試料気化導入装置
【課題】キャリアガスの熱膨張に起因する気化した試料の移送速度の増大を可及的に抑える。
【解決手段】試料を加熱して気化するための加熱気化部2と、前記加熱気化部2を収容する気化チャンバ3と、前記気化チャンバ3に連通し、前記気化チャンバ3内にキャリアガスを供給するためのキャリアガス供給路4と、前記気化チャンバ3に連通し、前記気化チャンバ3内で気化された試料を前記キャリアガスとともに前記元素分析装置Zに導出するための試料導出路5と、前記キャリアガス供給路4に設けられ、前記加熱気化部2により前記試料を加熱する際に、前記気化チャンバ3内へのキャリアガスの供給量を減ずる供給量調整機構6と、を具備する。
【解決手段】試料を加熱して気化するための加熱気化部2と、前記加熱気化部2を収容する気化チャンバ3と、前記気化チャンバ3に連通し、前記気化チャンバ3内にキャリアガスを供給するためのキャリアガス供給路4と、前記気化チャンバ3に連通し、前記気化チャンバ3内で気化された試料を前記キャリアガスとともに前記元素分析装置Zに導出するための試料導出路5と、前記キャリアガス供給路4に設けられ、前記加熱気化部2により前記試料を加熱する際に、前記気化チャンバ3内へのキャリアガスの供給量を減ずる供給量調整機構6と、を具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICP分析装置(ICP発光分析装置やICP質量分析装置)又はMIP分析装置などのプラズマイオン化分析装置に対して、液体試料や固体試料などを極微量、例えばμgからpg程度気化して導入するための試料気化導入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の試料気化導入装置として、加熱気化導入(ETV:Electro Thermal Vaporization)装置(ETV装置)が知られている。このETV装置は、例えば特許文献1に示すように、試料が載置される試料気化炉と、当該試料気化炉を収容する気化チャンバと、この気化チャンバにキャリアガスを供給するキャリアガス供給路と、試料気化炉により気化された試料をチャンバ外に導出する試料導出路とを備えている。気化炉には所定の温度に加熱するための電力が供給され、その電力は多段階に分かれて供給される。各種試料は予備加熱を行い、分析目的物質以外の物質は高温に加熱する以前に気化させる。また、分析目的物質よりも高い沸点の物質は所定の気化終了後、更に高温に気化し除去する。
【0003】
そして、試料気化炉内には加熱材の酸化を防止する為の不活性なキャリアガス(通常アルゴンガスが用いられる)が供給され、気化した試料が、キャリアガスとともに、例えば誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP発光分析装置)のプラズマトーチに移送される。このとき、従来のETV装置では、試料気化炉での試料加熱の有無を問わず、キャリアガスが、気化チャンバ内に定常的に供給されている。
【0004】
しかしながら、試料気化炉における試料加熱時(通常、500〜3000℃に加熱される)において、試料気化炉近傍のキャリアガスが、試料気化炉により急激に熱膨張してしまい、特に1000℃以上ならば、試料導出路の流量が急激に変化してしまう。つまり、試料導出路には、気化チャンバに供給されるキャリアガス、熱膨張したキャリアガス及び気化した試料が流通することになる。そうすると、試料導出路の流量の急激な変化によりプラズマが乱れてしまう上に、気化した試料のプラズマを通過する通過速度が急激に速くなり、プラズマトーチにおいて試料が十分に励起されない結果、測定感度、測定精度、再現性又は直線性などを低下させてしまうという問題がある。さらに、緩慢な加熱では、試料の気化がゆっくり起こり、プラズマ中の試料密度も薄いものであり、また、キャリアガスの体積膨張も緩慢に生じるため、プラズマ中へ導入されるキャリアガス量の変化も小さいので、体積膨張による試料の希釈も大きなものとはならないが、試料密度自体が薄いので、感度の向上が期待できない。
【特許文献1】特開平7−245079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、充分な加熱を行い、試料密度を高くしながらも、キャリアガスの熱膨張に起因する、気化した試料のプラズマの通過速度の増大を可及的に抑えることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係る試料気化導入装置は、プラズマを用いた分析装置に試料を気化して導入する試料気化導入装置であって、前記試料を加熱して気化するための加熱気化部と、前記加熱気化部を収容する気化チャンバと、前記気化チャンバに連通し、前記気化チャンバ内にキャリアガスを供給するためのキャリアガス供給路と、前記気化チャンバに連通し、前記気化チャンバ内で気化された試料を前記キャリアガスとともに前記分析装置に導出するための試料導出路と、前記キャリアガス供給路に設けられ、前記加熱気化部により前記試料を加熱する際に、前記気化チャンバ内へのキャリアガスの供給量を減ずる供給量調整機構と、を具備することを特徴とする。
【0007】
ここで、「試料」とは、液体試料であるか固体試料であるかを問わない。また、粉末、粉体、粒子状またはこれらの混合物(いわゆるスラリーを含む)試料など、分析装置で分析対象となり得るものであればよい。
【0008】
このようなものであれば、試料の加熱時においてキャリアガスの供給量を減ずることにより、試料導出路内のキャリアガス及び気化された試料の流速の増大を可及的に抑えることができ、流量の急激な変化によるプラズマの乱れ、及び気化された試料のプラズマの通過速度の増大を抑えることができる。つまり、加熱気化部によるキャリアガスの熱膨張分を、気化チャンバへのキャリアガスの供給量の減少分で補う(調整する)ことにより、気化した試料のプラズマ通過速度の増大を抑えることができる。したがって、プラズマにおいて十分に励起することができるようになり、測定感度、測定精度、再現性又は直線性などを向上させることができる。
【0009】
加熱気化部における加熱温度は気化する試料に応じて異なることから、試料の種類に拘わらずキャリアガスの熱膨張の影響を抑制するためには、前記供給量調整機構が、前記加熱気化部の加熱温度に応じて、キャリアガスの供給量を減ずるものであることが望ましい。
【0010】
気化した試料のプラズマの通過速度を最も小さくして、励起が十分に行われるようにするためには、前記供給量調整機構が、前記加熱気化部により前記試料を加熱する際に、前記気化チャンバへのキャリアガスの供給を停止することが望ましい。
【0011】
プラズマにより生じるベースライン信号を安定させるためには、前記供給量調整機構が、前記加熱気化部による加熱開始よりも所定時間前から加熱終了時まで、前記気化チャンバへのキャリアガスの供給を停止することが望ましい。
【0012】
キャリアガスの供給量を容易に調節するための具体的な実施の態様としては、前記供給量調整機構が、前記キャリアガス供給路上に設けられた流量制御弁と、前記流量制御弁を制御する制御部と、を備えることが考えられる。
【0013】
前述したキャリアガスの供給量の調整では、気化した試料の通過速度が十分な励起を行うにあたり速すぎる場合、又は、試料が気化することにより、試料ガスが爆発的に(一瞬で大量に)発生して、通過速度が十分な励起を行うにあたり速すぎる場合には、前記試料導出路に設けられ、前記試料導出路内の流量を制御する流量制御器を備えることが望ましい。
【0014】
気化した試料を効率良くプラズマへ導くためには、前記試料導出路の気化チャンバ側開口部が、先端に行くに従って徐々に拡開する形状をなすものであることが望ましい。
【0015】
加熱気化部からの熱により熱膨張するキャリアガスを制限して、試料導出路の流量の急激な変化を防止するためには、前記加熱気化部の周囲の空間を仕切り、熱膨張するキャリアガスの体積を制限する仕切り構造をさらに備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した本発明によれば、キャリアガスの熱膨張に起因する気化した試料の移送速度の増大を可及的に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下に本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。なお、図1は本実施形態に係る試料気化導入装置1の構成を示す模式図である。
【0018】
本実施形態に係る試料気化導入装置1は、プラズマを用いた元素分析装置Zに試料を加熱気化導入(ETV:Electro Thermal Vaporization)するものである。以下の説明において、元素分析装置Zは、プラズマトーチZ1によって発生する高周波誘導結合プラズマにより試料を励起させた際に生じる発光を検出して、当該試料中の元素を分析する誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP発光分析装置)である。なお、元素分析装置Zとしてはこの他、誘導結合プラズマ質量分析装置、マイクロ波誘導プラズマ分析装置などのプラズマイオン化分析装置に用いることができる。
