説明

試料注入装置、試料注入方法、及び液体クロマトグラフィー装置

【課題】分析結果の再現性を向上させる。
【解決手段】カラムに試料を注入するために該カラムに接続された試料注入部に装着可能な構成からなる試料注入用ニードルと、前記試料注入用ニードルと接続可能であると共に、接続時に前記試料注入用ニードルに所定量の試料を吸引させる試料吸引手段と、前記カラムに移動相を供給する移動相供給手段と、前記試料注入用ニードルを前記試料吸引手段又は前記移動相供給手段の何れかに選択的に接続させるための第1の切換弁と、前記試料注入部を備え、前記試料注入用ニードルを前記試料注入部に装着した場合に前記試料注入用ニードルを介して前記カラムに前記試料及び前記移動相を供給し、前記試料注入用ニードルを前記試料注入部から取り外した場合に前記第1の切換弁を介して前記カラムに前記移動相を供給するための第2の切換弁と、前記試料注入用ニードルの移動時及び/又は試料注入時における前記移動相供給手段の圧力の変動を防止する圧力変動防止手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料注入装置、試料注入方法、及び液体クロマトグラフィー装置に係り、特に分析結果の再現性を向上させるための試料注入装置、試料注入方法、及び液体クロマトグラフィー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体クロマトグラフィー装置は、概略すると移動相(溶出溶媒)を貯蔵する貯槽、移動相を貯槽から供給するポンプ、試料を移動相と共にカラムに向う配管に注入する試料注入装置、試料中の成分を分離するための充填剤が充填されているカラム、及びカラムを一定の温度に保つ恒温槽及び分離された試料中の成分を検出する検出器等の構成を有している。このうち、試料注入装置は、試料を吸引した試料注入用ニードルを試料注入ポート(試料注入部)に装着して、切換弁を介して、試料を移動相と共に配管に注入する仕組みを有している。
【0003】
また近年では、液体クロマトグラフィー装置の検出感度が向上しており、これに伴い、キャリーオーバーと呼ばれる現象が問題になっている。キャリーオーバーとは、時系列的に前に測定した試料が液体クロマトグラフィー装置内に残留し、あたかも現在測定している試料中にその物質が存在するかのような検出結果を示す現象であり、分析結果の信頼性を低下させるものである。キャリーオーバーは、試料を移動相と共に配管に注入する際に、試料注入装置内の金属及び/又は樹脂に試料が付着して残留し、次の試料を注入する際に残留した試料が混入することによって生じる。
【0004】
そこで、キャリーオーバーをより確実に低減するために、2本の注入用ニードルを設け、試料が吸引された第1の試料注入用ニードルを試料注入ポートに装着することにより、切換弁を介さずに試料をカラムに供給することが可能となるため、従来のように切換弁に試料が残存することを防止し、キャリーオーバーを十分に低減することができる手法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
特許文献1に示されている2本の注入用ニードルを設けた装置では、まず第1の試料注入用ニードルが注入部に接続された移動相供給状態から、第1の試料注入用ニードルを非接続状態にし、次に試料を保持した第2の試料注入用ニードルを注入部に接続して、移動相のカラムへの流入を再開するという工程を経て試料注入を行う。
【0006】
ここで、上述した手法は、キャリーオーバーの発生を抑制することはできるが、2本の試料注入用ニードルを設けると共に、それぞれを制御させるための複雑な制御機能が別途必要となる。また、2本の試料注入用ニードルを用いた試料注入工程には、ニードルを切り換えるためのある一定の時間が必要となり、その状態の変更の間に移動相のカラムへの流入が途絶え、カラム内の圧力変動が起こる可能性があるため、安定した分析を行うには適切でない場合もある。更に、2本のニードル脱着時の液の漏洩に関する特別な配慮が必要となる場合もある。そこで、従来では、比較的安価な構成でキャリーオーバーの発生を抑制し、検出精度を向上させる試料注入装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
特許文献2に示されている技術では、試料注入用ニードルを試料注入部から取り外した場合に、第1の切換弁を介してカラムに移動相を供給するための第2の切換弁を有し、第2の切換弁は、試料注入用ニードルを挿入させて保持する挿入保持部材と、カラムに試料及び移動相を供給するための第1の経路とを有し、挿入保持部材は、試料注入用ニードルを挿入保持部材から取り外した場合に、第1の経路を閉塞することにより、比較的安価な構成でキャリーオーバーの発生を抑制し、検出精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−201121号公報
【特許文献2】国際公開第2010/013698号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、最近では、更に高精細な化合物の分離が求められており、特許文献2に示されているような手法を用いる場合には、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC;High Performance Liquid Chromatography)用のオートサンプラーにおいて、サンプル注入部と分析カラム間を直結し、オートサンプラー内でのサンプルの残留を低減させているが、サンプル注入時に分析用ポンプの流路が開放されると圧力が低下するため、分析条件によっては分析結果の再現性が悪くなる可能性があった。
【0010】
したがって、本発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであり、分析結果の再現性を向上させるための試料注入装置、試料注入方法、及び液体クロマトグラフィー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明は、以下の特徴を有する課題を解決するための手段を採用している。
