説明

試料攪拌装置、及び検体分析装置

【課題】簡便にかつキャリーオーバーなく磁性粒子を攪拌する機構を提供するとともに、検体分析装置(免疫分析装置)の小型化、静粛化を実現する。
【解決手段】本発明の攪拌機構では、へらを用いて試料容器に収容された試料を攪拌するのではなく、長手部材(第1のリンク11)の一端を基台に回転可能なように固定し、もう一方の端部に容器保持部16を設けている。そして、回転可能な固定端を支点として、リンク11の長さを半径とした円弧軌道上を、試料容器20を上下運動させて、容器内部の液体試料を攪拌する。また、容器保持部において、試料容器20と第1のリンク11との角度を変更することができるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料攪拌装置、及びそれを備えた検体分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫分析等を行う検体分析装置(免疫分析装置)では、検体中に含まれる抗原の検出方法として、サンドイッチアッセイが一般的に使用される。サンドイッチアッセイでは、抗原に特異的に結合する一次抗体と二次抗体がそれぞれ用いられる。
【0003】
サンドイッチアッセイでは、まず、一次抗体をあらかじめ磁性粒子に固定化しておく。一次抗体を固定化した磁性粒子を検体と混合し、検体中に含まれる抗原と一次抗体を結合させる。抗原と一次抗体が結合した状態の磁性粒子を磁石で保持しつつ、反応容器を洗浄する。
【0004】
次に上記反応容器に、ルシフェラーゼやアルカリフォスファターゼなどの酵素で標識した二次抗体を含む試薬を加え、磁性粒子と混合する。この結果、二次抗体は、磁性粒子上の一次抗体と結合した抗原と結合し、抗原は一次抗体と二次抗体とで挟まれた状態となる。抗原を抗体で挟んだ状態の磁性粒子を磁石で保持しつつ、反応容器を洗浄する。
【0005】
更に、上記反応容器に、上記酵素の基質を充分量加え、抗原が抗体に挟まれた状態の磁性粒子と混合する。この結果、基質は二次抗体に標識された酵素と反応して、発光が生じる。
【0006】
発光強度は基質が充分量あるため、酵素の量つまり二次抗体の量に依存して増減する。二次抗体の量は磁性粒子上に捕捉された抗原の量に依存するため、抗原の量を発光強度として定量できる。
【0007】
従来の免疫分析装置は、一般に、抗原抗体反応や検出を行う反応・検出部、検体や試薬の分注や洗浄を行う検体・試薬分注洗浄機構、検体を格納する検体格納部、試薬を格納する試薬格納部、容器を格納する容器格納部、容器を反応・検出部まで搬出する容器搬出機構、各部分を制御、データの取得・処理・記録を行う制御部などから構成されている。
【0008】
上記の免疫分析装置では、一次抗体を固定化した磁性粒子と検体を混合して、検体中に含まれる標的物質を磁性粒子上の一次抗体に結合させる。この反応を効率よく進行させるために磁性粒子を含む試薬は、磁性粒子が試薬中に懸濁されるよう常時攪拌されている。磁性粒子を含む試薬は分注される直前にのみ攪拌を停止して、必要量分注される。分注が終了すると磁性粒子を懸濁状態に保つために、再び攪拌される。攪拌する方式としては、試薬容器にプロペラ状あるいはスクリュー状のへらを入れて回転させることによって攪拌する方式や、ミキサー(例えばボルテックスミキサーなど)を用いて試薬容器自体を振動させて磁性粒子を懸濁させる方式などがある。
【0009】
免疫分析装置以外にも、容器中の液体試薬や液状の検体を攪拌する方法としては、例えば特許文献1乃至3に記載されたものが挙げられる。このうち特許文献1は鉛直方向の移動を伴わずに、水平方向の円弧の一部を往復する運動による攪拌方法に関わり、特許文献2は偏心接続したカムにより容器の下部を回転させるスリコギ運動(コニカルな回転)による攪拌方法に関する。また、特許文献3は容器を設置後、水平方向に寝かせて、水平方向に往復運動を行うことによる攪拌方法に関するものである。
【0010】
【特許文献1】実開平5−28030号公報
【特許文献2】特開平7−260794号公報