【0019】
具体的にこのものは、図1に示すように、加熱気化部2と、気化チャンバ3と、キャリアガス供給路4と、試料導出路5と、供給量調整機構6と、を具備する。
【0020】
以下、各部2〜6について説明する。
【0021】
加熱気化部2は、試料を加熱して気化するものであり、本実施形態では、一対の加熱用電極21を用いた試料気化炉である。具体的に加熱気化部2は、一対の加熱用電極21と、当該加熱用電極21に架け渡されて設けられた試料載置片22と、備えている。試料載置片22は、断面概略下向きコの字形状部分を有するものであり、その頂面221の略中央部に略椀状に窪ませた窪み部222を設けている。これにより、固体試料であれば、試料が落ちにくく、また、液体試料であれば、好適に溜めておくことができる。なお、試料載置片22の材質としては、例えばタンタル等の金属、セラミックス材料、黒鉛材料、或いは金属と黒鉛との混合材料を用いることができる。
【0022】
気化チャンバ3は、加熱気化部2を収容する例えば透明なガラス製のものであり、キャリアガス供給路4及び試料導出路5が連通されている他、ピンセット等の試料供給器が挿入される挿入口31等が設けられている。
【0023】
キャリアガス供給路4は、気化チャンバ3に連通し、気化チャンバ3内にキャリアガスを供給するためのものであり、ガス供給配管により形成されている。そして、キャリアガス供給路4は、一端が気化チャンバ3の側周壁の一部に開口し、他端がガスボンベGBに接続されている。具体的にキャリアガス供給路4の一端は、気化チャンバ3の底壁において上方を向いて開口している。また、キャリアガス供給路4には、後で詳述する供給量調整機構6が設けられている。
【0024】
試料導出路5は、気化チャンバ3に連通し、気化チャンバ3内で気化された試料をキャリアガスとともにICP発光分析装置Zに導出するためのものであり、試料導出管5Aにより形成されている。そして、試料導出路5は、一端が気化チャンバ3の側周壁から内部に突出して設けられ、他端がICP発光分析装置ZのプラズマトーチZ1に接続されている。
【0025】
具体的に試料導出路5の一端開口(気化チャンバ3側開口)は、試料載置片22の表面に対向して設けられ、試料載置片22の窪み部222の直上側に臨ませて設けられている。また、一端開口は、窪み部222に対して略限界まで近づけた位置に設けられるようにしている。
【0026】
また、試料導出路5の端部(気化チャンバ3側端部)は、先端に行くに従って徐々に拡開する形状をなすものであり、その端部を形成する試料導出管5Aの開口部5A1は、例えば断面概略椀形状をなすものである。具体的には、その開口径が、試料載置片22の窪み部222よりも大きく形成され、本実施形態では、開口径が、試料載置片22の頂面221よりも大きく設定されている。そして、開口部5A1が、試料載置片22の頂面221に覆い被さり、試料載置片22の頂面221が開口部5A1内に位置するように設けられている。なお、開口部5A1の側周壁には、ピンセット等の試料供給器により窪み部222に試料を載置可能にするため、窪み部222と気化チャンバ3の挿入口31とを結ぶ線上に、貫通孔5A2が設けられている。このように、開口部5A1が、試料載置片22の頂面221(具体的には窪み部222)のほぼ全周を覆っていることにより、気化した試料のほぼ全てを試料導出路5に導くことができる。
【0027】
供給量調整機構6は、キャリアガス供給路4に設けられ、加熱気化部2により試料を加熱する際に、気化チャンバ3内へのキャリアガスの供給量を減ずるものであり、キャリアガス供給路4上に設けられた流量制御弁61と、流量制御弁61の開閉を制御する弁制御部62と、を備える。本実施形態の流量制御弁61は開閉弁である。また、弁制御部62は、CPU、内部メモリ、入出力インタフェース、AD変換器等からなる汎用又は専用のコンピュータからなる情報処理装置によって実現されるものであり、当該情報処理装置は、前記内部メモリの所定領域に格納してあるプログラムに基づいてCPUやその周辺機器等が作動することにより、流量制御弁61を制御する。また、情報処理装置は、加熱気化部2の加熱用電極21に電圧を印加する電源7を制御する電源制御部としても機能する。
【0028】
具体的な制御方法について以下に説明する。
【0029】
弁制御部62は、加熱気化部2による加熱時(つまり、電源制御部の電源7制御による加熱用電極21への電圧印加時)に、気化チャンバ3に供給するキャリアガスの供給を停止するように、流量制御弁61の開閉動作を制御する。
【0030】
より詳細には弁制御部62は、加熱気化部2による加熱開始よりも所定時間(例えば10秒)前から加熱終了時まで、気化チャンバ3へのキャリアガスの供給を停止するように、流量制御弁61を閉塞する。ここで、所定時間とは、例えば、キャリアガスの供給を停止した後、プラズマトーチZ1からの得られるベースライン信号が安定するまでの時間により決められる。また、この加熱とは、分析目的物質の気化に係る加熱であることが好ましい。すなわち、加熱気化部2の加熱が多段階に分かれて行われる場合、加熱開始とは、加熱用電極21への電圧印加時であっても良いし、分析目的物質気化の為の加熱を目的とした電圧印加時であっても良い。最も好ましいのは、分析目的物質の為の加熱を目的とした電圧印加時である。
【0031】
また、弁制御部62は、加熱終了後に流量制御弁61を開放して、キャリアガスが、気化チャンバ3内に供給されるようにする。このとき、加熱終了時における流量制御弁61の開放のタイミングは、例えば加熱終了直後、具体的には加熱用電極21への電圧印加終了直後である。
【0032】
ここで、加熱用電極21への電圧印加を終了すると、終了直後から気化チャンバ3内のキャリアガスが冷却して収縮する。そうすると、試料導出路5から気化チャンバ3にキャリアガスが逆流してしまう。このとき、プラズマトーチZ1から気化チャンバ3内にプラズマが流入する可能性がある。このような問題を回避するためには、キャリアガスの供給を再開するタイミングを、キャリアガスが試料導出路5から気化チャンバ3に逆流しないように調節する必要がある。つまり、弁制御部62は、気化チャンバ3内のキャリアガスの収縮に伴う試料導出路5からの逆流が生じる前に、キャリアガス供給路4から気化チャンバ3内にキャリアガスを供給するように、流量制御弁61を開放する。このため、弁制御部62が、流量制御弁6を開放するタイミングは、加熱終了後のみに限らず、加熱終了前にすることも考えられる。ここでも、加熱終了とは、分析目的物質の気化の為の加熱終了であることが好ましい。
【0033】
次に、加熱時における試料導出路5の流量変化について説明する。
【0034】
図2は、加熱気化部2を2秒間1000℃に加熱する場合の加熱前、加熱時、加熱終了直後、及び加熱終了後10秒経過後における、初期流量0L/min、0.5L/min、1L/minに対する試料導出路5の流量変化を示す。ここで、初期流量とは、加熱前の試料導出路5の流量である。なお、気化チャンバ3の内容積は約500cm3であり、試料導出路5の内径は4.5mmである。このとき、図2に示すように、加熱前の各初期流量に対して、加熱時の流量が1.5L/min増加していることが分かる。これは、気化チャンバ3内の残留気体膨張による瞬時流出量であると思われる。また、加熱終了直後では試料導出路5の流量が、初期流量0.5L/minの場合、気化チャンバ3内のキャリアガスの収縮により、初期流量に比べて減少し、0L/minとなっていることが分かる。また、初期流量1L/minの場合、同様に、0.7L/minとなっていることが分かる。
【0035】
また、図3は、加熱気化部2を2秒間1500℃に加熱する場合の加熱前、加熱時、加熱終了直後、及び加熱終了後10秒経過後における、初期流量0L/min、0.5L/min、1L/minに対する試料導出路5の流量の測定結果を示す。このとき、図3に示すように、加熱前の各初期流量に対して、加熱時の流量が2L/min増加していることが分かる。また、加熱終了直後では試料導出路5の流量が、初期流量0.5L/minの場合、気化チャンバ3内のキャリアガスの収縮により、初期流量に比べて減少し、0L/minとなっていることが分かる。また、初期流量1L/minの場合、同様に、0.5L/minとなっていることが分かる。1000℃に加熱したときは、加熱前と比較して0.3L/min低下であるが、1500℃に加熱したときは、加熱前と比較して0.5L/minの低下となっている。
【0036】
