説明

試料注入器

【課題】被検試料中に混入している気泡を確実に除去することができる試料注入器を提供する。
【解決手段】試料注入器1は、注入器本体2を備えている。注入器本体2は、弾性変形可能な容器部2Aと、吸引管部2Bおよび吐出管部2Cとを備え、吸引管部2Bの先端開口部10が吸引口を形成し、吐出管部2Cの先端開口部15が吐出口を形成している。また、吸引管部2Bの内部に逆止弁9を設け、吐出管部2Cの内部には除泡剤を含浸したフィルター16と、被検試料の化学反応を促進させたり、被検試料を一定の測定条件にするコンディショニング剤が含浸されたフィルター17を配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛乳中の菌、血液や尿中に存在するペプチド類などの検査に用いて好適な試料注入器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
牛乳中の菌、血液や尿中に存在するペプチド類、生体内で起こる分子間の相互作用(免疫反応、タンパク質間相互作用など)をリアルタイムで測定する装置としては、例えば 特許文献1、2、3に開示されている表面プラズモン共鳴現象測定装置が知られている。
【0003】
上記の表面プラズモン共鳴現象測定装置によって液状の被検試料を測定する際には、被検試料を試料注入器により毛細管現象を利用して一定量採取し、試料セルの小さな穴からセル内に漏れないように注入している。
【0004】
【特許文献1】特許第3462179号公報
【特許文献2】特開2001−194298号公報
【特許文献3】特許第3356213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した表面プラズモン共鳴現象測定装置に用いられている従来の試料注入器は、一般の簡単な構造からなるスポイトを用いているため、被検試料中に空気(気泡)が混入しないように採取することが難しく、熟練を要するという問題があった。また、従来の試料注入器は、被検試料中に気泡が混入してしまうと取り除くことが難しいため、測定に影響(被検試料の屈折率変化や計測光量の減少等)を及ぼし、正確な検査ができなくなる。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、試料中に混入している気泡を確実に除去し得るようにした試料注入器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の発明は、弾性変形可能な容器部と、この容器部に連設された吸引管部および吐出管部とからなる注入器本体とを備え、前記容器部の押圧による弾性変形にともなう内部圧力の変化により、前記吸引管部から被検試料を吸引したり、前記被検試料を前記吐出管部から吐出させる試料注入器であって、前記吸引管部側に逆止弁を組み込み、前記吐出管部内に除泡剤を含浸させたフィルターを組み込んだものである
【0008】
また、本発明は、上記第1の発明において、前記吐出管部内に被検試料の化学反応を促進または一定の測定条件にするコンディショニング剤を含浸させたフィルターをさらに組み込んだものである。
【0009】
また、本発明は、上記第1発明において、前記フィルターに被検試料の化学反応を促進または一定の測定条件にするコンディショニング剤をさらに含浸させたものである。
【0010】
さらに、本発明は、上記第1、第2、第3のうちのいずれか一つの発明において、前記容器部の内部を弾性変形可能な仕切壁によって前記吸引管部に連通する第1の室と、前記吐出管部に連通する第2の室に仕切るとともに、前記仕切壁に前記第1、第2の室を互いに連通させる連通孔を形成し、この連通孔は、前記容器部の押圧による前記仕切壁の弾性変形によって閉じ、押圧解除による仕切壁の原形復帰によって開くことにより前記仕切壁とともに逆止弁を構成するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、フィルターに除泡剤を含浸させているので、被検試料中に混入した気泡を取り除くことができる。また、本発明においては、逆止弁を備えているので、吸引管部からの被検試料の漏れを防止することができる。
【0012】
また、本発明においては、フィルターに被検試料の化学反応を促進または一定の測定条件にするコンディショニング剤をさらに含浸させているので、被検試料の化学反応を促進させるか、または被検試料を一定の測定条件にすることができる。一定の測定条件にすることの中には、例えば被検試料のpH値を所定の値にすることが含まれる。
【0013】
さらに、本発明においては、仕切壁に形成した連通孔が容器部の押圧変形による仕切壁の弾性変形により閉塞し、押圧解除によって弾性変形が元に戻ることにより開く。このため、連通孔と仕切壁は逆止弁として機能する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る試料注入器の一実施の形態を示す断面図である。同図において、試料注入器1は、注入器本体2を備えている。
【0015】
前記注入器本体2は、弾性変形可能な容器部2Aと、この容器部2Aに取付けられた吸引管部2Bおよび吐出管部2Cとで構成されている。
【0016】
前記容器部2Aは、ゴム等の弾性材料によってラグビーボール状に形成されており、長軸方向の一端が開口し、この開口部3に前記吸引管部2Bが接続されている。
【0017】