【0012】
本発明は、試料注入装置において、カラムに試料を注入するために該カラムに接続された試料注入部に装着可能な構成からなる試料注入用ニードルと、前記試料注入用ニードルと接続可能であると共に、接続時に前記試料注入用ニードルに所定量の試料を吸引させる試料吸引手段と、前記カラムに移動相を供給する移動相供給手段と、前記試料注入用ニードルを前記試料吸引手段又は前記移動相供給手段の何れかに選択的に接続させるための第1の切換弁と、前記試料注入部を備え、前記試料注入用ニードルを前記試料注入部に装着した場合に、前記試料注入用ニードルを介して前記カラムに前記試料及び前記移動相を供給し、前記試料注入用ニードルを前記試料注入部から取り外した場合に、前記第1の切換弁を介して前記カラムに前記移動相を供給するための第2の切換弁と、前記試料注入用ニードルの移動時及び/又は試料注入時における前記移動相供給手段の圧力の変動を防止する圧力変動防止手段とを有することを特徴とする。
【0013】
また本発明は、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の試料注入装置を用いてカラムに対して試料を注入する試料注入方法であって、前記試料注入用ニードルを前記試料注入部に装着した場合に、前記第1の切換弁による経路の切り換えにより、前記試料注入用ニードルと前記移動相供給手段とを接続し、前記試料注入用ニードルから前記カラムに前記移動相を供給する第1の移動相供給ステップと、前記第1の切換弁による経路の切り換えにより、前記試料注入用ニードルと前記試料吸引手段とを接続し、前記試料を該第1の試料注入用ニードル内に吸引する試料吸引ステップと、前記試料吸引ステップにより、前記試料注入用ニードルが試料を吸入している間、前記第1の切換弁及び前記第2の切換弁による経路の切り換えにより、前記移動相供給手段からの移動相を前記カラムに供給する第2の移動相供給ステップと、前記第1の移動相供給ステップ、前記試料吸引ステップ、及び、前記第2の移動相供給ステップにおける前記試料注入用ニードルの移動時及び/又は試料注入時に前記移動相供給手段の圧力の変動を防止する圧力変動防止ステップとを有することを特徴とする。
【0014】
また本発明は、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の試料注入装置を有することを特徴とする液体クロマトグラフィー装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分析結果の再現性を向上させることができる。また、比較的安価な構成でキャリーオーバーの発生を抑制し、検出精度を向上させた試料注入装置や液体クロマトグラフィー装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態における液体クロマトグラフィー装置の概略構成の一例を示す図である。
【図2】本実施形態における試料注入装置の機能構成の一例を示す図である。
【図3】本実施形態における試料注入装置の具体的構成の一例を示す図である。
【図4】ダイレクトインジェクションバルブ(第2の切換弁)の動作例を説明するための図である。
【図5】抵抗管(圧力保持手段)の具体例を説明するための図である。
【図6】本実施形態における試料注入手順の一例を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態における試料注入装置の分析又は待機時の状態を示す図である。
【図8】本実施形態における試料注入装置のニードル上昇時の状態を示す図である。
【図9】本実施形態における試料注入装置のサンプル吸引時の状態を示す図である。
【図10】本実施形態における試料注入装置のニードル洗浄時の状態を示す図である。
【図11】検出器における検出結果の一例を示す図である。
【図12】背圧バイパスの有無による再現性検証結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<本発明について>
本発明は、例えば試料注入装置等におけるカラムダイレクトインジェクションオートサンプラー等において、サンプル吸引時に分析用ポンプの流路が大気開放され、圧力が低下することを防止するため、オートサンプラーと分析用ポンプ間に流路切換バルブを設ける。また、本発明は、サンプル吸引時に、上述した流路切換バルブで分析ポンプの流路を抵抗管等の圧力保持手段にバイパスさせることにより、分析ポンプの流路が大気開放されるのを防止し、抵抗管等によりサンプリング時のポンプ圧力を保持する圧力保持機能を有する。なお、上述した流路切換バルブ及び圧力保持手段を含む構成を圧力変動防止手段とする。
【0018】
以下に、本発明における試料注入装置、試料注入方法、及び液体クロマトグラフィー装置を好適に実施した形態について、図面を用いて説明する。
【0019】
<液体クロマトグラフィー装置の概略構成例>
まず、本発明における試料注入装置を具備する液体クロマトグラフィー装置の概略構成例について図を用いて説明する。図1は、本実施形態における液体クロマトグラフィー装置の概略構成の一例を示す図である。
【0020】
図1に示す液体クロマトグラフィー装置10は、貯槽(溶離液槽)11と、ポンプ(移動相供給手段)12と、試料注入装置13と、カラム恒温槽14と、検出器15と、配管16と、カラム17とを有するよう構成されている。
【0021】
貯槽11は、溶離液である移動相(溶出溶媒)を貯蔵する。ポンプ12は、貯槽11に貯蔵された移動相を貯槽11から吸出し、試料注入装置13に注入する。
【0022】
試料注入装置13は、試料や移動相をカラム恒温槽14に向かう配管16等に注入する。なお、本発明における試料注入装置13の具体的な装置構成や試料注入手法等については後述する。
【0023】
カラム恒温槽14は、配管16から注入される試料中の成分を分離するための充填剤が充填されている分離用のカラム17を一定の温度に保つ。なお、本実施形態においては、カラム恒温槽14を設けていない構成にしてもよい。