さらに、図4は、加熱気化部2を2秒間2000℃に加熱する場合の加熱前、加熱時、加熱終了直後及び加熱終了後10秒経過後における、初期流量0L/min、0.5L/min、1L/minに対する試料導出路5の流量の測定結果を示す。このとき、図4に示すように、各初期流量において、加熱時の流量が増加しているが、初期流量が大きくなるに従って、増加率が減少していることが分かる。また、加熱終了直後では試料導出路5の流量が、初期流量0.5L/minの場合、気化チャンバ3内のキャリアガスの収縮により、初期流量に比べて減少し、0L/minとなっていることが分かる。また、初期流量1L/minの場合、同様に、0.3L/minとなっていることが分かる。この低下量は、0.7L/minであり、1500℃加熱時よりも大きい。
【0037】
次に、本実施形態の試料気化導入装置1を用いたICP発光分析装置Zと、従来の試料気化導入装置を用いたICP発光分析装置Zとの検出信号の強度の比較を示す。なお、本比較において、試料としては、カドミウム(Cd)濃度10ppmの試料を10μL用いた。
【0038】
図5に示すように、上記試料を従来の試料気化導入装置により気化させてICP発光分析装置Zにより検出した場合、その検出信号の強度が約6000以下であるのに対し、本実施形態の試料気化導入装置1により気化させてICP発光分析装置Zにより検出した場合、その検出信号の強度が約27000であり、その信号強度が約5倍〜6倍となることが分かる。この結果から、加熱時に気化チャンバ3へのキャリアガスの供給を停止することにより、検出信号の強度が向上していることが分かる。
【0039】
次に、加熱気化部2の加熱温度を変化させた場合のICP発光分析装置Zの検出信号の強度の比較を示す。この比較例において、カドミウム(Cd)濃度が10ppmの試料を10μL用いた。また、加熱気化部2の加熱温度を800℃、1000℃、1200℃、1500℃、2000℃とした。図6に示されるように、加熱気化部2の加熱温度が1000℃の場合の光強度信号の出力が最も大きいことが分かる。なお、試料導出路5の流量は、加熱温度1000℃の場合は1.5L/minであり、加熱温度1500℃の場合は2.0L/minであり、加熱温度2000℃の場合は2.5L/minである。この結果から、気化チャンバ3へのキャリアガスの供給を停止した場合であっても、加熱気化部2の加熱温度(温度上昇速度)が大きくなりすぎると、試料導出路5の流量が大きくなりすぎ、気化された試料の移送速度が大きくなり検出される検出信号の強度が小さくなってしまうことが分かる。つまり、試料の沸点に応じて加熱温度を調整する必要がある。
【0040】
<第1実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る試料気化導入装置1によれば、試料の加熱時におけるキャリアガスの供給量をゼロにすることにより、試料導出路5内のキャリアガス及び気化された試料の流速の増大を最大限に小さくすることができ、流量の急激な変化によるプラズマの乱れ、及び気化された試料のプラズマの通過速度の増大を抑えることができる。したがって、プラズマにおいて十分に励起することができるようになり、測定感度、測定精度、再現性又は直線性などを向上させることができる。
【0041】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態に係る試料気化導入装置1について図面を参照して説明する。なお、前記第1実施形態の試料気化導入装置1と同一又は対応する部材には、同一の符号を用いている。なお、図7は本実施形態に係る試料気化導入装置1の構成を模式的に示す図であり、図8は仕切り構造8を主として示す模式的拡大図であり、図9は図8におけるA−A線断面図である。
【0042】
本実施形態の試料気化導入装置1は、図7に示すように、前記第1実施形態とは試料導入管5A(試料導入路5)の構成が異なるとともに、さらに仕切り構造8を備えている。
【0043】
試料導入管5Aの開口部5A1は、特に図8及び図9に示すように、内部空間を小さくすると同時に、その内側周面が試料載置片22に接触しないように、試料載置片22の略全体を収容する形状をなすものである。具体的に開口部5A1は、先端に行くに従って徐々に拡開する拡開部5A11と、当該拡開部5A11の先端側端部に連続して形成された円筒部5A12とからなる。また、試料導入管5Aは試料載置片22の熱を外部に伝達しにくい材質からなり、例えば石英ガラスから形成されている。
【0044】
また、試料導出管5Aは、試料載置片22に対して進退移動可能(本実施形態では上下動可能)に構成されている。つまり、試料導出路5の気化チャンバ3側端部が、試料載置片22に対して進退移動可能(上下動可能)に構成されている。具体的な構成としては、気化チャンバ3の側周壁に形成された挿通孔の内面と試料導出管5Aとの間にOリング等のシール部材101を介在させることにより、気密性を確保しながらもスライド可能にしている。
【0045】
そして、試料導出管5Aの開口部5A1が、図8に示すように、試料載置片22に接近又は接触して試料載置片22に載置された試料を加熱して気化する加熱位置Pと、開口部5A1が試料載置片22から離間して、試料載置片22に試料を載置する載置位置Qとの間を上下移動する。本実施形態の加熱位置Pは、開口部5A1が断面概略下向きコの字形状部分のほぼ全てを収容する。載置位置Qは、気化チャンバ3の挿入口31に試料供給器を挿入させて試料載置片22上に試料を載置できる位置である。
【0046】
ここで試料載置片22への試料載置から加熱までの手順について説明する。試料載置時には、試料導出管5Aを試料載置片22から上方に離間させて載置位置Qまで移動させた後、気化チャンバ3の挿入口31に試料供給器を挿入させて試料載置片22上に試料を載置する。その後、試料導出管5Aを試料載置片22に接近又は接触するまで下げる。そして、試料載置片22に電流を流して試料を加熱する。
【0047】
次に、ICP発光分析装置Zにより得られる検出信号強度に対する、試料導出管5Aの開口部5A1の試料載置片22からの高さ位置影響を図10に示す。なお、図10において「上」は、試料導出管5Aの開口部5A1が載置位置Qにある場合を示し、「下」は、試料導出管5Aの開口部5A1が加熱位置Pにある場合を示し、「中」は、試料導出管5Aの開口部5A1が載置位置Q及び加熱位置Pの中間位置にある場合を示し、縦軸は検出信号の面積強度を示す。この図10から分かるように、試料導出管5Aの開口部5A1が試料載置片22に近いほど、得られる検出信号強度が大きくなることが分かる。
【0048】
仕切り構造8は、加熱気化部2の周囲の空間を仕切り、熱膨張するキャリアガスの体積を制限するものである。本実施形態の仕切り構造8は、加熱気化部2周囲の空間において、試料導出管5A(試料導出路5)が設けられた空間とは反対側の空間を仕切るものであり、試料載置片22の下方に設けられている。
【0049】
具体的にこのものは、特に図7及び図8に示すように、試料載置片22の裏面に対向し、当該試料載置片22と略平行となるように設けられた仕切り板81と、当該仕切り板81を当該位置に支持する支持部材82とを備えている。
【0050】
仕切り板81は、図9に示すように、試料導出管5Aの開口部5A1の開口形状と略同一形状をなすものであり、平面視略円板状をなす。また仕切り板81は、試料載置片の熱を外部に伝達しにくい材質からなり、例えば石英ガラスから形成されている。本実施形態の仕切り板81の径は、試料導出管5Aの開口部5A1の開口径よりも若干小さく(例えば1〜2mm程度小さく)してある。これにより、試料導出管5Aの開口部5A1及び仕切り板81より形成される空間の開口が下方を向くことになり(図8中の拡大図参照)、仕切り板81の下方から気化チャンバ内に供給されたキャリアガスが、試料導出管5Aの開口部5A1に流入しやすくなる。したがって、試料載置片22により気化された試料を外部に流出させることなく、ほぼ全てを試料導出路5に導くことができるようになる。
【0051】
支持部材82は、一端部がキャリアガス供給路4に連通するとともに、他端部が仕切り板81に接続され、キャリアガスが流通する内部流路82aを有する円筒状部材であり、その中間部分には、キャリアガス供給路4により供給されたキャリアガスを気化チャンバ3内に供給する供給孔821が形成されている。この供給孔821は支持部材82における仕切り板81に接続された他端部近傍に形成され、気化チャンバ3内に放射状に満遍なく供給するため、複数(本実施形態では4つ)の供給孔821が支持部材82の側壁に放射状に形成されている。
【0052】
このような構成により、試料載置片22が開口部5A1及び仕切り板81により挟み込まれることにより、試料載置片22周囲の空間が開口部5A1及び仕切り板81により実質的に閉塞され、熱膨張するキャリアガスが制限される。これにより、前記実施形態に説明したように、気化チャンバ3内へのキャリアガスの供給量を停止した場合であっても、試料載置片からの熱により気化チャンバ3内にあるキャリアガスが熱膨張し、試料導出路5の流量が急激に変化してしまうことがあるという問題を解決することができる。
