説明

試料採取装置

【課題】検出する試料を迅速に効率よく試料分析装置に導入することができ、検出速度を向上させて大量の検査を短時間で行うこと。
【解決手段】試料分析を行う質量分析装置に導入させるための試料を切符9から採取する試料採取装置であって、内部を通過する切符9に付着した試料を気化させる気化容器本体と、一端が気化容器本体内に開口し、他端が質量分析装置側に流通可能に接続される試料引込み流路241とを備え、気化容器本体の内面には、試料引込み流路241の試料引き込み口245と切符9とを離間させる台形状凸部253aが試料引き込み口245面に沿って設けられている試料採取装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料採取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、空港内や公共施設内に危険物が持ち込まれることを防止する危険物検出装置として、検査対象から採取した試料を加熱・気化することにより危険物を検出する技術が知られている(特許文献1参照)。
特許文献1によれば、試料となる爆発物の粉末等が付着していると考えられる箇所、例えばパソコンのキーボードや鞄のハンドル等を検査片で拭き取ることにより試料を採取し、検査片等ごとに加熱・気化した試料を質量分析装置に導入して検出する技術が開示されている。
【0003】
ところで、切符等に付着している試料は、例えば収容部において大気圧条件下で採取され、採取された試料は、例えば約10−3Paの減圧状態に維持された質量分析装置により分析される。この場合に、大気圧条件下の収容部内部を減圧状態の質量分析装置内部と流通可能に接続するには、収容部内と質量分析装置内との圧力差を保ちながら接続する必要がある。そのため、収容部と質量分析装置は、圧力損失の大きいキャピラリ管等によって接続される。一般に、直線流路の配管では、圧力損失は長さに比例し、管径の4乗に逆比例する。
【0004】
例えば、図8に示すように、収容部303に大気圧条件下で収容されている切符9に付着している試料を、10−3Paの減圧状態の質量分析装置307内のイオン化チャンバ(図示略)に導入するために、内径が0.3mm程度で長さが10m以上あるキャピラリ管323を用いて収容部303内部と質量分析装置307内部とを流通可能に接続することにより、収容部303内と質量分析装置307内との圧力差が保たれる。
図8において、符号311はヒータを示し、符号327は排気ポンプを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−301749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、大気圧条件下にある試料を含む気流を一度で大量に質量分析装置307に導入すると、イオン化チャンバを10−3Paの減圧状態に保つことができないため、試料を含む気流を約1sccmの流量でイオン化チャンバに導入することとなる。そのため、従来の技術では、収容部303と質量分析装置7との圧力差を保つことはできるものの、試料を含む気流をキャピラリ管323の吸引口にかざしてから、質量分析装置307において検出信号を得るまでに約5分近く掛かってしまうという不都合がある。したがって、試料を質量分析装置307に導入するのに時間が掛かり、大量の検査を短時間で行うことができないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、検出する試料を迅速に効率よく試料分析装置に導入することができ、検出速度を向上させて大量の検査を短時間で行うことができる試料採取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明の参考例としての発明は、試料採取装置に収容された試料を、排気装置を備えた試料分析装置に導入するための試料導入装置であって、一端が前記試料採取装置に流通可能に接続される差動排気配管と、該差動排気配管の他端に接続され、該差動排気配管内を排気して減圧する差動排気装置と、前記差動排気配管と前記試料分析装置とを流通可能に接続する接続流路とを備え、該接続流路が接続された前記差動排気配管内の圧力が、50Pa以上70kPa以下とされ、前記接続流路のコンダクタンスが、1×10−10以上1×10−7/s以下とされる試料導入装置を提供する。
【0009】