検出器15は、分離された成分(化学物質等)を検出する。なお、測定を安定させるために、移動相は、常に貯槽11からポンプ12により試料注入装置13を介してカラム17に供給されていることが好ましい。
【0024】
配管16は、後述する試料注入装置13に設けられたダイレクトインジェクションバルブ(第2の切換弁)と、カラム恒温槽14内のカラム17とを接続する。すなわち、配管16は、後述する試料注入装置13に設けられたインジェクションバルブ(第1の切換弁)と接続されておらず、分離独立している。したがって、後述するように、試料用容器内の試料を吸引した試料注入用ニードルは、配管16のダイレクトインジェクションバルブの試料注入部に装着され、試料を試料注入部に排出することにより、試料は移動相と共に配管16を流れて、カラム17に供給される。
【0025】
なお、上述した液体クロマトグラフィー装置についての構成は、本発明においてはこれに限定されるものではなく、例えば貯蔵11と、ポンプ12との間に移動相を脱気する脱気装置等を設けてもよい。
【0026】
<試料注入装置13:機能構成例>
次に、上述したような液体クロマトグラフィー装置10等に適用される試料注入装置13の機能構成例について、図を用いて説明する。図2は、本実施形態における試料注入装置の機能構成の一例を示す図である。図2に示す試料注入装置13は、試料注入用ニードル21と、シリンジ(試料吸引手段)22と、洗浄液用ポンプ(ウォッシュ液ポンプ)23と、バルブ24と、試料用容器25と、インジェクションバルブ(第1の切換弁)26と、洗浄液用容器27と、洗浄装置28と、ダイレクトインジェクションバルブ(第2の切換弁)29と、ニードル移動手段30と、インジェクションバルブ(第3の切換弁)31と、抵抗管(圧力保持手段)32とを有するよう構成されている。なお、本実施形態におけるインジェクションバルブ(第3の切換弁)31及び抵抗管(圧力保持手段)32は、圧力変動防止手段としての機能を有する。
【0027】
試料注入用ニードル21は、インジェクションバルブ26及びバルブ24を介してシリンジ22に接続可能な構成となっている。また、試料注入用ニードル21は、インジェクションバルブ26及びバルブ24を介して洗浄液用ポンプ23とも接続可能な構成となっている。
【0028】
ここで、バルブ24による経路の切り換えにより試料注入用ニードル21がシリンジ22に接続されると、シリンジ22の押し引きによって、試料注入用ニードル21に対して試料の吸入及び排出を行うことができる。
【0029】
洗浄液用ポンプ23は、インジェクションバルブ26及びバルブ24による経路の切り換えにより、試料注入用ニードル21がインジェクションバルブ26及びバルブ24を介して接続されると、洗浄液用容器27内の洗浄液を試料注入用ニードル21に供給する。
【0030】
バルブ24は、洗浄液用ポンプ23により洗浄液用容器27から送出される洗浄液を、洗浄装置28又は試料注入用ニードル21へ選択的に供給する。具体的には、バルブ24は、例えば3個のポートP1〜P3を有しており、このうち2つのポートを選択的に接続可能とする。
【0031】
ここで、シリンジ22及びインジェクションバルブ26は、何れもバルブ24のある1つのポート(例えば、P3)に接続されているため、シリンジ22とインジェクションバルブ26とは常時接続された状態となっている。なお、バルブ24は、各ポートP1〜P3の何れも他と接続しない状態とすることもできる。
【0032】
試料用容器25は、内部に試料(サンプル)が貯蔵されている。試料用容器25に貯蔵されている試料は、試料注入用ニードル21により必要な所定量が吸引されて、ダイレクトインジェクションバルブ29に設けられた試料注入部(ダイレクトインジェクションポート)に排出される。
【0033】
インジェクションバルブ26は、例えば6つのポートが設けられた構成(例えば、高圧6方バルブ等)となっている。また、インジェクションバルブ26は、6つのポートのうちの5つのポートに、それぞれポンプ12、試料注入用ニードル21、バルブ24、洗浄装置28、及びダイレクトインジェクションバルブ29が接続されている。また、インジェクションバルブ26は、予め設定される複数の接続状態を必要に応じて切り換える構成となっている。
【0034】
洗浄液用容器27は、内部に洗浄液(例えば、水等)が貯蔵されており、洗浄液用ポンプ23に接続されている。洗浄液用容器27に貯蔵されている洗浄液は、洗浄液用ポンプ23により洗浄に必要な所定量が吸入されてバルブ24に圧送される。
【0035】
洗浄装置28は、例えば洗浄部や、超音波振動子、廃液ポート、及び廃液配管等を有する構成となっている。また、洗浄装置28は、バルブ24による経路の切り換えにより洗浄液用ポンプ23と接続されると、洗浄液用容器27から洗浄液が供給される。なお、一定量以上の余剰の洗浄液は、廃液ポートに流入し、これと接続された廃液配管から廃液として外部に排出される。
【0036】
また、洗浄装置28は、試料注入用ニードル21が挿入されることにより、試料注入用ニードル21に付着した試料を洗浄する。これにより、キャリーオーバーの発生を抑制する機能を有する。更に、洗浄装置28には、超音波振動子が設けられており、試料注入用ニードル21を超音波洗浄し得る構成となっている。これにより、試料注入用ニードル21の洗浄効果を高めることができ、より確実にキャリーオーバーの発生を抑制することができる。
【0037】
ダイレクトインジェクションバルブ29は、試料や移動相をカラム恒温槽14に設けられているカラム17に注入するための機構である。ダイレクトインジェクションバルブ29には、試料注入部(ダイレクトインジェクションポート)が設けられており、その試料注入部は分離用カラム17に接続されている。すなわち、本実施形態における試料注入装置13では、試料注入部はインジェクションバルブ26から完全に分離独立した構成となっている。したがって、試料を吸引した試料注入用ニードル21が試料注入部に装着され、試料を試料注入部に排出することにより、この試料は移動相の流れに伴いインジェクションバルブ26を経由することなく、カラム17に送出されることになる。