【0053】
しかしながら、熱膨張するキャリアガスは、試料導出管5Aの開口部5A1及び仕切り板81により形成された空間に含まれるもののみとなり、体積膨張するキャリアガスの体積が小さくなる結果、プラズマ内へ導入されるキャリアガス量が測定するのに十分得られないことがある。これを解決するため、供給量調整機構6が、好適なキャリアガス量にするため、気化チャンバ3内に供給するキャリアガスの流量を調整する必要がある。
【0054】
そのため、本実施形態の供給量調整機構6は、加熱気化部2により試料を加熱する際に、気化チャンバ3内へのキャリアガスの供給量を減じ、さらにその供給量を加熱気化部2の加熱温度に基づいて調整する。具体的には、加熱気化部2の加熱温度に応じてキャリアガスの供給量が予め設定されており、その設定値に基づいて、弁制御部62が流量制御弁61を制御する。これにより、加熱気化部2(具体的には試料載置片22)の周囲の空間を仕切ったことにより生じるキャリアガス供給量の変動をキャンセルして、好適なキャリアガス量をプラズマ内に供給することができる。
【0055】
次に、キャリアガスを加熱時及び非加熱時を問わず一定流量600ml/minで供給する場合と、キャリアガスを非加熱時に供給して加熱時に供給しない場合とにおけるICP発光分析装置Zにより得られる検出信号強度を図11に示す。この図の横軸は加熱気化部2の加熱温度であり、縦軸は検出信号の面積強度である。また、図11中、「一定供給の場合」は、一定流量600ml/minで供給する場合の面積強度を示し、「STOP&FLOWの場合」は、キャリアガスを非加熱時に供給して加熱時に供給しない場合の面積強度を示す。この図11から分かるように、キャリアガスを加熱時及び非加熱時を問わず一定流で供給する場合には、加熱温度が高くなれば信号強度が低下することが分かる。一方、キャリアガスを非加熱時に供給して加熱時に供給しない場合には、加熱温度が高くなれば信号強度が高くなることが分かる。また、2つの場合を比較すると、キャリアガスを非加熱時に供給して加熱時に供給しない場合の方が検出信号強度の最大値が小さいことから、加熱時においても、キャリアガスを供給した方が一層高い強度の検出信号を得ることができることが分かる。なお、この場合であっても、加熱時のキャリアガスの供給量は、非加熱時のキャリアガスの供給量よりも小さい。
【0056】
<第2実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る試料気化導入装置1によれば、試料の加熱時におけるキャリアガスの供給量を減ずるだけでなく、キャリアガスが熱膨張しうる空間を制限しているので、試料導出路5内のキャリアガス及び気化された試料の流速の増大を可及的に小さくすることができ、流量の急激な変化によるプラズマの乱れ、及び気化された試料のプラズマの通過速度の増大を抑えることができる。したがって、プラズマにおいて十分に励起することができるようになり、測定感度、測定精度、再現性又は直線性などを向上させることができる。
【0057】
<その他の変形実施形態>
【0058】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。以下の説明において前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付すこととする。
【0059】
例えば、前記実施形態の構成に加えて、図12に示すように、試料導出路5に流量制御部9を設けても良い。流量制御部9としては、圧力制御弁を用いたもの等種々の流量制御器を用いることができる。このように、試料導出路5に流量制御部9を設けることにより、気化チャンバ3へのキャリアガス供給量の調整のみでは、気化した試料の移送速度が十分な励起を行うには大きすぎる場合、又は、試料が気化することにより、試料ガスが爆発的に(一瞬で大量に)発生して、プラズマへの移送速度が十分な励起を行うには大きすぎる場合であっても、プラズマトーチZ1への試料の移送速度を調整することができ、検出信号を向上させることができる。
【0060】
また、前記実施形態では、加熱時に気化チャンバへのキャリアガスの供給を停止する(供給量をゼロにする)ものであったが、その他、加熱時に気化チャンバへのキャリアガスの供給量を減ずるものであっても良い。例えば、加熱前の気化チャンバへのキャリアガスの供給量が2L/minであった場合、加熱時には、当該供給量よりも小さい供給量、例えば1L/minにして供給するようにしても良い。
【0061】
さらに、試料導出路に流量計を設け、当該流量計の出力値に基づいて、弁制御部が、圧力制御弁を制御して、キャリアガスの供給量を調整するようにしても良い。
【0062】
その上、試料導出路の一端開口(気化チャンバ側開口)の形状は、前記各実施形態の形状に限られず、その他、例えば先端に行くに従って段階的に拡開する形状であっても良いし、断面同一形状をなすものであって良い。
【0063】
また、仕切り構造に関して言うと、前記実施形態の構造に限られず、図13に示すように、試料載置片22の下空間の周囲を囲む円筒状の仕切壁により構成しても良いし、図14に示すように、前記実施形態同様に仕切り板81と支持部材82とを備えたものであり、仕切り板81に開口81aが形成され、支持部材82にキャリアガス供給路4及び前記開口81aを連通する内部流路82bが形成されるものであっても良い。
【0064】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。なお、この場合であっても、窪み部よりも大きい径を有する開口とすることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1実施形態に係る試料気化導入装置の構成を模式的に示す図。
【図2】1000℃に加熱した場合の試料導出路の流量変化を示す図。
【図3】1500℃に加熱した場合の試料導出路の流量変化を示す図。
【図4】2000℃に加熱した場合の試料導出路の流量変化を示す図。
【図5】同実施形態の試料気化導入装置を用いた場合と、従来の試料気化導入装置を用いた場合との検出信号の強度の比較を示す図。
【図6】加熱温度を変化させた場合の検出信号の強度の比較を示す図。
【図7】第2実施形態に係る試料気化導入装置の構成を模式的に示す図。
【図8】同実施形態の仕切り構造を主として示す模式的拡大図。
【図9】図8におけるA−A線断面図。
【図10】ICP発光分析装置により得られる検出信号強度に対する、試料導出管の試料載置片からの高さ位置影響を示す図。
【図11】異なる供給方式におけるICP発光分析装置により得られる検出信号強度を示す図。
【図12】変形実施形態に係る試料気化導入装置の構成を模式的に示す図。
【図13】仕切り構造の変形例を示す図。
【図14】仕切り構造の変形例を示す図。
【符号の説明】
【0066】
1 ・・・試料気化導入装置
Z ・・・元素分析装置
Z1・・・プラズマ
2 ・・・加熱気化部
3 ・・・気化チャンバ
4 ・・・キャリアガス供給路
5 ・・・試料導出路
6 ・・・供給量調整機構
61・・・流量制御弁
62・・・制御部
8 ・・・仕切り構造
9 ・・・流量制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICP分析装置(ICP発光分析装置やICP質量分析装置)又はMIP分析装置などのプラズマイオン化分析装置に対して、液体試料や固体試料などを極微量、例えばμgからpg程度気化して導入するための試料気化導入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の試料気化導入装置として、加熱気化導入(ETV:Electro Thermal Vaporization)装置(ETV装置)が知られている。このETV装置は、例えば特許文献1に示すように、試料が載置される試料気化炉と、当該試料気化炉を収容する気化チャンバと、この気化チャンバにキャリアガスを供給するキャリアガス供給路と、試料気化炉により気化された試料をチャンバ外に導出する試料導出路とを備えている。気化炉には所定の温度に加熱するための電力が供給され、その電力は多段階に分かれて供給される。各種試料は予備加熱を行い、分析目的物質以外の物質は高温に加熱する以前に気化させる。また、分析目的物質よりも高い沸点の物質は所定の気化終了後、更に高温に気化し除去する。
【0003】
そして、試料気化炉内には加熱材の酸化を防止する為の不活性なキャリアガス(通常アルゴンガスが用いられる)が供給され、気化した試料が、キャリアガスとともに、例えば誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP発光分析装置)のプラズマトーチに移送される。このとき、従来のETV装置では、試料気化炉での試料加熱の有無を問わず、キャリアガスが、気化チャンバ内に定常的に供給されている。
【0004】