【特許文献3】特開2002−1137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述の攪拌方法には次のような問題がある。例えば、試薬容器にへらを入れて回転させる方式では、へらが磁性粒子を含む試薬に直接接触するため、異なる種類の磁性粒子を攪拌する際にキャリーオーバーによるコンタミネーションが発生するおそれがある。また、試薬容器自体をボルテックスミキサーなどで振動させる方式や特許文献1乃至3で示される方式では、攪拌のための振動が水平あるいは鉛直どちらかの往復運動であったりするため攪拌効率が低く、攪拌効率を上げるためにモーターなどの回転数を大きく設定する必要があり、その結果装置全体の振動や振動によって発生する騒音が大きくなるという問題がある。言い換えると、モーターの回転数を大きく設定しない限り、充分な攪拌効果が得られないという問題がある。
【0012】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、簡便にかつキャリーオーバーなく磁性粒子を攪拌する機構を提供するとともに、検体分析装置(免疫分析装置)の小型化、静粛化を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは磁性粒子を含有する試薬を攪拌する機構として、モーター、モーターに接続されており旋回する第2のリンク、回転可能な支点で支持されており、前記旋回する第2のリンクの力点の移動を追従しうる第1のリンクからなる攪拌機構を考案し、実装したシステムを発明した。
【0014】
本攪拌機構では、まずモーターを回転させ、モーターに接続された第2のリンクを旋回させる。第2のリンクには力点となるスライダが装着されており、モーターの回転によってスライダは旋回する。一方を支点で支持された第1のリンクには、第1のリンクの長手方向に前記スライダが移動可能なガイドを設け、支点で支持されていない側を作用点として試薬容器を設置しておく。モーターの回転によって、支点で支持された第1のリンクは揺動され、第1のリンクに設置された試薬ボトルを揺動させることで磁性粒子を含む試薬を攪拌させることが可能となる。第1のリンクの揺動範囲を可変とするため、第2のリンクに装着するスライダの位置を調節できるように、位置調節部を介して第2のリンクにスライダを装着する。
【0015】
第1のリンクの一方のみを支点として支持せずに、上下に移動可能なガイドに沿って第1のリンクを平行に上下運動させる場合は、モーターの回転によるスライダの運動は、上下運動として試薬容器に伝達される。この場合は、試薬容器内部の試薬は、試薬容器と一緒に動いてしまうことが多く、攪拌効率は低くなる。しかし、一方の支点だけを支持し、第1のリンクを旋回運動することで試薬容器の動きは上下方向だけで無く、支点を中心とした回転運動が加わることになる。つまり、上下方向と回転方向それぞれの方向に対して同時に運動する複雑なものとなる。この場合、試薬容器内部の試薬は慣性により試薬容器の壁面から離れ易くなり、再び壁面と接触することで攪拌効果が高くなる。また、第2のリンクに装着するスライダの位置を位置調節部によって変更することで、モーターの回転によるスライダの運動の大きさ(回転半径)を変えることが可能となる。これにより攪拌の激しさを調節できる。
【0016】
さらに、第1のリンクに対する容器保持部の角度調整部によって試薬容器の角度を変化させることにより、容器保持部が円弧状の運動をする際に試薬容器内部の試薬は、試薬容器の壁面から離れやすく、また衝突しやすくすること(あるいはその反対に離れにくく、衝突しにくい流れとすること)ができ、同じモーターの回転数でも激しい攪拌が可能となる。つまり、(1)上下方向と回転運動が合わさった円弧状の運動と、(2)円弧状の運動方向と試薬容器の壁面の角度の違いによる流れの発生によって、激しい攪拌を少ないモーターの回転数で生じさせることができ、システムの小型化や静粛化が可能となる。
【0017】
即ち、本発明による試料攪拌装置は、長手部材と、試料容器運動機構と、角度調整機構を備えている。長手部材は、その第1端部が回転可能なように基台に固定され、第2端部に液体試料が収容される試料容器を保持するための容器保持部を有している。また、試料容器運動機構は、容器保持部に保持された試料容器を、所定振幅で円弧軌道上を上下往復運動させる。さらに、角度調整機構は、長手部材に設けられ、容器保持部と長手部材とがなす角度を可変とするものである。そして、試料容器に収容されている液体試料は、長手部材と容器保持部との角度を所望の角度に設定して攪拌される。