本発明に係る試料導入装置は、試料採取装置において採取された試料を、試料分析装置として用いる例えば質量分析装置に導入させるものである。質量分析装置は、一般的に約10−3Paの減圧状態に維持されて試料分析が行われる。
本発明によれば、試料分析装置が約10−3Paの減圧状態とされ、差動排気装置の作動により、差動排気配管内の圧力が50Pa以上70kPa以下とされて試料採取装置内の圧力よりも減圧されると、試料採取装置に収容されている試料を含む気体が、試料分析装置、差動排気配管及び試料採取装置の圧力差によって差動排気配管内に吸引され、さらに接続流路を通って試料分析装置に導入される。
【0010】
この場合に、差動排気配管内と試料分析装置内との圧力差が小さいので、圧力損失の少ない接続流路を用いて差動排気配管内と試料分析装置内との圧力差を保つことができる。例えば、接続流路を、従来の流路断面積の大きさを維持したまま長さを短くすることができる。これにより、試料が接続流路内を通過するのに掛かる時間を短縮させて試料分析装置に迅速に導入させることができ、試料の検出時間の短縮を図ることが可能となる。
【0011】
ここで、差動排気配管内の圧力の下限は、試料分析装置の感度から決定される。すなわち、検出できる爆発信号の最小値に対応した圧力から決定される。例えば、差動排気配管内の圧力が7000Pa時には140個の爆発信号が得られるので、差動排気配管内の圧力に信号強度が比例するとすれば、1個の信号を得るには50Pa以上の圧力が必要となる。したがって、差動排気配管内の圧力は、少なくとも50Pa以上必要となる。一方、差動排気配管内の圧力の上限は、接続流路の圧力損失、具体的には、最小径及び長さから決定される。例えば、内径が0.1mmで長さが10cmの接続流路を採用した場合には、差動排気配管内の圧力は73kPaとなる。
【0012】
また、接続流路の長さを短くするとコンダクタンスが大きくなるが、接続流路のコンダクタンスが1×10−10/s未満では、接続流路を通過する気流の流量が減少し、試料分析装置への試料の導入効率が低下するので好ましくない。一方、接続流路のコンダクタンスが1×10−7/sを超えると、接続流路を通過する気流の流量が多くなり、接続流路の圧力損失を大きくしなければ差動排気配管内と試料分析装置内との圧力差を保つことができないので好ましくない。
【0013】
上記発明においては、前記接続流路の内径が、0.1mm以上3.0mm以下であることとしてもよい。
現在、容易に手に入る接続流路(キャピラリ管)の最小径は0.1mmである。また、接続流路の内径が0.1mm未満では、接続流路を通過する気流の流量が減少するので好ましくない。一方、接続流路の内径の上限は、差動排気配管内の圧力及び接続流路の長さから決定される。例えば、差動排気配管内の圧力を50Paとした場合、差動排気配管内と試料分析装置内との圧力差を保つためには、配管長さが10cmの接続流路では内径は3.0mmが上限となる。接続流路の内径が3.0mmを超えると、接続流路の圧力損失が小さくなるとともに接続流路を通過する気流の流量が多くなり、試料分析装置の検出下限にかかるので好ましくない。
【0014】
また、上記発明においては、前記接続流路の長さが50cm以下であることとしてもよい。
接続流路の長さの上限は、差動排気配管内の圧力及び接続流路の最小径から決定される。例えば、差動排気配管内の圧力を70kPaとした場合、試料を効率よく試料分析装置に導入させるためには、内径が0.1mmの接続流路では長さは50cmが上限となる。接続流路の長さが50cmを超えると、試料が接続流路を通過するのに時間が掛かるので好ましくない。
【0015】
本発明の参考例としての発明は、試料採取装置に収容された試料を、排気装置を備えた試料分析装置に導入するための試料導入装置であって、一端が前記試料採取装置に流通可能に接続される差動排気配管と、該差動排気配管の他端に接続され、該差動排気配管内を排気して減圧する差動排気装置と、前記差動排気配管と前記試料分析装置とを流通可能に接続する接続流路と、前記差動排気配管を加熱する配管用加熱部とを備え、該接続流路は、前記試料分析装置に挿入される挿入部を有し、該挿入部が前記試料分析装置内において前記接続流路よりも熱伝導率が高い高熱伝導率部材によって覆われ、該高熱伝導率部材の少なくとも一部が前記配管用加熱部に接触している試料導入装置を提供する。
【0016】