しかしながら、試料気化炉における試料加熱時(通常、500〜3000℃に加熱される)において、試料気化炉近傍のキャリアガスが、試料気化炉により急激に熱膨張してしまい、特に1000℃以上ならば、試料導出路の流量が急激に変化してしまう。つまり、試料導出路には、気化チャンバに供給されるキャリアガス、熱膨張したキャリアガス及び気化した試料が流通することになる。そうすると、試料導出路の流量の急激な変化によりプラズマが乱れてしまう上に、気化した試料のプラズマを通過する通過速度が急激に速くなり、プラズマトーチにおいて試料が十分に励起されない結果、測定感度、測定精度、再現性又は直線性などを低下させてしまうという問題がある。さらに、緩慢な加熱では、試料の気化がゆっくり起こり、プラズマ中の試料密度も薄いものであり、また、キャリアガスの体積膨張も緩慢に生じるため、プラズマ中へ導入されるキャリアガス量の変化も小さいので、体積膨張による試料の希釈も大きなものとはならないが、試料密度自体が薄いので、感度の向上が期待できない。
【特許文献1】特開平7−245079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、充分な加熱を行い、試料密度を高くしながらも、キャリアガスの熱膨張に起因する、気化した試料のプラズマの通過速度の増大を可及的に抑えることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係る試料気化導入装置は、プラズマを用いた分析装置に試料を気化して導入する試料気化導入装置であって、前記試料を加熱して気化するための加熱気化部と、前記加熱気化部を収容する気化チャンバと、前記気化チャンバに連通し、前記気化チャンバ内にキャリアガスを供給するためのキャリアガス供給路と、前記気化チャンバに連通し、前記気化チャンバ内で気化された試料を前記キャリアガスとともに前記分析装置に導出するための試料導出路と、前記キャリアガス供給路に設けられ、前記加熱気化部により前記試料を加熱する際に、前記気化チャンバ内へのキャリアガスの供給量を減ずる供給量調整機構と、を具備することを特徴とする。
【0007】
ここで、「試料」とは、液体試料であるか固体試料であるかを問わない。また、粉末、粉体、粒子状またはこれらの混合物(いわゆるスラリーを含む)試料など、分析装置で分析対象となり得るものであればよい。
【0008】
このようなものであれば、試料の加熱時においてキャリアガスの供給量を減ずることにより、試料導出路内のキャリアガス及び気化された試料の流速の増大を可及的に抑えることができ、流量の急激な変化によるプラズマの乱れ、及び気化された試料のプラズマの通過速度の増大を抑えることができる。つまり、加熱気化部によるキャリアガスの熱膨張分を、気化チャンバへのキャリアガスの供給量の減少分で補う(調整する)ことにより、気化した試料のプラズマ通過速度の増大を抑えることができる。したがって、プラズマにおいて十分に励起することができるようになり、測定感度、測定精度、再現性又は直線性などを向上させることができる。
【0009】
加熱気化部における加熱温度は気化する試料に応じて異なることから、試料の種類に拘わらずキャリアガスの熱膨張の影響を抑制するためには、前記供給量調整機構が、前記加熱気化部の加熱温度に応じて、キャリアガスの供給量を減ずるものであることが望ましい。
【0010】
気化した試料のプラズマの通過速度を最も小さくして、励起が十分に行われるようにするためには、前記供給量調整機構が、前記加熱気化部により前記試料を加熱する際に、前記気化チャンバへのキャリアガスの供給を停止することが望ましい。
【0011】
プラズマにより生じるベースライン信号を安定させるためには、前記供給量調整機構が、前記加熱気化部による加熱開始よりも所定時間前から加熱終了時まで、前記気化チャンバへのキャリアガスの供給を停止することが望ましい。
【0012】
キャリアガスの供給量を容易に調節するための具体的な実施の態様としては、前記供給量調整機構が、前記キャリアガス供給路上に設けられた流量制御弁と、前記流量制御弁を制御する制御部と、を備えることが考えられる。
【0013】
前述したキャリアガスの供給量の調整では、気化した試料の通過速度が十分な励起を行うにあたり速すぎる場合、又は、試料が気化することにより、試料ガスが爆発的に(一瞬で大量に)発生して、通過速度が十分な励起を行うにあたり速すぎる場合には、前記試料導出路に設けられ、前記試料導出路内の流量を制御する流量制御器を備えることが望ましい。
【0014】
気化した試料を効率良くプラズマへ導くためには、前記試料導出路の気化チャンバ側開口部が、先端に行くに従って徐々に拡開する形状をなすものであることが望ましい。
【0015】
加熱気化部からの熱により熱膨張するキャリアガスを制限して、試料導出路の流量の急激な変化を防止するためには、前記加熱気化部の周囲の空間を仕切り、熱膨張するキャリアガスの体積を制限する仕切り構造をさらに備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した本発明によれば、キャリアガスの熱膨張に起因する気化した試料の移送速度の増大を可及的に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下に本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。なお、図1は本実施形態に係る試料気化導入装置1の構成を示す模式図である。
【0018】
本実施形態に係る試料気化導入装置1は、プラズマを用いた元素分析装置Zに試料を加熱気化導入(ETV:Electro Thermal Vaporization)するものである。以下の説明において、元素分析装置Zは、プラズマトーチZ1によって発生する高周波誘導結合プラズマにより試料を励起させた際に生じる発光を検出して、当該試料中の元素を分析する誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP発光分析装置)である。なお、元素分析装置Zとしてはこの他、誘導結合プラズマ質量分析装置、マイクロ波誘導プラズマ分析装置などのプラズマイオン化分析装置に用いることができる。
【0019】
具体的にこのものは、図1に示すように、加熱気化部2と、気化チャンバ3と、キャリアガス供給路4と、試料導出路5と、供給量調整機構6と、を具備する。
【0020】
以下、各部2〜6について説明する。
【0021】
加熱気化部2は、試料を加熱して気化するものであり、本実施形態では、一対の加熱用電極21を用いた試料気化炉である。具体的に加熱気化部2は、一対の加熱用電極21と、当該加熱用電極21に架け渡されて設けられた試料載置片22と、備えている。試料載置片22は、断面概略下向きコの字形状部分を有するものであり、その頂面221の略中央部に略椀状に窪ませた窪み部222を設けている。これにより、固体試料であれば、試料が落ちにくく、また、液体試料であれば、好適に溜めておくことができる。なお、試料載置片22の材質としては、例えばタンタル等の金属、セラミックス材料、黒鉛材料、或いは金属と黒鉛との混合材料を用いることができる。
【0022】
気化チャンバ3は、加熱気化部2を収容する例えば透明なガラス製のものであり、キャリアガス供給路4及び試料導出路5が連通されている他、ピンセット等の試料供給器が挿入される挿入口31等が設けられている。
【0023】
キャリアガス供給路4は、気化チャンバ3に連通し、気化チャンバ3内にキャリアガスを供給するためのものであり、ガス供給配管により形成されている。そして、キャリアガス供給路4は、一端が気化チャンバ3の側周壁の一部に開口し、他端がガスボンベGBに接続されている。具体的にキャリアガス供給路4の一端は、気化チャンバ3の底壁において上方を向いて開口している。また、キャリアガス供給路4には、後で詳述する供給量調整機構6が設けられている。
【0024】
試料導出路5は、気化チャンバ3に連通し、気化チャンバ3内で気化された試料をキャリアガスとともにICP発光分析装置Zに導出するためのものであり、試料導出管5Aにより形成されている。そして、試料導出路5は、一端が気化チャンバ3の側周壁から内部に突出して設けられ、他端がICP発光分析装置ZのプラズマトーチZ1に接続されている。
【0025】
具体的に試料導出路5の一端開口(気化チャンバ3側開口)は、試料載置片22の表面に対向して設けられ、試料載置片22の窪み部222の直上側に臨ませて設けられている。また、一端開口は、窪み部222に対して略限界まで近づけた位置に設けられるようにしている。
【0026】