【0018】
また、本発明による試料攪拌装置は、第1及び第2のリンクと、回転制御部と、基台とを備えている。第1のリンクは、その一方の端部近傍に支点を持ち、他端部に容器保持部を持ち、支点と容器保持部との間に支点と容器保持部とを結ぶ線と概略並行でかつ平行に配置されたガイド面からなるガイドを持っている。また、第2のリンクは、その一方の端部近傍に回転中心を持ち、第1のリンクのガイドに沿って移動可能なスライダを、他端部に回転可能に固定するスライダ回転固定部を備えている。回転制御部は、第2のリンクの回転中心を通り、スライダ回転固定部の回転中心軸と平行な回転中心軸を回転させる。そして、基台には、第1のリンクの前記支点を保持する軸受けと回転制御部とが固定される。
【0019】
なお、本発明は、以上の構成を有する試料攪拌装置と、試料容器に収容され、攪拌された試料を取り出し、検体に分注する分注機構と、を備える検体分析装置をも提供する。
【0020】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡便にかつキャリーオーバーなく磁性粒子を攪拌することができるとともに、検体分析装置(免疫分析装置)の小型化、静粛化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、例えば、免疫分析において、タンパク質や核酸などの有無について抗原抗体反応を利用し、発光量を計測することで検出を行う発光検出方免疫分析装置の試料(液体)攪拌に関するものである。
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0024】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態による攪拌機構を持つ免疫分析装置100の概略構成を示す図である。そして、図1(a)は攪拌機構110と分注機構120を持つ免疫分析装置100を上方向から見た図であり、図1(b)は同装置を正面から見た図である。
【0025】
攪拌機構110では、基台1にモーター固定部2を介して回転制御可能なモーター3が取り付けられている。モーター3には第2リンク5の一端がモーター軸と直角に取り付けられ、モーター3の回転により第2リンク5が旋回する機構となっている。第2リンク5の他端にはスライダ6が装着されている。スライダ6は位置調節部7によってモーター軸との距離を調節可能なようにかつ回転可能に第2リンク5に装着されている。また、スライダ6は、支点10によって支持された第1リンク11に設けられたガイド12に挿入されるように設置される。ガイド12はスライダ6の移動に伴って第1リンク11を移動させるガイド面を持っている。そして、ガイド面は第1リンク11の長手方向に概略平行に配置されている。第1リンク11は一方の端を支点10によって旋回可能なように、つまり支点10を中心とした円弧運動が可能なように支持されている。第1リンク11のもう一方の端は、角度調整機構15を介して容器保持部16を保持している。角度調整機構15により第1リンク11と容器保持部16の角度が調整できる構成となっている。
【0026】
容器保持部16に試薬容器20を設置し、攪拌機構110を動作させる。なお、攪拌機構110及び分注機構120の動作は、図示しない制御部(CPUやMPUなど)によって、図示しないメモリに格納されたプログラムで示されるアルゴリズム(例えば、図2参照)に従い、実行される。
【0027】
モーター3の回転により第2リンク5およびスライダ6が旋回する。スライダ6は第1リンク11に設けられたガイド12に挿入されているため、ガイド12はスライダ6の移動に追従する運動を行う。ガイド12を擁する第1リンク11はその一端が支点10で支持されているため、第1リンク11の可動は支点10を中心とする円弧運動となる。従って、ガイド12がスライダ6の移動に追従する運動をすると、第1リンク11はスライダ6の旋回範囲をカバーする範囲で、支点10を中心とする扇形を掃く運動を行う。運動の範囲はスライダ6の旋回範囲と、支点10からの第1リンク11の長さによって決定される。また、第1リンク11のもう一方の端には容器保持部16があるため、容器保持部16に設置した試薬容器20は支点10を中心とする円弧運動を行う。この試薬容器20の運動は鉛直方向の移動と、回転方向の移動が組み合わされた運動であり、この組み合わせにより攪拌を激しいものとすることができる。容器20が垂直に近い状態(試薬の接触面積が小)だと、液体の慣性により、攪拌動作を実行してもその程度の割には液体に動きを持たせることが困難だからである。