本発明によれば、差動排気装置の作動により、差動排気配管内が試料採取装置内の圧力よりも減圧されると、試料採取装置に収容されている試料を含む気流が差動排気配管内に吸引されて接続流路を通って試料分析装置に導入される。この場合に、試料分析装置内において接続流路の挿入部が高熱伝導率部材によって覆われているとともに、高熱伝導率部材の一部が配管用加熱部に接触しているので、高熱伝導率部材の熱伝導により配管用加熱部の熱を挿入部に伝えることができる。したがって、挿入部の温度の低下を防止し、挿入部内での試料の凝集及び吸着を防ぐことができる。これにより、気流が接続流路を流れ易くなり、迅速かつ高感度の測定を行うことができる。
高熱伝導率部材としては、例えば、金属、より具体的には銅部材が好ましく、その他にも、ステンレス、アルミニウム、銀、タングステン又はモリブデン等を採用することとしてもよい。
【0017】
上記発明においては、前記高熱伝導率部材を介して前記挿入部を加熱する接続流路加熱部が設けられていることとしてもよい。
このような構成によれば、挿入部をより確実に加熱することができる。
【0018】
本発明は、試料分析を行う試料分析装置に導入させるための試料を基材から採取する試料採取装置であって、内部を通過する基材に付着した試料を気化させる気化容器と、一端が該気化容器内に開口し、他端が前記試料分析装置側に流通可能に接続される試料引込み流路とを備え、前記気化容器の内面には、前記試料引込み流路の前記開口と前記基材とを離間させる凹部または凸部が開口面に沿って設けられている試料採取装置を提供する。
【0019】
本発明によれば、気化容器の内部を基材が通過する際に基材に付着している試料が気化され、気化した試料が開口から試料引込み流路に引込まれて試料分析装置側へと送られる。この場合に、気化容器の内面の開口面に沿って設けられた凹部または凸部により、試料引込み流路の開口が基材によって閉塞されるのを防止することができる。また、凹部または凸部により気化容器の内面に溝部分が形成されるので、試料を含む気流の流路を確保することができる。これにより、気化した試料が試料引込み流路に流れ易くなり、試料の採取効率を向上させることができる。
【0020】
上記発明においては、前記凹部または凸部が、前記基材の移動方向に沿って形成されていることとしてもよい。
このような構成によれば、気化容器内の気流を基材の移動とともに効果的に流すことができ、試料の採取効率を一段と向上させることができる。
【0021】
本発明の参考例としての発明は、上記試料導入装置と、上記試料採取装置と、該試料採取装置により採取されて前記試料導入装置により導入された試料を分析する試料分析装置とを備える試料分析システムを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、検出する試料を迅速に効率よく試料分析装置に導入することができ、検出速度を向上させて大量の検査を短時間で行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の参考実施形態に係る試料分析システムの概略構成図である。
【図2】本発明の第2の参考実施形態に係るキャピラリ管及び質量分析装置の接合部分の拡大図である。
【図3】本発明の第2の参考実施形態の変形例に係るキャピラリ管及び質量分析装置の接合部分の拡大図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る試料採取装置の概略構成図である。
【図5】(a)は図4の試料採取装置の気化室の断面図であり、(b)はその気化室の内壁面を示す図である。
【図6】(a)は図5(a)の気化室の変形例の断面図であり、(b)はその気化室の内壁面を示す図である。
【図7】(a)は図5(a)の気化室の別の変形例の断面図であり、(b)はその気化室の内壁面を示す図である。
【図8】採取した試料を質量分析装置へ導入させる従来の導入システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1の参考実施形態]
以下、本発明の参考例としての第1の参考実施形態に係る試料導入装置、試料分析装置及び試料分析システムについて、図面を参照して説明する。
図1に示すように、試料分析システム1は、試料採取装置3と、試料導入装置5と、質量分析装置(試料分析装置)7とを備え、試料採取装置3の作動により切符(基材)9に付着している危険物質等の試料を採取し、採取された試料を試料導入装置5により質量分析装置7に導入して、質量分析装置7によりその試料の構造及び組成等を分析するためのものである。
【0025】
試料採取装置3は、気化ヒータ11を備え、該気化ヒータ11が外部から取り入れる切符9を加熱可能に配置されている。また、試料採取装置3は、気化ヒータ11の作動により、切符9に付着している試料を大気圧条件下で加熱気化し、試料を切符9から分離させて採取するようになっている。