【0038】
更に、ダイレクトインジェクションバルブ29は、例えば試料(サンプル)採取中のとき等のように、試料注入用ニードル21がニードル移動手段30により取り外され他の動作を行っているような場合に、経路の切り換えを行い、移動相のみをカラム17に送出する機構を有する。
【0039】
ニードル移動手段30は、予め設定された試料注入手順等に基づいて、試料注入用ニードル21を所定のタイミングで所定の位置に移動させる。
【0040】
インジェクションバルブ31は、ポンプ12からの移動相をインジェクションバルブ26に供給するようにバルブの切り換えを行う。また、インジェクションバルブ31は、ポンプからの移動相を抵抗管32に供給するようにバルブの切り換えを行う。
【0041】
抵抗管32は、移動相の流れを制御するポンプ圧力を保持し、圧力値が一定になるように抑制する。なお、上述の例では、圧力保持手段として抵抗管32を用いているが、本発明においてはこれに限定されるものではなく、例えば、流路の端部をネジで閉鎖したり、カラムの一方を閉鎖させたような部材等を用いることもできる。
【0042】
上述したように、第3の切換弁としてのインジェクションバルブ31及び圧力保持手段としての抵抗管32を設けることで、ポンプ圧力低下や変動を抑制することができる。これにより、分析結果の再現性を向上させることができる。
【0043】
また、上述したように、ダイレクトインジェクションバルブ29を設けることで、従来、試料がインジェクションバルブ26を通過することにより生じていたキャリーオーバーを、比較的安価な構成で抑制し、検出精度を向上させることができる。
【0044】
<試料注入装置13の具体的構成>
次に、本実施形態における試料注入装置13の具体的構成について図を用いて説明する。なお、以下に示す説明においては、上述した図1,2に示す構成と同様の構成については、同一の符号を付するものとし、ここでの具体的な説明は省略する。
【0045】
図3は、本実施形態における試料注入装置の具体的構成の一例を示す図である。なお、図3の例では、上述した図2に示す構成と略同様であるが、ニードルを挿入するダイレクトインジェクションバルブ(第2の切換弁)29は、配管44等の機構も示されている。
【0046】
具体的には、図3に示す試料注入装置13は、試料注入用ニードル21と、シリンジ(試料吸引手段)22と、洗浄液用ポンプ23と、バルブ24と、試料用容器25と、インジェクションバルブ(第1の切換弁)26と、洗浄液用容器27と、洗浄装置28と、ダイレクトインジェクションバルブ(第2の切換弁)29と、ニードル移動手段30と、インジェクションバルブ(第3の切換弁)31と、抵抗管(圧力保持手段)32とを有するよう構成されている。なお、図3では、試料注入装置13とは別に、ポンプ(移動相供給手段)12、カラム恒温槽14、及び検出器15も示されている。
【0047】
ここで、図3におけるダイレクトインジェクションバルブ29は、スライド部材41と、ニードル挿入経路42と、圧力調整用経路43と、配管44とを有している。また、ダイレクトインジェクションバルブ29からの移動相は、配管44を通過してカラム恒温槽14にあるカラム17に注入される。
【0048】
また、図3に示す洗浄装置28は、洗浄部28a,28bと、廃液ポート28cとを有するよう構成されている。ここで、洗浄装置28は、バルブ24の切り換えにより、洗浄液用ポンプ23と接続されると、洗浄液用容器27から洗浄液が供給される。また、一定量以上の余剰の洗浄液は、廃液ポート28cに流入し、廃液ポート28cから廃液として外部に排出される。本実施形態では、洗浄装置28に試料注入用ニードル21を挿入することにより、試料51が付着した試料注入用ニードル21の外壁が洗浄される。これにより、キャリーオーバーの発生を抑制することができる。
【0049】
なお、洗浄装置28には、例えば、超音波振動子が設けられていてもよく、その場合には、試料注入用ニードル21を超音波洗浄することができる。これにより、試料注入用ニードル21の洗浄効果を高めることができ、より確実にキャリーオーバーの発生を抑制することができる。
【0050】
また、試料注入用の試料注入用ニードル21は、バルブ24及びインジェクションバルブ26による経路の切り換えにより、シリンジ22に接続され、シリンジ22を押し引きすることにより試料注入用ニードル21に対して、試料用容器25中の試料(サンプルバイアル)51の吸入及び排出を行う。また、試料注入用ニードル21は、インジェクションバルブ26による経路の切り換えにより、ポンプ12に接続されると、ポンプ12より移動相が試料注入用ニードル21に供給される。
【0051】
ここで、図3に示す簡単な動作(切換えシーケンス)について説明する。まず、インジェクションバルブ31を接続状態Bに切り換えて、「ニードル上昇」、「HPV SAM」、「INJ(インジェクション(スライド部材41)) CLOSE」等の処理を行う。なお、上述した「HPV SAM」とは、具体的にはポンプ12をダイレクトインジェクションバルブ29内の圧力調整用経路43に切り換え、試料注入用ニードル21をバルブ24を介してシリンジ22へ接続する状態を示し、例えば、後述する図9に示すインジェクションバルブ26の接続状態をいう。
【0052】
その後、インジェクションバルブ31を接続状態Aに切り換えて、サンプル吸入を行い、ニードル外壁洗浄処理として、「STV(WASH)」(バルブ24のP1とP2とを接続する)、「ポンプON」、「ポンプOFF」、「STV(STOP)」(バルブ24を図3に示す接続状態に切り換える)等の処理を行う。
【0053】