【0028】
また、第1リンク11と容器保持部16は、角度調整機構15を介して接続されている。角度調整機構15により第1リンク11と容器保持部の角度を変更することで、試薬容器20の内壁に接触する試薬21(液体)の接触面積を制御できる。そして、試薬21の容器内壁に対する接触面積を変えることにより、容器20内における試薬21に動きを与えることができ、よって攪拌の激しさを変えることができる。
【0029】
攪拌を停止した際に、試薬分注ユニット25のノズル部分を試薬容器20の内部に移動して挿入し、必要量の試薬を吸引し、再び移動して検体分析に使用する容器へ分注する。試薬分注ユニット25は攪拌の際には、攪拌の障害とならない位置で待機し、試薬分注時のみに試薬容器20へアクセスする。試薬容器20には試薬分注ユニット25のノズルが挿入できるようにセプタムなどでフタをしておく。
【0030】
試薬分注ユニット25は、試薬容器20に入れてある一次抗体を固定化した磁性粒子を含む試薬21を検体に分注するためのものである。試薬分注ユニットに液状の試薬を必要量吸引し、試薬を吸引した状態で検体分析に使用する容器の位置まで移動し、容器へ吸引した試薬を吐出し機能を有するが、これは従来の免疫分析装置と同等の機能である。攪拌機構110が攪拌を停止するまでは、試薬分注ユニット25は攪拌機構110が動作する際に障害とならない待機位置まで移動し、待機している。攪拌を停止した際に、図示しないXYステージなどの動作によって試薬分注ユニット25を試薬容器20の上部へ移動し、さらにZステージなどの動作によって試薬分注ユニット25のノズル部分を試薬容器20の内部に移動して挿入する。試薬分注ユニット25に必要量の試薬を吸引し、吸引したままの状態でXYZステージなどの動作によって検体分析に使用する容器へ移動する。容器内部へ試薬を吐出し、再び待機位置まで移動する。全ての検体分析に使用する容器へ試薬を吐出した後に、攪拌動作を再開する。これらの動作は上述の制御部(CPUやMPUなど)によって実施される。
【0031】
図2は、免疫分析装置100の動作を説明するためのフローチャートである。図2の説明において特に断らない限り、各ステップの動作の主体は、上述の制御部である。
【0032】
ステップS201で免疫分析装置の電源が投入された後、ステップS202で磁性粒子を含む試薬が入れられた容器20が容器保持部16に使用者によって設置されたことが図示しないセンサによって検知され、攪拌動作の準備が整えられる。また、ステップS203では、試薬分注ユニット25が待機位置にあるかを図示しないセンサの検知結果に基づいて制御部が判断する。待機位置に無い場合には、ステップS204で攪拌機構110が動作する際に障害とならない位置に分注機構120を移動させる。攪拌機構110が動作するために障害がない場合は、ステップS205で磁性粒子を含む試薬21の攪拌を開始する。
【0033】
ステップS206では、分析待ち検体があるかが判断され、検体がない場合には処理はステップS211へ進む。分析待ち検体がある場合には、ステップS207で攪拌を停止し、試薬分注ユニット25が待機位置から分注位置に移動して、試薬容器20の中の試薬21を必要量吸引し、ステップS208で検体分析に使用する容器へ分注する。そして、処理はステップS209に移行する。
【0034】
ステップS209では、試薬分注が完了していない検体があるかどうかを判断し、未完了の検体がある場合には処理はステップS208に戻り、試薬分注ユニット25が検体へ試薬分注を行う。未完了の検体がない場合には、処理はステップS210へ進み、試薬分注ユニット25を待機位置へ移動させる。続いてステップS211で試薬21を攪拌する。
【0035】
さらに、ステップS212で、分析待ち検体がないか、あるいは検体の再投入がないか(つまり分析待ち検体が新たに発生したか)が判断される。分析待ち検体がある場合には、処理はステップS207に戻り、攪拌を停止し、試薬分注ユニット25で試薬の分注を行う。分析待ち検体がない場合には、処理はステップS213に移行し、装置の電源を遮断して分析を終了する。