また、試料導出路5の端部(気化チャンバ3側端部)は、先端に行くに従って徐々に拡開する形状をなすものであり、その端部を形成する試料導出管5Aの開口部5A1は、例えば断面概略椀形状をなすものである。具体的には、その開口径が、試料載置片22の窪み部222よりも大きく形成され、本実施形態では、開口径が、試料載置片22の頂面221よりも大きく設定されている。そして、開口部5A1が、試料載置片22の頂面221に覆い被さり、試料載置片22の頂面221が開口部5A1内に位置するように設けられている。なお、開口部5A1の側周壁には、ピンセット等の試料供給器により窪み部222に試料を載置可能にするため、窪み部222と気化チャンバ3の挿入口31とを結ぶ線上に、貫通孔5A2が設けられている。このように、開口部5A1が、試料載置片22の頂面221(具体的には窪み部222)のほぼ全周を覆っていることにより、気化した試料のほぼ全てを試料導出路5に導くことができる。
【0027】
供給量調整機構6は、キャリアガス供給路4に設けられ、加熱気化部2により試料を加熱する際に、気化チャンバ3内へのキャリアガスの供給量を減ずるものであり、キャリアガス供給路4上に設けられた流量制御弁61と、流量制御弁61の開閉を制御する弁制御部62と、を備える。本実施形態の流量制御弁61は開閉弁である。また、弁制御部62は、CPU、内部メモリ、入出力インタフェース、AD変換器等からなる汎用又は専用のコンピュータからなる情報処理装置によって実現されるものであり、当該情報処理装置は、前記内部メモリの所定領域に格納してあるプログラムに基づいてCPUやその周辺機器等が作動することにより、流量制御弁61を制御する。また、情報処理装置は、加熱気化部2の加熱用電極21に電圧を印加する電源7を制御する電源制御部としても機能する。
【0028】
具体的な制御方法について以下に説明する。
【0029】
弁制御部62は、加熱気化部2による加熱時(つまり、電源制御部の電源7制御による加熱用電極21への電圧印加時)に、気化チャンバ3に供給するキャリアガスの供給を停止するように、流量制御弁61の開閉動作を制御する。
【0030】
より詳細には弁制御部62は、加熱気化部2による加熱開始よりも所定時間(例えば10秒)前から加熱終了時まで、気化チャンバ3へのキャリアガスの供給を停止するように、流量制御弁61を閉塞する。ここで、所定時間とは、例えば、キャリアガスの供給を停止した後、プラズマトーチZ1からの得られるベースライン信号が安定するまでの時間により決められる。また、この加熱とは、分析目的物質の気化に係る加熱であることが好ましい。すなわち、加熱気化部2の加熱が多段階に分かれて行われる場合、加熱開始とは、加熱用電極21への電圧印加時であっても良いし、分析目的物質気化の為の加熱を目的とした電圧印加時であっても良い。最も好ましいのは、分析目的物質の為の加熱を目的とした電圧印加時である。
【0031】
また、弁制御部62は、加熱終了後に流量制御弁61を開放して、キャリアガスが、気化チャンバ3内に供給されるようにする。このとき、加熱終了時における流量制御弁61の開放のタイミングは、例えば加熱終了直後、具体的には加熱用電極21への電圧印加終了直後である。
【0032】
ここで、加熱用電極21への電圧印加を終了すると、終了直後から気化チャンバ3内のキャリアガスが冷却して収縮する。そうすると、試料導出路5から気化チャンバ3にキャリアガスが逆流してしまう。このとき、プラズマトーチZ1から気化チャンバ3内にプラズマが流入する可能性がある。このような問題を回避するためには、キャリアガスの供給を再開するタイミングを、キャリアガスが試料導出路5から気化チャンバ3に逆流しないように調節する必要がある。つまり、弁制御部62は、気化チャンバ3内のキャリアガスの収縮に伴う試料導出路5からの逆流が生じる前に、キャリアガス供給路4から気化チャンバ3内にキャリアガスを供給するように、流量制御弁61を開放する。このため、弁制御部62が、流量制御弁6を開放するタイミングは、加熱終了後のみに限らず、加熱終了前にすることも考えられる。ここでも、加熱終了とは、分析目的物質の気化の為の加熱終了であることが好ましい。
【0033】
次に、加熱時における試料導出路5の流量変化について説明する。
【0034】
図2は、加熱気化部2を2秒間1000℃に加熱する場合の加熱前、加熱時、加熱終了直後、及び加熱終了後10秒経過後における、初期流量0L/min、0.5L/min、1L/minに対する試料導出路5の流量変化を示す。ここで、初期流量とは、加熱前の試料導出路5の流量である。なお、気化チャンバ3の内容積は約500cm3であり、試料導出路5の内径は4.5mmである。このとき、図2に示すように、加熱前の各初期流量に対して、加熱時の流量が1.5L/min増加していることが分かる。これは、気化チャンバ3内の残留気体膨張による瞬時流出量であると思われる。また、加熱終了直後では試料導出路5の流量が、初期流量0.5L/minの場合、気化チャンバ3内のキャリアガスの収縮により、初期流量に比べて減少し、0L/minとなっていることが分かる。また、初期流量1L/minの場合、同様に、0.7L/minとなっていることが分かる。
【0035】
また、図3は、加熱気化部2を2秒間1500℃に加熱する場合の加熱前、加熱時、加熱終了直後、及び加熱終了後10秒経過後における、初期流量0L/min、0.5L/min、1L/minに対する試料導出路5の流量の測定結果を示す。このとき、図3に示すように、加熱前の各初期流量に対して、加熱時の流量が2L/min増加していることが分かる。また、加熱終了直後では試料導出路5の流量が、初期流量0.5L/minの場合、気化チャンバ3内のキャリアガスの収縮により、初期流量に比べて減少し、0L/minとなっていることが分かる。また、初期流量1L/minの場合、同様に、0.5L/minとなっていることが分かる。1000℃に加熱したときは、加熱前と比較して0.3L/min低下であるが、1500℃に加熱したときは、加熱前と比較して0.5L/minの低下となっている。
【0036】
さらに、図4は、加熱気化部2を2秒間2000℃に加熱する場合の加熱前、加熱時、加熱終了直後及び加熱終了後10秒経過後における、初期流量0L/min、0.5L/min、1L/minに対する試料導出路5の流量の測定結果を示す。このとき、図4に示すように、各初期流量において、加熱時の流量が増加しているが、初期流量が大きくなるに従って、増加率が減少していることが分かる。また、加熱終了直後では試料導出路5の流量が、初期流量0.5L/minの場合、気化チャンバ3内のキャリアガスの収縮により、初期流量に比べて減少し、0L/minとなっていることが分かる。また、初期流量1L/minの場合、同様に、0.3L/minとなっていることが分かる。この低下量は、0.7L/minであり、1500℃加熱時よりも大きい。
【0037】
次に、本実施形態の試料気化導入装置1を用いたICP発光分析装置Zと、従来の試料気化導入装置を用いたICP発光分析装置Zとの検出信号の強度の比較を示す。なお、本比較において、試料としては、カドミウム(Cd)濃度10ppmの試料を10μL用いた。
【0038】
図5に示すように、上記試料を従来の試料気化導入装置により気化させてICP発光分析装置Zにより検出した場合、その検出信号の強度が約6000以下であるのに対し、本実施形態の試料気化導入装置1により気化させてICP発光分析装置Zにより検出した場合、その検出信号の強度が約27000であり、その信号強度が約5倍〜6倍となることが分かる。この結果から、加熱時に気化チャンバ3へのキャリアガスの供給を停止することにより、検出信号の強度が向上していることが分かる。
【0039】
次に、加熱気化部2の加熱温度を変化させた場合のICP発光分析装置Zの検出信号の強度の比較を示す。この比較例において、カドミウム(Cd)濃度が10ppmの試料を10μL用いた。また、加熱気化部2の加熱温度を800℃、1000℃、1200℃、1500℃、2000℃とした。図6に示されるように、加熱気化部2の加熱温度が1000℃の場合の光強度信号の出力が最も大きいことが分かる。なお、試料導出路5の流量は、加熱温度1000℃の場合は1.5L/minであり、加熱温度1500℃の場合は2.0L/minであり、加熱温度2000℃の場合は2.5L/minである。この結果から、気化チャンバ3へのキャリアガスの供給を停止した場合であっても、加熱気化部2の加熱温度(温度上昇速度)が大きくなりすぎると、試料導出路5の流量が大きくなりすぎ、気化された試料の移送速度が大きくなり検出される検出信号の強度が小さくなってしまうことが分かる。つまり、試料の沸点に応じて加熱温度を調整する必要がある。
【0040】
<第1実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る試料気化導入装置1によれば、試料の加熱時におけるキャリアガスの供給量をゼロにすることにより、試料導出路5内のキャリアガス及び気化された試料の流速の増大を最大限に小さくすることができ、流量の急激な変化によるプラズマの乱れ、及び気化された試料のプラズマの通過速度の増大を抑えることができる。したがって、プラズマにおいて十分に励起することができるようになり、測定感度、測定精度、再現性又は直線性などを向上させることができる。