【0026】
試料導入装置5は、試料採取装置3に一端が接続された差動排気配管13と、この差動排気配管13の他端と接続された差動排気ポンプ(差動排気装置)19と、差動排気ポンプ19の排気流量を調整する調整弁21と、差動排気配管13と質量分析装置7とを接続するキャピラリ管(接続流路)23とを備えている。
【0027】
差動排気配管13は、上流側が試料採取装置3に流通可能に接続され、下流側が差動排気ポンプ19に流通可能に接続されている。また、差動排気配管13は、試料採取装置3側の流路(以下、単に「採取装置側流路」という。)15の流路断面積が、差動排気ポンプ19側の流路(以下、単に「ポンプ側流路」という。)17の流路断面積に比べて小さく形成され、ポンプ側流路17内部と大気圧条件下の試料採取装置3内部との圧力差が保たれるようになっている。そして、差動排気配管13は、ポンプ側流路17の圧力を50Pa以上70kPa以下の減圧状態に維持して用いられるようになっている。なお、ポンプ側流路17内部の圧力は、後述する式(3)に基づいて定められるものである。
【0028】
また、差動排気配管13には、試料採取側流路15及びポンプ側流路17の配管周りに配管用ヒータ25が設けられている。配管用ヒータ25は、差動排気配管13の内壁に熱が伝達するように配置され、差動排気配管13全体の内壁が加熱されるようになっている。また、配管用ヒータ25は、試料導入装置5の作動中において、例えば100℃以上200℃以下で加熱されるようになっている。配管用ヒータ25の加熱温度が100℃未満では、差動排気配管13内に気流とともに吸引された試料が内壁に付着滞留するおそれがあるので好ましくない。また、配管用ヒータ25の加熱温度が200℃を超えると、試料によっては分解してしまうおそれがあるので好ましくない。
【0029】
なお、配管用ヒータ25としては、例えば、公知のリボンヒータを採用することとしてもよい。リボンヒータは、やわらかいリボン状で取扱いやすいので、差動排気配管13の外周面に沿って簡単に巻き付けることができる。
【0030】
また、差動排気配管13は、石英から形成することとしてもよいし、あるいは、差動排気配管13の内壁を石英で覆うこととしてもよい。これにより、試料が差動排気配管13の内壁に付着滞留するのを効果的に防止することができる。
【0031】
差動排気ポンプ19は、図示しない吸気口と排気口とを備え、吸気口が差動排気配管13のポンプ側流路17の端部と流通可能に接続されている。また、差動排気ポンプ19は、差動排気配管13内の気体を吸気口から吸引して排気口から外部に排出することにより、差動排気配管13内を排気して減圧するようになっている。
【0032】
調整弁21は、差動排気ポンプ19の吸気口の近傍に配置されている。また、調整弁21は、図示しない弁機構を備え、弁が開閉されることにより差動排気ポンプ19の排気流量が制御されるようになっている。
キャピラリ管23は、例えば、内径が約0.3mm、外径が約0.04mmであって、長さが約10cmからなる石英製の細管である。また、キャピラリ管23は、差動排気配管13側がポンプ側流路17に接続され、質量分析装置7に接続される側が質量分析装置7内のイオン化チャンバ(図示略)に直結され、差動排気配管13のポンプ側流路17内部と質量分析装置7のイオン化チャンバ内部との圧力差を保ちつつ流通可能に接続するようになっている。
【0033】
また、本実施形態においては、キャピラリ管23のコンダクタンスが1×10−10以上1×10−7/s以下の範囲とされる。なお、キャピラリ管23のコンダクタンスは、後述する式(1)及び式(2)に基づいて定められるものである。
なお、キャピラリ管23と差動排気ポンプ19との間には、質量分析装置7内の圧力を測定する圧力計(図示略)が設けられている。
【0034】
質量分析装置7は、キャピラリ管23が接続されるイオン化チャンバと、イオン化チャンバから送られてきた試料のイオンを検出する検出部(図示略)と、質量分析装置7内を減圧状態に維持する分析装置用排気ポンプ(排気装置)27とを備えている。
イオン化チャンバは、キャピラリ管23を介して送られてきた気流に含まれる試料をイオン化して、イオンを生成させるようになっている。
【0035】
検出部は、イオン化チャンバにより生成されたイオンを質量の違いによって分離して検出し、試料の構造及び組成等を分析するようになっている。