次に、サンプル注入処理として、接続状態Aのまま「STV(WASH)」、「WASH PUMP(ウォッシュ液ポンプ(洗浄液用ポンプ23)) ON」、「ニードル待機位置下降」の処理を行い、その後、インジェクションバルブ31を接続状態Bに切り換えて、「INJ OPEN」、「ニードル押付」(試料注入用ニードル21を配管44まで下降させる)、「HPV COL」(インジェクションバルブ26を図3に示す接続状態に切り換える(具体的には、ポンプ12を試料注入用ニードル21に接続する)の処理を行う。更に、インジェクションバルブ31を接続状態Aに切り換えて、「スタート」(分析を開始するための分析開始信号を出力する)、「WASH PUMP(ウォッシュ液ポンプ(洗浄液用ポンプ23)) OFF」の処理を行う。
【0054】
つまり、本実施形態では、図3に示すように、ポンプ12からインジェクションバルブ26までの間にHPVとしてインジェクションバルブ(第3の切換弁)31を有し、更に、インジェクションバルブ31の一方に抵抗管(圧力保持手段)32を接続することにより、試料注入用ニードル21の上昇(UP),下降(DOWN)等の移動時における圧力変動を抑制することができる。
【0055】
<ダイレクトインジェクションバルブ(第2の切換弁)29の動作について>
ここで、上述したダイレクトインジェクションバルブ(第2の切換弁)29の動作について説明する。図4は、ダイレクトインジェクションバルブ(第2の切換弁)の動作例を説明するための図である。なお、図4(a)は、分析・待機時におけるダイレクトインジェクションバルブ29の動作例を示し、図4(b)は、試料注入用ニードル21の上昇、下降時におけるダイレクトインジェクションバルブ29の動作例を示し、図4(c)は、サンプル吸引時におけるダイレクトインジェクションバルブ29の動作例を示している。
【0056】
図4(a)に示す分析・待機時は、ニードル挿入経路42に試料注入用ニードル21が挿入されている状態となる。このとき、スライド部材41の穴部は、ニードル挿入経路42と導通している。更に、試料注入用ニードル21と配管44の穴部とは、隙間がなく密閉(密封)状態となる。そのため、分析・待機時には、圧力の変動はない。
【0057】
また、図4(b)に示すニードル上昇・下降時は、試料注入用ニードル21とダイレクトインジェクションバルブ29とは離れた状態となる。このとき、ポンプ12は、インジェクションバルブ31により抵抗管32と接続されているため、ポンプ12の圧力は一定に保持される。また、ニードル上昇・下降時の状態は時間にしても僅かであるため、ダイレクトインジェクションバルブ29における圧力の変動も殆どない。
【0058】
また、図4(c)に示すサンプル吸引時は、スライド部材41によりニードル挿入経路42の端部が閉鎖されている状態となる。なお、このスライド部材41は、図4に示すように左右にスライドして穴部を移動させてもよく、また所定の位置を軸にした回転により穴部を移動させ、ニードル挿入経路42を密封状態にしてもよい。このとき、圧力調整用経路43からは、ポンプ12からの移動相が供給される。したがって、一定の圧力が維持されることになる。
【0059】
<抵抗管(圧力保持手段)32について>
次に、本実施形態における抵抗管(圧力保持手段)32の具体例について図を用いて説明する。図5は、抵抗管(圧力保持手段)の具体例を説明するための図である。なお、図5(a)は、抵抗管32としてのバックプレッシャーレギュレータの一例を示し、図5(b)は、抵抗管32の図5(a)に示すA面の図を示し、図5(c)は、抵抗管32の断面図を示している。また、図5に示す抵抗管32の仕様としては、耐圧性能:約70MPaとし、デッドボリューム:約0.4ulとしているが本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0060】
図5に示す抵抗管32は、バネ部材(弾性体)61により、ポンプ12からの移動相の水圧を調整するものであり、調整手段62によりバネの伸び率を調整することにより、圧力を調整することができる。
【0061】
なお、本発明においては、上述した図5(a)に示すつるまきバネ等によるバネ部材61に限定されるものではなく、他の弾性体(例えば、板バネ等)により構成されてもよく、油圧ポンプ等により、圧力調整がなされてもよい。また、本実施形態では、抵抗管32の端部をネジ等で閉鎖するようにしてもよい。つまり、本発明においては、抵抗管32の代わりに圧力調整が可能なレギュレーター等を使用することもできる。
【0062】
<試料注入装置13を用いた試料注入方法>
次に、図6乃至図10を参照して、本実施形態における試料注入装置13を用いた試料注入方法について具体的に説明する。なお、図6には、本実施形態における第3の切換弁であるインジェクションバルブ31の切り換えにおける圧力保持手段としての抵抗管32を用いた試料注入方法の処理手順を示し、図7乃至図10には、本実施形態で用いられる試料注入手順の各動作状態を示し、それぞれ「分析又は待機時」、「ニードル上昇時」、「サンプル吸引時」、「ニードル洗浄時」の各状態を示している。
【0063】
具体的に説明すると、図6は、本実施形態における試料注入手順の一例を示すフローチャートである。また、図7は、本実施形態における試料注入装置の分析又は待機時の状態を示す図である。また、図8は、本実施形態における試料注入装置のニードル上昇時の状態を示す図である。また、図9は、本実施形態における試料注入装置のサンプル吸引時の状態を示す図である。また、図10は、本実施形態における試料注入装置のニードル洗浄時の状態を示す図である。なお、図7乃至図10に示す構成は、上述した図3に示す構成に基づくものであり、図7乃至図10に示す太線は、各動作状態における移動相等の経路を示している。
【0064】
図6に示す試料注入処理手順では、まず最初に第3の切換弁であるインジェクションバルブ31が図7乃至図10に示す接続状態Aに接続されている状態、つまり移動相用のポンプ12と接続されている状態からサンプル吸引処理を行う場合、インジェクションバルブ31を抵抗管(圧力保持手段)32側(図7乃至10における接続状態B)に切り換える(S01)。次に、試料注入用ニードル21を上昇する(S02)。このときの接続状態は、図8のようになる。
【0065】