【0041】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態に係る試料気化導入装置1について図面を参照して説明する。なお、前記第1実施形態の試料気化導入装置1と同一又は対応する部材には、同一の符号を用いている。なお、図7は本実施形態に係る試料気化導入装置1の構成を模式的に示す図であり、図8は仕切り構造8を主として示す模式的拡大図であり、図9は図8におけるA−A線断面図である。
【0042】
本実施形態の試料気化導入装置1は、図7に示すように、前記第1実施形態とは試料導入管5A(試料導入路5)の構成が異なるとともに、さらに仕切り構造8を備えている。
【0043】
試料導入管5Aの開口部5A1は、特に図8及び図9に示すように、内部空間を小さくすると同時に、その内側周面が試料載置片22に接触しないように、試料載置片22の略全体を収容する形状をなすものである。具体的に開口部5A1は、先端に行くに従って徐々に拡開する拡開部5A11と、当該拡開部5A11の先端側端部に連続して形成された円筒部5A12とからなる。また、試料導入管5Aは試料載置片22の熱を外部に伝達しにくい材質からなり、例えば石英ガラスから形成されている。
【0044】
また、試料導出管5Aは、試料載置片22に対して進退移動可能(本実施形態では上下動可能)に構成されている。つまり、試料導出路5の気化チャンバ3側端部が、試料載置片22に対して進退移動可能(上下動可能)に構成されている。具体的な構成としては、気化チャンバ3の側周壁に形成された挿通孔の内面と試料導出管5Aとの間にOリング等のシール部材101を介在させることにより、気密性を確保しながらもスライド可能にしている。
【0045】
そして、試料導出管5Aの開口部5A1が、図8に示すように、試料載置片22に接近又は接触して試料載置片22に載置された試料を加熱して気化する加熱位置Pと、開口部5A1が試料載置片22から離間して、試料載置片22に試料を載置する載置位置Qとの間を上下移動する。本実施形態の加熱位置Pは、開口部5A1が断面概略下向きコの字形状部分のほぼ全てを収容する。載置位置Qは、気化チャンバ3の挿入口31に試料供給器を挿入させて試料載置片22上に試料を載置できる位置である。
【0046】
ここで試料載置片22への試料載置から加熱までの手順について説明する。試料載置時には、試料導出管5Aを試料載置片22から上方に離間させて載置位置Qまで移動させた後、気化チャンバ3の挿入口31に試料供給器を挿入させて試料載置片22上に試料を載置する。その後、試料導出管5Aを試料載置片22に接近又は接触するまで下げる。そして、試料載置片22に電流を流して試料を加熱する。
【0047】
次に、ICP発光分析装置Zにより得られる検出信号強度に対する、試料導出管5Aの開口部5A1の試料載置片22からの高さ位置影響を図10に示す。なお、図10において「上」は、試料導出管5Aの開口部5A1が載置位置Qにある場合を示し、「下」は、試料導出管5Aの開口部5A1が加熱位置Pにある場合を示し、「中」は、試料導出管5Aの開口部5A1が載置位置Q及び加熱位置Pの中間位置にある場合を示し、縦軸は検出信号の面積強度を示す。この図10から分かるように、試料導出管5Aの開口部5A1が試料載置片22に近いほど、得られる検出信号強度が大きくなることが分かる。
【0048】
仕切り構造8は、加熱気化部2の周囲の空間を仕切り、熱膨張するキャリアガスの体積を制限するものである。本実施形態の仕切り構造8は、加熱気化部2周囲の空間において、試料導出管5A(試料導出路5)が設けられた空間とは反対側の空間を仕切るものであり、試料載置片22の下方に設けられている。
【0049】
具体的にこのものは、特に図7及び図8に示すように、試料載置片22の裏面に対向し、当該試料載置片22と略平行となるように設けられた仕切り板81と、当該仕切り板81を当該位置に支持する支持部材82とを備えている。
【0050】
仕切り板81は、図9に示すように、試料導出管5Aの開口部5A1の開口形状と略同一形状をなすものであり、平面視略円板状をなす。また仕切り板81は、試料載置片の熱を外部に伝達しにくい材質からなり、例えば石英ガラスから形成されている。本実施形態の仕切り板81の径は、試料導出管5Aの開口部5A1の開口径よりも若干小さく(例えば1〜2mm程度小さく)してある。これにより、試料導出管5Aの開口部5A1及び仕切り板81より形成される空間の開口が下方を向くことになり(図8中の拡大図参照)、仕切り板81の下方から気化チャンバ内に供給されたキャリアガスが、試料導出管5Aの開口部5A1に流入しやすくなる。したがって、試料載置片22により気化された試料を外部に流出させることなく、ほぼ全てを試料導出路5に導くことができるようになる。
【0051】
支持部材82は、一端部がキャリアガス供給路4に連通するとともに、他端部が仕切り板81に接続され、キャリアガスが流通する内部流路82aを有する円筒状部材であり、その中間部分には、キャリアガス供給路4により供給されたキャリアガスを気化チャンバ3内に供給する供給孔821が形成されている。この供給孔821は支持部材82における仕切り板81に接続された他端部近傍に形成され、気化チャンバ3内に放射状に満遍なく供給するため、複数(本実施形態では4つ)の供給孔821が支持部材82の側壁に放射状に形成されている。
【0052】
このような構成により、試料載置片22が開口部5A1及び仕切り板81により挟み込まれることにより、試料載置片22周囲の空間が開口部5A1及び仕切り板81により実質的に閉塞され、熱膨張するキャリアガスが制限される。これにより、前記実施形態に説明したように、気化チャンバ3内へのキャリアガスの供給量を停止した場合であっても、試料載置片からの熱により気化チャンバ3内にあるキャリアガスが熱膨張し、試料導出路5の流量が急激に変化してしまうことがあるという問題を解決することができる。
【0053】
しかしながら、熱膨張するキャリアガスは、試料導出管5Aの開口部5A1及び仕切り板81により形成された空間に含まれるもののみとなり、体積膨張するキャリアガスの体積が小さくなる結果、プラズマ内へ導入されるキャリアガス量が測定するのに十分得られないことがある。これを解決するため、供給量調整機構6が、好適なキャリアガス量にするため、気化チャンバ3内に供給するキャリアガスの流量を調整する必要がある。
【0054】
そのため、本実施形態の供給量調整機構6は、加熱気化部2により試料を加熱する際に、気化チャンバ3内へのキャリアガスの供給量を減じ、さらにその供給量を加熱気化部2の加熱温度に基づいて調整する。具体的には、加熱気化部2の加熱温度に応じてキャリアガスの供給量が予め設定されており、その設定値に基づいて、弁制御部62が流量制御弁61を制御する。これにより、加熱気化部2(具体的には試料載置片22)の周囲の空間を仕切ったことにより生じるキャリアガス供給量の変動をキャンセルして、好適なキャリアガス量をプラズマ内に供給することができる。
【0055】
次に、キャリアガスを加熱時及び非加熱時を問わず一定流量600ml/minで供給する場合と、キャリアガスを非加熱時に供給して加熱時に供給しない場合とにおけるICP発光分析装置Zにより得られる検出信号強度を図11に示す。この図の横軸は加熱気化部2の加熱温度であり、縦軸は検出信号の面積強度である。また、図11中、「一定供給の場合」は、一定流量600ml/minで供給する場合の面積強度を示し、「STOP&FLOWの場合」は、キャリアガスを非加熱時に供給して加熱時に供給しない場合の面積強度を示す。この図11から分かるように、キャリアガスを加熱時及び非加熱時を問わず一定流で供給する場合には、加熱温度が高くなれば信号強度が低下することが分かる。一方、キャリアガスを非加熱時に供給して加熱時に供給しない場合には、加熱温度が高くなれば信号強度が高くなることが分かる。また、2つの場合を比較すると、キャリアガスを非加熱時に供給して加熱時に供給しない場合の方が検出信号強度の最大値が小さいことから、加熱時においても、キャリアガスを供給した方が一層高い強度の検出信号を得ることができることが分かる。なお、この場合であっても、加熱時のキャリアガスの供給量は、非加熱時のキャリアガスの供給量よりも小さい。
【0056】
<第2実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る試料気化導入装置1によれば、試料の加熱時におけるキャリアガスの供給量を減ずるだけでなく、キャリアガスが熱膨張しうる空間を制限しているので、試料導出路5内のキャリアガス及び気化された試料の流速の増大を可及的に小さくすることができ、流量の急激な変化によるプラズマの乱れ、及び気化された試料のプラズマの通過速度の増大を抑えることができる。したがって、プラズマにおいて十分に励起することができるようになり、測定感度、測定精度、再現性又は直線性などを向上させることができる。