分析装置用排気ポンプ27は、質量分析装置7内、特にイオン化チャンバ内を約10−3Paの高真空状態に維持するようになっている。これにより、イオン化チャンバにおいて生成されたイオンが、安定かつ分解せずに検出部に送られるようになっている。
なお、質量分析装置7の外周周りにはヒータ(図示せず)が設けられ、質量分析装置7の壁面及びイオン化チャンバが加熱されるようになっている。
【0036】
このように構成された本実施形態に係る試料導入装置5、質量分析装置7及び試料分析システム1の作用について説明する。
試料採取装置3に切符9が取り入れられると、気化ヒータ11の作動により、切符9の表面に付着している危険物質等の試料が大気圧条件下で加熱気化されて採取される。
質量分析装置7においては、分析装置用排気ポンプ27の作動により、イオン化チャンバ内が約10−3Paの高真空状態に維持される。なお、質量分析装置7内の圧力は、キャピラリ管23と差動排気ポンプ19との間に設けられた圧力計によって測定することができる。
【0037】
一方、差動排気配管13においては、差動排気ポンプ19の作動により差動排気配管13内が排気されて減圧状態とされ、試料採取装置3において採取された試料が気流とともに差動排気配管13内に吸引される。差動排気配管13内に吸引された試料を含む気流は、流路断面積の小さい試料採取側流路15を通って減圧され、下流側の流路断面積の大きいポンプ側流路17へと導かれる。この場合に、配管用ヒータ25が100℃以上200℃以下に熱せられて差動排気配管13全体の内部が加熱されることにより、試料が内壁に付着滞留することなく差動排気配管13内を通過する。そして、ポンプ側流路17において気流の一部がキャピラリ管23を通って、質量分析装置7に導入される。
【0038】
この場合に、差動排気配管13のポンプ側流路17内の圧力をP(Pa)、質量分析装置7のイオン化チャンバ内の圧力をP(Pa)、キャピラリ管23を流れる気流の流量をQ(Pa・m/s)、キャピラリ管23のコンダクタンスをC(m/s)、キャピラリ管23の内径をd(mm),管長をL(cm)とすると、以下の式(1)及び式(2)が成り立つ。
式(1) Q=C(P−P
式(2) C=1349(d/L)×((P+P)/2)
【0039】
ここで、質量分析装置7により試料を感度よく検出するためには、質量分析装置7のイオン化チャンバに試料を含む気流をできるだけ多く導入するのが好ましく、差動排気配管13のポンプ側流路17とイオン化チャンバとの圧力差を大きくする必要がある。そのため、イオン化チャンバが約10−3Paの減圧状態に維持されるのに対して、ポンプ側流路17内の圧力は高く設定することが好ましい。そうすると、質量分析装置7のイオン化チャンバ内の圧力Pは、差動排気配管13のポンプ側流路17内の圧力Pと比較するとP≒0とみなすことができ、式(1)及び式(2)により、
式(3) P=QL/(624.5d
と表すことができる。
【0040】
本実施形態に係る試料分析システム1においては、内径dが0.3mm,管長Lが10cmのキャピラリ管23を採用することとしたので、式(3)においてキャピラリ管23を流れる気流の流量Qを3.3×10−3(Pa・m/s)、すなわち、2sccmとすることにより、P=8076Paが算出される。
すなわち、キャピラリ管23を用いて差動排気配管13と質量分析装置7との圧力差を保つには、差動排気配管13のポンプ側流路17から約2sccmの流量で試料を含む気流を質量分析装置7のイオン化チャンバに導入させ、ポンプ側流路17内の圧力Pを約1368Paの減圧状態にすればよい。
なお、一般に直線流路の配管では、圧力損失は長さに比例し、内径(管径)の4乗に逆比例する。
【0041】
そこで、調整弁21の弁機構を調整して差動排気ポンプ19の排気流量を制御し、例えば、差動排気配管13内に約100sccmの流量で試料を含む気流を吸引し、差動排気配管13のポンプ側流路17内の圧力を50Pa以上70kPa以下の減圧状態に維持する。そして、差動排気ポンプ19の作動により、差動排気配管13のポンプ側流路17へと導かれた気流を約98sccmの流量で排気口から外部に排出するとともに、キャピラリ管23を介して約2sccmの流量で質量分析装置7に導入させる。
【0042】
このようにすることで、約10−3Paに維持される質量分析装置7のイオン化チャンバ内部と差動排気配管13のポンプ側流路17内部との圧力差が小さくなるので、例えば大気圧条件下の試料採取装置3内部と質量分析装置7内部との圧力差を保つ場合の流路に比べて、イオン化チャンバ内とポンプ側流路17内との圧力差を圧力損失の少ない流路を用いて保つことができる。