【0036】
図3は、攪拌動作において第1リンク11の運動する範囲を示す図である。図3のうち、点線で示した部分は第1リンク11が下至点(スライダ6が最低位にある点)に達した瞬間を示しており、実線で示した部分は第1リンク11が上至点(スライダ6が最高位にある点)に達した瞬間、あるいは共通の部分を示している。図3において、モーター3によって第2リンク5と第2リンク5に装着されたスライダ6が旋回する。図3に実線で示すように第1リンク11と第2リンク5が直角になる瞬間に第1リンク11が上至点に達する。一方、図3に点線で示すように第1リンク11と第2リンク5が直角になる瞬間に第1リンク11が下至点に達する。なお、第1リンク11の上至点と下至点の高さの差は可変で、具体的には第2リンク5に対するスライダ6の位置を変更すると、スライダ6が旋回する円の直径が変わり、容器保持部16の円弧運動の大きさを変えることができる。つまり、第2リンク5に対するスライダ6の位置を変えると、簡便に試薬容器20の振幅(攪拌の激しさ)を変えることができる。
【0037】
図4は、スライダ6の位置を変更した場合の第1リンク11の運動する範囲を示す図である。図4でも、図3と同様に、点線で示した部分は第1リンク11が下至点に達した瞬間を示しており、実線で示した部分は第1リンク11が上至点に達した瞬間、あるいは共通の部分を示している。図3の場合と比較して、位置調節部7により、スライダ6の旋回半径が小さくなるようにスライダ6の位置が設定されている。第2リンク5の長さを変更することは容易ではないが、位置調節部7を設けることにより、第2リンク5上のスライダ6の位置を容易に変更でき、第1リンク11の運動範囲、つまり攪拌の激しさの設定変更が可能になっている。
【0038】
図5は、モーター3の回転を時計回りと反時計回りにした場合の攪拌の違いを示す図である。図5(a)はモーター3の回転を紙面に向って時計回りに設定した場合を示しており、図5(b)は反時計回りに設定した場合を示している。図5(a)において、スライダ6の位置が図5(a)中に点線で示す円周上を、実線矢印で示す経路を通ってAからBへと移動した場合には、容器保持部16および試薬容器20は下降する。さらに、BからAへと移動した場合には、容器保持部16および試薬容器20は上昇する。逆に図5(b)において、スライダ6の位置が図5(b)中に点線で示す円周上を、実線矢印で示す経路を通ってAからBへと移動した場合に容器保持部16および試薬容器20は下降する。さらにBからAへと移動した場合に容器保持部16および試薬容器20は上昇する。図5から明らかなように、時計回りと反時計回りの場合とでは、スライダ6が上至点から下至点へ移動するための距離が違うため、モーター3の回転数が同じであっても、上至点から下至点に移動する時間が異なることがわかる。モーター3が時計回りの場合には容器保持部16および試薬容器20は早く下降し、ゆっくり上昇する円弧運動によって攪拌されることになる。逆にモーター3が反時計回りの場合には容器保持部16および試薬容器20は早く上昇し、ゆっくり下降する円弧運動によって攪拌されることになる。このように本攪拌機構110によれば、モーター3の回転方向を切り替えることで攪拌様式を変化させることが可能となり、下降する時に試薬容器20内の液体が慣性により試薬容器20内の底部から離れる動きを生じさせ、より効果的な攪拌を可能にしている。
【0039】
図6は、第1リンク11と角度調整機構15と容器保持部16の関係を示す図である。図6(a)は第1リンク11に対して容器保持部16が上方向にずれるように、図6(b)は第1リンク11と容器保持部16が一直線上になるように、図6(c)は第1リンク11に対して容器保持部16が下方向にずれるように、角度調節機構15を利用して角度を変更した状態をそれぞれ示している。角度の変更により、攪拌時に試薬容器20の内壁に接触する試薬21(液体)の接触面積を変えることができる。つまり、試薬21の容器内壁に対する接触面積を変えることにより、容器20内における試薬21に動きを与えることができ、よって攪拌の激しさを変えることができる。図示しないが容器保持部に複数の試薬容器が設置可能になっており、同時に複数の試薬を攪拌できる。その際にも角度調節機構を全ての試薬容器に対して、あるいは特定の試薬容器に対して調節することで攪拌の激しさを変えることもできる。