前記吸引管部2Bは、先端に向かって小径化するようにテーパ状に形成された第1の管体4と、この第1の管体4の先端側開口部5に差込み接続された第2の管体6とで構成されている。第1の管体4はガラスまたはプラスチックによって形成され、基端側開口端縁7が前記容器部2Aの開口端面に形成した環状溝8に嵌着され、かつ超音波溶着等によって固定されている。
【0018】
前記第2の管体6は、プラスチックによって一体に形成されて、内奥部に逆止弁9を有し、先端側が第1の管体4の先端側開口部5から外部に突出し、超音波溶着等によって第1の管体4に固定されている。また、第2の管体6の先端は、先細のテーパ部6Aを形成し、その先端開口部10が被検試料Lを吸い込む吸引口(以下、吸引口10という)を形成している。
【0019】
前記逆止弁9は、適度な弾性を有する舌片状で、第2の管体6と一体に形成されており、吸引口10側の端部が第2の管体6の内壁に連設され、容器部2A側端部が第2の管体6の内壁に対して通常密接しており、容器部2A内が負圧になると二点鐘線で示すように開くように構成されている。逆止弁としては、これに限らず種々の変形が可能であり、例えば図2(a)に示すように、裁頭円錐形の浮動型逆止弁11を用いたり、図2(b)に示すように互いに対向する2枚の舌片12a、12bからなり、通常両舌片の先端部が密接する逆止弁12を用いてもよい。
【0020】
前記吐出管部2Cは、第1の管体4の外周面基端部に一体に、かつ第1の管体4の軸線と直交するように突設されており、先端部が表面プラズモン共鳴現象測定装置に用いられる試料セル13の試料導入口14への差込みを容易に、かつ確実にするために先細テーパ状に形成され、先端開口部15が被検試料Lの吐出口(以下、吐出口15という)を形成している。吐出管部2Cの内部には、除泡剤を含浸させたフィルター16と、コンディショニング剤を含浸させたフィルター17が組み込まれている。吐出管部2Cの内壁には、前記フィルター16、17が吐出口15から抜け出すのを防止するために、突起状の抜け防止部18が突設されている。
【0021】
フィルター16、17の素材としては、脱脂綿、不織布、不織紙、メンブレンフィルター、ろ紙等の適宜な素材が用いられる。
【0022】
除泡剤は、被検試料L中に混入している気泡を除去するために用いられるもので、例えばシグマ社製の商品名アンチフォーム204、アンチフォームA、アンチフォームBエマルジョン、アンチフォームCエマルジョン、アンチフォームO−30、アンチフォームSE−15等が用いられる。
【0023】
コンディショニング剤は、被検試料の化学反応を促進させたり、被検試料を一定の測定条件、例えば、pH値を所定の値にするために用いられるもので、例えばtween20、Poly(Oxyethlene)sorbitanmonolaulate、リン酸バッファー乾燥物、トリスバッファー乾燥物、Kathon抗菌剤等が用いられる。
【0024】
このような試料注入器1において、牛乳等の被検試料を採取するときは、第2の管体6の先端部6Aを被検試料の中に差し込み、容器部2Aを手で押し潰して内部の空気を吐出管部2Cから排出する。そして、容器部2Aを押し潰した状態を急速に解放すると、容器部2Aは弾性復帰して元の形状に戻る。このとき、容器部2Aの内部は負圧になるため、逆止弁9が二点鎖線で示すように開き、被検試料Lが吸引管部2Bを通って容器部2A内に吸い込まれる。一方、フィルター16、17は抵抗になるため、外気が吐出管部2Cを通って容器部2A内に入り込まれることはない。容器部2Aが元の形状に復帰すると、逆止弁9は容器部2Aおよび吸引管部2B内の内圧によって閉じる。このため、注入器本体2内の被検試料Lは、吸引口10から漏洩するおそれがなく、試料注入器1の取り扱いが容易である。ただし、逆止弁9の閉じ方が不完全であると、被検試料Lが若干漏れることが予想されるが、測定には何ら問題ない。
【0025】
試料注入器1によって採取された被検試料Lを試料セル13に供給するときは、吐出管部2Cの先端部を試料セル13の試料導入口14に差し込み、容器部2Aを手でゆっくりと押し潰して内部の被検試料L吐出管部2Cから排出し、試料セル13内に注入する。このとき、被検試料Lは、吐出管部2C内のフィルター16を通過することにより、除泡剤によって被検試料L中に混入している気泡が取り除かれる。したがって、気泡による測定への影響がなく、正確な測定を行うことができる。また、被検試料Lはフィルター17を通過することにより、コンディショニング剤によって化学反応が促進されたり、一定の測定条件に設定される。したがって、迅速な測定を可能にし、表面プラズモン共鳴現象測定装置の試料注入器に用いて好適である。なお、このような試料注入器1は、一度使用すると、廃棄される使い捨てタイプである。
【0026】
図3は本発明の他の実施の形態を示す一部破断斜視図、図4は断面図である。これらの図において、試料注入器30は、プラスチック製の注入器本体31を備えている。注入器本体31は、平面視円形の扁平な容器部32と、この容器部32の外周にそれぞれ一体に突設された吸引管部33および吐出管部34とで構成されている。また、この注入器本体31は、厚み方向中央で分割形成された2つのケース片35A、35Bの分割面を互いに密接して溶着することにより形成されている。
【0027】