【0043】
すなわち、内径dが0.3mm,管長Lが10cmのキャピラリ管23を用いて、差動排気配管13と質量分析装置7との圧力差を保つことができる。これにより、キャピラリ管23を通過するのに掛かる時間を大幅に削減することができ、試料採取装置3において採取された試料を質量分析装置7へ短時間で導入することが可能となる。具体的には、試料採取装置3において採取した試料を差動排気配管13の試料採取側流路15内に吸引してから、約1秒後に質量分析装置7においてイオンの検出信号を得ることができる。
【0044】
また、式(1)及び(2)によれば、キャピラリ管23のコンダクタンスCを1×10−10以上1×10−7/s以下とすることが可能となる。ここで、キャピラリ管23の長さを短くするとコンダクタンスが大きくなるが、キャピラリ管23のコンダクタンスが1×10−7/s未満では、キャピラリ管23を通過する気流の流量が減少し、質量分析装置7への試料の導入効率が低下するので好ましくない。一方、キャピラリ管23のコンダクタンスが1×10−10/sを超えると、キャピラリ管23を通過する気流の流量が多くなり、キャピラリ管23の圧力損失を大きくしなければ差動排気配管13内と質量分析装置7内との圧力差を保つことができないので好ましくない。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係る試料導入装置5、質量分析装置7及び試料分析システム1によれば、試料を迅速に効率よく質量分析装置7に導入することができ、危険物質等の試料の検出速度を向上させて大量の検査を短時間で行うことが可能となる。
【0046】
[第2の参考実施形態]
次に、本発明の参考例としての第2の参考実施形態に係る試料導入装置5、質量分析装置7及び試料分析システム101について、キャピラリ管123及び質量分析装置7の接合部分を拡大して示す図2を参照して説明する。
本実施形態に係る試料分析システム101は、試料導入装置5のキャピラリ管123の長さが約10cmからなり、質量分析装置7内においてキャピラリ管23が熱伝導管(高熱伝導率部材)129によって覆われる点で、第1の実施形態と異なる。
以下、第1の参考実施形態に係る試料導入装置5、質量分析装置7及び試料分析システム1と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0047】
キャピラリ管123は、質量分析装置7のイオン化チャンバに挿入される部分(以下、「挿入部」という。)131が約10cm〜20cmの長さになるように形成されている。
熱伝導管129は、熱伝導率の高い銅等の導管やステンレス管であり、キャピラリ管123の挿入部131全体を覆う長さに形成されている。また、熱伝導管29は、一端が差動排気配管13の外周に設けられた配管用ヒータ25に接するように設けられ、キャピラリ管123の挿入部131に熱伝導管129の内壁の片側が接触するように配置されている。
【0048】
このように構成された試料分析システム101によれば、試料導入装置5が作動して配管用ヒータ25が加熱されると、熱伝導管129を介して配管用ヒータ25の熱がキャピラリ管123の挿入部131に伝えられる。したがって、熱伝導率の低い溶融石英製のキャピラリ管123であってもイオン化チャンバ内において先端部の温度が低下するのを防ぐことができる。これにより、挿入部131における試料の凝集や吸着を防止することができ、キャピラリ管123内を気流が流れ易くすることができる。その結果、質量分析装置7へ試料をスムーズに導入させることができ、試料の測定効率を向上させることができる。
【0049】
なお、本実施形態においては、熱伝導管129として、銅等の導管やステンレス管を例示して説明したが、キャピラリ管123よりも熱伝導率が高い金属であればよく、例えば、アルミニウム、銀、タングステン又はモリブデン等を採用することとしてもよい。
【0050】
また、本実施形態に係る試料導入装置5、質量分析装置7及び試料分析システム101は、以下のように変形することができる。
例えば、図3に示すように、キャピラリ管123の挿入部131を覆う熱伝導管129の外周にさらにシースヒータ等の挿入部用ヒータ(接続流路加熱部)133を取り付けることとし、挿入部用ヒータ133により、熱伝導管129を介してキャピラリ管123の挿入部131を直接加熱することとしてもよい。なお、挿入部用ヒータ133は、例えば、100℃以上200℃以下に加熱されることが望ましい。