【0040】
<第2の実施形態>
図7は、本発明の第2の実施形態による攪拌機構130の概略構成を示す図である。攪拌機構130は、第1リンク11と第2リンク5を第3リンク8で接続した形態である。第3リンク8が、先の実施形態のスライダ6に相当する。第3リンク8を用いた場合、第1リンク11と第3リンク8は支点31で、第2リンク5と第3リンク8は支点32でそれぞれ接続される。第1の実施形態と同様に位置調節部7によって第2リンク5の旋回範囲を可変でき、攪拌の激しさを変えることができる。
その他の構成は、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0041】
<実施例>
図8は、本発明による免疫分析装置を用いて、磁性粒子を含む試薬を攪拌し、攪拌の効果を調べた結果を示すグラフである。図8に示すグラフは横軸に攪拌時間、縦軸に波長600nmの吸光度(実際には散乱による光の減衰)、すなわち濁度をプロットしたものである。グラフ中、四角のプロットは本発明を用いて攪拌した磁性粒子を蒸留水で20倍希釈して濁度測定して得られたデータである。一方、グラフ中の丸のプロットは、従来の攪拌装置を用いて攪拌した磁性粒子を蒸留水で20倍希釈して濁度測定して得られたデータである。ここで、従来の攪拌装置は、縦方向の運動はなく、横方向(水平方向)に回転運動を行って攪拌する機構を持つものである。
【0042】
まず、磁性粒子を含む試薬6mLを試薬容器に入れ、本発明の攪拌機構あるいは従来の攪拌装置にセットする前に、ボルテックスミキサーで充分に攪拌し、濁度測定を行った。その結果を攪拌時間0分としてプロットした。丸のプロットと四角のプロットが重なっているため、丸のプロットのみが示されているが実際は両方の攪拌機構にセットする前の濁度は同一の値を示した。
【0043】
充分に攪拌された試薬を攪拌機構にセットし、どちらのモーターの回転数も120rpmに調節して攪拌を行った。攪拌開始から60分、120分、180分後にそれぞれの試薬の濁度測定を行った。その結果、60分から180分まで、本発明による攪拌機構を利用した場合には濁度がおよそA600=0.4(600nmの光がどの程度透過するかを示す指標であり、値が小さい程濁っていることを示す)であり、磁性粒子を含む試薬の懸濁状態が保たれたままであった(懸濁状態が保たれれば、均一な濃度の試薬を分注して検体に加えることができる)。
【0044】
一方、従来の攪拌装置を利用した場合には、180分経過後までに濁度がおよそA600=0.2にまで徐々に減少しており、磁性粒子はだんだんと沈殿していた。この結果から、本発明による免疫分析装置用試薬分注機構では、同じモーターの回転数で磁性粒子を含む試薬を高い攪拌効率で攪拌できることが明らかとなった。
【0045】
<まとめ>
本実施形態による攪拌機構では、へらを用いて試料容器に収容された試料を攪拌するのではなく、長手部材(第1のリンク11)の一端を基台に回転可能なように固定し、もう一方の端部に容器保持部16を設けている。そして、回転可能な固定端を支点として、リンク11の長さを半径とした円弧軌道上を、試料容器20を上下運動させて、容器内部の液体試料を攪拌する。このように、円弧軌道上を上下運動させているので、試料容器を上下方向と左右方向(回転方向)にそれぞれ同時に動かすことができ、へらを用いなくても効率良く試料を攪拌することができる。あた、試薬容器にへらを入れることなく、つまり試薬にへらが直接接触することなく攪拌が可能となるため、キャリーオーバーによるコンタミネーションを発生させることのない攪拌を実現できる。
【0046】
また、本攪拌機構では、容器保持部において、試料容器20と第1のリンク11との角度を変更することができるようになっている。これにより、容器内の試料が容器内壁に接する面積を大きくすることができ、よって液体の慣性による影響を少なくすることができる。つまり、試薬を容器壁面から離れやすく、またそれに衝突しやすくできるので、攪拌をより激しくすることができる。つまり、上下方向と回転運動が合わさった円弧状の運動と、円弧状の運動方向と試薬容器の壁面の角度の違いによる流れの発生によって、激しい攪拌を少ないモーターの回転数で生じさせることができ、システムの小型化や静粛化が可能となる。