容器部32の表面板32aと裏面板32bは、指で把持すると図4に2点鎖線で示すように弾性変形し得るように十分に薄く形成されている。また、容器部32の内部は、仕切壁35によって第1、第2の室36、37に仕切られており、第1の室36と吸引管部33の内部が常時連通し、第2の室37と吐出管部34の内部が常時連通している。また、仕切壁35は、第2の室37の容積が第1の室36の容積より大きくなるように容器部32の中央から吸引管部33側に変位して設けられている。また、仕切壁35は、表面板32aと裏面板32bと同様に撓み得るように十分に薄く形成されており、長手方向中央には第1、第2の室36、37を連通させる連通孔38が形成されている。この連通孔38は、仕切壁35の弾性変形によって閉塞するように扁平に形成されている。
【0028】
さらに、前記容器部32の表面板32aと裏面板32bには、被検試料Lを採取するときに指で把持して押圧する部分Aと、採取した被検試料Lを吐出させるときに把持して押圧する部分Bが色分け表示されている。採取時の押圧部Aは、吐出管部34と仕切壁35の中間部分、言い換えれば第2の室37の中央部部分である。吐出時の押圧部Bは、仕切壁35の連通孔38と対応する部分である。
【0029】
前記吸引管部33は、先端に向かって小径化するテーパ管からなり、容器部32の外周から接線方向に突設されている。
【0030】
前記吐出管部34は、ストレートな管体もしくは先端部がテーパ状に形成された管体からなり、内部に除泡剤とコンディショニング剤を含浸させたフィルター40が組み込まれている。
【0031】
このような試料注入器30において、被検試料Lを採敢するときは、吸引管部33の先端部を容器内の被検試料の中に差し込み、容器部32の表、裏面32a、32bで採取時の押圧部Aを指で把持してゆっくりと押し潰して内部の空気を吐出管部34から排出する。そして、十分に押し潰した後、急激に押圧力を取り除いて表裏面32a、32bを元の形状に復帰させる。これにより、被検試料Lが吸引管部33を通って容器部32の第1、第2の室36,37内に所定量吸い込まれる。
【0032】
被検試料Lを採取した後、吐出管部34の先端部を試料セル13の試料導入口14(図1)に差し込み、容器部32の表裏面32a、32bで吐出時の押圧部Bを指で把持して押圧し、表、裏面32a、32bを内側にゆっくりと弾性変形させる。これにより、第2の室37内の被検試料Lは室内の圧力上昇にともない吐出管部34を通って試料セルに注入される。また、押圧部Bを指で押圧すると、仕切壁35の連通孔38が形成されている部分が撓んで連通孔38の穴壁を互いに密着させる。つまり、仕切壁35の撓みによって連通孔38を閉塞する。このため、仕切壁35と連通孔38は、逆止弁として機能し、第2の室37内の被検試料が連通孔38を通って第1の室36に逆流し、吸引管部33から外部に漏洩することはない。
【0033】
このような試料注入器30においては、弾性変形可能な仕切壁35と連通孔38とで逆止弁を構成しているので、舌片状の逆止弁に比べて製造が簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る試料注入器の断面図である。
【図2】(a)、(b)はそれぞれ逆止弁の他の実施の形態を示す要部の断面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態を示す一部破断斜視図である。
【図4】断面図である。
【符号の説明】
【0035】
吐出管部、9、11、12…逆止弁、10…吸引口、15…吐出口、16、17…フィルター、30試料注入器、31…注入器本体、32…容器部、33…吸引管部、34…吐出管部、35…仕切壁、38…連通孔、40…フィルター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性変形可能な容器部と、この容器部に連設された吸引管部および吐出管部とからなる注入器本体とを備え、前記容器部の押圧による弾性変形にともなう内部圧力の変化により、前記吸引管部から被検試料を吸引したり、前記被検試料を前記吐出管部から吐出させる試料注入器であって、
前記吸引管部側に逆止弁を組み込み、前記吐出管部内に除泡剤を含浸させたフィルターを組み込んだことを特徴とする試料注入器。
【請求項2】
請求項1記載の試料注入器において、
前記吐出管部内に被検試料の化学反応を促進または一定の測定条件にするコンディショニング剤を含浸させたフィルターをさらに組み込んだことを特徴とする試料注入器。
【請求項3】
請求項1記載の試料注入器において、
前記フィルターに、被検試料の化学反応を促進または一定の測定条件にするコンディショニング剤をさらに含浸させたことを特徴とする試料注入器。
【請求項4】
請求項1、2、3のうちのいずれか一項に記載の試料注入器において、
前記容器部の内部を弾性変形可能な仕切壁によって前記吸引管部に連通する第1の室と、前記吐出管部に連通する第2の室に仕切るとともに、前記仕切壁に前記第1、第2の室を互いに連通させる連通孔を形成し、この連通孔は、前記容器部の押圧による前記仕切壁の弾性変形によって閉じ、押圧解除による仕切壁の原形復帰によって開くことにより前記仕切壁とともに逆止弁を構成することを特徴とする試料注入器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−168595(P2009−168595A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6655(P2008−6655)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】