次に、第2の切換弁であるダイレクトインジェクションバルブ29を閉め(S03)、第1の切換弁であるインジェクションバルブ26を「HPV SAM」に切り換え、第3の切換弁であるインジェクションバルブ31により、バルブをポンプ12側(図7乃至10における接続状態A)に切り換える(S04)。
【0066】
次に、試料注入用ニードル21を移動する(S05)。その後、試料注入用ニードル21によりサンプルの吸引を行う(S06)。このときの接続状態は、図9のようになる。
【0067】
次に、試料注入用ニードル21の外壁洗浄を行う(S07)。なお、S07の処理を具体的に説明すると、まずバルブ24をウォッシュ液ポンプ23側と接続し、ウォッシュ液ポンプ23がONされて、洗浄液用容器27からウォッシュ液が洗浄部28a,28bに供給される。次に、試料注入用ニードル21を洗浄部28a内に移動させることで、ウォッシュ液が試料注入用ニードル21の外壁に供給される。このときの接続状態は、図10のようになる。更に、所定量又は所定時間のウォッシュ液をニードル外壁に供給した後、ウォッシュ液ポンプ23をOFFにし、バルブを閉める。これにより、ニードル外壁洗浄が終了する。
【0068】
次に、試料注入用ニードル21を所定の位置(例えば、ダイレクトインジェクションバルブ29付近)に移動して待機させる(S08)。次に、試料注入用ニードル21の待機位置を下降させ(S09)、更にインジェクションバルブ31を抵抗管32側(図7乃至図10におけるB側)に切り換える(S10)。
【0069】
その後、ダイレクトインジェクションバルブ29を開き(S11)、試料注入用ニードル21をダイレクトインジェクションバルブ29内の配管44に押し付ける(S12)。次に、インジェクションバルブ26を「HPV COL」に切り換え、インジェクションバルブ31をポンプ12側(図7乃至図10における接続状態A)に切り換え(S13)、サンプルを試料注入用ニードル21から配管44内に注入する(S14)。ここで、試料注入処理を終了するか否かを判断し(S15)、試料注入処理を終了しない場合(S15において、NO)、S01に戻り、同一又は異なるサンプルに対して後続の処理を行う。また、S15の処理において試料注入処理を終了する場合(S15において、YES)、そのまま処理を終了する。
【0070】
ここで、本実施形態における試料注入用ニードル21は、インジェクションバルブ26による経路の切り換えにより、図7に示すようにポンプ12に接続されると、ポンプ12より移動相が試料注入用ニードル21に供給される。
【0071】
また、試料注入用ニードル21は、バルブ24及びインジェクションバルブ26による経路の切り換えにより、図9,図10に示すようにシリンジ22に接続される。このシリンジ22を押し引きすることにより、試料注入用ニードル21に対して、例えば図9に示すように、試料用容器25中の試料(サンプルバイアル)51の吸入及び排出を行ったり、また図10に示すように、ウォッシュ液の吸入及び排出を行うことができる。
【0072】
なお、図9に示すサンプル吸引時の動作では、シリンジ22を用いて吸引することにより、試料用容器25内の試料51が試料注入用ニードル21に所定量吸引されるが、このとき、試料51の吸引量は、吸引した試料がインジェクションバルブ26に入り込まないように設定される。これにより、試料51がインジェクションバルブ26内に付着することを防止でき、キャリーオーバーの発生を抑制することができる。なお、試料51の吸引量を多くするために、試料注入用ニードル21に試料を貯蔵しておくためのサンプルループを設けてもよい。
【0073】
<試料注入処理時における第3の切換弁(インジェクションバルブ31)の状態>
次に、図7乃至図10に示す試料注入処理時における第3の切換弁(インジェクションバルブ31)の状態等について具体的に説明する。
【0074】
まず図7に示す試料51を採取する前の待機状態(又は分析中)では、第3の切換弁であるインジェクションバルブ31は、接続状態Aとなっている。また、インジェクションバルブ26は、試料注入用ニードル21と接続されている。また、バルブ24は、ポートP1〜P3の何れにも接続していない。
【0075】
また、試料注入用ニードル21は、ニードル移動手段30により移動してダイレクトインジェクションバルブ29の試料注入部に装着されている。したがって、待機時において、ポンプ12から供給される移動相は、試料注入用ニードル21及びダイレクトインジェクションバルブ29を介してカラム17に供給される。
【0076】
図8に示す試料注入用ニードル21上昇時には、第3の切換弁であるインジェクションバルブ31は、接続状態Bとなっている。したがって、ポンプ12内の圧力は、抵抗管32により変動なく一定に保持されている。
【0077】
図9に示すサンプル吸引時には、第3の切換弁であるインジェクションバルブ31は、接続状態Aとなっている。このとき、ポンプ12から供給される移動相は、ダイレクトインジェクションバルブ29に供給され、圧力調整用経路43から移動相を注入する。この場合、ニードル挿入経路42は、スライド部材41により端部が閉鎖されているため、密封状態となり、ニードル挿入経路42における圧力も変動なく一定に調整される。
【0078】
なお、サンプル吸引時には、試料51を採取する際、試料注入用ニードル21は、ニードル移動手段30により試料用容器25内に挿入される。また、インジェクションバルブ26は、試料用容器25側に接続状態が切り換えられる。これにより、試料注入用ニードル21は、シリンジ22と接続され、ポンプ12はダイレクトインジェクションバルブ29と接続される。したがって、試料を吸引により採取する場合において、ポンプ12から供給される移動相は、インジェクションバルブ26及びダイレクトインジェクションバルブ29を介してカラム17に供給される。したがって、移動相は、カラム17に常に供給され、これにより測定を安定させることができる。
【0079】
