隔が約5×10−3mのサンプルを用いて検査試料の採取実験を行った結果、切込みを一切設けない場合に比べ、約30%〜数倍の採取量の増大が確認された。例えば、ニトログリセリンまたはトリニトロトルエンをそれぞれ数10〜数100×10−9gだけ、検査対象体103の試料採取対象部104に付着させ、これを上記ミシン目状の切込み301を有する試料採取用シート102でこすって採取したとき、ニトログリセリンの場合は、切込みのないシートの場合の約2.6倍のニトログリセリンが採取され、トリニトロトルエンの場合は、同じく切込みのないシートの場合の約1.3倍のトリニトロトルエンが採取され、本発明の顕著な効果が実証された。なお、これら採取量は、質量分析結果の信号強度から求めた。アラミド繊維から成る直径約50×10−3mの試料採取用シート102で、直径約3×10−3mの円形状の4個の切込み孔302を、相互間の間隔を約5×10−3mとして設けたサンプルを用いて検査試料の採取実験を行った場合も、上記ミシン目状の切込み301の場合とほぼ同じ結果が得られた。本図4では、切込みの形態として、ミシン目状の切込み301につき説明したが、円形状の切込み等、ミシン目状の切込み以外の場合も該ミシン目状の切込み301の場合と同様である。
【0013】
図5は、本発明の試料採取用シートを製造する工具の構成例図であって、例えば、図3(a)の試料採取用シート102を打ち抜き加工するための工具である。
図5において、500は打ち抜き加工用工具、501は、打ち抜きにより、試料採取用シート102のシート平面にミシン目状の切込み301を形成するための刃先、502は、打ち抜きにより、試料採取用シート102の外形部を切断するための刃先である。該工具500を用いて試料採取用シート102を製造する場合、例えばアラミド繊維から成るシート状素材を加工装置上の所定位置に位置決めし、該工具500を、該位置決めされたシート状素材の上方から所定速度で、該シート状素材側に移動させて該シート状素材の平面に打ち抜き加工を施す。該打ち抜き加工により該シート状素材は、そのシート平面に図3(a)のようなミシン目状の複数の切込み301が形成されるとともに、該シート平面の外形を円形状の所定の大きさに切断される。打ち抜き加工後は、該シート状素材を加工装置上の上記所定位置から取出す。
【0014】
上記本発明の実施形態によれば、危険物探知技術において、簡易な構成の試料採取用シートにより、危険物探知用の検査試料を検査対象体から効率良く採取することができ、その結果、正確かつ迅速な危険物探知が可能となり、危険な状況の発生を未然に防ぐことができる。
【0015】
なお、上記実施形態では、危険物探知ユニットとして、質量分析によって検査試料の分析を行う方式の場合につき説明したが、化学反応によって検査試料の分析を行う方式のものであってもよい。特に、禁制薬物が検査試料に含まれる場合は、化学反応によっても分析が可能である。また、上記実施形態では、試料採取用シートを検査対象体の試料採取対象部に接触させた状態で移動させて、該試料採取対象部に付着している検査試料を該試料採取用シート内の切込みの部分に転移させる場合につき説明したが、試料採取用シートは移動させず(動かさず)に、検査対象体の試料採取対象部を該試料採取用シートに対して移動させる(動かす)ようにしてもよいし、または、試料採取用シートと検査対象体の試料採取対象部の双方を移動させる(動かす)ようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態としての危険物探知システムの説明図である。
【図2】試料分析部の構成例図である。
【図3】本発明の試料採取用シートの構成例図である。
【図4】本発明の試料採取用シートによる試料採取の説明図である。
【図5】本発明の試料採取用シートを製造する工具の構成例図である。
【符号の説明】
【0017】
101…スクリーナ、
102…試料採取用シート、
103…検査対象体、
104…試料採取対象部、
105…危険物探知ユニット、
201…試料導入部、
202…イオン室、
203…質量分析部、
204…制御部、
205…ディスプレイ、
206…スピーカ、
301…ミシン目状の切込み、
302…円形状の切込み、
401…検査試料の粒子、
402…繊維、
500…打ち抜き加工用工具、
501、502…刃先。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象体の表面から危険物探知用の検査試料を採取するための試料採取用シートであって、
シート平面内に複数の切込みが設けられた部分を有し、該部分を上記検査対象体の試料採取対象部に接触させた状態で相対移動させることにより、該試料採取対象部に付着している検査試料を該切込みの部分に転移させて保持する構成としたことを特徴とする試料採取用シート。
【請求項2】
上記試料採取用シートはアラミド繊維で構成される請求項1に記載の試料採取用シート。
【請求項3】
検査対象体の表面から危険物探知用の検査試料を採取するための試料採取用シートの製造方法であって、
試料採取用シートのシート状素材を加工用の所定位置に位置決めするステップと、
打ち抜き加工により、上記位置決めされたシート状素材の平面に複数の切込みを設けるとともに、該平面を切断して所定の大きさの外形にするステップと、
上記シート状素材を上記所定位置から取出すステップと、
を経て、上記試料採取用シートを製造することを特徴とする試料採取用シートの製造方法。
【請求項4】
危険物探知用の検査試料を検査対象体の表面から採取して分析し危険物を探知する危険物探知システムであって、
シート平面内に複数の切込みが設けられた部分を有し、該部分を上記検査対象体の試料採取対象部に接触させた状態で相対移動させることにより、該試料採取対象部に付着している検査試料を該切込みの部分に転移させて保持し、危険物探知用の検査試料として該検査対象体から採取する試料採取用シートと、
上記採取した検査試料を分析する試料分析部と、
を備え、上記分析結果に基づき危険物を探知する構成としたことを特徴とする危険物探知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−322880(P2006−322880A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147923(P2005−147923)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】