このようにすることで、挿入部131をより確実に加熱することができる。
なお、本変形例においては、挿入部用ヒータ133の作動により、キャピラリ管123の挿入部131をさらに高温に加熱することにより、キャピラリ管123の壁面に付着した試料を気化して取り除くこととしてもよい。
【0051】
次に、本発明の一実施形態に係る試料導入装置5、質量分析装置7及び試料分析システム201について、図4〜図7(a)及び図7(b)を参照して説明する。
本実施形態に係る試料分析システム201は、試料採取装置203の構成が第1の実施形態及び第2の実施形態の試料採取装置3と異なる。
以下、第1の参考実施形態及び第2の参考実施形態に係る試料導入装置5、質量分析装置7及び試料分析システム1と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0052】
試料採取装置203は、四角筒状に形成された気化容器本体235と、該気化容器本体235の入口側端面に設けられた入口ローラ237及び出口側端面に設けられた出口ローラ239と、気化容器本体235内部と差動排気配管13とを流通可能に接続する試料引込み流路241とを備え、切符9に付着している試料を気化容器本体235内部において気化させて、気化した試料を試料引込み流路241の試料引込み口(開口)245から吸引させることにより、切符9に付着した試料を採取するものである。
【0053】
気化容器本体235は、一対の壁面(以下、「上壁247の壁面」と「下壁249の壁面」とする。)が切符9の厚さより若干広い微小間隔を空けて対向して配置され、他の壁面が上壁247及び下壁249の端部を連結するように切符9の幅より広い一定の間隔を空けて配置されている。すなわち、気化容器本体235は、切符9が通過できる程度に狭くした平面状に延びるスリット状の気化室251を有している。
【0054】
また、気化容器本体235は、図示しない気化ヒータを内蔵し、切符9が気化室251を通過する際に切符9に付着している試料を加熱気化するようになっている。なお、ヒータは、例えば、100℃以上200℃以下に加熱されることが望ましい。
また、気化容器本体235の内面、すなわち、気化室251の内壁には、図5(a)及び図5(b)に示すように、それぞれ約1mm〜5mmの凸部を有する台形状に形成された複数の台形状凸部253aが試料引込み口245面に沿って設けられている。なお、各台形状凸部253aは、気化室251内の気流を妨げないように、各台形状凸部253a間に形成される各凹部255が切符9の移動方向、すなわち、気化容器本体235の中心軸243方向に向かってほぼ直線状に位置するように配置されることが望ましい。
【0055】
入口ローラ237及び出口ローラ239は、それぞれ気化容器本体235の上壁247端面及び下壁249端面において、長手方向に延びるように取り付けられた一対のローラである。入口ローラ237は気化容器本体235の内方に向けて両ローラが回転し、一方、出口ローラ239は気化容器本体235の外方に向けて両ローラが回転するようになっている。これにより、入口ローラ237及び出口ローラ239は、切符9の両平面をそれぞれ一対のローラによって挟んで切符を送り出すようになっている。
試料引込み流路241は、上壁247側及び下壁249側から気化容器本体235の気化室251に開口するように、上壁247及び下壁249のそれぞれほぼ中央付近に接続されている。
【0056】
このように構成された本実施形態に係る試料導入装置5、質量分析装置7及び試料分析システム201の作用について説明する。
試料採取装置203を起動させると、気化容器本体235の気化ヒータが加熱されるとともに、入口ローラ237が及び出口ローラ239が一定の速度で回転する。そして、差動排気ポンプ19の作動により差動排気配管13が排気されると、試料引込み流路241を介して気化容器本体235内に生じた気流が差動排気配管13に引き込まれる。
【0057】
この状況で、切符9が入口ローラ237から取り入れられると、切符9が気化容器本体235の気化室251に送り込まれ、気化ヒータの熱により切符9に付着している試料が加熱気化される。そして、気化した試料を含む気流が試料引込み流路241に引き込まれて、差動排気配管13へと吸引される。この場合に、気化室251の内壁に設けられた複数の台形状凸部253aにより、切符9を試料引込み流路241の試料引込み口245から離間させることができる。したがって、試料引込み口245が切符9によって閉塞されるのを防ぎ、気流を差動排気配管13に絶えず吸引させることができる。