図10に示す試料注入用ニードル21の予備洗浄時には、第3の切換弁であるインジェクションバルブ31は、接続状態Aのままとなっている。また、インジェクションバルブ26を接続状態も現状を維持しつつ、ニードル移動手段30により、試料注入用ニードル21を洗浄装置28の洗浄部28aに挿入する。また、ポートP1及びP2が接続されるようにバルブ24を切り換え、洗浄液用ポンプ23を介して、洗浄液用容器27内の洗浄液を洗浄部28aに供給する。したがって、洗浄部28a内に洗浄液が噴出し、試料注入用ニードル21の外壁が予備洗浄される。なお、洗浄部28aから溢れた洗浄液は、廃液ポート28cを介して排出される。なお、図10の処理においては、洗浄部28bを用いて洗浄を行ってもよい。
【0080】
上述したように、オートサンプラーと分析用ポンプ間に流路切換バルブ(第3の切換弁)としてインジェクションバルブ31を設け、サンプル吸引時にこのインジェクションバルブ31で分析ポンプの流路を抵抗管32へバイパスさせることにより、分析ポンプの流路が大気開放されるのを防止し、且つ、抵抗管32により圧力を保持することができる。これにより、分析条件に関係なく、分析結果の再現性を向上させることができる。
【0081】
<検出器15における検出結果例>
次に、上述した本実施形態における試料注入方法により得られた試料を用いて検出器15により分析して得られた検出結果の例について、図を用いて説明する。
【0082】
図11は、検出器における検出結果の一例を示す図である。なお、図11(a)は圧力波形変動に対する効果を説明するためのグラフを示し、図11(b)はUV波形変動に対する効果を説明するためのグラフを示している。なお、図11(a)の縦軸は圧力(MPa)を示し、横軸は時間(Minites)を示している。また図11(b)の縦軸は吸光度(mAU)を示し、横軸は時間(Minites)を示している。
【0083】
図11(a),図11(b)では、検出条件として、「3301+NASCA」、「3301配管変更」、「3301+背圧カラム2×50→NASCA」、「NASCA HPV6に背圧カラム2×100」、「バルブ切換 背圧カラム2×50」、「バルブ切換 背圧カラム2×100」におけるニードルアップ、及びインジェクションでの変動を示している。
【0084】
なお、上述した「背圧カラム」とは、本実施形態における抵抗管(圧力保持手段)32を示している。また、上記「3301」とは、ポンプ型式であり本実施形態におけるポンプ12に相当し、「NASCA」とは試料注入装置の名称であり本実施形態における試料注入装置13に相当する。
【0085】
ここで、上述した「3301+NASCA」とは、インジェクションバルブ31及び抵抗管32を配置しない状態、つまり、ポンプ12をインジェクションバルブ26へ直接接続した状態での検出結果を示している。また、上述した「3301配管変更」とは、ポンプ12の圧力変動を極力低減させるように配管の接続を変更し、ポンプ12とインジェクションバルブ26とを直接接続した状態での検出結果を示している。
【0086】
また、上述した「3301+背圧カラム2×50→NASCA」とは、ポンプ12とインジェクションバルブ26との間に抵抗管32を接続し、常にポンプ12に背圧を掛けた状態での検出結果を示している。また、上述した「NASCA HPV6に背圧カラム2×100」とは、インジェクションバルブ26とダイレクトインジェクションバルブ29との間に抵抗管32を接続した状態での検出結果を示している。また、上述した「バルブ切換 背圧カラム2×50」、及び「バルブ切換 背圧カラム2×100」とは、インジェクションバルブ31と抵抗管32とを接続した状態での検出結果を示している。なお、「背圧カラム2×50」と「背圧カラム2×100」との違いは、抵抗の違いを示している。
【0087】
また、図11における測定時に使用した移動相は、一例としてAポンプをHO(水)とし、Bポンプを0.1%アセトンinアセトニトリルとして試料分析を行った。
【0088】
図11(a),図11(b)に示す「3301+NASCA」の場合には、圧力変動が大きいと、AポンプとBポンプとの比率が崩れベースラインの変動が大きくなる。これは、例えば液体の粘性の強いものと弱いものとが化合物内に存在する場合に、圧力変動により圧力が変わることで粘性の弱いものが先に流れてしまうため、結果として再現性のよい結果が得られなくなる。
【0089】
そこで、本実施形態を用いた、図11(a),(b)の「バルブ切換背圧カラム2×100」を参照すると、AポンプとBポンプとの比率が一定であれば、ベースラインの変動を小さくすることができる。
【0090】
したがって、本実施形態に示すように、バルブの切り換え及び端部に抵抗部を有するカラム(背圧カラム)(以下、必要に応じて背圧バイパス(圧力変動防止手段)ともいう)を採用することで、圧力変動を低減させることができると共に、組成変化の改善を図ることができる。
【0091】
また、図12は、背圧バイパスの有無による再現性検証結果の一例を示す図である。なお、図12(a)は、背圧バイパスがない条件での4種類の試料サンプルを用いたRT再現性の検証結果を示す図を示し、図12(b)は、背圧バイパスがある条件での4種類の試料サンプルを用いたRT再現性の検証結果を示す図を示している。なお、上述したRTとは、分析結果において、分析開始からピークトップまでの時間(保持時間)を示している。
【0092】
また、図12(a),図12(b)における縦軸は圧力(MPa)及び吸光度(mAU)を示し、横軸には時間(Minutes)を示している。
【0093】
また、図12の検証条件としては、一例として、ポンプ(PUMP)をL2160U((株)日立製作所製)とし移動相(FLOW)を「流速600uL/min 60%MeCN,40%HO」とし、カラム(COLUMN)を「IF S2 Φ2.0×100」としている。
【0094】