【0057】
<その他の変形実施形態>
【0058】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。以下の説明において前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付すこととする。
【0059】
例えば、前記実施形態の構成に加えて、図12に示すように、試料導出路5に流量制御部9を設けても良い。流量制御部9としては、圧力制御弁を用いたもの等種々の流量制御器を用いることができる。このように、試料導出路5に流量制御部9を設けることにより、気化チャンバ3へのキャリアガス供給量の調整のみでは、気化した試料の移送速度が十分な励起を行うには大きすぎる場合、又は、試料が気化することにより、試料ガスが爆発的に(一瞬で大量に)発生して、プラズマへの移送速度が十分な励起を行うには大きすぎる場合であっても、プラズマトーチZ1への試料の移送速度を調整することができ、検出信号を向上させることができる。
【0060】
また、前記実施形態では、加熱時に気化チャンバへのキャリアガスの供給を停止する(供給量をゼロにする)ものであったが、その他、加熱時に気化チャンバへのキャリアガスの供給量を減ずるものであっても良い。例えば、加熱前の気化チャンバへのキャリアガスの供給量が2L/minであった場合、加熱時には、当該供給量よりも小さい供給量、例えば1L/minにして供給するようにしても良い。
【0061】
さらに、試料導出路に流量計を設け、当該流量計の出力値に基づいて、弁制御部が、圧力制御弁を制御して、キャリアガスの供給量を調整するようにしても良い。
【0062】
その上、試料導出路の一端開口(気化チャンバ側開口)の形状は、前記各実施形態の形状に限られず、その他、例えば先端に行くに従って段階的に拡開する形状であっても良いし、断面同一形状をなすものであって良い。
【0063】
また、仕切り構造に関して言うと、前記実施形態の構造に限られず、図13に示すように、試料載置片22の下空間の周囲を囲む円筒状の仕切壁により構成しても良いし、図14に示すように、前記実施形態同様に仕切り板81と支持部材82とを備えたものであり、仕切り板81に開口81aが形成され、支持部材82にキャリアガス供給路4及び前記開口81aを連通する内部流路82bが形成されるものであっても良い。
【0064】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。なお、この場合であっても、窪み部よりも大きい径を有する開口とすることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1実施形態に係る試料気化導入装置の構成を模式的に示す図。
【図2】1000℃に加熱した場合の試料導出路の流量変化を示す図。
【図3】1500℃に加熱した場合の試料導出路の流量変化を示す図。
【図4】2000℃に加熱した場合の試料導出路の流量変化を示す図。
【図5】同実施形態の試料気化導入装置を用いた場合と、従来の試料気化導入装置を用いた場合との検出信号の強度の比較を示す図。
【図6】加熱温度を変化させた場合の検出信号の強度の比較を示す図。
【図7】第2実施形態に係る試料気化導入装置の構成を模式的に示す図。
【図8】同実施形態の仕切り構造を主として示す模式的拡大図。
【図9】図8におけるA−A線断面図。
【図10】ICP発光分析装置により得られる検出信号強度に対する、試料導出管の試料載置片からの高さ位置影響を示す図。
【図11】異なる供給方式におけるICP発光分析装置により得られる検出信号強度を示す図。
【図12】変形実施形態に係る試料気化導入装置の構成を模式的に示す図。
【図13】仕切り構造の変形例を示す図。
【図14】仕切り構造の変形例を示す図。
【符号の説明】
【0066】
1 ・・・試料気化導入装置
Z ・・・元素分析装置
Z1・・・プラズマ
2 ・・・加熱気化部
3 ・・・気化チャンバ
4 ・・・キャリアガス供給路
5 ・・・試料導出路
6 ・・・供給量調整機構
61・・・流量制御弁
62・・・制御部
8 ・・・仕切り構造
9 ・・・流量制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを用いた分析装置に試料を気化して導入する試料気化導入装置であって、
前記試料を加熱して気化するための加熱気化部と、
前記加熱気化部を収容する気化チャンバと、
前記気化チャンバに連通し、前記気化チャンバ内にキャリアガスを供給するためのキャリアガス供給路と、
前記気化チャンバに連通し、前記気化チャンバ内で気化された試料を前記キャリアガスとともに前記分析装置に導出するための試料導出路と、
前記キャリアガス供給路に設けられ、前記加熱気化部により前記試料を加熱する際に、前記気化チャンバ内へのキャリアガスの供給量を減ずる供給量調整機構と、を具備する試料気化導入装置。
【請求項2】
前記供給量調整機構が、前記加熱気化部の加熱温度に応じて、キャリアガスの供給量を減ずるものである請求項1記載の試料気化導入装置。
【請求項3】
前記供給量調整機構が、前記加熱気化部により前記試料を加熱する際に、前記気化チャンバへのキャリアガスの供給を停止する請求項1記載の試料気化導入装置。
【請求項4】
前記供給量調整機構が、前記加熱気化部による加熱開始よりも所定時間前から加熱終了時まで、前記気化チャンバへのキャリアガスの供給を停止する請求項3記載の試料気化導入装置。
【請求項5】
前記供給量調整機構が、
前記キャリアガス供給路上に設けられた流量制御弁と、
前記流量制御弁を制御する弁制御部と、を備える請求項1、2、3又は4記載の試料気化導入装置。
【請求項6】
前記試料導出路に設けられ、前記試料導出路内の流量を制御する流量制御部をさらに備える請求項1、2、3、4又は5記載の試料気化導入装置。
【請求項7】
前記試料導出路の気化チャンバ側端部が、先端に行くに従って徐々に拡開する形状をなすものである請求項1、2、3、4、5又は6記載の試料気化導入装置。
【請求項8】
前記加熱気化部の周囲の空間を仕切り、熱膨張するキャリアガスの体積を制限する仕切り構造をさらに備える請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の試料気化導入装置。
【請求項1】
プラズマを用いた分析装置に試料を気化して導入する試料気化導入装置であって、
前記試料を加熱して気化するための加熱気化部と、
前記加熱気化部を収容する気化チャンバと、
前記気化チャンバに連通し、前記気化チャンバ内にキャリアガスを供給するためのキャリアガス供給路と、
前記気化チャンバに連通し、前記気化チャンバ内で気化された試料を前記キャリアガスとともに前記分析装置に導出するための試料導出路と、
前記キャリアガス供給路に設けられ、前記加熱気化部により前記試料を加熱する際に、前記気化チャンバ内へのキャリアガスの供給量を減ずる供給量調整機構と、を具備する試料気化導入装置。
【請求項2】
前記供給量調整機構が、前記加熱気化部の加熱温度に応じて、キャリアガスの供給量を減ずるものである請求項1記載の試料気化導入装置。
【請求項3】
前記供給量調整機構が、前記加熱気化部により前記試料を加熱する際に、前記気化チャンバへのキャリアガスの供給を停止する請求項1記載の試料気化導入装置。
【請求項4】
前記供給量調整機構が、前記加熱気化部による加熱開始よりも所定時間前から加熱終了時まで、前記気化チャンバへのキャリアガスの供給を停止する請求項3記載の試料気化導入装置。
【請求項5】
前記供給量調整機構が、
前記キャリアガス供給路上に設けられた流量制御弁と、
前記流量制御弁を制御する弁制御部と、を備える請求項1、2、3又は4記載の試料気化導入装置。
【請求項6】
前記試料導出路に設けられ、前記試料導出路内の流量を制御する流量制御部をさらに備える請求項1、2、3、4又は5記載の試料気化導入装置。
【請求項7】
前記試料導出路の気化チャンバ側端部が、先端に行くに従って徐々に拡開する形状をなすものである請求項1、2、3、4、5又は6記載の試料気化導入装置。
【請求項8】
前記加熱気化部の周囲の空間を仕切り、熱膨張するキャリアガスの体積を制限する仕切り構造をさらに備える請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の試料気化導入装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−229442(P2009−229442A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219648(P2008−219648)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
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