【0058】
また、各台形状凸部253a間の凹部255により試料を含む気流の流路を確保することができる。さらに、各凹部255を切符9の移動方向に向かってほぼ直線状に位置するように各台形状凸部253aを配置することで、気化容器本体235内の気流を切符9の移動とともに効果的に試料引込み流路241に流しこませることができる。
また、気化容器本体235の気化室251を極力狭くすることで、試料を含む気流の滞留時間を短くすることができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る試料導入装置5、質料分析装置7及び試料分析システム201によれば、試料採取装置203において、試料を含む気流の滞留時間を短くするとともに、試料引込み流路241の試料引込み口245の閉塞防止と気流の流路が確保されて、試料の採取効率を一段と向上させることができる。
【0060】
なお、本実施形態においては、気化容器本体235の気化室251の内壁に台形状凸部253aを設けることを例示して説明したが、これに代えて、図6(a)及び図6(b)に示すようなピラミッド状に形成されたピラミッド状凸部253bや、図7(a)及び図7(b)に示す試料引込み流路241の試料引込み口245から放射状に拡がるように形成された放射状凸部253cや、半球状に形成された半球状凸部(図示略)を設けることとしてもよい。なお、切符9を試料引込み流路241の試料引込み口245から離間させることができればよく、例えば、内壁にメッシュを設けて切符9を試料引込み口245から離間させることとしてもよい。さらに、気化室251の内壁に凸部を設けることに代えて、内壁に凹部を設けることとしてもよい。
【0061】
以上、本発明の一実施形態および参考実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではない。
例えば、第1の参考実施形態においては、キャピラリ管の官長を約10cmとして説明したが、差動排気配管13と質量分析装置7との圧力差を保つことができればよく、15cm以下、例えば、13cmや8cm程度としてもよい。
また、例えば、上記各実施形態においては、上流側の試料採取側流路15の流路断面積が下流側のポンプ側流路17の流路断面積に比べて小さい差動排気配管13を例示して説明したが、差動排気ポンプ19の作動により差動排気配管13内が排気されて所定の減圧状態にできればよく、全体として均等な流路断面積の差動排気配管を採用することとしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
3 試料採取装置
5 試料導入装置
7 質量分析装置(試料分析装置)
13 差動排気配管
19 差動排気ポンプ(差動排気装置)
23 キャピラリ管(接続流路)
27 分析装置用排気ポンプ(排気装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料分析を行う試料分析装置に導入させるための試料を基材から採取する試料採取装置であって、
内部を通過する基材に付着した試料を気化させる気化容器と、
一端が該気化容器内に開口し、他端が前記試料分析装置側に流通可能に接続される試料引込み流路とを備え、
前記気化容器の内面には、前記試料引込み流路の前記開口と前記基材とを離間させる凹部または凸部が開口面に沿って設けられている試料採取装置。
【請求項2】
前記凹部または凸部が、前記基材の移動方向に沿って形成されている請求項1に記載の試料採取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−237453(P2011−237453A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179849(P2011−179849)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【分割の表示】特願2007−289682(P2007−289682)の分割
【原出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 文部科学省科学技術総合研究委託業務、「重要課題解決型研究等の推進 テロ対策のための爆発物検出・処理統合システムの開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】