図12に示すように、4種類のサンプル(A,B,C,D)を用いて測定した結果、図12(a)に示す背圧バイパスがない場合(背圧バイパス無)に、それぞれのサンプルの「RT CV%」は、サンプルAが約1.32、サンプルBが約1.30、サンプルCが約3.44、サンプルDが約3.82であった。これに対し、図12(b)に示す背圧バイパスがある場合(背圧バイパス有)、それぞれのサンプルの「RT CV%」は、サンプルAが約0.31、サンプルBが約0.23、サンプルCが約0.23、サンプルDが約0.23であった。したがって、本実施形態に示すような背圧バイパスがある場合の方が、再現性がよいことが分かる。
【0095】
上述したように本発明によれば、分析結果の再現性を向上させることができる。具体的には、本発明によれば、オートサンプラーと分析用ポンプ間に流路切換バルブを設け、サンプル吸引時に、このバルブで分析ポンプの流路を圧力保持手段へバイパスさせることにより、分析ポンプの流路が大気開放されるのを防止し、且つ、抵抗管により圧力を保持することができる。これにより、分析条件に関係なく、分析結果の再現性を向上させることができる。
【0096】
また、本発明によれば、比較的安価な構成でキャリーオーバーの発生を抑制し、検出精度を向上させた試料注入装置や液体クロマトグラフィー装置を提供することができる。
【0097】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0098】
10 液体クロマトグラフィー装置
11 貯槽(溶離液槽)
12 ポンプ(移動相供給手段)
13 試料注入装置
14 カラム恒温槽
15 検出器
16 配管
17 カラム
21 試料注入用ニードル
22 シリンジ(試料吸引手段)
23 洗浄液用ポンプ
24 バルブ
25 試料用容器
26 インジェクションバルブ(第1の切換弁)
27 洗浄液用容器
28 洗浄装置
29 ダイレクトインジェクションバルブ(第2の切換弁)
30 ニードル移動手段
31 インジェクションバルブ(第3の切換弁)
32 抵抗管(圧力保持手段)
41 スライド部材
42 ニードル挿入経路
43 圧力調整用経路
44 配管
51 試料
61 バネ部材(弾性体)
62 調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラムに試料を注入するために該カラムに接続された試料注入部に装着可能な構成からなる試料注入用ニードルと、
前記試料注入用ニードルと接続可能であると共に、接続時に前記試料注入用ニードルに所定量の試料を吸引させる試料吸引手段と、
前記カラムに移動相を供給する移動相供給手段と、
前記試料注入用ニードルを前記試料吸引手段又は前記移動相供給手段の何れかに選択的に接続させるための第1の切換弁と、
前記試料注入部を備え、前記試料注入用ニードルを前記試料注入部に装着した場合に、前記試料注入用ニードルを介して前記カラムに前記試料及び前記移動相を供給し、前記試料注入用ニードルを前記試料注入部から取り外した場合に、前記第1の切換弁を介して前記カラムに前記移動相を供給するための第2の切換弁と、
前記試料注入用ニードルの移動時及び/又は試料注入時における前記移動相供給手段の圧力の変動を防止する圧力変動防止手段とを有することを特徴とする試料注入装置。
【請求項2】
前記圧力変動防止手段は、
前記圧力を一定に保持する圧力保持手段と、
前記移動相供給手段と前記圧力保持手段とを切り換える第3の切換弁を有することを特徴とする請求項1に記載の試料注入装置。
【請求項3】
前記圧力保持手段は、
一方の端部が閉塞された流路と、
前記流路の閉塞された端部側に設けられた弾性体と、
前記弾性体の位置を調整する調整手段を有し、
前記調整手段により、前記移動相供給手段の圧力が一定になるように前記弾性体の位置を調整することを特徴とする請求項2に記載の試料注入装置。
【請求項4】
前記圧力保持手段は、
抵抗管であることを特徴とする請求項2又は3に記載の試料注入装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の試料注入装置を用いてカラムに対して試料を注入する試料注入方法であって、
前記試料注入用ニードルを前記試料注入部に装着した場合に、前記第1の切換弁による経路の切り換えにより、前記試料注入用ニードルと前記移動相供給手段とを接続し、前記試料注入用ニードルから前記カラムに前記移動相を供給する第1の移動相供給ステップと、
前記第1の切換弁による経路の切り換えにより、前記試料注入用ニードルと前記試料吸引手段とを接続し、前記試料を該第1の試料注入用ニードル内に吸引する試料吸引ステップと、
前記試料吸引ステップにより、前記試料注入用ニードルが試料を吸入している間、前記第1の切換弁及び前記第2の切換弁による経路の切り換えにより、前記移動相供給手段からの移動相を前記カラムに供給する第2の移動相供給ステップと、
前記第1の移動相供給ステップ、前記試料吸引ステップ、及び、前記第2の移動相供給ステップにおける前記試料注入用ニードルの移動時及び/又は試料注入時に前記移動相供給手段の圧力の変動を防止する圧力変動防止ステップとを有することを特徴とする試料注入方法。
【請求項6】
前記圧力変動防止ステップは、
前記第3の切換弁による経路の切り換えにより前記移動相供給手段から前記圧力変動防止手段に切り換えることで、移動時及び/又は試料注入時における前記移動相供給手段の圧力の変動を防止することを特徴とする請求項5に記載の試料注入方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の試料注入装置を有することを特徴とする液体クロマトグラフィー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−145524(P2012−145524A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5529(P2011−5529)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【特許番号】特許第4933665号(P4933665)
【特許公報発行日】平成24年5月16日(2012.5.16)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)