【0047】
試料容器を上下運動させる機構は、より具体的には、モーターと、第1のリンクとモーターとを接続する第2のリンク5によって実現される。まずモーターを回転させ、モーターに接続された第2のリンクを旋回させる。第2のリンクには力点となるスライダが装着されており、モーターの回転によってスライダは旋回する。一方を支点で支持された第1のリンクには、第1のリンクの長手方向に前記スライダが移動可能なガイドを設け、支点で支持されていない側を作用点として試薬容器を設置しておく。モーターの回転によって、支点で支持された第1のリンクは揺動され、第1のリンクに設置された試薬ボトルを揺動させることで磁性粒子を含む試薬を攪拌させることが可能となる。第1のリンクの揺動範囲を可変とするため、第2のリンクに装着するスライダの位置を調節できるように、位置調節部を介して第2のリンクにスライダを装着する。このようにして、試料容器を、円弧軌道上で上下運動させることができる。なお、第2のリンクに装着するスライダの位置を位置調節部によって変更することで、モーターの回転によるスライダの運動の大きさ(回転半径)を変えることが可能となる。これにより攪拌の激しさを調節できる。
【0048】
さらに、本実施形態では、複数の試薬容器を攪拌させる際にも容器保持部に複数の試薬容器をセットさせることが可能であり、円弧状の運動と容器保持部の角度調整機能により激しい攪拌を少ないモーターの回転数で実現できる。その結果、従来の免疫分析装置の試薬攪拌機構の攪拌効率を挙げ、かつ装置の小型化や静粛化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態による免疫分析装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の攪拌機構の動作手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の攪拌機構によって第1のリンクが運動する最大幅の瞬間を説明する図である。
【図4】位置調節部によりスライダの位置を変えることで攪拌運動の大きさが変わることを説明する図である。
【図5】モーターの回転方向により円弧の往復運動のスピードが変わることを説明する図である。
【図6】角度調整機構により第1のリンクに対して容器保持部の角度を変える機構を説明する図である。
【図7】本発明の第2の実施形態による攪拌機構の概略構成で、第3のリンクを用いる構成を示す図である。
【図8】本発明による免疫分析装置用で用いる攪拌機構と、従来の攪拌機構による試薬の攪拌効果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1…基台
2…モーター固定部
3…モーター
5…第2リンク
6…スライダ
7…位置調節部
10…支点
11…第1リンク
12…ガイド
15…角度調整機構
16…容器保持部
20…試薬容器
21…試薬
25…試薬分注ユニット
31…支点
32…支点
100…免疫分析装置
110…攪拌機構
120…分注機構
130…攪拌機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端部が回転可能なように基台に固定され、第2端部に液体試料が収容される試料容器を保持するための容器保持部を有する、長手部材と、
前記容器保持部に保持された前記試料容器を、所定振幅で上下往復運動させるための試料容器運動機構と、を備え、
前記長手部材には、前記容器保持部と前記長手部材とがなす角度を可変とする角度調整機構が設けられ、
前記試料容器に収容されている前記液体試料を、前記角度を所望の角度に設定して攪拌することを特徴とする試料攪拌装置。
【請求項2】
前記試料容器運動機構は、モーターと、このモーターと前記長手部材とを接続するコネクタ部材と、を備え、
前記モーターが前記コネクタ部材を回転させると、前記長手部材が前記第1端部で軸回転することにより、前記容器保持部に保持された前記試料容器が前記所定振幅で上下運動することを特徴とする請求項1に記載の試料攪拌装置。
【請求項3】
前記長手部材は長手方向にガイド部を有し、
前記コネクタ部材は、前記ガイド部を往復運動するスライダ部を有し、
前記モーターが前記コネクタ部材を回転させると、前記スライド部が前記ガイド部で往復運動することを特徴とする請求項2に記載の試料攪拌装置。
【請求項4】
さらに、前記コネクタ部材における前記スライダ部の位置を変更可能な位置変更機構を備えることを特徴とする請求項3に記載の試料攪拌装置。
【請求項5】
前記コネクタ部材は、一端が前記モーターに接続される第1リンク部材と、この第1リンク部材の他端部と前記長手部材の固定位置とを連節する第2リンク部材と、を備え、
前記モーターが前記第1リンク部材を回転させると、前記長手部材が前記第1端部で軸回転することにより、前記容器保持部に保持された前記試料容器が前記所定振幅で上下運動することを特徴とする請求項2に記載の試料攪拌装置。
【請求項6】
さらに、前記第1リンク部材における前記第2リンク部材との連節位置を変更可能な位置変更機構を備えることを特徴とする請求項5に記載の試料攪拌装置。
【請求項7】
前記容器保持部は複数の試料容器を保持する複数の保持部を有し、
前記角度調整機構は、前記複数の保持部のそれぞれに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の試料攪拌装置。
【請求項8】
一方の端部近傍に支点を持ち、他端部に容器保持部を持ち、前記支点と前記容器保持部との間に配置されたガイド面で構成されるガイドを持つ第1のリンクと、
一方の端部近傍に回転中心を持ち、前記第1のリンクの前記ガイドに沿って移動可能なスライダを他端部に回転可能に固定するスライダ回転固定部を持つ第2のリンクと、
前記第2のリンクの前記回転中心を通り、前記スライダ回転固定部の回転中心軸と平行な回転中心軸を回転させる回転制御部と、
前記第1のリンクの前記支点を保持する軸受けと前記回転制御部を固定する基台と、
を備えることを特徴とする試料攪拌装置。
【請求項9】
前記容器保持部は、前記第1のリンクに対する角度を変化させる角度調整部を有することを特徴とする請求項8に記載の試料攪拌装置。
【請求項10】
前記スライダは、前記第2のリンクに対する位置を変化させる調整部を有することを特徴とする請求項8に記載の試料攪拌装置。
【請求項11】
前記容器保持部は、前記支点を中心とする円弧上で移動することを特徴とする請求項8に記載の試料攪拌装置。
【請求項12】
前記容器保持部は、複数の試料容器を保持する複数の保持部を有し、
前記角度調整部は、前記複数の保持部のそれぞれに設けられていることを特徴とする請求項9に記載の試料攪拌装置。
【請求項13】
第1端部が回転可能なように基台に固定され、第2端部に液体試料が収容される試料容器を保持するための容器保持部を有する、長手部材と、
前記容器保持部に保持された前記試料容器を、所定振幅で円弧軌道上を上下往復運動させるための試料容器運動機構と、を備え、
前記試料容器を上下方向及び回転方向に同時に動かして、前記試料容器に収容されている前記液体試料を攪拌することを特徴とする試料攪拌装置。
【請求項14】
試料を検体に分注して、試料と検体を反応させて分析する検体分析装置であって、
請求項1に記載の試料攪拌装置と、
前記試料容器に収容され、攪拌された試料を取り出し、検体に分注する分注機構と、を備え、
前記試料と前記検体との反応を分析することを特徴とする検体分析装置。
【請求項15】
試料を検体に分注して、試料と検体を反応させて分析する検体分析装置であって、
請求項8に記載の試料攪拌装置と、
前記試料容器に収容され、攪拌された試料を取り出し、検体に分注する分注機構と、を備え、
前記試料と前記検体との反応を分析することを特徴とする検体分析装置。
【請求項16】
試料を検体に分注して、試料と検体を反応させて分析する検体分析装置であって、
請求項13に記載の試料攪拌装置と、
前記試料容器に収容され、攪拌された試料を取り出し、検体に分注する分注機構と、を備え、
前記試料と前記検体との反応を分析することを特徴とする検体分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−298692(P2008−298692A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147373(P2007−147373)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】